JP7144302B2 - マススペクトル解析装置及び方法 - Google Patents
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Description
本発明は、マススペクトル解析装置及び方法に関し、特に、ピーク解析技術に関する。
質量分析システムは、例えば、質量分析装置とマススペクトル解析装置により構成される。質量分析装置は、一般に、イオン源、質量分析部、イオン検出部、等を備える。イオン検出の結果に基づいてマススペクトルが作成される。マススペクトル解析装置は、マススペクトルを解析する装置である。
マススペクトル解析に際しては、組成推定法を含む様々なピーク解析法が利用される。組成推定法は、注目するピークの質量電荷比(m/z)から求まる精密質量に基づいて、1又は複数の組成、つまり1又は複数のイオン、を推定するものである。なお、推定される組成は、イオンを構成する単位に着目するならば原子組成であり、一方、イオンの構成全体に着目するならばイオン組成である。
推定された複数のイオン候補の中から真のイオンである可能性の高い有力イオン候補を絞り込むために、同位体分布を利用した方法が利用される。この方法は、個々のイオン候補ごとに、その同位体分布を生成し、複数のイオン候補に対応する複数の同位体分布の中で、実際のピーク群(実際の質量分布)に近いものを特定することにより、有力イオン候補を絞り込むものである。同位体比から生成される同位体分布は理論的な同位体分布又は同位体パターンとも称される。
マススペクトル中に互いに重なり合った複数の同位体分布が含まれる場合、従来における同位体分布を利用した方法では、イオン候補の絞り込みを的確に行えない。例えば、電子イオン化法(EI法)によりイオンを生成する場合、分析対象である分子Mから生じたイオンM+の他に、分子Mから水素Hから外れつつ生じたイオン[M-H]+が観測され易くなる。その場合、マススペクトル上において、イオンM+についての同位体分布と、イオン[M-H]+についての同位体分布とが重なり合う。そのような状況下で、組成推定を実行すると、例えば、低質量を有するイオン[M-H]+の組成しか推定できず、イオンM+の組成を推定することができない。それ以前に、重なり合った同位体分布に対して、単一の理論的な同位体分布をフィッティングさせても、良好な類似度を得ることはできないので、イオン候補の絞り込みそれ自体が困難である。
例えば、電界脱離イオン化法(FD法)及び電界イオン化法(FI法)では、イオンM+とイオン[M+H]+とが観測され、それらの同位体分布がマススペクトル上で重なり合う。その場合にも上記同様の問題が生じる。
なお、特許文献1、2には、混合マススペクトルの解析方法が開示されている。それらの解析方法は、複数の既知成分を解析する方法であり、複数の未知成分を解析することはできないものである。特許文献3には、マススペクトル中のピークから組成を推定することが記載されているが、そこには、同位体分布の利用については記載されていない。
本発明の目的は、重なり合った複数の同位体分布を含むマススペクトルに対してピーク解析を適正に行えるようにすることにある。
実施形態に係るマススペクトル解析装置は、マススペクトルに含まれる注目ピーク群の中から選択された注目ピークごとにイオン候補リストを生成し、これにより前記注目ピーク群の中の複数の注目ピークに対応する複数のイオン候補リストを生成するリスト生成手段と、前記各イオン候補リスト中のイオン候補ごとに同位体分布を生成する分布生成手段と、前記分布生成手段によって生成された複数の同位体分布に基づいて、前記複数のイオン候補リストによって定義される複数のイオン候補組合せに対応する複数の同位体分布組合せを生成する組合せ生成手段と、前記複数のイオン候補組合せの中から有力イオン候補組合せを絞り込むために前記複数の同位体分布組合せを評価する評価手段と、を含むことを特徴とする。
上記構成によれば、複数の注目ピークから複数のイオン候補リストが順次又は同時に生成される。それらによって複数のイオン候補組合せが定義される。複数のイオン候補組合せの中から、1又は複数の有力イオン候補組合せを選出するために、複数のイオン候補組合せに対応する複数の同位体分布組合せが生成され、それらが評価される。このように、上記構成は、実際の重なり合いと同様の複数の理論的な重なり合いを生成し、それらを評価対象とするものである。評価結果を伴う複数のイオン候補組合せがリスト又はテーブルとして表示されてもよい。すなわち、最終的な有力イオン候補の絞り込みがユーザーによって行われてもよい。
実施形態において、前記各同位体分布組合せは、前記複数の注目ピークに基づいてスケーリングされた複数の同位体分布を合成することにより構成される。この構成によれば、注目ピーク群と各同位体分布組合せとを適正に比較することが可能となる。スケーリングの方法として幾つかの方法があげられる。重なり合いが生じていない注目ピークを選択し又はそれを算出し、選択された又は算出された注目ピークをスケーリングの基準としてもよい。複数の同位体分布の合成の概念には、複数の同位体分布の単純な加算、重み付け加算等が含まれる。加算に際して、m/z軸方向の誤差に対処するための補正が適用されてもよい。
実施形態において、前記注目ピーク群は、前記複数の注目ピークとしての第1注目ピーク及び第2注目ピークを含み、前記各同位体分布組合せは、前記第1注目ピークから生成された第1同位体分布と、前記第2注目ピークから生成された第2同位体分布と、を含み、前記第1同位体分布は、前記第1同位体分布に含まれる基準ピークが前記第1注目ピークに適合するようにスケーリングされた同位体分布であり、前記注目ピーク群から前記第1同位体分布を減算することにより残余の注目ピーク群が定義され、前記残余の注目ピーク群には前記第2注目ピークから生じた残余の第2注目ピークが含まれ、前記第2同位体分布は、前記第2同位体分布に含まれる基準ピークが前記残余の第2注目ピークに適合するようにスケーリングされた同位体分布である。スケーリングは強度倍率の調整であり、それは規格化とも言い得る。
実施形態において、前記リスト生成手段は、前記注目ピーク群において低質量側から高質量側へ並ぶ複数のピークを注目ピークとして順次選択し、前記第1注目ピークは前記注目ピーク群の中で最も低質量側にあるピークであり、前記第2注目ピークは前記第1注目ピークの高質量側に隣接したピークである。
上記構成は、注目ピーク群における最も低質量側にある第1注目ピークがモノアイソトピックイオンのピークであり、そこにおいては重なり合いが生じていないことを前提とするものである。注目ピーク群からスケーリング後の第1同位体分布を減算すると、重なり合い成分を含まない残余の第2注目ピークを生じさせることが可能となる。その残余の第2注目ピークはモノアイソトピックイオンのピークに相当するものであり、それに基づいて、スケーリングされた第2同位体分布を生成することが可能となる。必要に応じて、そのような処理が繰り返される。
実施形態において、前記評価手段は、前記注目ピーク群と前記各同位体分布組合せとを比較し、その比較結果に基づいて前記有力イオン候補組合せを絞り込む。実施形態において、前記評価手段は、更に、前記各イオン候補組合せを構成する複数のイオン候補の組成に基づいて化学的関係の当否を判断し、その判断結果に基づいて前記有力イオン候補組合せを絞り込む。化学的関係として、包含関係、電子数関係(不飽和度関係)等があげられる。すなわち、化学的に見て、あり得ない組合せを除外することにより、有力な組合せを絞り込むものである。
実施形態に係るマススペクトル解析方法は、マススペクトルに含まれる注目ピーク群の中から複数の注目ピークを順次選択する工程と、前記複数の注目ピークに基づいて複数のイオン候補リストを順次生成する工程と、前記各イオン候補リストを構成するイオン候補ごとに同位体分布を生成する工程と、前記複数のイオン候補リストによって定義される複数のイオン候補組合せに対応する複数の同位体分布組合せを生成する工程と、前記複数のイオン候補組合せの中から有力イオン候補組合せを絞り込むために前記複数の同位体分布組合せを評価する工程と、を含むことを特徴とする。
上記方法は、ハードウエアの機能により、又は、ソフトウエアの機能により実現され得る。後者の場合、上記方法を実行するためのプログラムが、可搬型記憶媒体又はネットワークを介して、情報処理装置にインストールされ得る。情報処理装置の概念には、質量分析システム、マススペクトル解析装置、パーソナルコンピュータ等が含まれる。
実施形態においては、初期解析過程が実行された後、所定の終了条件が満たされるまで、解析過程が循環的に実行され、前記初期解析過程は、前記注目ピーク群の中から最初の注目ピークを選択する工程と、前記最初の注目ピークに基づいて最初のイオン候補リストを生成する工程と、前記最初のイオン候補リストを構成するイオン候補ごとに同位体分布を生成する工程と、前記イオン候補ごとの同位体分布を評価する工程と、前記イオン候補ごとの同位体分布の評価の結果に基づいて前記解析過程を実行するか否かを判断する工程と、を含み、前記解析過程は、前記注目ピーク群の中から次の注目ピークを選択する工程と、前記次の注目ピークに基づいてイオン候補リストを生成する工程と、前記イオン候補リストを構成するイオン候補ごとに同位体分布を生成する工程と、前記複数の同位体分布組合せを生成する工程と、前記複数の同位体分布組合せを評価する工程と、前記複数の同位体分布組合せの評価の結果に基づいて前記解析過程を更に実行するか否かを判断する工程と、を含む。複数の同位体分布組合せを評価する条件がイオン化方法によって切り換えられてもよい。
本発明によれば、重なり合った複数の同位体分布を含むマススペクトルに対してピーク解析を適正に行える。
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
図1には、実施形態に係る質量分析システムが示されている。図示された質量分析システムは、質量分析装置10及びマススペクトル解析装置12によって構成される。質量分析装置10の前段にガスクロマトグラフ装置等が設けられてもよい。
質量分析装置10は、例えば、イオン源、質量分析部、イオン検出部を含む。イオン源は、質量分析対象となる試料(化合物)を構成する分子をイオン化し、イオンを生成するものである。イオン化に際して、化合物を構成する分子から特定の原子又は分子が離脱することもあり、逆に、化合物を構成する分子に対して特定の原子又は分子が結合することもある。そのような変化は、使用するイオン化法(つまりイオン源の種類)に依存する。イオン化法として、電子イオン化法(EI法)、電界脱離イオン化法(FD法)、電界イオン化法(FI法)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI法)、化学イオン化法(CI法)等が知られている。後述する第1実施例では、EI法が用いられる。後述する第2実施例では、FI法が用いられる。
質量分析部は、質量電荷比(m/z)に応じてイオンを選択又は分離するものである。質量分析部として、例えば、飛行時間型質量分析部、四重極型質量分析部、磁場型質量分析部等を用いることが可能である。イオン検出部は、質量分析部を通過してきたイオンを検出するものである。イオン検出部は、例えば電子増倍管等を備える。質量分析装置10からの出力信号(イオン検出信号)が、図示されていない信号処理回路を介して、マススペクトル解析装置12へ入力されている。
マススペクトル解析装置12は、例えば、パーソナルコンピュータ等の情報処理装置によって構成される。マススペクトル解析装置12が質量分析装置10の中に組み込まれてもよいし、それがネットワーク上に設けられてもよい。マススペクトル解析装置12によって質量分析システムが制御されてもよい。
図示されたマススペクトル解析装置12は、演算部14、記憶部16、入力器18及び表示器20を有する。演算部14は、CPU及びプログラムにより構成される。演算部14が複数のプロセッサにより構成されてもよい。演算部14が他のデバイスによって構成されてもよい。演算部14は、図示の構成例において、マススペクトル作成部22及びマススペクトル解析部24として機能する。
記憶部16は、半導体メモリ、ハードディスク等によって構成される。記憶部16は、組成(イオン)データベース(組成DB)26及び同位体比データベース(同位体比DB)28として機能する。組成DB26は、精密質量からイオン組成を推定する際に参照されるデータベースである。同位体比BD28は、各元素についての同位体比が登録されたデータベースである。それらのデータベースがネットワーク上に設けられもよい。
入力器18は入力デバイスであり、それにはキーボード、ポインティングデバイス等が含まれる。表示器20は、表示デバイスであり、そこにはマススペクトルやスペクトル解析結果等が表示される。スペクトル解析結果には、絞り込み後の1又は複数のイオン候補組み合わせが含まれる。なお、図1においては、演算部14がマススペクトル作成部22として機能しているが、マススペクトル作成部22が質量分析装置10又は他の情報処理装置に設けられてもよい。
実施形態に係るマススペクトル解析方法には、後に詳述するように「初期解析過程」と、所定の終了条件が満たされるまで繰り返し実行される「解析過程」と、が含まれる。初期解析過程では、最初の注目ピークに基づくピーク解析が実行される。その実行結果から解析過程の実行の要否が判断される。解析過程では、次の注目ピーク(未だ選択されていない注目ピーク)に基づくピーク解析が実行される。その実行結果から更なる解析過程の実行の要否が判断される。それらの過程の実行により求められた複数のイオン候補組合せの中から1又は複数の有力イオン候補組合せが選出される。
図2には、図1に示したマススペクトル解析部の構成例が示されている。マススペクトル解析部24は、複数の機能を有し、それらが図2において複数のブロックによって表現されている。以下、まず各機能について概説し、後に各機能について詳述する。
注目ピーク群特定部30は、初期解析過程の実行に先立って、マススペクトル32の自動的な解析により、又は、マススペクトル32上におけるユーザー指定34に基づいて、マススペクトル32に含まれる注目ピーク群を特定するモジュールである。実施形態において、注目ピーク群は、複数の同位体分布の重合体に相当する。なお、注目ピーク群の特定に先立って、必要に応じて、マススペクトルに対して前処理が施される。
注目ピーク選択部36は、初期解析過程及び解析過程で機能し、各過程において、注目ピーク群の中から注目ピークを選択するモジュールである。注目ピーク群は、低質量側から高質量側へ並ぶ複数の注目ピークにより構成される。実施形態においては、所定の終了条件が満たされるまで、最も低質量側にある注目ピークから高質量側へ注目ピークが順次選択される。なお、ユーザー指定37に基づいて注目ピークが選択されてもよい。また、ユーザー指定37に基づいて選択対象とならないピークが特定されてもよい。
組成推定部38は、初期解析過程及び解析過程で機能し、各過程において、注目ピークのm/zから求まる精密質量に基づいて、イオンの組成を推定するモジュールである。その際には、符号40で示されるように、組成DBが参照される。組成DBは、精密質量ごとに1又は複数の組成を対応付けたものである。組成DBに対して特定の精密質量を与えると、通常、複数の組成がヒットする。それらは組成候補リストつまりイオン候補リストを構成する。その観点から見て、組成推定部38はリスト生成手段である。なお、組成推定のために、事前に、m/z軸方向の誤差範囲、原子ごとの推定範囲、等の組成推定条件が定められる。
分布生成部42は、初期解析過程及び解析過程で機能し、各過程において、推定された個々の組成ごとに、それを構成する複数の原子に基づいて、同位体分布(同位体パターン)を生成するモジュールである。その際には、符号44で示されるように、同位体DBが参照される。同位体DBにおいては、個々の元素ごとに1又は複数の同位体の存在比が管理されている。分布生成部42は、同位体分布を生成するに際し、スケーリングを実行する。すなわち、分布生成部42はスケーリング部としても機能する。同位体分布の生成については後に詳述する。
合成部48は、解析過程で機能するものである。複数のイオン候補リストが求められた場合、それらに基づいて複数のイオン候補組合せが定義される。合成部48は、複数のイオン候補リストから生成される複数の同位体分布列に基づいて、複数のイオン候補組合せに対応する複数の同位体分布組合せを生成するものである。すなわち、合成部48は組合せ生成手段である。
評価部46は、初期解析過程及び解析過程で機能する。初期解析過程において、評価部46は、分布生成部42により生成された1又は複数の同位体分布を個別的に評価する。解析過程において、評価部46は、合成部48により生成された複数の同位体分布組合せを個別的に評価する。評価部46は評価手段である。加えて、評価部46は、所定の終了条件が満たされた時点で、それまでに演算された複数の同位体分布組合せの評価の結果に基づいて、1又は複数の有力イオン候補組合せを選出する。つまり、評価部46は選出手段又は絞り込み手段としても機能する。
制御部51は、評価部46による評価の結果に基づいて終了条件が満たされたか否かを判断し、終了条件が満たされていない場合に、更なる解析過程の実行を判断するモジュールである。すなわち、制御部51は判断部又は判断手段として機能する。評価条件、終了条件等がユーザーにより又は自動的に選択されてもよい(符号52を参照)。
減算部50は、解析過程の実行開始時に、注目ピーク群から、スケーリングされた複数の同位体分布を並列的に減算し、これにより複数の残余の注目ピーク群を生成するモジュールである。複数の残余の注目ピーク群がそれぞれ解析対象となる。減算部50は減算手段である。
以上の一連の処理を経て、所定の終了条件が満たされると、1又は複数の有力イオン候補組合せを示す情報がユーザーに提供される。例えば、有力イオン候補組合せリストが表示器に表示される。そのリスト中には評価結果も含まれる。なお、注目スペクトル群が1つの同位体分布に相当する場合、評価部46において、1又は複数のイオン候補が選出される。
図3には、実施形態に係るマススペクトル解析方法がフローチャートとして示されている。S1が初期解析過程を示しており、S2~Snがそれぞれ解析過程を示している。解析過程は再帰的又は循環的に実行され得るものである。ここで、図3においては、説明の便宜上、最後の解析過程Snが示されている。但し、初期解析過程S1及び1回目の解析過程S2のみが実行されることもある。あるいは、例外的に初期解析過程S1のみが実行されることもある。
以下、図4乃至図7を参照しながら、図3に基づいて第1実施例について説明する。第1実施例では、イオン化法としてEI+イオン化法が利用されている。そのイオン化法を利用した場合、イオン化に際して、分析対象である分子Mから生じたイオンM+の他に、分子Mから水素Hから外れつつ生じたフラグメントイオン[M-H]+が観測され易くなる。これにより、マススペクトル上において、イオンM+についての同位体分布と、イオン[M-H]+についての同位体分布とが重なり合う。
図4には、第1実施例において解析対象となるマススペクトルが示されている。このマススペクトルは、2,6-Xylidine ((CH3)2C6H3NH2)の質量分析により生成されたマススペクトルである。もっとも、実際のマススペクトル解析において、質量分析対象となる化合物は、通常、未知であり、あるいは、個々のピークに対応する組成は未知である。
図3に示すS10では、必要に応じて、マススペクトルに対して前処理が実施される。例えば、図4に示すマススペクトルには、比較的に小さな多数のピーク(バックグラウンドノイズ)が含まれる(例えば符号56を参照)。そのようなマススペクトルに対して、前処理として、例えば閾値以下のピークを除去する閾値処理が適用される。以下に説明するように、注目ピーク群をユーザーが指定する場合、前処理を行わなくてもよい。
図3に示すS12では、マススペクトルの中から、解析対象となる注目ピーク群が特定される。例えば、図4において、注目ピーク群PGを囲み、且つ、それ以外を除外する範囲53がユーザー指定される。範囲53は、m/z軸上において幅Dを有する。幅Dはユーザーにより指定され得る。マススペクトルの自動的な解析により、範囲53が自動的に指定されてもよい。その解析方法として、デアイソトープ法があげられる。
図4に示したマススペクトルにおいて、m/z軸上に存在する細かい多数のノイズを無視した場合、注目ピーク群PGは、分子イオンピークを含みつつ最も高質量側に存在するピーク集団と言い得る。図示の例では、注目ピーク群PGは、低質量側から高質量側へ並ぶ3つの注目ピークP1,P2,P3を含んでいる。それらの注目ピークのm/zは[120.0749, 121.0854, 122.0951]である。それらの注目ピークは、上記のように、イオンM+の同位体分布と、フラグメントイオン[M-H]+の同位体分布と、が重なって生じたものである。なお、m/z=121.0854のところにある注目ピークP2が分子イオンのピークである。もっとも、実際のスペクトル解析において、どのピークが分子イオンのピークであるのかは通常、不明である。
有機化合物を構成する原子(H、C,N,O等)の同位体においては、一般に、その内で、最も小さな質量を有する原子が、存在割合の最も多い主同位体である。これを前提とした場合、注目ピーク群PGにおいては、一般に、3つの注目ピークP1,P2,P3の内で、最も低質量側にある注目ピークP1がモノアイソトピックイオンのピーク(主同位体のみに対応するピーク)であるとみなせる。なお、注目ピーク群PGよりも低質量側には多数のフラグメントイオンピークが生じている(符号54を参照)。
図3に示すS14では、注目ピーク群の中から、最も低質量側にある注目ピークが第1注目ピークとして選択される。ユーザーにより、それが選択されてもよいし、自動的にそれが選択されてもよい。図4に示したマススペクトルにおいては、S14において、注目ピークP1が選択される。
図3に示すS16では、組成推定によりイオン候補リストが作成される。具体的には、S14において選択された注目ピークのm/zから求まる精密質量に基づいて、1又は複数の組成候補、つまり1又は複数のイオン候補、が推定される。それらはイオン候補リストを構成する。例えば、図4に示した注目ピークP1のm/zは120.0749あり、それに基づいて組成推定を実行すると、3つのイオン候補C8H10N+, C3H10O2N3
+, C5H12O3
+が推定される。それらのイオン候補によりイオン候補リストが構成される。
図3に示すS18では、イオン候補リストを構成する個々のイオン候補について、スケーリングされた同位体分布が生成される。その際には同位体比DBが参照される。同位体分布のスケーリングに際しては、第1注目ピークの強度が基準となる。これについては後に詳述する。例えば、イオン候補リストが3つのイオン候補で構成されている場合、スケーリング後の3つの同位体分布が生成される。なお、同位体分布は、例えば、イオン候補を構成する個々の原子ごとに、その個数を乗数としながら同位体分布を個別的に生成した上で、複数の原子に対応する複数の個別的な同位体分布を加算することによって構成され得る。同位体分布それ自体が登録されたデータベースが利用されてもよい。
図5には、スケーリング後の3つの同位体分布が例示されている。各横軸はm/z及び質量mを示しており、各縦軸は強度を示している。注目ピーク群PGは、図示の例において、3つの注目ピークP1,P2,P3により構成される。ここで、a1は、イオン候補C8H10N+の同位体分布であり、ここでは簡略的に当該同位体分布が2つのピークa11,a12で表現されている。注目ピークP1の強度とピークa11の強度とが一致するように、同位体分布a1が生成される。すなわち、スケーリングに際しては、選択された注目ピークの強度に対して同位体分布中の基準ピークの強度が一致するように、同位体分布の倍率が調整される。
a2は、イオン候補C3H10O2N3
+の同位体分布であり、ここでは簡略的に当該同位体分布が2つのピークa21,a22で表現されている。注目ピークP1の強度とピークa21の強度とが一致するように、同位体分布a2が生成されている。a3は、イオン候補C5H12O3
+の同位体分布であり、ここでは簡略的に当該同位体分布が2つのピークa31,a32で表現されている。注目ピークP1の強度とピークa31の強度とが一致するように、同位体分布a3が生成されている。
図3に示すS20では、生成された複数の同位体分布が個別的に評価される。例えば、注目ピーク群と各同位体分布との間で類似度(例えばコサイン類似度)が演算される。第1実施例では、イオン候補C8H10N+の同位体分布についてのコサイン類似度は0.6529となる。他のイオン候補について演算される類似度も低くなる。これは注目ピーク群が複数の同位体分布の重なり合いとして構成されているためである。仮に、初期解析過程だけしか実行しないならば、分子イオンすら特定できないことになる。
図3に示すS22では、初期解析過程S1に続いて解析過程S2を実行するか否かが判断される。図4及び図5に示した例では、3つのイオン候補について演算された3つの類似度は低く、いずれのイオン候補も有力イオン候補とは判断されず、解析過程S2の実行が判断される。なお、S22での判断はイオン候補ごとになされる。もっとも、評価結果次第では、評価対象となったイオン候補の全部又は一部について解析過程S2の適用が除外されることもある。
解析過程S2においては、まず、図3に示すS23において、注目ピーク群(実分布)から、初期解析過程S1で生成されたスケーリング後の複数の同位体分布が並列的に減算される。これにより、複数の残余の注目ピーク群が生じる。この減算により、個々の残余の注目ピーク群において、第1注目ピークが消失し、通常、第2注目ピークの強度が下がる。場合によっては、第3注目ピーク及びそれ以降の注目ピークの強度も下がる。残余の第2注目ピークにおいては、初期解析過程で生成された各同位体分布の寄与分が除外されており、それは重なり合い成分を有しないモノアイソトピックピークであるとみなせる。このように同位体分布の減算によって、次に解析対象とする注目ピーク及びその強度を特定することが可能となる。
図3に示すS24では、上記の第2注目ピーク(残余の第2注目ピーク)が選択され、図3に示すS26では、上記S16と同様に、第2注目ピークのm/zから求まる精密質量に基づいて組成推定が実行される。これによりイオン候補リストが作成される。例えば、第1実施例では、減算の結果、第1注目ピークの強度は0となり、残余の注目ピークの内で、最も低質量側にある注目ピークは第2ピークとなる。そのm/zは121.0854であり、それに基づいて、組成推定を行うと、3つのイオン候補C8H11N+, C3H11O2N3
+, C5H13O3
+が推定される。
図3に示すS28では、上記S18と同様に、生成された複数のイオン候補に基づいて、スケーリングされた複数の同位体分布が生成される。例えば、第1実施例では、図6に示すように、3つのイオン候補C8H11N+, C3H11O2N3
+, C5H13O3
+から、スケーリングされた3つの同位体分布b1,b2,b3が生成される。スケーリングは、イオン候補組合せごとに実施され、第1実施例では、1つの同位体分布から、3つのスケーリング後の同位体分布が生成される。
具体的には、b1は、イオン候補C8H11N+の同位体分布であり、ここでは簡略的に当該同位体分布が2つのピーク、つまり低質量側のピークb11-1,b11-2,b11-3及び高質量側のピークb12-1,b12-2,b12-3で表現されている。注目ピークP2の残余部分の強度と低質量側のピークb11-1,b11-2,b11-3の強度とが一致するようにスケーリングが実行され、スケーリング後の3つの同位体分布b1が生成される。
b2は、イオン候補C3H11O2N3
+の同位体分布であり、ここでは簡略的に当該同位体分布が2つのピーク、つまり低質量側のピークb21-1,b21-2,b21-3及び高質量側のピークb22-1,b22-2,b22-3で表現されている。注目ピークP2の残余部分(つまり残余の注目ピーク)の強度と低質量側のピークb21-1,b21-2,b21-3の強度とが一致するようにスケーリングが実行され、スケーリング後の3つの同位体分布b2が生成される。b3は、イオン候補C5H13O3
+の同位体分布であり、ここでは簡略的に当該同位体分布が2つのピーク、つまり低質量側のピークb31-1,b31-2,b31-3及び高質量側のピークb32-1,b32-2,b32-3で表現されている。注目ピークP3の残余部分(つまり残余の注目ピーク)の強度と低質量側のピークb31-1,b31-2,b31-3の強度とが一致するようにスケーリングが実行され、スケーリング後の3つの同位体分布b3が生成される。
図3に示すS30では、複数のイオン候補組合せに対応する複数の同位体分布組合せが生成され、個々の同位体分布組合せが評価される。ここで、1つの同位体分布組合せは、スケーリングされた2つの同位体分布の合成により構成される。個々の同位体分布組合せごとに、それをオリジナルの注目ピーク群と比較することにより、個々の同位体分布組合せの良否が評価される。それは個々のイオン候補組合せの良否の評価を意味する。第1実施例においては、図6に示すように、9つの同位体分布組合せがそれぞれ注目ピーク群PGと比較されてそれらが評価される。
図7には、第1実施例についての評価結果が示されている。符号100は初期解析過程で選択された第1注目ピークのm/zを示しており、符号102は第1注目ピークに基づいて推定された3つのイオン候補を示している。一方、符号104は初期解析過程後の1回目の解析過程で選択された第2注目ピークのm/zを示しており、符号106は第2注目ピークに基づいて推定された3つのイオン候補を示している。
個々のセルには評価結果が示されている。各セルの1段目(符号108を参照)には類似度(コサイン類似度)が示されている。各セルの2段目(符号110を参照)には注目ピーク群から個々の同位体分布組合せを減算した場合に生じる残余強度を示している。それは参考値である。各セルの3段目(符号112を参照)には2つのモノアイソトピックイオン間での強度比が示されている。それも参考値である。各セルの4段目つまり最終段目(符号114を参照)には、包含関係の成否が示されている。軽いイオン候補の組成が重いイオン候補の組成の一部に相当する場合、つまり部分集合である場合、包含関係の成立が判断され(セル中の○を参照)、そうでない場合には包含関係の不成立が判断される(セル中の×を参照)。ちなみに、図3に示したS30で類似度のみを演算し、後に説明するS44の絞り込み工程において包含関係の成否等を演算してもよい。図7に示されている内容については、S44についての説明の中で、再び説明する。
図3に示すS32では、個々のイオン候補組合せごとに更に解析工程を実行するか否かが判断される。実施形態では、個々のイオン候補組合せごとに、類似度が所定値以上であるか否かが判断され、類似度が所定値以上であれば、当該イオン候補組合せについては解析終了が判断される。一方、類似度が所定値未満であるイオン候補組合せについては、更なる解析工程の実行が判断される。
図3においては、上記のように、説明の便宜上、最終の解析工程がSnで示されている。S33では、残余の注目イオン群から前回の解析工程で生成された複数の同位体分布が並列的に減算される。S34では第n注目ピークが選択され、S36では第n注目ピークに基づいてイオン候補リストが作成される。S38では、S36で生成されたイオン候補リストを構成する複数のイオン候補から複数の同位体分布が生成される。S40では、複数のイオン候補組合せに対応する複数の同位体分布組合せが生成され、それらが評価される。例えば、解析工程が所定回数繰り返された場合、強制的に解析終了が判断されてもよい。また、ユーザーの指示に基づいて解析終了が判断されてもよい。解析の目的等に応じて様々な解析終了条件を定めることが可能である。
図3に示すS44では、それまでに特定された複数のイオン候補組合せ(イオン候補が含まれてもよい)の中から、1又は複数の有力イオン候補組合せ(有力イオン候補が含まれてもよい)が選出される。その選出は、複数の同位体分布組合せについての評価の結果に基づいて行われる。
第1実施例では、上記のように、図7に示した解析結果及び評価結果が得られる。9つのイオン候補組合せはそれぞれ高い類似度を有している。9つのイオン候補組合せの内で、包含関係が成立しているイオン候補組合せは、(C8H10N+,C8H11N+)、(C3H10O2N3
+,C3H11O2N3
+),(C5H12O3
+,C5H13O3
+)の3つである(3つの○を参照)。それら3つのイオン候補組合せの中で、最も高い類似度を有するイオン候補組合せは(C8H10N+,C8H11N+)である(グレー表現を参照)。そこで、当該イオン候補組合せが有力イオン候補組合せであると判断される。もちろん、他の観点から、絞り込みが行われてもよい。
図3に示すS46では、絞り込み後の有力イオン候補組合せに関する情報が表示器に表示される。図7に示した表がそのまま表示器に表示されてもよい。ユーザーによって評価結果に基づいて1又は複数の有力イオン候補組合せが絞り込まれてもよい。
第1実施例では、個々のイオン候補組合せが2つのイオン候補によって構成されていたが、いずれかのイオン候補組合せが3つ以上のイオン候補によって構成されることもある。その場合でも図3に示したマススペクトル解析方法をそのまま適用し得る。
なお、図2に示した注目ピーク群特定部30は、図3に示したS12に対応する。図2に示した注目ピーク選択部36は、図3に示したS14,S24,S34に対応する。図2に示した組成推定部38は、図3に示したS16,S26,S36に対応する。図2に示した分布生成部42は、図3に示したS18,S28,S38に対応する。図2に示した合成部48は、図3に示したS30,S40に対応する。図2に示した評価部46は図3に示したS20,S30,S40,S44に対応する。図2に示した減算部50は図3に示したS23,S33に対応する。図2に示した制御部51は図3に示したS22,S32に対応する。
次に第2実施例について説明する。第2実施例でも、図1及び図2に示した構成により、図3に示したマススペクトル解析方法が実行される。第2実施例において解析対象となるマススペクトルは、2-ethylhexoic acid (C4H9CH(C2H5)COOH) の質量分析により得られたものである。第2実施例ではFI+イオン化法が採用されている。そのイオン化法を用いる場合、分子イオンM+に加えて、イオン[M+H]+やイオン[M-H2O]+が同時に観測されることもある。例えば、イオンM+とイオン[M+H]+とが同時に観測されると、マススペクトルにおいて2つの同位体分布が重なる。注目ピーク群を構成する3つの注目ピークのm/zは[144.111, 145.120, 146.123]である。
図3に示した初期解析過程S1により、第1注目ピークが特定される。そのm/zは144.111である。そのm/zに基づいて4つのイオン候補が推定される。具体的には、C8H16O2
+,C6H14N3O+,C7H14NO2
+,C4H12N6
+が推定され、それらに対応する4つの同位体分布が生成される。続く解析過程S2では、第2注目ピークが特定される。そのm/zは145.120である。そのm/zに基づいて2つのイオン候補が推定される。具体的には、C8H17O2
+,C6H15N3O+が推定される。
初期解析過程S1で推定された4つのイオン候補と、解析過程S2で推定された2つのイオン候補とから、8個のイオン候補組合せが定義され、すなわち、8個の同位体分布組合せが生じる。図8には、8個の同位体分布組合せの評価の結果(第2実施例についての評価結果)が示されている。
図8において、符号120は初期解析過程で選択された第1注目ピークのm/zを示しており、符号124は第1注目ピークに基づいて推定された4つのイオン候補を示している。一方、符号122は1回目の解析過程で選択された第2注目ピークのm/zを示しており、符号126は第2ピークに基づいて推定された2つのイオン候補を示している。符号128は、イオン候補ごとの電子数の偶奇を示している。分子イオンについては電子数が偶数になり、そこからHが外れたイオンについては電子数が奇数となる。よって、電子数から化学的関係の当否を判断することが可能である。
個々のセルには評価結果が示されている。各セルの1段目(符号132を参照)には類似度が示されている。各セルの2段目(符号134を参照)には包含関係の成否が示されている。上記のように、軽いイオン候補の組成が重いイオン候補の組成の一部に相当する場合、包含関係の成立が判断され(セル中の○を参照)、そうでない場合には包含関係の不成立が判断される(セル中の×を参照)。符号136には、電子数関係の当否が示されている。
例えば、一定以上の良好な類似度を有し且つ包含関係が成立する複数のイオン候補組合せの中から、適正な電子数関係を有するイオン候補組合せが絞り込まれる。具体的には、第2実施例においては、類似度及び包含関係に従って、2つのイオン候補組合せ(C8H16O2
+,C8H17O2
+),(C6H14N3O+,C6H15N3O+)が選出され、その中から、電子数の観点から1つのイオン候補組合せ(C8H16O2
+,C8H17O2
+)が選出される(グレー表現を参照)。電子数に代えてDBE(Double bond equivalence:不飽和度)を利用してもよい。その場合には、イオン候補ごとにDBEが整数か半整数かが識別される。ちなみに、DBEが整数の場合には電子数が偶数となり、DBEが半整数の場合には電子数が奇数となる。上記各実施例のように、類似度の他、包含関係や電子数関係等の化学的関係を考慮することにより、有力なイオン候補組合せを適切に絞り込むことが可能である。
上記実施形態によれば、複数のイオンの同位体分布が重なっていても、それらのイオンを正確に特定することが可能となる。また、上記実施例によれば、複数のイオンの強度比又は割合を求めることが可能である。上記実施形態は、注目ピーク群における最も低質量側にある注目ピークを出発点として高質量側へ段階的に注目ピークが参照されており、重なり合いを段階的に消失させながら、組成推定を行うものである。組成推定を行える限りにおいて、他の順番で複数の注目ピークを順次参照してもよい。組成推定においては存在比の小さい同位体も含めてすべての同位体を考慮するのが望ましいが、一定値以上の存在比を有する同位体だけ考慮するようにしてもよい。上記実施形態では、ある解析過程後に次の解析過程を実施するか否かに際しては類似度が演算されていたが、他の評価値が演算されてもよい。
注目ピーク群と同位体分布組合せとを比較する際、又は、注目ピーク群から同位体分布を減算する際に、m/z軸方向のずれを考慮してもよい。これについて以下に説明する。以下において、個々のピークを(m/z,強度)で表現する。
セントロイドスペクトルを求めるためのスペクトル(ピーク)加算処理では、m/z軸上において、互いにずれている複数のピークに対して、加重平均処理が適用される。具体的には、ピーク(Ma,Ia)とピーク(Mb,Ib)に基づいて、加算されたピーク(Mc, Ic)は、以下のように表現される。
Mc=(Ma*Ia+Mb*Ib)/(Ia+Ib)
Ic=Ia+Ib
Mc=(Ma*Ia+Mb*Ib)/(Ia+Ib)
Ic=Ia+Ib
以上を踏まえ、実測されたマススペクトルから、算出された同位体分布を減算する場合、上記とは逆の計算式を導ける。実測のピーク(Mc,Ic)から、理論ピーク(Mb,Ib)を減算する場合、残ったピーク(Ma,Ia)は以下のように表現される。
Ma=(Mc(Ia+Ib)-Mb*Ib)/Ia
Ia=Ic-Ib
Ma=(Mc(Ia+Ib)-Mb*Ib)/Ia
Ia=Ic-Ib
マススペクトルから同位体分布を減算する場合、上記の(Ma,Ia)を利用すれば、その減算の結果をより適正なものにすることが可能である。上記説明した補正方法は一例であり、m/z軸上でのピークずれに対処するための他の補正方法を利用してもよい。
実施形態に係るマススペクトル解析方法の実行に際しては、イオン化方法によって、評価条件を異ならせるのが望ましい。選択されたイオン化方法によって評価条件が自動的に選択されてもよいし、選択されたイオン化方法に応じて評価条件がユーザー指定されてもよい。
10 質量分析装置、12 マススペクトル解析装置、14 演算部、24 マススペクトル解析部、30 注目ピーク群特定部、36 注目ピーク選択部、38 組成推定部、42 分布生成部、46 評価部、48 合成部、50 減算部、51 制御部。
Claims (10)
- マススペクトルに含まれる注目ピーク群の中から選択された注目ピークごとにイオン候補リストを生成し、これにより前記注目ピーク群の中の複数の注目ピークに対応する複数のイオン候補リストを生成するリスト生成手段と、
前記各イオン候補リスト中のイオン候補ごとに同位体分布を生成する分布生成手段と、
前記分布生成手段によって生成された複数の同位体分布に基づいて、前記複数のイオン候補リストによって定義される複数のイオン候補組合せに対応する複数の同位体分布組合せを生成する組合せ生成手段と、
前記複数のイオン候補組合せの中から有力イオン候補組合せを絞り込むために前記複数の同位体分布組合せを評価する評価手段と、
を含むことを特徴とするマススペクトル解析装置。 - 請求項1記載のマススペクトル解析装置において、
前記各同位体分布組合せは、前記複数の注目ピークに基づいてスケーリングされた複数の同位体分布を合成することにより構成される、
ことを特徴とするマススペクトル解析装置。 - 請求項2記載のマススペクトル解析装置において、
前記注目ピーク群は、前記複数の注目ピークとしての第1注目ピーク及び第2注目ピークを含み、
前記各同位体分布組合せは、前記第1注目ピークから生成された第1同位体分布と、前記第2注目ピークから生成された第2同位体分布と、を含み、
前記第1同位体分布は、前記第1同位体分布に含まれる基準ピークが前記第1注目ピークに適合するようにスケーリングされた同位体分布であり、
前記注目ピーク群から前記第1同位体分布を減算することにより残余の注目ピーク群が定義され、前記残余の注目ピーク群には前記第2注目ピークから生じた残余の第2注目ピークが含まれ、
前記第2同位体分布は、前記第2同位体分布に含まれる基準ピークが前記残余の第2注目ピークに適合するようにスケーリングされた同位体分布である、
ことを特徴とするマススペクトル解析装置。 - 請求項3記載のマススペクトル解析装置において、
前記リスト生成手段は、前記注目ピーク群において低質量側から高質量側へ並ぶ複数のピークを注目ピークとして順次選択し、
前記第1注目ピークは前記注目ピーク群の中で最も低質量側にあるピークであり、
前記第2注目ピークは前記第1注目ピークの高質量側に隣接したピークである、
ことを特徴とするマススペクトル解析装置。 - 請求項1記載のマススペクトル解析装置において、
前記評価手段は、前記注目ピーク群と前記各同位体分布組合せとを比較し、その比較結果に基づいて前記有力イオン候補組合せを絞り込む、
ことを特徴とするマススペクトル解析装置。 - 請求項5記載のマススペクトル解析装置において、
前記評価手段は、更に、前記各イオン候補組合せを構成する複数のイオン候補の組成に基づいて化学的関係の当否を判断し、その判断結果に基づいて前記有力イオン候補組合せを絞り込む、
ことを特徴とするマススペクトル解析装置。 - マススペクトルに含まれる注目ピーク群の中から複数の注目ピークを順次選択する工程と、
前記複数の注目ピークに基づいて複数のイオン候補リストを順次生成する工程と、
前記各イオン候補リストを構成するイオン候補ごとに同位体分布を生成する工程と、
前記複数のイオン候補リストによって定義される複数のイオン候補組合せに対応する複数の同位体分布組合せを生成する工程と、
前記複数のイオン候補組合せの中から有力イオン候補組合せを絞り込むために前記複数の同位体分布組合せを評価する工程と、
を含むことを特徴とするマススペクトル解析方法。 - 請求項7記載のスペクトル解析方法において、
初期解析過程が実行された後、所定の終了条件が満たされるまで、解析過程が循環的に実行され、
前記初期解析過程は、
前記注目ピーク群の中から最初の注目ピークを選択する工程と、
前記最初の注目ピークに基づいて最初のイオン候補リストを生成する工程と、
前記最初のイオン候補リストを構成するイオン候補ごとに同位体分布を生成する工程と、
前記イオン候補ごとの同位体分布を評価する工程と、
前記イオン候補ごとの同位体分布の評価の結果に基づいて前記解析過程を実行するか否かを判断する工程と、
を含み、
前記解析過程は、
前記注目ピーク群の中から次の注目ピークを選択する工程と、
前記次の注目ピークに基づいてイオン候補リストを生成する工程と、
前記イオン候補リストを構成するイオン候補ごとに同位体分布を生成する工程と、
前記複数の同位体分布組合せを生成する工程と、
前記複数の同位体分布組合せを評価する工程と、
前記複数の同位体分布組合せの評価の結果に基づいて前記解析過程を更に実行するか否かを判断する工程と、
を含むことを特徴とするマススペクトル解析方法。 - 請求項7記載のスペクトル解析方法において、
前記複数の同位体分布組合せを評価する条件がイオン化方法によって切り換えられる、
ことを特徴とするマススペクトル解析方法。 - 情報処理装置においてマススペクトル解析方法を実行するためのプログラムであって、
マススペクトルに含まれる注目ピーク群の中から複数の注目ピークを順次選択する機能と、
前記複数の注目ピークに基づいて複数のイオン候補リストを順次生成する機能と、
前記各イオン候補リストを構成するイオン候補ごとに同位体分布を生成する機能と、
前記複数のイオン候補リストによって定義される複数のイオン候補組合せに対応する複数の同位体分布組合せを生成する機能と、
前記複数のイオン候補組合せの中から有力イオン候補組合せを絞り込むために前記複数の同位体分布組合せを評価する機能と、
を含むことを特徴とするプログラム。
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