本発明は、従来技術を超える改良を提供することを目的とする。
最も一般的には、本発明は、汚染を除去するためのイオン源の表面のレーザエッチングに関する。レーザエッチングは、電極基板の層を物理的に除去することにより、電極表面上の汚染物質を除去する。このようにして、イオン源のハウジングをベントおよび排気する必要なく、および/または表面を大幅に加熱する必要なく、かつ汚染物質の脱離を必要とせずに(例えば、レーザ波長に近い光吸収帯を有するように)、イオン源の表面を簡単な方法で洗浄することができる。イオン源の表面のエッチングは、電極基板層とともに、あらゆる吸着された汚染物質を除去し、それによって、電極基板表面に埋め込まれるか、または単に吸着された汚染物質を当該表面上に有するよりも基板表面とのより強い化学結合を形成したあらゆる汚染物質を同時に除去するという利点を有する。
それによって、本発明は、埋め込みが発生した基板層の部分を物理的に除去することによって、材料の表面内に埋め込まれた不純物または汚染物質を除去するので、他の技術に関する改善を提供する。さらに、本発明は、表面を効果的に清浄化するために、当該汚染物質の吸着/脱離特性の特異性に依存する必要はない(例えば、レーザ光波長を汚染物質の吸着帯に整合させることによって脱離を実施する必要はない)。
本発明は、電極表面の温度を上げる必要もなく、レーザエネルギーを汚染物質材料に直接結合する必要もない。その代わりに、それは電極の表面をエッチングし、従って、その光学的特徴および特性にかかわらず、電極表面上/内のすべての汚染を効率的かつ迅速に除去する。
レーザ表面エッチングのために、レーザビームまたは短持続時間レーザパルス(複数可)を表面に向けることができ、レーザビーム/パルス(複数可)が表面に入射する点/スポットは、レーザの焦点面にあるかまたはその近くであり得る。この点/スポットは、小さくてもよく、典型的には、直径1mm未満であってもよい。典型的には、この焦点/スポットの内側の領域のみが、レーザビームのときに著しく影響を受ける。そこでレーザビーム/パルス(複数可)によって送達されるエネルギーは、焦点/スポットの下で材料の表面を変化させ、材料を局所的に蒸発させ得る。エッチング/アブレーション光は、代替的に、パルスレーザビームとしてではなく、連続レーザビームとして送達され得る。
第1の態様では、本発明は、以下を備える、試料材料のイオンを生成するための質量分析計のためのイオン源を提供することができる:試料材料をイオン化するためのイオン化光を出力するように配置されたイオン化光源;イオン化された試料材料を引き付けるための電極表面を提示し、その上に汚染物質が蓄積可能である電極;電極表面から電極の物質をアブレーションするためのアブレーションする光ビームまたはパルス(複数可)を出力するように配置されたアブレーション光源であって、アブレーションする光ビームまたはパルス(複数可)は、前記イオン化光を含まず;アブレーションする光を電極表面に反射するための反射器であって、これで、アブレーションのプロセスによって、電極表面の一部が、当該部分上に蓄積されたときに、前記汚染物質と共に電極から除去可能である。このように、汚染物質を洗浄除去するために使用されるアブレーションする光は、MALDIプロセス等において、試料材料をイオン化するために使用される光(特にUV光)を含まない。
望ましくは、イオン化光の光周波数は、第1の閾値周波数以上である。望ましくは、アブレーション光ビームまたはパルス(複数可)の光周波数は、第2の閾値周波数より大きくない。例えば、第1の閾値は、紫外線(UV)光(例えば、約10nm~約400nmの範囲の波長)に対応する周波数値であってよく、その結果、イオン化光は、約750THzと等しいか、またはそれよりも大きい任意の周波数であってよい(約400nmに等しいかまたはこれより小さい波長)。好ましくは、第1の閾値周波数は、第2の閾値周波数を超える。第2の閾値周波数は、光の可視スペクトル内であってもよい。例えば、第2の閾値は、可視青色光(例えば、約450nmの波長)に対応する周波数値であってよく、その結果、アブレーションする光は、緑色可視光、赤色可視光、赤外光(例えば、近赤外線、中赤外線または遠赤外線)などの青色可視光と同等またはそれ以上の任意の周波数であってもよい(波長は、同等またはそれ以上)。例えば、第2の閾値は、可視青色光(例えば、約550nmの波長)に対応する周波数値であってよく、その結果、アブレーションする光は、緑色可視光、赤色可視光、赤外光(例えば、近赤外線、中赤外線または遠赤外線)などの青色可視光と同等またはそれ以上の任意の周波数であってもよい(波長は、同等またはそれ以上)。光の色と関連する波長、周波数および光子エネルギーの範囲との間の関係は、以下の表に示されるように当該技術分野において広く見なされている:
望ましくは、アブレーションする光ビームまたはパルス(複数可)は、可視光および/または赤外線(IR)光を含む。このような波長を含むレーザ光は、レーザビーム/パルス(複数可)がその設置面積(例えば焦点)を作る電極表面上の標的化され、局所化されたスポットに熱を迅速に伝達するのに特に効率的であることが見出されている。これは、当該スポットの効率的なアブレーションを可能にし、電極材料(およびその上の汚染物質)の除去を可能にして、電極の周囲の材料が無視できるほどの熱を吸収し、したがって、実用的に言えば、アブレーションプロセスによって加熱されないように、迅速にする。これにより、電極の周囲の部分の加熱に関連する望ましくない副作用を伴わずに、電極を効率的に清浄にすることが可能となる。電極の材料は、鋼、またはアルミニウムまたは任意の他の適切な電極材料を含んでもよい。
望ましくは、イオン化光は紫外線(UV)光を含む。UV光は、その高い光子エネルギーのため、イオン化プロセスでの使用に望ましく、MALDIプロセスにおけるマトリックス材料の脱離および分析物材料のイオン化のために好ましい選択である。
望ましくは、イオン化光を発生させる光源およびアブレーションする光ビームまたはパルス(複数可)を発生させる光源とは、同じ光源である。
望ましくは、イオン化光を発生する光源は、高調波発生を行うように配置された非線形光学媒体または光周波数逓倍器を含む。イオン化光は、アブレーションする光ビームまたはパルス(複数可)を含む光の高調波であってもよい。光周波数逓倍器は、第2高調波発生(SHG、周波数逓倍とも呼ばれる)、および/または第3高調波発生(周波数逓倍とも呼ばれる)、または光の2つの非類似周波数(ω1、ω2)(例えば、2つの別個のレーザからの、または1つのレーザからの高調波)を使用して、2つの非類似周波数の和に等しい周波数(ω3=ω1+ω2)を有する光を発生する和周波発生を行うように配置されてもよい。
本発明の実施形態に従って連続レーザビームを採用してもよいが、電極の周囲の材料(または汚染物質)がレーザ光から無視できるほどの熱を吸収するように、電極から材料を迅速に除去するように、レーザパルス(例えば、パルスレーザビーム)の使用が電極の材料をアブレーションするのに特に有効であることが見出されている。これは、電極の意図しない加熱およびそこからの汚染物質の可能な蒸発を避けるために望ましい。アブレーションプロセスによってまだ清浄化されていない電極表面の一部は、他の方法で、加熱されて汚染物質を緩やかに蒸発させ、その後、清浄化されたばかりの電極の一部の上に再び沈降し、それによって再汚染させ得る。電極表面材料およびその上の汚染物質のアブレーションは、はるかに動力学的にエネルギー的な除去方法を提供し、このような再汚染の傾向ははるかに少ない。
望ましくは、アブレーションする光源は、約1Jcm-1~約5Jcm-1の範囲のレーザパルスエネルギー密度を有するレーザパルスを発生するように構成されたレーザを含む。これらのパラメータ範囲は、効果的な結果を提供することが見出されている。
望ましくは、アブレーションする光源は、約0.5kHz~約2.0kHzの繰り返し率でレーザパルスを生成するように構成されたレーザを含む。これらのパラメータ範囲は、有効な結果を与えることが見出されている。
望ましくは、アブレーションする光源は、約50μJ~約200μJ超の範囲のパルスエネルギーを有するレーザパルスを生成するように構成されたレーザを含む。これらのパラメータ範囲は、有効な結果を提供することが見出されている。
望ましくは、アブレーションする光源は、約20μm~約200μmの範囲のレーザ焦点スポット直径を提供するように構成されたレーザを含む。これらのパラメータ範囲は、有効な結果を提供することが見出されている。
望ましくは、アブレーションする光源は、ガウスレーザビーム強度プロファイルを有する前記レーザからの入力レーザビームまたはパルス(複数可)を、実質的に正方形のレーザビーム強度プロファイルを有する出力レーザビームまたはパルス(複数可)に変換するように構成されたビームプロファイリング装置と光連通するレーザを含む。レーザ強度プロファイルの略平坦(例えば、トップハット形状)の提供は、電極表面上の所与のレーザフットプリント位置(または走査された場合には走査線)において、略平坦かつアブレーションクレータ(またはファロー)形状を生成するのを支援する。パルスプロファイルの変換は、当業者が容易に利用できるような回折(または他の)光学処理手段を用いて行うことができる。
望ましくは、アブレーションする光源は、実質的に円形のビーム断面形状を有する前記レーザからの入力レーザビームまたはパルス(複数可)を、実質的に正方形の断面形状を有する出力レーザビームまたはパルス(複数可)に変換するように構成されたビームプロファイリング装置と光連通するレーザを含む。レーザビーム(またはそのパルス)の断面形状の変換は、電極表面上のレーザのフットプリントが一般に同じ形状を有することを意味する。従って、清浄にされたときに電極表面上の、連続するアブレーションクレータ、およびそのようなクレータの隣接する走査線は、互いに隣接して配置されたときに標的電極表面をより効果的に覆い、それによって清浄操作中に連続するアブレーション標的位置(レーザスポット位置)間で必要とされる「重複」標的の量を減らすことができる。
第2の態様では、本発明は、試料材料のイオンを生成するための質量分析計のイオン源を洗浄するための方法を提供し、イオン源は、試料材料をイオン化するためのイオン化光を出力するように配置されたイオン化光源、およびイオン化された試料材料を引き付けるための電極表面を提示し、その上に汚染物質が蓄積することができる電極を含み、当該方法は、以下を含む:電極表面から電極の材料を除去するためのアブレーションする光ビームまたはパルス(複数可)を生成するステップであって、アブレーションする光ビームまたはパルス(複数可)は、前記イオン化光を含まないステップ;反射器によって、アブレーションする光ビームまたはパルス(複数可)を電極表面上に反射し、それにより、アブレーションのプロセスによって、電極表面の一部を、当該部分に蓄積されたときに、前記汚染物質と共に電極から除去するステップ。
望ましくは、イオン化光の光周波数は、第1の閾値周波数以上であり、アブレーションする光ビームまたはパルス(複数可)の光周波数は、第2の閾値周波数以下であり、第1の閾値周波数は、第2の閾値周波数を超える。
望ましくは、アブレーションする光ビームまたはパルス(複数可)は、可視光を含む。
望ましくは、イオン化光は、紫外線(UV)光を含む。
望ましくは、この方法は、イオン化光およびアブレーションする光ビームまたはパルス(複数可)の両方を生成するためにイオン化光源を使用することを含む。
望ましくは、当該方法は、非線形光学媒体でイオン化光を生成するための光源を提供することと、イオン化光がアブレーションする光ビームまたはパルス(複数可)を含む光の高調波であるように高調波発生を行うこととを含む。
望ましくは、当該方法は、1Jcm-1~5Jcm-1の範囲のレーザパルスエネルギー密度を有する前記アブレーションする光のレーザパルスを発生するステップを含む。
望ましくは、当該方法は、約0.5kHz~約2.0kHzの繰り返し率で、前記アブレーションする光のレーザパルスを生成するステップを含む。
望ましくは、当該方法は、50μJ~200μJ超の範囲のパルスエネルギーを有する前記アブレーションする光のレーザパルスを生成するステップを含む。
望ましくは、当該方法は、約20μm~約200μmの範囲のレーザ焦点スポット直径にアブレーションする光を集束させるステップを含む。
望ましくは、当該方法は、ガウスレーザビーム強度プロファイルを有する前記アブレーションする光のレーザビームまたはパルス(複数可)を、実質的に正方形のレーザビーム強度プロファイルを有する前記アブレーションする光の出力レーザビームまたはパルス(複数可)に変換することを含む。
望ましくは、当該方法は、実質的に円形のビーム断面形状を有する前記アブレーションする光のレーザビームまたはパルス(複数可)を、実質的に正方形の断面形状を有する前記アブレーションする光の出力レーザビームまたはパルス(複数可)に変換することを含む。
本明細書で使用される場合、「約」という用語は、記載値の±10%の許容差を指し、すなわち約50%は、45%~55%の範囲の任意の値を包含し、更なる実施形態では、「約」は、記載値の±5%、±2%、±1%、±0.5%、±0.2%または0.1%の許容差を指す。
以下を含む添付図面を参照しながら、本発明のより良好な理解を可能にするために、本発明の実施形態の例を説明する。
図面では、同様の項目は、同様の参照符号に割り当てられている。
図1Aまたは1Bは、質量分析計を使用して分析のために所望の試料材料のイオンを提供するために構成および配置された質量分析計(図示せず)に採用されるイオン源を概略的に示す図である。イオン源は、MALDIのプロセスを実施する。結合された試料/マトリックス(4)は、ある量の分析物試料材料をその中に封入するマトリックス材料を含む。マトリックス材料は、レーザ光によって打たれたときにマトリックスの本体から効率的に脱離するように、レーザからのイオン化光を吸収するのに効率的であるように選択されたMALDIにおいて使用される任意の公知のマトリックス材料であってもよい。そのようにして、それは、プロセスにおいてもイオン化される封入された分析物材料を放出する。
イオン源は、紫外線(UV)光周波数範囲内の周波数を有するイオン化光を発生するように、また、試料プレート(5)の表面に形成された試料/マトリックス材料(4)に入射するようにイオン化光を方向付けるように配置されたレーザ(図示せず)の形態の光源を備える。イオン化光の周波数は、MALDIプロセスを最適化するために選択され、それによって、試料材料およびそのカプセル化マトリックス材料は、入射イオン化UV光からのエネルギーの吸収に応答して試料プレートから一括して脱離されるが、それによって、試料材料は、特に、それによってイオン化される入射UV光に応答する。その結果、主にイオン化されない(すなわち、電気的に中性である)マトリックス材料の脱離した粒子を含む材料のプルーム、および試料材料の溶解したイオン(すなわち、電気的に荷電される)の生成がもたらされる。
イオン源(断面で示される)の平行な別個の一対の電極(2)は、マトリックス封入試料材料(4)を担持する試料プレートの表面に隣接して配置され、試料プレートとレーザとの間に配置される。電極対は、各々、円形の貫通開口(2A、2B)が通過する平坦な電極表面を呈する、ステンレス鋼の2つの実質的に平坦であり、互いに平行な電極プレートを備える。2つの電極プレートの貫通開口は、互いに登録され、試料プレート(5)上に配置されたマトリックス封入試料と共に登録される。このようにして、マトリックス封入試料は、一対の電極プレートの貫通開口を通してレーザ(図示せず)に露出し、それによって、イオン化UV光がレーザから通過し、貫通開口を通して、試料プレート(4)上に配置されたマトリックス封入試料に入射することが可能になる。
レーザビームの入射角が、マトリックス封入試料を電極の開口部からレーザに露出させるには大きすぎる配置では、1つ以上の電極(2)の追加の横方向に変位した貫通開口部を組み込んで、マトリックス封入試料をレーザに露出することを可能にすることができる。図1Bは、一例を概略的に示しており、電極の各々は、MALDIプロセスによってマトリックス封入試料から遊離するイオンの通過を可能にするためのイオンビーム貫通開口(2A、2B)だけでなく、レーザ(図示せず)から試料(4)へのレーザビーム(1)の通過を可能にするためのレーザビーム貫通開口(2C、2D)も、MALDIプロセスを実行する際に使用するために、および/または本明細書に記載される洗浄/アブレーションプロセスを実行する際に使用するために提供する。
入射UVイオン化光との相互作用によって生成されるマトリックス/試料材料のプルームは、電極プレートの貫通開口を介して試料プレートでレーザから発射されるとき、試料プレートの表面から、試料プレートに提示される最も近い電極プレートの対向する表面にほぼ向かう方向に上昇し、その内部に向かう貫通開口(2B)に向かう。イオン源電極(2)の電極プレートに適切な電位を印加すると、イオン化するUV光によって生成されたイオン化試料材料をイオンビーム経路(6)に沿って方向付け、加速するのに適した形状および強度の電界が生成し、イオン電極の貫通開口部(2A、2B)を通過し、イオン源が通信している質量分析計(図示せず)のイオン光学系に向かって通過する。このようにして、試料材料のイオンの源は、イオン源によって質量分析計に提供される。
しかしながら、入射UVイオン化光との相互作用によって生成されるマトリックス/試料材料のプルームはまた、試料プレートの表面に配置された封入マトリックスのかなりの量の中性(すなわち、イオン化されていない)材料を含む。この中性マトリックス材料は、イオン源電極によって生成された電界に応答せず、それによって単純に膨張して、イオン源電極の電極プレート(2)の対向面に向かってドリフトして、それらの表面に堆積されるようにする。これは、電極プレート表面上に存在すると、使用中の質量分析計に向けた試料/分析物材料のイオンのビーム(6)を正確に形成し、方向付ける目的でイオン源電極が生成するように設計された電界の強度および形状に干渉するため、汚染物質と考慮すべきものである。このようにイオン源を連続的に使用する結果、そのような汚染物質の電極プレート表面への望ましくない蓄積が生じる。
湾曲した反射器(7)がイオン源内に設けられ、レーザ(図示せず)によって生成されるアブレーションする光と関連して動作するように配置される。アブレーションする光は、MALDIプロセスの間、試料プレートに入射するUV光内には存在しないが、MALDIプロセスの後(またはその間)に、イオン源電極(2)の1つ以上の電極プレート(複数可)の1つ以上の表面を清浄にする目的のために採用される。アブレーションする光を発生させるために使用されるレーザは、好ましくはまた、イオン化光(UV)を発生させるために使用されるレーザである。しかしながら、いくつかの実施形態では、前者は、後者とは別個であってもよく、アブレーションする光を生成するタスク専用であってもよい。イオン化光およびアブレーションする光の両方を発生させるために同じレーザが使用される場合、それは、アブレーションする光とイオン化光(UV)との間でその光出力を変化させるように制御可能であり得、または、レーザが残存し得る(例えば、アブレーションする光およびイオン化光の両方が、それによって発生される同じ初期光中に存在する)が、その光出力は、所望により選択的に、アブレーションする光が除外され、イオン化光が保持されるように、またはアブレーションする光が保持され、イオン化光が除外されるように、フィルタ処理または光学処理される。
図2は、試料材料のイオンのビーム(6)が生成されないが、イオン源電極(2)の電極プレートの表面がその上に蓄積された汚染物質(11)を清浄にする清浄動作モードで動作させた場合に、図1を参照して上述したイオン源を概略的に示す。特に、試料プレート(5)は、図1Aまたは図1Bに示されるように、レーザ(図示せず)と光連通する展開位置から、レーザ(図示せず)から光学的に絶縁された図2に示される収納位置に移動可能であるようにイオン源内に移動可能に取り付けられる。試料プレートは、図1Aまたは1Bに示すように、試料プレートが展開位置にあるときに、レーザが試料プレートに入射光を向けるように配置される経路(1、12)に対して横断する方向(8)における展開位置と収容位置との間で可逆的に移動可能であるように配置される。試料プレートの収納位置は、湾曲した反射器(7)をイオン源電極(2)の貫通開口(2A、2B;または2C、2D)に露出するのに十分な位置であり、それによって、湾曲した反射器を、入射光がレーザによって導かれる経路内に配置する。さらに、試料プレートの収納位置は、図1Aまたは1Bに示される展開位置にあるときに、試料プレート(5)に別様に提示され、または露出されるイオン源電極の電極プレート(2)の表面の少なくとも一部を湾曲反射体に対しても露出するのに十分な位置である。
その結果、試料プレートが展開位置にあるとき(図1Aまたは1B)、湾曲した反射器(7)はレーザと光連通しておらず、試料プレートによってレーザから光学的に隔離される。逆に、試料プレートが収納位置にある場合(図2)、湾曲した反射器は、イオン源電極の電極プレート内に形成された貫通開口を介してレーザ(図示せず)と光連通する。
湾曲した反射器は、イオン源電極の電極プレートのうちの1つ以上の電極プレートの表面(単数)、または表面(複数)に向かう方向に、レーザからの入射光を反射するように構成および配置される。問題の表面は、湾曲した反射器に向かう方向に提示され、その上に汚染物質(11)が蓄積された、または蓄積することができる電極プレートの当該表面である。湾曲した反射器は、入射レーザビーム(12)を湾曲した反射器上に向けるようにレーザが配置される経路に対して横断方向(9)に可逆的に移動可能であるように、イオン源内に移動可能に取り付けられている。湾曲した反射器のそのような横方向の動きの効果は、湾曲した反射器の特定の部分での局所法線(すなわち、局所反射器表面に垂直な線)に対する入射レーザビーム(12)の光学入射角を変化させることである。レーザビームがそれに当たった。その結果、入射角度を変えることによって、湾曲した反射器の横方向の移動によって、入射レーザビームの反射角度も湾曲した反射器から遠ざかるように変化し、その結果、反射レーザビームの角度方向(10)が対向する汚染された電極表面に向かって変化する。これにより、汚染物質の表面を清浄にする目的で、反射レーザビーム(12)を、所望により対向するイオン源電極プレートのサービスを横断して走査することが可能になる。
図2に示す例では、湾曲した反射器は、対向するイオン源電極に向かって凹状の湾曲を呈する。その結果、電極プレートの表面における貫通開口の1つの特定の側に向かう方向への湾曲した反射器の横方向の移動によって、反射されたレーザビーム(12)は、プレートの当該特定の側に向かう方向に走査される。しかしながら、他の例では、湾曲した反射器は、イオン源電極に向かって凸状の湾曲を呈し得る。このような代替例では、電極プレートの表面における貫通開口の1つの特定の側に向かう方向への湾曲した反射器の横方向の移動によって、反射されたレーザビーム(12)が、プレートの当該特定の側から離れた方向に走査される。
湾曲した反射器は、入射レーザビームの経路に対して横切る平面(図2において「X-Y」平面で示される)内の任意の方向に横方向に移動可能であり、それによって、横方向の移動が、当該イオン源電極の対向する表面を横切る任意の方向に反射レーザビームを走査することを可能にする。他の例において、湾曲した反射器は、入射レーザビームを所望の方向に反射させるために、軸または複数の軸(例えば直交軸)を中心に枢動可能である平面反射器によって置き換えることができる。しかしながら、曲線反射器の横方向平行移動を採用する簡単さは、実装の簡単さおよび複雑さ/コストの低減の点で有利である。
図3は、曲線反射器(7)、レーザ(図示せず)によって作成される入射レーザビーム(12)の構造、およびイオン源電極(2)のプレート間の光学的協調が、以下のように例示される、図2のより詳細な図を概略的に示す。レーザのレーザ光学系(図4(a)または図4(b)の項目15参照)は、湾曲した反射器(7)の前(または後)に配置された入射レーザビーム(12)および中間焦点(13)内に、反射が意図されている湾曲した反射器の当該部分から距離「U」において入射レーザビームの経路に沿って形成するように構成され、配置される。その後、入射レーザビームを最終的に集束させることが意図されているイオン源電極の表面は、反射が意図されている湾曲した反射器の当該部分から距離「V」のところに配置される。曲面反射器の曲率半径「C」で、次の式で与えられるように、反射が発生することが意図されている曲面反射器のそれらの部分で実質的に定数である。C=2UV/(U+V)。
従って、量「C」が既知であるので、量「U」は、レーザのレーザ光学系の集光機能を適切に制御することにより制御可能に変化させることができ、それにより、レーザビームの最終的な焦点の位置を位置決めする量「V」の大きさを制御することができる。特に、この制御は、次の式:V=CU/(2U-C)に従って実行され得る。好ましい実施形態では、イオン源は、中間焦点(13)の位置を制御するように配置され、それによって、湾曲した反射器(7)に対するレーザビームの最終焦点の位置を適切に制御するように距離「U」の値を制御する。このようにして、レーザ光学系(15)は、イオン源電極プレート(2)の表面における反射されたレーザビームの最終焦点を調整するように配置されてもよい。この調整は、例えば、レーザビームが電極プレート表面に当たるところでレーザビームの「設置面積」または「スポットサイズ」を広げるように、イオン源電極プレートの表面でレーザビームを僅かに非集束にする目的であってもよい。あるいは、または加えて、この調整は、入射レーザビームの反射部分を、湾曲した反射器から異なる距離に配置され得る異なる選択されたイオン源電極プレート(2A、2B)上に選択的に集束させることを可能にすることであってもよい。一例は、湾曲した反射器から異なる距離に配置された2つの連続した平行電極プレート(2A、2B)を示す図面に概略的に示されている。
図4(a)および図4(b)は、図1~図3を参照して上述した実施形態のイオン源電極(2)、試料プレート(5)、および湾曲反射器(7)を含む本発明の好ましい実施形態によるイオン源を概略的に示す。これらの図では、光源が詳細に示されている。図4(a)において、イオン源は、図1を参照して上述したように、試料(分析物)材料のイオンのビーム(6)の生成のためのMALDI操作で動作することが示されている。図4Bにおいて、イオン源は、上の図2および3を参照して説明したように、イオン源電極表面からの汚染物質の洗浄のための電極表面エッチングモードで動作することが示されている。
光源は、赤外(IR)光のスペクトル範囲内に存在する波長を有する基本高調波(λ1)の光を発生するように配置されたレーザ(14)を含む。レーザは、レーザ光の基本高調波から第2高調波(λ2)および第3高調波(λ3)を発生するように、レーザによって発生された光の基本高調波を用いて高調波発生を行うように配置された非線形光学媒体を含む。第2高調波は、基本高調波の1/2の波長を有し、可視光のスペクトル範囲内に存在する波長に対応し、一方、第3高調波は、基本高調波の1/3の波長を有し、紫外光のスペクトル範囲内に存在する波長に対応する。例えば、レーザは、第2高調波が532nmの波長を有し、第3高調波が355nmの波長を有するように、1064nmの波長を有する基本高調波を発生するように配置されてもよい。高調波発生のための適切な非線形光学媒体は、ニオブ酸リチウム、三ホウ酸リチウム(LBO)、β-ホウ酸バリウム(BBO)、リン酸二水素カリウム(KDP)、リン酸チタンカリウム(KTP)のいずれかを含む。
レーザ(14)は、光の基本高調波、第2高調波および第3高調波を、3つの高調波全てを含む単一の出力ビームまたはパルス(複数可)(20)として出力するように配置される。レーザ光学ユニット(15)は、レーザからの単一の出力ビームまたはパルス(複数可)を受け取るように、レーザ(14)の出力と光連通して配置される。それは、試料プレートが展開位置にあるとき、レーザビームまたはパルス(複数可)の断面強度プロファイルにビーム整形を適用すると共に、レーザビームまたはパルス(複数可)を、イオン源の試料プレート(5)の表面に配置されたマトリックス埋め込み試料材料の位置と一致する適切な焦点に合焦させるように配置される。レーザビームまたはパルス(複数可)の光路に沿って配置され、レーザ光学ユニット(15)の位置とイオン源電極(2)との間に、レーザビームまたはパルス(複数可)の光路に沿って配置され、それを透過するレーザビームまたはパルス(複数可)の強度を制御可能かつ可変に減衰させるように動作可能(例えば回転可能)である連続可変の中性密度フィルタ(18)を備えるフィルタユニット(16)である。ニュートラル密度フィルタは、約100%の減衰から0%の減衰(または、ほぼ、すなわち、無視できる減衰)の条件の間で、ユーザによって選択的に連続的に可変である。
ニューラル密度フィルタ(18)に従い、レーザまたはパルス(複数可))のビームパスに沿って、光伝送特性(T)/パスプロファイルからなる低パスエッジフィルタ(19)が配置され(図4(a)のフィルタ19については、インセット「T(%)」を参照)、それは、光透過特性(T)/パスプロファイルを含み(図4(a)のフィルタ19の挿入図「T(%)」を参照)、それは、レーザビームまたはそれに入射するパルス(複数可)内に存在する光の長波長基本高調波および第2高調波の通過を遮断する。これは、レーザ光のより短波長の第3高調波、すなわち紫外光のみが、MALDIプロセスを実施するために所望されるように試料プレート(5)上に向けられたUVレーザビーム(17)として伝搬のためのローパスエッジフィルタ(すなわち、より短い波長を透過させ、より長い波長を遮断するための「ショートパス」)を通過することができることを意味する。
図4(b)は、MALDIプロセスがもはや実行されず、代わりに洗浄プロセスが実行されている、図4(a)のイオン源の第2動作モードを概略的に示す。この第2の動作モードに入るために、試料プレート(5)は、収納位置に移動され、それによって、湾曲した反射器(7)の反射面が、その背後から露出される。加えて、フィルタアセンブリ(16)のハイパスエッジフィルタ(19B)は、第3高調波を遮断するが、レーザユニット(14)によって生成されたレーザ光の基本高調波および第2高調波を通過させるハイパス(または「ロングパス」)エッジフィルタプロファイルを適用するために使用される。ハイパスフィルタ(19B)の透過特性(T)は、第3高調波に対応する光のより短い波長を遮断するが、レーザ光の基本高調波および第2高調波に対応する光のより長い波長を通過させるようなものである(図4(a)のフィルタ19Bについては挿入図「T(%)」参照)。その結果、イオン化されたUVレーザビームまたはパルス(複数可)(17)を停止し、それを赤外光および可視光を含むアブレーションするレーザビームまたはパルス(複数可)(21)に置き換える。湾曲した反射器(7)の反射面は、レーザユニット(14)によって生成されたレーザ光の基本高調波と第2高調波の両方を反射するように構成された(例えば調整された)誘電体コーティングを有する。
従って、レーザ光の基本高調波および第2高調波は、電極表面の一部が当該部分上に蓄積された任意の汚染物質と共に電極から除去されるように、イオン源電極プレートの材料をプレートの表面からアブレーションするプロセスにおいて採用される。その結果、電極表面を洗浄する際に採用されるアブレーション/エッチングプロセスに使用される光の全ての波長は、MALDIプロセスにおいて採用される試料材料のイオン化に使用される光の波長を完全に排除する。図8は、これら2つのプロセスに採用される波長の分離を概略的に示し、MALDIプロセスで使用されるイオン化光の波長は、第1の周波数閾値(すなわち、短波長)を常に超える明示的により短い波長であり、洗浄プロセスで使用されるアブレーションする光の波長は、決して第2の周波数閾値(すなわち、より長い波長)を超えない。
図5は、使用時に、上述したようなMALDIプロセス中に試料プレート(5)の方へ提示され、電極プレートの貫通開口部(22)の周囲に配置された汚染物質(25)のパチナが蓄積されたイオン源電極プレートの表面を示す。これは、図4(a)を参照して上述した方法で、対向する試料プレート(5)において、貫通開口部(22)を通してイオン化UV光が発射されるときに発生する、物質の膨張プルーム中に存在する脱離したカプセル化材料の中性粒子のプルームから生じたものである。また、この電極プレートの表面には、図4(b)を参照して上述した手順および装置に従って、プレート表面を横切って線がエッチングされて表示される。
レーザユニット(14)によって生成されたレーザ光の基本高調波および第2高調波を含む、ハイパスエッジフィルタ(19B)を透過したアブレーションする光は、図2、図3および図4(b)を参照して上述したように、電極プレートの表面に集束され、湾曲反射器(7)の横方向平行移動(9)動作に従って、直線走査パターンでそれを横断して走査された。その結果、線(23)は、イオン源電極プレートの材料の表面にエッチングされ、プレートの一部が、当該部分に蓄積された汚染物質と共に除去される。比較のために、線(24)も、同じプロセスによって、実質的に汚染物質が存在しないソース電極プレートの表面領域にエッチングされる。
レーザエッチング方法の有効性は、図5に示されており、レーザの焦点面内に位置する表面にわたるレーザビームの直線走査によって、ステンレス鋼電極の表面内に線がエッチングされた。レーザは、基本波高調波(1064nm)および第2高調波(532nm)の出力波長をもつNd:YAGを用い、1kHzの繰返し率で走査し、約10cms-1で電極面上を走査した。エッチした線の幅は、50~100μmである。この方法が実際に金属の表面をエッチングし、表面汚染を除去するだけではないことを実証するために、線が電極の清浄な部分にエッチングされて示されている。電極の汚染領域(直径約1cmの円)を通してエッチングされた線も示されており、エッチング動作中に電極表面から汚染が効率的に除去されることを実証する。明らかに、本明細書に記載される方法を使用して、XおよびYラスタ内の汚染領域にわたってレーザを走査することにより、汚染領域全体がエッチングされ、表面汚染が完全に除去されることが可能になるであろう。本明細書に記載される例では、1cm2の領域を洗浄するために、各々の直線並進を伴って50μmの幅の線をレーザエッチングすると、200ラインのラスタが必要となり、50cmの電極表面にわたってレーザビームの総移動量を与えることになる。10cms-1の直線移動速度では、ラスタ線ごとのターンオン時間を許容しても、処理全体には数秒しかかからない。試料プレートを収納位置に配置する、または試料プレートを例えばロードロックに取り出す、1つ以上の表面でエッチング操作を行う、試料プレートを展開位置に戻す、および機器を操作条件に戻すという全プロセスを、5~10分で達成することができる。
図6は、イオン源電極(2)の汚染表面を横断するアブレーションレーザビーム(12)の焦点を走査する作用(10)を模式的に示し、それによって電極の材料の粒子(27)をアブレーションして、その表面上に蓄積された汚染物質(26)の粒子(28)と共に当該材料を電極の表面から除去する。新鮮な清浄な(エッチングされた)電極表面(29)が、これにより露出し、これは、予めエッチングされた電極表面の以前のサービスレベル(30)の下にある。新鮮な電極表面は、電極の表面に沿った連続した隣接する走査位置において、連続したレーザパルス(複数可)のアブレーション作用によって形成される表面クレータのエッジに対応する、浅いパターンのバンプまたはマイルドな突出部を担持してもよい。
レーザ光の基本高調波および第2高調波が洗浄プロセスにおいて採用されるので、これは、洗浄される表面で発射されるレーザ光の各パルスにおいて、はるかに高い割合の光エネルギーが搬送され得ることを意味する。これは、レーザの基本高調波が、第2高調波または第3高調波のような高次高調波のいずれか1つと比較して、レーザの全エネルギー出力の高い割合を搬送するからである。同様に、レーザの第2高調波は、第3高調波のような任意のより高い高調波と比較して、後者の全エネルギー出力のより高い割合を担持する。その結果、基本波高調波と第2高調波を組み合わせて用いると、第3高調波のみによって搬送されるパルス当りのはるかにより多いエネルギーが、一括して搬送される。例えば、概略的に言えば、レーザユニット(14)は、典型的に、第3高調波のみによって搬送されるよりも、1パルス当たり約6倍多くのエネルギーを搬送することができる。
これの直接的な帰結は、電極の表面上のその最終焦点におけるレーザビームの直径が、第3高調波(または任意のより高い高調波)のみがレーザビーム内に存在した場合に使用することができるレーザビームの直径よりも大きくてもよいことである。従って、レーザビームの強度プロファイルを断面で整形することがはるかに実行可能であり、その結果、中間領域にわたって平坦であり、第3高調波(および/または任意の高調波)のみが使用される場合のようなより少ないエネルギーをレーザビームが搬送する場合に実行可能であるよりも、そのプロファイルにわたってより均一な強度分布を有する。これにより、本発明は、UVレーザ光の第3高調波のみが洗浄プロセスに使用された場合に可能であるよりもはるかに平坦で広い、はるかに浅いエッジ突出部(すなわち、クレータ壁)を有するアブレーションクレータ(29)を提供することが可能である。UVレーザ光の必要とされる焦点がずっと狭くなると、より急峻なクレータ壁(32)を有するずっと深いアブレーションクレータ(31)が生じ、その結果、電極(2)のアブレーション表面(30)上の隣接するアブレーションクレータ間に、ずっと鋭い隆起部/突起が生じる。図7Aおよび7Bは、紫外線光を使用するときの実施と比較して、本発明の実施(図7A)の結果として生じる電極の表面に形成される、断面における典型的なアブレーションクレータ形状の概略的比較を提供する(図7B)。
このようなエッチングプロセスによって清浄化されるイオン源電極の表面は、できるだけ平坦かつ平滑であることが最も望ましい。これは、クリーニングされる表面ができるだけ平坦である場合に、クリーニングされる電極表面の表面プロファイルが、アブレーションレーザ光の焦点スポットの位置からできるだけずれないようにすれば、連続的なクリーニング操作がより効率的になるからである。洗浄される電極の表面が、アブレーションクレータによって重くポックマークされる場合、電極表面は、実際には、走査プロセス中にアブレーションレーザビームの焦点の位置から実質的に逸脱し、これにより、洗浄動作の効率が低下する。さらに、深層UVアブレーションクレータによってポックマークされることから生じるであろう電極表面の粗面化は、また、試料イオン(6)の集束および方向付けに必要な電場を所望の精度で支持するための電極表面の能力を劣化させ得る。
レーザユニット(14)は、短パルス(複数可)DPSS(Diode Pumped Solid State)レーザであってもよい。好適なレーザ例としては、Nd:YVO4、Nd:YLFまたはNd:YAGレーザが挙げられる。基本波高調波波長は、1064nmであってもよい。レーザ光の高調波は、レーザ装置内の非線形結晶媒体によってレーザ基本波長から発生させることができ、基本波および/または1つ以上の高調波を、装置から同時に放射することができる。
イオン源は、例えば、DPSSレーザのUV第3高調波(例えば、Nd:YAGレーザからの355nm出力、Nd:YLFレーザからの349nmまたは351nm)を利用するMALDI-TOF質量分析計に採用され得る。基本波(IR)および第2高調波(可視)出力は、図4(b)に示すようにフィルタによって減衰されるため、光出力はUV第3高調波のみがMALDIプロセスに使用される。上述した好ましい実施形態では、MALDI動作およびエッチング動作の両方に同じレーザが使用され、どちらの性能も損なわれない。しかしながら、この方法は、単一のレーザ実装に限定されず、2つのレーザ、1つはMALDIプロセスに特化し、2つ目はエッチング動作に等しく働くであろう。
レーザシステムは、MALDIと表面エッチング動作との間で切り替え可能である。MALDI構成(図4(a))の場合、UVレーザ出力のみが、試料プレートに送信される(通常、法線に対して3°~30°の角度で)。分析物/試料は脱離およびイオン化され、イオン化された分子は、電極に印加された電位によってイオン源電極の開口/スルー開口部を通って加速される。しかしながら、脱離した材料のプルームの大部分はイオン化されず、一般に、それがイオン源内の電極の表面に堆積されるまで、試料スポットから膨張し続ける。表面エッチング構成(図4(b))の場合、試料プレートは格納され(おそらく取り除かれ;場合によってはロードロックに格納され)、エッチングのために必要な波長のレーザ光(基本波および/または第2高調波)は、試料プレートの平面の下に配置され、X-Y並進ステージに機械的にリンクされた湾曲した反射器に伝達される。反射されたレーザビームは、典型的にはラスタパターンで、湾曲した反射器のX-Y平行移動によって電極表面を横断して走査される。
アブレーション/エッチングレーザ波長での高反射率のために設計された誘電体光学コーティングが、曲線反射器の反射面上に配置されてもよい。誘電体鏡コーティングは、必要な波長での高い反射率のために設計することが可能であり、代替の広帯域金属鏡コーティングよりも堅牢であるので、この方法のために好ましい。1つより多い表面がエッチングを必要とする場合は:
(i)複数の反射器を、適切な曲率で平行移動ステージに取り付けることができる;
(ii)単一の反射器の全面および背面は、異なる波長を2つの異なる表面に反射させるために利用され得る;
(iii)「U」(図3参照)の値は、エッチングされる各表面について、上述の図3を参照して説明したようにレーザ光学系列内のより早く光学系を調整することによって調整することができる。または、
(iv)各表面におけるエネルギー密度が尚洗浄されるべき表面をエッチングするのに十分である場合には、レーザ焦点をエッチングされる2つの表面間の中間位置に設定する。
より大きなビームサイズによって、表面にわたってレーザの単一パスでより大きな領域をエッチングし、したがって、必要とされるレーザショットの総数および総洗浄時間を減少させることが可能になる限り、レーザ焦点からわずかに離れているレーザビームの一部を用いて電極表面をエッチングすることに利点があり得る。この方法は、平面電極の幾何形状で最も有効であることは明らかである。
図9Aおよび9Bは、上述の方法(i)の例として図示する。ここで、2つの鏡(7A、7B)は、可動ステージ(例えば、試料ステージ)上に取り付けられ、各々は、レーザビーム(12)をイオン源電極システムのそれぞれの2つの別々の電極プレートの2つの異なる表面のそれぞれの1つ上に集束させるために、適切な曲率で形成される。したがって、これらの表面は、入射レーザビーム(12)の下で、2つの鏡のそれぞれの1つを、順番にラスタ走査することによって、連続的にエッチングすることができる。可動ステージは、レーザビームの方向に対して横方向に平行移動されて、反射されたレーザビームの焦点スポットを、標的電極表面を横断するラスタ走査に逆数的にさせる。図9Aでは、最も近い電極表面上にレーザ光(12)を集束させるために、より高い曲率を有する2つの鏡の一方が採用されており、一方図9Bでは、最も遠い電極表面上にレーザ光(12)を集束させるために、比較的低い曲率を有する2つの鏡の他方が採用されている。
図9Cは、上述した方法(iv)の一例を示す。ここでレーザビーム(12)は、反射器表面(7)によって、洗浄されるべき2つの電極表面間の中間点に再集束される。2つの電極表面までの距離に一致するビーム経路に沿った点、およびビームの焦点の対向する側でのレーザ平均のエネルギー密度は、単一反射器(7)をラスタ走査することによって2つの表面を同時にエッチングできるようにするのに十分なものとされる。焦点がずれたレーザビームの大きさ(w(z))、およびしたがって電極表面におけるそのエネルギー密度は、容易に、以下から計算され得る:
式中、w(z)は、ビーム焦点から距離zにおける、電極表面におけるビーム半径(例えば、ガウスビームプロファイルの1/e
2エネルギー準位における)である。量w
0は、距離2zだけ離れた2つの電極(2)間の中間位置におけるビーム焦点でのビーム半径であり、z
0は、次式で与えられるレイリー範囲として知られるパラメータである:
したがって、電極表面におけるレーザビームの相対エネルギー密度は、電極間の焦点におけるそれに対して、(w0/w(z))2で表される。図9Dは、上記(ii)で説明した方法の例を示す。ここで、波長λ1(例えば、基本波高調波)およびλ2(例えば、第2高調波)のレーザ光(12)は、同じ1つの反射器(7)上を通過する。反射器の第1(上部)表面の曲率、および、当該表面に適用される光学コーティングは、波長λ1の光を透過させながら、反射器に対向するが、反射器に最も近い第1の電極表面(2)の平面内に波長λ2の光を反射し、集束させるために最適化される。反射器の第2(後部)面の曲率、および、それに塗布された光学コーティングは、反射器に対向するが反射器から最も遠い第2の電極表面(2)の平面内に波長λ1の光を反射し、集束させるために最適化される。
最も好ましくは、他方の波長(基本高調波および第2高調波)がマトリックスによって効率的に吸収されず、エネルギーを分析物に直接結合し、望ましくない準安定フラグメンテーションを生じさせるため、UVレーザ出力のみがMALDIプロセス中に試料に入射されるべきである。いくつかの方法を使用して、各動作に必要なレーザ波長を選択することができる(例えば、選択可能な波長フィルタを使用する)。
MALDI動作中、UVレーザビームのパルスエネルギーを微調整/最適化することが好ましい。これは、円形溶融シリカ基板の一方の表面上に被覆された連続的に可変な金属ND(中性密度)フィルタ(例えば、18;図4(a))を用いて、上述したように達成され得る。NDフィルタコーティングは、典型的には、例えば330°の角度にわたって適用され、30°のコーティングされていないセグメント(例えば、項目18、「クリア領域」;図4(a))を残す。UVレーザビームが、UVレーザビームがNDフィルタの適切な部分に入射されて、必要なUVレーザパルスエネルギーを伝達するように、フィルタを回転させることができる。好ましい実施形態において、追加の光学コーティングが、第1の表面上のNDフィルタコーティングのそれに対応する領域にわたって、基板の第2の表面に適用される。第1の表面上の明瞭なセグメント領域は、第2の表面上のハイパスフィルタセグメント領域と(レジスタにおいて)一致している。第2の表面上のコーティングは、第1の表面上のNDフィルタと一致し、第3のUV高調波を透過させながら、IR基本波および可視第2高調波波長を減衰させる。これは、定義されたカットオフ波長より短い波長のみを伝達するローパスエッジフィルタ(19B)で容易に達成することができる。これは、図4(a)のフィルタ19および19Bを提供する。第1のコーティング(18)は、MALDI動作を実行する間、エネルギー制御を提供し、第2のコーティング(19、19B)は、MALDIを実行するため、またはエッチングを実行するための波長制御を提供する。他のフィルタ方法も、同じ機能を達成することができた。
MALDI動作中(図4(a))は、全てのレーザ出力波長(IR、可視およびUV)が、フィルタ組立体に入射する。フィルタは、第1の表面可変NDフィルタでUVパルスエネルギーを制御するために回転され、第2の表面エッジフィルタ(19B)によってIR基本波長および可視高調波波長が減衰される。したがって、必要なパルスエネルギーのUV光のみが、MALDI分析のために試料プレートに照射されるであろう。フィルタ組立体は、他方のレーザ光学部品の前、後に位置するか、または内部に組み込むことができるが、レーザビーム直径が、フィルタにおいて、パルスエネルギー密度がNDおよびエッジフィルタ被覆の損傷しきい値を下回ることを確実にするのに十分大きいことを保証するように注意すべきである。
表面エッチング動作中(図4(b))、全てのレーザ出力波長(IR、可視およびUV)は、再びフィルタ組立体に入射する。エッチングのために、フィルタは、レーザ光が第1の表面の明瞭な領域に入射し、第2の表面のハイパスエッジフィルタ上に通過するように回転される。これは、基本波高調波および第2高調波の光であるが、第3UV高調波ではない光がフィルタを透過し、反射し、湾曲した反射器によって電極表面に集束される。湾曲した反射器は、エッチング動作に必要な基本波および/または第2高調波波長(IR、可視)を反射するように最適化された誘電体鏡コーティングでコーティングされる。
実際には、一般的に使用されるMALDI DPSSレーザについて、基本波長は、IR範囲1046nm~1053nm、可視(緑色)範囲525nm~532nmの第2高調波、およびUV範囲349nm~355nmの第3高調波であろう。これらの波長は、一般的に使用されるMALDIレーザと関連しているが、レーザエッチングプロセスは、上記で引用した基本高調波および第2高調波波長に制限されず、エッチングプロセスのために質量分析計に取り付けられたMALDIレーザまたは第2レーザのいずれかを使用して、UVスペクトル範囲外のレーザ波長と同等に良好に動作するであろう。
この方法は、1kHzの繰返し率レーザで1Jcm-1~5Jcm-1の範囲のレーザパルスエネルギー密度を有するステンレス鋼基板を効果的にエッチングすることが見出されており、それは、MALDIレーザで容易に達成され得、それは、典型的には50μJ~200μJ超の範囲のパルスエネルギーを有し、50μm~100μmの範囲であるがこれに限定されないレーザ焦点スポット直径で構成される。レーザは、必要なエネルギー密度を達成するために適切に調整されたレーザ焦点スポットを用いて、この範囲外のパルスエネルギーで使用することができる。実際には、10cm2の電極表面積を、100μJのレーザパルスエネルギーで10分間で効果的にエッチングでき、100μmのスポットサイズに集束し、1kHzの繰返し率で動作する。
記載される洗浄方法の効率は、確立されたレーザビーム成形技術(例えば、回折、屈折またはアポダイジング)を採用して、典型的にはガウス型レーザビームプロファイルを「トップハット」正方形プロファイルに変換し、円形のビーム断面を正方形の断面に変換することによって高めることができる。
このアプローチは、隣接するレーザスキャン間で必要とされる重複度を減少させ、従って、総走査数を減少させ、必要とされるレーザショットの総数を減少させ、従って、所与の領域をエッチングするために必要とされる総時間を減少させるであろう。この方法を使用して洗浄処理を比較的迅速に実行できるという利点だけでなく、少数のレーザショット、典型的には約2×105しか使用しないためである。これは、典型的なレーザリフトタイムのわずか0.02%であり、109パルスショットのオーダーである。従って、レーザ寿命に大きな影響を与えることなく、多くの洗浄サイクルを実施することができる。実際、特定の数のレーザショットが経過した後のような間隔で、装置がアイドル状態(場合によっては、使用者によって定義される、例えば一晩)であるときに、洗浄プロセスを定期的に自動的に実行することが実用的であろう。積極的なクリーニングも可能であり、いくつかの用途について、洗浄作業を行う前に、装置が性能の著しい低下を示すのを待つことが好ましい場合がある。確かに、本発明によって提供される、迅速な洗浄時間およびレーザ寿命に対する最小の影響は、重要な利点を提供する。
図10を参照すると、ビーム変換のための適切な方法は、レーザビーム/パルス(複数可)のエネルギープロファイルおよび断面の両方を変換する「回折光学素子」(DOE)を使用することである。例えば、変換は、ガウス強度プロファイルからトップハット(またはフラットトップ)強度プロファイルであってもよく、ビーム/パルス(複数可)の断面形状は、円形の形状から正方形の形状であってもよい。アポダイジング・フィルタおよび/または屈折素子が、代替において使用されてもよいが、これらは、一般に、エネルギー/強度プロファイルを変換するだけであって、ビーム/パルス(複数可)の断面形状ではない。図10は、レーザビーム強度プロファイルをガウス分布から「トップハット」分布に変換するDOEの履行を概略的に示す。最も単純な履行では、レーザ(14)からのガウス型レーザ出力(20)は、レンズ(30)によって、試料プレート(破線34で示される)の平面内に/平面において集束される。レンズ(30)とその焦点面との間に、試料プレート(破線)の平面と一致するDOE(31)を挿入すると、ガウスビームプロファイル(32)がトップハットプロファイル(33)に変換される。トップハットプロファイルは、薄いレンズ式(1/f=1/u+1/v)に従って、湾曲した反射器(7)によって電極表面(破線35によって示される)の平面内で再結像され、ここでfは、湾曲した反射器(7)の焦点距離であり、uおよびvは、それぞれ、試料プレートの平面(34)および電極表面の平面(35)から鏡頂点までの距離である。
図11(a)は、試料支持プレート(40)上に試料プレート(5)を取り付けたMALDI構成を模式的に示す。図11(b)では、イオン化レーザ光源(1)のスイッチが切られ、試料支持プレート(40)が移動して、エッチング処理に備えて試料プレート(5)を収納位置に配置する。これにより、試料プレート(5)は、試料支持プレート(40)によって移動される。図11(c)において、試料支持プレート(40)は、MALDI構成中にそれが有していた元の位置に戻る。試料装着プレートもまた、湾曲した反射器(7)がその上に装着されているので、湾曲した反射器は、それによって能動位置に展開される。図11(d)は、本発明による洗浄/エッチングプロセスにおいてその後使用される湾曲反射器を示す。
本発明のいくつかの好ましい実施形態を示し、説明したが、添付の特許請求の範囲に定義されるように、本発明の範囲から逸脱することなく種々の変更および修正を行うことができることは、当業者には理解されるであろう。