JP7129723B2 - 高度不飽和脂肪酸のトリグリセリドを含む組成物 - Google Patents

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Description

本発明は、高度不飽和脂肪酸の酸化の進行を妨げるおよび/または遅らせることを特徴とする、高度不飽和脂肪酸または高度不飽和脂肪酸エステル含有組成物及び該組成物を含有する食品に関する。例えば、本発明の組成物は、溶存酸素量が1mg/L以下であって、過酸化物価3以下かつ酸価1以下かつアニシジン価5以下であって、かつ、(例えば、吸着剤処理によって)過酸化物を除去したω3系高度不飽和脂肪酸のエチルエステルと、大豆リン脂質及びビタミンE及びアスコルビン酸パルミテートを含む混合物と卵黄の乳化混合物に、更に、卵白を加えて均質化した組成物を噴霧乾燥法により乾燥し、水分含量を5wt%以下に調整した粉末であることを特徴とするω3系高度不飽和脂肪酸エチルエステル含有組成物並びに該組成物を含有する食品に関する。
魚油、藻類、遺伝子組み換え植物等に含まれるALA、SDA、EPA、DPA、DHA等のω3系高度不飽和脂肪酸又はそのエチルエステルは循環器系疾患改善、脳神経機能の改善、免疫機能の改善だけでなく、酸化ストレス抑制を介する疾病の予防改善など広範な機能を発揮し、更に、癌の増殖抑制にも有効とされるなど用途の拡大が続いている素材である(非特許文献1および2、ならびに、特許文献1)。
これらω3系脂肪酸はグリセリド体又は遊離型脂肪酸やエチルエステル体としてそのままで、又は、濃縮精製されて食品素材、健康食品素材、化粧品素材、医薬品素材として上市されている。これらのω3系脂肪酸は一般に、真空精密蒸留法、分子蒸留法、クロマト法、低温溶媒分別結晶法、尿素付加法、硝酸銀錯体形成法、などを適時組み合わせて濃縮されている(特許文献2)。
特に、EPAのエチルエステル体(以下EPAエチル)はスイッチOTCとして閉塞性動脈硬化症、高脂血症等の治療薬として販売が開始され、医薬品グレードEPAエチルの市場拡大が続いている。
また、グリセリド体としてそのままで、又はエチルエステル体を濃縮精製した後、市販されているものもある。例えば、魚油を出発原料とする時、該グリセリドに含まれるω3系脂肪酸は低温溶媒分別結晶法により濃縮されたり、リパーゼなど酵素処理により濃縮される場合もあるが、商業規模では該ω3系脂肪酸純度は70%が限界とされている。
ω3系脂肪酸純度が90wt%以上のグリセリドは少なくとも90wt%以上の当該脂肪酸又はその低級アルコールエステルを出発原料とし、グリセリンとのエステルとすることによって合成される。エステル化反応は一般にリパーゼによる可逆反応、又は酸、アルカリによる化学的合成反応によって得ることが出来る。なお、上記90wt%以上の当該脂肪酸又はその低級アルコールエステルは公知の方法によって得ることが出来る(特許文献3、4)。
すなわち、例えば、ALA、SDA、EPA、DPA、DHA等から選ばれる何れか1種類のω3系高度不飽和脂肪酸を70wt%以上の高純度に精製するためには、当該脂肪酸又はその低級アルコールエステルの形であることが好ましい。また、蒸留設備を用いる場合、設備上及び脂肪酸の沸点等の物性上の特徴から、遊離脂肪酸ではなくその低級アルコールエステルの形での濃縮精製が現実的である。
更に、脂肪酸の低級アルコールエステルの場合、食品、医薬品、化粧品等の分野での利用を想定した場合は、そのエチルエステルが最も望ましい。
しかしながら、これらのω3系高度不飽和脂肪酸のグリセリド体又は遊離型脂肪酸やエチルエステル体は1分子当たり3~6個の不飽和結合を有するため酸化速度が大きく、また、極微量の過酸化物の生成は十分に不快な魚臭を伴う。掛かる問題解決のため、多くの酸化防止技術、魚臭除去技術、マスキング技術が提案されてきた。
抗酸化剤に関しては、ビタミンE、アスコルビン酸パルミテート、レシチンを併用する方法(特許文献5)、香辛料抽出物を用いる方法(特許文献6、7)多数の特許文献が見られる。ω3系高度不飽和脂肪酸を多く含む魚油に関しては、大豆リン脂質中のホスファチジルコリンやホスファチジルエタノールアミンなどの含窒素リン脂質のビタミンEに対する相乗的な抗酸化作用(非特許文献3)、アスコルビン酸パルミテートの有効性(特許文献2)が知られているが、いずれの方法も酸化の進行を完全に妨げることは出来ていない。
掛かる問題点改善のため、植物油脂に含まれる溶存酸素を低減することによる保存安定性向上を目指す技術が公知となっている。すなわち、油脂へのハイドロキノン添加による溶存酸素の低減化(非特許文献4)、油脂中の酸素を含む溶存気体を二酸化炭素置換することによる風味改善方法(特許文献8)、窒素ガス置換によるマヨネーズなどの水中油型乳化物中の溶存酸素低減化と品質の劣化防止に関する方法(特許文献9)などが公知であり有効性が明らかとなっている。
上記の溶存酸素を低減させる工程の有無に拘わらず、一般に、高度不飽和脂肪酸含有のグリセリド脂質類とそのエチルエステル類、並びに、ALA、SDA、EPA、DPA、DHA等のω3系高度不飽和脂肪酸のエチルエステルを含む脂質類は例えばそのアルキルラジカル(L・)やペルオキシラジカル(LOO・)などの過酸化物や分解物をアルコールやケトン類、アルデヒド類、酸類などの形で含んでおり、これらは官能評価上及び栄養学上の障害になるだけでなく、例えば連鎖反応の誘発などを介して品質の更なる劣化原因となるため除去することが必要である。従って、過酸化物やその分解物の除去は製品の官能評価や栄養学的価値を向上させるだけでなく、過酸化物価(POV)、酸価(AV)、アニシジン価(AnV)の低減化に有効である。
油脂中の過酸化脂質やその分解物の除去は多数公知となっているが、例えば、分子蒸留法(特許文献10)、吸着剤処理法(特許文献2、特許文献11、特許文献12、特許文献13)などが知られており、本発明に於いては何れの方法も利用可能である。実験的にはフロリジル(100/200メッシュ)カラムを用いた過酸化脂質の除去法が知られている(非特許文献5)。
過酸化脂質及びその分解物の検出は、例えば、シリカゲル60PF254TLCプレート(Merk社、0.25mm厚さ)を用いる薄層クロマトグラフィー(TLC)法、ケイ酸カラムクロマトグラフィー法、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法等が知られている(非特許文献5)。また、例えば、シリカゲル薄層クロマトグラフィー(TLC)で中性脂質用展開溶媒(n-ヘキサン/ジエチルエーテル/酢酸=85/15/1)を用いて定性的に検定した時、原点付近に過酸化物の存在しているか否かによって簡易的に検定することも公知である。
高度不飽和脂肪酸含有油脂類からの脱臭方法に関しては水蒸気蒸留法、分子蒸留法、ケイ酸カラムクロマト法など多数の技術が公知であるが、いずれも十分ではない(非特許文献2)。
マスキング方法に関しては脂溶性ジンジャーフレーバーを用いる方法(特許文献14)、香辛料抽出物を用いる方法(特許文献6,7)、柑橘系香料やヨーグルト香料を用いる方法(特許文献15)、羅漢果抽出物を用いる方法(特許文献16)などの他多数の技術が公開されており、有効性が認められるものもあるが、マスキングに用いるフレーバーの種類により其々の用途が限定されるという欠点が問題となっている。
また、該油脂は常温では液状であるため、通常の工程での他原料との混合の困難、包装、運搬上の困難、酸素との高い接触頻度に伴う酸化に起因する魚臭様の異臭発現などが発生し、食品への用途が限定される。掛かる問題点解決のため、該油脂の粉末化に関する技術が公開されている。
すなわち、DHA含有油脂の酵母菌体内への封入によるマイクロカプセル化(特許文献17)、トランスグルタミナーゼにより硬化されたゼラチンを用いた膜を有するマイクロカプセル(特許文献18)、モノグリセリドを含む乳化物の粉末化(特許文献19)、賦形剤として脱脂大豆を用いる方法(特許文献20),多層構造のマイクロカプセル(特許文献21)など多数の技術が開示されている。
更に、卵黄、卵白を用いた油脂の粉末化技術として、卵白を賦形剤として用いる方法(特許文献22,23)、および、卵黄を用いる方法(特許文献24)などが公知である。卵黄乾燥品には通常25wt%前後の脂質が含まれており、リン脂質の含有量は28wt%前後とされている(非特許文献6)が、このものの高度不飽和脂肪酸エステル(特に、ω3系高度不飽和脂肪酸エチルエステル)に対する抗酸化作用を利用した粉末は知られていない。
特開2015-147770 特開2015-63653 特開2000-212588 特開平11-209786 特開平9-272892 特開平7-236418 特開2007-16045 特開2014-140332 特開2005-110674 特開2002-233398 特開平7-188692 特開2002-102692 特表2013-521004 特開平06-189717 特開平08-092587 特開2012-223138 特開平05-253464 特開平05-292899 特開平06-172782 特開平07-313057 特開2013-177400 特開昭63-44844 特開平8-23881 特表2007-516711
万倉三正・鹿山 光、題名「AA,EPA,DHAの生理機能と利用」、"AA,EPA,DHA-高度不飽和脂肪酸(共著)"、鹿山光編、恒星社厚生閣、東京、1995、pp.207-224 万倉三正、西岡功志、加太英明、山主智子、戸谷永生、中本賀寿夫、金行孝雄、高山房子、題名「DHA製品の開発と機能性評価」、ジャパンフードサイエンス、49(1)、45-52(2010) 瀬川丈史・鎌田正純・原節子・戸谷洋一郎、題名「魚油の高度不飽和脂肪酸に対するリン脂質の酸化防止挙動(第3報)」、油化学、44(1)、36-42(1995) 平野四蔵・黒部森司、題名「油脂中の溶存酸素の定量ならびに溶存酸素量に及ぼす影響」、工業化学雑誌、57(9)、14-16(1954) 寺尾純二・松下雪郎、題名「過酸化脂質の単離(過酸化脂質実験法」、金田尚志・植田伸夫編)、pp.21-35、医歯薬出版株式会社,東京(1983) 伊藤敬恵・山中なつみ・小川典子、題名「異なる鶏種の鶏が産卵した卵の卵黄中のホスファチジルコリン含量の比較」、岐阜女子大学紀要、37、15-18(2008)
上記の背景技術の存在にも関わらず、製品化の過程および製品の保存期間中における酸化の進行を官能評価的に異臭発現が気にならないレベル以内に保持する技術は未だ開発されていない。それゆえ、本発明は、製品化の過程および製品の保存期間中における酸化の進行を妨げるおよび/または遅らせることを課題とする。より具体的には、以下のとおりである:
ALA、SDA、EPA、DPA、DHA等のω3系高度不飽和脂肪酸のエチルエステルは酸化速度が大きく、高純度に精製されるほどその速度は大きくなるため、少なくとも10wt%以上の該ω3系高度不飽和脂肪酸のエチルエステルを含む混合物を酸化から保護することは従来技術では十分に成されて来なかったため依然として未解決の技術的課題である。また、酸化に伴う各種の分解物、特に、魚臭を伴う不快な酸化臭の発現は未解決の技術的課題である。従って、該エチルエステルの酸化進行を遮断し、魚臭の発現を阻止することが重要であるが、不飽和結合を3個以上有する高度不飽和脂肪酸の物性上の特徴に鑑みて完全な酸化進行防止、魚臭発現阻止は非現実的との観点から、本発明では、製品化の過程および製品の保存期間中における酸化の進行が官能評価的に異臭発現が気にならないレベル以内に保持されることを技術的課題としている。
更に、上記技術的課題の解決のために、本発明ではまた、ω3系高度不飽和脂肪酸のエチルエステルの食品分野での用途拡大を容易にするため、抗酸化性に優れた粉末である高度不飽和脂肪酸エチルエステル含有組成物及び該組成物を含有する食品を提供する。
抗酸化性に優れた粉末である高度不飽和脂肪酸エチルエステル含有組成物及び該組成物を含有する食品の提供により課題の解決を図る。
本発明者らは、溶存酸素量が1mg/L以下であって、過酸化物価3以下かつ酸価1以下かつアニシジン価5以下である高度不飽和脂肪酸エステル(例えば、ω3系高度不飽和脂肪酸のエチルエステル)を提供することよって、上記課題を解決した。
本発明はまた、例えば、以下を提供する:
(項目1)
高度不飽和脂肪酸または高度不飽和脂肪酸エステルを含む組成物であって、該組成物は、溶存酸素量が1mg/L以下であり、過酸化物価が3以下であり、酸価が1以下であり、かつ、アニシジン価が5以下である、組成物。
(項目2)
さらに、抗酸化剤を含む、項目1に記載の組成物。
(項目3)
さらに、乳化剤を含む、項目1または2に記載の組成物。
(項目4)
前記抗酸化剤が、大豆リン脂質、ビタミンE、およびアスコルビン酸パルミテートからなる群から選択される、項目2に記載の組成物。
(項目5)
前記乳化剤が、卵黄および卵白からなる群から選択される、項目3に記載の組成物。
(項目6)
水分含量が5wt%以下の噴霧乾燥物である、項目1に記載の組成物。
(項目7)
項目1に記載の組成物を含む、食品。
(項目8)
α-リノレン酸、ステアリドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸からなる群から選択される高度不飽和脂肪酸のエステルを40wt%~99wt%含有する、項目1に記載の組成物。
(項目9)
前記組成物中の高度不飽和脂肪酸エステルの総含有量が20wt%~60wt%である、項目1に記載の組成物。
(項目10)
前記高度不飽和脂肪酸または高度不飽和脂肪酸エステルが、吸着剤処理された高度不飽和脂肪酸または高度不飽和脂肪酸エステルである、項目1に記載の組成物。
(項目11)
項目1に記載の組成物を固形物換算で、5wt%~50wt%含む食品。
(項目12)
パン類、麺類、菓子類、植物等油脂食品類、大豆たんぱく食品、味噌、乳製品、肉製品、卵製品、魚肉練り製品、および、インスタント食品からなる群から選択される、項目11に記載の食品。
本発明はまた、例えば、溶存酸素量が1mg/L以下であって、過酸化物価3以下かつ酸価1以下かつアニシジン価5以下である高度不飽和脂肪酸エステル(例えば、ω3系高度不飽和脂肪酸のエチルエステル)と、大豆リン脂質及びビタミンE及びアスコルビン酸パルミテートを含む混合物と卵黄の乳化混合物に、更に、卵白を加えて均質化した組成物を噴霧乾燥法により乾燥し、水分含量を5wt%以下に調整した粉末であることを特徴とするω3系高度不飽和脂肪酸エチルエステル含有組成物並びに該組成物を含有する食品を提供する。
(用語の定義)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
本明細書において使用される用語「高度不飽和脂肪酸」とは、炭素数が16以上、かつ分子内に二重結合を2個以上有した不飽和脂肪酸を意味し、代表的には、ドコサヘキサエン酸(DHA)などのオメガ3系脂肪酸のエチルエステルが挙げられる。高度不飽和脂肪酸としては、例えば、ドコサヘキサエン酸(C22:6、DHA)、エイコサペンタエン酸(C20:5、EPA)、アラキドン酸(C20:4、AA)、ドコサペンタエン酸(C22:5、DPA)、ステアリドン酸(C18:4、SDA)、α-リノレン酸(C18:3、ALA)、リノール酸(C18:2)等が挙げられるがこれらに限定されない。本発明の取得方法で得られる高度不飽和脂肪酸の誘導体とは、脂肪酸が遊離型でないものをいい、例えば、高度不飽和脂肪酸のメチルエステル、エチルエステル等のエステル型誘導体、アミド、メチルアミド等のアミド型誘導体、脂肪アルコール型誘導体、トリグリセライド、ジグリセライド、モノグリセライド等が挙げられるがこれらに限定されない。好ましくは、本発明の精製方法の目的物質は、ドコサペンタエン酸、エイコサペンタエン酸、および、ドコサヘキサエン酸、ならびに、それらの低級アルコール(例えば、メタノールおよびエタノール)とのエチルエステルからなる群から選択されるエチルエステルである。好ましくは、本発明の高度不飽和脂肪酸または高度不飽和脂肪酸エステルは、最終精製オイル中で50wt%~95wt%含まれる。
本明細書において使用される用語「酸価」とは、脂肪酸に含まれているカルボン酸の指標であり、試料1g中に含まれている遊離脂肪酸を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数をいう。酸価の測定法は、2003年版基準油脂分析試験法((社)日本油化学会編纂)に記載されるとおりである。
本明細書において使用される用語「過酸化物価」は「酸価」とは直接的には関係しない。過酸化物価とは、「POV」と互換可能に使用され、油脂の自動酸化の初期に生じる一次生成物である過酸化物の量を表す。混合物(原料油脂)に過酸化物が存在する場合、過酸化物は不安定なため、分解しアルデヒドを生成する。アルデヒドは、一般的に毒性があるため、アルデヒドの発生を抑えることも重要である。「過酸化物価(POV)」は、ヨウ化カリウムを試料と反応させ、油脂中のヒドロペルオキシドによってヨウ化カリウムから遊離するヨウ素を滴定することにより測定することができる。より詳細には、2003年版基準油脂分析試験法((社)日本油化学会編纂)に記載されるとおりである。
本明細書において使用される用語「抗酸化剤」とは、生体内、食品、日用品、工業原料において酸素が関与する有害な反応を減弱もしくは除去する物質をいう。代表的には、抗酸化剤としては、トコフェロール、アスコルビン酸パルミテート、レシチン、カテキン、および、ローズマリー抽出物、ならびに、ブチルヒドロキシトルエンが挙げられるがこれらに限定されない。
本明細書で用いる脂肪酸組成分析法の測定法は、周知であり、例えば、2003年版基準油脂分析試験法((社)日本油化学会編纂)に記載されるとおりである。
本明細書において使用される用語「真空精密蒸留法」とは、各成分の沸点差を利用して分離する方法をいう。例えば、EPAの場合、EPAを含む炭素鎖数が20の成分は魚油脂肪酸の中で中間の沸点に位置しており、バッチ式の場合、単塔式蒸留装置を用いる事が、連続蒸留の場合、二塔式装置ないしは四塔式装置が必要となる。二塔式であればC19以下の成分(初留)を留出させ、その残留分を第二塔に送りC20成分を(主留)を分取することにより精製を行う。
本明細書において使用される用語「固定層クロマトグラフィー法」とは、カラムに充填剤を詰め、原料を溶離液で通過させることにより目的の成分を含む画分を取り出し、濃縮・精製する方法をいう。好ましい充填剤としては、シリカゲル、逆相シリカゲル、硝酸銀含浸シリカゲルが挙げられるがこの限りではない。
本明細書において使用される用語「SMBクロマトグラフィー」とは、液体クロマトグラフィーの原理を利用する分離法であって、原料中の特定の成分と、別の特定の成分に対して異なる選択的吸着能力を有する吸着剤が充填された複数の単位充填層を直列に連結するとともに、最下流部の単位充填層と最上流部の単位充填層とを連結し、無端状の循環系を形成した移動層を用いるクロマトグラフィーをいう。本願明細書において、「SMBクロマトグラフィー」は、「擬似移動層クロマトグラフィー」と互換可能に使用される。
本明細書において使用される用語「ウィンタリング処理」とは、「脱ろう」と互換可能に使用され、油脂を指定した低温に長時間保って融点の高い油脂(例えば、グリセリドまたはアシルグリセロール)を析出される処理をいう。
本発明において使用される吸着剤としては、例えば、活性炭、活性白土、酸性白土、ケイ酸(シリカ)、シリカゲル、アルミナ、酸化マグネシウムなどの吸着剤から選ばれる1種類以上の組み合わせが挙げられるがこれらに限定されない。吸着剤処理によって、濃縮精製されたEPAエチルエステルおよびDHAエチルエステルのような不飽和脂肪酸エチルエステルは、精製中に発生した脂質の過酸化物、着色成分、原料由来の異物などの不純物を含むため、周知の手法に基づき活性炭、活性白土、酸性白土、ケイ酸(シリカ)、シリカゲル、アルミナ、酸化マグネシウムなどの吸着剤から選ばれる1種類以上の組み合わせにより吸着剤処理される。例えば、吸着剤処理によって、POVを3以下、望ましくは1以下とすることができる(すなわち、脂質の過酸化物を含む不純物を除去することによって、POVを低下させることができる)。
本明細書において使用される用語「アニシジン価」とは、カルボニル化合物を比色定量する方法をいう。発色にp-アニシジンを用いる。操作がカルボニル価(CV)よりも簡便であるため、フライ油の劣化度評価法として、EU諸国において使用されている。ただし、発色の強度がカルボニル化合物の種類(二重結合の有無や炭素数)によって異なるため、脂肪酸組成が異なる油脂同士を比較することはできない。
本明細書において使用される用語「エステル化」とは、脂肪酸を低級アルコール存在下でエステル化する反応をいう。脂肪酸をエステル化する方法は、当該分野で周知である。例えば、酸触媒存在下で低級アルコールを用いて脂肪酸をエステル化する方法は酸触媒法として周知であり、アルカリ触媒存在下で低級アルコールを用いて脂肪酸をエステル化する方法はアルカリ触媒法として周知である(日本油化学会編、第4版油脂化学便覧、丸善(東京)、2001年、454~456頁; 岡原光男他編、加水分解、エステル化およびエステル交換、改定3版油脂化学便覧(日本油化学会編)、丸善(東京) 388-389(1990))。また、リパーゼのような酵素を用いる脂肪酸のエチルエステル化もまた酵素法として周知である(特開2006-288228号)。本発明においては、必要に応じて2つ以上のエステル化法を組み合わせてもよい。好ましくは、酸触媒法または酵素法によって最初のエステル化を行った後に、アルカリ触媒法によるエステル化を行う。エタノールを利用したエステル化をエチルエステル化という。
本明細書において使用される用語「抗酸化剤」とは、酸化を防止および/または抑制す
る任意の物質をいう。本発明の抗酸化剤は、好ましくは、製造工程中あるいは製品保管中における酸化の進行に伴う魚油に特有の生臭い不快な魚臭様の異臭などの発現を気にならないレベル以内に保持することが可能である。
抗酸化剤としてはビタミンEとそのシナージストとして大豆リン脂質及びアスコルビン酸パルミテートが挙げられるがこれらに限定されない。ビタミンEは合成ビタミンE(dl-α-トコフェロール)、天然ビタミンE(d-α-トコフェロール)の他、天然のα-、β-、γ-、δ-トコフェロールの混合品(ミックストコフェロール)も利用可能であるが、経済性、価格に対する抗酸化力の活性比較から勘案して、ミックストコフェロールが最も好ましい。添加量はω3系高度不飽和脂肪酸エチルエステルに対して0.01~3wt%が望ましいが、経済性を考慮した時、0.05~1.0wt%が最も望ましい。
大豆リン脂質は通常リン脂質を60wt%程度含有するペースト(液状)製品とリン脂質を95%wt%程度含有する粉末製品が知られている。また、大豆リン脂質を構成する主要な成分であるホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトールなどの何れかを濃縮精製した分画製品も知られている。本発明に於いてはペースト(液状)製品、粉末製品とも利用可能である。分画製品の場合はホスファチジルコリン及びホスファチジルエタノールアミンが利用可能である。いずれの場合も、製品の形状に関わらず、リン脂質分としての添加量はω3系高度不飽和脂肪酸エチルエステルに対して0.1~10wt%が望ましいが、リン脂質添加に伴う官能評価的な品質の低下を考慮した時、1~8.0wt%が最も望ましい。大豆リン脂質を用いた時、本発明で用いる卵黄に含まれるリン脂質との相乗的な有効性も期待される。
アスコルビン酸パルミテートはビタミンEとの相乗的な抗酸化作用が期待されるため、本発明に於いては、添加量はω3系高度不飽和脂肪酸エチルエステルに対して0.01~1wt%が望ましいが、油脂に対する溶解度を考慮した時、0.05~0.1wt%が最も望ましい。
本明細書において使用される用語「乳化剤」とは、高度不飽和脂肪酸または高度不飽和脂肪酸エステルを乳化する任意の物質をいう。本発明の乳化剤としては、例えば、卵黄および/または卵白などの鶏卵品が挙げられるがこれらに限定されない。
本発明によって、製品化の過程および製品の保存期間中における酸化の進行を妨げるおよび/または遅らせることが可能となる。例えば、本発明にしたがって、製品化の過程および製品の保存期間中における酸化の進行を官能評価的に異臭発現が気にならないレベル以内に保持する技術が提供される。
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。また、本明細書において「wt%」は、「質量パーセント濃度」と互換可能に使用される。
(高度不飽和脂肪酸エステルの調製)
本発明の高度不飽和脂肪酸エステルは複数種類脂肪酸エステルの混合物であるため、一般に、真空精密蒸留法、分子蒸留法、クロマト法、尿素付加法、硝酸銀錯体法、低温溶媒分別結晶法などの手法を1種類以上組み合わせて精製し、目的とするω3系脂肪酸を少なくとも95wt%以上含む混合物を取得することが出来る(特許文献8)。当然のことながら、これらの精製法そのものは例示の為であって本発明の目的ではないため、エステル化法、濃縮精製法そのものは限定されない。
一般に、高度不飽和脂肪酸含有量が多くヨウ素価も高いエイ肝油やイカ肝油などの魚油は溶存酸素量は其々1.4mg/L、5.7mg/Lであり、通常の植物油、例えば大豆油の溶存酸素量7.6mg/Lよりも低いとされている(非特許文献4、特許文献9)。これは高度不飽和脂肪酸を多く含む魚油はその酸化に伴う酸素の消費速度が植物油より大きく、空気中からの酸素の溶解速度を上回っているためであると理解される。本発明においては不飽和度の高いω3系高度不飽和脂肪酸エチルエステルを用いるため、大半の溶存酸素は過酸化物、あるいはその分解物として存在していると推定される。
ω3系高度不飽和脂肪酸エチルエステルは未加工の原料油脂の段階からエチルエステル化されるまでの過程で大量の溶存酸素を吸収し、過酸化物やその分解物となって存在しており、後の粉末化工程や保存期間中に魚油に特有の生臭い不快な異臭などの発現の原因となる。従って、溶存酸素を吸収して過酸化物やその分解物となったω3系高度不飽和脂肪酸エチルエステルを活性炭、活性白土、酸性白土、シリカゲル、フロリジルなどの吸着剤による処理(非特許文献5、特許文献11)、分子蒸留などの物理的な処理(特許文献10)、クロマト法による処理(非特許文献5)などで予め除去しておくことが重要であるが、本発明に於いてはその除去方法そのものは制限はないため限定されないが、簡便さ、有効性の高さから見て吸着剤による処理が好ましい。また、吸着剤処理工程は本発明における抗酸化剤混合工程までのいずれの段階に挿入しても良いし、複数回実施してもよい。
また、過酸化脂質及びその分解物の検出は、本発明では先述のいずれの方法も利用可能であるが、例えば、シリカゲル60PF254TLCプレート(Merk社、0.25mm厚さ)を用いる薄層クロマトグラフィー(TLC)法(非特許文献5)が精度の高さ、簡便さの観点から好ましい。
(エステル化反応)
不飽和脂肪酸のエステル化反応は周知であり、代表的には、酸触媒下でのエステル化反応、アルカリ触媒下でのエステル化反応、および、酵素存在下でのエステル化反応が挙げられるがこれらに限定されない。
またエステル化反応は、必要に応じてこれらエステル化反応の2つ以上を組み合わせて行ってもよい。好ましくは、酸触媒法または酵素法によって最初のエステル化を行った後に、アルカリ触媒法によるエステル化を行う。
本発明の高度不飽和脂肪酸は食品用途を前提としているためエチルエステル体が望ましい。
(酸触媒下でのエステル化反応)
酸触媒下での低級アルコールによる不飽和脂肪酸のエステル化反応には、周知の反応条件を利用することができる。代表的には、反応条件は、70~80℃での5時間程度の撹拌である。
(アルカリ触媒下でのエステル化反応)
アルカリ触媒下で低級アルコールによる不飽和脂肪酸のエステル化反応には、周知の反応条件を利用することができる。代表的には、反応条件は、70~80℃での1時間程度の撹拌である。
(酵素存在下でのエステル化反応)
酵素処理に際しては、反応時間、温度などに制限はない。当業者は、例えば、特開2002-69475号公報、特開2013-5589号公報、および、特開2013-121366号公報などに記載される周知の条件を利用することができる。酵素反応の進行はAV測定により管理できる。出発原料の種類、EPA純度、DHA純度など目標としている製品の品質により反応を停止するべきAVは任意に設定できるが、一般に、30~130の範囲、望ましくは70~100の範囲で反応を停止する。
(エステル化反応の組み合わせ)
エステル化反応は、必要に応じて任意の2つ以上のエステル化反応を任意の順番で組み合わせて行ってもよい。本願の発明者らは酸価が高い高度不飽和脂肪酸を含む原料(特に、酸価が10以上)に対してアルカリ触媒法によるエステル化を行った場合に、高度不飽和脂肪酸の鹸化が生じ、その後の反応が適切に進まないことを見出した。それゆえ、酸価が高い原料では、好ましくは、酸触媒法または酵素法によって最初のエステル化を行った後に、アルカリ触媒法によるエステル化を行う。
エステル化反応を組み合わせる場合、好ましくは、最初のエステル化反応に用いた低級アルコールを除去する。除去方法としては、例えば、蒸発が挙げられるがこれに限定されない。低級アルコール除去後に得られる油層は、必要に応じて水性溶媒(例えば、水、湯、緩衝液が挙げられるがこれらに限定されない)で洗浄される。この洗浄は必要に応じて(例えば、pHが中性になるまで)繰り返され、その後、次のエステル化反応に供される。
(溶存酸素の測定法)
油脂中の溶存酸素の測定は、周知の手法によって可能である。エチルエステル混合物中の溶存酸素の測定方法において使用する測定器等に関しては何らの制限も無いが、例えば、特許文献8に準じて、溶存酸素量測定装置(蛍光式溶存酸素計FOM-1000、株式会社オートマチックシステムリサーチ製)を用いて測定できる。
(溶存酸素の低減法)
溶存酸素を低減することによる保存安定性向上を目指す技術が公知となっている。すなわち、油脂へのハイドロキノン添加による溶存酸素の低減化(非特許文献4)、油脂中の酸素を含む溶存気体を二酸化炭素置換することによる風味改善方法(特許文献8)、窒素ガス置換によるマヨネーズなどの水中油型乳化物中の溶存酸素低減化と品質の劣化防止に関する方法(特許文献9)などが公知であり有効性が明らかとなっている。
特許文献8に記載の溶存酸素低減法は、油脂組成物中の溶存気体を油脂組成物中の二酸化炭素以外の気体の溶存量が特定の範囲になるまで二酸化炭素で置換(例えば、8.5mL/分程度でのバブリングによる置換)する方法である。
特許文献9に記載の溶存酸素低減法は、対象となる組成物を樹脂製容器に充填するに際し、組成物中の溶存酸素量をある一定の濃度範囲まで減じ、かつ樹脂製容器の酸素透過度を特定値以下とし、さらに樹脂製容器に組成物を充填する際には予め容器内を窒素等の不活性ガスで置換しておくことにより、保存中の酸化による劣化を低減する方法である。
高度不飽和脂肪酸(例えば、高度不飽和脂肪酸エチルエステル)を含む溶液中の溶存酸素は例えば窒素バブリング法によって低減化可能である。窒素以外に、二酸化炭素、アルゴンなどの不活性ガスによる置換法も達成できるが、本発明に於いては、溶存酸素の低減化方法そのものは制限されない(特許文献7)。
本発明者らは高度不飽和脂肪酸エチルエステル中の溶存酸素が1mg/Lを超える場合に、後の粉末化工程や保存期間中に魚油に特有の生臭い不快な異臭などの発現の原因となることを確認したため、本発明に於いては、ω3系高度不飽和脂肪酸エチルエステル中の溶存酸素を1mg/L以下に制限している。下限は設定していないが、少ない方が高品質であることは言うまでもない。そのため、本発明の高度不飽和脂肪酸または高度不飽和脂肪酸エステルを含む組成物の溶存酸素量は、好ましくは、1mg/L以下、0.8mg/L以下、0.6mg/L以下、0.4mg/L以下、0.2mg/L以下、0.1mg/L以下である。
(過酸化物価の低減法)
過酸化脂質やその分解物の除去によって過酸化物価の低減が可能である。過酸化脂質やその分解物の除去法は多数公知となっている。例えば、分子蒸留法(特許文献10および特開2000-342291号公報)、吸着剤処理法(特許文献2、特許文献11、特許文献12、特許文献13)などが知られており、本発明に於いては何れの方法も利用可能である。実験的にはフロリジル(100/200メッシュ)カラムを用いた過酸化脂質の除去法が知られている(非特許文献5)。
分子蒸留法は、例えば、遠心式分子蒸留法、又は、流下薄膜式分子蒸留法によって行うことが出来る。例えば、流下薄膜式分子蒸留の場合、特開2000-342291号公報に記載されるように、真空度0.005mmHg、蒸発面温度200℃、流速30g/Lの条件で処理を行い、留分として遊離脂肪酸画分、残分としてグリセリド画分を取得できる。流下薄膜式分子蒸留の場合、分子蒸留操作における真空度、蒸発面温度、および/または、フィード量は、装置の型式、原料油の違いにより当業者が適宜変更することができる。
吸着剤処理によって過酸化脂質やその分解物を除去することも可能である。本発明において使用する吸着剤としては、例えば、酸性白土、活性白土、活性炭、ケイ酸、および、アルミナが挙げられるがこれらに限定されない。好ましくは、吸着剤は、活性白土またはシリカゲルである。活性白土は、好ましくは、脱ガスし、窒素置換した活性白土であって、活性白土の添加量は、生成物重量の1~20wt%である。
(酸価の低減法)
該エチルエステル混合物は高度不飽和脂肪酸含有量が多いため、エステル化反応後の各工程を経る過程または保存期間中にエチル基が外れて遊離体となり易い。生成した微量の遊離脂肪酸は酸化速度が大きいため官能評価上の品質の劣化を招くだけでなく、酸価の上昇を伴うため除くことが必要である。酸価低減法としては上記過酸化物の低減方法と同様に、分子蒸留などの物理的手段、吸着剤処理などが有効であるがこれらに限定されない。
(アニシジン価の低減法)
アニシジン価は主に油脂加工工程中に精製したアルデヒド性熱変性物に由来するとされ、官能評価上も重要な指標である。アニシジン価低減法としては上記過酸化物、酸価の低減方法と同様に、分子蒸留などの物理的手段、吸着剤処理などが有効であるがこれらに限定されない。
(過酸化物価、酸価、および、アニシジン価の低減法)
本発明において必要とされる過酸化物価、酸価、および、アニシジン価の低減法は、例えば、単一の方法において同時に実施することも可能である。例えば、脱ガム処理・脱酸処理(小野哲夫・太田静行、題名「食用油脂製造技術」、株式会社ビジネスセンター社(1991)、東京)の単一の方法によって同時に実施することも可能である。
(乳化)
本発明に於いては卵黄および/または卵白のような鶏卵品を乳化剤として使用すること
ができる。卵黄は栄養学的にも優れた食品素材であるだけでなく、優れた乳化特性を有し、約50wt%の水分を含む。本発明に於いては、代表的には、溶存酸素量が1mg/L以下であって、過酸化物価3以下かつ酸価1以下かつアニシジン価5以下であって、かつ、吸着剤処理によって過酸化物を除去したω3系高度不飽和脂肪酸のエチルエステルと、大豆リン脂質及びビタミンE及びアスコルビン酸パルミテートを含む混合物に対し、卵黄を重量換算比で0.1~10倍量、すなわち、乾燥品換算では0.05~5倍量混合することが出来るが、製品であるω3系高度不飽和脂肪酸エチルエステル含有組成物中のω3系高度不飽和脂肪酸エチルエステルの割合を最終的に20wt%~50wt%に調整するためには、目的とするω3系高度不飽和脂肪酸のエチルエステルの純度、共存する他のω3系高度不飽和脂肪酸のエチルエステルの含量、抗酸化剤使用量、卵黄、卵白、賦形剤等の配合量などにより変化するため、都度調整する必要があることは当然である。
この混合物は乳化機、例えば高速ホモジナイザーを用いて乳化混合できる。高速ホモジナイザーの機種の限定は無いが、ポリトロン(株式会社セントラル科学貿易)やヒスコトロン(株式会社マイクロテック・ニチオン)などが利用できる。乳化時間、乳化温度、回転速度などは機種やスケールによっても異なり、また、混合物の組成によっても都度異なるため本発明では制限はないが、実験室スケールでは氷冷下、5000~30000回転/分で5~10分間程度の乳化混合が適切である。
本発明に於いては、上記乳化混合物に卵白を加えて高速撹拌処理を行う。卵白はアルブミンを主成分としているため、脂溶性成分と複合体を形成するだけでなく、乾燥工程を経た後に流動性に優れた粉末とするために有用である。卵白は通常10~13wt%の固形分と87~90wt%の水分から構成されているが、本発明では卵白の固形分含量を12wt%と仮定した時、ω3系高度不飽和脂肪酸のエチルエステル、大豆リン脂質、ビタミンE、アスコルビン酸パルミテートと卵黄から成る上記乳化混合物に対して重量換算比で1~20倍量、すなわち、乾燥品換算では0.12~2.4倍量混合することが出来るが、製品であるω3系高度不飽和脂肪酸エチルエステル含有組成物中のω3系高度不飽和脂肪酸エチルエステルの割合を最終的に20wt%~50wt%に調整するためには、卵白配合量を都度調整する必要がある。この混合物は高速攪拌機、例えば高速ホモジナイザーを用いて撹拌混合できる。高速ホモジナイザーの機種の限定は無いが、ポリトロン(株式会社セントラル科学貿易)やヒスコトロン(株式会社マイクロテック・ニチオン)などが利用できる。撹拌時間、撹拌温度、回転速度などは機種やスケールによっても異なり、また、混合物の組成によっても都度異なるため本発明では制限はないが、実験室スケールでは氷冷下、5000~30000回転/分で5~10分間程度の混合が適切である。
卵白を混合する上記高速撹拌工程においては、乾燥工程を経た後の最終的な粉末製品の粉末としての流動性、ブロッキング性などの性状改善、酸化安定性の更なる向上を目的として適時、賦形剤を同時に、又は、粉末化工程までに添加混合することが出来る。賦形剤としては例えば、デキストリン、アラビアガム、ゼラチン、寒天、澱粉、ペクチン、カラギーナン、カゼイン、カードラン、アルギン酸類、大豆多糖類、プルラン、セルロース類、キサンタイガム、等々が挙げられるが、本発明では賦形剤の添加の有無は必要な要件ではない。添加量はω3系高度不飽和脂肪酸エチルエステル含有組成物中のω3系高度不飽和脂肪酸エチルエステルの割合を最終的に20wt%~50wt%に調整するためには、賦形剤を重量換算比で都度調整する必要がある。
新たな溶存酸素の混入防止や混合工程中における空気の混入を防止するため、卵黄、卵白を混合する上記高速撹拌工程は、当然のことながら窒素ガス、アルゴン、二酸化炭素などの不活性ガス環境下で操作されることが望ましい。
以上の工程で取得されたω3系高度不飽和脂肪酸エチルエステルと抗酸化剤と卵黄と卵白と賦形剤の混合乳化物は、乾燥工程を経て水分含量6wt%以下の粉末体であるω3系高度不飽和脂肪酸エチルエステル含有組成物とする。本発明に於いては製品中の水分量の下限は定義していないが、通常は2wt%以上と見込まれる。乾燥方法としては、噴霧乾燥法、凍結乾燥法を用いることが出来るが、本発明に於いては噴霧乾燥法が望ましい。本発明に於いては、噴霧乾燥法はマイクロカプセル化技術として位置づけている(竹中秀雄、題名「マイクロカプセル化法としての噴霧乾燥法の最近の進歩」、岐阜薬科大学紀要32、1-14(1983-06-03))。すなわち、芯物質は主にω3系高度不飽和脂肪酸エチルエステルと抗酸化剤、壁物質は主に卵白のような乳化剤および賦形剤から構成される。卵黄成分中の脂溶性物質は主に芯物質側に、水溶性物質は壁物質側に分布するが、乳化剤としての特性からカプセル構造の維持にも関与している。
(粉末化)
本発明の組成物の粉末化には、噴霧乾燥法などの周知の種々の方法を用いることができる。噴霧乾燥法による粉末組成物の製造に際して、噴霧乾燥機の入り口温度、出口温度、送液量などは、原液の物性、混合物の内容、設備操作上の制約等により変動するため、本発明に於いては制限していない。
以上の工程で調製されたω3系高度不飽和脂肪酸エチルエステル含有組成物はそのまま常温保管しておいても良いし、例えば脱酸素剤存在下にガスバリヤー性の高い包材中に保管しても良いし、冷蔵、冷凍保存しても良いが、例えば6カ月以上の長期間保存が必要な場合には脱酸素剤存在下にガスバリヤー性の高い包材中で冷凍保存する方が良いことは当然である。
ω3系高度不飽和脂肪酸エチルエステル含有組成物は混合が物理的に許容される全ての食品へ添加可能であるが、一般には、「食料工業」(藤巻正生・三浦洋・大塚謙一・川端俊治・木村進 編、恒星社厚生閣(1985))に記載され定義されているパン類、麺類、菓子類、植物等油脂食品類、大豆たんぱく食品、味噌、乳製品、肉製品、卵製品、魚肉練り製品、インスタント食品への添加が可能である。本発明は前出の「マイクロカプセル化法としての噴霧乾燥法の最近の進歩」に定義されている食品の分類に基づく。
(食品への応用)
食品への利用に際して、ω3系高度不飽和脂肪酸エチルエステル含有組成物に含まれる卵黄、卵白中のたんぱく質の熱変性を伴う場合、特異的な食感を得ることが出来ることも本発明の特徴である。また、食品への使用に際しては都度マスキングフレーバーの使用が可能であることは言うまでもない。
本発明の組成物は、食品中に1wt%以上、2wt%以上、3wt%以上、4wt%以上、5wt%以上、6wt%以上、7wt%以上、8wt%以上、9wt%以上、10wt%以上、15wt%以上、20wt%以上、30wt%以上含まれる。また本発明の組成物は、食品中に90wt%以下、80wt%以下、70wt%以下、65wt%以下、60wt%以下、55wt%以下、55wt%以下、50wt%以下、40wt%以下、30wt%以下含まれる。例えば、本発明の組成物は、食品中に1wt%~70wt%、2wt%~65wt%、3wt%~60wt%、4wt%~55wt%、5wt%~50wt%、7wt%~40wt%、または、10wt%~30wt%含まれる。
本発明の食品は特に限定されることはないが、例えば、パン類、麺類、菓子類、植物等油脂食品類、大豆たんぱく食品、味噌、乳製品、肉製品、卵製品、魚肉練り製品、および/または、インスタント食品が挙げられるがこれらに限定されない。
(本発明の高度不飽和脂肪酸または高度不飽和脂肪酸エステル)
本発明の高度不飽和脂肪酸または高度不飽和脂肪酸エステルを含む組成物の過酸化物価は、3以下、2以下、1以下、0.5以下、0.2以下、0.1以下であるが、これらに限定されない。
本発明の高度不飽和脂肪酸または高度不飽和脂肪酸エステルを含む組成物の酸価は、1以下、0.8以下、0.6以下、0.4以下、0.2以下、0.1以下であるが、これらに限定されない。
本発明の高度不飽和脂肪酸または高度不飽和脂肪酸エステルを含む組成物のアニシジン価は、5以下、4以下、3以下、2以下、1以下、0.5以下、0.2以下、0.1以下であるが、これらに限定されない。
本発明の高度不飽和脂肪酸または高度不飽和脂肪酸エステルを含む組成物は、代表的には、溶存酸素量が1mg/L以下であって、過酸化物価3以下かつ酸価1以下かつアニシジン価5以下である。好ましくは、本発明の組成物は抗酸化剤および/または乳化剤を含
む。好ましくは、本発明の組成物は粉末製品として提供される。
以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、以下の実施例は、例示の目的のみに提供される。従って、本発明の範囲は、上記発明の詳細な説明にも下記実施例にも限定されるものではなく、請求の範囲によってのみ限定される。
(実施例1:過酸化物の除去と溶存酸素除去)
DHA純度25.5wt%のカツオ原料油(鹿児島県枕崎産)900gに99%エタノール600mL、濃硫酸62.5gを加え、70~80℃で5時間撹拌した。撹拌後、真空度0.1MPa、蒸発面温度100℃下でエタノールを除去した。その後、油層を約150mLの湯で洗浄し、洗浄湯のpHが2以上になるまで繰り返した。その後、加圧濾過により不純物を除去した。加圧濾過後、アルカリアルコール(事前に水酸化ナトリウム4.5gを60%エタノール180mLに溶解したもの)を加え、70~80℃で1時間撹拌した。撹拌後、油層を約150mLの湯で洗浄し、洗浄湯のpHが7以下になるまで繰り返した。その後、真空度0.1MPa、蒸発面温度100℃下で溶媒を除去した。その結果、エチルエステル860gを得た。続けて、上記粗脂肪酸エチルエステル800gを遠心式分子蒸留法により、真空度1.5Pa、蒸発面温度180℃で処理し、脂肪酸エチルエステル760gを留分として取得し、脂肪酸の過酸化物の一部や未反応の脂肪酸等を含む不純物画分は分子蒸留残分側に蒸留残分として分離した。上記脂肪酸エチルエステル760gは真空精密蒸留法と高速液体クロマトグラフィーを用いる方法(特許文献4)と銀錯体法(特願2015-111793)を用いて、DHA純度90wt%のエチルエステル混合物110gを取得した。
上記エチルエステル混合物100gは過酸化物価(POV)4.4、AV0.1、アニシジン価2.6であって、シリカゲル薄層クロマトグラフィー(TLC)で中性脂質用展開溶媒(n-ヘキサン/ジエチルエーテル/酢酸=85/15/1)を用いて定性的に確認したところ、原点付近に過酸化物の存在が認められた。また、シリカゲル60PF254TLCプレート(Merk社、0.25mm厚さ)を用いる薄層クロマトグラフィー(TLC)法(非特許文献5)で検定した時、過酸化物又はその分解物に相当するスポットが検出された。
エチルエステル混合物95gはフロリジル(100/200mesh)カラムにてn-ヘキサンで溶出させ、過酸化物をフロジリルに吸着除去し、溶出物からヘキサンを窒素ガス気流化で減圧除去した。続けて、シリカゲル(Merk社、シリカゲル60)カラムにて同様に処理し、製品80gを得た。
続けて、上記脂肪酸エチルエステル80gを窒素バブリング法(特許文献9、特開2005-110674)により脱酸素処理し、このものに脱気処理済n-ヘキサン0.4L、脱気処理済活性白土4g、脱気処理済シリカゲル2gを添加して室温遮光下にて窒素ガス環境下で30分間撹拌し、脂肪酸エチルエステル画分を含むヘキサン層を濾別した後、n-ヘキサンを真空エバポレーターにて除去し、再度窒素バブリング法に依り残余の微量溶存酸素並びにn-ヘキサンを除去した。
得られた製品70gの溶存酸素濃度は溶存酸素量測定装置(蛍光式溶存酸素計FDM-1000、株式会社オートマチックシステムリサーチ製)で測定した時0.3mg/Lであって、過酸化物価(POV)0.1、AV0.1、アニシジン価1.0であって、シリカゲル薄層クロマトグラフィー(TLC)で中性脂質用展開溶媒(n-ヘキサン/ジエチルエーテル/酢酸=85/15/1)にて定性的に確認したところ、原点付近に過酸化物の存在が認められなかった。更に、シリカゲル60PF254TLCプレート(Merk社、0.25mm厚さ)を用いる薄層クロマトグラフィー(TLC)法で検定した時、過酸化物およびその分解物に相当するスポットは確認されなかった。また、シリカゲル60PF254TLCプレート(Merk社、0.25mm厚さ)を用いる薄層クロマトグラフィー(TLC)法(非特許文献5)で検定した時、過酸化物又はその分解物に相当するスポットは検出されなかった。
(実施例2:抗酸化剤混合と乳化と粉末化)
実施例1の方法で調製したDHA純度90wt%の脂肪酸エチルエステル混合物100
gに対し、ミックストコフェロール(商品名:理研Eオイル、理研ビタミン株式会社)0.3g、大豆レシチン(商品名:SLP-ペースト、辻製油株式会社)3.0g、アスコルビン酸パルミテート(商品名:L-アスコルビン酸パルミチン酸エステル、ディー・エス・エム ジャパン株式会社)0.05gを混合し、窒素ガスバブリング下3時間撹拌し溶解させ、抗酸化剤含有脂肪酸エチルエステル混合物を得た。この混合物の溶存酸素濃度は0.3mg/Lであって、過酸化物価(POV)0.1、AV0.1、アニシジン価1.2であって、シリカゲル薄層クロマトグラフィー(TLC)で中性脂質用展開溶媒(n-ヘキサン/ジエチルエーテル/酢酸=85/15/1)にて定性的に確認したところ、原点付近に過酸化物の存在が認められなかった。
上記抗酸化剤含有脂肪酸エチルエステル混合物100gに対し、卵黄(太陽化学株式会社)200gを混合し、容器のヘッドスペース部分は窒素置換しながら氷冷下ポリトロン(株式会社セントラル科学貿易)にて10000rpmで5分間乳化処理した。続けて、卵白(太陽化学株式会社)400gを加えて氷冷下ポリトロンにて10000rpmで5分間均質化処理し、乾燥前のω3系高度不飽和脂肪酸エチルエステル含有組成物を得た。このものの計算上の固形分量は35.7%(250g)と仮定している。
上記混合物200g(固形分71.4g含む)をスプレードライヤー(GB210型、ヤマト科学株式会社)を用いて噴霧乾燥しω3系高度不飽和脂肪酸エチルエステル含有組成物を得た。噴霧乾燥条件は、入口温度180℃、出口温度100℃、送液量3ml/min、噴霧圧力1.2Kg/cmとした。
得られたω3系高度不飽和脂肪酸エチルエステル含有組成物は43g(固形分回収率60.2%)であって、水分含量は赤外線水分計で測定した時、3.5%であった。
また、この組成物を5名のパネルにより揮発成分の臭いを官能検査した時、全員が魚油に特有の生臭い異臭は感知せず良好と評価した。さらに、この組成物を摂食した時にも全員が魚油に特有の生臭い異臭は感知せず良好と評価した。このことから、大変品質良好なω3系高度不飽和脂肪酸エチルエステル含有組成物が取得できたことが証明された。
得られたω3系高度不飽和脂肪酸エチルエステル含有組成物は使用するまでの期間、ガスバリヤー性の高いアルミ包材に脱酸素剤と共に入れて、-20℃で保管した。
上記工程を繰り返して得られたω3系高度不飽和脂肪酸エチルエステル含有組成物100gからクロロホルム-メタノール法で全脂質72gを抽出した。このものに含まれるDHAエチルエステルは59.5wt%であって、POV1.8、アニシジン価0.9であった。AV、溶存酸素、過酸化物などは大豆レシチンなどの抗酸化剤に由来する成分により影響されるため分析は行わなかった。
以上の結果から、上記ω3系高度不飽和脂肪酸エチルエステル含有組成物中のDHAエチルエステル含量は42.8wt%となった。
(実施例3:賦形剤)
実施例2で得られた乾燥前のω3系高度不飽和脂肪酸エチルエステル含有組成物200gに対して、賦形剤としてデキストリン(商品名:パインフロー、松谷化学工業株式会社)30gと水100mlを加えて、氷冷下ポリトロンにて3000rpmで5分間均質化処理した。このものの計算上の固形分量は30.7%(101g)と仮定している。
上記混合物200g(固形分61.4g含む)を実施例2と同一条件にて噴霧乾燥条した。得られたω3系高度不飽和脂肪酸エチルエステル含有組成物は49g(固形分回収率79.8%)であって、水分含量は赤外線水分計で測定した時、3.5%であった。このことから、賦形剤を用いることにより噴霧乾燥に際しての粉末の流動性が改善され、回収率が向上することが確認された。
また、このものを5名のパネルにより揮発成分の臭いを官能検査した時、全員が魚油に特有の生臭い異臭は感知せず良好と評価した。さらに、このものを摂食した時にも全員が魚油に特有の生臭い異臭は感知せず良好と評価した。このことから、大変品質良好なω3系高度不飽和脂肪酸エチルエステル含有組成物が取得できたことが証明された。得られた上記ω3系高度不飽和脂肪酸エチルエステル含有組成物は使用するまでの期間、ガスバリヤー性の高いアルミ包材に脱酸素剤と共に入れて、-20℃で保管した。
上記工程を繰り返して得られたω3系高度不飽和脂肪酸エチルエステル含有組成物100gからクロロホルム-メタノール法で全脂質50gを抽出した。このものに含まれるDHAエチルエステルは61.0wt%であって、POV1.5、アニシジン価0.6であった。AV、溶存酸素、過酸化物などは大豆レシチンなどの抗酸化剤に由来する成分により影響されるため分析は行わなかった。
以上の結果から、上記ω3系高度不飽和脂肪酸エチルエステル含有組成物中のDHAエチルエステル含量は30.5wt%となった。
(実施例4:うどん)
麺類として、うどんへのω3系高度不飽和脂肪酸エチルエステル含有組成物添加試験を行った。うどん麺は引用文献8(柴田茂久著、4-1 生めん類、乾燥めん類、食料工業、藤巻正生他編、pp59-74(1985)、恒星社厚生閣(東京))及び「新版 てがるにできる加工食品」(峰下雄・津久井亜紀夫 編、pp120-121、建帛社(1991)、東京)に準じて試作した。
原料は小麦中力粉380g、食塩20g、水180mL、打ち粉(適量)とした。すなわち、中力粉380gに180mLの水に溶かした食塩20g、及び、実施例2で調製したω3系高度不飽和脂肪酸エチルエステル含有組成物100g(DHAエチルエステル含量42.8wt%)を加えて混和、圧延、切り出し、煮沸、水洗工程を経てうどんゆで麺を調整した。本実施例に於いては上記うどんの乾物重量は500g、DHAエチルエステル含量は乾物換算で8.6wt%となるように設計したものである。
上記生うどんを市販のうどんの汁に合わせて5名のパネルによって官能検査した。その結果、揮発成分の臭いを官能検査した時、全員が魚油に特有の生臭い異臭は感知せず良好と評価した。さらに、このものを摂食した時にも全員が魚油に特有の生臭い異臭は感知せず良好と評価した。このことから、大変品質良好なω3系高度不飽和脂肪酸エチルエステル含有組成物が取得できたことが証明された。
(実施例5:インスタント味噌汁)
味噌及びインスタント食品へのω3系高度不飽和脂肪酸エチルエステル含有組成物添加試験を行った。即席みそ汁(商品名「あさげ」、株式会社永谷園)1食分のペースト状味噌16.3g(固形分含量40%と仮定)に熱湯160mL、実施例2で調製したω3系高度不飽和脂肪酸エチルエステル含有組成物1g(DHAエチルエステル含量42.8wt%)を加えて混和した。同様に、実施例2で調製したω3系高度不飽和脂肪酸エチルエステル含有組成物2g、3g、4gを加えて混合した試験区も作成し、共に官能検査に供した。
本実施例に於いては上記のペースト状味噌の乾物重量はω3系高度不飽和脂肪酸エチルエステル含有組成物1g加えて混和した区では7.52g、2g加えて混和した区では8.52g、3g加えて混和した区では9.52g、4g加えて混和した区では10.52gであり、ω3系高度不飽和脂肪酸エチルエステル含有組成物の添加量は、それぞれ13.3wt%、23.5wt%、31.5wt%、38.0wt%である。従って、本即席味噌汁一杯に含まれるDHAエチルエステルはそれぞれ、5.7wt%、10.0wt%、13.5wt%、16.3wtである。
その結果として得られた味噌汁から立ち上る揮発成分の臭いを官能検査した時、ω3系高度不飽和脂肪酸エチルエステル含有組成物1g、2g、3gを加えた試験区に関しては、全ての試験区について全員が魚油に特有の生臭い異臭は感知せず良好と評価した。さらに、このものを摂食した時にも全ての試験区について全員が魚油に特有の生臭い異臭は感知せず良好と評価した。このことから、大変品質良好なω3系高度不飽和脂肪酸エチルエステル含有組成物が取得できたことが証明された。
さらに、ω3系高度不飽和脂肪酸エチルエステル含有組成物4gを加えた試験区に関しては、全員が魚臭を感知したが、魚油に特有の生臭い不快な異臭は感知せず良好と評価した。さらに、このものを摂食した時にも全員が魚臭を感知したが、魚油に特有の生臭い異臭は感知せず良好と評価した。このことから、味噌及び即席(インスタント)味噌汁に対して大変品質良好なω3系高度不飽和脂肪酸エチルエステル含有組成物が取得できたことが証明された。
また、味噌汁は本来カツオだし、イリコだしなどの魚介系風味と相性が良いことから、ω3系高度不飽和脂肪酸エチルエステル含有組成物を加えた全ての試験区に関して、全員がブランク(ω3系高度不飽和脂肪酸エチルエステル含有組成物無添加の味噌汁)よりもコクがあっておいしいと評価したことは本発明の特記すべき効果である。
本発明によって、製品化の過程および製品の保存期間中における高度不飽和脂肪酸または高度不飽和脂肪酸エステルの酸化の進行を妨げるおよび/または遅らせることが可能となる。本発明によって、製品化の過程および製品の保存期間中における酸化の進行を官能評価的に異臭発現が気にならないレベル以内に保持する技術が提供される。

Claims (8)

  1. 高度不飽和脂肪酸のトリグリセリドを10wt%以上含む組成物であって、
    ここで、該高度不飽和脂肪酸は、ドコサヘキサエン酸(C22:6、DHA)、エイコサペンタエン酸(C20:5、EPA)、アラキドン酸(C20:4、AA)、ドコサペンタエン酸(C22:5、DPA)、ステアリドン酸(C18:4、SDA)、α-リノレン酸(C18:3、ALA)、および、リノール酸(C18:2)からなる群から選択され、
    該組成物は、溶存酸素量が1mg/L以下であり、過酸化物価が3以下であり、酸価が1以下であり、かつ、アニシジン価が5以下である、組成物。
  2. さらに、抗酸化剤を含む、請求項1に記載の組成物。
  3. さらに、乳化剤を含む、請求項1または2に記載の組成物。
  4. 前記抗酸化剤が、大豆リン脂質、ビタミンE、およびアスコルビン酸パルミテートからなる群から選択される、請求項2に記載の組成物。
  5. 前記乳化剤が、卵黄および卵白からなる群から選択される、請求項3に記載の組成物。
  6. 水分含量が5wt%以下の噴霧乾燥物である、請求項1に記載の組成物。
  7. α-リノレン酸、ステアリドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸、およびドコサヘキサエン酸からなる群から選択される高度不飽和脂肪酸のエステルを40wt%~99wt%含有する、請求項1に記載の組成物。
  8. 前記組成物中の高度不飽和脂肪酸のトリグリセリドの総含有量が20wt%~60wt%である、請求項1に記載の組成物。
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