以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
<1.目的>
本発明の実施形態に係る圧延機と当該圧延機の圧延機の設定方法では、ロール間に発生するスラスト力をなくし、蛇行及びキャンバーのない、あるいは蛇行及びキャンバーが極めて軽微な製品を安定して製造することを目的とする。図1に、被圧延材Sの圧延時において圧延機のロール間に発生するスラスト力及びスラスト反力を説明するための、圧延機の概略側面図及び概略正面図を示す。以下では、図1に示すように、ロール胴長方向の作業側をWS(Work Side)、駆動側をDS(Drive Side)と表す。
図1に示す圧延機は、上作業ロール1及び下作業ロール2とからなる一対の作業ロールと、圧下方向(Z方向)において上作業ロール1を支持する上補強ロール3及び下作業ロール2を支持する下補強ロール4とからなる一対の補強ロールとを有する。作業ロール間に被圧延材Sを通し圧延することで、被圧延材Sの板厚を所定の厚さにする。圧延機には、圧下方向(Z方向)において、被圧延材Sの上面側に配置された上作業ロール1及び上補強ロール3からなる上ロール系に係る圧下方向荷重を検出する上圧下方向荷重検出装置28a、28bと、被圧延材Sの下面側に配置された下作業ロール2及び下補強ロール4からなる下ロール系に係る圧下方向荷重を検出する下圧下方向荷重検出装置29a、29bとが設けられている。上圧下方向荷重検出装置28a及び下圧下方向荷重検出装置29aは、作業側における圧下方向荷重を検出する。上圧下方向荷重検出装置28b及び下圧下方向荷重検出装置29bは、駆動側における圧下方向荷重を検出する。
上作業ロール1、下作業ロール2、上補強ロール3及び下補強ロール4は、被圧延材Sの搬送方向に直交するように、各ロールの胴長方向を平行にして配置される。しかし、圧下方向に平行な軸(Z軸)まわりにロールが僅かに回転し、上作業ロール1と上補強ロール3との胴長方向のずれ、あるいは、下作業ロール2と下補強ロール4との胴長方向のずれが生じると、作業ロールと補強ロールとの間に、ロールの胴長方向に作用するスラスト力が発生する。ロール間スラスト力は、ロールに余分なモーメントを発生させ、非対称なロール変形が起因となり圧延を不安定な状態にする一因であり、例えば蛇行あるいはキャンバーを引き起こす。このロール間スラスト力は、作業ロールと補強ロールとのロール胴長方向にずれが生じ、ロール間クロス角が発生することにより生じる。例えば、下作業ロール2と下補強ロール4との間にロール間クロス角が発生していると、下作業ロール2と下補強ロール4との間にスラスト力が発生する。このとき、被圧延材Sと下作業ロール2との間にも僅かであるがスラスト力が発生し、これらの合力の反力として下作業ロールチョック6にスラスト反力が作用する。その結果、下補強ロール4にモーメントが発生し、このモーメントにバランスするようにロール間の荷重分布が変化し、非対称なロール変形が生じる。このような非対称なロール変形によって蛇行あるいはキャンバーを引き起こす等、圧延が不安定となる。
そこで、本発明では、圧延機による被圧延材の圧延において、ロール間に発生するロール間スラスト力がなくなるように各ロールのロールチョック位置を調整することで、蛇行及びキャンバーのない、あるいは蛇行及びキャンバーが極めて軽微な製品を安定して製造することを目的とする。特に、本発明では、ロールにかかるスラスト反力が測定できない場合にもロール間に発生するロール間スラスト力がなくなるように各ロールのロールチョック位置を調整する手法を提案する。
<2.第1の実施形態>
図2~図4Cに基づいて、本発明の第1の実施形態に係る圧延機及び当該圧延機を制御するための装置の構成と、圧延機の設定方法について説明する。第1の実施形態は、圧下位置零点調整前または圧延開始前に、基準とするロールと他のロールとのロール間クロス角をゼロにするように調整し、スラスト力の発生しない圧延を実現するものである。本実施形態に係る圧延機は、上ロール系または下ロール系のうちいずれか一方の補強ロールの作業側及び駆動側の圧下支点位置において、ロールの圧下方向に作用する圧下方向荷重を検出する荷重検出装置を備えている。また、当該圧延機は、少なくとも荷重検出装置が設けられているロール系とは反対側のロール系を構成するロールに、作業側のロールチョックと駆動側のロールチョックとに作用する圧延方向における圧延方向力を測定する圧延方向力測定装置が設けられている。すなわち、圧延機に上ロール系または下ロール系のうちいずれか一方にしか荷重検出装置が設けられていない場合であってもロール間クロスの調整が可能である。
[2-1.圧延機の構成]
まず、図2A及び図2Bに基づいて、本実施形態に係る圧延機と、当該圧延機を制御するための装置とを説明する。図2Aは、本実施形態に係る圧延機と、当該圧延機を制御するための装置との構成を示す説明図である。図2Bは、図2Aの圧延機の入側及び出側に配置された圧延方向力測定装置及び圧下方向荷重検出装置を示す説明図である。なお、図2Aに示す圧延機は、ロール胴長方向の作業側から見た状態を示しており、圧延方向は紙面左から右に向かっているとする。また、図2A及び図2Bでは、下補強ロールを基準ロールとした場合の構成を示す。なお、基準ロールは、チョックとハウジングとの接触面積が大きく、位置が安定する最下部または最上部に位置するロールが好ましい。
図2Aに示す圧延機は、一対の作業ロール1、2と、これを支持する一対の補強ロール3、4とを有する4段の圧延機である。上作業ロール1及び下作業ロール2は、駆動用電動機21により回転駆動される。
図2Bに示すように、上作業ロール1は上作業ロールチョック5a、5bにより支持されており、下作業ロール2は下作業ロールチョック6a、6bにより支持されている。図2Aでは作業側の上作業ロールチョック5aと下作業ロールチョック6aのみを示しているが、図2A紙面奥側の駆動側には、図2Bに示す上作業ロールチョック5bと下作業ロールチョック6bとが設けられている。
また、上補強ロール3は上補強ロールチョック7a、7bにより支持されており、下補強ロール4は下補強ロールチョック8a、8bにより支持されている。図2Aでは作業側の上補強ロールチョック7aと下補強ロールチョック8aのみを示しているが、図2A紙面奥側の駆動側には、図2Bに示す上補強ロールチョック7bと下補強ロールチョック8bとが設けられている。上作業ロールチョック5a、5b、下作業ロールチョック6a、6b、上補強ロールチョック7a、7b、及び下補強ロールチョック8a、8bは、ハウジング30により保持されている。
上作業ロールチョック5a、5bには、圧延方向入側に設けられ、上作業ロールチョック5a、5bを圧延方向に押圧する上作業ロールチョック押圧装置9と、圧延方向出側に設けられ、圧延方向の位置を検出して上作業ロールチョック5a、5bを圧延方向に駆動する上作業ロールチョック位置検出機能付駆動装置11とが設けられている。また、上作業ロール1には、当該上作業ロール1にかかる圧延方向力を測定する圧延方向力測定装置24a~24dが設けられている。すなわち、図2Bに示すように、上作業ロールチョック5a、5bの入側には圧延方向力測定装置24a、24cが設けられ、上作業ロールチョック5a、5bの出側には、圧延方向力測定装置24b、24dが設けられている。
下作業ロールチョック6a、6bには、圧延方向入側に設けられ、下作業ロールチョック6a、6bを圧延方向に押圧する下作業ロールチョック押圧装置10と、圧延方向出側に設けられ、圧延方向の位置を検出して下作業ロールチョック6a、6bを圧延方向に駆動する下作業ロールチョック位置検出機能付駆動装置12とが設けられている。
上作業ロールチョック位置検出機能付駆動装置11、下作業ロールチョック位置検出機能付駆動装置12、上作業ロールチョック押圧装置9の駆動機構、及び下作業ロールチョック押圧装置10の駆動機構には、例えば油圧シリンダが用いられる。なお、図2Aにおいて、上下の作業ロールチョック位置検出機能付駆動装置11、12と上下の作業ロールチョック押圧装置9、10とは、作業側のみを表示しているが、紙面奥側(駆動側)にも同様に設けられている。
上補強ロールチョック7a、7bには、圧延方向出側に設けられ、上補強ロールチョック7a、7bを圧延方向に押圧する上補強ロールチョック押圧装置13と、圧延方向入側に設けられ、圧延方向の位置を検出して上補強ロールチョック7a、7bを圧延方向に駆動する上補強ロールチョック位置検出機能付駆動装置14とが設けられている。上補強ロールチョック位置検出機能付駆動装置14、及び、上補強ロールチョック押圧装置13の駆動機構には、例えば油圧シリンダが用いられる。また、上補強ロール3には、当該上補強ロール3にかかる圧延方向力を測定する圧延方向力測定装置34a~34dが設けられている。すなわち、図2Bに示すように、上補強ロールチョック7a、7bの入側には圧延方向力測定装置34a、34cが設けられ、上補強ロールチョック7a、7bの出側には、圧延方向力測定装置34b、34dが設けられている。なお、図2Aにおいて、上補強ロールチョック位置検出機能付駆動装置14と上補強ロールチョック押圧装置13は、作業側のみを表示しているが、紙面奥側(駆動側)にも同様に設けられている。
下補強ロールチョック8a、8bは、本実施形態においては下補強ロール4を基準ロールとしているため、基準補強ロールチョックとなる。したがって、下補強ロールチョック8a、8bを駆動させて位置調整を行うことはないので、上補強ロールチョック7a、7bのように、必ずしも駆動装置及び位置検出装置を備えていなくともよい。ただし、位置調整の基準とする基準補強ロールチョックの位置が変化しないように、圧延方向の入側または出側に、例えば下補強ロールチョック押圧装置40等を設け、下補強ロールチョック8a、8bのガタツキを押さえるようにしてもよい。なお、図2Aにおいて、下補強ロールチョック押圧装置40は、作業側のみを表示しているが、紙面奥側(駆動側)にも同様に設けられている。
また、圧延機を制御するための装置としては、例えば図2Aに示すように、ロールチョック圧延方向力制御装置15と、ロールチョック位置制御装置16と、駆動用電動機制御装置22と、ロール間クロス制御装置23とを有する。
ロールチョック圧延方向力制御装置15は、上作業ロールチョック押圧装置9、下作業ロールチョック押圧装置10、上補強ロールチョック押圧装置13、及び下補強ロールチョック押圧装置40の圧延方向の押圧力を制御する。ロールチョック圧延方向力制御装置15は、後述するロール間クロス制御装置23の制御指示に基づき、チョック位置の制御対象である上作業ロールチョック押圧装置9、下作業ロールチョック押圧装置10、及び、上補強ロールチョック押圧装置13を駆動させ、所定の押圧力を与えることによってチョック位置を制御可能な状態を形成する。
ロールチョック位置制御装置16は、上作業ロールチョック位置検出機能付駆動装置11、下作業ロールチョック位置検出機能付駆動装置12、及び、上補強ロールチョック位置検出機能付駆動装置14の駆動制御を行う。ロールチョック位置制御装置16は、ロール間クロス制御装置23の制御指示に基づき、作業側のロールチョックに作用する圧延方向力と駆動側のロールチョックに作用する圧延方向力との差である圧延方向力差が所定範囲内となるように、かつ、ロールの作業側の圧下方向荷重と駆動側の圧下方向荷重との差である圧下方向荷重差が所定範囲内となるように、上作業ロールチョック位置検出機能付駆動装置11、下作業ロールチョック位置検出機能付駆動装置12、及び、上補強ロールチョック位置検出機能付駆動装置14を駆動させる。位置検出機能付駆動装置11、12、14は、作業側及び駆動側の両側に配置されており、作業側及び駆動側の圧延方向の位置について、同量を作業側及び駆動側で逆方向に制御することにより、作業側及び駆動側の平均的な圧延方向位置を変更することなく、ロールクロス角のみを変更することができる。
駆動用電動機制御装置22は、上作業ロール1及び下作業ロール2を回転駆動する駆動用電動機21を制御する。本実施形態に係る駆動用電動機制御装置22は、ロール間クロス制御装置23からの指示に基づき、上作業ロール1または下作業ロール2の駆動を制御する。
ロール間クロス制御装置23は、圧延機を構成する上作業ロール1、下作業ロール2、上補強ロール3、及び、下補強ロール4について、ロール間クロス角がゼロとなるように、ロールチョックの位置を調整することにより各ロールの位置を制御する。ロール間クロス制御装置23は、圧延方向力差が所定範囲内となるように、または、圧下方向荷重差が所定範囲内となるように、ロールチョック圧延方向力制御装置15、ロールチョック位置制御装置16と、駆動用電動機制御装置22に対して制御指示を行い、ロール間に生じていたクロスがなくなるようにする。なお、当該圧延機の設定方法の詳細については後述する。
ここで、作業側の上作業ロールチョック5aについては、上作業ロール作業側圧延方向力演算装置71により、作業側の入側圧延方向力測定装置24aにて測定された圧延方向力と出側圧延方向力測定装置24bにて測定された圧延方向力との差が演算され、上作業ロール1の作業側の圧延方向力とされる。同様に、上作業ロール駆動側圧延方向力演算装置(図示せず。)により、駆動側の入側圧延方向力測定装置24cにて測定された圧延方向力と出側圧延方向力測定装置24dにて測定された圧延方向力との差が演算され、上作業ロール1の駆動側の圧延方向力とされる。そして、上作業ロール圧延方向力差演算装置73により、上作業ロール1の作業側の圧延方向力の演算値f11と駆動側の圧延方向力の演算値f12との差が演算され、上作業ロールチョック5a、5bに作用する圧延方向力差が演算される。
作業側の上補強ロールチョック7aについては、上補強ロール作業側圧延方向力演算装置81により、作業側の入側圧延方向力測定装置34aにて測定された圧延方向力と出側圧延方向力測定装置34bにて測定された圧延方向力との差が演算され、上補強ロール3の作業側の圧延方向力とされる。同様に、上補強ロール駆動側圧延方向力演算装置(図示せず。)により、駆動側の入側圧延方向力測定装置34cにて測定された圧延方向力と出側圧延方向力測定装置34dにて測定された圧延方向力との差が演算され、上補強ロール3の駆動側の圧延方向力とされる。そして、上補強ロール圧延方向力差演算装置83により、上補強ロール3の作業側の圧延方向力の演算値f31と駆動側の圧延方向力の演算値f32との差が演算され、上補強ロールチョック7a、7bに作用する圧延方向力差が演算される。
また、圧延機には圧下装置27が設けられている。圧下装置27は、最上部のロール(図2Aでは上補強ロール3)上方に設置され、ロールを下方に向かって押圧する装置である。圧下装置27によりロールを上方から下方に圧下することで、各ロールの圧下方向における位置を調整することができる。例えば、上作業ロール1と下作業ロール2とをキスロール状態とする際、圧下装置27により上作業ロール1及び下作業ロール2に対して所定の負荷を与えることで、これらの位置が調整される。
圧下方向において、下補強ロールチョック8a、8bとハウジング30との間の圧下支点位置30bには、図2Bに示すように、下圧下方向荷重検出装置29a、29bが設けられている。なお、図2Aには、作業側の下圧下方向荷重検出装置29aのみが図示されているが、図1に示したように、図2A紙面奥側の駆動側には、下圧下方向荷重検出装置29bが設けられている。下圧下方向荷重検出装置29a、29bは、下補強ロールチョック8a、8bの圧下支点位置に配置され圧下方向に作用する圧下方向荷重を検出する装置であり、最下部のロール(すなわち、図2Aでは下補強ロール4)に係る圧下方向荷重を検出する。
下圧下方向荷重差演算部33は、下圧下方向荷重検出装置29a、29bにより検出された作業側の圧下方向荷重(PW
B)と駆動側の圧下方向荷重(PD
B)との差である圧下方向荷重差を演算する。下圧下方向荷重差演算部33により演算された圧下方向荷重差(PW
B-PD
B)は、ロール間クロス制御装置23へ出力される。ロール間クロス制御装置23は、入力された圧下方向荷重差に基づき、ロール間クロスの状態を認識する。
なお、上述の例では、作業ロールチョック5、6については、圧延機の出側に位置検出機能付駆動装置11、12、入側に押圧装置9、10、上補強ロールチョック7については、圧延機の入側に位置検出機能付駆動装置14、出側に押圧装置13、下補強ロールチョック8については、圧延機の出側に押圧装置40を配備する例を説明したが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、これらの配置を圧延機の入側と出側とで逆に設置してもよく、あるいは、作業ロール及び補強ロールで同方向に設置してもよい。
さらに、位置検出機能付駆動装置11、12、14については、作業側及び駆動側の両側に配置し、それぞれを位置制御する例を説明したが、本発明はかかる例に限定されない。これらの装置を作業側及び駆動側の片側のみに配置、あるいは、片側のみを動作させ、その反対側を回転の支点として、位置制御を行うことによってロールクロス角を制御することが可能であり、ロール間クロスを低減するという同様の効果が得られることは、言うまでもない。
また、図2Aでは、基準ロールである下補強ロール4の下補強ロールチョック8a、8bには押圧装置40のみを設ける例を示したが、本発明はかかる例に限定されず、下補強ロールチョック8a、8bの入側に位置検出機能付駆動装置を設け、ロールチョック位置制御装置16により制御可能に構成してもよい。これにより、例えばライナー等摩耗により基準ロール軸と圧延方向との直角関係が極端にずれている場合に、ロールチョック位置制御装置16によって基準補強ロールチョックを駆動させ、基準ロールの位置を微調整することが可能となる。また、位置検出機能付駆動装置を全ロールに配置することにより、状況に応じて基準ロールを変更し、その変更した基準ロールに基づいて制御を行ってもよい。
すなわち、基準ロールは、上述したように、ロールチョックとハウジングとの接触面積が大きく、位置が安定する最下部または最上部に位置する補強ロールが好ましい。しかし、位置検出機能付駆動装置11、12、14あるいは押圧装置9、10、13、40等をハウジングあるいはプロジェクトブロックへ配置する際にスペース上の課題がある場合は、設備配置の制約等に応じて、基準ロールを上作業ロール1または下作業ロール2としても、以下に説明する本実施形態に係る圧延機の設定方法を同様に実施することは可能である。また、6段以上の圧延機であっても、上作業ロール1、下作業ロール2、上中間ロール群(上ロール系に設置されている1または複数の中間ロール)、下中間ロール群(下ロール系に設置されている1または複数の中間ロール)のいずれか1つのロールを基準ロールとして、以下に説明する本実施形態に係る圧延機の設定方法を同様に実施することは可能である。
[2-2.圧延機の設定方法]
(1)基準ロールと反対側のロールから位置調整する場合
以下、図3A~図4Cに基づいて、本実施形態に係る圧延機の設定方法について、説明する。以下の説明では、圧延機の基準ロールは最下部のロール(すなわち下補強ロール4)とし、圧延機は、上側のロール系に圧延方向力測定装置が設けられ、下側のロール系に圧下方向荷重検出装置が設けられているものとする。図3A及び図3Bは、本実施形態に係る圧延機の設定方法を説明するフローチャートであって、基準ロールと反対側のロールから位置調整を行う場合の例を示す。図4A~図4Cは、本実施形態に係る圧延機の設定方法におけるロール位置調整の手順を示す説明図である。なお、図4A~図4Cにおいては、ロール間に作用する荷重分布の記載を省略し、圧延方向力差については、対象とするロール間スラスト力の影響が圧延方向力差として現れる場合のみを記載している。
本例では、下補強ロール4を基準ロールとして説明するが、上補強ロール3が基準ロールとなる場合もある。なお、基準ロールとしては圧延機を構成するロールのいずれか1つを設定すればよく、圧下方向において最上部又は最下部にあるロールのいずれか一方を基準ロールとするのが好ましい。例えば、上補強ロール3を基準ロールとする場合には、以下の同様の手順で、基準ロール(上補強ロール3)から最も遠いロール(下補強ロール4)と2番目に遠いロール(下作業ロール2)との位置調整、これら2つのロールと3番目に遠いロール(上作業ロール1)との位置調整、そして、これら3つのロールと基準ロールとの位置調整、のように、基準ロールと反対側のロール系から順にロールの位置調整を行えばよい。
また、本実施形態に係る圧延機の設定方法は、圧延機を稼働させた際にロール間スラスト力を発生させないために、圧延機に組み込まれたロール間に生じているロール間クロス角がゼロとなるようにロールチョックの位置を調整してロールの相対位置を調整する方法である。この圧延機の設定は、例えばロール組み替え時に、圧下位置の零点調整よりも前に実施される。このように、本実施形態に係る圧延機の設定方法は、圧延機を稼働して発生したロール間スラスト力を考慮して蛇行あるいはキャンバーを抑制するために圧延機を制御する方法とは異なる。
(初期設定:S100)
圧延を開始するにあたり、図3Aに示すように、まず、ロール間クロス制御装置23は、圧下装置27に対して、上作業ロール1と下作業ロール2とが所定のキスロール状態となるように、圧下方向におけるロール位置を調整させる(S100)。圧下装置27は、当該指示に基づきロールに対して所定の負荷を与え、作業ロール1、2をキスロール状態とする。
次いで、各ロールの位置調整が段階的に行われる。このとき、基準ロールのロールチョックの圧延方向位置は基準位置として固定し、基準ロール以外のロールのロールチョックの圧延方向における位置を移動して、ロールチョックの位置が調整される。
(第1調整:S102~S106)
第1調整では、図4Aに示すように、基準ロールである下補強ロール4と反対側のロール系にある上補強ロール3に作用する圧延方向力差がゼロとなるように、上補強ロールチョック7a、7bの位置を調整する。
そこで、まず、ロール間クロス制御装置23は、駆動用電動機制御装置22により駆動用電動機21を駆動させて、各ロールを回転させる。そして、上補強ロール3に作用する圧延方向力を、圧延方向力測定装置34a~34dにより測定し(S102)、ロール間クロス制御装置23により、上補強ロール3に作用する圧延方向力差が許容範囲内となるように、上補強ロールチョック7a、7bの位置を制御する(S104)。
すなわち、圧延方向力測定装置34a~34dにより、作業側及び駆動側において上補強ロールチョック7a、7bの入側及び出側の圧延方向力が測定されると、上補強ロール作業側圧延方向力演算装置81と上補強ロール駆動側圧延方向力演算装置(図示せず。)とにより、上補強ロール3の作業側及び駆動側の圧延方向力がそれぞれ演算される。そして、上補強ロール圧延方向力差演算装置83により、上補強ロール3の作業側の圧延方向力と駆動側の圧延方向力との差が演算され、上補強ロール3に作用する圧延方向力差が演算される。上補強ロール3に作用する圧延方向力差は、ロール間クロス制御装置23へ出力される。
圧延方向力差の許容範囲内の値の上下限値は、キスロール条件におけるロール変形解析を行い、非対称変形分を圧下レベリング量に換算した上で求めてもよい。例えば、ロールクロス角の許容範囲内の上下限値は、製品に要求されるキャンバーの限界値または絞りが発生するキャンバーの限界値を基準として、既存の圧延モデルに基づき計算すればよい。
ロール間クロス制御装置23は、圧延方向力差が許容範囲内となるように、ロールチョック圧延方向力制御装置15、ロールチョック位置制御装置16に対して、上補強ロールチョック7a、7bの位置を調整するよう指示する。ロールチョック位置制御装置16により上補強ロールチョック7a、7bの位置を検出しつつ、ロールチョック圧延方向力制御装置15により、上補強ロール3に作用する圧延方向力差が許容範囲内となるまで上補強ロールチョック7a、7bの位置が調整される(S106)。
そして、ステップS106にて、上補強ロール3に作用する圧延方向力差が許容範囲内となったと判定されると、上補強ロールチョック7a、7bの位置調整が終了する。第1調整により、上補強ロール3と上作業ロール1とのロール間クロスが許容範囲内に調整される。
(第2調整:S108~S112)
次いで、第2調整では、図4Bに示すように、基準ロールである下補強ロール4と反対側のロール系にある上作業ロール1に対して作用する圧延方向力差がゼロとなるように調整する。
まず、ロール間クロス制御装置23は、駆動用電動機21により各ロールが回転されている状態で、上作業ロール1に作用する圧延方向力を圧延方向力測定装置24a~24dにより測定し(S108)、上作業ロール1に作用する圧延方向力差が許容範囲内となるように、上作業ロールチョック5a、5bの位置を制御する(S110)。
すなわち、圧延方向力測定装置24a~24dにより、作業側及び駆動側において上作業ロールチョック5a、5bの入側及び出側の圧延方向力が測定されると、上作業ロール作業側圧延方向力演算装置71と上作業ロール駆動側圧延方向力演算装置(図示せず。)とにより、上作業ロール1の作業側及び駆動側の圧延方向力がそれぞれ演算される。そして、上作業ロール圧延方向力差演算装置73により、上作業ロール1の作業側の圧延方向力と駆動側の圧延方向力との差が演算され、上作業ロール1に作用する圧延方向力差が演算される。上作業ロール1に作用する圧延方向力差は、ロール間クロス制御装置23へ出力される。
次いで、ロール間クロス制御装置23は、測定された上作業ロール1に作用する圧延方向力差が許容範囲内となるように、上作業ロールチョック5a、5bの位置を制御する。ロール間クロス制御装置23は、ロールチョック圧延方向力制御装置15、ロールチョック位置制御装置16に対して、上作業ロールチョック5a、5bの位置を調整するよう指示する。ロールチョック位置制御装置16により上作業ロールチョック5a、5bの位置を検出しつつ、ロールチョック圧延方向力制御装置15により、上作業ロール1に作用する圧延方向力差が許容範囲内となるまで上作業ロールチョック5a、5bの位置が調整される(S112)。このとき、既に上作業ロール1とのロール間クロスが調整された上補強ロール3も、上作業ロール1に対するロールチョック間の相対位置を保持しながら、上作業ロール1と同時にかつ同方向に動くように、上補強ロールチョック7a、7bの位置制御が行われる。これにより、上補強ロール3、上作業ロール1及び下作業ロール2のロール間クロスの調整を行うことができる。
そして、ステップS112にて、上作業ロール1に作用する圧延方向力差が許容範囲内となったと判定されると、上作業ロールチョック5a、5bの位置調整が終了する。第2調整により、上補強ロール3、上作業ロール1及び下作業ロール2のロール間クロスが許容範囲内に調整される。
(第3調整:S114~S126)
そして、第3調整では、図3B及び図4Cに示すように、基準ロールである下補強ロール4と同じ側のロール系にある下作業ロール2または下補強ロール4に対して作用する圧延方向力差がゼロとなるように調整する。既に下作業ロール2から上方のロール系のロール間クロスが調整されていることから、ロール間クロスは下作業ロール2と下補強ロール4との間のみ存在し、それによりスラスト反力が発生する。このとき、同じ大きさで符号の異なるスラスト反力が下作業ロール2と下補強ロール4とに生じる。したがって、いずれかの圧延方向力差をゼロにするようにチョック位置を調整することによって、ロール間クロスをゼロにすることができる。
本実施形態では、下ロール系には圧延方向力測定装置が設けられていないため、圧延方向力差に基づきロール間スラスト力をゼロにするようにロールチョックの位置を調整することはできない。そこで、本実施形態では、下圧下方向荷重検出装置29a、29bにより検出された作業側の圧下方向荷重(PW
B)と駆動側の圧下方向荷重(PD
B)との差である圧下方向荷重差(PW
B-PD
B)に基づき、ロールチョックの位置調整を行う。このとき、基準ロールのロールチョックの圧延方向位置は基準位置として固定し、基準ロール以外のロールのロールチョックの圧延方向における位置を移動して、ロールチョックの位置が調整される。
ロール間クロス制御装置23は、駆動用電動機制御装置22により駆動用電動機21を駆動させて、所定の回転速度及び所定の回転方向で作業ロールを回転させる(S114)。ロール回転条件である回転速度及び回転方向は予め設定されており、駆動用電動機制御装置22は、設定されたロール回転条件で上作業ロール1及び下作業ロール2を回転させる。ここで、ステップS114における各作業ロール1、2の回転方向を、正転方向とする。作業ロール1、2が回転されると、下圧下方向荷重検出装置29a、29bにより作業側及び駆動側の圧下方向荷重がそれぞれ検出され、下圧下方向荷重差演算部33へ出力される。
下圧下方向荷重差演算部33は、圧下方向荷重の入力を受けると、それぞれ作業側の圧下方向荷重と駆動側の圧下方向荷重との差である圧下方向荷重差を演算する。演算されたロール正転時の圧下方向荷重差は、ロール間クロス制御装置23へ入力され、圧下方向荷重差の基準値とされる(S116)。
なお、ステップS114では、作業ロール1、2を回転させて下圧下方向荷重検出装置29a、29bにより作業側及び駆動側の圧下方向荷重をそれぞれ検出したが、本発明はかかる例に限定されない。例えば図4C右側に示すように、作業ロール1、2を停止させた状態で下圧下方向荷重検出装置29a、29bにより作業側及び駆動側の圧下方向荷重をそれぞれ検出してもよい。この場合も、ステップS116では、ステップS114にて検出された作業側の圧下方向荷重と駆動側の圧下方向荷重との差である圧下方向荷重差が算出される。演算されたロール停止時の圧下方向荷重差は、ロール間クロス制御装置23へ入力され、ロール回転時と同様に圧下方向荷重差の基準値とされる。
圧下方向荷重差の基準値が演算されると、次に、作業ロールの回転方向を逆転させ、ロール逆転時の処理が開始される。ロール間クロス制御装置23は、駆動用電動機制御装置22により駆動用電動機21を駆動させて、所定の回転速度及び所定の回転方向で作業ロールを回転させる(S118)。作業ロールが回転されると、ロール正転時と同様に、下圧下方向荷重検出装置29a、29bにより作業側及び駆動側の圧下方向荷重がそれぞれ検出され、下圧下方向荷重差演算部33へ出力される。ステップS118における各作業ロール1、2の回転方向を、逆転方向とする。
下圧下方向荷重差演算部33は、圧下方向荷重の入力を受けると、それぞれ作業側の圧下方向荷重と駆動側の圧下方向荷重との差である圧下方向荷重差を演算し、演算したロール逆転時の圧下方向荷重差をロール間クロス制御装置23へ出力する。そして、ロール間クロス制御装置23は、ロール逆転時の圧下方向荷重差と、ステップS116にて演算された基準値との偏差に基づき、制御目標値を演算する(S119)。制御目標値は、例えば基準値の偏差の半分の値としてもよい。なお、制御目標値の演算方法及びその値を設定する理由については、後述する。
下圧下方向荷重差演算部33は、圧下方向荷重の入力を受けると、それぞれ作業側の圧下方向荷重と駆動側の圧下方向荷重との差である圧下方向荷重差を演算し、演算したロール逆転時の圧下方向荷重差をロール間クロス制御装置23へ出力する(S120)。そして、ロール間クロス制御装置23は、ロール逆転時の圧下方向荷重差が、ステップS119にて演算された制御目標値となるように、下作業ロールチョック6、上作業ロールチョック5及び上補強ロールチョック7の位置を、同時かつ同方向に制御する(S122)。
そして、ロール間クロス制御装置23は、ステップS120にて演算されたロール逆転時の圧下方向荷重差と、ステップS119にて演算された制御目標値とを比較し、これらが一致するか否かを判定する(S124)。なお、ステップS124の判定においては、ロール逆転時の圧下方向荷重差と制御目標値とが完全に一致する場合だけでなく、ロール逆転時の圧下方向荷重差の制御目標値からのずれが所定の範囲内である場合も含むものとする。ステップS124にてロール逆転時の圧下方向荷重差が制御目標値と一致しない、または、その許容範囲内にないと判定されると、ロール間クロス制御装置23は、ロールチョック位置制御装置16に対して、下作業ロールチョック6、上作業ロールチョック5及び上補強ロールチョック7の位置を調整するよう指示する。そして、これらのロールチョックの位置が調整されると、ステップS120からの処理が再度実行される。
ステップS124にて、ロール逆転時の圧下方向荷重差が制御目標値と一致する、または、その許容範囲内にあると判定されると、ロール間クロス制御装置23は、上補強ロール3、上作業ロール1、下作業ロール2及び下補強ロール4のロール間クロスが許容範囲内に調整されたとして、圧下装置27に対して上作業ロール1と下作業ロール2とのロールギャップが所定の大きさとなるように調整する(S126)。その後、当該圧延機による圧下位置零点調整等が実施され、被圧延材の圧延が開始される。
(2)基準ロール側のロールから位置調整する場合
次に、図5A~図6Cに基づいて、本実施形態に係る圧延機の設定方法の他の例として、基準ロール側のロールから位置調整する場合について説明する。以下の説明では、圧延機の基準ロールは最下部のロール(すなわち下補強ロール4)とし、圧延機は、上側のロール系に圧延方向力測定装置が設けられ、下側のロール系に圧下方向荷重検出装置が設けられているものとする。図5A及び図5Bは、本実施形態に係る圧延機の設定方法を説明するフローチャートであって、基準ロール側のロールから位置調整を行う場合の例を示す。図6A~図6Cは、本実施形態に係る圧延機の設定方法におけるロール位置調整の手順を示す説明図である。なお、図6A~図6Cにおいては、ロール間に作用する荷重分布の記載を省略し、圧延方向力差については、対象とするロール間スラスト力の影響が圧延方向力差として現れる場合のみを記載している。
本例においても下補強ロール4を基準ロールとして説明するが、上補強ロール3が基準ロールとなる場合もある。なお、基準ロールとしては圧延機を構成するロールのいずれか1つを設定すればよく、基準ロールは圧下方向において最上部又は最下部にあるロールのいずれか一方とするのが好ましい。この場合も以下の同様の手順で各ロールの位置調整を行えばよい。
(初期設定:S200)
圧延を開始するにあたり、図5Aに示すように、まず、ロール間クロス制御装置23は、圧下装置27に対して、上作業ロール1と下作業ロール2とが所定のキスロール状態となるように、圧下方向におけるロール位置を調整させる(S200)。圧下装置27は、当該指示に基づきロールに対して所定の負荷を与え、作業ロール1、2をキスロール状態とする。
次いで、各ロールの位置調整が段階的に行われる。このとき、基準ロールのロールチョックの圧延方向位置は基準位置として固定し、基準ロール以外のロールのロールチョックの圧延方向における位置を移動して、ロールチョックの位置が調整される。
(第1調整:S202~S206)
第1調整では、図6Aに示すように、基準ロールである下補強ロール4に対して作用する圧延方向力差が許容範囲内となるように調整する。そこで、まず、ロール間クロス制御装置23は、駆動用電動機制御装置22により駆動用電動機21を駆動させて、各ロールを回転させる。そして、図6A左側に示すように、例えば、基準ロールである下補強ロール4に作用する圧延方向力を圧延方向力測定装置35a~35dにより測定し(S202)、ロール間クロス制御装置23により、下補強ロール4に作用する圧延方向力差が許容範囲内となるように、上補強ロールチョック7a、7b、上作業ロールチョック5a、5b及び下作業ロールチョック6a、6bの位置を制御する(S204)。
すなわち、圧延方向力測定装置35a~35dにより、作業側及び駆動側において下補強ロールチョック8a、8bの入側及び出側の圧延方向力が測定されると、下補強ロール作業側圧延方向力演算装置と下補強ロール駆動側圧延方向力演算装置(いずれも図示せず。)とにより、下補強ロール4の作業側及び駆動側の圧延方向力がそれぞれ演算される。そして、下補強ロール圧延方向力差演算装置(図示せず。)により、下補強ロール4の作業側の圧延方向力と駆動側の圧延方向力との差が演算され、下補強ロール4に作用する圧延方向力差が演算される。下補強ロール4に作用する圧延方向力差は、ロール間クロス制御装置23へ出力される。
圧延方向力差の許容範囲内の値の上下限値は、キスロール条件におけるロール変形解析を行い、非対称変形分を圧下レベリング量に換算した上で求めてもよい。例えば、ロールクロス角の許容範囲内の上下限値は、製品に要求されるキャンバーの限界値または絞りが発生するキャンバーの限界値を基準として、既存の圧延モデルに基づき計算すればよい。
ロール間クロス制御装置23は、圧延方向力差が許容範囲内となるように、ロールチョック圧延方向力制御装置15、ロールチョック位置制御装置16に対して、上補強ロールチョック7a、7b、上作業ロールチョック5a、5b及び下作業ロールチョック6a、6bの位置を調整するよう指示する。このとき、これらのロールチョックは、同時かつ同方向に制御される。ロールチョック位置制御装置16により上補強ロールチョック7a、7b、上作業ロールチョック5a、5b及び下作業ロールチョック6a、6bの位置を検出しつつ、ロールチョック圧延方向力制御装置15により、下補強ロール4に作用する圧延方向力差が許容範囲内となるまで上補強ロールチョック7a、7b、上作業ロールチョック5a、5b及び下作業ロールチョック6a、6bの位置が調整される(S206)。
そして、ステップS206にて、下補強ロール4に作用する圧延方向力差が許容範囲内となったと判定されると、下補強ロールチョック8a、8bに対する下作業ロールチョック6a、6bの位置調整が終了する。第1調整により、基準ロールである下補強ロール4と下作業ロール3とのロール間クロスが許容範囲内に調整される。
なお、第1調整においては、下補強ロール4に作用する圧延方向力差の代わりに、下作業ロール3に作用する圧延方向力差が許容範囲内となるように、上補強ロールチョック7a、7b、上作業ロールチョック5a、5b及び下作業ロールチョック6a、6bの位置を制御してもよい。
あるいは、図6A左側に示すように、上補強ロールチョック7a、7b、上作業ロールチョック5a、5b及び下作業ロールチョック6a、6bの位置を同時かつ同方向に制御せず、図6B右側に示すように、下作業ロールチョック6a、6bの位置のみ調整してもよい。この場合、下補強ロール4に作用する圧延方向力に基づき、下作業ロールチョック6a、6bの位置が制御される。
(第2調整:S208~S212)
次いで、第2調整では、図6Bに示すように、基準ロールである下補強ロール4側のロール系にある下作業ロール2に対して作用する圧延方向力差が許容範囲内となるように調整する。ロール間クロス制御装置23は、駆動用電動機制御装置22により駆動用電動機21を駆動させて、各ロールを回転させる。そして、下作業ロール3に作用する圧延方向力を圧延方向力測定装置25a~25dにより測定し、圧延方向力差が演算される(S208)。ロール間クロス制御装置23は、演算された下作業ロール3に作用する圧延方向力差が許容範囲内となるように、上補強ロールチョック7a、7b及び上作業ロールチョック5a、5bの位置を制御する(S210)。このとき、これらのロールチョックは、同時かつ同方向に制御される。
より詳細には、ロール間クロス制御装置23は、ロールチョック圧延方向力制御装置15、ロールチョック位置制御装置16に対して、上補強ロールチョック7a、7b及び上作業ロールチョック5a、5bの位置を調整するよう指示する。ロールチョック位置制御装置16により上補強ロールチョック7a、7b及び上作業ロールチョック5a、5bの位置を検出しつつ、ロールチョック圧延方向力制御装置15により、下作業ロール2に作用するスラスト反力が許容範囲内となるまで上補強ロールチョック7a、7b及び上作業ロールチョック5a、5bの位置が調整される(S212)。このとき、上補強ロール3も、ロールチョック間の相対位置を保持しながら上作業ロール1と同時にかつ同方向に動くように、上補強ロールチョック7の位置制御が行われる。これにより、上補強ロール3と上作業ロール1とのロール間クロスの状態を維持したまま、下作業ロール2と、上作業ロール1及び上補強ロール3とのロール間クロスの調整を行うことができる。
そして、ステップS212にて、下作業ロール1に作用するスラスト反力が許容範囲内となったと判定されると、上作業ロールチョック5a、5bの位置調整が終了する。第2調整により、上作業ロール1、下作業ロール2、及び下補強ロール4のロール間クロスが許容範囲内に調整される。
(第3調整:S214~S226)
そして、第3調整では、図5B及び図6Cに示すように、基準ロールである下補強ロール4と反対側のロール系にある上作業ロール1に対して作用するスラスト反力がゼロとなるように調整する。本実施形態では、図6A~図6Cに示すように、上ロール系には圧延方向力測定装置が設けられていないため、圧延方向力の測定結果に基づきロール間スラスト力をゼロにするようにロールチョック位置を調整することができない。そこで、本実施形態では、上圧下方向荷重検出装置28a、28bにより検出された作業側の圧下方向荷重(PW
T)と駆動側の圧下方向荷重(PD
T)との差である圧下方向荷重差(PW
T-PD
T)に基づき、ロールチョックの位置を調整する。このとき、基準ロールのロールチョックの圧延方向位置は基準位置として固定されるため、基準ロールと反対側の上補強ロール3の上補強ロールチョック7の圧延方向における位置を移動することにより調整が行われる。
ロール間クロス制御装置23は、駆動用電動機制御装置22により駆動用電動機21を駆動させて、所定の回転速度及び所定の回転方向で作業ロールを回転させる(S214)。ロール回転条件である回転速度及び回転方向は予め設定されており、駆動用電動機制御装置22は、設定されたロール回転条件で上作業ロール1及び下作業ロール2を回転させる。ここで、ステップS214における各作業ロール1、2の回転方向を、正転方向とする。作業ロール1、2が回転されると、上圧下方向荷重検出装置28a、28bにより作業側及び駆動側の圧下方向荷重がそれぞれ検出され、上圧下方向荷重差演算部(図7の上圧下方向荷重差演算部32)へ出力される。
上圧下方向荷重差演算部は、圧下方向荷重の入力を受けると、作業側の圧下方向荷重と駆動側の圧下方向荷重との差である圧下方向荷重差を演算する。演算されたロール正転時の圧下方向荷重差は、ロール間クロス制御装置23へ入力され、圧下方向荷重差の基準値とされる(S216)。
なお、ステップS214では、作業ロール1、2を回転させて上圧下方向荷重検出装置28a、28bにより作業側及び駆動側の圧下方向荷重をそれぞれ検出したが、本発明はかかる例に限定されない。例えば図6C右側に示すように、作業ロール1、2を停止させた状態で上圧下方向荷重検出装置28a、28bにより作業側及び駆動側の圧下方向荷重をそれぞれ検出してもよい。この場合も、ステップS216では、ステップS214にて測定された作業側の圧下方向荷重と駆動側の圧下方向荷重との差である圧下方向荷重差が算出される。演算されたロール停止時の圧下方向荷重差は、ロール間クロス制御装置23へ入力され、ロール回転時と同様に圧下方向荷重差の基準値とされる。
圧下方向荷重差の基準値が演算されると、次に、作業ロールの回転方向を逆転させ、ロール逆転時の処理が開始される。ロール間クロス制御装置23は、駆動用電動機制御装置22により駆動用電動機21を駆動させて、所定の回転速度及び所定の回転方向で作業ロールを回転させる(S218)。作業ロールが回転されると、ロール正転時と同様に、上圧下方向荷重検出装置28a、28bにより作業側及び駆動側の圧下方向荷重がそれぞれ検出され、上圧下方向荷重差演算部へ出力される。ステップS218における各作業ロール1、2の回転方向を、逆転方向とする。
上圧下方向荷重差演算部は、圧下方向荷重の入力を受けると、作業側の圧下方向荷重と駆動側の圧下方向荷重との差である圧下方向荷重差を演算し、演算したロール逆転時の圧下方向荷重差をロール間クロス制御装置23へ出力する。そして、ロール間クロス制御装置23は、ロール逆転時の圧下方向荷重差と、ステップS216にて演算された基準値との偏差に基づき、制御目標値を演算する(S219)。制御目標値は、例えば基準値の偏差の半分の値としてもよい。なお、制御目標値の演算方法及びその値を設定する理由については、後述する。
上圧下方向荷重差演算部は、圧下方向荷重の入力を受けると、作業側の圧下方向荷重と駆動側の圧下方向荷重との差である圧下方向荷重差を演算し、演算したロール逆転時の圧下方向荷重差をロール間クロス制御装置23へ出力する(S220)。そして、ロール間クロス制御装置23は、ロール逆転時の圧下方向荷重差が、ステップS219にて演算された制御目標値となるように、上補強ロールチョック7a、7bの位置を制御する(S222)。
そして、ロール間クロス制御装置23は、ステップS220にて演算されたロール逆転時の圧下方向荷重差と、ステップS219にて演算された制御目標値とを比較し、これらが一致するか否かを判定する(S224)。なお、ステップS224の判定においては、ロール逆転時の圧下方向荷重差と制御目標値とが完全に一致する場合だけでなく、ロール逆転時の圧下方向荷重差の制御目標値からのずれが所定の範囲内である場合も含むものとする。ステップS224にてロール逆転時の圧下方向荷重差が制御目標値と一致しない、または、その許容範囲内にないと判定されると、ロール間クロス制御装置23は、ロールチョック位置制御装置16に対して、上補強ロールチョック7a、7bの位置を調整するよう指示する。そして、これらのロールチョックの位置が調整されると、ステップS220からの処理が再度実行される。
ステップS224にて、ロール逆転時の圧下方向荷重差が制御目標値と一致する、または、その許容範囲内にあると判定されると、ロール間クロス制御装置23は、上補強ロール3、上作業ロール1、下作業ロール2及び下補強ロール4のロール間クロスが許容範囲内に調整されたとして、圧下装置27に対して上作業ロール1と下作業ロール2とのロールギャップが所定の大きさとなるように調整する(S226)。その後、当該圧延機による圧下位置零点調整等が実施され、被圧延材の圧延が開始される。
[2-3.まとめ]
以上、本発明の第1の実施形態に係る圧延機と当該圧延機の設定方法について説明した。本実施形態によれば、圧延機に上ロール系または下ロール系のうちいずれか一方にしか荷重検出装置が設けられていない場合であっても、圧延方向力測定装置と組み合わせることで、ロール間クロス角をゼロとするための調整を行うことができる。荷重検出装置による荷重を用いる場合には、ロール正転時とロール逆転時とでは圧下方向荷重の圧下方向荷重差の大きさは略同一であるがその向きが反対となることを利用して、あるいは、ロール停止時には発生しないがロール回転時に現れる圧下方向荷重の圧下方向荷重差に基づいて、ロール間クロス角をゼロとするための制御目標値を設定する。このような圧延機の調整を圧下位置零点調整または圧延開始前に行うことにより、ロール間クロス角をなくした状態で被圧延材の圧延が行われるため、被圧延材の蛇行及びキャンバーの発生を抑制することができる。
なお、上述の説明では、基準ロールを圧下方向において最下部にあるロールとしていたが、基準ロールを圧下方向において最上部にあるロールとした場合にも、基準ロールに対して圧下方向荷重検出装置及び圧延方向力測定装置を同様に配置することによって同様に適用できることは言うまでもない。
<3.第2の実施形態>
次に、図7~図9Cに基づいて、本発明の第2の実施形態に係る圧延機の設定方法について説明する。本実施形態は、第1の実施形態と同様、圧延開始前に、基準とする補強ロールと他のロールとのロール間クロス角をゼロにするように調整し、スラスト力の発生しない圧延を実現するものである。本実施形態に係る圧延機も、第1の実施形態と同様、圧延機に上ロール系または下ロール系のうちいずれか一方にしか荷重検出装置が設けられていない場合にもロール間クロスの調整が可能である。
[3-1.圧延機の構成]
まず、図7に基づいて、本実施形態に係る圧延機と、当該圧延機を制御するための装置とを説明する。図7は、本実施形態に係る圧延機と、当該圧延機を制御するための装置との構成を示す説明図である。図7に示す圧延機は、図2と同様、ロール胴長方向の作業側から見た状態を示しており、圧延方向は紙面左から右に向かっているとする。また、図7においても、下補強ロールを基準ロールとした場合の構成を示す。本実施形態に係る圧延機は、図2Aの圧延機と比較して、下圧下方向荷重検出装置29a、29bの代わりに上圧下方向荷重検出装置28a、28bを有するとともに、インクリースベンディング装置61a、61b、62a、62bを有する点で相違する。また、制御装置として、インクリースベンディング制御装置26を備えている。以下では、図2Aに示した第1の実施形態に係る圧延機及びその制御装置との相違点について主に説明し、同様に構成についての詳細な説明は省略する。
本実施形態に係る圧延機は、図7に示すように、上作業ロールチョック5a、5bとハウジング30との間のプロジェクトブロックに入側上インクリースベンディング装置61a及び出側上インクリースベンディング装置61bを備えている。また、圧延機は、下作業ロールチョック6a、6bとハウジング30との間のプロジェクトブロックに入側下インクリースベンディング装置62a及び出側下インクリースベンディング装置62bを備えている。入側上インクリースベンディング装置61a、出側上インクリースベンディング装置61b、入側下インクリースベンディング装置62a、及び出側下インクリースベンディング装置62bは、図2紙面奥側(駆動側)にも同様に設けられている。各インクリースベンディング装置は、上作業ロール1と上補強ロール3、下作業ロール2と下補強ロール4に荷重を負荷するためのインクリースベンディング力を作業ロールチョック5a、5b、6a、6bに付与する。
インクリースベンディング制御装置26は、入側上インクリースベンディング装置61a、出側上インクリースベンディング装置61b、入側下インクリースベンディング装置62a、及び出側下インクリースベンディング装置62bを制御する装置である。インクリースベンディング制御装置26は、ロール間クロス制御装置23からの指示に基づき、作業ロールチョックに対してインクリースベンディング力を与えるように、インクリースベンディング装置を制御する。なお、インクリースベンディング制御装置26は、本実施形態に係るロール間クロスの調整を行う場合以外においても、例えば被圧延材のクラウン制御あるいは形状制御を行う際にも、インクリースベンディング装置の制御を行ってもよい。
ここで、作業側の下作業ロールチョック6aについては、下作業ロール作業側圧延方向力演算装置72により、作業側の入側圧延方向力測定装置25aにて測定された圧延方向力と出側圧延方向力測定装置25bにて測定された圧延方向力との差が演算され、下作業ロール2の作業側の圧延方向力とされる。同様に、下作業ロール駆動側圧延方向力演算装置(図示せず。)により、駆動側の入側圧延方向力測定装置25cにて測定された圧延方向力と出側圧延方向力測定装置25dにて測定された圧延方向力との差が演算され、下作業ロール2の駆動側の圧延方向力とされる。そして、下作業ロール圧延方向力差演算装置74により、下作業ロール2の作業側の圧延方向力の演算値f21と駆動側の圧延方向力の演算値f22との差が演算され、下作業ロールチョック6a、6bに作用する圧延方向力差が演算される。
また、本実施形態に係る圧延機には、圧下方向において、上補強ロールチョック7a、7bとハウジング30との間の圧下支点位置30aに、上圧下方向荷重検出装置28a、28b及び圧下装置27が設けられている。なお、図7には、作業側の上圧下方向荷重検出装置28aのみが図示されているが、図1に示したように、図7紙面奥側の駆動側には、上圧下方向荷重検出装置28bが設けられている。上圧下方向荷重検出装置28a、28bは、上補強ロールチョック7a、7bの圧下支点位置に配置され圧下方向に作用する圧下方向荷重を検出する装置であり、上圧下方向荷重検出装置28a、28bは最上部のロールに係る圧下方向荷重を検出する。
上圧下方向荷重差演算部32は、上圧下方向荷重検出装置28a、28bにより検出された作業側の圧下方向荷重(PW
T)と駆動側の圧下方向荷重(PD
T)との差である圧下方向荷重差を演算する。上圧下方向荷重差演算部32により演算された圧下方向荷重差(PW
T-PD
T)は、ロール間クロス制御装置23へ出力される。ロール間クロス制御装置23は、入力された圧下方向荷重差に基づき、ロール間クロスの状態を認識する。
[3-2.圧延機の設定方法]
以下、図8A~図9Cに基づいて、本実施形態に係る圧延機の設定方法について説明する。図8A~図8Cは、本実施形態に係る圧延機の設定方法を説明するフローチャートである。図9A~図9Cは、本実施形態に係る圧延機の設定方法におけるロールチョック位置調整の手順を示す説明図である。なお、図9A~図9Cにおいては、ロール間に作用する荷重分布の記載を省略している。また、本例では、下補強ロール4を基準ロールとして説明するが、基準ロールは圧下方向にあるロールのいずれか1つとすればよく、例えば、上補強ロール3が基準ロールとなる場合もある。
すなわち、基準ロールは、上述したように、ロールチョックとハウジングとの接触面積が大きく、位置が安定する最下部または最上部に位置する補強ロールが好ましい。しかし、位置検出機能付駆動装置11、12、14あるいは押圧装置9、10、13、40等をハウジングあるいはプロジェクトブロックへ配置する際にスペース上の課題がある場合は、設備配置の制約等に応じて、基準ロールを上作業ロール1または下作業ロール2としても、以下に説明する本実施形態に係る圧延機の設定方法を同様に実施することは可能である。また、6段以上の圧延機であっても、上作業ロール1、下作業ロール2、上中間ロール群(上ロール系に設置されている1または複数の中間ロール)、下中間ロール群(下ロール系に設置されている1または複数の中間ロール)のいずれか1つのロールを基準ロールとして、以下に説明する本実施形態に係る圧延機の設定方法を同様に実施することは可能である。
本実施形態に係る圧延機の設定方法では、上作業ロール1と下作業ロール2とのロールギャップを開状態にした場合とキスロール状態にした場合とについて、作業側の圧下方向荷重と駆動側の圧下方向荷重との差である圧下方向荷重差、及び、作業側の圧延方向力と駆動側の圧延方向力のとの差である圧延方向力に基づき、ロールチョックの位置調整を行う。以下、詳細に説明していく。
なお、本実施形態に係る圧延機の設定方法も、第1の実施形態と同様、圧延機を稼働させた際にロール間スラスト力を発生させないために、圧延機に組み込まれたロール間に生じているロール間クロス角がゼロとなるようにロールチョックの位置を調整してロールの相対位置を調整する方法である。この圧延機の設定は、例えばロール組み替え時に、圧下位置の零点調整よりも前に実施される。このように、本実施形態に係る圧延機の設定方法は、圧延機を稼働して発生したロール間スラスト力を考慮して蛇行あるいはキャンバーを抑制するために圧延機を制御する方法とは異なる。
(1)第1調整:ロールギャップ開状態での位置調整(S300~S320)
ロールギャップ開状態での位置調整を行う第1調整では、上作業ロール1と下作業ロール2とを開状態にしてインクリースベンディング力を負荷し、その状態での作業ロール-補強ロール間のスラスト力がゼロとなるように上下の作業ロールチョック位置を制御する。まず、図8Aに示すように、ロール間クロス制御装置23は、圧下装置27に対して、上作業ロール1と下作業ロール2とのロールギャップが所定の間隙を有する開状態となるように、圧下方向におけるロール位置を調整させる(S300)。圧下装置27は、当該指示に基づきロールに対して所定の負荷を与え、作業ロール1、2のロールギャップを開状態とする。
また、ロール間クロス制御装置23は、インクリースベンディング制御装置26に対して、インクリースベンディング装置61a、61b、62a、62bにより所定のインクリースベンディング力を作業ロールチョック5a、5b、6a、6bに負荷するように指示する(S302)。インクリースベンディング制御装置26は、当該指示に基づき各インクリースベンディング装置61a、61b、62a、62bを制御し、所定のインクリースベンディング力を作業ロールチョック5a、5b、6a、6bに負荷する。これにより、作業ロール間のロールギャップを開状態とする。なお、ステップS300とステップS302とは、どちらを先に実行してもよい。
次いで、ロール間クロス制御装置23は、駆動用電動機制御装置22により駆動用電動機21を駆動させて、所定の回転速度及び所定の回転方向で作業ロール1、2を回転させるか、作業ロール1、2を回転停止させた状態にする(S304)。
図9A左上に示すように、作業ロール1、2を回転させる場合、ロール回転条件である回転速度及び回転方向は予め設定されており、駆動用電動機制御装置22は、設定されたロール回転条件で上作業ロール1及び下作業ロール2を回転させる。ここで、ステップS304における各作業ロール1、2の回転方向を、正転方向とする。作業ロール1、2が回転されると、上圧下方向荷重検出装置28a、28bにより作業側及び駆動側の圧下方向荷重がそれぞれ検出され、上圧下方向荷重差演算部32へ出力される。
上圧下方向荷重差演算部32は、圧下方向荷重の入力を受けると、それぞれ作業側の圧下方向荷重と駆動側の圧下方向荷重との差である圧下方向荷重差を演算する。演算されたロール正転時の圧下方向荷重差は、ロール間クロス制御装置23へ入力され、圧下方向荷重差の基準値とされる(S306)。
また、図9A右上に示すように、ステップS304にて作業ロール1、2が停止状態とされる場合、上圧下方向荷重検出装置28a、28bにより作業側及び駆動側の圧下方向荷重がそれぞれ検出され、上圧下方向荷重差演算部32へ出力される。上圧下方向荷重差演算部32は、圧下方向荷重の入力を受けると、それぞれ作業側の圧下方向荷重と駆動側の圧下方向荷重との差である圧下方向荷重差を演算する。演算されたロール停止時の圧下方向荷重差は、ステップS306にてロール間クロス制御装置23へ入力されて圧下方向荷重差の基準値とされる。
圧下方向荷重差の基準値が演算されると、次に、図9A下側に示すように、作業ロール1、2の回転方向を逆転させ、ロール逆転時の処理が開始される。ロール間クロス制御装置23は、駆動用電動機制御装置22により駆動用電動機21を駆動させて、所定の回転速度及び所定の回転方向で作業ロールを回転させる(S308)。ステップS308における各作業ロール1、2の回転方向を、逆転方向とする。
上圧下方向荷重差演算部32は、圧下方向荷重の入力を受けると、それぞれ作業側の圧下方向荷重と駆動側の圧下方向荷重との差である圧下方向荷重差を演算し、演算したロール逆転時の圧下方向荷重差をロール間クロス制御装置23へ出力する。そして、ロール間クロス制御装置23は、ロール逆転時の圧下方向荷重差と、ステップS306にて演算された基準値との偏差に基づき、制御目標値を演算する(S309)。制御目標値は、例えば基準値の偏差の半分の値としてもよい。なお、制御目標値の演算方法及びその値を設定する理由については、後述する。
作業ロール1、2が回転されると、荷重検出装置が設けられている上ロール系については、ロール正転時またはロール停止時と同様に、上圧下方向荷重検出装置28a、28bにより作業側及び駆動側の圧下方向荷重がそれぞれ検出され、上圧下方向荷重差演算部32へ出力される。上圧下方向荷重差演算部32は、圧下方向荷重の入力を受けると、図8Bに示すように、作業側の圧下方向荷重と駆動側の圧下方向荷重との差である圧下方向荷重差を演算し、演算したロール逆転時の圧下方向荷重差をロール間クロス制御装置23へ出力する(S310)。そして、ロール間クロス制御装置23は、ロール逆転時の圧下方向荷重差が、ステップS309にて演算された制御目標値となるように、上作業ロールチョック5または上補強ロールチョック7の位置を制御する(S312)。
そして、ロール間クロス制御装置23は、ステップS310にて演算されたロール逆転時の圧下方向荷重差と、ステップS309にて演算された制御目標値とを比較し、これらが一致するか否かを判定する(S314)。なお、ステップS314の判定においては、ロール逆転時の圧下方向荷重差と制御目標値とが完全に一致する場合だけでなく、ロール逆転時の圧下方向荷重差の制御目標値からのずれが所定の範囲内である場合も含むものとする。ステップS314にてロール逆転時の圧下方向荷重差が制御目標値と一致しない、または、その許容範囲内にないと判定されると、ロール間クロス制御装置23は、ロールチョック位置制御装置16に対して、上作業ロールチョック5または上補強ロールチョック7の位置を調整するよう指示する。そして、これらのロールチョックの位置が調整されると、ステップS310からの処理が再度実行される。
ステップS314にて、ロール逆転時の圧下方向荷重差が制御目標値と一致する、または、その許容範囲内にあると判定されると、ロール間クロス制御装置23は、上補強ロール3と上作業ロール1とのロール間クロスが許容範囲内に調整されたとして、ステップS322の処理に進む。
一方、荷重検出装置が設けられていないロール系と反対側のロール系(図9Aでは上ロール系)については、圧延方向力差に基づき、下作業ロールチョック6の位置を調整する。下補強ロール4が基準ロールであるため、下補強ロールチョック8の位置は動かさない。
すなわち、図9A下側に示すように、ロール間クロス制御装置23は、駆動用電動機21により作業ロール1、2が回転されている状態で、下作業ロール2に作用する圧延方向力を、圧延方向力測定装置25a~25dにより測定する(S318)。圧延方向力測定装置25a~25dにより測定された下作業ロール2に作用する圧延方向力は、ロール間クロス制御装置23へ出力される。
次いで、ロール間クロス制御装置23は、測定された下作業ロール1に作用する圧延方向力差が許容範囲内となるように、下作業ロールチョック6a、6bの位置を制御する(S318)。ロール間クロス制御装置23は、ロールチョック圧延方向力制御装置15、ロールチョック位置制御装置16に対して、下作業ロールチョック6a、6bの位置を調整するよう指示する。ロールチョック位置制御装置16により下作業ロールチョック6a、6bの位置を調整しつつ、ロールチョック圧延方向力制御装置15により、下作業ロール2に作用する圧延方向力差が許容範囲内となるまで下作業ロールチョック6a、6bの位置が調整される(S320)。
そして、ステップS320にて、下作業ロール2に作用するスラスト反力が許容範囲内となったと判定されると、下作業ロールチョック6の位置調整が終了する。そして、下補強ロール4と下作業ロール2とのロール間クロスが許容範囲内に調整されたとして、ステップS322の処理に進む。
(2)第2調整:キスロール状態での位置調整(S322~S336)
フローチャートの説明に戻り、図8A~図8Bに示したロールギャップが開状態における位置調整を終了すると、次に、ロール間クロス制御装置23は、図8Bに示すように、圧下装置27に対して、上作業ロール1と下作業ロール2とのロールギャップが所定のキスロール状態となるように、圧下方向におけるロール位置を調整させる(S322)。圧下装置27は、当該指示に基づきロールに対して所定の負荷を与え、作業ロール1、2を接触させ、キスロール状態とする。
キスロール状態での位置調整は、図9Bに示すように圧下方向荷重に基づき調整する方法と、図9Cに示すように圧延方向力差に基づき調整する方法とが考えられる。
(A.圧下方向荷重に基づく調整)
まず、図9Bに基づいて、圧下方向荷重に基づき調整する方法について説明する。なお、図8Cのフローチャートは、図9Bに対応している。圧下方向荷重に基づく調整では、まずキスロール状態において、上作業ロール1と上補強ロール3とからなる上ロール系と、下作業ロール2と下補強ロール4とからなる下ロール系とで、それぞれロールを正転させる。そして、上ロール系の作業側の圧下方向荷重と駆動側の圧下方向荷重が測定される。これらの測定値より、上ロール系の作業側の圧下方向荷重と駆動側の圧下方向荷重との差である圧下方向荷重差が算出される(S326)。ステップS326にて算出された圧下方向荷重差は、圧下方向荷重の基準値とされる。
なお、ステップS324では、作業ロール1、2を回転させたが、本発明はかかる例に限定されず、図9B右側に示すように、作業ロール1、2を回転停止させた状態にしてもよい。このとき、ステップS326では、ロール停止時の上ロール系の作業側の圧下方向荷重と駆動側の圧下方向荷重との差である圧下方向荷重差が算出される。
次に、図9B下側に示すように、キスロール状態で作業ロール1、2の回転が逆転される(S328)。上圧下方向荷重差演算部32は、圧下方向荷重の入力を受けると、それぞれ作業側の圧下方向荷重と駆動側の圧下方向荷重との差である圧下方向荷重差を演算し、演算したロール逆転時の圧下方向荷重差をロール間クロス制御装置23へ出力する。そして、ロール間クロス制御装置23は、ロール逆転時の圧下方向荷重差と、ステップS326にて演算された基準値との偏差に基づき、制御目標値を演算する(S329)。そして、ロール逆転時における上ロール系の作業側と駆動側の圧下方向荷重が測定され、これらの差が算出される(S330)。
ロール間クロス制御装置23は、ステップS330にて演算されたロール逆転時の圧下方向荷重差と、ステップS329にて演算された制御目標値とを比較し、これらが一致するか否かを判定する(S334)。なお、ステップS334の判定においては、ロール逆転時の圧下方向荷重差と制御目標値とが完全に一致する場合だけでなく、ロール逆転時の圧下方向荷重差の圧下方向荷重差の制御目標値からのずれが所定の範囲内である場合も含むものとする。ステップS334にてロール逆転時の圧下方向荷重差が制御目標値と一致しない、または、その許容範囲内にないと判定されると、ステップS330からの処理が再度実行されと、ロール間クロス制御装置23は、ロールチョック位置制御装置16に対して、上作業ロールチョック5及び上補強ロールチョック7の位置を調整するよう指示し(S332)、調整を繰り返す。
ステップS334にて、ロール逆転時の圧下方向荷重差が制御目標値と一致する、または、その許容範囲内にあると判定されると、ロール間クロス制御装置23は、上補強ロール3、上作業ロール1、下作業ロール2及び下補強ロール4のロール間クロスが許容範囲内に調整されたとして、圧下装置27に対して上作業ロール1と下作業ロール2とのロールギャップが所定の大きさとなるように調整させる(S336)。その後、当該圧延機による圧下位置零点調整等が実施され、被圧延材の圧延が開始される。
(B.スラスト反力に基づく調整)
スラスト反力に基づき調整を行う場合には、図9Cに示すように、キスロール状態において、上作業ロール1と上補強ロール3とからなる上ロール系と、下作業ロール2と下補強ロール4とからなる下ロール系とで、それぞれロールを正転させる。このとき、下作業ロール2に作用する圧延方向力を、圧延方向力測定装置25a~25dにより測定する。圧延方向力測定装置25a~25dにより測定された下作業ロール2に作用する圧延方向力は、ロール間クロス制御装置23へ出力される。
ロール間クロス制御装置23は、測定された下作業ロール1に作用する圧延方向力差が許容範囲内となるように、上作業ロールチョック5a、5b及び上補強ロールチョック7a、7bの位置を制御する。ロール間クロス制御装置23は、ロールチョック圧延方向力制御装置15、ロールチョック位置制御装置16に対して、上作業ロールチョック5a、5b及び上補強ロールチョック7a、7bの位置を調整するよう指示する。ロールチョック位置制御装置16により上作業ロールチョック5a、5b及び上補強ロールチョック7a、7bの位置を検出しつつ、ロールチョック圧延方向力制御装置15により、下作業ロール2に作用する圧延方向力差が許容範囲内となるまで上作業ロールチョック5a、5b及び上補強ロールチョック7a、7bの位置が調整される。このとき、上作業ロールチョック5a、5b及び上補強ロールチョック7a、7bは、同時かつ同方向に制御される。
そして、下作業ロール2に作用する圧延方向力差が許容範囲内となったと判定されると、上補強ロール3、上作業ロール1、下作業ロール2及び下補強ロール4のロール間クロスが許容範囲内に調整されたとして、圧下装置27は、上作業ロール1と下作業ロール2とのロールギャップが所定の大きさとなるように調整する。その後、当該圧延機による圧下位置零点調整等が実施され、被圧延材の圧延が開始される。このように、圧延方向力差に基づく調整では、1回で調整を行うことが可能となる。
[3-3.まとめ]
以上、本発明の第2の実施形態に係る圧延機の設定方法について説明した。本実施形態によれば、圧延機に上ロール系または下ロール系のうちいずれか一方にしか荷重検出装置が設けられていない場合であっても、圧延方向力測定装置と組み合わせることで、ロール間クロス角をゼロとするための調整を行うことができる。荷重検出装置による荷重を用いる場合には、ロール正転時とロール逆転時とでは圧下方向荷重差の大きさは略同一であるがその向きが反対となることを利用して、あるいは、ロール停止時には発生しないがロール回転時に現れる圧下方向荷重差に基づいて、圧下方向荷重の差荷からロール間クロス角をゼロとするための基準値を設定する。このような圧延機の調整を圧下位置零点調整または圧延開始前に行うことにより、ロール間クロス角をなくした状態で被圧延材の圧延が行われるため、被圧延材の蛇行及びキャンバーの発生を抑制することができる。
<4.ロール間クロス角、圧下方向荷重差と圧延方向力差との関係>
上述の第1及び第2の実施形態に係る圧延機の設定方法では、ロール間クロスをなくすために、圧延方向力差または圧下方向荷重差がゼロまたは許容範囲内の値となるように、ロールチョックの位置制御を行っている。これは、圧延方向荷重差、圧延方向力差とロール間クロス角との間に、以下に示すような相関があるという知見に基づいている。以下、図10~図21に基づいて、ロール間クロス角、圧下方向荷重差及び圧延方向力差の関係について説明する。
[4-1.ロール正転時及び逆転時の圧下方向荷重差の挙動と制御目標値の演算方法]
上述の第1及び第2の実施形態において、圧下方向荷重差に基づく調整に際して、ロールの正転時と逆転時とにおける圧下方向荷重差の関係を調べた。かかる検討においては、例えば図10に示すように、一対の作業ロール1、2と、これを支持する一対の補強ロール3、4とを有する圧延機において、上作業ロール1と下作業ロール2とを離隔して、作業ロール1、2間のロールギャップを開状態とした。
なお、上作業ロール1は、作業側が上作業ロールチョック5a、駆動側が上作業ロールチョック5bにより支持されている。また、下作業ロール2は、作業側が下作業ロールチョック6a、駆動側が下作業ロールチョック6bにより支持されている。また、上補強ロール3は、作業側が上補強ロールチョック7a、駆動側が上補強ロールチョック7bにより支持されている。また、下補強ロール4は、作業側が下補強ロールチョック8a、駆動側が下補強ロールチョック8bにより支持されている。上作業ロールチョック5a、5b及び下作業ロールチョック6a、6bには、作業ロール1、2が互いに離隔された状態で、インクリースベンディング装置(図示せず。)によりインクリースベンディング力が付与される。
図10に示すように、下作業ロール2と下補強ロール4との間にロール間クロス角が発生している状態で各ロールを回転させると、下作業ロール2と下補強ロール4との間にはスラスト力が発生し、下補強ロール4にモーメントが発生する。このような状態で、本検証ではロールを正転させた場合と逆転させた場合とについて圧下方向荷重を検出した。例えば図11に示すように、ロール正転時及びロール逆転時それぞれにおいて、所定のクロス角変更区間だけ下作業ロールを圧下方向に平行な軸(Z軸)まわりに回転させ、ロール間クロス角を変化させたときの圧下方向荷重を検出した。図11は、作業ロール径80mmの小型圧延機において、下作業ロールのロール間クロス角を駆動側の出側に向くように0.1゜変更したときのロール正転時とロール逆転時との圧下方向荷重差の変化を検出した一測定結果である。各作業ロールチョックに負荷するインクリースベンディング力は0.5tonf/chockとした。
その検出結果をみると、ロール正転時に取得された圧下方向荷重差は、ロール間クロス角変更前と比較して、負の方向に大きくなる。一方、ロール逆転時に取得された駆動側の圧下方向荷重と作業側の圧下方向荷重との圧下方向荷重差は、ロール間クロス角変更前と比較して、正の方向に大きくなる。このように、ロール正転時とロール逆転時とでは圧下方向荷重差の大きさは略同一であるがその向きが反対となる。
そこで、上記の関係に基づき、ロール正転状態を基準として、ロール逆転状態における基準からの偏差の1/2を、上下の作業ロール-補強ロール間のスラスト力がゼロとなる圧下方向荷重差の制御目標値とする。制御目標値は、下記式(1)により表すことができる。
ここで、P’
dfT
Tは上ロール系の制御目標値、P’
dfT
Bは下ロール系の制御目標値である。また、Pdf
T及びP’
df
Tは、ロール正転時及び逆転状態における上ロール系の圧下方向荷重測定値の作業側と駆動側の差であり、Pdf
B及びP’
df
Bは、ロール正転及びロール逆転状態における下ロール系の圧下方向荷重測定値の作業側と駆動側の圧下方向荷重差である。このようにして、上ロール系及び下ロール系の制御目標値を算出することができる。
そこで、上記の関係に基づき、例えばロール正転状態を基準(すなわち、圧下方向荷重差の基準値)として制御目標値を算出し、ロール逆転状態での圧下方向荷重差が制御目標値に一致するようにすることで、ロール間スラスト力をゼロとすることができる。
[4-2.ロール停止及び回転時の圧下方向荷重差の挙動と制御目標値の演算方法]
また、図12に、ロール停止時とロール回転時とにおける、作業側の圧下方向荷重と駆動側の圧下方向荷重との差である圧下方向荷重差の変化を示す。ここでは、下作業ロール2と下補強ロール4との間に所定のロール間クロス角を設け、ロールを停止させた状態での圧下方向荷重を検出し、その後ロールを回転させて圧下方向荷重を検出したときの圧下方向荷重差を示している。なお、図12は、作業ロール径80mmの小型圧延機において、下作業ロールのロール間クロス角を駆動側の出側に向くように0.1゜変更したときのロール正転時とロール逆転時との圧下方向荷重差の変化を検出した一測定結果である。各作業ロールチョックに負荷するインクリースベンディング力は0.5tonf/chockとした。
図12に示すように、ロールを回転させたときの圧下方向荷重差は、ロール停止時の圧下方向荷重差よりも負の方向に大きくなる。このように、ロール停止時とロール回転時とでは圧下方向荷重差が相違する。これは、ロール停止状態において現れている圧下方向荷重差はスラスト力以外の原因によって生じていると考えられるためである。
以上より、ロール停止状態において現れている圧下方向荷重差はスラスト力以外の原因によって生じていると考えられる。これより、ロール停止状態の圧下方向荷重差を基準として制御目標値を設定し、ロールチョック位置を制御することで、上下の作業ロール-補強ロール間のスラスト力をゼロにすることができる。すなわち、制御目標値は、下記式(2)により表わされる。
ここで、Pr
dfT
Tは上ロール系の制御目標値、Pr
dfT
Bは下ロール系の制御目標値である。P0
df
Tは、ロール回転停止状態における上ロール系の圧下方向荷重測定値の作業側と駆動側との圧下方向荷重差であり、P0
df
Bは、ロール回転停止状態における下ロール系の圧下方向荷重測定値の作業側と駆動側との圧下方向荷重差である。なお、ここでいうロール回転状態とは、回転の方向は特に規定しておらず、ロールの回転は正転または逆転のどちらでも構わない。このようにして、上ロール系及び下ロール系の制御目標値を算出することができる。
そこで、上記の関係に基づき、ロール停止時の圧下方向荷重差を制御目標値として、ロール回転時(例えば、ロール逆転時)のロールチョック位置を制御し、ロール逆転状態での圧下方向荷重差が制御目標値に一致するようにすることで、ロール間のスラスト力をゼロとすることができる。
なお、上述の実験結果及び制御目標値の算出方法は、ロールギャップを開状態とした場合に作業ロールと補強ロールとの間に作用するスラスト力が圧下方向荷重差へ及ぼす影響を現したものである。キスロール状態においても、作業ロールと補強ロールとの間のロール間クロス角が調整された状態であれば、上下の作業ロール間に作用するスラスト力が圧下方向荷重差へ及ぼす影響は開状態の場合と同様であり、制御目標値の算出方法も同様に適用できる。
[4-3.ロールギャップ開状態でのロール間クロス角、圧下方向荷重差と圧延方向力差との関係]
図13~図16に基づいて、作業ロールのロールギャップが開状態である場合での、ロール間クロス角と、圧下方向荷重差及び圧延方向力差との関係について説明する。図13は、ロールギャップが開状態である圧延機の、作業ロール1、2及び補強ロール3、4の配置を示す説明図である。図14は、ロール間クロス角の定義を示す説明図である。図15及び図16は、作業ロール径80mmの小型圧延機において行った実験結果である。図15は、ロールギャップ開状態での、作業ロールクロス角と圧下方向荷重差との一関係を示すグラフである。図16は、ロールギャップ開状態での、作業ロールクロス角と補強ロールの圧延方向力差との一関係を示すグラフである。
なお、図15では、上下の補強ロールの圧下方向荷重差は、補強ロールクロス角を増加方向に設定した場合と減少方向に設定した場合とについてそれぞれ測定し、増加方向での測定値と減少方向での測定値とを平均化した値を表示している。同様に、図16において、上下の作業ロール圧延方向力差は、作業ロールクロス角を増加方向に設定した場合と減少方向に設定した場合とについてそれぞれ測定し、増加方向での測定値と減少方向での測定値とを平均化した値を表示している。
本実験では、図13に示すように、上作業ロール1と下作業ロール2とのロールギャップを開状態として、作業ロールチョックに対してインクリースベンディング装置によりインクリースベンディング力を負荷した状態を形成する。そして、上作業ロール1及び下作業ロール2のクロス角をそれぞれ変化させたときの、圧下方向荷重差と補強ロール圧延方向力差とについて変化を調べた。作業ロールのクロス角は、図14に示すように、ロール胴長方向に延びるロール軸Arollの作業側が、幅方向(X方向)から出側に向く方向を正として表す。また、インクリースベンディング力は、1ロールチョック当たり0.5tonf負荷した。
その結果、図15に示すように、上作業ロール1及び下作業ロール2のクロス角を、負の角度から、角度ゼロ、正の角度、と次第に大きくしていくと、圧下方向荷重差は次第に値が大きくなるという関係があることがわかった。この際、圧下方向荷重差は、作業ロールのクロス角がゼロであるとき、当該値もほぼゼロとなることが確認された。したがって、ロールギャップを開状態にしてインクリースベンディング力を負荷した状態では、圧下方向荷重差から、各ロール系の補強ロールと作業ロールとのロール間クロス角に起因するスラスト力の影響を把握することが可能であるといえる。そして、これらの値がゼロとなるようにロールチョックの位置を制御することで、ロール間スラスト力を低減することが可能であることがわかる。
また、図16に示すように、上作業ロール1及び下作業ロール2のクロス角を、負の角度から、角度ゼロ、正の角度、と次第に大きくしていくと、作業ロール圧延方向力差についてはクロス角が-0.2°~0.2°の範囲では次第に値が大きくなるという関係があることがわかった。そして作業ロール圧延方向力差は、作業ロールのクロス角が0°であるとき、これらの値もゼロとなることが確認された。
したがって、ロールギャップを開状態にしてインクリースベンディング力を負荷した状態では、作業ロール圧延方向力差の値から、各ロール系の補強ロールと作業ロールとのロール間クロス角に起因するスラスト力の影響を把握することが可能であるといえる。そして、これらの値がゼロとなるようにロールチョックの位置を制御することで、ロール間スラスト力を低減することが可能であることがわかる。
[4-4.キスロール状態でのロール間クロス角と、圧下方向荷重差及び圧延方向力差との関係(ペアクロス有)]
次に、図17~図19に基づいて、作業ロールがキスロール状態である場合での、ロールペアクロス角と、圧下方向荷重差及び圧延方向力差との関係について説明する。図17は、キスロール状態にされた圧延機の、作業ロール1、2及び補強ロール3、4の配置を示す説明図である。図18は、キスロール状態での、作業ロールと補強ロールとのペアクロス角と圧下方向荷重差との一関係を示すグラフである。図19は、キスロール状態での、作業ロールと補強ロールとのペアクロス角、上下の補強ロール圧延方向力差、及び、上下の作業ロール圧延方向力差の一関係を示すグラフである。
なお、図18は上下の補強ロールの圧下方向荷重差は、作業ロールと補強ロールとのペアクロス角を増加方向に設定した場合と減少方向に設定した場合とについてそれぞれ測定し、増加方向での測定値と減少方向での測定値とを平均化した値を表示している。また、図19において、上下の補強ロール圧延方向力差、及び、上下の作業ロール圧延方向力差は、ペアクロス角を増加方向に設定した場合と減少方向に設定した場合とについてそれぞれ測定し、増加方向での測定値と減少方向での測定値とを平均化した値を表示している。
ここでは、図17に示すように、上作業ロール1と下作業ロール2とをキスロール状態として、作業ロールと補強ロールとのペアクロス角をそれぞれ変化させたときの圧下方向荷重差の変化を調べた。このとき、キスロール締め込み荷重は6.0tonf(片側3.0tonf)とした。
その結果、図18に示すように、圧下方向荷重差は、ペアクロス角を、負の角度から、角度ゼロ、正の角度、と次第に大きくしていくと、ペアクロス角の変化に対応し変化し、ペアクロス角がゼロのとき、圧下方向荷重差もゼロとなることがわかった。これより、キスロール締め込み荷重を付与した状態では、圧下方向荷重差から上下作業ロール間のクロスに起因するスラスト力の影響を検出することが可能であるといえる。そして、これらの値がゼロとなるように上下それぞれの作業ロールと補強ロールとを一体としてロールチョック位置を制御することによって、上下作業ロール間スラスト力を低減できる可能性があることが確認された。
また、図19に示すように、ペアクロス角を、負の角度から、角度ゼロ、正の角度、と次第に大きくしていくと、作業ロール及び補強ロールのクロス角の変化に伴い補強ロール及び作業ロールの圧延方向力差が変化し、ペアクロス角がゼロのとき、これらの測定値もほぼゼロとなることがわかった。これより、キスロール締め込み荷重を付与した状態では、作業ロール圧延方向力差から、上下作業ロール間のクロスに起因するスラスト力の影響を検出することが可能であるといえる。そして、これらの値がゼロとなるように上下それぞれの作業ロールと補強ロールとを一体としてロールチョック位置を制御することによって、上下作業ロール間スラスト力を低減できる可能性があることが確認された。
なお、作業ロールの圧延方向力差については、極値を取って増加減する挙動が見られるが、クロス角が0°のときには圧延方向力差はほぼゼロになっている。ロールチョック位置制御の対象は±0.1°以下であり、その範囲における圧延方向力差がゼロとなるようにロールチョックの位置を制御することにより、ロール間荷重分を一様とすることができ、ロール間スラスト力を抑制できる。
[4-5.キスロール状態でのロール間クロス角と圧延方向差との関係(ペアクロス無)]
次に、図20及び図21に基づいて、作業ロールがキスロール状態である場合での、ロール間クロスと圧延方向差との関係について説明する。図20は、キスロール状態にされた圧延機の、作業ロール1、2及び補強ロール3、4の配置を示す説明図である。図21は、キスロール状態での、補強ロールクロス角と補強ロール圧延方向力差との一関係を示すグラフである。なお、図21において、補強ロール圧延方向力差は、補強ロールクロス角を増加方向に設定した場合と減少方向に設定した場合とについてそれぞれ測定し、増加方向での測定値と減少方向での測定値とを平均化した値を表示している。
ここでは、図20に示すように、上作業ロール1と下作業ロール2とをキスロール状態として、上補強ロール3及び下補強ロール4のクロス角をそれぞれ変化させたときの、補強ロール圧延方向力差の変化を調べた。このとき、キスロール締め込み荷重は0.5tonfとした。補強ロールのクロス角は、図に示すように、ロール胴長方向に延びるロール軸Arollの作業側が、幅方向(X方向)から出側に向く方向を正として表す。
その結果、図21に示すように、上補強ロール3及び下補強ロール4のクロス角を、負の角度から、角度ゼロ、正の角度、と次第に大きくしていくと、補強ロール圧延方向力差についてはクロス角が-0.2°~0.2°の範囲ではクロス角と同様に値が大きくなることがわかった。そして、補強ロール圧延方向力差について、補強ロールのクロス角がゼロであるとき、これらの値もゼロに近づくことが確認された。なお、一般に、微小クロス角は±0.1°以下であり、クロス角の調整においてはその範囲における圧延方向力差の挙動を確認すれば十分である。
クロス角に伴い圧延方向力差が変化する理由としては、ロール間スラスト力によりモーメントがバランス状態となるようにロール間の荷重分布が変化し、このロール間の荷重分布の左右差により、ロール間の接線力に左右差が生じるためであると考えられる。したがって、圧延方向力差がゼロとなるようにロールチョックの位置を制御することにより、ロール間荷重分を一様とすることができ、ロール間スラスト力を抑制できる。
したがって、キスロール状態において締め込んだ状態では、補強ロール圧延方向力差の値から、各ロール系の補強ロールと作業ロールとのロール間クロス角に起因するスラスト力の影響を把握することが可能であるといえる。そして、これらの値がゼロとなるようにロールチョックの位置を制御することで、ロール間スラスト力を低減することが可能であることがわかる。
図2に示す構成の熱間仕上圧延機の第5~第7スタンドについて、ロール間クロスによるロール間スラスト力の影響を考慮した圧下レベリング設定に関して、従来法と本発明の方法との比較を行った。
まず、従来法では、本発明のロール間クロス制御装置の機能は用いずに、定期的にハウジングライナー及びチョックライナーの交換を行い、ロール間クロスが生じないように設備管理を行った。その結果、ハウジングライナーの交換直前の時期において、仕上出側板厚1.2mm、幅1650mmの薄物広幅材を圧延したときに、第6スタンドにおいて100mm以上の蛇行が生じ、これによる絞り込みが発生した。
一方、本発明の方法では、上記第1の実施形態に係るロール間クロス制御装置の機能を用いて、キスロール締め込み状態で、上ロール系の圧延方向力を測定するとともに、下ロール系の作業側及び駆動側の圧下方向荷重を測定した。そして、図3A及び図3Bに示す処理フローに従い、圧延前に圧延方向力差及び圧下方向荷重差が予め設定した許容範囲内に入るように各ロールのロールチョック位置を制御した。その結果、ハウジングライナーの交換直前の時期においても、従来法で絞り込みが生じた仕上出側板厚1.2mm、幅1650mmの薄物広幅材を圧延した場合でも、19mm以下の蛇行の発生に留まり、被圧延材に絞りを発生させることなく圧延ラインを通板させることができた。
以上のように、本発明の方法では、圧延機に上ロール系または下ロール系のうちいずれか一方にしか圧下方向荷重検出装置が設けられていない場合であっても、圧延方向力測定装置と組み合わせ、適正なロジックに基づき圧延方向力差及び圧下方向荷重差が許容範囲内に入るように、基準ロールに対して各ロールのロールチョック位置を制御する。これにより、ロール間クロス自体を無くし、ロール間クロスに起因するスラスト力によって生じる被圧延材の左右非対称変形が排除できる。したがって、蛇行及びキャンバーのない、あるいは蛇行及びキャンバーの極めて軽微な金属板材を、安定して製造することができる。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
例えば、上記実施形態では、例えば図2に示すように、作業ロールチョックの圧延方向における位置を検出するロールチョック位置検出機能付の駆動装置を用いたが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、ロールチョック位置検出装置の代わりに、回転角検出機能付サーボモータを用いても、作業ロールチョックの圧延方向における位置を測定することができる。すなわち、図22に示す上作業ロール1及び上作業ロールチョック5のように、上作業ロールチョック5の圧延方向において、上作業ロールチョック位置検出機能付駆動装置11と対向するように、回転角検出機能付サーボモータ34を設けてもよい。また、ベンディング装置についても、圧下方向に力を作用させる装置であればよく、例えば油圧ジャッキでもよい。
また、上記実施形態では、一対の作業ロールと、一対の補強ロールとを備える4段の圧延機について説明したが、本発明は、4段以上の圧延機に対して適用可能である。この場合にも、圧延機を構成するロールのいずれか1つを基準ロールとして設定すればよい。例えば、6段圧延機の場合、作業ロール、中間ロールまたは補強ロールのいずれかを基準ロールとして設定し得る。このとき、4段圧延機の場合と同様、圧下方向に配列された各ロールのうち、最下部または最上部に位置するロールを基準ロールとするのが好ましい。