JP7127084B2 - 生理食塩水に可溶な耐熱性無機繊維 - Google Patents

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Description

本発明は、生理食塩水への溶解性があり、且つ1300℃以上の高い耐熱性を有する無機繊維に関する。
繊維状の形態を有する無機物からなる無機繊維のうち、セラミック系無機繊維は軽量で扱いやすく、耐熱性にも優れるため、主に耐火や断熱を目的とした工業材料として様々な分野で多岐にわたって使用されている。また、セラミック系無機繊維は様々な形状に加工することができ、ブランケット、ボード、ペーパー、ブロックなどの定形物、スラリー状、練り物状などの不定形物の形態に加工される。
上記セラミック系無機繊維のうち、特にシリカ及びアルミナを主成分とし、耐熱性が1260℃程度の人造鉱物繊維であるセラミックファイバーが知られている。セラミックファイバーは、アスベストの代替品として使用されてきたが、人体に吸入されることで健康障害が起こる可能性が指摘されている。そこで、生理食塩水に可溶で且つセラミックファイバーと同水準の耐熱性を有する無機繊維が求められている。すなわち、人体に吸入しても体液により溶解するのであれば健康障害を起こしにくいと考えられるので、体液である生理食塩水に対する溶解性が高い無機繊維の需要が高まっており、その研究開発がすすめられている。
例えば特許文献1及び特許文献2には、SiOを主成分とし、更にアルカリ土類金属酸化物であるMgO、CaO、及びSrOを含む無機繊維であって、これらアルカリ土類金属酸化物の含有量を制御することによって生理食塩水に可溶にすると共に、セラミックファイバーと同水準の耐熱性(1260℃)を含有する生体溶解性の無機繊維が開示されている。
特許第3995084号公報 特許第4019111号公報
近年、各種産業においてより高い温度で熱処理を行う場合が増えており、また、セラミック系無機繊維の用途も広がっている。そのため、セラミック系無機繊維には前述した生理食塩水への溶解性を有し、且つ1260℃よりも高温での耐熱性が求められている。本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、生理食塩水に可溶な生体溶解性を有し、且つ1300℃以上の耐熱性を有する無機繊維を提供することを目的としている。
上記目的を達成するため、本発明者は無機繊維の成分や組成を様々に変えてそれらの耐熱性及び生体溶解性について鋭意研究をすすめた結果、シリカを主成分とする無機繊維中に、アルカリ土類金属酸化物、複数種類のアルカリ金属酸化物、及びアルミナを含有させると共に、該アルミナに対する該複数種類のアルカリ金属酸化物の比率を所定の範囲内に制御することによって、優れた耐熱性と生体溶解性とを併せ持つ無機繊維が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明に係る耐熱性無機繊維は、SiOを70質量%以上80質量%以下含有し、MgOを17質量%以上25質量%以下含有し、SrOを0質量%を超え2質量%以下含有し、Alを2質量%を超え3質量%以下含有し、CaOを1質量%以下含有し、LiO、NaO、及びKOを各々0.04質量%以上含有する無機繊維であって、該LiO、NaO、及びKOの合計含有率が0.3質量%以上1質量%以下であり、LiO、NaO、及びKOの合計モル数をAlモル数で除したモル比(LiO+NaO+KO)/Alが0.3以上0.7以下であることを特徴としている。
本発明によれば、1300℃以上の耐熱性と優れた生体溶解性とを併せ持った無機繊維を提供することができる。
以下、本発明に係る生理食塩水に可溶な耐熱性無機繊維の実施形態について説明する。この本発明の実施形態の耐熱性無機繊維は、必須成分として、主成分のシリカ(SiO)と、アルカリ土類金属酸化物のMgO及びSrOと、アルカリ金属酸化物のLiO、NaO及びKOと、アルミナ(Al)とを含んでいる。この耐熱性無機繊維は、ブランケット、ボード、ペーパー、ブロック等の定形物、スラリー状、練り物状などの不定形物の形態で主に断熱材として使用される。
上記無機繊維中における上記必須成分の含有率は、SiOが70質量%以上80質量%以下であり、MgOが17質量%以上25質量%以下であり、SrOが0質量%を超え2質量%以下であり、Alが2質量%を超え3質量%以下であり、CaOが1質量%以下であり、LiO、NaO及びKOが各々0.04質量%以上であって且つこれらLiO、NaO及びKOの合計含有率が0.3質量%以上1質量%以下である。更に、これらLiO、NaO及びKOの合計モル数を上記Alのモル数で除したモル比(LiO+NaO+KO)/Alが0.3以上0.7以下である。
上記組成を有する無機繊維は、1300℃以上の耐熱性と優れた生体溶解性とを併せ持つ特徴を有している。ここで、無機繊維がT℃の耐熱性を有する又は耐熱温度T℃とは、後述するように欧州規格のEN-1091に準拠して該無機繊維を雰囲気温度T℃で24時間加熱したときの加熱線収縮率が4%を超えない場合と定義する。また、無機繊維が優れた生体溶解性を有するとは、後述するように該無機繊維の生理食塩水への溶解速度定数が、閾値として定めた100ng/cm・h以上である場合と定義する。
上記のSiOの含有率が70質量%未満では所望の耐熱性が得られにくくなり、逆に80質量%を超えると優れた生体溶解性が得られにくくなる。上記MgOの含有率が17質量%未満では優れた生体溶解性が得られにくくなり、逆に25質量%を超えると所望の耐熱性が得られにくくなる。上記SrOが含まれることでより生体溶解性が向上するが、2質量%を超えると所望の耐熱性が得られにくくなる。上記Alの含有率が2質量%を超え3質量%の範囲内で含まれることによって、後述するアルカリアルミノシリケート結晶を生成することができ、無機繊維の耐熱性を向上させることができる。Alの含有率が2質量%未満ではアルカリアルミノシリケート結晶を十分に生成できなくなり、逆に3質量%を超えると生体溶解性が低下するおそれがある。
また、アルカリ金属酸化物としての上記LiO、NaO及びKOを、上記の含有率で無機繊維に含有させることによって、該無機繊維の耐熱性を高めることができる。すなわち、主成分のシリカに加えてアルカリ金属酸化物を含有する無機繊維は、800℃以上に加熱されたときに結晶化、軟化、及び繊維同士の融着といった現象が起こり、該無機繊維の構造体に収縮が生ずる。しかしながら、これら3つの現象は必ずしも同時に起こるわけではない。
そこで、本発明の実施形態の無機繊維は、上記したようにLiO、NaO及びKOの3種類のアルカリ金属酸化物を上記の条件で含有させることで上記の3つの現象のバランスを制御しており、これにより無機繊維全体として収縮を抑えている。具体的にはLiO、NaO及びKOの3種類のアルカリ金属酸化物を、各々0.04質量%以上含有させ且つこれらの合計含有量を0.3質量%以上1質量%以下にすると共に、これらアルカリ金属酸化物の合計モル数をアルミナのモル数で除したモル比を0.3以上0.7以下の範囲にする。
かかる条件の下で3種類のアルカリ金属酸化物を無機繊維に含有させることで、これら3種類のアルカリ金属酸化物が各々アルミナ及びシリカを伴って生成するアルカリアルミノシリケート結晶を、加熱昇温時に順番に結晶化させることができる。これにより、広い温度範囲で無機繊維の軟化を抑制することができる。上記3種類のアルカリ金属酸化物の各々の含有率が0.04質量%未満であったり、合計含有率が0.3質量%未満であったりした場合は、上記の収縮抑制の効果がほとんど得られなくなる。逆に上記の合計含有率が1質量%を超えると所望の耐熱性が得られにくくなる。
上記のアルミナに対するアルカリ金属酸化物のモル比である(LiO+NaO+KO)/Alが0.3より小さいと、上記結晶化が十分に起こる前に軟化が生じるため、結果的に無機繊維全体としての収縮が大きくなる。逆に、上記アルミナに対するアルカリ金属酸化物のモル比が0.7より大きいと、シリカとアルカリ金属酸化物とからなる低融点化合物の発生量が増加することで、繊維同士の融着が増加し、結果的に無機繊維全体としての収縮が大きくなる。
本発明の実施形態の無機繊維は、アルカリ土類金属酸化物のカルシア(CaO)を1質量%以下の範囲で含有してもよい。カルシア(CaO)はマグネシア(MgO)とほぼ同様の特性を有しているので、CaOを含有させることで無機繊維の生体溶解性を高めることができる。但し、CaOの含有率が1質量%を超えると、無機繊維の耐熱性が低下するおそれがある。
上記した本発明の実施形態の無機繊維は、一般的なスピニング法やブローイング法で作製することができる。スピニング法は、上記の含有率となるように配合した複数種類の原料を混合し、得られた混合物を電気炉に導入して溶融することで溶融体とし、これを炉底から流出させて高速で回転するローターの遠心力で繊維化する方法である。一方、ブローイング法は上記の炉底から流出させた溶融体を高圧空気又は水蒸気で吹き飛ばして繊維化する方法である。
上記方法で作製されたバルク(原綿)状の繊維は、マット状に集綿され、必要に応じて減摩剤(潤滑油)を添加した後、ニードリングによりブランケット状に加工される。なお、上記のニードリング前に添加した減摩剤は、加熱処理により除去することができる。加熱炉等の断熱材の用途に使用する場合は、上記のブランケット状の無機繊維をアコーディオン状に折り畳み、金属製の支持具と一体化させたブロックの形態に加工することが一般的である。
上記の定形物のほか、スラリー状や練り物状(ペースト状)の不定形物に加工されることもある。スラリー状の無機繊維は、上記バルク状の無機繊維に無機バインダー及び適量の水を添加して混合することで作製することができる。一方、練り物状の無機繊維は、上記バルク状の無機繊維に無機バインダー及び必要に応じて増粘剤等の添加物を添加して混練することにより作製することができる。上記のスラリー状の無機繊維は、更に真空吸引又はプレスにより脱水する湿式成形法により、ボード状やペーパー状の定形物に成形することができる。
SiO、MgO、CaO、SrO、Al、LiO、NaO、及びKOを様々な配合割合で混合し、スピニング法により試料1~22のブランケット状の無機繊維を作製した。得られたブランケット状の無機繊維の化学成分を蛍光X線分析法及びICP質量分析法(Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry)により測定した。更に下記に示すように、加熱線収縮率により耐熱性を評価し、生理食塩水に対する単位表面積当たりの溶解速度により生体溶解性を評価した。
(耐熱性の評価)
EUROPEAN STANDARD EN-1091(Insulating Refractory Products-Part1:Terminology Classification and Methods of Test for High Temperature Insulation Wool Products)に従い、24時間加熱後の加熱線収縮率を測定し、加熱線収縮率が4%を超えない最大の加熱温度を求め、得られた最高温度を50℃毎の幅で分類した耐熱温度で耐熱性を評価した。
(生体溶解性の評価)
粉砕した各試料の無機繊維2gを、別々に用意した300gの生理食塩水中に浸漬させて液温40℃に維持して48時間温浴させた後、該生理食塩水から取り出してろ過及び乾燥し、該温浴前からの質量減少率から溶解度(単位時間当たりの溶出量)を測定した。この溶解度は繊維の表面積の違いによる影響が出ると考えられるため、以下の方法で表面積を求めて単位表面当たりに換算した。
すなわち、サンプリングした各試料を走査電子顕微鏡SEMで撮像することで得たSEM画像内において、任意の200本の無機繊維を各々測定して得た任意の部位の幅を算術平均して求めた平均繊維径と、任意の100本の無機繊維を各々測定して得た端から端までの直線距離を算術平均して求めた平均繊維長とを用いて無機繊維1本当たりの平均表面積を求め、更に該SEM画像から推定した単位体積中の無機繊維の本数及び予め測定しておいた無機繊維のかさ密度から各試料の単位質量当たりの表面積を求めた。この表面積に基づいて単位表面積・単位時間当たりの溶出量である溶解速度定数k(単位:ng/cm・h)に換算した。そして、溶解速度定数kが100ng/cm・hを閾値に定め、この閾値以上を「可」と評価し、この閾値未満を「不可」と評価した。
上記にて評価した試料1~22の無機繊維の評価結果を化学成分及びアルミナに対するアルカリ金属酸化物のモル比と併せて下記表1及び表2に示す。なお、表1は、本発明の要件を満たす実施例としての試料1~10の無機繊維の結果であり、表2は本発明の要件を満たしていない比較例としての試料11~22の無機繊維の結果である。
Figure 0007127084000001
Figure 0007127084000002
上記表1から分かるように、本発明の実施例の試料1~10は、いずれもSiOの含有率が70質量%以上80質量%以下の範囲内、MgOの含有率が17質量%以上25質量%以下の範囲内、SrOの含有率が0質量%を超え2質量%以下の範囲内、Alの含有率が2質量%を超え3質量%以下の範囲内であり、CaOの含有率が1質量%以下であり、LiO、NaO、及びKOの含有率が各々0.04質量%以上であって、これら合計の含有率であるLiO+NaO+KOが0.3質量%以上1質量%以下の範囲内であり、かつ、LiO+NaO+KOのAlに対するモル比(LiO+NaO+KO)/Alが0.3以上0.7以下の範囲内であるため、本発明の要件を満たしており、よって耐熱性の評価では、耐熱温度が全て基準値の1300℃以上であった。また、生体溶解性の評価では、溶解速度定数が100ng/cm・h以上あり、全て「可」であった。
一方、比較例の試料11は、SiOの含有率が81質量%であったため、溶解速度定数が100ng/cm・h未満になり、生体溶解性の評価が「不可」であった。比較例の試料12は、SiOの含有率が69質量%であったため、耐熱性評価において、加熱線収縮率が大きくなって耐熱温度が1150℃になり、基準値の1300℃より低くなった。
比較例の試料13は、MgOの含有率が26質量%であったため、耐熱性評価において、加熱線収縮率が大きくなって耐熱温度が1250℃になり、基準値の1300℃より低くなった。比較例の試料14は、MgOの含有率が16質量%であったため、溶解速度定数が100ng/cm・h未満になり、生体溶解性の評価が「不可」であった。
比較例の試料15は、SrOの含有率が2.1質量%であったため、耐熱性評価において、加熱線収縮率が大きくなって耐熱温度が1250℃になり、基準値の1300℃より低くなった。比較例の試料16は、SrOの含有率が0質量%であったため、溶解速度定数が100ng/cm・h未満になり、生体溶解性の評価が「不可」であった。
比較例の試料17は、Alの含有率が3.2質量%であったため、耐熱性評価において、加熱線収縮率が大きくなって耐熱温度が1000℃になり、基準値の1300℃より低くなり、更に溶解速度定数が100ng/cm・h未満になり、生体溶解性の評価が「不可」であった。比較例の試料18は、Alの含有率が1.8質量%であったため、耐熱性評価において、加熱線収縮率が大きくなって耐熱温度が1200℃になり、基準値の1300℃より低くなった。
比較例の試料19は、LiO、NaO、及びKOの合計含有率が1.1質量%であったため、耐熱性評価において、加熱線収縮率が大きくなって耐熱温度が1000℃になり、基準値の1300℃より低くなった。比較例の試料20は、LiO、NaO、及びKOの含有率が0.28質量%であったため、耐熱性評価において、加熱線収縮率が大きくなって耐熱温度が1250℃になり、基準値の1300℃より低くなった。
比較例の試料21は、CaOの含有率が1.1質量%であったため、耐熱性評価において、加熱線収縮率が大きくなって耐熱温度が1200℃になり、基準値の1300℃より低くなった。
比較例の試料22は、LiO+NaO+KOのAlに対するモル比(LiO+NaO+KO)/Alが0.8であったため、耐熱性評価において、加熱線収縮率が大きくなって耐熱温度が1200℃になり、基準値の1300℃より低くなった。
上記に示す如く、本発明の要件を全て満たす実施例の試料1~10の無機繊維は優れた耐熱性と優れた生体溶解性を有しているのに対して、本発明の要件の少なくともいずれかを満たしていない比較例の試料11~22の無機繊維は、耐熱性又は生体溶解性が実施例の無機繊維に比べて劣っていた。

Claims (4)

  1. SiOを70質量%以上80質量%以下含有し、MgOを17質量%以上25質量%以下含有し、SrOを0質量%を超え2質量%以下含有し、Alを2質量%を超え3質量%以下含有し、CaOを1質量%以下含有し、LiO、NaO、及びKOを各々0.04質量%以上含有する無機繊維であって、該LiO、NaO、及びKOの合計含有率が0.3質量%以上1質量%以下であり、LiO、NaO、及びKOの合計モル数をAlのモル数で除したモル比(LiO+NaO+KO)/Alが0.3以上0.7以下であることを特徴とする無機繊維。
  2. EUROPEAN STANDARD EN-1091に従って測定した耐熱性の指標となる耐熱温度が1300℃以上である、請求項1に記載の無機繊維。
  3. 40℃の生理食塩水に48時間浸漬したときの溶解速度定数が100ng/cm・h以上である、請求項1又は2に記載の無機繊維。
  4. 請求項1~3のいずれか1項に記載の無機繊維を用いた定形物又は不定形物の形態を有する断熱材。

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