<第1実施形態>
<車両用シート10の構造>
以下、図面を参照しながら第1実施形態の車両用シート10について説明する。なお、各図に示す矢印FR、矢印UP、矢印RHは、車両の前方向(進行方向)、上方向、右方向をそれぞれ示している。また、各矢印FR、UP、RHの反対方向は、車両後方向、下方向、左方向を示す。以下、単に前後、左右、上下の方向を用いて説明する場合は、特に断りのない限り、車両前後方向の前後、車両左右方向(車両幅方向)の左右、車両上下方向の上下を示すものとする。なお、本実施形態では、車両用シート10が運転席である場合について説明するが、この車両用シート10は、助手席などの運転席以外の車両用シートとしても適用可能である。
図1,2に示すように、車両用シート10は、シートクッションフレーム12(以下、Cフレーム12と言う)と、シートクッション14と、シートバックフレーム20(以下、Bフレーム20と言う)と、シートバックサブフレーム22(以下、Sフレーム22と言う)と、シートバック36とを備えている。ここで、車両用シート10は、リクライニング機構などの移動機構を有し、シートバック36は、シートクッション14に対し、回動自在になっている。なお、シートクッション14をシートバック36に対し回動自在にしてもよく、両方の回動が可能であってもよい。また、上述したような両者の相対的な回動は、厳密に円弧状でなくてもよい。
Cフレーム12は、左右に配置されて前後方向に延びるサイドメンバ12aと、サイドメンバ12aの前後でサイドメンバ12aを左右方向に接続するパイプ12b,12cで構成される四角い枠状の骨格部材である。Cフレーム12は、スライドレール16を介して車両の床18に取り付けられている。
Cフレーム12の上側には、乗員60の臀部67及び大腿部66を支持するシートクッション14が取り付けられている。また、Cフレーム12の後端部には、正面視で逆U字形の骨格部材であるBフレーム20の下端部が取り付けられている。
Bフレーム20の前方にはSフレーム22が取り付けられている。Sフレーム22は、左右両側で上下方向に延びる縦部材24と、縦部材24の上下方向の中央やや上側で左右の縦部材24を接続する上横部材26と、縦部材24の下端で左右の縦部材24を接続する下横部材28とを井桁状に構成した骨格部材である。Sフレーム22は、縦部材24に設けられた上ブラケット27と下ブラケット29とでBフレーム20の前方に取り付けられている。
Sフレーム22の前方側には、シートバック36が取り付けられている。シートバック36は、Bフレーム20のシートクッション14よりも上側部分と同様の大きさで中央部が後方に向かって凹んだ四角いお椀状の板部材である。シートバック36は、樹脂等の弾性部材で構成されている。シートバック36の左右の側端部分は、Sフレーム22の両側の縦部材24に取り付けられている。シートバック36の上端部は、Bフレーム20の上端部にスライド自在に支持されている。
図2に示すように、乗員60が着座すると、乗員60の脊椎の仙骨63を含む部分からの後ろ向きの荷重、仙骨63の上側のハッチングを入れた腰椎64を含む部分からの後ろ向きの荷重、腰椎64の上側の胸椎65を含む部分からの後ろ向きの荷重は、それぞれシートバック36の仙骨支持部36S、腰椎支持部36Y、胸椎支持部36Kで支持される。
<弾性力調整手段の構成>
次に、弾性力を調整する弾性力調整手段40について説明する。図3に示すように、弾性力調整手段40は、下部33、中部34、上部35とで構成される荷重受ワイヤ部30と、各部33、34、35の各ワイヤ32S,32Y,32Kの各張力を調整する3つの張力調整機構50と、各ワイヤ32S,32Y,32Kの張力を検出する3つの張力センサ49と、車両の走行状況を検出する走行状況検出部42と、各張力センサ49と走行状況検出部42とが検出したデータにより張力調整機構50を動作させる制御装置である制御部41と、で構成される。制御部41は、供給されてくるデータを処理して制御信号を出力するマイクロコンピュータであり、ECU(エレクトロニック(Electronic Control Unit))などと称されるハードウェアを採用するとよい。
図1,2に示すように、荷重受ワイヤ部30は、Sフレーム22の各縦部材24の間にシートバック36の幅方向に複数条のワイヤ32が張り渡されたもので、Sフレーム22とシートバック36との間に配置されている。
荷重受ワイヤ部30は、シートバック36の仙骨支持部36S、腰椎支持部36Y、胸椎支持部36Kにそれぞれ対応する下部33、中部34、上部35の3つの部分で構成されている。各部33,34,35は、それぞれ、Sフレーム22の両側の縦部材24に回転自在に取り付けられた複数のプーリ31に1本のワイヤ32S,32Y,32Kを複数回折り返して巻き掛けて、各縦部材24の間に複数条にワイヤ32S,32Y,32Kが張り渡されるようにしたものである。本実施形態の車両用シート10では、各部33,34,35には、それぞれワイヤ32S,32Y,32Kが6条に張り渡されている。
図2に示すように、乗員60が車両用シート10に着座して、後ろ向きの荷重がシートバック36に加わると、シートバック36は弾性で後方に撓む。そして、乗員60の背部61からの後ろ向きの荷重は、シートバック36の後方に配置されている各部33,34,35の各ワイヤ32S,32Y,32Kに伝達され、各ワイヤ32S,32Y,32Kに引張力が加わる。そして、シートバック36の仙骨支持部36S、腰椎支持部36Y、胸椎支持部36Kに加わる荷重は、シートバック36の仙骨支持部36S、腰椎支持部36Y、胸椎支持部36Kに対応する各部33,34,35の各ワイヤ32S,32Y,32Kに伝達され、各ワイヤ32S,32Y,32Kの引張力により支持される。
従って、下部33、中部34、上部35の各ワイヤ32S,32Y,32Kの各張力を調整することにより乗員60の仙骨63、腰椎64、胸椎65をそれぞれ支持するシートバック36の仙骨支持部36S、腰椎支持部36Y、胸椎支持部36Kの弾性力を調整することができる。なお、乗員60は、シートバック36の各支持部の弾性力を着座圧力として感知する。
図4に示すように、各張力調整機構50には、各ワイヤ32S,32Y,32Kを巻き取る巻き取り機構51が取り付けられている。巻き取り機構51は、ケーシング52と、ケーシング52の開口53からケーシング52の内部に引き込まれたワイヤ32S,32Y,32Kが巻き付けられるリール54と、リール54を回転駆動させるモータ57とで構成されている。リール54に取り付けられた回転軸55は、ケーシング52に回転自在に取り付けられ、一端にモータ57が接続されており、モータ57が回転するとリール54が回転する。ワイヤ32S,32Y,32Kの各一端はリール54のワイヤ固定点56に固定されており、図4(a)でリール54が時計方向に回転するとリール54の外周にワイヤ32が巻き付けられ、各ワイヤ32S,32Y,32Kの張力が大きくなる。また、図4(a)でリール54が反時計周りに回転すると各ワイヤ32S,32Y,32Kがリール54から繰り出されて各ワイヤ32S,32Y,32Kの張力が低下する。モータ57は、図3に示す制御部41に接続され、制御部41の指令によって時計回りあるいは反時計周りに回転する。
張力センサ49は、各ワイヤ32S,32Y,32Kに取り付けられたひずみケージ等により各ワイヤ32S,32Y,32Kに掛かる張力を検出する。なお、張力センサ49は、各ワイヤ32S,32Y,32Kに直接取り付けたものではなく、例えば、各ワイヤ32S,32Y,32Kが張り渡されているSフレーム22の部分に取り付けられてSフレーム22の変形を検出することによって各ワイヤ32S,32Y,32Kの張力を検出するものでもよい。
走行状況検出部42は、車両の走行状況を検出する様々なセンサで構成されている。図3には、一例として、障害物を検出するミリ波レーダ43、高速走行を検出する車速センサ44、旋回走行を検出する横Gセンサ45、車両の衝突状況、加速、減速状況を検出するドア圧力センサ46、Gセンサ47、車両の走行位置を検出するGPS装置48で構成される走行状況検出部42を示す。
<弾性力調整手段の動作>
次に、図5を参照しながら本実施形態の弾性力調整手段40の動作について説明する。図5のステップS101に示すように制御部41は、走行状況検出部42の横Gセンサ45、Gセンサ47等の走行状況データを取得する。そして図5のステップS102において、制御部41は、車両の前後方向の加速度GX、左右方向の加速度GY、上下方向の加速度GZ、ロール方向の加速度GRol、ピッチ方向の加速度GPic、ヨー方向の加速度GYawを算出し、各加速度が各方向の各制限加速度G0X、G0Y、G0Z、G0Rol、G0Pic、G0Yawを超えているかどうか判断する。そして、制限加速度を越えている加速度が1つ又は複数ある場合、すなわち、GX>G0X、GY>G0Y、GZ>G0Z、GRol>G0Rol、GPic>G0Pic、GYaw>G0Yawの内のいずれか1つ又は複数が成立する場合には、図5のステップS102でYESと判断する。また、上記の6つの条件が一つも成立しない場合には、図5のステップS102でNOと判断する。図5のステップS102でNOと判断した場合には、車両の揺れは大きくないと判断して、図5のステップS101に戻って図5のステップS101,S102を繰り返して実行する。
一方、制御部41は、図5のステップS102でYESの場合には、悪路走行時、コーナリング時、レーンチェンジ時、加速時等の車両の揺れが大きい状態にあると判断して図5のステップS103に進む。なお、ステップ102では、必ずしも加速度を参照する必要はなく、地図情報、ステアリング情報またはアクセル情報を参照してYES,NOを判断してもよい。張力センサ49によって乗員60の仙骨63の部分を支持するワイヤ32S、乗員60の腰椎64の部分を支持するワイヤ32Y、乗員60の胸椎65の部分を支持するワイヤ32Kの各ワイヤ張力TS,TY,TKを検出する。そして、制御部41は、図5のステップS104において、ワイヤ張力TYがワイヤ張力TK、TSよりも大きくなっているかどうかを判断する。図5のステップS104でYESの場合には、乗員60の腰椎支持部36Yの弾性力が仙骨支持部36S、胸椎支持部36Kの弾性力よりも大きくなっていると判断して各ワイヤ32S,32Y,32Kの張力を調整せずにルーチンを終了して図5のステップS101に戻る。
一方、制御部41は、図5のステップS104でNOの場合には、車両の大きな揺れ等により乗員60の着座姿勢が変化し、乗員60の腰椎支持部36Yの弾性力が仙骨支持部36S或いは胸椎支持部36Kの弾性力より小さくなっていると判断して図5のステップS105に進んで、各ワイヤ32S,32Y,32Kの張力を調整する。
図5のステップS105において、制御部41は、乗員60の腰椎64の部分を支持する中部34に張り渡されたワイヤ32Yを巻き取り機構51によって巻き取って、ワイヤ張力TYを大きくして腰椎支持部36Yの弾性力を大きくする。また、制御部41は、巻き取り機構51によって乗員60の仙骨63、胸椎65の部分を支持する下部33、上部35に張り渡されたワイヤ32S、32Kを繰り出して仙骨支持部36S、胸椎支持部36Kの弾性力を小さくさせる。そして、制御部41は、図5のステップS103に戻って各ワイヤ張力TS,TY,TKを検出し、図5のステップS104でワイヤ張力TYがワイヤ張力TK、TSよりも大きくなるまで、図5のステップS103からステップS105を繰り返し実行する。
そして、制御部41は、図5のステップS104でYESの場合には、乗員60の腰椎支持部36Yの弾性力が仙骨支持部36S、胸椎支持部36Kの弾性力よりも大きくなっていると判断して各ワイヤ32S,32Y,32Kの張力の調整を終了して図5のステップS101に戻る。
<弾性力調整手段の効果>
次に、図6から図8を参照して車両の揺れが大きい場合に、乗員60の腰椎支持部36Yの弾性力を仙骨支持部36S、胸椎支持部36Kの弾性力よりも大きくして乗員60の腰椎部分のサポート荷重を他の部分のサポート荷重よりも大きくすることにより、乗員60の上体の姿勢を適切に調整し、乗員60の頭部62の振動を抑制することができる理由について説明する。図6(a),図7(a),図8(a)に示す荷重分布線72は、シートバック36から乗員60が受ける車両前方への荷重の上下方向の分布を示す。
車両の大きな揺れ等により、乗員60の着座姿勢が変化し、図6(a)の荷重分布線72に示すように乗員60の仙骨63の部分のサポート荷重が他の部分のサポート荷重よりも大きくなると、シートバック36から乗員60が受ける車両前方への合計反力の中心位置の上下方向の高さPbは乗員60の仙骨63、或いは、腰椎64の下端部の高さとなる。この場合、乗員60の骨盤68、大腿骨69等の下半身のロール方向の回動中心軸71は、乗員60の骨盤68の近傍を通って略水平方向に延びる線となる。このため、シートバック36から乗員60が受ける車両前方への合計反力の中心位置の上下方向の高さPbは、回動中心軸71の上下方向の高さPkよりも上になる。この場合、図6(b)に示すように車両の揺れによって乗員60の下半身が回動中心軸71の周りに時計方向に角度θKだけ回転し、上体が車両左側に向かって移動しようとすると、乗員60は、シートバック36から車両右方向への反力FKと、時計方向の回転モーメントMKとを受ける。図6(b)に示す場合、反力FKは乗員60の上体の車両左側への移動を抑制する向きに働くが、回転モーメントMKは乗員60の上体を車両左側に傾斜させる方向に加わる。このため、乗員60の上体が車両左側に傾斜し、この結果、乗員60の頭部62が左側に移動しやすくなる。
この際、図7(a)の荷重分布線72に示すように、乗員60の腰椎支持部36Yの弾性力を仙骨支持部36S、胸椎支持部36Kの弾性力よりも大きくして乗員60の腰椎部分のサポート荷重を他の部分のサポート荷重よりも大きくして乗員60の着座姿勢を修正すると、シートバック36から乗員60が受ける車両前方への合計反力の中心位置の上下方向の高さPbは乗員60の腰椎64の中央部或いは中央部より少し上側の位置となる。この場合、乗員60の下半身のロール方向の回動中心軸71は、乗員60の腰椎64の中央部の近傍を通る傾斜した方向に延びる線となる。そして、シートバック36から乗員60が受ける車両前方への合計反力の中心位置の上下方向の高さPbと、回動中心軸71と腰椎64との交点の上下方向の高さPkとが略同一位置となる。この場合、図7(b)に示すように車両の揺れによって乗員60の下半身が回動中心軸71の周りに時計方向に角度θKだけ回転し、上体が車両左側に向かって移動しようとすると、乗員60は、シートバック36から車両右方向への反力FKと、反時計方向の回転モーメントMKとを受ける。図7(b)に示す場合、反力FKは乗員60の上体の車両左側への移動を抑制する向きに働く。また、回転モーメントMKも乗員60の上体の車両左側への傾斜を抑制する向きに働く。このため、乗員60の上体が車両左側に傾斜することが抑制され、乗員60の頭部62の移動が抑制される。
また、車両の大きな揺れ等により、乗員60の着座姿勢が変化し、図8(a)の荷重分布線72に示すように、乗員60の胸椎65の部分のサポート荷重が他の部分のサポート荷重よりも大きくなると、シートバック36から乗員60が受ける車両前方への合計反力の中心位置の上下方向の高さPbは乗員60の胸椎65の中央部或いは中央部より少し下側の位置となる。このため、乗員60の下半身のロール方向の回動中心軸71は、乗員60の胸椎65の中央部の近傍を通る傾斜の大きい方向に延びる線となる。そして、シートバック36から乗員60が受ける車両前方への合計反力の中心位置の上下方向の高さPbは、回動中心軸71と胸椎65との交点の上下方向の高さPkよりも下になる。この場合、図8(b)に示すように車両の揺れによって乗員60の下半身が回動中心軸71の周りに時計方向に角度θKだけ回転し、上体が車両左側に向かって移動しようとした際、乗員60は、上体を車両左方向に移動させる反力FKと、乗員60の上体が車両左側に傾斜することを抑制する反時計回りの回転モーメントMKとを受ける。このため、乗員60の上体は、図7(a)、図7(b)を参照して説明した場合に比べて車両左側に傾斜しやすく、乗員60の頭部62が左側に移動しやすくなる。
以上説明したことにより、本実施形態の車両用シート10は、車両の揺れが大きい場合に、乗員60の腰椎支持部36Yの弾性力を仙骨支持部36S、胸椎支持部36Kの弾性力よりも大きくして乗員60の腰椎部分のサポート荷重を他の部分のサポート荷重よりも大きくすることにより、乗員60の骨盤が適切に保持され、乗員60の頭部62の振動を抑制することができる。
<第1実施形態の補足>
以上説明した実施形態では、車両用シート10は、仙骨支持部36S、腰椎支持部36Y、胸椎支持部36Kの弾性力をそれぞれ調整可能であると説明したが、腰椎支持部36Yの弾性力のみを調整可能として、腰椎支持部36Yの弾性力を所定の弾性力よりも大きくすることにより、腰椎支持部36Yの弾性力がシートバック36の他の部分の弾性力よりも大きくなるようにしてもよい。
また、以上説明した実施形態では、下部33、中部34、上部35の各ワイヤ32S,32Y,32Kはそれぞれ上下方向に6条に張り渡されていることとして説明したが、乗数は6条に限らず、これより多くても少なくてもよい。
また、巻き取り機構51は、各ワイヤ32S,32Y,32Kについて1つではなく、複数設けてもよい。また、巻き取り機構51にワイヤ32を巻き取った状態を保持するラッチ機構を設けてもよい。これにより、非通電時にもワイヤ32S,32Y,32Kの張力を保持することができる。更に、巻き取り機構51は、手動で各ワイヤ32S,32Y,32Kの巻き取り、繰り出しを行うようにしてもよい。
各ワイヤ32S,32Y,32Kは、樹脂のヒモで構成してもよい。また、張力を維持可能な材料であれば他の材料で構成してもよい。例えば、ポリ塩化ビニル系の人工筋肉で各ワイヤ32S,32Y,32Kを構成してもよい。この場合、乗員60からの体圧に応じて人工筋肉が伸縮を行うように構成してもよい。
また、走行状況検出部42によって取得した様々な情報に基づいて、車両の揺れを予測して、各ワイヤ32S,32Y,32Kの張力を調整するようにしてもよい。
また、張力センサ49に代えて、シートバック36への乗員60の弾性力を検出する圧力センサを取り付け、この圧力センサによって各ワイヤ32S,32Y,32Kの張力の調整を行うようにしてもよい。
<第2実施形態>
次に、図9を参照しながら、第2実施形態の車両用シート80について説明する。先に図1から図8を参照して説明した車両用シート10と同様の部位には同様の符号を付して説明は省略する。
図9に示すように、車両用シート80は、シートバック36の車両後方に、荷重受ワイヤ部30に代えてウレタン、ばね等で構成されたバックパッド81とバックパッド81とシートバック36との間に乗員60の仙骨63の部分、腰椎64の部分、胸椎65の部分の各弾性力を調整する空気袋84を備えたものである。
図9に示すように空気袋84は、バックパッド81の中に設けられた仕切り板83とシートバック36と間に配置されている。空気袋84は、シートバック36の仙骨支持部36S、腰椎支持部36Y、胸椎支持部36Kに対応する各部分に上下方向にそれぞれ3段に配置されている。各空気袋84は、各空気袋84の圧力を調整するアクチュエータ86に接続されている。また、シートバック36の仙骨支持部36S、腰椎支持部36Y、胸椎支持部36Kの表面には、乗員60の各部の弾性力を検出する圧力センサ85が取り付けられている。圧力センサ82は、所定面積についての弾性力を圧力として検知する。
各圧力センサ85とアクチュエータ86とは制御部41に接続されており、制御部41は、走行状況検出部42で検出した車両の走行状態と、圧力センサ85で検出した弾性力に基づいて空気袋84の圧力を調整し、仙骨支持部36S、腰椎支持部36Y、胸椎支持部36Kの各弾性力を調整する。
車両用シート80は、車両用シート10と同様、車両の揺れが大きい場合に、乗員60の腰椎支持部36Yの弾性力を仙骨支持部36S、胸椎支持部36Kの弾性力よりも大きくして乗員60の腰椎部分のサポート荷重を他の部分のサポート荷重よりも大きくすることにより、乗員60の上体の姿勢を適切に調整し、乗員60の頭部62の振動を抑制する。
<第3実施形態>
次に、図10を参照しながら第3実施形態の車両用シート90について説明する。先に図1~図8を参照して説明した車両用シート10と同様の部位には同様の符号を付して説明は省略する。
図10に示すように車両用シート90は、シートバック36の車両後方に、荷重受ワイヤ部30に代えてウレタン、ばね等で構成されたバックパッド91を配置し、バックパッド91の車両後方に腰椎支持部36Yの弾性力を調整するランバーサポート92を備えている。ランバーサポート92は、2つの直交する方向に延びる2本のスクリュー94a,94bと、2本のスクリュー94a,94bがねじ込まれる複合ナット95と、複合ナット95を駆動するモータ96で構成されている。また、シートバック36の乗員60の腰椎64の部分が当たる位置には圧力センサ97が取り付けられている。圧力センサ97とモータ96とは制御部41に接続されている。制御部41は、走行状況検出部42で検出した車両の走行状態と、圧力センサ97で検出した弾性力に基づいてモータ96を駆動して腰椎支持部36Yの弾性力を調整する。
車両用シート90は、車両の揺れが大きい場合に、乗員60の腰椎支持部36Yの弾性力を所定の弾性力よりも大きくして乗員60の腰椎部分のサポート荷重を大きくすることにより、乗員60の上体の姿勢を適切に調整し、乗員60の頭部62の振動を抑制する。
<第4実施形態>
<車両用シート100の構成>
次に、図11から図20を参照しながら第4実施形態の車両用シート100について説明する。先に、図1から図8を参照して説明した車両用シート10と同様の部位には同様の符号を付して説明は省略する。車両用シート100は、車両用シート10のシートクッション14、シートバック36を車両のロール方向及びヨー方向に回動可能としたものである。
図11,13に示すように、シートクッション14は、クッション支持部120の上に取り付けられている。クッション支持部120は、Cフレーム12に対して車両のロール方向及びヨー方向に回動可能に取り付けられて上側にシートクッション14が取り付けられるクッションパン121と、ブラケット124,126と、軸受123と、回転軸122と、ガイドレール127と、スライダ128とで構成されている。
Cフレーム12の前側のパイプ12bには、L字形のブラケット124が固定されており、ブラケット124には軸受123が固定されている。軸受123は、図13に示す回動中心軸129が車両前後方向に対して後ろ上がりに傾斜し、乗員60の腰椎64の中央部の近傍を通る傾斜した方向に延びるように配置されている。クッションパン121の前方の下面には回転軸122が固定されている。そして、回転軸122は、軸受123に回動自在に嵌めこまれている。
また、図12,13に示すように、Cフレーム12の後側のパイプ12cには、U字形のブラケット126が固定されており、ブラケット126には円弧状に湾曲したガイドレール127が固定されている。クッションパン121の後方の下面にはガイドレール127に沿って円弧状にスライド移動する2つのスライダ128が取り付けられている。
そして、クッションパン121の回転軸122が軸受123の回動中心軸129の周りに回転すると2つのスライダ128がガイドレール127に沿って円弧状に移動する。これにより、クッションパン121は、回動中心軸129の周りに車両のロール方向及びヨー方向に回動可能となる。これにより、図14、15に示すように、クッションパン121は、Cフレーム12に対して車両のロール方向及びヨー方向に回動可能となり、クッションパン121の上に取り付けられているシートクッション14もCフレーム12に対して車両のロール方向及びヨー方向に回動可能となる。
図11,12に示すように、シートバック36が取り付けられるSフレーム22はBフレーム20に対して車両のロール方向及びヨー方向に回動可能に支持されている。図11,12に示すようにSフレーム22の上下方向の中央やや上側に配置されて両側の縦部材24を接続する上横部材26の左右方向の両端部には、上横部材26から後方に向かって突出するブラケット115が取り付けられている。ブラケット115の後端は、板ばね116によってBフレーム20に接続されている。板ばね116の一端の一方の面は、ブラケット115の後端部の車両幅方向外側の面に接続され、他端の他方の面はBフレーム20に接続されている。板ばね116は、板厚方向が車両左右方向、長手方向が車両前後方向となるように配置されている。そして、Sフレーム22がBフレーム20に対して左右方向に移動すると板ばね116が車両左右方向に撓んで相対移動量を吸収する。このように、Sフレーム22は、板ばね116によってBフレーム20に対して左右方向に移動可能に支持されている。
図11,12に示すように、複数本のワイヤ112がワイヤ通し111を介してBフレーム20の複数の取り付け点の間に掛け渡されている。図12に示すように、最上部左右に配置されているワイヤ112の両端は、Bフレーム20の左右方向中央近傍と、上側の両端部分の2点にそれぞれ取り付けられている。そして、ワイヤ112は、ワイヤ通し111に設けられたU字状のワイヤ溝114に沿って上斜め方向に開いたV字状に2点間に張り渡されている。このように、ワイヤ通し111は上側のワイヤ112によってBフレーム20から吊り下げられている。同様に、Bフレーム20の左右の上下方向に延びる縦フレーム部分の2点にもワイヤ112が取り付けられ、ワイヤ112は、ワイヤ通し111のU字状のワイヤ溝114に沿って左右方向に開いたV字状に2点間に張り渡されている。これにより、ワイヤ通し111は左右のワイヤ112によってBフレーム20に対して左右方向に支持されている。
また、図12に示すように、複数本のワイヤ113がワイヤ通し111を介してSフレーム22の複数の取り付け点の間に掛け渡されている。ワイヤ113の一端は、上横部材26に接続され、他端は下横部材28に接続されている。そして、ワイヤ113は、ワイヤ通し111に設けられたU字状のワイヤ溝114に沿って下斜め方向に開いたV字状に2点間に張り渡されている。このように、ワイヤ通し111は、左右のワイヤ113によってSフレーム22を吊り下げている。
以上述べたように、ワイヤ通し111は、ワイヤ112によってBフレーム20の上側から吊り下げられるとともに、Bフレーム20に対し左右方向に支持されている。そして、ワイヤ通し111は、ワイヤ113によってSフレーム22を吊り下げている。従って、Sフレーム22は、ワイヤ112、113、ワイヤ通し111によってBフレーム20から吊り下げ支持されている。
このように、Sフレーム22は、Bフレーム20からワイヤ112,113、ワイヤ通し111を介して吊り下げられ、板ばね116によって左右方向に移動可能に支持されている。そして、各ワイヤ112,113、ワイヤ通し111と左右の板ばね116の変形により、Sフレーム22は、図13に示すワイヤ通し111の中心を通る車両前後方向の回動中心軸130、及び上下方向の回動中心軸131の周りに車両のロール方向及びヨー方向に回転可能となる。これにより、図14、15に示すように、Sフレーム22は、Bフレーム20に対して車両のロール方向及びヨー方向に回動可能となり、Sフレーム22に取り付けられているシートバック36もBフレーム20に対して車両のロール方向及びヨー方向に回動可能となる。
<車両用シート100の動作>
次に、図16から図17を参照しながら、車両用シート100の動作について説明する。以下の説明では、先に図7を参照して説明したように、シートバック36から乗員60が受ける車両前方への合計反力の中心位置の上下方向の高さPbは乗員60の腰椎64の中央部或いは中央部より少し上側にあるとして説明する。
Sフレーム22に取り付けられたシートバック36は図13に示す回動中心軸130の周りに車両のロール方向に回動する。図16に示すように、回動中心軸130は、乗員60の胸椎65が位置する高さに設定されている。従って、回動中心軸130は、乗員60がシートバック36から受ける合計反力の中心位置の高さPb及び乗員60の上体の重心135よりも上に位置している。なお、図16、17において、符号134,136はそれぞれ頭部62、下半身の重心を示す。
このため、例えば、車両の旋回や路面からの外乱等によって乗員60の上体にシート幅方向の外力F1(図16参照:以下、横力F1と称する)が作用した際には、回動中心軸130と合計反力の中心位置の高さPbとの距離をモーメントアーム長とする力のモーメントMが発生する。このモーメントMの発生により、乗員60の背部61とシートバック36との間には、乗員60の上体が横力F1の作用方向に倒れることを抑える方向の力(摩擦力)が作用する。この力は、乗員60の背部61とシートバック36との接触部分の全体に作用し、特に弾性力の大きい腰椎64近傍の着座面から背中に向けて作用する。これにより、シートバック36が回動中心軸130の周りに反時計周りに回動する(図15のSフレーム22参照)。
これにより、乗員60は、図17に示すように、上体が反時計方向に回転変位し、乗員60の脊椎は横力F1の作用方向に凸に湾曲される。この際、シートクッション14が、回動中心軸129の周りに回転し(図15のクッションパン121参照)、乗員60の下半身は時計方向に回動する。これにより、乗員60の頭部62が外力の作用方向とは反対側へ傾くため、頭部62に作用する重力におけるシート幅方向の分力と、頭部62に作用するシート幅方向の外力との吊り合いによって頭部62の姿勢を安定させることが可能になる。
<弾性力調整手段の構成と動作>
車両用シート100は、車両用シート10と同様、図3に示す弾性力調整手段40を備えている。弾性力調整手段40の動作は、先に図5を参照して説明したと同様である。
<弾性力調整手段の効果>
次に、図18から図20を参照して車両の揺れが大きい場合に、弾性力調整手段40により乗員60の腰椎支持部36Yの弾性力を仙骨支持部36S、胸椎支持部36Kの弾性力よりも大きくして乗員60の腰椎部分のサポート荷重を他の部分のサポート荷重よりも大きくすることにより、乗員60の上体の姿勢を適切に調整し、乗員60の頭部62の振動を抑制することができる理由について説明する。
図18(a)に示すように、車両用シート100では、シートクッション14は、乗員60の腰椎64の中央部の近傍を通る傾斜した方向に延びる回動中心軸129の周りに車両のロール方向及びヨー方向に回動する。車両の大きな揺れ等により、乗員60の着座姿勢が変化し、図18(a)の荷重分布線72に示すように、乗員60の仙骨63の部分のサポート荷重が他の部分のサポート荷重よりも大きくなると、シートバック36から乗員60が受ける車両前方への合計反力の中心位置の上下方向の高さPbは、乗員60の仙骨63、或いは、腰椎64の下端部の高さとなる。このため、高さPbは、回動中心軸129と腰椎64の中央部との交点の上下方向の高さPkよりも下になる。この場合、図18(b)に示すようにシートクッション14の回動により、乗員60の下半身が回動中心軸129の周りに時計方向に角度θKだけ回転し、上体が車両左側に向かって移動しようとすると、乗員60は、シートバック36から車両右方向への反力FKと、時計方向の回転モーメントMKとを受ける。図18(b)に示す場合、反力FKは乗員60の上体の車両左側への移動を抑制する向きに働くが、回転モーメントMKは乗員60の上体を車両左側に傾斜させる方向に加わる。このため、乗員60の上体が車両左側に傾斜し、この結果、乗員60の頭部62が左側に移動しやすくなる。
この際、図19(a)の荷重分布線72に示すように、乗員60の腰椎支持部36Yの弾性力を仙骨支持部36S、胸椎支持部36Kの弾性力よりも大きくして乗員60の腰椎部分のサポート荷重を他の部分のサポート荷重よりも大きくして、乗員60の着座姿勢を修正すると、シートバック36から乗員60が受ける車両前方への合計反力の中心位置の上下方向の高さPbは、乗員60の腰椎64の中央部或いは中央部より少し上側の位置となる。このため、回動中心軸71と腰椎64の中央部との交点の上下方向の高さPkとが略同一位置となる。この場合、図19(b)に示すように、シートクッション14の回動により、乗員60の下半身が回動中心軸129の周りに時計方向に角度θKだけ回転し、上体が車両左側に向かって移動しようとすると、乗員60は、シートバック36から車両右方向への反力FKと、反時計方向の回転モーメントMKとを受ける。図19(b)に示す場合、反力FKは乗員60の上体の車両左側への移動を抑制する向きに働く。また、回転モーメントMKも乗員60の上体の車両左側への傾斜を抑制する向きに働く。このため、乗員60の上体が車両左側に傾斜することが抑制され、乗員60の頭部62の移動が抑制される。
また、車両の大きな揺れ等により、乗員60の着座姿勢が変化し、図20(a)の荷重分布線72に示すように乗員60の胸椎65の部分のサポート荷重が他の部分のサポート荷重よりも大きくなると、シートバック36から乗員60が受ける車両前方への合計反力の中心位置の上下方向の高さPbは乗員60の胸椎65の中央部或いは中央部より少し下側の位置となる。このため、シートバック36から乗員60が受ける車両前方への合計反力の中心位置の上下方向の高さPbは、回動中心軸129と腰椎64との交点の上下方向の高さPkよりも上になる。この場合、図20(b)に示すようにシートクッション14の回動により、乗員60の下半身が回動中心軸129の周りに時計方向に角度θKだけ回転し、上体が車両左側に向かって移動しようとした際、図20(b)に示すように、乗員60は、上体を車両左方向に移動させる反力FKと、乗員60の上体が車両左側に傾斜することを抑制する反時計回りの回転モーメントMKとを受ける。このため、乗員60の上体は、図19(a)、図19(b)を参照して説明した場合に比べて車両左側に傾斜しやすく、乗員60の頭部62が左側に移動しやすくなる。
以上説明したことにより、本実施形態の車両用シート100は、車両の揺れが大きい場合に、乗員60の腰椎支持部36Yの弾性力を仙骨支持部36S、胸椎支持部36Kの弾性力よりも大きくして乗員60の腰椎部分のサポート荷重を他の部分のサポート荷重よりも大きくすることにより、乗員60の骨盤が適切に保持され、乗員60の頭部62の振動を抑制することができる。
以上説明した実施形態では、弾性力調整手段40は、下部33、中部34、上部35とで構成される荷重受ワイヤ部30と、各部33、34、35の各ワイヤ32S,32Y,32Kの各張力を調整する3つの張力調整機構50を備え、車両の揺れが大きい場合に乗員60の腰椎支持部36Yの弾性力が仙骨支持部36S、胸椎支持部36Kの弾性力よりも大きくなるように各ワイヤ32S,32Y,32Kの張力を調整するとして説明したがこれに限らない。
例えば、図21に示すように、弾性力調整手段40は、乗員60の腰椎支持部36Yのみの前後方向の弾性力を調整するように中部34のワイヤ32Yの張力のみを調整する1つの張力調整機構50を備え、車両の揺れが大きい場合に乗員60の腰椎支持部36Yの弾性力を車両の揺れが小さい場合に比較して大きくするように、構成してもよい。
この構成の場合、制御部41は、張力調整機構50によってワイヤ32Yの張力を以下のように調整する。以下の説明において、先に説明した図5と同様のステップには同様のステップ符号を付して簡単に説明する。
制御部41は、図22のステップS101に示すように、走行状況検出部42の横Gセンサ45、Gセンサ47等の走行状況データを取得する。そして、制御部41は、図22に示すステップS102において、先に図5のステップS102と同様、GX>G0X、GY>G0Y、GZ>G0Z、GRol>G0Rol、GPic>G0Pic、GYaw>G0Yawの内のいずれか1つ又は複数が成立する場合には、車両の揺れが大きい状態にあると判断して図22のステップS203に進む。そして、制御部41は、ステップS203においてワイヤ32Yのワイヤ張力TYを検出して図22のステップS204に進む。
図22のステップS204において、制御部41は、ワイヤ張力TYが車両の揺れが少ない場合のワイヤ張力TYNormalよりも大きくなっているかを判断する。そして、図22のステップS204でNOと判断した場合には、図22のステップS205に進んでワイヤ32Yを巻き取る。そして、制御部41は、図22のステップS203に戻ってワイヤ32Yのワイヤ張力TYを検出する。そして、制御部41は、図22のステップS204でYESと判断したらワイヤ32Yの巻き取りを終了する。このように、制御部41は、図22のステップS204でYESと判断するまで、ワイヤ32Yの張力を大きくする。そして、ワイヤ張力TYがワイヤ張力TYNormalよりも大きくなったら、腰椎支持部36Yの前後方向の弾性力は、車両の揺れが小さい場合よりも大きくなったと判断してワイヤ32Yの調整を終了する。
本実施形態によれば、車両の揺れが大きい場合に、シートバック36の腰椎支持部36Yのみの前後方向の弾性力を、車両の揺れが小さい場合と比較して大きくすることができ、車両の揺れが大きい場合に、乗員60の骨盤を適切に保持して頭部62の振動を抑制することができる。
なお、図1~図8或いは、図11から図20を参照して実施した実施形態において、図21,22を参照して説明した実施形態のように、ワイヤ32Yのワイヤ張力TYのみを調整し、車両の揺れが大きい場合に腰椎支持部36Yの前後方向の弾性力を車両の揺れが小さい場合よりも大きくするように構成してもよい。