JP7118884B2 - Fc結合抗原の粘膜ワクチン接種によって免疫寛容を誘導するための方法及び医薬組成物 - Google Patents

Fc結合抗原の粘膜ワクチン接種によって免疫寛容を誘導するための方法及び医薬組成物 Download PDF

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Description

発明の分野
本発明は、Fc結合抗原の粘膜ワクチン接種によって免疫寛容を誘導する方法及び医薬組成物に関する。
発明の背景:
自己免疫疾患は、主な健康問題である。例えば、1型糖尿病(T1D)は、β細胞抗原(Ag)を認識する自己反応性T細胞によって媒介される自己免疫疾患であり、膵島の破壊をもたらす。T1D管理の主な問題は、その遅い診断である。かなりの割合のβ細胞が既に破壊された後、これは、典型的には、無症候性の不顕性自己免疫の可変期間を経て起こる。その結果生じるインスリン欠乏は、高血糖症及び臨床発症をもたらす。したがって、インスリン補充療法で現在行われているように、T1Dの予防及び治療は、代謝結果ではなく、基礎となる自己免疫機構をターゲティングすべきである。しかしながら、T1Dは、子供及び若年成人が主に罹患し、短期間で致死的ではないので、β細胞自己免疫を鈍らせることを目的とする免疫療法は、優れた安全性プロファイルを有しなければならない。
したがって、β細胞Ag特異的療法は、それらの選択性及び安全性の観点において、疾患に関与するT細胞サブセットを広くターゲティングする処置と比較して魅力的である。このような療法は、免疫認識が膵島破壊を媒介するβ細胞Agを含むワクチンの形態で投与される。これらのワクチンは、古典的なワクチン接種で追求されたものとは反対の免疫成果を達成するように(すなわち、投与されたAgに対するT細胞応答を刺激するのではなく中和して、免疫寛容として公知の症状を引き起こすように)製剤化される。しかしながら、臨床試験は欺瞞であった2-4。インスリン及びその前駆体プレプロインスリン(PPI)由来のβ細胞Agは、非肥満糖尿病(NOD)5,6マウスにおいて、及びおそらくはヒトにおいても起因Agであるので、いくつかの試みは、これを用いた寛容原性ワクチン接種に焦点を当てている。インスリン特異的免疫寛容の誘導が成功したという証拠にもかかわらず、インスリンの鼻腔内投与を用いて、遅発性疾患を有する初発T1D患者における自己免疫β細胞破壊を停止する最近の試験は、有意なβ細胞保存をもたらさなかった。これらの結果は、有意なβ細胞喪失の前に、及び自己免疫進行の前に、より早く介入する必要があり得ることを示唆している。PPI認識は自己免疫カスケードを開始する一方、それに続くβ細胞破壊は、さらに認識されるさらなるAgを放出して(Ag拡散として公知の現象)、唯一のPPIに対する寛容回復を不十分にする。
インスリンワクチン接種を使用した予防試験においても同じ問題が生じ、まだ糖尿病ではない有リスク被験体の処置について、安全性の問題が一層重要である。臨床疾患がないにもかかわらず、有リスク被験体の選択は、いくつかのAgを既に伴う自己免疫応答を証明する複数の自己抗体(自己Ab)の陽性に基づいている3,8,9。最近の研究は、遺伝的リスクを有する子供の大規模な前向きコホートにおいて、自己Abセロコンバージョン時の平均年齢が9~18カ月であったので、β細胞自己免疫は非常に早く開始することをさらに示唆している10,11。したがって、疾患の高いHLA関連遺伝リスクを有するが能動自己免疫(すなわち、自己Ab)の徴候がない有リスクの子供では、インスリンAg特異的予防戦略は、より早い段階で実行されるべきである12,13
周産期は、タイミングの点においてだけではなく、寛容原性結果に偏った導入Agに対する免疫応答を特徴とするので、このような機会を提供する。実際、胎児期及び新生児期におけるAgの導入は、成人期において持続するAg特異的免疫寛容をもたらす14-16。中枢性寛容(胸腺において起こるプロセスであって、発達中のT細胞が、PPIなどの異所性発現された自己組織Agでチャレンジされるプロセス)は、このプロセスにおいて重要な役割を果たす。それらの認識は、自己反応性病原性Tエフェクター細胞(Teff)の排除及びT調節性細胞(Treg)の陽性選択につながる17。このプロセスは、周産期において非常に活性であり、その後に末梢免疫応答をインプリントする免疫学的自己を規定する。しかしながら、自己Agレパートリーは部分的に発現されるに過ぎないので、胸腺において提示される「免疫自己像」は不完全である17。実際、中枢性寛容の不全は、T1D進行における第1のチェックポイントである。いくつかの自己反応性Teffは胸腺の選択を逃れ、その後、末梢中で活性化され、膵島の破壊を行い得る。この概念を裏付けるように、T1DのNODマウスモデルは、PPI発現が胸腺において抑止されると(Ins2-/-NODマウス)、加速性糖尿病を発症する18,19。第2に、ヒトINS多型変異体は、胸腺におけるINS発現を減少させることによって、T1Dにかかりやすい20
しかしながら、この知見は、最初から中枢性寛容を高めることを目的とする治療戦略にはつながらない。皮下経路、鼻腔内経路又は経口経路を使用してこれまでに検討された寛容原性ワクチン接種アプローチは全て、末梢性寛容にターゲティングされており、自己反応性Teffの潜在的病原性を鈍らせ、及び/又はTreg活性を増強することを目的とする。周産期において、PPIなどの自己Agを胸腺に導入し得るならば、T細胞選択プロセスを促進し、自己免疫進行の初期に介入し得る。
本発明は、粘膜ワクチン接種によって免疫寛容を誘導するための、IgGのFc部分と融合されたAgの使用に関する。現在、Fc融合タンパク質は、FDAの承認を受けている全てのAb系医薬の20%を占めており、Fc部分の追加はタンパク質治療薬の半減期を増加させるので、様々な状況で積極的に調査されている。内皮細胞において発現された新生児Fcレセプター(FcRn)にFcドメインが結合すると、それらは細胞内で一時的に隔離され、循環中に徐々に放出される。FcRnは、主要組織適合複合体(MHC)クラスI様重鎖及びβ2-ミクログロブリンから構成されるヘテロダイマーである21。IgGとFcRnとの間の相互作用は、酸性pH(<6.5)を必要とし、生理学的pH(7.4)では非効率的である21。それは、1:2の化学量論比で起こり、1つのIgGが、FcRn重鎖と、IgGのFcドメインのCH2-CH3部分とを介して2つのFcRn分子に結合する22
内皮細胞の他に、FcRnは、哺乳動物の胎盤合胞体栄養細胞又は卵黄嚢、肝臓、腸、気管支、腎臓(近位尿細管)、生殖器、眼及び脈絡叢の上皮、腎臓の有足細胞;皮膚(毛包、皮脂腺、表皮のケラチノサイト及びメラノサイト);造血細胞、例えば樹状細胞、単球及びマクロファージ(小腸の固有層におけるマクロファージを含む)を含むいくつかの他の組織及び細胞23において発現される24。気道では、FcRnは、上気道及び中枢気道の気管支上皮において主に見られる。ヒト消化管では、FcRnは、胃、小腸(十二指腸、空腸及び回腸)及び結腸の上皮細胞において発現される25-27。腸管では、粘膜FcRn mRNA及びタンパク質発現の近位-遠位勾配が増加しており、発現は十二指腸-空腸において最も低く、近位結腸において最も高い。この発現勾配は、これらの異なる腸領域に関するin vitroモノクローナルAb(mAb)トランスサイトーシスの効率と相関し、リンパ管を介して全身的な侵入が起こる27。同じ発現勾配がカニクイザルにおいて見られ、血清mAbレベルは、十二指腸-空腸への投与後よりも回腸-近位結腸注入後において大きかった27。まとめると、FcRn発現及びmAb取り込みパターンは、回腸-近位結腸が、FcRnを介してmAbの大部分がトランスサイトーシスされる領域であることを示唆している。
したがって、より近年では、Fc結合剤の適用は、低侵襲投与経路(すなわち、胃腸経路又は肺経路)を使用して生物活性分子を送達することを目的とする戦略に拡大されている。典型的には、IgGは、上皮細胞の頂端膜上でエンドサイトーシスされ、エンドソームに存在する酸性pHでFcRnに結合する。次いで、小胞が側底膜と再び融合し、細胞外中性pHがFcRnからのIgGの分離を促進する。重要なことに、IgGのFcRn媒介性輸送は双方向性であり(すなわち、上皮細胞の頂端及び側底膜からの両方)28、in vitroトランスウェル実験では、IgGの追加後1時間以内に迅速に起こる26。経口送達のために検討されたFc結合剤の例としては、Fc結合卵胞刺激ホルモン(FSH)29、IgG mAb27、及びインスリンなどの生物活性分子を含有するFcコーティングナノ粒子30が挙げられる。全体的に、Fc結合剤の経口投与によって達成される全身バイオアベイラビリティは、比較的限定される。肺送達のために検討されたFc結合剤の例としては、Fc結合エリスロポエチン31-33及びFc結合FSH29が挙げられる。
したがって、Fc結合剤は、全身投与される治療用タンパク質の半減期を増加させるために、及び腸経路又は気管支経路を介したそれらの全身送達を促進するために使用されている。本明細書では、本発明者らは、免疫寛容を誘導するためにこの戦略を使用することを提案する。この目的のために、AgをIgG1のFc部分に融合させることによってそれらを改変して、得られるAg-Fcタンパク質がFcRnと相互作用して、粘膜障壁を通過することを可能にし得る。これは、IgG産生がまだ利用可能ではない子宮内期間及び生後6カ月において、母親のIgGを(胎盤を介して)胎児に、及び(泌乳中に腸を介して)新生児に生理学的に送達して21、受動的IgG保護を提供する同じ経路である。この概念は、経胎盤輸送経路を使用して初めて検証され、妊娠マウスに静脈内投与されたFc融合Agは、FcRn依存的に胎児胸腺に到達し、Ag特異的Tregの生成を促進して、Ag特異的寛容をもたらすことが示された34。T1Dマウスモデルに適用された場合、PPI-Fc経胎盤輸送は、高齢期の糖尿病発症から子孫を保護する35,36。妊娠PPI T細胞レセプタートランスジェニックG9C8 NODマウス(全てのT細胞がPPIB15-23エピトープ37を認識する)に静脈内投与された単回用量のPPI-Fc 100μgは経胎盤輸送され、代謝的な又は他の有害効果を誘導せずに、糖尿病から子孫を保護する。この輸送は、Fc及びFcRn依存的である。糖尿病の保護は、細胞傷害性の障害を示す末梢PPI反応性CD8Teffと、調節性サイトカイントランスフォーミング成長因子(TGF)-βを分泌する胸腺由来ニューロピリン-1(NRP1/CD304)CD4Tregの増加とに関連する。PPI-Fcは、遊走(CD8loCD11bSIRPα)樹状細胞(DC)によって運ばれて胸腺に到達し、抗血管細胞接着分子(VCAM)-1 Abの早期投与によって遊走が阻害されると、糖尿病の保護が失われる。重要なことに、糖尿病の保護は、ポリクローナルNODマウスにおいても有効である35。成功しているが、十分に早期に、特に出生前に確実に予測し得ない自己免疫疾患(例えば、T1D)では、この戦略は依然として侵襲的である。妊婦に適用されるこのような戦略は、ほとんどの場合には短期間で致死的ではない疾患であって、発症するかもしれないし発症しないかもしれない疾患の前に、胎児及び母親が許容し得ないリスクを伴うと考えられ得る。
本発明は、Fc結合Agの粘膜ワクチン接種によって免疫寛容を誘導するための方法及び医薬組成物に関する。特に、本発明は、特許請求の範囲によって定義される。
発明の詳細な説明
今回、本発明者らは、新生児マウスに直接経口投与された抗原-Fcが寛容誘導を示唆する重大なT細胞改変を誘導するという証拠を有する。したがって、本発明者らは、自己免疫疾患、アレルギー性疾患、及び外因性投与される抗原に対する免疫応答などの疾患及び症状の予防又は治療について、その適合性を検討することを提案する。
したがって、本発明の1つの目的は、それを必要とする被験体において目的の1つの抗原に対する寛容を誘導するための方法であって、FcRnターゲティング部分及び抗原含有部分を含む治療有効量のリコンビナントキメラ構築物を該被験体に粘膜投与することを含む方法に関する。
本明細書で使用される「抗原」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、一般に、抗体又はT細胞抗原レセプターが認識及び選択的に結合して、免疫応答の誘導をもたらす物質又はそのフラグメントを指す。典型的には、本発明の抗原は、限定されないが、ペプチド及びタンパク質である。抗原は天然又は合成のものであり得、一般に、その抗原に特異的な免疫応答を誘導する。特殊なT細胞サブセット、例えばナチュラルキラーT細胞38-40及び粘膜関連不変T細胞41-43によって認識される他の非タンパク質抗原も考えられ得る。
いくつかの実施態様では、抗原は、自己抗原である。本明細書で使用される「自己抗原(auto-antigen)」という用語は、自己の体組織から生じる任意の自己抗原(self-antigen)であって、免疫系によって異物であると誤って認識される自己抗原を意味する。自己抗原は、限定されないが、細胞タンパク質、リンタンパク質、細胞表面タンパク質、細胞脂質、核酸、糖タンパク質(細胞表面レセプターを含む)を含む。
いくつかの実施態様では、抗原は、アレルゲンである。本明細書で使用される「アレルゲン」という用語は、一般に、被験体に曝露された際に、アレルギー反応を誘発する分子(通常は、タンパク質)の抗原又は抗原性部分を指す。典型的には、被験体は、例えば、膨疹及び炎症試験又は当技術分野で公知の任意の方法によって、示されているアレルゲンに対してアレルギー性である。分子に曝露された際に、被験体のごく一部のみがアレルギー性免疫応答を示す場合であっても、該分子は、アレルゲンであると言われる。
いくつかの実施態様では、抗原は、治療目的又は他の目的で外因性投与される分子であり、望ましくない免疫応答をトリガーし得る。前記分子が誘導する生物学的活性を頻繁に中和するが、このような免疫応答は、分子が最初に投与された目的とは無関係のさらなる有害な影響を有し得る。この種の例としては、血友病Aにおける治療用凝固VIII因子又は血友病Bにおける第IX因子に対する免疫応答、先天性酵素病における及びより一般には遺伝子欠損症との関連で任意の種類の補充療法における様々な酵素に対する免疫応答が挙げられる。同様に、個体に移植された組織又は造血細胞及び/若しくは血液細胞によって発現された抗原に対する同種免疫応答も考えられる。
本明細書で使用される「寛容」という用語は、抗原(自己抗原、アレルゲン、及び内因性投与された分子を含む)に対する応答不全又は応答低下を指す。これは、前記抗原に内因性曝露又は外因性曝露された際に、生産的(免疫原性)応答が誘導されないことを意味し得る。この応答は、寛容原性応答(すなわち、免疫原性応答をさらに制限する能動的プロセス)によって部分的又は完全に置き換えられ得る。寛容原性応答の例としては、限定されないが、T調節性細胞の生成、アポトーシスによるエフェクター(従来型)T細胞の排除、又はアネルギーによるそれらの中和、並びに寛容状態を促す表現型(例えば、インターロイキン-10及びTGF-βなどの調節性サイトカイン及び他の抗炎症性メディエーターの産生、並びに共刺激分子の発現のダウンレギュレーション)へのT細胞及び他の免疫細胞のスキューイングが挙げられる。これらの免疫学的概念は、当業者に周知である。
いくつかの実施態様では、被験体はヒトであるが、他の動物の処置も包含される。いくつかの実施態様では、被験体は、成人である。いくつかの実施態様では、被験体は、妊婦である。いくつかの実施態様では、被験体は、子供である。いくつかの実施態様では、被験体は、18歳未満、17歳、16歳、15歳、14歳、13歳、12歳、11歳、10歳、9歳、8歳、7歳、6歳、5歳、4歳、3歳、2歳又は1歳の子供である。いくつかの実施態様では、被験体は、新生児である。いくつかの実施態様では、被験体は、新生子である。本明細書で使用される「新生子」は、約28日齢未満の新生児である。いくつかの実施態様では、被験体は、疾患を発症するリスクを有する子供を出産し得る妊婦である。
いくつかの実施態様では、被験体は、抗原に対する不適切な又は望ましくない免疫系活性によって引き起こされる疾患又は症状の少なくとも1つの症候を発症しやすいか、若しくは発症しやすいと考えられるか、又は既に発症したか、若しくは発症している。被験体は、様々な因子、例えば母親及び/又は父親、兄弟姉妹、他の親族(祖父母、叔母、叔父及び従兄弟姉妹など)の家族歴及び/又は遺伝子検査、他の疾患バイオマーカー、例えば異なる(自己)抗原に対する(自己)抗体の存在に基づいて、そのようになったか、又はそのようになる可能性があると特定又は診断され得る。一般に、被験体は、自己免疫疾患、アレルギー又は他の望ましくない免疫応答の発症に対する遺伝的素因を有することが公知である。「遺伝的素因を有することが公知である」は、被験体が疾患を有するか又は発症する統計的確率が少なくとも1、5、10、20、30、40、50、60、70、80、90%又は100%であるように、親又は兄弟姉妹の一方又は両方が疾患若しくは症状を有し得、及び/又は疾患若しくは症状に関連する遺伝子の保因者であることが公知であることを意味する。この決定は、親、兄弟姉妹若しくは被験体の健康の観察又はその試験、及び疾患又は症状に関連するか又はこれを引き起こす(例えば、対立遺伝子、突然変異、挿入、欠失などの特定の配列を有する)ことが公知の形態の1つ又は複数の遺伝子の同定に基づき得る。疾患のリスクはまた、被験体の細胞を遺伝子型決定することによって、及び/又は非遺伝子バイオマーカーを含む適切なバイオマーカー(例として、抗体及び他の免疫表現型又はエピジェネティック改変など)によりそれらを評価することによって確認してもよいし又は確認しなくてもよい。当業者であれば、遺伝子量が適用され得るという点で、このような遺伝子形質は「全か無」ではなくてもよいことも認識するであろう。それにもかかわらず、被験体がリスクを有すると考えられる場合には、及び本方法の実施によって被験体の寿命を延長又は改善し得る場合には、被験体は、有望な処置候補である。
いくつかの実施態様では、被験体は、自己免疫疾患を発症しやすいか、若しくは発症しやすいと考えられるか、又は既に発症したか、若しくは発症している。本明細書で使用される「自己免疫疾患」という用語は、被験体における自己免疫応答(自己抗原(auto- or self-antigen)に対する免疫応答)の存在を指す。自己免疫疾患としては、獲得免疫系が自然免疫系の細胞と協調して自己抗原に応答し、細胞損傷及び組織損傷を媒介するような、自己寛容の崩壊によって引き起こされる疾患が挙げられる。いくつかの実施態様では、自己免疫疾患は、少なくとも部分的には体液性免疫応答及び/又は細胞性免疫応答の結果であることを特徴とする。自己免疫疾患の例としては、限定されないが、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)、急性壊死性出血性白質脳炎、アジソン病、無ガンマグロブリン血症、円形脱毛症、アミロイドーシス、強直性脊椎炎、抗GBM/抗TBM腎炎、抗リン脂質抗体症候群(APS)、自己免疫血管浮腫、自己免疫再生不良性貧血、自己免疫自律神経障害、自己免疫肝炎、自己免疫高脂血症、自己免疫不全、自己免疫内耳疾患(AIED)、自己免疫心筋炎、自己免疫膵炎、自己免疫網膜症、自己免疫血小板減少性紫斑病(ATP)、自己免疫甲状腺疾患、自己免疫蕁麻疹、軸索及び神経細胞神経障害、ベーチェット病、水疱性類天疱瘡、自己免疫心筋症、キャッスルマン病、セリアック病、シャーガス病、慢性疲労症候群、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP)、慢性再発性多巣性骨髄炎(CRMO)、チャーグ・ストラウス症候群、瘢痕性類天疱瘡/良性粘膜類天疱瘡、クローン病、コーガン症候群、寒冷凝集素症、先天性心ブロック、コクサッキー心筋炎、CREST疾患、本態性混合性クリオグロブリン血症、脱髄性ニューロパチー、疱疹状皮膚炎、皮膚筋炎、デビック病(視神経脊髄炎)、円板状ループス、ドレスラー症候群、子宮内膜症、好酸球性筋膜炎、結節性紅斑、実験的アレルギー性脳脊髄炎、エヴァンス症候群、線維筋痛症、線維性肺胞炎、巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)、糸球体腎炎、グッドパスチャー症候群、多発血管炎性肉芽腫症(GPA)、グレーブス病、ギラン・バレー症候群、橋本脳炎、橋本甲状腺炎、溶血性貧血、ヘノッホ・シェーンライン紫斑病、妊娠性疱疹、低ガンマグロブリン血症、高ガンマグロブリン血症、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、IgA腎症、IgG4関連硬化性疾患、免疫調節性リポタンパク質、封入体筋炎、炎症性腸疾患、インスリン依存性糖尿病(1型)、間質性膀胱炎、若年性関節炎、川崎症候群、ランバート・イートン症候群、白血球破壊性血管炎、扁平苔癬、硬化性苔癬、木質性結膜炎、線状IgA病(LAD)、ループス(SLE)、ライム病、メニエール病、顕微鏡的多発血管炎、混合性結合組織疾患(MCTD)、良性単クローン性γグロブリン血症(MGUS)、モーレン潰瘍、ムッハ・ハーベルマン病、多発性硬化症、重症筋無力症、筋炎、ナルコレプシー、視神経脊髄炎(デビック病)、自己免疫好中球減少症、眼瘢痕性類天疱瘡、視神経炎、回帰性リウマチ、PANDAS(連鎖球菌に関連する子供自己免疫精神神経障害)、傍腫瘍性小脳変性症、発作性夜間血色素尿症(PNH)、ペイリー・ロンベルグ症候群、パーソネージ・ターナー症候群、毛様体扁平部炎(周辺性ブドウ膜炎)、天疱瘡、末梢神経障害、静脈周囲脳脊髄炎、悪性貧血、POEMS症候群、結節性多発動脈炎、I、II及びIII型自己免疫多腺性症候群、リウマチ性多発筋痛症、多発性筋炎、心筋梗塞後症候群、心膜切開後症候群、プロゲステロン皮膚炎、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、乾癬、乾癬性関節炎、特発性肺線維症、壊疽性膿皮症、赤芽球癆、レイノー現象、反射性交感神経性ジストロフィー、ライター症候群、再発性多発性軟骨炎、下肢静止不能症候群、後腹膜線維症、リウマチ熱、関節リウマチ、サルコイドーシス、シュミット症候群、強膜炎、強皮症、シェーグレン症候群、精子及び精巣自己免疫、全身硬直症候群、亜急性細菌性心内膜炎(SBE)、スザック症候群、交感性眼炎、高安動脈炎、側頭動脈炎/巨細胞性動脈炎、血小板減少性紫斑病(TTP)、トロサ・ハント症候群、横断性脊髄炎、潰瘍性大腸炎、未分化結合組織疾患(UCTD)、ブドウ膜炎、血管炎、小水疱水疱性皮膚病、白斑、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症(WM)並びにウェゲナー肉芽腫症[多発性血管炎を伴う肉芽腫症(GPA)]が挙げられる。いくつかの実施態様では、自己免疫疾患は、関節リウマチ、1型糖尿病、全身性エリテマトーデス(ループス又はSLE)、重症筋無力症、多発性硬化症、強皮症、アジソン病、水疱性類天疱瘡、尋常性天疱瘡、ギラン・バレー症候群、シェーグレン症候群、皮膚筋炎、血栓性血小板減少性紫斑病、高ガンマグロブリン血症、良性単クローン性γグロブリン血症(MGUS)、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症(WM)、慢性炎症性脱髄性多発神経根筋障害(CIDP)、橋本脳症(HE)、橋本甲状腺炎、グレーブス病、ウェゲナー肉芽腫症[多発性血管炎を伴う肉芽腫症]からなる群より選択される。いくつかの実施態様では、自己免疫疾患は、1型糖尿病である。
いくつかの実施態様では、被験体は、アレルギーを発症しやすいか、若しくは発症しやすいと考えられるか、又は既に発症したか、若しくは発症している。本明細書で使用される「アレルギー」という用語は、一般に、炎症を特徴とする不適切な免疫応答を指し、限定されないが、食物アレルギー、呼吸器アレルギー、及び全身性応答を引き起こすか又は引き起こす可能性がある他のアレルギー(例として、クインク浮腫及びアナフィラキシー)を含む。この用語は、気道炎症、例えば喘息又はアレルギー性鼻炎に関連するアレルギー、アレルギー性疾患、過敏症関連疾患又は呼吸器疾患を包含する。いくつかの実施態様では、本発明の方法は、アナフィラキシー、薬物過敏症、皮膚アレルギー、湿疹、アレルギー性鼻炎、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、ドライアイ疾患、アレルギー性接触性アレルギー、食物過敏症、アレルギー性結膜炎、昆虫毒アレルギー、気管支喘息アレルギー性喘息、内因性喘息、職業性喘息、アトピー性喘息、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)及び慢性閉塞性肺疾患(COPD)に関係する1つ以上の症候の予防、治療又は緩和において有効である。本発明の方法によって処置され得る過敏症関連疾患又は障害としては、限定されないが、アナフィラキシー、薬物反応、皮膚アレルギー、湿疹、アレルギー性鼻炎、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、ドライアイ疾患[又は乾性角結膜炎と別様に称され、乾燥角膜炎、眼球乾燥症とも称される]、接触性アレルギー、食物アレルギー、アレルギー性結膜炎、昆虫毒アレルギー、及び気道炎症に関連する呼吸器疾患、例えばIgE媒介性喘息及び非IgE媒介性喘息が挙げられる。気道炎症に関連する呼吸器疾患としては、限定されないが、鼻炎、アレルギー性鼻炎、気管支喘息、アレルギー性(外因性)喘息、非アレルギー性(内因性)喘息、職業性喘息、アトピー性喘息、運動誘発性喘息、咳誘発性喘息、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)及び慢性閉塞性肺疾患(COPD)が挙げられ得る。
いくつかの実施態様では、被験体は、治療目的又は他の目的で外因性投与され、望ましくない免疫応答をトリガーし得る分子に対する免疫応答を発症しやすいか、若しくは発症しやすいと考えられるか、又は既に発症したか、若しくは発症している。この種の非限定的な例としては、限定されないが、血友病A、血友病B、他の凝固因子、例えば第II因子、プロトロンビン及びフィブリノーゲンの先天性欠損症、一次免疫不全(例えば、重症複合免疫不全、X連鎖無ガンマグロブリン血症、IgA欠損症)、主要ホルモン欠損症、例えば成長ホルモン欠損症及びレプチン欠損症、先天性酵素病及び代謝障害、例えば炭水化物代謝の障害(例えば、スクロースイソマルターゼ欠損症、グリコーゲン蓄積症)、アミノ酸代謝の障害(例えば、フェニルケトン尿症、メープルシロップ尿病、1型グルタル酸血症)、尿素サイクル障害(例えば、カルバモイルリン酸シンテターゼI欠損症)、有機酸代謝の障害(例えば、アルカプトン尿症、2-ヒドロキシグルタル酸性尿症)、脂肪酸酸化及びミトコンドリア代謝の障害(例えば、中鎖アシル-補酵素Aデヒドロゲナーゼ欠損症)、ポルフィリン代謝の障害(例えば、ポルフィリン症)、プリン又はピリミジン代謝の障害(例えば、レッシュ・ナイハン症候群)、ステロイド代謝の障害(例えば、脂肪性先天性副腎過形成、先天性副腎過形成)、ミトコンドリア機能の障害(例えば、キーンズ・セイアー症候群)、ペルオキシソーム機能の障害(例えば、ツェルヴェーガー症候群)、リソソーム蓄積障害(例えば、ゴーシェ病、ニーマンピック病)を含む遺伝子欠損症との関連で補充療法薬に対する免疫応答が挙げられる。遺伝子欠損症の場合、提案される方法は、疾患を処置するために使用される補充療法薬に対する免疫寛容を回復させるだけではなく、前記治療薬が投与される目的の生物学的活性を回復させることも可能にし得る。前記方法が望ましくない免疫応答を制限するために適切であり得る他の治療薬としては、一例として、サイトカイン、モノクローナル抗体、レセプターアンタゴニスト、可溶性レセプター、ホルモン又はホルモン類似体、凝固因子、酵素、細菌タンパク質又はウイルスタンパク質などの他の生物学的薬剤が挙げられる。例えば、血友病の子供は、定期的な凝固因子(例えば、第VIII因子)補充療法(これは、傷害による致命的な出血の可能性を減少させる)で予防的に処置され得る。このような処置の費用及び不便に加えて、反復投与は、いくつかの患者では、凝固因子に対する阻害抗体の形成をもたらす。これらの患者における抗体が低力価抗体である場合、患者は、より高用量の血液凝固因子で処置される。抗体が高力価抗体である場合、これらの患者のための処置レジメンは、一層複雑かつ高価になる。いくつかの実施態様では、治療用タンパク質は、例えば、先天性欠損症の処置に適切な遺伝子治療後の被験体において産生される。遺伝子治療は、典型的には、疾患に関与する遺伝子の遺伝子操作を伴う。単一機能性タンパク質が欠損している血友病患者のような患者のための1つの可能なアプローチは、治療目的のタンパク質をコードする遺伝物質の伝達である。しかしながら、ウイルスベクターなどの遺伝子治療ベクターの反復投与はまた、ベクターに導入された治療用タンパク質に対する、及び/又はベクターの他の成分に対する望ましくない免疫応答をトリガーし得る。したがって、本発明の方法は、ウイルスベクターなどの遺伝子治療ベクターに対する身体の免疫応答を克服するために適切であり得る。実際、ウイルスベクター、特に生物内において免疫原性エピトープを発現するアデノウイルス及びアデノ随伴ウイルス(AAV)のようなものは、免疫応答を誘導する可能性が最も高い。限定されないが、X連鎖重症複合免疫不全(X-SCID)のためのレトロウイルス;様々なガンのためのアデノウイルス;筋肉疾患及び眼疾患を処置するためのアデノ随伴ウイルス(AAV);レンチウイルス、単純ヘルペスウイルス及び当技術分野で公知の他の適切な手段を含む様々なウイルスベクターが遺伝子治療に使用される。
いくつかの実施態様では、被験体は、移植組織又は移植造血細胞又は移植血液細胞に対する免疫応答を発症しやすいか、若しくは発症しやすいと考えられるか、又は既に発症したか、若しくは発症している。典型的には、被験体は、心臓、腎臓、肺、肝臓、膵臓、膵島、脳組織、胃、大腸、小腸、角膜、皮膚、気管、骨、骨髄、筋肉又は膀胱からなる群より選択される移植片を移植されていてもよい。本発明の方法はまた、レシピエント被験体によるドナー組織、細胞、移植片又は臓器移植の拒絶に関連する免疫応答を予防又は抑制するために特に適切である。移植片関連疾患又は障害としては、例えば骨髄移植に関連する移植片対宿主病(GVHD)、及び例えば皮膚、筋肉、ニューロン、膵島、臓器、肝臓の実質細胞の移植片などを含む臓器、組織又は細胞の移植片移植(例えば、組織又は細胞の同種移植片又は異種移植片)の拒絶に起因するか又はこれに関連する免疫障害が挙げられる。したがって、本発明の方法は、宿主対移植片病(HVGD)及び移植片対宿主病(GVHD)を予防するために有用である。キメラ構築物は、移植前、移植中及び/又は移植後(例えば、移植の少なくとも1日前、移植の少なくとも1日後及び/又は移植手順それ自体の間)に被験体に投与され得る。いくつかの実施態様では、キメラ構築物は、移植前及び/又は移植後に定期的に被験体に投与され得る。
いくつかの実施態様では、本発明の方法は、自己免疫疾患、アレルギー性疾患及び先天性欠損症の処置に特に適切である。
本明細書で使用される「処置」又は「処置する」という用語は、疾患に罹患するリスクを有するか又は疾患に罹患していると疑われる患者、並びに病気であるか又は疾患若しくは医学的症状を患っていると診断された患者の処置を含む予防的又は防止的処置並びに治癒的又は疾患改変的処置の両方を指し、臨床的再発の抑止を含む。処置は、障害又は再発性障害の1つ以上の症候を予防し、治癒し、その発症を遅延させ、その重症度を減少させ若しくは改善するために、又はこのような処置の非存在下で予想される生存期間を超えて被験体の生存期間を延長するために、医学的障害を有するか又は最終的に障害にかかり得る被験体に投与され得る。「治療レジメン」は、病気の処置パターン、例えば治療中に使用される投与パターンを意味する。治療レジメンは、導入レジメン及び維持レジメンを含み得る。「導入レジメン」又は「導入期間」という語句は、疾患の初期処置に使用される治療レジメン(又は治療レジメンの一部)を指す。導入レジメンの一般的な目的は、処置レジメンの初期期間中に、高レベルの薬物を患者に提供することである。導入レジメンは、維持レジメン中に医師が用いるよりも高用量の薬物を投与すること、維持レジメン中に医師が投与するよりも高頻度で薬物を投与すること、又はその両方を含み得る「ローディングレジメン」を(部分的に又は全体的に)用い得る。「維持レジメン」又は「維持期間」という語句は、病気の処置中に患者を維持するために、例えば患者を長期間(数カ月間又は数年間)にわたって寛解に維持するために使用される治療レジメン(又は治療レジメンの一部)を指す。維持レジメンは、連続療法(例えば、薬物を一定間隔で、例えば毎日、毎週、毎月、毎年投与する)又は間欠療法(例えば、断続処置、間欠処置、再発時の処置、又は特定の所定基準[例えば、疾患兆候など]を達成した際の処置)を用い得る。
本発明によれば、キメラ構築物は、抗原含有部分を含む。この部分は、免疫寛容を生じさせることが望ましい抗原分子又は抗原分子の一部を含み、複数の抗原又は抗原の一部を含み得る。好ましくは、抗原は、タンパク質、ポリペプチド又はペプチドである。いくつかの実施態様では、抗原含有部分は、1つ以上の目的の公知のエピトープ、例えば、免疫応答を誘発することが公知の抗原の領域又は残基を含む。あるいは、推定エピトープ及び抗原領域は、例えば、当技術分野で周知の予測ソフトウェアプログラムを使用して、アクセシビリティ、表面露出、電荷、アミノ酸配列などによる抗原性の可能性に基づいて選択され得る。典型的には、抗原含有部分は、抗原の一次配列の連続配列を含む。あるいは、抗原の十分な残基は、二次構造及び三次構造が少なくとも部分的に保存されるように存在し得、一次配列では必ずしも連続的ではないが分子のフォールディング後には隣接するか、又は異なる「ハイブリッド」エピトープについて記載されているように非隣接抗原配列の融合によって生成される抗原領域が存在する。構築物の抗原部分は、1つ又は複数の目的の抗原に由来する1つのエピトープ又は複数のエピトープを含有し得る。複数のエピトープは、構築配列中で連続的であり得るか、又は適切なリンカーによって分離され得る。複数のエピトープは同じものであり得、例えば、同じエピトープの複数のコピーが存在し得る;又は、エピトープは異なるものであり得、例えば、2つ以上の異なるエピトープの単一又は複数のコピーが存在し得る。エピトープは、異なる抗原分子に由来することによって、又は同じ抗原分子の異なる部分に由来することによって、又はその両方によって、互いに異なるものであり得(異なり得)、例えば、いくつかの異なる変異体由来の抗原の同じ領域が使用され得る。上記の組み合わせも存在し得る。翻訳後修飾されたエピトープ、又は選択的スプライシングによって生成されたエピトープも同様に含まれ得る。抗原含有部分のアミノ酸配列は、天然抗原であるタンパク質、ポリペプチド又はペプチドのアミノ酸配列と100%の同一性を有し得る。あるいは、抗原部分は、免疫寛容が望まれるネイティブな配列の残基の一部(例えば、少なくとも約10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95%又はそれ以上)を含み得る。さらに、抗原部分におけるアミノ酸配列は、ネイティブなタンパク質抗原のものと同じ一次配列であり得るか、又はネイティブなタンパク質配列と、若しくはそのベースとなるネイティブな配列の一部と少なくとも約50、55、60、65、70、75、80、85、90、95%若しくはそれ以上の同一性若しくは相同性を有するその変異体であり得る。
いくつかの実施態様では、抗原含有部分は、プレプロインスリン(PPI)、グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)、インスリノーマ関連タンパク質2(IA-2)、膵島特異的グルコース-6-ホスファターゼ触媒サブユニット関連タンパク質(IGRP)、亜鉛輸送体8(ZnT8)、プレプロ膵島アミロイドポリペプチド(ppIAPP)、78kDaグルコース調節タンパク質[GRP78及びその前駆体;熱ショック70kDaタンパク質5(HSPA5)としても公知である)、T1Dでは筋緊張性ジストロフィーキナーゼ(DMK)及びクロモグラニンA;多発性血管炎を伴う肉芽腫症ではミエロペルオキシダーゼ及びプロテイナーゼ3;多発性硬化症ではミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)及びプロテオリピドタンパク質(PLP);慢性関節リウマチでは様々な滑膜抗原、例えばビメンチン、核内リボ核タンパク質-A2(RA33)、フィブリノーゲン、α-エノラーゼ;セリアック病では組織トランスグルタミナーゼ及びグリアジンに由来する。翻訳後修飾されたエピトープ、選択的スプライシングアイソフォーム及び前記抗原由来のハイブリッドペプチド-単独又は他の抗原との組み合わせ-も同様に含まれる。胸腺において適切に発現されない標準的な抗原又は抗原アイソフォームは、この目的のために特に適切であり得る。抗原部分の例は、抗原提示細胞(樹状細胞を含む)によってプロセシングされ、異なるヒト白血球抗原(HLA)クラスI又はクラスII分子との関連で提示された後、前記タンパク質から生成される。したがって、前記ペプチド抗原は、それらの供給源となる抗原だけではなく、それらを提示するHLA分子にも応じて異なる。例えば、マウス及びヒトの両方のT1D関連ペプチド抗原のリストは、DiLorenzo et al., Clin.Exp.Immunol. 148:1, 200744に見られ得る。
いくつかの実施態様では、抗原含有部分は、アレルゲンに由来する。アレルゲンとしては、限定されないが、ハチに対する激しい反応に関連するホスホリパーゼA2(APIml)、ハウスダストダニ(Dermatophagoides pteronyssinus)に対する反応に関連するDerp-2、Der p 2、Der f、Der p 5及びDer p 7、ゴキブリアレルゲンBla g 2、並びに主なカバノキ花粉アレルゲンBet v 1が挙げられる。
いくつかの実施態様では、抗原含有部分は、治療用タンパク質に由来する。本明細書で使用される「治療用タンパク質」という用語は、治療効果を達成するためにin vivoで投与されるか又は投与される予定の任意のアミノ酸長のタンパク質又はペプチド化合物を指す。このような治療用タンパク質の例は、限定されないが、(それらのネイティブな形態の又は部分的/完全にヒト化された)異なる種の抗体、サイトカイン、レセプターアンタゴニスト、可溶性レセプター、ホルモン又はホルモン類似体、凝固因子、酵素、細菌タンパク質又はウイルスタンパク質である。治療用タンパク質が適切であり得る治療用途の例としては、限定されないが、サイトカイン及び抗体系免疫療法、ホルモン補充療法、及び凝固因子(例えば、血友病Aにおける第VIII因子)又は酵素欠損(例えば、ムコ多糖症VIIにおけるβ-グルクロニダーゼ)の補充療法が挙げられる。これらの状況では全て、投与されるタンパク質に対する免疫原性応答のマウンティングは、所望の治療効果を達成するために逆効果であるので(例えば、サイトカイン放出症候群などの副作用;又は治療タンパク質の中和/分解)、望ましくない。
本明細書で使用される「新生児Fcレセプター」又は「FcRn」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、Fcレセプターである新生児Fcレセプターを指す。免疫グロブリンスーパーファミリーに属するFcγRとは異なり、ヒトFcRnは、主要組織適合複合体(MHC)クラスIのポリペプチドに構造的に類似する45。典型的には、FcRnは、可溶性β又は軽鎖(β2ミクログロブリン)と複合体形成した膜貫通α又は重鎖からなるヘテロダイマーとして発現される。FcRnは、クラスI MHC分子と22~29%の配列同一性を共有し、非機能型のMHCペプチド結合溝を有する46。MHCのように、FcRnのα鎖は、3つの細胞外ドメイン(α1、α2、α3)と、タンパク質を細胞表面に固定する短い細胞質尾部とからなる。α1及びα2ドメインは、抗体のFc領域におけるFcR結合部位と相互作用する47
いくつかの実施態様では、FcRnターゲティング部分は、典型的には、構築物全体に結合してFcRnレセプターによるその取り込みを媒介することができるタンパク質又はポリペプチドである。一般に、FcRnターゲティング部分は、IgG抗体の、好ましくはIgG1若しくはIgG4抗体の、特により好ましくはIgG1抗体のFc、又は構築物の結合及び取り込みを可能にするために十分な該Fcの一部である。本明細書で使用される「Fc領域」という用語は、抗体重鎖の定常領域に由来するアミノ酸配列を含む。Fc領域は、パパイン切断部位(EUインデックスの約216位)のヒンジ領域のN末端から開始して、ヒンジ、CH2及びCH3ドメインを含む抗体の重鎖定常領域の一部である。本発明の実施において使用され得る例示的なFc領域又はその一部は、当技術分野で周知である。
いくつかの実施態様では、本発明のリコンビナントキメラ構築物は、Fc領域の一部(例えば、FcRnに対する結合を付与するFc領域の一部)からなるアミノ酸配列と、抗原の抗原性部分を含む非免疫グロブリンポリペプチドのアミノ酸配列とを含む融合タンパク質である。
本明細書で使用される「融合タンパク質」という用語は、それが天然では本来連結されていない第2のアミノ酸配列に連結された第1のアミノ酸配列を含むキメラポリペプチドを指す。本明細書で使用される「連結された」、「融合された」又は「融合」という用語は、互換的に使用される。これらの用語は、化学的コンジュゲーション又はリコンビナント手段を含む何らかの手段によって、2つ以上の要素又は成分を互いに接続することを指す。「インフレーム」又は「作動可能に連結された」融合は、元のORFの正しいリーディングフレームを維持する様式で、2つ以上のオープンリーディングフレーム(ORF)を接続して、連続するより長いORFを形成することを指す。したがって、得られるリコンビナント融合タンパク質は、元々のORFによってコードされるポリペプチドに対応する2つ以上のセグメントを含有する単一タンパク質である(通常、このセグメントは天然ではそのように接続されていない)。したがって、リーディングフレームは、融合セグメント全体で連続的になるが、セグメントは、例えばインフレームリンカー配列によって物理的又は空間的に分離され得る。融合構築物の生産又はin vivo投与後のその検出を容易にするために、検出可能な標識がさらに含められ得る。加えて、様々な他の官能基が構築物に含められ得る。このような官能基の例としては、限定されないが、1つ又は複数の所望の生物学的活性(例えば、レセプターに対する結合又はこのような結合の回避)を発揮するために必要とされるか、又はこのような生物学的活性を増加させるように改変された抗原性タンパク質のドメインが挙げられる。本発明の融合タンパク質は、当技術分野で周知の任意の方法によって、例えば化学合成によって、又は所望の関係でペプチド領域がコードされたポリヌクレオチドを作製及び翻訳することによって生産され得る。
いくつかの実施態様では、融合タンパク質のFc領域は、IgG Fcを化学的に規定するパパイン切断部位(重鎖定常領域の最初の残基を114とすると、EUナンバリングの約残基216)の直ぐ上流のヒンジ領域から開始してそのC末端で終了する抗体のFc領域全体を含む。融合が行われる正確な部位は重要ではない;特定の部位は周知であり、分子の生物学的活性、分泌又は結合特性を最適化するために選択され得る。融合タンパク質を作製するための方法は、当技術分野で公知である。本明細書で使用される「ヒンジ領域」という用語は、CH1ドメインをCH2ドメインに接続する重鎖分子の一部、例えば、EUナンバリングシステムの約216~230位を含む。このヒンジ領域は約25残基を含み、フレキシブルであるので、2つのN末端抗原結合領域が独立して動くことを可能にする。ヒンジ領域は、3つの別個のドメイン(上部、中央及び下部ヒンジ領域)に細分化され得る48。本明細書で使用される「CH2ドメイン」という用語は、例えば、EUの約231~340位に及ぶ重鎖分子の一部を含む。CH2ドメインは、別のドメインと密接に対合しない点においてユニークである。むしろ、2つのN結合分枝炭水化物鎖が、インタクトでネイティブなIgG分子の2つのCH2ドメイン間に介在している。本明細書で使用される「CH3ドメイン」という用語は、CH2ドメインのN末端から約110残基(例えば、EUナンバリングシステムの約残基341~446)に及ぶ重鎖分子の一部を含む。典型的には、CH3ドメインは、抗体のC末端部分を形成する。しかしながら、いくつかの免疫グロブリンでは、さらなるドメインがCH3ドメインから伸長して、分子のC末端部分を形成し得る(例えば、IgMの鎖のCH4ドメイン及びIgEのE鎖)。
いくつかの実施態様では、融合タンパク質のFc領域はヒンジ領域を含まないが、抗原の抗原性部分を含むアミノ酸配列に融合されたCH2及びCH3ドメインを含む。
構築物のサイズを減少させるさらなる方法、例えば米国特許出願公開第2002/0155537号、米国特許出願公開第2007/0014794号及び米国特許出願公開第2010/0254986号(それぞれCarter et al)並びに米国特許出願公開第2014/0294821号(Dumont et al.)に記載されているものも用いられ得る。例えば、Fc-Fc及び抗原-Fc/抗原-Fcダイマーの形成が防止され得る。
いくつかの実施態様では、Fc領域は、FcRnの結合親和性又は特異性を増加させるために突然変異され得る。このような突然変異の例は最近の総説23に要約されており、限定されないが、H435A49、N434A50及びM428L改変51が挙げられる。ネイティブなFcドメインと比較して同様の又は優れた効果を達成するFcRn結合ペプチドも記載されており52、目的の抗原と一緒に前記融合タンパク質を作製するために使用して、追加されたFcRn結合部分の相対分子量を減少させることをさらに可能にし得る。いくつかの実施態様では、Fc領域は、例えばペプシンによる酵素的分解を制限するために突然変異され得る。
いくつかの実施態様では、FcRn結合部分はナノ粒子の表面にカップリングされ、目的の抗原はこのようなナノ粒子に封入される。ナノ粒子の例としては、限定されないが、生分解性及び生体適合性のポリ(乳酸)-bポリ(エチレングリコール)(PLA-PEG)ブロックコポリマーが挙げられる30。FcRn結合部分は、例えば、遊離末端のマレイミド基との開環重合を使用して適切な方法によって、ナノ粒子表面にカップリングされ得る。この戦略は、分解から前記抗原を保護するという利点を有し得る。適切なナノ粒子を生産するための手順は当技術分野で公知であり、例は30に見られ得る。
「治療有効量」の上記本発明のキメラ構築物は、治療効果を達成するために十分な量の前記構築物を意味する。しかしながら、本発明の化合物及び組成物の総1日使用量は、適切な医学的判断の範囲内で主治医によって決定されると理解されよう。任意の特定の被験体のための特定の治療有効用量レベルは、処置される障害及び障害の重症度;用いられる特定の化合物の活性;用いられる特定の組成物、被験体の年齢、体重、一般健康、性別及び食事;用いられる特定の化合物の投与時間、投与経路及び排出速度;処置期間;用いられる特定の阻害剤と組み合わせて又は同時に使用される薬物;並びに医学分野で周知の類似要因を含む様々な要因に依存するであろう。例えば、所望の治療効果を達成するために必要なものよりも低いレベルで化合物の投与を開始し、所望の効果が達成されるまで投与量を徐々に増加させることは、十分に当技術分野の技術の範囲内である。しかしながら、製品の1日投与量は、0.01~1,000mg/成人/日の広範囲で変動し得る。典型的には、処置すべき被験体への投与量の症候調整のために、組成物は、有効成分0.01、0.05、0.1、0.5、1.0、2.5、5.0、10.0、15.0、25.0、50.0、100、250及び500mgを含有する。医薬は、典型的には、有効成分約0.01mg~約500mg、好ましくは有効成分1mg~約100mgを含有する。有効量の薬物は、通常、0.0002mg/kg~約20mg/kg体重/日、特に約0.001mg/kg~7mg/kg体重/日の投与量レベルで供給される。
本明細書で使用される「粘膜投与」という用語は、新生児Fcレセプターを発現する粘膜表面を介した、本発明のリコンビナントキメラ構築物の任意の投与形態を含む。「粘膜」という用語は、限定されないが、鼻粘膜、肺粘膜、口腔粘膜(舌下、口腔、頬側、腸内、腸、直腸又は胃を含む)又は膣粘膜などの粘膜を含む組織を指す。特に、この用語は、肺投与及び経口投与を包含する。いくつかの実施態様では、本発明のリコンビナントキメラ構築物は、口腔を介して送達される。いくつかの実施態様では、リコンビナントキメラ構築物は、気道を介して、例えば、鼻腔内送達、吸入、及び当技術分野で公知の任意の方法によって送達される。
本発明のリコンビナントキメラ構築物は、典型的には、粘膜投与経路に適合する任意の医薬組成物の形態で被験体に投与される。例えば、本発明のリコンビナントキメラ構築物は、薬学的に許容し得る担体と一緒に溶液又は懸濁液として投与され得る。このような薬学的に許容し得る担体は、例えば、水、リン酸緩衝生理食塩水、生理食塩水若しくは他の生理学的に緩衝された生理食塩水、又はビヒクル、例えばグリコール、グリセロール及び油、例えばオリーブ油又は注射用有機エステルであり得る。薬学的に許容し得る担体はまた、本発明のリコンビナントキメラ構築物と、界面活性剤及びグリコシド、例えばQuil Aとを混合することによって調製されたリポソーム又はミセルを含有し得る。いくつかの実施態様では、本発明のリコンビナントキメラ構築物は、任意の便利で実用的な方法で、例えば溶液、懸濁液、乳化、混和、封入、吸収によって、担体と合わせられる。このような手順は、当業者にはルーチンである。いくつかの実施態様では、本発明のリコンビナントキメラ構築物は、半固体又は固体の担体と十分に混合されるか、又は合わせられる。混合は、粉砕などの任意の便利な方法で行われ得る。治療活性の喪失、例えば胃における変性から組成物を保護するために、混合プロセスにおいて、安定剤も追加され得る。組成物において使用するための安定剤の例としては、バッファー、アミノ酸、例えばグリシン及びリシン、炭水化物、例えばデキストロース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、ラクトース、スクロース、マルトース、ソルビトール、マンニトールなど、タンパク質分解酵素阻害剤などが挙げられる。経口投与のための組成物は、ハードシェルゼラチンカプセル又はソフトシェルゼラチンカプセル、錠剤又は丸剤にさらに製剤化され得る。より好ましくは、ゼラチンカプセル、錠剤又は丸剤は、腸溶性コーティングされる。腸溶性コーティングは、pHが酸性である胃又は上部腸における組成物の変性を防止する。例えば、米国特許第5,629,001号を参照のこと。小腸に到達すると、そこの塩基性pHはコーティングを溶解し、本発明のリコンビナントキメラ構築物の放出及び特殊細胞(例えば、上皮腸細胞)による吸収を可能にする。
いくつかの実施態様では、キメラ構築物は、生物学的に含まれるLactococcus lactis又は他の適切な細菌において単独で、又は免疫調節分子(これは、限定されないが、インターロイキン-10及びトランスフォーミング成長因子βを含む)と組み合わせてそれを発現させることによって、分解からさらに保護され得る。このような製剤は、適切な臨床グレードのリコンビナントタンパク質として必要なキメラ構築物を合成する必要性を回避し、長期寛容を回復させる際に有効であり得る抗原-Fc構築物の安定な低用量送達を達成するというさらなる利点を有し得る53。この方法は当技術分野で公知であり、例は53-55に見られ得る。したがって、本発明の方法は、本発明のリコンビナントキメラ構築物をコードする核酸がそのゲノムに挿入されているリコンビナント細菌の使用を包含する。本発明のリコンビナント細菌は、Lactobacillus、Leuconostoc、Pediococcus、Lactococcus、Streptococcus、Escherichia、Streptococcus、Agrobacterium、Bacillus、Corynebacterium、Clostridium、Gluconobacter、Citrobacter、Enterobacter、Klebsiella及びPseudomonasからなる群より選択され得る。いくつかの実施態様では、本発明のリコンビナント細菌は、プロバイオティクス乳酸菌、特にLactococcus属、より具体的にはLactococcus lactis種である。
いくつかの実施態様では、本発明のキメラ構築物は、気道を介して、例えば鼻腔、気管又は肺に投与される。典型的には、本発明のキメラ構築物は、治療用組成物を上気道及び/又は下気道に導入するように適合された任意のデバイスによって送達される。いくつかの実施態様では、本発明のデバイスは、定量吸入器であり得る。デバイスは、液体、泡又は粉末の微分散霧の形態で本発明の治療用組成物を送達するように適合され得る。デバイスは、吸入に適切な霧を生成するために、圧電効果又は超音波振動を使用して、テープなどの表面上に付着した粉末を除去し得る。デバイスは、限定されないが、ポンプ、液化ガス、圧縮ガスなどを含む当業者に公知の任意の推進システムを使用し得る。デバイスは、典型的には、治療用組成物の流れが通過する1つ以上の弁と、流れをコントロールするためのアクチュエーターとを有する容器を含む。特に、本発明の構築物を投与するために適切なデバイスとしては、吸入器及び噴霧器、例えばステロイドを喘息患者に送達するために典型的に使用されるものが挙げられる。例えば、被験体が子供であるいくつかの場合では、吸入器からの有効な投与を容易にするために、スペーサーが使用され得る。様々な設計の吸入器が市販されており、本発明の医薬を送達するために用いられ得る。理論に縛られるものではないが、これらとしては、Accuhaler、Aerohaler、Aerolizer、Airmax、Akita Jet、Autohaler、Clickhaler、Diskhaler、Easi呼吸吸入器、Fisonair、Integra、Jet inhaler、Miat-haler、Novolizer吸入器、Pari Boy、Pulvinal吸入器、Rotahaler、Spacehaler、Spinhaler、Syncroner吸入器及びTurbohalerデバイスが挙げられる。
以下の図面及び実施例によって、本発明をさらに説明する。しかしながら、これらの実施例及び図面は、本発明の範囲を限定するものとして決して解釈されるべきではない。
送達戦略の概略図。母親の母乳IgGを新生児に輸送する生理学的経路を利用する。この経路はFcRn依存的であり、プレプロインスリン(PPI)とIgG Fcフラグメントとの融合により、腸上皮を介した血流へのアクセスが可能になる。 FcRnの非存在下では、経口投与したPPI-Fcは依然として、腸に限局されている。Alexa標識PPI-Fc 50μgを、1日齢のC56BL/6野生型(FcRn wt)及びFcRn-/-マウスに強制給餌し、72時間後にイメージングした。FcRn-/-の腸では、PPI-Fcの蛍光は依然として検出可能であるが、FcRn wtマウスでは検出不可能である。 経口投与によるPPI-Fcの全身及び胸腺送達。Alexa標識PPI-Fc又はPPI 50μgを、1日齢のPPI T細胞レセプター(TCR)トランスジェニックG9C8 NOD新生児マウスに強制給餌し、72時間後にイメージングした。全身レベル(上)及び胸腺(下)では、PPI-Fcの蓄積は検出されるが、PPIの蓄積は検出されない。結果は、実施した2回のうちの代表的な実験に関する。 経口投与時のPPI-Fc及びPPIの血清濃度。上記1日目の強制給餌後の示されている時点に採取した血清サンプルのELISA定量。データは、平均+SEMとして示されている。 PPI-Fcの経口投与は、免疫寛容を誘導する。A.上記生後1日目に処置した4週齢のG9C8マウスにおける脾臓CD8CD3及びCD4CD3T細胞の割合。B.同じマウスにおける脾臓CD4T細胞サブセットの割合。バーは、中央値及び四分位範囲を表す。***、p<0.001;**、p<0.01;*、p<0.05。 PPI-Fcの経口投与は、免疫寛容を誘導する。A.上記生後1日目に処置した4週齢のG9C8マウスにおける脾臓CD8CD3及びCD4CD3T細胞の割合。B.同じマウスにおける脾臓CD4T細胞サブセットの割合。バーは、中央値及び四分位範囲を表す。***、p<0.001;**、p<0.01;*、p<0.05。 抗原提示細胞の分析のためのゲーティング戦略。関連ゲートは、以下のようにナンバリングされている:1、マクロファージ;2、B細胞;3、形質細胞様樹状細胞(DC);4、遊走CD103CD11bcDC;5、常在CD103CD11bSIRPαcDC;6、常在CD103CD11bSIRPαcDC;7、遊走CD103CD11bcDC;8、常在CD103CD11bcDC。2週齢のG9C8マウスの脾臓からの代表的な結果が示されている。 T細胞サブセットの分析のためのゲーティング戦略。生存CD3+細胞をゲーティングした後(示さず)、異なるマーカーの発現について、CD8+(パネルA)及びCD4+T細胞(パネルF)を分析した。関連ゲートは、以下のようにナンバリングされている:1、CD8T細胞;2、活性化/記憶CD8T細胞;3、ナイーブCD8T細胞;4、CCR9+活性化CD8T細胞;5、α4β7活性化CD8T細胞;6、CCR9ナイーブCD8+T細胞;7、α4β7ナイーブCD8T細胞;8、CD4T細胞;9、活性化/記憶CD4T細胞;10、ナイーブCD4T細胞;11、CCR9活性化CD4T細胞;12、α4β7活性化CD4T細胞;13、CCR9ナイーブCD4T細胞;14、α4β7ナイーブCD4T細胞;15、胸腺由来Treg;16、末梢Treg;17、Th3細胞;18、Tr1細胞。2週齢のG9C8マウスの脾臓からの代表的な結果が示されている。 PP1-Fc処置G9C8マウス対IgG1処置G9C8マウスにおけるCCR9hiCD8T細胞。A~B.上記生後1日目に処置した2週齢のG9C8マウスにおける活性化(CD44hiCD62L)CCR9hiCD8T細胞の割合(A)及び数(B)。C~D.同じマウスにおけるナイーブ(CD44CD62L)CCR9hiCD8T細胞の割合(C)及び数(D)。バーは、中央値を表す。*、p<0.05。 PP1-Fc処置G9C8マウス対IgG1処置G9C8マウスにおけるα4β7CD4T細胞。A~B.上記生後1日目に処置した2週齢のG9C8マウスにおける活性化(CD44hiCD62L)α4β7CD4T細胞の割合(A)及び数(B)。C~D.同じマウスにおけるナイーブ(CD44CD62L)α4β7CD4T細胞の割合(C)及び数(D)。バーは、中央値を表す。*、p<0.05。 PP1-Fc処置G9C8マウス対IgG1処置G9C8マウスにおける末梢Treg及び胸腺Treg。A~B.上記生後1日目に処置した2週齢のG9C8マウスにおける末梢(NRP1)Foxp3CD4Tregの割合(A)及び数(B)。C~D.同じマウスにおける胸腺(NRP1)Foxp3CD4Tregの割合(C)及び数(D)。バーは、中央値を表す。*、p<0.05。 経口送達したPPI-Fcは、糖尿病から保護する。PPI-Fc 50μg(実線)、等モル量のPPI(破線)又はIgG1(点線)を1日目に強制給餌したG9C8マウスにおける糖尿病発症率。続いて、4週齢及び6週齢時に、PPIB15-23及びCpGで免疫することによって、糖尿病を誘導した。**マンホイットニーU検定によりP<0.01。
材料及び方法
マウスPPI1-Fc及びPPI2-Fc融合タンパク質の作製
PPI1及びPPI2をコードする配列を、それぞれ膵臓cDNA及び胸腺cDNAからPCR増幅し、pCR4-TOPOプラスミド(Invitrogen)35に挿入した。適切な制限酵素で消化した後、IL-2シグナルペプチドの下流及びヒトFcγ1配列の上流において、pFUSE-hIgG1-Fc2発現ベクター(InvivoGen)に付着末端ライゲーションすることによって、PPI1/2配列をEcoRV/BglII部位に挿入した。次いで、PPI1-Fc及びPPI2-Fc配列をPCRによって再増幅し、XbaI/XhoI部位においてpFastBac1発現ベクター(Invitrogen)にライゲーションした。これらの構築物をBac-to-Bacバキュロウイルス発現系(Invitrogen)に挿入し、Hi5昆虫細胞において発現させ、セファロース結合プロテインG(GE Healthcare)によってタンパク質産物を精製した還元SDS-PAGEと、ウサギ抗インスリンポリクローナル抗体(H-86, Santa Cruz)及びマウス抗ヒトFcモノクローナルAb(Southern Biotech)を使用したウエスタンブロットとによって、タンパク質の同一性を確認した。以前に記載されているように56、Hi5昆虫細胞ペレットからPPI1及びPPI2を精製した。示されている実験において、PPI1-Fc(以下、PPI-Fcと称する)を使用した。
マウス
C56BL/6野生型及びC56BL/6 FcRn-/-マウスは、それぞれJanvier Labs及びJackson Laboratoryから入手した。G9C8 Cα-/-NODマウスは、PPIB15-23TCRについてトランスジェニックであり、以前に記載及び特性評価されている35,37
in vivo PPI-Fcイメージング
SAIVI Rapid Antibody/Protein labeling kit (Invitrogen)を使用して、PPI-Fc及びPPIタンパク質をAlexa Fluor (AF)680とコンジュゲートした。PPI-Fc 50μg又は等モル量のPPIを1日齢の新生児マウスに強制給餌した。Fluobeamイメージングシステム(Fluoptics)を使用して、励起波長690nm及び蛍光波長>700nm、露出50~100msで、蛍光を検出した。
血清PPI-Fc及びPPI濃度のELISA定量
上記のように強制給餌した後、ELISA定量のために、示されている時点において血液を採取し、PPI-Fc及びPPIタンパク質の連続希釈によって、標準曲線を作成した。プレートコーティングH-86抗インスリンAb(Santa Cruz)を用いて、PPI-Fc及びPPIを両方とも捕捉した。西洋ワサビペルオキシダーゼ標識ヤギ抗ヒトFc抗体(Southern Biotech)を用いて、PPI-Fcを検出した。抗プロインスリンモノクローナルAb(KL-1;Dr. L. Harrison, Walter and Eliza Hall Institute, Parkville, Australiaによる厚意の提供)を用いて、PPIを可視化した。
脾臓T細胞の表現型決定
処置マウスから取り出した脾細胞に対して、以下のモノクローナル抗体(monoclonal antobodies)を使用した:PE標識抗Foxp3、APC-eFluor780標識抗CD3ε(eBioscience);APC標識抗ニューロピリン-1(NRP1;R&D);Brilliant Violet (BV)605標識抗CD4及びBV711標識抗CD8a(BioLegend)。細胞をLive/Dead Red (Invitrogen)でさらに染色した。
マルチマーの調製
マウスMHCクラスI重鎖H-2Kd、ヒトβ2-ミクログロブリン及びPPI B15-23ペプチド(LYLVCGERL)から構成されるモノマーを、以前に記載されているように合成し35、BV650結合ストレプトアビジン(モル:モル比4:1)と共に1時間インキュベーションした。次いで、D-ビオチン及びウシ血清アルブミンをそれぞれ25μM及び0.5%濃度で追加した。得られたマルチマー(MMr)を4℃で保存して光から保護し、同日に使用した。
脾臓及びリンパ節における抗原提示細胞及びT細胞のサブセットの表現型決定。
全ての細胞を洗浄し、PBS1×に再懸濁してから、FACS染色のために96ウェルV底プレート(200μl/ウェル)に移した。BD CompBeads(10μl/ウェル、PBS 500μl中1滴)を各ウェルに追加してから、染色して細胞数を正規化した。2つの抗体パネルを以下のように使用した。
T細胞パネル。ダサチニブ(50μM、100μl/ウェル)を各細胞ペレットに37℃で30分間追加した。遠心分離後、細胞を、50μMダサチニブの20%希釈物を含有するMMr溶液18μlに室温で20分間再懸濁し、続いて、以下の抗体予混合物18μlと共に4℃で20分間インキュベーションした:Live/DEAD Aqua (Invitrogen, 1/1,000)、CD3-APC-eFluor780 (クローン145-2C11, eBioscience, 1/100)、CD4-BV711 (クローンRM4-5, BD Biosciences, 1/200)、CD8-AF700 (クローン53-6.7, BD Biosciences, 1/150)、CCR9-PE-Cy7 (クローンCW-1.2, BioLegend, 1/100); NRP1-APC (クローン3E12, BioLegend, 1/50)、LPAM-1 (α4β7)-PE-CF594 (クローンATK32, BD Biosciences, 1/100)、潜伏関連ペプチド(LAP)-BV421 (クローンTW7-16B4, BioLegend, 1/200)、CD62L-BV605 (クローンMEL-14, BD Biosciences, 1/200)、CD44-BV786 (クローンIM7, BD Biosciences, 1/100)。次いで、第2の抗体混合物10μLを37℃で15分間追加した:CD49b-FITC (クローンHMα2, BioLegend, 1/200)、LAG3-PerCP-Cy5.5 (クローンC9B7W, BD Biosciences, 1/200)。次いで、細胞をPBSで洗浄し、固定し、Foxp3 Fix/Perm Buffer Set (BioLegend)で透過処理し、抗Foxp3抗体(Foxp3-PE, クローンFJK-16s, eBioscience、FoxP3/Permバッファー中1/50)30μlと共にインキュベーションした。最終洗浄後、細胞をPBS1×200μlに再懸濁し、フローサイトメトリーの取得前に4℃で維持した。
抗原提示細胞(APC)パネル。固定及び透過処理せずに同一の染色プロトコールを適用し、以下の抗体混合物30μlと共に4℃で20分間インキュベーションした:Live/DEAD Aqua (Invitrogen, 1/1,000)、NK1.1-BV510 (クローンPK136, BD Biosciences, 1/100)、CD3-BV510 (クローン145-2C11, BD Biosciences, 1/100)、F4/80-BV711 (クローンBM8, BioLegend, 1/50)、CD8-AF700 (クローン53-6.7, BD Biosciences, 1/150)、B220-PE-Cy7 (クローンRA3-6B2, BD Biosciences, 1/150)、SIRPα-PerCP-eFl710 (クローンP84, eBioscience, 1/50)、PDCA-1-Pacific Blue (クローン927, BioLegend, 1/200)、CD11b-BV650 (クローンM1/70, BD Biosciences, 1/150)、CD11c-BV605 (クローンN418, BioLegend, 1/50)、CD103-BV786 (クローンM290, BD Biosciences, 1/100)。
PPI-Fc処置、糖尿病誘導及び経過観察
出生後1日目に、PPI-Fc 50μg又はコントロールタンパク質(すなわち、等モル量のFc欠損PPI又はハーセプチンIgG1)をG9Cα-/-.NODマウスに強制給餌した。糖尿病誘導のために、離乳の4日後に、4週齢のマウスをPPIB15-23ペプチド50μg及びCpG 100μgでプライミングし、続いてその15日後に、2回目の同一の免疫を行った。糖尿を試験することによって糖尿病の発症をモニタリングし、陽性の場合には血糖によって確認した。頸椎脱臼によって、糖尿病マウスを屠殺した。
結果
経口投与したPPI-Fcの腸内輸送は、FcRn-及びFc依存的である
使用した戦略の概略図は、図1に示されている。本発明者らは、母乳IgGを新生児に生理学的に送達する腸FcRn経路を利用した。この目的のために、本発明者らは、PPI1又はPPI2タンパク質をヒトIgG1由来のCH2-CH3 FcドメインのN末端と融合して、PPI1-Fc及びPPI2-Fc融合タンパク質を得た。Fc欠損PPI1/2は腸上皮を通過することができないが、Fc部分の追加はこの輸送を促すはずである。本発明者らは、PPI1-Fc構築物(以下、PPI-Fcと称する)を使用して、この戦略を検討した。
最初に、本発明者らは、蛍光標識PPI1-Fcを強制給餌した1日齢のFcRn-/-及び野生型C56BL/6マウスに対して、ex vivoイメージングを実施し、72時間後に屠殺した(図2)。FcRn-/-マウスの腸では、PPI-Fc蛍光は依然として検出可能であったが、野生型マウスの腸では検出不可能であり、これは、FcRnの非存在下では輸送がないことを示唆している。
このような輸送の発生を検証するために、蛍光標識PPI-Fc又はFc欠損PPIを1日齢のG9C8新生児マウスに強制給餌した(図3)。72時間後、PPI-Fcの全身蓄積が迅速に視覚化されたが、これは、PPIの場合には当てはまらなかった。PPI-Fcは、胸腺においても視覚化されたが、PPIは視覚化されなかった。
PPI1-Fcの血清濃度(図4)は、投与の24時間後において約1μg/mlであり(2日目)、72時間後まで比較的安定であった(3日目;約0.75μg/ml)。PPI1は、これらの時点のいずれにおいても検出されなかった。
まとめると、これらの結果は、単回用量のPPI-Fc 50μgの経口投与が、腸輸送、全身抗原バイオアベイラビリティ及び胸腺送達(これは、FcRn-及びFc依存的である)をもたらすが、単回用量のPPI 50μgの経口投与はもたらさないことを示している。
PPI-Fcの経口ワクチン接種は、免疫寛容原性T細胞改変を誘導する。
次に、本発明者らは、PPI-Fcの胸腺送達が、免疫寛容に適合するT細胞改変を誘導したかを評価した(図5A)。PPI-Fc処置新生児では、PBS処置したものと比較して、上記生後1日目の処置後の4週齢時に得た脾細胞は、CD8エフェクターT細胞の数の有意な減少を示した。PPI-Fc処置マウスとPBS処置マウスとの間では、総CD4T細胞数に有意差は見られなかった。しかしながら、CD4T細胞サブセットを分析したところ、有意差が検出された(図5B)。PBS処置マウスと比較して、PPI1-Fc処置動物は、CD4エフェクターT細胞(Foxp3)の数の減少及びFoxp3調節性T細胞(Treg)の数の増加(両方とも、胸腺由来(NRP1/CD304)及び末梢誘導性(NRP1/CD304)である)を示した。
Fc部分によって誘導された効果と、PPI抗原性部分に依拠する効果とを区別するために、PPI-Fc又はIgG1のいずれかを強制給餌したG9C8マウスを比較することによって、第2セットの実験を実施した。2週齢時に(すなわち、経口ワクチン接種した生後1日目により近い)、これらのマウスを分析した。脾臓、腸間膜リンパ節(MLN)及び膵臓リンパ節(PLN)において、APC及びT細胞サブセットを両方とも分析した。
APCゲーティング戦略を図6に示す。前方散乱及び側方散乱及び生細胞をゲーティングした後(示さず)、CD3NK1.1(系統陰性)細胞を選択して、それぞれT細胞及びNK細胞を除外した(図6A)。次いで、2つのマーカーにしたがって、3つのゲートを選択した:F4/80B220、F4/80B220及びF4/80B220(図6B)。次いで、CD11c及びCD11b発現についてF4/80B220細胞をプロットして、CD11cCD11bマクロファージを同定した(図6C、ゲート1)。同様に、CD11c及びCD11bマーカーについてF4/80B220細胞をプロットして、CD11cCD11bB細胞(図6D、ゲート2)及びCD11bCD11c細胞(これは、PDCA-1マーカー(図6E、ゲート3)及び遊走マーカーCD103についてさらにゲーティングすると、形質細胞様樹状細胞(pDC)集団が明らかになる)をゲーティングした。F4/80B220細胞のうち、CD11c及びCD11bマーカーにしたがって、2つのゲートを選択した(図6F)。まとめると、これらのCD11c画分は、従来の樹状細胞(cDC)(これは、遊走性(CD103、ゲート4)又は常在性(CD103、ゲート5、図6G)のいずれかのCD11bcDC;及び遊走性(CD103、ゲート7)又は常在性(CD103、ゲート8、図6H)のいずれかのCD11bcDCにさらに分けられる)に対応する。文献に詳述されていないさらなるCD103SIRPαCD11bcDC集団も視覚化された(ゲート6、図6G)。PPI-Fc及びIgG1を給餌した2週齢のマウスを比較したところ、これらの異なるAPC集団の頻度又は数に差異は見られなかった(示さず)。まとめると、これらの結果は、分析した2週間の時点では少なくとも、APC組成物が過去の経口ワクチン接種によって影響されないことを示している。
T細胞ゲーティング戦略を図7に示す。系統CD3細胞のうち、CD8T細胞をゲーティングした(図7A、ゲート1)。CD8細胞のうち、MMr細胞を選択して、PPIB15-23ペプチドに対するそれらの特異性を検証した(図7B)。CD44及びCD62Lについて、CD8T細胞をさらにゲーティングした。CD44hiCD62Lサブセットは活性化/記憶CD8T細胞に対応する一方(ゲート2)、CD44CD62Lはナイーブ細胞である(ゲート3、図7C)。最後に、腸ホーミングマーカーCCR9及びα4β7について、活性化CD8T細胞及びナイーブCD8T細胞を両方とも分析した(ゲート4~5、図7D;及びゲート6~7、図7E)。CD4T細胞(図7F)については、同じ表現型マーカー(CD44及びCD62L、図7G;並びにCCR9及びα4β7、図7H~I)を使用した。加えて、3つのTreg集団を分析した:胸腺由来(Foxp3NPR1;ゲート15)又は末梢誘導性(Foxp3NRP1;ゲート16、図7J)のいずれかの古典的Treg;Tヘルパー(Th)3細胞(LAPFoxP3;ゲート17、図7K)及びT調節性1(Tr1)細胞(Foxp3CD49bLAG3;ゲート18、図7L)。このゲーティング戦略を使用したところ、PPI-Fc給餌動物とIgG1給餌動物との間でわずかな差異が、2週齢時に既に見られた。第1に、PPI-Fc給餌マウスでは、腸に由来する可能性がある脾臓CCR9hiCD8T細胞の割合が増加していた(図8)。このような増加は、活性化CCR9hiCD8T細胞に限定されており(図8A~B)、ナイーブCD8サブセットでは観察されなかったが(図8C~D)、これは、T細胞が、このG9C8 TCR-トランスジェニックモデルにおけるほとんどのT細胞によって認識されるそれらのPPI B15-23同種抗原に遭遇すると、腸から脾臓に遊走することをさらに示唆している。第2に、脾臓α4β7CD4T細胞(腸に由来すると報告されている別の集団)について、PPI-Fc群においても同様の増加が観察された(図9)。この場合においても、この増加は、これらの細胞の活性化サブセットにおいてのみ観察され(図9A~B)、ナイーブサブセットでは観察されなかったが(図9C~D)、これはおそらく、腸における過去の同種PPI-Fcプライミングを反映している。第3に、PPI-Fc処置では、脾臓末梢Tregのわずかな増加が観察された一方(図10A~B)、脾臓胸腺由来Tregは、この時点では増加していなかった(図10C~D)。
まとめると、これらの結果は、PPI-Fcの経口ワクチン接種が、経口寛容に特徴的なT細胞改変(すなわち、2週齢時における腸由来活性化CD8及びCD4T細胞並びに末梢Tregの増加);並びに欠失性及び調節性の寛容機構を示唆する改変(すなわち、4週間の時点におけるCD8及びCD4エフェクターT細胞の減少並びにCD4Tregの増加)を誘導することを示している。さらに注目すべきことに、PPI-Fcの経口ワクチン接種の推定作用機構は、Fc欠損抗原による古典的な経口寛容とは異なる。胸腺由来Treg及び末梢由来Tregの両方の数の増加によって証明されるように、抗原-Fcの全身及び胸腺バイオアベイラビリティがここでは達成され、末梢性寛容機構及び中枢性寛容機構の両方を増強する。
PPI-Fcの新生児経口ワクチン接種は、糖尿病発症からG9C8マウスを保護する
最後に、本発明者らは、PPI-Fcの経口ワクチン接種及び関連T細胞改変が、高齢期における糖尿病保護をもたらすかを検証した。この目的のために、PPI-Fc 50μgを1日齢の新生児G9C8マウスに経口ワクチン接種した。次いで、4週齢及び6週齢時に、それらをPPI B15-23ペプチド及びCpGで免疫して糖尿病を誘導し、前向きに追跡した。コントロールとして、等モル量のリコンビナントIgG1(すなわち、FcRn結合が保たれた無関係なタンパク質)及びPPI(すなわち、FcRn結合なしの同種抗原)を投与した。IgG1給餌マウスでは、糖尿病発症は迅速であり、プライム・ブースト免疫と同時に起こり、マウスの93%が罹患した。逆に、PPI-Fcを給餌した場合、マウスの44%のみが糖尿病を発症した(p<0.01)。予想通り、PPIは中程度の保護を与え、最終的に糖尿病を発症したマウスは72%であった。まとめると、これらの結果は、PPI-Fcの経口ワクチン接種が、Fc欠損PPIよりも効率的に糖尿病からG9C8マウスを保護することを実証している。
参考文献:
本出願を通して、様々な参考文献が、本発明に関連する技術水準を説明する。これらの参考文献の開示は、参照により本開示に組み入れられる。
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Claims (6)

  1. IgG抗体のFc及びプレプロインスリンペプチドを含むリコンビナントキメラ構築物を含む、目的の膵臓β細胞抗原に対する寛容を誘導するための、医薬組成物であって、口腔を介して送達され、及び被験体が、新生児(newborn)、新生児(neonate)、または小児である医薬組成物。
  2. 膵臓β細胞抗原が、自己抗原であるか、膵臓β細胞抗原が、アレルゲンであるか、又は膵臓β細胞抗原が、治療目的で外因的に投与される分子である、請求項1に記載の医薬組成物。
  3. 被験体が、1型糖尿病を発症しやすいか、若しくは発症しやすいと考えられる、請求項1に記載の医薬組成物。
  4. 被験体が、治療目的又は他の目的で外因性投与される分子に対する免疫応答を発症しやすいか、若しくは発症しやすいと考えられるか、又は既に発症したか、若しくは発症している、請求項1に記載の医薬組成物。
  5. IgG抗体が、IgG1又はIgG4抗体である、請求項1に記載の医薬組成物。
  6. リコンビナントキメラ構築物を、該構築物を発現するリコンビナント細菌によって被験体に投与する、請求項1に記載の医薬組成物。
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