以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、図面において、同一または同等の要素には同じ符号を付し、重複する説明を省略する。
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態の天然ガスエンジンの制御装置の概略構成図である。図1に示されるように、本実施形態の天然ガスエンジンの制御装置100は、ECU[Electronic Control Unit]10と燃料ガス供給部20と天然ガスエンジン30とを備えており、天然ガスエンジン30の点火時期及び燃料供給を制御する。天然ガスエンジンの制御装置100は、例えば船舶Vに搭載されている。
天然ガスエンジン30は、天然ガスを含む混合気を燃焼させる内燃機関である。ここでは、天然ガスとして、液化天然ガス(LNG:[Liquefied Natural Gas])が用いられる。天然ガスエンジン30は、エンジン本体31と、ピストン32と、吸気流路33と、排気流路34とを有している。
エンジン本体31は、シリンダブロック31a及びシリンダヘッド31b等で構成された天然ガスエンジン30の主要部である。エンジン本体31では、シリンダブロック31a、シリンダヘッド31b、及びピストン32により燃焼室31cが画成されている。吸気流路33は、吸入空気と天然ガスとの混合気を燃焼室31cに導入するための配管である。吸気流路33では、配管27c及び配管27dから供給された燃料ガスと、スロットルバルブを含む吸気配管(不図示)から供給された吸入空気と、が混じり合うことにより、混合気が形成される。
エンジン本体31では、ピストン32が下死点側に移動することで吸気流路33から燃焼室31cに天然ガスを含む混合気が供給される。エンジン本体31におけるシリンダヘッド31bには、点火部6が設けられている。燃焼室31cでは、ピストン32が上死点側に移動することで、混合気が圧縮される。圧縮された混合気は、点火部6により点火されて燃焼し、排気流路34から排気ガスとして排出される。なお、図1では、シリンダヘッド31bに設けられた吸気バルブ及び排気バルブの図示が省略されている。
燃料ガス供給部20は、天然ガスエンジン30に燃料となるガスを供給するシステムである。燃料ガス供給部20は、第1タンク21と、第2タンク22と、電磁弁23と、ポンプ24と、気化器25と、電磁弁26と、第1電磁弁7と、第2電磁弁8と、を有している。
第1タンク21は、液体燃料(液化天然ガス)Lを貯蔵するタンクである。第1タンク21では、液体燃料Lが液体の状態を維持できるように冷却されている。液体燃料Lの成分は、天然ガスの産出地によって組成が異なるが、少なくとも、メタン、エタン、プロパン、イソブタン、ノルマルブタン、ノルマルペンタン、窒素、二酸化炭素を含む。第1タンク21は、例えばメタンの沸点(-162℃)未満に冷却され、メタンを含む天然ガスを液体燃料Lとして維持可能な断熱構造を有していてもよい。
第1タンク21では、冷却によっても防ぎ切れない自然入熱等により液体燃料Lの蒸発が生じ、ボイルオフガスGBが生じ得る。ボイルオフガスGBは、第1タンク21の液体燃料Lが自然気化して生じたガスである。ここでの自然気化とは、例えば、第1タンク21への周囲からの自然入熱により液体燃料Lが蒸発すること、及び、車両Vの車体の揺れに伴って液体燃料Lの液面が動くことにより生じる第1タンク21の内壁面と液体燃料Lとの摩擦熱で液体燃料Lが蒸発することを含む。ボイルオフガスGBは、メタンを主成分としており、天然ガスエンジン30に供給されることで耐ノック性を向上させ得る。ボイルオフガスGBは、エタンを含んでいてもよい。
第1タンク21は、配管27aを介して第2タンク22と接続されている。配管27aは、第1タンク21から第2タンク22にボイルオフガスGBを導く配管である。配管27aの途中には、電磁弁23及びポンプ24が設けられている。電磁弁23は、例えば、第1タンク21でのボイルオフガスGBの発生量等に応じて配管27aの連通及び遮断を切り換えてもよい。ポンプ24は、例えば、電磁弁26が配管27aを連通させている場合に、第1タンク21から第2タンク22へボイルオフガスGBを圧送してもよい。
第1タンク21は、配管27bを介して気化器25と接続されている。配管27bは、第1タンク21から気化器25に液体燃料Lを導く配管である。配管27bの途中には、電磁弁26が設けられている。電磁弁26は、天然ガスエンジン30の負荷に応じて配管27bの連通及び遮断を切り換えてもよい。
気化器25は、第1タンク21から配管27bを介して導かれた液体燃料Lを気化させて、燃料ガスGFを生成する。燃料ガスGFは、天然ガスエンジン30の主な燃料となるガスである。気化器25は、配管27cを介し吸気流路33と接続されている。配管27cは、気化器25から吸気流路33に燃料ガスGFを導く配管である。配管27cの途中には、後述の第1電磁弁7が設けられている。
第2タンク22は、ボイルオフガスGBを貯蔵するタンクである。第2タンク22は、配管27dを介して吸気流路33と接続されている。配管27dは、第2タンク22から吸気流路33にボイルオフガスGBを導く配管である。配管27dの途中には、後述の第2電磁弁8が設けられている。
ECU10は、天然ガスエンジン30を制御する電子制御ユニットである。ECU10は、CPU[Central Processing Unit]、ROM[Read Only Memory]、RAM[Random Access Memory]、通信回路等を有している。ECU10では、例えば、ROMに記憶されているプログラムをRAMにロードし、RAMにロードされたプログラムをCPUで実行することにより各種の機能を実現する。ECU10は、複数の電子ユニットから構成されていてもよい。
図2は、図1の天然ガスエンジンの制御装置のブロック図である。図2に示されるように、ECU10は、エンジン回転センサ1、スロットルレバーセンサ2、ノックセンサ3、タンク圧センサ4、点火部6、第1電磁弁7、及び第2電磁弁8と電気的に接続されている。
エンジン回転センサ1は、天然ガスエンジン30のエンジン回転数を検出する検出器である。エンジン回転センサ1は、検出したエンジン回転数の検出信号をECU10に出力する。スロットルレバーセンサ2は、スロットルレバーの操作量を検出する検出器である。スロットルレバーセンサ2は、検出したスロットルレバーの操作量に対応する検出信号をECU10に出力する。
ノックセンサ3は、例えばエンジン本体31のシリンダブロック31aに取り付けられており、シリンダブロック31aの振動を検出する検出器である。ノックセンサ3は、異常燃焼(ノッキング)による振動を含むシリンダブロック31aの振動を検出可能であれば、一般的な構成のセンサを採用することができる。ノックセンサ3は、検出したシリンダブロック31aの振動の検出信号をECU10に出力する。
タンク圧センサ4は、第2タンク22に設けられており、第2タンク22に貯蔵されているボイルオフガスGBの圧力を検出する検出器である。ここでは、ボイルオフガスGBの圧力は、第2タンク22に貯蔵されているボイルオフガスGBの残量に関する指標として用いられる。タンク圧センサ4は、検出したボイルオフガスGBの圧力の検出信号をECU10に出力する。
点火部6は、天然ガスエンジン30の燃焼室31cの混合気を点火により燃焼させるための装置である。ここでの点火部6は、例えば点火コイル及び点火プラグを含む。点火部6の点火時期は、ECU10によって制御される。以下の説明では、説明の便宜上、「点火時期」を、ピストン32の上死点を基準(0°)として遅角側を正値とするクランク角度値(単位:°[degree],ATDC)で表し、「進角量」を、基準となる点火時期から進角させるクランク角度の絶対値(単位:°)表すものとする。
第1電磁弁7は、天然ガスエンジン30への燃料ガスGFの供給量を調整する弁である。第1電磁弁7の動作は、ECU10によって制御される。第1電磁弁7は、例えば、後述の要求燃料量及び供給比率に応じた供給量の燃料ガスGFが天然ガスエンジン30へ供給されるようにECU10により制御される。
第2電磁弁8は、天然ガスエンジン30へのボイルオフガスGBの供給量を調整する弁である。第2電磁弁8の動作は、ECU10によって制御される。第2電磁弁8は、例えば、後述の要求燃料量及び供給比率に応じた供給量のボイルオフガスGBが天然ガスエンジン30へ供給されるようにECU10により制御される。
[ECU10の機能的構成]
次に、ECU10の機能的構成について説明する。ECU10は、吸気負荷率算出部11と、ノッキング認識部12と、燃料量算出部13と、点火時期算出部14と、燃料制御部15と、点火制御部16とを有している。
吸気負荷率算出部11は、エンジン回転センサ1で検出されたエンジン回転数及びスロットルレバーセンサ2で検出されたスロットルレバーの操作量に基づいて、吸気負荷率を算出する。吸気負荷率は、天然ガスエンジン30に出力することが要求される負荷(エンジン負荷)を意味し、例えば天然ガスエンジン30の全負荷に対する比率で表される。吸気負荷率算出部11は、例えば、試験及びシミュレーション等によってエンジン回転数及びスロットルレバーの操作量と吸気負荷率との関係が予め設定されたマップデータに基づいて、吸気負荷率を算出する。なお、吸気負荷率算出部11は、吸気負荷率に対応する量の空気を天然ガスエンジン30が吸気するように、スロットルバルブ等を制御してもよい。
ノッキング認識部12は、ノックセンサ3の検出結果に基づいて、天然ガスエンジン30のノッキングを認識する。ノッキング認識部12は、例えば、ノックセンサ3で検出されたシリンダブロック31aの振動の大きさが所定のノック閾値以上の場合、異常燃焼特有の振動が生じたとして、ノッキングを認識する。ノック閾値は、ノッキングしているか否か(異常燃焼が生じているか否か)を判定するためのシリンダブロック31aの振動の大きさの閾値である。ノック閾値は、例えば、異常燃焼特有の振動をピストン32の動き等に起因する振動と区別できるように、試験等により予め設定することができる。
ノッキング認識部12は、ノッキングを認識した場合、当該ノッキングのノック発生進角量を記憶する。ノック発生進角量は、当該ノッキングが発生したときの進角量である。ノック発生進角量は、例えば、当該ノッキング発生のトリガとなった点火についての基準点火時期からの進角量とすることができる。ノック発生進角量は、当該ノッキングがノッキング認識部12で認識される前にECU10から点火部6に指令された直近の点火(天然ガスエンジン30で実際に点火された直近の点火)についての、基準点火時期からの進角量としてもよい。
ノッキング認識部12は、例えば当該ノッキング発生のトリガとなった点火についての点火時期が基準点火時期であった場合、ノック発生進角量として0°を記憶する。ノッキング認識部12は、例えば当該ノッキング発生のときの点火時期が、ある進角量だけ基準点火時期よりも進角させた点火時期であった場合、ノック発生進角量として当該進角量を記憶する。
燃料量算出部13は、エンジン回転数及び吸気負荷率に基づいて、要求燃料量を算出する。要求燃料量は、例えば、天然ガスエンジン30の吸気負荷率に応じて必要となる燃料ガスGFの供給量である。燃料量算出部13は、例えば、試験及びシミュレーション等によってエンジン回転数及び吸気負荷率と要求燃料量との関係が予め設定されたマップデータに基づいて、要求燃料量を算出する。
燃料量算出部13は、算出した要求燃料量及びノッキング認識部12の認識結果に基づいて、燃料ガスGFの天然ガスエンジン30への供給量である燃料ガス供給量Q1、及び、ボイルオフガスGBの天然ガスエンジン30への供給量であるボイルオフガス供給量Q2を算出する。燃料量算出部13は、例えば、試験及びシミュレーション等によってノック発生進角量と燃料ガス供給量Q1及びボイルオフガス供給量Q2との関係が予め設定されたマップデータに基づいて、燃料ガス供給量Q1及びボイルオフガス供給量Q2を算出する。
図3(a)は、燃料ガス供給量及びボイルオフガス供給量の設定例を示す図である。図3(a)の横軸は、基準点火時期からの進角量を表している。図3(a)の横軸では、基準点火時期の「0°[deg.]」よりも左側が進角側である。図3(a)の縦軸は、燃料ガスGF及びボイルオフガスGBの供給量(例えば質量流量)を表している。
図3(a)の例において、進角量が0°のときの燃料ガス供給量Q1は、燃料量算出部13により算出された要求燃料量に相当する。また、進角量が0°のときのボイルオフガス供給量Q2は、0である。一方、図3(a)の例において、進角量が0°よりも進角側の横軸位置に対応する燃料ガス供給量Q1は、進角量が0°のときの燃料ガス供給量Q1よりも減量されている。また、進角量が0°よりも進角側の横軸位置に対応するボイルオフガス供給量Q2は、進角量が0°のときのボイルオフガス供給量Q2よりも増量されている。
図3(a)のボイルオフガス供給量Q2の曲線は、下に凸の曲線となっている。例えば、進角量を一定値(例えば1°)だけ増加させたときに連続的なノッキングが発生するか否かの感度(ノッキング感度)は、進角量の増加に従って大きくなる傾向がある。そのため、ボイルオフガス供給量Q2の増加勾配(傾き)は、進角量の増加に従って大きくなるように設定されている。なお、ボイルオフガス供給量Q2は、ボイルオフガスGBの発生熱量が燃料ガスGFの発生熱量よりも小さいことを考慮して設定されてもよい。
図3(b)は、図3(a)の設定例における燃料ガスに対するボイルオフガスの供給比率を示す図である。図3(b)の横軸は、図3(a)の横軸と同じものである。図3(b)の縦軸は、燃料ガスGFに対するボイルオフガスGBの供給比率Rを表している。供給比率Rは、例えば、図3(a)の各横軸位置においてボイルオフガス供給量Q2を燃料ガス供給量Q1で除算して得られる比率として求めることができる。
燃料量算出部13は、天然ガスエンジン30の負荷が所定の負荷閾値以上の高負荷運転状態においてノッキング認識部12でノッキングが認識された場合、ノッキング認識部12で記憶されたノック発生進角量に応じて、図3(a)の関係に従って燃料ガス供給量Q1を低減させると共にボイルオフガス供給量Q2を増加させる。これにより、燃料ガスGFに対するボイルオフガスGBの供給比率Rは、図3(b)の関係に従って当該ノッキングの認識前と比べて増加される。
燃料量算出部13は、天然ガスエンジン30の負荷が上記負荷閾値未満の低負荷運転状態において、供給比率Rを低減させる。燃料量算出部13は、低負荷運転状態において、供給比率Rを一定の時間変化量で低減させてもよい。
負荷閾値は、天然ガスエンジン30の運転状態が高負荷運転状態であるか低負荷運転状態であるかを判定するための天然ガスエンジン30の負荷(例えばスロットルレバーの操作量、吸入空気量等)の閾値である。負荷閾値は、予め設定された一定の負荷の値であってもよいし、エンジン回転数に応じて予め設定されるマップデータであってもよい。
なお、燃料量算出部13は、例えば、タンク圧センサ4で検出されたボイルオフガスGBの圧力が所定の圧力閾値以下となった場合、ボイルオフガスGBの残量が少ないとして、燃料ガス供給量Q1を増加させると共にボイルオフガス供給量Q2を低減させることで、供給比率Rを低減させる。燃料量算出部13は、ボイルオフガスGBの圧力が圧力閾値以下となった場合、供給比率Rを一定の時間変化量で低減させてもよい。
点火時期算出部14は、エンジン回転数、吸気負荷率、及びノッキング認識部12の認識結果に基づいて、基準点火時期、基準点火時期からの進角量ΔSA、及びMBT[Minimum advanced for the Best Torque]点火時期を算出する。基準点火時期は、点火時期の進角量の基準となる点火時期である。MBT点火時期とは、一定の負荷条件及び燃料条件において天然ガスエンジン30の出力トルクが最大となる点火時期である。
点火時期算出部14は、例えば、試験及びシミュレーション等によってエンジン回転数及び吸気負荷率とMBT点火時期との関係が予め設定されたマップデータに基づいて、MBT点火時期を算出する。
点火時期算出部14は、エンジン回転数及び吸気負荷率に基づいて、基準点火時期を算出する。基準点火時期のマップデータは、例えば、上記出力トルクの計測試験において、連続的にノッキングしてしまう点火時期(ノック限界)よりも遅角側に設定された点火時期として、予め設定することができる。ノック限界とは、点火時期をそれ以上進角させるとノッキングが連続的に有意に発生する点火時期を意味する。基準点火時期のマップデータは、例えば、燃料条件(ボイルオフガス供給量Q2)ごとに予め設定された複数のマップを含んでもよい。
低負荷運転状態では、ノック限界がMBT点火時期よりも進角側となるため、基準点火時期は、MBT点火時期と等しい点火時期とすることができる。また、高負荷運転状態では、MBT点火時期がノック限界よりも進角側となるため、基準点火時期は、ノック限界よりも遅角側の点火時期とすることができる。
ノック限界は、ボイルオフガスGBの供給比率Rの増加によって進角側に移動する。つまり、ボイルオフガス供給量Q2の増加によって、天然ガスエンジン30の耐ノック性が向上されるため、特に高負荷運転状態において、基準点火時期からの進角量ΔSAを増加することが可能となる。
点火時期算出部14は、ノッキング認識部12でノッキングが認識されていない場合、進角する余裕があるとして、進角量ΔSAを増加させる。また、点火時期算出部14は、高負荷運転状態においてノッキング認識部12でノッキングが認識された場合には、ノッキング認識部12によるノッキングの認識に応じて燃料量算出部13により供給比率Rが増加されたとき(ノック限界が進角側に移動したとき)に、進角する余裕があるとして、進角量ΔSAを増加させる。点火時期算出部14は、進角量ΔSAを一定の時間変化量(例えば1°/秒)で増加させてもよい。
ただし、点火時期算出部14は、基準点火時期から進角量ΔSAだけ進角させた点火時期がMBT点火時期を超えないように、進角量ΔSAを制限する。点火時期算出部14は、例えば、基準点火時期から進角量ΔSAだけ進角させた点火時期がMBT点火時期よりも進角側となる場合、進角する余裕がないとして、進角量ΔSAの増加を行わず、進角量ΔSAの増加を制限する。一方、点火時期算出部14は、例えば、基準点火時期から進角量ΔSAだけ進角させた点火時期がMBT点火時期よりも進角側とはならない場合、進角する余裕があるとして、進角量ΔSAを制限せず、上述したような進角量ΔSAの増加を実行する。
点火時期算出部14は、低負荷運転状態においては、進角量ΔSAを低減させる。点火時期算出部14は、低負荷運転状態において、進角量ΔSAを一定の時間変化量で低減させてもよい。この進角量ΔSAの時間変化量は、供給比率Rの時間変化量よりも速くてもよい。
なお、点火時期算出部14は、例えば、タンク圧センサ4で検出されたボイルオフガスGBの圧力が所定の圧力閾値以下となった場合、ボイルオフガスGBの残量が少ないとして、進角量ΔSAを低減させる。点火時期算出部14は、ボイルオフガスGBの圧力が圧力閾値以下となった場合、進角量ΔSAを一定の時間変化量で低減させてもよい。この進角量ΔSAの時間変化量は、供給比率Rの時間変化量よりも速くてもよい。
燃料制御部15は、燃料量算出部13により算出された燃料ガス供給量Q1の燃料ガスGFを天然ガスエンジン30へ供給するように、第1電磁弁7を制御する。燃料制御部15は、燃料量算出部13により算出されたボイルオフガス供給量Q2のボイルオフガスGBを天然ガスエンジン30へ供給するように、第2電磁弁8を制御する。
点火制御部16は、点火時期算出部14により算出された進角量ΔSAに応じた点火時期で天然ガスエンジン30への点火を行うように、点火部6を制御する。
次に、燃料量算出部13による供給比率Rの増加及び点火時期算出部14による進角量ΔSAの算出の詳細について、図3~図5を参照しつつ説明する。ここでは、基準点火時期SA1からの進角量ΔSAが、進角量dSA1,dSA2,dSA3と徐々に増加されていく状況を一例として、説明する。
図4は、天然ガスエンジンのトルクカーブの一例を示す図である。トルクカーブとは、一定の吸入空気量及び燃料供給量の条件において点火時期を変化させた場合の天然ガスエンジンの出力トルク特性を、点火時期を横軸とし出力トルクを縦軸として表した特性曲線である。図4に示されるように、トルクカーブは、上に凸の曲線(例えば放物線)となり、トルクカーブの頂点位置に対応する点火時期がMBT点火時期である(例えばトルクカーブTC3における点火時期SA2)。
図4において、トルクカーブTC1~TC3の負荷条件(吸入空気量)は、高負荷運転状態で略同じとされている。トルクカーブTC1の燃料条件は、図3における「進角量=0°」の横軸位置での燃料条件に相当しており、燃料ガスGFの供給量は要求燃料量と等しく、ボイルオフガスGBの供給量は0である。トルクカーブTC2では、図3における「進角量=dSA1」の横軸位置での燃料条件に相当しており、燃料ガスGFの供給量は燃料ガス供給量Q11と等しく、ボイルオフガスGBの供給量はボイルオフガス供給量Q21と等しい。トルクカーブTC3では、図3における「進角量=dSA1+dSA2」の横軸位置での燃料条件に相当しており、燃料ガスGFの供給量は燃料ガス供給量Q12と等しく、ボイルオフガスGBの供給量はボイルオフガス供給量Q22と等しい。
図5は、天然ガスエンジンの制御装置の動作例を示すタイミングチャートである。図4及び図5に示されるように、まず、時刻t1まで、天然ガスエンジン30が、トルクカーブTC1においてノック限界KN1よりも遅角側の基準点火時期(点火時期SA1)で運転されているとする(図4の点P1)。次に、時刻t1から時刻t2まで、進角する余裕があるとして、点火時期算出部14により、点火時期SA1から進角量dSA1だけ一定の時間変化量で点火時期が進角されて、ノック限界KN1に至ったとする(図4の点P2’)。
ノック限界KN1に至ったため、時刻t2においてノッキングが発生し、ノッキング認識部12によりノッキングが認識される。ノッキング認識部12により、進角量dSA1がノック発生進角量として記憶される。また、燃料量算出部13により、図3の進角量dSA1の横軸位置に応じて、燃料ガスGFの供給量が燃料ガス供給量Q11に低減されると共に、ボイルオフガスGBの供給量がボイルオフガス供給量Q21に増加され、供給比率RがR1に増加される。その結果、ノック限界が進角側のノック限界KN2に移動したトルクカーブTC2に移行する(図4の点P2)。
次に、時刻t2でボイルオフガスGBの供給比率RがR1に増加されてから、時刻t2から時刻t3まで、点火時期算出部14により、進角する余裕があるとして、トルクカーブTC2において点火時期が更に進角される。点火時期が、点火時期SA1から進角量dSA1+dSA2だけ一定の時間変化量で進角されて、ノック限界KN2に至ったとする(図4の点P3’)。
ノック限界KN2に至ったため、時刻t3においてノッキングが発生し、ノッキング認識部12によりノッキングが認識される。ノッキング認識部12により、進角量dSA1+dSA2がノック発生進角量として記憶される。また、燃料量算出部13により、図3の進角量dSA1+dSA2の横軸位置に応じて、燃料ガスGFの供給量が燃料ガス供給量Q12に低減されると共に、ボイルオフガスGBの供給量がボイルオフガス供給量Q22に増加され、供給比率RがR2に増加される。その結果、ノック限界が進角側のノック限界KN3に移動したトルクカーブTC3に移行する(図4の点P3)。
次に、時刻t3でボイルオフガスGBの供給比率RがR2に増加されてから、時刻t3から時刻t4まで、点火時期算出部14により、進角する余裕があるとして、トルクカーブTC3において点火時期が更に進角される。点火時期が、点火時期SA1から進角量dSA1+dSA2+dSA3だけ一定の時間変化量で進角されて、点火時期SA2に至ったとする(図4の点P4)。
次に、時刻t4から時刻t5まで、点火時期SA2がMBT点火時期となったため、点火時期算出部14により、進角する余裕がないとして、これ以上の進角量ΔSAの増加は行われず、進角量ΔSAがdSA1+dSA2+dSA3のままで制限される。
次に、例えば時刻t5において、タンク圧センサ4で検出されたボイルオフガスGBの圧力が所定の圧力閾値以下となったとすると、時刻t5から時刻t6まで、ボイルオフガスGBの残量が少ないとして、進角量ΔSA及び供給比率Rが低減される。ここでは、進角量ΔSAの時間変化量は、供給比率Rの時間変化量よりも速くされており、時刻t6において進角量ΔSAが0°となるのに対して、供給比率Rは、時刻t6よりも後で0に至るように低減される。
次に、第1実施形態の天然ガスエンジンの制御装置100による処理の一例について、図6及び図7を参照して説明する。なお、ノッキング認識部12によるノッキングの認識は、図6及び図7の処理と並行して行われる。
図6は、ECU10の燃料制御処理を示すフローチャートである。図6に示されるように、ECU10は、S11において、吸気負荷率算出部11により、吸気負荷率の算出を行う。吸気負荷率算出部11は、エンジン回転数及びスロットルレバーの操作量に基づいて、吸気負荷率を算出する。ECU10は、S12において、燃料量算出部13により、要求燃料量の算出を行う。燃料量算出部13は、エンジン回転数及び吸気負荷率に基づいて、要求燃料量を算出する。
ECU10は、S13において、燃料量算出部13により、第2タンク残量があるか否かの判定を行う。燃料量算出部13は、タンク圧センサ4で検出されたボイルオフガスGBの圧力が所定の圧力閾値以下となっているか否かに基づいて、第2タンク22の残量が十分にある(第2タンク残量あり)か否かを判定する。
ECU10は、S13において、タンク圧センサ4で検出されたボイルオフガスGBの圧力が所定の圧力閾値を超えており、第2タンク残量ありと判定される場合、S14において、燃料量算出部13により、天然ガスエンジン30の運転状態が高負荷運転状態であるか否かの判定を行う。
ECU10は、S14において、天然ガスエンジン30の運転状態が高負荷運転状態であると判定される場合、S15において、燃料量算出部13により、ノッキング認識部12でノッキングが認識された(ノッキングあり)か否かの判定を行う。
ECU10は、S15において、ノッキングありと判定された場合、S16において、燃料量算出部13により、ノック発生進角量に応じて燃料ガス供給量Q1が低減されると共にボイルオフガス供給量Q2が増加される。これにより、燃料ガスGFに対するボイルオフガスGBの供給比率Rが、当該ノッキングの認識前と比べて増加される。
ECU10は、S17において、燃料制御部15により、燃料量算出部13で算出された燃料ガス供給量Q1の燃料ガスGFを天然ガスエンジン30へ供給するように、第1電磁弁7が制御され、また、燃料量算出部13により算出されたボイルオフガス供給量Q2のボイルオフガスGBを天然ガスエンジン30へ供給するように、第2電磁弁8が制御される。その後、ECU10は、図6の処理を終了する。
一方、ECU10は、S13において、タンク圧センサ4で検出されたボイルオフガスGBの圧力が所定の圧力閾値以下であり、ボイルオフガスGBの残量が少ない(第2タンク残量なし)と判定される場合、S18において、燃料量算出部13により、燃料ガス供給量Q1が増加されると共にボイルオフガス供給量Q2が低減されることで、供給比率Rが低減される。その後、上記S17の処理に移行される。その後、ECU10は、図6の処理を終了する。また、ECU10は、S14において、天然ガスエンジン30の運転状態が低負荷運転状態であると判定される場合、上記S18の処理が行われ、その後、上記S17の処理に移行される。その後、ECU10は、図6の処理を終了する。
図7は、ECU10の点火時期制御処理を示すフローチャートである。図7の処理は、例えば図6の処理の後に行われる。図7に示されるように、ECU10は、S21において、点火時期算出部14により、MBT点火時期の算出を行う。点火時期算出部14は、エンジン回転数及び吸気負荷率に基づいて、MBT点火時期を算出する。ECU10は、S22において、点火時期算出部14により、基準点火時期の算出を行う。点火時期算出部14は、エンジン回転数及び吸気負荷率に基づいて、基準点火時期を算出する。
ECU10は、S23において、点火時期算出部14により、第2タンク残量があるか否かの判定を行う。点火時期算出部14は、図6のS13の判定結果に基づいて、第2タンク残量ありか否かを判定してもよい。
ECU10は、S23において、第2タンク残量ありと判定される場合、S24において、点火時期算出部14により、天然ガスエンジン30の運転状態が高負荷運転状態であるか否かの判定を行う。点火時期算出部14は、図6のS14の判定結果に基づいて、高負荷運転状態か否かを判定してもよい。
ECU10は、S24において、天然ガスエンジン30の運転状態が高負荷運転状態であると判定される場合、S25において、点火時期算出部14により、進角余裕があるか否かの判定を行う。点火時期算出部14は、例えば、ノッキング認識部12でノッキングが認識されていない場合、進角する余裕があると判定する。また、点火時期算出部14は、ノッキング認識部12でノッキングが認識された場合であって、図6で燃料量算出部13によって供給比率Rが増加されたとき(ノック限界が進角側に移動したとき)に、進角する余裕があると判定する。また、点火時期算出部14は、下記のS26の処理で進角量ΔSAを増加させた点火時期がMBT点火時期よりも進角側とはならない場合、進角する余裕があると判定する。
ECU10は、S25において進角余裕ありと判定された場合、S26において、点火時期算出部14により、進角量ΔSAが増加される。ECU10は、S27において、点火制御部16により、点火時期算出部14で算出された進角量ΔSAに応じた点火時期で天然ガスエンジン30への点火を行うように、点火部6が制御される。その後、ECU10は、図7の処理を終了する。
一方、ECU10では、S25において進角余裕なしと判定された場合、点火時期算出部14により、S26の進角量ΔSAの増加が行われず、進角量ΔSAの増加が制限される。
他方、ECU10は、S23において、第2タンク残量なしと判定される場合、S28において、点火時期算出部14により、進角量ΔSAが低減される。その後、上記S27の処理に移行される。その後、ECU10は、図7の処理を終了する。また、ECU10は、S24において、天然ガスエンジン30の運転状態が低負荷運転状態であると判定される場合、上記S28の処理が行われ、その後、上記S27の処理に移行される。その後、ECU10は、図7の処理を終了する。
[第1実施形態の作用及び効果]
以上説明したように、天然ガスエンジンの制御装置100では、ノッキング認識部12でノッキングが認識された場合、燃料量算出部13により、基準点火時期からの進角量(ノック発生進角量)に応じて、燃料ガスGFに対するボイルオフガスGBの供給比率Rが当該ノッキングの認識前と比べて増加される。よって、耐ノック性の向上によりノッキングの発生を抑制できる蓋然性が高い状況において、ボイルオフガスGBの供給比率Rが増加されることとなる。その結果、例えばノッキングを全く発生させないような量のボイルオフガスGBを予め供給する場合と比較して、耐ノック性の向上のためのボイルオフガスGBを効率的に供給することができる。
天然ガスエンジンの制御装置100では、点火時期算出部14は、ノッキング認識部12でノッキングが認識されていない場合、及び、ノッキング認識部12によるノッキングの認識に応じて燃料量算出部13により供給比率Rが増加された場合、進角量ΔSAを増加させる。これにより、ノッキング認識部12によるノッキングの認識結果を利用して、ノッキングが認識されない場合だけでなく、ノッキングが認識されたとしても耐ノック性を向上させることで、点火時期を進角させることが可能となる。
天然ガスエンジンの制御装置100では、燃料量算出部13は、天然ガスエンジン30の負荷が所定の負荷閾値以上の高負荷運転状態においてノッキング認識部12でノッキングが認識された場合、供給比率Rを当該ノッキングの認識前と比べて増加させ、天然ガスエンジン30の負荷が上記負荷閾値未満の低負荷運転状態において、供給比率Rを低減させる。これにより、高負荷運転状態と比べてノッキングが発生する可能性が低い低負荷運転状態において、ボイルオフガスGBの供給量を低減させることができる。
なお、点火時期算出部14は、進角量ΔSAを一定の時間変化量で増加させ、ボイルオフガス供給量Q2の増加勾配(傾き)は、進角量ΔSAの増加に従って大きくなるように設定されている。これにより、進角量ΔSAが徐々に増加するのに従って、進角量ΔSAでのノッキング感度に応じた供給比率RでボイルオフガスGBが供給されるため、ボイルオフガス供給量Q2の増加を抑えつつ耐ノック性を向上することができる。よって、ボイルオフガス供給量Q2の増加を抑えつつ、例えば点火時期がMBT点火時期となるまで進角量ΔSAを増加させることができる。その結果、第2タンク22の大型化及び製造コスト増加を抑制でき、第2タンク22の搭載性を向上させることができる。また、天然ガスの産出地の相違により液体燃料Lの性状がばらついたとしても、進角量ΔSAの増加におけるロバスト性を向上させることができる。
[第2実施形態]
次に、天然ガスエンジンの制御装置100の他の形態について、図8~図10を参照しつつ説明する。第2実施形態の天然ガスエンジンの制御装置100Aは、天然ガスエンジン30に筒内圧力センサ5が設けられている点、及び、一部の機能的構成が異なるECU10Aを備えている点で、第1実施形態と異なっており、その他の構成は、第1実施形態の天然ガスエンジンの制御装置100と同様に構成されている。
図8に示されるように、筒内圧力センサ5は、天然ガスエンジン30の燃焼室の圧力を筒内圧力として検出する検出器である。筒内圧力センサ5は、天然ガスエンジン30の燃焼室付近(例えばシリンダブロック31a又はシリンダヘッド31b)に設けられている。筒内圧力センサ5は、検出した筒内圧力の検出信号をECU10Aに出力する。
図9に示されるように、ECU10Aは、点火時期算出部14に代えて、点火時期算出部14Aを備えている。点火時期算出部14Aは、マップデータに基づいてMBT点火時期を算出することに代えて、筒内圧力センサ5の検出結果に基づいて、出力トルクが最大となる点火時期を認識する点で、点火時期算出部14と異なっている。
点火時期算出部14Aは、筒内圧力センサ5により検出された筒内圧力に基づいて、出力トルクを検出すると共に出力トルクを記憶する。点火時期算出部14Aは、例えば、点火制御部16により点火部6が制御されて天然ガスエンジン30への点火が行われるたびに、筒内圧力センサ5により検出されている筒内圧力を出力トルクに換算すると共に記憶する。点火時期算出部14Aは、例えば、筒内圧力センサ5により検出された筒内圧力を出力トルクに換算すると共に、当該検出の際の天然ガスエンジン30の負荷条件及び燃料条件と関連付けて記憶する。
点火時期算出部14Aは、ある負荷条件及び燃料条件で進角量ΔSAを増加していく過程において、当該負荷条件及び燃料条件と関連付けて記憶した複数の出力トルクが増加傾向から減少傾向に転じた場合、出力トルクが増加傾向を示す最大の進角量ΔSAで出力トルクが最大となったと認識する。
つまり、点火時期算出部14Aは、上記進角量ΔSAを増加していく過程において、記憶した複数の出力トルクが増加傾向から減少傾向に転じた場合、進角する余裕がないとして、進角量ΔSAの増加を行わず、出力トルクが最大となった進角量で進角量ΔSAの増加を制限する。一方、点火時期算出部14Aは、上記進角量ΔSAを増加していく過程において、記憶した複数の出力トルクが増加傾向となっている場合、進角する余裕があるとして、進角量ΔSAを増加させる。
次に、第2実施形態の天然ガスエンジンの制御装置100Aの点火時期制御処理の一例について、図10を参照して説明する。なお、点火時期算出部14A以外の処理は、図6及び図7の処理と同様に行われる。
図10は、ECU10Aの点火時期制御処理を示すフローチャートである。図10の処理は、例えば図6の処理の後に行われる。図10に示されるように、ECU10Aは、S31において、点火時期算出部14Aにより、出力トルクの検出及び記憶を行う。点火時期算出部14Aは、筒内圧力センサ5の検出結果に基づいて出力トルクを検出し、点火時期算出部14Aは、筒内圧力センサ5により検出された出力トルクを、当該検出の際の天然ガスエンジン30の負荷条件及び燃料条件と関連付けて記憶する。
ECU10Aは、S32において、S22と同様にして、点火時期算出部14Aにより、基準点火時期の算出を行う。ECU10Aは、S33において、S23と同様にして、点火時期算出部14Aにより、第2タンク残量があるか否かの判定を行う。ECU10Aは、S34において、S24と同様にして、点火時期算出部14Aにより、天然ガスエンジン30の運転状態が高負荷運転状態であるか否かの判定を行う。
ECU10Aは、S34において、天然ガスエンジン30の運転状態が高負荷運転状態であると判定される場合、S35において、点火時期算出部14Aにより、進角余裕があるか否かの判定を行う。点火時期算出部14Aは、記憶した複数の出力トルクが増加傾向となっている場合、進角する余裕があると判定する。点火時期算出部14Aは、S25において点火時期算出部14が進角する余裕があると判定する場合に、進角する余裕があると判定してもよい。
ECU10Aは、S35において進角余裕ありと判定された場合、S36において、S26と同様にして、点火時期算出部14により、進角量ΔSAが増加される。ECU10Aは、S37において、S27と同様にして、点火制御部16により、進角量ΔSAに応じて点火部6が制御される。その後、ECU10Aは、図10の処理を終了する。
一方、ECU10Aでは、S35において、記憶した複数の出力トルクが増加傾向から減少傾向に転じること等で進角余裕なしと判定された場合、点火時期算出部14Aにより、S26の進角量ΔSAの増加が行われず、出力トルクが最大となった進角量で進角量ΔSAの増加が制限される。
他方、ECU10Aは、S33において第2タンク残量なしと判定される場合、あるいはS34において天然ガスエンジン30の運転状態が低負荷運転状態であると判定される場合、S38において、S28と同様にして、点火時期算出部14Aにより、進角量ΔSAが低減される。その後、上記S37の処理に移行される。その後、ECU10Aは、図10の処理を終了する。
[第2実施形態の作用及び効果]
天然ガスエンジンの制御装置100Aによれば、天然ガスエンジンの制御装置100と同様の作用効果が奏される。また、天然ガスエンジンの制御装置100Aによれば、筒内圧力センサ5により検出された出力トルクに応じて進角する余裕があるか否かを判定するため、例えばMBT点火時期を予めマップデータとして設定することを省くことができる。
[変形例]
以上、本発明に係る実施形態について説明したが、本発明は、上述した各実施形態に限られるものではない。
上記実施形態では、ノックセンサとして、例えばエンジン本体31のシリンダブロック31aに取り付けられて、シリンダブロック31aの振動を検出するノックセンサ3を例示したが、これに限定されない。天然ガスエンジン30の異常燃焼(ノッキング)を検出可能なノックセンサであればよく、例えば、燃焼室31cのイオン電流を検知することでノッキングを検出可能なノックセンサ、及び、燃焼室31cの筒内圧を検知することでノッキングを検出可能なノックセンサなどを用いることができる。この場合、ノック発生進角量は、当該ノッキングが認識された気筒での直近の点火についての基準点火時期からの進角量であってもよい。
上記実施形態では、点火部6として点火コイル及び点火プラグを例示したが、例えば、軽油を着火油として用いるDDF[Diesel Dual Fuel]方式の点火部6であってもよい。また、燃焼室31cは単室として図示されていたが、燃焼用の主室と着火用の副室に分かれていてもよい。
上記実施形態では、燃料ガスGFの供給量を調整する第1電磁弁7及びボイルオフガスGBの供給量を調整する第2電磁弁8を例示したが、電磁弁に代えてインジェクタを用いてもよい。
上記実施形態において、図4,図5で示した動作例では、進角量ΔSAが増加されながらノッキング認識部12によりノッキングが認識された場合に、燃料量算出部13が供給比率Rを増加させたが、例えば、進角量ΔSAが増加されずに維持されながらノッキング認識部12によりノッキングが認識された場合に、燃料量算出部13が供給比率Rを増加させてもよい。
上記実施形態では、天然ガスエンジン30の負荷が高負荷運転状態か低負荷運転状態かに応じて、燃料量算出部13及び点火時期算出部14,14Aの処理を変更したが、必ずしも処理を変更しなくてもよい。例えば、燃料量算出部13及び点火時期算出部14,14Aでは、図6のS14,図7のS24,図10のS34の処理が省略されてもよい。
上記実施形態では、天然ガスエンジンの制御装置100は、船舶Vに搭載されていたが、これに限定されるものではなく、その他、車両等を含む移動体に搭載されていてもよい。また、天然ガスエンジンの制御装置100は、必ずしも移動体に搭載されていなくてもよい。
上記実施形態では、基準点火時期と等しい点火時期を進角量の基準としていたが、基準点火時期から所定量だけ遅角させた点火時期を進角量の基準としてもよい。また、上記第1実施形態では、MBT点火時期と等しい点火時期を実質的な進角量の上限としていたが、基準点火時期から所定量だけ進角させた点火時期を実質的な進角量の上限として、MBT点火時期の算出を省略してもよい。
上記実施形態では、「点火時期」を、ピストン32の上死点を基準(0°)として遅角側を正値とするクランク角度値(単位:°[degree],ATDC)で表し、「進角量」を、基準となる点火時期から進角させるクランク角度の絶対値(単位:°)表すものとしたが、これに限定されない。「進角量」は、絶対値ではなく、遅角側を正値とするクランク角度値で表されてもよい。「点火時期」は、ピストン32の上死点を基準(0°)として進角側を正値とするクランク角度値であってもよい。