JP7115115B2 - 鉄鋼スラグからリン酸塩を回収する方法 - Google Patents

鉄鋼スラグからリン酸塩を回収する方法 Download PDF

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Description

本発明は、鉄鋼スラグからリン酸塩を回収する方法に関する。
鉄鋼スラグの中でも転炉系スラグには、リン化合物が数%程度含まれている。
リン化合物は鋼材にとっては忌避成分であるが、肥料や洗剤の製造、化学合成における触媒等に用いられる有価物である。
しかしながら、リン鉱石は、ほとんど国内で産出されず、世界規模でも偏在しており、モロッコや中国等からの輸入に頼っている。また、人口増大に伴うリン資源の枯渇の可能性がある。
リン資源の乏しい我が国においては、鉄鋼スラグに含まれる未利用リンを回収する技術が開発されれば、リン鉱石の輸入量を減らすことができ、希少資源の確保という戦略的な効果が期待できる。
リン鉱石の輸入量を減らすことができれば、リン鉱石採掘場での環境汚染の抑制も可能であり、環境保全の効果も期待できる。
鉄鋼スラグからリンを回収する技術としては、製鋼スラグを加熱し、溶融状態で比重分離する方法がある。
しかしながら、この方法は、加熱にエネルギーが必要であり、耐熱性かつ耐食性を有する設備も必要であるため、高コストであるという問題があった。
そこで、溶液法による効率的なリンの溶出方法が研究されてきた。
特許文献1には、鉄鋼スラグを塩酸溶液で処理することにより、Ca分をCaCl2溶液、Fe分を未溶解物に分離する発明が記載されている。特許文献1には、CaCl2溶液を、電気分解によりCl2、H2およびCa(OH)2とし、Cl2およびH2からHClを合成することも記載されている。
特許文献1では、塩酸含有の溶解槽におけるpHを限定している。
具体的には、pHが0.1未満ではスラグ中のCaとFeの両方が溶解し、pHが1.0を超えるとCaとFeの両方が未溶解となるので、Ca分の選択的な分離ができないと記載されている。
しかしながら、特許文献1にはスラグからリンを回収する記載はなく、この技術でリンを低コスト・高収率で回収できるか否かは不明であった。
特許文献2には、製鋼スラグを炭酸水で洗浄してカルシウムを除去し、洗浄後の製鋼スラグから硫酸や硝酸等の鉱酸を用いてリンを酸抽出し、酸抽出液を中和してリン酸塩を回収する発明が記載されている。
しかしながら、特許文献2は、製鐵所で汎用でない炭酸を用いること、酸抽出の際にカルシウムの除去率が低いこと、リン酸塩の回収率が低いことが問題であった。
特許文献3では、製鋼スラグと硫酸を反応させて遊離リン酸を溶出させ、有機溶媒を用いて遊離リン酸を抽出し、有機溶媒を蒸発させて遊離リン酸を回収する発明が開示されている。
しかしながら、特許文献3では、硫酸によって溶出させた遊離リン酸の溶出率が低いという問題があった。また、特許文献3では、有機溶媒を用いてリン酸を抽出するため、固形物として回収できても、そのままでは利用価値が低く、洗浄や熱分解等による溶媒除去が必要で、かつ、高コストであった。さらに、特許文献3では硫酸の濃度が5mol/l(49質量%程度)と高濃度であり、使用できる硫酸が限られていた。
特許文献4では、下水汚泥焼却灰または製鋼スラグと酸を反応させ、リン成分を遊離リン酸として溶出させた後、溶出液を陽イオン交換樹脂に流通させることにより、溶出液から金属イオンを除去する発明が開示されている。
特許文献4では、陽イオン交換樹脂塔を複数用意し、一定期間毎に溶出液を流通させる樹脂塔を切り替え、再生用の鉱酸を流通させる旨も記載されている。
この構造によれば、陽イオン交換樹脂を再生できるため、溶出液からの金属イオン除去を連続して安定的に行い得ると記載されている。
しかしながら、特許文献4では、コスト低減のための方法として、陽イオン交換樹脂塔の再生だけが記載されており、交換樹脂の初期コストや寿命、塔全体の設備コストや洗浄コストの問題は開示されていない。
特開2013-081896号公報 特開2010-270378号公報 特開2011-213558号公報 特開2014-133196号公報
このように、特許文献1~特許文献4に記載の技術は、リンの回収効率やコストの問題を抱えていた。
本発明の目的は、鉄鋼スラグが大量に発生する製鐵所で汎用であり、鉄鋼スラグ中のリンを高効率・低コストで溶出させ、有価な固形分として回収できる、鉄鋼スラグからリン酸塩を回収する方法を提供することにある。
本発明者等は、上記課題を解決するために、鉄鋼スラグから未利用リンを効率的に溶出する方法、および、溶出後のリンを高付加価値の固形物として選択的に回収可能な方法に関する検討を行った。
その結果、製鋼スラグを塩酸と硫酸に順次浸漬することにより、鉄鋼スラグのリン成分の溶出が可能であること、および、Caを含むpH調整によって、溶出したリン成分を高収率で回収できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
本発明に係る、鉄鋼スラグからリン酸塩を回収する方法は、鉄鋼スラグを、塩酸溶液に浸漬し、Caを溶出させるCa溶出工程と、Caが溶出した前記塩酸溶液と残渣スラグを固液分離し、前記残渣スラグを回収する残渣スラグ回収工程と、前記残渣スラグを、硫酸溶液に浸漬し、リンを溶出させるリン溶出工程と、リンが溶出したリン溶出液とリン溶出残渣を固液分離し、前記リン溶出液を回収するリン溶出液回収工程と、前記リン溶出液を水酸化カルシウムあるいはその溶液で中和し、カルシウムを含むリン酸塩を析出させるリン酸塩析出工程と、析出した前記リン酸塩と溶液を固液分離し、前記リン酸塩を回収するリン酸塩回収工程を実施することを特徴とする。
この発明によれば、製鋼スラグを塩酸に浸漬してCaを選択的に溶出させ、残渣スラグを硫酸に浸漬して、リンを選択的に溶出させるため、製鋼スラグ中のリンを、効率的に溶出させることができる。
また、この発明によれば、Caを含むpH調整によって、溶出したリンをリン酸塩として析出させるため、リン成分を高収率で回収できる。
さらに、この発明によれば、リン溶出に用いる硫酸濃度を従来よりも低減できるため、使用する硫酸量を削減できる。また、装置の材質の耐酸性等の制約が低くなり、装置のコストを削減できる。
本発明では、前記塩酸溶液は、製鐵所で発生するFe含有廃塩酸溶液であり、前記硫酸溶液は、製鐵所で発生するFe含有廃硫酸溶液であり、前記リン溶出工程は、前記残渣スラグを、製鐵所で発生する前記硫酸溶液に浸漬し、リンを溶出させながら、合わせて、前記硫酸溶液中のFeイオンをスラグ側に濃化させる工程であってもよい。
この発明によれば、スラグが発生する製鐵所で汎用の酸洗ラインの廃塩酸と廃硫酸を用いるため、安価かつ容易に鉄鋼スラグ中のリンを高効率で溶出させることできる。
また、リンを溶出させる際に、廃酸中のFeイオンをスラグ側に濃化させるため、酸洗ラインで使用した廃酸を用いた場合であってもリン成分を高収率で回収できる。
本発明では、前記Ca溶出工程において、塩酸濃度が2質量%以上7質量%以下で、固液比が(1:10)~(1:20)でCaを溶出させてもよい。
この発明によれば、塩酸濃度と固液比を上記範囲とすることにより、Ca溶出量を最適化でき、かつCa以外の成分が溶出するのを防ぐことができる。
本発明では、前記リン溶出工程において、硫酸濃度が5質量%以上25質量%以下で、固液比が(1:3)~(1:10)でリンを溶出させてもよい。
この発明によれば、硫酸濃度と固液比を上記範囲とすることにより、スラグからのリンの溶出がよりスムーズに行われ、かつリン以外の成分が溶出するのを防止できる。
本発明では、前記リン酸塩析出工程において、水酸化カルシウムまたは水酸化カルシウム溶液を用い、pHが2以上8以下でカルシウムを含むリン酸塩(第一、第二リン酸塩を含む)を析出させてもよい。
この発明によれば、カルシウムを含むリン酸塩が析出し易いpH域で析出を行うため、リン成分を高収率で回収できる。
本発明の実施形態に係る、鉄鋼スラグからリン酸塩を回収する方法を示すフロー図。 本発明の実施例において、塩酸溶液にスラグを浸漬して固液分離した残渣を硫酸溶液に浸漬し、固液分離で得た液相中のリン濃度をICP発光分光分析装置で分析した結果を示す図。 塩酸処理を行っていないスラグを硫酸溶液に浸漬し、固液分離で得た液相中のリン濃度をICP発光分光分析装置で分析した結果を示す図。 本発明の実施例において、塩酸処理スラグを硫酸に浸漬し、固液分離で得た溶液を水酸化カルシウムで中和し、回収された析出物の組成を蛍光X線分析により求めた結果を示す図。 本発明の実施例において、リンおよび鉄の回収率を示す図。
以下、図面に基づき、本発明に好適な実施形態を詳細に説明する。
<本発明の背景>
まず、本発明を創出するに至った経緯を説明する。
本発明者は、鉄鋼スラグ成分で最も重量割合が高いCa酸化物(単独、複合酸化物組成を含む)と、鉄鋼スラグ発生元である製鐵所の酸洗ラインのFe含有廃酸、および、コークス化成工場で製造される硫酸との反応を詳細に調べた。
その結果、以下の知見を得た。
まず、鉄鋼スラグには遊離CaOやCa分を含むCaSiO3、Ca2SiO4、Ca3SiO5、Ca2Al25等の複合酸化物、MgOなどが含まれている。
このような製鋼スラグを塩酸に浸漬するとCaが高効率で溶解することが分かった。
次に、製鋼スラグを硫酸に浸漬すると、逆にCaだけがCaSO4・2H2O(石膏)として固体析出し、Ca以外の成分、特にリンが選択的に溶出することもわかった。
さらに、溶出したリンについては、Caを含むpH調整によって、リン酸塩として析出するため、リン成分を高収率で回収できることもわかった。
以上をまとめると、鉄鋼スラグから塩酸でCaを分離し、Ca分離後の残渣スラグから硫酸でリンを選択的に溶出させ、溶出液を水酸化カルシウムでpH調整することにより、鉄鋼スラグからリンを安価かつ効率よく回収できることがわかった。
以上が本発明を創出するに至った背景である。
<本発明の概要>
次に、図1を参照して、本発明の実施形態に係る、鉄鋼スラグからリン酸塩を回収する方法の概要を説明する。
本実施形態の、鉄鋼スラグからリン酸塩を回収する方法は、Ca溶出工程(図1のS1)、残渣スラグ回収工程(図1のS2)、リン溶出工程(図1のS3)、リン溶出液回収工程(図1のS4)を実施する。
さらに、リン酸塩析出工程(図1のS5)、リン酸塩回収工程(図1のS6)を実施する。
以上が鉄鋼スラグからリン酸塩を回収する方法の概要である。
次に、図1の各工程について、詳細に説明する。
<Ca溶出工程S1>
Ca溶出工程S1は、鉄鋼スラグを塩酸溶液に浸漬し、Caを溶出させる工程である。
塩酸濃度は、CaOの選択溶解性、反応時間を考慮すると、2質量%以上7質量%以下で、固液比(質量比、以下同様)が(1:10)~(1:20)が好ましい。濃度が2質量%未満で、固液比が(1:10)未満であると、塩酸の溶解力が弱過ぎて、Ca溶出量が少なくなる。
塩酸濃度が、7質量%を超え、固液比が(1:20)を超えると、塩酸の溶解力が強過ぎて、鉄鋼スラグ中のCa以外の成分も溶出し、次工程でのリンの溶出効率が低下し、リン酸塩の収量が低下する。
塩酸としては、製鐵所で汎用の、濃度7%以下の酸洗後の廃塩酸で、Feを含有するもの(以下、Fe含有廃塩酸溶液とも言う)が挙げられるが、これらには限定されない。鉄鋼製造プロセス以外の半導体やガラスなどの製造工程で発生する廃塩酸でもよい。
鉄鋼スラグは、撹拌し易く、沈降せず、反応効率が高いことが好ましい。このような製鋼スラグとしては、粒径を5mm以下、より好ましくは2mm以下に分級したものが挙げられる。粉砕処理を行った鉄鋼スラグを用いてもよい。この場合は、粒径0.5mm以下が好ましく、さらに粒径0.125mm以下がより好ましい。
所定の粒径に、目詰まりなく連続的に篩分けする際の分級法としては、商社:ユーラステクノ株式会社(メーカー:株式会社村上精機工作所)製の、ジャンピングスクリーン(商品名)装置を使用することが好ましい。
反応時間は、塩酸の濃度、固液比、粒径に依存するが、濃度が3%で、固液比が(1:10)~(1:20)前後で、粒径が0.125mm以下の場合、10~60分間で収束する。塩酸濃度が高くなり、固液比の液分が増え、粒径が大きくなると反応の収束時間は短くなる傾向にある。
<残渣スラグ回収工程S2>
残渣スラグ回収工程S2は、Caを溶出させた後の製鋼スラグと塩酸のスラリーを、固液分離して、低Caのスラグを残渣として回収する工程である。
固液分離の装置は、反応収束後のpHに応じて耐酸性の配管や容器を用いる必要がある。
分離法としては、濾過、遠心分離、加圧脱水(ローラープレス、フィルタープレス、スクリュープレス)、多重円板回転脱水、多重板波動フィルターなどによる通常法が挙げられる。化学的作用(水和官能基を持つ高分子、数千万の分子量の網状構造の高分子など)を利用した凝集剤を用いる方法も挙げられる。
固液分離後の塩酸付着分の洗浄処理も、特に方法は限定されない。脱水ケーキへ連続注水後に脱水する方法でも良いし、塩素を含まない水中で脱水ケーキを解砕後、撹拌・洗浄後、固液分離する方法でも良い。
固液分離により固形分が除かれた塩酸溶液には、鉄鋼スラグ中のCaOの70%以上が塩化カルシウム溶液として溶存している。他にも、Fe、Al、Si、Mn、Mg、および、微量なCr、Cd分が含まれている。これらの金属は、塩酸溶液を水酸化カルシウムまたは水酸化カルシウム溶液でpH調整することにより、10.5以下のpH領域ごとにそれぞれの水酸化物(第一、第二リン酸塩を含む)として析出させ、回収できる。
表1に、水酸化カルシウムまたは水酸化カルシウム溶液を用いたpH調整による、それぞれの金属水酸化物の析出順序を示す。
Figure 0007115115000001
固液分離後の塩酸溶液から、水酸化カルシウムまたは水酸化カルシウム溶液で、塩化カルシウム以外を水酸化物として分離、回収する場合、Ca(OH)2の析出領域であるpH>10.5に達しない。
Ca(OH)2も析出させるには、KOH、NaOHでpH>10.5にすれば、Ca(OH)2が析出、沈降し、固液分離させることが可能である。
塩酸によるCa溶出後の固液分離で得られる濾液は、有用な成分と、鉄鋼製造プロセス上または環境対策上、忌避すべき成分とを、固有のpH域で水酸化物として個別に析出分離できる。
Ca(OH)2はpH11~13までに高純度、白色沈殿するので、スラグから有価かつ製鐵所で反応の副原料として効率的に再利用できる。
pH13以上の塩化物溶液は、電解処理してCl2ガスとKOHまたはNaOHを再生、回収、リサイクルすることができる。また、P、Cr、Cdなどが基準内であることを確認した後、海洋投棄してもよい。
<リン溶出工程S3>
リン溶出工程S3は、Ca溶出後の残渣スラグを、硫酸溶液に浸漬し、リンを溶出させる工程である。
鉄鋼スラグには、遊離CaOやCa分を含むCaSiO3、Ca2SiO4、Ca3SiO5、Ca2Al25等の複合酸化物、および、MgOなどが含まれる。
Ca溶出処理によって、鉄鋼スラグ中のCaOの多くは、塩化カルシウムとして溶出、除去されている。Ca溶出後の残渣スラグを硫酸に浸漬させることによって、リンが選択的に溶出し、リン酸イオンとして溶存させることができる。
さらに、硫酸がFeを含有する廃硫酸溶液の場合は、リンを溶出させながら、合わせて、廃硫酸溶液中のFeイオンをスラグ側に濃化させることができる。これにより、酸洗ラインで使用した廃酸を用いた場合であってもリン成分を高収率で回収できる。
リン溶出工程S3は、硫酸濃度が5質量%以上25質量%以下で、固液比が(1:3)~(1:10)となるように、低Caの残渣スラグの投入量を調整することが好ましい。上記範囲内であれば、投入した低Ca化スラグからのリンの溶出がよりスムーズに行われる。硫酸の濃度が25質量%を超え、固液比が(1:6)以上では、リン以外のSi等が溶出し、スラリー粘度が高くなり、撹拌や回収が非効率となる。一方、硫酸の濃度が5質量%未満、固液比が(1:3)未満では、リンの溶出反応が十分に進まない。
硫酸溶液に使用される硫酸は、特に限定されない。
コークス炉から排出されたSから製造された高濃度の硫酸の希釈液、脱硫装置で回収される高濃度の硫酸の希釈液、鋼板や鋼管、棒鋼などの酸洗処理で排出される低濃度の硫酸濃度かつ高Fe濃度の廃硫酸(以下、Fe含有廃硫酸溶液とも言う)を例示できる。
従来、コークス炉から余剰に排出されたSから製造された硫酸は、NH3と反応させて硫安を製造したり、NaOHで中和した後に海洋投棄処分したりしている。原料枯渇の影響で、高S分の原料炭をコークス炉で使用する機会が増加すると、コークス炉の化成工場で発生する硫酸量が硫安肥料の国内需給に対し過剰となる。
そのため、コークス炉の化成工場で発生する硫酸を本実施形態で用いると、その廃棄または輸出コストを低減でき、好ましい。
リン溶出工程S3では、均一な反応を生じさせるために、反応槽中で撹拌する際に比重の大きな固形物を、反応層内に邪魔板を設置したり、撹拌羽根の形状改良による上昇流で沈降しないように反応させることが好ましい。
リン溶出工程S3の時間は、2時間以上が好ましい。より好ましくは、2時間以上、4時間以下である。
処理時間が、2時間未満では、反応槽中の低Ca残渣スラグのCa以外の金属酸化物、特にリンの溶出率が低くなるおそれがある。4時間を超えた場合はリン以外の金属酸化物の溶出割合が増加するおそれがある。
<リン溶出液の回収工程S4>
リン溶出液の回収工程S4は、リンを溶出させた後の製鋼スラグ(リン溶出残渣)と硫酸のスラリーを、固液分離してリン溶出液を回収する工程である。
分離法としては、濾過、遠心分離、加圧脱水(ローラープレス、フィルタープレス、スクリュープレス)、多重円板回転脱水、多重板波動フィルターなどによる通常法が挙げられる。さらに、化学的作用(水和官能基を持つ高分子、数千万の分子量の網状構造の高分子など)を利用した凝集剤を用いる方法も挙げられる。
<リン酸塩析出工程S5>
リン酸塩析出工程S5は、リン溶出液を水酸化カルシウムあるいはその溶液で中和し、カルシウムを含むリン酸塩を析出させる工程である。
具体的には、水酸化カルシウムまたは水酸化カルシウム溶液で、pH2~8でリン溶出液を中和し、カルシウムを含むリン酸塩を、固形物として析出させる。最もカルシウムを含むリン酸塩が析出し易いpH域は、pH2~4であり、第一リン酸塩として溶液中のリンの85%以上が回収される。リン溶出液中のFe、Si、Al、Mgは、pH2~4で、液中に残るが、Fe3+だけは、析出する(表1)。ただし、Feを含有しても、付加価値の高いカルシウムを含むリン酸塩が主体であり、回収する価値がある。
<リン酸塩回収工程S6>
リン酸塩回収工程S6は、析出したリン酸塩と溶液を固液分離し、リン酸塩を回収する工程である。
析出したリン酸塩を濾過、遠心分離、加圧脱水(ローラープレス、フィルタープレス、スクリュープレス)、多重円板回転脱水、多重板波動フィルター等を用いて回収する。回収したカルシウムを含むリン酸塩は、有用なリン資源として活用できる。
実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は実施例に限定されない。
まず、粒径範囲が10mm以下、5mm以下、2mm以下の高炉徐冷スラグおよび転炉スラグを用意した。
粒径範囲が2mm以下のものは、粉砕後に分級し、粒径範囲が500μm以下、250μm以下、125μm以下、および、粒径75μm以下も用意した。
ここで、粒径範囲を示す「以下」は、分級操作によって目標粒径に対して、その大小に分けた場合の、粒径が小さい側を意味する。
表2に、実施例で用いた鉄鋼スラグの成分組成を示す。
Figure 0007115115000002
次に、2.5、3.5、6、7質量%の各濃度の酸洗廃液の塩酸溶液、および、1、3、5、7、10質量%の各濃度に希釈したコークス化成硫酸を用意した。
さらに、反応槽として、鋼種SUS316Lにブチルゴムライニングした円筒状の容器(直径が500mm、高さが500mm、内容積が約100リットル)を用意した。
次に、前記4水準の濃度の塩酸溶液を反応槽に投入した。
さらに、粒径範囲が500μm未満、250μm未満、125μm未満、および、粒径75μm未満の各粒度の高炉徐冷スラグおよび転炉スラグを少しずつ投入し、撹拌した。全量投入後にスラリーとなったことを確認した後に、濾過により固液分離した。
その結果、塩酸濃度では3.5%が最もCaの選択溶出性が高く、粒径は、75μm未満と125μm未満の粒径範囲で、回収率が飽和する傾向を確認した。
そこで、以下のデータは、塩酸濃度が3.5%、粒径は125μm未満を代表値として説明する。
次に、固液分離した残渣を前記5水準の濃度の硫酸溶液に浸漬し、1時間撹拌後に固液分離により液相を得、液相中のリン濃度をICP発光分光分析装置にて分析した。固液比は1:10とした。結果を図2に示す。塩酸処理を行っていないスラグに対して同様の実験を行った結果を図3に示す。
図2に示すように、塩酸処理を行った場合は、硫酸濃度の増加に伴いPO4の溶出量が増加し、5%以上では溶出量が飽和した。
この結果から、塩酸処理を行うことにより、5%以上の濃度の硫酸で、スラグ中のリンを溶出させられることが分かった。溶出濃度から計算すると、塩酸処理を行ったスラグに対して5%硫酸で溶出を行うと、スラグ中のリンの85%を溶出できることが分かった。
塩酸処理を行わない場合は、図3に示すように、7%以上の硫酸濃度にしないとPO4の溶出量が飽和しなかった。飽和後の溶出量も、塩酸処理を行った場合と比べて3割程度であった。
この結果から、塩酸処理を行うことにより、硫酸処理の際の硫酸濃度を低くでき、かつリンの溶出量を多くできることが分かった。
次に、10%硫酸で塩酸処理スラグからスラグ中リンを抽出し,固液分離を行った。
分離した溶液を水酸化カルシウム懸濁液で中和させ、pH2以上8以下で析出物を回収した。
回収した析出物の組成を蛍光X線分析により求めた結果を表3に示す。
Figure 0007115115000003
水酸化カルシウム懸濁液での中和により、図4のX線回折パターンより、硫酸カルシウムと第二リン酸水素カルシウム(DCPD、CaHPO4・2H2O)の混相が沈殿分離できたことがわかった。固相中のリン含有率は最大4%であった。
液相中からのリンおよび鉄回収率を図5に示す。
図5に示すように、液中のリンおよび鉄の全量を固相へと分離できることがわかった。
比較例として、固液分離を行った溶液に、水酸化カルシウムではなく、水酸化カリウムを添加して中和させ、pH2~8で析出物を回収した。
回収した析出物の組成を蛍光X線分析により求めた結果を表4に示す。
Figure 0007115115000004
水酸化カリウム溶液での中和により,リン酸鉄カリウム系の化合物として、液相中のリンおよび鉄を固相として分離回収できた。固相中のリン含有量は20%程度であった。しかしながら、リン割合が高くても回収量が少ないため、経済性は低い。
この結果から、以下のことが分かった。
中和に用いる水酸化物は、水酸化カルシウムでも、水酸化カリウムでも、得られた化合物を、肥料や地盤改良剤(フッ素不溶化剤)等に使用する場合、毒性はなく、高付加価値の固形物が得られた。
一方で、中和に用いる水酸化物を、水酸化カルシウムとした方が、回収量が多いことが分かった。
以上、説明したように、本実施形態および実施例に係る方法によれば、鉄鋼スラグ中のリンを高い回収率で、高付加価値の固形物として得ることができる。特に、水酸化カルシウムまたはその溶液を中和剤として用いることで、付加価値の高い固形物として回収できる。
ただし、本発明は実施形態および実施例には限定されない。当業者であれば、本発明の技術思想の範囲内において、各種変形例および改良例に想到するのは当然のことであり、これらも本発明の技術的範囲に含まれる。
鉄鋼スラグ中のリンを塩酸および硫酸を用いて高効率で溶出させ、有価な固形分として回収する、鉄鋼スラグからカルシウムを含むリン酸塩の高効率な回収方法に利用することができる。
S1…Ca溶出工程、S2…残渣スラグ回収工程、S3…リン溶出工程、S4…回収工程、S5…リン酸塩析出工程、S6…リン酸塩回収工程。

Claims (5)

  1. 鉄鋼スラグを、塩酸溶液に浸漬し、Caを溶出させるCa溶出工程と、
    Caが溶出した前記塩酸溶液と残渣スラグを固液分離し、前記残渣スラグを回収する残渣スラグ回収工程と、
    前記残渣スラグを、硫酸溶液に浸漬し、リンを溶出させるリン溶出工程と、
    リンが溶出したリン溶出液とリン溶出残渣を固液分離し、前記リン溶出液を回収するリン溶出液回収工程と、
    前記リン溶出液を水酸化カルシウムあるいはその溶液で中和し、カルシウムを含むリン酸塩を析出させるリン酸塩析出工程と、
    析出した前記リン酸塩と溶液を固液分離し、前記リン酸塩を回収するリン酸塩回収工程を実施することを特徴とする、鉄鋼スラグからリン酸塩を回収する方法。
  2. 請求項1に記載の、鉄鋼スラグからリン酸塩を回収する方法であって、
    前記塩酸溶液は、製鐵所で発生するFe含有廃塩酸溶液であり、
    前記硫酸溶液は、製鐵所で発生するFe含有廃硫酸溶液であり、
    前記リン溶出工程は、前記残渣スラグを、製鐵所で発生する前記硫酸溶液に浸漬し、リンを溶出させながら、合わせて、前記硫酸溶液中のFeイオンをスラグ側に濃化させる工程であることを特徴とする、鉄鋼スラグからリン酸塩を回収する方法。
  3. 請求項1または請求項2に記載の、製鋼スラグからリン酸塩を回収する方法であって、
    前記Ca溶出工程において、塩酸濃度が2質量%以上7質量%以下で、固液比が(1:10)~(1:20)でCaを溶出させることを特徴とする、鉄鋼スラグからリン酸塩を回収する方法。
  4. 請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の、製鋼スラグからリン酸塩を回収する方法であって、
    前記リン溶出工程において、硫酸濃度が5質量%以上25質量%以下で、固液比が(1:3)~(1:10)でリンを溶出させることを特徴とする、鉄鋼スラグからリン酸塩を回収する方法。
  5. 請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の、製鋼スラグからリン酸塩を回収する方法であって、
    前記リン酸塩析出工程において、水酸化カルシウムまたは水酸化カルシウム溶液を用い、pHが2以上8以下でカルシウムを含むリン酸塩(第一、第二リン酸塩を含む)を析出させることを特徴とする、鉄鋼スラグからリン酸塩を回収する方法。
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