JP7115115B2 - 鉄鋼スラグからリン酸塩を回収する方法 - Google Patents
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Description
リン化合物は鋼材にとっては忌避成分であるが、肥料や洗剤の製造、化学合成における触媒等に用いられる有価物である。
しかしながら、リン鉱石は、ほとんど国内で産出されず、世界規模でも偏在しており、モロッコや中国等からの輸入に頼っている。また、人口増大に伴うリン資源の枯渇の可能性がある。
リン鉱石の輸入量を減らすことができれば、リン鉱石採掘場での環境汚染の抑制も可能であり、環境保全の効果も期待できる。
しかしながら、この方法は、加熱にエネルギーが必要であり、耐熱性かつ耐食性を有する設備も必要であるため、高コストであるという問題があった。
そこで、溶液法による効率的なリンの溶出方法が研究されてきた。
具体的には、pHが0.1未満ではスラグ中のCaとFeの両方が溶解し、pHが1.0を超えるとCaとFeの両方が未溶解となるので、Ca分の選択的な分離ができないと記載されている。
この構造によれば、陽イオン交換樹脂を再生できるため、溶出液からの金属イオン除去を連続して安定的に行い得ると記載されている。
その結果、製鋼スラグを塩酸と硫酸に順次浸漬することにより、鉄鋼スラグのリン成分の溶出が可能であること、および、Caを含むpH調整によって、溶出したリン成分を高収率で回収できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
また、この発明によれば、Caを含むpH調整によって、溶出したリンをリン酸塩として析出させるため、リン成分を高収率で回収できる。
さらに、この発明によれば、リン溶出に用いる硫酸濃度を従来よりも低減できるため、使用する硫酸量を削減できる。また、装置の材質の耐酸性等の制約が低くなり、装置のコストを削減できる。
この発明によれば、スラグが発生する製鐵所で汎用の酸洗ラインの廃塩酸と廃硫酸を用いるため、安価かつ容易に鉄鋼スラグ中のリンを高効率で溶出させることできる。
また、リンを溶出させる際に、廃酸中のFeイオンをスラグ側に濃化させるため、酸洗ラインで使用した廃酸を用いた場合であってもリン成分を高収率で回収できる。
この発明によれば、塩酸濃度と固液比を上記範囲とすることにより、Ca溶出量を最適化でき、かつCa以外の成分が溶出するのを防ぐことができる。
この発明によれば、硫酸濃度と固液比を上記範囲とすることにより、スラグからのリンの溶出がよりスムーズに行われ、かつリン以外の成分が溶出するのを防止できる。
この発明によれば、カルシウムを含むリン酸塩が析出し易いpH域で析出を行うため、リン成分を高収率で回収できる。
まず、本発明を創出するに至った経緯を説明する。
本発明者は、鉄鋼スラグ成分で最も重量割合が高いCa酸化物(単独、複合酸化物組成を含む)と、鉄鋼スラグ発生元である製鐵所の酸洗ラインのFe含有廃酸、および、コークス化成工場で製造される硫酸との反応を詳細に調べた。
その結果、以下の知見を得た。
このような製鋼スラグを塩酸に浸漬するとCaが高効率で溶解することが分かった。
次に、製鋼スラグを硫酸に浸漬すると、逆にCaだけがCaSO4・2H2O(石膏)として固体析出し、Ca以外の成分、特にリンが選択的に溶出することもわかった。
さらに、溶出したリンについては、Caを含むpH調整によって、リン酸塩として析出するため、リン成分を高収率で回収できることもわかった。
以上が本発明を創出するに至った背景である。
次に、図1を参照して、本発明の実施形態に係る、鉄鋼スラグからリン酸塩を回収する方法の概要を説明する。
本実施形態の、鉄鋼スラグからリン酸塩を回収する方法は、Ca溶出工程(図1のS1)、残渣スラグ回収工程(図1のS2)、リン溶出工程(図1のS3)、リン溶出液回収工程(図1のS4)を実施する。
さらに、リン酸塩析出工程(図1のS5)、リン酸塩回収工程(図1のS6)を実施する。
以上が鉄鋼スラグからリン酸塩を回収する方法の概要である。
次に、図1の各工程について、詳細に説明する。
Ca溶出工程S1は、鉄鋼スラグを塩酸溶液に浸漬し、Caを溶出させる工程である。
塩酸濃度は、CaOの選択溶解性、反応時間を考慮すると、2質量%以上7質量%以下で、固液比(質量比、以下同様)が(1:10)~(1:20)が好ましい。濃度が2質量%未満で、固液比が(1:10)未満であると、塩酸の溶解力が弱過ぎて、Ca溶出量が少なくなる。
塩酸濃度が、7質量%を超え、固液比が(1:20)を超えると、塩酸の溶解力が強過ぎて、鉄鋼スラグ中のCa以外の成分も溶出し、次工程でのリンの溶出効率が低下し、リン酸塩の収量が低下する。
残渣スラグ回収工程S2は、Caを溶出させた後の製鋼スラグと塩酸のスラリーを、固液分離して、低Caのスラグを残渣として回収する工程である。
固液分離の装置は、反応収束後のpHに応じて耐酸性の配管や容器を用いる必要がある。
表1に、水酸化カルシウムまたは水酸化カルシウム溶液を用いたpH調整による、それぞれの金属水酸化物の析出順序を示す。
塩酸によるCa溶出後の固液分離で得られる濾液は、有用な成分と、鉄鋼製造プロセス上または環境対策上、忌避すべき成分とを、固有のpH域で水酸化物として個別に析出分離できる。
pH13以上の塩化物溶液は、電解処理してCl2ガスとKOHまたはNaOHを再生、回収、リサイクルすることができる。また、P、Cr、Cdなどが基準内であることを確認した後、海洋投棄してもよい。
リン溶出工程S3は、Ca溶出後の残渣スラグを、硫酸溶液に浸漬し、リンを溶出させる工程である。
鉄鋼スラグには、遊離CaOやCa分を含むCaSiO3、Ca2SiO4、Ca3SiO5、Ca2Al2O5等の複合酸化物、および、MgOなどが含まれる。
Ca溶出処理によって、鉄鋼スラグ中のCaOの多くは、塩化カルシウムとして溶出、除去されている。Ca溶出後の残渣スラグを硫酸に浸漬させることによって、リンが選択的に溶出し、リン酸イオンとして溶存させることができる。
さらに、硫酸がFeを含有する廃硫酸溶液の場合は、リンを溶出させながら、合わせて、廃硫酸溶液中のFeイオンをスラグ側に濃化させることができる。これにより、酸洗ラインで使用した廃酸を用いた場合であってもリン成分を高収率で回収できる。
コークス炉から排出されたSから製造された高濃度の硫酸の希釈液、脱硫装置で回収される高濃度の硫酸の希釈液、鋼板や鋼管、棒鋼などの酸洗処理で排出される低濃度の硫酸濃度かつ高Fe濃度の廃硫酸(以下、Fe含有廃硫酸溶液とも言う)を例示できる。
そのため、コークス炉の化成工場で発生する硫酸を本実施形態で用いると、その廃棄または輸出コストを低減でき、好ましい。
処理時間が、2時間未満では、反応槽中の低Ca残渣スラグのCa以外の金属酸化物、特にリンの溶出率が低くなるおそれがある。4時間を超えた場合はリン以外の金属酸化物の溶出割合が増加するおそれがある。
リン溶出液の回収工程S4は、リンを溶出させた後の製鋼スラグ(リン溶出残渣)と硫酸のスラリーを、固液分離してリン溶出液を回収する工程である。
分離法としては、濾過、遠心分離、加圧脱水(ローラープレス、フィルタープレス、スクリュープレス)、多重円板回転脱水、多重板波動フィルターなどによる通常法が挙げられる。さらに、化学的作用(水和官能基を持つ高分子、数千万の分子量の網状構造の高分子など)を利用した凝集剤を用いる方法も挙げられる。
リン酸塩析出工程S5は、リン溶出液を水酸化カルシウムあるいはその溶液で中和し、カルシウムを含むリン酸塩を析出させる工程である。
具体的には、水酸化カルシウムまたは水酸化カルシウム溶液で、pH2~8でリン溶出液を中和し、カルシウムを含むリン酸塩を、固形物として析出させる。最もカルシウムを含むリン酸塩が析出し易いpH域は、pH2~4であり、第一リン酸塩として溶液中のリンの85%以上が回収される。リン溶出液中のFe、Si、Al、Mgは、pH2~4で、液中に残るが、Fe3+だけは、析出する(表1)。ただし、Feを含有しても、付加価値の高いカルシウムを含むリン酸塩が主体であり、回収する価値がある。
リン酸塩回収工程S6は、析出したリン酸塩と溶液を固液分離し、リン酸塩を回収する工程である。
析出したリン酸塩を濾過、遠心分離、加圧脱水(ローラープレス、フィルタープレス、スクリュープレス)、多重円板回転脱水、多重板波動フィルター等を用いて回収する。回収したカルシウムを含むリン酸塩は、有用なリン資源として活用できる。
粒径範囲が2mm以下のものは、粉砕後に分級し、粒径範囲が500μm以下、250μm以下、125μm以下、および、粒径75μm以下も用意した。
ここで、粒径範囲を示す「以下」は、分級操作によって目標粒径に対して、その大小に分けた場合の、粒径が小さい側を意味する。
表2に、実施例で用いた鉄鋼スラグの成分組成を示す。
さらに、反応槽として、鋼種SUS316Lにブチルゴムライニングした円筒状の容器(直径が500mm、高さが500mm、内容積が約100リットル)を用意した。
さらに、粒径範囲が500μm未満、250μm未満、125μm未満、および、粒径75μm未満の各粒度の高炉徐冷スラグおよび転炉スラグを少しずつ投入し、撹拌した。全量投入後にスラリーとなったことを確認した後に、濾過により固液分離した。
そこで、以下のデータは、塩酸濃度が3.5%、粒径は125μm未満を代表値として説明する。
この結果から、塩酸処理を行うことにより、5%以上の濃度の硫酸で、スラグ中のリンを溶出させられることが分かった。溶出濃度から計算すると、塩酸処理を行ったスラグに対して5%硫酸で溶出を行うと、スラグ中のリンの85%を溶出できることが分かった。
この結果から、塩酸処理を行うことにより、硫酸処理の際の硫酸濃度を低くでき、かつリンの溶出量を多くできることが分かった。
分離した溶液を水酸化カルシウム懸濁液で中和させ、pH2以上8以下で析出物を回収した。
回収した析出物の組成を蛍光X線分析により求めた結果を表3に示す。
液相中からのリンおよび鉄回収率を図5に示す。
図5に示すように、液中のリンおよび鉄の全量を固相へと分離できることがわかった。
回収した析出物の組成を蛍光X線分析により求めた結果を表4に示す。
中和に用いる水酸化物は、水酸化カルシウムでも、水酸化カリウムでも、得られた化合物を、肥料や地盤改良剤(フッ素不溶化剤)等に使用する場合、毒性はなく、高付加価値の固形物が得られた。
一方で、中和に用いる水酸化物を、水酸化カルシウムとした方が、回収量が多いことが分かった。
Claims (5)
- 鉄鋼スラグを、塩酸溶液に浸漬し、Caを溶出させるCa溶出工程と、
Caが溶出した前記塩酸溶液と残渣スラグを固液分離し、前記残渣スラグを回収する残渣スラグ回収工程と、
前記残渣スラグを、硫酸溶液に浸漬し、リンを溶出させるリン溶出工程と、
リンが溶出したリン溶出液とリン溶出残渣を固液分離し、前記リン溶出液を回収するリン溶出液回収工程と、
前記リン溶出液を水酸化カルシウムあるいはその溶液で中和し、カルシウムを含むリン酸塩を析出させるリン酸塩析出工程と、
析出した前記リン酸塩と溶液を固液分離し、前記リン酸塩を回収するリン酸塩回収工程を実施することを特徴とする、鉄鋼スラグからリン酸塩を回収する方法。 - 請求項1に記載の、鉄鋼スラグからリン酸塩を回収する方法であって、
前記塩酸溶液は、製鐵所で発生するFe含有廃塩酸溶液であり、
前記硫酸溶液は、製鐵所で発生するFe含有廃硫酸溶液であり、
前記リン溶出工程は、前記残渣スラグを、製鐵所で発生する前記硫酸溶液に浸漬し、リンを溶出させながら、合わせて、前記硫酸溶液中のFeイオンをスラグ側に濃化させる工程であることを特徴とする、鉄鋼スラグからリン酸塩を回収する方法。 - 請求項1または請求項2に記載の、製鋼スラグからリン酸塩を回収する方法であって、
前記Ca溶出工程において、塩酸濃度が2質量%以上7質量%以下で、固液比が(1:10)~(1:20)でCaを溶出させることを特徴とする、鉄鋼スラグからリン酸塩を回収する方法。 - 請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の、製鋼スラグからリン酸塩を回収する方法であって、
前記リン溶出工程において、硫酸濃度が5質量%以上25質量%以下で、固液比が(1:3)~(1:10)でリンを溶出させることを特徴とする、鉄鋼スラグからリン酸塩を回収する方法。 - 請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の、製鋼スラグからリン酸塩を回収する方法であって、
前記リン酸塩析出工程において、水酸化カルシウムまたは水酸化カルシウム溶液を用い、pHが2以上8以下でカルシウムを含むリン酸塩(第一、第二リン酸塩を含む)を析出させることを特徴とする、鉄鋼スラグからリン酸塩を回収する方法。
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