JP7114818B2 - 固形乳 - Google Patents

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Description

本発明は、固形食品及び固形乳に関する。
固形食品として、粉乳を圧縮成型した固形乳が知られている(特許文献1及び特許文献2参照)。この固形乳は、温水中に投入することで速やかに溶解する溶解性が要求されるとともに、輸送適性、即ち輸送中や携行中に割れたり崩れたりする破壊が生じないような破壊耐性が要求されている。
特許第5350799号公報 特許第5688020号公報
食品粉体又は粉乳を圧縮成型し、扱いやすい強度を備えながら、さらに溶解性を向上させた固形食品および固形乳が望まれている。
本発明は、好適な溶解性と扱いやすい強度とを有する固形食品及び固形乳を提供することを目的とする。
本発明に係る固形食品は、食品粉体を圧縮成型した固形状の固形食品であって、前記固形食品1つに対して200mlの50±1℃の温水に前記固形食品を水没させ、回転速度0.5m/s(周速度)で撹拌し、溶け始めてから溶け切るまでの溶出過程を導電率によって経時的に測定し、溶出終了時における導電率を100%としたときの導電率の割合である溶出率が20%、63%、95%に達する時間(秒)をそれぞれt20、t63、t95とし、前記固形食品との重量の差が±0.3%以内、前記固形食品との表面積の差が±2%以内、前記固形食品との硬度の差が±4%以内であり、加湿処理の温度が100℃以下である条件で形成された参照固形食品の上記溶出率が、20%、63%、95%に達する時間(秒)をそれぞれt20ref、t63ref、t95refとした場合、下記式(A)で表される溶解性指数(Id)が1未満である。
Id=(t20/t20ref+t63/t63ref+t95/t95ref)/3・・・(A)
本発明に係る固形乳は、粉乳を圧縮成型した固形状の固形乳であって、前記固形乳1つに対して200mlの50±1℃の温水に前記固形乳を水没させ、回転速度0.5m/s(周速度)で撹拌し、溶け始めてから溶け切るまでの溶出過程を導電率によって経時的に測定し、溶出終了時における導電率を100%としたときの導電率の割合である溶出率が20%、63%、95%に達する時間(秒)をそれぞれt20、t63、t95とし、前記固形乳との重量の差が±0.3%以内、前記固形乳との表面積の差が±2%以内、前記固形乳との硬度の差が±4%以内であり、加湿処理の温度が100℃以下である条件で形成された参照固形乳の上記溶出率が、20%、63%、95%に達する時間(秒)をそれぞれt20ref、t63ref、t95refとした場合、下記式(B)で表される溶解性指数(Id)が1未満である。
Id=(t20/t20ref+t63/t63ref+t95/t95ref)/3・・・(B)
本発明の固形食品によれば、溶解性指数(Id)が1未満であるので、従来の固形食品と同等の硬度を有しながら、溶解性に優れている。したがって本発明の固形食品は、好適な溶解性と扱いやすい強度とを有することができる。
本発明の固形乳によれば、溶解性指数(Id)が1未満であるので、従来の固形乳と同等の硬度を有しながら、溶解性に優れている。したがって本発明の固形乳は、好適な溶解性と扱いやすい強度とを有することができる。
実施の形態に係る固形乳の斜視図である。 変形例に係る固形乳の斜視図である。 溶出率の時間変化を示すグラフである。 溶解性を評価した結果を示すグラフである。 遊離脂肪の含有率を測定した結果を示すグラフである。
以下、本発明の実施の形態について説明する。しかしながら、以下説明する形態は、あくまで例示であって、当業者にとって自明な範囲で適宜修正することができる。
<実施の形態>
(固形乳10Sの構成)
図1は、本実施の形態に係る固形乳10Sの斜視図である。
固形乳10Sは、粉乳を圧縮成型した固形状の本体10を有する。本体10は、XY平面に平行で平坦な第1面10Aと、XY平面に平行で平坦な第2面10Bとを有する。第1面10Aと第2面10Bとは背中合わせの面である。本体10の形状は、圧縮成型に用いる型(打錠機の臼)の形状によって定まるが、ある程度の寸法(大きさ、厚さ、角度)をもつ形状であれば特に限定されない。本体10の概略形状は、円柱状、楕円柱状、立方体状、直方体状、板状、多角柱状、多角錐台状あるいは多面体状等である。成型の簡便さや運搬の便利さ等の観点から、円柱状、楕円柱状及び直方体状が好ましい。図1に示した固形乳10Sの本体10の概略形状は直方体状であり、寸法がa×b×c(図1参照)である直方体状であり、本体10はXZ平面又はYZ平面に平行な側面10Cを有する。
第1面10A及び側面10Cから構成される本体10の角部と、第2面10B及び側面10Cから構成される本体10の角部とは、面取りがなされてテーパー状の斜面となっている。側面10CにおけるYZ平面に平行な面及びXZ平面に平行な面から構成される角部は丸められた形状であってよい。角部が面取りをされていること、あるいは丸められていることにより、運搬する際等で固形乳10Sが壊れる事態を抑制することができる。
表面とは、物質の外側を成す面である。表層とは、表面を含む表面近傍の層である。例えば、表層とは、粉乳の圧縮成型により形成され、さらに硬化処理により硬化された層である。本実施形態の表層は、内部より硬い層となっている。ここで、表層が内部より硬い層であるとは、表層だけを分離するのに必要となる力が、内部を分離するのに必要となる力よりも相対的に大きいことを指す。
固形乳10Sの成分は、基本的には原料となる粉乳の成分と同様である。固形乳10Sの成分は、例えば、脂肪、たん白質、糖質、ミネラル、ビタミン及び水分等である。
粉乳は、乳成分(例えば牛乳の成分)を含む液体状の乳類(液状乳)から製造されたものである。乳成分は、例えば、生乳(全脂乳)、脱脂乳及びクリーム等である。液状乳の水分含有率は、例えば40重量%~95重量%である。粉乳の水分含有率は、例えば1重量%~4重量%である。粉乳は、後述の栄養成分が添加されていてよい。粉乳は、固形乳10Sを製造するために適したものであれば、全粉乳、脱脂粉乳、又はクリーミーパウダーであってもよい。粉乳の脂肪含有率は、例えば5重量%~70重量%であることが好ましい。
本実施の形態の固形乳10Sは、脂肪として、乳化した脂肪と遊離脂肪とを含んでいてもよい。遊離脂肪は、圧力により乳化状態が壊れ、粉乳からしみ出した脂肪である。粉乳は、乳化物であるため、粉乳に圧力を加えて固形状態にする場合、圧力により乳化状態が壊れることに起因する。この遊離脂肪は、酸化しやすく、粉乳の風味を損なう。また、粉乳を温水に溶かした際に、過剰の遊離脂肪は、水面に浮き凝集するという問題がある(この現象は、「オイルオフ」と呼ばれる)。固形乳10Sの遊離脂肪の含有率は、0.5重量%以上4重量%以下、好ましくは0.8重量%以上1.2重量%以下である。固形乳10Sの遊離脂肪の含有率は、従来の固形乳に比べ、低い。ここでいう従来の固形乳は、後述する硬質処理が従来の条件で行われた固形乳をいう。
遊離脂肪は、以下のようにして測定することができる。まず、固形乳をすり潰さないように留意しながらカッターで細かくし粉砕する(粉砕工程)。その後、32メッシュ篩に粉砕された固形乳を通過させる(篩工程)。篩工程を経たものを試料とし、‘Determination of Free Fat on the Surface of Milk Powder Particles‘,Analytical Method for Dry Milk Products,A/S NIRO ATOMIZER(1978)に記載された方法にしたがって遊離脂肪の含有率を測定する。この方法によって測定された遊離脂肪の含有率は、一定速度、一定時間の振とうにより有機溶媒(たとえば、n-ヘキサンや四塩化炭素)で抽出された脂肪の重量%で示される。
上記の粉乳の原料となる乳成分は、例えば生乳由来のものである。具体的には、牛(ホルスタイン、ジャージー種その他)、山羊、羊及び水牛等の生乳由来のものである。上記の生乳には脂肪分が含まれているが、脂肪分の一部又は全部が遠心分離等により取り除かれた脂肪含有率が調節された乳であってもよい。
さらに、上記の粉乳の原料となる乳成分は、例えば植物由来の植物性乳である。具体的には、豆乳、ライスミルク、ココナッツミルク、アーモンドミルク、ヘンプミルク、ピーナッツミルク等の植物由来のものである。上記の植物性乳には脂肪分が含まれているが、脂肪分の一部又は全部が遠心分離等により取り除かれた脂肪含有率が調節された乳であってもよい。
上記粉乳の原料となる栄養成分は、例えば、脂肪、たん白質、糖質、ミネラル及びビタミン等である。これらのうちの一種又は二種以上が添加されていてよい。
上記の粉乳の原料となり得るたん白質は、例えば、乳たん白質及び乳たん白質分画物、動物性たん白質、植物性たん白質、それらのたん白質を酵素等により種々の鎖長に分解したペプチド及びアミノ酸等である。これらのうちの一種又は二種以上が添加されていてよい。乳たん白質は、例えば、カゼイン、乳清たん白質(α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリン等)、例えば、乳清たん白質濃縮物(WPC)及び乳清たん白質分離物(WPI)等である。動物性たん白質は、例えば、卵たん白質である。植物性たん白質は、例えば、大豆たん白質及び小麦たん白質である。アミノ酸は、例えば、タウリン、シスチン、システイン、アルギニン及びグルタミン等である。
上記の粉乳の原料となり得る脂肪(油脂)は、動物性油脂、植物性油脂、それらの分別油、水素添加油及びエステル交換油である。これらのうちの一種又は二種以上が添加されていてよい。動物性油脂は、例えば、乳脂肪、ラード、牛脂及び魚油等である。植物性油脂は、例えば、大豆油、ナタネ油、コーン油、ヤシ油、パーム油、パーム核油、サフラワー油、綿実油、アマニ油及びMCT(Medium Chain Triglyceride, 中鎖脂肪酸トリグリセリド)油等である。
上記の粉乳の原料となり得る糖質は、例えば、オリゴ糖、単糖類、多糖類及び人工甘味料等である。これらのうちの一種又は二種以上が添加されていてよい。オリゴ糖は、例えば、乳糖、ショ糖、麦芽糖、ガラクトオリゴ糖、フルクトオリゴ糖、ラクチュロース等である。単糖類は、例えば、ブドウ糖、果糖及びガラクトース等である。多糖類は、例えば、デンプン、可溶性多糖類及びデキストリン等である。なお、糖質の人工甘味料に替えて、或いは加えて、非糖質の人工甘味料を用いてもよい。
上記の粉乳の原料となり得るミネラル類は、例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、銅、及び亜鉛等である。これらのうちの一種又は二種以上が添加されていてよい。なお、ミネラル類のナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、銅、及び亜鉛に替えて、或いは加えて、リン及び塩素の一方又は両方を用いてもよい。
固形乳10Sには、固形乳10Sの原料である粉乳を圧縮成型した時に生じた空隙(例えば細孔)が多数存在している。これら複数の空隙は、固形乳10Sにおいて一様に分散(分布)していることが好ましく、これにより、固形乳10Sを偏りなく溶解させることができ、固形乳10Sの溶解性を高めることができる。ここで、空隙が大きい(広い)ほど、水等の溶媒の侵入が容易となるため、固形乳10Sを速く溶解させることができる。一方、空隙が大きすぎると、固形乳10Sの硬度が弱くなるか、固形乳10Sの表面が粗くなることがある。各空隙の寸法(大きさ)は、例えば10μm~500μmである。なお、各空隙の寸法(大きさ)や多数の空隙の分布は、例えば走査型電子顕微鏡を用いて固形乳10Sの表面及び断面を観察する等の公知の手段により測定することができる。このような測定によって、固形乳10Sの空隙率を定めることができる。
固形乳10Sの空隙率は、例えば30%~60%である。空隙率が大きいほど、溶解性は高まるが、硬度(強度)が弱くなる。また、空隙率が小さいと、溶解性が悪くなる。固形乳10Sの空隙率は、30%~60%の範囲内に限られることはなく、その用途等に応じて適宜調整される。
固形乳10Sは所定範囲の硬度を有することが好ましい。硬度は、公知の方法で測定できる。本明細書においては、ロードセル式錠剤硬度計を用いて硬度を測定する。ロードセル式錠剤硬度計に直方体状をなす固形乳10Sの第2面を底面として載置し、側面10CのXZ平面に平行な1面およびYZ平面に平行な1面を用いて固定して、側面10CのXZ平面に平行な固定していないもう一方の面側から硬度計の破断端子で第1面10Aの短軸方向(図1のY軸方向)にYZ平面が破断面となる向きに一定速度で押し、固形乳10Sが破断した時の荷重[N]をもって固形乳10Sの硬度(錠剤硬度)[N]とする。例えば、岡田精工(株)製のロードセル式錠剤硬度計(ポータブルチェッカーPC-30)を用いる。硬度計に組み込まれた破断端子は、固形乳10Sに接触する接触面を有する。破断端子の有する接触面は、1mm×24mmの長方形であり、この長方形の長辺がZ軸に平行となる向きに配置される。この破断端子の有する接触面は、少なくとも一部で固形乳10Sの測定点を押すように構成されている。破断端子が固形乳10Sを押す速度を0.5mm/sとする。上記の硬度の測定は、固形乳10Sに限らず、後述の粉乳圧縮成型物(未硬化の固形乳10S)の硬度を測定する場合にも適用できる。上記のように測定される硬度に関して、固形乳10Sを運搬する際等に固形乳10Sが壊れる事態を極力避けるため、固形乳10Sの硬度は20N以上であることが好ましく、より好ましくは40N以上である。一方、固形乳10Sの硬度が高すぎると固形乳10Sの溶解性が悪くなることから、固形乳10Sの硬度は80N以下であることが好ましく、より好ましくは70N以下である。固形乳10Sの硬度は100N以下であることでも好ましい。
ここで使用する硬度は、[N(ニュートン)]の単位を持つ力の物理量である。硬度は固形乳試料の破断面積が大きいほど大きくなる。ここで、「破断」とは固形乳10S等の試料に静的に垂直荷重をかけたときに破損することを指し、この破損した際にできた断面積を「破断面積」と称する。つまり、硬度[N]は固形乳試料の寸法に依存する物理量である。固形乳試料の寸法に依存しない物理量として破断応力[N/m]がある。破断応力は破断時に単位破断面積あたりにかかる力であり、固形乳試料の寸法に依存せず、寸法の異なる固形乳試料間でも固形乳試料にかかる力学的な作用を比較できる指標である。例えば固形乳10Sの場合、理想的な破断面積は、固形乳の最小破断面積となる寸法b×cで表され、破断応力=硬度/破断面積となる。本明細書では簡易的に硬度[N]を用いて説明をしている場合があるが、これらは硬度を破断面積で除した破断応力[N/m]として表してもよい。破断応力を算出する際には、破断面を想定し、想定した破断面での最小の破断面積を用いて算出する。例えば、固形乳10Sの概略形状の寸法が、31mm(a)×24mm(b)×12.5mm(c)の直方体状である場合、理想的な破断面積は300mm(24mm(b)×12.5mm(c))である。上記の20N以上100N以下という固形乳10Sの好ましい硬度範囲は、硬度を破断面積(300mm)で除して、0.067N/mm以上0.33N/mm以下という好ましい破断応力範囲に対応する。上記の20N以上80N以下という固形乳10Sの好ましい硬度範囲は、硬度を破断面積(300mm)で除して、0.067/mm以上0.27N/mm以下という好ましい破断応力範囲に対応する。
上記の固形乳10Sの好ましい破断応力の範囲は、破断面積の範囲を考慮すると、0.067N/mm以上0.739N/mm以下である。
(溶解性)
固形乳10Sは、水等の溶媒に対してある程度の溶解性を持っている必要がある。溶解性は、例えば溶質としての固形乳10Sと、溶媒としての水とを所定の濃度となるように用意したときに、固形乳10Sが完全に溶けるまでの時間や所定時間における溶け残り量で評価することができる。
固形乳10Sは、従来の固形乳に比べ、溶解性に優れる。溶解性は以下のようにして測定することができる。サンプルを攪拌バスケットに投入し、50℃の温水に水没させる。温水の体積は、サンプル1つに対して200mlとする。なお、サンプル1つあたりの重量が4~6gの場合、温水の体積は、サンプルを溶質とした場合の溶質濃度が1.96重量%~2.91重量%の範囲で調整してもよい。サンプルを投入した攪拌バスケットを、回転速度0.5±0.002m/s(周速度)で回転させ、温水を撹拌する。サンプルが溶け始めてから溶け切るまでの溶出過程を導電率によって経時的に測定する。得られた導電率は、溶出率に変換する。t秒における溶出率は、溶出終了時における導電率を100%としたときの導電率の割合と定義した。サンプルの溶出率がn%に達する時間をn%溶出時間(tn)とした。溶出初期の溶解性は20%溶出時間(t20)、溶出中期は63%溶出時間(t63)、溶出終期は95%溶出時間(t95)とした。溶出初期、中期、終期の溶出時間の情報を内包した評価指標である溶解性指数(Id)は、下記式(1)で表すことができ、小さいほど溶解性が高いことを示す。
Id=(t20/t20ref+t63/t63ref+t95/t95ref)/3・・・(1)
上記式(1)において、t20ref、t63ref、及びt95refは、参照固形乳のそれぞれ、20%溶出時間、63%溶出時間、95%溶出時間であり、参照値と呼ぶ。参照固形乳とは、後述する硬化処理における条件が異なる以外は、実施の形態の固形乳と同様に、別途作成された固形乳である。参照固形乳を作成する硬化処理の条件は、加湿処理の温度が100℃以下である点が、固形乳10Sを作成する場合と異なる。参照固形乳を形成する硬化処理は、さらに乾燥処理の条件が、固形乳10Sを作成する場合と異なっていてもよい。加湿処理の温度が100℃以下である条件は、上記特許文献2に記載されるように、公知の条件である。参照固形乳は、加湿処理の条件が公知の条件で行われている点において、従来の固形乳である。本実施の形態で用いる参照固形乳の重量、形状、硬度は、実施の形態の固形乳と同じである。形状が同じであるので、参照固形乳の表面積は、実施の形態の固形乳と同じである。参照固形乳の成分は、固形乳10Sの成分と同様である。又は、参照固形乳は、少なくとも脂肪、たん白質、及び糖質の組成が、固形乳10Sと同じであればよい。
参照固形乳の重量、表面積、硬度は、実施の形態の固形乳と同じである場合に限られない。参照固形乳の重量は、実施の形態の固形乳との差が±0.3%以内である場合を含む。参照固形乳の表面積は、実施の形態の固形乳との差が±2%以内である場合を含む。参照固形乳の硬度は、実施の形態の固形乳との差が±4%以内である場合を含む。参照固形乳は、実施の形態の固形乳に対し、重量、表面積、及び硬度の差が上記範囲内であれば、従来の固形乳としての適切な参照値を得ることができる。参照固形乳の形状は、実施の形態の固形乳の形状に合わせて選択される。例えば、実施の形態の固形乳の形状が、円柱状、楕円柱状、立方体状、板状、多角柱状、多角錐台状、多面体状である場合、参照固形乳の形状はそれぞれ、円柱状、楕円柱状、立方体状、板状、多角柱状、多角錐台状、多面体状とされる。
硬度は、後述する加湿処理における、温度、湿度、時間の3つの条件によって調整される。参照固形乳を作成する場合の加湿処理において、環境の湿度は例えば60%RH~100%RHの範囲内、加湿時間は例えば5秒~1時間、温度は例えば30℃~100℃である。参照固形乳を作成する場合の乾燥処理において、湿度は例えば0%RH~30%RH、温度は例えば20℃~150℃である。複数(例えば、10個)の参照固形乳を作成し、当該複数の参照固形乳について上記実施の形態の固形乳と同様に溶解性を測定し、得られた溶出時間の相加平均を参照値(t20ref、t63ref、及びt95ref)として用いる。
上記溶出率20%、63%、95%ごとの、参照固形乳の溶出時間(t20ref、t63ref、及びt95ref)に対する実施の形態の固形乳の溶出時間(t20、63、95)の割合(t20/t20ref、t63/t63ref、t95/t95ref)を相対溶出時間(Rt20、Rt63、Rt95)とする。上記式(1)で表される溶解性指数(Id)は、上記相対溶出時間(Rt20、Rt63、Rt95)の相加平均である。溶解性指数(Id)は、硬化処理の条件のみが異なる参照固形乳の溶解性を1とした場合に、実施の形態の固形乳の溶解性を評価する指標である。溶解性指数(Id)が1と同等、もしくは1よりも大きい場合は、溶解性が参照固形乳と同等、もしくは参照固形乳より劣っていることを示す。本実施の形態での固形乳の溶解性指数(Id)は1未満であるので、従来の固形乳と同等の硬度を有しながら、従来の固形乳に比べ溶解性に優れている。
上記の溶解性指数(Id)を、溶出初期の溶解性は20%溶出時間(t20)、溶出中期は63%溶出時間(t63)、溶出終期は95%溶出時間(t95)を用いて表す理由について説明する。
図3は、異なる条件で製造された固形乳a,bの溶出率の時間変化を示すグラフである。固形乳aは、溶解開始直後から溶出率が上昇する。固形乳bは、初期溶解後、溶出率が一旦停滞してから再度溶出率が上昇する。
一般的な錠剤(薬)の溶出試験は、85%濃度に到達するまでの時間や、60%、85%濃度に到達する時間を指標として比較することで行われるが、図3に示すように、固形乳は、品種や製造条件の違いにより、初期に溶解が停滞する場合や、溶解終了までに時間がかかる場合がある。従って、固形乳では、一般的な錠剤のように1点、もしくは2点の指標で溶解性を評価することは妥当ではない。特に初期の溶解時間の延長は、使用者の官能評価において「溶けにくい」と感じるファクターとなり、固形乳の品質を評価するうえで重要である。
上記の溶解性指数(Id)を表す式では、溶解初期の溶解性の評価として20%の溶出時間を用い、溶解中期の溶解性の評価として63%の溶出時間を用い、また、溶解後期の溶解性の評価として95%の溶出時間を用いた。溶解中期の溶解性を示す63%の溶出時間は、一般的な過渡応答における時定数τに相当し、様々なセンサーの応答特性の評価指標において応答の特徴を示す値として広く知られている。溶解終期の溶解性を示す95%の溶出時間は、理論的には時定数τに対して3τにおける応答特性を示す評価指数に相当する。上記の溶解性指数(Id)表す式では、溶解初期、溶解中期、及び溶解終期の溶解時間の算術平均をとることで、包括的な溶解特性を示す指標として溶解性指数(Id)を定義したものである。
本実施の形態の固形乳の溶解性指数(Id)は、1未満であり、好ましくは0.99以下であり、より好ましくは0.98以下である。
(固形乳10Sの製造方法)
続いて固形乳10Sの製造方法について説明する。まず、固形乳10Sの原料となる粉乳を製造する。粉乳の製造工程では、例えば液状乳調製工程、液状乳清澄化工程、殺菌工程、均質化工程、濃縮工程、気体分散工程及び噴霧乾燥工程により、粉乳を製造する。
液状乳調製工程は、上記の成分の液状乳を調製する工程である。
液状乳清澄化工程は、液状乳に含まれる微細な異物を除去するための工程である。この異物を除去するためには、例えば遠心分離機やフィルター等を用いればよい。
殺菌工程は、液状乳の水や乳成分等に含まれている細菌等の微生物を死滅させるための工程である。液状乳の種類によって、実際に含まれていると考えられる微生物が変わるため、殺菌条件(殺菌温度や保持時間)は、微生物に応じて適宜設定される。
均質化工程は、液状乳を均質化するための工程である。具体的には、液状乳に含まれている脂肪球等の固形成分の粒子径を小さくして、それらを液状乳に一様に分散させる。液状乳の固形成分の粒子径を小さくするためには、例えば液状乳を加圧しながら狭い間隙を通過させればよい。
濃縮工程は、後述の噴霧乾燥工程に先立って、液状乳を濃縮するための工程である。液状乳の濃縮には、たとえば真空蒸発缶やエバポレーターを用いればよい。濃縮条件は、液状乳の成分が過剰に変質しない範囲内で適宜設定される。これにより、液状乳から濃縮乳を得ることができる。本実施の形態では、濃縮された液状乳(濃縮乳)に気体を分散させ、噴霧乾燥することが好ましい。このとき、濃縮乳の水分含有率として、例えば、35重量%~60重量%があげられ、好ましくは、40重量%~60重量%であり、より好ましくは40重量%~55重量%である。このような濃縮乳を用いて、気体を分散させた際に、液状乳(濃縮乳)の密度を低下させて嵩高くし、そのように嵩高くした状態の濃縮乳を噴霧乾燥することで、固形乳を製造する際に、好ましい特質を有する粉乳を得ることができる。なお、液状乳の水分が少ない場合や噴霧乾燥工程の対象となる液状乳の処理量が少ない場合には、本工程を省略してもよい。
気体分散工程は、液状乳(濃縮乳)に、所定の気体を分散させるための工程である。このとき、所定の気体としては、たとえば液状乳の体積の1×10-2倍以上7倍以下の体積で分散させることがあげられ、好ましくは、液状乳の体積の1×10-2倍以上5倍以下の体積であり、より好ましくは、液状乳の体積の1×10-2倍以上4倍以下であり、最も好ましくは、1×10-2倍以上3倍以下である。
所定の気体を液状乳に分散させるために、所定の気体を加圧することが好ましい。所定の気体を加圧する圧力は、当該気体を液状乳へ効果的に分散させることができる範囲内であれば特に限定されないが、所定の気体の気圧として、例えば1.5気圧以上10気圧以下があげられ、好ましくは2気圧以上5気圧以下である。液状乳は以下の噴霧乾燥工程において噴霧されるため、所定の流路に沿って流れており、この気体分散工程では、この流路に加圧した所定の気体を流し込むことで、当該気体を液状乳に分散(混合)させる。このようにすることで、所定の気体を液状乳に容易にかつ確実に分散させることができる。
このように、気体分散工程を経ることにより、液状乳(濃縮乳)の密度は低くなり、見かけの体積(嵩)は大きくなる。なお、液状乳の密度は、液状乳の重さを、液体状態と泡状態の液状乳全体の体積で除したものとして求めてもよい。また、JIS法に準拠したカサ密度測定(顔料:JISK5101準拠)等で、密度を測定する装置を用いて測定してもよい。
したがって、上記の流路には、所定の気体が分散状態にある液状乳が流れることになる。ここで、当該流路において、液状乳の体積流量は、一定となるように制御されていることが好ましい。
本実施の形態では、所定の気体として二酸化炭素(炭酸ガス)を用いることができる。当該流路において、液状乳の体積流量に対する二酸化炭素の体積流量の比率(以下、その百分率を「CO混合比率[%]」ともいう)として、例えば1%以上700%以下があげられ、2%以上300%以下が好ましく、3%以上100%以下がより好ましく、最も好ましくは、5%以上45%以下である。このように、二酸化炭素の体積流量が液状乳の体積流量に対して一定となるように制御することで、そこから製造される粉乳の均一性を高めることができる。但し、CO混合比率が大きすぎると、液状乳が流路を流れる割合が低くなって、粉乳の製造効率が悪化する。したがって、CO混合比率の上限は700%であることが好ましい。また、二酸化炭素を加圧する圧力は、二酸化炭素を液状乳へ効果的に分散させることができる範囲内であれば特に限定されないが、二酸化炭素の気圧として、たとえば1.5気圧以上10気圧以下があげられ、好ましくは2気圧以上5気圧以下である。なお、二酸化炭素と液状乳を密閉系で連続的に(インラインで)混合することにより、細菌等の混入を確実に防止して、粉乳の衛生状態を高めること(又は高い清浄度を維持すること)ができる。
本実施の形態では、気体分散工程において用いる所定の気体は、二酸化炭素ガスとした。二酸化炭素ガスに代えて、又は二酸化炭素ガスとともに、空気、窒素(N)、及び酸素(O)からなる群から選択された1又は2以上の気体を用いてもよいし、希ガス(例えばアルゴン(Ar)、ヘリウム(He))を用いてもよい。このように、さまざまな気体を選択肢とすることができるので、容易に入手できる気体を用いることで、気体分散工程を容易に行うことができる。気体分散工程において、窒素や希ガス等の不活性ガスを用いると、液状乳の栄養成分等と反応するおそれがないため、空気や酸素を用いるよりも、液状乳を劣化させる可能性が少なく好ましい。このとき、液状乳の体積流量に対する当該気体の体積流量の比率として、例えば1%以上700%以下があげられ、1%以上500%以下が好ましく、1%以上400%以下がより好ましく、最も好ましくは、1%以上300%以下である。例えば、ベルら(R. W. BELL, F. P. HANRAHAN, B. H. WEBB: “FOAM SPRAYMETHODS OF READILY DISPERSIBLE NONFAT DRY MILK”, J. Dairy Sci, 46 (12) 1963. pp1352-1356)は、脱脂粉乳を得るために無脂肪乳の約18.7倍の体積の空気を吹き込んだとされている。本実施の形態では、上記の範囲で気体を分散させることにより、固形乳を製造するために好ましい特性を有する粉乳を得ることができる。但し、気体分散工程において液状乳に所定の気体を分散させた結果として液状乳の密度を確実に低くするためには、所定の気体として、液状乳に分散しやすい気体や、液状乳に溶解しやすい気体を用いることが好ましい。このため、水への溶解度(水溶性)が高い気体を用いることが好ましく、20℃において、水1cmへの溶解度が0.1cm以上である気体が好ましい。なお、二酸化炭素は、気体に限られることはなく、ドライアイスであってもよいし、ドライアイスと気体の混合物であってもよい。即ち、気体分散工程では、液状乳へ所定の気体を分散させることができるのであれば、固体を用いてもよい。気体分散工程において、ドライアイスを用いることで、冷却状態の液状乳に急速に二酸化炭素を分散させることができ、この結果、固形乳を製造するために好ましい特性を有する粉乳を得ることができる。
噴霧乾燥工程は、液状乳中の水分を蒸発させて粉乳(食品粉体)を得るための工程である。この噴霧乾燥工程で得られる粉乳は、気体分散工程及び噴霧乾燥工程を経て得られた粉乳である。この粉乳は、気体分散工程を経ずに得られた粉乳に比べて、嵩高くなる。前者は、後者の1.01倍以上10倍以下の体積となることが好ましく、1.02倍以上10倍以下でもよく、1.03倍以上9倍以下でもよい。
噴霧乾燥工程では、気体分散工程において液状乳に所定の気体が分散され、液状乳の密度が小さくなった状態のまま、液状乳を噴霧乾燥する。具体的には、気体を分散する前の液状乳に比べて、気体を分散した後の液状乳の体積が1.05倍以上3倍以下、好ましくは1.1倍以上2倍以下の状態で、噴霧乾燥することが好ましい。つまり、噴霧乾燥工程は、気体分散工程が終了した後に噴霧乾燥を行う。但し、気体分散工程が終了した直後は、液状乳が均一な状態ではない。このため、気体分散工程が終了した後0.1秒以上5秒以下、好ましくは0.5秒以上3秒以下で噴霧乾燥工程を行う。つまり、気体分散工程と噴霧乾燥工程が連続的であればよい。このようにすることで、液状乳が連続的に気体分散装置に投入されて気体が分散され、気体が分散された液状乳が連続的に噴霧乾燥装置に供給され、噴霧乾燥され続けることができる。
水分を蒸発させるためには、噴霧乾燥機(スプレードライヤー)を用いればよい。ここで、スプレードライヤーは、液状乳を流すための流路と、液状乳を流路に沿って流すために液状乳を加圧する加圧ポンプと、流路の開口部につながる流路よりも広い乾燥室と、流路の開口部に設けられた噴霧装置(ノズル、アトマイザー等)とを有するものである。そして、スプレードライヤーは、加圧ポンプで液状乳を上述した体積流量となるように流路に沿って乾燥室に向かって送り、流路の開口部の近傍において、噴霧装置で濃縮乳を乾燥室内に拡散させ、液滴(微粒化)状態にある液状乳を乾燥室内の高温(例えば熱風)で乾燥させる。つまり、乾燥室で液状乳を乾燥することで、水分が取り除かれ、その結果、濃縮乳は粉末状の固体、即ち粉乳となる。なお、乾燥室における乾燥条件を適宜設定することで、粉乳の水分量等を調整して、粉乳を凝集しにくくする。また、噴霧装置を用いることで、液滴の単位体積当たりの表面積を増加させて、乾燥効率を向上させるのと同時に、粉乳の粒径等を調整する。
上述したような工程を経ることにより、固形乳を製造するのに適した粉乳を製造することができる。
上記のようにして得られた粉乳を圧縮成型して、粉乳圧縮成型物を成型する。次に、得られた粉乳圧縮成型物に対して加湿処理及び乾燥処理を含む硬化処理を行う。以上により、固形乳10Sを製造することができる。
粉乳を圧縮成型する工程では、圧縮手段が用いられる。圧縮手段は、例えば、打錠機、圧縮試験装置等の加圧成型機である。打錠機は粉乳(食品粉体)を入れる型となる臼と、臼に向かって打ち付け可能な杵とを備えている。臼(型)に粉乳を入れて、杵を打ち付ければ、粉乳に圧縮圧力が加わり、粉乳圧縮成型物を得ることができる。なお、圧縮成型工程において、粉乳の圧縮作業を連続的に行うことが好ましい。
粉乳を圧縮成型する工程において、環境の温度は特に限定されず、例えば室温でも良い。具体的には、環境の温度は、例えば5℃~35℃である。環境の湿度は、例えば0%RH~60%RHである。圧縮圧力は、例えば1MPa~30MPa、好ましくは1MPa~20MPaである。特に粉乳を固形化させる際に、圧縮圧力を1MPa~30MPaの範囲内で調整することによって、空隙率が30%~60%の範囲内となるように制御するとともに、粉乳圧縮成型物(硬化前)の硬度が4N~19Nの範囲内となるように制御することが好ましい。これにより、溶解性と利便性(扱いやすさ)を兼ね備えた、実用性の高い固形乳10Sを製造することができる。なお、粉乳圧縮成型物は、少なくとも後続の加湿工程や乾燥工程で型崩れしないような硬度(例えば4N以上)を有する。例えば、粉乳圧縮成型物(硬化前)の概略形状の寸法が、固形乳10Sと同じで31mm(a)×24mm(b)×12.5mm(c)の直方体状である場合、上記の4N以上19N以下という粉乳圧縮成型物(硬化前)の好ましい硬度範囲は、硬度を破断面積(300mm)で除して、0.013N/mm以上0.063N/mm以下という好ましい破断応力範囲に対応する。
加湿処理は、圧縮成型する工程で得られた粉乳圧縮成型物を加湿処理する工程である。粉乳圧縮成型物を加湿すると、粉乳圧縮成型物の表面には、タック(べとつき)が生じる。その結果、粉乳圧縮成型物の表面近傍の粉体粒子の一部が液状やゲル状となり、相互に架橋することとなる。そして、この状態で乾燥すると、粉乳圧縮成型物の表面近傍の強度を内部の強度よりも高めることができる。高湿度の環境下(温度、湿度)に置く時間(加湿時間)を調整することで、架橋の程度(拡がり具合)を調整し、これにより、加湿工程前の粉乳圧縮成型物(未硬化の固形乳10S)の硬度(例えば4N~19N)を、固形乳10Sとして必要な目的の硬度(例えば40N)にまで高めることができる。但し、加湿時間の調整によって高めることができる硬度の範囲(幅)は限られている。即ち、圧縮成型後の粉乳圧縮成型物を加湿するため、ベルトコンベアー等で運搬する際に、粉乳圧縮成型物の硬度が十分でないと、固形乳10Sの形状を保てなくなる。また、圧縮成型時に粉乳圧縮成型物の硬度が高すぎると、空隙率が小さく、溶解性に乏しい固形乳10Sしか得られなくなる。このため、加湿工程前の粉乳圧縮成型物(未硬化の固形乳10S)の硬度が十分に高くなり、かつ固形乳10Sの溶解性を十分に保てるように、圧縮成型されることが好ましい。
加湿処理において、粉乳圧縮成型物の加湿方法は特に限定されず、例えば粉乳圧縮成型物を高湿度の環境下に置く方法、粉乳圧縮成型物に対して水等を直接噴霧する方法、及び、粉乳圧縮成型物に対して蒸気を吹き付ける方法等がある。粉乳圧縮成型物を加湿するためには、加湿手段を用いるが、そのような加湿手段としては、例えば、高湿度室、スプレー及びスチーム等がある。
粉乳圧縮成型物を高湿度の環境下に置く場合、100%RH以下の相対湿度及び100℃を超える温度の環境下に置く。粉乳圧縮成型物を高湿度の環境下に置く場合の温度は、好ましくは330℃以下であり、好ましくは110℃以上280℃以下、より好ましくは120℃以上240℃以下、さらに好ましくは130℃以上210℃以下である。粉乳圧縮成型物を高湿度の環境下に置く場合の相対湿度は、好ましくは0.1%RH以上20%RH以下、より好ましくは1%RH以上15%RH以下、さらに好ましくは1.5%RH以上12%RH以下、最も好ましくは2%RH以上10%RH以下である。粉乳圧縮成型物を高湿度の環境下に置く場合の処理時間は任意であるが、例えば0.1秒以上30秒以下であり、好ましくは4.4秒以上20秒以下、より好ましくは4.4秒以上12秒以下、さらに好ましくは5秒以上10秒以下である。加湿条件には、温度・湿度・時間があり、温度が高く、湿度が高く、時間が長くなるほど、加湿効果が高まり、温度が低く、湿度が低く、時間が短いほど、加湿効果が弱まる。
実施の形態において100℃超の温度環境とする理由について、説明する。従来の加湿乾燥法は上記特許文献2に記載されているとおり、100℃以下の加湿空気を使用している。これは常圧(大気圧)下での飽和水蒸気の分圧が、100℃で常圧(大気圧)と同じになるため、特殊な操作をしない限り常圧下での水蒸気の温度は100℃以下となるためである。実製造を考える場合、常圧ではない高圧環境を作るためには密閉した圧力容器内での処理が必要となり、回分処理等により生産効率が下がってしまうため、常圧環境下で連続的に処理できることが望ましい。
一方で近年の乾燥技術では、発生させた水蒸気をヒーター等で更に沸点を超えた温度(常圧下においては100℃超)に加熱させた「過熱水蒸気」を利用した過熱水蒸気乾燥も利用されている。過熱水蒸気は、その熱エネルギーを用いた乾燥効率の高さから利用されているものであるが、本開発ではこの過熱水蒸気を加湿工程に利用している。これにより、常圧下でも湿度制御した100℃超(制御したものという意味では101℃以上)の加湿空気を利用することができる。具体的には発生させる(投入する)水蒸気量を調整することで湿度を調整し、ヒーターの熱量によって温度を調整することができる。実際の加湿工程では、温度、湿度、時間の3つの条件によって硬度が調整される。
本実施の形態の加湿処理において粉乳圧縮成型物に加えられる水分量(以下、「加湿量」ともいう)は、適宜調整可能である。加湿量は、圧縮成型工程後の粉乳圧縮成型物の質量の0.5重量%~3重量%が好ましい。加湿量を0.5重量%よりも少なくすると、固形乳10Sに十分な硬度(錠剤硬度)を与えることができず、好ましくない。加湿量が3重量%を超えると、粉乳圧縮成型物が過剰に液状やゲル状となって溶解し、圧縮成型した形状から変形したり、運搬中にベルトコンベアー等の装置へ付着したりすることとなるので、好ましくない。
乾燥処理は、加湿処理で加湿された粉乳圧縮成型物を乾燥させるための工程である。これにより、粉乳圧縮成型物の表面タック(べとつき)がなくなり、固形乳10Sを扱いやすくなる。つまり、加湿処理と乾燥処理は、圧縮成型後の粉乳圧縮成型物の硬度を高めて、固形乳10Sとして望まれる特性や品質を付与する工程に相当する。
乾燥処理において、粉乳圧縮成型物の乾燥方法は特に限定されず、加湿処理を経た粉乳圧縮成型物を乾燥させることができる公知の方法を採用できる。例えば、低湿度・高温度環境下に置く方法、乾燥空気・高温乾燥空気を接触させる方法等がある。
粉乳圧縮成型物を低湿度・高温度の環境下に置く場合、0%RH以上30%RH以下の相対湿度及び80℃以上330℃以下の温度の環境下に置く。低湿度・高温度の環境下に置く場合の温度は、例えば330℃である。粉乳圧縮成型物を低湿度・高温度の環境下に置く場合の処理時間は任意であるが、例えば0.1秒以上100秒以下である。
尚、上記の加湿処理と乾燥処理とは、上記のように温度や湿度が互いに異なる条件で別の工程として行うことが可能であり、その場合には連続的に行うことが可能である。また、加湿処理と乾燥処理とは同じ温度湿度環境下で行うことも可能であり、この場合には加湿と乾燥とを同時に行うことができる。例えば、加湿と乾燥が同時に起こるような第1の温度湿度環境下に粉乳圧縮成型物を置き、続いて乾燥のみが起きるような第2の温度湿度環境下に粉乳圧縮成型物を置く。第1の温度湿度から第2の温度湿度に移行する間は、粉乳圧縮成型物の加湿と乾燥が同時に起こる状態から、粉乳圧縮成型物の乾燥のみが起こる状態へと移行する期間である。
ところで、固形乳10Sに含まれる水分が多いと、保存性が悪くなり、風味の劣化や外観の変色が進行しやすくなる。したがって、乾燥工程において、乾燥温度や乾燥時間等の条件を制御することによって、固形乳10Sの水分含有率を、原料として用いる粉乳の水分含有率の前後1%以内に制御(調整)することが好ましい。
このようにして製造された固形乳10Sは、一般的に、温水に溶かして飲用に供される。具体的には、蓋のできる容器等へ温水を注いだ後に、固形乳10Sを必要な個数で投入するか、固形乳10Sを投入した後に温水を注ぐ。そして、好ましくは容器を軽く振ることにより、固形乳10Sを速く溶解させ、適温の状態で飲用する。また、好ましくは1個~数個の固形乳10S(より好ましくは1個の固形乳10S)を温水に溶かせば、1回の飲用に必要な分量の液状乳となるように、固形乳10Sの体積として、例えば1cm~50cmとなるように調製してもよい。なお、圧縮成型工程で用いる粉乳の分量を変更することで、固形乳10Sの体積を調整できる。
(固形乳10Sの作用・効果)
本実施の形態の固形乳10Sは、上記式(1)で表される溶解性指数(Id)が1未満である。すなわち固形乳10Sは、従来の固形乳と同等の硬度を有しながら、溶解性に優れている。固形乳10Sは、硬化の加湿処理の条件を100℃超としたことによって、溶解性が向上したものと考えられる。固形乳10Sは、好適な溶解性と扱いやすい強度とを有することによって、より利便性を向上することができる。固形乳10Sは、遊離脂肪の含有率が従来の固形乳に比べ低いので、酸化をより抑制することができる。
硬化の加湿処理の条件を100℃超としたことによって、溶解性が向上するのは、加湿処理の条件を100℃超とした硬化処理を行ったときに、加湿により粉体粒子の一部が液状やゲル状となることによって生成する架橋構造が、100℃以下で加湿処理を行う従来法によって生成する架橋構造に比べて、いっそう溶解性の高い構造になったことによると考えられる。さらに詳細には、粉乳圧縮成型物の表面近傍の粉体粒子の一部が100℃超の加湿によって軟化して糖質が非結晶のラバー状態となり、隣り合う粒子の接触点を基点に相互に架橋し、その後、乾燥されることによりガラス化(非結晶状態で固化)すること等により、いっそう溶解性が高まる構造になったことによると考えられる。
<適用例>
固形乳は、固形食品の一例である。上記の実施の形態は、粉乳を圧縮成型した固形乳であるが、食品粉体を圧縮成型して形成された固形食品にも適用できる。例えば、ホエイプロテイン、大豆プロテイン及びコラーゲンペプチド等のタンパク質粉体、アミノ酸粉体、及びMCT油等の油脂含有粉体等を原料として、圧縮成型した固形食品に適用できる。適用例に係る固形食品は、上記式(1)で表される溶解性指数(Id)が1未満であるので、従来の固形食品と同等の硬度を有しながら、溶解性に優れている。なお、この場合の上記式(1)における参照値t20ref、t63ref、及びt95refは、硬化処理が実施の形態の固形食品と異なる条件で形成された参照固形食品の溶出率が20%、63%、95%に達する時間(秒)とする。また、原料の食品粉体には、乳糖あるいはその他の糖質の他に、脂肪、たん白質、ミネラル及びビタミン等の栄養成分や食品添加物が添加されていてもよい。参照固形食品の成分は、固形食品の成分と同様である。
固形食品の好ましい硬度は、固形乳と同様である。固形食品の硬度は、好ましくは20N以上100N以下、より好ましくは20N以上80N以下である。固形食品の好ましい破断応力の範囲は、破断面積の範囲を考慮すると、0.067N/mm以上0.739N/mm以下である。
さらに、上記の食品粉体のタンパク質粉体は、ミルクカゼイン、ミートパウダー、フィッシュパウダー、エッグパウダー、小麦タンパク質、小麦タンパク質分解物等であっても良い。これらのタンパク質粉体は単独で用いてもよいし、二種以上で用いてもよい。
さらに、上記の食品粉体のホエイプロテイン(ホエイタンパク質)とは、乳中で、カゼインを除くタンパク質の総称である。乳清タンパク質として分類されるものであってもよい。ホエイタンパク質は、ラクトグロブリン、ラクトアルブミン、ラクトフェリン等の複数の成分から構成されている。牛乳などの乳原料を酸性に調整した際に、沈殿するタンパク質がカゼイン、沈殿しないタンパク質がホエイタンパク質となる。ホエイプロテインを含む粉末原料として、例えば、WPC(ホエイタンパク濃縮物、タンパク質含有量が75~85質量%)、WPI(ホエイタンパク分離物、タンパク質含有量が85質量%以上)が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、二種以上で用いてもよい。
さらに、上記の食品粉体の大豆プロテイン(大豆タンパク質)は、大豆に含まれるタンパク質であればよく、大豆から抽出されたものでもよい。また、原料大豆から精製したものを用いることもできる。精製方法としては特に限定されず、従来公知の方法を使用できる。このような大豆プロテインとしては、飲食品用素材、医療用素材、サプリメント食品として市販されている粉体を使用することができる。これらは単独で用いてもよいし、二種以上で用いてもよい。
さらに、上記の食品粉体のアミノ酸粉体に含まれるアミノ酸としては、特に限定されないが、例えばアルギニン、リジン、オルニチン、フェニルアラニン、チロシン、バリン、メチオニン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファン、ヒスチジン、プロリン、システイン、グルタミン酸、アスパラギン、アスパラギン酸、セリン、グルタミン、シトルリン、クレアチン、メチルリジン、アセチルリジン、ヒドロキシリジン、ヒドロキシプロリン、グリシン、アラニン、スレオニン、シスチンなどを用いることができる。これらは単独で用いてもよいし、二種以上で用いてもよい。
また、上記の食品粉体のアミノ酸粉体に含まれるアミノ酸は、天然物および合成体のいずれでもよく、単体のアミノ酸もしくは複数のアミノ酸の混合物を用いることができる。また、アミノ酸として、遊離アミノ酸のみならず、ナトリウム塩、塩酸塩および酢酸塩等の塩ならびにカルニチンおよびオルニチン等の誘導体を用いることができる。
本明細書において「アミノ酸」には、α-アミノ酸、β-アミノ酸およびγ-アミノ酸が含まれる。また、アミノ酸は、L-体およびD-体のいずれであってもよい。
さらに、上記の食品粉体の油脂含有粉体に含まれる油脂は、上述のMCT油の他、動物性油脂、植物性油脂、それらの分別油、水素添加油及びエステル交換油である。これらのうちの一種又は二種以上が添加されていてよい。動物性油脂は、例えば、乳脂肪、ラード、牛脂及び魚油等である。植物性油脂は、例えば、大豆油、ナタネ油、コーン油、ヤシ油、パーム油、パーム核油、サフラワー油、綿実油、アマニ油及びMCT(Medium Chain Triglyceride, 中鎖脂肪酸トリグリセリド)油等である。
さらに、上記の食品粉体の糖質は、上述の乳糖の他、例えば、オリゴ糖、単糖類、多糖類及び人工甘味料等である。これらのうちの一種又は二種以上が添加されていてよい。オリゴ糖は、例えば、乳糖、ショ糖、麦芽糖、ガラクトオリゴ糖、フルクトオリゴ糖、ラクチュロース等である。単糖類は、例えば、ブドウ糖、果糖及びガラクトース等である。多糖類は、例えば、デンプン、可溶性多糖類及びデキストリン等である。
さらに、上記の食品粉体の食品添加物の一例としては甘味料が例示できる。この甘味料としては、食品および医薬品に通常使用される任意の甘味料を用いることができ、天然の甘味料および合成甘味料のいずれであってもよい。甘味料は、特に限定されないが、例えばブドウ糖、果糖、麦芽糖、ショ糖、オリゴ糖、砂糖、グラニュー糖、メープルシロップ、蜂蜜、糖蜜、トレハロース、パラチノース、マルチトール、キシリトール、ソルビトール、グリセリン、アスパルテーム、アドバンテーム、ネオテーム、スクラロース、アセスルファムカリウムおよびサッカリンなどを含む。
さらに、上記の食品粉体の食品添加物の一例としては酸味料が例示できる。酸味料は、特に限定されないが、例えば、酢酸、クエン酸、無水クエン酸、アジピン酸、コハク酸、乳酸、リンゴ酸、リン酸、グルコン酸、酒石酸およびこれらの塩などを含む。酸味料は、アミノ酸の種類によって生じる苦みを抑制(マスキング)することができる。
さらに、上記の食品粉体の栄養成分としては、脂肪、タンパク質、ミネラル及びビタミン等いかなる成分を含んでも良い。
脂肪としては、例えば、動物性油脂、植物性油脂、それらの分別油、水素添加油及びエステル交換油等である。これらのうちの一種又は二種以上が添加されていてよい。動物性油脂は、例えば、乳脂肪、ラード、牛脂及び魚油等である。植物性油脂は、例えば、大豆油、ナタネ油、コーン油、ヤシ油、パーム油、パーム核油、サフラワー油、綿実油、アマニ油及びMCT(Medium Chain Triglyceride, 中鎖脂肪酸トリグリセリド)油等である。
タンパク質としては、例えば、乳タンパク質及び乳タンパク質分画物、動物性タンパク質、植物性タンパク質、それらのタンパク質を酵素等により種々の鎖長に分解したペプチド及びアミノ酸等である。これらのうちの一種又は二種以上が添加されていてよい。乳タンパク質は、例えば、カゼイン、乳清タンパク質(α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリン等)、乳清タンパク質濃縮物(WPC)及び乳清タンパク質分離物(WPI)等である。動物性タンパク質は、例えば、卵タンパク質(エッグパウダー)、ミートパウダー、フィッシュパウダー等である。植物性タンパク質は、例えば、大豆タンパク質及び小麦タンパク質等である。ペプチドは、例えば、コラーゲンペプチド等である。アミノ酸は、例えば、タウリン、シスチン、システイン、アルギニン及びグルタミン等である。これらのうちの一種又は二種以上が添加されていてよい。
ミネラルとしては、鉄、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、塩素、亜鉛、鉄、銅およびセレン等である。これらのうちの一種又は二種以上が添加されていてよい。
ビタミンとしては、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ナイアシン、葉酸、パントテン酸およびビオチン等である。これらのうちの一種又は二種以上が添加されていてよい。
また、その他の食品素材としては、例えば、ココアパウダー、カカオパウダー、チョコレートパウダー、乳酸菌・ビフィズス菌等の有用微生物を含む微生物粉体、乳に微生物を加えて発酵させた培養物を粉体とした乳発酵成分粉体、チーズを粉体としたチーズ粉体、機能性食品を粉体とした機能性食品粉体、総合栄養食を粉体とした総合栄養食粉体等である。これらのうちの一種又は二種以上が添加されていてよい。
本発明に係る固形食品は、日常摂取する食品、健康食品、健康補助食品、保健機能食品、特定保健用食品、栄養機能食品、サプリメント、機能性表示食品などの形態であることができる。
<変形例>
図2は、本変形例に係る固形乳20Sの斜視図である。固形乳20Sは、粉乳を圧縮成型した固形状の本体20を有する。本体20は、XY平面に平行で平坦な第1面20Aと、XY平面に平行で平坦な第2面20Bとを有する。第1面20Aと第2面20Bとは背中合わせの面である。本体20の概略形状は直方体状であり、本体20はXZ平面又はYZ平面に平行な側面20Cを有する。
本体20には、第1面20Aから第2面20Bに達して本体20を貫通する孔21が2つ設けられている。2つの孔21の形状は、XY平面に平行な断面において長円形であり、同じ形状となっている。2つの孔21の大きさは、本体20の直方体状の形状の体積から2つの孔21の部分の合計の体積を差し引いた体積が所定の値となるように選択される。
2つの孔21の位置は、第1面20Aの中央の位置から見たときに大きな偏りがない位置である。2つの孔21は、第1面20Aの中央部を挟んでX軸と平行な方向に並べられ、かつ孔21のそれぞれの長手方向がY軸と平行な方向となるように配置されている。これは、2つの孔21は、第1面20Aの中央に対して点対称、あるいは第1面20Aの中央を通るX軸と平行な線又はY軸と平行な線に対して線対称となる配置である。2つの孔21の間隔は、狭すぎるとその部分の強度が保てなくなる可能性があるので、所定値以上に確保されている。第2面20Bから見た場合でも同様である。孔21が本体20を貫通する方向は、第1面20A及び第2面20Bを通過する方向であり、例えばZ軸に対して略平行な方向である。
固形乳20Sは、粉乳を圧縮成型する工程を除いて、上記本実施の形態の製造方法と同様の手順で製造することができる。粉乳を圧縮成型する工程において、例えば、打錠機の下杵が孔21に対応する凸部を有し、上杵が凸部に対応する凹部を有し、凸部が凹部に挿入可能な形状となっている。このような杵を用いて圧縮成型することで、粉乳圧縮成型物に孔21を形成することができる。
本変形例の固形乳20Sが2つの孔21を有するので、参照固形乳も2つの孔21を有する形状とする。すなわち、参照固形乳は、硬化処理における条件が異なる以外は、変形例の固形乳20Sと同様に、別途作成された2つの孔21を有する固形乳20Sと同じ形状の固形乳である。硬化処理が固形乳20Sと異なる以外は、参照固形乳を固形乳20Sと同様とすることによって、固形乳20Sに対し上記式(1)を適用することができる。したがって固形乳20Sの溶解性指数(Id)は1未満であるので、従来の固形乳と同等の硬度を有しながら、従来の固形乳に比べ溶解性に優れる、という本実施の形態と同様の効果を得ることができる。
固形乳に設けられる孔は、2つである場合に限られず、例えば、1つ、4つ、又は6つでもよい。
<第1実施例>
(実施例の作成)
図2に示した変形例と同様の固形乳試料を作成して実施例とした。固形乳の本体の大きさは、X軸方向の辺aが31mm、Y軸方向の辺bが24mm、Z軸方向の辺cが12.5mmである。固形乳試料は、表面積が2780(mm)、重量が5.4(g)、孔21の部分を除いた体積が約8250mmである。この大きさとなるように打錠機の臼杵の大きさ及び圧縮圧力を調整し、圧縮成型して粉乳圧縮成型物を成型した。粉乳圧縮成型物を成型する際の条件は、すべての試料において同じとした。加湿処理の温度は130℃~330℃、湿度は0.1%~20%、処理時間は5秒~10秒とした。乾燥処理の温度は330℃、処理時間は5秒~10秒とした。作成された実施例の硬度は49N~52Nであった。このように、実施例に係る固形乳は、いずれも扱いやすい硬度を有していた。
(比較例の作成)
硬化処理の条件が異なることを除いて実施例と同様に固形乳試料を作成して比較例とした。比較例では、加湿処理の温度は80℃、湿度は60%RH、処理時間は30秒とした。乾燥処理の温度は80℃、処理時間は360秒とした。作成された比較例の硬度は51Nであった。
(溶解性試験)
硬化条件による溶解性の評価を行うために、上記のように作成した実施例及び比較例の固形乳試料について溶解性試験を行った。まず、攪拌バスケットに固形乳試料を1つ入れた。攪拌バスケットは、内径30mm、高さ36mmである有底筒状のふた付き容器であり、側部、底部、ふた部を有する。側部、底部、ふた部は、18メッシュ(目開き1.01mm)のステンレス製の網で形成されている。攪拌バスケットの側部の内面に4つの羽根が均等に設けられている。4つの羽は、それぞれ、厚さ1.5mm、幅4mm、長さが34mmの板であり、長手方向を攪拌バスケットの中心軸に平行となるように配置し、側部の内面から中心に向かって突出するように設けられている。300mlビーカー内に収容した200mlの温水(50±1℃)に攪拌バスケットを浸漬し固形乳試料を完全に水没させた状態で、当該攪拌バスケットを回転速度0.5m/s(周速度)で回転させた。攪拌バスケットは、ビーカー底部内面から5mmの高さに保持した。固形乳試料が溶け始めてから溶け切るまでの溶出過程を導電率によって一定時間毎に測定した。
各実施例及び比較例について3個ずつ上記試験を行い、3個の平均値から、それぞれ20%溶出時間(t20)、63%溶出時間(t63)、95%溶出時間(t95)を得た。比較例の20%溶出時間、63%溶出時間、95%溶出時間をそれぞれ参照値(t20ref、t63ref、及びt95ref)とし、上記式(1)に基づき溶解性指数(Id)を算出した。比較例の20%溶出時間(t20ref)は14(秒)、63%溶出時間(t63ref)は32(秒)、95%溶出時間(t95ref)は93(秒)であった。
その結果を表1に示すとともに、図4に示す。図4の縦軸は溶解性指数(Id)、横軸は加湿温度を示す。図4は、加湿温度に対する溶解性指数(Id)を示すグラフである。図4中、塗りつぶした黒丸は実施例を、白抜きの丸は比較例を示す。
Figure 0007114818000001
図4においていずれの実施例も、溶解性指数(Id)が1.00より小さく、比較例より低いことが確認された。これは硬化処理の条件の差異、具体的には加湿処理の温度条件を100℃超とし、さらに乾燥温度を比較例より高く、かつ処理時間を短くしたことに起因して、溶解性が向上したものと考えられる。
(遊離脂肪測定試験)
硬化条件による遊離脂肪の含有率の評価を行うために、上記のように作成した実施例及び比較例の固形乳試料について、遊離脂肪の含有率を測定した。まず、固形乳をすり潰さないように留意しながらカッターで細かくし粉砕した。その後、32メッシュ篩に粉砕された固形乳を通過させた。篩工程を経たものを試料とし、‘Determination of Free Fat on the Surface of Milk Powder Particles‘,Analytical Method for Dry Milk Products,A/S NIRO ATOMIZER(1978)に記載された方法にしたがって遊離脂肪の含有率を測定した。ただし、固形乳の溶解方法(Niro Atomizer, 1978)では、抽出用の溶媒を四塩化炭素からn-ヘキサンに変更し、この溶媒の変更に伴い、抽出操作を変更した。なお、これらを変更しても、遊離脂肪の測定結果が変化しないことは、「粉乳の遊離脂肪測定法の検討」、柴田満穂、浜初美、今井眞美、豊田活、Nihon Shokuhin Kagaku Kougaku Kaishi Vol. 53, No. 10, 551~554 (2006)で確認済みである。その結果を表1に示すとともに、図5に示す。図5の縦軸は遊離脂肪、横軸は加湿温度を示す。図5は、加湿温度に対する遊離脂肪の含有率を示すグラフである。遊離脂肪の含有率は、2個の平均値である。図5中、塗りつぶした黒丸は実施例を、白抜きの丸は比較例を示す。
図5においていずれの実施例も、遊離脂肪の含有率が比較例より低いことが確認された。これは硬化処理の条件の差異、具体的には加湿処理の温度条件を100℃超とし、さらに乾燥温度を比較例より高く、かつ処理時間を短くしたことに起因して、遊離脂肪の含有率が低下したものと考えられる。
<第2実施例>
第1実施例と同様にして、実施例に係る固形乳を作成した。加湿処理の温度は100℃超210℃以下、相対湿度は2%(2%RH)~20%(20%RH)、処理時間は0.1秒~30秒とした。乾燥処理の温度は100℃超330℃以下、処理時間は5秒~20秒とした。作成された実施例の硬度は49N~52N(50Nの場合の破断応力は0.167N/mm)であり、いずれも扱いやすい硬度を有していた。得られた固形乳に対して第1実施例と同様に第1実施例に記載の比較例に対して溶解性試験を行ったところ、溶解性指数(Id)が1.00より小さく、比較例より低いことが確認された。また、得られた固形乳に対して第1実施例と同様に遊離脂肪測定試験を行ったところ、いずれの実施例も、遊離脂肪の含有率が比較例より低いことが確認された。
なお、相対湿度は、市販の湿度計で測定することができる。例えば、180℃まではヴァイサラ社の湿度計HMT330、350℃まではヴァイサラ社の露点計DMT345で測定できる。また、絶対湿度(容積絶対湿度(単位はg/m)、又は、重量絶対湿度(単位はkg/kg(DA)、但しDAは乾燥空気)を測定し、その温度での飽和水蒸気圧に対する水蒸気分圧の比率(%)を算出することで、相対湿度を換算してもよい。
尚、本開示は以下のような構成であってもよい。以下の構成を有するならば、好適な溶解性と扱いやすい強度とを有することができる。
(1)食品粉体を圧縮成型した固形状の固形食品であって、前記固形食品1つに対して200mlの50±1℃の温水に前記固形食品を水没させ、回転速度0.5m/s(周速度)で撹拌し、溶け始めてから溶け切るまでの溶出過程を導電率によって経時的に測定し、溶出終了時における導電率を100%としたときの導電率の割合である溶出率が20%、63%、95%に達する時間(秒)をそれぞれt20、t63、t95とし、前記固形食品との重量の差が±0.3%以内、前記固形食品との表面積の差が±2%以内、前記固形食品との硬度の差が±4%以内であり、加湿処理の温度が100℃以下である条件で形成された参照固形食品の上記溶出率が、20%、63%、95%に達する時間(秒)をそれぞれt20ref、t63ref、t95refとした場合、下記式(1)で表される溶解性指数(Id)が1未満である、固形食品。
Id=(t20/t20ref+t63/t63ref+t95/t95ref)/3・・・(1)
(2)粉乳を圧縮成型した固形状の固形乳であって、前記固形乳1つに対して200mlの50±1℃の温水に前記固形乳を水没させ、回転速度0.5m/s(周速度)で撹拌し、溶け始めてから溶け切るまでの溶出過程を導電率によって経時的に測定し、溶出終了時における導電率を100%としたときの導電率の割合である溶出率が20%、63%、95%に達する時間(秒)をそれぞれt20、t63、t95とし、前記固形乳との重量の差が±0.3%以内、前記固形乳との表面積の差が±2%以内、前記固形乳との硬度の差が±4%以内であり、加湿処理の温度が100℃以下である条件で形成された参照固形乳の上記溶出率が、20%、63%、95%に達する時間(秒)をそれぞれt20ref、t63ref、t95refとした場合、下記式(2)で表される溶解性指数(Id)が1未満である、固形乳。
Id=(t20/t20ref+t63/t63ref+t95/t95ref)/3・・・(2)
(3)遊離脂肪の含有率が0.5重量%以上4重量%以下である、前記(2)に記載の固形乳。
(4)食品粉体を圧縮成型した固形状の固形食品であって、前記固形食品1つに対して200mlの50±1℃の温水に前記固形食品を水没させ、回転速度0.5m/s(周速度)で撹拌し、溶け始めてから溶け切るまでの溶出過程を導電率によって経時的に測定し、溶出終了時における導電率を100%としたときの導電率の割合である溶出率が20%、63%、95%に達する時間(秒)をそれぞれt20、t63、t95とし、前記固形食品との重量の差が±0.3%以内、前記固形食品との表面積の差が±2%以内、前記固形食品との硬度の差が±4%以内であり、加湿処理の温度が100℃以下である条件で形成された参照固形食品の上記溶出率が、20%、63%、95%に達する時間(秒)をそれぞれt20ref、t63ref、t95refとした場合、下記式(1)で表される溶解性指数(Id)が1未満である構成となるように、食品粉体を圧縮成型し、得られた食品粉体圧縮成型物に硬化処理を行うことによって形成された固形食品。
Id=(t20/t20ref+t63/t63ref+t95/t95ref)/3・・・(1)
(5)粉乳を圧縮成型した固形状の固形乳であって、前記固形乳1つに対して200mlの50±1℃の温水に前記固形乳を水没させ、回転速度0.5m/s(周速度)で撹拌し、溶け始めてから溶け切るまでの溶出過程を導電率によって経時的に測定し、溶出終了時における導電率を100%としたときの導電率の割合である溶出率が20%、63%、95%に達する時間(秒)をそれぞれt20、t63、t95とし、前記固形乳との重量の差が±0.3%以内、前記固形乳との表面積の差が±2%以内、前記固形乳との硬度の差が±4%以内であり、加湿処理の温度が100℃以下である条件で形成された参照固形乳の上記溶出率が、20%、63%、95%に達する時間(秒)をそれぞれt20ref、t63ref、t95refとした場合、下記式(2)で表される溶解性指数(Id)が1未満である構成となるように、粉乳を圧縮成型し、得られた粉乳圧縮成型物に硬化処理を行うことによって形成された固形乳。
Id=(t20/t20ref+t63/t63ref+t95/t95ref)/3・・・(2)
(6)食品粉体を圧縮成型し硬化処理した固形状の固形食品であって、硬度が20N以上100N以下であって、前記固形食品1つに対して200mlの50±1℃の温水に前記固形食品を水没させ、回転速度0.5m/s(周速度)で撹拌し、溶け始めてから溶け切るまでの溶出過程を導電率によって経時的に測定し、溶出終了時における導電率を100%としたときの導電率の割合である溶出率が20%、63%、95%に達する時間(秒)をそれぞれt20、t63、t95とし、前記固形食品との重量の差が±0.3%以内、前記固形食品との表面積の差が±2%以内、前記固形食品との硬度の差が±4%以内であり、加湿処理の温度が100℃以下である条件で形成された参照固形食品の上記溶出率が、20%、63%、95%に達する時間(秒)をそれぞれt20ref、t63ref、t95refとした場合、下記式(1)で表される溶解性指数(Id)が1未満である、固形食品。
Id=(t20/t20ref+t63/t63ref+t95/t95ref)/3・・・(1)
(7)粉乳を圧縮成型し硬化処理した固形状の固形乳であって、硬度が20N以上100N以下であって、前記固形乳1つに対して200mlの50±1℃の温水に前記固形乳を水没させ、回転速度0.5m/s(周速度)で撹拌し、溶け始めてから溶け切るまでの溶出過程を導電率によって経時的に測定し、溶出終了時における導電率を100%としたときの導電率の割合である溶出率が20%、63%、95%に達する時間(秒)をそれぞれt20、t63、t95とし、前記固形乳との重量の差が±0.3%以内、前記固形乳との表面積の差が±2%以内、前記固形乳との硬度の差が±4%以内であり、加湿処理の温度が100℃以下である条件で形成された参照固形乳の上記溶出率が、20%、63%、95%に達する時間(秒)をそれぞれt20ref、t63ref、t95refとした場合、下記式(2)で表される溶解性指数(Id)が1未満である、固形乳。
Id=(t20/t20ref+t63/t63ref+t95/t95ref)/3・・・(2)
10 本体
10A 第1面
10B 第2面
10C 側面
10S 固形乳

Claims (2)

  1. 粉乳を圧縮成型した固形状の固形乳であって、
    前記固形乳は、加湿処理の温度が100℃超である条件で形成されており、
    前記固形乳1つに対して200mlの50±1℃の温水に前記固形乳を水没させ、回転速度0.5m/s(周速度)で撹拌し、溶け始めてから溶け切るまでの溶出過程を導電率によって経時的に測定し、
    溶出終了時における導電率を100%としたときの導電率の割合である溶出率が20%、63%、95%に達する時間(秒)の前記固形乳の複数個の試料の平均値をそれぞれt20、t63、t95とし、
    前記固形乳と同一の原料と同一の組成にて形成され、前記固形乳との重量の差が±0.3%以内、前記固形乳との表面積の差が±2%以内、前記固形乳との硬度の差が±4%以内であり、加湿処理の温度が100℃以下である条件で形成された参照固形乳の上記溶出率が、20%、63%、95%に達する時間(秒)の前記参照固形乳の複数個の試料の平均値をそれぞれt20ref、t63ref、t95refとした場合、
    下記式(2)で表される溶解性指数(Id)が1未満である、固形乳。
    Id=(t20/t20ref+t63/t63ref+t95/t95ref)/3・・・(2)
  2. 遊離脂肪の含有率が0.5重量%以上4重量%以下である、請求項1に記載の固形乳。
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