以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による車両の制御方法、車両システム及び車両の制御装置について説明する。
<装置構成>
まず、図1乃至図3を参照して、本発明の実施形態による車両の制御方法、車両システム及び車両の制御装置が適用される装置の構成、つまりハードウェア構成について説明する。図1は、本発明の実施形態による車両の全体構成を概略的に示すブロック図であり、図2は、本発明の実施形態によるエンジンの概略構成図であり、図3は、本発明の実施形態による車両の電気的構成を示すブロック図である。
図1に示すように、車両200においては、車体前部に操舵輪である左右の前輪202aが設けられ、車体後部に駆動輪である左右の後輪202bが設けられている。これら車両200の前輪202a、後輪202bは、車体に対してサスペンション203により夫々支持されている。また、車両200の車体前部には、後輪202bを駆動する原動機であるエンジン100が搭載されている。本実施形態においては、エンジン100は、ディーゼルエンジンであるが、原動機としてガソリンエンジンなどの内燃エンジンを使用することもできる。また、本実施形態において、車両200は、車体前部に搭載されたエンジン100により、自動変速機204a、プロペラシャフト204b、ディファレンシャルギア204cなどの動力伝達経路を介して、後輪202bが駆動される所謂FR車である。しかしながら、本発明の適用はFR車に限定はされず、車体後部に搭載されたエンジン100により後輪202bを駆動する所謂RR車等、エンジン100により後輪202bが駆動される任意の車両に本発明を適用することができる。
また、車両200には、ステアリングホイール206(以下では単に「ステアリング」とも表記する。)などを含む操舵装置207が搭載されており、車両200の前輪202aは、このステアリングホイール206の回転操作に基づいて操舵(転舵)されるようになっている。さらに、車両200は、操舵装置207の操舵角を検出する操舵角センサ96、アクセルペダルの踏込量(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサ97、及び、車速を検出する車速センサ98を有する。操舵角センサ96は、典型的にはステアリングホイール206の回転角度を検出するが、当該回転角度に加えて又は当該回転角度の代わりに、前輪202aの転舵角(タイヤ角)を検出してもよい。これらの各センサは、それぞれの検出信号をPCM(Power-train Control Module)60に出力する。
次に、図2に示すように、エンジン100は、主に、ディーゼルエンジンとしてのエンジン本体Eと、エンジン本体Eに吸気を供給する吸気系INと、エンジン本体Eに燃料を供給するための燃料供給系FSと、エンジン本体Eの排気ガスを排出する排気系EXと、を有する。
吸気系INは、吸気が通過する吸気通路1を有しており、この吸気通路1上には、上流側から順に、外部から導入された空気を浄化するエアクリーナ3と、通過する吸気を圧縮して吸気圧を上昇させる、ターボ過給機5のコンプレッサ5aと、通過する吸気流量を調整する吸気シャッター弁7と、通水された冷却水を用いて吸気を冷却する水冷式のインタークーラ8と、エンジン本体Eに供給する吸気を一時的に蓄えるサージタンク12と、が設けられている。
また、吸気系INにおいて、エアクリーナ3の直下流側の吸気通路1上には、吸入空気量を検出するエアフローセンサ101と吸気温度を検出する吸気温度センサ102とが設けられ、ターボ過給機5のコンプレッサ5aには、このコンプレッサ5aの回転数(ターボ回転数)を検出するターボ回転数センサ103が設けられ、吸気シャッター弁7には、この吸気シャッター弁7の開度を検出する吸気シャッター弁位置センサ105が設けられ、インタークーラ8の直下流側の吸気通路1上には、吸気温度を検出する吸気温度センサ106と吸気圧を検出する吸気圧センサ107とが設けられ、サージタンク12には、吸気マニホールド温度センサ108が設けられている。これらの、吸気系INに設けられた各種センサ101~108は、それぞれ、検出したパラメータに対応する検出信号S101~S108をPCM60に出力する。
エンジン本体Eは、吸気通路1(詳しくは吸気マニホールド)から供給された吸気を燃焼室17内に導入する吸気バルブ15と、燃焼室17に向けて燃料を噴射する燃料噴射弁20と、燃焼室17内での混合気の燃焼により往復運動するピストン23と、ピストン23の往復運動により回転されるクランクシャフト25と、燃焼室17内での混合気の燃焼により発生した排気ガスを排気通路41へ排出する排気バルブ27と、を有する。
燃料供給系FSは、燃料を貯蔵する燃料タンク30と、燃料タンク30から燃料噴射弁20に燃料を供給するための燃料供給通路38とを有する。燃料供給通路38には、上流側から順に、低圧燃料ポンプ31と、高圧燃料ポンプ33と、コモンレール35とが設けられている。
排気系EXは、排気ガスが通過する排気通路41を有しており、この排気通路41上には、上流側から順に、通過する排気ガスによって回転され、この回転によって上記したようにコンプレッサ5aを駆動する、ターボ過給機5のタービン5bと、排気ガスの浄化機能を有するディーゼル酸化触媒(DOC:Diesel Oxidation Catalyst)45及びディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF:Diesel particulate filter)46と、通過する排気流量を調整する排気シャッター弁49と、が設けられている。DOC45は、排出ガス中の酸素を用いて炭化水素(HC)や一酸化炭素(CO)などを酸化して水と二酸化炭素に変化させる触媒であり、DPF46は、排気ガス中の粒子状物質(PM:Particulate Matter)を捕集するフィルタである。
また、排気系EXにおいては、ターボ過給機5のタービン5bの上流側の排気通路41上には、排気圧を検出する排気圧センサ109が設けられ、DPF46の直下流側の排気通路41上には、酸素濃度を検出するリニアO2センサ110が設けられている。これらの、排気系EXに設けられた各種センサ109及び110は、それぞれ、検出したパラメータに対応する検出信号S109及びS110をPCM60に出力する。
ターボ過給機5は、排気エネルギーが低い低速回転時でも効率良く過給を行えるように小型に構成されていると共に、タービン5bの全周を囲むように複数の可動式のフラップ5cが設けられ、これらのフラップ5cによりタービン5bへの排気の流通断面積(ノズル断面積)を変化させるようにした可変ジオメトリーターボチャージャー(VGT:Variable Geometry Turbocharger)として構成されている。例えば、フラップ5cは、ダイヤフラムに作用する負圧の大きさが電磁弁により調節され、アクチュエータによって回動される。また、そのようなアクチュエータの位置により、フラップ5cの開度(VGT開度)を検出するVGT開度センサ104が設けられている。このVGT開度センサ104は、検出したVGT開度に対応する検出信号S104をPCM60に出力する。
エンジン100は、更に、高圧EGR装置43及び低圧EGR装置48を有する。高圧EGR装置43は、ターボ過給機5のタービン5bの上流側の排気通路41とターボ過給機5のコンプレッサ5aの下流側(詳しくはインタークーラ8の下流側)の吸気通路1とを接続する高圧EGR通路43aと、高圧EGR通路43aを通過させる排気ガスの流量を調整する高圧EGR弁43bと、を有する。低圧EGR装置48は、ターボ過給機5のタービン5bの下流側(詳しくはDPF46の下流側で且つ排気シャッター弁49の上流側)の排気通路41とターボ過給機5のコンプレッサ5aの上流側の吸気通路1とを接続する低圧EGR通路48aと、低圧EGR通路48aを通過する排気ガスを冷却する低圧EGRクーラ48bと、低圧EGR通路48aを通過させる排気ガスの流量を調整する低圧EGR弁48cと、低圧EGRフィルタ48dと、を有する。
高圧EGR装置43によって吸気系INに還流される排気ガス量(以下「高圧EGRガス量」と呼ぶ。)は、ターボ過給機5のタービン5b上流側の排気圧と、吸気シャッター弁7の開度によって作り出される吸気圧と、高圧EGR弁43bの開度とによって概ね決定される。また、低圧EGR装置48によって吸気系INに還流される排気ガス量(以下「低圧EGRガス量」と呼ぶ。)は、ターボ過給機5のコンプレッサ5a上流側の吸気圧と、排気シャッター弁49の開度によって作り出される排気圧と、低圧EGR弁48cの開度とによって概ね決定される。
なお、以下では、高圧EGR装置43と低圧EGR装置48とを区別しない場合には単に「EGR装置」と呼ぶ。同様に、高圧EGR通路43aと低圧EGR通路48aとを区別しない場合には単に「EGR通路」と呼び、高圧EGR弁43bと低圧EGR弁48cとを区別しない場合には単に「EGR弁」と呼ぶ。
次に、図3に示すように、PCM60は、図2に示した各種センサ101~110の検出信号S101~S110に加えて、図1に示した、操舵角を検出する操舵角センサ96、アクセルペダルの開度(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサ97、及び車速を検出する車速センサ98のそれぞれが出力した検出信号S96~S98に基づいて、ターボ過給機5、燃料噴射弁20、高圧EGR装置43、及び低圧EGR装置48に対する制御を行うべく、制御信号S130~S133を出力する。
基本的には、PCM60は、以下のような車両の制御方法を実行する。PCM60は、アクセル開度センサ97によって検出されたアクセル開度や車速センサ98によって検出された車速などの車両200の運転状態に基づき、エンジン100が発生すべき基本トルクを設定し、操舵角センサ96によって検出された操舵角の増加に基づき、基本トルクを増加するための増加トルクを設定し、この増加トルクに基づき基本トルクを増加したトルクが発生するように、エンジン100を制御する。また、PCM60は、エンジン100の発生トルクや燃料噴射弁20からの燃料の噴射パターンなどのエンジン運転状態に基づき、EGR装置によって排気系EXから吸気系INに還流させるEGR量変更する。本実施形態では、PCM60は、操舵角の増加に基づきエンジン100の発生トルクが増加されている間は、エンジン運転状態に基づくEGR量の変更を制限するようにする。
このようなPCM60は、1つ以上のプロセッサ、当該プロセッサ上で解釈実行される各種のプログラム(OSなどの基本制御プログラムや、OS上で起動され特定機能を実現するアプリケーションプログラムを含む)、及びプログラムや各種のデータを記憶するためのROMやRAMの如き内部メモリを備えるコンピュータにより構成される。
なお、本実施形態では、主に、高圧EGR通路43aと高圧EGR弁43bと低圧EGR通路48aと低圧EGR弁48cとを含むエンジン100、操舵装置207、操舵角センサ96、運転状態センサとしてのアクセル開度センサ97及び車速センサ98、及び、制御器としてのPCM60が、本発明における車両システムを構成する。また、本実施形態では、PCM60が、本発明による車両の制御装置を構成する。
<車両姿勢制御>
次に、本実施形態においてPCM60が実行する制御内容について説明する。まず、図4を参照して、本実施形態においてPCM60が実行する車両姿勢制御処理の全体的な流れについて説明する。図4は、本発明の実施形態による車両姿勢制御処理のフローチャートである。
図4の制御処理は、車両200のイグニッションがオンにされ、PCM60に電源が投入された場合に起動され、所定周期(例えば50ms)で繰り返し実行される。この制御処理が開始されると、ステップS1において、PCM60は、車両200の運転状態に関する各種センサ情報を取得する。具体的には、PCM60は、操舵角センサ96が検出した操舵角、アクセル開度センサ97が検出したアクセル開度、車速センサ98が検出した車速、エンジン回転数、自動変速機204aに現在設定されているギヤ段等を含む、上述した各種センサが出力した検出信号を運転状態に関する情報として取得する。
次に、ステップS2において、PCM60は、ステップS1において取得された車両200の運転状態に基づき、目標加速度を設定する。具体的には、PCM60は、種々の車速及び種々のギヤ段について規定された加速度特性マップ(予め作成されてメモリなどに記憶されている)の中から、現在の車速及びギヤ段に対応する加速度特性マップを選択し、選択した加速度特性マップを参照して現在のアクセル開度に対応する目標加速度を設定する。
次に、ステップS3において、PCM60は、ステップS2において設定した目標加速度を実現するためにエンジン100が発生すべき基本トルクを決定する。この場合、PCM60は、現在の車速、ギヤ段、路面勾配、路面μなどに基づき、エンジン100が出力可能なトルクの範囲内で、基本トルクを決定する。
また、ステップS2及びS3の処理と並行して、ステップS4において、PCM60は、ステアリング操作に基づき車両200に加速度を付加するためのトルク(増加トルク)を設定する増加トルク設定処理を実行する。このステップS4においては、PCM60は、操舵装置207の操舵角の増加に応じて、つまりステアリングの切り込み操作に応じて、基本トルクを増大させるための増加トルクを設定する。本実施形態では、PCM60は、ステアリングが切り込み操作されたときに、トルクを一時的に増加させて車両200に加速度を付加することにより、車両姿勢を制御するようにする。以下では、このようなステアリングの切り込み時において増加トルクを用いて実施される車両姿勢制御を適宜「第1車両姿勢制御」と呼ぶ。なお、増加トルク設定処理については、図5及び図6を参照して後述する。
次に、ステップS5において、PCM60は、ステアリング操作に基づき車両200に減速度を付加するためのトルク(低減トルク)を設定する低減トルク設定処理を実行する。このステップS5においては、PCM60は、操舵装置207の操舵角の減少に応じて、つまりステアリングの切り戻しに応じて、基本トルクを減少させるための低減トルクを設定する。本実施形態では、PCM60は、ステアリングが切り戻し操作されたときに、トルクを一時的に低減させて車両200に減速度を付加することにより、車両姿勢を制御するようにする。以下では、このようなステアリングの切り戻し時において低減トルクを用いて実施される車両姿勢制御を適宜「第2車両姿勢制御」と呼ぶ。典型的には、この第2車両姿勢制御は、上述した第1車両姿勢制御の後に実施される傾向にある。なお、低減トルク設定処理については、図7及び図8を参照して後述する。
ステップS2及びS3の処理並びにステップS4の増加トルク設定処理及びS5の低減トルク設定処理を実行した後、PCM60は、ステップS6において、ステップS3において設定した基本トルクと、ステップS4において設定した増加トルク及びステップS5において設定した低減トルクとに基づき、最終目標トルクを設定する。具体的には、PCM60は、基本トルクに対して増加トルクを加算すると共に低減トルクを減算することにより、最終目標トルクを算出する。基本的には、増加トルクと低減トルクの一方のみが設定され、増加トルクと低減トルクの両方が設定されることはないので、PCM60は、基本トルクに増加トルクを加算することで最終目標トルクを算出するか(この場合には第1車両姿勢制御が実行される)、或いは基本トルクから低減トルクを減算することで最終目標トルクを算出する(この場合には第2車両姿勢制御が実行される)。
次に、ステップS7において、PCM60は、ステップS6において設定した最終目標トルクを実現するためのアクチュエータ制御量を設定する。具体的には、PCM60は、ステップS6において設定した最終目標トルクに基づき、最終目標トルクを実現するために必要となる各種状態量を決定し、それらの状態量に基づき、エンジン100の各構成要素を駆動する各アクチュエータの制御量を設定する。この場合、PCM60は、状態量に応じた制限値や制限範囲を設定し、状態値が制限値や制限範囲による制限を遵守するような各アクチュエータの制御量を設定する。
具体的には、本実施形態によるエンジン100はディーゼルエンジンであるので、ステップS7において、PCM60は、燃料噴射弁20による燃料噴射量を設定する。詳しくは、PCM60は、ステップS6において基本トルクに増加トルクを加算することで最終目標トルクを設定したときには、燃料噴射弁20による燃料噴射量を、基本トルクを発生させるための燃料噴射量よりも増加させる。他方で、PCM60は、ステップS6において基本トルクから低減トルクを減算することで最終目標トルクを設定したときには、燃料噴射弁20による燃料噴射量を、基本トルクを発生させるための燃料噴射量よりも減少させる。
なお、他の例では、エンジン100がガソリンエンジンである場合、PCM60は、ステップS6において基本トルクに増加トルクを加算することで最終目標トルクを設定したときには、点火プラグの点火時期を、基本トルクを発生させるための点火時期よりも進角させればよい。また、点火時期の進角に代えて、あるいはそれと共に、PCM60は、スロットルバルブのスロットル開度を大きくしたり、下死点後に設定されている吸気バルブの閉時期を進角させたりすることによって、吸入空気量を増加させてもよい。この場合、PCM60は、所定の空燃比が維持されるように、吸入空気量の増加に対応して、燃料噴射弁による燃料噴射量を増加させるのがよい。他方で、PCM60は、ステップS6において基本トルクから低減トルクを減算することで最終目標トルクを設定した場合には、点火プラグの点火時期を、基本トルクを発生させるための点火時期よりも遅角(リタード)させればよい。また、点火時期の遅角に代えて、あるいはそれと共に、PCM60は、スロットルバルブのスロットル開度を小さくしたり、下死点後に設定されている吸気バルブの閉時期を遅角させたりすることによって、吸入空気量を減少させてもよい。この場合、PCM60は、所定の空燃比が維持されるように、吸入空気量の増加に対応して、燃料噴射弁による燃料噴射量を減少させるのがよい。
次に、PCM60は、ステップS8に進み、ステップS4において設定した増加トルク又はステップS5において設定した低減トルクを適用するか否かを判定する。換言すると、PCM60は、車両姿勢制御を実行するか否かを判定する。
ステップS8の判定の結果、増加トルク又は低減トルクを適用すると判定された場合(ステップS8:Yes)、つまり車両姿勢制御を実行する場合、PCM60は、ステップS9に進む。ステップS9では、PCM60は、増加トルク又は低減トルクに応じたEGR弁(基本的には高圧EGR弁43b及び低圧EGR弁48cの両方)の開度変更を制限する。すなわち、PCM60は、車両姿勢制御中のEGR量の変更を制限する。こうする理由は以下の通りである。車両姿勢制御実行のために増加トルク又は低減トルクを適用する場合には、上述したように燃料噴射量が変化することとなる。このように燃料噴射量が変化した場合には、通常は、エンジン100の目標酸素濃度が変化されて、この目標酸素濃度に応じてEGR量を変更させるようにEGR弁の開度が制御される。また、特に燃料噴射量が増加した場合には、急速燃焼による騒音を防止すべく、EGR量を増加させるようにEGR弁の開度が大きくされる。しかしながら、このようなEGR弁の制御を車両姿勢制御中に行うと、上記の「発明が解決しようとする課題」のセクションで述べたように、EGR量の応答遅れに起因してエンジン100の失火等が発生する場合がある。そのため、本実施形態では、車両姿勢制御中のEGR弁の開度変更を制限するのである。
具体的には、ステップS9において、PCM60は、1つの例では、車両姿勢制御が実行されるときにはEGR弁の開度変更を禁止する。この例では、PCM60は、車両姿勢制御中にはEGR弁の開度を一定に維持する。他の例では、PCM60は、車両姿勢制御が実行されるときには、車両姿勢制御が実行されないときよりも、EGR弁の開度の変更量を小さくする。更に他の例では、PCM60は、車両姿勢制御が実行されるときには、車両姿勢制御が実行されないときよりも、EGR弁の開度の変更速度(変化率/傾き)を小さくする。なお、このようなEGR弁開度の変更量の制限とEGR弁開度の変更速度の制限とを組み合わせて実施してもよい。以上のステップS9の後、PCM60は、ステップS10に進む。
他方で、ステップS8において増加トルク又は低減トルクを適用すると判定されなかった場合(ステップS8:No)、つまり車両姿勢制御を実行しない場合、PCM60は、ステップS9の処理を行わずに、ステップS10に進む。この場合には、PCM60は、EGR弁の開度変更を制限しない。
ステップS10において、PCM60は、ステップS7において設定した制御量に基づき各アクチュエータへ制御指令を出力する。特に、PCM60は、ステップS7において設定した燃料噴射量が噴射されるように、燃料噴射弁20に対して制御指令を出力する。このようなステップS10の後、PCM60は、本制御処理を終了する。
次に、図5及び図6を参照して、本発明の実施形態における増加トルク設定処理について説明する。図5は、本発明の実施形態による増加トルク設定処理のフローチャートであり、図6は、本発明の実施形態による付加加速度と操舵速度との関係を示したマップである。
図5に示すように、増加トルク設定処理が開始されると、ステップS11において、PCM60は、操舵装置207の操舵角(絶対値)が増加している(即ちステアリングホイール206の切り込み操作中)か否かを判定する。その結果、操舵角が増加している場合(ステップS11:Yes)、ステップS12に進み、PCM60は、操舵速度が所定の閾値S1以上か否かを判定する。即ち、PCM60は、図4のステップS1において操舵角センサ96から取得した操舵角に基づき操舵速度を算出し、その値が閾値S1以上か否かを判定する。
その結果、操舵速度が閾値S1以上である場合(ステップS12:Yes)、ステップS13に進み、PCM60は、操舵速度に基づき付加加速度を設定する。この付加加速度は、ドライバの意図に沿って車両姿勢を制御するために、ステアリング操作に応じて車両200に付加すべき加速度である。
具体的には、PCM60は、図6のマップに示す付加加速度と操舵速度との関係に基づき、ステップS12において算出した操舵速度に対応する付加加速度を設定する。図6における横軸は操舵速度を示し、縦軸は付加加速度を示す。図6に示すように、操舵速度が閾値S1以下である場合、対応する付加加速度は0である。即ち、操舵速度が閾値S1以下である場合、PCM60は、ステアリング操作に基づき車両200に加速度を付加するための制御を実行しない。
一方、操舵速度が閾値S1を超えている場合には、操舵速度が増大するに従って、この操舵速度に対応する付加加速度は、所定の上限値Amaxに漸近する。即ち、操舵速度が増大するほど付加加速度は増大し、且つ、その増大量の増加割合は小さくなる。この上限値Amaxは、ステアリング操作に応じて車両200に加速度を付加しても、制御介入があったとドライバが感じない程度の加速度に設定される(例えば0.5m/s2≒0.05G)。さらに、操舵速度が閾値S1よりも大きい閾値S2以上の場合には、付加加速度は上限値Amaxに維持される。
次に、ステップS14において、PCM60は、ステップS13で設定した付加加速度に基づき、増加トルクを設定する。具体的には、PCM60は、基本トルクの増加により付加加速度を実現するために必要となる増加トルクを、図4のステップS1において取得された現在の車速、ギヤ段、路面勾配等に基づき決定する。ステップS14の後、PCM60は増加トルク設定処理を終了し、メインルーチンに戻る。
また、ステップS11において操舵角が増加していない場合(ステップS11:No)、又は、ステップS12において操舵速度が閾値S1未満である場合(ステップS12:No)、PCM60は、増加トルクの設定を行うことなく増加トルク設定処理を終了し、図4のメインルーチンに戻る。この場合、増加トルクは0となる。
次に、図7及び図8を参照して、本発明の実施形態における低減トルク設定処理について説明する。図7は、本発明の実施形態による低減トルク設定処理のフローチャートであり、図8は、本発明の実施形態による付加減速度と操舵速度との関係を示したマップである。
図7に示すように、低減トルク設定処理が開始されると、ステップS21において、PCM60は、操舵装置207の操舵角(絶対値)が減少している(即ちステアリングホイール206の切り戻し操作中)か否かを判定する。その結果、操舵角が減少中である場合(ステップS21:Yes)、ステップS22に進み、PCM60は、操舵速度が所定の閾値S1以上か否かを判定する。即ち、PCM60は、図4のステップS1において操舵角センサ96から取得した操舵角に基づき操舵速度を算出し、その値が閾値S1以上か否かを判定する。
その結果、操舵速度が閾値S1以上である場合(ステップS22:Yes)、ステップS23に進み、PCM60は、操舵速度に基づき付加減速度を設定する。この付加減速度は、ドライバの意図に沿って車両姿勢を制御するために、ステアリング操作に応じて車両200に付加すべき減速度である。
具体的には、PCM60は、図8のマップに示す付加減速度と操舵速度との関係に基づき、ステップS22において算出した操舵速度に対応する付加減速度を設定する。図8における横軸は操舵速度を示し、縦軸は付加減速度を示す。図8に示すように、操舵速度が閾値S1以下である場合、対応する付加減速度は0である。即ち、操舵速度が閾値S1以下である場合、PCM60は、ステアリング操作に基づき車両200に減速度を付加するための制御を実行しない。
一方、操舵速度が閾値S1を超えている場合には、操舵速度が増大するに従って、この操舵速度に対応する付加減速度は、所定の上限値Dmaxに漸近する。即ち、操舵速度が増大するほど付加減速度は増大し、且つ、その増大量の増加割合は小さくなる。この上限値Dmaxは、ステアリング操作に応じて車両200に減速度を付加しても、制御介入があったとドライバが感じない程度の減速度に設定される(例えば0.5m/s2≒0.05G)。さらに、操舵速度が閾値S1よりも大きい閾値S2以上の場合には、付加減速度は上限値Dmaxに維持される。
次に、ステップS24において、PCM60は、ステップS23で設定した付加減速度に基づき、低減トルクを設定する。具体的には、PCM60は、基本トルクの低減により付加減速度を実現するために必要となる低減トルクを、ステップS1において取得された現在の車速、ギヤ段、路面勾配等に基づき決定する。ステップS24の後、PCM60は低減トルク設定処理を終了し、図4のメインルーチンに戻る。
また、ステップS21において操舵角が減少していない場合(ステップS21:No)、又は、ステップS22において操舵速度が閾値S1未満である場合(ステップS22:No)、PCM60は、低減トルクの設定を行うことなく低減トルク設定処理を終了し、図4のメインルーチンに戻る。この場合、低減トルクは0となる。
<作用及び効果>
次に、図9のタイムチャートを参照して、本発明の実施形態による作用の一例について説明する。図9は、本発明の実施形態による車両姿勢制御を行った場合の各パラメータの時間変化を示したタイムチャートである。図9は、上から順に、操舵装置207の操舵角、操舵速度、付加加減速度、最終目標トルク、燃料噴射弁20の燃料噴射量、EGR弁(基本的には高圧EGR弁43b及び低圧EGR弁48cの両方)の開度を示している。
まず、図9に示す例では、時刻t11までは、車両200のドライバは操舵を行っておらず、操舵角は0(中立位置)で、操舵速度も0となっている。この状態では、図5の増加トルク設定処理及び図7の低減トルク設定処理において増加トルク及び低減トルクの設定は行われない(付加加速度=0、増加トルク=0、付加減速度=0、低減トルク=0)。このため、時刻t11までは、基本トルクが最終目標トルクとして決定される。
次に、時刻t11において、ドライバがステアリングホイール206の切り込み操作を開始すると、操舵角及び操舵速度(の絶対値)が増加する。操舵速度がS1以上になると、図5の増加トルク設定処理においては、ステップS11からS14の処理が繰り返され、付加加速度及び増加トルクの設定が行われる、すなわち車両姿勢制御(第1車両姿勢制御)が実行される。具体的には、図5のステップS13において図6に示すマップを使用して操舵速度に基づき付加加速度が設定され、ステップS14において、設定された付加加速度を実現するために必要な増加トルクが設定され、図4のステップS6において基本トルクから増加トルクを加算した値が最終目標トルクとして設定される。その結果、時刻t11以降(時刻t11~t12)において増加トルクにより基本トルクを増加したトルクが発生するように、エンジン100が制御される。具体的には、燃料噴射弁20による燃料噴射量が、基本トルクを発生させるための燃料噴射量よりも増量される。
また、このような車両姿勢制御が実行される時刻t11~t12では、以下のようなEGR弁の制御が行われる。図9の下段のグラフでは、実線は、本実施形態の第1の例によるEGR弁の制御を示し、破線は、本実施形態の第2の例によるEGR弁の制御を示し、一点鎖線は、比較例によるEGR弁の制御を示している。比較例のグラフは、通常のEGR弁の制御に対応する。すなわち、比較例は、車両姿勢制御中であっても通常のEGR弁の制御を行うものである。具体的には、比較例では、燃料噴射量の変化に応じてエンジン100の目標酸素濃度が変化され、この目標酸素濃度に応じてEGR量を変更させるようEGR弁の開度が制御される。原則、燃料噴射量と同様にEGR弁の開度が変化することとなる(一点鎖線参照)。このようにEGR弁を制御しても、実際のEGR量の変化には応答遅れが存在する。その結果、実際のEGR量が、燃料噴射量などのエンジン100の運転状態に応じた目標のEGR量と乖離し、燃焼安定性などが確保できなくなる場合がある(例えば失火が発生する)。
本実施形態では、このような比較例による問題を抑制すべく、第1の例では、車両姿勢制御中におけるEGR弁の開度変更が禁止される。具体的には、この第1の例では、時刻t11~t12においてEGR弁の開度が一定に維持される(実線参照)。他方で、本実施形態の第2の例では、車両姿勢制御中におけるEGR弁の開度変更をある程度許容するが、比較例よりも(つまり通常時よりも)、EGR弁の開度の変更量と、EGR弁の開度の変更速度(変化率/傾き)が小さくされる(破線参照)。更に他の例では、EGR弁の開度の変更量及びEGR弁の開度の変更速度の一方のみを小さくしてもよい。
なお、時刻t11~t12において第1車両姿勢制御により基本トルクを増加したトルクが発生すると、増加されたトルクは駆動輪である後輪202bに伝達され、後輪202bを車両前方へ推進させる力となる。この力が前輪202aからサスペンション203を介して車両200の車体に伝達されるときに、車体後部を上向きに持ち上げる力が瞬間的に作用し、車体を前傾させる方向のモーメントが働くことにより、車体前部を下向きに沈み込ませる力が作用し、車体前部が沈み込んで前輪荷重が増大する。これにより、ステアリングの切り込み操作に対する車両200の応答性又はリニア感を向上させることができる。即ち、後輪駆動車において、後輪202bの駆動トルクを増加させて加速度を付与すると、車体を後傾させる慣性力と、車体を前傾させる瞬間的な力が発生するが、ステアリングの切り込み操作に対する車両応答性やリニア感に対しては増加トルクによる瞬間的な車体を前傾させる力が支配的に寄与しているものと考えられる。
次いで、時刻t12において保舵に移行すると、操舵角が一定値となる。この状態では、図5の増加トルク設定処理及び図7の低減トルク設定処理において増加トルク及び低減トルクの設定は行われない(付加加速度=0、増加トルク=0、付加減速度=0、低減トルク=0)。このため、時刻t12~t13においては、基本トルクが最終目標トルクとして決定される。
さらに、時刻t13においてドライバがステアリングホイール206の切り戻し操作を開始すると、操舵角が減少し、操舵速度(の絶対値)が増加する。操舵速度(の絶対値)がS1以上になると、図7の低減トルク設定処理においては、ステップS21からS24の処理が繰り返され、付加減速度及び低減トルクの設定が行われる、すなわち車両姿勢制御(第2車両姿勢制御)が実行される。具体的には、図7のステップS23において図8に示すマップを使用して操舵速度に基づき付加減速度が設定され、ステップS24において、設定された付加減速度を実現するために必要な低減トルクが設定され、図4のステップS6において基本トルクから低減トルクを減算した値が最終目標トルクとして設定される。その結果、時刻t13以降(時刻t13~t14)において低減トルクにより基本トルクを低減したトルクが発生するように、エンジン100が制御される。具体的には、燃料噴射弁20による燃料噴射量が、基本トルクを発生させるための燃料噴射量よりも減量される。
また、このような車両姿勢制御が実行される時刻t13~t14でも、上記と同様のEGR弁の制御が行われる。具体的には、本実施形態の第1の例では、車両姿勢制御中におけるEGR弁の開度変更が禁止される。特に、この第1の例では、時刻t13~t14においてEGR弁の開度が一定に維持される(実線参照)。他方で、本実施形態の第2の例では、車両姿勢制御中におけるEGR弁の開度変更をある程度許容するが、比較例よりも(つまり通常時よりも)、EGR弁の開度の変更量と、EGR弁の開度の変更速度(変化率/傾き)が小さくされる(破線参照)。更に他の例では、EGR弁の開度の変更量及びEGR弁の開度の変更速度の一方のみを小さくしてもよい。
なお、時刻t13~t14において第2車両姿勢制御により基本トルクを低減したトルクが発生すると、低減されたトルクは駆動輪である後輪202bに伝達され、後輪202bを車両後方へ引っ張る力となる。この力が後輪202bからサスペンション203を介して車両200の車体に伝達されるときに、車体後部を下向きに沈み込ませる力が瞬間的に作用し、車体を後傾させる方向のモーメントが働くことにより、車体前部を上向きに持ち上げる力が作用し、車体前部が浮き上がって前輪荷重が減少する。これにより、ステアリングの切り戻し操作に対する車両応答性やリニア感を向上させることができる。即ち、後輪駆動車において、後輪202bの駆動トルクを減少させて減速度を付与すると、車体を前傾させる慣性力と、車体を後傾させる瞬間的な力が発生するが、ステアリングの切り戻し操作に対する車両応答性やリニア感に対しては低減トルクによる瞬間的な車体を後傾させる力が支配的に寄与しているものと考えられる。
次いで、時刻t14において操舵角が0に戻り保舵される(操舵速度=0)と、操舵速度が0となることにより、付加加速度及び付加減速度の値も0となり、基本トルクの値が最終目標トルクとして決定される。
次に、以上説明した本発明の実施形態による作用及び効果について説明する。
本実施形態では、PCM60は、エンジン100により後輪202bが駆動される車両に関して、操舵角の増加(ステアリングの切り込み操作に対応する)に応答してエンジン100の発生トルクを増加させることで車両姿勢を制御する(第1車両姿勢制御)。そして、PCM60は、通常はエンジン運転状態に基づきEGR量を変更するが、この第1車両姿勢制御中においてはEGR量の変更を制限する。これにより、第1車両姿勢制御中におけるEGR量の応答遅れによりEGR量が過剰となり、エンジン100の失火等が発生してしまうことを適切に抑制できる。
特に、本実施形態では、PCM60は、車両姿勢制御中においては、EGR量の変更量の制限、及びEGR量の変更速度の制限の少なくともいずれかを行うので、EGR量の変更をある程度確保しつつ、上述した問題を適切に抑制することができる。
また、本実施形態では、PCM60は、操舵角の減少(ステアリングの切り戻し操作に対応する)に応答してエンジン100の発生トルクを低減させることで車両姿勢を制御する(第2車両姿勢制御)。そして、PCM60は、このような第2車両姿勢制御中においてはEGR量の変更を制限する。これにより、第2車両姿勢制御中にEGR量を変更することによる問題、具体的にはEGR量の応答遅れによりEGR量が不足し(気筒内の酸素濃度が過剰となる)、エンジン100の異常燃焼等が発生してしまうことを適切に抑制できる。
<変形例>
上記した実施形態では、操舵角及び操舵速度に基づき車両姿勢制御を実行していたが、他の例では、操舵角及び操舵速度の代わりに、ヨーレートや横加速度やヨー加速度や横ジャークに基づき車両姿勢制御を実行してもよい。