JP7106771B2 - フォノニック材料及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、フォノン工学が適用されたフォノニック材料及びその製造方法に関する。
物質中に任意の構造体を周期的に規則配列させることで、前記構成物質中を伝搬するフォノンを人為的に操作するフォノン工学の研究が進められている。
例えば、本発明者は、絶縁体にフォノン工学を適用し、前記絶縁体の熱伝導率を一桁程度低下させることに成功している(非特許文献1参照)。
また、赤外線受光部に接続された、絶縁体や半導体で構成される梁にフォノン工学を適用し、梁の熱伝導率を低下させることで、赤外線センサの感度の向上を試みる提案もある(特許文献1参照)。
前記物質中の熱の伝搬は、いずれもフォノン(格子振動)の伝搬により説明される。一般に、フォノンの分散関係は、前記物質の種類により定まり、前記熱伝導率は、前記物質が本来的に有するフォノンの分散関係によって定まるが、前記絶縁体にフォノン工学を適用し、フォノンの分散関係を人為的に操作すると、前記絶縁体が本来的に持つ前記熱伝導率を低下させることができる。
このようにフォノン工学は、将来の前記熱伝導率の人為的制御に向けて注目が集まるところであるが、超伝導に関する技術については、更なる進展を要する。
例えば、カゴ型構造体の構造変化を利用して、超伝導転移温度の向上を試みる研究が行われているが、前記カゴ型構造体としては、構造体のサイズが原子スケール(ピコメートルオーダーから数ナノメートルオーダー)程度のものを対象としており、フォノンの分散関係に影響を与えるものではない。
加えて、前記カゴ型構造体の超伝導転移温度は、向上しておらず、むしろ、前記カゴ型構造体の構成物質が本来的に有する超伝導特性が損なわれていることが判明している(非特許文献2,3参照)。
ところで、本発明者は、前記フォノン工学が適用された金属板(フォノニック材料)に対し、冷却及び昇温の熱処理を繰り返し実施すると、前記金属板が絶縁体に転移することを報告している(非特許文献4参照)。
これは、構成物質中に構造体が周期的に規則配列された周期構造体を冷却すると、冷却前に前記構成物質が有していた物質秩序が変化して新たな物質秩序が形成されるとともに、この新たな物質秩序は、昇温後も維持され、前記構成物質が本来有していない新たな物性が与えられる現象を示している。金属や半導体は、絶縁体と異なり、前記構成物質中に電子やホールなどの電荷を持ったキャリアが存在する。この現象は、前記フォノン工学が適用されていない前記構成物質自身に前記熱処理を繰り返し実施しても確認されないことから、前記周期構造体を構成する前記構成物質においてのみ生じ、また、前記周期構造体を構成する前記構成物質中のフォノン(格子振動)が冷却時及び昇温時に前記構成物質中のキャリアと相互作用することに基づく現象であると理解される。
このことは、前記周期構造体に配する前記構造体の人為的な設定に基づくフォノンの制御を通じて、前記構成物質が本来的に持ち得ない前記物質秩序を人為的に発現させ得ることを意味する。
特開2017-223644号公報
N. Zen et al., Nature Commun. 5:3435 (2014) J. Tang et al., Phys. Rev. Lett. 105, 176402 (2010) R. Ang et al., Nature Commun. 6:6091 (2015) N. Zen, AIP Adv. 9, 095023 (2019) J. Bardeen et al., Phys. Rev. 106, 162 (1957)
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、0Ω以下の電気抵抗特性を示すフォノニック材料及びその前駆体、並びに、これらの製造方法を提供することを課題とする。
金属が超伝導体に転移するメカニズムは、フォノンを媒介とした電子間相互作用を記述したBCS理論で説明される(非特許文献5参照)。
本発明者は、前記BCS理論に基づき、前記フォノニック材料中のフォノンを制御することで、人為的に超伝導体としての性質を発現させることを目論んだが、先述の通り、前記金属板が前記絶縁体に転移する結果となった(非特許文献4参照)。
前記絶縁体では、アンダーソン局在現象が観測されており、キャリアが空間的な乱れを受けることで移動できなくなっているものと推察される。
前記金属板が前記絶縁体に転移する現象は、それ自体、尋常でない現象であるが、本発明者は、前記構成物質中のキャリアに対し空間的な乱れを与えずに冷却及び昇温による熱処理を行うことで、フォノンとの相互作用の中で特殊なキャリア移動特性を発現させることができるのではないかとの仮説を立て、更なる検討を重ねたところ、試行錯誤の末、ある条件で前駆体を作製すると0Ω以下の電気抵抗特性を示す前記周期構造体が得られることの知見を得た。
本発明は、前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> d電子軌道を持つ元素を含む構成物質中に構造体が周期的に規則配列された周期構造体を有し、前記周期構造体が0Ω以下の電気抵抗特性を示し、かつ、前記構成物質が超伝導転移温度を持つときは前記超伝導転移温度を超える温度範囲中に前記電気抵抗特性を示す温度領域を持つことを特徴とするフォノニック材料。
<2> 周期構造体が、負の値の電気抵抗特性を示す前記<1>に記載のフォノニック材料。
<3> 構成物質が、遷移金属元素を含む前記<1>から<2>のいずれかに記載のフォノニック材料。
<4> 周期構造体が層状に形成され、構造体が貫通孔とされる前記<1>から<3>のいずれかに記載のフォノニック材料。
<5> 貫通孔の開口径が、1nm~10mmである前記<4>に記載のフォノニック材料。
<6> 隣接する2つの貫通孔間の間隔が、1nm~0.1mmである前記<4>から<5>のいずれかに記載のフォノニック材料。
<7> 層状に形成される周期構造体の厚みが、0.1nm~0.01mmである前記<4>から<6>のいずれかに記載のフォノニック材料。
<8> d電子軌道を持つ元素を含む構成物質中に構造体が周期的に規則配列された周期構造体を有し、前記周期構造体を冷却後、昇温する連続した熱サイクルの冷却過程における前記周期構造体の冷却時抵抗温度特性と、昇温過程における前記周期構造体の昇温時抵抗温度特性とを比べたときに、前記昇温時抵抗温度特性が前記冷却時抵抗温度特性から分岐して共通温度で高い電気抵抗値を示す現象を分岐現象としたとき、前記周期構造体が前記分岐現象を発現しないことを特徴とするフォノニック材料。
<9> 前記<8>に記載のフォノニック材料の製造方法であり、分岐現象における冷却時抵抗温度特性と昇温時抵抗温度特性とが分岐するときの温度を分岐温度としたとき、周期構造体に一定方向の電流を流した状態で、前記分岐温度より低い温度まで前記周期構造体を冷却後、前記分岐温度を超える温度まで前記周期構造体を昇温する熱処理を、前記分岐現象が発現しなくなるまで実施し、前記分岐現象を発現しない前記周期構造体である前駆体を得る前処理工程を含むことを特徴とするフォノニック材料の製造方法。
<10> 前記<1>から<7>のいずれかに記載のフォノニック材料の製造方法であり、周期構造体を冷却後、昇温する連続した熱サイクルの冷却過程における前記周期構造体の冷却時抵抗温度特性と、昇温過程における前記周期構造体の昇温時抵抗温度特性とを比べたときに、前記昇温時抵抗温度特性が前記冷却時抵抗温度特性から分岐して共通温度で高い電気抵抗値を示す現象を分岐現象とし、前記分岐現象における前記冷却時抵抗温度特性と前記昇温時抵抗温度特性とが分岐するときの温度を分岐温度としたとき、前記分岐現象を発現しない前記周期構造体である前駆体に対し、前記分岐温度より低い温度まで冷却後、前記分岐温度を超える温度まで昇温する熱処理を、昇温された前記前駆体が0Ω以下の電気抵抗値を示すまで実施する冷却昇温工程を含むことを特徴とするフォノニック材料の製造方法。
本発明によれば、従来技術における前記諸問題を解決することができ、0Ω以下の電気抵抗特性を示すフォノニック材料及びその前駆体、並びに、これらの製造方法を提供することができる。
本発明の一実施形態に係るフォノニック材料の上面を示す説明図である。 図1(a)中のA-A’線断面を示す説明図である。 構造体の変形例を示す図(1)である。 構造体の変形例を示す図(2)である。 構造体の変形例を示す図(3)である。 構造体の変形例を示す図(4)である。 1次元状のフォノニック材料の構成例を示す説明図である。 3次元状のフォノニック材料の構成例を示す説明図(1)である。 3次元状のフォノニック材料の構成例を示す説明図(2)である。 ニオブ層を上面から視たときの様子を示す説明図である。 ニオブ層を上面から視たときの矩形状ブロック領域を示す説明図である。 実施例1に係るフォノニック材料における前処理工程の実施状況と電気抵抗値の推移状況とを説明するための図である。 図6(a)の20K~60Kの範囲を拡大した部分拡大図である。 1サイクル目についての部分拡大図である。 6サイクル目についての部分拡大図である。 実施例1に係るフォノニック材料における冷却昇温工程の実施状況と電気抵抗値の推移状況とを示す図(1)である。 実施例1に係るフォノニック材料における冷却昇温工程の実施状況と電気抵抗値の推移状況とを示す図(2)である。 実施例1に係るフォノニック材料における冷却昇温工程の実施状況と電気抵抗値の推移状況とを示す図(3)である。 実施例1に係るフォノニック材料における冷却昇温工程の実施状況と電気抵抗値の推移状況とを示す図(4)である。 1~5サイクルまでの熱処理(前記前処理工程)における前記周期構造体の特性変化を示す図である。 1~5サイクルまでの熱処理おける前記周期構造体について、横軸にサイクル回z’、縦軸に300Kの抵抗値R300Kをプロットした図である。 前処理工程において周期構造体が超伝導前駆体に転移する様子を模式的に示す図である。 実施例2に係るフォノニック材料における超伝導回復工程の実施状況と電気抵抗値の推移状況とを示す図である。 図10(a)の20K~60Kの範囲を拡大した部分拡大図である。 実施例2に係るフォノニック材料に対する電圧電流特性の測定結果を示す図である。 実施例2に係るフォノニック材料に直流電流を印加したときの電圧電流特性の測定結果を示す図である。 臨界電流値を超えた電流を印加した後の実施例2に係るフォノニック材料に直流電流を印加したときの電圧電流特性の測定結果を示す図である。 実施例3に係るフォノニック材料における前処理工程及び冷却昇温工程の実施状況と電気抵抗値の推移状況とを説明するための示す図である。 図13(a)の20K~60Kの範囲を拡大した部分拡大図である。 実施例3に係るフォノニック材料における冷却昇温工程の実施状況と電気抵抗値の推移状況とを示す図(1)である。 実施例3に係るフォノニック材料における冷却昇温工程の実施状況と電気抵抗値の推移状況とを示す図(2)である。 実施例3に係るフォノニック材料における冷却昇温工程の実施状況と電気抵抗値の推移状況とを示す図(3)である。 図13(e)の25K~100Kの範囲を拡大した部分拡大図である。 1~3サイクルまでの熱処理における前記周期構造体ついて、縦軸に300Kの抵抗値R300Kを、横軸に1サイクル目の熱処理を実施する直前のR300Kをz’’=0に、1サイクル目のR300Kをz’’=2に、2サイクル目のR300Kをz’’=4に、3サイクル目のR300Kをz’’=5に、それぞれ対応させてプロットした図である。 実施例3に係るフォノニック材料中の前記周期構造体の抵抗温度特性を示す図である。
(フォノニック材料)
本発明の第1フォノニック材料は、周期構造体を有し、前記周期構造体が0Ω以下の電気抵抗特性を示し、かつ、前記周期構造体を構成する構成物質が超伝導転移温度を持つときは前記超伝導転移温度を超える温度範囲中に前記電気抵抗特性を示す温度領域を持つことを特徴とする。
ここで、電気抵抗値の測定方法としては、例えば、公知の4端子法が挙げられる。
また、前記構成物質が前記超伝導転移温度を持つか否かの確認方法としては、例えば、公知のデータを参照する方法や前記構成物質を冷却して前記超伝導転移温度を確認する公知の方法が挙げられる。
また、本発明の第2フォノニック材料は、前記第1フォノニック材料の前駆体であり、前記周期構造体を有し、前記周期構造体を冷却後、昇温する連続した熱サイクルの冷却過程における前記周期構造体の冷却時抵抗温度特性と、昇温過程における前記周期構造体の昇温時抵抗温度特性とを比べたときに、前記昇温時抵抗温度特性が前記冷却時抵抗温度特性から分岐して共通温度で高い電気抵抗値を示す現象を分岐現象としたとき、前記周期構造体が前記分岐現象を発現しないことを特徴とする。
前記分岐現象の測定方法としては、製造方法に関して後述する「前処理工程」において説明する前記分岐現象の測定方法が挙げられる。
前記第1及び第2のいずれのフォノニック材料も、共通した前記周期構造体を有するが、前記第1フォノニック材料は、前記第2フォノニック材料を前駆体とした製造工程を経て、前記第2フォノニック材料と異なる性質が発現する。
本明細書では、先に前記周期構造体の構造及びこの前記周期構造体に与えられる諸性質について説明し、次に前記周期構造体にこれらの性質を付与する前記第1及び第2フォノニック材料の各製造方法について説明する。
なお、前記第1フォノニック材料が示す性質は、電気抵抗値について超伝導体に類する性質であることから、以下では、この性質を持たない前記周期構造体と区別する目的で、前記第1フォノニック材料における前記周期構造体を“超伝導体”と呼称することがある。また、前記第2フォノニック材料における前記周期構造体を“超伝導前駆体”と呼称することがある。
<周期構造体>
前記周期構造体は、d電子軌道を持つ元素を含む構成物質中に構造体が周期的に規則配列されて構成される。
こうした構成の前記周期構造体は、物質中に原子及び分子が周期的に規則配列された状態を示す通常の結晶との対比で、フォノニック結晶とも呼ばれる。
前記フォノニック結晶では、前記構造体の配列を人為的に設定でき、その設定手法は、フォノン工学として関心を集めている。
こうした周期構造体(フォノニック結晶)では、前記構造体を持たないバルク状態の前記構成物質に比べてフォノンの群速度及びエネルギー密度が小さくなる性質が現れる。
この性質は、前記構造体をどのように配列するかで程度が変わる。つまり、前記周期構造体では、適用されるフォノン工学によって、フォノンの群速度及びエネルギー密度を変更することができる。これらフォノンの群速度及びエネルギー密度は、一方が小さくなると他方も小さくなり、一方が大きくなると他方も大きくなる関係にある。
前記周期構造体としては、特に制限はないが、フォノンの群速度及びエネルギー密度が小さい程、前記構成物質中の電子やホールの挙動を律し易いことから、前記周期構造体中の前記構成物質におけるフォノンの群速度に注目したときに、前記周期構造体中の前記構成物質におけるフォノンの群速度が前記バルク状態の前記構成物質に比べて1/2以下であることが好ましい。
前記構成物質としては、d電子軌道を持つ元素を含む物質であれば、特に制限はなく、公知の金属材料や半導体材料の中から目的に応じて適宜選択することができる。即ち、前記第1及び第2のフォノニック材料では、前記構成物質中のフォノンが冷却及び昇温による熱処理時に前記構成物質中の電子と相互作用する現象を利用して前記構成物質固有の物性と異なる物性を取得するが、前記現象は、あらゆる物質で起こり得る。なぜなら、物質である限り、フォノンが必ず存在するからである。一方、前記構成物質は、d電子軌道を持つ元素を含む物質である必要がある。d電子軌道中の電子とフォノンとの相互作用により、前記超伝導体及び前記超伝導前駆体としての性質が得られるためである。
中でも、前記構成物質としては、遷移金属元素(第3族~第12族に属する元素)を含む物質が好ましく、前記遷移金属元素の単一物質で構成されるものが特に好ましい。
前記遷移金属元素としては、特に制限はないが、d電子軌道に空位を持つ元素が好ましく、前記構成物質がd電子軌道に空位を持たない前記遷移金属元素を含む場合は、合金や半導体化合物として構成されることが好ましい。
また、バルク状態で超伝導体の性質を示す超伝導物質から選択されることが好ましい。即ち、前記超伝導物質、つまり、もともと前記超伝導体の性質を示し得る物質を用いると、前記周期構造体に前記超伝導体としての性質を付与する新たな物質秩序を構築させ易い。
前記構造体としては、特に制限はなく、目的に応じて選択することができ、公知の前記フォノニック結晶に適用される構造体を挙げることができる。
中でも、前記周期構造体が層状に形成される場合には、前記構造体を前記層の厚み方向に穿設された貫通孔とすることが好ましい。前記構造体を前記貫通孔で形成する場合、前記周期構造体を公知のリソグラフィー加工により製造でき、前記周期構造体に規則配列される前記構造体の群を安定して得られ易い。また、前記構造体を前記貫通孔として形成する場合、前記貫通孔に前記構成物質と異なる物質で形成される充填物質を充填し、フォノンの群速度及びエネルギー密度を調整してもよい。
なお、前記周期構造体には、同一形状の構造を前記構造体として繰返し配して構成される場合のほか、形状の異なる複数の構造で構成される前記構造体を単位構造体として、この単位構造体を繰返し配して構成される場合を含む。
前記周期構造体に前記構造体を形成する周期、つまり、隣接する2つの前記構造体間の間隔としては、フォノンの波長スケール(例えば、ナノメートルオーダーからミリメートルオーダーのスケール(1nm~10mm))であればよく、このような周期であれば、前記周期構造体中の前記構成物質におけるフォノンの群速度及びエネルギー密度が、前記バルク状態の前記構成物質と比べて小さくなる。
また、前記構造体の大きさとしても、フォノンの波長スケール(例えば、ナノメートルオーダーからミリメートルオーダーのスケール(1nm~10mm))であればよく、このような大きさであれば、前記周期構造体中の前記構成物質におけるフォノンの群速度及びエネルギー密度が、前記バルク状態の前記構成物質と比べて小さくなる。
なお、前記構造体の大きさは、前記構造体の最大径が該当し、例えば、前記貫通孔において、その深さよりも開口径の方が大きい場合には、前記開口径が該当し、また、前記開口径において、幅よりも長さの方が大きい形状を持つ場合には、前記長さが該当する。
また、前記周期構造体の好適な態様として述べた、前記周期構造体が層状に形成され、前記構造体が前記層の厚み方向に穿設された前記貫通孔である態様については、更に、次の諸条件を満たすと、より一層、前記周期構造体に前記超伝導体としての性質を付与する新たな物質秩序を構築させ易い。
即ち、前記貫通孔の開口径としては、1nm~10mmとされることが好ましく、10nm~1mmとされることがより好ましい。
また、隣接する2つの前記貫通孔間の間隔が、1nm~0.1mmとされることが好ましく、10nm~0.01mmとされることがより好ましい。
また、前記周期構造体の層の厚みとしては、0.1nm~0.01mmとされることが好ましく、1nm~0.001mmとされることがより好ましい。
なお、前記周期構造体としては、特に制限はなく、公知のフォノニック結晶の製造方法にしたがって製造してもよく、予め製造された公知のフォノニック結晶を入手して用いてもよい。
[実施形態]
本発明の実施形態に係るフォノニック材料を図面を参照しつつ説明する。図1(a)は、本発明の一実施形態に係るフォノニック材料の上面を示す説明図であり、図1(b)は、図1(a)中のA-A’線断面を示す説明図である。
図1(a),(b)に示すように、フォノニック材料1は、構成物質2中に構造体3として円柱状の貫通孔が周期的に規則配列された周期構造体2’を有する。
周期構造体2’は、基板4上にスペーサ5を介して配される。スペーサ5は、構造体3が形成される領域の外周位置で周期構造体2’を支持するように配される。基板4及びスペーサ5は、冷却時及び昇温時の周期構造体2’の特性変化を測定するために設けられ、構造体3が形成される周期構造体2’の底面(基板4側の面)側の領域を中空状態とすることで、この領域に存在するフォノンの影響を受けずに周期構造体2’の特性変化を測定することが可能となる。
また、このような構造を作製する観点から、基板4は、Si等の一般的な微細加工に用いられる材料で構成される。また、スペーサ5は、このような測定を行う観点から、SiO等の電気絶縁性の材料で構成される。
なお、周期構造体2’に超伝導特性を発現させる前後で、基板4及びスペーサ5を除去し、周期構造体2’自身をフォノニック材料とすることもできる。
図1(a),(b)に示す周期構造体2’は、説明のための一例を示したものであり、構造体3の構造、形成数、配置等の設定は、目的に応じて適宜選択することができる。
構造体3の変形例を図2(a)~(d)に示す。なお、図2(a)~(d)は、構造体の変形例を示す図(1)~(4)である。
図2(a)に示す例では、前記構造体が略四角柱状の貫通孔として形成される。また、図2(b)に示す例では、図2(a)に示す貫通孔を配する規則性を変更している。
これら構造体を有する前記周期構造体においても、前記フォノニック結晶として前記バルク状態の前記構成物質に比べてフォノンの群速度及びエネルギー密度が小さくなる性質を持ち得る。
図2(c)、図2(d)では、形状の異なる複数の構造で構成される前記構造体を単位構造体とし、この単位構造体を繰返し配して前記周期構造体を構成する例を示している。
前記単位構造体が前記構造体として形成される前記周期構造体においても、前記フォノニック結晶として前記バルク状態の前記構成物質に比べてフォノンの群速度及びエネルギー密度が小さくなる性質を持ち得る。
また、図1(a),(b)に示す周期構造体2’は、特に図1(a)の上面図に示されるように、構造体3の配置が周期構造体2’の幅方向及び長さ方向で周期性を持つ2次元状の配置とされているが、1次元状の配置や3次元状の配置であってもよい(図3(a)~(c)参照)。なお、図3(a)は、1次元状のフォノニック材料の構成例を示す説明図であり、図3(b)は、3次元状のフォノニック材料の構成例を示す説明図(1)であり、図3(c)は、3次元状のフォノニック材料の構成例を示す説明図(2)である。
即ち、図3(a)に示す周期構造体12では、構造体13の配置が周期構造体12の長さ方向で周期性を持つ1次元状の配置とされる。
また、図3(b)に示す周期構造体22では、図1(a),(b)に示す周期構造体2’と同様に形成された、構造体23aが形成された構成物質22aの層及び構造体23bが形成された構成物質22bの層を周期構造体22の厚み方向で積層することで、構造体23a,bの配置を周期構造体22の幅方向及び長さ方向に加え、厚み方向で周期性を持つ3次元状の配置としている。なお、図3(b)中の符号24は、基板を示し、符号25は、スペーサを示す。
また、図3(c)に示す周期構造体22’では、各面に構造体23’としての円孔が形成された立方体状ブロック領域26を単位構造として、前記単位構造が周期構造体22’の高さ方向、幅方向及び長さ方向に向けて複数組み合わされた3次元状の周期配列を持つように構成される。なお、周期構造体22’としては、公知の3Dプリンタ等により作製することができる。
これら周期構造体を有するフォノニック材料は、以下に説明する製造方法の製造段階に応じて、前記超伝導体としての性質を示す前記第1フォノニック材料及び前記超伝導前駆体としての性質を示す前記第2フォノニック材料としての各性質が与えらえる。
(フォノニック材料の製造方法)
本発明の第1のフォノニック材料の製造方法は、前記超伝導体としての性質を示す前記第1のフォノニック材料の前駆体となる前記第2のフォノニック材料の製造方法であり、前処理工程を含む。
また、本発明の第2のフォノニック材料の製造方法は、前記第2のフォノニック材料を前駆体とした前記第1のフォノニック材料の製造方法であり、冷却昇温工程を含む。
<前処理工程>
前記前処理工程は、前記周期構造体を冷却後、昇温する連続した熱サイクルの冷却過程における前記周期構造体の冷却時抵抗温度特性と、昇温過程における前記周期構造体の昇温時抵抗温度特性とを比べたときに、前記昇温時抵抗温度特性が前記冷却時抵抗温度特性から分岐して共通温度で高い電気抵抗値を示す現象を分岐現象とし、前記分岐現象における前記冷却時抵抗温度特性と前記昇温時抵抗温度特性とが分岐するときの温度を分岐温度としたとき、前記周期構造体に一定方向の電流を流した状態で、前記分岐温度より低い温度まで前記周期構造体を冷却後、前記分岐温度を超える温度まで前記周期構造体を昇温する熱処理を、前記分岐現象が発現しなくなるまで実施し、前記分岐現象を発現しない前記周期構造体である前駆体(超伝導前駆体)を得る工程である。
前記周期構造体では、前記周期構造体を冷却後、昇温する連続した熱サイクルの冷却過程における前記周期構造体の冷却時抵抗温度特性と、昇温過程における前記周期構造体の昇温時抵抗温度特性とを比べたときに、前記昇温時抵抗温度特性が前記冷却時抵抗温度特性から分岐して共通温度で高い電気抵抗値を示す前記分岐現象が発現する。
この現象が発現する状態の前記周期構造体では、前記構成物質中を依然として電子が遍歴しており、電子が局在するほどまで十分に電子間相互作用が強まっていないため、前記周期構造体に前記超伝導体としての性質を与えにくい。
そのため、前記前処理工程を実施することで、前記構成物質中の電子が遍歴できなくなるまで強く局在化させ、前記分岐現象が発現しない状態とする。
即ち、前記構成物質中の電子をd電子軌道中に強く局在化させた状態とし、次工程の前記冷却昇温工程で前記周期構造体に前記超伝導体としての性質を与えるための前記超伝導前駆体を形成する。
ここで、前記前処理工程中に、d電子軌道に電子が局在化されていく様子は、フリーデル総和則として観測することができる(下記参考文献1、P.50-57参照)。通常、前記フリーデル総和則は、母体の遷移金属に、異なる遷移金属元素を不純物として混入したときに、それらの価数の差zに応じて抵抗Rが、次式、R∝sin(z×π/10)の関係を満たすように上昇していく現象を説明するものである。d電子軌道の数は5であり、各軌道にスピンアップとスピンダウンの電子が計2個ずつ入ることができるため、最大で10個の電子がd電子軌道を占有する形で局在化させることができる。
参考文献1:大学院物性物理2強相関電子系、伊達宗行 監修、株式会社講談社(1997年)
前記周期構造体では、前記前処理工程において前記熱処理を繰り返す度に、前記構成物質の電子がd電子軌道中に1個ずつ局在化され、あたかも母材の前記構成物質とは異なる物質として成長していく。その様子は、抵抗をRとし、前記熱処理の回数をz’としたときに、次式、R∝sin(z’×π/10)の関係を満たす抵抗上昇として観測される。
例えば前記構成物質がニオブの場合、通常の状態でd電子軌道は4個~5個の電子で占有されており、5個~6個の空きがある。従って、前記構成物質としてニオブを用いた前記周期構造体では、5回~6回の前記熱処理を含む前記前処理工程を実施することで、前記構成物質中の電子がd電子軌道を完全に占有する形で局在化される。なお、d電子軌道に電子が2個ずつ局在化されていく場合は、3回程度の前記前処理工程を実施する(R∝sin(2z’×π/10))。
ここで、前記構成物質中に供給される電子が空間的に一様でない場合、その空間的な乱れによって電子が局在してしまうアンダーソン局在が顕在化してしまう。即ち、この場合、d電子軌道を電子が1個~2個ずつ占有していく様子が観測されず、前記周期構造体が一気に絶縁体に転移する(非特許文献4参照)。前記超伝導前駆体は、前記構成物質が、d電子軌道が完全に占有されるように電子が局在化されていることが重要であり、アンダーソン型の絶縁体では前記超伝導前駆体を実現することはできない。
これに対し、前記前処理工程では、前記周期構造体に一定方向の電流を流すことで、前記構成物質中に電子を空間的に一様に供給する。具体的な方法としては、前記周期構造体が形成された試料を板状(1次元、2次元)や柱状(3次元)に切り出し、前記試料の各端部を電極として電流源と接続し、一端側から他端側に向けて電流を流す方法が挙げられる。即ち、前記周期構造体を流れる電流の通り道が同一の方向に制限されている限り、前記構成物質中に電子を空間的に一様に供給することができる。
なお、前記周期構造体に印加する電流としては、特に制限はなく、直流電流、方形波電流のどちらでもよい。
前記前処理工程を経た前記周期構造体では、後述の実施例における実証結果から、前記構成物質中のd電子軌道に局在化された電子が、前記構造体と前記構成物質との位置関係に応じたフォノンとの相互作用を受け、金属-モット絶縁体間の転移(下記参考文献2参照)を許容する部分(モット絶縁部)と、それ以外の部分、即ち、前記構成物質固有の電子やホールが自由に遍歴することができる部分(伝導部)とが前記周期構造体の構造に応じて規則的に配列された構造を持つものと推察される。
参考文献2:金属と非金属の物理 第二版、Nevill F. Mott 著、丸善株式会社(1996年)
未だ高温超伝導が発現するメカニズムについて学術的な決着は付いていないが、YBCOやBSCCOに代表される高温超伝導体は、銅酸化物で構成される伝導層と、絶縁層とが規則的に積層された3次元的な周期構造体である。この点、前記前処理工程を経た後の前記周期構造体も、前記伝導部と前記モット絶縁部とが規則的に配列されており、構造上の類似点がある。
一方、前記高温超伝導体と前記周期構造体とは、格子定数のスケールに差異がある。前者の配列間隔は、原子スケールのオーダーであり、サブナノメートルである。一方、後者の配列間隔は、フォノンの波長スケール(例えば、ナノメートルオーダーからミリメートルオーダーのスケール(1nm~10mm))である。固体物理学の入門書の第一章で結晶構造が議論される際、格子定数が原子スケールであることを暗黙の内に進めているが、実際のところ、結晶構造の議論は格子定数の大きさに左右されない(下記参考文献3、P.1-11参照)。フォノニック材料がフォノニック結晶とも呼ばれる所以である。即ち、前記超伝導前駆体は、前記伝導部と前記モット絶縁部とで構成される、マクロなスケールの結晶である。
ところで、前記高温超伝導体は、もともと前記モット絶縁体のような反強磁性相を持つ材料に電子やホールといったキャリアをドープすることで、超伝導相転移を与えたものである。そこで行われるキャリアのドーパント濃度を増やすという行為は、キャリアが一の前記伝導層から前記絶縁層を挟んで隣接する他の前記伝導層に飛び移る量子力学的確率tを増強し、元々、前記モット絶縁体であるが故の電子間斥力相互作用Uを弱めるという行為に他ならない。つまり、量子力学的確率tと電子間斥力相互作用Uとの間に、ほど良いバランスを与えて超伝導体としての性質を発現させる。
別の見方をすれば、前記高温超伝導体は、…伝導層-絶縁層-伝導層-絶縁層-伝導層…の配列を繰り返すトンネル接合の集合体とみなすことができ、キャリアのドーパント濃度を増やすことで、各トンネル接合の蓄電状態がほど良くバランスを取り、超伝導体化する。事実、前記高温超伝導体は、固有ジョセフソン接合とも呼ばれており、前記高温超伝導体がその超伝導体としての性質を保持できる最大の印加電流の値である臨界電流値は、ジョセフソン接合の臨界電流値を与える式である、Ambegaokar-Baratoffの関係式で説明することができる(下記参考文献4参照)。
参考文献3:固体物理学入門 第七版、Charles Kittel 著、丸善株式会社(1998年)
参考文献4:R. Kleiner et al., Phys. Rev. B 49, 1327 (1994)
ここで、Ambegaokar-Baratoffの関係式は、臨界電流値をI、金属状態の抵抗値をR、超伝導状態の超伝導エネルギーギャップをΔ、温度をT、電気素量をe、ボルツマン定数をkとして、次式(1)で表される。
Figure 0007106771000001
前記超伝導前駆体についても前記高温超伝導体と同様の考え方を導入すると、前記超伝導前駆体は、前記伝導部-前記モット絶縁部-前記伝導部で構成されるトンネル接合が規則的に配列されたトンネル接合の集合体とみなすことができる。次工程の前記冷却昇温工程において、各トンネル接合の蓄電状態がほど良くバランスを取ったときに、前記高温超伝導体と同じく前記固有ジョセフソン接合が形成されるとともに、Ambegaokar-Baratoffの関係式を満たして、前記超伝導体としての性質を発現することとなる。
前記前処理工程における冷却及び昇温の速度としては、特に制限はないが、前記構成物質中のd電子軌道に電子を局在化させ易いことから、1K/min以下が好ましい。なお、前記速度の下限としては、効率性の観点から0.01K/min程度である。
前記前処理工程における冷却温度としては、前記分岐温度より低い温度であれば、特に制限はなく、例えば、前記分岐温度よりも20K程度低い温度とすることができる。
また、前記前処理工程における昇温温度としては、前記分岐温度を超える温度であれば、特に制限はなく、例えば、前記分岐温度よりも40K程度高い温度とすることができる。
また、広い温度範囲で前記前処理工程を行う場合、2K以下の温度(下限;10mK程度)を冷却温度(最低温度)、300K以上の温度(上限;400K程度)を昇温温度(最高温度)としてもよい。
前記前処理工程の実施装置としては、特に制限はなく、例えば、公知の冷媒デュワーや冷凍機等を用いることができる。
なお、前記分岐温度が、冷却及び昇温の熱処理サイクル間で異なり、幅のある温度帯として確認される場合、この温度帯より低い温度で冷却を行い、また、この温度帯より高い温度で昇温を行う。
<冷却昇温工程>
前記冷却昇温工程は、前記周期構造体を冷却後、昇温する連続した熱サイクルの冷却過程における前記周期構造体の冷却時抵抗温度特性と、昇温過程における前記周期構造体の昇温時抵抗温度特性とを比べたときに、前記昇温時抵抗温度特性が前記冷却時抵抗温度特性から分岐して共通温度で高い電気抵抗値を示す現象を前記分岐現象とし、前記分岐現象における前記冷却時抵抗温度特性と前記昇温時抵抗温度特性とが分岐するときの温度を前記分岐温度としたとき、前記分岐現象を発現しない前記周期構造体である前記前駆体(前記超伝導前駆体)に対し、前記分岐温度より低い温度まで冷却後、前記分岐温度を超える温度まで昇温する熱処理を、昇温された前記前駆体(前記超伝導前駆体)が0Ω以下の電気抵抗値を示すまで実施する工程である。
前記冷却昇温工程で得られた0Ω以下の電気抵抗値は、昇温後も維持されることから、前記冷却昇温工程により前記周期構造体に前記超伝導体としての性質が与えられる。
なお、前記冷却昇温工程は、前記前処理工程により前記分岐現象を発現しなくなった前記周期構造体を前記超伝導前駆体として、前記周期構造体に前記超伝導体としての性質を付与する工程として実施されるが、一旦、前記超伝導体としての性質が付与された前記周期構造体から、この性質が消失した場合、この性質を回復させるための超伝導回復工程として再度、実施することもできる。
即ち、前記周期構造体は、外部エネルギーの印加により前記超伝導体としての性質を失うことがあるが、この場合でも、前記周期構造体に前記超伝導前駆体としての性質が維持されていれば、前記前処理工程を経ることなく、直接、前記冷却昇温工程を実施して、一旦、消失した前記超伝導体としての性質を回復させることができる。
前記冷却昇温工程の実施対象となる前記周期構造体が、前記分岐現象を発現するか否かが不明な場合は、前記前処理工程を実施していない他の前記周期構造体に対し、前記前処理工程と同様の熱処理を実施して前記分岐温度を検出し、その後、検出された前記分岐温度を熱処理における操作温度に利用した前記前処理工程を、前記冷却昇温工程の実施対象となる前記周期構造体に対して実施することで確認することができる。
また、前記冷却昇温工程では、前記超伝導前駆体の電気抵抗値を測定して実施する必要があるが、その測定方法としては、例えば、前記前処理工程で採用される電流印加条件を採用しつつ、この電流に対する電気抵抗値を公知の4端子法等で測定する方法が挙げられる。
前記冷却過程における冷却温度としては、前記分岐温度より低い温度であれば、特に制限はないが、少サイクル数で前記周期構造体に前記超伝導体としての性質を付与する観点から2K以下の温度であることが好ましい。なお、前記冷却温度の下限としては、10mK程度である。
また、前記昇温過程における昇温温度としては、前記分岐温度を超える温度であれば、特に制限はないが、少サイクル数で前記周期構造体に前記超伝導体としての性質を付与する観点から300K以上の温度であることが好ましい。なお、前記昇温温度の上限としては、400K程度である。
前記冷却昇温工程の実施装置としては、前記前処理工程の実施装置と同様の装置を用いることができ、例えば、公知の冷媒デュワーや冷凍機等を用いることができる。
なお、前記冷却過程及び前記昇温過程の速度の下限としては、特に制限はないが、効率的に前記熱処理を行う観点から、0.01K/min程度である。
また、前記冷却昇温工程では、前記前処理工程で確認される前記分岐温度が、冷却及び昇温の熱処理サイクル間で異なり、幅のある温度帯である場合、この温度帯より低い温度で冷却を行い、また、この温度帯より高い温度で昇温を行う。
なお、前記前処理工程と前記冷却昇温工程とが連続した工程でなく、前記冷却昇温工程の実施時に、前記前処理工程で確認される前記分岐温度が前記冷却昇温工程の実施者において不明となる場合、前記冷却昇温工程の対象となる前記周期構造体と同じ構造を持つ別サンプルを用意し、この別サンプルに対して前記前処理工程と同様の熱処理を行って、前記分岐温度を確認することができる。
(実施例1)
次のように、実施例1に係るフォノニック材料を製造した。
先ず、CVD装置(サムコ株式会社製、PD-270STL)を用いて、シリコンウエハ基板(ミヨシ有限会社製、直径76.0mm、方位(100)±1°、タイプP型、仕上げ表面ミラー、仕上げ裏面エッチング、パーティクル0.3μm以上10個以下)上に酸化シリコン層を厚み1μmで形成した。
次に、スパッタリング装置(サイエンスプラス株式会社製、M12-0130)を用いて、前記酸化シリコン層上にニオブ層を厚み150nmで形成した。
次に、レジストコーター装置(大日本スクリーン製造株式会社製、SK-60BW-AVP)を用いて、ニオブ層上にi線リソグラフィ用のレジスト層を形成した後、i線リソグラフィ装置(株式会社ニコンテック社製、NSR-2205i12D)により、目的とする周期構造と同一構造の孔が穿設されたマスクパターンを持つマスクを用いたi線リソグラフィ加工を行い、前記レジスト層を前記マスクパターンが転写されたレジストパターンに加工した。
次に、反応ガスとしてSFを用いた反応性イオンエッチング装置(サムコ株式会社製、RIE-10NR)により、前記レジストパターンを通じた前記ニオブ層に対するエッチング加工を行い、前記周期構造を持つ周期構造体として、同一形状の円柱状の貫通孔を持つ領域(構造体)が一定周期で規則的に配列された構造を持つ前記ニオブ層を形成した。
ここで、前記シリコンウエハ基板上の前記ニオブ層の様子を図4に示す。なお、図4は、ニオブ層を上面から視たときの様子を示す説明図である。
この図4に示すように、ニオブ層32は、厚み方向に貫通孔33(図中、黒丸で示す群)が穿設された構造を持つ。
また、より詳細に説明すると、ニオブ層32は、図5に示す矩形状ブロック領域36が350個形成された構造を持つ。なお、図5は、ニオブ層を上面から視たときの矩形状ブロック領域を示す説明図である。
矩形状ブロック領域36では、中心に直径dが19.7μmである貫通孔33が穿設される。
また、貫通孔33の外周と最接する矩形状ブロック領域36の外周との間の距離sが150nmとされる。つまり、前記周期構造体としてのニオブ層32は、構造体としての貫通孔33が300nmの間隔で規則的に周期配列された構造を持つ。
また、ニオブ層32の貫通孔33が形成された部分をフォノニック結晶としてみたときの結晶構造は、正方格子であり、その格子定数は、20μmである。なお、前記正方格子とは、貫通孔33がニオブ層32に対し、上面視で正方格子状に配置されている構造を意味し、前記格子定数とは、矩形状ブロック領域36を単位格子としたとき、一の前記単位格子の中心と、これに隣接する他の前記単位格子の中心との間の距離を意味する。
図4に示す前記周期構造体の構造は、前記マスクの形状設定に基づき、形成される。
次に、この状態の前記シリコンウエハ基板を前記ニオブ層を中心に持つように裁断した。
次に、ドライエッチング装置(キャノン株式会社製、memsstar SVR-vHF)を用い、前記貫通孔を介して前記ニオブ層の下に存在する前記酸化シリコン層にHFガスを接触させ、前記酸化シリコン層を部分的に除去するドライエッチング加工を行った。
ここで、図4中における、貫通孔33が形成されていない部分のニオブ層32の下側に存在する前記酸化シリコン層は、前記ドライエッチング加工後に残留し、貫通孔33が形成された部分の下側を中空状態とさせつつ、ニオブ層32を支持する役割を持つ。
以上により、実施例1のサンプル体を作製した。
次に、実施例1のサンプル体に対し、以下に述べる前処理工程及び冷却昇温工程を実施しつつ、これらの工程により得られる実施例1に係るフォノニック材料の電気抵抗の測定試験を行った。
先ず、実施例1に係るフォノニック材料の電気抵抗を測定するため、実施例1のサンプル体に対し、四端子抵抗測定装置(日本カンタム・デザイン株式会社製、P102)を接続した。
具体的には、図4における端子J、J、J、Jのそれぞれに対し、四端子抵抗測定装置の端子I+、I-、V+、V-を接続し、端子J-J間に電流を印加しつつ、端子J-J間の電位差を読み取ることで、前記周期構造体の電気抵抗を測定した。
ここで、端子J-J間に電流を印加するのは、前記周期構造体を流れる電流の通り道を同一の方向に制限し、前記構造体間の前記構成物質中に電子を空間的に一様に供給するためである。
次に、実施例1のサンプル体を物理特性測定装置(日本カンタム・デザイン株式会社製、PPMS)に入れ、サンプル体を垂直に貫く磁束密度が10μT以下になるように前記物理特性測定装置内の磁場の大きさを設定し、約200Paのヘリウムガス雰囲気の下、冷却-昇温の熱処理を1サイクルとする前記前処理工程及び前記冷却昇温工程を実施し、実施例1に係るフォノニック材料を製造した。
前記物理特性測定装置内における、より詳細な電気抵抗測定の方法は、前記物理特性測定装置を「AC DRIVE MODE」に設定し、「STANDARD CALIBRATION MODE」を選択して測定した。
より具体的には、電気抵抗測定を実施する各温度において、図4における端子J-J間に、8.33Hzの周期で正負反転する方形波を25回印加し、最後に印加した方形波電流に対して端子J-J間に発生する電圧を読み取り、前記周期構造体の電気抵抗を決定した。このように正負反転する方形波電流を印加することで、出力電圧のオフセットエラーを最小限に抑制することができる。なお、印加した方形波電流の振幅は、前記前処理工程及び前記冷却昇温工程の間、常に±10μAである。
前記前処理工程及び前記冷却昇温工程の詳細を下記表1に示す。なお、表中の「定点」は、各設定温度が安定化した後に電気抵抗を測定したことを表し、「掃引」は、温度を、目標に設定した目標温度まで掃引しながら電気抵抗を測定したことを表す。
また、実施例1に係るフォノニック材料における前記前処理工程及び前記冷却昇温工程の実施状況と電気抵抗値の推移状況とを図6(a)~(h)に示す。なお、図6(a),は、実施例1に係るフォノニック材料における前処理工程の実施状況と電気抵抗値の推移状況とを説明するための図であり、図6(b)は、図6(a)の20K~60Kの範囲を拡大した部分拡大図であり、図6(c)は、1サイクル目についての部分拡大図であり、図6(d)は、6サイクル目についての部分拡大図であり、図6(e)~(h)は、実施例1に係るフォノニック材料における冷却昇温工程の実施状況と電気抵抗値の推移状況とを示す図(1)~(4)である。
Figure 0007106771000002
図6(a)~(d)に示すように、1~5サイクルまでの熱処理(前記前処理工程)では、前記昇温時抵抗温度特性が前記冷却時抵抗温度特性から分岐して共通温度で高い電気抵抗値を示す前記分岐現象が確認され、前記分岐温度が25K~27Kの温度範囲で確認された。前記分岐現象は、温度を10K昇温したときに、前記昇温時抵抗温度特性が共通温度で20mΩ以上の電気抵抗値の上昇として有意に観察される。一方、6サイクル目の熱処理では、前記昇温時抵抗温度特性が前記冷却時抵抗温度特性をなぞるように推移し、前記冷却時抵抗温度特性と前記昇温時抵抗温度特性とが一致していた。即ち、1~5サイクルまでの熱処理により、前記分岐現象が消失した。
1~5サイクルまでの熱処理(前記前処理工程)における前記周期構造体の特性変化は、図7に示すように、300Kにおける有意な抵抗上昇として確認できる。なお、図7は、1~5サイクルまでの熱処理(前記前処理工程)における前記周期構造体の特性変化を示す図である。なお、2~5サイクルまでの熱処理については、前記昇温時抵抗温度特性のみを示す。
また、1~5サイクルまでの熱処理おける前記周期構造体について、横軸にサイクル回z’、縦軸に300Kの抵抗値R300Kをプロットしたものを図8に示す。なお、図8中のz’=0のR300Kは、1サイクル目の熱処理を実施する直前の300Kにおける電気抵抗値(17.5Ω)である。
図8に示すように、R300Kがsin(z’×π/10)に比例している。これは前記フリーデル総和則から推察される結果と見事に一致し、前記前処理工程を経て、d電子軌道が完全に占有されるように電子が局在化された前記超伝導前駆体が形成されたことを示す。前記前処理工程において前記周期構造体が前記超伝導前駆体に転移する様子を図9に模式的に示す。
以上から、実施例1のサンプル体における前記周期構造体は、前記前処理工程を経て、理想的な前記超伝導前駆体になったと考えられる。
次に、図6(e)~(h)に示すように、6サイクル目以降の熱処理(前記冷却昇温工程)では、前記分岐現象は観測されないものの、熱処理を繰り返す度に、抵抗温度特性が全体的に上下に推移していく状況が確認された。この間、前記超伝導前駆体を構成する各トンネル接合の蓄電状態が、前記周期構造体全体が持つエネルギーを最も安定化させるように、ほど良くバランスを取りつつあると考えられる。
すると、図6(h)に示すように、25サイクル目の熱処理である前記冷却昇温工程の冷却過程中、40K付近の温度で電気抵抗値が一旦ゼロ(0Ω)となることが確認され、引き続きの25サイクル目の熱処理である前記冷却昇温工程の昇温過程中、50K付近の温度で電気抵抗値がゼロに向けて下降し始め、60K付近の温度でゼロ抵抗となること(超伝導転移)が確認され、その後、300Kの温度まで昇温させても、ゼロ抵抗状態が保持された。前記構成物質として用いたニオブの超伝導転移温度は、約9.2Kであり、前記超伝導転移温度を大幅に超える温度でゼロ抵抗が得られたこととなる。
以上により、実施例1に係るフォノニック材料を製造した。なお、この実施例1に係るフォノニック材料が示す性質は、同じ製造条件で製造を行った7サンプルについて、同じ性質の発現が確認されている。
(実施例2)
54日後の実施例1に係るフォノニック材料の電気抵抗値を再び測定すると、20Ωの電気抵抗値が確認され、その値から判断すると、実施例1に係るフォノニック材料は、金属状態に戻っていると考えられる。同じ製造条件で製造を行った別サンプルを用いて調査した結果、実施例1に係るフォノニック材料の300Kにおける超伝導エネルギーギャップ(2×Δ)は1.6eVであると想定され、可視域の光(波長<777nm)を受けて超伝導状態が破壊されてしまったことが想定される。超伝導状態を保持させたい場合は、実施例1に係るフォノニック材料を暗所に保管する必要がある。
そこで、前記超伝導体としての性質が失われた実施例1に係るフォノニック材料を前記物理特性測定装置に入れ、実施例1に係るサンプル体に前記超伝導体としての性質を付与したときと同じ方法で、前記冷却昇温工程(超伝導回復工程)を実施し、実施例2に係るフォノニック材料を製造した。
即ち、前記物理特性測定装置内の磁場の大きさは、サンプル体を垂直に貫く磁束密度が10μT以下であり、約200Paのヘリウムガス雰囲気であった。また、印加した方形波電流の振幅は、常に±10μAであった。
前記超伝導回復工程の詳細を下記表2に示す。
また、実施例2に係るフォノニック材料における前記超伝導回復工程の実施状況と電気抵抗値の推移状況とを図10(a),(b)に示す。なお、図10(a)は、実施例2に係るフォノニック材料における超伝導回復工程の実施状況と電気抵抗値の推移状況とを示す図であり、図10(b)は、図10(a)の20K~60Kの範囲を拡大した部分拡大図である。
Figure 0007106771000003
図10(a)に示すとおり、1サイクル目を実施する直前の300Kにおける電気抵抗値は、金属状態を示唆する20Ωに戻っていることが確認できる。また、図10(b)に示すように、1サイクル目では、前記昇温時抵抗温度特性が前記冷却時抵抗温度特性をなぞるように推移し、前記冷却時抵抗温度特性と前記昇温時抵抗温度特性とが一致していた。つまり、前記超伝導体としての性質を失っていたものの、前記超伝導前駆体としての性質は、維持されていることが確認される。また、図10(b)に示す通り、2サイクル目の冷却過程において、40K付近の温度で1サイクル目の抵抗温度特性から逸脱する。そして2サイクル目の昇温過程において、40K付近の温度でゼロ抵抗となること(超伝導転移)が確認され、その後、300Kの温度まで昇温させても、ゼロ抵抗状態が保持された。
このように、一旦、前記超伝導体としての性質が付与された前記周期構造体は、たとえ、前記超伝導体としての性質を消失したとしても、少ないサイクル数の超伝導回復工程を経ることで、前記超伝導体としての性質を再び獲得することができる。
次に、前記物理特性測定装置に実施例2に係るフォノニック材料を搭載したまま、300Kで、図4における端子J-J間に方形波電流を印加し、端子J-J間に発生する電圧を測定することにより電圧電流特性の測定を行った。実施例2に係るフォノニック材料に対する電圧電流特性の測定結果を図11に示す。
図11に示すように、±5mAの電流値範囲において出力された電圧は、前記物理特性測定装置の当該電流値範囲における測定限界内にあり、即ち、ゼロ抵抗が実現されていることが確認できる。
なお、前記電圧電流特性は、前記物理特性測定装置を「DC DRIVE MODE」に設定して測定した。即ち、正負反転しない方形波電流を、印加する電流値を表す各振幅ごとに、8.33Hzの周期で前記周期構造体に10回印加し、最後の2回で測定される電圧値の平均値を読み取って、電圧電流特性の測定結果を得た。印加する方形波電流を正負反転しなかった理由は、出力される電圧電流特性が、印加する方形波電流の極性に応じて、原点非対称な特性を示す可能性が考えられたためである。
前記方形波電流を用いた測定手法は、前記周期構造体中に発生する熱起電力の問題を低減させる有力な方法であるが、±5mAの電流値範囲を超える電流を印加することができない。
そこで、実施例2に係るフォノニック材料の臨界電流値を測定するため、前記超伝導回復工程を経た直後、前記物理特性測定装置に実施例2に係るフォノニック材料を搭載したまま、300Kの温度条件で、図4における端子J-J間に直流電流を印加し、端子J-J間に発生する電圧を測定することにより電圧電流特性の測定を行った。なお、本測定は、ソースメジャーユニット(キーサイト・テクノロジー社製、B2911A)を前記物理特性測定装置に接続して実施した。実施例2に係るフォノニック材料に直流電流を印加した場合の電圧電流特性の測定結果を図12(a)に示す。
図12(a)に示すように、直流電流を初期値の0mAから増加させていくと、一旦、2mA付近で熱起電力が発生し始めるが、10mA付近で再びゼロ抵抗に落ち着き、最終的に18.8mAで前記ソースメジャーユニットに設定したコンプライアンス値である1Vに電圧が達した。即ち、実施例2に係るフォノニック材料の臨界電流値は18.8mAであった。
また、引き続いて、前記ソースメジャーユニットを用いて、臨界電流値を超えた電流を印加した後の実施例2に係るフォノニック材料に直流電流を印加したときの電圧電流特性の測定結果を図12(b)に示す。
図12(b)に示すように、フォノニック材料に臨界電流値以上の電流を印加することで、前記超伝導体としての性質が消失していることが確認できる。
即ち、電流値が0μA~+1μAの間では、抵抗値が20Ωの金属的な性質を示すが、0μA未満および1μAを超える電流値に対しては、抵抗値が2.2kΩに達する絶縁体的な性質を示す電圧電流特性が得られており、どこにもゼロ抵抗は確認できず、前記超伝導体としての性質は消失した。
とは言え、電圧電流特性は原点に対して対称ではなく、尋常ではない。負の電流に対しては絶縁体であり、臨界電流値を調査するために印加した正の方向の電流に対しては、金属と絶縁体の混合状態になっている。臨界電流値を超える大きな電流を前記周期構造体に印加することで、d電子軌道を完全に占有していた電子のうちのいくつかが強制的に弾き飛ばされたと考えることができる。言い方を換えれば、前記超伝導体としての性質を持つ前記周期構造体に、ホールが過剰に注入された状態になっていると考えられる。
ところで、臨界電流値(18.8mA)、前記超伝導エネルギーギャップ(Δ=0.8eV、2Δ=1.6eV)、図10(a)及び図12(b)に示される300Kにおける金属状態の電気抵抗値(20Ω)、及び臨界電流値を測定した温度(300K)の各条件の関係は、前記Ambegaokar-Baratoffの関係式を満たしている。
即ち、前記超伝導体としての性質を獲得した前記周期構造体は、前記YBCOや前記BSCCOに代表される前記高温超伝導体と同じく前記固有ジョセフソン接合であり、前記モット絶縁部及び前記伝導部を介した前記ジョセフソントンネル接合が、規則的に配列された集合体であるとした考察を支持する。
(実施例3)
次のように、実施例3に係るフォノニック材料を製造した。
実施例3のサンプル体の作製方法は、実施例1と同じである。この実施例3のサンプル体に対し、実施例1のサンプル体に対して実施したのと同様の、前処理工程及び冷却昇温工程を実施しつつ、これらの工程により得られる実施例3に係るフォノニック材料の電気抵抗の測定試験を行い、実施例3に係るフォノニック材料を製造した。
即ち、前記物理特性測定装置内の磁場の大きさは、サンプル体を垂直に貫く磁束密度が10μT以下であり、約200Paのヘリウムガス雰囲気であり、前記物理特性測定装置を「AC DRIVE MODE」と「STANDARD CALIBRATION MODE」と、に選択し、振幅が±10μAの正負反転する方形波電流を印加して電気抵抗の測定試験を行いつつ、前処理工程及び冷却昇温工程を実施した。
前記前処理工程及び前記冷却昇温工程の詳細を下記表3-1及び表3-2に示す。
また、実施例3に係るフォノニック材料における前記前処理工程及び前記冷却昇温工程の実施状況と電気抵抗値の推移状況とを図13(a)~(f)に示す。なお、図13(a)は、実施例3に係るフォノニック材料における前処理工程及び冷却昇温工程の実施状況と電気抵抗値の推移状況とを説明するための図であり、図13(b)は、図13(a)の20K~60Kの範囲を拡大した部分拡大図であり、図13(c)~(e)は、実施例3に係るフォノニック材料における冷却昇温工程の実施状況と電気抵抗値の推移状況とを示す図(1)~(3)であり、図13(f)は、図13(e)の25K~100Kの範囲を拡大した部分拡大図である。
Figure 0007106771000004
Figure 0007106771000005
図13(a),(b)に示すように、1~3サイクルまでの熱処理(前記前処理工程)では、前記昇温時抵抗温度特性が前記冷却時抵抗温度特性から分岐して共通温度で高い電気抵抗値を示す前記分岐現象が確認され、前記分岐温度が21K~32Kの温度範囲で確認された。前記分岐現象は、温度を10K昇温したときに、前記昇温時抵抗温度特性が共通温度で20mΩ以上の電気抵抗値の上昇として有意に観察される。一方、4サイクル目の熱処理では、前記昇温時抵抗温度特性が前記冷却時抵抗温度特性をなぞるように推移し、前記冷却時抵抗温度特性と前記昇温時抵抗温度特性とが一致していた。即ち、1~3サイクルまでの熱処理により、前記分岐現象が消失した。
1~3サイクルまでの熱処理(前記前処理工程)における前記周期構造体の特性変化は、300Kにおける有意な抵抗上昇として確認できる。
また、1~3サイクルまでの熱処理における前記周期構造体ついて、縦軸に300Kの抵抗値R300Kを、横軸に1サイクル目の熱処理を実施する直前のR300Kをz’’=0に、1サイクル目のR300Kをz’’=2に、2サイクル目のR300Kをz’’=4に、3サイクル目のR300Kをz’’=5に、それぞれ対応させてプロットしたものを図14に示す。なお、図14中のz’’=0のR300Kは、1サイクル目を実施する直前の300Kにおける電気抵抗値(18.1Ω)である。
図14に示すように、R300Kがsin(z’’×π/10)に比例しており、前記フリーデル総和則から推察される結果と見事に一致している。これは、1サイクル目の熱処理でd電子軌道に2個の電子が追加で占有し、続いての2サイクル目の熱処理でもd電子軌道に2個の電子が更に追加で占有し、最後の3サイクル目の熱処理でd電子軌道に1個の電子が追加で占有することで、d電子軌道が完全に占有されたと観るべきである。
即ち、図14に示す結果は前記構成物質が、前記前処理工程を経て、ニオブ中の電子がd電子軌道を完全に占有するように局在化された前記超伝導前駆体が形成されたことを示している。
以上から、実施例3のサンプル体における前記周期構造体も、実施例1のサンプル体における前記周期構造体と同様に、前記前処理工程を経て、理想的な前記超伝導前駆体になったと考えられる。
図13(a)~(d)に示すように、4サイクル目の熱処理以降の熱処理(前記冷却昇温工程)では、前記分岐現象は観測されないものの、熱処理を繰り返す度に、抵抗温度特性が全体的に、上下に推移していく状況が確認された。
すると、図13(e),(f)に示すように、21サイクル目の熱処理である前記冷却昇温工程の昇温過程中、35K付近の温度で電気抵抗値がゼロに近い負の値(0Ω未満の負の値)に成ることが確認された。図15に示すように、その負の抵抗状態は、280K付近の温度まで保持されるが、290K付近で僅かに抵抗値が上昇し、正の値に成ることが確認された。なお、図15は、実施例3に係るフォノニック材料中の前記周期構造体の抵抗温度特性を示す図である。
前記冷却昇温工程においては、前記前処理工程を経て作製された前記超伝導前駆体が、前記周期構造体全体としてのエネルギーを最も安定化させるように、前記超伝導前駆体を構成する各トンネル接合の蓄電状態のバランスを自発的に取り、前記超伝導体としての性質を獲得するが、実施例3に係るフォノニック材料中の前記周期構造体では、280K付近までの温度で負の電気抵抗を持つことが、前記周期構造体全体として最も安定な状態であると考えられる。
なお、実施例3は、実施例1の再現試験の一つとして実施したものであるが、熱処理操作のタイミング等に違いがあり、実施例1と異なる結果になったものと思われる。いずれにしても、実施例1及び実施例3では、安定して超伝導体としての性質を示すフォノニック材料を製造することができている。
1,20 フォノニック材料
2,22a,22b 構成物質
2’,12,22,22’ 周期構造体
3,13,23a,23b,23’ 構造体
4,24 基板
5,25 スペーサ
26 立方体状ブロック領域
32 ニオブ層
33 貫通孔
36 矩形状ブロック領域

Claims (10)

  1. d電子軌道を持つ元素を含む構成物質中に構造体が周期的に規則配列された周期構造体を有し、
    前記周期構造体が0Ω以下の電気抵抗特性を示し、かつ、前記構成物質が超伝導転移温度を持つときは前記超伝導転移温度を超える温度範囲中に前記電気抵抗特性を示す温度領域を持つことを特徴とするフォノニック材料。
  2. 周期構造体が、負の値の電気抵抗特性を示す請求項1に記載のフォノニック材料。
  3. 構成物質が、遷移金属元素を含む請求項1から2のいずれかに記載のフォノニック材料。
  4. 周期構造体が層状に形成され、構造体が貫通孔とされる請求項1から3のいずれかに記載のフォノニック材料。
  5. 貫通孔の開口径が、1nm~10mmである請求項4に記載のフォノニック材料。
  6. 隣接する2つの貫通孔間の間隔が、1nm~0.1mmである請求項4から5のいずれかに記載のフォノニック材料。
  7. 層状に形成される周期構造体の厚みが、0.1nm~0.01mmである請求項4から6のいずれかに記載のフォノニック材料。
  8. d電子軌道を持つ元素を含む構成物質中に構造体が周期的に規則配列された周期構造体を有し、
    前記周期構造体を冷却後、昇温する連続した熱サイクルの冷却過程における前記周期構造体の冷却時抵抗温度特性と、昇温過程における前記周期構造体の昇温時抵抗温度特性とを比べたときに、前記昇温時抵抗温度特性が前記冷却時抵抗温度特性から分岐して共通温度で高い電気抵抗値を示す現象を分岐現象としたとき、前記周期構造体が前記分岐現象を発現しないことを特徴とするフォノニック材料。
  9. 請求項8に記載のフォノニック材料の製造方法であり、
    分岐現象における冷却時抵抗温度特性と昇温時抵抗温度特性とが分岐するときの温度を分岐温度としたとき、周期構造体に一定方向の電流を流した状態で、前記分岐温度より低い温度まで前記周期構造体を冷却後、前記分岐温度を超える温度まで前記周期構造体を昇温する熱処理を、前記分岐現象が発現しなくなるまで実施し、前記分岐現象を発現しない前記周期構造体である前駆体を得る前処理工程を含むことを特徴とするフォノニック材料の製造方法。
  10. 請求項1から7のいずれかに記載のフォノニック材料の製造方法であり、
    周期構造体を冷却後、昇温する連続した熱サイクルの冷却過程における前記周期構造体の冷却時抵抗温度特性と、昇温過程における前記周期構造体の昇温時抵抗温度特性とを比べたときに、前記昇温時抵抗温度特性が前記冷却時抵抗温度特性から分岐して共通温度で高い電気抵抗値を示す現象を分岐現象とし、前記分岐現象における前記冷却時抵抗温度特性と前記昇温時抵抗温度特性とが分岐するときの温度を分岐温度としたとき、前記分岐現象を発現しない前記周期構造体である前駆体に対し、前記分岐温度より低い温度まで冷却後、前記分岐温度を超える温度まで昇温する熱処理を、昇温された前記前駆体が0Ω以下の電気抵抗値を示すまで実施する冷却昇温工程を含むことを特徴とするフォノニック材料の製造方法。
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