JP7099779B2 - コケ育成用硬化体、コケ緑化体、コケ育成用擬岩、及びコケ育成用硬化体の製造方法 - Google Patents
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Description
しかし、従来のモルタルを用いた緑化コンクリートでは、アルカリ性が強く、コケの育成には適さない。また、コケは深く根を張らないため、従来公知の緑化基盤表面に形成された開口部に土などを入れ、開口部に充填した土にコケを貼り付けた場合でも、風雨等により、コケが土ごと脱離する場合がある。
また、路肩部分に設置する平板状のコンクリート部材と、法肩部分に設置する平板状等の粗粒多孔部材とからなり、粗粒多孔部材はクリンカーアッシュをソーダ石灰ガラスと水硬性セメントよりなる多孔質結晶化ガラスで部分的に結合させて形成する、コケ、丈の低い草の生育が可能な抑草ブロックが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
また、特許文献2に記載の抑草ブロックは、製造に高温の焼成が必要であり、生産性に問題がある。さらに、バインダーとして水硬性セメント等を使用するため、アルカリ性が強く、コケの育成には不適であった。
本発明の別の実施形態の課題は、コケ育成用多孔質硬化体を用いたコケ緑化体を提供することである。
本発明の別の一実施形態の課題は、コケ育成に適し、早期にコケを定着、育成させ得るコケ育成用多孔質硬化体の簡易な製造方法を提供することにある。
<1> 平均粒径が100μm~900μmの細骨材と樹脂バインダーとを含む多孔質硬化体であり、空隙率が30%~60%であり、前記多孔質硬化体は、毛管作用により水を保持する毛管保水可能な空隙を有する、コケ育成用硬化体。
従って、適宜、深さが1mm以上の凹部を形成することにより、凹部を形成する任意の領域に、コケの種類に応じた、より適切なコケの育成環境を与えることができ、コケの育成と定着により有用である。
凹部は、水分、土などを保持するために有用である。凹部の底面は、地面に水平或いは略水平であることで水分、土などの保持性がより良好となる。しかし、これに限定されない。硬化体を地面に対し角度をもって配置した場合には、凹部を有することによるコケの定着及び育成効果が、凹部を有しない硬化体よりもより良好となる。
独立した凹部では、効果的に土、水分等を保持することができる。また、凹部の平面視した形状を任意に選択することができるため、所望の領域に、例えば、任意のデザインで、コケの育成により適切な環境を与えることができる。このため、凹部にコケを植え込むことで、コケが早期に定着することに加え、定着したコケの育成に伴い、凹部の周辺にもコケが拡がり、より早期にコケ層が形成される。
得られた混合物を硬化させることで、隣接する細骨材同士が樹脂バインダーを介して密着し、樹脂バインダーが硬化することで、内部に空隙を有する硬化体が形成される。混合物に含まれる細骨材と樹脂バインダーとの含有比率を調整することで、内部に空隙率が30%~60%である硬化体が形成される。混合物に含まれる細骨材の平均粒径が100μm~900μmの範囲であることにより、硬化体内部にランダムに形成される空隙の一部は、既述のように極めて狭い、毛管保水可能な空隙となる。
例えば、基材として平板状の基材を用い、平板状の基材の面上に均一な厚みのコケ育成用硬化体を製造する態様、基材として擬岩を用い、擬岩の面上に任意の厚みのコケ育成用硬化体を製造する態様などを挙げることができる。
硬化体を基材の面上に形成する際には、硬化体を形成しようとする基材上にプライマー層を形成する工程を行なうことが好ましい。基材上にプライマー層を形成することで、基材と硬化体とがプライマー層を介してより強固に密着され、種々の形状の基材の面上に、より安定に硬化体を製造することができる。
本発明の別の実施形態によれば、コケ育成用多孔質硬化体を用いたコケ緑化体を提供することができる。
本発明の別の一実施形態によれば、コケ育成に適し、早期にコケを定着、育成させ得るコケ育成用多孔質硬化体の簡易な製造方法を提供することができる。
本明細書において、「(メタ)アクリル」は、アクリル及びメタクリルの少なくとも一方を意味する。
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
なお、コケ育成用硬化体の製造方法の詳細については後述する。
本開示のコケ育成用硬化体は、平均粒径が100μm~900μmの細骨材と樹脂バインダーとを含む多孔質硬化体であり、空隙率が30%~60%であり、前記多孔質硬化体は、毛管作用により水を保持する毛管保水可能な空隙を有する。
図1に示す実施形態の基材付コケ育成用硬化体10では、平板状の基材20表面に、細骨材12と樹脂バインダー14とを含む本開示のコケ育成用硬化体18を有する。
コケ育成用硬化体18は、隣接した細骨材12が、それぞれ樹脂バインダー14を介して結合しており、微細な空隙16を多数含む。
空隙16は、連通する空隙であっても、独立した空隙であってもよい。
コケ育成用硬化体18の空隙率は、コケ育成に適する30%~60%の範囲であり、40%~60%の範囲がより好ましい。
コケ育成用硬化体18の空隙率は、コケ育成用硬化体18の製造に用いられる細骨材12と樹脂バインダー14との含有比率により適宜調整することができる。
図1における空隙16Aは、毛管保水可能な空隙の一例を示す。本明細書において毛管保水可能な空隙とは、空隙中に進入した水分が流去せず、毛管現象により空隙内に保持される大きさの空隙を指す。より具体的には、連続した空隙において、最も狭い箇所の直径(図1に「m」で示す)が、0.1mm以下である領域を有する空隙を指し、0.05mm以下の領域を有する空隙であることが好ましい。
コケの育成に好適な土壌水分は毛管力により細骨材の粒子間で懸垂状態にあることが好ましい。細骨材、詳細には、表面に樹脂バインダー層を有する細骨材の粒子間の空隙において、連続する空隙の直径として、0.1mm以下、より好ましくは、0.05mm以下の領域を有する場合、微細な空隙が一旦水で飽和されると、その水を毛管力で支えて簡単には失わない。このため、硬化体が内部に毛管保水可能な空隙を有することで、コケの育成に好適な湿潤状態が維持される。
他方、直径が0.1mmよりも大きい空隙は、水分を保持する力が弱く、重力により容易に排水される。図1中、直径が0.1mmよりも大きい空隙の一例を空隙16Bとして示す。空隙16Bは、毛管保水可能な空隙16Aよりも面積の広い空隙を示す。
本開示のコケ育成用硬化体では、直径が0.1mmよりも大きい空隙を有していてもよい。水分を容易に通過させ、流去させうる空隙は、過剰の水分を除去するために有用であり、また、コケの育成に必要な空気の流路ともなりうる。
なお、以下に示す各図面において、同一の符号を用いて示される構成要素は、同一の構成要素であることを意味する。
(空隙率の測定)
基材を有しない硬化体を用いて測定を行う。
材齢7日後の硬化体を、20℃の水中に72時間浸漬後、表乾質量Wsを測定する。
その後、硬化体を50℃にて72時間乾燥し、質量Wdを測定する。
被検体である硬化体の体積Vsは、硬化体の寸法をノギスで測定して求める。
硬化体の空隙率P(%)は、上記で得られた表乾質量(Ws)、乾燥後の質量(Wd)、硬化体の体積Vsおよび水の密度ρwを用い、以下の式Aにより算出した値を用いる。
コケ育成用硬化体18を、厚み方向に切断し、切断面を、研磨装置(丸本ストルアス(株)製、Rotopol-22:商品名)を用いて研磨し、平滑面を形成する。
形成した平滑面を、走査型電子顕微鏡(SEM、キーエンス社製、型番:VE-7800)によって、倍率100倍~1000倍で撮影し、SEM画像を得る。得られたSEM画像から空隙の状態を観察し、毛管保水可能な空隙の有無、より具体的には、空隙における直径0.1mm以下の領域の有無を確認することができる。
本開示のコケ育成用硬化体は、平均粒径が100μm~900μmの細骨材を含む。
細骨材としては、平均粒径が上記範囲であれば特に制限はなく、公知の細骨材を用いることができる。
公知の細骨材としては、山砂、川砂、けい砂、軽量骨材等が挙げられる。また、スラグ砕砂、ガラスカレット等の再生材を用いることもできる。これらの細骨材から平均粒径が上記範囲のものを選択して使用することができる。
なかでも、入手が容易であり、粒径が比較的均一である4号けい砂~8号けい砂が好ましく、得られる硬化体の保水性能と強度のバランスが良好であるという観点から、5号けい砂及び6号けい砂が、より好ましい。
本開示のコケ育成用硬化体は、樹脂バインダーを含む。
樹脂バインダーは、前記特定の粒径を有する細骨材間を結合させるバインダーとしての機能を有し、硬化体に必要な保形性と強度とを発現しうるものであれば、いずれも使用することができる。
樹脂バインダーとして用い得る樹脂としては、エポキシ樹脂、ブタジエン樹脂、ウレタン樹脂、ビニル樹脂(例えば、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ビニルエステル樹脂、ビニルエーテル樹脂等)、シリコーン樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、例えば、シリル化ポリウレタン樹脂、変成シリコーン樹脂等の如く変性された樹脂でもよい。(メタ)アクリル樹脂としては、(メタ)アクリルモノマーを含む共重合体樹脂であってもよい。
なかでも、得られる硬化体の保水性能と強度のバランスが良好であるという観点から、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ブタジエン樹脂、及びアクリル樹脂が好ましい。
硬化体における空隙率を30%~60%の範囲に維持しやすいという観点からは、細骨材に対する樹脂バインダーの添加量は細骨材100質量部に対して0.5質量部~10質量部とすることが好ましく、1.5質量部~5質量とすることがより好ましい。
硬化体は、既述の細骨材及び樹脂バインダーに加え、効果を損なわない範囲において、公知の成分(以下、その他の成分と称することがある)をさらに含んでもよい。
その他の成分としては、補強繊維、コケの育成を促進するためのケト土、苔玉盆景土などの土成分、コケや土成分の流失を抑制する浸食防止剤、保水性向上のための吸水ポリマー、外観を調製するための顔料などの着色剤、赤玉土等の多孔質砂利などが挙げられる。
なお、ケト土は、葦、まこも等の水辺の植物、プランクトンなどが水底に堆積し、長期間掛けて粘土質の土に変化したものであり、栄養が豊富で泥状のため保水性が良好な土である。苔玉盆景土は、ケト土、樹皮培養土、赤玉土、鹿沼土、川砂などを水で練って作製された盆景の作製に適した土混合物である。
本開示のコケ育成用硬化体は、補強繊維、補強ネットなどの補強材を含んでもよい。
硬化体に含まれる樹脂バインダーは、用いる樹脂にもよるが、硬化までに約1日程度の時間を要することがある。硬化前に外力により容易に変形する。また、空隙率を向上させるため、樹脂バインダーの含有比率を低くすると、硬化体の強度がより低くなり、樹脂バインダーの硬化後においても外力で容易に変形する場合がある。
樹脂バインダーが、炭素繊維、ポリプロピレン繊維、金属繊維等の補強繊維、補強ネットなどの補強材を含むことで、樹脂バインダーの硬化までの保形性及び樹脂バインダー硬化後の成形体の強度をより向上することができる。
補強繊維を含有させる場合の含有量は、硬化体を形成するための硬化体形成用組成物の固形分に対し、0.5容積%~2.0容積%の範囲が好ましい。補強繊維を含む硬化体形成用組成物を調製し、得られた硬化体形成用組成物を硬化することで、補強繊維を含む硬化体を得ることができる。
補強繊維は、形成される硬化体の形状、配置する場合の角度などに応じて、繊維長、混入量等を適宜調整することができる。
補強ネットの材料、目合い、柔軟性などは、形成される硬化体の形状、配置する場合の角度などに応じて適宜選択することができる。
硬化体を所定の施工面に配置する場合には、補強ネットをコケ育成用硬化体を施工する面に予め固定し、その後、硬化体形成用組成物を配置して、補強ネットをコケ育成用硬化体内に取り込むように施工することで、硬化体に補強ネットを含ませることができる。
硬化体が、擬岩などの形状を有する場合には、基材の表面を補強ネットで被覆して固定し、その後、硬化体形成用組成物を配置して、補強ネットをコケ育成用硬化体内に取り込むように施工すればよい。
硬化体は、浸食防止剤を含有してもよい。浸食防止剤は、散布したコケ、硬化体に含まれるケト土などの土成分の流出を防ぐ目的で、主に法面緑化工法に用いられる高分子化合物を含む粒状又は液状の成分である。浸食防止剤は、浸食防止の作用により、被膜型(地表面に不透水性の薄い皮膜を作るタイプ)、浸透連結型(地中に浸透して地表面近くの土粒子を連結するタイプ)及び浸透充填型(地中に浸透して土粒子間を充填するタイプ)がある。本開示の硬化体に用いる浸食防止剤は、浸透連結型が好ましい。浸食防止剤は、硬化体の製造時に含まれてもよく、硬化体の製造後に付与されてもよい。
図2は、本開示のコケ育成用硬化体の別の態様である、コケ育成用硬化体(硬化体)18のコケを育成する面上に凹部を有する基材付コケ育成用硬化体22を示す。基材付コケ育成用硬化体22は、基材20と、前記基材20の面上に配置されたコケ育成用硬化体18を備える。
図2Aに示す基材付コケ育成用硬化体22は、硬化体18のコケを育成する面上に、それぞれ独立して配置された深さが1mm以上の凹部24を有する態様を示す斜視図であり、図2Bは、図2Aに示す基材付コケ育成用硬化体22の概略断面図である。
図2に示すように、硬化体18の表面には、硬化体18が有する微細な溝よりもサイズの大きい、深さ1mm以上の半球形の凹部24が形成されている。
コケの固着し易さ、充分な保水性を有するという観点からは、凹部の深さは1mm以上であることが好ましく、5mm以上であることがより好ましい。
凹部24の深さには特に上限はないが、コケの定着性と保水性のバランスが良好であるという観点からは15mm以下であることが好ましい。硬化体の形成された凹部が深すぎると、例えば、凹部に土を充填し、コケを植え付けたときに、風雨等により土ごとコケ層が剥離してしまう場合がある。
しかし、凹部の形状は特に制限はなく、任意の形状とすることができる。凹部の平面視における形状としては、例えば、矩形、多角形、星型、数字、文字などの形状が挙げられるが、これらに制限されない。
また、後述するように、凹部は、硬化体の一辺と、その辺と対向する辺との間に連続して設けられてもよい。
深さが1mmの凹部24を有することで、凹部24を有する領域は保水性が、凹部を有しない領域に比較してより良好となる。従って、基材付コケ育成用硬化体22において凹部24が形成された領域は、コケの定着性が、凹部を有しない領域に比較してより良好となる。
図3に示す枠体付き硬化体26は、矩形の枠体30内に、既述の本開示の硬化体18が配置されてなり、硬化体18には、コケの育成面に、矩形の枠体30の長辺の一方の片から、対向する他方の片まで連続して形成された溝状の凹部28を有する。
溝状の凹部の深さは1mm以上であることが好ましい。
溝状の凹部の幅は目的に応じて適宜選択されるが、植え付けたコケが脱落しがたく安定に保持しうるという観点からは、1mm~5mmの範囲であることが好ましい。上記幅の範囲であると、コケを硬化体に植え付ける際に、コケの生体を溝状の凹部に挟み込むことができ、安定な植え付けが可能となる。
硬化体18が溝状の連続した凹部28を有し、凹部28は、地面に平行な方向に配置されることで、図3に示すように矩形の枠体30内に配置された板状の硬化体18を、水平面(例えば、地面)に対して、60°~90°の角度をもって配置した場合においても、溝状の連続した凹部28が保水領域となり、既述のように溝状の凹部28に、コケの生体を植え込むことができ、凹部28が水分を保するため、植え付けたコケの早期定着が可能となり、かつ、コケの育成に適する湿潤な環境を長期間維持することができる。
溝状に形成された凹部28において早期に定着したコケの育成に伴い、凹部28の周辺にもコケが拡がり、角度を持って配置した場合でも、溝状の凹部を有しない態様に比較して、より早期に硬化体上に広範なコケ層が形成される。
本開示のコケ緑化体は、既述の本開示のコケ育成用硬化体の面上にコケ層を有する。
図4は、基材20の面上に配置された既述の本開示のコケ育成用硬化体18の面上にコケ層34を有するコケ緑化体32の一態様を示す概略断面図である。
コケは、一般には、根が短く、深く根を張ることが少ない。このため、深い凹部に土と共に植え付けると土ごと脱離し易くなる。しかし、本開示の硬化体18における空隙は微細ではあるが、例えば、小型、中形のコケの根が定着するには充分な大きさであり、かつ、硬化体18が毛管保水可能な空隙を有することにより、コケは硬化体18により定着し易いと考えられる。
コケの定着促進のため、硬化体18のコケ層を形成する面にケト土などの土を塗り付けたり、シート状のコケを植え付ける場合には、接着剤を介して接着したりしてもよい。
また、貼り付けたシート状のコケの脱離を防止するため、コケを配置した後、不織布、糸などで硬化体18或いは基材20に止め付けてもよい。
コケは、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、コケは種類により耐陰性、耐水性などが大きく異なるため、早期の緑化を行なう観点からは、2種以上のコケを併用することが好ましい。
公知の方法としては、例えば、コケマット等のシート状のコケの集合体を硬化体の面上に押し付けて張る方法、既に生育されたコケを、根が付いた状態でそのまま硬化体の凹部に土を入れて移植する方法、コケの緑の部分を細かく裁断又は粉砕した物をそのまま吹き付けたり、ケト土と混ぜ合わせて吹き付けたりする吹き付け方法等が挙げられる。
硬化体の面上の全面に接着剤を塗布すると、微細な空隙を埋めてしまう場合があるため、コケを一つずつ硬化体の面上に貼り付ける方法、硬化体に極少量の接着剤を付着させ、そこに、丁寧にコケを貼り付ける方法などをとることが好ましい。
本開示の硬化体は適度な保水性を有するため、少なくとも一部において接着剤等を介して硬化体に接着されたコケは、接着された部分から拡がるように生育する。
また、コケ層をペーパー等の不織布、水解紙などで挟んだコケマットも市販されており、このようなコケマットを用いる場合も、コケの緑色の面を硬化体と接するように配置する。
コケマット等のシート状のコケを硬化体に安定に定着させるため、接着剤等を用いて接着する方法の他に、例えば、不織布、糸等を用いて固定する方法をとることができる。
既述のように、硬化体に形成された凹部は深さが15mm以下であるため、降雨などにより土ごと流失する虞がある。このため、定着までは、不織布などにより表面を保護することが好ましい。
コケの緑色の部分は切断片であっても、生育に適する環境下では、発芽或いは発根して生育する。このため、コケの緑色の部分の切断片をそのまま硬化体の面上に吹き付けたり、切断片をケト土等と混合した混合物を硬化体の面上に吹き付けたりして、コケを植え付けることができる。
また、細骨材と樹脂バインダーとを混合する際に、コケの切断片とケト土とを投入し、混合した混合物を用いてコケを植え付けることができる。即ち、細骨材、樹脂バインダーに加え、コケの切断片を含む混合物で硬化体を形成する方法をとることで、硬化体の内部又は表面に位置するコケの切断片からコケの生育が開始される。
本開示の硬化体は、任意の基材上に設けてもよい。基材として岩状の下地材を用いることで、擬岩を形成しうる。
即ち、本開示のコケ育成用擬岩は、岩形状の下地材の面上に、既述の本開示のコケ育成用硬化体からなるコケ育成用硬化体層を有する。
基材となる擬岩は、市販の擬岩を基材として使用してもよく、公知の方法で作製した擬岩を基材として使用してもよい。
例えば、初めにアングル(長さ50mm×幅50mm×厚さ6mm)で骨組みを製作し、鉄筋とラス金網(メタルラス)で最終形状に近い「鳥かご」状の下地を組み、次に、下地モルタルを厚み2cm程度でラス金網に塗りつけ、下地モルタルを固化させて基材となる擬岩を得ることができる。
他方、本開示のコケ育成用擬岩では、上記の如くして得られたモルタルを固化させてなる擬岩(基材)の表面に、細骨材と樹脂バインダーとを含む硬化体形成用組成物を塗りつけ、樹脂バインダーを硬化させて基材表面に硬化体の層を形成させて得ることができる。
本開示のコケ育成用擬岩は、表面に保水性が良好であり、コケの定着性に優れた上記本開示の硬化体からなる層を有するため、コケの定着、育成に適する擬岩となる。
基材自体は、モルタルを用いても、コケの育成面とモルタル基材との間に硬化体が存在し、かつ、コケの根が深部まで成長しないことにより、モルタル基材に起因するアルカリ成分がコケの育成に影響を与える可能性は極めて低い。
従って、任意の箇所に任意の形状で、コケの育成に適した擬岩を配置することができ、例えば、石垣の修復面に、コケ育成用擬岩を配置することで、コケが定着され、成長するために、早期に修復面を目立たなくさせる用途などに有用である。
また、軽量で、コケの育成に適するため、屋上庭園の装飾用擬岩、建築物の外壁の装飾などにも適用することができる。
本開示のコケ育成用硬化体の製造方法は、平均粒径が100μm~900μmの細骨材と樹脂バインダーとを混合し、混合物を得る工程(以下、工程(I)と称することがある)と、前記混合物を硬化させて、空隙率が30%~60%であり、毛管作用により水を保持する毛管保水可能な空隙を有する、多孔質硬化体を形成する工程(以下、工程(II)と称することがある)と、を有する。
本工程では、まず、平均粒径が100μm~900μmの細骨材と樹脂バインダーとを混合し、混合物を得る。
コケ育成用硬化体に含まれる細骨材及び樹脂バインダーは、前記コケ育成用硬化体の項において説明したのと同様であり、好ましい態様も同じである。
まず、樹脂バインダーと、必要に応じて併用される硬化剤とを準備する。その後、細骨材を、例えば、モルタルミキサーなどで撹拌しながら、樹脂バインダーをミキサー中に投入し、充分混合して硬化体作成用の混合物を得る。
硬化体が着色剤、補強繊維等のその他の成分を含有する場合には、ミキサー中に投入して同時に撹拌混合すればよい。また、混合物の調製時に、粒状のケト土を含有させることで、ケト土の粒径に応じた凹部などの空隙を硬化体に形成することができる。
本工程では、前工程(I)で得られた混合物を硬化させて、空隙率が30%~60%であり、毛管作用により水を保持する毛管保水可能な空隙を有する、多孔質硬化体を形成する。
平板状の仮基材の上に前記混合物を配置し、表面をコテなどで平らにならし、敷設した後、樹脂バインダーを硬化させることで、平板状の硬化体を形成することができる。
また、型枠を用いる際には、任意の型枠内に混合物を投入し、表面をコテなどで平らにならし、型枠内に混合物を敷設した後、樹脂バインダーを硬化させることで、任意の型枠の形状に応じた硬化体を得ることができる。
また、基材上に硬化体を形成する場合には、基材表面に混合物を配置し、表面をコテなどで平らにならし、基材上に混合物を敷設した後、樹脂バインダーを硬化させることで、任意の基材上に配置された硬化体を得ることができる。
例えば、基材上にコケ育成用硬化体を形成する場合には、前記工程(I)後に、さらに、基材上に、プライマー層を形成する工程(工程(III))を有し、前記工程(II)が、前記基材上にプライマー層を介して多孔質硬化体を形成する工程であってもよい。
基材上にプライマー層を有することにより、基材の形状に係わらず、安定に多孔質硬化体を形成し、固定化することができる。
例えば、擬岩を基材とする場合には、擬岩の外面に既述の混合物を所定の厚みに塗りつけて、混合物の層を形成し、その後、樹脂バインダーを硬化させることで、コケ育成用擬岩を形成できる。このとき、擬岩の表面にプライマー層を形成することで、擬岩地面に対して垂直な面、或いは、擬岩の底面などにおいても、より安定な硬化体の固定化が実現される。
なかでも、得られる硬化体の保水性能と強度のバランスが良好であるという観点から、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ブタジエン樹脂、及びアクリル樹脂が好ましい。
また、プライマーとしては中粘度で適度な遥変性を有している材料であり、擬岩の表面に、プライマーを刷毛等を用いて0.3g/m2~0.5g/m2で塗布し、プライマー層のタックがある間に、工程(II)を行えばよい。
-樹脂バインダー1-
1液型エポキシ樹脂系結合材(コニシ株式会社製「ボンド(登録商標、以下同様) TK結合剤E」、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ケチミン混合物、不揮発分:約100%)
-樹脂バインダー2-
1液型ポリブタジエン系結合材(コニシ株式会社製「ボンド TK結合剤PB」、酸化硬化タイプ。不揮発分:約100%)
細骨材として6号けい砂(平均粒径:240μm)を用い、細骨材100質量部に対し、既述の各樹脂バインダー2.0質量部を添加し、モルタルミキサーにて3分間混合してコケ育成用硬化体形成用の混合物を作製した。
(硬化体1)
得られた混合物を200mm×300mmの型枠に、厚さ10mmになるように表面を人力(コテ)で圧縮し、敷均して、樹脂バインダーを硬化させ、コケ育成用硬化体を形成した。
前記硬化体1と同様に、型枠に混合物を敷設した後に、硬化前の敷設物の表面に2mmの粒状の土を線状に押し付け、その後、樹脂バインダーを硬化させ、硬化後に土を洗い流すことで幅2mm、深さ5mm程度の、連続した溝状の凹部を設け、図3に示す如き連続した溝状の凹部を有するコケ育成用硬化体を得た。
硬化体1と同様に、型枠に混合物を敷設した後に、硬化前の敷設物の表面に、直径2mm及び直径5mmの粒状の土を10mm以上の間隔で押し付け、樹脂バインダーを硬化させ、硬化後に土を洗い流すことで、平面視における直径2mm及び直径5mmの円形状の互いに独立した凹部をランダム状に設けて、コケ育成用硬化体を得た。
(1.圧縮強度の測定)
圧縮強度の評価のため、得られた混合物を40mm×40mm×160mmの型枠内に配置し、表面を平面上にならして、樹脂バインダーを硬化させ、材齢7日後の硬化体を、圧縮強度測定用硬化体とした。得られた圧縮強度測定用硬化体の圧縮強度を、JIS R5201に準じて測定した。養生温度は20℃とした。
その結果、エポキシ樹脂を主剤とする樹脂バインダー1を含む硬化体は圧縮強度が6.5N/mm2であり、ブタジエン樹脂を主剤とする樹脂バインダー2を含む硬化体は圧縮強度が5.9N/mm2であった。
空隙率は、圧縮強度測定用硬化体と同様の方法で作製した、40mm×40mm×160mmの、材齢7日後の硬化体を用いて、既述の方法により測定した。
その結果、エポキシ樹脂を主剤とする樹脂バインダー1を含む硬化体は空隙率が42%であり、ブタジエン樹脂を主剤とする樹脂バインダー2を含む硬化体は空隙率が44%であり大きな差異は見られなかった。
空隙率は、圧縮強度と同様の方法で作製した、前記硬化体1の形状の、材齢7日後の硬化体を用いて、既述の方法により毛管保水可能な空隙の有無を確認した。
その結果、樹脂バインダー1を含む硬化体及び樹脂バインダー2を含む硬化体のいずれも、直径0.05mm程度の空隙の存在が確認された。
また、いずれの硬化体も、実用上問題のない圧縮強度を有していた。
(コケ育成状況の確認)
樹脂バインダー2を用いた、硬化体1の形状のコケ育成用硬化体を試験体(実施例1の硬化体)として、コケ(スナゴケ、ハイゴケ、アオギヌゴケ、シラガゴケ、及びヤマゴケの混合物)を用い、生育のよい緑の濃い状態のコケの先端を切断し、コケの切断片と水との混合物と接着剤(アクリル樹脂主剤:栗田工業(株)製、クリコート(登録商標))とを10倍で混合した混合物を硬化体表面に吹き付けた。
コケを吹き付けた試験体である硬化体を、温度22℃~25℃、湿度30%~60%RH、床面照度500Lx程度、気流のない人工気象室に配置して、1年間コケを育成させた。水やりは、硬化体の底面側に敷設した不織布シートを用いた底面灌水を1日2回、各90分の条件で行なった。
本開示の硬化体では、1年後にコケの育成が進行し、硬化体の表面が緑色のコケで覆われているのが観察された。
例えば、骨材とセメントとを含むモルタル組成物により、同様の形状の硬化体を形成して、実施例1と同様にコケを散布しても、アルカリ成分の影響により、コケの生育は劣勢であり、新芽の発芽も認められないことを考慮すれば、実施例1の硬化体は、コケの生育が極めて良好であり、コケの育成に適することがわかる。
樹脂バインダー1を用い、硬化体2の形状、即ち幅2mm、深さ5mm程度の凹部を、間隔1cmで線状に設けたコケ育成用硬化体を試験体(実施例2の硬化体)とした。
ハイゴケ(スナゴケ、ハイゴケ、アオギヌゴケ、シラガゴケ、及びヤマゴケ)の生体を、実施例2の硬化体の溝部に挟み込み、コケを硬化体に植え付けた。実施例2の硬化体を6枚準備し、実施例1と同様の人工気象室の床面に平行に配置したグループ(実施例2-A)3枚と、床面に対し60°の角度で配置したグループ(実施例2-B)3枚とに分け、実施例1と同様にして人工気象室内にて1年間コケを育成した。なお、実施例2-Bでは、形成した線状の凹部を床面に平行となる方向で配置した。
また、対照例として溝のない実施例1の硬化体についても、実施例2の硬化体に植えたハイゴケを接着剤(コニシ株式会社製、「木工用ボンド」)で、実施例2の溝の形成領域と同じ領域に貼り付けて、コケの育成状態を観察した。
なお、硬化体を床面に水平に配置した実施例2-Aのグループは、実施例1の硬化体に比較し、形成された溝状の凹部を中心に、成長範囲がやや広くなっていることが確認された。実施例2の硬化体は、溝状の凹部が水分を多く保持しうるため、実施例1の硬化体に比較してコケの育成状態がやや改善されたが、大きな差は認められなかった。
このことから、溝状の連続した凹部を有する実施例2の硬化体によれば、硬化体を地面に対して角度を持って配置した場合において、コケの育成状態がより高度に改善されることがわかる。
12 細骨材
14 樹脂バインダー
16 空隙
16A 毛管保水可能な空隙
16B 毛管保水可能な空隙よりも面積の広い空隙
18 コケ育成用硬化体(硬化体、多孔質硬化体)
20 基材
24 凹部(コケ育成面に設けられる凹部)
26 枠体付コケ育成用硬化体
28 連続して設けられた溝状の凹部(連続した凹部)
30 枠体
32 コケ緑化体
34 コケ(コケ層)
Claims (7)
- 山砂、川砂、けい砂、及びガラスカレットからなる群より選ばれ、平均粒径が100μm~900μmの細骨材と前記細骨材100質量部に対し、0.5質量部~10質量部の樹脂バインダーとを含む多孔質硬化体であり、
空隙率が30%~60%であり、
前記多孔質硬化体は、毛管作用により水を保持する毛管保水可能な空隙を有する、コケ育成用硬化体であり、
前記コケ育成用硬化体の面上にコケを植え付けて用いられるコケ育成用硬化体。 - コケを育成する面上に、深さが1mm以上の凹部を有し、前記凹部にコケを植え付けて用いられる請求項1に記載のコケ育成用硬化体。
- 前記凹部が、それぞれ独立して配置された凹部及び溝状の連続した凹部から選ばれる請求項2に記載のコケ育成用硬化体。
- 請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のコケ育成用硬化体の面上にコケ層を有するコケ緑化体。
- 岩形状の下地材の面上に、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のコケ育成用硬化体からなるコケ育成用硬化体層を有するコケ育成用擬岩。
- 山砂、川砂、けい砂、及びガラスカレットからなる群より選ばれ、平均粒径が100μm~900μmの細骨材と前記細骨材100質量部に対し、0.5質量部~10質量部の樹脂バインダーとを混合し、混合物を得る工程と、
前記混合物を硬化させて、空隙率が30%~60%であり、毛管作用により水を保持する毛管保水可能な空隙を有する、多孔質硬化体を形成する工程と、
を有するコケ育成用硬化体の製造方法。 - さらに、基材上に、プライマー層を形成する工程を有し、
前記多孔質硬化体を形成する工程が、前記基材上にプライマー層を介して多孔質硬化体を形成する工程である請求項6に記載のコケ育成用硬化体の製造方法。
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