JP7097492B2 - 塗装鋼板 - Google Patents
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Description
このような溶融Al-Zn-Si-Mg系めっき鋼板としては、例えば特許文献1に、めっき皮膜中にMgを含むAl-Zn-Si合金を含み、該Al-Zn-Si合金が、45~60重量%の元素アルミニウム、37~46重量%の元素亜鉛及び1.2~2.3重量%のSiを含有する合金であり、該Mgの濃度が1~5重量%である、溶融Al-Zn-Si-Mg系めっき鋼板が開示されている。
また、特許文献2には、めっき皮膜中に2~10%のMg、0.01~10%のCaの1種以上を含有させることで耐食性の向上を図るとともに、下地鋼板が露出した後の保護作用を高めることを目的とした溶融Al-Zn-Si-Mg系めっき鋼板が開示されている。
さらに、特許文献3には、質量%で、Mg:1~15%、Si:2~15%、Zn:11~25%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる被覆層を形成し、めっき皮膜中に存在するMg2Si相やMgZn2相などの金属間化合物の大きさを10μm以下とすることで、平板及び端面の耐食性の改善を図った溶融Al-Zn-Si-Mg系めっき鋼板が開示されている。
例えば特許文献4には、めっき皮膜中に0.01~10%のSrを含有させることで、しわ状の凹凸欠陥を抑制した溶融Al-Zn-Si-Mg系めっき鋼板が開示されている。
さらに、特許文献5にも、めっき皮膜中に500~3000ppmのSrを含有させることで、まだら欠陥を抑制した溶融Al-Zn-Si-Mg系めっき鋼板が開示されている。
また、特許文献6には、めっき皮膜中に0.001~1.0%のSrを含有させることで、表面外観性と耐食性を両立させた溶融Al-Zn-Si-Mg系めっき鋼板が開示されている。
さらに、特許文献7にも、めっき皮膜中に0.001~1.0%のSrを含有させることで、表面外観性と平板部と加工部の耐食性を両立させた溶融Al-Zn-Si-Mg系めっき鋼板が開示されている。
さらにまた、特許文献8にも、めっき皮膜中に0.01~0.2%のSrを含有させることで、表面外観性と耐食性を両立させた溶融Al-Zn-Si-Mg系めっき鋼板が開示されている。
また、特許文献9には、めっき皮膜中のSiとMg濃度を特定の比率で制御することで、耐食性を向上させた溶融Al-Zn-Si-Mg系めっき鋼板が開示されている。
しかし、昨今このような塗装鋼板について、環境負荷物質であるクロメートを使用することが問題視されており、クロメートフリーであっても耐食性や表面外観を改善できる塗装鋼板の開発が強く望まれている。
これらの要求に対応した技術として、例えば特許文献10には、鋼材の表面上に、Al、Zn、Si及びMgを含み、且つ、これらの元素の含有量について調整を図ったアルミニウム・亜鉛合金めっき層(α)をめっきし、更にその上層として、チタン化合物およびジルコニウム化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物(A)を造膜成分とする皮膜(β)を形成し、アルミニウム・亜鉛合金めっき層(α)中のSi-Mg相の、めっき層中のMg全量に対する質量比率を3%以上に調整した表面処理溶融めっき鋼材が開示されている。
特許文献1~3に開示された溶融Al-Zn-Si-Mg系めっき鋼板では、めっき成分にMgを含有させることのみで耐食性の向上を図っているが、めっき皮膜を構成する金属相・金属間化合物相の特徴については考慮されておらず、耐食性の優劣について一律に語ることができなかった。そのため、同じめっき浴組成を用いて溶融Al-Zn-Si-Mg系めっき鋼板を製造した場合でも、腐食促進試験を実施するとその耐食性にばらつきが存在し、Mgを添加しないAl-Zn系めっき鋼板に対して必ずしも優位にはならない、という問題があった。
同様に、めっき外観性の改善においても、めっき皮膜中にSrを添加したのみでは、必ずしもシワ状の凹凸欠陥を消滅させることができる訳ではなく、特許文献4~8に開示された溶融Al-Zn-Si-Mg系めっき鋼板についても、耐食性と外観を両立できていない場合があった。加えて、Mgが酸化しやすい元素であるため、めっき浴中に含有されるMgが浴面近傍に酸化物(トップドロス)を発生させたり、溶融めっきの場合、時間の経過とともにめっき浴の浴中又は底部に偏在する鉄を含んだFeAl系化合物(ボトムドロス)が発生することがあり、これらのドロスが、めっき皮膜の表面に付着して凸形状の欠陥を引き起こし、めっき皮膜表面の外観を損ねるおそれもあった。
特許文献9に開示された溶融Al-Zn-Si-Mg系めっき鋼板では、SiとMgの濃度を特定の比率で管理し、めっき皮膜中のSi相の析出を無くすことで耐食性の改善を図っているが、必ずしもSi相の抑制ができるとは言えず、めっき皮膜中におけるSi相の形成を抑制できた場合においても優れた耐食性が得られない場合がある等、技術的に不完全なものであった。
塗装鋼板の耐食性は、下地とするめっき鋼板の耐食性に影響されることはいうまでもなく、表面外観についても、しわ状欠陥の凹凸の高低差は数十μmにも及ぶことから、塗膜により表面が平滑化しても凹凸の完全解消には至らず、塗装鋼板としての外観改善は望めないと考えられる。さらに、凸部では塗膜が薄くなるため、局部的に耐食性が低下する懸念もある。そのため、耐食性と表面外観に優れた塗装鋼板を得るには、下地であるめっき鋼板の耐食性と表面外観を改善することが重要である。
ただし、これらのMg2Si相及びSi相については、一般的な手法、例えば走査型電子顕微鏡を活用し、めっき皮膜を表面または断面から二次電子像あるいは反射電子像などの観察を実施しても相の違いを判別することは非常に困難であることが知られている。より詳細な解析ができる手法として、透過型電子顕微鏡を用いて観察を行うことでミクロな情報を得ることは可能であるが、耐食性や外観といったマクロな情報を左右するMg2Si相及びSi相の存在比率まで把握することはできなかった。
そのため、本発明者らはさらに鋭意研究を重ねた結果、X線回折法に着目し、Mg2Si相及びSi相について特定の回折ピークの強度比を利用することによって、相の存在比率を定量的に規定できること、さらに、めっき皮膜中にMg2Si相とMgZn2相が特定の存在比率を満足すると、安定的に優れた耐食性及び加工部耐食性を実現できることに加え、ドロスの発生を抑えて良好な表面外観性も確保できることを見出した。
また、本発明者らは、上述したMg2Si相、Si相等の存在比率を制御した上で、浴中のSr濃度を制御することで、シワ状の凹凸欠陥の発生を確実に抑え、表面外観性に優れためっき鋼板が得られることも知見した。
1.めっき皮膜上に、直接又は化成皮膜を介して、塗膜が形成された塗装鋼板であって、
前記めっき皮膜は、Al:45~65質量%、Si:1.0~4.0質量%及びMg:1.0~10.0質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有し、
前記めっき皮膜中のSi 及びMg2SiのX線回折による回折強度が、以下の関係(1)を満足し、
Si (111)/Mg2Si (111)≦0.8 ・・・(1)
Si (111):Siの(111)面(面間隔d=0.3135nm)の回折強度、
Mg2Si (111):Mg2Siの(111)面(面間隔d=0.3668nm)の回折強度
前記化成皮膜は、(a):エステル結合を有するアニオン性ポリウレタン樹脂及び(b):ビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂を合計で30~50質量%含有し、該(a)と該(b)の含有比率((a):(b))が、質量比で3:97 ~60:40の範囲である樹脂成分と、2~10質量%のバナジウム化合物、40~60質量%のジルコニウム化合物及び0.5~5量%のフッ素化合物を含む無機化合物と、を含有し、
前記塗膜は、プライマー塗膜を少なくとも有し、該プライマー塗膜が、ウレタン結合を有するポリエステル樹脂と、バナジウム化合物、リン酸化合物及び酸化マグネシウムを含む無機化合物と、を含有することを特徴とする、塗装鋼板。
Si (111)=0 ・・・(2)
本発明の塗装鋼板では、前記めっき皮膜が、Al:45~65質量%、Si:1.0~4.0質量%及びMg:1.0~10.0質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有する。
また、前記めっき皮膜中にMgを含有すると、めっき皮膜中に金属間化合物であるMgZn2相も形成され、より耐食性を向上させる効果が得られる。前記めっき皮膜中のMg含有量が1.0質量%未満の場合、前記金属間化合物(Mg2Si、MgZn2)の生成よりも、主要相であるα-Al相への固溶にMgが使用されるため、十分な耐食性が確保できない。一方、前記めっき皮膜中のMg含有量が多くなると、耐食性の向上効果が飽和することに加え、α-Al相の脆弱化に伴い加工性が低下するため、含有量は10.0%以下とする。さらに、前記めっき皮膜中のMg含有量は、めっき形成時のドロス発生を抑制し、めっき浴管理を容易にする観点から、5.0質量%以下とすることが好ましい。なお、前記Siの含有量との関係で、後述の(1)の関係式を満たしやすい観点からは、前記Mgの含有量を3.0質量%とすることが好ましく、ドロス抑制との両立性を考慮すると、前記Mgの含有量を3.0~5.0質量%とすることがより好ましい。
Si (111)/Mg2Si (111)≦0.8 ・・・(1)
Si (111):Siの(111)面(面間隔d=0.3135nm)の回折強度、Mg2Si (111):Mg2Siの(111)面(面間隔d=0.3668nm)の回折強度
なお、前記めっき皮膜中のMg2SiとSiとの存在比率については、仮にめっき皮膜の組成が本発明の範囲を満たす(Al:45~65質量%、Si:1.0~4.0質量%及びMg:1.0~10.0質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる)場合であっても、Mg2Si及びSiの存在比率が関係(1)を満たさない場合には、本発明によるめっき皮膜の保護作用向上効果を十分に得ることができない。
前記X線回折によりSi (111)及びMg2Si (111)を測定する方法としては、前記めっき皮膜の一部を機械的に削り出し、粉末にした状態でX線回折を行うこと(粉末X線回折測定法)で算出することができる。回折強度の測定については、面間隔d=0.3135nmに相当するSiの回折ピーク強度、面間隔d=0.3668nmに相当するMg2Siの回折ピーク強度を測定し、これらの比率を算出することでSi (111)/Mg2Si (111)を得ることができる。
なお、粉末X線回折測定を実施する際に必要なめっき皮膜の量(めっき皮膜を削り出す量)は、精度良くSi (111)及びMg2Si (111)を測定する観点から、0.1g以上あればよく、0.3g以上あることが好ましい。また、前記めっき皮膜を削り出す際に、めっき皮膜以外の鋼板成分が粉末に含まれる場合もあるが、これらの金属間化合物相はめっき皮膜のみに含まれるものであり、また前述したピーク強度に影響することはない。さらに、前記めっき皮膜を粉末にしてX線回折を行うのは、めっき鋼板に形成されためっき皮膜に対してX線回折を行うと、めっき皮膜凝固組織の面方位の影響を受け正しい相比率の計算を行うことが困難なためである。
Si (111)=0 ・・・(2)
一般的に、Al合金の水溶液中への溶解反応においては、Si相がカソードサイトとして存在することで周辺のα-Al相の溶解を促進することが知られていることから、Si相を少なくすることはα-Al相の溶解を抑制する観点でも有効であり、その中でも関係(2)のようにSi相が存在しない皮膜とすること(前記Si(111)の回折ピーク強度をゼロとすること)が耐食性の安定化のために最も優れている。
なお、X線回折によりSiの(111)面の回折ピーク強度の測定方法は、上述した通りである。
また、前記めっき皮膜中のSiの含有量、Mgの含有量及びAlの含有量のバランスを調整する他にも、めっき皮膜形成時の条件(例えば、めっき後の冷却条件)を調整することによって、関係(1)や関係(2)を満たすように、Mg2Si (111)及びSi (111)の回折強度を制御できる。
このうち、前記不可避的不純物はFeを含有する。このFeは、鋼板や浴中機器がめっき浴中に溶出することで不可避的に含まれるものと界面合金層の形成時に下地鋼板からの拡散によって供給される結果、前記めっき皮膜中に不可避的に含まれることとなる。前記めっき皮膜中のFe含有量は、通常0.3~2.0質量%程度である。その他の不可避的不純物としては、Cr、Ni、Cu等が挙げられる。前記不可避的不純物の総含有量については、特に限定はされないが、過剰に含有した場合、めっき鋼板の各種特性に影響を及ぼす可能性があるため、合計で5.0質量%以下であることが好ましい。
なお、前記シワ状欠陥とは、前記めっき皮膜の表面に形成されたシワ状の凹凸になった欠陥であり、前記めっき皮膜表面において白っぽい筋として観察される。このようなシワ状欠陥は、前記めっき皮膜中にMgを多く添加した場合に、発生しやすくなる。そのため、前記溶融めっき鋼板では、前記めっき皮膜中にSrを含有させることによって、前記めっき皮膜表層においてSrをMgよりも優先的に酸化させ、Mgの酸化反応を抑制することで、前記シワ状欠陥の発生を抑えることが可能となる。
前記浴温の下限を、融点+20℃としたのは、溶融めっき処理を行うためには、前記浴温を凝固点以上にすることが必要であり、融点+20℃とすることで、前記めっき浴の局所的な浴温低下による凝固を防止するためである。一方、前記浴温の上限を650℃としたのは、650℃を超えると、前記めっき皮膜の急速冷却が難しくなり,めっき皮膜と鋼板との間に形成する界面合金層が厚くなるおそれがあるためである。
本発明の塗装鋼板は、上述しためっき皮膜上に、化成皮膜を形成することができる。
なお、前記化成皮膜は、塗装鋼板の少なくとも片面に形成されればよく、用途や要求される性能に応じて、塗装鋼板の両面に形成することもできる。
上述した化成皮膜をめっき皮膜上に形成することよって、化成皮膜の強度及び密着性を高めつつ、耐食性も向上させることができる。
前記ポリイソシアネートとしては、芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネート等が挙げられる。前記芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、m-キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2-ジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、およびこれらの誘導体(例えばポリオール類との反応により得られたプレポリマー類、ジフェニルメタンジイソシアネートのカルボジイミド化合物等の変性ポリイソシアネート類等)等が挙げられる。
前記樹脂成分は、前記化成皮膜中に合計で30~50質量%含まれる。前記樹脂成分の含有量が30質量%未満では化成皮膜のバインダー効果が低下し、50質量%を超えると、下記に示す無機成分による機能、例えばインヒビター作用が低下する。同様の観点から、前記化成皮膜における前記樹脂成分の含有量は、35~45質量%であることが好ましい。
前記樹脂成分がその他の樹脂を含む場合、前記(a)エステル結合を有するアニオン性ポリウレタン樹脂及び前記(b)ビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂の合計含有量が、50質量%以上であることが好ましく、75質量%以上であることがより好ましい。化成処理皮膜としての可撓性の低下や密着性をより確実に得るためである。
これらの化合物を含むことによって、化成皮膜の耐食性を高めることができる。
前記バナジウム化合物については、例えば、五酸化バナジウム、メタバナジン酸、メタバナジン酸アンモニウム、オキシ三塩化バナジウム、三酸化バナジウム、二酸化バナジウム、バナジン酸マグネシウム、バナジルアセチルアセトネート、バナジウムアセチルアセトネート等が挙げられる。特に、これらの中でも、4価のバナジウム化合物又は還元若しくは酸化することによって得られる4価のバナジウム化合物を用いることが望ましい。
前記ジルコニウム化合物としては、硫酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、乳酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、塩化ジルコニウムなどの中和塩等が挙げられる。
前記フッ素化合物としては、例えば、アンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩などのフッ化物塩、又は、フッ化第一鉄、フッ化第二鉄等のフッ素化合物を用いることができる。これらの中でも、フッ化アンモニウムや、フッ化ナトリウム及びフッ化カリウム等のフッ化物塩を用いることが好ましい。
前記化成皮膜付着量は、皮膜を蛍光X 線分析して予め皮膜中の含有量が分かっている元素の存在量を測定する方法のような、既存の手法から適切に選択した方法で求めればよい。
本発明の塗装鋼板は、上述したように、めっき皮膜上に、直接又は化成皮膜を介して、塗膜が形成されており、該塗膜は、プライマー塗膜を少なくとも有する。
前記プライマー塗膜が、前記ウレタン結合を有するポリエステル樹脂と前記無機化合物を含有することによって、塗膜の密着性を高めつつ、耐食性を向上させることができる。
なお、ここでいう「主成分」とは、プライマー塗膜中の各成分中最も含有量が多い成分であることを意味する。
前記多価アルコールとしては、グリコール及び3価以上の多価アルコールが挙げられる。前記グリコールは、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキシレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、メチルプロパンジオール、シクロヘキサンジメタノール、3,3-ジエチル-1,5-ペンタンジオール等が挙げられる。また、前記3価以上の多価アルコールは、例えば、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。これらの多価アルコールは、単独で使用することもでき、2種以上組み合わせて使用することもできる。
前記多塩基酸は、通常は多価カルボン酸が使用されるが、必要に応じて1価の脂肪酸などを併用することができる。前記多価カルボン酸として、例えば、フタル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、4-メチルヘキサヒドロフタル酸、ビシクロ[2,2,1]ヘプタン-2,3-ジカルボン酸、トリメリット酸、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸、アゼライン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、ピロメリット酸、ダイマー酸など、及びこれらの酸無水物、並びに1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、イソフタル酸、テトラヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸等が挙げられる。これらの多塩基酸は、単独で使用することもでき、2種以上組み合わせて使用することもできる。
さらに、前記ウレタン結合を有するポリエステル樹脂の数平均分子量は、耐溶剤性、加工性などの点から、好ましくは500~15,000であり、より好ましくは、700~12,000であり、さらに好ましくは800~10,000である。
前記プライマー塗膜中に添加するバナジウム化合物は、前記化成処理皮膜に添加するバナジウム化合物と同種であっても異種であってもよい。バナジン酸化合物は、外部から侵入してくる水分に徐々に溶出するバナジン酸イオンと亜鉛系めっき鋼板表面のイオンが反応し、密着性の良い不働態皮膜を形成し、金属露出部を保護し防錆作用が現れると考えられている。
例えば、プライマー塗膜を形成する際に用いられる架橋剤が挙げられる。前記架橋剤は、前記ウレタン結合を有するポリエステル樹脂と反応して架橋塗膜を形成するものであり、例えば、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物、メラミン化合物、イソシアネート系化合物、カルボジイミド系化合物、シランカップリング化合物等が挙げられ、2種類以上の架橋剤を併用することも可能である。なかでも得られる塗装鋼板の加工部耐食性の観点から、好ましくはブロック化ポリイソシアネート化合物等を用いることができる。該ブロック化ポリイソシアネートとしては、例えば、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基を、例えば、ブタノールなどのアルコール類、メチルエチルケトオキシムなどのオキシム類、ε-カプロラクタム類などのラクタム類、アセト酢酸ジエステルなどのジケトン類、イミダゾール、2-エチルイミダゾールなどのイミダゾール類、又は、m-クレゾールなどのフェノール類などによりブロックしたものが挙げられる。
前記上塗塗膜は、塗装鋼板に色彩や光沢、表面状態等の美観を付与することができることに加え、加工性、耐候性、耐薬品性、耐汚染性、耐水性、耐食性等の各種性能を高めることができる。
例えば、前記上塗塗膜を、ポリエステル樹脂系塗料、シリコンポリエステル樹脂系塗料、ポリウレタン樹脂系塗料、アクリル樹脂系塗料、フッ素樹脂系塗料等を用いて形成することができる。
さらに、前記上塗塗膜は、酸化チタン、弁柄、マイカ、カーボンブラック又はその他の各種着色顔料;アルミニウム粉やマイカなどのメタリック顔料;炭酸塩や硫酸塩等からなる体質顔料;シリカ微粒子、ナイロン樹脂ビーズ、アクリル樹脂ビーズ等の各種微粒子;p-トルエンスルホン酸、ジブチル錫ジラウレート等の硬化触媒;ワックス;その他の添加剤を適量含有することができる。
(1)常法で製造した板厚0.8mmの冷延鋼板を下地鋼板として用い、(株)レスカ製の溶融めっきシミュレーターで、焼鈍処理、めっき処理を行うことで、表2に示すめっき皮膜条件の溶融めっき鋼板のサンプルを作製した。
なお、溶融めっき鋼板製造に用いためっき浴の組成については、表1に示す各サンプルのめっき皮膜の組成となるように、めっき浴の組成をAl:30~75質量%、Si:0.5~4.5質量%、Mg:0~10質量%、Sr:0.00~0.15質量%の範囲で種々変化させた。また、めっき浴の浴温は、Al:30~60質量%の場合は590℃、Al:60質量%超の場合は630℃とし、下地鋼板のめっき浸入板温がめっき浴温と同温度となるように制御した。さらに、板温が520~500℃の温度域に3秒で冷却する条件でめっき処理を実施した。
また、めっき皮膜の付着量は、サンプル1~41では、片面あたり85±5g/m2、サンプル42~44では、片面あたり42~125g/m2となるように制御した。
なお、用いた化成処理液は、各成分を溶媒としての水に溶解させて調製したpHが8~10の化成処理液を用いた。化成処理液に含有する各成分(樹脂成分、無機化合物)の種類については、以下のとおりである。
(樹脂成分)
樹脂A:(a)エステル結合を有するアニオン性ポリウレタン樹脂(第一工業製薬(株)製「スーパーフレックス210」と、(b)ビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂(吉村油化学(株)製「ユカレジンRE-1050」)とを、含有質量比(a):(b)=50:50で混合したもの
樹脂B:アクリル樹脂(DIC(株)製「ボンコートEC-740EF」)
(無機化合物)
バナジウム化合物:アセチルアセトンでキレート化した有機バナジウム化合物
ジルコニウム化合物:炭酸ジルコニウムアンモニウム
フッ素化合物:フッ化アンモニウム
なお、プライマー塗料については、各成分を混合した後、ボールミルで約1時間攪拌することにより得た。プライマー塗膜を構成する樹脂成分及び無機化合物は、以下のものを用いた。
(樹脂成分)
樹脂α:ウレタン変性ポリエステル樹脂(ポリエステル樹脂455質量部、イソホロンジイソシアネート45質量部を反応させて得たものであり、樹脂酸価は3、数平均分子量は5,600、水酸基価は36である。)を、ブロック化イソシアネートで硬化させたものを用いた。
なお、ウレタン変性させるポリエステル樹脂については、次の条件で作製した。攪拌機、精留塔、水分離器、冷却管及び温度計を備えたフラスコに、イソフタル酸320質量部、アジピン酸200量部、トリメチロールプロパン60質量部、シクロヘキサンジメタンノール420質量部を仕込み、加熱、攪拌し、生成する縮合水を系外へ留去させながら、160℃ から230℃ まで一定速度で4時間かけて昇温させ、温度230℃ に到達した後、キシレン20質量部を徐々に添加し、温度を230℃ に維持した状態で縮合反応を続け、酸価が5以下になった時に反応を終了させ、100℃まで冷却した後、ソルベッソ100(エクソンモービル社製、商品名、高沸点芳香族炭化水素系溶剤) 120質量部、ブチルセロソルブ100質量部を加えることで、ポリエステル樹脂溶液を得た。
樹脂β:ウレタン硬化ポリエステル樹脂(関西ペイント(株)製「エバクラッド4900」)
(無機化合物)
バナジウム化合物:バナジン酸マグネシウム
リン酸化合物:リン酸カルシウム
酸化マグネシウム化合物:酸化マグネシウム
また、上塗塗膜に用いた樹脂については、以下の塗料を用いた。
樹脂I: メラミン硬化ポリエステル塗料(BASFジャパン(株)製「プレカラーHD0030HR」)
樹脂II: ポリフッ化ビニリデンとアクリル樹脂が質量比で80:20であるオルガノゾル系焼付型フッ素樹脂系塗料(BASFジャパン(株)製「プレカラーNo.8800HR」)
上記のように得られた塗装鋼板の各サンプルについて、以下の評価を行った。評価結果を表2に示す。
溶融めっき鋼板の各サンプルについて、100mmφを打ち抜き、非測定面をテープでシーリングした後、JIS H 0401:2013に示される塩酸とヘキサメチレンテトラミンの混合液でめっきを溶解剥離し、剥離前後のサンプルの質量差から、めっき皮膜の付着量を算出した。算出の結果、得られためっき皮膜の付着量を表2に示す。
その後、剥離液をろ過し、ろ液と固形分をそれぞれ分析した。具体的に、ろ液をICP発光分光分析することで、不溶Si以外の成分を定量化した。
また、固形分は650℃の加熱炉内で乾燥・灰化した後、炭酸ナトリウムと四ホウ酸ナトリウムを添加することで融解させた。さらに、塩酸で融解物を溶解し、溶解液をICP発光分光分析することで、不溶Siを定量化した。めっき皮膜中のSi濃度は、ろ液分析によって得た可溶Si濃度に、固形分分析によって得た不溶Si濃度を加算したものである。算出の結果、得られためっき皮膜の組成を表2に示す。
さらに、各サンプルについて、100mm×100mmのサイズに剪断後、評価対称面のめっき皮膜を下地鋼板が現れるまで機械的に削り出し、得られた粉末をよく混ぜ合わせた後、0.3gを取出し、X線回折線装置(株式会社リガク製「SmartLab」)を用いて、使用X線:Cu-Kα(波長=1.54178Å)、Kβ線の除去:Niフィルター、管電圧:40kV、管電流:30mA、スキャニング・スピード:4°/min、サンプリング・インターバル:0.020°、発散スリット:2/3°、ソーラースリット:5°、検出器:高速一次元検出器(D/teX Ultra)の条件で、上記粉末の定性分析を行った。各ピーク強度からベース強度を差し引いた強度を各回折強度(cps)とし、Mg2Siの(111)面(面間隔d=0.3668nm)の回折強度、及び、Siの(111)面(面間隔d=0.3135nm)の回折強度を測定した。測定結果を、表2に示す。
塗装鋼板の各サンプルについて、120mm×120mmのサイズに剪断後、評価対象面の任意に選んだ3辺のエッジから10mmの範囲、及び、サンプルの同3辺の端面と評価非対象面をテープでシーリングし、評価対象面を100mm×100mmのサイズで露出させた状態のものを、評価用サンプルとして用いた。なお、該評価用サンプルは同じものを3つ作製した。
上記のように作製した3つの評価用サンプルに対して、いずれも図1に示すサイクルで腐食促進試験を実施した。腐食促進試験を湿潤からスタートし、20サイクル毎にサンプルを取出し、水洗及び乾燥させた後に目視により観察し、テープシールしていない1辺の剪断端面に赤錆の発生について確認を行った。
そして、赤錆が確認されたときのサイクル数を、下記の基準に従って評価した。評価結果を表2に示す。
◎:サンプル3個の赤錆発生サイクル数≧600サイクル
○:600サイクル>サンプル3個の赤錆発生サイクル数≧500サイクル
×:少なくとも1個のサンプルの赤錆発生サイクル数<500サイクル
塗装鋼板の各サンプルについて、目視によって表面を観察した。
そして、観察結果を、以下の基準に従って評価した。評価結果を表2に示す。
◎:シワ状欠陥が全く観察されなかった
○:エッジから50mmの範囲のみにシワ状欠陥が観察された
×:エッジから50mmの範囲以外でシワ状欠陥が観察された
塗装鋼板の各サンプルについて、70mm×150mmのサイズに剪断後、同板厚の板を内側に8枚挟んで180°曲げの加工(8T曲げ)を施した。折り曲げ後の曲げ部外面にセロテープを強く貼りつけた後、引き剥がした。曲げ部外面の塗膜の表面状態、及び、使用したテープの表面における塗膜の付着(剥離)の有無を目視で観察し、下記の基準で加工性を評価した。評価結果を表2に示す。
〇:めっき皮膜にクラックと剥離が共に認められない
△:めっき皮膜にクラックがあるが、剥離が認められない
×:めっき皮膜にクラックと剥離が共に認められる
溶融めっき時、めっき浴の浴面の状態を目視で確認し、溶融Al-Zn系めっき鋼板を製造する際に用いるめっき浴の浴面(Mg含有酸化物のない浴面)と比較した。評価は、以下の基準で行い、評価結果を表2に示す。
〇:溶融Al-Zn系めっき浴(55質量%Al-残部Zn-1.6質量%浴)と同程度
△:溶融Al-Zn系めっき浴(55質量%Al-残部Zn-1.6質量%浴)に比べて白色酸化物が多い
×:めっき浴中に黒色酸化物の形成が認められる
Claims (5)
- めっき皮膜上に、直接又は化成皮膜を介して、塗膜が形成された塗装鋼板であって、
前記めっき皮膜は、Al:45~65質量%、Si:1.0~4.0質量%及びMg:1.0~10.0質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有し、
前記めっき皮膜中のSi 及びMg2Siの、前記めっき皮膜の一部を下地鋼板が現れるまで機械的に削り出して粉末にした状態で測定した、X線回折法による回折強度が、以下の関係(1)を満足し、
Si (111)/Mg2Si (111)≦0.8 ・・・(1)
Si (111):Siの(111)面(面間隔d=0.3135nm)の回折強度、
Mg2Si (111):Mg2Siの(111)面(面間隔d=0.3668nm)の回折強度
前記化成皮膜は、(a):エステル結合を有するアニオン性ポリウレタン樹脂及び(b):ビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂を合計で30~50質量%含有し、該(a)と該(b)の含有比率((a):(b))が、質量比で3:97 ~60:40の範囲である樹脂成分と、2~10質量%のバナジウム化合物、40~60質量%のジルコニウム化合物及び0.5~5量%のフッ素化合物を含む無機化合物と、を含有し、
前記塗膜は、プライマー塗膜を少なくとも有し、該プライマー塗膜が、ウレタン結合を有するポリエステル樹脂と、バナジウム化合物、リン酸化合物及び酸化マグネシウムを含む無機化合物と、を含有することを特徴とする、塗装鋼板。 - 前記めっき皮膜中の前記SiのX線回折による回折強度が、以下の関係(2)を満足することを特徴とする、請求項1に記載の塗装鋼板。
Si (111)=0 ・・・(2) - 前記めっき皮膜中のAlの含有量が、50~60質量%であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の塗装鋼板。
- 前記めっき皮膜中のSiの含有量が、1.0~3.0質量%であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の塗装鋼板。
- 前記めっき皮膜中のMgの含有量が、1.0~5.0質量%であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の塗装鋼板。
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