JP7090305B1 - 計測装置及び計測方法 - Google Patents
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Abstract
計測装置は、被検体を含む溶液が電極に滴下されたことに応じて被検体に反応が起こることにより生じる計測物質の濃度変化を、計測物質の電気分解によって生じる電流を計測することにより計測する。計測装置は、電極に対する溶液の滴下後、第1経過時間後に、第1電圧を第1印加時間電極に印加する(S13)。計測装置は、第1電圧の印加により流れる第1電流を測定する(S15)。計測装置は、第1電圧が印加された後、第2電圧を第2印加時間電極に印加する(S17)。計測装置は、第2電圧の印加により流れる第2電流を測定する(S19)。計測装置は、第1電流を用いて第2電流を規格化し、反応に基づいて変化した計測物質の濃度又は被検体の濃度を計測する(S21)。
Description
本発明は、計測装置及び計測方法に関する。
分析対象物の酸化還元反応に基づいて流れる電流を測定することによって、分析対象物の濃度を計測する装置が知られている。特許文献1は、測定装置及びセンサストリップを備えたセンサシステムを開示する。センサストリップは、作用電極及びカウンタ電極を備える。センサストリップには、分析対象物としてグルコース等を含むサンプルが導入される。測定装置は、サンプルが導入されたセンサストリップの作用電極及びカウンタ電極に、パルス電圧を少なくとも2回印加する。測定装置は、パルス電圧の電圧値と、パルス電圧の印加時に流れた電流値との関係を示す輪郭プロットを取得する。測定装置は、取得された輪郭プロットと、分析対象物の濃度毎に予め測定された輪郭プロット(以下、参照プロットという。)との関係に基づき、サンプル中の分析対象物の濃度を決定する。
又、電気化学反応を用いて対象物質の濃度を計測する方法として、リニアスィープボルタンメトリーやサイクリックボルタンメトリーという方式がある。これらは一定の電圧上昇下降レートで変動する電圧を印加し、それに対応する電流に基づいて濃度を推定する方法である。これに、フローインジェクション方式、即ち、一定の割合で検体液を電極上に流して常に検体液を刷新する計測方式を適用した場合、高精度な濃度推定が可能である。一方、本発明の対象であるバッチ方式、即ち、検体液滴を電極上に滴下してその状態で電気化学的に計測する方式を適用した場合、電気分解による物質の消失に伴う液滴内の濃度分布、及びそれに関連する拡散による物質移動量などが、複雑に計測電流値に影響し、精度の高い濃度計測が難しかった。
更に上記液滴内で複数の物質が関連する反応を伴う系では、複数の物質の拡散による物質移動、反応する量等が非定常的に変化し、液滴内での複雑な濃度分布を生じさせていた。このため、それが計測電流に更に影響を与え、バッチ方式での定量濃度計測を困難なものとしていた。
輪郭プロット及び参照プロットは、夫々の測定時におけるパラメータ(例えば、分析対象物の活性や拡散係数)が相違することによって変動する。このため、輪郭プロットと参照プロットとの関係に基づいて決定された分析対象物の濃度の精度が、パラメータの変動によって低下する可能性がある。
本発明の目的は、バッチ方式、即ち液滴を電極に滴下するだけという簡易作業で、より高精度に分析対象物を定量することが可能な計測装置及び計測方法を提供することである。
本発明の第1態様に係る計測装置は、被検体を含む溶液が電極に滴下されたことに応じて前記被検体に反応が起こることにより生じる計測物質の濃度の時間変化を、前記計測物質の電気分解によって生じる電流を計測することにより計測する計測装置であって、前記電極に対する前記溶液の滴下後、前記反応の時間経過による進行が計測精度に影響しない範囲の第1経過時間後に、電気分解による前記計測物質の消失量又は増加量が計測精度に影響しない範囲の第1電圧を、計測精度に影響しない範囲の第1印加時間前記電極に印加する第1印加手段と、前記第1印加手段による前記第1電圧の印加により流れる第1電流を測定する第1測定手段と、前記第1電圧の印加による前記電極近傍の前記計測物質の濃度変化が、前記計測物質の拡散によって計測精度に影響しない程度まで回復するのに要する回復時間を、第2経過時間として取得する取得手段と、前記第1印加手段により前記第1電圧が印加された後、前記取得手段により取得した第2経過時間の経過後に、少なくとも1回、電気分解による前記計測物質の消失量又は増加量が計測精度に影響しない範囲の第2電圧を、計測精度に影響しない範囲の第2印加時間前記電極に印加する第2印加手段と、前記第2印加手段による前記第2電圧の印加により流れる第2電流を、少なくとも1回前記第2電圧が印加される毎に測定する第2測定手段と、前記第1測定手段によって測定された前記第1電流を用いて、前記第2測定手段によって測定された前記第2電流を規格化し、前記反応に基づいて変化した前記計測物質の濃度又は前記被検体の濃度を計測する計測手段と、を備えたことを特徴とする。
計測装置は、1回目の電圧の印加に応じた第1電流と、2回目以降の電圧の印加に応じた第2電流とに基づいて、計測物質又は被検体の濃度を計測する。これによって計測装置は、測定時のパラメータの変動に応じて測定精度が低下する可能性を軽減できる。従って計測装置は、計測物質又は被検体の濃度を高精度に計測できる。
第1態様において、前記取得手段は、前記反応の反応速度に反比例する時間であって計測精度に影響しない程度まで前記反応が終了するまでの収束時間の方が、前記回復時間よりも長い場合、前記収束時間を前記第2経過時間として取得してもよい。この場合、計測装置は、計測物質又は被検体の濃度を更に高精度に計測できる。
第1態様において、前記計測手段は、前記第2測定手段によって測定された前記第2電流を、前記第1測定手段によって測定された前記第1電流で除算した算出値に基づいて、前記計測物質の濃度又は前記被検体の濃度を計測してもよい。つまり計測装置は、被検体に反応が生じる前の状態を基準として、計測物質又は被検体の濃度を決定する。従って計測装置は、測定時のパラメータの変動に応じて測定精度が低下する可能性を更に軽減できるので、計測物質の濃度又は被検体の濃度を更に高精度に計測できる。
第1態様において、前記算出値と前記濃度との関係を示す関数を記憶する記憶部を備え、前記計測手段は、前記算出値に前記関数を適用することによって、前記計測物質の濃度又は前記被検体の濃度を決定してもよい。計測装置は、計測物質の濃度又は被検体の濃度を、算出値に基づいて容易に決定できる。
第1態様において、前記第1測定手段は、前記第1印加手段によって前記第1電圧が印加されている間に流れる電流の積算値を、前記第1電流として測定し、前記第2測定手段は、前記第2印加手段によって前記第2電圧が印加されている間に流れる電流の積算値を、前記第2電流として測定してもよい。この場合計測装置は、計測時のパラメータの変動に応じて精度が低下する可能性を更に軽減できるので、計測物質の濃度又は被検体の濃度を更に高精度に計測できる。
第1態様において、前記第1電圧と前記第2電圧とが同一であってもよい。又、第1態様において、前記第1印加時間と前記第2印加時間とが同一であってもよい。この場合、計測装置は、計測物質又は被検体の濃度を更に高精度に計測できる。
第1態様において、前記溶液が前記電極に滴下されたか判定する判定手段を備え、前記第1印加手段は、前記判定手段によって前記溶液が滴下されたと判断されたタイミングで、前記電極に対して前記第1電圧を印加してもよい。この場合、計測装置は、電極に対して溶液が滴下されてから第1電圧の印加が開始されるまでの間において溶液中の被検体が反応する場合の反応量を抑制できる。従って計測装置は、この間における計測物質の消失量又は増加量を抑制できるので、計測物質又は被検体の濃度を高精度に決定できる。
第1態様において、前記第2印加手段は、前記第2電圧がm(mは2以上の整数)回印加される場合、m-1回目の前記第2電圧が印加された後、前記第2電圧の印加による前記電極近傍の前記計測物質の濃度変化が、前記計測物質の拡散によって計測精度に影響しない程度まで回復した第3経過時間の経過後に、m回目の前記第2電圧を印加してもよい。計測装置は、m-1回目の第2電圧の印加後、計測物質の濃度が安定化した後で、m回目の第2電圧を印加できる。従って計測装置は、計測物質の濃度をより高精度に計測できる。
第1態様において、前記第2印加手段によりm回印加される前記第2電圧の夫々の値のうち少なくとも一部の値が、他の値と相違してもよい。この場合、計測装置は、印加回数に応じた適切な値の第2電圧を、電極に印加できる。
第1態様において、前記第2印加手段によりm回印加される前記第2電圧の夫々の前記第2印加時間の値のうち少なくとも一部の値が、他の値と相違してもよい。この場合、計測装置は、第2電圧の印加時間を、印加回数に応じた適切な時間とすることができる。
第1態様において、前記第2経過時間と前記第3経過時間とが同一であってもよい。この場合、計測装置は、計測物質の濃度又は被検体の濃度を更に高精度に計測できる。
第1態様において、前記電極は、酵素が製膜された酵素膜を表面に有し、前記反応では、前記被検体が前記酵素と反応することによって分解物が生成され、前記第1印加手段、及び、前記第2印加手段は、前記反応において前記分解物が生成されることに応じて消費される酸素を前記計測物質として、前記電極に対する電圧印加によって酸素を電気分解してもよい。計測装置は、電極に対する電圧の印加によって酸素が電気分解する反応を利用して酸素の濃度を計測できる。
第1態様において、前記被検体がヒスタミンであり、前記分解物がイミダゾールアセトアルデヒドであってもよい。この場合計測装置は、ヒスタミンの濃度を計測できる。
第1態様において、前記電極は、作用極、対極、及び参照極を備えてもよい。計測装置は、三極電極法に基づいて電極に電圧を印加し電流を計測する。このため計測装置は、二極電極法に基づいて電極に電圧を印加し電流を計測する場合と比べて、計測物質の濃度又は被検体の濃度をより高精度に決定できる。
本発明の第2態様に係る計測方法は、被検体を含む溶液が電極に滴下されたことに応じて前記被検体に反応が起こることにより生じる計測物質の濃度の時間変化を、前記計測物質の電気分解によって生じる電流を計測することにより計測する計測方法であって、前記電極に対する前記溶液の滴下後、前記反応の時間経過による進行が計測精度に影響しない範囲の第1経過時間後に、電気分解による前記計測物質の消失量又は増加量が計測精度に影響しない範囲の第1電圧を、計測精度に影響しない範囲の第1印加時間前記電極に印加する第1印加工程と、前記第1印加工程による前記第1電圧の印加により流れる第1電流を測定する第1測定工程と、前記第1印加工程により前記第1電圧が印加された後、前記第1電圧の印加による前記電極近傍の前記計測物質の濃度変化が、前記計測物質の拡散によって、計測精度に影響しない程度まで回復した第2経過時間の経過後に、少なくとも1回、電気分解による前記計測物質の消失量又は増加量が計測精度に影響しない範囲の第2電圧を、計測精度に影響しない範囲の第2印加時間前記電極に印加する第2印加工程と、前記第2印加工程による前記第2電圧の印加により流れる第2電流を、少なくとも1回前記第2電圧が印加される毎に測定する第2測定工程と、前記第1測定工程によって測定された前記第1電流を用いて、前記第2測定工程によって測定された前記第2電流を規格化し、前記反応に基づいて変化した前記計測物質の濃度又は前記被検体の濃度を計測する計測工程と、を備えたことを特徴とする。第2態様によれば、第1態様と同様の効果を奏することができる。
第2態様において、前記取得工程は、前記反応の反応速度に反比例する時間であって計測精度に影響しない程度まで前記反応が終了するまでの収束時間の方が、前記回復時間よりも長い場合、前記収束時間を前記第2経過時間として取得してもよい。第2態様によれば、第1態様と同様の効果を奏することができる。
本発明を具体化した実施形態について、図面を参照して順に説明する。参照する図面は、本発明が採用しうる技術的特徴を説明するために用いられるものであり、記載されている装置の構成等は、それのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例である。
<酵素によるヒスタミンの分解反応>
Arthrobacter crystallopoietes KAIT-B-007由来のヒスタミンオキシダーゼを遺伝子組み換え大腸菌にて発現させて精製したヒスタミンオキシダーゼが使用された。図1に示すように、ヒスタミンは、酵素として用いられるヒスタミンオキシダーゼ(HOD)と反応することにより、酸化及び脱アミノ化され分解される。この反応により、ヒスタミンからイミダゾールアセトアルデヒドが生成され(矢印Y11)、HODは還元反応により酸化型から還元型に変位する(矢印Y12)。又、還元型のHODの酸化反応(矢印Y13)により酸素が分解され、分解された酸素と水から過酸化水素が生成される(矢印Y14)。つまり、HODによるヒスタミン1分子の分解反応に応じ、ヒスタミン及び酸素が夫々1分子ずつ消失し、イミダゾールアセトアルデヒド及び過酸化水素が夫々1分子ずつ生成される。
Arthrobacter crystallopoietes KAIT-B-007由来のヒスタミンオキシダーゼを遺伝子組み換え大腸菌にて発現させて精製したヒスタミンオキシダーゼが使用された。図1に示すように、ヒスタミンは、酵素として用いられるヒスタミンオキシダーゼ(HOD)と反応することにより、酸化及び脱アミノ化され分解される。この反応により、ヒスタミンからイミダゾールアセトアルデヒドが生成され(矢印Y11)、HODは還元反応により酸化型から還元型に変位する(矢印Y12)。又、還元型のHODの酸化反応(矢印Y13)により酸素が分解され、分解された酸素と水から過酸化水素が生成される(矢印Y14)。つまり、HODによるヒスタミン1分子の分解反応に応じ、ヒスタミン及び酸素が夫々1分子ずつ消失し、イミダゾールアセトアルデヒド及び過酸化水素が夫々1分子ずつ生成される。
<計測装置3の概要、電気的構成>
図2に示すように、計測装置3は、HODによりヒスタミンが分解されるという反応を利用し、電気化学的手法によりヒスタミンの濃度を計測する装置である。計測装置3は、センサチップ3A及び本体部3Bを備える。センサチップ3Aは、測定部31及び電極32を有する。電極32の表面には、ヒスタミンオキシダーゼと、架橋剤としてのグルタルアルデヒドとを混合した溶液を塗布し、乾燥させることで、酵素であるHODの薄膜(以下、「酵素膜10」という。)が形成される。酵素膜10には、ヒスタミンを含む溶液として、魚肉等の生体から得られたサンプルを溶媒に溶解した溶液(以下、「含有溶液30」という。)が滴下される。測定部31は、電極32に電圧を印加したときに流れる電流の電流値を計測可能である。計測された電流値は本体部3Bに出力される。本体部3Bは、センサチップ3Aから出力される電流値に基づき、含有溶液30中のサンプルに含まれるヒスタミンの濃度を計測する。
図2に示すように、計測装置3は、HODによりヒスタミンが分解されるという反応を利用し、電気化学的手法によりヒスタミンの濃度を計測する装置である。計測装置3は、センサチップ3A及び本体部3Bを備える。センサチップ3Aは、測定部31及び電極32を有する。電極32の表面には、ヒスタミンオキシダーゼと、架橋剤としてのグルタルアルデヒドとを混合した溶液を塗布し、乾燥させることで、酵素であるHODの薄膜(以下、「酵素膜10」という。)が形成される。酵素膜10には、ヒスタミンを含む溶液として、魚肉等の生体から得られたサンプルを溶媒に溶解した溶液(以下、「含有溶液30」という。)が滴下される。測定部31は、電極32に電圧を印加したときに流れる電流の電流値を計測可能である。計測された電流値は本体部3Bに出力される。本体部3Bは、センサチップ3Aから出力される電流値に基づき、含有溶液30中のサンプルに含まれるヒスタミンの濃度を計測する。
本体部3Bは、CPU21、記憶装置22、表示部23、入力部24、及びインタフェース部25を備える。CPU21は、計測装置3全体の制御を司る。記憶装置22は、CPU21が実行するプログラム、各種パラメータ、各種テーブル、及び、計測結果を記憶する。表示部23は、計測されたヒスタミンの濃度を表示する。入力部24は、本体部3Bに対する入力操作を受け付ける。インタフェース部25は、センサチップ3Aとの間で通信を行う。
図3に示すように、センサチップ3Aの電極32は、酵素が製膜された酵素膜10を表面に有する電極32Aの他、電極32B、32Cを有する。電極32Aは作用極であり、電極32Bは対極であり、電極32Cは参照極である。含有溶液30が酵素膜10に滴下された場合、含有溶液30に含まれるヒスタミンは、酵素膜10のHODと反応して分解し、イミダゾールアセトアルデヒド(IAA)が生成される(矢印Y21)。又、ヒスタミンがHODにより分解される過程で、含有溶液30中の酸素が酸化反応により消費され、過酸化水素が生成される(矢印Y22)。
本体部3BのCPU21(図2参照)は、電極32に印加する電圧を指定した信号を、センサチップ3Aの測定部31(図2参照)に出力する。図3に示すように、測定部31は該信号に応じ、電極32B、32Cを基準として電極32Aに対し、指定された電圧を印加する。このとき、含有溶液30中に残留する酸素は、電極32Aの酵素膜10を浸透して電極32Aに到達する。酸素は、電極32Aから供給される電子と結合し、分解する(矢印Y23)。以下、CPU21がセンサチップ3Aに信号を出力することによって電極32Aに電圧が印加されることを、「CPU21が電極32Aに電圧を印加する」と言い換える。
測定部31は、電極32Aに対する電圧の印加に応じて流れる電流の電流値を示す信号を、本体部3Bに出力する。本体部3BのCPU21は、センサチップ3Aから受信した信号により示される電流値に基づき、分解された酸素の濃度、言い換えれば、含有溶液30中に残留する酸素の濃度を特定できる。つまり、計測装置3は、ヒスタミンが分解される(矢印Y21)ことによって生じる、含有溶液30中の酸素の濃度変化(矢印Y22)を、酸素の電気分解(矢印Y23)によって生じる電流の電流値を計測することにより特定できる。
なお、含有溶液30中に残留する酸素の濃度は、含有溶液30に含有されるヒスタミンが酵素反応により分解される程、少なくなる。含有溶液30に含有されるヒスタミンの濃度と、電極32Aに対する電圧の印加に応じて流れる電流の電流値とは、相関がある。従ってCPU21は、センサチップ3Aから受信した信号が示す電流値に基づき、含有溶液30に含有されるヒスタミンの濃度を計測できる。以下、CPU21がセンサチップ3Aから信号を受信することによって電流値を取得することを、「CPU21が電極32Aに流れた電流の電流値を計測する」と言い換える。
<電圧印加時における電圧と電流との関係>
含有溶液30の酸素が酵素反応(矢印Y22)と電気分解(矢印Y23)によって消費されることに応じ、含有溶液30中の酸素の濃度は変化する。酸素が電気分解されるときに流れる電流の電流値Iは、簡易化したバトラーボルマーの式により、式(1-1)のように導出可能である。つまり、電流値Iは、含有溶液30中の酸素の濃度Cに比例する。
なお、式(1-1)において、Vは電極32Aに印加される電圧を示す。係数αは、電気分解の活性に応じて変動する係数である。一方、係数βは、電極32Aの面積その他の特性に応じて変動する比例係数である。
含有溶液30の酸素が酵素反応(矢印Y22)と電気分解(矢印Y23)によって消費されることに応じ、含有溶液30中の酸素の濃度は変化する。酸素が電気分解されるときに流れる電流の電流値Iは、簡易化したバトラーボルマーの式により、式(1-1)のように導出可能である。つまり、電流値Iは、含有溶液30中の酸素の濃度Cに比例する。
電極32Aに印加する電圧を40mV/sでスイープさせた場合に流れる電流の電流値Iのピーク値を、係数α、及び、含有溶液30中の酸素の拡散係数Dの夫々の値毎に比較する。なお、拡散係数Dは、含有溶液30中の酸素の濃度Cと相関がある。図4、図5は、電極32Aにスイープ電圧を印加した場合に流れる電流の電流値Iをシミュレーションにより導出したグラフである。シミュレーションの具体的な方法については後述する。図4に示すように、係数αを5とした場合(一点鎖線)と6とした場合(二点鎖線)とで、電流値Iのピーク値に大きな差は生じない。一方、図5に示すように、拡散係数Dを0.5とした場合(一点鎖線)と0.1(二点鎖線)とした場合とで、電流値Iのピーク値に大きな差が生じる。
又、例えば電極32Aにパルス電圧を印加した場合に流れる電流値Iのピーク値を、係数α及び拡散係数Dの値毎に比較する。図6、図7は、電極32Aにパルス電圧を印加した場合に流れる電流の電流値Iをシミュレーションにより導出したグラフである。図6に示すように、係数αを5とした場合(一点鎖線)と6とした場合(二点鎖線)とで、電流値Iのピーク値に大きな差が生じる。一方、図7に示すように、拡散係数Dを0.5とした場合(一点鎖線)と0.1とした場合(二点鎖線)とで、電流値Iのピーク値に大きな差は生じない。
係数α及び拡散係数Dの変動により電流値Iが異なる場合、電流値Iを酸素の濃度に換算するための演算を、係数α及び拡散係数Dの組み合わせ毎に行う必要があり、煩雑である。又、係数α、拡散係数D、作用極である電極32Aの表面状態、その他の変動により電流値Iが異なることは、計測装置3において電流値Iからヒスタミンの濃度を決定する場合の精度の低下の要因となる。このため本実施形態において、CPU21は、以下のメイン処理を実行することによってヒスタミンの濃度を決定する。
<メイン処理>
図8を参照し、計測装置3のCPU21によって実行されるメイン処理について説明する。CPU21は、計測装置3の電源投入時、記憶装置22に記憶されたプログラムを読み出して実行することによって、メイン処理を開始する。
図8を参照し、計測装置3のCPU21によって実行されるメイン処理について説明する。CPU21は、計測装置3の電源投入時、記憶装置22に記憶されたプログラムを読み出して実行することによって、メイン処理を開始する。
はじめにCPU21は、ユーザが第2経過時間Tp(2)として入力した値120sを、入力部24を介して取得する(S1)。第2経過時間Tp(2)の詳細は後述する。次にCPU21は、ユーザによって電極32Aに含有溶液30が滴下されたか判定する(S11)。ここでユーザは、電極32Aに含有溶液30を滴下した場合、滴下を行った旨の入力操作を、入力部24介して滴下と同時に行う。CPU21は、入力部24を介して入力操作を検出しない場合、電極32Aに含有溶液30が滴下されていないと判定する(S11:NO)。この場合、CPU21は、処理をS11に戻し、電極32Aに含有溶液30が滴下されたかを継続して判定する。一方、CPU21は、入力部24を介して入力操作を検出した場合、電極32Aに含有溶液30が滴下されたと判定する(S11:YES)。この場合、CPU21は処理をS13に進める。
CPU21は、含有溶液30が電極32Aに滴下されたと判断したタイミング、より詳細には、含有溶液30が電極32Aに滴下されてから0.3s(以下、第1経過時間Tp(1)という。)後に、-600mVの電圧(以下、第1電圧V(1)という。)を0.5s(以下、第1印加時間Ta(1)という。)電極32Aに印加する(S13、図9参照)。この時、含有溶液30中の酸素は電気分解により消費される。なお、電極32Aの電圧が0Vから第1電圧V(1)まで変化するのにかかる時間Tnは、0.3sである(図9参照)。なお、時間Tnは、本実施形態の値(0.3s)に限定されないが、0s~3sの間の何れかの値であることが好ましい。これは前述のように、計測精度に影響しないように電気分解による酸素の消費を抑制するためである。
図9に示す第1経過時間Tp(1)は、電極32Aに対する含有溶液30の滴下後に生じる反応の時間経過による進行が、計測精度に影響しない範囲の時間として予め規定される。より具体的には、第1経過時間Tp(1)は、電極32Aに対して含有溶液30が滴下され、電極32Aに酵素膜10として製膜されたHODによるヒスタミンの分解反応が開始した後の時間として予め規定される。なお、第1経過時間Tp(1)は、本実施形態の値(0.3s)に限定されないが、0s~30sの間の何れかの値であることが好ましい。
又、第1電圧V(1)及び第1印加時間Ta(1)は、電極32Aに対する電圧の印加によって生じる電気分解により消失する酸素の量が、酸素及びヒスタミンの濃度の計測精度に影響を及ぼさない範囲の値として予め規定される。なお、電極32Aに対する電圧の印加によって電極32Aの界面に存在する酸素のみが消失し、濃度勾配の形成によって電極32Aに向けて酸素が拡散し、これにより、消失した酸素が回復する。第1電圧V(1)及び第1印加時間Ta(1)は、より具体的には、拡散により供給された酸素により、消失した酸素を回復できる値として予め規定される。なお、第1電圧V(1)は、本実施形態の値(-600mV)に限定されないが、-1000mV~-500mVの間の何れかの値であることが好ましい。第1印加時間Ta(1)は、本実施形態の値(0.5s)に限定されないが、0s~3sの間の何れかの値であることが好ましい。
図8に示すように、CPU21は、S13の処理によって電極32Aに第1電圧V(1)が印加されている間、電極32Aに流れる電流の電流値を測定する。(S15)。CPU21は、電極32Aに第1電圧V(1)が印加された時の電流、又は、第1電圧V(1)が印加されている間に電極32Aに流れる電流の積算値を、第1電流i0として測定し、記憶装置22に記憶する。
CPU21は、S13の処理によって電極32Aに第1電圧V(1)を印加した後、S1の処理において第2経過時間Tp(2)として取得した120sの経過後に、第1電圧V(1)の印加条件と同じ条件で、電極32Aに電圧を印加する。より詳細には、CPU21は、-600mVの電圧(以下、第2電圧V(2)という。)を0.5s(以下、第2印加時間Ta(2)という。)電極32Aに印加する(S17、図9参照)。この時、含有溶液30中の酸素は電気分解により消費される。第2電圧V(2)及び第2印加時間Ta(2)は、S13の処理によって電極32Aに印加された場合の第1電圧V(1)及び第1印加時間Ta(1)と等しい。又、電極32Aの電圧が0Vから第2電圧V(2)まで変化するのにかかる時間Tnも0.3sであり、S13の処理によって電極32Aに第1電圧V(1)が印加される場合と等しい(図9参照)。
なお、第1電圧V(1)と第2電圧V(2)とは相違していてもよい。この場合、第2電圧V(2)は、本実施形態の値(-600mV)に限定されないが、-1000mV~-500mVの間の何れかの値であることが好ましい。又、第1印加時間Ta(1)と第2印加時間Ta(2)とは相違していてもよい。この場合、第2印加時間Ta(2)は、本実施形態の値(0.5s)に限定されないが、0s~3s の間の何れかの値であることが好ましい。電極32Aの電圧が0Vから第1電圧V(1)まで変化するのにかかる時間と、電極32Aの電圧が0Vから第2電圧V(2)まで変化するのにかかる時間とは、相違していてもよい。
図9に示す第2経過時間Tp(2)は、電極32Aに対する第1電圧V(1)の印加(S13、図8参照)時に電気分解により酸素が消失した後、含有溶液30中での酸素の濃度勾配に基づく拡散現象により電極32Aの周囲から電極32Aに対して供給され、計測精度に影響しない程度に酸素濃度が回復するまでの時間として予め規定される。
図10は、第1電圧V(1)の印加直後からの経過時間と、電極32A近傍の酸素の濃度との関係をシミュレーションにより導出したグラフである。このグラフから、電極32Aに第1電圧V(1)を印加してから約120s経過する迄の間は、酸素の濃度は減少傾向にあることがわかる。一方、電極32Aに第1電圧V(1)を印加してから約120s経過した以降は、酸素の濃度の低下傾向は抑制され、ほぼ横ばいとなることがわかる。つまり、電極32Aに第1電圧V(1)を印加してから120s経過することで、第1電圧V(1)の印加時に電気分解により消失した酸素が、拡散現象により電極32Aに対して供給され、計測精度に影響しない程度に酸素濃度が回復している。このため本実施形態では、第2経過時間Tp(2)として120sが予め設定されている。なお、第2経過時間Tp(2)は、本実施形態の値(120s)に限定されないが、10s~600sの間の何れかの値であることが好ましい。
なお第2経過時間Tp(2)の適正値は、電極32Aに対する電圧印加による酸素消失の回復、及び、反応の進行度合いどちらにも関連がある。このため、第2経過時間Tp(2)の適正値は、拡散係数D、酵素膜10の膜厚、酵素による反応速度に応じてユーザにより決定される。
なお上記において、ユーザは、電極32Aに対する第1電圧V(1)の印加による酸素の消失後、含有溶液30中での拡散現象に応じて酸素濃度が回復するまでの時間(以下、「回復時間」ともいう。)を、第2経過時間Tp(2)として入力部24に入力した。これに対し、例えばユーザは、電極32Aに酵素膜10として製膜されたHODによるヒスタミンの分解反応の反応速度が開始されてから、計測精度に影響しない程度まで反応が終了するまでの時間(以下、「収束時間」という。)の方が、回復時間よりも長い場合、収束時間を第2経過時間Tp(2)として入力部24に入力してもよい。
回復時間の代わりに収束時間を第2経過時間Tp(2)とすることの理由は、次の通りである。図11は、酵素の反応速度を示す反応速度定数と、第1電圧V(1)を印加してから300s経過後の酸素濃度の規格値との関係をシミュレーションにより導出したグラフである。このグラフから、拡散係数が極端に大きいD=1を除いたD=0.01及び0.05である場合において、夫々の変化傾向が一致し、且つ、何れも一定以上の反応速度の場合に酸素濃度が収束することがわかる。つまり、酸素の反応速度によっては、酸素の拡散現象を前提とした回復時間が経過しても、酸素濃度は収束しないことになる。従って、回復時間よりも収束時間の方が長い場合、回復時間の代わりに収束時間を第2経過時間Tp(2)とすることによって、計測精度に影響しない程度まで分解反応が終了するまで待機できるので、計測精度を高めることができる。
図8に示すように、CPU21は、S17の処理によって電極32Aに第2電圧V(2)が印加されている間、電極32Aに流れる電流の電流値を測定する。(S19)。CPU21は、電極32Aに第2電圧V(2)が印加された時の電流、又は、電極32Aに第2電圧V(2)が印加されている間に電極32Aに流れる電流の積算値を、第2電流iとして測定し、記憶装置22に記憶する。
図12、図13は、S17の処理によって電極32Aに電圧を印加した場合に流れる電流の電流値をシミュレーションにより導出したグラフである。例えばCPU21は、太線枠内で測定された電流の積算値を、第2電流iとして測定する。ここで図12の場合、図13の場合と異なり、係数αの相違によって電流のピーク値は大きく相違する。これに対し、本実施形態では、電流の積算値を第2電流iとして測定することによって、係数αの相違による電流のピーク値の差異を最小化している。
図8に示すように、CPU21は、S15の処理によって測定された第1電流i0、及び、S19の処理によって測定された第2電流iを、記憶装置22から読み出して取得する。CPU21は、第1電流i0を用いて第2電流iを次の方法で規格化することにより、含有溶液30中のヒスタミンの濃度を精度よく計測できる(S21)。
第1電圧V(1)の印加時における酸素の濃度をc0と表記し、第2電圧V(2)の印加時における酸素の濃度をcと表記する。又、濃度c0に対する濃度cの比を、Rcと表記する。この場合、比Rcはc/c0のように表される(Rc=c/c0)。又、第1電流i0及び第2電流iは、夫々、式(1-1)に基づき、式(1-2)(1-3)のように表すことができる。
比Rcは、式(1-2)(1-3)に基づき、式(1-4)のように表すことができる。
式(1-4)では、第1電流i0、第2電流iの計測が同一の検体、同一の電極で行われており、各々のα、βが等しいため、式(1-1)における係数α、βが消去されている。このことは、第1電流i0に対する第2電流iの比Rc(=i/i0)を算出することによって、電気分解の活性の程度(係数α)や、係数βが測定毎に相違する場合でも、酸素の濃度の比Rc(=c/c0)を精度良く決定できることを示す。なお前述のように、酸素の濃度はヒスタミンの濃度と相関があるため、酸素の濃度の比Rcを精度良く計測することにより、ヒスタミンの濃度も精度良く計測できる。
図14は、第1電流i0(時間0minにおける電流)と第2電流i(時間2minにおける電流)との関係を、ヒスタミンの濃度(0ppm、50ppm、100ppm、150ppm)毎に示した測定結果を示すグラフである。より詳細には、図14は、マグロ水煮缶詰サンプルのヒスタミン無添加と、50ppm相当、100ppm相当、150ppm相当添加品に対して、-600mVの短方形波を2回印加して得られた電流値グラフである。図14に示すように、第1電流i0の値は、ヒスタミンの濃度に関わらず略一定(約-70000nA)となる。一方、第2電流iの値は、ヒスタミンの濃度が0ppmの場合に約-60000nAとなり、ヒスタミンの濃度が50ppmの場合に約-30000nAとなり、ヒスタミンの濃度が100ppm及び150ppmの場合に約-10000nAとなる。つまり、この例では第2電流iは、ヒスタミンの濃度が少なくとも0ppm~100ppmの範囲において、ヒスタミンの濃度に応じた値となる。
図15は、比Rc(=i/i0)とヒスタミンの濃度(0ppm、50ppm、100ppm、150ppm)との関係を示すグラフである。より詳細には、図15は、マグロ水煮缶詰サンプルのヒスタミン無添加と、50ppm相当、100ppm相当、150ppm相当添加品に対して、-600mVの短方形波を2回印加して得られた電流値に基づき算出した比Rcを示すグラフである。図15に示すように、ヒスタミンの濃度と比Rcとの関係は、ヒスタミンの濃度が0ppm~100ppmの範囲内で線形となる。このため、ヒスタミンの濃度と比Rcとの関係を示す関数が予め定義されていれば、計測された比Rcに基づいてヒスタミンの濃度を特定することが可能となる。このため計測装置3は、ヒスタミンの濃度が0ppm~100ppmの範囲でヒスタミンの濃度と比Rcとの関係を示す一次関数fを、予め記憶装置22に記憶する。なお、酵素膜100の膜厚、酵素膜10のかさ密度、酵素膜10の酵素活性等を最適化することにより、計測可能なヒスタミンの濃度の範囲を広げることができる。
CPU21は、図8に示すメイン処理のS21の処理において、記憶装置22から取得した第1電流i0及び第2電流iに基づき、第2電流iを第1電流i0で除算して比Rc(=i/i0)を算出する。CPU21は、記憶装置22に記憶した一次関数fに、算出した比Rcを適用することによって、ヒスタミンの濃度を決定する。これにより、含有溶液30の係数α、βに関わらず、ヒスタミンの濃度を精度良く計測できる。CPU21は、メイン処理を終了させる。
<各パラメータの評価>
図16~図19は、第1経過時間Tp(1)を0.3s(図16)、3.0s(図17)、5.0s(図18)、10s(図19参照)とした場合における第1電流i0及び第2電流iの積算値(図16(A)~図19(A)参照)、及び、比Rc(=i/i0)(図16(B)~図19(B)参照)をプロットしたグラフである。より詳細には、図16、図17、図19は、マグロ水煮缶詰サンプルのヒスタミン無添加と、50ppm相当、100ppm相当、150ppm相当添加品に対して、-600mVの短方形波を2回印加して得られた電流値グラフである。図18は、マグロ水煮缶詰サンプルのヒスタミン無添加と、25ppm相当、50ppm相当、75ppm相当、100ppm相当添加品に対して、-600mVの短方形波を2回印加して得られた電流値グラフである。なお、第2経過時間Tp(2)を120sとした。
図16~図19は、第1経過時間Tp(1)を0.3s(図16)、3.0s(図17)、5.0s(図18)、10s(図19参照)とした場合における第1電流i0及び第2電流iの積算値(図16(A)~図19(A)参照)、及び、比Rc(=i/i0)(図16(B)~図19(B)参照)をプロットしたグラフである。より詳細には、図16、図17、図19は、マグロ水煮缶詰サンプルのヒスタミン無添加と、50ppm相当、100ppm相当、150ppm相当添加品に対して、-600mVの短方形波を2回印加して得られた電流値グラフである。図18は、マグロ水煮缶詰サンプルのヒスタミン無添加と、25ppm相当、50ppm相当、75ppm相当、100ppm相当添加品に対して、-600mVの短方形波を2回印加して得られた電流値グラフである。なお、第2経過時間Tp(2)を120sとした。
図19(A)に示すように、第1経過時間Tp(1)が10sの場合において、含有溶液30中のヒスタミンの濃度の増加に伴う第1電流i0の変動の程度は、第1経過時間Tp(1)が0.3s、3.0s、5.0sの場合(図16(A)~図18(A)参照)と比べて大きくなった。又、図19(B)に示すように、第1経過時間Tp(1)を10sとした場合において、ヒスタミンの濃度と比Rc(=i/i0)との関係を近似した線形曲線の傾きの絶対値は、第1経過時間Tp(1)を0.3s、3.0s、5.0sとした場合(図16(B)~図18(B)参照)と比べて非常に小さく、略0となった。
以上から、第1経過時間Tp(1)を少なくとも0.3s~5.0sの範囲内の何れかの値とすることによって、比Rcの値に基づいてヒスタミンの濃度を適切に特定できることが明らかとなった。一方、第1経過時間Tp(1)を10s以上の何れかの値とした場合、比Rcの値に基づいてヒスタミンの濃度を特定することが困難であることが分かった。又、電極32Aに対して含有溶液30を滴下してからの経過時間であって、ヒスタミンの分解反応の時間経過による進行が計測精度に影響しない第1経過時間Tp(1)の範囲は、本実施形態において0.3s~5.0sとなることが明らかとなった。
図20は、電極32Aに印加する電圧をスイープさせた場合に流れる電流値をプロットしたグラフである。より詳細には、図20は、マグロ水煮缶詰サンプルのヒスタミン無添加と、50ppm相当添加品に対して、0mVから-1000mVまで-40mV/secでスイープしたときの電流値グラフである。図20に示すように、含有溶液30中のヒスタミンの濃度(0ppm、50ppm)に関わらず、図中の太枠線内において、酸素の電気分解に起因する電流値のピークが観察された。この結果から、電極32Aに印加する第1電圧V(1)及び第2電圧V(2)を-500mVよりも絶対値として大きい値とすることによって、酸素の電気分解によりヒスタミンの濃度を特定できることが分かった。
図21~図23は、電極32Aに印加する第1電圧V(1)を-700mV(図21参照)、-800mV(図22参照)、-1000mV(図23参照)とした場合における電極32A近傍の酸素の濃度の経時変化をシミュレーションにより導出したグラフである。なお、夫々の第1電圧V(1)を電極32Aに印加する時間(第1印加時間Ta(1))は、何れも0.5sである。
図21に示すように、第1電圧V(1)を-700mVとした場合、電極32Aの近傍の酸素濃度は、電圧の印加から約30s経過後において電圧印加前の約95%まで回復した。このため、第1電圧V(1)を-700mVとした場合において、電極32Aの近傍の酸素濃度の良好な回復率が確認された。一方、図22に示すように、第1電圧V(1)を-800mVとした場合、電圧の印加から約30s経過後における酸素濃度の回復率は、90%であった。又、図23に示すように、第1電圧V(1)を-1000mVとした場合、電圧の印加から約30s経過後における酸素濃度の回復率は、約85%であった。このため、第1電圧V(1)が-800mVよりも大きい場合に、時間が経過しても酸素濃度の適切な回復率が得られないことが分かった。なお、以上の結果は、2回目以降に電極32Aに電圧を印加する場合の第2電圧V(2)に対しても同様に適用される。
このことから、第1電圧V(1)及び第2電圧V(2)を-600mV~-800mVの範囲内の何れかの値とすることによって、電極32A近傍の酸素濃度を良好に回復できるので、計測される電流値に基づいてヒスタミンの濃度を適切に特定できることが明らかとなった。一方、第1電圧V(1)及び第2電圧V(2)を-800mVよりも大きくした場合、電極32A近傍の酸素濃度を良好に回復できないので、計測される電流値に基づいてヒスタミンの濃度を特定することが困難であることが分かった。又、電気分解による酸素の分解量が計測精度に影響しない第1電圧V(1)及び第2電圧V(2)の範囲は、-600mV~-800mVとなることが明らかとなった。
図24は、電極32Aに印加する第1電圧V(1)を-700mVとした場合における電極32A近傍の酸素の濃度の経時変化をシミュレーションにより導出したグラフである。なお、図21と異なる点は、第1電圧V(1)を電極32Aに印加する時間(第1印加時間Ta(1))を1.0sとした点である。
図24に示すように、第1印加時間Ta(1)を1.0sとした場合、電圧の印加から約30s経過後における酸素濃度の回復率は約90%であった。このため、第1印加時間Ta(1)が少なくとも1.0sよりも大きい場合に、第1電圧V(1)の印加から時間が経過しても、電極32A近傍の酸素濃度は良好に回復しないことが分かった。なお、以上の結果は、2回目以降に電極32Aに電圧を印加する場合の第2印加時間Ta(2)に対しても同様に適用される。
このことから、第1印加時間Ta(1)及び第2印加時間Ta(2)を0.5s~1.0sの範囲内の何れかの値とすることによって、電極32A近傍の酸素濃度を良好に回復できるので、計測される電流値に基づいてヒスタミンの濃度を適切に特定できることが明らかとなった。一方、第1印加時間Ta(1)及び第2印加時間Ta(2)を1.0sよりも大きくした場合、電極32A近傍の酸素濃度を良好に回復できないので、計測される電流値に基づいてヒスタミンの濃度を特定することが困難であることが分かった。又、第1電圧V(1)及び第2電圧V(2)の夫々の印加時間であって計測精度に影響しない第1印加時間Ta(1)及び第2印加時間Ta(2)の範囲は、0.5s~1.0sとなることが明らかとなった。
図25は、第1電圧V(1)の電圧を印加してから60s、120s、及び180sの夫々の時間が経過したタイミングで第2電圧V(2)(-600mV)が電極32Aに印加されたことに応じて計測された第2電流iを、ヒスタミンの濃度毎に示したグラフである。より詳細には、図25は、マグロ水煮缶詰サンプルのヒスタミン無添加と、50ppm相当、100ppm相当添加品に対して、-600mVの短方形波を60秒間隔に4回印加して得られた電流値グラフである。
図25に示すように、120s、及び180s経過後に第2電圧V(2)を印加した場合において、第2電流iは略同一となった。このため、第1電圧V(1)を印加してからの経過時間である第2経過時間Tp(2)を120s以上とすることによって、電極32A近傍の酸素濃度は安定化することが分かった。このため、第2経過時間Tp(2)を120s以上とすることによって、第2電流iを精度良く計測可能であり、この第2電流iに基づいてヒスタミンの濃度を精度良く特定できることが分かった。又、第1電圧V(1)が印加された後、第1電圧V(1)の印加による電極32A近傍の酸素の濃度変化が、酸素の拡散によって計測精度に影響しない程度まで回復する場合の第2経過時間Tp(2)の範囲は、120s~となることが明らかとなった。
<シミュレーション(酸素の拡散を考慮した場合)>
図4~図7、図10、図12、図13で示したグラフを導出するためのシミュレーションについて説明する。電極32Aに電圧を印加することにより生じる現象は、次の3つに大別できる。
・酵素膜10内での酵素反応により、酸素及びヒスタミンが消費される。
・酵素膜10の周囲から酵素膜10に向けて、ヒスタミン及び酸素が拡散により輸送される。
・電極32Aにて酸素が電気分解されて消費され、電気分解に基づく電流が流れる。
上記の3つの現象の夫々を、以下に示す方法で定式化する。
図4~図7、図10、図12、図13で示したグラフを導出するためのシミュレーションについて説明する。電極32Aに電圧を印加することにより生じる現象は、次の3つに大別できる。
・酵素膜10内での酵素反応により、酸素及びヒスタミンが消費される。
・酵素膜10の周囲から酵素膜10に向けて、ヒスタミン及び酸素が拡散により輸送される。
・電極32Aにて酸素が電気分解されて消費され、電気分解に基づく電流が流れる。
上記の3つの現象の夫々を、以下に示す方法で定式化する。
<酵素反応によるヒスタミン及び酸素の消費量について>
シミュレーションのモデルは、1次元、即ち、電極32Aを原点として電極32Aの平面と直交する方向(y方向という。)のみに着目する。他の方向(x方向、z方向)には、ヒスタミン及び酸素の分布がないものとする。
シミュレーションのモデルは、1次元、即ち、電極32Aを原点として電極32Aの平面と直交する方向(y方向という。)のみに着目する。他の方向(x方向、z方向)には、ヒスタミン及び酸素の分布がないものとする。
酵素膜10の内部にある小さな領域(体積:Δy×1×1)において、酵素反応によって消費されるヒスタミン及び酸素の夫々の消費量は、反応を2次反応と仮定した場合、次のように表すことができる。
酸素の消費量:-kHCΔyΔt
ヒスタミンの消費量:-γkHCΔyΔt
上記において、kは反応速度定数、Hはヒスタミンの重量濃度、Cは酸素の重量濃度、γは酸素とヒスタミンのモル分子量比率である。なお、溶媒が水であることを想定し、比重は1に設定されている。
酸素の消費量:-kHCΔyΔt
ヒスタミンの消費量:-γkHCΔyΔt
上記において、kは反応速度定数、Hはヒスタミンの重量濃度、Cは酸素の重量濃度、γは酸素とヒスタミンのモル分子量比率である。なお、溶媒が水であることを想定し、比重は1に設定されている。
<ヒスタミン及び酸素の拡散について>
酵素膜10の外部において、ヒスタミン及び酸素の濃度は初期の状態で保たれる。一方、酵素膜10の内部では、酵素反応によってヒスタミン及び酸素が消費され、ヒスタミン及び酸素の濃度分布が生じる。このため、拡散によるヒスタミン及び酸素の移動が起こる。ここで、<酵素反応に依るヒスタミン及び酸素の消費量について>の場合と同様、酵素膜10の内部にある小さな領域(体積:Δy×1×1)におけるヒスタミン及び酵素の拡散を考える。
酵素膜10の外部において、ヒスタミン及び酸素の濃度は初期の状態で保たれる。一方、酵素膜10の内部では、酵素反応によってヒスタミン及び酸素が消費され、ヒスタミン及び酸素の濃度分布が生じる。このため、拡散によるヒスタミン及び酸素の移動が起こる。ここで、<酵素反応に依るヒスタミン及び酸素の消費量について>の場合と同様、酵素膜10の内部にある小さな領域(体積:Δy×1×1)におけるヒスタミン及び酵素の拡散を考える。
はじめに、酸素の拡散について以下のように定式化する。拡散のFickの第一法則に従い、拡散は濃度勾配と拡散面積(単位量1)に比例し、次のように表すことができる。拡散係数をDと表記し、酸素とヒスタミンとの拡散係数の比をgと表記する。
物資収支を考える小さな領域へ酸素が流入する時の酸素の量は式(2-1)により表すことができ、物資収支を考える小さな領域から酸素が流出する時の酸素の量は式(2-2)により表すことができる。なお、以下の式では、酵素膜10の膜厚Lで無次元化されている。
又、酸素の拡散による、物資収支を考える小さな領域への増減量は、式(2-3)により表すことができる。
物資収支を考える小さな領域へヒスタミンが流入する時の酸素の量は式(2-4)により表すことができ、物資収支を考える小さな領域からヒスタミンが流出する時の酸素の量は式(2-5)により表すことができる。
又、ヒスタミンの拡散による、物資収支を考える小さな領域への増減量は、式(2-6)により表すことができる。
<基礎方程式>
式(2-1)~(2-6)に基づき、ヒスタミン及び酸素(以下、対象物質と総称する。)の酵素反応による消費量と拡散とを統合した基礎方程式について、以下にて説明する。対象物質の増減量と、対象物質の拡散による流出時の量、対象物質の拡散による流入時の量、及び、対象物質の酵素反応による消費量とは、以下の式(3)の関係を満たす。但し、対象物質の増減量を、増減量と表記する。対象物質の拡散による流出時の量を、拡散流出と表記する。対象物質の拡散による流入時の量を、拡散流入と表記する。対象物質の酵素反応による消費量を、反応消費量と表記する。
増減量=拡散流出-拡散流入-反応消費量 (3)
式(2-1)~(2-6)に基づき、ヒスタミン及び酸素(以下、対象物質と総称する。)の酵素反応による消費量と拡散とを統合した基礎方程式について、以下にて説明する。対象物質の増減量と、対象物質の拡散による流出時の量、対象物質の拡散による流入時の量、及び、対象物質の酵素反応による消費量とは、以下の式(3)の関係を満たす。但し、対象物質の増減量を、増減量と表記する。対象物質の拡散による流出時の量を、拡散流出と表記する。対象物質の拡散による流入時の量を、拡散流入と表記する。対象物質の酵素反応による消費量を、反応消費量と表記する。
増減量=拡散流出-拡散流入-反応消費量 (3)
酸素についての式(2-1)~(2-3)を式(3)に当てはめると、酸素に関する関係式として式(3-1)を導出できる。
両辺をΔyΔtで除算し、Δy,Δtの夫々について極限0を取ることにより、式(3-2)を導出できる。
ヒスタミンについての式(2-4)~(2-6)を式(3)に当てはめると、ヒスタミンに関する関係式として式(3-3)を導出できる。
酸素の場合と同様、両辺をΔyΔtで除算し、Δy,Δtの夫々について極限0を取ることに依り、式(3-4)を導出できる。
式(3-3)、(3-4)は連立2階偏微分方程式であり、解くためには境界条件が6個必要である。また解析的に解くことは大変困難である。そのため、本実施形態では、数値解法を適用する。
式(3-5)、(3-6)に示す基礎方程式により、酵素膜10の膜厚の二乗と拡散係数が反比例の関係にあれば、同一の方程式、即ち、同一の解が得られることになる。従って、例えば、拡散係数が小さく計測不能である対象物質が存在する場合、酵素膜10の膜厚を小さくすることによって対処できる場合がある。
電極の近傍の、物資収支を考える小さな領域において、式(4-1)の右辺で示される量の酸素が消費されると仮定した場合、式(4-2)、(4-3)を満たす。
式(4-2)、(4-3)に、拡散による流入項を加算すると、式(4-4)を満たす。
式(4-4)は、5つ目の境界条件に対応する。
式(3-7)、(3-8)、(4-4)、(4-5)は、連立線形非定常2階偏微分方程式であり、解析的に解くのは困難である。一方、定常状態が近似できれば、解くことは可能である。
<数値シミュレーション>
微分方程式の解法として、Runge-Kutta法等が知られているが、本実施形態では簡便化のため、最も簡単な逐次方程式とする方法をとる。酵素膜10中の酸素の濃度を、例えばC(t,x)と表記する。tが何番目であるかを示すiと、xが何番目であるかを示すjとを引数とする。同様に、酵素膜10中のヒスタミンの濃度を、例えばH(t,x)と表記する。tが何番目であるかを示すiと、xが何番目であるかを示すjとを引数とする。この場合、基礎方程式の左辺の、i番目のC,Hに関する時間微分C´、H´は、次の式(5-1)、(5-2)により表すことができる。
C´=C(i,j)-C(i-1,j) (5-1)
H´=H(i,j)-H(i-1,j) (5-2)
微分方程式の解法として、Runge-Kutta法等が知られているが、本実施形態では簡便化のため、最も簡単な逐次方程式とする方法をとる。酵素膜10中の酸素の濃度を、例えばC(t,x)と表記する。tが何番目であるかを示すiと、xが何番目であるかを示すjとを引数とする。同様に、酵素膜10中のヒスタミンの濃度を、例えばH(t,x)と表記する。tが何番目であるかを示すiと、xが何番目であるかを示すjとを引数とする。この場合、基礎方程式の左辺の、i番目のC,Hに関する時間微分C´、H´は、次の式(5-1)、(5-2)により表すことができる。
C´=C(i,j)-C(i-1,j) (5-1)
H´=H(i,j)-H(i-1,j) (5-2)
次に、基礎方程式の右辺のyに関する2階微分項H´´、C´´は、次の式(5-3)、(5-4)により表すことができる。
C´´={C(i-1,j+1)-C(i-1,j)}
-{C(i-1,j)-C(i-1,j-1)}
=C(i-1,j+1)+C(i-1,j-1)-2×C(i-1,j)
(5-3)
H´´=H(i-1,j+1)+H(i-1,j-1)-2×H(i-1,j)
(5-4)
各々2つの方程式を基礎方程式に代入し、適当にパラメータを代入することにより、C(i,j)及びH(i,j)を求めることができる。
C´´={C(i-1,j+1)-C(i-1,j)}
-{C(i-1,j)-C(i-1,j-1)}
=C(i-1,j+1)+C(i-1,j-1)-2×C(i-1,j)
(5-3)
H´´=H(i-1,j+1)+H(i-1,j-1)-2×H(i-1,j)
(5-4)
各々2つの方程式を基礎方程式に代入し、適当にパラメータを代入することにより、C(i,j)及びH(i,j)を求めることができる。
<印加電圧の時間変化>
基礎方程式には、印加電圧の変数があるが、このVを時間によって変化するとして時間変数V(t)とすると、任意のV(t)による酸素濃度、ヒスタミン濃度を計測可能である。又、次に示すように、酸素の電気分解により電流を計測可能である。
基礎方程式には、印加電圧の変数があるが、このVを時間によって変化するとして時間変数V(t)とすると、任意のV(t)による酸素濃度、ヒスタミン濃度を計測可能である。又、次に示すように、酸素の電気分解により電流を計測可能である。
<酸素の電気分解により流れる電流の計算>
バトラーボルマー則により、酸素の電気分解により流れる電流は、式(4-1)により算出できる。この方程式により、電極32A上の酸素の濃度、及び、係数αが分かれば、電流を計算可能である。なお、係数αは、電極32Aの物性だけでなく、含有溶液30の特性(pHなど)によっても大きく変動する。一方、本実施形態によれば、比Rcを算出することにより、係数αの影響を排除できるので、電流値を精度良く特定し、ヒスタミンの濃度を正確に計測できる。
バトラーボルマー則により、酸素の電気分解により流れる電流は、式(4-1)により算出できる。この方程式により、電極32A上の酸素の濃度、及び、係数αが分かれば、電流を計算可能である。なお、係数αは、電極32Aの物性だけでなく、含有溶液30の特性(pHなど)によっても大きく変動する。一方、本実施形態によれば、比Rcを算出することにより、係数αの影響を排除できるので、電流値を精度良く特定し、ヒスタミンの濃度を正確に計測できる。
以上により、実際に計測される電気分解時の電流の予測計算も可能となる。なお、実際のバトラーボルマー定数や拡散係数は、設定が困難である場合が多いが、実際には、実験で得られる電流カーブをシミュレーションにより再現するためのパラメータ範囲は極めて狭い範囲であることから、上記の方法によりシミュレーションが可能となった。
<シミュレーション(酸素の拡散を考慮しない場合)>
図11で示したグラフを導出するためのシミュレーションについて説明する。式(3-5)において、拡散に関する項を無視することにより、式(6-1)を導出する。同様に、式(3-6)において、拡散に関する項を無視することにより、式(6-2)を導出する。
図11で示したグラフを導出するためのシミュレーションについて説明する。式(3-5)において、拡散に関する項を無視することにより、式(6-1)を導出する。同様に、式(3-6)において、拡散に関する項を無視することにより、式(6-2)を導出する。
ここで、酸素ガス分子が1個消費するとヒスタミン分子が1個反応するという前提を置く。この場合、酸素分子量M0、ヒスタミン分子Mhと表記すると、ヒスタミン重量濃度H(t)と酸素重量濃度C(t)との関係は、式(6-3)にて表すことができる。
式(6-8)から、規格化濃度cの収束値は、初期ヒスタミン濃度H0と線形の関係にあることが分かる。この線形の関係は、ある程度以上反応が進行しなければならない。言い換えれば、計測精度に影響しない範囲まで反応が進行しなければならない。ここで、時間tには必ずkが乗算されているので、計測精度に影響しない範囲まで反応が進行するのに要する時間は、kが大きければ時間tは小さくて済み、kが小さければ時間tは大きい必要がある。従って、収束時間は、反応速度と反比例の関係にあることが分かる。
<評価>
本発明に係る手法に係る計測結果と、従来手法に係る計測結果との比較を行った。
本発明に係る手法に係る計測結果と、従来手法に係る計測結果との比較を行った。
<評価1>
従来手法では、第2電流iを規格化せずにそのまま係数α、βの影響がある電流値として用いた。図26、図27は、規格化する前の第2電流i(2分後の電流値、図26参照)と、規格化された第2電流iを示す比Rc(2分後の電流値を第1電流i0で規格化、図27参照)との夫々のデータを示す。異なる2枚の酵素チップ(酵素チップA、B)を用い、魚肉抽出液中のヒスタミンを計測した。図26に示すように、第2電流iの規格化を行う前では、酵素チップの個体差や電流値のばらつきによって、ヒスタミンの推定精度に相当する決定係数R2=0.88となっている。一方、図27に示すように、第2電流iの規格化を行った場合には、R2=0.95となっており、計測精度が向上したことが確認された。
従来手法では、第2電流iを規格化せずにそのまま係数α、βの影響がある電流値として用いた。図26、図27は、規格化する前の第2電流i(2分後の電流値、図26参照)と、規格化された第2電流iを示す比Rc(2分後の電流値を第1電流i0で規格化、図27参照)との夫々のデータを示す。異なる2枚の酵素チップ(酵素チップA、B)を用い、魚肉抽出液中のヒスタミンを計測した。図26に示すように、第2電流iの規格化を行う前では、酵素チップの個体差や電流値のばらつきによって、ヒスタミンの推定精度に相当する決定係数R2=0.88となっている。一方、図27に示すように、第2電流iの規格化を行った場合には、R2=0.95となっており、計測精度が向上したことが確認された。
<評価2>
従来手法として、スイープによりヒスタミンの濃度を計測した。図28に示す例では、サンプルとしてマグロ生肉、及びマグロ水煮缶が用いられた。そして、これに対し、ヒスタミン無添加、25ppm、50ppm相当となるようにヒスタミンを添加し、計測を実施した。データは0mVから-800mVまで-20mV/secで電極の電圧をスイープした場合のピーク電流値をプロットした。又、2つのサンプルのデータに対して回帰直線を算出した。なお、決定係数R2=0.82となった。
従来手法として、スイープによりヒスタミンの濃度を計測した。図28に示す例では、サンプルとしてマグロ生肉、及びマグロ水煮缶が用いられた。そして、これに対し、ヒスタミン無添加、25ppm、50ppm相当となるようにヒスタミンを添加し、計測を実施した。データは0mVから-800mVまで-20mV/secで電極の電圧をスイープした場合のピーク電流値をプロットした。又、2つのサンプルのデータに対して回帰直線を算出した。なお、決定係数R2=0.82となった。
従来手法が用いられた場合におけるヒスタミン濃度と第2電流iの積算値(規格化なし)との関係を、図29に示す。本発明に係る手法が用いられた場合におけるヒスタミン濃度と第2電流iを規格化した値を示す比Rcとの関係を、図30に示す。サンプルとして、マグロ水煮缶抽出液とマグロ蒸し肉抽出液とが用いられた。図29、図30において、回帰直線は2つのサンプルで得られた積算値とヒスタミン濃度に対して算出した。従来手法の場合、R2=0.83となり、本発明に係る手法の場合、R2=0.95となった。このことから、従来手法の計測精度はスイープの場合(図28参照)と変わらないが、本発明に係る手法とすることにより、精度が向上することが確認された。
<評価3>
本発明に係る手法により計測されたヒスタミンの濃度と、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて計測されたヒスタミンの濃度とを比較した。サンプルとしてマグロ生肉を用いた場合の結果を、図31に示す。サンプルとしてマグロ水煮缶詰抽出液を用いた場合の結果を、図32に示す。この結果から、何れの決定係数R2も0.9より小さくなった。このことから、本発明に係る手法を適用することにより、ヒスタミンの濃度を高精度に計測できることが確認された。
本発明に係る手法により計測されたヒスタミンの濃度と、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて計測されたヒスタミンの濃度とを比較した。サンプルとしてマグロ生肉を用いた場合の結果を、図31に示す。サンプルとしてマグロ水煮缶詰抽出液を用いた場合の結果を、図32に示す。この結果から、何れの決定係数R2も0.9より小さくなった。このことから、本発明に係る手法を適用することにより、ヒスタミンの濃度を高精度に計測できることが確認された。
<評価4>
酸素濃度の時間変化を初期酸素濃度毎に評価した。図33は、初期酸素濃度(規格値)が1.2、1.1、1.0、0.9、0.8の夫々の場合における酸素濃度の時間変化を示す。図34は、図33の結果を初期酸素濃度1.0で規格化した値の時間変化を示す。図33、図34の結果から、酸素濃度の時間変化は、初期酸素濃度の値に依らず集約することが分かった。又、図33、図34では酸素濃度を±20%ずつ変化させているが、例えば標高1000mでも酸素濃度の低下は約10%、超大型台風でも気圧低下は約10%の低下に留まることから、初期酸素濃度の相違は実用上問題ないことが分かった。
酸素濃度の時間変化を初期酸素濃度毎に評価した。図33は、初期酸素濃度(規格値)が1.2、1.1、1.0、0.9、0.8の夫々の場合における酸素濃度の時間変化を示す。図34は、図33の結果を初期酸素濃度1.0で規格化した値の時間変化を示す。図33、図34の結果から、酸素濃度の時間変化は、初期酸素濃度の値に依らず集約することが分かった。又、図33、図34では酸素濃度を±20%ずつ変化させているが、例えば標高1000mでも酸素濃度の低下は約10%、超大型台風でも気圧低下は約10%の低下に留まることから、初期酸素濃度の相違は実用上問題ないことが分かった。
<評価5>
標高828m(気圧920hPa)と、標高10m(気圧1012hPa)との夫々における積算電流値/比Rcの時間変化を、ヒスタミンの濃度毎に評価した。図35は、標高828m/ヒスタミン濃度0ppm、標高10m/ヒスタミン濃度0ppm、標高828m/ヒスタミン濃度50ppm、及び標高10m/ヒスタミン濃度50ppmの夫々の条件で実測された積算電流値の時間変化を示す。図36は、標高828m/ヒスタミン濃度0ppm、標高10m/ヒスタミン濃度0ppm、標高828m/ヒスタミン濃度50ppm、及び標高10m/ヒスタミン濃度50ppmの夫々の条件で実測された比Rcの時間変化を示す。図34、図35の結果から、積算電流値及び比Rcは何れも一致しており、標高(気圧)の影響をほとんどうけないことが分かった。
標高828m(気圧920hPa)と、標高10m(気圧1012hPa)との夫々における積算電流値/比Rcの時間変化を、ヒスタミンの濃度毎に評価した。図35は、標高828m/ヒスタミン濃度0ppm、標高10m/ヒスタミン濃度0ppm、標高828m/ヒスタミン濃度50ppm、及び標高10m/ヒスタミン濃度50ppmの夫々の条件で実測された積算電流値の時間変化を示す。図36は、標高828m/ヒスタミン濃度0ppm、標高10m/ヒスタミン濃度0ppm、標高828m/ヒスタミン濃度50ppm、及び標高10m/ヒスタミン濃度50ppmの夫々の条件で実測された比Rcの時間変化を示す。図34、図35の結果から、積算電流値及び比Rcは何れも一致しており、標高(気圧)の影響をほとんどうけないことが分かった。
<本実施形態の作用、効果>
計測装置3の電極32は、酵素が製膜された酵素膜10を表面に有する。ヒスタミンは、酵素と反応することによってIAAが分解物として生成される。計測装置3は、ヒスタミンが分解されてIAAが生成されることに応じて消費される酸素を、電極32Aに対する電圧印加によって電気分解する。計測装置3は、電極32Aに対する電圧の印加によって酸素が電気分解する反応を利用し、酸素の濃度変化からヒスタミンの濃度を計測できる。
計測装置3の電極32は、酵素が製膜された酵素膜10を表面に有する。ヒスタミンは、酵素と反応することによってIAAが分解物として生成される。計測装置3は、ヒスタミンが分解されてIAAが生成されることに応じて消費される酸素を、電極32Aに対する電圧印加によって電気分解する。計測装置3は、電極32Aに対する電圧の印加によって酸素が電気分解する反応を利用し、酸素の濃度変化からヒスタミンの濃度を計測できる。
計測装置3は、S13の処理による第1電圧V(1)の印加に応じて電極32Aに流れる第1電流i0を測定し(S15)、S17の処理による第2電圧V(2)の印加に応じて電極32Aに流れる第2電流iを測定する(S19)。計測装置3は、第1電流i0と第2電流iとに基づいて、ヒスタミンの濃度を決定する(S21)。より詳細には、計測装置3は、第2電流iを前記第1電流i0で除算した比Rcに基づいて、ヒスタミンの濃度を計測する。つまり、計測装置3は、含有溶液30の初期における溶存酸素濃度が常温、常圧において略一定のため、ヒスタミンの反応が生じる前の状態を基準として、ヒスタミンの濃度を計測する。計測装置3は、比Rcを算出することにより係数α、βの影響を排除できるので、係数α、βの変動に応じて測定精度が低下する可能性を軽減できる。このため計測装置3は、ヒスタミンの濃度を更に高精度に計測できる。
計測装置3は、S13の処理によって第1電圧V(1)が印加されている間に流れる電流の積算値を、第1電流i0として測定する(S15)。計測装置3は、S17の処理によって第2電圧V(2)が印加されている間に流れる電流の積算値を、第2電流iとして測定する(S19)。この場合に測定される第1電流i0及び第2電流iは、電極32Aに対する電圧の印加によって電気分解される酸素の量を適切に反映し、係数α、βの相違に基づく電流値の差異の影響は小さくなる。従って、計測装置3は、係数α、βの変動に応じて精度が低下する可能性を更に軽減できるので、ヒスタミンの濃度を更に高精度に計測できる。このため、センサチップ3Aの電極32Aの個体差に応じて測定結果に誤差が生じる可能性を軽減できる。
計測装置3は、記憶装置22に記憶した一次関数fに、算出した比Rcを適用することによって、ヒスタミンの濃度を決定する(S21)。このため、計測装置3は、ヒスタミンの濃度を、比Rcに基づいて容易に決定できる。
計測装置3は、S13で印加する第1電圧V(1)と、S17で印加する第2電圧V(2)とを同一とする。又、計測装置3は、S13で第1電圧V(1)を印加する第1印加時間Ta(1)と、S17で第2電圧V(2)を印加する第2印加時間Ta(2)とを同一とする。これにより、計測装置3は、比Rcに基づいてヒスタミンの濃度を高精度に特定できる。
計測装置3は、含有溶液30が電極32に滴下されたか判定し(S11)、含有溶液30が滴下されたと判断されたタイミング(S11:YES)で、電極32Aに対して第1電圧V(1)を印加する(S13)。この場合、計測装置3は、電極32に対して含有溶液30が滴下されてから、第1電圧V(1)の印加が開始されるまでの間において、含有溶液30中のヒスタミンが反応する場合の反応量を抑制できる。従って計測装置3は、この間におけるヒスタミンの分解量を抑制できるので、ヒスタミンの濃度を更に高精度に計測できる。
センサチップ3Aの電極32は、作用極としての電極32Aは、対極としての電極32B、及び、参照極としての電極32Cを有する。計測装置3は、三極電極法に基づいて電極32Aに電圧を印加し電流を計測する。このため計測装置3は、二極電極法に基づいて電極に電圧を印加し電流を計測する場合と比べて、被検体の物理量をより高精度に決定できる。
<変形例>
本発明は上記実施形態に限定されず、種々の変更が可能である。計測装置3は、センサチップ3Aのみで構成されてもよい。この場合、測定部31は、電極32に電圧を印加したときに流れる電流の電流値を計測し、含有溶液30中のサンプルに含まれるヒスタミンの濃度を検出してもよい。センサチップ3Aは、検出した濃度を、非図示の表示部に表示してもよい。更に、計測装置3は、センサチップ3A及び本体部3Bが一体化した構造を有していてもよい。
本発明は上記実施形態に限定されず、種々の変更が可能である。計測装置3は、センサチップ3Aのみで構成されてもよい。この場合、測定部31は、電極32に電圧を印加したときに流れる電流の電流値を計測し、含有溶液30中のサンプルに含まれるヒスタミンの濃度を検出してもよい。センサチップ3Aは、検出した濃度を、非図示の表示部に表示してもよい。更に、計測装置3は、センサチップ3A及び本体部3Bが一体化した構造を有していてもよい。
計測装置3により濃度が計測される対象は、ヒスタミンに限定されない。例えば計測装置3は、ヒスタミンを含むアミンを検出してもよい。更に計測装置3は、生体から得たサンプルに含まれる非タンパク質性の含有物質を検出してもよい。又、計測装置3は、酸素の濃度を計測してもよい。例えばユーザは、計測装置3により計測された酸素の濃度を、別の機器によってヒスタミンの濃度に換算してもよい。
計測装置3は、酸素の電気分解によって生成され、量が増加する過酸化水素の濃度を計測してもよい。この場合、電極32Aの界面で過酸化水素が生成されることに応じ、過酸化水素の濃度勾配が含有溶液30内に形成され、過酸化水素は電極32Aから散逸する。例えばユーザは、計測装置3により計測された過酸化水素の濃度を、別の機器によってヒスタミンの濃度に換算してもよい。又、計測装置3は、計測した過酸化水素の濃度に基づき、ヒスタミンの濃度を直接計測してもよい。
酵素を変更することによって別の物質を計測対象としてもよい。酵素を用いず、別の反応手段を適用することによって被検体の濃度を計測してもよい。又、例えば電極上で酵素のような反応促進物質を設置しなくてもよい。この場合、例えば、溶液に反応促進剤を混合した後、電極に滴下して時間変化を測定してもよい。
計測装置3は、第2電流iを前記第1電流i0で除算した比Rcに基づいて、ヒスタミンの濃度を計測した。これに対し、計測装置3は、他の手法により、第1電流i0を用いて第2電流iを規格化(正規化)し、ヒスタミンの濃度を計測してもよい。例えば計測装置3は、メイン処理を複数回実行することによって複数の第1電流i0及び複数の第2電流iを取得し、これらを統計的に解析することによってヒスタミンの濃度を計測してもよい。
計測装置3は、記憶装置22に記憶した一次関数fに、算出した比Rcを適用することによって、ヒスタミンの濃度を決定した(S21)。計測装置3は、別の方法により、比Rcからヒスタミンの濃度を決定してもよい。例えば、計測装置3は、比Rcの複数の候補と、複数の候補の夫々に対応するヒスタミンの濃度とを対応付けたテーブルを、記憶装置22に記憶してもよい。計測装置3は、算出した比Rcに最も近似する複数の候補の何れかに対応付けられたヒスタミンの濃度を、含有溶液30におけるヒスタミンの濃度として決定してもよい。
計測装置3は、第1電圧V(1)が印加されている間に流れる電流の積算値を第1電流i0として測定し(S15)、第2電圧V(2)が印加されている間に流れる電流の積算値を第2電流iとして測定した(S19)。これに対し、計測装置3は、S13の処理によって第1電圧V(1)が印加された場合に電極32Aに流れた電流のピーク値を、第1電流i0として測定してもよい。同様に、計測装置3は、S17の処理によって第2電圧V(2)が印加された場合電極32Aに流れた電流のピーク値を、第2電流iとして測定してもよい。
計測装置3は、含有溶液30を電極32に滴下する滴下機構を有してもよい。計測装置3は、滴下機構により含有溶液30を電極32に滴下したタイミングで、電極32Aに対する第1電圧V(1)の印加を開始してもよい(S13)。
計測装置3は、第2電圧V(2)を電極32Aに2回以上印加してもよい。例えば第2電圧V(2)がm(mは2以上の整数)回印加される場合、図37に示すように、計測装置3は、m-1回目に第2電圧V(2)が印加された後、第3経過時間Tp(3)の経過後に、m回目の前記第2電圧V(2)を印加してもよい。なお、第3経過時間Tp(3)は、第2電圧V(2)の印加による電極32A近傍の酸素の濃度変化が、酸素の拡散によって計測精度に影響しない程度まで回復するまでの時間として予め規定される。第3経過時間Tp(3)は、具体的には120sであり、第2経過時間Tp(2)と等しい。
なお、第2電圧V(2)の値は、m回印加される毎に相違してもよい。第2経過時間Tp(2)の値は、第2電圧V(2)がm回印加される毎に相違してもよい。第3経過時間Tp(3)は、第2経過時間Tp(2)と異なる値でもよい。第3経過時間Tp(3)の値は、第2電圧V(2)がm回印加される場合のインターバル毎に相違してもよい。
第2経過時間Tp(2)は、計測装置3の穂記憶装置22に予め複数記憶されていてもよい。CPU21は、測定条件等に応じ、適切な第2経過時間Tp(2)を記憶装置22から取得し(S1)、測定を行ってもよい。この時、CPU21は、第2経過時間Tp(2)として回復時間を取得するか又は収束時間を取得するかを、測定条件等に応じて選択してもよい。又、CPU21は、測定条件等に応じて最適な第2経過時間Tp(2)を、測定時に算出して決定してもよい。
計測装置3は、第2電圧V(2)をm回印加する度に、第2電流iを測定してもよい。更に、計測装置3は、m回計測された第2電流iを統計的に解析することにより、第1電流i0との関係に基づいてヒスタミンの濃度を計測してもよい。具体的には、例えば計測装置3は、m回測定した第2電流iを線形近似して1次関数を特定し、特定された1次関数の傾きに基づいてヒスタミンの濃度を決定してもよい。
なお、第2経過時間Tp(2)及び第3経過時間Tp(3)は、第2電圧V(2)の印加による電極32A近傍の酸素の濃度変化が、酸素の拡散によって計測精度に影響しない程度まで回復するまでの時間に限らない。第2経過時間Tp(2)及び第3経過時間Tp(3)は、電極32Aに対する直前の電圧印加による電極32A近傍の酸素の濃度変化が、計測精度に影響しない程度まで解消される場合の時間範囲の中であれば、電極32A近傍の酸素の濃度変化が回復するまでの時間よりも短くてもよい。例えば、第2電流比Rcの減少度合いの経時的変化を用い、長時間経過後の比Rcを予測してもよい。CPU21は、予測した比Rcに基づいて、ヒスタミンの濃度を決定してもよい。詳細には次の通りである。
図38は、マグロ水煮缶詰サンプルのヒスタミン無添加サンプルに対して、-600mVの短方形波を60秒間隔に4回印加して得られた電流値および電流値比の時間変化を示すグラフである。図38(A)は、図37に示すように第1電圧V(1)及び第2電圧V(2)が電極32Aに印加された場合において、第1電圧V(1)が印加されてからの経過時間と、電圧印加時において電極32Aに流れる電流の計測値(第1電流i0又は第2電流i)との関係を示したグラフである。図38(B)は、第1電流i0と第2電流iとの比Rc(=i/i0)を、第1電圧V(1)を印加してからの経過時間ごとにプロットしたグラフである。なお、第2経過時間Tp(2)及び第3経過時間Tp(3)は、夫々60sとされ、mは3である。はじめに、図38(A)における各プロットが、関数F(t)=ae-bt+cにてフィッティングされる。同様に、図38(B)における各プロットが、関数F´(t)=a´e-b´t+c´にてフィッティングされる。なお、a、b、c、a´、b´、c´は、夫々、各プロットを近似するために適用される定数である。tは、第1電圧V(1)が印加されてからの経過時間である。
つまり、第1電圧V(1)が印加されてから経過時間t後に電極32Aに電圧が印加されたことに応じて流れる電流は、関数F(t)により導出可能である。この場合、計測装置3は、関数F(t)を適用することによって、電極32Aに対する電圧印加に応じて流れる電流の収束値を、電流が実際に収束する前に予測可能となる。同様に、第1電圧V(1)が印加されてから経過時間t後における比Rcも、関数F´(t)により導出可能である。この場合、計測装置3は、関数F´(t)を適用することによって、比Rcに基づくヒスタミンの濃度の特定を、電極32Aに対する電圧印加に応じて流れる電流が実際に収束する前に予測可能となる。この場合、より短い時間でヒスタミンの濃度を精度良く特定できる。
図39は、3回目の第2電圧V(2)が印加された場合に流れた第2電流iの計測値に基づき算出された比Rcと、ヒスタミンの濃度との関係を示すグラフである。より詳細には、図39は、マグロ水煮缶詰サンプルのヒスタミン無添加と、25ppm相当、50ppm相当、75ppm相当、100ppm相当添加品に対して、-600mVの短方形波を60秒間隔で4回印加したときの比Rcをヒスタミン濃度に対してプロットしたグラフである。比Rcを算出するために電流が計測されるタイミングは、第1電圧V(1)が電極32Aに印加されてから3分経過後である。ここで、横軸をx軸、縦軸をy軸と定義した場合、各プロットは、関数y=-0.0043x×0.7118なる関数にてフィッティングされる。
図40は、4~10分の経過後に第2電圧V(2)が印加されたときに流れる第2電流iから特定される比Rcを、関数yに基づいて算出し、算出されたRcに基づいて予測されるヒスタミンの濃度を評価した結果である。より詳細には、図40は、図39の3分間の計測実データから、4分以降の電流値を推測したときのシミュレーション結果(4分以降)である。なお、3分経過後に第2電圧V(2)が印加されたときの結果は実測値に基づいている。図40のうち、ヒスタミン感度[/ppm]とは、ヒスタミン1ppm当たり、比Rcがどの程度変化するかを示す指標であり、図39のグラフの傾きに対応する。又、R2は、実際のヒスタミンの濃度と予測されたヒスタミンの濃度との相関係数Rを二乗した決定係数、即ち寄与率を示す。
ヒスタミン感度の及びR2の結果から、経過時間が4分~10分の範囲内で、関数yに基づいて算出した比Rcに基づいて予測されるヒスタミンの濃度が、実際のヒスタミンの濃度と精度良く一致することが分かった。又、R2の結果から、経過時間が5分である場合において値が最も大きくなることから、経過時間が5分である場合にヒスタミンの濃度を最も高精度に特定できることが分かった。更に、図39、図40の結果から、第1電圧V(1)の印加から3分経過するまでに第2電圧V(2)を3回印加し、夫々で第2電流iを計測することによって、4回目以降の第2電圧V(2)を印加することなく比Rcを算出してヒスタミンの濃度を精度良く特定できることが明らかになった。
電極32は、作用極及び対極のみを有し、参照極を有さなくてもよい。この場合、計測装置3は、二極電極法に基づいて電極に電圧を印加し電流を計測することにより、ヒスタミンの濃度を計測してもよい。
<その他>
ヒスタミンは、本発明の「被検体」の一例である。酸素は、本発明の「計測物質」の一例である。S13の処理を行うCPU21は、本発明の「第1印加手段」の一例である。S15の処理を行うCPU21は、本発明の「第1測定手段」の一例である。S17の処理を行うCPU21は、本発明の「第2印加手段」の一例である。S19の処理を行うCPU21は、本発明の「第2測定手段」の一例である。S21の処理を行うCPU21は、本発明の「計測手段」の一例である。S11の処理を行うCPU21は、本発明の「判定手段」の一例である。S13の処理は、本発明の「第1印加工程」の一例である。S15の処理は、本発明の「第1測定工程」の一例である。S17の処理は、本発明の「第2印加工程」の一例である。S19の処理は、本発明の「第2測定工程」の一例である。S21の処理は、本発明の「計測工程」の一例である。
ヒスタミンは、本発明の「被検体」の一例である。酸素は、本発明の「計測物質」の一例である。S13の処理を行うCPU21は、本発明の「第1印加手段」の一例である。S15の処理を行うCPU21は、本発明の「第1測定手段」の一例である。S17の処理を行うCPU21は、本発明の「第2印加手段」の一例である。S19の処理を行うCPU21は、本発明の「第2測定手段」の一例である。S21の処理を行うCPU21は、本発明の「計測手段」の一例である。S11の処理を行うCPU21は、本発明の「判定手段」の一例である。S13の処理は、本発明の「第1印加工程」の一例である。S15の処理は、本発明の「第1測定工程」の一例である。S17の処理は、本発明の「第2印加工程」の一例である。S19の処理は、本発明の「第2測定工程」の一例である。S21の処理は、本発明の「計測工程」の一例である。
Claims (17)
- 被検体を含む溶液が電極に滴下されたことに応じて前記被検体に反応が起こることにより生じる計測物質の濃度の時間変化を、前記計測物質の電気分解によって生じる電流を計測することにより計測する計測装置であって、
前記電極に対する前記溶液の滴下後、前記反応の時間経過による進行が計測精度に影響しない範囲の第1経過時間後に、電気分解による前記計測物質の消失量又は増加量が計測精度に影響しない範囲の第1電圧を、計測精度に影響しない範囲の第1印加時間前記電極に印加する第1印加手段と、
前記第1印加手段による前記第1電圧の印加により流れる第1電流を測定する第1測定手段と、
前記第1電圧の印加による前記電極近傍の前記計測物質の濃度変化が、前記計測物質の拡散によって計測精度に影響しない程度まで回復するのに要する回復時間を、第2経過時間として取得する取得手段と、
前記第1印加手段により前記第1電圧が印加された後、前記取得手段により取得した第2経過時間の経過後に、少なくとも1回、電気分解による前記計測物質の消失量又は増加量が計測精度に影響しない範囲の第2電圧を、計測精度に影響しない範囲の第2印加時間前記電極に印加する第2印加手段と、
前記第2印加手段による前記第2電圧の印加により流れる第2電流を、少なくとも1回前記第2電圧が印加される毎に測定する第2測定手段と、
前記第1測定手段によって測定された前記第1電流を用いて、前記第2測定手段によって測定された前記第2電流を規格化し、前記反応に基づいて変化した前記計測物質の濃度又は前記被検体の濃度を計測する計測手段と、
を備えたことを特徴とする計測装置。 - 前記取得手段は、
前記反応の反応速度に反比例する時間であって計測精度に影響しない程度まで前記反応が終了するまでの収束時間の方が、前記回復時間よりも長い場合、前記収束時間を前記第2経過時間として取得することを特徴とする請求項1に記載の計測装置。 - 前記計測手段は、
前記第2測定手段によって測定された前記第2電流を、前記第1測定手段によって測定された前記第1電流で除算した算出値に基づいて、前記計測物質の濃度又は前記被検体の濃度を計測することを特徴とする請求項1又は2に記載の計測装置。 - 前記算出値と濃度との関係を示す関数を記憶する記憶部を備え、
前記計測手段は、
前記算出値に前記関数を適用することによって、前記計測物質の濃度又は前記被検体の濃度を決定することを特徴とする請求項3に記載の計測装置。 - 前記第1測定手段は、
前記第1印加手段によって前記第1電圧が印加されている間に流れる電流の積算値を、前記第1電流として測定し、
前記第2測定手段は、
前記第2印加手段によって前記第2電圧が印加されている間に流れる電流の積算値を、前記第2電流として測定する
ことを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の計測装置。 - 前記第1電圧と前記第2電圧とが同一であることを特徴とする請求項1から5の何れかに記載の計測装置。
- 前記第1印加時間と前記第2印加時間とが同一であることを特徴とする請求項1から6の何れかに記載の計測装置。
- 前記溶液が前記電極に滴下されたか判定する判定手段を備え、
前記第1印加手段は、
前記判定手段によって前記溶液が滴下されたと判断されたタイミングで、前記電極に対して前記第1電圧を印加することを特徴とする請求項1から7の何れかに記載の計測装置。 - 前記第2印加手段は、
前記第2電圧がm(mは2以上の整数)回印加される場合、m-1回目の前記第2電圧が印加された後、前記第2電圧の印加による前記電極近傍の前記計測物質の濃度変化が、前記計測物質の拡散によって計測精度に影響しない程度まで回復した第3経過時間の経過後に、m回目の前記第2電圧を印加することを特徴とする請求項1から8の何れかに記載の計測装置。 - 前記第2印加手段によりm回印加される前記第2電圧の夫々の値のうち少なくとも一部の値が、他の値と相違することを特徴とする請求項9に記載の計測装置。
- 前記第2印加手段によりm回印加される前記第2電圧の夫々の前記第2印加時間の値のうち少なくとも一部の値が、他の値と相違することを特徴とする請求項9又は10に記載の計測装置。
- 前記第2経過時間と前記第3経過時間とが同一であることを特徴とする請求項9から11の何れかに記載の計測装置。
- 前記電極は、酵素が製膜された酵素膜を表面に有し、
前記反応では、
前記被検体が前記酵素と反応することによって分解物が生成され、
前記第1印加手段、及び、前記第2印加手段は、
前記反応において前記分解物が生成されることに応じて消費される酸素を前記計測物質として、前記電極に対する電圧印加によって酸素を電気分解することを特徴とする請求項1から12の何れかに記載の計測装置。 - 前記被検体がヒスタミンであり、前記分解物がイミダゾールアセトアルデヒドであることを特徴とする請求項13に記載の計測装置。
- 前記電極は、作用極、対極、及び参照極を備えたことを特徴とする請求項1から14の何れかに記載の計測装置。
- 被検体を含む溶液が電極に滴下されたことに応じて前記被検体に反応が起こることにより生じる計測物質の濃度の時間変化を、前記計測物質の電気分解によって生じる電流を計測することにより計測する計測方法であって、
前記電極に対する前記溶液の滴下後、前記反応の時間経過による進行が計測精度に影響しない範囲の第1経過時間後に、電気分解による前記計測物質の消失量又は増加量が計測精度に影響しない範囲の第1電圧を、計測精度に影響しない範囲の第1印加時間前記電極に印加する第1印加工程と、
前記第1印加工程による前記第1電圧の印加により流れる第1電流を測定する第1測定工程と、
前記第1電圧の印加による前記電極近傍の前記計測物質の濃度変化が、前記計測物質の拡散によって計測精度に影響しない程度まで回復するのに要する回復時間を、第2経過時間として取得する取得工程と、
前記第1印加工程により前記第1電圧が印加された後、前記取得工程により取得した第2経過時間の経過後に、少なくとも1回、電気分解による前記計測物質の消失量又は増加量が計測精度に影響しない範囲の第2電圧を、計測精度に影響しない範囲の第2印加時間前記電極に印加する第2印加工程と、
前記第2印加工程による前記第2電圧の印加により流れる第2電流を、少なくとも1回前記第2電圧が印加される毎に測定する第2測定工程と、
前記第1測定工程によって測定された前記第1電流を用いて、前記第2測定工程によって測定された前記第2電流を規格化し、前記反応に基づいて変化した前記計測物質の濃度又は前記被検体の濃度を計測する計測工程と、
を備えたことを特徴とする計測方法。 - 前記取得工程は、
前記反応の反応速度に反比例する時間であって計測精度に影響しない程度まで前記反応が終了するまでの収束時間の方が、前記回復時間よりも長い場合、前記収束時間を前記第2経過時間として取得することを特徴とする請求項16に記載の計測方法。
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