JP7083557B1 - チタン又はチタン合金の表面処理方法 - Google Patents
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Abstract
Description
かかる状況において、本発明は、安価かつ簡便にチタン又はチタン合金の表面の性状を改質することができる表面処理方法を提供することを目的とする。
項1.
チタン又はチタン合金を、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含む水溶液を電気分解して得られたアルカリイオン水に浸漬する工程を含む、チタン又はチタン合金の表面処理方法。
項2.
前記アルカリイオン水中に、前記ケイ素が0.4~400mass ppm、及びリンが400~800mass ppm含まれる、上記項1に記載の表面処理方法。
項3.
前記アルカリイオン水中に、さらに、カルシウム、カリウム、ナトリウム、及びマグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも一種のミネラルが含まれる、上記項1又は2に記載の表面処理方法。
項4.
前記アルカリイオン水中に、さらに、塩素が含まれる、上記項1~3の何れか一項に記載の表面処理方法。
項5.
前記アルカリイオン水のpHが10~12.5である、上記項1~4の何れか一項に記載の表面処理方法。
項6.
前記アルカリイオン水の表面張力が55~68mN/mである、上記項1~5の何れか一項に記載の表面処理方法。
項7.
前記アルカリイオン水が、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩と水とを含む水溶液を電気分解する電気分解工程、及び、前記工程で得られた陰極側のアルカリ水と、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩とを混合して混合液を得、該混合液に電子を供給する電子供給工程により得られたものである、上記項1~6の何れか一項に記載の表面処理方法。
項8.
ケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含む水溶液を電気分解して得られたアルカリイオン水によって表面が処理されている、チタン又はチタン合金製のインプラント。
項9.
ケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含む水溶液を電気分解してアルカリイオン水を得る工程、及び、
前記アルカリイオン水をチタン又はチタン合金の表面に処理する工程を備える、チタン又はチタン合金製のインプラントの製造方法。
本発明のチタン又はチタン合金の表面処理方法においては、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含む水溶液を電気分解して得られたアルカリイオン水(以下、単に「アルカリイオン水」という場合もある。)を用い、チタン又はチタン合金のインプラントを、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含む水溶液を電気分解して得られたアルカリイオン水に浸漬することを特徴とする。本発明の表面処理方法は、チタン又はチタン合金を、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含む水溶液を電気分解して得られたアルカリイオン水に浸漬するだけで、チタン又はチタン合金の表面の性状を改質することができるので、高価な器材を必要とする従来の紫外線照射に比べて安価かつ簡便に表面改質を行うことができる。ここで、アルカリイオン水は、アルカリ電解水と言い換えることができる。
ケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含む水溶液を電気分解して得られたアルカリイオン水には、ケイ素及びリンが含まれる。具体的には、前記アルカリイオン水中に、ケイ素(Si)が0.4~400mass ppm(mg/L)程度、好ましくは0.8~390mass ppm程度、より好ましくは1.0~380mass ppm程度、及びリン(P)が2~800mass ppm程度、好ましくは4~780mass ppm程度、より好ましくは10~770mass ppm程度含まれる。なお、元素分析は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法(日立ハイテクサイエンス株式会社製 SPECTRO ACROSII)により行った。
第1工程は、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩と水とを含む水溶液を電気分解する電気分解工程である。
アルカリイオン水を製造する装置を説明する模式図を図1に示す。アルカリイオン水製造装置101は、電解槽1と混合槽11とを備えており、電解槽1と混合槽11とはアルカリ水導出管9で連結されている。電解槽1には、導水管2が接続されており、この導水管2によって原料水(ケイ素及びリンを含有するミネラル塩と水とを含む水溶液)が供給される。電解槽1は、隔膜3によって区画された陽極室4及び陰極室5を有している。陽極室4には陽極6が設けられ、陰極室5には陰極7が設けられている。両電極に電解電流を通電して、陽極室4に接続された酸性水排出管8より酸性水を取り出し、陰極室5に接続されたアルカリ水導出管9よりアルカリ水を取り出す。アルカリ水は、アルカリ水導出管9を通る間に、冷媒を循環した冷却管を設けた冷却装置10によって冷却して混合槽11に導入する。
上述したアルカリイオン水製造装置101を用いて、以下のようにアルカリイオン水を製造した。
原料水として、イオン交換水を準備した。イオン交換水は、イオン交換樹脂(サムソン社製)を用いて、水道水から不純物を除去することにより製造した。イオン交換水に日本の海水から採取されたケイ素及びリンを含有するミネラル塩を1質量%添加した水溶液を、導水管2を通じて電解槽1に導入し、陽極6及び陰極7に電気を流した。電気分解の条件は、電圧200V、電気エネルギー2500Wとした。イオン交換水が電気分解され、陽極室4では酸性水が生成し、陰極室5ではアルカリ水が生成した。陽極室4で生成された酸性水は、酸性水排出管8から排出された。陰極室5で生成されたアルカリ水はアルカリ水導出管9に導出され、アルカリ水導出管9を通るアルカリ水は冷却装置10により冷却されて、混合槽11に導入された。
その後、アルカリイオン水は、出口管16から導出され、pH測定手段17によりアルカリイオン水のpHを測定した後、アルカリイオン水出口管18から取り出された。
アルカリイオン水出口管から取り出された製造例1のアルカリイオン水を、ICP発光分光法(製造会社:日立ハイテクサイエンス株式会社、製品名:SPECTRO ARCOSII)を用いて、元素分析した。
その結果、ケイ素が100mass ppm、及びリンが760mass ppm含まれていることがわかった。なお、さらに、詳細には、ナトリウムが7500mass ppm、カリウムが2700mass ppm、カルシウムが0.2mass ppm、マグネシウムが0.1mass ppm以下含まれていることがわかった。
燃焼-電量滴定法としては、日東精工アナリテック株式会社製、塩素・硫黄分析装置TSX-10型を用いて、上記試料1約10mgを燃焼させ、電量適定により塩化物イオンの濃度を算出した。この測定により有機塩素、無機塩素を問わず試料中の塩素量が求められる。有機塩素量は、トータル塩素量から無機塩素量を差し引いた値を用いた。無機塩素量は、試料5gを熱水抽出し、抽出液中の塩素イオンをイオンクロマトグラフ法により測定して求めた。
その結果、製造例1のアルカリイオン水中に、塩素が410mg/kg含まれていることがわかった。
製造例1で得られたアルカリイオン水のpHを、pHメーター(株式会社堀場製作所製、HORIBA F-74SPを用いて測定したところ、pHの値は12であった。
製造例1で得られたアルカリイオン水の表面張力を、Wilhelmy法を用いて測定した。
その結果、製造例1で得られたアルカリイオン水の表面張力は、約65.41mN/m(20℃)であった。同様の方法で、精製水の表面張力を測定したところ、約72.96mN/m(20℃)であったことから、本発明で用いるケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含有するアルカリイオン水の表面張力は、精製水の表面張力に比べて、約7.55mN/m低かった。
ケイ素及びリンを含有するミネラル塩の原料を日本の海水から沖縄県の海水に代えた以外は、実施例1と同様の方法で、アルカリイオン水を製造した。
得られたアルカリイオン水について、実施例1と同様に、ICP発光分光法を用いで元素分析を行った結果、ケイ素が370mass ppm、及びリンが450mass ppm含まれていることが分かった。なお、さらに、詳細には、ナトリウムが6900mass ppm、カリウムが1mass ppm以下、カルシウムが0.9mass ppm、マグネシウムが0.3mass ppm以下含まれていることがわかった。
さらに、実施例2で得られたアルカリイオン水に含まれる塩素を、実施例1と同様に、一般財団法人日本食品分析センターにて、燃焼-電量滴定法を用いて測定した結果、実施例2のアルカリイオン水中に塩素が410mg/kg含まれることがわかった。
チタンディスクとして、鏡面研磨した直径9.5mm、厚み1.0mmのTi-6Al-4Vディスク(Osaka Yakken社製)を用いた。前処理として、前記チタンディスクをエタノール、アセトン、及び二段蒸留水(DDW)中に浸漬し、超音波処理を10分間行った。前処理したチタンディスクに対して、前処理直後、クリーンベンチ内に1週間静置後、又は4週間静置後に以下の処理を行った。
(1)製造例1で製造したアルカリイオン水に3分間浸漬した。以下、該処理を行ったものをアルカリイオン水処理群という。
(2)DDW中に3分間浸漬した。以下、該処理を行ったものをコントロール群という。
(3)クリーンベンチ内の15W殺菌灯(λ=253.7nm、パナソニック株式会社製)を48時間照射した。以下、該処理を行ったものをUV群という。
前処理直後、1週間後、又は4週間後に上記処理を行ったチタンディスク(アルカリイオン水処理群、コントロール群、又はUV群)について、以下の試験を行った。
前処理直後及び4週間後のアルカリイオン水処理群、並びに前処理直後及び4週間後のコントロール群について、X線光電子分光法(XPS)により、走査型X線光電子分光分析装置PHI X-tool(アルバック・ファイ株式会社製)を用いて、ワイドスキャン分析(1300.00-0.00 eV, 20.000 s)、及びナロースキャン分析(C1s:298.00-278.00 eV, N1s:411.00-391.00 eV, O1s:543.00-523.00 eV, Ti2p:469.00-449.00 eV, 20.000 s)で微量元素を測定した(n=4)。ワイドスキャン分析の結果を図2Aに示し、ナロースキャン分析の結果を図2Bに示す。
チタンのエイジングには、空気中の微量元素(炭素等)がチタン表面に経時的に付着することによる表面の極性の低下、表面エネルギーが小さくなることによる疎水性への変化等が関係していることが知られている。上記微量元素分析の結果から、コントロール群とアルカリイオン水処理群との炭素のパーセンテージの差より、アルカリイオン水処理群における親水性の獲得は炭素(C)の除去が関連していると考えられる。また、酸素(O)が増加したのは、炭素(C)が除去されたことでチタンディスク表面の酸化チタン層が顕在化したためと考えられる。
前処理直後、1週間後、及び4週間後のチタンディスクの表面に、DDW0.5μLを滴下し、接触角計LSE-ME3(株式会社ニック製)を用いて接触角を測定し、親水性を評価した(n=5)。
これらの結果より、アルカリイオン水で処理することで、チタンの表面エネルギーが大きくなり、疎水性の表面から親水性の表面に改質することができたことがわかる。今回、アルカリイオン水処理群における接触角が10°程度となり、超親水性(5°未満)にならなかったのは、使用したチタンディスクが鏡面研磨加工されたものであり、元々の表面エネルギーが非常に小さかったためと考えられる。
前処理直後及び4週間後のアルカリイオン水処理群、前処理直後及び4週間後のコントロール群、並びに前処理直後及び4週間後のUV群のそれぞれのチタンディスク表面に、ウシ血清フィブロネクチン1.0mg/mLを200μL滴下し、24時間後にプロテインアッセイキット(バイオ・ラッドプロテインアッセイキット、バイオ・ラッドラボラトリーズ株式会社製)を用いてブラッドフォード法でタンパク質吸着量を測定した(n=5)。結果を図5に示す。なお、測定結果は、一元配置分散分析を行った後、Tukey法で検定した。図5中、*はp<0.05、**はp<0.01を示す。
コントロール群の前処理後と4週間後との間に有意な差が認められたことから、エイジングによって4週間後には表面が疎水性に変化したことで、前処理直後と比較してタンパク質吸着量が低くなったと考えられる。さらに、前処理直後ではコントロール群とアルカリイオン水処理群との間に有意な差は認められなかったが、エイジングが進行した4週間後ではコントロール群のチタン表面が疎水性に変化し、アルカリイオン水処理群及びUV群のチタン表面が親水性になったことから、アルカリイオン水処理群及びUV群のほうが高いタンパク質吸着量を示したと考えられる。
骨芽細胞様細胞株MC3T3E-1(理研細胞バンク)を培地α-MEM(ナカライテスク株式会社製、イーグル最小必須培地α改変型)、10%FBS(ウシ胎児血清)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Gibco社製)を用いて、37℃及び5%CO2下で培養した。なお、培養液は3日毎に交換した。
エイジングによって疎水性になった表面では細胞接着が低下し、それに続く細胞応答にも影響を与え、骨芽細胞の増殖及び分化にも寄与することが知られている。上記結果より、コントロール群では炭素等の付着による表面エネルギーの減少、表面電位の変化等によってチタン表面に細胞が付着しにくくなったと考えられる。一方、アルカリイオン水処理群及びUV群では、炭素が除去されたことによる表面エネルギーの増大、表面電位の変化等によって、より多くの細胞が付着したと考えられる。
前処理直後のチタンディスク表面に前記細胞接触試験と同じ条件で細胞を播種し、24時間又は72時間インキュベートした後に細胞の増殖能を測定した、増殖能は、24ウェルプレートにセルタイター96(登録商標)(プロメガ株式会社製)を添加し、37℃で15分間インキュベートして比色呈色させ、マイクロプレートリーダー(Bio-Rad Model 680、バイオ・ラッドラボラトリーズ株式会社製)を用いて、波長490nmの吸光度を計測することで評価した(n=5)。その結果を図7に示す。なお、測定結果は、一元配置分散分析を行った後、Tukey法で検定した。図7中、*はp<0.05、**はp<0.01を示す。
この結果から、チタン表面の親水性は細胞の初期接着に寄与することから、親水性が付与されたアルカリイオン水処理群及びUV群は24時間において高い値を示し、より高い親水性を有するUV群が72時間において高い値を示したと考えられる。
ニュージーランドホワイトラビット6羽に対し、三種混合麻酔薬(酒石酸ブトルファノール、塩酸メデトミジン、及びミダゾラム)を大腿部に筋肉注射し、全身麻酔を行った。左右の大腿部をポビドンヨードで消毒した後、2%キシロカインで局所麻酔を行い#15メスで皮膚を切開し、筋層を剥離し、骨膜を切開して大腿骨を剖出した。その後、大腿骨を超音波骨切削器具(PIEZOSURGERY(登録商標))を用いて、長さ10.0mm、幅1.0mm、深さ10.0mmのグルーブを形成した(図8A参照)。アルカリイオン水又は生理食塩水に3分間浸漬したチタンディスクを、グルーブ内に埋入した(図8B参照)。創部は骨膜を5-0VICRYL縫合糸で、皮膚を5-0ナイロン糸で縫合した。埋入から4週間後に、パントバルビタールナトリウムを耳介静脈より過剰投与して安楽死させ、大腿骨を採取した。採取した大腿骨について、マイクロCTを撮影した。マイクロCT画像を図9に示す。図9において、A(上段)はコントロール群を示し、B(下段)はアルカリイオン水処理群を示す。また、1(左列)はX-Y面であり、2(中央列)はY-Z面であり、3(右列)はZ-X面である。
その後、ディスク中央から骨髄側までの5mmの範囲におけるBIC(骨-インプラント接触率)を測定した(n=5)。BICは、ImageJを用いて下式1より計算した。
チタン表面の親水性はオッセオインテグレーションに影響を与える種々のタンパク質又はサイトカインの吸着又は細胞接着に関与し、BICを低下させることが知られている。このことから、表面が疎水性のコントロール群よりも親水性のアルカリイオン水処理群のほうが、BICが高くなったと考えられる。
2 導水管
3 隔膜
4 陽極室
5 陰極室
6 陽極
7 陰極
8 酸性水排出管
9 アルカリ水導出管
10 冷却装置
11 混合槽
12 原料液貯槽
13 流入量調整装置
14 攪拌装置
15 断熱手段
16 出口管
17 pH測定手段
18 アルカリイオン水出口管
19 アルコール貯槽
20 アルコール混合槽
21 混合アルカリイオン水出口管
22 隔離室
100 陰極電子
101 アルカリイオン水製造装置
Claims (9)
- チタン又はチタン合金を、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含む水溶液を電気分解して得られたアルカリイオン水に浸漬する工程を含む、チタン又はチタン合金の表面処理方法。
- 前記アルカリイオン水中に、前記ケイ素が0.4~400mass ppm、及びリンが400~800mass ppm含まれる、請求項1に記載の表面処理方法。
- 前記アルカリイオン水中に、さらに、カルシウム、カリウム、ナトリウム、及びマグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも一種のミネラルが含まれる、請求項1又は2に記載の表面処理方法。
- 前記アルカリイオン水中に、さらに、塩素が含まれる、請求項1~3の何れか一項に記載の表面処理方法。
- 前記アルカリイオン水のpHが10~12.5である、請求項1~4の何れか一項に記載の表面処理方法。
- 前記アルカリイオン水の表面張力が55~68mN/mである、請求項1~5の何れか一項に記載の表面処理方法。
- 前記アルカリイオン水が、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩と水とを含む水溶液を電気分解する電気分解工程、及び、前記工程で得られた陰極側のアルカリ水と、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩とを混合して混合液を得、該混合液に電子を供給する電子供給工程により得られたものである、請求項1~6の何れか一項に記載の表面処理方法。
- ケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含む水溶液を電気分解して得られたアルカリイオン水によって表面が処理されている、チタン又はチタン合金製のインプラント。
- ケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含む水溶液を電気分解してアルカリイオン水を得る工程、及び、
前記アルカリイオン水をチタン又はチタン合金の表面に処理する工程を備える、チタン又はチタン合金製のインプラントの製造方法。
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