JP7077546B2 - 耐食槽 - Google Patents

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本発明は、耐食槽に関する。さらに詳しくは、高温、高濃度硫酸などに対する耐腐食性を有する耐食槽に関する。
銅の電解精製においては、不純物を含有する粗銅をアノードとし、純銅、ステンレス、またはチタンなどの薄板をカソードとして、複数枚のアノードとカソードを電解槽に交互に挿入する。電解槽に電解液を供給しつつアノードとカソードとの間に通電して、カソード上に銅を電着させて電気銅を得る。
アノードに含有された銅は、銅イオンとして電解液中に溶出する。それと同時に、アノードに含有されたヒ素、ビスマス、アンチモン、ニッケルなどの不純物も電解液中に溶出する。カソードでは電解液中の銅イオンのみがカソード上に電着する。そのため、高純度な電気銅を得ることができる。
アノードから溶出した不純物は電解液中に残るため、電解精製が進むに従い電解液の不純物濃度が高くなる。電解液の不純物濃度が高くなると、不純物が銅とともに共析して電気銅の銅品位を低下させたり、電解液の配管にスケールが生じて操業を阻害したり、電解液の電気伝導度を低下させて電力コストを増加させるなど好ましくない。そのため、電解液を浄液工程に送り不純物を除去する。
銅の電解精製における浄液工程はつぎのように行われる。電解槽から排出された電解液を真空蒸発して濃縮し、急冷することで過飽和となった銅を粗硫酸銅として析出させて除去する。ついで残留した銅、ヒ素、ビスマス、アンチモンをカソード上に析出させるなどして除去する脱銅電解を行なう。得られた脱銅電解液を電気蒸発槽で加熱して水分を蒸発させて濃縮した後、冷却して粗硫酸ニッケルを析出させ、濾過により分離除去する脱ニッケル工程を行なう。得られた脱ニッケル後液は再度電解槽に供給される(例えば、特許文献1)。
脱ニッケル工程では、電気蒸発槽に供給された脱銅電解液に黒鉛電極棒を浸漬して通電し、脱銅電解液をジュール熱により加熱して水分を蒸発させることで濃縮する。濃縮の過程で脱銅電解液は高温、高濃度の硫酸ニッケル水溶液となり、腐食性が強くなる。電気蒸発槽が腐食して穴が開くと、硫酸ニッケル水溶液が漏洩するなどの問題が生じる。
特開2014-101546号公報
本発明は上記事情に鑑み、耐腐食性の高い耐食槽を提供することを目的とする。
第1発明の耐食槽は、底部と、前記底部の周縁に立設した側壁と、前記側壁の外面から外側に突出し、内容液の流路を有する排出部と、を備え、前記底部、前記側壁および前記排出部の底部は、それぞれ、金属で形成された金属殻と、前記金属殻の内面に施され、フッ素樹脂で形成されたフッ素樹脂層と、前記フッ素樹脂層の内側に位置し、レンガで形成されたレンガ層と、を備え、前記排出部の前記金属殻は、先端にフランジ部を有しており、前記排出部の前記フッ素樹脂層は、前記フランジ部の座面を覆っており、前記フランジ部の最内層を構成しており、前記フッ素樹脂層は前記金属殻にフッ素樹脂をコーティングして形成されていることを特徴とする。
第2発明の耐食槽は、第1発明において、前記底部および前記側壁は、それぞれ、前記フッ素樹脂層と前記レンガ層との間に位置する断熱層を備えることを特徴とする。
第3発明の耐食槽は、第1発明において、前記排出部の前記底部を構成する前記レンガ層の厚さは前記側壁の前記レンガ層の厚さの0.5~1.5倍であることを特徴とする。
第1発明によれば、フッ素樹脂層が排出部のフランジ部の座面を覆っているので、フランジ部の腐食を抑制できる。また、コーティングにより形成されたフッ素樹脂層には継ぎ目がないので、フッ素樹脂層の変形、劣化、破損を抑制できる。そのため、耐食槽の耐腐食性をより高くできる。
第2発明によれば、内容液の熱が断熱層により遮断されるので、フッ素樹脂層を低い温度に保つことができ、フッ素樹脂層の劣化を抑制できる。
第3発明によれば、排出部の底部のレンガ層の厚さが側壁のレンガ層の厚さと同程度であるので、排出部が熱膨張、熱収縮による負荷に耐えることができる。
本発明の一実施形態に係る耐食槽の縦断面図である。 図1の耐食槽の底部、側壁および排出部の積層構造の説明図である。 図1におけるA部拡大図である。 図1におけるB部拡大図である。 実施例2の耐食槽の縦断面図である。 脱ニッケル設備の説明図である。
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
銅の電解精製では電解液から不純物を除去する浄液工程が行われる。浄液工程には脱ニッケル工程が含まれる。本発明の一実施形態に係る耐食槽は、脱ニッケル工程を行なう脱ニッケル設備に用いられる。
(脱ニッケル設備)
脱ニッケル工程は図6に示す設備で行われる。脱ニッケル設備は電気蒸発槽110を有する。電気蒸発槽110には脱銅電解液が供給される。脱銅電解液は電解液から銅を除去して得られた液であり、粗硫酸ニッケル水溶液である。脱銅電解液は50~90℃に予熱した後に電気蒸発槽110に供給される。
電気蒸発槽110は上部が蓋111で覆われた円筒形の槽である。蓋111には電気蒸発槽110内に脱銅電解液を供給する供給口が設けられている。また、蓋111には所定間隔を空けて複数ヶ所に挿入孔が形成されており、それぞれに黒鉛電極棒112が挿入されている。各黒鉛電極棒112は電気蒸発槽110内の脱銅電解液に浸漬されている。黒鉛電極棒112には図示しない電線が接続されている。この電線を通じて黒鉛電極棒112間に電流を流すことで、電気蒸発槽110内の脱銅電解液に通電する。これにより、脱銅電解液をジュール熱により加熱して水分を蒸発させ濃縮する。電気蒸発槽110における脱銅電解液の加熱温度は、脱銅電解液の沸点以上の温度であればよいが、通常150~200℃である。
電気蒸発槽110の側壁には樋113が接続されている。濃縮された脱銅電解液は粗硫酸ニッケル結晶が析出してスラリーとなっている。このスラリーは樋113を通じて冷却結晶槽120に導かれる。
電気蒸発槽110から排出されたスラリーを冷却結晶槽120で冷却する。これにより溶解度が顕著に低下して、スラリー中で粗硫酸ニッケル結晶がさらに析出する。このスラリーを冷却結晶槽120から排出して濾過機130で固液分離することで粗硫酸ニッケル結晶を回収する。
回収した粗硫酸ニッケル結晶は容器140に収容される。一方、濾液はレシーバタンク150に溜められる。レシーバタンク150に溜められた濾液は、系外に払い出されるか、電解液に補給する硫酸として再利用される。
(耐食槽)
電気蒸発槽110では高温・高濃度の粗硫酸ニッケル水溶液が製造される。したがって、電気蒸発槽110は高温、高濃度硫酸に対する耐腐食性を有する必要がある。本発明の一実施形態に係る耐食槽1はこの電気蒸発槽110に用いられる。
図1に示すように、電気蒸発槽110は槽本体としての耐食槽1と、耐食槽1の上部開口部を覆う蓋111とからなる。耐食槽1は底部11と、底部11の周縁に立設した側壁12とからなる略円筒形の槽である。
側壁12の一部にはその外面から外側に突出する排出部13が設けられている。排出部13には耐食槽1の内容液(粗硫酸ニッケル水溶液)が流れる流路14が形成されている。流路14は側壁12の内面に達しており、耐食槽1の内部と外部とを連通している。濃縮された粗硫酸ニッケル水溶液は結晶とともに流路14を通して耐食槽1の外部に排出される。排出部13の先端には樋113が接続されている。
排出部13の流路14は、耐食槽1の外側に向かって下がる傾斜を有している。また、樋113も耐食槽1の外側に向かって下がる傾斜を有している。したがって、内容液は流路14および樋113の傾斜に従って、自然に流下する。
なお、排出部13は内部に孔状の流路14が形成された筒形でもよいし、溝状の流路14の上方を開放した樋形でもよい。いずれの形状であっても、排出部13は内容液と接触する底部13aを有している。
樋113は側壁12の外面から離れた位置で耐食槽1に接続している。そのため、排出部13と樋113とが十分に密着せず、接続部に隙間が生じたとしても、接続部から漏れた粗硫酸ニッケル水溶液が側壁12の外面を伝うことがなく、側壁12の広い範囲が腐食される恐れがない。
底部11および側壁12は、それぞれ、最も外側の層を構成する金属殻21と、最も内側の層を構成するレンガ層24とから構成されている。また、排出部13の底部13aは、最も下側の層を構成する金属殻21と、最も上側の層を構成するレンガ層24とから構成されている。金属殻21はステンレス鋼などの金属で形成されており、耐食槽1の外形を構成している。
レンガ層24は耐酸性のレンガを積み重ねて形成されている。レンガ層24はレンガを複数層積層して形成してもよいし、1層で形成してもよい。なお、各レンガの周囲には、接着固定のため、および液の浸入防止のために、目地材が塗布・充填される。
図2に示すように、底部11、側壁12および排出部13を構成する金属殻21とレンガ層24との間には、フッ素樹脂層22と、断熱層23とが配置されている。すなわち、金属殻21、フッ素樹脂層22、断熱層23、レンガ層24がこの順に積層されている。
フッ素樹脂層22は金属殻21の内面(上面)に施されている。フッ素樹脂層22はPFA(四フッ化エチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、PTFE(四フッ化エチレン)、FEP(四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体)などのフッ素樹脂で形成されている。フッ素樹脂のなかでも、耐熱性の高いPFA、PTFEを用いることが好ましい。
フッ素樹脂層22は薄すぎると強度が弱くなる。逆に厚すぎると金属殻21とフッ素樹脂層22との熱膨張係数の差により、フッ素樹脂層22が金属殻21から剥がれやすくなる。そのため、フッ素樹脂層22の厚さは1~10mmが好ましい。
フッ素樹脂層22を形成する方法としてシートライニングとコートライニングとがある。シートライニングは複数枚のフッ素樹脂シートを金属殻21に貼り付ける方法である。コートライニングは、モノマーなどの重合度の低いフッ素樹脂剤を刷毛などで塗布して重合反応を生じさせることにより、金属殻21にフッ素樹脂をコーティングする方法である。重合反応にはある程度の温度を要するので、フッ素樹脂剤を塗布した後にヘアドライヤーなどで加熱して重合反応を生じさせる。電気蒸発槽110の使用に伴う熱で重合反応を生じさせることも可能である。
シートライニングの場合、フッ素樹脂シートの間に継ぎ目が生じる。この継ぎ目は化学的、機械的、熱的に弱い部分であり、変形、劣化、破損の起点になる。具体的には、フッ素樹脂シートは反応開始に足る活性がないため、フッ素樹脂シートの継ぎ目は結合が進まず化学的に弱い部分となる。また、フッ素樹脂シートは平板状のものしか流通しておらず、金属殻21の形に合わせて湾曲面や折り曲げ辺を作る必要がある。フッ素樹脂シートに湾曲面や折り曲げ辺を作ると、フッ素樹脂シートの継ぎ目に応力がかかって機械的に弱い部分となる。さらに、フッ素樹脂シートと接着剤とは、成分や純度を互いに一致させてライニングすることが難しく、平均分子長さや密度の差が生じるので、フッ素樹脂シートの継ぎ目は熱膨張に弱い部分となる。そのため、シートライニングを採用する場合にはフッ素樹脂シートを複数層ライニングすることが好ましい。
一方、コートライニングの場合、実質的に重合が完了する前に金属殻21全体へのフッ素樹脂剤の塗布が完了するので、フッ素樹脂層22に継ぎ目が生じない。しかも、シートの折り曲げなどの変形を必要としないので、フッ素樹脂が金属殻21に溶着している。さらに、フッ素樹脂剤の製造ロットが異なっても、撹拌混合によって平均分子長さや密度などの熱膨張にかかわる特性を一様に保つことができる。そのため、フッ素樹脂層22に応力が集中する部分が生じることがなく、フッ素樹脂層22の変形、劣化、破損を抑制できる。その結果、耐食槽1の耐腐食性をより高くできる。
断熱層23はガラスクロスなどの繊維など、断熱性を有する素材で形成されている。なお、断熱層23を空気の層で形成してもよい。フッ素樹脂は比較的高温に弱い。断熱層23をフッ素樹脂層22とレンガ層24との間に配置することで、レンガ層24から伝わる内容液の熱を断熱層23により遮断できる。そのため、フッ素樹脂層22を金属殻21や外気の温度に近い低い温度に保つことができ、フッ素樹脂層22の劣化を抑制できる。なお、レンガ層24も断熱層23と同様に断熱性を有しており、断熱層23、フッ素樹脂層22、金属殻21を低い温度に保つことができる。レンガ層24は、厚みを増やすほど断熱性を高めることができる。
耐食槽1の底部11、側壁12および排出部13が以上に説明したような積層構造であるため、耐食槽1の内容液がフッ素樹脂層22の内側に位置するレンガ層24を浸透したとしても、フッ素樹脂層22により内容液が金属殻21に到達するのを抑制できる。また、耐食槽1の内容液はレンガ層24を浸透する過程で冷えるため、腐食性が弱くなる。そのため、金属殻21が腐食しにくく、耐食槽1の耐腐食性を高くできる。
図3に示すように、側壁12を構成する金属殻21は、上縁にフランジ部21aを有している。フランジ部21aに蓋111が連結される。側壁12を構成するフッ素樹脂層22はフランジ部21aまで延長されており、フランジ部21aの座面を覆っている。このように、フランジ部21aの座面をフッ素樹脂層22で覆うことで、フランジ部21aの腐食を抑制できる。
図4に示すように、排出部13を構成する金属殻21は、先端にフランジ部21bを有している。排出部13にはフランジ部21bを介して樋113が連結される。排出部13を構成するフッ素樹脂層22はフランジ部21bまで延長されており、フランジ部21bの座面を覆っている。このように、フランジ部21bの座面をフッ素樹脂層22で覆うことで、フランジ部21bの腐食を抑制できる。
ところで、電気蒸発槽110には粗硫酸ニッケル水溶液が間欠的に供給される場合がある。この場合、流路14からの粗硫酸ニッケル水溶液の排出も間欠的となる。加熱された粗硫酸ニッケル水溶液が排出される期間と、排出されない期間とが繰り返されることから、排出部13は加熱と放冷とが繰り返される。そのため、排出部13には熱膨張、熱収縮の繰り返しによる負荷がかかり、これが排出部13の劣化の原因となる。
図1に示すように、本実施形態の耐食槽1は、排出部13の底部13aを構成するレンガ層24の厚さT1が側壁12のレンガ層24の厚さT2と同程度に確保されている。具体的には厚さT1は厚さT2の0.5~1.5倍である。このように、排出部13のレンガ層24が比較的厚いので、排出部13が熱膨張、熱収縮による負荷に耐えることができる。
以上のように、耐食槽1は耐腐食性が高く、また、排出部13が熱膨張、熱収縮による負荷に耐えることができる構成である。そのため、耐食槽1は耐用年数が長い。そのため、耐食槽1の更新に伴う操業停止による機会損失、耐食槽1の更新にかかるコストを低減できる。
なお、耐食槽1の用途は電気蒸発槽110に限定されない、高温、高濃度硫酸などの腐食性の高い液を処理する槽として好適に用いられる。
つぎに、実施例を説明する。
図6に示す脱ニッケル設備を用いた操業を行った。電気蒸発槽110に供給される脱銅電解液は、ニッケル濃度30~35g/L、銅濃度0.05g/L以下、砒素濃度1.0g/L以下である。脱銅電解液を90℃に予熱した後に電気蒸発槽110に供給した。電気蒸発槽110の加熱温度の設定値は160℃である。
(実施例1)
電気蒸発槽110の槽本体として図1に示す耐食槽1を用いた。図2に示すように、底部11、側壁12および排出部13は、それぞれ、金属殻21、フッ素樹脂層22、断熱層23、レンガ層24がこの順に積層されて構成されている。フッ素樹脂層22はコートライニングにより形成した。その結果、電気蒸発槽110の耐用年数は5年以上であった。
(実施例2)
電気蒸発槽110の槽本体として図5に示す耐食槽2を用いた。この耐食槽2の構成は図1に示す耐食槽1の構成と基本的に同じであるが、排出部13の底部を構成するレンガ層24の厚さT1が、側壁12のレンガ層24の厚さT2の0.2倍である。また、フッ素樹脂層22はシートライニングにより形成した。その結果、電気蒸発槽110の耐用年数は約2.5年であった。
1 耐食槽
11 底部
12 側壁
13 排出部
14 流路
21 金属殻
21a フランジ部
21b フランジ部
22 フッ素樹脂層
23 断熱層
24 レンガ層

Claims (3)

  1. 底部と、
    前記底部の周縁に立設した側壁と、
    前記側壁の外面から外側に突出し、内容液の流路を有する排出部と、を備え、
    前記底部、前記側壁および前記排出部の底部は、それぞれ、
    金属で形成された金属殻と、
    前記金属殻の内面に施され、フッ素樹脂で形成されたフッ素樹脂層と、
    前記フッ素樹脂層の内側に位置し、レンガで形成されたレンガ層と、を備え、
    前記排出部の前記金属殻は、先端にフランジ部を有しており、
    前記排出部の前記フッ素樹脂層は、前記フランジ部の座面を覆っており、前記フランジ部の最内層を構成しており、
    前記フッ素樹脂層は前記金属殻にフッ素樹脂をコーティングして形成されている
    ことを特徴とする耐食槽。
  2. 前記底部および前記側壁は、それぞれ、
    前記フッ素樹脂層と前記レンガ層との間に位置する断熱層を備える
    ことを特徴とする請求項記載の耐食槽。
  3. 前記排出部の前記底部を構成する前記レンガ層の厚さは前記側壁の前記レンガ層の厚さの0.5~1.5倍である
    ことを特徴とする請求項記載の耐食槽。
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