(第1実施形態)
以下、本実施形態を添付図面に基づいて説明する。まず、第1実施形態の原子炉建屋冠水装置および原子炉建屋冠水方法について図1から図9を用いて説明する。
図1の符号1は、第1実施形態の原子炉建屋冠水装置である。この原子炉建屋冠水装置1は、原子力発電所に設けられた原子炉建屋2を冠水させるものである。なお、過酷事故に見舞われた原子力発電所の廃炉作業を行う態様を例示する。
図1から図3に示すように、原子炉建屋2は、鉄筋コンクリート製の建築物である。その内部には、原子炉を収容する原子炉圧力容器3と、この原子炉圧力容器3を収容する原子炉格納容器4とが設けられている。また、圧力抑制室5などのその他の設備も設けられている。本実施形態では、原子炉格納容器4とトーラス室の圧力抑制室5とが別体として設けられた沸騰水型原子炉(BWR)を例示している。
過酷事故に見舞われると原子炉の燃料集合体が核燃料の過熱により融解し、所謂メルトダウンが生じる。溶融した核燃料は、原子炉圧力容器3から漏出する。また、原子炉格納容器4は、内部の圧力が高まることで損傷してしまう。溶融した核燃料を含む燃料デブリは高線量であるため、気中工法で燃料デブリの取り出し作業を進めようとすると、遠隔操作のロボットですら放射線の影響で故障してしまうおそれがある。
原子炉格納容器4の内部を水で満たすことができれば、その水で放射線を遮蔽することができる。しかし、原子炉格納容器4の損傷箇所の修復ですら困難である。そこで、本実施形態では、原子炉建屋冠水装置1を用いて、原子炉格納容器4を収容する原子炉建屋2の全体を冠水させる。
原子炉建屋冠水装置1は、原子炉建屋2の全体が収容され、内部に水6を溜めることで少なくとも原子炉格納容器4を水没可能な巨大な水槽7を備える。
この水槽7は、原子炉建屋2の周囲を囲む冠水壁部8と、冠水壁部8の周囲を囲む補助壁部9と、原子炉建屋2が建てられた場所の地中に構築された底部10と、原子炉建屋2の上方を覆う天井部11とを備える。この天井部11は、ドーム型を成している。なお、平板状の天井部11でも良い。
また、原子炉建屋冠水装置1の内部には、クレーン12などの廃炉用の作業機材が設けられる。なお、クレーン12は、冠水壁部8に支持させても良いし、冠水壁部8よりも内側に別途に専用の支持部を建設し、この支持部にクレーン12を支持させても良い。
冠水壁部8は、地面13からの高さ、つまり上下寸法Lが少なくとも原子炉格納容器4を水没可能な寸法となっている。本実施形態では、冠水壁部8の上端が原子炉建屋2よりも高くなっている。この冠水壁部8の上端は、少なくとも原子炉格納容器4よりも高ければ良い。
なお、原子炉建屋2の上層部、所謂オペレーションフロアよりも上方の部分は予め撤去される。このようにすれば、原子炉建屋2の全体を冠水させるプールを形成することができる。例えば、水槽7に溜められる水6の水位は、オペレーションフロアの位置に設定される。なお、オペレーションフロアの床面は、水没しなくても良い。つまり、オペレーションフロアよりも若干低い位置に水6の水位を設定しても良い。また、オペレーションフロアよりも高い位置に水6の水位を設定しても良い。
また、冠水壁部8および補助壁部9は、原子炉建屋2が建てられた地面13の岩盤に構築される。原子炉建屋2の周囲には、平面視で円形状を成す堀14が形成される。この堀14に沿って冠水壁部8および補助壁部9が構築される。なお、原子炉建屋2は、平面視で四角形状を成している。そして、冠水壁部8の直径は、原子炉建屋2の平面視の対角線とほぼ同じ長さとなっている。
冠水壁部8および補助壁部9は、上部よりも下部が厚くなるように形成される。第1実施形態では、冠水壁部8および補助壁部9の下部が地中に構築され、上部が地上に構築されている。そして、地上部分の厚みが、地下部分の厚みよりも薄くなっている。
なお、補助壁部9および堀14が設けられることで、万が一、水槽7に溜められた水6が冠水壁部8から漏洩しても、さらに外部に水6が広がってしまうことを、補助壁部9および堀14により防止することができる。
また、補助壁部9の高さは、冠水壁部8よりも低くなっている。そして、冠水壁部8および補助壁部9を互いに連結する連結部15が設けられている。このようにすれば、冠水壁部8を補助壁部9により補強することができる。
また、冠水壁部8および補助壁部9は、プレストレストコンクリートにより構築される。このようにすれば、冠水壁部8および補助壁部9のひび割れを防止することができる。
プレストレストコンクリートとは、あらかじめ応力を加えたコンクリート材である。鋼材を使って、荷重が作用する前にコンクリート材に圧縮力がかかった状態とする。そして、荷重を受けたときにコンクリートに引張応力が発生しないようにする。または、コンクリートに生じる引張応力を制御するものである。
なお、第1実施形態では、プレストレストコンクリートにより冠水壁部8および補助壁部9が構築されているが、その他の態様であっても良い。例えば、冠水壁部8および補助壁部9を鋼鉄製としても良い。さらに、鉄筋コンクリートにより冠水壁部8および補助壁部9を構築しても良い。
図1に示すように、冠水壁部8は平面視で円形状を成す。このようにすれば、内部の水6の圧力に耐えられるようになる。また、補助壁部9も平面視で円形状を成し、冠水壁部8と同心円状に設けられている。また、冠水壁部8の内周面には、鋼鉄製の壁部ライナー16が構築される。このようにすれば、水槽7に溜められた水6の漏洩を防止することができる。なお、壁部ライナー16は、多数の鋼板を溶接することで形成される。
図2および図3に示すように、底部10は、シールドトンネル17により構築される。なお、シールドトンネル17とは、シールド工法により構築されたトンネルである。例えば、筒状(または箱状)のシールドマシン18(図5参照)で切羽後方のトンネル壁面を一時的に支え、切羽を掘削しながらシールドマシン18を前進させる。そして、シールドマシン18の後方側のトンネル壁面に、複数のセグメントが組み合わされた壁を構築することでトンネル壁面を補強する。なお、セグメントは、工場で大量生産できる。
このようにすれば、巨大な水槽7の底部10(底版部)となる部分を地下に容易に構築することができる。本実施形態では、水平方向に並べて建設された複数本のシールドトンネル17により底部10が構築される。このようにすれば、シールドトンネル17により平面的に広がる底部10を構築することができる。このような工法は、MMST(マルチ・マイクロ・シールドトンネル)工法と称される。
また、シールドトンネル17の内部には、鋼鉄製の底部ライナー19が構築される。このようにすれば、水槽7に溜められた水6が底部10から外部に漏洩してしまうことを防止することができる。なお、底部ライナー19は、多数の鋼板を溶接することで形成される。
壁部ライナー16の下端と底部ライナー19の周縁とが互いに接合されており、円筒形状を成す巨大な水槽7を形成することができる。壁部ライナー16と底部ライナー19とにより、水槽7に溜められた水6が外部に漏れ出すことがない。
本実施形態のシールドトンネル17は、矩形型のシールドマシン18(図5参照)を用いて構築される。そのため、シールドトンネル17は、断面視で四角形状を成す(図7参照)。四角形状のシールドトンネル17を水平方向に並べることで、平面的に一体化した底部10を構築することができる。
次に、第1実施形態の原子炉建屋冠水方法について図9のフローチャートを用いて説明する。なお、図1から図8を適宜参照する。
図9に示すように、まず、ステップS11において、原子炉建屋2の周辺の構造物を撤去する。例えば、原子炉建屋2の周辺には、タービン建屋および煙突などの様々な構造物が設けられている。これらの構造物を撤去して原子炉建屋2のみを残すようにする。
次のステップS12において、原子炉建屋2の周囲に堀14を形成する。さらに、堀14に沿って支保工20を設けるようにする(図4参照)。このとき、堀14を設ける地盤を凍結して凍土としても良い。
次のステップS13において、堀14の底にシールドマシン18を降ろして掘削の準備を行う。シールドマシン18の設置が完了したら掘削を開始する。
次のステップS14において、シールドマシン18によりシールドトンネル17を構築する(図5および図6参照)。ここで、1台のシールドマシン18を往復させることで、複数本のシールドトンネル17を構築しても良いし、複数のシールドマシン18を並べて同時に進行させることで、複数本のシールドトンネル17を構築しても良い。
なお、シールドマシン18を進行させるときには、周囲の土を凍結して凍土としても良い。このようにすれば、周囲の岩盤が崩れることを抑制することができる。
図7に示すように、シールドトンネル17を建設するときには、周囲に余堀部21を設けるようにする。そして、シールドトンネル17同士の余堀部21を重複させる。例えば、余堀部21の領域うち、一部の領域Dを重複させる。このようにすれば、シールドトンネル17同士を密に配置させることができる。
なお、本実施形態のシールドトンネル17を構成するセグメントは、コンクリート製でも良いし、鋼鉄製でも良い。また、シールドトンネル17の内部には、上下方向に延びる複数の柱部22が設けられる。これらの柱部22は、シールドマシン18で掘削中に設けても良いし、シールドトンネル17の構築後に追加しても良い。これらの柱部22によりシールドトンネル17を補強することができる。なお、柱部22同士が互いに接合され、壁状を成しても良い。
次のステップS15において、シールドトンネル17の内部に底部ライナー19を構築する。
図8に示すように、シールドトンネル17を構成する側部のセグメントの一部を取り外し、開口部23を形成する。そして、これらの開口部23を介して隣接するシールドトンネル17同士を連通させる。また、シールドトンネル17の内部には、中間床24を設けるようにする。これらの中間床24の上面に多数の鋼板を敷き詰めて、互いに溶接することで、底部ライナー19を構築する。なお、シールドトンネル17が四角形状を成すことで、その内部で作業が行い易くなっている。また、柱部22と底部ライナー19とを互いに溶接しても良い。
次のステップS16において、原子炉建屋2の周辺の堀14に沿って冠水壁部8および補助壁部9を構築する(図6参照)。
次のステップS17において、冠水壁部8の内周面の全体に亘って壁部ライナー16を構築する(図1参照)。なお、壁部ライナー16の下端と底部ライナー19の周縁とが互いに溶接される。
次のステップS18において、堀14に設けられていた支保工20を撤去する(図4および図6参照)。なお、支保工20を撤去せずに、冠水壁部8および補助壁部9の補強材として使用しても良い。
次のステップS19において、原子炉建屋冠水装置1の内部にクレーン12などの廃炉用の作業機材を設置する(図3参照)。
次のステップS20において、冠水壁部8の上部に天井部11を構築する(図3参照)。
次のステップS21において、冠水壁部8と底部10とにより形成された水槽7の内部に水6を溜める。そして、原子炉建屋2を水没させた状態で廃炉作業を開始する。
なお、少なくとも原子炉格納容器4を水没させた状態とすれば良い。このようにすれば、原子炉格納容器4および原子炉圧力容器3の蓋を開放した場合に、水6で放射線を遮蔽することができるため、燃料デブリの取り出し作業が行い易くなる。つまり、冠水工法で燃料デブリの取り出し作業を行うことができる。さらに、冠水工法で原子炉格納容器4および原子炉圧力容器3の解体作業を行っても良い。
なお、第1実施形態では、冠水壁部8および補助壁部9が平面視で円形状を成しているが、その他の態様であっても良い。例えば、冠水壁部8および補助壁部9が、平面視で楕円形状でも良いし、平面視で円弧状と直線状とを組み合わせた形状でも良い。また、冠水壁部8および補助壁部9は、原子炉建屋2の平面形状に合わせた四角形状でも良い。例えば、原子炉建屋2の外壁に、冠水壁部8の内面が接触または近接するように構築し、平面視で四角形状を成す冠水壁部8としても良い。このようにすれば、水槽7に溜める水6の量を最小とすることができる。
次に、シールド工法を用いた水槽7の底部10の構築方法の変形例1について図10から図14を用いて説明する。
図10に示すように、まず、水平方向に並ぶ複数本のシールドトンネル17が地中に構築される。変形例1では、シールドトンネル17の内面における天井面と底面とのそれぞれにライニング鋼板25が貼り付けられる。
図11に示すように、シールドトンネル17を構成する側部17aのセグメントの一部を取り外し、開口部23を形成する。つまり、シールドトンネル17の側部17aが解体され、隣接するシールドトンネル17同士が開口部23により連通される。
図12に示すように、開口部23の縁を覆うように、連結用鋼板26が貼り付けられる。なお、連結用鋼板26は、開口部23における天井側と底面側とのそれぞれに設けられる。これらの連結用鋼板26は、隣接するシールドトンネル17のライニング鋼板25同士を互いに連結させる。
このように、ライニング鋼板25が設けられ、さらに連結用鋼板26によりライニング鋼板25同士が互いに連結されるため、水槽7に溜められた水6が底部10から外部に漏洩されることを防止することができる。
図13および図14示すように、天井側と底面側のそれぞれの連結用鋼板26の間には、シールドトンネル17の長手方向に沿って並ぶ複数本の柱部22が設けられる。これらの柱部22によりシールドトンネル17に上方から加わる荷重が支えられる。
なお、シールドトンネル17の側部17aの解体作業は、シールドトンネル17の崩壊を防ぐために、その長手方向の一部分ごとに行う。そして、解体された部分に柱部22が設けられ、その部分の荷重が柱部22により支えられた後、他の部分の解体作業を行う。そして、この作業を繰り返し、シールドトンネル17の長手方向の全体に亘って、ライニング鋼板25と連結用鋼板26と柱部22とを設けるようにする。このようにすれば、シールドトンネル17に対して施される防水工事が行い易くなる。
変形例1では、シールドトンネル17の内面に設けられるライニング鋼板25によって、底部ライナー19が構築される。この変形例1では、シールドトンネル17の天井面と底面とにライニング鋼板25が設けられるため、二重の底部ライナー19を構築することができる。
(第2実施形態)
次に、第2実施形態の原子炉建屋冠水装置1Aおよび原子炉建屋冠水方法について図15から図24を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
図15の斜視図では、原子炉建屋冠水装置1A、原子炉建屋2、地面13の一部を切り欠いた断面図として図示している。
原子炉建屋冠水装置1Aは、原子炉建屋2の全体が収容され、内部に水6を溜めることで原子炉建屋2の少なくとも一部を水没可能な巨大な水槽30を備える。なお、原子炉建屋2の全体を水没させなくても良く、少なくとも原子炉格納容器4が水没できれば良い。
第2実施形態では、水槽30に鋼殻構造としての船体構造が用いられている。なお、船体構造(鋼殻構造)とは、船舶の船殻の構造を模した構造(鋼構造体)である。特に、船体構造とは、水がある空間と空気がある空間とを少なくとも1枚の鋼板で仕切り、この鋼板が水圧に耐え得るようにフレームを接続して補強した構造のことである。第2実施形態では、二重船殻構造を製造するときの技術を用いて水槽30を構築する。つまり、船体構造が、水槽30の内部の空間と外部の空間とを少なくとも2枚の鋼板で仕切り、この鋼板が水圧に耐え得るようにフレームを接続して補強した構造となっている。
この水槽30は、原子炉建屋2の周囲を囲む壁部31と、原子炉建屋2が建てられた場所の地中に構築された底部32と、原子炉建屋2の上方を覆うドーム型の天井部33とを備える。
図18に示すように、壁部31は、平面視で四角形状を成す。このようにすれば、水槽30の内部の容積が小さくなるため、その内部に溜めなければならない水6の量が少なくて済む。また、壁部31が建築される面積が少なくて済むため、壁部31を建設する前に撤去しなければならない原子炉建屋2の周辺の構造物の量が少なくて済む。
図19および図20に示すように、壁部31は、船体構造(鋼殻構造)を基本とする鋼構造壁となっている。この壁部31は、その全ての部分が鋼鉄製となっている。壁部31の下部は、地中に構築され、その上部が地上に構築されている。なお、壁部31は、原子炉建屋2の周辺の堀14に沿って構築される。また、地中には、壁部31を支える基礎部分31aが構築される。堀14は、壁部31の構築後に埋め戻される。
図17および図19に示すように、壁部31は、板状を成す板状鋼部材34と、この板状鋼部材を支持するフレーム用鋼部材35とを接合した船体構造を成す。このようにすれば、既存の技術を用いて壁部31を構築することができる。
壁部31は、その厚み方向に4層の板状鋼部材34から成る。例えば、壁部31における原子炉建屋冠水装置1Aの外面(水槽30の外面)を構成する1枚の板状鋼部材34と、壁部31における原子炉建屋冠水装置1Aの内面(水槽30の内面)を構成する1枚の板状鋼部材34と、壁部31の厚み方向の中央に配置された2枚の板状鋼部材34とから成る(図17参照)。これにより、二重船殻構造をさらに2層にした壁部31が構築されている。
図22は、板状鋼部材34の面に対して平行な方向に、壁部31または底部32を切断したときの断面図である。この図22に示すように、フレーム用鋼部材35は、板状鋼部材34の面に対して垂直な方向に延びる縦フレームおよび横フレームである。このようにすれば、強固な船体構造とすることができる。なお、フレーム用鋼部材35は、板状であっても良い。つまり、板状鋼部材34とフレーム用鋼部材35とで箱体を形成し、複数の箱体を並べて壁部31にしても良い。また、これらの箱体の内部空間は、それぞれ単独で密閉された密閉空間となる。
図19および図20に示すように、底部32は、シールドトンネル17を利用して構築される。第2実施形態では、シールドトンネル17の一部を解体して船体構造(鋼殻構造)を構築する。この底部32についても、壁部31と同様に、板状を成す板状鋼部材34と、この板状鋼部材を支持するフレーム用鋼部材35とを接合して船体構造が形成される。つまり、底部32は、その一部がシールドトンネル17であり、このシールドトンネル17を用いて船体構造が形成されている。
底部32は、その厚み方向に2層の板状鋼部材34から成る。例えば、シールドトンネル17の上下方向の中央位置に設けられる1枚の板状鋼部材34と、それよりも上方位置に設けられる1枚の板状鋼部材34とから成る。これにより、二重船殻構造にした底部32が構築されている。
なお、以下の説明では、壁部31および底部32の船体構造の部分を、船殻31,32と称する場合がある。つまり、船殻31,32の内部とは、壁部31の内部または底部32の内部を含む。
壁部としての船殻31と底部としての船殻32とは、互いに接合されている。そして、船殻31,32の内部には、密閉された密閉空間が形成されている。このようにすれば、水槽30に溜められた水6の漏洩を防止することができる。
図23は、船殻31,32の概念図である。船殻31,32には、内部が仕切られて複数の区画36が形成されている。1つの区画36は、板状鋼部材34とフレーム用鋼部材35とで囲まれた部分である。それぞれの区画36は、単独で密閉された密閉空間となっている。このようにすれば、万が一、船殻31,32における原子炉建屋冠水装置1Aの内面側に亀裂37が生じても、亀裂37から漏洩した水6が1つの区画36に閉じ込められるため、漏洩した水6が他の区画36または船殻31の外部に広がらないようにできる。
第2実施形態では、それぞれの区画36の密閉空間に封じ込められた流体を加圧する加圧部38を備える。例えば、加圧部38からそれぞれの区画36(密閉空間)に対して流体を供給するための供給パイプ39が設けられている。この供給パイプ39は、加圧部38からそれぞれの区画36に接続されている。なお、加圧部38は、コンプレッサーまたはポンプを含む。
流体は、空気でも良いし、水でも良い。ここで、加圧部38により加圧される流体の圧力は、水槽30に溜められている水6の水圧よりも大きいものとする。このようにすれば、万が一、船殻31,32における原子炉建屋冠水装置1Aの内面側(水槽30の内周面側または底部上面側)に亀裂37が生じても、水槽30に溜められた水6が船殻31,32における原子炉建屋冠水装置1Aの外部側(水槽30の外周面側または底部下面側)に漏洩しないようにできる。
なお、区画36に封じ込められる流体は、気体であることが好ましい。このようにすれば、万が一、船殻31,32における原子炉建屋冠水装置1Aの内面側に亀裂37が生じても、亀裂37から流出した気体により水槽30の内部に気泡40が生じ、その気泡40が水面に上がってくるため、亀裂37が生じたことを即座に把握することができる。その後のメンテナンスもし易くなる。また、水槽30の内部に気泡40が生じていないことにより、船殻31,32の健全性が保たれていることを確認できる。
なお、それぞれの区画36の内部の流体の圧力を検出する圧力計を設けても良い。また、加圧部38から供給している流体の圧力を検出する圧力計を設けても良い。万が一、船殻31,32における原子炉建屋冠水装置1Aの内面側に亀裂37が生じた場合には、圧力計の検出値が変化するようになる。そこで、この検出値の変化の有無を判定することで、船殻31,32の健全性が保たれていることを確認しても良い。また、圧力計の替わりに、加圧部38から供給している流体の流量を検出する流量計を用いても良い。この検出値の変化の有無を判定することで、船殻31,32の健全性が保たれていることを確認しても良い。
図21に示すように、原子炉建屋冠水装置1Aの壁部31の内部には、支持部41が構築される。第2実施形態は、原子炉建屋2を挟んでその両側部に2体の支持部41が構築される。これらの支持部41は、地面13から原子炉建屋2よりも高く延びる塔である。なお、支持部41の基礎部分41aは、水槽30の内部の地中に構築されている。
2本の支持部41の間に、作業用ブリッジ42が架け渡されている。この作業用ブリッジ42に、燃料デブリの取出作業に用いる小型のクレーンまたはロボットなどの廃炉用の作業機材が設けられる。原子炉格納容器4から取り出された燃料デブリは、水中で輸送容器(キャスク)に収容される。なお、輸送容器の密閉作業は、水中で完了させる。放射性廃棄物である燃料デブリを水中で輸送容器に密閉させることで、作業者が被ばくしないで済むようになる。
図15および図16に示すように、第2実施形態のドーム型の天井部33は、その一部が凹部43として形成され、この凹部43に、輸送容器を取り出すための取出口44が設けられている。なお、取出口44は、作業用ブリッジ42に対応する位置に設けられている。また、取出口44に開閉可能な天井扉を設けても良い。
例えば、輸送容器を水中から作業用ブリッジ42の上面まで引き上げる。そして、輸送容器を作業用ブリッジ42に沿って水平に移動させて取出口44の直下に配置する。ここで、原子炉建屋冠水装置1Aの外部に設けられた大型のクレーンなどの重機を用いて、取出口44から輸送容器を引き上げて、地面13に下すようにする。
このようにすれば、輸送容器を昇降させるための大型のクレーンなどの重機を、原子炉建屋冠水装置1Aの内部に配置する必要がなくなる。そのため、重機が故障した場合でも作業者は、原子炉建屋冠水装置1Aの外部でメンテナンス作業が行えるため、作業者の被ばくを抑えることができる。なお、作業用ブリッジ42で行われる作業は、原則、遠隔操作により行われる。つまり、作業用ブリッジ42が無人の状態で行われる。そのため、原子炉建屋冠水装置1Aの内部に作業者を配置する必要がなく、作業者の被ばくを抑えることができる。
次に、第2実施形態の原子炉建屋冠水方法について図24のフローチャートを用いて説明する。なお、第2実施形態の原子炉建屋冠水方法は、ステップS15AからステップS19Aのステップのみが、第1実施形態の原子炉建屋冠水方法(図9参照)と異なり、他のステップは、第1実施形態の原子炉建屋冠水方法と同様のステップである。
図24に示すように、第2実施形態では、ステップS15Aにおいて、シールドトンネル17の一部を解体して船体構造の底部32を構築する(図19参照)。
次のステップS16Aにおいて、原子炉建屋2を挟んでその両側部に2体の支持部41を構築する。さらに、2本の支持部41の間に、作業用ブリッジ42を架け渡す(図19参照)。
次のステップS17Aにおいて、燃料デブリの取出作業に用いる小型のクレーンまたはロボットなどの廃炉用の作業機材を作業用ブリッジ42に設置する。
次のステップS18Aにおいて、原子炉建屋2の周辺の堀14に沿って船体構造の壁部31を構築する(図19参照)。なお、壁部31の完成後、堀14に設けられていた支保工を撤去する。
次のステップS19Aにおいて、壁部31および底部32のそれぞれの区画36の密閉空間に封じ込められた流体を加圧する加圧部38を設置する(図23参照)。
そして、天井部33を構築する。また、加圧部38による加圧を開始する。さらに、水槽30の内部に水6を溜めて、原子炉建屋2を水没させた状態で廃炉作業を開始する。
なお、第2実施形態では、水槽30の壁部31と底部32との両方が船体構造を用いて構築されているが、水槽30の壁部31と底部32のうち、少なくとも一部が船体構造であれば良い。例えば、壁部31のみを船体構造により構築しても良い。
(第3実施形態)
次に、第3実施形態の原子炉建屋冠水装置1Bおよび原子炉建屋冠水方法について図25から図40を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
図25に示すように、原子炉建屋冠水装置1Bは、原子炉建屋2の全体が収容され、内部に水6を溜めることで原子炉建屋2の少なくとも一部を水没可能な巨大な水槽45を備える。
この水槽45は、原子炉建屋2の周囲を囲む壁部46と、原子炉建屋2が建てられた場所の地中に構築された底部47と、原子炉建屋2の上方を覆う平板状の天井部48とを備える。なお、第3実施形態では、壁部46と底部47と天井部48の全てが、船体構造(鋼殻構造)を基本とする鋼構造壁となっている。天井部48は、1層の二重船殻構造で構築されている。壁部46および底部47は、二重船殻構造をさらに2層にして構築されている。
第3実施形態の地下構造物としての底部47の構築方法について詳述する。底部47は、シールドマシン50により構築されるシールドトンネル51を利用して形成される。さらに、互いに隣接するシールドトンネル51同士をトンネル接続部54で接続するとともに、シールドトンネル51の内部に躯体55を構築する。躯体55は、複数の鋼殻ブロック56(図28)を互いに接合して構築される。この躯体55は、シールドトンネル51およびトンネル接続部54に沿って一体的に広がるように形成される。つまり、躯体55が面状に広がる部分を有する。
次に、シールドマシン50およびシールドトンネル51について図26から図33を用いて詳述する。さらに、地下構造物の躯体55の構築方法についても詳述する。
図26に示すように、トンネル構築工程では、シールドマシン50により地盤52を掘削しつつ複数のセグメント53(図27)を結合してシールドトンネル51が構築される。シールドトンネル51の進行方向の後方側でブロック状を成す複数のセグメント53を互いに連結させつつ、シールドマシン50による掘削が進行する。シールドトンネル51を構成するセグメント53は、鋼鉄製となっている。なお、コンクリート製のセグメント53を用いても良い。
本実施形態では、正面視で矩形状(四角形状)を成す本体57を備えるシールドマシン50を用いる。この矩形型のシールドマシン50を用いて、断面視で四角形状のシールドトンネル51(図27)が構築される。ここで、複数のシールドトンネル51が互いに平行を成すように構築される。構築されたシールドトンネル51同士は、水平方向に等間隔に並んだ状態となる。
シールドトンネル51を構築する際には、縦方向に長いシールドマシン50を用いる。そのため、内部寸法が上下方向に広いシールドトンネル51(図27)を構築することができる。このようにすれば、シールドトンネル51の内部で作業者が様々な作業を実施し易くなる。また、水平方向に多くの側壁が並ぶようになるため、上方からの土圧に耐えられるようになる。仮に、一部の側壁を除去しても隣接する側壁で上方からの土圧を受けることができる。
シールドマシン50の本体57の正面中心には、センターカッター58(図26)が設けられている。センターカッター58を中心として放射状(径方向)に複数本(例えば4本)のメインカッター59が延びている。また、それぞれのメインカッター59に重畳して伸縮カッター60が設けられている。
メインカッター59が本体57の正面中心を軸として回転または揺動されることで、地盤52が掘削される。なお、伸縮カッター60は、メインカッター59とともに回転または揺動される。これらの伸縮カッター60は、本体57の対角線に近づくに連れて伸長される。伸縮カッター60は、本体57の対角線上にあるときに最も伸長される。そして、本体の対角線から離れるに連れて短縮される。このようにすれば、断面視で四角形状のシールドトンネル51(図27)を形成することができる。なお、センターカッター58についても、本体57の正面中心を軸として回転または揺動され、地盤52の掘削に用いらえる。
シールドマシン50の本体57の四隅(角部)には、サイドカッター61(図26)が設けられている。これらのサイドカッター61は円盤状を成し、それぞれが回転または揺動される。なお、メインカッター59および伸縮カッター60の回転面よりも後方にずれた位置に、サイドカッター61の回転面が設けられている。そのため、サイドカッター61が、メインカッター59および伸縮カッター60が干渉されることがない。
サイドカッター61により地盤52を掘削することで、シールドトンネル51の断面視における四隅に拡張テールボイド62(図27)が形成される。なお、これらの拡張テールボイド62には、固化材、モルタルまたはセメント改良体などで構成される特殊充填材が充填される。また、シールドトンネル51が構築されるときには、その周囲に余堀部63(図27)が設けられる。この余堀部63にも特殊充填材が充填されても良い。
図27に示すように、一方のシールドトンネル51の拡張テールボイド62の少なくとも一部と、他方のシールドトンネル51の拡張テールボイド62の少なくとも一部とが重なって形成される。このようにすれば、トンネル接続部54(図28)に対応する部分に断面欠損を生じさせることなく、アーチ型耐荷構造が形成される。そのため、地盤52が安定した状態でトンネル接続部54を構築することができる。さらに、シールドトンネル51の周囲の地盤52を凍らせる凍土工法を用いて、地盤52を安定させても良い。また、シールドトンネル51の周囲の地盤52に止水補助薬を注入しても良い。
なお、シールドマシン50の掘削対象となる地盤52が充分に硬い岩盤のようなものであれば、拡張テールボイド62を形成しなくても良い。つまり、シールドマシン50のサイドカッター61を省略しても良い。
図28に示すように、躯体構築工程では、まず、トンネル接続部54によりシールドトンネル51同士を連通させた状態で接続する。トンネル接続部54を構築する際に、作業者は、互いに隣接する複数のシールドトンネル51の対向する部分、つまり、側壁の部分のセグメント53を除去する。そして、作業者は、トンネル接続部54を構成する天面鋼板64と底面鋼板65を、セグメント53が除去された部分の上下に差し込む。これら天面鋼板64と底面鋼板65でシールドトンネル51同士を結合させる。さらに、天面鋼板64と底面鋼板65の間の土砂を排出する。
トンネル接続部54が形成されると、一方のシールドトンネル51から他方のシールドトンネル51まで連通された連通空間66が形成される。この連通空間66は、シールドトンネル51が並ぶ方向(水平方向)に向けて一体的(連続的)に広がるようになっている。このようにすれば、複数の鋼殻ブロック56を連通空間66に沿って互いに溶接して一体化させることができる。
図29および図31に示すように、躯体55は、複数の鋼殻ブロック56を組み合わせることで構築される。つまり、躯体55は、鋼殻構造となっている。鋼殻構造とは、水がある空間と空気がある空間とを少なくとも1枚の鋼板で仕切り、この鋼板が水圧に耐え得るようにフレームなどを接続して補強した構造のことである。
鋼殻ブロック56は、直方体状に形成される。なお、鋼殻ブロック56は、工場で大量生産できる。単体の鋼殻ブロック56は、例えば、水平方向に広がる3枚の鋼板と、これらの鋼板を互いに接続する垂直方向に広がる鋼板とを備える。つまり、水がある空間と空気がある空間とを仕切る鋼板が少なくとも2枚以上ある二重鋼殻構造が構築される。そのため、連通空間66が少なくとも2枚の止水板部67で仕切られる。このようにすれば、万が一、一方の止水板部67の水密性(液密性)が維持できなくなっても、他方の止水板部67で水密性を維持することができる。
図28に示すように、鋼殻ブロック56が互いに溶接されることで構築される躯体55の内部には、鋼板で仕切られた箱状の内部空間が多数形成される。これらの箱状の内部空間は、それぞれ単独で密閉された密閉空間となる。
なお、鋼殻ブロック56の少なくとも一部が本実施形態の止水板部67となっている。例えば、底部47の鋼殻ブロック56の場合には、上面側の鋼板が水槽45の水6の漏洩を防止する止水板部67となっているとともに、下面側の鋼板が地下水の浸透を防止する止水板部67となっている。つまり、鋼殻ブロック56におけるセグメント53に対向する部分(対向面)に設けられた鋼板が止水板部67となっている。
複数の鋼殻ブロック56が互いに溶接されて連通空間66に沿って一体的に広がるように止水板部67が形成される。少なくとも一部が止水板部67となっている直方体状の鋼殻ブロック56を用いることで、水密性と強度を兼ね備える地下構造物を構築することができる。
図29および図31に示すように、それぞれのシールドトンネル51の底面には、メインレール68が設けられる。メインレール68は、シールドトンネル51の長手方向に沿って延び、鋼殻ブロック56を水平方向に移動可能な状態で支持する。このようにすれば、鋼殻ブロック56をシールドトンネル51の長手方向の任意の位置まで移動させることができる。なお、特に図示はしないが、鋼殻ブロック56は、台車を介してメインレール68に載置されている。そのため、メインレール68に沿って鋼殻ブロック56を自在に移動させることができる。
また、トンネル接続部54の底面には、サイドレール69が設けられる。サイドレール69は、シールドトンネル51の長手方向に垂直な方向に延び、鋼殻ブロック56をシールドトンネル51の並設方向に移動可能な状態で支持する。なお、サイドレール69は、一方のシールドトンネル51のメインレール68と他方のシールドトンネル51のメインレール68との間に掛け渡される。このようにすれば、一方のシールドトンネル51のメインレール68に沿って移動された鋼殻ブロック56を、サイドレール69でトンネル接続部54まで移動させることができる(図32)。
そして、サイドレール69で移動された鋼殻ブロック56を、他方のメインレール68に支持された鋼殻ブロック56に接触させることができる。つまり、一方のシールドトンネル51のメインレール68に沿って移動された鋼殻ブロック56を、他方のメインレール68に支持されている鋼殻ブロック56に接触させることができる。
メインレール68は下部ジャッキ70を介してシールドトンネル51の底面に固定されている。また、サイドレール69も下部ジャッキ70を介してトンネル接続部54の底面(底面鋼板65)に固定されている。下部ジャッキ70によりメインレール68またはサイドレール69の高さ調整が可能となっている。このようにすれば、鋼殻ブロック56をメインレール68またはサイドレール69で移動可能に支持させつつ、鋼殻ブロック56同士を溶接するための高さ調整を下部ジャッキ70により行うことができる。
なお、本実施形態では、下部ジャッキ70が、メインレール68またはサイドレール69の下部に設けられているが、その他の態様でも良い。例えば、鋼殻ブロック56の下面に下部ジャッキ70を接触させて鋼殻ブロック56の高さ調整を行っても良い。つまり、鋼殻ブロック56をメインレール68またはサイドレール69で適切な位置まで移動させた後、下部ジャッキ70による鋼殻ブロック56の支持に切り換えても良い。さらに、切換後にメインレール68またはサイドレール69を除去しても良い。
鋼殻ブロック56が設定された定位置まで移動された後、鋼殻ブロック56の上面側に上部ジャッキ71が設けられる。上部ジャッキ71は、伸張されてシールドトンネル51またはトンネル接続部54の天面(天面鋼板64)に接触される。なお、下部ジャッキ70および上部ジャッキ71には、油圧で動作する油圧ジャッキを用いている。
シールドトンネル51に配置された鋼殻ブロック56は、下部ジャッキ70および上部ジャッキ71によりシールドトンネル51のセグメント53に固定される。また、トンネル接続部54に配置された鋼殻ブロック56は、下部ジャッキ70および上部ジャッキ71によりトンネル接続部54の天面鋼板64および底面鋼板65に固定される。つまり、下部ジャッキ70または上部ジャッキ71が、本実施形態の固定部材(支持部材)となっている。このようにすれば、セグメント53で囲まれた連通空間66の任意の位置に止水板部67を設けることができる。なお、固定部材による固定の態様は、垂直方向に並ぶ部材を互いに固定する態様と、水平方向に並ぶ部材を互いに固定する態様とを含む。
また、上部ジャッキ71は、鋼殻ブロック56の上面に対して、溶接などで固着せずに、単に、接触させた状態とする。また、メインレール68およびサイドレール69についても、鋼殻ブロック56の下面に対して、溶接などで固着せずに、単に接触させた状態とする。このようにすれば、地震などによりシールドトンネル51が変形されてセグメント53の位置がずれても鋼殻ブロック56に影響がないようにできる。
鋼殻ブロック56は、シールドトンネル51の内部の上下方向の中央位置に配置される。つまり、鋼殻ブロック56の止水板部67の一方と他方の両面がそれぞれセグメント53から離れた位置に設けられる。つまり、単体のシールドトンネル51の内面における互いに対抗する一方面(底面)と他方面(天面)から離れた位置(中間位置)に止水板部67が設けられる。このようにすれば、複数の鋼殻ブロック56同士を溶接するときに、鋼殻ブロック56の上下の両面に作業者がアクセスすることができる。そのため、溶接または検査を行うための作業空間(作業場所)を確保することができる。
また、鋼殻ブロック56同士を溶接した後に、その溶接部の非破壊検査を行っても良い。例えば、作業者は、シールドトンネル51の内部でX線または超音波を用いた非破壊検査を行い、正常に溶接が完了したか否かを検査することができる。そのため、水密性(気密性)が高い地下構造物の構築が可能になっている。本実施形態の地下構造物の構築方法は、非破壊検査工程を含んでも良い。
図30および図33に示すように、セグメント53と止水板部67の間には、充填材72が充填される。つまり、連通空間66の躯体55以外の部分であって、躯体55の周囲の空間に充填材72が充填される。このようにすれば、シールドトンネル51の外側(上方側)からセグメント53に加わる土圧を充填材72で分散させつつ止水板部67で受け止めることができる。そのため、土圧による止水板部67の変形を抑制することができる。
なお、充填材72は、モルタル、コンクリート、土砂のうちの少なくともいずれか1つを含む。また、これらのうちの少なくとも2つを混合した混合物(例えば、セメント系流動化処理土)を充填材72として用いても良い。また、充填材72として高流動コンクリートを用いても良い。このようにすれば、充填材72によりシールドトンネル51の内部の剛性と稠密性を高めることができる。
なお、充填材72により躯体55が支持されるようになった後に、下部ジャッキ70および上部ジャッキ71の油圧を抜くようにしても良い。このようにすれば、セグメント53が多少変形したとしても、その変形の影響が躯体55に伝わり難くなる。
次に、躯体構築工程の一連の流れについて図34のフローチャートを用いて説明する。なお、図27から図33を適宜参照する。
図34に示すように、まず、ステップS31において、作業者は、互いに隣接するシールドトンネル51の底面に、メインレール68および下部ジャッキ70を設ける(図28)。そして、作業者は、一方のシールドトンネル51を介して鋼殻ブロック56を搬入する。ここで、作業者は、鋼殻ブロック56を一方のシールドトンネル51の長手方向に沿って延びるメインレール68で移動させる。
次のステップS32において、作業者は、一方のシールドトンネル51で鋼殻ブロック56同士を溶接する。つまり、メインレール68に沿って並ぶ複数の鋼殻ブロック56を互いに溶接する。このようにすれば、複数の鋼殻ブロック56をシールドトンネル51の長手方向の任意の位置まで移動させて互いに溶接して組み合わせることができる。
次のステップS33において、作業者は、一方のシールドトンネル51の鋼殻ブロック56の上面に上部ジャッキ71を設ける(図28)。そして、上部ジャッキ71を伸張させてシールドトンネル51の天井面に接触させる。つまり、一方のシールドトンネル51の天井面を鋼殻ブロック56により支持させる。
次のステップS34において、作業者は、互いに隣接するシールドトンネル51の長手方向における一部のセグメント53を除去する(図31および図32)。
次のステップS35において、作業者は、セグメント53が除去された部分に、シールドトンネル51同士を連通させた状態で接続するトンネル接続部54の一部を構築する(図31および図32)。なお、作業者は、構築されたトンネル接続部54の底面に、サイドレール69および下部ジャッキ70を設ける(図28)。
次のステップS36において、作業者は、他方のシールドトンネル51を介して鋼殻ブロック56を搬入する(図31および図32)。ここで、作業者は、鋼殻ブロック56を他方のシールドトンネル51の長手方向に沿って延びるメインレール68で移動させる。
次のステップS37において、作業者は、他方のシールドトンネル51から一方のシールドトンネル51に向けて鋼殻ブロック56を横移動させる。作業者は、他方のシールドトンネル51を介して移動させた鋼殻ブロック56を他方のシールドトンネル51の長手方向に垂直な方向に移動させてトンネル接続部54に配置する(図31および図32)。ここで、作業者は、鋼殻ブロック56をシールドトンネル51の長手方向に垂直な方向に延びるサイドレール69により移動させる。このようにすれば、鋼殻ブロックを他方のメインレール68に沿って移動させて、一方のメインレール68に支持された鋼殻ブロック56に溶接して一体化させることができる。
次のステップS38において、作業者は、一方のシールドトンネル51の鋼殻ブロック56とトンネル接続部54の鋼殻ブロック56とを溶接する(図31および図32)。つまり、作業者は、サイドレール69に支持された鋼殻ブロック56を一方のシールドトンネル51のメインレール68に支持された鋼殻ブロック56に溶接する。そして、連通空間66に沿って一体的に広がる止水板部67を形成する(図28)。
次のステップS39において、作業者は、トンネル接続部54に設けられた鋼殻ブロック56の上面に上部ジャッキ71を設ける(図28)。そして、上部ジャッキ71を伸張させてトンネル接続部54の天井面に接触させる。つまり、トンネル接続部54の天井面を鋼殻ブロック56により支持させる。
次のステップS40において、作業者は、天井面を支持する鋼殻ブロック56に隣接し、トンネル接続部54に対応して縦方向に並ぶセグメント53を除去する(図27および図32)。このようにすれば、鋼殻ブロック56によりトンネル接続部54の天井面を支持しつつ、トンネル接続部54に対応して縦方向に並ぶセグメント53の除去作業を順次行うことができる。
そして、全てのシールドトンネル51で躯体55が完成するまで、この躯体構築工程を繰り返す。このようにすれば、シールドトンネル51の長手方向および並設方向に広がる躯体55を構築することができる。
このように、一方のシールドトンネル51から他方のシールドトンネル51まで連通された連通空間66を作業場所として、この連通空間66に沿って一体的に設けられる躯体55の組立作業を行うようにしている。このようにすれば、単体のシールドトンネル51の内径よりも大きな躯体55を地中で組み立てることができる。
図30および図33に示すように、作業者は、躯体55が完成した後に、シールドトンネル51の内部に充填材72を充填する。
次に、変形例2について図35から図40を用いて説明する。図37に示すように、変形例2のトンネル接続部54の底面には、サブレール73が設けられる。サブレール73は、シールドトンネル51の長手方向に沿って延び、鋼殻ブロック56を移動可能な状態で支持する。このようにすれば、鋼殻ブロック56をトンネル接続部54の任意の位置まで移動させることができる。
次に、変形例2の躯体構築工程の一連の流れについて図40のフローチャートを用いて説明する。なお、図35から図40を適宜参照する。
図40に示すように、まず、ステップS41において、作業者は、互いに隣接するシールドトンネル51の底面に、メインレール68および下部ジャッキ70を設ける(図35)。そして、作業者は、双方のシールドトンネル51を介して鋼殻ブロック56を搬入する。ここで、作業者は、鋼殻ブロック56をシールドトンネル51の長手方向に沿って延びるメインレール68で移動させる。
次のステップS42において、作業者は、双方のシールドトンネル51で鋼殻ブロック56同士を溶接する。つまり、メインレール68に沿って並ぶ複数の鋼殻ブロック56を互いに溶接する(図36)。
次のステップS43において、作業者は、双方のシールドトンネル51の鋼殻ブロック56の上面に上部ジャッキ71を設ける(図36)。そして、上部ジャッキ71を伸張させてシールドトンネル51の天井面に接触させる。つまり、双方のシールドトンネル51の天井面を鋼殻ブロック56により支持させる。
次のステップS44において、作業者は、鋼殻ブロック56により天井面が支持された互いに隣接するシールドトンネル51の対向する部分、つまり、トンネル接続部54に対応して縦方向に並ぶセグメント53を除去する(図27および図37)。このようにすれば、鋼殻ブロック56によりシールドトンネル51の天井面を支持しつつ、セグメント53の除去作業を行うことができる。さらに、シールドトンネル51の長手方向に沿って配置され、トンネル接続部54に対応して縦方向に並ぶセグメント53の除去作業を一度に行うことができる。
次のステップS45において、作業者は、トンネル接続部54を構成する天面鋼板64と底面鋼板65を、セグメント53が除去された部分の上下に差し込む。これら天面鋼板64と底面鋼板65でシールドトンネル51同士を結合させる。さらに、天面鋼板64と底面鋼板65の間の土砂を排出する。このようにして、シールドトンネル51同士を連通させた状態で接続するトンネル接続部54を構築する(図37)。なお、作業者は、構築されたトンネル接続部54の底面に、サブレール73および下部ジャッキ70を設ける。
次のステップS46において、作業者は、トンネル接続部54を介して鋼殻ブロック56を搬入する(図38)。ここで、作業者は、鋼殻ブロック56をメインレール68と平行に並ぶサブレール73により移動させる。トンネル接続部54に沿って並ぶ鋼殻ブロック56をサブレール73で直線的に搬送できるため、搬送効率が向上する。
次のステップS47において、作業者は、シールドトンネル51の鋼殻ブロック56とトンネル接続部54の鋼殻ブロック56とを溶接する(図38)。つまり、作業者は、サブレール73に支持された鋼殻ブロック56をメインレール68に支持された鋼殻ブロック56に溶接する。さらに、トンネル接続部54で鋼殻ブロック56同士を溶接する。つまり、サブレール73に沿って並ぶ複数の鋼殻ブロック56を互いに溶接する。
次のステップS48において、作業者は、トンネル接続部54に設けられた鋼殻ブロック56の上面に上部ジャッキ71を設ける(図38)。そして、上部ジャッキ71を伸張させてトンネル接続部54の天井面に接触させる。つまり、トンネル接続部54の天井面を鋼殻ブロック56により支持させる。
そして、全てのシールドトンネル51で躯体55が完成するまで、この躯体構築工程を繰り返す。このようにすれば、シールドトンネル51の長手方向および並設方向に広がる躯体55を構築することができる。
図39に示すように、作業者は、躯体55が完成した後に、シールドトンネル51の内部に充填材72を充填する。
なお、シールドトンネル51による掘削作業とメインレール68を用いた鋼殻ブロック56の搬送作業とを同時並行で行っても良い。
次に、変形例3について図41から図42を用いて説明する。図41に示すように、変形例3では、鋼殻ブロック56が互いに溶接されて躯体55が構築された後に、作業者は、躯体55の上方位置と下方位置に複数の台座ブロック74を配置する。例えば、台座ブロック74を、躯体55の上面と、シールドトンネル51の底面と、トンネル接続部54の底面に配置する。台座ブロック74は、コンクリート製または鋼鉄製の部材である。
図42に示すように、作業者は、台座ブロック74の上面側にフラットジャッキ75を設ける。例えば、台座ブロック74とセグメント53との間、および台座ブロック74と躯体55の間にフラットジャッキ75を設ける。
ここで、フラットジャッキ75とは、薄い円盤状を成す装置であり、上下に設けた凹みを有する2枚の薄い軟鋼板の外縁部を溶接により接合したものである。フラットジャッキ75の上下両面には、メッシュで補強されたモルタル製の支圧板が設けられている。さらに、フラットジャッキ75の外縁部には、外部から流体が注入される注入口と、内部の流体を排出するための排出口が設けられている。注入口より流体を導入して内圧を生じさせる。すると、フラットジャッキ75の上下の両面が互いに引き離されるように鋼板が塑性変形する。つまり、フラットジャッキ75の内圧により載置されたものを引き上げる揚力を発生させることができる。このフラットジャッキ75は、作業空間の極めて狭い場所にも設置することができる。また、フラットジャッキ75は、油圧ジャッキである下部ジャッキ70および上部ジャッキ71よりも製造コストが低くなっている。
台座ブロック74の上面側にフラットジャッキ75を設けた後、フラットジャッキ75を作動させる。すると、フラットジャッキ75により躯体55がシールドトンネル51に固定されるようなる。この変形例3では、フラットジャッキ75が固定部材となっている。
その後、作業者は、下部ジャッキ70および上部ジャッキ71を除去するとともに、メインレール68およびサイドレール69を除去する。このようにすれば、コストが嵩む下部ジャッキ70および上部ジャッキ71を回収することができる。そして、作業者は、フラットジャッキ75による受け替えを行った後に、セグメント53と止水板部67の間に充填材72(図30)を充填する。なお、下部ジャッキ70および上部ジャッキ71を用いずに、最初からフラットジャッキ75のみを用いて躯体55を固定しても良い。
なお、底部47の構築工法と同様の工法で、地中で天井部および側壁部を構築し、箱状(筒状)を成す大型の地下構造物を構築しても良い。このような地下構造物は、止水板部67(図28)を備えているため、水密性を有する施設として利用することができる。例えば、低レベル放射性廃棄物の処分場または貯蔵施設として用いることができる。
また、地下構造物が止水板部67(気密板部)により気体の通過を阻止して気密性を有するものでも良い。つまり、第3実施形態の水密性(気密性)とは、地下構造物の外部から内部へ液体(気体)が進入しない態様を含むばかりか、地下構造物の内部から外部へ液体が流出しない態様を含む。例えば、地下構造物の内部に流体を溜めた場合に、その流体が長期間に亘って外部へ流出しない態様を含む。
本実施形態に係る原子炉建屋冠水装置および原子炉建屋冠水方法を第1実施形態から第3実施形態に基づいて説明したが、いずれか1の実施形態(または変形例)において適用された構成を他の実施形態に適用しても良いし、各実施形態において適用された構成を組み合わせても良い。
例えば、水槽の一部分に第1実施形態のプレストレストコンクリートを用いて、他の部分に第2実施形態の船体構造(鋼殻構造)を用いても良い。
なお、本実施形態のフローチャートにおいて、各ステップが直列に実行される形態を例示しているが、必ずしも各ステップの前後関係が固定されるものでなく、一部のステップの前後関係が入れ替わっても良い。また、一部のステップが他のステップと並列に実行されても良い。
なお、本実施形態では、原子炉格納容器4と圧力抑制室5とが別体に設けられた沸騰水型原子炉(BWR)の廃炉に適用した形態を例示しているが、その他の態様であっても良い。例えば、原子炉格納容器と圧力抑制室とが一体的に設けられた改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)の廃炉に適用しても良いし、加圧水型原子炉(PWR)の廃炉に適用しても良いし、黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉の廃炉に適用しても良い。
なお、本実施形態では、過酷事故が生じた後に、原子炉建屋冠水装置1,1A,1Bの底部10,32,47を構築する形態を例示しているが、その他の態様であっても良い。例えば、原子力発電所を新たに建設するときに、予め地中に底部10,32,47を構築しておいても良い。
なお、本実施形態では、過酷事故が生じた原子力発電所の廃炉作業に原子炉建屋冠水装置1,1A,1Bを用いているが、その他の態様であっても良い。例えば、過酷事故が生じていない原子力発電所の廃炉作業に原子炉建屋冠水装置1,1A,1Bを用いても良い。
なお、本実施形態では、矩形型のシールドマシン18,50を用いて、断面視が四角形状のシールドトンネル17,51を構築しているが、その他の態様であっても良い。例えば、円形シールドマシンを用いて、断面視が円形状のシールドトンネルを構築しても良い。
なお、本実施形態では、互いに隣接するシールドトンネル51同士が離間されており、その間を天面鋼板64と底面鋼板65で接続することでトンネル接続部54が構成されているが、その他の態様であっても良い。例えば、互いに隣接するシールドトンネル51同士が接触していても良い。その場合には、シールドトンネル51同士を接合する接合部材によりトンネル接続部が構成される。
以上説明した実施形態によれば、原子炉建屋の全体が収容され、内部に水を溜めることで原子炉建屋の少なくとも一部を水没可能な水槽を備えることにより、過酷事故に見舞われた原子炉の廃炉を行うことができる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。