本発明の態様に係るパターン描画装置について、好適な実施の形態を掲げ、添付の図面を参照しながら以下、詳細に説明する。なお、本発明の態様は、これらの実施の形態に限定されるものではなく、多様な変更または改良を加えたものも含まれる。つまり、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれ、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換または変更を行うことができる。
[第1の実施の形態]
図1は、第1の実施の形態によるパターン描画装置(露光装置)EXの概略的な全体構成を示す斜視図である。図1において、特に断わりのない限り重力方向をZ方向とするXYZ直交座標系を設定し、図に示す矢印にしたがってX方向、Y方向、およびZ方向とする。
パターン描画装置EXは、可撓性のシート基板P(以下、単に基板Pとも呼ぶ)に露光処理を施して、電子デバイスを製造するデバイス製造システムで使われる。デバイス製造システムは、例えば、電子デバイスとしてのフレキシブル・ディスプレイ、フィルム状のタッチパネル、液晶表示パネル用のフィルム状のカラーフィルター、フレキシブル配線、または、フレキシブル・センサなどを製造する製造ラインが構築された製造システムである。フレキシブル電子デバイスの一例として、例えば、有機ELディスプレイ、液晶ディスプレイなどの表示パネルやウェアラブルセンサシート等がある。シート基板Pは、例えば、樹脂フィルム、若しくは、ステンレス鋼などの金属または合金からなる箔(フォイル)などが用いられる。樹脂フィルムの材質としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、エチレンビニル共重合体樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、セルロース樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、および酢酸ビニル樹脂のうち、少なくとも1つ以上を含んだものを用いてもよい。また、シート基板Pの厚みや剛性(ヤング率)は、デバイス製造システムやパターン描画装置EXの搬送路を通る際に、シート基板Pに座屈による折れ目や非可逆的なシワが生じないような範囲であればよい。シート基板Pの母材として、厚みが25μm~200μm程度のPET(ポリエチレンテレフタレート)やPEN(ポリエチレンナフタレート)などのフィルムが使われる。
シート基板Pは、デバイス製造システム内で施される各処理において熱を受ける場合があるため、熱膨張係数が顕著に大きくない材質を選定することが好ましい。例えば、無機フィラーを樹脂フィルムに混合することによって熱膨張係数を抑えることができる。無機フィラーは、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ、または酸化ケイ素などでもよい。また、シート基板Pは、フロート法などで製造された厚さ100μm程度の極薄ガラスの単層体であってもよいし、この極薄ガラスに上記の樹脂フィルムや箔などを貼り合わせた積層体であってもよい。また、セルロースナノファイバー(CNF)を含有した数百μm以下の厚みのフィルム(以下、CNFシート基板とも呼ぶ)は、PET等のフィルムに比べて高温(例えば200℃程度)の処理にも耐え、CNFの含有率を高めることで線熱膨張係数を銅やアルミニウム程度にすることができる。従って、CNFシート基板は、銅による配線パターンを形成して電子部品(半導体素子、抵抗器、コンデンサ等)を実装したり、高温処理が必要とされる薄膜トランジスタ(TFT)を直接形成したりしてフレキシブル電子デバイスを製造する場合の基板としても適している。特に、電子デバイスを製造する場合、湿式処理の後には乾燥加熱処理が必要であるが、その際に耐熱性が高く、低伸縮性であることから、長尺のシート基板を連続して複数の処理装置に通すロール・ツー・ロール方式の製造ラインの構築が容易になり、生産性の向上が期待できる。
ところで、シート基板Pの可撓性(flexibility)とは、シート基板Pに自重程度の力を加えてもせん断したり破断したりすることはなく、そのシート基板Pを撓めることが可能な性質をいう。また、自重程度の力によって屈曲する性質も可撓性に含まれる。また、シート基板Pの材質、大きさ、厚さ、基板P上に成膜される層構造、温度、または、湿度などの環境などに応じて、可撓性の程度は変わる。いずれにしろ、デバイス製造システム(パターン描画装置EX)内の搬送路に設けられる各種の搬送用ローラ、回転ドラムなどの搬送方向転換用の部材にシート基板Pを正しく巻き付けた場合に、座屈して折り目がついたり、破損(破れや割れが発生)したりせずに、シート基板Pを滑らかに搬送できれば、可撓性の範囲といえる。パターン描画装置EXに送られてくるシート基板Pには、前工程の処理によって、その表面に感光性機能層(光感応層)が形成されている。
その感光性機能層は、溶液として基板P上に塗布され、乾燥することによって層(膜)となる。感光性機能層の典型的なものはフォトレジスト(液状またはドライフィルム状)であるが、現像処理が不要な材料として、紫外線の照射を受けた部分の親撥液性が改質される感光性シランカップリング剤(SAM)、或いは紫外線の照射を受けた部分にメッキ還元基が露呈するポジ型、又は紫外線の照射を受けた部分のメッキ還元能を相殺するネガ型の感光性還元剤などがある。感光性機能層として感光性シランカップリング剤を用いる場合は、シート基板P上の紫外線で露光されたパターン部分が撥液性から親液性に改質される。そのため、親液性となった部分の上に導電性インク(銀や銅などの導電性ナノ粒子を含有するインク)または半導体材料を含有した液体などを選択塗布することで、薄膜トランジスタ(TFT)などを構成する電極、半導体、絶縁、或いは接続用の配線となるパターン層を形成することができる。なお、感光性機能層は、紫外波長域(250~400nm程度)に感度を有するものであれば、その他のもの、例えば紫外線硬化樹脂を薄膜状に塗布した層であっても良い。
感光性機能層として、ポジ型の感光性還元剤を用いる場合は、シート基板P上の紫外線で露光されたパターン部分にメッキ還元基が露呈する。そのため、露光後、シート基板Pを直ちにパラジウムイオンなどを含む無電解メッキ液中に一定時間浸漬することで、パラジウムによるパターン層が形成(析出)される。このようなメッキ処理はアディティブ(additive)なプロセスであるが、その他、サブトラクティブ(subtractive)なプロセスとしてのエッチング処理を前提にしてもよい。その場合、パターン描画装置EXへ送られるシート基板Pは、母材をPETやPENとし、その表面にアルミニウム(Al)や銅(Cu)などの金属性薄膜を全面または選択的に蒸着し、さらにその上にフォトレジスト層を積層したものとするのがよい。
パターン描画装置EXは、前工程のプロセス装置から搬送されてきたシート基板Pを後工程のプロセス装置(単一の処理部または複数の処理部を含む)に向けて所定の速度で搬送しつつ、シート基板Pに対して露光処理(パターン描画)を行う。パターン描画装置EXは、シート基板Pの表面(感光性機能層の表面、すなわち感光面)に、電子デバイス用のパターン(例えば、電子デバイスを構成する配線パターン、TFTの電極や配線などのパターン)に応じた光パターンを照射する。これにより、感光性機能層に各種のパターンに対応した潜像(改質部)が形成される。
〔パターン描画装置の全体構成〕
図1に示すように、本実施の形態におけるパターン描画装置EXは、マスクを用いない直描方式の露光装置、いわゆるスポット走査方式の露光装置である。描画装置EXは、副走査のために基板Pを円筒面状に支持して長尺方向に搬送する回転ドラムDR(基板移動部材)と、回転ドラムDRで円筒面状に支持された基板Pの部分ごとにパターン露光を行う複数(ここでは6個)の描画ユニットUn(U1~U6)とを備え、複数の描画ユニットUn(U1~U6)の各々は、光源装置LSから射出される露光用のパルス状のビームLB(パルスビーム)のスポット光を、シート基板P(以下、単に基板Pとも呼ぶ)の被照射面(感光面)上で所定の走査方向(Y方向)にポリゴンミラー(走査部材)PMで1次元に走査(主走査)しつつ、スポット光の強度をパターンデータ(描画データ、パターン情報)に応じて高速に変調(オン/オフ)する。これにより、基板Pの被照射面に電子デバイス、回路または配線などの所定のパターンに応じた光パターンが描画露光される。つまり、基板Pの長尺方向の搬送(副走査)とスポット光の主走査とで、スポット光が基板Pの被照射面(感光性機能層の表面)上で相対的に2次元走査されて、基板Pの被照射面に所定のパターンが描画露光される。なお、基板Pは、回転ドラムDRの回転によって長尺方向に指令された速度で搬送されるので、描画装置EXによってパターンが描画される被露光領域は、基板Pの長尺方向に沿って所定の間隔をあけて複数設けられることになる。この被露光領域に電子デバイスが形成されるので、被露光領域はデバイス形成領域でもある。
図1に示すように、回転ドラムDRは、Y方向に延びるとともに重力が働く方向と交差した方向に延びた中心軸AXoと、中心軸AXoから一定半径の円筒状の外周面とを有する。回転ドラムDRのY方向の両端には中心軸AXoと同軸にシャフトが設けられ、回転ドラムDRは、そのシャフトによって描画装置EX内の支持部材(本体フレーム部)にベアリングを介して軸支される。シャフトは、モータ等の回転軸と同軸に結合される。回転ドラムDRは、この外周面(円周面)に倣って基板Pの一部を長尺方向に円筒面状に湾曲させて支持しつつ(巻き付けつつ)、中心軸AXoを中心に回転して基板Pを長尺方向に搬送する。回転ドラムDRは、複数の描画ユニットUn(U1~U6)の各々からの走査ビーム(スポット光)が投射される基板P上の描画領域(スポット光による描画ラインSL1~SL6を含む部分)をその外周面で支持する。回転ドラムDRは、電子デバイスが形成される面(感光面)の反対側の面(裏面)側で基板Pを密着支持する。
光源装置(パルス光源装置)LSは、パルス状のビーム(パルスビーム、パルス光、レーザ)LBを発生して射出する。このビームLBは、240~400nm程度の紫外波長帯域のいずれかにピーク波長を有し、波長幅が数十pm程度の紫外線光であり、シート基板Pの感光層に対して感度を有する。光源装置LSは、ここでは不図示の描画制御装置200(後の図6参照)の制御にしたがって、周波数(発振周波数、所定周波数)Faでパルス状に発光するビームLBを射出する。この光源装置LSは、赤外波長域のパルス状の種光を発生する半導体レーザ素子、ファイバー増幅器、および、増幅された赤外波長域の種光を355nmの紫外波長のパルス光に変換する波長変換素子(高調波発生素子)などで構成されるファイバーアンプレーザ光源とする。このように光源装置LSを構成することで、発振周波数Faが数百MHzで、1パルス光の発光時間が数十ピコ秒以下の高輝度な紫外線のパルス光が得られる。なお、光源装置LSから射出されるビームLBは、そのビーム径が1mm程度、若しくはそれ以下の細い平行光束になっているものとする。光源装置LSをファイバーアンプレーザ光源とし、描画データを構成する画素の状態(論理値で「0」か「1」)に応じて、ファイバー増幅器に入射する赤外波長域の種光の状態を変化させてビームLBのパルス発生を高速にオン/オフする構成については、例えば、国際公開第2015/166910号パンフレットに開示されている。
光源装置LSから射出されるビームLBは、複数のスイッチング素子としての選択用光学素子OSn(OS1~OS6)と、複数の反射ミラーM1~M12と、複数の選択ミラーIMn(IM1~IM6)と、吸収体TR等で構成されるビーム切換部を介して、描画ユニットUn(U1~U6)の各々に選択的(択一的)に供給される。選択用光学素子OSn(OS1~OS6)は、ビームLBに対して透過性を有するものであり、超音波信号(RF電力)で駆動されて、入射したビームLBの1次回折光(主回折ビーム)を描画用のビームLBnとして所定の角度で偏向して射出する音響光学変調素子、或いは音響光学偏向素子(AOM:Acousto-Optic Modulator)で構成される。複数の選択用光学素子OSnおよび複数の選択ミラーIMnは、複数の描画ユニットUnの各々に対応して設けられている。例えば、選択用光学素子OS1と選択ミラーIM1は、描画ユニットU1に対応して設けられ、同様に、選択用光学素子OS2~OS6および選択ミラーIM2~IM6は、それぞれ描画ユニットU2~U6に対応して設けられている。
光源装置LSからビームLBは、反射ミラーM1~M12によってその光路がXY面と平行な面内でつづらおり状に曲げられつつ、選択用光学素子OS5、OS6、OS3、OS4、OS1、OS2の順に透過して、吸収体TRまで導かれる。以下、選択用光学素子OSn(OS1~OS6)がいずれもオフ状態(超音波信号が印加されずに、1次回折光が発生していない非動作状態)の場合で詳述する。なお、図1では図示を省略したが、反射ミラーM1から吸収体TRまでのビーム光路中には複数のレンズ(光学素子)が設けられ、この複数のレンズは、ビームLBを平行光束から収斂したり、収斂後に発散するビームLBを平行光束に戻したりする。その構成は後で図3を用いて説明する。
図1において、光源装置LSからのビームLBは、X軸と平行に-X方向に進んで反射ミラーM1に入射する。反射ミラーM1で-Y方向に反射されたビームLBは、反射ミラーM2に入射する。反射ミラーM2で+X方向に反射されたビームLBは、選択用光学素子OS5を直線的に透過して反射ミラーM3に至る。反射ミラーM3で-Y方向に反射されたビームLBは、反射ミラーM4に入射する。反射ミラーM4で-X方向に反射されたビームLBは、選択用光学素子OS6を直線的に透過して反射ミラーM5に至る。反射ミラーM5で-Y方向に反射されたビームLBは、反射ミラーM6に入射する。反射ミラーM6で+X方向に反射されたビームLBは、選択用光学素子OS3を直線的に透過して反射ミラーM7に至る。反射ミラーM7で-Y方向に反射されたビームLBは、反射ミラーM8に入射する。反射ミラーM8で-X方向に反射されたビームLBは、選択用光学素子OS4を直線的に透過して反射ミラーM9に至る。反射ミラーM9で-Y方向に反射されたビームLBは反射ミラーM10に入射する。反射ミラーM10で+X方向に反射されたビームLBは、選択用光学素子OS1を直線的に透過して反射ミラーM11に至る。反射ミラーM11で-Y方向に反射されたビームLBは、反射ミラーM12に入射する。反射ミラーM12で-X方向に反射したビームLBは、選択用光学素子OS2を直線的に透過して吸収体TRに導かれる。この吸収体TRは、選択用光学素子OSn(OS1~OS6)がいずれもオフ状態のときに、ほとんど減衰することなく透過してくる光源装置LSからの高輝度のビームLBが外部に漏れることを防止するための光トラップである。
各選択用光学素子OSnは、超音波信号(高周波信号)が印加されると、入射したビーム(0次光)LBを、高周波帯(40~200MHz)のうちの所定の周波数(規定周波数、中心周波数)に応じた回折角で回折させた1次回折光(主回折ビーム)を射出ビーム(描画用のビームLBn)として発生させるものである。したがって、選択用光学素子OS1から1次回折光として射出されるビームがLB1となり、同様に選択用光学素子OS2~OS6の各々から1次回折光として射出されるビームがLB2~LB6となる。このように、各選択用光学素子OSn(OS1~OS6)は、光源装置LSからのビームLBの光路を偏向する機能を奏する。本実施の形態では、選択用光学素子OSn(OS1~OS6)がオン状態となって1次回折光としてのビームLBn(LB1~LB6)を発生している動作状態のことを、選択用光学素子OSn(OS1~OS6)が光源装置LSからのビームLBを偏向(又は選択)した状態として説明する。但し、実際の音響光学変調素子は、ブラッグ回折条件で使用した場合、主回折ビームの最大の発生効率が0次光の70~80%程度であるため、選択用光学素子OSnの各々で偏向されたビームLBn(LB1~LB6)は、元のビームLBの強度より低下している。また、本実施の形態では、選択用光学素子OSn(OS1~OS6)のうちの選択された1つだけが一定時間だけオン状態(偏向状態)となるように、描画制御装置200(図6参照)によって制御される。選択された1つの選択用光学素子OSnがオン状態のとき、その選択用光学素子OSnで回折されずに直進する0次光(0次回折ビーム)が20%程度残存するが、それは最終的に吸収体TRによって吸収される。なお、規定周波数とは、本実施の形態では、選択用光学素子OSn(OS1~OS6)をブラッグ回折条件で正確に作動させる為の周波数であり、高周波信号(駆動信号)の規定周波数からの変化(増減)は、精密なブラッグ回折条件を意図的に外して主回折ビームの発生効率(回折効率)を低下させることになる。
選択用光学素子OSnの各々は、偏向された1次回折光である描画用のビームLBn(LB1~LB6)を、入射するビームLBに対して-Z方向に偏向するように設置される。選択用光学素子OSnの各々で偏向されたビームLBn(LB1~LB6)は、選択用光学素子OSnの各々から所定距離だけ離れた位置に設けられた選択ミラーIMn(IM1~IM6)に投射される。各選択ミラーIMnは、入射したビームLBn(LB1~LB6)を-Z方向に反射することで、ビームLBn(LB1~LB6)をそれぞれ対応する描画ユニットUn(U1~U6)に導く。
各選択用光学素子OSnの構成、機能、作用などは互いに同一のものを用いるものとする。複数の選択用光学素子OSnの各々は、描画制御装置200(図6参照)からの駆動信号(超音波信号)のオン/オフにしたがって、入射したビームLBを回折させた回折光(ビームLBn)の発生をオン/オフする。例えば、選択用光学素子OS5は、駆動信号(高周波信号)が印加されずにオフ状態のとき、入射した光源装置LSからのビームLBを偏向(回折)させずに透過する。したがって、選択用光学素子OS5を透過したビームLBは、反射ミラーM3に入射する。一方、選択用光学素子OS5がオン状態のとき、入射したビームLBを偏向(回折)させて選択ミラーIM5に向かわせる。つまり、この駆動信号のオン/オフによって選択用光学素子OS5によるスイッチング(ビーム選択)動作が制御される。このようにして、各選択用光学素子OSnのスイッチング動作により、光源装置LSからのビームLBをいずれか1つの描画ユニットUnに導くことができ、且つ、ビームLBnが入射する描画ユニットUnを切り換えることができる。このように、複数の選択用光学素子OSnを光源装置LSからのビームLBが順番に通るように直列(シリアル)に配置して、対応する描画ユニットUnに時分割でビームLBnを供給する構成についても、国際公開第2015/166910号パンフレットに開示されている。
ビーム切換部を構成する選択用光学素子OSn(OS1~OS6)の各々が一定時間だけオン状態となる順番は、例えば、OS1→OS2→OS3→OS4→OS5→OS6→OS1→・・・、或いは、OS1→OS3→OS5→OS2→OS4→OS6→OS1→・・・のように、予め定められている。この順番は、描画ユニットUn(U1~U6)の各々に設定されるスポット光による走査開始タイミングの順番によって定められる。すなわち、本実施の形態では、6つの描画ユニットU1~U6の各々に設けられるポリゴンミラーPMの回転速度の同期と共に、回転角度の位相も同期させることで、描画ユニットU1~U6のうちのいずれか1つにおけるポリゴンミラーの1つの反射面が、基板P上で1回のスポット走査を行うように、時分割に切り替えることができる。そのため、描画ユニットUnの各々のポリゴンミラーPMの回転角度の位相が所定の関係で同期した状態であれば、描画ユニットUnのスポット走査の順番はどの様なものであってもよい。図1の構成では、基板Pの搬送方向(回転ドラムDRの外周面が周方向に移動する方向)の上流側に3つの描画ユニットU1、U3、U5(奇数番のユニット)がY方向に並べて配置され、基板Pの搬送方向の下流側に3つの描画ユニットU2、U4、U6(偶数番のユニット)がY方向に並べて配置される。
この場合、基板Pへのパターン描画は、上流側の奇数番の描画ユニットU1、U3、U5から開始され、基板Pが一定長送られたら、下流側の偶数番の描画ユニットU2、U4、U6もパターン描画を開始することになるので、描画ユニットUnのスポット走査の順番を、U1→U3→U5→U2→U4→U6→U1→・・・に設定することができる。そのため、選択用光学素子OSn(OS1~OS6)の各々が一定時間だけオン状態となる順番は、OS1→OS3→OS5→OS2→OS4→OS6→OS1→・・・のように定めるのが良い。なお、描画すべきパターンがない描画ユニットUnに対応した選択用光学素子OSnがオン状態となる順番のときであっても、その選択用光学素子OSnのオン/オフの切り替え制御を描画データに基づいて行うことによって、その選択用光学素子OSnは強制的にオフ状態に維持されるので、その描画ユニットUnによるスポット走査は行われない。
本実施の形態では、描画ユニットU1~U6の各々に入射してきたビームLB1~LB6を主走査するためのポリゴンミラーPMの各々が、同一の回転速度で精密に回転しつつ、互いに一定の回転角度位相を保つように同期制御される。これによって、描画ユニットU1~U6の各々から基板Pに投射されるビームLB1~LB6の各々の主走査のタイミング(スポット光SPの主走査期間)を、互いに重複しないように設定することができる。したがって、ビーム切換部に設けられた選択用光学素子OSn(OS1~OS6)の各々のオン/オフの切り替えを、6つのポリゴンミラーPMの各々の回転角度位置に同期して制御することで、光源装置LSからのビームLBを複数の描画ユニットUnの各々に時分割で振り分けた効率的な露光処理ができる。
6つのポリゴンミラーPMの各々の回転角度の位相合わせと、選択用光学素子OSn(OS1~OS6)の各々のオン/オフの切り替えタイミングとの同期制御については、国際公開第2015/166910号パンフレットに開示されているが、8面ポリゴンミラーPMの場合、走査効率として、1つの反射面分の回転角度(45度)のうちの1/3程度が、基板P上でのスポット光SPの1走査に対応するので、6つのポリゴンミラーPMを相対的に15度ずつ回転角度の位相をずらして回転させると共に、各ポリゴンミラーPMが8つの反射面を一面飛ばしでビームLBnを走査するように選択用光学素子OSn(OS1~OS6)の各々のオン/オフの切り替えが制御される。このように、ポリゴンミラーPMの反射面を1面飛ばしで使った描画方式についても、国際公開第2015/166910号パンフレットに開示されている。
図1に示すように、描画装置EXは、同一構成の複数の描画ユニットUn(U1~U6)を配列した、いわゆるマルチヘッド型の直描露光装置となっている。描画ユニットUnの各々は、回転ドラムDRの外周面(円周面)で支持されている基板PのY方向に区画された部分領域ごとにパターンを描画する。各描画ユニットUn(U1~U6)は、ビーム切換部からのビームLBnを基板P上(基板Pの被照射面上)に投射しつつ、基板P上でビームLBnを集光(収斂)する。これにより、基板P上に投射されるビームLBn(LB1~LB6)はスポット光となる。また、各描画ユニットUnのポリゴンミラーPMの回転によって、基板P上に投射されるビームLBn(LB1~LB6)のスポット光は主走査方向(Y方向)に走査される。このスポット光の走査によって、基板P上に、1ライン分のパターンの描画のための直線的な描画ライン(走査ライン)SLn(なお、n=1、2、・・・、6)が規定される。描画ラインSLnは、ビームLBnのスポット光の基板P上における走査軌跡でもある。
描画ユニットU1は、スポット光を描画ラインSL1に沿って走査し、同様に、描画ユニットU2~U6は、スポット光を描画ラインSL2~SL6に沿って走査する。図1に示すように、複数の描画ユニットUn(U1~U6)の描画ラインSLn(SL1~SL6)は、回転ドラムDRの中心軸AXoを含みYZ面と平行な中心面pccを挟んで、回転ドラムDRの周方向に2列に千鳥配列で配置される。奇数番の描画ラインSL1、SL3、SL5は、中心面pccに対して基板Pの搬送方向の上流側(-X方向側)の基板Pの被照射面上に位置し、且つ、Y方向に沿って所定の間隔だけ離して1列に配置されている。偶数番の描画ラインSL2、SL4、SL6は、中心面に対して基板Pの搬送方向の下流側(+X方向側)の基板Pの被照射面上に位置し、且つ、Y方向に沿って所定の間隔だけ離して1列に配置されている。そのため、複数の描画ユニットUn(U1~U6)も、中心面pccを挟んで基板Pの搬送方向に2列に千鳥配列で配置され、奇数番の描画ユニットU1、U3、U5と、偶数番の描画ユニットU2、U4、U6とは、XZ平面内でみると、中心面pccに含まれるZ軸と平行な線分を中心として回転対称に設けられている。
X方向(基板Pの搬送方向、或いは副走査方向)に関しては、奇数番の描画ラインSL1、SL3、SL5と偶数番の描画ラインSL2、SL4、SL6とが互いに離間しているが、Y方向(基板Pの幅方向、主走査方向)に関しては互いの描画開始点や描画終了点がY方向に分離することなく継ぎ合わされるように設定されている。描画ラインSL1~SL6は、基板Pの幅方向、すなわち回転ドラムDRの中心軸AXoと略平行となっている。なお、描画ラインSLnをY方向に継ぎ合わせるとは、Y方向に隣り合った描画ラインSLnの各々で描画されるパターンが基板P上でY方向に継ぎ合わされるように、描画ラインSLnの端部同士のY方向の位置を隣接または一部重複させるような関係にすることを意味する。描画ラインSLnの端部同士を重複させる場合は、例えば、各描画ラインSLnの長さに対して、描画開始点、または描画終了点を含んでY方向に数%以下の範囲で重複させるとよい。
このように、複数の描画ユニットUn(U1~U6)は、全部で基板P上の露光領域(パターン形成領域)の幅方向の寸法をカバーするように、Y方向の走査領域(主走査範囲の区画)を分担している。例えば、1つの描画ユニットUnによるY方向の主走査範囲(描画ラインSLnの長さ)を30~60mm程度とすると、計6個の描画ユニットU1~U6をY方向に配置することによって、描画可能な露光領域(パターン形成領域)のY方向の幅を180~360mm程度まで広げられる。なお、各描画ラインSLn(SL1~SL6)の長さ(描画範囲の長さ)は、原則として同一とする。つまり、描画ラインSL1~SL6の各々に沿って走査されるビームLBnのスポット光の走査距離も、原則として同一とする。
本実施の形態の場合、光源装置LSからのビームLBが、数十ピコ秒以下の発光時間のパルス光である為、主走査の間に描画ラインSLn上に投射されるスポット光は、ビームLBの発振周波数Fa(例えば、400MHz)に応じて離散的になる。そのため、ビームLBの1パルス光によって投射されるスポット光と次の1パルス光によって投射されるスポット光とを、主走査方向にオーバーラップさせる必要がある。そのオーバーラップの量は、スポット光の実効的なサイズφ、スポット光の走査速度(主走査の速度)Vs、および、ビームLBの発振周波数Faによって設定される。スポット光の実効的なサイズ(直径)φは、スポット光の強度分布がガウス分布で近似される場合、スポット光のピーク強度の1/e2(または半値全幅の1/2)の強度となる幅寸法で決まる。本実施の形態では、実効的なサイズ(寸法)φに対して、スポット光がφ×1/2程度でオーバーラップするように、スポット光の走査速度Vs(ポリゴンミラーPMの回転速度)および発振周波数Faが設定される。したがって、パルス状のスポット光の主走査方向に沿った投射間隔はφ/2となる。そのため、副走査方向(描画ラインSLnと交差した方向)に関しても、描画ラインSLnに沿ったスポット光の1回の走査と、次の走査との間で、基板Pがスポット光の実効的なサイズφの略1/2の距離だけ移動するように設定することが望ましい。さらに、Y方向に隣り合う描画ラインSLnを主走査方向に継ぐ場合も、φ/2だけオーバーラップさせることが望ましい。本実施の形態では、スポット光の基板P上での実効的なサイズ(寸法)φを、描画データ上で設定される1画素の寸法(2μm×2μm角)と同程度の2~3μmとする。
各描画ユニットUn(U1~U6)は、XZ平面内でみたとき、各ビームLBnが回転ドラムDRの中心軸AXoに向かって進むように設定される。これにより、各描画ユニットUn(U1~U6)から基板Pに向かって進むビームLBnの光路(ビーム主光線)は、XZ平面において、基板Pの被照射面(厳密には接平面)の法線と平行となる。また、各描画ユニットUn(U1~U6)から描画ラインSLn(SL1~SL6)に照射されるビームLBnは、円筒面状に湾曲した基板Pの表面の描画ラインSLnでの接平面に対して、常に垂直となるように基板Pに向けて投射される。すなわち、スポット光の主走査方向に関して、基板Pに投射されるビームLBn(LB1~LB6)はテレセントリックな状態で走査される。
図1に示す描画ユニット(ビーム走査装置)Unは、同一構成となっていることから、図1中では描画ユニットU1についてのみ簡単に説明する。描画ユニットU1の詳細構成は後で図2にて説明する。描画ユニットU1は、反射ミラーM20~M24、ポリゴンミラーPM、および、fθレンズ系(描画用走査レンズ)FTを少なくとも備えている。図1では図示していないが、ビームLB1の進行方向からみてポリゴンミラーPMの手前と、fθレンズ系(f-θレンズ系)FTの後方の各々にはシリンドリカルレンズが設けられ、ポリゴンミラーPMの各反射面RPの倒れ誤差によるスポット光(描画ラインSL1)の副走査方向への位置変動が補正される。
選択ミラーIM1で-Z方向に反射されたビームLB1は、描画ユニットU1内に設けられる反射ミラーM20に入射し、反射ミラーM20で反射したビームLB1は、-X方向に進んで反射ミラーM21に入射する。反射ミラーM21で-Z方向に反射したビームLB1は、反射ミラーM22に入射し、反射ミラーM22で反射したビームLB1は、+X方向に進んで反射ミラーM23に入射する。反射ミラーM23は、入射したビームLB1がポリゴンミラーPMの反射面RPに向かうように、XY平面と平行な面内でビームLB1を折り曲げる。
ポリゴンミラーPMは、入射したビームLB1を、fθレンズ系FTに向けて+X方向側に反射する。ポリゴンミラーPMは、ビームLB1のスポット光を基板Pの被照射面上で走査するために、入射したビームLB1をXY平面と平行な面内で1次元に偏向(反射)する。具体的には、ポリゴンミラー(回転多面鏡、走査部材)PMは、Z軸方向に延びる回転軸AXpと、回転軸AXpの周りに回転軸AXpと平行に形成された複数の反射面RP(本実施の形態では反射面RPの数Npを8とする)とを有する回転多面鏡である。回転軸AXpを中心にこのポリゴンミラーPMを所定の回転方向に回転させることで反射面に照射されるパルス状のビームLB1の反射角を連続的に変化させることができる。これにより、1つの反射面RPによってビームLB1が偏向され、基板Pの被照射面上に照射されるビームLB1のスポット光を主走査方向(基板Pの幅方向、Y方向)に沿って走査することができる。このため、ポリゴンミラーPMの1回転で、基板Pの被照射面上の描画ラインSL1に沿ったスポット光の走査回数は、最大で反射面RPの数と同じ8回となる。ポリゴンミラーPMの反射面を1面飛ばしで使った場合は、ポリゴンミラーPMの1回転で基板Pの被照射面上にスポット光が走査される回数は4回になる。
fθレンズ系(走査系レンズ、走査用光学系)FTは、ポリゴンミラーPMによって反射されたビームLB1を、反射ミラーM24に投射するテレセントリック系のスキャンレンズである。fθレンズ系FTを透過したビームLB1は、反射ミラーM24(及びシリンドリカルレンズ)を介してスポット光となって基板P上に集光される。このとき、反射ミラーM24は、XZ平面に関して、ビームLB1が回転ドラムDRの中心軸AXoに向かって進むように、ビームLB1を基板Pに向けて反射する。ビームLB1のfθレンズ系FTへの入射角θ(fθレンズ系FTの光軸からの偏角)は、ポリゴンミラーPMの回転角(θ/2)に応じて変わる。fθレンズ系FTは、反射ミラーM24を介して、その入射角θに比例した基板Pの被照射面上の像高位置にビームLB1を投射する。fθレンズ系FTの焦点距離をfoとし、像高位置をyoとすると、fθレンズ系FTは、yo=fo×θ、の関係(歪曲収差)を満たすように設計されている。したがって、このfθレンズ系FTによって、ビームLB1をY方向に正確に等速で走査することが可能になる。なお、fθレンズ系FTに入射するビームLB1がポリゴンミラーPMによって1次元に偏向される面(XY面と平行)は、fθレンズ系FTの光軸を含む面とする。
〔描画ユニットUnの光学構成〕
次に、図2を参照して描画ユニットUn(U1~U6)の光学的な構成について説明するが、ここでは、奇数番の描画ユニットU1、U3、U5を想定して構成を説明する。図2に示すように、描画ユニットUn内には、ビームLBnの入射位置から被照射面(基板P)までのビームLBnの進行方向に沿って、反射ミラーM20、レンズ系Gu1、石英による平行平板HVP、レンズ系Gu2、反射ミラーM20a、偏光ビームスプリッタBS1、開口絞りNPA、反射ミラーM21、第1のシリンドリカルレンズCYa、反射ミラーM22、レンズ系Gu3、反射ミラーM23、ポリゴンミラーPM、fθレンズ系FT、反射ミラーM24、及び第2のシリンドリカルレンズCYbが、ユニットフレーム内に一体となるように設けられる。ユニットフレームは装置本体から単独に取り外せるように構成される。反射ミラーM20で-X方向に反射されて反射ミラーM20aに向かうビームLBnの光路中の2つのレンズ系Gu1、Gu2は、入射してくるビームLBn(直径が1mm以下)の断面の直径を数mm(一例としては8mm)程度に拡大した平行光束に変換するビームエキスパンダ系として構成される。ビームエキスパンダ系で拡大されたビームLBnは、反射ミラーM20aで-Y方向に反射された後、偏光ビームスプリッタBS1に入射する。ビームLBnは、偏光ビームスプリッタBS1で-X方向に効率的に反射されるような直線偏光に設定されている。なお、偏光ビームスプリッタBS1の開口絞りNPA側の面には1/4波長板が設けられている。
偏光ビームスプリッタBS1で反射されたビームLBn(円偏光)は、円形開口を有する開口絞りNPAによって、ビームLB1の強度プロファイル上の周辺部(例えば裾野の1/e2以下の強度部分)がカットされる。開口絞りNPAを透過して反射ミラーM21で-Z方向に反射されたビームLBnは、第1のシリンドリカルレンズCYaに入射する。さらに、描画ユニットUn内には、描画ユニットUnの描画開始可能タイミング(スポット光SPの走査開始タイミング)を検出するために、ポリゴンミラーPMの各反射面RPの角度位置を検知する原点センサ(原点検出器)としてのビーム送光系60aとビーム受光系60bとが設けられる。また、描画ユニットUn内には、基板Pの被照射面(または回転ドラムDRの表面)で反射したビームLBnの反射光を、fθレンズ系FT、ポリゴンミラーPM、および、偏光ビームスプリッタBS1等を介して検出するためのレンズ系Gu4と光検出器(光電センサ)DToが設けられる。光電センサDToとしては、PINフォトダイオード、アバランシェ・フォトダイオード(APD)、金属-半導体-金属(MSM)フォトダイオード等が利用できる。
描画ユニットUnに入射したビームLBnは、Z軸と平行な軸線Leに沿って-Z方向に進み、XY平面に対して45°傾いた反射ミラーM20に入射する。反射ミラーM20で反射したビームLBnは、反射ミラーM20からレンズ系Gu1、平行平板HVP、レンズ系Gu2を通って-X方向に離れた反射ミラーM20aに向けて平行光束となって進む。反射ミラーM20aは、YZ平面に対して45°傾いて配置され、入射したビームLBnを偏光ビームスプリッタBS1に向けて-Y方向に反射する。偏光ビームスプリッタBS1の偏光分離面はYZ平面に対して45°傾いて配置され、P偏光のビームを反射し、P偏光と直交する方向に偏光した直線偏光(S偏光)のビームを透過する。描画ユニットUnに入射するビームLBnをP偏光のビームとすると、偏光ビームスプリッタBS1は、反射ミラーM20aからのビームLBnを-X方向に反射させて開口絞りNPAを介して反射ミラーM21側に導く。反射ミラーM21はXY平面に対して45°傾いて配置され、入射したビームLBnを第1のシリンドリカルレンズCYaを通すように反射ミラーM22に向けて-Z方向に反射する。反射ミラーM22は、XY平面に対して45°傾いて配置され、レンズ系Gu3を通るように、入射したビームLBnを反射ミラーM23に向けて+X方向に反射する。反射ミラーM23は、入射したビームLB1をポリゴンミラーPMに向けて反射する。
第1のシリンドリカルレンズCYaは、図2中ではY方向(主走査方向)にビームLBnを収斂する屈折力を有し、X方向(副走査方向)には屈折力を有しないように、母線方向が設定される非等方性の屈折光学素子である。従って、シリンドリカルレンズCYaを通った後のビームLBnは、結果的に、主走査方向(ポリゴンミラーPMによるビームの偏向方向)に関しては収斂ビームとなり、副走査方向(ポリゴンミラーPMの回転軸AXpの方向)に関しては平行ビームとなる。さらに、シリンドリカルレンズCYaを通ったビームLBnをレンズ系Gu3(集光レンズ)に通すことにより、ポリゴンミラーPMの反射面RP上に照射されるビームLBnは、主走査方向(ポリゴンミラーPMによるビームの偏向方向)に関しては平行状態となり、副走査方向(ポリゴンミラーPMの回転軸AXpの方向)に関してはスリット状に延びて集光するような収斂状態となるように変換される。
ポリゴンミラーPMは、入射したビームLB1をX軸と平行な光軸AXfを有するfθレンズ系FTに向けて+X方向側に反射する。ポリゴンミラーPMは、ビームLB1のスポット光SPを基板Pの被照射面上で走査するために、入射したビームLB1をXY平面と平行な面内で1次元に偏向(反射)する。ポリゴンミラーPMは、Z軸方向に延びる回転軸AXpの周りに形成された複数の反射面(本実施の形態では正八角形の各辺)を有し、回転軸AXpと同軸の回転モータRMによって回転される。回転モータRMは、描画制御装置200(図6参照)によって、指定された回転速度(例えば、3万~4万rpm程度)で回転する。先に説明したように、描画ラインSLn(SL1~SL6)の実効的な長さ(例えば、50mm)は、このポリゴンミラーPMによってスポット光SPを走査することができる最大走査長(例えば、52mm)以下の長さに設定されており、初期設定(設計上)では、最大走査長の中央に描画ラインSLnの中心点(fθレンズ系FTの光軸AXfが通る点)が設定されている。
第1のシリンドリカルレンズCYaとレンズ系Gu3とによって、ビームLBnはポリゴンミラーPMの反射面上でXY平面と平行な方向に延びたスリット状(長楕円状)に収斂する。第1のシリンドリカルレンズCYa(及びレンズ系Gu3)と、後述のシリンドリカルレンズCYbとによって、ポリゴンミラーPMの反射面がZ軸(回転軸AXp)と平行な状態から傾いた場合であっても、基板Pの被照射面上に照射されるビームLB1(描画ラインSL1)の照射位置が副走査方向にずれることを抑制できる。
ビームLBnのfθレンズ系FTへの入射角θ(光軸AXfに対する角度)は、ポリゴンミラーPMの回転角(θ/2)に応じて変わる。ビームLBnのfθレンズ系FTへの入射角θが0度のとき、fθレンズ系FTに入射したビームLBnは、光軸AXf上に沿って進む。fθレンズ系FTからのビームLBnは、反射ミラーM24で-Z方向に反射され、第2のシリンドリカルレンズCYbを介して基板Pに向けて投射される。fθレンズ系FTおよび母線がY方向と平行なシリンドリカルレンズCYb、さらにはビームエキスパンダ系(レンズ系Gu1、Gu2)と開口絞りNPAの作用によって、基板P上に投射されるビームLB1は基板Pの被照射面上で直径数μm程度(例えば、2~3μm)の微小なスポット光SPに収斂される。以上のように、描画ユニットUnに入射したビームLBnは、XZ平面内でみたとき、反射ミラーM20から基板Pまでコの字状にクランクした光路に沿って折り曲げられ、-Z方向に進んで基板Pに投射される。
図2に示した軸線Leは、反射ミラーM20に入射するビームLBnの中心線を延長したものであるが、この軸線Leは、反射ミラーM24で-Z方向に折り曲げられたfθレンズ系FTの光軸AXfと同軸になるように配置される。このように配置することによって、描画ユニットUnの全体(反射ミラーM20から第2のシリンドリカルレンズCYbまでの部材を一体に保持するユニットフレーム)を軸線Leの回りに微少回転させることができ、描画ラインSLnのXY面内での微小な傾きを高精度に調整することができる。以上の描画ユニットUnは、描画ユニットU1~U6の各々について同じに構成される。これによって、6つの描画ユニットU1~U6の各々がビームLB1~LB6の各スポット光SPを主走査方向(Y方向)に一次元に走査しつつ、基板Pを長尺方向に搬送することによって、基板Pの被照射面がスポット光SPによって相対的に2次元走査され、基板P上には描画ラインSL1~SL6の各々で描画されるパターンがY方向に継ぎ合わされた状態で露光される。なお、描画ユニットUn内の反射ミラーM20~M24の各々は、描画用のビームLBnの波長(例えば、355nm)において僅かながら透過率(例えば1%以下)を有する表面反射型のレーザミラーで構成される。
一例として、描画ラインSLn(SL1~SL6)の実効的な走査長LTを50mm、スポット光SPの実効的な直径φを4μm、光源装置LSからのビームLBのパルス発光の発振周波数Faを400MHzとし、描画ラインSLn(主走査方向)に沿ってスポット光SPが直径φの1/2ずつオーバーラップするようにパルス発光させる場合、スポット光SPのパルス発光の主走査方向の間隔は基板P上で2μmとなり、これは発振周波数Faの周期Tf(=1/Fa)である2.5nS(1/400MHz)に対応する。また、この場合、描画データ上で規定される画素サイズPxyを、基板P上で4μm角に設定されるものとすると、1画素は主走査方向と副走査方向の各々に関してスポット光SPの2パルス分で露光される。したがって、スポット光SPの主走査方向の走査速度Vspと発振周波数Faは、Vsp=(φ/2)/Tf=(φ/2)・Faの関係になるように設定される。一方、走査速度Vspは、ポリゴンミラーPMの回転速度VR(rpm)と、実効的な走査長LTと、ポリゴンミラーPMの反射面の数Np(=8)と、ポリゴンミラーPMの各反射面RPによる走査効率1/αとに基づいて、以下のように定められる。
Vsp=(8・α・VR・LT)/60〔mm/秒〕 ・・・ 式1
したがって、発振周波数Fa(周期Tf)と回転速度VR(rpm)とは、以下の関係になるように設定される。
(φ/2)/Tf=(8・α・VR・LT)/60 ・・・ 式2
以上のことから、発振周波数Faを400MHz(Tf=2.5nS)、スポット光SPの直径φを4μmとしたとき、発振周波数Faから規定される走査速度Vspは、0.8μm/nS(=2μm/2.5nS)となる。この走査速度Vspに対応させるためには、走査効率1/αを0.3(α≒3.33)、走査長LTを50mmとしたとき、式2の関係から、8面のポリゴンミラーPMの回転速度VRを36000rpmに設定すればよい。また、本実施の形態では、ビームLBnの2パルス分を主走査方向と副走査方向の各々に関して、スポット光SPの直径φの1/2だけオーバーラップさせて1画素とするが、露光量(DOSE量)を高める為に、スポット光SPの直径φの2/3ずつオーバーラップさせた3パルス分、又はスポット光SPの直径φの3/4ずつオーバーラップさせた4パルス分を1画素とするように設定しても良い。従って、1画素当りのスポット光SPのパルス数をNspとすると、先の式2の関係式は、一般化して以下の式3のように表せる。
(φ/Nsp)/Tf=(Np・α・VR・LT)/60 ・・・ 式3
この式3の関係を満たすように、光源装置LSの発振周波数Fa(周期Tf)とポリゴンミラーPMの回転速度VRとの少なくとも一方が調整される。
ところで、図2に示す原点センサを構成するビーム受光系60bは、ポリゴンミラーPMの反射面RPの回転角度位置が、反射面RPによる描画用のビームLBnのスポット光SPの走査が開始可能とされる直前の所定位置(規定角度位置、原点角度位置)にきた瞬間に波形変化する原点信号(同期信号、タイミング信号とも呼ばれる)SZnを発生する。ポリゴンミラーPMは、8つの反射面RPを有するので、ビーム受光系60bは、ポリゴンミラーPMの1回転中に8回の原点信号SZn(8回の波形変化)を出力することになる。原点信号SZnは、描画制御装置200に送られ、原点信号SZnが発生してから、所定の遅延時間だけ経過した後にスポット光SPの描画ラインSLnに沿った描画が開始される。原点信号SZnは、6つの描画ユニットU1~U6の各々に設けられたビーム受光系60bから、それぞれ原点信号SZ1~SZ6として出力される。
ところで、図2中のレンズ系Gu1、Gu2によるビームエキスパンダ系の中に配置した平行平板HVPは、図2中のY軸(主走査方向)と平行な回転軸の回りに傾斜可能に構成され、その傾斜角を変えることにより、基板P上で走査されるスポット光SPの走査軌跡である描画ラインSLnを副走査方向に微少量(例えば、スポット光SPの実効的なサイズφの数倍~十数倍程度)だけシフトさせることができる。図2において、レンズ系Gu1は、入射したビームLBn(平行光束)を平行平板HVPの手前の位置でビームウェストとなるように収斂させた後、発散させた状態で平行平板HVPを通してレンズ系Gu2に入射させる。レンズ系Gu2は、発散して入射してくるビームLBnを、例えば8mm程度の直径の平行光束に変換する。偏光ビームスプリッタBS1の後に配置される開口絞りNPAは、レンズ系Gu2(ビームエクスパンダ系)の後側焦点距離の位置に配置される。さらに、開口絞りNPAは、シリンドリカルレンズCYaとレンズ系Gu3とによって、主走査方向に関してはポリゴンミラーPMの反射面RPと光学的に共役な関係に設定されている。副走査方向(ポリゴンミラーPMの回転軸AXpの方向)に関しては、開口絞りNPAとポリゴンミラーPMの反射面RPとは、シリンドリカルレンズCYaとレンズ系Gu3の合成光学系によって、瞳と像面の関係になるように設定される。すなわち、平行光束となったビームLBnが通る開口絞りNPAの位置を瞳面とすると、ポリゴンミラーPMの反射面RPは副走査方向に関してビームLBnがビームウェストとなって収斂する像面に相当する。
従って、平行平板HVPをビームエキスパンダ系(レンズ系Gu1、Gu2)の光軸に対して垂直な中立状態から所定角度だけ傾けると、レンズ系Gu2に入射するビームLBnは図2中でZ方向に平行移動し、その結果、開口絞りNPAに入射するビームLBn(平行光束)は、光軸に対してわずかに副走査方向に傾いて開口絞りNPAの円形開口を透過する。その際、開口絞りNPAがレンズ系Gu2(ビームエクスパンダ系)の後側焦点距離の位置に配置されているので、開口絞りNPA上でのビームLBnの照射位置は変位しない。光軸に対してわずかに傾いて開口絞りNPAを透過したビームLBnは、ポリゴンミラーPMの反射面RP上では副走査方向に関して収斂するが、その収斂位置は副走査方向(ポリゴンミラーPMの回転軸AXpの方向)に僅かに変位する。ポリゴンミラーPMの反射面RPと基板Pの表面とは、副走査方向に関して、fθレンズ系FTとシリンドリカルレンズCYbの合成光学系によって共役(結像)関係になっているので、平行平板HVPを中立状態から傾けると、その傾斜量に応じて基板P上に投射されるスポット光SPは副走査方向にシフトする。
〔ビーム切換部内のリレー光学系〕
図3は、選択用光学素子OSn(OS1~OS6)および選択ミラーIMn(IM1~IM6)回りの具体的な構成を示す図であるが、ここでは説明を簡単にする為、図1中に示したビーム切換部のうちで、光源装置LSからのビームLBを最後に入射する選択用光学素子OS2と、その1つ手前の選択用光学素子OS1との周りの構成を代表して示す。選択用光学素子OS1には、光源装置LSから射出されるビームLBが、例えば直径1mm以下の微小な径(第1の径)の平行光束としてブラッグ回折の条件を満たすように入射する。高周波信号(RF電力)である駆動信号DF1が入力されていない期間(駆動信号DF1がオフ)では、入射したビームLBが選択用光学素子OS1で回折されずにそのまま透過する。透過したビームLBは、その光路上に光軸AXaに沿って設けられた集光レンズGaおよびコリメートレンズGbを透過して、後段の選択用光学素子OS2に入射する。このとき選択用光学素子OS1を通って集光レンズGaおよびコリメートレンズGbを通過するビームLBは、光軸AXaと同軸になっている。集光レンズGaは、選択用光学素子OS1を透過したビームLB(平行光束)を、集光レンズGaとコリメートレンズGbとの間に位置する面Psの位置でビームウェストとなるように集光する。コリメートレンズGbは、面Psの位置から発散するビームLBを平行光束にする。コリメートレンズGbによって平行光束にされたビームLBの径は第1の径となる。
ここで、集光レンズGaの後側焦点位置とコリメートレンズGbの前側焦点位置とは、所定の許容範囲内で面Psと一致しており、集光レンズGaの前側焦点位置は選択用光学素子OS1内の回折点と所定の許容範囲内で一致するように配置され、コリメートレンズGbの後側焦点位置は選択用光学素子OS2内の回折点と所定の許容範囲内で一致するように配置される。従って、集光レンズGaとコリメートレンズGbは、選択用光学素子OS1内の回折点(ビームの偏向領域)と次段の選択用光学素子OS2内の回折点(ビームの偏向領域)とを、光学的に共役な関係にする等倍のリレー光学系(倒立の結像系)として機能する。そのため、面Psの位置にはリレー光学系(レンズGa、Gb)の瞳面が形成される。
一方、駆動信号DF1が選択用光学素子OS1に印加されるオン状態の期間では、ブラッグ回折の条件で入射したビームLBは選択用光学素子OS1によって回折されたビームLB1(1次回折光、主回折ビーム)と、回折されなかった0次のビームLB1zとに分かれる。ブラッグ回折の条件を満たすようにビームLBの選択用光学素子OS1への入射角度を設定すると、0次のビームLB1zに対して、回折角が例えば正方向の+1次回折ビームLB1のみが強く発生し、負方向の-1次回折ビーム(LB1’)や、他の2次回折ビーム等は理論上ではほとんど発生しない。その為、ブラッグ回折の条件を満たす場合、入射するビームLBの強度を100%とし、選択用光学素子OS1の透過率による低下を無視したとき、回折されたビームLB1の強度は最大で70~80%程度であり、残りの30~20%程度が0次のビームLB1zの強度となる。0次のビームLB1zは、集光レンズGaとコリメートレンズGbによるリレー光学系を通り、さらに後段の選択用光学素子OS2を透過して吸収体TRで吸収される。高周波の駆動信号DF1の周波数に応じた回折角で-Z方向に偏向された主回折ビームLB1(平行光束)は、集光レンズGaを透過して、面Ps上に設けられた選択ミラーIM1に向かう。集光レンズGaの前側焦点位置が選択用光学素子OS1内の回折点と光学的に共役であるので、集光レンズGaから選択ミラーIM1に向かうビームLB1は、光軸AXaから偏心した位置を光軸AXaと平行に進み、面Psの位置でビームウェストとなるように集光(収斂)される。そのビームウェストの位置は、描画ユニットU1を介して基板P上に投射されるスポット光SPと光学的に共役になるように設定されている。
選択ミラーIM1の反射面を面Psの位置又はその近傍を配置することによって、選択用光学素子OS1で偏向(回折)された描画用の主回折ビームLB1は、選択ミラーIM1で-Z方向に反射され、アパーチャーAP1とコリメートレンズGcを介して軸線Le(先の図2参照)に沿って描画ユニットU1に入射する。コリメートレンズGcは、集光レンズGaによって収斂/発散されたビームLB1を、コリメートレンズGcの光軸(軸線Le)と同軸の平行光束にする。コリメートレンズGcによって平行光束にされたビームLB1の径は第1の径とほぼ同じになる。集光レンズGaの後側焦点とコリメートレンズGcの前側焦点とは、所定の許容範囲内で、選択ミラーIM1の反射面またはその近傍に配置される。アパーチャーAP1は、選択ミラーIM1の反射面で反射され得る主回折ビームLB1以外の高次回折ビーム(2次光等)を遮蔽する。
以上のように、集光レンズGaの前側焦点位置と選択用光学素子OS1内の回折点とを光学的に共役し、集光レンズGaの後側焦点位置である面Psに選択ミラーIM1を配置すると、選択用光学素子OS1で回折されたビームLB1(主回折ビーム)がビームウェストとなる位置で、確実に選択(スイッチング)することができる。他の選択用光学素子OS3~OS6の間、すなわち、選択用光学素子OS5とOS6の間、選択用光学素子OS6とOS3の間、選択用光学素子OS3とOS4の間、及び選択用光学素子OS4とOS1の間においても、同様の集光レンズGaとコリメートレンズGbとで構成される等倍のリレー光学系(倒立の結像系)が設けられる。
しかしながら、選択用光学素子OS1が理想的なブラッグ回折の条件から外れた状態で動作すると、理論上は発生しない-1次回折ビームLB1’が漏れ光として発生することがある。-1次回折ビームLB1’(平行光束)は、選択用光学素子OS1において0次のビームLB1zに関して主回折ビームLB1と対称的な回折角(偏向角)で発生して集光レンズGaに入射し、面Psでビームウェストとなって収斂する。面Ps上で、-1次回折ビームLB1’の集光点は、0次のビームLB1zの集光点を挟んで主回折ビームLB1の集光点と対称に位置する。選択ミラーIM1は主回折ビームLB1のみを反射するので、他の0次のビームLB1zと-1次回折ビームLB1’は、そのままコリメートレンズGbに入射し、オフ状態となっている後段の選択用光学素子OS2に入射することになる。-1次回折ビームLB1’は選択用光学素子OS2をそのまま透過することになるが、その際の入射角度(出射角度)は選択用光学素子OS2がオン状態になったときの回折角(偏向角)と等しくなっている。そのため、選択用光学素子OS2をそのまま透過した-1次回折ビームLB1’(漏れ光、迷光)は、選択用光学素子OS2の後段の集光レンズGaで収斂されて、後段の選択ミラーIM2で反射されて、後段の描画ユニットU2に入射することになる。
従って、選択用光学素子OS1がオン状態となって描画ユニットU1がスポット光SPの走査によってパターン描画するとき、同じ描画データで強度変調された-1次回折ビームLB1’(副回折ビーム、漏れ光)が描画ユニットU2に入射して、描画ラインSL2上に本来のパターンと異なるパターン(ノイズパターン)を描画するようにスポット光SPが走査されることになる。-1次回折ビームLB1’の強度(光量)は、描画ユニットU2で走査される本来のビームLB2(+1次回折ビーム)の強度に対して低いものの、シート基板P上の感光層に対して余分の露光量が与えられる状態、すなわち、ノイズパターンによる被露光状態になり、最終的にシート基板P上に描画されるパターンの品質が大きく悪化することがある。そこで、本実施の形態では、図3に示すように、選択用光学素子OS1で発生した-1次回折ビームLB1’(ノイズ光となる副回折ビーム)の後段の選択用光学素子OS2への入射を阻止する為に、ナイフエッジ状の遮蔽板(阻止光学部材)IM1’を面Psの位置の近傍に配置する。遮蔽板IM1’は、選択ミラーIM1に対して光軸AXa(0次のビームLB1z)の周りに180°回転させて配置される。
遮蔽板IM1’は、他の選択用光学素子OS5と選択用光学素子OS6の間のリレー光学系(レンズ系Ga、Gb)中、選択用光学素子OS6と選択用光学素子OS3の間のリレー光学系(レンズ系Ga、Gb)中、選択用光学素子OS3と選択用光学素子OS4の間のリレー光学系(レンズ系Ga、Gb)中、選択用光学素子OS4と選択用光学素子OS1の間のリレー光学系(レンズ系Ga、Gb)中、及び選択用光学素子OS2の後の位置(瞳面)の各々にも、同様に遮蔽板IM5’、IM6’、IM3’、IM4’、IM2’として設けられる。なお、以下の説明では、選択用光学素子OS1~OS6からノイズ光として発生する-1次回折ビームLB1’~LB6’を総称してLBn’、遮蔽板IM1’~IM6’を総称してIMn’とする。
〔選択用光学素子(AOM)の回折動作〕
次に図4、図5を参照して、選択用光学素子OSnの回折動作について説明する。図4に示すように、選択用光学素子OSnは、入射するビームLBを回折する為の結晶体(或いは石英)AOGと、結晶体AOGの一辺に接着されて、RF電力(駆動信号DFn)によって結晶体AOG内に周期的な屈折率分布(透過型の位相回折格子)を生成させる為の超音波振動子VDとで構成される。ここで、入射するビームLBの軸線、主回折ビームLBnの軸線、及び、ノイズ光としての-1次回折ビームLBn’の軸線を含む平面内に含まれ、且つ結晶体AOG内に生成される回折格子の周期方向と直交する軸線をLgaとする。入射するビームLBの軸線と軸線Lgaとの成す角度θBを、結晶体AOGの屈折率、ビームLBの波長、振動周波数等によって決まる特定の角度にすると、ブラッグ回折の状態になって、結晶体AOGからは1つの主回折ビームLBnのみが発生する。ブラッグ回折の条件となる角度θBのことをブラッグ角とも呼ぶ。そのため、結晶体AOGは、入射面Pinと射出面Poutとが互いに平行になると共に、軸線Lgaと垂直ではなくブラッグ角θBで入射するビームLBと垂直になるように形成される。これにより、選択用光学素子OSnを透過するビームLB、又は0次のビームLBnzは、結晶体AOGによって横シフトされることなく直進する。しかしながら、結晶体AOGの温度変化、RF電力(駆動信号DFn)の周波数変化、入射するビームLBのブラッグ角θBからの僅かな角度変化、環境温度や気圧の変化等の影響により、理想的なブラッグ回折の条件から外れてくると、ノイズ光としての-1次回折ビームLBn’(副回折ビーム)が発生する。-1次回折ビームLBn’は、0次のビームLBnzに対する主回折ビームLBnの回折角+Δθdと対称な回折角-Δθdで発生する。
図5は、選択用光学素子OSn(結晶体AOG)から射出する回折光(0次光も含む)の強度配分の一例を示すグラフであり、縦軸は入射したビームLBの強度を100%としたときに射出する0次のビームLBnz、+1次回折ビーム(主回折ビーム)LBn、-1次回折ビームLBn’の強度の比率を表す。なお、ここでは2次以上の回折ビームは発生しないものとする。選択用光学素子OSnにRF電力が印加されていないオフ状態のとき、+1次回折ビームLBnと-1次回折ビームLBn’は発生せず、0次のビームLBnzのみが高い比率、例えば入射したビームLBの強度に対して、選択用光学素子OSn(結晶体AOG)の透過率η(例えば約98%)を掛けた比率で発生する。選択用光学素子OSnにRF電力が印加されたオン状態のときは、RF電力の大きさ(駆動信号DFnの振幅)に応じた効率βで、+1次回折ビームLBnが発生する。結晶体AOGの物性によっても異なるが、効率βは最大で80%程度であり、透過率η(≒0.98)を考慮する+1次回折ビームLBnの強度はビームLBの強度に対して最大で約78%(β×η)になる。従って、オン状態のときに回折されなかった0次の回折ビームLBnzの強度は、残りの約20%になる。しかしながら、ノイズ光としての-1次回折ビームLBn’が発生すると、それに伴って、+1次回折ビームLBnと0次の回折ビームLBnzの各強度の比率は理想的な状態(カタログ値)から低下する。
本実施の形態では、選択用光学素子OSnの各々に印加されるRF電力(駆動信号DFn)の周波数を規定値から変えて、選択用光学素子OSnでの主回折ビームLBnの回折角度を調整する機能を利用して、基板P上に投射されるビームLBnのスポット光SPを副走査方向に微少量(±数μm程度)だけ高速にシフトさせる。このシフト機能は、スポット光SPが基板P上を走査している間であっても、駆動信号DFnの周波数を所定範囲で変化させること、即ち駆動信号DFnを高速に周波数変調させることで実現できる。駆動信号DFnの周波数を規定値から変更した場合、選択用光学素子(AOM)OSnはブラッグ回折の条件からずれて動作することがあり、選択用光学素子OSnの回折効率の変化と共に、ノイズ光としての-1次回折ビームLBn’(副回折ビーム)の強度が大きくなることがある。ノイズ光としての-1次回折ビームLBn’は遮蔽板IMn’(阻止光学部材)によってカットされるので、後段の描画ユニットUnへの入射は阻止できるが、主回折ビームLBnの強度(光量)が変動することになる。そこで、本実施の形態では、選択用光学素子OSnに印加される駆動信号DFnの周波数変調によるスポット光SPの副走査方向(X方向)へのシフト機能(選択用光学素子OSnによるXシフト機能)を作動させる際は、併せて選択用光学素子OSnの回折効率を調整して描画用の主回折ビームLBnの強度を調整するように制御する。
〔描画制御系〕
次に、以上のような制御を行う為に、描画ユニットU1~U6の各々によるパターン描画の制御、及びスポット光SPの強度や露光量を調整する為の制御を行う描画制御系の概略構成を図6を参照して説明する。図6は、図1に示した光源装置LSからのビームLBを描画ユニットU1~U6の各々に選択的に供給するビーム切換部(選択用光学素子OS1~OS6、反射ミラーM1~M12、選択ミラーIM1~IM6、リレー光学系等を含む)の模式的な配置を示すと共に、光源装置LS、描画制御装置(描画制御部)200、及び光量計測部202の接続関係を示す。描画制御装置(描画制御部)200は、図2に示した描画ユニットU1~U6の各々のビーム受光系60bからの原点信号SZ1~SZ6を入力して、各描画ユニットUnのパターン描画のタイミングを決定すると共に、選択用光学素子OS1~OS6の各々に振幅(電力)と周波数とが調整された駆動信号DF1~DF6を出力する。図1で説明したように、光源装置LSからのビームLBは、反射ミラーM1、M2で反射されて、選択用光学素子OS5、OS6、OS3、OS4、OS1、OS2を順に通った後、図1に示した吸収体TRに入射するが、図6では、光路中の反射ミラーM1、M7、M8のみを示し、選択用光学素子OS2と吸収体TRとの間に反射ミラーM13がビーム切換部として追加される。反射ミラーM13は、選択用光学素子OS2を通って選択ミラーIM2で反射されなかった0次回折ビームを吸収体TRに向けて反射する。ビーム切換部に含まれる反射ミラーM1~M13や選択ミラーIM1~IM6は、描画ユニットUn内の反射ミラーM20~M24と同様のレーザミラーであり、ビームLBの波長(例えば、355nm)において僅かながら透過率(例えば1%以下)を有している。
図6に示すように、反射ミラーM1の裏面側には、光源装置LSから射出したビームLBの強度(光量)を検出する光電センサDTaが設けられ、反射ミラーM13の裏面側には、全ての選択用光学素子OS1~OS6がオフ状態のときに透過してくるビームLB自体、またはオン状態の選択用光学素子OSnで回折されなかったビームLBの0次回折ビームLBnzを検出する光電センサDTbが設けられる。光電センサDTa、DTbは、図2中に示した光電センサDToと同様に、PINフォトダイオード、アバランシェ・フォトダイオード(APD)、金属-半導体-金属(MSM)フォトダイオードのいずれかで構成される。光電センサDTaから出力される光電信号Saは、光源装置LSから射出されるビームLBの元の強度(光量)をモニターする為に光量計測部202に送られ、光電センサDTbから出力される光電信号Sbも、6つの選択用光学素子OS1~OS6の透過率の変動や回折効率の変動をモニターする為に光量計測部202に送られる。光電センサDToから出力される光電信号Soも、回転ドラムDRの外周面に形成された基準パターンや基板P上に形成された下地パターン、或いはアライメントマークからの反射光量を計測する為に光量計測部202に送られる。なお、図6では選択用光学素子OS4のみがオン状態になったときの様子を示し、選択用光学素子OS4で回折された光源装置LSからのビームLBの+1次回折(主回折)ビームがビームLB4として描画ユニットU4に供給される。
光源装置LSは、ビームLBを周波数Faでパルス発光させる為のクロック信号LTC(例えば、400MHz)を生成するが、そのクロック信号LTCは描画制御装置200と光量計測部202に送られる。描画制御装置200は、スポット光SPの1走査中に描画される画素数分に対応したビット数を含む描画ビット列データSDn(nは描画ユニットU1~U6のいずれかに対応した数)を光源装置LSに送出する。さらに光源装置LSと描画制御装置200とは、インターフェイスバス(シリアルバスでも良い)SJを介して、各種の制御情報(コマンドやパラメータ)をやり取りする。
〔光源装置LS〕
光源装置LSは、図7に示すようなファイバーアンプレーザ光源(光増幅器と波長変換素子によって紫外パルス光を発生するレーザ光源)とする。図7のファイバーアンプレーザ光源(LS)の構成は、例えば国際公開第2015/166910号パンフレットに詳しく開示されているので、ここでは簡単に説明する。図7において、光源装置LSは、ビームLBを周波数Faでパルス発光させる為のクロック信号LTCを生成する信号発生部120aを含む制御回路120と、クロック信号LTCに応答して赤外波長域でパルス発光する2種類の種光S1、S2を生成する種光発生部135とを含む。種光発生部135は、DFB半導体レーザ素子130、132、レンズGLa、GLb、偏光ビームスプリッタ134等を含み、DFB半導体レーザ素子130は、クロック信号LTC(例えば、400MHz)に応答してピーク強度が大きく峻鋭、若しくは尖鋭なパルス状の種光S1を発生し、DFB半導体レーザ素子132は、クロック信号LTCに応答してピーク強度が小さく緩慢(時間的にブロード)なパルス状の種光S2を発生する。種光S1と種光S2は発光タイミングが同期(一致)していると共に、ともに1パルス当たりのエネルギー(ピーク強度×発光時間)が略同一となるように設定される。さらにDFB半導体レーザ素子130が発生する種光S1の偏光状態はS偏光に設定され、DFB半導体レーザ素子132が発生する種光S2の偏光状態はP偏光に設定される。偏光ビームスプリッタ134は、DFB半導体レーザ素子130からのS偏光の種光S1を透過させて電気光学素子(ポッケルスセル、カーセル等によるEO素子)136に導くと共に、DFB半導体レーザ素子132からのP偏光の種光S2を反射させて電気光学素子136に導く。
電気光学素子136は、図6の描画制御装置200から送られてくる描画ビット列データSDnに応じて、2種類の種光S1、S2の偏光状態を駆動回路136aにより高速に切り換える。駆動回路136aに入力される描画ビット列データSDnの1画素分の論理情報がL(「0」)状態のとき、電気光学素子136は種光S1、S2の偏光状態を変えずにそのまま偏光ビームスプリッタ138に導き、描画ビット列データSDnの1画素分の論理情報がH(「1」)状態のとき、電気光学素子136は入射した種光S1、S2の偏光方向を90度回転させて偏光ビームスプリッタ138に導く。従って、電気光学素子136は、描画ビット列データSDnの画素の論理情報がH状態(「1」)のときは、S偏光の種光S1をP偏光の種光S1に変換し、P偏光の種光S2をS偏光の種光S2に変換する。偏光ビームスプリッタ138は、P偏光の光を透過してレンズGLcを介してコンバイナ144に導き、S偏光の光を反射させて吸収体140に導くものである。偏光ビームスプリッタ138を透過する種光(S1とS2のいずれか一方)を種光ビームLseとする。光ファイバー142aを通ってコンバイナ144に導かれる励起光源142からの励起光(ポンプ光、チャージ光)は、偏光ビームスプリッタ138から射出してくる種光ビームLseと合成されて、ファイバー光増幅器146に入射する。
ファイバー光増幅器146にドープされているレーザ媒質を励起光で励起することにより、ファイバー光増幅器146内を通る間に種光ビームLseが増幅される。増幅された種光ビームLseは、ファイバー光増幅器146の射出端146aから所定の発散角を伴って放射され、レンズGLdを通って第1の波長変換光学素子148に集光するように入射する。第1の波長変換光学素子148は、第2高調波発生(Second Harmonic Generation:SHG)によって、入射した種光ビームLse(波長λ)に対して、波長がλの1/2の第2高調波を生成する。種光ビームLseの第2高調波(波長λ/2)と元の種光ビームLse(波長λ)とは、レンズGLeを介して第2の波長変換光学素子150に集光するように入射する。第2の波長変換光学素子150は、第2高調波(波長λ/2)と種光ビームLse(波長λ)との和周波発生(Sum Frequency Generation:SFG)により、波長がλの1/3の第3高調波を発生する。この第3高調波が、370mm以下の波長帯域(例えば、355nm)にピーク波長を有する紫外パルス光(ビームLB)となる。第2の波長変換光学素子150から発生するビームLB(発散光束)は、レンズGLfによって、ビーム径が1mm程度の平行光束に変換されて光源装置LSから射出する。
駆動回路136aに印加される描画ビット列データSDnの1画素分の論理情報がL(「0」)の場合(当該画素を露光しない非描画状態のとき)、電気光学素子136は入射した種光S1、S2の偏光状態を変えずにそのまま偏光ビームスプリッタ138に導く。そのため、コンバイナ144に入射する種光ビームLseは種光S2由来のものとなる。ファイバー光増幅器146(或いは波長変換光学素子148、150)は、そのようなピーク強度が低く、時間的にブロードな鈍った特性の種光S2に対する増幅効率(或いは波長変換効率)が低いため、光源装置LSから射出されるP偏光のビームLBは、露光に必要なエネルギーまで増幅されないパルス光となる。このような種光S2由来で生成されるビームLBのエネルギーは極めて低く、基板Pに照射されるスポット光SPの強度は極めて低レベルとなる。このように、光源装置LSからは非描画状態のときも、微弱ではあるが紫外パルス光のビームLBが射出し続けるので、そのような非描画状態のときに射出されるビームLBを、オフ・ビーム(オフ・パルス光)とも呼ぶ。
一方、駆動回路136aに印加される描画ビット列データSDnの1画素分の論理情報がH(「1」)の場合(当該画素を露光する描画状態のとき)、電気光学素子136は入射した種光S1、S2の偏光状態を変えて偏光ビームスプリッタ138に導く。そのため、コンバイナ144に入射する種光ビームLseは種光S1由来のものとなる。種光S1由来の種光ビームLseの発光プロファイルは、ピーク強度が大きく尖鋭なので、種光ビームLseはファイバー光増幅器146(或いは波長変換光学素子148、150)によって効率的に増幅(或いは波長変換)され、光源装置LSから出力されるP偏光のビームLBは基板Pの露光に必要なエネルギーを持つ。描画状態のときに光源装置LSから出力されるビームLBは、非描画状態のときに射出されるオフ・ビーム(オフ・パルス光)と区別するために、オン・ビーム(オン・パルス光)とも呼ぶ。このように、光源装置LSとしてのファイバーアンプレーザ光源内に、2種類の種光S1、S2のいずれか一方を描画用光変調器としての電気光学素子136で選択してから光増幅することにより、ファイバーアンプレーザ光源を、描画データ(SDn)に応答して高速にバースト発光する紫外パルス光源とすることができる。
ところで、図6に示した描画制御装置200は、描画ユニットU1~U6の各々からの原点信号SZ1~SZ6を入力して、描画ユニットU1~U6の各々のポリゴンミラーPMの回転速度を一致させると共に、その回転角度位置(回転の位相)を互いに所定の関係とするようにポリゴンミラーPMの回転を同期制御する機能も備える。さらに描画制御装置200は、原点信号SZ1~SZ6に基づいて、描画ユニットU1~U6の各々のスポット光SPによる描画ラインSL1~SL6で描画すべき描画ビット列データSDnを記憶するメモリを含む。描画制御装置200には、メモリに記憶された描画ビット列データSDnの1画素分のデータ(1ビット)をビームLBの何パルス分で描画するかが予め設定されている。例えば、1画素をビームLBの2パルス(主走査方向と副走査方向との各々に2つのスポット光SP)で描画すると設定されている場合、描画ビット列データSDnのデータは、クロック信号LTCの2クロックパルス毎に1画素分(1ビット)ずつ読み出されて、図7の駆動回路136aに印加される。
〔全体的な制御系〕
図8は、図1に示した回転ドラムDRの駆動制御部210、図6に示した描画制御装置200、図7に示した光源装置LS、及び図1中の描画ユニットU1~U6(Un:ここでは代表して1つのみ示す)が連携してパターン描画を行う際の全体的な制御系を示すブロック図である。図8において、回転ドラムDRには中心軸AXoと同軸にY方向に延びたシャフトが設けられ、このシャフトはモータやサーボ回路等を含む駆動制御部210によって回転制御される。回転ドラムDRの回転角度位置(基板Pの周方向の移動位置)を計測する為に、回転ドラムDRのY方向の端部側には中心軸AXoと同軸に円盤状または円環状のスケール部材ESDが固定され、回転ドラムDRと共にXZ面内で回転する。スケール部材ESDの中心軸AXoと平行な外周面には、その周方向に沿って一定ピッチ(例えば20μm程度)で格子状の目盛が刻設されている。図8では、スケール部材ESDの直径を回転ドラムDRの外周面の直径よりも小さく示したが、スケール部材ESDの中心軸AXoからの半径と回転ドラムの外周面の半径とは等しくするのが良く、等しくできない場合でも半径の差を±10%程度の範囲内に揃えておくのが望ましい。なお、図8においても、中心軸AXoを含むYZ面と平行な面が中心面pccである。
図1に示したように、回転ドラムDRをXZ面内で見た場合(Y方向から見た場合)、奇数番の描画ユニットU1、U3、U5の各軸線Le(図2参照)と偶数番の描画ユニットU2、U4、U6の各軸線Le(図2参照)とは、中心面pccに対して一定角度、例えば10°~20°程度に設定される。但し、図8では説明を簡単にするため、奇数番の描画ユニットUnのみを図示してある。さらに、回転ドラムDRに巻き付けられて搬送される基板Pの進行方向に関して奇数番の描画ユニットUnの上流側には、基板Pに形成された十字状のアライメントマーク(或いは回転ドラムDRの外周面に形成された基準パターン)の位置を検出する為のマーク検出系としてのアライメント系AMnの複数(AM1~AM4)がY方向に並べて設けられる。アライメント系AMnは基板P上で200~500μm角程度の検出視野(検出領域)を有し、アライメント系AMnは検出領域内に現れるマークの像を高速シャッタースピードで撮像するCCD又はCMOSによる撮像素子を備える。撮像素子で撮像(キャプチャー)されたマークの像を含む画像信号は、マーク位置検出部212によって画像解析され、撮像されたマーク像の中心位置と検出領域内の基準位置(中心点)との相対的な2次元(主走査方向と副走査方向)の位置ずれ量に関する情報が生成される。
さらにスケール部材ESDの周囲には、その外周面と対向するように、目盛の移動を読み取るための少なくとも3つのエンコーダヘッド(読取ヘッド、検出ヘッド)EH1、EH2、EH3が設けられる。但し、図8ではエンコーダヘッドEH3の図示は省略した。XZ面内において、エンコーダヘッドEH1は中心軸AXoから見たときアライメント系AMnの検出領域と同じ方位となるように設定され、エンコーダヘッドEH2は中心軸AXoから見たとき奇数番の描画ユニットUnの描画位置(描画ラインSL1、SL3、SL5)と同じ方位となるように設定され、エンコーダヘッドEH3(不図示)は中心軸AXoから見たとき偶数番の描画ユニットUnの描画位置(描画ラインSL2、SL4、SL6)と同じ方位となるように設定される。エンコーダヘッドEH1、EH2(及びEH3)の各々は、スケール部材ESDの目盛の周方向の移動に応じて周期的にレベル変化すると共に90度の位相差を有する2相信号を回転位置検出部214に出力する。回転位置検出部214は、エンコーダヘッドEH1、EH2(及びEH3)の各々からの2相信号を計数するカウンタ回路を含み、目盛の移動量(位置変化)を、画素寸法又はスポット光SPの実効的な直径φの半分以下、望ましくは1/10以下のサブミクロンの分解能(例えば0.2μm)でデジタル計数した計測値(移動位置情報、計数値)を逐次生成する。ここで、スケール部材ESD、エンコーダヘッドEH1、EH2、EH3、回転位置検出部214(カウンタ回路等)はエンコーダ計測系を構成し、回転位置検出部214で生成される計測値(移動位置情報、計数値)は、基板Pの副走査方向の移動位置の変化を表すことになる。
マーク位置検出部212は、アライメント系AMnの撮像素子が検出領域内でマークの像を画像キャプチャーした瞬間に回転位置検出部214で生成される計測値(移動位置情報、計数値)をラッチして記憶する。さらにマーク位置検出部212は、画像解析によって求められるマーク像の相対的な位置ずれ量とラッチした計測値(移動位置情報、計数値)とに基づいて、基板P上のマークの位置を回転ドラムDRの回転角度位置とサブミクロンの精度で対応付けて算出した位置情報を描画制御装置200に出力する。なお、エンコーダヘッドEH1、EH2(及びEH3)の各々に対応して回転位置検出部214内に設けられるカウンタ回路は、エンコーダヘッドEH1、EH2(及びEH3)の各々がスケール部材ESDの目盛中の周方向の1ヶ所に設けられた零点マークを検出すると零リセットされる。
先の図2に示したように、描画ユニットUn内に設けられる平行平板HVPは、傾斜量を変えるピエゾモータ(PZM)、ボイスコイルモータ(VCM)等の駆動源と、平行平板HVPの中立状態からの傾斜量を計測するセンサとを含む駆動制御部216によって制御される。駆動制御部216は、描画制御装置200からの指令に基づいて、描画ユニットUnがパターン描画している間も平行平板HVPの傾斜角度位置を連続的に変化させることができる。
図6に示した描画制御装置200内には、図8に示すように、選択用素子制御部200A、ポリゴン制御部200B、描画制御部200Cが設けられる。選択用素子制御部200Aは、描画ユニットUn(U1~U6)の各々からの原点信号SZn(SZ1~SZ6)に応答して、描画ユニットUn(U1~U6)の各々に対応した選択用光学素子OSn(OS1~OS6)のいずれか1つに駆動信号DFnを印加する。選択用素子制御部200Aには、次の図9で説明するが、駆動信号DFnの振幅(RF電力)や周波数を調整する機能が設けられる。ポリゴン制御部(回転モータ制御部)200Bは、描画ユニットUnの各々のポリゴンミラーPMを回転させる回転モータRMを、回転速度3~4万rpmの間の指令された速度に対して、±数rpm以内、望ましくは±2rpm以内の精度で精密に回転制御する。ポリゴン制御部200Bによる回転モータRMの制御には、回転位置検出部214で計測される回転ドラムDRの回転角度位置(基板Pの移動位置)の情報、及び原点信号SZnの情報も使われる。描画制御部200Cは、描画ユニットUnの各々が基板P上に描画すべきパターンに対応した描画パターン情報(ビットマップデータ)を記憶するメモリ回路と、各描画ユニットUnからの原点信号SZnと回転位置検出部214で計測される回転ドラムDRの回転角度位置(基板Pの移動位置)の情報とに基づいて、対応する描画ユニットUnで描画すべき描画ビット列データSDnをメモリ回路から読み出して、クロック信号LTCに応答して光源装置LSに送るデータ送出回路等を備える。
さらに、描画制御部200Cは、マーク位置検出部212で計測されるアライメントマークの位置情報に基づいて、基板P上のパターン形成領域(すでに下地パターンが形成されている場合もある)と描画位置(描画ラインSL1~SL6の各々)との主走査方向(Y方向)と副走査方向(X方向)の各々に関する位置誤差の情報を推定演算したり、回転位置検出部214で計測される回転ドラムDRの回転角度位置の情報に基づいて、基板Pの副走査方向の移動速度の誤差や速度ムラに起因した移動位置誤差の情報を推定演算したりするプロセッサ等を備える。そのプロセッサは、推定演算したパターン形成領域の位置誤差の情報や基板Pの移動位置誤差の情報に基づいて、描画ユニットUnの各々によるパターン描画位置を調整(補正)する為の補正情報を生成する。本実施の形態において、描画制御部200Cのプロセッサで生成される補正情報には、描画ユニットUnの各々による描画ラインSLn(スポット光SP)の位置を副走査方向(X方向)にシフトさせる調整量、調整のタイミング、或いは調整の為の機構の指定等に関する情報が含まれている。本実施の形態では、描画ラインSLn(スポット光SP)の位置を副走査方向(X方向)にシフトさせる補正機構として、描画ユニットUnの各々に対応して設けられた傾斜角が調整される平行平板HVPと周波数変調される選択用光学素子OSnとのいずれか一方、又は両方が用いられる。
先に説明したように、平行平板HVPの傾斜により描画ラインSLn(スポット光SP)をX方向にシフトする機構(平行平板HVPによるXシフター機構とも呼ぶ)は、機械的な補正機構であるため、応答性は低いが比較的に大きなストローク(例えば±数十μm程度)で描画ラインSLn(スポット光SP)をシフトさせることができる。一方、選択用光学素子OSnの周波数変調により描画ラインSLn(スポット光SP)をX方向にシフトする機構(選択用光学素子OSnによるXシフター機構、或いはAOMによるXシフター機構とも呼ぶ)は、電気的な補正機構であるため、ポリゴンミラーPMの1つの反射面RP毎のビームLBnの走査タイミングに応答して、高速に描画ラインSLn(スポット光SP)をシフトさせることができるが、選択用光学素子OSnの周波数変調による主回折ビームLBnの回折角(図4に示した+Δθd)の調整範囲が狭い為に、シフト量は±数μm程度となる。
〔選択用光学素子の制御部〕
図9は、図8の選択用素子制御部200Aの具体的な回路ブロックを示し、選択用素子制御部200Aは、プロセッサを含み原点信号SZn(SZ1~SZ6)を入力すると共に、描画制御部200Cのプロセッサで生成される選択用光学素子OSnによるXシフター機構の為の補正情報を入力する制御回路部250と、駆動信号DF1~DF6を出力する6つの回路部CCB1~CCB6とで構成される。回路部CCB1~CCB6は、いずれも同じ構成であるので、代表して回路部CCB1の構成を説明する。選択用素子制御部200Aには、選択用光学素子OSnに印加される駆動信号DFnの基準周波数(中心周波数)となる基準信号RFoを発生する基準発振器260が設けられる。制御回路部250は、描画制御部200Cからの選択用光学素子OSnによるXシフター機構の為の補正情報に基づいて、駆動信号DFnの振幅(電力)の基準値からの補正量に関する補正情報ΔAC1~ΔAC6と、駆動信号DFnの基準信号RFoの中心周波数からの補正量に関する補正情報ΔFC1~ΔFC6とを生成する。さらに制御回路部250は、原点信号SZn(SZ1~SZ6)の入力に基づいて、対応する選択用光学素子OSnに印加する駆動信号DFnのオン(印加)/オフ(非印加)を制御するスイッチ信号LP1~LP6を生成する。
回路部CCB1(CCBn)は、基準発振器260からの基準信号RFoと、制御回路部250からの補正情報ΔFC1(ΔFCn)とに基づいて、駆動信号DF1(DFn)の元となる周波数変調された高周波信号を生成する周波数変調回路251と、制御回路部250からの補正情報ΔAC1(ΔACn)に基づいて、周波数変調回路251で生成された高周波信号の振幅(ゲイン)を調整する振幅調整回路252と、振幅調整された高周波信号を電力増幅した駆動信号DF1(DFn)を生成すると共に、制御回路部250からのスイッチ信号LP1(LPn)に応答して駆動信号DF1(DFn)のオン/オフを切り替える電力増幅回路253と、を備える。他の回路部CCB2~CCB6にも、同様の周波数変調回路251、振幅調整回路252、電力増幅回路253が設けられる。
AOMによる選択用光学素子OSnは、駆動信号DFnの周波数を変えることで回折角を調整できるが、ブラッグ回折の条件が変わることによる回折効率の変化により、描画用のビームLBnの強度が変化することがある。その強度変化の周波数依存性は、選択用光学素子OSnの結晶体AOGの材料によって異なる。図10は、選択用光学素子(AOM)OSnによるビーム(主回折ビーム)LBnの強度変化の周波数依存性の特性例とスポット光SPのXシフト量との関係を模式的に説明するグラフである。図10において、横軸は駆動信号DFnの周波数(MHz)を表し、縦軸は駆動信号DFnが規定周波数(中心周波数)fccのときに得られるビーム(主回折ビーム)LBnの強度を100%とした相対的な強度比(%)を表す。強度変化の周波数依存性は選択用光学素子OSnの結晶体AOGの材料によって異なるが、一例として特性Ka、特性Kbのようになる。特性Kaは、規定周波数fccに対して変化幅(変化量)Δfcだけ駆動信号DFnの周波数を変化させたとき、特性Kaの強度比の変化傾向は、特性Kbの強度比の変化傾向に比べて大きくなっている。すなわち、特性Kaは特性Kbに比べて周波数変化に対するビームLBnの強度低下が急峻で、周波数変化によるスポット光SPのシフト量を大きくできないことを意味する。また、図10では、周波数の変化幅Δfcに対するスポット光SPのシフト量ΔXsfは、異なる材料の結晶体AOG(特性Ka、Kb)であっても同一としたが、実際は結晶体AOG内での超音波の進行速度の違いによって異なる。
図10の特性Ka、Kbでは、駆動信号DFnの周波数の変化幅Δfcに対してスポット光SPは4μm程度だけシフトするものとし、特性Kaでは強度比が87%程度、特性Kbでは強度比が96%程度になるものとする。周波数の変化幅Δfcがさらに大きくなると、特性Kaの場合は強度比が急激に低下していく。図9中の制御回路部250は、使用する選択用光学素子OSnの図10のような特性Ka、或いは特性Kbに対応したテーブルや近似関数式を記憶し、選択用光学素子OSnによるXシフター機構によるスポット光SPの位置の補正量(シフト量)が設定されると、そのシフト量に対応した駆動信号DFnの周波数の変化量をテーブル又は近似関数式から求めて補正情報ΔFCnとして周波数変調回路251に出力する。併せて、制御回路部250は、その補正情報ΔFCn(周波数の変化幅)に対応した強度比を特性Ka、又はKbのテーブル又は近似関数式から求め、低下した強度比を元の状態に戻すような駆動信号DFnの振幅の補正情報ΔACnを振幅調整回路252に出力する。補正情報ΔFCn、ΔACnは、ポリゴンミラーPMが1回転する間に8回発生するパルス状の原点信号SZnの間のタイミング(1面飛ばしの場合は1つおきの4回)で更新されて制御回路部250から出力される。従って、電力増幅回路253から選択用光学素子OSnに印加される駆動信号DFnは、原点信号SZnの1パルスの発生後のパターン描画の直前に、スポット光SPの副走査方向への指定されたシフト量に対応した周波数に補正されると共に、周波数変化による強度比の低減が補正されるような振幅に調整される。なお、制御回路部250で生成される補正情報ΔACn(ΔAC1~ΔAC6)は、描画ユニットUnの各々から基板Pに投射されるビームLBnの強度(光量)を許容範囲内に揃える為にも使われる。
図11は、選択用光学素子(AOM)OSnに供給される駆動信号DFnの振幅(RF電力)と、回折効率β(入射したビームLBの強度に対する+1次回折ビームLBnの強度の比率)との関係特性の一例を示すグラフである。図11において、横軸は選択用光学素子(AOM)OSnに投入されるRF電力(駆動信号DFnの振幅)を表し、縦軸はブラッグ回折で使われる選択用光学素子OSnの+1次回折ビーム(主回折ビーム)の回折効率β(%)を表している。図11のように、回折効率βはRF電力の増加にともなって最大の回折効率βmaxに達し、それ以上にRF電力を増加させても回折効率βが減少する特性を持つ。従って、選択用光学素子OS1~OS6の各々の回折効率の調整(駆動信号DFnの振幅設定)は、最大の回折効率βmaxを考慮して行われる。図9に示した制御回路部250は、図11のような特性に基づいて、駆動信号DFnの振幅変化と、選択用光学素子OSnの回折効率βの変化(及びその回折効率βの変化から推定される+1次回折ビームとしてのビームLBnの強度変化)との相関関係を予め求めて、テーブル又は関数式で記憶している。従って、制御回路部250で生成される補正情報ΔACnは、最終的には図11のような回折効率βの特性に対応したテーブル又は関数式を参照して設定される。
図12は、以上のような補正情報ΔFCn、ΔACnの設定タイミングを模式的に示すタイムチャートである。原点信号SZnは、ポリゴンミラーPMの各反射面RPが所定角度位置になる度にパルス状に発生するが、ポリゴンミラーPMの回転速度にムラがなく一定で、ポリゴンミラーPMの形状誤差(頂角の角度ばらつき)が無いとすると、パルス状の原点信号SZnのHレベルの立上りタイミングの時間的な間隔Trpは一定となる。例えば、ポリゴンミラーPMの反射面数を8面、ポリゴンミラーPMの回転速度VRを37500rpmとすると、ポリゴンミラーPMの1回転の時間は1.60mSとなり、時間間隔Trpは0.2mS(200μS)となる。描画ユニットUnによるパターン描画時間(描画ラインSLnに沿ったスポット光SPの1回の走査時間)TSnは、走査効率1/αに応じて、TSn≦Trp/αとなる。先の図6~図8にて説明した描画ビット列データSDnは、原点信号SZnの1パルスが発生してから所定の遅延時間ΔTD後に、クロック信号LTCのクロックパルスに応答して画素毎のビットデータを光源装置LSの駆動回路136a(図7)に送出する。原点信号SZnの1パルスが発生した直後であって遅延時間ΔTDの経過前に、図9に示した選択用素子制御部200Aの制御回路部250は、選択すべき選択用光学素子OSnをオン状態に切替える為にスイッチ信号LPnをHレベルにし、描画時間TSnが経過すると直ちにスイッチ信号LPnをLレベルにする。
図12中に設定タイミングとして示すように、補正情報ΔFCn、ΔACnの更新はスイッチ信号LPnがLレベル(選択用光学素子OSnがオフ状態)の期間中に実行されるが、スイッチ信号LPnがLレベルとなる度に逐次実行する必要は無い。例えば、一定の時間インターバルや割込み処理によって補正情報ΔFCn、ΔACnが演算されたときに、制御回路部250が前回の演算結果との差分量に基づいて更新の要否を判断し、更新が必要と判断したときは、スイッチ信号LPnがLレベルとなるタイミングで補正情報ΔFCn、ΔACnの更新を実行する。補正情報ΔFCn、ΔACnの演算タイミングは、例えば、図8に示したエンコーダヘッドEH1、EH2(及びEH3)と回転位置検出部214によって計測される基板Pの位置が所定量だけ移動する毎に設定することができる。
〔AOMによるXシフター機構の動作例〕
次に、図8、図9で示した選択用光学素子OSn(AOM)によるXシフター機構を用いて、基板P上に形成された下地パターン層(ファーストレイヤ)に重ね合せ露光する際の重ね誤差を低減する動作例を、図13、図14を参照して説明する。図13は、下地パターン層を含む複数のパターン形成領域(デバイス領域)APFと、各パターン形成領域APFに対して所定の位置関係で配列されるアライメント用の複数のマークMK1~MK4とが形成された基板Pを、XY面内で平面状に展開した様子を示す。さらに図13には、そのような基板P上に設定される6つの描画ラインSL1~SL6と、アライメント顕微鏡(アライメント系)AM1~AM4の各検出領域Vw1~Vw4との各配置関係も示される。また、アライメント顕微鏡AMnの各検出領域Vwnの中心を通るY軸と平行な線分の延長上には、計測時のアッベ誤差を最小にするように、エンコーダヘッドEH1によるスケール部材ESD(図8参照)の目盛の読み取り位置が設定される。同様に、奇数番の描画ラインSL1、SL3、SL5の各々を含んでY軸と平行な線分の延長上には、計測時のアッベ誤差を最小にするように、エンコーダヘッドEH2によるスケール部材ESDの目盛の読み取り位置が設定され、偶数番の描画ラインSL2、SL4、SL6各々を含んでY軸と平行な線分の延長上には、計測時のアッベ誤差を最小にするようにエンコーダヘッドEH3によるスケール部材ESDの目盛の読み取り位置が設定される。このようなエンコーダヘッドEH1~EH3の配置は、例えば、国際公開第2013/146184号パンフレットに開示されている。
基板P上のマークMK1は、基板Pの-Y方向側の端部付近にX方向(長尺方向)に沿って一定のピッチ(例えば、5mmピッチ)で形成され、マークMK4は、基板Pの+Y方向側の端部付近にX方向(長尺方向)に沿って一定のピッチ(例えば、5mmピッチ)で形成される。マークMK1とマークMK4のX方向の位置は同一になるように形成され、マークMK1とマークMK4の間に形成されるマークMK2、MK3は、パターン形成領域APFの+X方向側(下流側)の端部付近と-X方向側(上流側)の端部付近とに、マークMK1、MK4と共にY方向に一列に並ぶように配置される。
先に説明したように、図8中の回転位置検出部214に設けられるエンコーダヘッドEH1~EH3の各々に対応したカウンタ回路は、エンコーダヘッドEH1~EH3の各々がスケール部材ESDの目盛の周方向の1ヶ所に設けられた零点マークを検出すると零リセットされる。そこで、基板P上のパターン形成領域APFの+X方向側(下流側)の端部近傍に形成されたマークMK1~MK4が、それぞれアライメント顕微鏡AM1~AM4の各検出領域Vw1~Vw4で検出されたときにエンコーダヘッドEH1で計測されるスケール部材ESDの目盛位置(カウンタ回路の計数値)を描画開始位置として記憶し、その描画開始位置を基準に描画ユニットU1~U6の各々のパターン描画動作を制御する。具体的には、エンコーダヘッドEH2で計測されるスケール部材ESDの目盛位置(カウンタ回路の計数値)が記憶された描画開始位置になったら、奇数番の描画ユニットU1、U3、U5によるパターン描画(重ね合せ露光)を開始し、エンコーダヘッドEH3で計測されるスケール部材ESDの目盛位置(カウンタ回路の計数値)が記憶された描画開始位置になったら、偶数番の描画ユニットU2、U4、U6によるパターン描画(重ね合せ露光)を開始する。こうしてパターン形成領域APFに対するパターン描画が開始されると、本実施の形態によるパターン描画装置では、図8に示した描画制御部200Cによって、パターン形成領域APFのY方向の両側の各々に配置されたマークMK1、MK4のアライメント顕微鏡AM1、AM4の各々による位置検出結果と、エンコーダヘッドEH1による計測値とに基づいて、基板Pの2次元的な位置誤差(重ね合せ誤差)が、描画ラインSL1~SL6でのパターン描画の直前に逐次推定演算される。ここで、基板Pがパターン形成領域APFを含む範囲でX方向(副走査方向、長尺方向)のみに部分的に微少伸縮して重ね合せ精度を悪化させ得る場合に、AOMによるXシフター機構を使って重ね合せ誤差を低減する動作を、図14のチャート(グラフ)図を参照して説明する。
本実施の形態では、基板Pは長尺方向に一定のテンション(張力)を与えられた状態で回転ドラムDRの外周面に密着して支持されるが、その張力の大きさ(N/m)や張力変動によって、基板Pは多かれ少なかれ伸縮を伴って回転ドラムDRに支持される。さらに、下地パターン層を形成する際の熱処理や湿式処理によっても、基板Pに部分的な伸縮が発生することがある。図14では、回転ドラムDRで支持される基板PにX方向に±数μm程度の伸縮が発生しているものとする。図14の横軸は、エンコーダヘッドEH1で計測されるスケール部材ESDの目盛の移動位置であるエンコーダ計測位置(すなわち、基板Pの移動位置)と、X方向に所定ピッチで形成された複数のマークMK1(MK1a~MK1j)の各位置との関係を表す。図14の縦軸は、エンコーダ計測位置を基準として計測されるX方向の重ね合せ誤差量ΔXer(μm)と、AOMによるXシフター機構によるスポット光SPを重ね合せ誤差量ΔXerに応じてX方向(副走査方向)にシフト補正する為の駆動信号DFnの周波数補正量±Δfcとを表す。また、エンコーダ計測位置の位置PXa、PXb、・・・、PXjの各々は、マークMK1のX方向の設計上の間隔(ピッチ)に対応した位置を表し、位置PXaは、パターン形成領域APFの描画開始側の端部に形成されたマークMK1a(先頭のマーク)のアライメント顕微鏡AM1による検出位置と合致させるものとする。従って、基板PのX方向の伸縮が無視できる程度に小さければ、マークMK1aからX方向に並ぶマークMK1b、MK1c、・・・、MK1jの各々は、エンコーダ計測位置PXb、PXc、・・・、PXjの各々に正確に位置付けられる。
しかしながら、基板PのX方向の伸縮により、図14のように、エンコーダ計測位置PXb、PXc、・・・、PXjの各々に対して、マークMK1b、MK1c、・・・、MK1jの各々は、部分的にX方向に微小にずれて位置する。その位置ずれがX方向に関する重ね合せ誤差量ΔXerの特性FPXとして、アライメント顕微鏡AM1による各マークMK1a~MK1jの検出位置と、エンコーダヘッドEH1により計測される基板Pの移動位置(エンコーダ計測位置)とに基づいて順次計測される。図14において、先頭(1番目)のマークMK1aから7番目に位置するマークMK1gは、エンコーダ計測位置PXgとほぼ一致して位置するが、先頭のマークMK1aから4番目のマークMK1dまでは、対応するエンコーダ計測位置PXb、PXc、PXdの各々に対するマークMK1b、MK1c、MK1dの各位置ずれが-X方向に発生し、その位置ずれ量が漸次増大する傾向で生じている。そして、4番目のマークMK1dから7番目のマークMK1gまでは、対応するエンコーダ計測位置PXd、PXe、PXfの各々に対するマークMK1d、MK1e、MK1fの各位置ずれ量が漸次減少する傾向で生じている。さらに、8番目のマークMK1hから10番目のマークMK1jまでは、対応するエンコーダ計測位置PXh、PXi、PXjの各々に対するマークMK1h、MK1i、MK1jの各位置ずれが+X方向に発生し、その位置ずれ量が漸次増大する傾向で生じている。
以上のような傾向を示した場合、基板Pは、先頭のマークMK1aの位置(パターン形成領域APFの描画先頭位置の近傍)からマークMK1dの位置までの間でX方向に微小な比率で縮んでいることになり、マークMK1dの位置からマークMK1jの位置までの間でX方向に微小な比率で伸びていることになる。この場合、先頭のマークMK1aの検出位置、すなわちエンコーダ計測位置PXaをスタート基準にして、エンコーダ計測位置のみに基づいて重ね合せパターンの描画(セカンド露光)を行うと、基板P上の下地パターン層に対して、重ね合せ露光されるパターンは、特性FPXで示したように位置PXg(マークMK1g)までは+X方向に位置ずれした状態となり、位置PXg以降は-X方向に位置ずれした状態となる。その位置ずれ量が重ね合せ誤差量ΔXerであり、図14の例では、位置PXa~PXjの間で±4μm程度の幅で重ね合せ誤差量ΔXerが発生してしまう。
そこで本実施の形態では、図13に示したように、奇数番の描画ラインSL1、SL3、SL5のX方向の位置、或いは偶数番の描画ラインSL2、SL4、SL6のX方向の位置に、パターン形成領域APFのX方向の端部(描画開始端)が達するまでに、先頭のマークMK1a(及び、マークMK1aに対応して基板Pの幅方向の反対側に形成されたマークMK4a)から数えて、2番目~3番目のマークMK1b(MK4b)~MK1c(MK4c)、好ましくはそれ以上の番目のマークMK1(MK4)をアライメント顕微鏡AM1(AM4)で順次検出し、各マークMK1(MK4)のX方向の配列誤差(ピッチ誤差)に基づいて特性FPXを推定する。すなわち、図8に示した描画制御装置200内の描画制御部200Cは、基板P上のパターン形成領域APFの描画開始端が、奇数番の描画ラインSL1、SL3、SL5の位置、或いは偶数番の描画ラインSL2、SL4、SL6の位置に達する前に、X方向に並ぶ複数のマークMK1(MK4)の位置を順次先読み計測し、その計測結果に基づいて特性FPXの部分的な傾向を順次、推定演算する。例えば、奇数番の描画ラインSLn、或いは偶数番の描画ラインSLnのそれぞれによるパターン描画が開始される前に、先頭のマークMK1a(MK4a)から4番目のマークMK1d(MK4d)までの4つのマークMK1(MK4)が先読み計測可能な場合、描画制御部200Cは、基板PのX方向の移動に伴って、順次、n番目から(n+3)番目の4つのマークMK1(MK4)の各計測位置に基づいて、その4つのマークMK1(MK4)が存在する基板PのX方向の区間に関する特性FPXを逐次推定演算する。
特性FPXが、例えば、先頭の1番目のマークMK1a(位置PXa)から4番目のマークMK1d(位置PXd)の間の区間について推定演算された直後に、パターン形成領域APFの描画開始端が奇数番の描画ラインSL1、SL3、SL5に達する。その際、先頭のマークMK1aから2番目のマークMK1bまでの区間における重ね合せ誤差量ΔXerの変化傾向(変化量)は、特性FPXとして既に特定されているので、図8に示した描画制御装置200内の選択用素子制御部200A(詳しくは図9の制御回路部250)は、マークMK1a~MK1bの区間における重ね合せ誤差量ΔXerの変化に対応した補正情報ΔFCnを、先の図10で説明した特性Ka又はKbに基づいて生成し、周波数変調回路251に印加する。この場合、補正情報ΔFCnは、エンコーダ計測位置が位置PXa~PXbに変化していくのに同期して、基準発振器260からの基準信号RFoの周波数変調度(周波数補正量Δfc)を、重ね合せ誤差量ΔXerの変化が相殺されるような連続的な関数、又は離散的な関数(ステップ関数)として生成される。図14に示した特性FFCは、生成される補正情報ΔFCnの一例を表し、ここでは、エンコーダ計測により特定される位置PXa~PXjの各々の間での周波数補正量Δfcを直線近似するものとする。
以上のような制御により、基板P上のパターン形成領域APFに対するパターン描画(重ね合せ露光)の際に、描画ユニットUnの各々から投射されるスポット光SPの副走査方向に関する位置が、基板Pの副走査方向(X方向)の移動に同期して、先読みされたマークMK1(MK4)のX方向の検出位置に基づいて事前に推定演算された重ね合せ誤差量ΔXerを抑制(又は相殺)するようにX方向に逐次微少シフトされる。その為、パターン形成領域APFに既に形成されている下地パターン層に新たなパターン(セカンドパターン)を重ね合せ露光する際の重ね合せ精度は、基板Pが一様に伸縮したり、部分的に伸縮したりしていても、飛躍的に向上する。このような高精度化によって、薄膜トランジスタ等のミクロンオーダーの微細な電子デバイスを、変形し易いフレキシブルな基板P上に直接形成することが可能となる。
さらに本実施の形態では、図14の特性FFCのように、選択用光学素子OSnの駆動信号DFnの周波数を変調させた際に生じ得る選択用光学素子OSnの効率変化に起因した描画用のビームLBnの強度変化を補正する補正情報ΔACnを、図9の制御回路部250で生成して、最終的に基板P上に投射されるスポット光SPの強度が、6つの描画ユニットUn間で許容範囲内に揃うように制御される。具体的には、図14のようにして求められる特性FFCに基づいて設定される周波数変調度(周波数補正量Δfc)に応じた描画用のビームLBnの強度比(減衰率)を、図10に示した特性Ka又はKbから求め、その減衰量(効率の低下分)を補う為に必要な駆動信号DFnの振幅(RF電力)の補正量を、先の図11に例示した回折効率βの特性から求める。このような処理は、図9の制御回路部250によって実行され、求められた駆動信号DFnの振幅(RF電力)の補正量が補正情報ΔACnとして生成される。補正情報ΔACnは、AOMによるXシフター機構を作動させる為の補正情報ΔFCn(図14の周波数補正量の特性)と同様に、振幅(RF電力)を連続的、又はステップ状に変える関数で生成され、補正情報ΔFCnと同じタイミングで、図9の振幅調整回路252に印加される。
以上、本実施の形態によれば、AOM(選択用光学素子OSn)によるXシフター機構を用いることにより、基板Pの伸縮等によって生じる重ね合せ誤差が飛躍的に低減され、重ね合せ精度を高めることができる。さらに、主走査方向(Y方向)に隣接する描画ユニットUnの各々で描画されたパターン同士の継ぎ精度(特にX方向の継ぎ精度)は、従来の特開2008-200964号公報のように複数のポリゴンミラー間での反射面の組み合わせ(回転方向の角度位相)を調整するといった手間のかかる方法を用いなくても向上させることができる。2つの描画ユニットUn間で定常的な継ぎ誤差(ポリゴンミラーPMの反射面毎)が生じている場合、2つの描画ユニットUnの少なくとも一方のAOM(選択用光学素子OSn)によるXシフター機構に、その継ぎ誤差量に応じたオフセット値を補正情報ΔFCnに加えるだけで、容易に継ぎ精度を向上させることができる。併せて、Xシフター機構を作動させた際に生じ得る描画用のビームLBnの強度変化(露光量誤差)をも同時に補正することができる。その為、描画ユニットUnの各々で描画される最小線幅のパターンの寸法バラツキを小さくすることができる。
ここで図15、図16を用いて、AOM(選択用光学素子OSn)によるXシフター機構を動作させたときの描画用のビームLBn(スポット光SP)のシフトの様子を説明する。図15は図3に示した選択用光学素子OS1(OSn)の後の選択ミラー(分岐反射鏡)IM1でのビーム選択とビームシフトの様子を説明する図、図16は図2に示したポリゴンミラーPMの反射面RPから基板Pまでのビームの振る舞いを説明する図である。
図3で説明したように、選択ミラーIM1(IMn)は、リレー光学系(レンズGa、Gb)の間の面Ps(瞳面)の近傍に配置される。選択用光学素子OS1の偏向位置と面Psとは、リレー光学系のレンズGaによって瞳位置と像面の関係になっている。そのため、レンズGaから選択ミラーIM1の反射面(XY面に対して45°)に向かう描画用のビームLB1の中心軸(主光線)は、選択用光学素子OS1の駆動信号DF1が規定周波数fcc(図14)のときに、レンズGa(リレー光学系)の光軸AXaと同軸に進む0次のビームLB1zの主光線と平行で、光軸AXaから-Z方向にΔSF0だけシフトしている。その場合、選択ミラーIM1の反射面で-Z方向に反射したビームLB1は、レンズGcの光軸AX1と同軸に進み、レンズGcによって発散光束から平行光束に変換され、図2に示した描画ユニットU1(Un)のミラーM20に向かう。その状態から、選択用光学素子OS1の駆動信号DF1の周波数を規定周波数fccから+Δfcだけ高くしたとすると、選択用光学素子OS1から射出するビームLB1の回折角+Δθd(図4参照)が規定角度から増加し、選択ミラーIM1に達するビームLB1は、光軸AXaから-Z方向にΔSF1だけ平行シフトした中心軸AX1’に沿って進むビームLB1’となる。このように、駆動信号DF1の周波数の変化量Δfcに応じて、選択ミラーIM1に向かうビームLB1’の中心軸AX1’は、規定位置(光軸AX1の位置)から変位量ΔSF1-ΔSF0だけZ方向に横シフト(平行移動)する。
選択ミラーIM1の反射面で-Z方向に反射されてレンズGcに向かうビームLB1’の中心軸AX1’は、レンズGcの光軸AX1と平行であり、選択ミラーIM1の反射面(面Ps)がレンズGcの前側焦点位置の近傍に設定されているので、レンズGcから射出したビームLB1’は、光軸AX1に対してXZ面内で僅かに傾いた平行光束に変換される。本実施の形態では、面Psが描画ユニットU1(Un)を介して最終的に基板Pの表面と共役に設定されているので、基板P上に集光されるスポット光SPも、変位量ΔSF1-ΔSF0に比例した微少量だけ規定位置(初期位置)から副走査方向(X方向)にシフトされる。
図16は、描画ユニットU1(Un)内の回転軸AXp回りに回転するポリゴンミラーPMの1つの反射面RPから基板Pまでの光路を展開してY方向(主走査方向)から見た図であり、判り易くする為、反射面RPの回転軸AXp方向の寸法やビームLB1のシフトの様子を誇張して示す。選択用光学素子OS1によって規定の回折角で偏向されたビームLB1は、XY面と平行な面内でポリゴンミラーPMの反射面RPに入射して反射される。反射面RPに入射するビームLB1は、XZ面内では図2に示した第1のシリンドリカルレンズCYaとレンズ系Gu3の合成光学系により反射面RP上でZ方向に収斂される。反射面RPで反射したビームLB1は、fθレンズ系FTの光軸AXfを含むXY面と平行な面内で、ポリゴンミラーPMの回転速度に応じて高速に偏向され、fθレンズ系FTと第2のシリンドリカルレンズCYbとを介して、基板P上にスポット光SPとして集光される。スポット光SPは図16では紙面と垂直な方向に1次元走査される。
一方、図15のように、選択ミラーIM1の反射面でビームLB1に対して変位量ΔSF1-ΔSF0だけ横シフトしたビームLB1’は、ポリゴンミラーPMの反射面RP上のビームLB1の照射位置に対して僅かにZ方向(副走査方向)にずれた位置に入射する。それによって、反射面RPで反射したビームLB1’の光路は、XZ面内ではビームLB1の光路と僅かにずれた状態で、fθレンズ系FTと第2のシリンドリカルレンズCYbとを通って、基板P上にスポット光SP’として集光される。ポリゴンミラーPMの反射面RPは、光学的にはfθレンズ系FTの瞳面に配置されるが、2つのシリンドリカルレンズCYa、CYbによる面倒れ補正の作用によって、図16のXZ面内では、反射面RPと基板Pの表面とは共役関係になっている。従って、ポリゴンミラーPMの反射面RP上に照射されるビームLB1がビームLB1’のようにZ方向に僅かにシフトすると、基板P上のスポット光SPもスポット光SP’のように副走査方向にΔSFpだけシフトする。なお、図15で説明したように、選択ミラーIM1の反射面で反射した直後のビームLB1及び横シフトしたビームLB1’の各中心光線(主光線)は、いずれもレンズGcの光軸AX1と平行な関係(テレセントリックな状態)になっている。その為、図16に示したポリゴンミラーPMの反射面RP上に入射するビームLB1の中心光線と横シフトしたビームLB1’の中心光線とは、XZ面内(副走査方向)では、いずれもfθレンズ系FTの光軸AXfと平行な関係(テレセントリックな状態)になる。さらに副走査方向に関しては、反射面RPと基板Pの表面とが共役関係になっているので、シリンドリカルレンズCYbから基板Pの表面に向かうビームLB1の中心光線と横シフトしたビームLB1’の中心光線は、XZ面内(副走査方向)では、いずれもfθレンズ系FTの光軸AXfと平行な関係(テレセントリックな状態)になる。
以上のように、選択用光学素子OS1の駆動信号DF1の周波数を規定周波数fccから±Δfcだけ変化させることにより、スポット光SPを副走査方向に±ΔSFpだけシフトさせることができる。そのシフト量(|ΔSFp|)は、選択用光学素子OS1自体の偏向角(回折角Δθd)の最大範囲、選択ミラーIM1の反射面の大きさ、描画ユニットU1内のポリゴンミラーPMまでの光学系(リレー系)の倍率、ポリゴンミラーPMの反射面のZ方向(副走査方向)の寸法、ポリゴンミラーPMから基板Pまでの倍率(fθレンズ系FTの倍率)等による制限を受けるが、スポット光SPの基板P上の実効的なサイズ(径)の数倍程度(或いは描画データ上で定義される画素寸法Pxyの数倍程度)の範囲に設定される。なお、以上では選択用光学素子OS1および描画ユニットU1に関して説明したが、他の選択用光学素子OS2~OS6、および描画ユニットU2~U6に関しても、図15、図16と同様に構成される。
このように、本実施の形態では、選択用光学素子OSn(OS1~OS6)を、スイッチ信号LPn(LP1~LP6)に応答したビームのスイッチング機能と、補正情報ΔFCn(ΔFC1~ΔFC6)に応答したスポット光SPのシフト機能とのために兼用できるので、各描画ユニットUn(U1~U6)にビームを供給するビーム送光系の構成が簡単になる。さらに、描画ユニットUn毎にビーム選択用とスポット光SPのシフト用の音響光学変調素子(AOMやAOD)を別々に設ける場合に比べて、発熱源を減らすことができ、パターン描画装置(露光装置)EXの温度安定性を高めることができる。特に、音響光学変調素子を駆動するドライブ回路は、駆動信号DFnが80~200MHz程度の高周波であるため、信号ケーブルを短くする必要性から、音響光学変調素子の近くに配置される。しかしながらドライブ回路は大きな発熱源となる。ドライブ回路を冷却する機構を設けても、その数が多いと装置内の温度が短時間で上昇し易くなり、光学系(レンズやミラー)の温度変化による変動で、描画精度が低下する可能性がある。そのため、熱源となるドライブ回路、および音響光学変調素子は少ない方が望ましい。また、選択用光学素子OSn(OS1~OS6)の各々が、温度変化の影響を受けて、1次回折光として偏向されるビームLBnの回折角を変動させる場合、本実施の形態では、図9に示した補正情報ΔFCn(ΔFC1~ΔFC6)の値を、温度センサにより計測した温度変化に基づいて調整するようなフィードバック制御系を設けることにより、回折角の変動による影響を容易に相殺することもできる。
本実施の形態の選択用光学素子OSnによるビームシフト機能は、複数の描画ユニットUnの各々からのビームLBnのスポット光SPnによる描画ラインSLnの位置を、高速に副走査方向に微調整できる。そのため、隣接する描画ユニットUn(ユニットフレーム)の各々を、図2に示した軸線Leの回りに微少回転させて各描画ラインSLnの傾きを調整した後、描画ラインSLnを副走査方向にシフトさせることによって、重ね合わせの精度を高めるとともに、各描画ラインSLnの端部におけるパターン描画時の継ぎの精度を高めることも可能となる。
[第2の実施の形態]
AOM(選択用光学素子OSn)によるXシフター機構によって、描画ユニットUnの各々から投射されるビームLBnのスポット光SPによる走査軌跡(描画ラインSLn)をX方向(副走査方向)にシフトさせる補正機構は、基板PのX方向の伸縮量が比較的に小さい範囲(例えば、±数μm以内)の場合には良好に機能する。しかしながら、基板Pの部分的な伸縮(ローカルな伸縮)がそれ以上になった場合は、選択用光学素子OSnに印加される駆動信号DFnの周波数が規定周波数fccから大きくずれることになり、図10の特性Ka、Kbのように強度比(回折効率β)が急激に低下する。そこで、基板PのX方向の移動に伴って、パターン形成領域APFに付随したマークMK1(MK4)の各位置を順次計測して基板PのX方向の区間に関する特性FPXを逐次推定演算していく過程で、描画直前までに計測された特性FPX(X方向の重ね合せ誤差量)の結果が、AOM(選択用光学素子OSn)によるXシフター機構によるシフト補正可能な範囲を超えるほど大きく変化する傾向を示した場合、或いは、既に露光処理された先行のパターン形成領域APFでの特性FPXから伸縮が大きいことが判明している場合、図8の描画制御装置200は、図2又は図8に示した機械光学的なXシフター機構としての平行平板HVPによるシフト機能を単独使用、又は選択用光学素子OSnによる電気光学的なXシフター機構と併用するように制御を切り換える。
平行平板HVPによるシフト機能を単独に使用する場合は、パターン形成領域APFに付随したマークMK1~MK4の各位置を順次計測して、図14と同様に特性FPXを逐次推定演算しつつ、エンコーダ計測位置(基板PのX方向の移動位置)に応じて平行平板HVPの傾斜量を、特性FPXが補正されるように連続的又は段階的に変化させれば良い。平行平板HVPによる機械光学的なXシフター機構の応答性(追従性)は、平行平板HVPを傾斜させる駆動系のサーボ制御の応答特性に依存する。従って、機械光学的なXシフター機構の応答性によって、追従可能な特性FPX中の変化率(グラフ上の傾き)の最大値(限界値)が決まってくる。推定演算によって逐次求められる特性FPX中の変化率が、想定される限界値を超えるような急峻な変化を呈した場合、機械光学的なXシフター機構は追従しきれないことになる。そこで、本実施の形態では、さらに機械光学的なXシフター機構と選択用光学素子OSnによる電気光学的なXシフター機構と併用する。
図17A、図17Bは、図2に示した描画ユニットUn内のビームエキスパンダ系のレンズ系Gu1から開口絞りNPAまでの光路を展開した状態を示し、平行平板HVPの傾斜によって描画ラインSLnがシフトする様子を説明するものである。図17Aは、平行平板HVPの互いに平行な入射面と射出面がビームLBnの中心線(主光線)に対して90度になっている状態、すなわち平行平板HVPがXZ面内で傾斜していない状態を示す図である。図17Bは、平行平板HVPの互いに平行な入射面と射出面がビームLBnの中心線(主光線)に対して90度から傾いている状態、すなわち平行平板HVPがYZ面に対して角度ηだけ傾斜している状態を示す図である。
さらに、図17A、図17Bでは、平行平板HVPが傾斜していない状態(角度η=0度)のとき、レンズ系Gu1、Gu2の光軸AXeは開口絞りNPAの円形開口の中心を通るように設定され、ビームエキスパンダ系に入射するビームLBnの中心光線は光軸AXeと同軸になるように調整されているものとする。また、レンズ系Gu2の後側焦点の位置は開口絞りNPAの円形開口の位置に一致するように配置される。開口絞りNPAの位置は、第1のシリンドリカルレンズCYaとレンズ系Gu3の合成光学系によって、副走査方向に関しては、ポリゴンミラーPMの反射面RPの位置(或いはfθレンズ系FTの前側焦点の位置)からみると、ほぼ瞳の位置になるように設定されている。一方で、主走査方向に関しては、開口絞りNPAは、fθレンズ系FTの前側焦点の位置である入射瞳の位置と光学的に共役になるように配置されている。そのため、平行平板HVPを角度ηだけ傾けた場合、平行平板HVPを透過してレンズ系Gu2に入射するビームLBn(ここでは発散光束)の中心光線は、光軸AXeに対して-Z方向に微小に平行移動し、レンズ系Gu2から射出するビームLBnは平行光束に変換されるとともに、ビームLBnの中心光線は光軸AXeに対して僅かに傾く。
レンズ系Gu2の後側焦点の位置は開口絞りNPAの円形開口の位置に一致するように配置されているので、レンズ系Gu2から傾いて射出するビームLBn(平行光束)は、開口絞りNPA上でZ方向にずれることは無く、円形開口に投射され続ける。従って、開口絞りNPAの円形開口を通過したビームLBnは、強度分布上の1/e2の裾野の強度を正確にカットされた状態で、光軸AXeに対してXZ面内で副走査方向に僅かに傾いた角度で、後段の第1のシリンドリカルレンズCYaとレンズ系Gu3の合成光学系に向かう。開口絞りNPAは、副走査方向に関してはポリゴンミラーPMの反射面RPからみると瞳位置に対応している。その為、開口絞りNPAの円形開口を通過したビームLBnの副走査方向に関する傾き角に応じて、ポリゴンミラーPMに入射するビームLBn(副走査方向に関して収斂)の反射面RP上での位置は、図16で説明した反射面RPに入射するビームLB1と横シフトしたビームLB1’との関係と同様に、僅かにZ方向(副走査方向)にシフトする。従って、ポリゴンミラーPMの反射面RPで反射したビームLBnは、図16で示したように、fθレンズ系FTの光軸AXfを含むXY面と平行な面に対して僅かにZ方向(副走査方向)にシフトした状態でfθレンズ系FTに入射する。その結果、fθレンズ系FTと第2のシリンドリカルレンズCYbとにより、基板P上に投射されるビームLBnのスポット光SPを副走査方向に僅かにシフトさせることができる。
平行平板HVPの傾斜による機械光学的なXシフター機構では、基板P上のスポット光SP(描画ラインSLn)の位置を副走査方向に±数十μm程度(例えば、±50μm)の範囲でシフト可能であり、基板PのX方向(副走査方向)に関する大きな伸縮に対応できる。例えば、図13に示したパターン形成領域(デバイス領域)APFの副走査方向(X方向)に関する設計上の長さ(長寸法)が420mm(A3用紙の長手寸法)である場合、各種のプロセスの影響や回転ドラムDRに支持される際のテンションの影響等により、基板Pが副走査方向に一様に100ppmくらい線形伸縮していたとすると、描画露光時の実際のパターン形成領域APFの長寸法は420mmに対して42μmだけ伸縮していることになる。このように、パターン形成領域APFの長寸法の範囲に渡って基板Pが線形伸縮している場合は、平行平板HVPの傾斜による機械光学的なXシフター機構を単独に使用しただけでも、重ね合せ精度や継ぎ精度を向上することができる。
図18は、パターン形成領域APFの長寸法の範囲に渡って基板Pが線形伸縮していた場合の機械光学的なXシフター機構による描画位置の副走査方向への補正動作を説明するグラフである。図18において、横軸はエンコーダシステムによって計測される基板Pの副走査位置を表す。図18の下側のグラフは、副走査位置におけるパターン形成領域APFの長寸法の範囲と、基板Pの伸縮誤差量Δxer(μm)の変化を表し、図18の上側のグラフはパターン形成領域APFの描画開始位置から描画終了位置までの間の平行平板HVPの傾斜角ηの変化特性A又はBを表す。また、図18では、図14で示したマーク位置(MK1a~MK1j)は省略するが、設計上のパターン形成領域APFの長寸法が基板Pの線形伸張によって約42μmだけ伸びている(長くなっている)ものとする。実際のところ、基板Pが樹脂製のシートである場合、パターン形成領域APFの長寸法の範囲に渡る線形伸縮の誤差(実伸縮誤差)はミクロンオーダーでは綺麗な線形ではなく、線形からの多少のばらつきを持つ。そこで、パターン形成領域APFの長寸法の範囲の実伸縮誤差特性を予め把握して、その線形近似特性を図18の下側のグラフのように求め、線形近似特性に対する実伸縮誤差特性のばらつきが許容範囲(例えば必要とされる重ね合せ精度や継ぎ精度)以下である場合は、図18の上側のグラフの変化特性Aに示すように、描画開始位置で傾斜角ηがゼロ(中立位置)に設定される平行平板HVPを、パターン形成領域APFの副走査方向の描画位置の変化に比例して線形に傾斜角ηを変化させ、パターン形成領域APFの描画終了位置で傾斜角ηaとなるように制御する。
平行平板HVPの傾斜角ηのゼロからηaまでの変化幅Δηfによって、描画ユニットUnの各々の描画ラインSLnは、描画開始位置から描画終了位置までの描画動作中に、基板Pの搬送方向(図13中の+X方向)と反対方向(図13中の-X方向)に伸縮誤差量Δxer(約42μm)分だけ徐々にシフトされることになる。なお、線形伸縮誤差にのみ対応する場合は、描画開始位置から描画終了位置までの平行平板HVPの傾斜角ηの変化幅Δηfが確保されていれば良く、変化特性Bのように描画開始位置での平行平板HVPの傾斜角ηの初期値は任意に設定できる。本実施の形態では、平行平板HVPの傾斜角ηのストローク範囲で、描画ラインSLnを±50μm(幅で100μm)程度だけ副走査方向にシフト可能であるので、平行平板HVPの傾斜角ηを負方向から正方向、又は正方向から負方向に最大のストロークで変化させることにより、パターン形成領域APFの長寸法(420mm)に対して、最大100μmの伸張誤差又は収縮誤差に対応できる。これは、基板Pの約238ppmまでの伸縮誤差に対応できることを意味する。
パターン形成領域APFに対してパターンを描画露光する間、回転ドラムDRは一定の角速度で回転されるので、基板Pは一定の既知の速度で副走査方向に搬送される。従って、基板Pの既知の搬送速度とパターン形成領域APFの長寸法(420mm)とにより、図18中の描画開始位置から描画終了位置までの所要時間(秒数)も判明している。その為、平行平板HVPの変化特性A又はBに沿った傾斜角ηの駆動を時間基準で制御することもできる。平行平板HVPの傾斜角を変化させる為の駆動制御部216(図8)の駆動源としてステップモータ(パルスモータ)を用いる場合は、駆動パルスの周波数を変えること(駆動レートの変更)により、描画開始位置から描画終了位置までの所要時間(秒数)に対応した傾斜角ηの変化幅Δηfを与えることができる。その他、駆動源としてピエゾモータ、ボイスコイルモータ、DCモータのいずれかを用いる場合でも、単位時間当りの駆動量を一定にする制御により、同様に描画開始位置から描画終了位置までの所要時間(秒数)に対応した傾斜角ηの変化幅Δηfを与えることができる。
また、図8に示した回転位置検出部214でリアルタイムに計測される回転ドラムDRの回転角度位置、すなわち基板Pの副走査方向への移動位置の変化に応答して、平行平板HVPの駆動制御部216(駆動源)をサーボ制御する構成としても良い。この場合、回転位置検出部214内のカウンタ回路でリアルタイムに計測される基板Pの移動位置情報を、図8の描画制御装置200を介して駆動制御部216に送り、描画開始位置から描画終了位置までの基板Pの移動位置の変化に比例させて平行平板HVPの傾斜角ηを逐次変化させれば良い。回転ドラムDRは、図8の駆動制御部210によって、指令された速度で等速回転するように制御されるが、回転ドラムDRに掛け回される基板Pに付与されるテンションの変化等により、回転速度に僅かなムラが生じる場合もある。回転速度のムラは、基板Pの副走査方向への移動速度の変動となり、副走査方向に関する描画位置の変動となる。その描画位置の変動は、回転位置検出部214で計測される回転ドラムDRの回転角度位置(基板Pの移動位置)の時間的な変動として捕捉できるので、平行平板HVPの傾斜角ηを回転位置検出部214の計測結果に応答してサーボ制御すれば、回転ドラムDRの回転速度のムラによる基板Pの速度変動(移動量の時間的な変動)に起因した位置誤差を累積させることなく、平行平板HVPの傾斜角ηを基板P上のパターン形成領域APFの実際の長寸法に合わせて正確に変化させることができる。
さらに、図8に示したポリゴンミラーPMの反射面RPの角度位置を検出するビーム受光系60bからの原点信号SZnに基づいて、平行平板HVPの駆動制御部216(駆動源)をサーボ制御する構成としても良い。この場合、ポリゴンミラーPMの反射面の数を8、回転速度を36000rpmとすると、ポリゴンミラーPMは1秒間に600回転するので、描画ユニットUnからの原点信号SZnは4800Hzのパルス状波形として出力される。平行平板HVPの駆動制御部216は、このような高い周波数に応答できないので、例えば、原点信号SZnの周波数を1/100~1/300に分周したタイミングパルス信号(48Hz~16Hz)を、図8の描画制御装置200内または駆動制御部216内で生成し、そのタイミングパルス信号の周期のタイミングで平行平板HVPの駆動制御部216をサーボ制御すれば良い。
[第2の実施の形態の変形例1]
次に、平行平板HVPによる機械光学的なXシフター機構と選択用光学素子OSnによる電気光学的なXシフター機構とを併用する例を、図19を参照して説明する。図19は、先の図14と同様に、重ね合せ誤差量ΔXerの特性FPXのうち、1番目のマークMK1aから5番目のマークMK1eまでに対応したエンコーダ計測位置PXa~PXeの範囲において、重ね合せ誤差量ΔXerが最大で20μm程度発生した場合を誇張して例示するグラフである。但し、マーク位置(MK1a~MK1e)の図示は省略する。図19の特性FPXは、図14で説明したように、奇数番の描画ユニットU1、U3、U5の各々が、基板P上の描画先頭位置から描画を開始する前までに、先読みによってマーク検出系としてのアライメント顕微鏡AM1で検出されるマークMK1a~MK1eの各検出位置と、エンコーダヘッドEH1により計測される基板Pの移動位置(エンコーダ計測位置)とに基づいて計測されたものである。この特性FPXに対して、平行平板HVPによる機械光学的なXシフター機構による描画ラインSLnの副走査方向への位置補正の補正特性Cを、カーブフィッティング、最小二乗近似等の演算より推定する。その際、補正特性C上の任意の点における微分値(傾き)が、平行平板HVPの駆動制御部216の応答限界(応答スルーレート)を超えないような条件下で補正特性Cが推定演算される。
次に、実測された重ね合せ誤差量ΔXerの特性FPXと、平行平板HVPによる機械光学的なXシフター機構を動作させたときに推定される補正特性Cとの差分量ΔXSb、ΔXSc、ΔXSd、ΔXSeを、マークMK1a~MK1eの各々の位置に対応したエンコーダ計測位置PXb~PXeごとに演算する。なお、位置PXa(描画先頭位置に近いマークMK1aの位置)では差分量を零とする。差分量ΔXSb、ΔXSc、ΔXSd、ΔXSeは、平行平板HVPによる機械光学的なXシフター機構では補正しきれない残差分であり、この差分量ΔXSb、ΔXSc、ΔXSd、ΔXSeは、図19の上側のグラフに示すように、選択用光学素子OSnによる電気光学的なXシフター機構によって補正する。その為、補正特性Cを推定演算により設定する際は、位置PXb~PXeごとに算定される差分量ΔXSb、ΔXSc、ΔXSd、ΔXSeの各々が、選択用光学素子OSnによる電気光学的なXシフター機構によって描画ラインSLnをシフト可能な範囲内となるように設定される。
補正特性Cが定まったら、図14に示した特性FFCの設定方法と同様に、図8に示した描画制御装置200内の選択用素子制御部200A(詳しくは図9の制御回路部250)は、位置PXaから位置PXb、PXc、PXd、PXeと基板Pが順次移動していくに伴って生じる差分量ΔXSb~ΔXSeの各々に対応した補正情報ΔFCn(規定周波数fccからの偏差量-Δfcb、-Δfcc、-Δfcd、-Δfce)を、先の図10で説明した特性Ka又はKbに基づいて生成し、それらの偏差量-Δfcb、-Δfcc、-Δfcd、-Δfceのエンベロープに相当した特性FFC’を、図8の周波数変調回路251に印加する。この場合、補正情報ΔFCnは、エンコーダ計測位置が位置PXa~PXbに変化していくのに同期して、基準発振器260からの基準信号RFoの周波数変調度(周波数補正量Δfc)を特性FFC’のように変化させて、重ね合せ誤差量ΔXerの差分量ΔXSb、ΔXSc、ΔXSd、ΔXSeの各々が相殺されるような連続的な関数、又は離散的な関数(ステップ関数)として生成される。
以上のようにして、描画ユニットUnの各々に関して、平行平板HVPによる機械光学的なXシフター機構と選択用光学素子OSnによる電気光学的なXシフター機構とを併用して描画ラインSLnの各々の副走査方向の位置を補正することにより、基板P上のパターン形成領域APFの長寸法の方向の非線形な伸縮に対しても、重ね合せ誤差や継ぎ誤差の程度をスポット光SP又は画素のサイズ、或いはそれ以下のオーダーにすることが可能となる。それにより、基板Pに線形伸縮だけでなく描画ラインSLnの各々に対応した分割されたパターン描画領域ごとの非線形伸縮に対しても、重ね合せ精度、継ぎ精度をパターン形成領域APFの長寸法に渡って良好に維持することができる。
なお、図19の補正特性Cは、補正特性C上の任意の点における微分値(傾き)が平行平板HVPの駆動制御部216の応答限界(応答スルーレート)を超えない条件であって、かつ、差分量ΔXSb、ΔXSc、ΔXSd、ΔXSeの各々が、選択用光学素子OSnによる電気光学的なXシフター機構による描画ラインSLnのシフト可能範囲(例えば±50μm)内となる条件の下で推定演算される。しかしながら、先読みによって検出されるマークMK1a~MK1eの位置検出結果に基づいて特定される非線形伸縮が極端に大きく、それらの条件を満たせずに補正特性Cを設定できないこともある。その場合は、先読みによるアライメント計測の結果により、非線形伸縮の補正を伴うパターン描画が不可能である旨の警告を発生する。この警告が発生した場合、パターン形成領域APFに対するパターン露光の動作を停止するか、又はそのままパターン露光するかのいずれかを実行し、そのパターン形成領域APFに対して露光エラーが発生した旨のフラグが残される。
また、図18、図19のように、1つのパターン形成領域APFの露光中に、平行平板HVPによる機械的なXシフター機構による補正を行った直後、次のパターン形成領域APFの露光に備えて、平行平板HVPの傾斜角ηは初期の角度に復帰される。その際、パターン形成領域APFの描画終了位置での平行平板HVPの傾斜角ηを、描画開始位置での平行平板HVPの傾斜角η(初期角度)に戻す為に必要とされる最大の時間、ここでは平行平板HVPの傾斜角ηを最大ストローク範囲で変化させたときに要する時間と基板Pの搬送速度(副走査速度)とを勘案して、図13に示した基板P上に配置される複数のパターン形成領域APF間の副走査方向(長尺方向)の余白部の長さ(余白間隔長)が設定される。例えば、基板Pの搬送速度を10mm/秒、平行平板HVPの傾斜角ηを最大ストローク範囲に渡って変化させたときに要する時間を2秒とすると、複数のパターン形成領域APF間の余白間隔長は20mm以上に設定される。
[第3の実施の形態]
先に説明したように、図8に示した回転位置検出部214でリアルタイムに計測される回転ドラムDRの回転角度位置(基板Pの副走査方向への移動位置)の変化に応答して、平行平板HVPによる機械的なXシフター機構の駆動制御部216をサーボ制御すると、回転ドラムDRの回転速度の変動による基板Pの副走査速度の変動に起因した重ね合わせ精度や継ぎ精度の低下を防ぐことができる。そこで、図20を参照して回転ドラムDRの回転速度の変動による影響を説明する。図20は、図1や図8に示した回転ドラムDR、図2に示した描画ユニットUn(U1~U6)の各々の軸線Le(Le1~Le6)、図1に示した描画ラインSLn(SL1~SL6)、及び図13に示したアライメント系AMn(AM1~AM4)の各々の検出領域Vwn(Vw1~Vw4)の配置を、回転ドラムDRのシャフトSftの中心軸AXoと垂直な面内(XZ面内)でみた図である。また、図20において、アライメント系AMn(AM1~AM4)の各々の検出領域Vwn(Vw1~Vw4)内の中心点を通って中心軸AXoと交差する線を軸線LA1~LA4とする。軸線LA1~LA4の各々は、アライメント系AMnとしてのアライメント顕微鏡AM1~AM4のそれぞれの対物レンズの光軸に相当する。
奇数番の描画ユニットU1、U3、U5の各々の軸線Le1、Le3、Le5は、XZ面内では中心面pccに対して傾斜角度-θm(deg)だけ傾いて設定され、偶数番の描画ユニットU2、U4、U6の各々の軸線Le2、Le4、Le6は、XZ面内では中心面pccに対して傾斜角度+θm(deg)だけ傾いて設定される。従って、奇数番の軸線Le1、Le3、Le5と偶数番の軸線Le2、Le4、Le6とは中心軸AXoの回りに開き角度2θmで設置される。さらに、アライメント系AMnの軸線LA1~LA4と奇数番の軸線Le1、Le3、Le5とは開き角度θma(deg)で設置され、アライメント系AMnの軸線LA1~LA4と偶数番の軸線Le2、Le4、Le6とは開き角度θmb(deg)で設置される。従って、傾斜角度θm、開き角度θma、θmbは、θmb=θma+2θmの関係で設置されている。なお、図20において、時計回りに回転する回転ドラムDRの外周面に密着して円筒面状に湾曲した基板Pの表面の半径をRdd(mm)とするが、通常は基板Pの厚みが半径Rddに対して十分に小さい(例えば1/100以下)ので、半径Rddは実質的に回転ドラムDRの外周面の半径と同じとみなしても良い。
ここで、奇数番の描画ユニットU1、U3、U5の各々の描画ラインSL1、SL3、SL5の位置から、偶数番の描画ユニットU2、U4、U6の各々の描画ラインSL2、SL4、SL6の位置まで基板Pが円筒面に沿って周方向に移動する周長距離をL(2θm)とすると、円周率をπとして周長距離L(2θm)は、L(2θm)=2πRdd(2θm/360°)で表される。基板Pが周長距離L(2θm)だけ移動する間に、回転ドラムDRの回転速度に変動(速度ムラ)が生じると、奇数番の描画ラインSL1、SL3、SL5(以下、単に奇数番の描画ラインSLnとも呼ぶ)で基板P上に描画されたパターンと、偶数番の描画ラインSL2、SL4、SL6(以下、単に偶数番の描画ラインSLnとも呼ぶ)で基板P上に描画されたパターンとが、副走査方向(基板Pの移動方向)に位置ずれすることになる。通常、基板Pの移動速度として指令された基準速度をVdo(mm/秒)とすると、周長距離L(2θm)だけ移動するのに要する基準時間To(2θm)は、基準速度Vdoに対応して、To(2θm)=L(2θm)/Vdoとなり、各描画ユニットUnのポリゴンミラーPMの回転速度、及びポリゴンミラーPMの各反射面毎のスポット光の描画開始タイミングの周期は、その基準時間To(2θm)に合せて設定されている。
しかしながら、基板Pが周長距離L(2θm)だけ移動する間に、基準速度Vdoが変動量ΔVdw(%)だけ変化したとすると、基準時間To(2θm)の間に移動する基板Pの周長距離L’(2θm)は、L’(2θm)=Vdo(1+ΔVdw)To(2θm)となり、周長距離L(2θm)に対する誤差量ΔEv(mm)は、L’(2θm)-L(2θm)より、ΔEv=ΔVdw・Vdo・To(2θm)=ΔVdw・L(2θm)となる。一例として、回転ドラムDRの半径Rddを135mm、傾斜角度θmを13°とすると、回転ドラムDRの外周面の全周長は848.229mm、周長距離L(2θm)は61.261mmとなる。さらに基準速度Vdoを10mm/秒とすると、基準時間To(2θm)は6.126秒となり、基準時間To(2θm)の間に生じる基準速度Vdoからの変動量ΔVdwが±0.02%だとすると、周長距離L’(2θm)は61.273mm、又は61.249mmなり、誤差量ΔEvは約±12.25μmとなる。このように、基板Pが奇数番の描画ラインSLnから偶数番の描画ラインSLnまでの約61mmの周長距離L(2θm)を移動する間に、基板Pの移動速度が基準速度Vdo(10mm/秒)から±0.02%変化しただけで、基板Pの移動距離には±12μm程度の誤差量ΔEvが発生する。従って、その誤差量ΔEvが、奇数番の描画ラインSLnの各々で描画されるパターンと偶数番の描画ラインSLnの各々で描画されるパターンとの副走査方向に関する継ぎ誤差、或いは下地パターンとの重ね合せ誤差となる。
そこで、本実施の形態では、図8又は図13に示したエンコーダヘッドEH1~EH3と回転位置検出部214とによって、回転ドラムDRの回転速度のムラ(基板Pの移動速度の変動)を逐次計測し、その計測された速度変動に起因して生じる誤差量ΔEvが低減されるように、図8に示した平行平板HVPによる機械的なXシフター機構の駆動制御部216をサーボ制御する。但し、基板Pの移動速度に変動が生じても、回転位置検出部214内のカウンタ回路で計測される基板Pの副走査方向の位置計測結果には何らの影響も与えない。その為、回転位置検出部214内のカウンタ回路で計測される基板Pの副走査方向の位置(回転ドラムDRの回転角度位置)の計測値に応じて、平行平板HVPの駆動制御部216をサーボ制御することにより、結果的に、基板Pの移動速度の変動による誤差量ΔEvの発生も抑制した状態で、基板P上にパターン描画が行われることになる。従って、エンコーダヘッドEH1~EH3を用いた基板Pの移動位置に応じて駆動制御部216をサーボ制御することにより、回転ドラムDRの1回転中に生じる回転速度ムラの変化傾向がどのようなものであっても、応答可能な範囲内であれば平行平板HVPの傾斜角ηの変化を追従させることができる。
また上述の説明では、図20において、基板Pが奇数番の描画ラインSLnから偶数番の描画ラインSLnまでの約61mmの周長距離L(2θm)を移動する間に、基板Pの移動速度が基準速度VdoからΔVdwだけ変化するものとした。しかしながら、基板Pの移動速度の変動は、基板Pがアライメント系AMnの検出領域Vw1~Vw4の位置から奇数番の描画ラインSL1、SL3、SL5の位置まで移動する間の時間To(θma)、又は検出領域Vw1~Vw4の位置から偶数番の描画ラインSL2、SL4、SL6の位置まで移動する間の時間To(θmb)の間でも同様に起こり得る。時間To(θma)は、開き角度θmaに対応した基板Pの周長距離L(θma)と基準速度Vdoとにより、To(θma)=L(θma)/Vdoで表され、時間To(θmb)は、開き角度θmbに対応した基板Pの周長距離L(θmb)と基準速度Vdoとにより、To(θmb)=L(θmb)/Vdoで表される。時間To(θma)中、又は時間To(θmb)中に生じる基板Pの移動速度の変動も、結果的には、奇数番の描画ラインSLnの各々で描画されるパターンと偶数番の描画ラインSLnの各々で描画されるパターンとの副走査方向に関する継ぎ誤差、或いは下地パターンとの重ね合せ誤差となるが、平行平板HVPによる機械的なXシフター機構の駆動制御部216を回転ドラムDRの回転角度位置の計測結果に基づいてサーボ制御することで、その継ぎ誤差、或いは重ね合せ誤差を低減させることができる。なお、本実施の形態でも、先の第2の実施の形態の変形例1で説明したのと同様に、平行平板HVPによる機械的なXシフター機構と選択用光学素子OSnによる電気光学的なXシフター機構とを併用することができる。
[第4の実施の形態]
回転ドラムDRの回転速度の変動で生じる基板Pの移動速度の基準速度Vdoからの変動があっても、平行平板HVPによる機械的なXシフター機構(又は選択用光学素子OSnによる電気光学的なXシフター機構)を用いることにより、基板P上に露光されるパターン形成領域APFの長寸法を、設計上の寸法に合わせる、或いは基板P上に既に形成された下地層のパターン形成領域の寸法に合わせることができる。しかしながら、基板Pの長尺方向の伸縮率が大きい場合、連続露光されるパターン形成領域APFの長寸法が大きい場合、或いは基板Pの副走査方向への移動速度の変動が大きくなった場合(移動速度を意図的に調整した場合も含む)、平行平板HVPの傾斜角ηを変えられる最大ストロークで律則されて、描画ユニットUnの各々によるパターン描画位置(描画ラインSLn)の副走査方向への補正が限界に達してしまい、それ以上の補正ができないことがある。
そこで、本実施の形態では、基板Pの副走査方向への移動速度の変動、又は基板Pの副走査方向への伸縮に応じて、図8に示したポリゴン制御部200Bにより、描画ユニットUnの各々のポリゴンミラーPMの回転速度を規定値から動的に微調整するように制御する。基板Pの伸縮や移動速度の変動が無い場合、ポリゴンミラーPMは、基板P上のスポット光SPの実効的な直径φ、スポット光SPによる1つの主走査(第1の走査線)と次の主走査(第2の走査線)との基板P上での副走査方向における間隔(例えば、φ/2)、光源装置LSからのビームLBの発振周波数Fa、及び基板Pの副走査方向への移動の基準速度Vdoによって一義的に設定される回転速度VRで回転する。そこで、図21を参照して、描画ユニットUnが副走査方向に所定長さで連続したパターンPTaを描画する際に、回転ドラムDRの回転速度の変動により、基板Pの移動速度が基準速度Vdoよりも+ΔVdwだけ増加した場合におけるポリゴンミラーPMの回転速度VRの補正方法について説明する。
図21〔A〕は、横軸に時間を取り、縦軸にスポット光SPの主走査位置を取り、基板Pが基準速度Vdoで正確に移動している間に、描画データに基づいて、副走査方向に並ぶN本の走査線1、2、・・・N-2、N-1、Nの各々に沿ったスポット光SPの走査により、パターンPTaが露光される様子を示す。このとき、ポリゴンミラーPMの回転速度VRは、N本の走査線1~Nの各々の基板P上での副走査方向の間隔(時間間隔)が、スポット光SPの直径φの1/2となるように設定され、パターンPTaの副走査方向の画素数は走査線1~Nの本数Nの1/2に設定されているものとする。また、図21〔A〕の場合、パターンPTaの描画開始点から終了点までの描画時間をTSとする。しかしながら、基板Pの移動速度のみが基準速度Vdoから+ΔVdwだけ変化した状態(速度が増加した状態)で同じパターンPTaを描画すると、スポット光SPによるN本の走査線1~N(画素数N/2)による描画時間TSは変わらないので、基板P上に露光されたパターンPTa’は、本来の副走査方向の寸法(設計値)に対して誤差ΔLkだけ長く描画される。例えば、パターンPTaの副走査方向に関する設計上の寸法が100mmで、基板Pの移動速度の変動率βv(=ΔVdw/Vdo)が+0.05%であった場合、寸法の誤差ΔLkは50μmになる。これは、N本の走査線1~Nの各々の基板P上での副走査方向の間隔が、本来の設計上の間隔に対して変動率βvだけ増加したことを意味する。
そこで、図21〔B〕に示すように、基板Pの移動速度が+ΔVdwだけ増加したことに対応して、パターンPTaの設計上の描画時間TSを誤差ΔLkの描画時間に対応した補正時間ΔTssだけ短くした描画時間TS’になるように補正する。図21〔B〕は、横軸に時間を取り、縦軸にスポット光SPの主走査位置を取り、基板Pが基準速度Vdoに対してΔVdwだけ早い速度で移動している間(描画時間TS’の間)に、描画データに基づいて、副走査方向に並ぶN本の走査線1~Nの各々に沿ったスポット光SPの走査によってパターンPTa(画素数N/2)を露光する様子を示す。従って、図21〔B〕のように、描画時間TS’(<TS)の間に、N本の走査線1~N(画素数N/2)による描画を行う為に、N本の走査線1~Nの各々の基板P上での副走査方向の間隔が本来の設計上の間隔に対して変動率βv(%)だけ減少するように、ポリゴンミラーPMの回転速度VRを変動率βv(%)だけ高めれば良い。先の数値例のように、基板Pの移動速度が基準速度Vdoに対して0.05%だけ増加している場合は、ポリゴンミラーPMの回転速度VRも0.05%だけ増加させれば良く、逆に、基板Pの移動速度が基準速度Vdoに対してΔVdwだけ減少している場合は、ポリゴンミラーPMの回転速度VRも変動率βv(%)だけ減少させれば良い。これは、先の図12で示した原点信号SZnのパルス状に繰り返し発生する波形の立ち上りの時間間隔Trpを、変動率βv(%)だけ増減させることに相当する。
ポリゴンミラーPMの回転制御を行う図8のポリゴン制御部200Bには、モータRMをクロック信号の周波数(位相)に同期した回転速度で精密に回転駆動するPLL(Phase Locked Loop)サーボ制御系等が設けられ、その制御精度(制御分解能)は±数rpm程度である。その為、ポリゴンミラーPMの基準となる回転速度VRを36000rpmとした場合は、±0.02%程度までの精度で速度調整が可能である。また、高速回転が要求されるポリゴンミラーPMは、軽合金(アルミニウム等)やセラミックスの母材により回転軸の方向の厚みが数mm以下になるように作られている為、ポリゴンミラーPMの回転速度を変更する際の制御応答性(時定数)は、回転ドラムDRの回転速度の変動(基板Pの移動速度の変動)の変化レートに比べて十分に短い。従って、基板Pの副走査方向への移動速度の変動(回転ドラムDRの回転速度の変動)特性が所定の精度で計測できれば、その速度変動に追従させてポリゴンミラーPMの回転速度を動的に調整することにより、基板P上に露光されるパターン形成領域APFの長寸法、又はパターン形成領域APF内に描画される個々のパターンの副走査方向の寸法は、基板Pの移動速度の変動による影響、すなわち副走査方向に関するパターン描画倍率誤差の発生を抑えて、所定寸法となるように制御される。
その為、パターン描画位置が回転ドラムDRの回転速度の変動(速度ムラ)によって副走査方向に位置ずれしまう場合、平行平板HVPによる機械的なXシフター機構を用いなくても、ポリゴンミラーPMの回転速度の補正によって、その位置ずれを修正することが可能となる。さらに、アライメント系AMnを用いたマーク位置の計測結果から、基板P自体の副走査方向の伸縮が大きいことが判明した場合でも、同様にポリゴンミラーPMの回転速度の補正によって、基板P上に既に形成されている下地層のパターンとの重ね合せ精度を良好に維持することができる。もちろん、ポリゴンミラーPMの回転速度の動的な調整による補正機構と、平行平板HVPによる機械的なXシフター機構(又は選択用光学素子OSnによる電気光学的なXシフター機構)とを併用することも可能である。その場合、横軸に回転ドラムDRの回転角度位置、縦軸に基板Pの移動速度を取った図22のグラフに誇張して示すように、回転ドラムDRの1回転中における基板Pの実移動速度特性の平均速度値Vdrを計測し、制御系が指令する基準速度Vdoとの差分値を求め、その差分値で決まる変動率βv〔βv=(Vdr-Vdo)/Vdo(%)〕に基づいて、ポリゴンミラーPMの回転速度VRを変動率βvだけ補正する。さらに、回転ドラムDRの1回転ごとの周期的な回転速度変動(速度ムラ)で生じる基板Pの実移動速度の平均速度Vdrからの速度誤差分ΔVppに対しては、平行平板HVPによる機械的なXシフター機構(又は選択用光学素子OSnによる電気光学的なXシフター機構)による補正で対応させても良い。このような制御にすると、速度誤差分ΔVppは平均速度Vdrを中心に小さな振幅で周期的に変化する傾向となる為、平行平板HVPの傾斜角ηを傾斜可能なストローク範囲内で使用することができる。
[第4の実施の形態の変形例1]
図23は、基板Pの移動速度の変動に追従させて、ポリゴンミラーPMの回転速度を動的に調整する際に、基板Pの移動速度の変動を計測する方法の一例を説明するグラフであり、横軸は時間軸(秒)を表し、縦軸は回転ドラムDRの回転角度位置(基板Pの移動位置)を計測するエンコーダヘッドEH2、EH3のいずれか1つに対応した回転位置検出部214(図8参照)のカウンタ回路で検出されるエンコーダ計測値DEnを表す。図23において、時間軸に沿って一定時間ΔTC(例えば5秒)毎に設定される時刻Tc0、Tc1、Tc2、・・・、Tc9は、正確なクロック信号のクロックパルスを計数して得られるサンプリングタイミングを示す。また、図23中の一定の傾きを有する直線は、基板Pの移動速度として指令される基準速度Vdoに対応した基準特性Fvoを示し、実特性FVrは図22に示した実移動速度特性の一部分に対応したものである。さらに、時刻Tc0は、描画ユニットUnによる描画ラインSLnがパターン描画領域APFの描画開始位置と一致した描画開始時刻とする。図8の回転位置検出部214は、時刻Tc0~時刻Tc9・・・、の各々で、その時点のエンコーダ計測値DE0、DE1、DE2、・・・、DE9、・・・をサンプリング(記憶)する。
基準特性Fvo上において、一定時間ΔTCの間のエンコーダ計測値の変化量(基板Pの移動量)ΔDErは、時刻Tc1~Tc9のどこでも一定である。しかしながら、実特性FVr上では、基板Pの移動速度に変動が生じることにより、一定時間ΔTCの間のエンコーダ計測値の変化量(基板Pの移動量)は一定にはならない。そこで、速度誤差計測部として機能する図8の描画制御装置(描画制御部)200、又は回転位置検出部214は、描画動作中に逐次サンプリングされるエンコーダ計測値DE0、DE1、DE2、・・・、DEnを用いて、時刻Tc1、Tc2、・・・、Tcnの各タイミング毎に以下の演算を行って、基準速度Vdoに対する基板Pの移動速度の変動率(誤差分)βvn(%)を算出する。但し、nは1以上の整数とする。
βvn=〔{DE(n)-DE(n-1)}/ΔDEr-1〕/100
図24は、このような演算によって逐次求められる変動率βvnを、βv1、βv2、βv3…、βv9の順に、時間軸に沿ってプロットした一例のグラフである。図24において、横軸は図23の横軸と同じスケールの時間(秒)を表し、縦軸は変動率βvn(%)を表す。図24では、描画開始点の時刻Tc0で、基板Pの移動速度は基準速度Vd0に対して約+0.045%だけ増加しており、その後、徐々に移動速度が減少して、時刻Tc6でほぼ基準速度Vdoとなった後、時刻Tc9で基板Pの移動速度は基準速度Vdoに対して約-0.02%だけ減少している。図8の描画制御装置(描画制御部)200は、描画動作中の時刻Tc1、Tc2、Tc3、・・・の各々で計測される変動率βv1、βv2、βv3…、に対応して逐次補正された回転速度でポリゴンミラーPMが回転するように、ポリゴン制御部200Bに回転速度補正の指令値を出力する。その際、6つの描画ユニットU1~U6の各々のポリゴンミラーPMは、各々の間での回転角度の位相関係を所定の状態(例えば、反射面の回転角度で15°の差)に保ちつつ、常に回転速度が等しくなるように同時に回転速度の補正が行われる。
なお、先の図6では、1つの光源装置LSから射出される描画用のビームLBを、6つの描画ユニットU1~U6のいずれか1つに時分割でスイッチングして供給するようにしたが、光源装置LSを2つ設けて、第1の光源装置LSは、3つの描画ユニットU1、U3、U5(奇数番)のいずれか1つに時分割でスイッチングして描画用のビームLBを供給し、第2の光源装置LSは、3つの描画ユニットU2、U4、U6(偶数番)のいずれか1つに時分割でスイッチングして描画用のビームLBを供給するようにしても良い。この場合、ポリゴン制御部200Bは、奇数番の描画ユニットU1、U3、U5の各々のポリゴンミラーPMの間での回転角度の位相関係を所定の状態に保ちつつ、常に回転速度が等しくなるように回転速度を補正し、偶数番の描画ユニットU2、U4、U6の各々のポリゴンミラーPMの間での回転角度の位相関係を所定の状態に保ちつつ、常に回転速度が等しくなるように回転速度を補正する。また、図23、図24に示すような変動率βvnを求める為のエンコーダ計測値DEnは、奇数番の描画ユニットU1、U3、U5の各々に関しては、図13に示したエンコーダヘッドEH2による計測値を用い、偶数番の描画ユニットU2、U4、U6の各々に関しては、図13に示したエンコーダヘッドEH3による計測値を用いるようにしても良い。
[第4の実施の形態の変形例2]
図25は、図23、図24のように、基板Pの移動速度の変動率βvnをソフトウェア演算によって求めるのではなく、ハードウェア的な構成で基板Pの移動速度の変動をほぼリアルタイムに計測する為の回路ブロック図を示す。図25の回路構成は、図8に示した描画制御装置(描画制御部)200内、或いは回転位置検出部214内に設けられ、エンコーダヘッドEH1~EH3の少なくとも1つを用いて回転位置検出部214内のカウンタ回路部で計数されるエンコーダパルスの周波数と、基板Pの移動速度の指令値に対応した周波数で生成されるクロックパルスの周波数との差分値をリアルタイムに計測するものである。
図13(又は図8)に示したエンコーダヘッドEH1~EH3の各々は、スケール部材ESDの目盛の移動に伴って位相差90°で生成されるアップパルス信号UpPとダウンパルス信号DnPとを発生すると共に、零点マークの検出時に零リセット用の零パルス信号ZRを発生する。回転位置検出部214内に設けられるカウンタ回路300は、アップパルス信号UpPに応答して計測値(計数値)300Aを増加させ、ダウンパルス信号DnPに応答して計測値300Aを減少させ、零パルス信号ZRに応答して計測値300Aを零にリセットする。カウンタ回路300の計測値300Aは、例えば24ビットのパラレルデータバスを介して補正マップメモリ部302に、アドレス情報として出力される。補正マップメモリ部302は、計測値300Aの変化に応答して、スケール部材ESDの目盛の1周分に渡る誤差(偏心誤差、真円度誤差、目盛ピッチ誤差、計測のアッベ誤差等)をリアルタイムに補正した回転角度位置(基板Pの移動位置)に対応した位置情報302Aを、計測値300Aと同じ分解能の24ビットのパラレルデータとして逐次出力する。24ビットの位置情報302Aのうちの、例えば最下位ビット(LSB)の信号(パルス)は、分周回路304によって適当な周波数帯に変換されて、パルス信号304Aとしてアップ/ダウン(U/D)カウンタ回路306のアップカウント入力に印加される。パルス信号304Aは、スケール部材ESDの目盛の移動速度、すなわち基板Pの移動速度に対応した周波数を有する。なお、分周回路304を省略して、位置情報302AのうちのLSBの信号をパルス信号304Aとして直接U/Dカウンタ回路306に印加しても良い。
U/Dカウンタ回路306は、描画制御装置200からの指令情報306Bに応答して、計数動作により逐次変化し得る計数値とゼロの固定値とのいずれかを、変動情報306Aとしてポリゴン制御部200Bに出力する。U/Dカウンタ回路306のダウンカウント入力には、可変クロック発生回路308からのクロックパルス信号308Aが印加される。可変クロック発生回路308は、描画制御装置200で生成される基板Pの移動速度(例えば、図22に示した基準速度Vdo、又は実移動速度特性の平均速度Vdr)に対応した速度情報308Bを入力し、基板Pが基準速度Vdo、又は平均速度Vdrと同じ速度で精密に移動しているときに出力されるパルス信号304Aと同じ周波数となるようなクロックパルス信号308Aを発生する。従って、クロックパルス信号308Aの周波数は、基板Pの指定された移動速度(基準速度Vdoや平均速度Vdr)に応じて変化する。
以上の構成において、例えば、基板P上の1つのパターン形成領域APFに対してパターン描画を行う場合、パターン形成領域APFの描画開始位置が描画ラインSLnに達する直前に、U/Dカウンタ回路306は、指令情報306Bに基づいて、アップカウント入力に印加されるパルス信号304Aと、ダウンカウント入力に印加されるクロックパルス信号308Aとを逐次計数するアクティブ状態に切替えられる。基板Pの実際の移動速度が、基準速度Vdo、又は平均速度Vdrと一致しているとき、U/Dカウンタ回路306で計数される計数値(変動情報306A)は、ほぼ一定値(例えば、ゼロ又はゼロに近い値)で安定している。しかしながら、基板Pの実際の移動速度が、基準速度Vdo、又は平均速度Vdrに対して僅かでも早い場合は、U/Dカウンタ回路306からの変動情報306Aである計数値が徐々に増加し、逆に僅かでも遅い場合は、U/Dカウンタ回路306からの変動情報306Aである計数値が徐々に減少する。
ポリゴン制御部200B(図8参照)は、U/Dカウンタ回路306からの変動情報306A(計数値、計測値)の増減に応じて、ポリゴンミラーPMの回転速度が増減されるようにモータRMをサーボ制御する。そのサーボ制御の応答時間(数ミリ秒~数十ミリ秒)程度の遅延時間の後、ポリゴンミラーPMの回転速度の増減が完了したとみなして、描画制御装置200は、その増減分に対応して、クロックパルス信号308Aの周波数を増減させるように、可変クロック発生回路308に印加されている速度情報308Bにオフセットを加える。このような制御をパターン形成領域APFの露光動作中に継続することによって、U/Dカウンタ回路306のアップカウント入力に印加されるパルス信号304Aの周波数の増減(基板Pの移動速度の増減)に追従して、U/Dカウンタ回路306のダウンカウント入力に印加されるクロックパルス信号308Aの周波数も増減(ポリゴンミラーPMの回転速度が増減)され、結果的にU/Dカウンタ回路306からの変動情報306Aが、ほぼ一定値で安定するように制御される。
一例として、スケール部材ESDの目盛の直径(中心軸AXoからの半径の2倍)が、回転ドラムDRの外周面の直径と同じであり、基板Pの副走査方向への移動速度(基準速度Vdo又は平均速度Vdr)が10mm/秒に設定される場合、スケール部材ESDの目盛も周方向に10mm/秒で移動する。補正マップメモリ部302から出力される24ビットの位置情報302Aのうちの最下位ビット(LSB)で規定される計測の分解能が0.2μmのとき、LSBの信号の周波数は50KHz(10mm/0.2μm)になる。図25中の分周回路304を省略した場合、基板Pの移動速度の基準速度Vdo又は平均速度Vdrに対する変動率βvが±0.02%のとき、U/Dカウンタ回路306のアップカウント入力に印加されるパルス信号304Aの周波数は、±10Hz(1秒間に10パルス)変動する。U/Dカウンタ回路306のダウンカウント入力に印加されるクロックパルス信号308Aの初期周波数は、基準速度Vdo又は平均速度Vdrに対応して50KHzに設定されるので、U/Dカウンタ回路306からの変動情報306Aは、基板Pの移動速度の変動率βvが±0.02%のとき、1秒当たり10カウントずつ増加、又は減少する計数値となる。
そのため、ポリゴン制御部200Bは、単位時間(例えば、0.5秒、1秒、或いは数秒でも良い)当りの変動情報306Aの増減量を逐次モニターし、例えば、0.02%×(1秒間の変動情報306Aの増減量/10)のような簡単な演算によって基板Pの移動速度の変動率βvを求めて、ポリゴンミラーPMの回転速度を変動率βvだけ増減させる。ポリゴンミラーPMの回転速度が変動率βvだけ増減されたら、ポリゴン制御部200B(描画制御装置200)は、その増減分に対応して、クロックパルス信号308Aの周波数が50KHzから10Hz分だけ増減されるように、可変クロック発生回路308に印加されている速度情報308Bにオフセットを加える。これによって、U/Dカウンタ回路306からの変動情報306Aは、その時点での計数値に安定して推移する。以上の本変形例によれば、U/Dカウンタ回路306は、回転ドラムDRの回転速度の変動により基板Pの副走査方向の移動速度に変動が生じた場合、その速度変動に追従するようにポリゴンミラーPMの回転速度VRが補正されている(正常にサーボ制御されている)か否かを判定する追従判定回路でもある。従って、U/Dカウンタ回路306からの変動情報306A(計数値)が時間と共に大きく増減することなく所定の値に安定していれば、追従のサーボ制御が良好に行われていることになる。
以上の実施の形態において、基板Pの搬送方向に関して回転ドラムDR上流側や下流側には、基板Pに長尺方向のテンション(張力)を付与する機構(テンションサーボ機構等)が設けられ、それによって、基板Pは回転ドラムDRの外周面に所定のテンションを持って密着支持される。テンションサーボ機構の応答性や時定数等の関係で、基板Pに付与されるテンションの大きさは、短時間(秒単位)では過渡応答的に大きく変化する場合もあり、その影響を受けて、回転ドラムDRの回転速度はランダムに変動しやすい。そのような場合でも、本実施の形態のように、ポリゴンミラーPMの回転速度の微調整、又は図18に示した機械光学的なXシフター機構(平行平板HVP)との併用によって、基板Pの副走査方向の移動速度のランダムな変動に起因して生じる描画パターンの品質の劣化、下地層に対する重ね合せ精度の劣化、継ぎ精度の劣化等を抑制することが可能である。
なお、長尺では無く枚葉の基板Pを、XY平面内で2次元移動する基板ステージ(基板移動部材)の平坦な基板ホルダ上に平面状に載置(吸着)した状態で、基板ステージを副走査方向に等速度で移動させつつ、描画ユニットUnからのビームLBnのスポット光SPを主走査方向に走査する構成の直描露光機でも、基板ステージの位置を計測する測長干渉計の計測位置の変化から求められる速度に変動が生じうる場合は、同様に、ポリゴンミラーPMの回転速度の微調整、又は機械光学的なXシフター機構(平行平板HVP)の併用によって、基板テーブルの速度変動に起因した描画パターンの品質の劣化、下地層に対する重ね合せ精度の劣化、継ぎ精度の劣化等を抑制することが可能である。また、平坦な基板ホルダに枚葉の基板Pを平面状に支持する直描露光機では、複数の描画ユニットUnと光源装置LSを含むビーム切換部とを一体的に支持する露光機構本体部を基板ホルダに対して副走査方向に一次元に、又は副走査方向と主走査方向との二次元に移動させる駆動機構を設けて、基板Pにパターンを描画する際に、各描画ユニットUnからのビームLBn(スポット光SP)と基板Pとを副走査方向に所定速度で相対移動させるようにしても良い。
[第5の実施の形態]
先の第4の実施の形態のように、基板Pの移動速度の変動率βvに追従してポリゴンミラーPMの回転速度VRを増減すると、図26に示すように、描画ユニットUnの描画ラインSLnによって描画される領域の主走査方向の寸法が、ポリゴンミラーPMの回転速度VRの変化率に応じて伸縮してしまう。図26において、右側には基板Pの移動速度の変動率βvの一例を示し、左側には、基板Pの移動速度の変動率βvに応じてポリゴンミラーPMの回転速度VRを動的に微調整した状態で、1つの描画ユニットU1(描画ラインSL1)によって基板P上にパターンを描画したときの様子を誇張して示す。描画ユニットU1から基板P上に投射されるスポット光SPは、図13に示したように、描画ラインSL1に沿って-Y方向に走査される。また、図26では、一例として、ポリゴンミラーPMの反射面RP毎に描画ラインSL1に沿って走査されるスポット光SPの走査軌跡のうち、1、40、80、・・・、880のように40回毎、すなわち8面のポリゴンミラーPMが5回転する度に描画される走査軌跡のみを示す。さらに、スポット光SPによる主走査方向(Y方向)の描画開始点は、ポリゴンミラーPMの反射面RP毎にばらつかないように、図12で説明した遅延時間ΔTDを反射面RP毎に微調整することで、同一位置に設定されているものとする。
基板Pが指定された速度(基準速度Vdo、又は平均速度Vdr)で正確に移動して変動率βvがゼロ(%)の間、ポリゴンミラーPMの回転速度VR(rpm)は基準速度に設定され、描画ラインSL1に沿って描画可能な実効的な描画範囲は実効走査長LT(例えば50mm)になっている。スポット光SPの実効サイズφと同程度に設定される1画素の寸法を2μm角とした場合、実効走査長LT(50mm)は25000画素で構成される。さらに、光源装置LSからのビームLBの発振周波数Fa(周期Tf)と、ポリゴンミラーPMの回転速度VR(rpm)とは、先の式2で示したように、(φ/2)/Tf=(8・α・VR・LT)/60の関係、又は先の式3で示したように、(φ/Nsp)/Tf=(Np・α・VR・LT)/60の関係が維持されるように設定される。その為、ポリゴンミラーPMの回転速度VRを基準速度からの増加させる場合は、光源装置LSからのビームLBの発振周波数Faを増加(周期Tfを減少)させ、ポリゴンミラーPMの回転速度VRを基準速度からの減少させる場合は、光源装置LSからのビームLBの発振周波数Faを減少(周期Tfを増加)させる必要がある。
図26に示した走査軌跡1~880の各々は、基板Pの移動速度の変動率βvに追従してポリゴンミラーPMの回転速度VRを動的に微調整する際に、光源装置LSからのビームLBの発振周波数Fa(周期Tf)を動的に補正せずに、初期の一定周波数の下でパターン描画した場合の実効走査長LTの変動を誇張して模式的に表したものである。例えば、基板Pの移動速度の変動率βvが+0.02%になった場合、ポリゴンミラーPMの回転速度VRは、その変動率βvに追従して0.02%だけ増加される。これに伴って、基板P上のスポット光SPの走査速度Vspも0.02%だけ増加するので、光源装置LSからのビームLBの発振周波数Fa(周期Tf)が、変動率βv=0のときに設定された周波数のままだと、基板P上に周期Tfに対応して描画される実効走査長LTに含まれる25000画素の各々の主走査方向の寸法が0.02%だけ伸張(拡大)されることになり、その結果、図26の走査軌跡360付近では実効走査長LTが0.02%だけ拡大されることになる。逆に、基板Pの移動速度の変動率βvが-0.01%になった場合、ポリゴンミラーPMの回転速度VRは、その変動率βvに追従して0.01%だけ減少される。これに伴って、基板P上のスポット光SPの走査速度Vspも0.01%だけ減少するので、光源装置LSからのビームLBの発振周波数Fa(周期Tf)が、変動率βv=0のときに設定された周波数のままだと、基板P上に周期Tfに対応して描画される実効走査長LTに含まれる25000画素の各々の主走査方向の寸法が0.01%だけ収縮(縮小)されることになり、その結果、図26の走査軌跡800付近では実効走査長LTが0.01%だけ縮小されることになる。すなわち、基板Pに描画されるパターンの主走査方向に関する寸法誤差、所謂、描画倍率の誤差が生じる。
そこで、本実施の形態では、基板Pの移動速度の変動率βvに対応してポリゴンミラーPMの回転速度VR(rpm)を増減させると共に、その回転速度VR(rpm)を増減に対応して光源装置LSからのビームLBの発振周波数Fa(周期Tf)を微調整するように、図7に示した光源装置LS内の制御回路120にて、クロック信号LTCを生成する信号発生部120aを制御する。数百MHz台のクロック信号LTCの周波数(Fa)を0.01%(100ppm)以下の分解能で可変とする構成としては、水晶発振子からの安定なクロックパルスの累積加算値をアドレス値とするROM(Read Only Memory)内の正弦波の波形データを読み出してDA(Digital-Analog)コンバータにより正弦波信号を生成するダイレクト・デジタル・シンセサイザ(DDS)回路と、その正弦波信号を入力して所望の周波数のクロック信号LTCを出力するPLLシンセサイザ回路と、を組み合わせた周波数可変クロック発生器の回路構成が利用できる。或いは、信号発生部120aとして、国際公開第2015/152218号パンフレットや国際公開第2015/166910号パンフレットに開示されているように、スポット光SPの実効走査長LTに渡る1回の走査中の離散的な複数の時点の各々で、クロック信号LTCの1ヶ所の周期(Tf)を一定の割合(%)だけ短縮又は伸張させるような回路構成を設けても良い。
そのような回路構成を設けた信号発生部120aは、主走査方向に関する描画倍率を調整する倍率調整部として機能し、基板Pの移動速度の変動率βvに応答したポリゴンミラーPMの回転速度VRの増減に連動して、クロック信号LTCの周波数を増減、又はクロック信号LTCの周期Tfを部分的に増減させる。例えば、基板Pの移動速度の変動率βvが+0.02%になった場合、ポリゴンミラーPMの回転速度VRが変動率βvに追従して0.02%だけ増加されると共に、光源装置LSからのビームLBの発振周波数Faも0.02%だけ増加(周期Tfは0.02%だけ低減)される。逆に、基板Pの移動速度の変動率βvが-0.02%になった場合、ポリゴンミラーPMの回転速度VRが変動率βvに追従して0.02%だけ低減されると共に、光源装置LSからのビームLBの発振周波数Faも0.02%だけ低減(周期Tfは0.02%だけ増加)される。以上により、基板P上に描画される実効走査長LTに含まれる25000画素の各々の主走査方向の寸法は当初の値(2μm)に維持されることになり、実効走査長LTの伸縮が防止され、描画ユニットU1によって基板Pに描画されるパターンの副走査方向と主走査方向の各寸法は、設計情報(描画データ)で設定された通りの値となる。
また、基板Pの移動速度の変動率βvは、単純には、基板移動部材(回転ドラムDR、基板ステージ)の移動速度を計測する速度計測部(図8中のヘッド部EH1、EH2と回転位置検出部214)で求められる。しかしながら、基板P上に図13、図14のように副走査方向に一定の間隔で複数のマークMK1、MK4が形成され、それらのマークMK1、MK4を基準にしてパターン描画位置(特に副走査方向の位置)を制御して重ね合わせ露光する場合は、図14に示した特性FPXに基づいてポリゴンミラーPMの回転速度VRを動的に変化させても良い。その場合、ポリゴンミラーPMと走査用光学系(fθレンズ系FT)とを有する描画ユニットUnと、基板Pを副走査方向(X方向)に沿って所定速度で移動させる基板移動部材(回転ドラムDRや基板ステージ)と、副走査方向に沿って基板P上に所定間隔で形成される複数のマークMK1、MK4の各々を順次検出するアライメント系(AMn)と、基板移動部材の移動位置を計測する位置計測部(エンコーダヘッドEH1、EH2と回転位置検出部214、或いは測長干渉計)とによって、基板Pの副走査方向の移動位置の誤差(図14中の特性FPX)を計測する誤差計測部(図8中の描画制御装置200によって計測される)と、基板Pの移動位置の誤差(特性FPX)が低減されるように、ポリゴンミラーPMの回転速度VRを規定の値に対して逐次変化させる回転制御部(図8中のポリゴン制御部200B)とによって、パターン描画が行われる。
[第6の実施の形態]
先の図16で説明したように、描画ユニットUn内の平行平板HVPによる機械光学的なXシフター機構、又は選択用光学素子OSnによる電気光学的なXシフター機構を動作させると、ポリゴンミラーPMの反射面RPに投射されるビームLBnは、ポリゴンミラーPMの回転中心軸AXpの方向(副走査方向)に僅かに変位する。この種のポリゴンミラーPMの母材はアルミニウム等で作られ、反射面RPはアルミニウムの表面を光学研磨して平坦にした後、紫外波長域に対して高い反射率を持つ保護膜(酸化防止膜、誘電体多層膜等)でコートされている。しかしながら、ポリゴンミラーPMは高速回転する為に、雰囲気中に浮遊する数ミクロン~数十ミクロンのオーダーの塵埃が反射面RPと接触して擦れることにより、長期使用中に保護膜が徐々にダメージを受けることもある。保護膜にミクロンオーダーの細かい傷が増えてくると、描画用のビームLBnが紫外波長域であることから、反射面RPの反射率が低下することがある。また、8つの反射面RPの各々の反射率が面内で一律に低下した場合は、光源装置LSからのビームLBの強度を増加させるだけで、露光量の低下を抑えることが可能である。但し、ポリゴンミラーPMの8つの反射面RP毎に反射率が異なってくる場合、又は反射面RPの面内で反射率にムラが生じてきた場合は、光源装置LSからのビームLBの強度を調整するだけでは、描画されるパターンの露光量のムラを描画ユニットUnごとに補正することができない。
そこで本実施の形態では、ポリゴンミラーPMの反射面RP毎に、反射面内での平均的な反射率や反射率の位置的なムラによるビームLBn(スポット光SP)の強度変動の傾向を時々計測して、選択用光学素子OSnによる回折効率の調整によって描画用のビームLBnの強度が高速に補正されるように、図9に示した制御回路部250からの補正情報ΔACnによって駆動信号DFnの振幅を制御する。
ここで、ポリゴンミラーPMの反射面RPと、そこに投射される描画用のビームLBnとの配置関係について、図27を用いて説明する。図27は、8面のポリゴンミラーPMの1つの反射面RPに投射され、そこで反射してfθレンズ系FTに向かう描画用のビームLBnの様子を示す斜視図である。図27において、AXgは、先の図2に示したレンズ系Gu3の光軸であり、AXfはfθレンズ系FTの光軸である。光軸AXgに沿って反射面RP上に投射されるビームLBnは、図2中のシリンドリカルレンズCYaとレンズ系Gu3の合成系によって、反射面RP上では主走査方向(図27中のXY面と平行な面内)に関してスリット状に延びた集光スポットSPsとなる。ポリゴンミラーPMの1つの反射面RPの主走査方向に関する寸法(便宜上、長辺寸法とする)をLpmとし、副走査方向(回転中心軸AXpの方向であってZ軸と平行な方向)に関する寸法(便宜上、短辺寸法とする)をHpmとしたとき、スリット状の集光スポットSPsの主走査方向の寸法Lspと副走査方向の寸法Hspは、それぞれ、Lsp<Lpm、Hsp<Hpmに設定される。
平行平板HVPによる機械光学的なXシフター機構、及び選択用光学素子OSnによる電気光学的なXシフター機構を中立状態(初期状態)に設定した場合、スリット状の集光スポットSPsは副走査方向(Z軸方向)に関して反射面RP上の中央に位置する。先の図16で説明したように、平行平板HVPによる機械光学的なXシフター機構、又は選択用光学素子OSnによる電気光学的なXシフター機構を動作させると、集光スポットSPsは反射面RP上で副走査方向(Z軸方向)にシフトされる。選択用光学素子OSnによる電気光学的なXシフター機構は、選択用光学素子OSnの特性に起因してシフト可能な範囲が小さく、集光スポットSPsは反射面RPの短辺寸法Hpm内で余裕を持って副走査方向に微少シフトする。一方、平行平板HVPによる機械光学的なXシフター機構は、平行平板HVPの傾斜角ηを中立位置から増大させたときに、集光スポットSPsが副走査方向にシフトして反射面RPの短辺寸法Hpmからはみ出さないような範囲で使用される。
また、1つの反射面RP上に投射される集光スポットSPsは、8面のポリゴンミラーPMの場合、45°の回転角度中で走査効率1/αに対応した角度(45°/α)だけ回転する間、反射面RP上を主走査方向(長辺寸法Lpmの方向)に移動する。すなわち、集光スポットSPsの主走査方向の寸法Lspは、ポリゴンミラーPMが角度(45°/α)だけ回転する間、反射面RPの長辺寸法Lpmからはみ出さないように設定されている。なお、集光スポットSPsの主走査方向の寸法Lspは、以降のfθレンズ系FTによって基板P上にスポット光SPとして集光されるビームLBnの主走査方向の開口数(NA)を規定し、開口数を大きくする、すなわち集光スポットSPsの寸法Lspを大きくすることよって、基板P上に投射されるスポット光SPの実効的なサイズφを小さくすることができる。本実施の形態では、基板P上で必要とされるスポット光SPの実効サイズφ、fθレンズ系FTの焦点距離、及びビームLBnの波長とに基づいて、集光スポットSPsの寸法Lspが決定され、さらに、fθレンズ系FTに入射するビームLBnの走査角範囲(光軸AXfに対する角度範囲)で決まるポリゴンミラーPMの回転角度(45°/α)の間、集光スポットSPsの全体が主走査方向に関して1つの反射面RPからはみ出さないという関係を満たすように、反射面RPの長辺寸法Lpmが設定されている。
以上のことから、特に平行平板HVPによる機械光学的なXシフター機構を動作させて、基板P上のスポット光SPを副走査方向に大きくシフトさせる場合、スリット状の集光スポットSPsは、ポリゴンミラーPMの1つの反射面RP上を主走査方向に長辺寸法Lpmに渡って移動するだけでなく、副走査方向にも短辺寸法Hpmに渡って移動することになり、反射面RPの全面のどこかに部分的に反射率が低下するように変化する部分(反射ムラ)が生じると、その反射ムラに起因して、基板Pに描画されるパターンの露光量が部分的に低下することになる。
図28は、部分的に反射率が変化した状態の反射面RPの一例を示し、反射面RPは、ポリゴンミラーPMの回転により、図28中では集光スポットSPsに対して右から左に移動する。従って、反射面RP内で見ると、集光スポットSPsが反射面RPの長辺寸法Lpmに渡って左から右に移動していく。図28では、反射率が低下した部分として、反射ムラ部分DB1と反射ムラ部分DB2を例示する。反射ムラ部分DB1は、例えば、描画ユニットUn内の駆動機構や可動機構に使われている潤滑剤(オイル、グリス)等がミストとなって飛散した際に、薄膜状になって反射面RPの右側(ポリゴンミラーPMの回転方向の逆側)の部分に付着したものである。また、反射ムラ部分DB2は、例えば、経年変化により、反射面RPの表面にコートされていた保護膜のうち、反射面RPの下側(Z軸の負側)の部分が劣化した状態を表している。集光スポットSPsは、この反射面RPによるビームLBnの1回の偏向走査の間の描画時間TSn(図12参照)内に、反射面RPの長辺寸法Lpmに渡って左から右に移動する。
図28のように、集光スポットSPsが副走査方向に関して反射面RP上の中央(短辺寸法Hpmのほぼ中央)に位置した状態でパターン描画が行われた場合、集光スポットSPsは、描画時間TSnの開始直後から反射面RP内の反射ムラ部分DB1を照射し始め、描画時間TSnの中間点以降では反射ムラ部分DB1の全体を覆うように照射される。このような反射ムラ部分DB1が反射面RP上に存在すると、反射ムラ部分DB1での反射率の低下の度合いにも依るが、基板P上に投射されるスポット光SPの強度(照度)は、例えば、図29(A)で示す特性INaのようになる。図29は、先の図12と同様に、原点信号SZnのパルスの立ち上りから所定の遅延時間ΔTD後に、描画時間TSnの間に送出される描画ビット列データSDnの波形と共に、図28のような反射面RPで走査されるスポット光SPの強度変化の一例を示すグラフであり、図29(A)の特性INaは、図28中の反射ムラ部分DB1のみの影響によるスポット光SPの強度変化の一例を示すグラフである。図29(A)において、縦軸はスポット光SPの強度(照度)を表し、横軸は時間を表す。反射面RP上で集光スポットSPsが主走査方向に移動する間に反射率が低下する部分が無い場合に得られる基板P上のスポット光SPの強度を規定値Inr(基板Pの感光層に適正露光量を与える為の強度値)とする。図28に示した反射面RP上の反射ムラ部分DB1の影響により、スポット光SPの強度は、描画時間TSn内の走査開始直後は規定値Inrになっているが、描画時間TSnの中間時点以降は徐々に低下し、描画時間TSnの終了時点では規定値InrからΔInaだけ減衰している。スポット光SPの強度が感光層に適正露光量を与える為に必要な許容範囲から外れている場合、描画時間TSn内に描画されるパターンは露光量不足となり、パターン品質は大幅に悪化する。
また、平行平板HVPによる機械光学的なXシフター機構の動作により、図28の反射面RP上で、集光スポットSPsが副走査方向の-Z方向に変位して、短辺寸法Hpm内の最も下側に位置したとすると、反射面RP上の反射ムラ部分DB2の影響により、図29(B)の特性INbに示すように、スポット光SPの強度は、描画時間TSn内の走査開始時に規定値Inrよりも大幅に低下した値で始まり、描画時間TSnの経過に伴って徐々に上昇するような傾向となる。特性INbの場合、スポット光SPの強度は、描画時間TSnの開始時点が最も低く、規定値Inrから減衰量ΔInbだけ低下している。なお、反射面RP上に反射ムラ部分DB2のみが存在している場合、平行平板HVPによる機械光学的なXシフター機構の動作により、集光スポットSPsが反射面RP上の上方部分(+Z方向側)から図28のような中央部分まで連続的に変位されている間、描画時間TSn内でのスポット光SPの強度は、特性INb’のようにほぼ規定値Inrで安定している。しかしながら、集光スポットSPsが反射面RP上の中央部分から下方部分(-Z方向側)まで連続的に変位されている間、描画時間TSn内でスポット光SPの強度は、ほぼ規定値Inrで安定していた状態(特性INb’)から、徐々に図29(B)の特性INbに変移していくことなる。
そこで本実施の形態では、ポリゴンミラーPMの8つの反射面RPの各々について、平行平板HVPによる機械光学的なXシフター機構の動作によって、描画時間TSn内でのスポット光SPの強度変化の特性を予め計測し、反射面RP上の反射ムラ部分の影響によって、適正露光量が得られる許容範囲以上にスポット光SPの強度が変動している場合には、その強度変動も補正されるように、図9に示した制御回路部250が出力する補正情報ΔACnを生成し、選択用光学素子OSnの駆動信号DFnの振幅制御(振幅変調)によって回折効率を調整して描画用のビームLBnの強度を高速に補正する。従って、本実施の形態では、選択用光学素子OSnと図9の回路部CCBn、制御回路部250等が、ビームLBnの強度を補正する強度調整部として機能する。その場合、ポリゴンミラーPMの各反射面RPで反射された後のビームLBnの強度変化を計測する必要がある。本実施の形態では、以下の3つの計測方法(第1~第3の計測方法)のいずれかによって、ポリゴンミラーPMの各反射面RPの反射ムラ部分の影響によるスポット光SPの強度変化特性を計測し、強度補正が必要な反射面RPに対しては補正情報ΔACn用のデータ(補正カーブ特性)を、ポリゴンミラーPMの反射面RP毎に生成する。
〔第1の計測方法〕
第1の計測方法は、描画ラインSLnに沿った実効走査長LT内に一定間隔(例えば、実効走査長LTの1/10の間隔)で配置される解像力チャート等の計測用パターンを、平行平板HVPによる機械光学的なXシフター機構をストローク可能範囲で段階的に変化させながら、ポリゴンミラーPMの反射面RP毎にテストプリント(テスト露光)する方法である。この第1の計測方法では、感光層が形成された枚葉のシート基板を回転ドラムDRの外周面に巻き付けて密着固定する。枚葉のシート基板は、長尺の基板Pと同じ材質のものでも良いが、回転ドラムDRへの巻き付けの際の変形を少なくする為に、基板Pとほぼ同じ厚みで剛性(ヤング率)が高い金属箔(極薄のステンレスシート等)や極薄のシートガラス、或いは長尺の基板Pと同じPET、PEN等の樹脂製のフィルムシートの表面にアルミニウムや銅の層を1μm~数μm程度の厚さで積層したものでも良い。
図30は、テスト露光用に用意された枚葉のシート基板(以下、テスト用基板P’とする)に、1つの描画ユニットUnによって描画されるテストパターンの配列の一例を模式的に示したものである。描画ユニットUnによるスポット光SPの実効走査長LT(パターン描画が可能な最大範囲)内には、主走査方向(Y方向)に一定間隔で配置される10個の計測パターン領域TE0、TE1、TE2、・・・TE9(総称する場合はTEjとする)が設けられる。矩形状の計測パターン領域TEjの各々のテスト用基板P’上での寸法は1mm角~2mm角程度であり、実効走査長LTを50mmとした場合、Y方向の両端側の計測パターン領域TE0、TE9の各中心点は、実効走査長LTの端部から約2.5mm内側に配置され、計測パターン領域TE0~TE9の各々の中心点はY方向に約5mmの間隔で配置される。計測パターン領域TEj内には、図30の下部に示すように、副走査方向(X方向)に延びたラインパターンを主走査方向(Y方向)に一定ピッチで配置したライン&スペース(L&S)パターンを、ライン幅とピッチとを段階的に異ならせてY方向に並べた縦のL&Sテストパターン群TSPvと、主走査方向に延びたラインパターンを副走査方向に一定ピッチで配置したライン&スペース(L&S)パターンを、ライン幅とピッチとを段階的に異ならせてY方向に並べた横のL&Sテストパターン群TSPhとが、解像力チャートとして設けられる。
さらに、計測パターン領域TEj内には、縦方向(副走査方向)に細長い楔状パターンを横方向(主走査方向)に並べた縦の楔パターン群KSBvと、横方向(主走査方向)に細長い楔状パターンを縦方向(副走査方向)に並べた横の楔パターン群KSBhとが、露光量計測用パターン(ドーズモニター)として設けられている。楔パターン群KSBv、KSBhの各々は、白パターン部(スポット光SPで描画される露光部)又は黒パターン部(スポット光SPで描画されない未露光部)のうちで最も細くなっている先端部分KTp、或いは楔状パターンの長手方向の寸法が感光層の現像後にどの程度忠実に描画(露光)されたかを観察して、露光量の適否を判定する為に用いられる。なお、楔状パターンを露光して露光量の適否を判定する方法は、例えば米国特許第4908656号明細書に開示されている。
テスト露光の際には、主走査方向に沿って実効走査長LT内で一例に配置される10個の計測パターン領域TE0~TE9は、ポリゴンミラーPMの8つの反射面RPのうちの1つの反射面RPのみで描画されるように、図12に示した原点信号SZnの波形上のパルス変化(立ち上がりタイミング)の8回のうちの1回に応答して、計測パターン領域TEj内の計測用パターン群(TSPv、TSPh、KSBv、KSBh)に対応して生成された描画データを描画する。そこで、ポリゴンミラーPMの8つの反射面RPを、それぞれ反射面RPa、RPb、RPc、RPd、RPe、RPf、RPg、RPhとする。8つの反射面RPa~RPhのうち、どの反射面を使って計測パターン領域TEj内に計測用パターン群(TSPv、TSPh、KSBv、KSBh)を描画するかは、ポリゴンミラーPMが1回転する毎にモータRM(図2、図8参照)内のエンコーダから出力されるゼロ点パルス信号によって特定される。従って、図30に示すように、副走査方向(X方向)の1列目に配置される10個の計測パターン領域TE0~TE9は、ポリゴンミラーPMの反射面RPaのみで描画され、副走査方向の2列目に配置される10個の計測パターン領域TE0~TE9は、ポリゴンミラーPMの反射面RPbのみで描画され、以下同様に、3列目~8列目の各々の計測パターン領域TEj(10個)は、それぞれポリゴンミラーPMの反射面RPc~RPhの順にいずれかのみで描画される。このように、テスト露光は、ポリゴンミラーPMの1回転中に1つの反射面のみによってスポット光SPが1回走査される面飛ばし走査で行われる為、テスト露光の際は、回転ドラムDRの回転速度を調整して、テスト用基板P’の移動速度が、ポリゴンミラーPMの8つの反射面RPの全てを使ってパターン描画する際に設定される基準速度Vdo(又は平均速度Vdr)の1/8(1/反射面数)に低下するように設定される。
さらに、テスト露光の際には、平行平板HVPによる機械光学的なXシフター機構をストローク範囲で段階的に変化させる。具体的には、図30に示すように、8つの反射面RPa~RPhの各々で描画される最初の8列分の計測パターン領域TEj(10個×8列)を露光する間は、平行平板HVPの傾斜角ηをη0に設定する。傾斜角η0は、例えば、図28において集光スポットSPsがポリゴンミラーPMの反射面RP(RPa~RPh)上で、最も上方(+Z方向)に位置するような値(ストローク範囲の上限)とされる。引き続き、8つの反射面RPa~RPhの各々で描画される次の8列分の計測パターン領域TEj(10個×8列)を露光する間は、平行平板HVPの傾斜角ηがη1に設定される。以下同様にして、8つの反射面RPa~RPhの各々で描画される8列分の計測パターン領域TEj(10個×8列)を露光する度に、平行平板HVPの傾斜角ηをη2、η3、・・・と変え、最後に8つの反射面RPa~RPhの各々で描画される8列分の計測パターン領域TEj(10個×8列)を露光する際は、図28において集光スポットSPsがポリゴンミラーPMの反射面RP(RPa~RPh)上で、最も下方(-Z方向)に位置するような値(ストローク範囲の下限)とされるように、平行平板HVPの傾斜角ηが設定される。平行平板HVPの傾斜角ηのη0→η1、η1→η2、・・・の段階的な変化量Δηnは、ストローク範囲内で適宜設定可能であるが、一例としては、図27に示した集光スポットSPsが副走査方向(Z方向)に寸法Hspだけ変位するような量に設定される。他の例としては、集光スポットSPsが反射面RP(RPa~RPh)の短辺寸法Hpm内で副走査方向に変位可能なストローク範囲を適当な数で分割(例えば10分割)し、その分割された数だけ集光スポットSPsが段階的に副走査方向(Z方向)に変位するように、平行平板HVPの傾斜角の変化量Δηnを設定しても良い。
図30において、1つの計測パターン領域TEjの寸法は2mm角程度である為、8つの反射面RPa~RPhの各々で順次計測パターン領域TEjを露光する際は、副走査方向に並ぶ計測パターン領域TEjの中心間隔が2mm以上になっていれば良い。しかしながら、後の検査時の視認性を考慮して、8つの反射面RPa~RPhの各々で順次計測パターン領域TEjを露光する際は、中心間隔を4mm程度にする。さらに、平行平板HVPの傾斜角ηを変化量Δηnだけ調整した後に露光される計測パターン領域TEjの列と、その直前に露光された計測パターン領域TEjの列、すなわち、ポリゴンミラーPMの反射面RPhのみで露光された計測パターン領域TEjの列とポリゴンミラーPMの反射面RPaのみで露光された計測パターン領域TEjの列とは、検査時の視認性を考慮して、副走査方向に12mm程度だけ隙間を空けて並ぶように露光される。従って、図30において、平行平板HVPの傾斜角が傾斜角η0、η1、η2・・・のいずれかに設定された状態で露光される8列分の計測パターン領域TEj(10個×8列)の副走査方向の長さは、約30mm(4mm×7+2mm)となり、設定される平行平板HVPの傾斜角ηがη0~η9の10点だとすると、ポリゴンミラーPMの8つの反射面RPa~RPhの各々で露光される計測パターン領域TEjの列は80列(8列×10点)となる。テスト用基板P’上において、その80列分に渡るテスト露光領域の副走査方向に関する寸法は、約408mm(30mm×10点+12mm×9)となる。よって、枚葉のテスト用基板P’の副走査方向に関する長さは、奇数番の描画ラインSL1、SL3、SL5と偶数番の描画ラインSL2、SL4、SL6との副走査方向の間隔(図20で一例として説明した角度2θmに対応した周長距離61.261mm)と、テスト用基板P’の回転ドラムDRへの貼り付け時の周囲余白部(約20mm)とを加味して500mm以上であれば良い。
以上のようなテスト露光は、同時に他の描画ユニットUnの各々でも同様に実行され、テスト露光されたテスト用基板P’は回転ドラムDRから取り外されて、現像処理、乾燥処理、或いは必要であれば銅箔層やアルミニウム層のエッチング等を経た後、顕微鏡で拡大されたパターン像を撮像してパターン像の一部の寸法や線幅等を計測する検査装置に装着される。検査装置は、パターン描画装置EXと同様の回転ドラムDRとエンコーダ計測システム(スケール部材ESDとエンコーダヘッドEHn等)とを備えたロールステージ部と、回転ドラムの外周面に巻き付けられたテスト用基板P’上で、回転ドラムの回転軸の方向に並んだ複数の計測パターン領域TEjの各々に形成された計測用パターン群(TSPv、TSPh、KSBv、KSBh)の拡大像を選択的に撮像する為に、回転軸の方向に直線移動可能に設けられた単一又は複数の顕微鏡システム(アライメント系AMnと同等の構成)とを備えている。
検査装置の回転ドラムに巻き付けられたテスト用基板P’に形成された計測用パターン群(TSPv、TSPh、KSBv、KSBh)の各々は、回転ドラムの定速回転中に、顕微鏡システムの回転軸方向への移動も行いながら、撮像素子(CCD、CMOS)によって順次キャプチャーされ、形成されたL&Sテストパターン群TSPv、TSPhの線幅の状態、或いは楔パターン群KSBv、KSBhの先端部分KTpの形状や楔状パターンの長手方向の寸法等が画像解析によって計測される。
図31は、一例として、ポリゴンミラーPMの反射面RPaのみで描画された計測パターン領域TEj毎の計測用パターン群(TSPv、TSPh、KSBv、KSBh)の描画誤差(線幅誤差や寸法誤差等)の計測結果を模式的に表したグラフである。図31において、横軸は実効走査長LT内での計測パターン領域TE0~TE9の各位置を表し、縦軸は描画されたL&Sテストパターン群TSPv、TSPhにおける解像線幅の誤差、或いは楔パターン群KSBv、KSBhの先端部分KTpの形状(寸法)誤差や楔状パターンの長手方向の寸法誤差の設計値からの偏差(%)を表す。特に、楔パターン群KSBv、KSBhの楔状パターンの長手方向の寸法誤差は、露光量の変化に対して敏感に変化する。
また、図31では、テスト露光時に設定された平行平板HVPの傾斜角η0~η9のうちのη0、η2、η4、η6、η8の各々で露光されたL&Sテストパターン群TSPv、TSPhや楔パターン群KSBv、KSBhから求められた描画誤差をプロットしてある。このような計測結果によると、平行平板HVPの傾斜角がη0~η4(又はη5)までの間は、実効走査長LT内の各位置で描画誤差(線幅誤差等や楔パターンの寸法誤差等)が許容範囲内(例えば、設計値に対して±10%以内)であって、適正な露光量(ビームLBnの強度の適正範囲)が得られていることが判る。しかしながら、平行平板HVPの傾斜角がη6以降(η6~η9)になると、描画誤差(線幅誤差等や楔パターンの寸法誤差等)が許容範囲から外れ出し、適正な露光量が得られていないことが判る。そこで、ポリゴンミラーPMの反射面RPaによるパターン描画の際は、平行平板HVPの傾斜角ηをη6~η9と変化させていく際には、基板Pに投射されるビームLBnの強度が実効走査長LT内で連続的に許容範囲内になるように補正される。同様に、他の反射面RPb~RPhの各々についても、平行平板HVPの傾斜角η0~η9毎の描画誤差(線幅誤差や寸法誤差等)を計測して、露光量が適正とみなせる許容範囲(ビームLBnの強度の適正範囲)から外れる場合は、同様にしてビームLBnの強度が補正される。
その補正の為に、先の図9に示した制御回路部250は、テスト露光による計測結果に基づいて、ポリゴンミラーPMの反射面RPa~RPh毎に作成される平行平板HVPの傾斜角η0~η9の各々における強度補正特性に近似させたカーブ情報を記憶し、そのカーブ情報を、平行平板HVPの傾斜角ηに応じて切り替えて補正情報ΔACnとして原点信号SZnの各パルス波形の変化の度(反射面RP毎)に切り換えて出力する。
〔第2の計測方法〕
第2の計測方法は、パターン描画装置(露光装置)EXの回転ドラムDRに基板Pが掛け回されていない状態で、回転ドラムDRの外周面に形成された基準パターンを描画ラインSLn上に位置決めし、描画ユニットUnからのビームLBnのスポット光SPで、基準パターンを走査したときに発生する反射光の強度変化を、図2に示した光電センサDToからの光電信号Soに基づいて計測する方法である。回転ドラムDRの外周面に基準パターンを形成する構成は、例えば国際公開第2014/034161号パンフレットに開示されている。
図32は、描画ラインSLnに沿って回転ドラムDRの外周面上に一定間隔で形成された10ヶ所の基準パターンRMPa、RMPb、・・・RMPjの配置と、光電センサDToからの光電信号Soの波形の一例を示す。基準パターンRMPa、RMPb、・・・RMPjの各々は、例えば、線幅が100μmの線状パターンを描画ラインSLnに対して45°だけ傾けて十字状に交差させた形状で配置される。回転ドラムDRは、描画ラインSLn(スポット光SP)が基準パターンRMPa、RMPb、・・・RMPjの各々の十字状の交差部を横切るように回転して位置決めされる。そして、描画ラインSLn中の実効走査長LT内の全画素をオン状態(露光する状態)とする描画データに基づいて、スポット光SPによって実効走査長LT内の基準パターンRMPa、RMPb、・・・RMPjの各々が走査される。十字状に交差した基準パターンRMPa、RMPb、・・・RMPjの各々と、それらの周辺領域とでは、ビームLBnに対する反射率が異なるように設定される。図32では、基準パターンRMPa、RMPb、・・・RMPjの各々の反射率が周辺領域の反射率に対して大きくなるように設定されている。その為、図32の下部に示すように、光電センサDToは、スポット光SPが基準パターンRMPa、RMPb、・・・RMPjの各々の交差部を横切る度にパルス状に信号強度が大きくなる波形となる光電信号Soを出力する。但し、ビームLBn(スポット光SP)に対する基準パターンRMPa、RMPb、・・・RMPjの各々の反射率は20%よりも小さく設定するのが良い。
図32の下部に示すような光電信号Soの波形は、先の図6で説明した光量計測部202内のAD変換回路を介して波形メモリに保存される。光量計測部202内、又は図6や図8に示した描画制御装置(描画制御部)200内に設けられるCPUは、光電信号Soの波形中の基準パターンRMPa、RMPb、・・・RMPjの各々に対応した10個のピーク部の強度を求め、それら10個のピーク部の各々の強度が適正露光量となる規定値に対してどのように変化しているかを計測する。図32に示した光電信号Soの波形は、ポリゴンミラーPMの1つの反射面RPで得られた波形の一例であり、このような波形はポリゴンミラーPMの8つの反射面RPa~RPhの各々がビームLBnを走査する度に発生する。しかしながら、反射面RPa~RPhの各々に反射率の差やムラがある場合、反射面RPa~RPh毎に発生する光電信号Soの波形上の強度変化は同一にはならない。図32では、一例として、1つの反射面RPに関して得られた光電信号Soの波形が実効走査長LTの中間位置から走査終了位置の間で、強度が既定値から徐々に低下する傾向となっている。
本計測方法においても、平行平板HVPの傾斜角ηを、ストローク範囲の角度η0~η9の各々に変えては、図32のような光電信号Soの波形を得て、平行平板HVPの傾斜角η0~η9毎に、図29で示したような反射面RPa~RPhごとの反射率の変化やムラが計測できる。その際、平行平板HVPの傾斜角ηの変化に伴って、スポット光SPによる描画ラインSLnは基準パターンRMPa、RMPb、・・・RMPjの各々に対して副走査方向にシフトすることになる。図33は、代表して基準パターンRMPa上での描画ラインSLnのシフトの様子を模式的に示した図である。基準パターンRMPaを構成する斜め45度の線状パターンの各線幅を100μmとした場合、描画ラインSLnと平行で基準パターンRMPaの交差部の中心点を通る中心線CCL上に描画ラインSLnが位置すると、スポット光SPが基準パターンRMPa上を走査する長さは約140μmとなる。また、中心線CCLから副走査方向に約±70μmの範囲内では、スポット光SPが基準パターンRMPaの交差部上を走査し続けるので、基準パターンRMPaに対応した光電信号So中の波形は図32のような単一のパルス状となる。さらに、描画ラインSLnが中心線CCLから副走査方向に約±70μm以上に離れると、スポット光SPは基準パターンRMPaの交差部から外れて、交差前の2本の線状パターン(線幅100μm)の各々を横切るように走査される。その為、光電信号So中の基準パターンRMPaに対応した波形は2山のパルス状となる。本計測法においては、基準パターンRMPa、RMPb、・・・RMPjの各々に対応した光電信号So中の波形は単一のパルス状が望ましい。しかしながら、2山のパルス状となったとしても、その2山のパルス波形は主走査方向に極めて接近している為、そのピーク値は実質的に等しいとみなせるので、同様に実効走査長LT内でのスポット光SPの強度の変化傾向を計測することができる。なお、基準パターンRMPa、RMPb、・・・RMPjの各々は、副走査方向に直線的に延びた線状パターンであっても良いことは言うまでもない。
〔第3の計測方法〕
第3の計測方法は、パターン描画装置(露光装置)EXの描画ユニットUn内に設けられた光電センサDToからの光電信号Soを用いて、ポリゴンミラーPMの8つの反射面RPa~RPhの各々の反射率の変化や反射ムラを計測する点で、第2の計測方法と同様であるが、本計測方法では、デバイス製造用の基板Pが回転ドラムDRで支持された状態でも計測できるようにする。その為に、本計測方法では、回転を停止した回転ドラムDRの外周面で支持されている基板Pの表面上に、一定の反射率の領域を有するフレキシブルな薄い基準反射板(シート材)を重ねて載置する。基準反射板は、少なくとも描画ユニットUnの各々による描画ラインSLnを含む領域のみ、或いは全面に形成された反射膜を有する。基準反射板は、一例として、厚みが50~100μm、主走査方向の幅が回転ドラムDRの外周面の軸AXo方向の幅と同程度の寸法、副走査方向の長さが奇数番と偶数番の描画ラインSLnの周方向の間隔よりは長く、基板Pの回転ドラムDRの外周面と密着している周方向の長さよりは短い寸法となるような枚葉のポリイミドフィルムを母材として形成される。基準反射板は、ポリイミドフィルムの表面にNiP(ニッケル-リン)やCu(銅)による下地の金属層を形成し、さらにその表面に反射膜としてのAu(金)のメッキ層を積層して作られる。下地の金属層は、母材となるポリイミドフィルムの表面の全面に形成し、Au(金)のメッキ層は、6つの描画ラインSLnの各々を含む部分領域のみに選択的に形成しても良い。さらに、基準反射板の他の母材としては、100μm以下の厚みを有するステンレスの極薄シート材、湾曲可能な極薄のガラスシート材等を用いることができる。
図34は、そのような基準反射板RFSを回転ドラムDRの外周面で支持されている基板Pの上に重ね合せる様子を模式的に表した斜視図である。図34において、基準反射板RFSの表面には、奇数番の描画ラインSL1、SL3、SL5を含むような領域寸法でY方向(主走査方向)に細長く形成された反射膜RFaと、偶数番の描画ラインSL2、SL4、SL6を含むような領域寸法でY方向に細長く形成された反射膜RFbとが設けられている。反射膜RFa、RFbの副走査方向(周方向)の寸法は、基準反射板RFSの回転ドラムDRの外周面(基板P)上での人手による位置合わせ精度も考慮して設定されるが、一例としては5~15mm程度である。描画ラインSLn中の実効走査長LTを50mmとした場合、反射膜RFa、RFbの主走査方向(Y方向)の寸法は、250mm以上必要であるが、人手による位置合わせ精度も考慮して、260mm程度に設定される。
基準反射板RFSは、回転ドラムDRの外周面(基板Pの表面)と描画ユニットUnとの間の間隙内に人手によって挿入され、奇数番の描画ラインSL1、SL3、SL5が反射膜RFa上に位置し、偶数番の描画ラインSL2、SL4、SL6が反射膜RFb上に位置するように湾曲させて基板P上に重ね合わされる。ほぼ位置ずれなく重ね合わされたら、基準反射板RFSの4隅のエッジ部RFcを、回転ドラムDRの外周面のY方向の両端部DRa、DRbに粘着テープ等で固定する。その際、基準反射板RFSは、下方の基板Pとしっかり密着するような適度なテンションを与えながら、回転ドラムDRの両端部DRa、DRbに固定される。
本計測方法においても、平行平板HVPの傾斜角ηを、ストローク範囲の角度η0~η9の各々に変えては、描画ラインSLnの各々に沿った全画素をオン状態とする描画データに基づいてスポット光SPを走査しつつ、光電センサDToからの光電信号Soの波形をメモリに保存することにより、平行平板HVPの傾斜角η0~η9毎に、図29で示したような反射面RPa~RPhごとの反射率の変化やムラが計測できる。なお、基準反射板RFS上の反射膜RFa、RFbの各々を、副走査方向に延びたラインパターンを主走査方向に一定ピッチで形成した反射型の回折格子パターン又はL&Sパターンとしても良い。この場合、回折格子又はL&Sを成す多数のラインパターンの各々はAu(金)による反射膜として形成されるので、光電センサDToからの光電信号Soの波形は、回折格子パターンやL&Sパターンのピッチに応じて周期的にレベル変化する波形となる。
基準反射板RFSを用いた計測方法では、基本的には回転ドラムDRを静止させておくが、描画ラインSLnと基準反射板RFS上の反射膜RFa、RFb(又は回折格子パターン又はL&Sパターン)とを相対的に副走査方向に意図的に微少量変位させるように、回転ドラムDRを僅かな角度だけ回転(これに伴って基板Pも僅かに移動)させて、同じような計測を繰り返しても良い。また、基準反射板RFSが重ねられる基板P上の領域は、基板Pの長尺方向に配列される複数のパターン形成領域APF(図13参照)の間の余白部のうち、特定の余白部を基準反射板RFSの副走査方向の寸法以上に長く設定した領域とすることもできる。さらに、基準反射板RFSの表面に形成される反射膜RFa、RFb(又は回折格子パターン又はL&Sパターン)は、描画ラインSLnの各々の範囲内で部分的な反射率の低下(ムラ)が生じると、基準として使用できない。その為、基準反射板RFSは清浄な環境内で保管すると共に、時々、反射率のムラが生じていないかを別の計測器で検定するのが良い。
以上で説明した3つの計測方法のいずれかによって、ポリゴンミラーPMの反射面RPa~RPhの各々の反射率の差、各反射面RPa~RPhの反射ムラ等を定期的に精密に計測することができるので、基板P上に電子デバイス用の実パターンを描画する際の局所的な露光量のムラを高精度に補正することができ、基板P上に連続して形成される電子デバイス(薄膜トランジスタ、有機EL発光素子、センサー素子、微細化多層配線等)の品質を長期間に渡って安定に維持することが可能となる。
[第7の実施の形態]
先の図27~図29にて説明したように、ポリゴンミラーPMの反射面RPa~RPhの各々の反射率の差、各反射面RPa~RPhの反射ムラ等に起因したスポット光SPの強度変動は、先の図9で説明した選択用素子制御部200Aで生成される駆動信号DFnの印加/非印加によってスイッチングされる音響光学変調素子による選択用光学素子OSnを用いて、駆動信号(高周波信号)DFnの振幅(RF電力)をポリゴンミラーPMの反射面RPa~RPh毎に高速に調整(変調)することで補正した。このように、スポット光SP(ビームLBn)の強度を高速に変調させる為に、本実施の形態では、例えば、国際公開第2017/057415号パンフレットに開示されているように、回折現象を使わない電気光学素子と偏光ビームスプリッタとを組み合わせたビーム強度変調機構を用いても良い。電気光学素子は、ポッケルス効果又はカー効果を奏する結晶体に入射するビーム(直線偏光)の偏光方向を、結晶体に印加される電圧(電界)に応じて回転させて射出する光学素子である。電気光学素子を通ったビームを、偏光ビームスプリッタ(偏光板、検光子でも良い)に通すと、偏光ビームスプリッタの偏光分離面(又は偏光板、検光子)から特定方向の直線偏光成分のみを取り出すことができる。取り出される直線偏光成分の強度は、電気光学素子に印加された電圧に応じて回転して射出されるビームの偏光方向に応じて、偏光ビームスプリッタ(又は偏光板や検光子)の透過率(例えば90%)と消光比(例えば1/100)で決まる範囲内で高速に変調可能である。
このように、電気光学素子と偏光ビームスプリッタ(又は偏光板や検光子)を組み合わせたビーム強度調整機構は、先の図1、又は図6に示したビーム切換部の6つの選択用光学素子OS1~OS6の各々を通って描画ユニットU1~U6の各々に向かうビームLB1~LB6nの各光路中に設けることができる。しかしながら、図6で説明したように、6つの選択用光学素子OS1~OS6は、光源装置LSからのビームLBをシリアルに通すように配置され、且つ、いずれか1つのみがビームLBの回折ビームである描画用のビームLBnを、ポリゴンミラーPMの1つの反射面によるスポット光SPの走査時間(図12中の描画時間TSn)の間だけ発生するようなスイッチ信号LPnで駆動制御される。その為、電気光学素子と偏光ビームスプリッタ(又は偏光板や検光子)を組み合わせたビーム強度調整機構は、図1、又は図6に示した光源装置LSからビーム切換部の最初(1段目)の選択用光学素子OS5までの光路中であって、ビームLBが細い平行光束になっている区間にだけ設けることができる。
この場合、スイッチ信号LPnでオン状態とされる1つの選択用光学素子OSnに対応した1つの描画ユニットUn内のポリゴンミラーPMの反射面RPa~RPhのいずれか1つの反射率低下や反射ムラに起因するスポット光SPの強度変動(描画時間TSn中)を補正するような強度補正データ(強度変調特性)が、先の図30~図34で説明した3通りの計測方法のいずれかによって作成される。ビーム強度調整機構の電気光学素子には、選択された描画ユニットUnのポリゴンミラーPMの反射面RPa~RPhのうちの1つに対応した強度補正データ(強度変調特性)に従って強度変調される電圧が順次印加される。このように、ポリゴンミラーPMの反射面RPa~RPhの各々の反射率の差や反射ムラによるスポット光SPの強度変動を電気光学素子と偏光ビームスプリッタ(又は偏光板や検光子)を組み合わせたビーム強度調整機構を設けると、音響光学変調素子による選択用光学素子OSnの各々を、反射面RPa~RPhの各々の反射率の差や反射ムラに起因したスポット光SPの強度補正に利用しなくても良くなると共に、光源装置LSからのビームLBの強度の変動(パルス光のピーク強度の緩やかな変動)に対しても、1ヶ所のビーム強度調整機構(電気光学素子)で簡単に調整可能となる為、スポット光SP(ビームLBn)の強度補正の制御上の自由度が広がる。