「概要」
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1には、一実施形態に係るイオン検出装置10の概略構成が示されている。
このイオン検出装置10は、イオン発生部100、イオンフィルタ部200、検出部600、及び制御部900などを備えている。なお、ここでは、XYZ3次元直交座標系を用い、被測定分子の進行方向を+Z方向とする。
イオン発生部100は、被測定分子をイオン化する。イオンフィルタ部200は、イオン発生部100からのイオンを選別する。検出部600は、イオンフィルタ部200で選別されたイオンを検出する。制御部900は、装置全体を制御する。
イオン検出装置10の基本的な検出原理について説明する。
イオンフィルタ部200は、対向して配置された2つの電極(電極A、電極B)を有している。
イオンは、電界Eの環境下では次の(1)式で示される移動速度Vで移動する。ここで、Kは、該イオンの移動度である。
V=K×E ……(1)
ところで、イオンの移動度には電界強度依存性がある。そして、この電界強度依存性は、イオンの種類によって異なっている。図2には、一例として、種類が異なる3つのイオン(イオンA、イオンB、イオンC)における移動度の電界強度依存性が示されている。なお、図2では、分かりやすくするため、各イオンの移動度が電界強度0で等しくなるように正規化されている。
3つのイオン(イオンA、イオンB、イオンC)の移動度は、電界強度が9kV/cm以下の低電界強度ではほぼ変化なしである。電界強度が約10kV/cmから増すにつれてイオンの種類固有の特性が移動度に現れる。イオンAの移動度は、電界強度が増加するに従って大きく増加し、Emaxで最大となる。イオンBの移動度は、イオンAよりも緩やかに増加する。イオンCの移動度は、緩やかに減少する。このように三者三様の特性を示している。イオンフィルタ部200は、低電界強度での移動度と高電界強度での移動度との違いを利用してイオンの選別を行う。
図3には、イオンフィルタ部200の電極間における3つのイオン(イオンA、イオンB、イオンC)の移動の軌跡が示されている。なお、ここでは、分かりやすくするため、便宜的に、電極A及び電極Bを導電体でできた平行平板としている。
電極Aと電極Bとの間に発生する電界の波形を非対称電界波形とすることによって、任意のイオン(図3では、イオンB)のみを検出部600に到達させることができる。
図4には、電極Aと電極Bとの間に発生させる電界波形の一例が示されている。この電界波形は、正の高電界(Emax)と負の低電界(Emin)を交互に繰り返している。そして、高電界の期間(t1)は低電界の期間(t2)よりも短く、t1とt2の比は1:3~1:5である。このように電界波形は、上下に関して非対称である。この非対称電界波形は、時間平均電界が零であり、次の(2)式が成り立つように設定されている。
|Emax|×t1=|Emin|×t2 ……(2)
すなわち、図4における領域Aの面積と領域Bの面積が一致するように設定されている。
なお、以下では、次の(3)式に示されるように、|Emax|×t1の値、及び|Emin|×t2の値をβとする。
|Emax|×t1=|Emin|×t2=β ……(3)
ところで、高電界の期間(t1)に、イオンがY軸方向に関して移動する速度Vupは、次の(4)式で示される。ここで、K(Emax)は、高電界(Emax)のときのイオンの移動度である。
Vup=K(Emax)×|Emax| ……(4)
例えば、|Emax|が約10kV/cm以上の場合、3つのイオン(イオンA、イオンB、イオンC)では、イオン毎に移動度が異なる(図2参照)ので、3つのイオンの移動速度Vupは三者三様に異なる。すなわち、図5に示されるように、高電界の期間(t1)では、3つのイオンの移動軌跡の傾斜は互いに異なっている。
そして、高電界の期間(t1)に、イオンがY軸方向に関して移動した距離である変位yup(図5参照)は、次の(5)式で示される。
yup=Vup×t1 ……(5)
一方、低電界の期間(t2)に、イオンがY軸方向に関して移動する速度Vdownは、次の(6)式で示される。ここで、K(Emin)は、低電界(Emin)のときのイオンの移動度である。
Vdown=-K(Emin)×|Emin| ……(6)
例えば、|Emin|が約5kV/cm以下の場合、3つのイオン(イオンA、イオンB、イオンC)では、移動度がほぼ同一である(図2参照)ので、3つのイオンの移動速度Vdownはほぼ同一である。すなわち、図5に示されるように、低電界の期間(t2)では、3つのイオンの移動軌跡の傾斜はほぼ同じである。
そして、低電界の期間(t2)に、イオンがY軸方向に関して移動した距離である変位ydown(図5参照)は、次の(7)式で示される。
ydown=Vdown×t2 ……(7)
非対称電界波形の1周期(T)内では、イオンは、+Z方向に移動しつつ、期間t1の間に+Y方向に移動し、期間t2の間に-Y方向に移動する。
そこで、図5に示されるように、ジグザグ運動を繰り返しながら電極Aに向かうもの(イオンA)と、ジグザグ運動を繰り返しながら電極Bに向かうもの(イオンC)と、+Y方向の変位と-Y方向の変位とが釣り合い、検出部に向かうもの(イオンB)とに分かれることとなる。
ところで、非対称電界波形における1周期(T)での、イオンのY軸方向に関する平均変位ΔyRFは、次の(8)式で表される。
ΔyRF=yup+ydown
=K(Emax)×|Emax|×t1-K(Emin)×|Emin|×t2 ……(8)
そして、上記(8)式は、上記(3)式を用いて次の(9)式のように表すことができる。
ΔyRF=β{K(Emax)-K(min)} ……(9)
ここで、K(Emax)-K(min)をΔKとおくと、上記(9)式は次の(10)式のように表される。
ΔyRF=βΔK ……(10)
βは電極Aと電極Bとの間に印加される非対称電界で決まる定数である。そこで、非対称電界波形の1周期(T)あたりのイオンのY軸方向に関する変位は、低電界(Emin)での移動度と高電界(Emax)での移動度の差分であるΔKに依存する。
キャリアガスだけがイオンをZ軸方向に移送させると仮定すると、イオンが電極Aと電極Bとの間に滞在しているときの、該イオンのY軸方向に関する変位Yは、次の(11)式となる。ここで、tresは、イオンが電極Aと電極Bとの間に滞在している平均時間(平均イオン滞在時間)である。
平均イオン滞在時間tresは、次の(12)式で表される。ここで、Aはイオンフィルタ部の断面積、LはZ軸方向に関する電極の長さ(電極深さ)(図5参照)、Qはキャリアガスの容積流量である。Vはイオンフィルタ部の容積(=AL)である。
上記(11)式は、上記(12)式及び上記(3)を用いて、次の(13)式のように表すことができる。ここで、Dは非対称電界波形のデューティであり、D=t1/Tである。
非対称電界波形における高電界Emax、イオンフィルタ部の容積V、非対称電界波形のデューティD、及びキャリアガスの容積流量Qについて、すべてのイオン種に対して同一の値を用いると、上記(13)式から、変位Yは、イオン種固有の低電界(Emin)での移動度と高電界(Emax)での移動度との差分ΔKに比例することがわかる。
なお、図5ではイオンBのみが、変位Yが最小であり、検出部600に到達することができるが、デューティDを変化させることによってイオンBとは異なるΔKを有するイオンを検出部600に到達させることができる。さらに、デューティDを小刻みに変化させていくことで、ΔKが異なる様々なイオンの有無や量を検出することができる。
また、イオン検出装置10において、ΔKが異なる様々なイオン種を検出する方法として、非対称電界波形に低強度のDC電界を重畳する方法がある。この方法によると、期間t1及び期間t2でのY軸方向に関する変位量を変化させることができる。そこで、電極A又は電極Bに接触せずに検出部600に到達することができるイオン種を連続的に変えることができる。なお、非対称電界波形に重畳するDC電界は補償電圧(CV:compensasion voltages)と呼ばれている。この方法では、補償電圧を掃引してΔKが異なる様々なイオン種の有無や量を検出する。
ところで、検出部600に到達する前に電極A又は電極Bに接触したイオンは、中和されてイオンでなくなり検出されない。
なお、制御部900は、従来のイオン検出装置における制御部とほぼ同様であるため、ここでは制御部900の動作についての詳細な説明は省略する。
「詳細」
イオン検出装置10は、電界強度が10kV/cm以上のときにイオン種によって移動度が異なることを利用してイオン検出を行なう。図2の例では、Emaxとして、20kV程度の電界強度を、イオンフィルタ部200における電極間に発生させることでイオン種を分別することになる。例えば、イオンフィルタ部200における電極間の距離を1mm(0.1cm)とすると、20kV/cmの電界を発生させるために電極間に印加される電圧Vmaxは、次の(14)式に示されるように2kVとなる。
Vmax=20kV/cm×0.1cm=2kV ……(14)
イオン検出装置を設備として設置場所を固定して使用する場合は、AC電源が使用できるので電圧や消費電力に関して問題なかった。また、設置場所が確保できれば多少外形が大きくても問題になることはなかった。しかし、従来のイオン検出装置を電池駆動とし、可搬性のある小型装置として実現しようとすると、数V~十数Vの電池電源から交流電圧Vdとして数十V~数百Vを発生させねばならず、昇圧回路や高耐圧部品の使用などが必要となり、機器の小型化と低消費電力化の障害となっていた。
低い電圧で同じ電界強度を実現するためには、イオンフィルタ部における電極の間隔を小さくすれば良い。例えば、電極の間隔を1μm(0.0001cm)にすると、2Vの電圧で20kV/cmの電界強度を実現することができる。
ところで、特許文献1では、電極をLIGA(Lithographie Galvanoformung Abformung)プロセスで試作したことが記載されている。一方、本実施形態では、半導体製造で使用されているSOI(Silicon On Insulator)と呼ばれるウエハを使用して電極を実現している。
電極の間隔と電極深さLの比であるアスペクト比を一定に保ったまま電極の間隔を小さくすると、電極深さLも小さくなるが構わない。例えば、電極の間隔が100μm、電極深さLが1000μmのアスペクト比10の従来例に対して、電極の間隔を1μmにし、アスペクト比10を維持すると電極深さLは10μmとなり、少ないエッチング量で済むこととなる。これは半導体製造で使われるディープ反応性イオンエッチング(DRIE:Deep Reactive Ion Etching)技術でシリコンをエッチングするのに十分可能な値である。
また、電極として櫛歯電極を用い、2つの櫛歯電極を互いの櫛歯が交互に噛み合うように対向して配置する場合、ある決まったチップ面積においてイオンが通過する流路であるイオンチャネルの面積を大きくしようとすると、櫛歯の幅を可能な限り小さい値、例えば1μmにする必要がある。
従来のイオンフィルタ部では、例えば、櫛歯の長さを1000μmとすると、櫛歯一本のアスペクト比は1000となり、応力や衝撃に対して非常に脆弱な形状となる。この場合、製造の際に必要なレジスト塗布、エッチングや搬送、洗浄といった工程では、櫛歯に力が加わり、櫛歯が変形したり、隣の櫛歯と接触したり、接触したまま櫛歯同士が付着するいわゆるスティッキング現象が起こったり、最悪の場合は破壊されるおそれがあった。
また、動作時には非対称電界波形を発生させるためのパルス信号が電極に印加される。その際に静電気力によって櫛歯が振動することも考えられる。本実施形態は、以上の不都合点を解決するものである。
図6には、本発明の一実施形態に係るイオンフィルタ部200が示されている。イオンフィルタ部200は、SOI(Silicon On Insulator)と呼ばれるウエハ基板を用いて製造される。このウエハ基板は、シリコン(Si)を主たる材料とし、LSI(大規模集積回路)の製造にも用いられるものである。なお、図6では、パッド電極部分が省略されている。また、図6では、各櫛歯電極における櫛歯の数をそれぞれ3個としているが、これは煩雑さを避けるため及び説明をわかりやすくするためであり、3個に限定されるものではない。
イオンフィルタ部200は、電極層201、BOX(Buried Oxide)層202、支持層203を有している。電極層201は、シリコン(Si)にあらかじめ燐(P)やホウ素(B)などの不純物をドーピングして電気抵抗を低く(電気伝導率を高く)した層である。BOX層202は、シリコン酸化膜(SiO2)でできている絶縁膜であり、電気抵抗が非常に高い層である。支持層203は、シリコン(Si)でできた層である。なお、支持層203は、電気抵抗の高い方が寄生キャパシタンスの影響が少なくなるので好ましい。
なお、ここでは、3つの層の積層方向をc軸方向とし、該c軸方向に直交する方向をa軸方向とし、c軸方向及びa軸方向のいずれにも直交する方向をb軸方向とする。
電極層201には、ab平面内において櫛歯電極211と櫛歯電極212とが分離して形成されている。なお、櫛歯電極211及び櫛歯電極212は、一部がBOX層202と接している。BOX層202は絶縁膜であるので、櫛歯電極211と櫛歯電極212は電気的に分離されていることになり、両者に異なる電圧を印加しても電流は流れない。BOX層202は支持層203に接しており、櫛歯電極211及び櫛歯電極212はその相対位置が固定されている。
なお、図6では隠れているが、櫛歯電極211と櫛歯電極212との隙間の一部に、その下のBOX層202と支持層203が取り除かれ、イオンがc軸方向に関して通過するための流路(イオンチャネル)が形成されている。
櫛歯電極211及び櫛歯電極212は、一方の櫛歯電極をGND(グラウンド)とし、他方の櫛歯電極に補償電圧(compensation voltages:CV)と呼ばれるDC電圧と分散電圧(dispersion fields:DF)と呼ばれる電圧パルスとが重畳された非対称電界波形信号が印加される。
すなわち、イオンフィルタ部200には、駆動回路(制御部900の一部)を介して非対称電界波形信号(電圧信号)が印加される。そして、この駆動回路は出力インピーダンスを有している。また、非対称電界波形信号が印加されるとイオンフィルタ部200には負荷容量であるキャパシタンスが生じる。なお、以下では、便宜上、イオンフィルタ部200で生じるキャパシタンスを「イオンフィルタのキャパシタンス」ともいう。
そこで、イオンフィルタ部200に印加される非対称電界波形信号の形状は、主に駆動回路の出力インピーダンスとイオンフィルタのキャパシタンスとによる時定数τで決定される。時定数τは、最終到達電圧の約63%に達するまでの時間であり、次の(15)式で表される。
τ(秒)=出力インピーダンス(Ω)×イオンフィルタのキャパシタンス(F) ……(15)
そのため、図7(A)に示されるような立ち上がり及び立ち下がりが鋭い理想的な矩形波形状の非対称電界波形信号を印加しようとしても、一例として図7(B)に示されるように、立ち上がり及び立ち下がりが鈍った形状の非対称電界波形信号が印加される場合がある。
駆動回路の出力インピーダンスは、その大きさを完全に零にすることは困難であり、必ずある有限の値を有している。
ここで、イオンフィルタのキャパシタンスを、対向する櫛歯電極211と櫛歯電極212との間のイオンチャネルとなる部分で生じるキャパシタンスと、それ以外で生じるキャパシタンスとに分けて考える。
非対称電界波形信号が印加されると、対向する櫛歯電極211と櫛歯電極212との間のイオンチャネルとなる部分は、電気的にコンデンサとなる(図8参照)。このコンデンサにおける誘電体は、分析対象のイオン化された気体である。なお、以下では、便宜上、このコンデンサのキャパシタンスを「イオンチャネルのキャパシタンス」ともいう。そして、イオンチャネルのキャパシタンスは、櫛歯の数や2つの櫛歯電極の間隔等によって決まるある値を持っている。例えば、2つの櫛歯電極の間隔を小さく(狭く)すると、イオンチャネルのキャパシタンスは増加する。
このため、時定数τを完全に零にすることは困難であり、図7(B)に示されるような立ち上がり及び立ち下がりの鈍りが大なり小なり生じてしまう。
ところで、前述した図5において、yup及びydownは、電極Aと電極Bの間隔Wに対して、yup<<W、ydown<<Wの関係が必要である。仮に、yup、ydownが間隔Wと等しいかそれ以上になると、検出部600に到達すべきイオンも途中で電極Aあるいは電極Bに接触し、検出部600に辿り付く前に電荷を放出してしまいイオンフィルタの機能をなさなくなる。
電極Aと電極Bとの間に印加される非対称電界波形信号の低電圧化を図るには、間隔Wを短くする必要がある。この場合に、yup<<W、ydown<<Wの関係を維持するには、非対称電界波形信号におけるパルスの周期Tを短くする必要がある。換言すると、非対称電界波形信号の周波数を高くする必要がある。
そして、非対称電界波形信号の周波数が高くなると、信号波形の鈍りに対するイオンチャネルのキャパシタンスの影響が大きくなる。極端になると、非対称電界波形信号における振幅が所望の電圧まで振幅されないおそれがある。図7(B)で説明すると、電界がEmaxに達する前に立ち下がってしまうおそれがある。
すなわち、イオン検出装置10の低電圧化を図るためには、イオンフィルタ部200における2つの櫛歯電極の間隔を短くすることが必要であるが、それは必然的に非対称電界波形信号の周波数を高くすること、及びイオンチャネルのキャパシタンスを増加させることになる。これらは、どちらもイオンフィルタ部200に印加される非対称電界波形信号に対し、立ち上がり及び立ち下がりの鈍りを増大させるように作用する。
次に、イオンチャネル以外の部分で生じるキャパシタンスとして、櫛歯電極と支持層との間のキャパシタンスについて説明する。
図9(A)は、イオンフィルタ部200の平面図であり、図9(B)は、図9(A)におけるC-C断面図である。櫛歯電極211は、支持層203に対してキャパシタンスC1ができ上がっており、櫛歯電極212は、支持層203に対してキャパシタンスC2ができ上がっている。支持層203は、ある抵抗値R1を有してキャパシタンスC1とキャパシタンスC2に接続されており、櫛歯電極211と櫛歯電極212との間にキャパシタンス成分を発生させている。
これが、前記イオンチャネルのキャパシタンスに加算され、イオンフィルタ部200に印加される非対称電界波形信号における立ち上がり及び立ち下がりをさらに鈍らせる原因となる。イオンチャネルのキャパシタンスでは誘電体が気体であるので比誘電率はほぼ1であるが、キャパシタンスC1及びキャパシタンスC2では誘電体となるBOX層202がシリコン酸化膜(SiO2)であり、その比誘電率は約4である。しかも、BOX層202は通常0.5μm以下という薄い膜であるため、イオンチャネル以外の部分で発生するキャパシタンスは大きいものとなってしまう。
ところで、2枚の電極間のキャパシタンスC(F)は次の(16)式で表される。ここで、ε0は真空の誘電率、すなわち8.8542×10-12(m-3kg-1s4A2)であり、εは比誘電率(空気:約1、SiO2:約4)であり、Sは電極の面積(m2)であり、dは電極間の距離(m)である。
C=ε0×ε×S/d ……(16)
イオンフィルタ部200では、櫛歯電極211及び櫛歯電極212の一方はGNDに接続され、他方に非対称電界波形信号が入力される。図10には、櫛歯電極211がGNDに接続されている例が示されている。
また、支持層203が電気的にどこにも接続されず、いわゆるフローティング状態であれば、イオンによる電荷が蓄積し高電圧となるおそれがある。そのため、図10に示されるように、支持層203は通常GNDに接続されている。
図10の例では、櫛歯電極212と支持層203との間にキャパシタンスC3が生じる。そして、櫛歯電極212と支持層203とが向かい合っている面の面積を小さくすることによって、キャパシタンスC3を小さくすることができる。すなわち、イオンチャネル以外の部分で生じるキャパシタンスを減らすことができる。なお、櫛歯電極211は支持層203と同じGNDに接続されているので、櫛歯電極211と支持層203との間に生じるキャパシタンスは問題にはならない。
そこで、イオンフィルタ部200に印加される非対称電界波形信号の鈍りが大きくて無視できない場合には、イオンチャネル以外の部分で生じるキャパシタンスを減らすのが好ましい。以下、イオンチャネルとなる部分で生じるキャパシタンスや、イオンチャンネル以外の部分で生じるキャパシタンスが低減された構成を有するイオンフィルタ部200の実施例について説明する。
<実施例1>
実施例1のイオンフィルタ部200が図11(A)~図12(C)に示されている。図11(A)は、実施例1のイオンフィルタ部200の平面図であり、図11(B)は、図11(A)におけるA-A断面図であり、図11(C)は、図11(A)におけるB-B断面図である。図12(A)は、図11(A)におけるC-C断面図であり、図12(B)は、図11(A)におけるD-D断面図であり、図12(C)は、図11(A)におけるE-E断面図である。
実施例1のイオンフィルタ部200では、櫛歯電極211及び櫛歯電極212への配線を最小限残して電極層201をエッチングしている。すなわち、櫛歯電極211及び櫛歯電極212を電極層201の周辺部と電気的に分離し、櫛歯電極211及び櫛歯電極212の面積を最小限にしている。なお、図11(A)における符号301は、櫛歯電極211用の電極パッドであり、符号302は、櫛歯電極212用の電極パッドである。各電極パッドは、ワイヤボンディングやプローブピンを接触させるために設けられているが、この部分の面積も必要最小限の面積に留めるのが好ましい。
イオンフィルタ部200では、櫛歯電極211及び櫛歯電極212の一方はGNDに接続され、他方に非対称電界波形信号が入力される。図13には、実施例1のイオンフィルタ部200において、櫛歯電極211がGNDに接続され、櫛歯電極212に非対称電界波形信号が入力される場合が示されている。なお、逆に櫛歯電極212がGNDに接続され、櫛歯電極211に非対称電界波形信号が入力されても良い。
実施例1のイオンフィルタ部200では、電極層201は、その周辺部に、櫛歯電極211及び櫛歯電極212とは電気的に分離されているリング状の額縁のような部分(以下では、「電極213」ともいう)を有している。この電極213を仮にどこにも接続させずフローティング状態にしておくと、イオン検出時に電荷がチャージされ高電圧になってイオンフィルタの機能を損ねる可能性があるので、電極213はGNDに接続する(図13参照)。
図11(A)において、破線で囲まれた領域Pは、イオンチャネルとなる部分に対応するBOX層202及び支持層203(隣り合う櫛歯310と櫛歯320の隙間に対応するBOX層202及び支持層203)と、各櫛歯電極の3つの櫛歯それぞれの中間部(先端部及び基端部の双方を除く部分)に対応するBOX層202及び支持層203と、が取り除かれている領域である。
すなわち、実施例1のイオンフィルタ部200では、イオンが通過することができる通路であるイオンチャネルが領域Pに形成されており、かつ該領域Pにキャパシタンスが生じない。
なお、上記各櫛歯電極の3つの櫛歯それぞれの中間部に対応するBOX層202及び支持層203の少なくとも一部を残存させても良い。この場合、領域Pにキャパシタンスが生じるが、各櫛歯電極の3つの櫛歯それぞれの中間部を支持層203で支持することができ、後述する櫛歯の撓みや振動を抑制することができる。
ここで、各櫛歯電極は、複数の櫛歯及び該複数の櫛歯を連結する連結部を含む櫛形の電極である。
そこで、以下では、各櫛歯電極を「櫛形電極」とも呼ぶ。すなわち、以下では、櫛歯電極211を「櫛形電極211」とも呼び、櫛歯電極212を「櫛形電極212」とも呼ぶ。
図11(A)に示されるように、櫛形電極211は、複数(ここでは3つ)の櫛歯310と該複数の櫛歯310を連結する連結部303(図11(A)の-b側の幅広縦縞部分)とを含む。上記電極パッド301(図11(A)の-b側の幅狭縦縞部分)は、連結部303の-b側に隣接し、該連結部303と電気的に接続されている(導通している)。
櫛形電極212は、複数(ここでは3つ)の櫛歯320と該複数の櫛歯320を連結する連結部304(図11(A)の+b側の幅広縦縞部分)とを含む。上記電極パッド302(図11(A)の+b側の幅狭縦縞部分)は、連結部304の+b側に隣接し、該連結部304と電気的に接続されている(導通している)
なお、各櫛形電極の櫛歯の数や形状や大きさは、適宜変更可能である。
また、各櫛形電極の連結部の形状や大きさは、適宜変更可能である。
また、2つの連結部303、304の少なくとも一方が電極パッドの機能を兼ねる構成を採用しても良い。この場合には、2つの電極パッド301、302のうち少なくとも一方を設けなくても良い。
実施例1のイオンフィルタ部200では、図14(A)~図14(D)に示されるように、連結部303及び3つの櫛歯310の基端部(図11(A)の-b側の大格子部分)の-b側の部位と、支持層203との間にキャパシタンスC4が生じ、3つの櫛歯320の先端部(図11(A)の-b側の小格子部分)及び3つの櫛歯310の基端部の+b側の部位と、支持層203との間にキャパシタンスC5が生じ、3つの櫛歯310の先端部(図11(A)の+b側の小格子部分)及び3つの櫛歯320の基端部(図11(A)の+b側の大格子部分)の-b側の部位と、支持層203との間にキャパシタンスC6が生じ、連結部304及び3つの櫛歯320の基端部の+b側の部位と、支持層203との間にキャパシタンスC7が生じている。
また、実施例1のイオンフィルタ部200では、図14(B)に示されるように、電極パッド301と支持層203との間にキャパシタンスC8が生じ、櫛形電極211における電極パッド301と連結部303の間の領域(図11(A)の-b側の横縞部分)と、支持層203との間にキャパシタンスC9が生じ、櫛形電極212における電極パッド302と連結部304との間の領域(図11(A)の+b側の横縞部分)と、支持層203との間にキャパシタンスC10が生じ、電極パッド302と支持層203との間にキャパシタンスC11が生じている。
また、実施例1のイオンフィルタ部200では、図14(C)に示されるように、最も-a側の櫛歯320の一部(該櫛歯320の先端部及び基端部の双方を除く部分の-a側の部位(図11(A)の-a側の斜格子部分)と支持層203との間にキャパシタンスC12が生じている。
また、実施例1のイオンフィルタ部200では、図14(D)に示されるように、最も+a側の櫛歯310の一部(該櫛歯310の先端部及び基端部の双方を除く部分の+a側の部位(図11(A)の+a側の斜格子部分)と支持層203との間にキャパシタンスC13が生じている。
すなわち、キャパシタンスC4、C5、C6、C7、C8、C9、C10、C11、C12、C13は、いずれもイオンチャネル以外の部分で生じるキャパシタンスである。
<実施例2>
実施例2のイオンフィルタ部200が図15(A)~図15(C)、図16(A)~図16(C)に示されている。図15(A)は、実施例1のイオンフィルタ部200の平面図であり、図15(B)は、図15(A)におけるA-A断面図であり、図15(C)は、図15(A)におけるB-B断面図であり、図16(A)は、図15(A)におけるC-C断面図であり、図16(B)は、図15(A)におけるD-D断面図であり、図16(C)は、図15(A)におけるE-E断面図である。
図15(A)において、破線で囲まれた領域Pは、イオンチャネルとなる部分に対応するBOX層202及び支持層203(隣り合う櫛歯310と櫛歯320の隙間に対応するBOX層202及び支持層203)と、各櫛形電極の3つの櫛歯それぞれの中間部(先端部及び基端部の双方を除く部分)に対応するBOX層202及び支持層203と、が取り除かれている領域である。
すなわち、実施例2のイオンフィルタ部200では、イオンが通過することができる通路であるイオンチャネルが領域Pに形成されており、かつ該領域Pにキャパシタンスが生じない。
なお、上記各櫛形電極の3つの櫛歯それぞれの中間部に対応するBOX層202及び支持層203の少なくとも一部を残存させても良い。この場合、領域Pにキャパシタンスが生じるが、各櫛形電極の3つの櫛歯それぞれの中間部を支持層203で支持することができ、後述する櫛歯の撓みや振動を抑制することができる。
また、図15(A)において、破線で囲まれた領域Q1、Q2、Q3、Q4は、いずれもイオンチャンネル以外の部分に対応する支持層203のみが取り除かれている領域である。
詳述すると、領域Q1は、電極パッド301に対応する支持層203(電極パッド301の-c側の支持層203)が取り除かれている領域である。すなわち、領域Q1に上記キャパシタンスC8が生じない(図14(B)、図16(A)参照)。
領域Q2は、電極パッド302に対応する支持層203(電極パッド302の-c側の支持層203)が取り除かれている領域である。すなわち、領域Q2に上記キャパシタンスC11が生じない(図14(B)、図16(A)参照)。
領域Q3は、連結部303及び3つの櫛歯310の基端部の-b側の部位に対応する支持層203(連結部303及び該部位の-c側の支持層203)が取り除かれている領域である。すなわち、領域Q3に上記キャパシタンスC4が生じない(図14(B)、図14(D)、図16(A)、図16(C)参照)。
領域Q4は、連結部304及び3つの櫛歯320の基端部の+b側の部位に対応する支持層203(連結部304及び該部位の-c側の支持層203)が取り除かれている領域である。すなわち、領域Q4に上記キャパシタンスC7が生じない(図14(A)~図14(C)、図15(C)、図16(A)、16(B)参照)。
実施例2のイオンフィルタ部200では、図15(C)~図16(C)に示されるように、3つの櫛歯320の先端部及び3つの櫛歯310の基端部の+b側の部位と、支持層203との間にキャパシタンスC5が生じ、櫛形電極211の3つの櫛歯310の先端部及び3つの櫛歯320の基端部の-b側の部位、と支持層203との間にキャパシタンスC6が生じている。
また、実施例2のイオンフィルタ部200では、図16(A)に示されるように、櫛形電極211における電極パッド301と連結部303の間の領域と、支持層203との間にキャパシタンスC9が生じ、櫛形電極212における電極パッド302と連結部304との間の領域と、支持層203との間にキャパシタンスC10が生じている。
また、実施例2のイオンフィルタ部200では、図16(B)に示されるように、最も-a側の櫛歯320の一部(該櫛歯320の先端部及び基端部の双方を除く部分の-a側の部位、図15(A)参照)と支持層203との間にキャパシタンスC12が生じている。
また、実施例2のイオンフィルタ部200では、図16(C)に示されるように、最も+a側の櫛歯310の一部(該櫛歯310の先端部及び基端部の双方を除く部分の+a側の部位、図15(A)参照)と支持層203との間にキャパシタンスC13が生じている。
すなわち、実施例2のイオンフィルタ部200で生じるキャパシタンスC5、C6、C9、C10、C12、C13は、いずれもイオンチャネル以外の部分で生じるキャパシタンスである。
以上の説明から分かるように、実施例2のイオンフィルタ部200は、2つの櫛形電極211、212と支持層203との間のキャパシタンスが、実施例1のイオンフィルタ部200に対して、キャパシタンスC4、C7、C8、C11だけ低減されている。
ところで、イオンフィルタ部200において、櫛形電極211及び櫛形電極212における櫛歯の先端部が自由に動ける状態にあると、製造時の薬液の対流による応力、重力、物理的振動、あるいは非対称電界波形信号による静電力などによって、櫛歯が変形したり、振動したり、隣の櫛歯と接触したり、隣接する櫛歯同士が接触したまま付着するいわゆるスティッキング現象が起こったり、等の不都合が生じる。また、最悪の場合は、櫛形電極が破壊されることもある。
実施例2のイオンフィルタ部200では、櫛歯の先端部の-c側にBOX層202及び支持層203のキャパシタンスC5、C6が生じる部分がリブ状に残されている(図15(C)や図16(A)参照)。この場合は、櫛歯の先端部がリブ部に固定され自由に動けなくなるため、櫛歯がたわんだり、振動するのを抑制することができ、上述した不都合を抑制することができる。以下では、便宜上、リブ状に残されているBOX層202と支持層203からなる部分を「リブ部」ともいう。
また、実施例2のイオンフィルタ部200では、キャパシタンスC9、C10が生じる部分もリブ状に残されている(図16(A)参照)。このように各櫛形電極の連結部と電極パッドとの間の部分の-c側にBOX層202及び支持層203を残すと、電極パッド及び連結部がたわんだり、振動するのを抑制できる。
<実施例3>
実施例3のイオンフィルタ部200が図17(A)~図17(C)、図18(A)~図18(C)に示されている。図17(A)は、実施例1のイオンフィルタ部200の平面図であり、図17(B)は、図17(A)におけるA-A断面図であり、図17(C)は、図17(A)におけるB-B断面図であり、図18(A)は、図17(A)におけるC-C断面図であり、図18(B)は、図17(A)におけるD-D断面図であり、図18(C)は、図17(A)におけるE-E断面図である。
図17(A)において、破線で囲まれた領域Pは、イオンチャネルとなる部分に対応するBOX層202及び支持層203(隣り合う櫛歯310と櫛歯320の隙間に対応するBOX層202及び支持層203)と、各櫛形電極の3つの櫛歯それぞれの中間部(先端部及び基端部の双方を除く部分)に対応するBOX層202及び支持層203と、が取り除かれている領域である。
すなわち、実施例3のイオンフィルタ部200では、イオンが通過することができる通路であるイオンチャネルが領域Pに形成されており、かつ該領域Pにキャパシタンスが生じない。
なお、上記各櫛形電極の3つの櫛歯それぞれの中間部に対応するBOX層202及び支持層203の少なくとも一部を残存させても良い。この場合、領域Pにキャパシタンスが生じるが、各櫛形電極の3つの櫛歯それぞれの中間部を支持層203で支持することができ、後述する櫛歯の撓みや振動を抑制することができる。
また、図17(A)において、破線で囲まれた領域Q1、Q2、Q3、Q4、Q5、Q6は、いずれもイオンチャンネル以外の部分に対応する支持層203のみが取り除かれている領域である。
詳述すると、領域Q1は、電極パッド301に対応する支持層203(電極パッド301の-c側の支持層203)が取り除かれている領域である。すなわち、領域Q1に上記キャパシタンスC8が生じない(図14(B)、図18(A)参照)。
領域Q2は、電極パッド302に対応する支持層203(電極パッド302の-c側の支持層203)が取り除かれている領域である。すなわち、領域Q2に上記キャパシタンスC11が生じない(図14(B)、図18(A)参照)。
領域Q3は、連結部303及び3つの櫛歯310の基端部の-b側の部位に対応する支持層203(連結部303及び該部位の-c側の支持層203)が取り除かれている領域である。すなわち、領域Q3に上記キャパシタンスC4が生じない(図14(B)、図14(D)、図18(A)、図18(C)参照)。
領域Q4は、連結部304及び3つの櫛歯320の基端部の+b側の部位に対応する支持層203(連結部304及び該部位の-c側の支持層203)が取り除かれている領域である。すなわち、領域Q4に上記キャパシタンスC7が生じない(図14(A)~図14(C)、図17(C)、図18(A)、18(B)参照)。
領域Q5は、最も-a側の櫛歯320の一部(該櫛歯320の先端部及び基端部の双方を除く部分の-a側の部位、図17(A)参照)に対応する支持層203(該部位の-c側の支持層203)が取り除かれている領域である。すなわち、領域Q5に上記キャパシタンスC12が生じない(図14(C)、図16(B)、図18(B)参照)。
領域Q6は、最も+a側の櫛歯310の一部(該櫛歯310の先端部及び基端部の双方を除く部分の+a側の部位、図17(A)参照)に対応する支持層203(該部位の-c側の支持層203)が取り除かれている領域である。すなわち、領域Q6に上記キャパシタンスC13が生じない(図14(D)、図16(C)、図18(C)参照)。
実施例3のイオンフィルタ部200では、図17(C)~図18(C)に示されるように、3つの櫛歯320の先端部及び3つの櫛歯310の基端部の+b側の部位と、支持層203との間にキャパシタンスC5が生じ、3つの櫛歯310の先端部及び3つの櫛歯320の基端部の-b側の部位と、支持層203との間にキャパシタンスC6が生じている。
また、実施例3のイオンフィルタ部200では、図18(A)に示されるように、櫛形電極211における電極パッド301と連結部303の間の領域と、支持層203との間にキャパシタンスC9が生じ、櫛形電極212における電極パッド302と連結部304との間の領域と、支持層203との間にキャパシタンスC10が生じている。
すなわち、実施例3のイオンフィルタ部200で生じるキャパシタンスC5、C6、C9、C10は、いずれもイオンチャネル以外の部分で生じるキャパシタンスである。
以上の説明から分かるように、実施例3のイオンフィルタ部200は、2つの櫛形電極211、212と支持層203との間のキャパシタンスが、実施例2のイオンフィルタ部200に対して、キャパシタンスC12、C13だけ低減されている。
実施例3のイオンフィルタ部200では、櫛歯の先端部の-c側にBOX層202及び支持層203のキャパシタンスC5、C6が生じる部分がリブ状に残されており(図17(C)や図18(A)参照)、キャパシタンスC9、C10がそれぞれ生じる部分もリブ状に残されている(図18(A)参照)。この場合も、上記実施例2と同様の効果が得られる。
<実施例4>
実施例4のイオンフィルタ部200が図19(A)~図19(C)、図20(A)~図20(C)に示されている。図19(A)は、実施例1のイオンフィルタ部200の平面図であり、図19(B)は、図19(A)におけるA-A断面図であり、図19(C)は、図19(A)におけるB-B断面図であり、図20(A)は、図19(A)におけるC-C断面図であり、図20(B)は、図19(A)におけるD-D断面図であり、図20(C)は、図19(A)におけるE-E断面図である。
図19(A)において、破線で囲まれた領域Pは、イオンチャネルとなる部分に対応するBOX層202及び支持層203(隣り合う櫛歯310と櫛歯320の隙間に対応するBOX層202及び支持層203)と、各櫛形電極の3つの櫛歯それぞれの中間部(先端部及び基端部の双方を除く部分)に対応するBOX層202及び支持層203と、が取り除かれている領域である。
すなわち、実施例4のイオンフィルタ部200では、イオンが通過することができる通路であるイオンチャネルが領域Pに形成されており、かつ該領域Pにキャパシタンスが生じない。
なお、上記各櫛形電極の3つの櫛歯それぞれの中間部に対応するBOX層202及び支持層203の少なくとも一部を残存させても良い。この場合、領域Pにキャパシタンスが生じるが、各櫛形電極の3つの櫛歯それぞれの中間部を支持層203で支持することができ、後述する櫛歯の撓みや振動を抑制することができる。
また、図19(A)において、破線で囲まれた領域Q1、Q2、Q3、Q4、Q5、Q6、Q7、Q8、Q9、Q10は、いずれもイオンチャンネル以外の部分に対応する支持層203のみが取り除かれている領域である。
詳述すると、領域Q1は、電極パッド301に対応する支持層203(電極パッド301の-c側の支持層203)が取り除かれている領域である。すなわち、領域Q1に上記キャパシタンスC8が生じない(図14(B)、図20(A)参照)。
領域Q2は、電極パッド302に対応する支持層203(電極パッド302の-c側の支持層203)が取り除かれている領域である。すなわち、領域Q2に上記キャパシタンスC11が生じない(図14(B)、図20(A)参照)。
領域Q3は、連結部303及び3つの櫛歯310の基端部の-b側の部位に対応する支持層203(連結部303及び該部位の-c側の支持層203)が取り除かれている領域である。すなわち、領域Q3に上記キャパシタンスC4が生じない(図14(B)、図14(D)、図20(A)、図20(C)参照)。
領域Q4は、連結部304及び3つの櫛歯320の基端部の+b側の部位に対応する支持層203(連結部304及び該部位の-c側の支持層203)が取り除かれている領域である。すなわち、領域Q4に上記キャパシタンスC7が生じない(図14(A)~図14(C)、図19(C)、図20(A)、20(B)参照)。
領域Q5は、最も-a側の櫛歯320の一部(該櫛歯320の先端部及び基端部の双方を除く部分の-a側の部位)に対応する支持層203(該部位の-c側の支持層203)が取り除かれている領域である。すなわち、領域Q5に上記キャパシタンスC12が生じない(図14(C)、図16(B)、図20(B)参照)。
領域Q6は、最も+a側の櫛歯310の一部(該櫛歯310の先端部及び基端部の双方を除く部分の+a側の部位)に対応する支持層203(該部位の-c側の支持層203)が取り除かれている領域である。すなわち、領域Q6に上記キャパシタンスC13が生じない(図14(D)、図16(C)、図20(C)参照)。
領域Q7は、櫛形電極211における連結部303と電極パッド301の間の領域に対応する支持層203(該領域の-c側の支持層203)が取り除かれている領域である。すなわち、領域Q7に上記キャパシタンスC9が生じない(図14(B)、図16(A)、図18(A)、図20(A)参照)。
領域Q8は、櫛形電極212における連結部304と電極パッド302の間の領域に対応する支持層203(該領域の-c側の支持層203)が取り除かれている領域である。すなわち、領域Q8に上記キャパシタンスC10が生じない(図14(B)、図16(A)、図18(A)、図20(A)参照)。
領域Q9は、3つの櫛歯320の先端部及び3つの櫛歯310の基端部の+b側の部位に対応する支持層203(該先端部及び該部位の-c側の支持層203)が取り除かれている領域である。すなわち、領域Q9に上記キャパシタンスC5が生じない(図17(C)~図18(C)、図19(C)~図20(C)参照)。
領域Q10は、3つの櫛歯310の先端部及び3つの櫛歯320の基端部の-b側の部位に対応する支持層203(該先端部及び該部位の-c側の支持層203)が取り除かれている領域である。すなわち、領域Q10に上記キャパシタンスC6が生じない(図17(C)~図18(C)、図19(C)~図20(C)参照)。
以上の説明から分かるように、実施例4のイオンフィルタ部200は、2つの櫛形電極211、212と支持層203との間のキャパシタンスが、実施例3のイオンフィルタ部200に対して、キャパシタンスC5、C6、C9、C10だけ低減されている。
すなわち、実施例4のイオンフィルタ部200では、2つの櫛形電極211、212及び2つの電極パッド301、303に対応する支持層203が全て取り除かれているため、2つの櫛形電極211、212及び2つの電極パッド301、303と、支持層203との間のキャパシタンスを略零にできる。
ただし、実施例4では、実施例2、3のようなリブ部がないので、上述した不都合をある程度抑制するために、領域Q9(C5に対応)、Q10(C6に対応)、Q7(C9に対応)、Q8(C10に対応)の少なくとも1つにおいてリブ部を残しても良い。
以上説明した実施例1~実施例4のイオンフィルタ部200では、各領域Qn(nは1~10のいずれか)において支持層203のみが取り除かれているが、少なくとも1つの領域Qnにおいて支持層203とBOX層202の両方を取り除いても良い。
次に、イオンフィルタ部200の製造方法について説明する。
図21には、半導体製造に使用されるSOI(SOI:Silicon On Insulator)ウエハ基板の断面図が示されている。このウエハ基板は、電極層201、BOX層202、支持層203で構成されている。なお、実際は、支持層203は機械的強度を要求されるためBOX層202及び電極層201より厚みが大きいが、便宜上、小さく図示している。
(1)電極層201の上に、NSG(Nitride silicon glass)膜221を蒸着する(図22参照)。このNSG膜221は絶縁膜である。
(2)後工程で蒸着されるメタル層が電極層と電気的に接続されるように、フォトリソグラフィ工程によってNSG膜をエッチングし2つのコンタクトホールを開ける(図23参照)。
(3)アルミニウムや金あるいは銅などの金属層222を蒸着する。
(4)フォトリソグラフィ工程によって、各コンタクトホールを覆う部分を残して、金属層222をエッチングで除去する(図24参照)。残された2つの金属層222の一方は電極層201に非対称電界波形信号を入力するための信号線が接続されるパッド電極となり、他方はGNDに接続されるパッド電極となる。これらのパッド電極には、ワイヤボンディングがなされたり、バンプが取り付けられたりする。
(5)パッド電極の開口部周囲を保護するために窒化保護膜223を形成する(図25参照)。
(6)フォトレジスト224を全面に塗布する。
(7)櫛形電極構造をパターニングする(図26参照)。櫛形電極構造のパターン例が図27に示されている。
ここでは、チップを個別化するエッチング部、チップを個別に切り離す部分(チップ同士の境界、半導体チップでのいわゆるダイシング領域)もエッチングされるようにパターニングされている。櫛形電極は、櫛歯同士の間隔が狭く、櫛歯の幅が薄いとダイシングの際の振動や流体から加わる圧力等によって容易に破壊されてしまう。そのため、本実施形態ではダイヤモンドブレードを使って削り出し、チップ化する従来の方法は採らず、ウエハ基板の裏表両面からエッチングすることによってチップ化する方法を採っている。
(8)電極層201をBOX層202までエッチングし、櫛形電極間の隙間を作る(図28参照)。このとき、チップ境界部のチップを個別化するエッチング部も同時にエッチングで取り除く。
(9)粘着剤225を用いてサポートウエハ226を貼り付ける(図29参照)。本実施形態では、ウエハ基板の裏表両面からエッチングすることによってチップを個別化するので、ばらばらにならないようにサポートウエハ226を貼り付ける。
(10)支持層203にフォトレジスト227を塗布し、支持層203を取り除く部分をパターニングする(図30参照)。
なお、図30には、上記実施例2の場合が示されている。
(11)支持層203をBOX層202までエッチングする(図31参照)。
(12)BOX層202をエッチングしてイオンチャネル部を貫通させる(図32参照)。このとき、同時にチップの境界部分も除去され、チップが個別化される。
(13)支持層側のフォトレジスト227を除去する(図33参照)。
(14)サポートウエハ226を取り除く(図34参照)。
(15)電極層側のフォトレジスト224を除去する(図35参照)。これによって、イオンフィルタ部200となる。
なお、図35には、上記実施例2のイオンフィルタ部200が示されている。
また、上記実施例1、3、4のイオンフィルタ部200は、前述したイオンフィルタ部200の製造方法の工程(10)において、それぞれに対応した支持層203を取り除く部分をパターニングすることにより、前述したイオンフィルタ部200の製造方法と同様な手順で製造することができる。
以上の説明から明らかなように、上記イオンフィルタ部200の製造方法において、本発明のイオンフィルタの製造方法が実施されている。
以上説明したように、本実施形態に係るイオンフィルタ部200(実施例2~4のイオンフィルタ部200)は、支持層203と、該支持層203上に積層されたBOX層202(絶縁層)と、BOX層202上に積層され、積層方向に直交する面内で互いの複数の櫛歯が噛み合うように対向して配置された2つの櫛形電極211、212(第1及び第2の櫛形電極)を含む電極層201と、を備え隣り合う櫛形電極211の櫛歯310と櫛形電極212の櫛歯320との間の隙間に対応するBOX層202及び支持層203の領域が存在せず(無く)、上記積層方向にイオンが通過することができる通路が形成され、電極層201の少なくとも一部に対応する支持層203の領域が存在しない(無い)ことを特徴とするイオンフィルタである。
この場合、電極層201に対応する支持層203の少なくとも一部が存在しないので、電極層201と支持層203との間に生じるキャパシタンスを低減できる。
この結果、櫛形電極211、212間(電極間)に印加された電圧の波形鈍りを抑制することができる。
なお、上記積層方向にイオンが通過することができる通路は、要は、BOX層202及び支持層203の、隣り合う櫛歯310と櫛歯320との間の隙間の少なくとも一部に対応する領域が除去されて形成されれば良い。
なお、本実施形態では、イオンフィルタ部200を作製する際、支持層203とBOX層202と電極層201とを積層した後に、支持層203及びBOX層202の上記隙間に対応する領域(以下では「隙間対応領域」とも呼ぶ))、並びに電極層201の少なくとも一部に対応する支持層203の領域(電極層201と共にコンデンサを構成する領域(以下では「コンデンサ領域」とも呼ぶ))を除去しているが、これに限られない。
例えば、イオンフィルタ部200を作製する際、隙間対応領域及びコンデンサ領域が存在しない支持層203と、隙間対応領域が存在しないBOX層202と、電極層201とを積層しても良い。
例えば、イオンフィルタ部200を作製する際、隙間対応領域及びコンデンサ領域が存在しない支持層203と、隙間対応領域が存在するBOX層202と、電極層201とを積層した後、BOX層202の隙間対応領域を除去しても良い。
例えば、イオンフィルタ部200を作製する際、隙間対応領域及びコンデンサ領域が存在する支持層203と、隙間対応領域が存在しないBOX層202と、電極層201とを積層した後、支持層203の隙間対応領域及びコンデンサ領域を除去しても良い。
例えば、イオンフィルタ部200を作製する際、隙間対応領域が存在せず、かつコンデンサ領域が存在する支持層203と、隙間対応領域が存在しないBOX層202と、電極層201とを積層した後、支持層203のコンデンサ領域を除去しても良い。
例えば、イオンフィルタ部200を作製する際、隙間対応領域が存在せず、かつコンデンサ領域が存在する支持層203と、隙間対応領域が存在するBOX層202と、電極層201とを積層した後、支持層203のコンデンサ領域及びBOX層202の隙間対応領域を除去しても良い。
例えば、イオンフィルタ部200を作製する際、隙間対応領域が存在し、かつコンデンサ領域が存在しない支持層203と、隙間対応領域が存在するBOX層202と、電極層201とを積層した後、支持層203の隙間対応領域及びBOX層202の隙間対応領域を除去しても良い。
例えば、イオンフィルタ部200を作製する際、隙間対応領域が存在し、かつコンデンサ領域が存在しない支持層203と、隙間対応領域が存在しないBOX層202と、電極層201とを積層した後、支持層203の隙間対応領域を除去しても良い。
また、例えば電極層201が電極層213のような櫛形電極や電極パッドを取り囲む層を有しない場合、電極層201の全領域に対応する支持層203が存在しなくても良い。
また、電極層201の上記少なくとも一部は、櫛形電極211の複数の櫛歯310の少なくとも一部(少なくとも1つの櫛歯310の少なくとも一部)と、櫛形電極212の複数の櫛歯320の少なくとも一部(少なくとも1つの櫛歯320の少なくとも一部)と、櫛形電極211の複数の櫛歯に導通する部分(連結部303や電極パッド301)と、櫛形電極212の複数の櫛歯に導通する部分(連結部304や電極パッド302)と、の少なくとも1つを含むことが好ましい。これらは、電極層201のうち対応する支持層203との間でキャパシタンスを生じさせる部分であるため、これらの少なくとも1つに対応する支持層203が存在しないことが好ましいからである。
また、実施例2~4のイオンフィルタ部200では、櫛形電極211、212は、それぞれ複数の櫛歯を連結する連結部303、304を有し、支持層203の、2つの櫛形電極211、212の連結部303、304に対応する領域が存在しない。なお、これに限らず、要は、支持層203の、2つの櫛形電極211、212の連結部303、304の少なくとも一方に対応する領域の少なくとも一部が存在しないことが好ましい。
また、実施例2~4のイオンフィルタ部200では、電極層201は、櫛形電極211に導通し、配線が接続される電極パッド301(第1の電極パッド)及び櫛形電極212に導通し、配線が接続される電極パッド302(第2の電極パッド)を含み、支持層203の、2つの電極パッド301、302に対応する領域が存在しない。なお、これに限らず、要は、電極層201は、電極パッド301及び電極パッド302の少なくとも一方を含み、支持層203の、2つの電極パッド301、303の少なくとも一方に対応する領域の少なくとも一部が存在しないことが好ましい。
また、実施例2、3のイオンフィルタ部200では、支持層203の、櫛形電極211、212の複数の櫛歯の先端部に対応する領域が残存している。なお、これに限らず、要は、支持層203の、櫛形電極211、212の少なくとも一方の複数の櫛歯の先端部に対応する領域が存在していても良い。
この場合、実施例2、3のイオンフィルタ部200では、櫛歯の変形や振動が抑制されることとなり、耐久性や信頼性の低下を招くことなく、電極の間隔及び電極の厚さを小さくすることが可能となる。そこで、イオンフィルタ部200は、電池で駆動させることができる。
また、BOX層202の、支持層203が存在しない領域に対応する領域(例えば領域Q1~Q10の少なくとも1つ)の少なくとも一部が存在しなくても良い。
また、支持層203とBOX層202と電極層201とが、SOI(SOI:Silicon On Insulator)基板を用いて作製されている。
また、電極層201は、不純物が注入されたシリコンからなっている。この場合は、櫛歯電極の電気抵抗を低くして非対称電界波形信号の周波数応答性を向上させることができる。
また、被測定分子をイオン化するイオン発生部100(イオン発生器)と、イオン発生部100からのイオンを選別するイオンフィルタ部200(イオンフィルタ)と、該イオンフィルタ部200で選別されたイオンを検出する検出部600(検出器)と、を備えるイオン検出装置10によれば、小型化及び低消費電力化を図ることができる。
また、本実施形態に係るイオンフィルタ部200の製造方法は、支持層203とBOX層202(絶縁層)と電極層201とが積層された基板を用いたイオンフィルタの製造する方法であって、電極層201に、積層方向に直交する面内で互いの複数の櫛歯が噛み合うように対向して配置された2つの櫛形電極211、212(第1及び第2の櫛形電極)を形成する工程と、隣り合う櫛形電極211の櫛歯と櫛形電極212の櫛歯との間の隙間の少なくとも一部に対応するBOX層202及び支持層203の領域を除去して、積層方向にイオンが通過することができる通路を形成する工程と、電極層201の少なくとも一部に対応する支持層203の領域を除去する工程と、を含むイオンフィルタの製造方法である。
この場合、電極層201に対応する支持層203の少なくとも一部が除去されるので、電極層201と支持層203との間に生じるキャパシタンスを低減できる。
この結果、櫛形電極211、212間(電極間)に印加された電圧の波形鈍りを抑制することができる。
なお、上記実施形態において、電極層201が、金属がコーティングされたシリコンからなっていても良い。この場合は、櫛形電極の表面が酸化してイオンフィルタ部の機能が損なわれることを防止したり、櫛形電極の電気抵抗を低くして非対称電界波形信号の周波数応答性を向上させることができる。
また、上記実施形態では、イオンフィルタ部200がSOI(SOI:Silicon On Insulator)ウエハ基板から製造される場合について説明したが、これに限定されるものではない。