JP7066534B2 - 液体吐出ヘッドの製造方法 - Google Patents
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図1に本実施の形態による液体吐出ヘッド基板に関する製法の断面図を示す。第一の基板131の表面(第一の面131a)に配線層103やエネルギー発生素子107(例:ヒータ)が形成されている(図1(a))。配線層103中の金属膜や層間絶縁層、電極用のコンタクトパッドなどの詳細に関しては不図示である。
ALD法では、プリカーサや反応性ガスなどの原料ガスのみを成膜空間に交互に導入する方式や、原料ガスの拡散を促進させるため、原料ガスを窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガスの流れに乗せて、成膜空間に交互に導入する方式がある。後者の不活性ガスはキャリアガスと呼ばれる。
さらに、プリカーサ中でシリコンとシリコンを結ぶ上記式(1)の構造を主鎖とすると、側鎖には反応性ガスと反応しやすい反応性官能基を有することが好ましい。反応性官能基が反応性ガスからの酸素原子や窒素原子と置換され、シロキサン結合やシラザン結合を形成し、二次元又は三次元構造を形成することができる。
シリコン原子は4つの結合手を有しており、主鎖としてのSi-C結合以外の側鎖全てに反応性官能基がある場合、シリコン原子一つ当たり最大で3つの結合手が酸素等を介して他のシリコンと結合することができる。シリコン間を繋ぐ結合手が多い為、SiOC膜中でのシリコン原子間の結びつきが強く、膜密度を高められる。
また、シリコン原子側鎖に炭素を含む官能基、例えばメチル基などがある場合、メチル基による立体障害のため、反応性官能基が反応しづらくなることが挙げられる。このことは膜欠陥を増やしたり、成膜レートの低下を引き起こしたりするため、インク保護膜の用途としては好ましくない。
ハロゲノ基として、F,Cl,Br,Iが挙げられるが、原子半径が大きいほど反応性が高く好ましい。また、ハロゲノ基のうち、クロロ基含有の有機ケイ素プリカーサは比較的合成しやすいメリットがある。ALD法によりSiOC膜を形成する場合、シリコンとシリコンとの間にメチレン鎖を有し、側鎖には炭素を含有せず、大部分がクロロ基である化合物のプリカーサであることが好ましい。具体的なプリカーサとして、式(2)に示す群から選択される少なくとも1種を主成分とすることが好適である。ここで主成分とは、原料プリカーサ分子全体に含まれる分子のうち50mol%以上を有することを意味する。
基板温度を下げる必要がある場合、塩基性ガスを触媒ガスとして、プリカーサ及び反応性ガスと同時に成膜空間へ投入することで、基板温度を50-150℃程度まで下げることができる。好適な塩基性触媒ガスとして、アンモニア、アミン、ピリジン、ピペリジンなどが挙げられる。アンモニアは窒化ガスとしても用いられるが、触媒ガスとして用いる場合は、窒化ガスとして用いる場合より少ない投入量となる。なお、触媒ガスの使用は、膜中に触媒分子が残留して膜欠陥の原因となることがあるため、必要に応じて少量を使用すればよい。
ALD法では、通常、プリカーサ原子、及び、反応性ガスをほぼ1原子層程度被覆するように原料ガスの暴露量が調整される。これは、暴露量が不足していると、反応性官能基が反応せずに残留する場合があるためである。一方、暴露量が過剰になると、各原子が下地と化学的に反応せずに、物理的に吸着した状態になる。この状態では膜厚は見かけ上増えていくが、プリカーサの反応性官能基が未反応のまま堆積している状態に近く、膜質が低く耐インク性も低い。
例えば、側鎖の反応性官能基がアルキルアミノ基であるプリカーサの場合が挙げられる。このプリカーサは、式(2)で表される構造を有するプリカーサの場合に、使用する触媒を用いずとも、基板温度が低温(150-400℃)で成膜することができる。触媒を必要としないことで、触媒が基板表面に残留して膜欠陥を引き起こすことがなくなり、膜質が向上する。アルキルアミノ基を有するプリカーサの例として、以下の式(3)で表される構造を有する化合物が好適である。
また、触媒を使用せずに基板温度を下げる方法として、Arガスなどの希ガスを原料と一緒に導入し、高周波で放電させてプラズマ化することで、プリカーサの反応性を高めることが挙げられる。
側鎖にアルコキシド基を有するプリカーサの具体例として、以下の式(4)で表される構造を有する化合物が好適である。
このように、プリカーサとしては、式(2)~(4)で表される構造を有する化合物からなる群から選択されることが好ましい。これらは、1種を単独で使用することが好ましいが、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
なお、保護膜116の製法として反応剤に酸化剤を用いたSiOC膜に関して述べたが、反応剤として窒化剤を用いたときのSiCN膜や、酸化剤、及び、窒化剤を用いたSiOCN膜に関しても、本発明の要件を適用できる。
樹脂構造体123の材料として熱硬化型樹脂や感光性樹脂が使用できる。厚さとしては0.1~50μmが好ましい。ここで第二の基板として、第一の基板131と同じ材料が使用できる。第二の基板132の材料に耐インク性がない場合、第三の供給口125を加工した後にその表面に保護膜124を形成してもよい。
また第二の基板132として樹脂部材を用いてもよい。第一の基板131側を液体吐出ヘッドに搭載できる形状に小片化し、第二の基板132側を流路が加工された樹脂部材として形成し、これらを接着させることで液体吐出ヘッドモジュールを構成してもよい。
本実施の形態では、ヒータ素子が形成されている上面に保護膜を形成する例を示す。第一の基板上に配線層103を形成する工程を図8に示す。第一の基板131上に熱酸化膜150とトランジスタ(不図示)を形成する(図8(a))。その上に導電層151と層間絶縁層152を積層させて、配線層103を形成していく(図8(b))。
本発明者らは式(2)に示されるプリカーサのうち、実施例1としてn=1の化合物(BTCSM)、及び、実施例2としてn=2の化合物(BTCSE)を用いてSiOC膜を作製した。さらに比較例1として、テトラクロロジメチルジシラン(TCDMDS)をプリカーサに用いてSiOC膜を作製した。尚、TCDMDSはSi間に炭素鎖が無く、側鎖にメチル基を一つずつ有する構造を持つ。
この理由として、前述のとおり、実施例2では理想的に膜が形成できればシリコン1原子当たり3つの結合手が酸素を介して隣接したシリコン原子と結合できるためと考えられ、膜が緻密化されて高い膜密度が実現できる。
これに対して、比較例1は、理想的に膜を形成しても、シリコン原子一つあたり最大で2つの結合手までしか結合できない為、膜密度が低い。さらに、成膜がうまくいかず未反応のクロロ基が多く残されるほど、膜密度はさらに低下していくものと考えられる。
従って、SiO膜に炭素を付加すると膜がインクと反応しづらくなるが、同時にSiOC膜の膜密度をある程度まで向上させないと、膜中をインクが透過して保護膜も含めた下地構造に深刻なダメージを与えることが分かった。
暴露量比が大きくなるほど膜密度が増大する。暴露量比が最も小さい1.4では、膜密度は最も小さく1.50g/cm3である。この時、プリカーサとH2Oの暴露時間はほぼ等しい。
従って、少なくとも炭素濃度が20%以上であるSiOC膜では、膜密度は1.60g/cm3以上が好ましく、膜密度が1.70g/cm3以上がさらに好ましい。さらに膜密度が1.74g/cm3以上が最も好ましい。
このような膜密度を達成するための暴露量比は、好ましくは3.3以上、より好ましくは13.3以上、最も好ましくは30以上であり、このように設定すればよい。
比較例2のSiO膜に関して、図4(b)に示すように暴露量比が増大しても膜密度はほぼ変わらず、1.93~1.94g/cm3程度の高い膜密度であった。
比較例3のTiO膜に関して、プリカーサとH2Oの暴露時間がほぼ等しい条件である暴露量比1.6で、膜密度が最も高い3.63g/cm3であり、以降、暴露量比の増大と共に膜密度が低下した。これは暴露量比の増大とともにH2Oが取り込まれていき、膜密度が低下したものと考えられる。暴露量比が323の膜は、試料を加熱すると膜中に含有されるH2Oが膨張して膜に無数の穴が発生する問題が発生した。
表2に、実施例1のSiOC膜の表面に、チャンバー中でプラズマ化したガスに暴露した時の膜表面の組成をXPSにより測定した結果を示す。ガスに暴露させる際のプラズマは、試料が設置された真空チャンバー内に各ガスを単体で導入し、MHz帯の高周波電源に接続された電極によりチャンバー内のガスを放電させることでプラズマを形成した。組成分析は、原子組成比の深さ方向のプロファイルを測定し、最表面を除いた20nm程度の深さの組成を平均化している。また保護膜表面の汚れを調べるために、処理がない試料の最表面のみを測定した時の組成も併せて示す。
図1を参照しつつ、インクジェット記録ヘッドの製造方法の実施例を説明する。
第一の基板131として8インチシリコン基板(厚さ:730μm)の表面上に、配線層103及びエネルギー発生素子107を形成した(図1(a))。具体的には、フォトリソグラフィ工程により、Al配線、酸化シリコン薄膜の層間絶縁層、窒化タンタルのヒータ薄膜パターン、外部の制御部と導通させるコンタクトパッドを形成した。
第一の基板の表面側に保護テープを貼り合わせ、第一の基板の裏面をCMP(Chemical mechanical polishing)を用いて研磨して平滑化し、アンモニアと過酸化水素水との混合液により洗浄してスラリーを除去した。さらに表面保護テープを除去した。
次に、第一の基板の裏面側に保護テープを貼り合わせ、表面側にレジストマスク(不図示)を形成し、基板の表面側から複数のホールから構成された第一の供給口112を上述のボッシュプロセスにより加工した。エッチング後、裏面保護テープを除去し、剥離液によりレジストや堆積物を除去した(図1(c))。
また、原料を投入してパージした後に、チャンバー内や試料上に残留している原料を除去するため、窒素ガスのみを導入してパージする工程を実施した。窒素ガスの暴露時間は5秒である。プリカーサの暴露時間は9秒とし、H2Oの暴露時間は30秒として、暴露量比は30とした。原料の成膜フローを図9に示す。
103 配線層
107 エネルギー発生素子
112 第一の供給口
113 第二の供給口
116 保護膜
117 密着層
118 吐出口形成部材の壁部
119 吐出口形成部材の天板
131 第一の基板
140 表面処理層
160 ヒータ素子
161 保護膜
Claims (13)
- 第一の面と該第一の面と反対の第二の面を有する基板と、前記基板の前記第一の面上に形成され、液体を吐出する吐出口を有する吐出口形成部材と、前記吐出口に連通し、前記液体が流れる流路を有する液体吐出ヘッドの製造方法であって、
前記基板と前記流路との間に、シリコンと炭素を含み、且つ、酸素、または、窒素の少なくとも一方を含む保護膜を形成する工程を有し、
前記保護膜は、シリコンと炭素を含有するプリカーサと、前記プリカーサと反応しうる酸素もしくは窒素を含む反応剤とを交互に前記保護膜を形成する成膜空間に導入する原子層堆積法により形成され、
前記保護膜は、下記式(1)で表される構造を有する化合物を含む膜であることを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
- 前記プリカーサが、前記式(1)で表される構造を有する化合物である、請求項1に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
- 前記プリカーサは、前記式(1)のシリコン原子側鎖に、ハロゲノ基、アミノ基、アルコキシド基のいずれかを有する化合物である、請求項2に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
- 前記式(1)におけるnが2以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
- 前記プリカーサの前記成膜空間への暴露時間と暴露圧力との積をプリカーサ暴露量とし、前記反応剤の前記成膜空間への暴露時間と暴露圧力との積を反応剤暴露量としたとき、前記反応剤暴露量を前記プリカーサ暴露量で割った暴露量比が、3.3以上である、請求項5に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
- 前記保護膜は、炭素濃度が20%以上であるSiOC膜であり、且つ、膜密度が1.60g/cm3以上である、請求項6に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
- 前記反応剤の基板上への暴露は、基板上への前記プリカーサの導入開始から次の前記プリカーサの導入開始までを1サイクルとしたとき、1サイクル中に、前記反応剤の暴露ステップと、反応剤の除去ステップを複数回実施する、請求項6又は7に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
- 前記反応剤は、H2Oである、請求項1~8のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
- 前記基板の前記第一の面から第二の面に貫通する貫通口からなる流路を形成する工程をさらに有し、前記保護膜を形成する工程は、該貫通口の壁面に少なくとも形成することを含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
- 前記基板の第一の面上に配線と絶縁層とを含む配線層を形成する工程を有し、前記保護膜は前記配線層と流路との間のいずれかに成膜される、請求項1~9のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
- 前記保護膜を形成する工程の後に、前記第一の面又は第二の面上の前記保護膜の上に樹脂から構成された樹脂構造体を形成する工程を有する、請求項1~11のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
- 前記保護膜を形成する工程と、前記樹脂構造体を形成する工程との間に、前記第一の面又は第二の面上の前記保護膜の表面を水素、ギ酸、一酸化炭素、メタン、アセチレン、プロパン、イソブタン、四フッ化炭素、トリフルオロメタン、八フッ化シクロブタンから選ばれる1種のガスに暴露させる工程を有する、請求項12記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
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