本実施形態を図面を参照しながら以下に説明する。図1は、炭素繊維撚糸装置10の一例を示す斜視図である。図2は、炭素繊維撚糸装置10の側面図(図2A)及び正面図(図2B)である。図3は、二次電池構造体14の一例を示す説明図である。図4は、供給部20及び第1支持送部30の一例を示す説明図であり、図4Aが正面図、図4Bが第1支持送部30の斜視図、図3Cが第1支持ローラ31の説明図である。図5は、中間支持送部50及び塗布部60の一例を示す説明図であり、図5Aが正面図、図5Bがノズルブロック61の外観図、図5Cがノズルブロック61の断面図である。図6は、乾燥部70の一例を示す説明図である。図7は、巻取り部80一例を示す説明図であり、図7Aが巻取り部80の斜視図、図7Bが巻取りローラ81及びホイール87の斜視図、図7Cが巻取り部80の説明図、図7Dが軸支固定部83の説明図、図7Eがホイール87を取り外す説明図である。炭素繊維撚糸装置10は、図1、2に示すように、シート状に平たく配列され捲回された多数の炭素繊維Cを送出方向Aに引き出し、撚糸方向Rに撚糸して太い炭素繊維束Bを作製する装置である。炭素繊維撚糸装置10は、制御部19と、供給部20と、第1支持送部30と、第2支持送部40と、中間支持送部50と、塗布部60と、乾燥部70と、巻取り部80とを備えている。この炭素繊維束Bは、例えば、図3に示すように、二次電池の負極活物質として用いることができる。ここで、炭素繊維撚糸装置10の上下、左右、前後方向は、図1,2に示したものを一例とし、送出方向Aは下方向、撚糸方向Rは上下方向を軸とした回転方向として説明する。
ここで、炭素繊維撚糸装置10により製造された炭素繊維束Bを利用した製造物について説明する。炭素繊維撚糸装置10の製造物である炭素繊維束Bは、図3に示すように、二次電池15の負極16に用いられる。二次電池15は、柱状の負極16の表面に絶縁性及びイオン伝導性を有する分離膜17が形成され、更に分離膜17の表面に正極18が形成された構造を有する。また、二次電池構造体14は、複数の二次電池15を結束した構造を有している。更に、炭素繊維束Bは、撚糸された状態で結着材により固定化されたものとしてもよい。この二次電池構造体14では、柱状の炭素繊維束Bを負極16として用いるため、外周側からイオンの吸蔵放出を行うことができ、平板状の積層電極に比して応答速度やエネルギー密度に優れ、出力特性を向上することができる。炭素繊維Cは、例えば、長さは任意であり、その直径dは、例えば、5μm以上100μm以下の範囲であるものとしてもよい。炭素繊維の直径dが5μm以上ではより高い強度を確保することができ、100μm以下では柔軟性をより確保することができる。この炭素繊維Cの直径dは、20μm以下の範囲がより好ましい。炭素繊維束Bは、その直径D(μm)が30μm以上1000μm以下の範囲であるものとしてもよい。直径Dが30μm以上では、活物質量を確保することができ、1000μm以下では電極中のイオン拡散抵抗の増加をより抑制でき、好ましい。この直径Dは、50μm以上が好ましく、100μm以上がより好ましい。また、直径Dは、600μm以下が好ましく、500μm以下がより好ましい。直径dや直径Dは、二次電池15に求められる特性に応じて、経験的に適宜選択すればよい。
分離膜17は、例えば、キャリア(例えばリチウムイオン)のイオン伝導性を有するものであり、固体電解質としてもよいし、ゲル電解質としてもよい。分離膜17は、イオン伝導性と絶縁性とを有するポリマーが好適であり、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)や、PVdFとヘキサフルオロプロピレン(HFP)との共重合体、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、及びPMMAとアクリルポリマーとの共重合体などが挙げられる。炭素繊維束Bを固定化する結着材は、例えば、上記のPVdFや、PVdF-HFP共重合体、PMMA、PMMA-アクリルポリマー共重合体のほか、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレン-プロピレン-ジエンマー(EPDM)、スルホン化EPDM、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。正極18は、例えば、一般的な二次電池(例えば、リチウムイオン二次電池など)に用いられる物質とすればよく、正極活物質と導電材と結着材とを含む正極合材としてもよい。導電材は、例えば、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラックなどの炭素質材料や、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。結着材は、活物質粒子や導電材粒子を繋ぎ止めて所定の形状を保つ役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)などを用いることができる。正極活物質としては、例えば、アルカリ金属と遷移金属とを含む化合物、例えば、アルカリ金属と遷移金属元素とを含む酸化物や、アルカリ金属と遷移金属元素とを含むリン酸化合物などが挙げられる。この二次電池15は、例えば、その太さが0.2mm以上0.5mm以下の範囲としてもよい。また、二次電池15は、断面形状が多角形としてもよいし、円、楕円としてもよい。多角形としては、三角形、四角形、五角形、六角形、八角形などが挙げられるが、六角形が好ましい。
制御部19(図1参照)は、図示しないCPUを中心とするコントローラとして構成されており、装置全体を制御する。この制御部19は、供給部20、塗布部60、乾燥部70、巻取り部80などと電気的に接続されており、これらのユニットから信号を取得し、これらのユニットへ制御信号を出力する。この制御部19は、各種処理プログラムや各ユニットの設定値などを記憶したフラッシュメモリーと、一時的にデータを記憶するRAMと、を備えている。
供給部20は、複数の炭素繊維Cを送出方向Aに送出し送出方向Aを軸方向とする撚糸方向Rに回転可能に構成されている。供給部20は、図4に示すように、中央領域に空間を有する直方体骨格である第1筐体11の上部に配設されている。この供給部20は、供給ローラ21と、ローラ支持部22と、回転駆動部23と、支持部材24とを備えている。供給ローラ21には、長尺の炭素繊維Cがシート状に配列されて捲回されている。この供給ローラ21には、所定の回転制動が付与されており、巻取り部80による炭素繊維束Bの巻取りに追従して回転するようになっている。ローラ支持部22は、供給ローラ21を水平方向を回転軸として回転可能に軸支すると共に、それ自体が垂直方向を回転軸として回転可能に第1筐体11の天板13に回転可能に軸支されている。このローラ支持部22は、天板13の中央に回転可能に吊り下げられている。また、ローラ支持部22は、供給ローラ21を取り外し可能に支持しており、炭素繊維Cが消費されると使用済みの供給ローラ21が取り外され、新たな供給ローラ21が取り付けられる。回転駆動部23は、ローラ支持部22に接続されローラ支持部22を回転駆動するモータである。回転駆動部23は、炭素繊維Cの撚糸度に合わせた電力が制御部19から供給され、回転駆動される。この回転駆動部23の駆動力によって、供給ローラ21、ローラ支持部22、支持部材24及び第1支持送部30が一体となって撚糸方向Rに回転する。撚糸方向Rへの回転速度は、例えば、0rpm~300rpmなどの範囲にすることができる。また、炭素繊維束Bの単位長さを10cmとしたときの、単位長さあたりの巻き回数を撚糸度と規定した場合、この撚糸度は、10回/10cm以上20回/10cm以下の範囲とすることが好ましい。撚糸度は、送出速度と巻取り速度との関係で調節することができることから、用いる炭素繊維の特性に応じて最適となる回転速度、送出速度及び巻取り速度を設定すればよい。支持部材24は、ローラ支持部22の側面に配設されたステーに固定されたU字状の部材であり、その下端中央に第1支持送部30が配設されている。支持部材24は、供給ローラ21の横幅及び炭素繊維Cの柔軟性などに合わせて供給ローラ21と第1支持送部30との間の距離を変更可能になるよう上記ステーに配設されている。
第1支持送部30は、撚糸方向Rに回転すると共に送出方向Aに連続的に炭素繊維Cを送出するよう、この炭素繊維Cを支持するものである。この第1支持送部30は、供給部20に配設された支持部材24に固定されており、供給部20と一体で撚糸方向Rに回転する。この第1支持送部30は、第1支持ローラ31と、第1スライド部36,37とを有する。第1支持ローラ31は、送出方向Aに回転すると共に、撚糸方向R方向に回転しないように炭素繊維Cを挟持するものである。第1支持ローラ31は、凸ローラ32と凹ローラ33との1対のローラからなる。凸ローラ32は、図4Bに示すように、回転軸34の中央に固定されており、回転軸34は第1スライド部36の先端に回転可能に軸支されている。凹ローラ33は、回転軸35の中央に固定されており、回転軸35は第1スライド部37の先端に回転可能に軸支されている。凸ローラ32は外周面の中央が凸状に形成されたローラであり、凹ローラ33は外周面の中央が凹状に形成されたローラである。凸ローラ32の凸部に1つのゴムリングがはめ込まれ、凹ローラ33の凹部に2つのゴムリングがはめ込まれており、このゴムリングの間を連続的に炭素繊維Cが通過する。第1スライド部36,37は、第1支持ローラ31の凸ローラ32及び凹ローラ33を回転可能に軸支し、炭素繊維束Bを挟持する挟持位置と炭素繊維束Bの挟持を開放する開放位置との間でこれを移動させる。第1スライド部36,37は、図示しない固定具によって支持部材24に固定されており、凸ローラ32及び凹ローラ33の軸間距離を調整して炭素繊維束Bのグリップ力を調整可能になっている。なお、第1スライド部36,37は、図示しないバネなどの弾性体によって凸ローラ32及び凹ローラ33が近接する方向に付勢され、固定具を解除すると、凸ローラ32及び凹ローラ33が離間可能になるよう構成してもよい。あるいは、第1スライド部36,37は、モータなどの駆動力により凸ローラ32及び凹ローラ33を近接離間するものとしてもよい。
第2支持送部40は、図1、2に示すように、第1支持送部30の下流側である、乾燥部70と巻取り部80との間に配設され、撚糸方向Rに炭素繊維束Bを回転させずに送出方向Aに連続的に炭素繊維束Bを送出するよう炭素繊維束Bを支持するものである。第2支持送部40は、第1筐体11とは別体の第2筐体12に固定されている。この第2支持送部40は、図2Bに示すように、送出方向Aに回転し炭素繊維束Bを挟持する第2支持ローラ41と、第2支持ローラ41を回転可能に軸支し挟持位置と開放位置との間で移動させる第2スライド部42とを有する。なお、ここでは、第2支持ローラ41及び第2スライド部42は、移動しない第2筐体12に固定されている以外は、第1支持ローラ31及び第1スライド部36,37と同様の構成を有するものとしてその具体的な説明を省略する。
中間支持送部50は、図5に示すように、第1支持送部30と第2支持送部40との間であり、特に第1支持送部30と塗布部60との間に配設され、撚糸方向Rには炭素繊維束Bを回転させずに送出方向Aに連続的に送出するよう炭素繊維束Bを支持するものである。中間支持送部50は、第1筐体11とは別体の第2筐体12に固定されている。この中間支持送部50は、送出方向Aに回転し炭素繊維束Bを挟持する中間支持ローラ51と、中間支持ローラ51を回転可能に軸支し挟持位置と開放位置との間で移動させる中間スライド部52とを有する。なお、ここでは、中間支持ローラ51及中間スライド部52は、移動しない第2筐体12に固定されている以外は、第1支持ローラ31及び第1スライド部36,37と同様の構成を有するものとしてその具体的な説明を省略する。
塗布部60は、第1支持送部30の下流側に配設され撚糸された炭素繊維束Bに粘性流体を形成するものである。粘性流体としては、例えば、炭素繊維Cを結着する結着材や、蓄電デバイスのキャリアイオンのイオン伝導性及び絶縁性を有する分離膜となる樹脂などが挙げられる。この結着材や樹脂は、例えば、水系溶媒や有機溶媒に溶解したものとしてもよい。有機溶媒としては、例えば、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどを用いることができる。炭素繊維撚糸装置10は、この塗布部60や乾燥部70を複数有し、複数種の粘性流体を炭素繊維束Bに形成するものとしてもよい。例えば、第1塗布部が結着材となる樹脂を炭素繊維束Bの内部に浸透させ第1乾燥部がこれを乾燥し、第2塗布部が分離膜となる樹脂を炭素繊維束Bの外表面に形成し第2乾燥部がこれを乾燥したあと、第3塗布部が電極活物質を含む電極合材の粘性流体をこの分離膜の表面に形成し、第3乾燥部がこれを乾燥し、電極合材層を更に形成するものとしてもよい。ここでは、説明の便宜のため、炭素繊維撚糸装置10は、結着材を形成する塗布部60及び乾燥部70のみを備えたものとして説明する。この塗布部60は、図5に示すように、ノズルブロック61を備える。ノズルブロック61は、導入孔62と、シリンジ64と、吐出孔65と、通過孔66と、プレート67とを有している。導入孔62は、炭素繊維束Bを導入するテーパ面63を有する孔であり、ノズルブロック61の上面に形成されている。この導入孔62は、比較的大きな体積を有しており、シリンジ64から過剰に供給された粘性流体が通過孔66から漏れ出ないよう収容されるバッファとして機能する。シリンジ64は、図示しないチューブが接続されており、チューブを介して供給された粘性流体を吐出口から炭素繊維束Bの外周面へ供給するものである。このシリンジ64は、ノズルブロック61の外周の4箇所に配設されており、4方向から粘性流体を炭素繊維束Bへ供給する。粘性流体の供給速度は、例えば、0.05mL/分以上50mL/分の範囲とすることができる。吐出孔65は、粘性流体を炭素繊維束Bの外周面へ吐出する孔である。この吐出孔65は、炭素繊維束Bの送出方向Aに対して垂直よりも鋭角側に傾斜して配設されることが好ましい。通過孔66は、粘性流体を形成した炭素繊維束Bが送出される孔であり、取り外し可能なプレート67に形成されている。この通過孔66は、導入孔62と逆のテーパ面を有しているものとしてもよい。通過孔66の直径は、炭素繊維束Bの直径にも依存するが、例えば、0.25mm以上1mm以下の範囲としてもよい。ノズルブロック61の中央には、上下に貫通した導入孔62及び通過孔66が形成されており、炭素繊維束Bが供給部20から巻取り部80へ通過することができる。なお、導入孔62及び通過孔66の最も小さい直径は、炭素繊維束Bの直径に所定のマージンを加えた値に設計されるものとしてもよい。このノズルブロック61では、取り外し可能なプレート67を交換することによって、通過孔66の形状や大きさを簡便に変更可能である。例えば、炭素繊維束Bの表面に分離膜を形成する塗布部60では、この通過孔66は、炭素繊維束Bの直径に分離膜の厚さと所定のマージンを加えた値に設計すればよい。また、分離膜が形成された炭素繊維束Bの表面に電極合材層を形成する塗布部60では、この通過孔66は、炭素繊維束Bの直径に分離膜の厚さと電極合材層の厚さと更に所定のマージンを加えた値に設計すればよい。
乾燥部70は、炭素繊維束Bに形成された粘性流体を乾燥するものである。この乾燥部70は、図6に示すように、エアヒータ71,73と、温度測定部72,74と、エア冷却部75と、カバー部材76とを備えている。この乾燥部70では、エアヒータと温度測定部との組み合わせを2組有している。エアヒータ71は、炭素繊維束Bの送出方向Aに向かって傾斜して配設され加熱ガスとしての加熱エアを炭素繊維束Bへ吐出するものである。なお、エアヒータ71,73の加熱ガスの吐出方向は、送出方向Aに対して垂直よりも鋭角であることが好ましい。乾燥部70では、1対のエアヒータ71が左右あるいは前後方向に配設されており、この1対のエアヒータ71から加熱エアが供給され、炭素繊維束B上の粘性流体を固化するか、粘性流体に含まれる溶媒を気化させ除去する。加熱エアの流量や加熱温度などは、乾燥される炭素繊維束B及び粘性流体の種別や量などに依存するため、これらに合わせて適宜好適な値を経験的に設定すればよい。温度測定部72は、炭素繊維束Bの温度を測定するものであり、例えば、熱電対としてもよい。温度測定部72は、エアヒータ71が加熱エアを供給するすぐ下流側であって、送出方向Aに移動する炭素繊維束Bの近傍を測定する位置に配設されている。この温度測定部72は、炭素繊維束Bの近傍の温度を測定することにより、炭素繊維束Bの温度を間接的に取得する。なお、温度測定部72は、炭素繊維束Bに直接接触するか、又は非接触式のサーモセンサなどにより、その温度を直接測定するものとしてもよい。エアヒータ73は、エアヒータ71と同様の構成を有し、エアヒータ71の下流側に配設されている。エアヒータ73は、エアヒータ71よりも高い温度の加熱エアを炭素繊維束Bへ供給するものとしてもよい。こうすれば、炭素繊維束Bを加熱しやすく好ましい。温度測定部74は、温度測定部72と同様の構成を有し、温度測定部72の下流側に配設されている。エアヒータ73及び温度測定部74は、エアヒータ71及び温度測定部72と同様の構成であるものとしてその説明を省略する。制御部19は、温度測定部72,74の測定値を取得し、実測値が設定値に合うように、エアヒータ71,73の加熱エアの温度や流量などを制御する。エア冷却部75は、冷却用のエアを加熱後の炭素繊維束Bへ供給するものであり、冷却ノズルを有している。カバー部材76は、炭素繊維束Bが通過する通過空間を有する構造体である。カバー部材76には、上流側からエアヒータ71、温度測定部72、エアヒータ73及び温度測定部74が固定されており、これらが通過空間内に加熱エアを供給し、その温度を測定する。
巻取り部80は、乾燥部70で加熱冷却された炭素繊維束Bを巻き取るものである。巻取り部80は、図7に示すように、巻取りローラ81と、軸支固定部83と、支持板84と、固定部材85と、揺動部86と、ホイール87と、巻取り駆動部88と、揺動駆動部89とを備えている。巻取りローラ81は、作製された炭素繊維束Bを巻き取るローラであり、巻き取り軸82を中心軸として回転するよう構成されている。この巻取りローラ81では、巻き取り軸82が軸支固定部83に軸支されている。この巻取りローラ81は、炭素繊維C自体も含め、炭素繊維束Bに形成された分離膜や電極合材層に不具合が生じないよう、比較的大きな直径を有しているものとしてもよい。なお、図1、2、7には、分離膜、電極合材層が形成されたあとの炭素繊維束Bを巻き取る巻取りローラ81を一例として示した。例えば、炭素繊維束Bを結着材で固定化したものであれば、供給ローラ21と同様に比較的小さい直径の巻取りローラ81としてもよい。また、巻取りローラ81は、装置全体での炭素繊維C及び炭素繊維束Bの処理にかかる時間などに合わせた回転速度で、巻取り駆動部88により回転駆動される。炭素繊維束Bの巻取り速度は、例えば、20m/分以下としてもよい。軸支固定部83は、巻取りローラ81を取り外し可能に軸支する部材である。この軸支固定部83は、巻取りローラ81から外部に突出した巻き取り軸82を軸支する部材であり、支持板84と固定部材85とを有する。支持板84は、巻取りローラ81の両側に配設される板状の部材である。支持板84には、巻き取り軸82が収容される切り欠きが形成されており、固定部材85を固定することにより、巻き取り軸82が取り外し不可の状態で支持板84に軸支される。作業者は、支持板84に固定された固定部材85を取り外すことによって、巻取りローラ81を巻取り部80から取り外すことができる(図7E参照)。支持板84には、回転可能な複数のローラフォロアが配設されており、このローラフォロアが巻き取り軸82に接触してこれを軸支する。固定部材85にもローラフォロアが配設されている。巻取り駆動部88は、巻取りローラ81を回転駆動するモータであり、ギアを介して巻き取り軸82と接続される。揺動部86は、巻取りローラ81の回転軸に沿った方向に巻取りローラ81を揺動させるものである。この揺動部86は、巻取りローラ81、軸支固定部83、ホイール87及び巻取り駆動部88の全体を揺動する(図7C参照)。炭素繊維束Bは、この揺動部86により、巻取りローラ81の外周面に沿って均一で平らな状態となるよう巻取りローラ81に巻き取られる。揺動部86は、揺動駆動部89によって、巻取りローラ81の回転軸に沿った方向に揺動される。ホイール87は、供給ローラ21と同様のテンションを巻取りローラ81にかけるためのギヤであり、巻取りローラ81の側方に固定される。なお、巻取りローラ81とホイール87とは、取り外し可能であってもよいし、一体であってもよい。
第2支持送部40、中間支持送部50、塗布部60、乾燥部70及び巻取り部80は、第1筐体11の内側の空間内に配設され、中央領域に空間を有する直方体骨格である第2筐体12の内部に配設されている。炭素繊維束Bを結束するためには、塗布部60において炭素繊維束Bの周囲に同心状に均一に粘性流体を塗布、乾燥させることが有用である。一方、炭素繊維束Bを撚糸するための撚糸方向Rへの回転の振動が塗布部60に伝わらないようにすることが好ましい。このため、炭素繊維撚糸装置10では、供給部20及び第1支持送部30が第1筐体11に配設され、第2支持送部40、中間支持送部50、塗布部60、乾燥部70及び巻取り部80は第1筐体11とは別の第2筐体12に配設されている。
次に、このように構成された炭素繊維撚糸装置10の動作について説明する。まず、供給部20に炭素繊維Cが巻き取られている供給ローラ21をセットし、炭素繊維Cを引き出し、その先端を巻取りローラ81に固定する。次に、巻取り駆動部88により巻取りローラ81を回転駆動し、炭素繊維C及び炭素繊維束Bを送出方向Aへ移動させると共に、回転駆動部23により供給部20及び第1支持送部30を撚糸方向R方向に回転駆動し、第1支持送部30と中間支持送部50との間で炭素繊維束Bを撚糸する。撚糸された炭素繊維束Bは、中間支持送部50及び第2支持送部40によって撚糸された状態で支持され、塗布部60及び乾燥部70を連続的に通過する。このとき、塗布部60で炭素繊維Cを結着する結着材の粘性流体が炭素繊維束B上に形成され、乾燥部70で乾燥、冷却される。分離膜17は樹脂であり、炭素繊維Cは柔軟性を有するため、巻取りローラ81での巻き取りによって、破損などは生じない。また、炭素繊維束Bの撚糸状態が分離膜17によって固定される。作製された分離膜17が形成された炭素繊維束Bは、巻取りローラ81から引き出され、正極18が分離膜17上に形成された状態で二次電池15の長さに切断される。切断された二次電池15は、所定本数がまとめられて、二次電池構造体14にプレス成形される。
ここで、本実施形態の構成要素と本開示の構成要素との対応関係を明らかにする。本実施形態の供給部20が本開示の供給部に相当し、第1支持送部30が第1支持送部に相当し、第2支持送部40が第2支持送部に相当し、中間支持送部50が中間支持送部に相当し、塗布部60が塗布部に相当し、乾燥部70が乾燥部に相当し、巻取り部80が巻取り部に相当する。また、炭素繊維Cが炭素繊維に相当し、炭素繊維束Bが炭素繊維束に相当し、送出方向Aが送出方向に相当し、撚糸方向Rが撚糸方向に相当する。また、支持部材24が支持部材に相当し、第1支持ローラ31が第1支持ローラに相当し、第1スライド部36,37が第1スライド部に相当し、第2支持ローラ41が第2支持ローラに相当し、第2スライド部42が第2スライド部に相当し、中間支持ローラ51が中間支持ローラに相当し、中間スライド部52が中間スライド部に相当する。また、テーパ面63がテーパ面に相当し、導入孔62が導入孔に相当し、吐出孔65が吐出孔に相当し、通過孔66が通過孔に相当し、ノズルブロック61がノズルブロックに相当する。また、加熱エアが加熱ガスに相当し、エアヒータ71,73がガスヒータに相当し、温度測定部72,74が温度測定部に相当し、巻取りローラ81が巻取りローラに相当し、軸支固定部83が軸支固定部に相当し、揺動部86が揺動部に相当する。
以上説明した炭素繊維撚糸装置10は、供給部20と第1支持送部30とを撚糸方向Rに回転させることにより、第1支持送部30と第2支持送部40及び中間支持送部50との間で複数の炭素繊維Cを撚り合わせ、この撚り合わされた炭素繊維束Bに粘性流体を形成して乾燥させる。この炭素繊維撚糸装置10では、炭素繊維Cを送り出す供給部20とその下流の第1支持送部30とがともに撚糸方向Rに回転することにより、その下流の撚糸方向には回転しない第2支持送部40及び中間支持送部50との間で炭素繊維束Bの撚糸度を制御できる。撚糸度が制御された炭素繊維束は、第2支持送部40との間に設けられた、塗布部60と乾燥部70とを通過する際に、粘性流体が塗布、乾燥され、固定化されるので撚糸がほどけることを防止できる。この炭素繊維撚糸装置10は、柔軟性を有する炭素繊維Cを撚り合わせて固定化することができるため、直径を制御した炭素繊維束を容易に製造することができる。
また、第1支持送部30では、炭素繊維束Bを撚糸方向Rに固定すると共に、連続的に送出方向Aへ送り出すことができ、製造効率がよく好ましい。なお、第2支持送部40及び中間支持送部50においても同様である。更に、第1支持送部30は、供給部20に配設された支持部材24に固定され、供給部20と第共に撚糸方向Rに回転するため、第1支持送部30を回転させる構成を別に設ける必要がなく、装置構成を簡素化することができる。更にまた、第1支持送部30と第2支持送部40との間に中間支持送部50が配設されているため、第1支持送部30と中間支持送部50との間で撚糸された炭素繊維束Bを第2支持送部40まで送り出すことができ、撚糸の効率がよい。そして、塗布部60及び乾燥部70は、中間支持送部50と第2支持送部40との間に配設されているため、これらに固定された状態で炭素繊維束Bに粘性流体を形成、固化することができ、撚糸状態で炭素繊維束Bを固定しやすい。
また、塗布部60は、テーパ面63を有する導入孔62と、炭素繊維束Bの送出方向Aに向かって傾斜して配設され粘性流体を炭素繊維束Bへ吐出する吐出孔65と、炭素繊維束Bが送出される通過孔66とが形成されたノズルブロック61を有する。この塗布部60では、導入孔62及び通過孔66を通過する際に、より均一な厚さの粘性流体を炭素繊維束B上に形成することができる。更に、乾燥部70は、炭素繊維束Bの送出方向Aに向かって傾斜して配設され加熱エアを炭素繊維束Bへ吐出するエアヒータ71,73と、加熱エアを受けた炭素繊維束Bの温度を測定する温度測定部72,74とを有するため、加熱エアによって、炭素繊維束Bを連続的に乾燥することができる。更にまた、炭素繊維撚糸装置10は、乾燥部70で乾燥された炭素繊維束Bを巻き取る巻取り部80を備えるため、粘性流体を形成した炭素繊維束Bを巻取りローラ81ごとに管理することができる。そして、巻取り部80は、炭素繊維束Bを巻き取る巻取りローラ81と、巻取りローラ81を取り外し可能に軸支する軸支固定部83と、巻取りローラ81の回転軸方向に巻取りローラ81を揺動させる揺動部86とを有する。この巻取り部80では、揺動部86により、炭素繊維束Bを均一な状態で巻取りローラ81に巻き取ることができ、更に軸支固定部83により、巻取りローラ81を装着、取り外ししやすい。
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
例えば、上述した実施形態では、第1支持送部30、第2支持送部40及び中間支持送部50は、支持ローラ及びスライド部を有し、撚糸方向Rへの回転を固定しつつ送出方向Aへ連続的に送り出し可能なものとしたが、特にこれに限定されない。例えば、第1支持送部30、第2支持送部40及び中間支持送部50のうち1以上は、炭素繊維束Bを挟持して固定する固定部が送出方向Aに沿ってピストン移動するものとし、炭素繊維束Bを断続的に支持、送り出すものとしてもよい。この構成では、連続的な炭素繊維束Bの送り出しには劣るが、撚糸した炭素繊維束Bを支持、固定及び送り出すことはできる。
上述した実施形態では、第1支持送部30は、支持部材24により供給部20に固定されているものとしたが、供給部20とは別の構成により撚糸方向Rに回転されるものとしてもよい。この構成では、第1支持送部30を回転させる構成が新たに必要となるが、炭素繊維束Bを撚糸することはできる。
上述した実施形態では、中間支持送部50を有するものとしたが、これを省略してもよい。この構成によっても、第1支持送部30と第2支持送部40との間で炭素繊維束Bを撚糸し、固定することはできる。
上述した実施形態では、塗布部60は、4方向にシリンジ64を有するノズルブロック61を有するものとしたが、特にこれに限定されず、シリンジの個数は任意である。また、導入孔62はテーパ面63を有し、比較的大きな空間を有するものとしたが、特にこれに限定されない。また、シリンジ64が傾斜して配設されていることや、通過孔66が導入孔62の逆のテーパ面を有するものとしたが、これらと異なる構成としてもよい。
上述した実施形態では、結着材を炭素繊維束Bに形成する塗布部60及び乾燥部70を備えるものとしたが、特にこれに限定されず、これに加えて、又はこれに代えて、炭素繊維束Bの表面上に分離膜17を形成する塗布部60及び乾燥部70を備えるものとしてもよいし、電極活物質合材を粘性流体として分離膜17上に形成する塗布部60及び乾燥部70を備えるものとしてもよい。この炭素繊維撚糸装置10では、分離膜を形成した炭素繊維束Bや、二次電池15を製造することができる。なお、炭素繊維撚糸装置10は、塗布部60の塗布材を変更し、炭素繊維束Bを供給部20から巻取り部80へ送り出す処理を複数回行い、結着材で固定化した炭素繊維束B、分離膜17を形成した炭素繊維束B、及び電極合材層を形成した二次電池15を順次作製するものとしてもよい。このとき、巻取りローラ81は、得られる炭素繊維束Bに応じた直径を有するものを用いればよい。こうすれば、1つの塗布部60および乾燥部70で、二次電池15まで作製することができる。
上述した実施形態では、乾燥部70は、加熱ガスを供給して炭素繊維束B上の粘性流体を乾燥するものとしたが、特にこれに限定されず、赤外線ヒータなどとしてもよい。この構成によっても、炭素繊維束Bに形成された粘性流体を乾燥することができる。
上述した実施形態では、巻取り部80を備え、炭素繊維束Bを巻き取るものとしたが、特にこれに限定されず、巻取り部80を省略してもよい。この場合において、例えば、炭素繊維撚糸装置10は、炭素繊維束Bを所定長さで切断する切断部を備え、所定長さの炭素繊維束Bを得るものとしてもよい。例えば、上述したように、塗布部60及び乾燥部70で二次電池15を製造した場合は、巻き取らずに二次電池15の長さに切断した方が、二次電池構造体14を製造する上では好ましい。
以下には、上述した炭素繊維撚糸装置10を具体的に作製した例を実施例として説明する。ここでは、図1~7に示した炭素繊維撚糸装置10を作製し、炭素繊維束Bの撚糸の有無、撚糸度や分離膜形成によるその固定状態などを検討した。
図8は、炭素繊維束の外観写真及び断面写真であり、図8Aが撚糸せず分離膜を形成しなかった炭素繊維束の外観写真、図8Bが図8Aの断面写真、図8Cが低撚糸度及び分離膜を形成しなかった炭素繊維束の外観写真、図8Dが図8Cの断面写真、図8Eが高撚糸度及び分離膜を形成した炭素繊維束の外観写真、図8Fが図8Eの断面写真である。ここでは、直径7μmの炭素繊維(日本グラファイトファイバー製GRANOC,YSH-40A-04S)を400本用いた。炭素繊維束の単位長さを10cmとしたときの、単位長さあたりの巻き回数を撚糸度と規定した。撚糸度0回/10cmとしたものを実験例1とし(図8A,B)、撚糸度1回/10cm以下としたものを実験例2とし(図8C,D)、撚糸度10回/10cmとしたものを実験例3とした(図8E,F)。粘性流体としては、結着材としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)をN-メチルピロリドン(NMP)に1~5質量%溶解させた溶液を用い、炭素繊維束の内部に浸透させ、これを固定化した。乾燥温度は、100℃とした。図8に示すように、炭素繊維は券回、撚糸により繊維がまとまり、より太い柱状の繊維束となるが、巻回数の制御、券回状態の維持はともに重要であることがわかった。炭素繊維束の撚糸時の撚糸度は10~20回/10cmの範囲が有効であるものと推察された。撚糸度が小さいと炭素繊維束がバラバラとなり(図8C,D)、多いと外周部の繊維が切断し繊維束として量が小さくなった。炭素繊維の券回、撚糸を行なうと同時に結着材で固定化した炭素繊維束は、図8E,Fに示すように、繊維のまとまりがよく繊維束の密度も大きかった。また、券回した状態で一本の柱状にまとまっており、繊維がバラバラになることもなかった。炭素繊維撚糸装置10を用いると、炭素繊維束を容易に撚糸し、固定化した炭素繊維束を製造することができることがわかった。