以下、本開示の例示的な実施形態を説明および図示して、骨再建および組織再構成、患者固有およびマスカスタマイズの整形外科用インプラント、性差および民族固有の整形外科用インプラント、切断ガイド、外傷プレート、骨移植片切断および配置ガイド、患者固有の器具等、さまざまな態様の整形外科を網羅する。当然のことながら、当業者には、以下に記載の実施形態が本質的に例示であり、本発明の範囲および主旨から逸脱することなく再構成可能であることが明らかとなろう。ただし、明瞭化および厳密化のため、以下に記載の例示的な実施形態には、本発明の範囲内に含まれるための要件ではないと当業者が認識すべき任意選択としてのステップ、方法、および特徴を含む場合がある。
全生体構造再建
図1~図8を参照して、変形した生体構造または不完全な生体構造の再建は、医療提供者が直面している複雑な問題の1つである。生体構造の喪失は、出生状況、腫瘍、疾病、身体傷害、または過去の手術の失敗の結果である可能性がある。さまざまな病気に対する治療の一部として、医療提供者は、生体構造の再建または構成によって、骨折/粉砕骨折、骨変性、整形外科用インプラント再置換、関節変性、およびカスタム器具類設計等の非限定的な種々状況に対する治療を容易化するのが好都合であることを見出している場合がある。たとえば、従来技術の股関節再建ソリューションでは、図15~図19に示すように、自然発生的な非対称性により健康な生体構造の正確な反映とはならない可能性がある健康な患者の生体構造のミラーリングを必要とする。
本開示は、骨再建および組織再構成のシステムおよび方法を提供する。この再建を実行するため、システムおよび関連する方法では、1人または複数の個人を代表する解剖学的画像を利用する。これらの画像の処理によって、問題の生体構造を適正に模倣した仮想3次元(3D)組織モデルまたは一連の仮想3D組織モデルを作成する。その後、このシステムおよび関連する方法を利用して、再建手術に使用する鋳型および/または他の機器(たとえば、固定機器、移植機器、患者固有のインプラント、患者固有の手術ガイド)を作成する。
図1に示すように、例示的なシステムフローの概要は、生体構造を代表する入力データの受信から始まる。この生体構造には、遺伝的特質の結果としての組織変性または組織欠如の場合の不完全な生体構造を含んでいてもよいし、遺伝的特質または環境条件の結果としての変形した生体構造を含んでいてもよいし、1つまたは複数の生体構造の破壊の結果としての粉砕組織を含んでいてもよい。入力解剖学的データは、問題の生体構造の2次元(2D)画像または3次元(3D)表面描写を含み、たとえば表面モデルまたは点群の形態であってもよい。2D画像が用いられる状況においては、これら2D画像の利用によって、問題の生体構造の3D仮想表面描写を構成する。当業者は、生体構造の2D画像を利用して3D表面描写を構成するのに慣れている。したがって、このプロセスの詳細な説明については、簡略化のため省略している。一例として、入力解剖学的データは、X線、コンピュータ断層撮影(CT)、磁気共鳴断層撮影(MRI)、または問題の組織の3D表面描写を生成可能なその他任意の撮像データのうちの1つまたは複数を含んでいてもよい。
図50および表Iを参照して、仮想3D骨モデルの構成に用いられるX線画像の背景においては、撮像時の骨の回転がモデルの正確な構成において重要な役割を果たすことが分かっている。言い換えると、画像間で骨の回転が発生した状況でX線画像を編集しようとする場合、この骨の回転を捉えるには、X線画像を正規化する必要がある。
一例として、大腿骨近位部の背景においては、骨を6°および15°回転させると、X線画像から抽出される測定結果が大幅に変化することが分かっている。一例として、これらの測定結果としては、近位角、骨頭オフセット、および髄内管幅が挙げられるが、これらに限定されない。表Iに反映させたように、ゼロ度でX線撮像した(すなわち、最初のX線で始点を定めた)同じ大腿骨の場合、6°の回転および15°の回転は、画素サイズが約0.29mmの画素を用いて測定した場合に、異なる近位角、骨頭オフセット、および髄内管幅を示していた。特に、回転の増加とともに近位角も大きくなり、骨頭オフセットも同様であるが、髄内管幅には当てはまらなかった。この例示的な表においては、長手軸に沿って3つの横断面を離隔しており、各面は、髄内管の幅を測定した箇所に対応していた。表Iに反映させたように、同じ箇所の髄内管幅は、回転角に応じて変化する。その結果、以下により詳しく論じる通り、X線を用いて骨の3D仮想モデルを構成する場合は、撮像中に骨の回転が発生する限りにおいて、回転偏差を捉える必要がある。
ただし、上記は、例示的なシステムおよび方法と併用可能な生体構造の例示的な記述であるため、他の生体構造について、開示の方法による本システムとの併用を制限することを何ら意図したものではないことが了解されるものとする。本明細書において、組織は、骨、筋肉、靱帯、腱、および多細胞生物において特定の機能を備えたその他任意の有限種類の構造物質を含む。その結果、骨との関連で例示的なシステムおよび方法を論じる場合、当業者は、他の組織へのシステムおよび方法の適用可能性に気付くはずである。
図1を再び参照して、システムへの生体構造データの入力は、3つのモジュールに向かうが、そのうちの2つが生体構造データの処理を伴う(全骨再建モジュール、患者固有モジュール)一方、3つ目(異常データベースモジュール)は、データベースの一部として生体構造データを分類する。処理モジュールの1つ目である全骨再建モジュールは、統計アトラスモジュールから受信したデータで入力生体構造データを処理して、問題の骨の仮想3Dモデルを生成する。この3Dモデルは、問題の骨の完全な正常再建である。処理モジュールの2つ目である患者固有モジュールは、全骨再建モジュールから受信したデータで入力生体構造データを処理して、1つまたは複数の鋳型、固定システム、移植片成形器具、およびレンダリングのほか、1つまたは複数の最終的な整形外科用インプラントを生成する。レンダリングは、予想される手術結果に関するフィードバックのための再建生体構造の視覚化を表す。より具体的に、患者固有モジュールは、患者の生体構造が正常なものから著しく逸脱しているにも関わらず、患者固有の生体構造に正確にフィットするように設計されたフルカスタマイズ機器を生成するように構成されている。さらに、患者固有モジュールは、全骨再建モジュールからの仮想3D再建骨モデルを利用して、機器設計パラメータ用の解剖学的領域および特徴(たとえば、フィッティング領域および/または形状)を自動的に識別する。このように、患者固有のデータを用いて、出力器具および任意のインプラントが患者の特定の生体構造に正確にフィットするように、設計パラメータを規定する。患者固有モジュールの例示的な利用については、以下により詳しく論じる。システムの機能およびプロセスをより詳しく理解するため、システムのモジュールについて、統計アトラスモジュールから以下に説明する。
図1および図2に示すように、統計アトラスモジュールは、1つまたは複数の生体構造(たとえば、骨)の仮想3Dモデルを記録して、所与の個体群における特有の解剖学的多様性を捕捉する。例示的な形態において、アトラスは、平均的な描写および平均的な描写に関する変動として表される1つまたは複数の生体構造の解剖学的特徴の数学的描写を記録する。解剖学的特徴を数学的描写として表すことにより、統計アトラスは、生体構造の自動測定のほか、以下により詳しく論じる通り、欠落した生体構造の再建を可能とする。
共通の生体構造において解剖学的変動を抽出するため、個体群全体において、通常はテンプレート3Dモデルまたは解剖学的3Dテンプレートモデルと称する共通基準枠に対して入力生体構造データを比較する。テンプレート3Dモデルは、回転あるいは視覚的操作可能であるものの、問題の組織に関して、統計アトラス全体におけるすべての生体構造の解剖学的表面特徴/描写の数学的描写を含む3Dモデルとしてグラフィックディスプレイ上で視覚的に表される(すなわち、所与の骨に関して、テンプレート3Dモデルから生成された統計アトラスの個体群全体で骨のすべての特性が共有される)。テンプレート3Dモデルとしては、複数の解剖学的描写の組み合わせまたは単一の描写事例が可能であり、統計アトラスの最低エントロピー状態を表していてもよい。統計アトラス(すなわち、入力生体構造データ)に追加する各生体構造に関しては、解剖学的3Dモデルを作成するとともに、解剖学的3Dモデルおよびテンプレート3Dモデルの両者に正規化プロセスを施す。
正規化プロセスにおいては、テンプレート3Dモデルのスケールに対して解剖学的3Dモデルを正規化する。正規化プロセスでは、解剖学的3Dモデルおよびテンプレート3Dモデルの一方または両方のスケーリングによって、両者が共通の単位スケールを有するようになっていてもよい。解剖学的3Dモデルおよびテンプレート3Dモデルの正規化の後、正規化した解剖学的3Dモデルおよびテンプレート3Dモデルをスケール不変にレンダリングするため、スケール(この場合はサイズを意味する)とは独立に形状の特徴を利用可能となる。正規化を完了した後、スケール空間マッピングおよび特徴抽出シーケンスによって、両3Dモデルを処理する。
スケール空間マッピングおよび特徴抽出は本質的に、多重解像度特徴抽出プロセスである。特に、このプロセスでは、複数の特徴スケールにおける形状固有の特徴を抽出する。まず、異なるスケール空間に存在する各特徴を表す複数の解剖学的特徴を選択する。その後、選択した解剖学的特徴の各スケール空間描写について、モデル固有の特徴を抽出する。これら抽出した特徴を用いて、(ノイズに関して)テンプレート3Dモデルと解剖学的3Dモデルとの間の堅牢な位置合わせパラメータを引き出す。この多重解像度特徴抽出プロセスに続いて、多重解像度3D位置合わせプロセスにより、抽出したデータを処理する。
図2~図5を参照して、多重解像度3D位置合わせプロセスでは、スケール空間抽出特徴を用いて、解剖学的3Dモデルとテンプレート3Dモデルとの間のアフィン位置合わせ計算を実行することにより、2つのモデルを位置合わせする。特に、解剖学的3Dモデルおよびテンプレート3Dモデルは、剛体位置合わせプロセスによって処理する。図5に示すように、この剛体位置合わせプロセスは、解剖学的3Dモデルおよびテンプレート3Dモデルの整列によって、姿勢特異点なく両モデルが同じ空間内となるように動作する。3Dモデルの整列のため、各モデルと関連付けられた重心を整列させる。また、両3Dモデルの主要な方向が同一となるように、各3Dモデルの主軸を整列させる。最後に、反復最近接点計算を実行して、3Dモデル間の姿勢差を最小限に抑える。
剛体位置合わせの後は、相似位置合わせプロセスを用いて3Dモデルを位置合わせする。このプロセスでは、テンプレート3Dモデルおよび解剖学的3Dモデルの両者について、正規スケール特徴(すなわち、リッジ)を最もよく整列させる相似変換の算出により、正規スケールのテンプレート3Dモデルおよび解剖学的3Dモデルを反復的に整列させる。反復相似整列アルゴリズムは、反復最近接点の変異形である。各反復回転においては、点対間の移動およびスケールを収束するまで算出する。Kdツリーにより算出された距離クエリまたはその他何らかの空間分割データ構造を用いて、2つの点集合間のペア適合または対応付けを評価する。特に、両モデルのリッジを利用して、適合点対計算プロセスを実行する。この例示的な説明において、リッジは、単一の主曲率がその曲率線に沿って極値を有する3Dモデル上の点を表す。適合点対計算プロセスの一部として、互いに適合する3Dモデルのリッジ上の点を識別する。次に、両3Dモデルのリッジに相似変換計算プロセスを適用して、両モデルのリッジを最もよく整列させる回転、移動、およびスケールを算出する。これに点変換プロセスが続くが、これは、算出した回転、移動、およびスケールをテンプレート3Dモデルのリッジに適用するように動作する。その後、各適合点集合間の二乗平均平方根誤差または距離誤差を算出した後、過去のプロセスからの相対二乗平均平方根誤差または距離誤差の変化を算出する。相対二乗平均平方根誤差または距離誤差の変化が所定の閾値内である場合は、変換プロセスによって、最終的な回転、移動、およびスケールをテンプレート3Dモデルに適用する。
相似位置合わせプロセスには、関節位置合わせプロセスが続いて、スケール空間特徴プロセスから入力データを受け取る。スケール空間特徴プロセスにおいては、異なるスケール空間のテンプレート3Dモデルおよび解剖学的3Dモデルから特徴を抽出する。各スケール空間は、元の解剖学的3Dモデルをガウス平滑化関数で畳み込むことによって規定される。
関節位置合わせプロセスの目的は、解剖学的3Dモデル上で算出された「m」個のスケール空間特徴に対して、テンプレート3Dモデルの「n」個のスケール空間特徴を適合させることである。テンプレート3Dモデルおよび解剖学的3Dモデルで検出される特徴の数の差異は、解剖学的変動に起因する。この検出特徴数の差異によって、テンプレート3Dモデルと解剖学的3Dモデルとの間に多くの関係が得られる場合がある。したがって、2方向の相互特徴適合の実行により、このような変動に対応するとともに、すべての相互特徴間の正確な適合を実現する。具体的には、スケール空間において、テンプレート3Dモデル上で特徴集合を演算する。この例示的なプロセスにおいて、特徴集合は、顕著な解剖学的構造(たとえば、骨盤の寛骨臼カップ、腰部の脊髄プロセス)を表す接続点集合である。同様に、スケール空間において、解剖学的3Dモデル上で特徴集合を演算する。特徴対適合プロセスによって、形状記述子(たとえば、曲率、形状係数等)を用いることにより、解剖学的3Dモデル上の特徴集合に対して、テンプレート3Dモデル上の演算した特徴集合を適合させる。このプロセスの結果は、テンプレート3Dモデルと解剖学的3Dモデルとの間の特徴集合の「n-m」マッピングである。必要に応じて、再グループ化プロセスを実行することにより、適合させた特徴集合を単一の特徴集合として再グループ化する(たとえば、寛骨臼カップが2つとして検出された場合、このプロセスでは、これら2つを単一の特徴集合として再グループ化する)。その後、計算プロセスの実行によって、テンプレート3Dモデルおよび解剖学的3Dモデル上の適合させた特徴集合の各点間の対応付けを算出する。これに、アフィン計算変換プロセスが続いて、テンプレート3Dモデル上の適合させた各特徴集合を解剖学的3Dモデル上の対応する特徴集合に変換する回転、移動、および剪断を算出する。その後、算出したアフィン変換パラメータ(すなわち、回転、移動、および剪断)を用いて、テンプレート3Dモデルを変換する。最後に、剛体整列プロセスを実行して、テンプレート3Dモデルおよび解剖学的3Dモデル上の適合させた各特徴集合を整列させる。
関節位置合わせプロセスおよび正規スケール特徴プロセスの後に行う非剛体位置合わせプロセスでは、テンプレート3Dモデル上のすべての表面頂点を解剖学的3Dモデル上の頂点に適合させるとともに、最初の対応付けを算出する。その後、この対応付けを用いて、テンプレート3Dモデル上の各頂点を解剖学的3Dモデル上の適合点に移動させる変形場を算出する。適合は、同じクラス内の頂点(すなわち、スケール空間特徴頂点、正規スケール特徴頂点、または非特徴頂点)間で行う。正規スケール特徴プロセスとの関連で、元の入力モデルを意味する元のスケール空間(リッジ)において、テンプレート3Dモデルおよび解剖学的3Dモデル上の形状特徴を算出する。
具体的には、非剛体位置合わせプロセスの一部として、テンプレート3Dモデル(TMssf)および解剖学的3Dモデル(NMssf)上でスケール空間特徴を算出する。テンプレート3Dモデルおよび解剖学的3Dモデル上の各特徴集合は、「k」個の近接点を用いることにより成長する。また、テンプレート3Dモデルのスケール空間特徴に整列プロセスを適用して、解剖学的3Dモデル上の対応する特徴に適合させる。基準(X)および移動(Y)という2つの点群を所与として、最小相対二乗平均平方根誤差および最大角度閾値という制約の下、2つの点群を反復的に整列させて、全体的な誤差基準を最小限に抑えることを目標とする。再整列プロセスを実行して、正規スケールの反復最近接点を用いることにより、解剖学的3Dモデル上の適合集合に対して、テンプレート3Dモデル上の特徴集合を整列させる。再整列の後、テンプレート3Dモデル上の各特徴集合の点間について、解剖学的3Dモデル上の適合させた特徴集合との点の対応付けを算出する。解剖学的3Dモデル上の適合点は、テンプレート3Dモデルの点に近い表面法線方向を有するはずである。出力は、変形場計算ステップに送る。
スケール空間特徴計算の進行と並列に、テンプレート3Dモデル(TMnfp)および解剖学的3Dモデル(NMnfp)の非特徴点またはスケール空間特徴にも正規スケール特徴にも属さないテンプレート3Dモデル表面上のその他の点集合を対応付け計算により処理して、テンプレート3Dモデル上の非特徴点と解剖学的3Dモデル上の非特徴点との間の点の対応付けを算出する。新たなモデル上の適合点は、テンプレートモデルの点に近い表面法線方向を有するはずである。出力は、変形場計算ステップに送る。
また、スケール空間特徴計算の進行と並列に、AICPを用いて、解剖学的3Dモデル(NMnsf)上の正規スケール特徴(すなわち、リッジ)に対してテンプレート3Dモデル(TMnsf)上の正規スケール特徴(すなわち、リッジ)を整列させる。AICPは、反復最近接点計算の変異形であり、各反復において、適合点集合間で移動、回転、およびスケールを算出する。整列プロセスの後、対応付けプロセスを実行する。
スケール空間特徴計算の進行、対応付けの進行、および整列の進行による出力に変形プロセスを適用するが、ここでは、変形場の算出によって、テンプレート3Dモデル上の各点を解剖学的3Dモデル上の適合点に移動させる。
非剛体位置合わせプロセスの出力に緩和プロセスを適用して、多重解像度位置合わせステップの後、テンプレート3Dモデルメッシュの頂点を解剖学的3Dモデルの表面近くに移動させるとともに、出力モデルを平滑化する。特に、正規空間のテンプレート3Dモデル(TMns)および正規空間の解剖学的3Dモデル(NMns)は、対応付け計算により処理して、正規制約付き球探索アルゴリズムにより、解剖学的3Dモデルに最も近いテンプレート3Dモデル上の頂点を演算する。この計算では、両モデルの最も近い頂点を用いることにより、テンプレート3Dモデルの各頂点および解剖学的3Dモデルの適合頂点から対応付けベクトルが生成され、その結果として、解剖学的3Dモデルから2つ以上の適合点が得られる可能性がある。テンプレート3Dモデル上の各頂点の適合点を用いることにより、上記点および適合点からのユークリッド距離に基づいて、解剖学的3Dモデル上の適合点の加重平均を算出する。この点において、加重平均を用いてテンプレート3Dモデルを更新することにより、算出した加重平均距離を用いてテンプレート3Dモデル上の各点を移動させる。重み演算プロセスの後、テンプレートモデル上のすべての点に対して緩和プロセスを実行することにより、解剖学的3Dモデル表面上の最も近い点を探し出して、上記点に移動させる。最後に、変形したテンプレート3Dモデルに平滑化演算を実行してノイズを除去する。その後、得られた位置合わせ3Dモデル(すなわち、テンプレート3Dモデルおよび解剖学的3Dモデル)に自由形状変形プロセスを適用する。
自由形状変形プロセスにおいては、解剖学的3Dモデルの表面でテンプレート3Dモデルの表面をモーフィングする。より具体的に、テンプレート3Dモデルの表面は、テンプレート3Dモデルおよび解剖学的3Dモデルの両表面上の相互適合点を用いて、反復的に加重点間移動させる。
図2および図6を参照して、自由形状変形プロセスの後、解剖学的3Dモデルに対応付け計算プロセスを適用して、解剖学的3Dモデルとモーフィングしたテンプレート3Dモデルとの間のずれを決定する。この対応付け計算プロセスでは、自由形状変形ステップからテンプレート3Dモデルを改良して、変形したテンプレート3Dモデルおよび変形した解剖学的3Dモデル上の選択ランドマーク位置の最終的な適合を実行する。このように、対応付け計算プロセスでは、3Dモデル間のサイズおよび形状の変動を算出し、平均的なモデルに関する偏差として記録する。この対応付け計算プロセスの出力は、解剖学的3Dモデルにおける変動を捉えるように更新された正規化解剖学的3Dモデルおよび改正テンプレート3Dモデルの追加である。言い換えると、図2に概要を示したプロセスの出力は、改正テンプレート3Dモデルと整合する特性(たとえば、点の対応付け)を有して全生体構造再建(たとえば、全骨再建)を容易化するように修正された正規化解剖学的3Dモデルである。
図1および図7を参照して、統計アトラスモジュールからの入力および生体構造データは、全生体構造再建モジュールに向かう。一例として、問題の生体構造は、1つの骨であってもよいし、複数の骨であってもよい。ただし、本明細書に記載の例示的なハードウェア、プロセス、および技術を用いて骨以外の生体構造を再建可能であることに留意するものとする。例示的な形態において、全生体構造再建モジュールは、不完全、変形、または粉砕骨盤に関する入力データを受信するようにしてもよい。入力解剖学的データは、問題の生体構造の2次元(2D)画像または3次元(3D)表面描写を含み、たとえば表面モデルまたは点群の形態であってもよい。2D画像が用いられる状況においては、これら2D画像の利用によって、問題の生体構造の3D表面描写を構成する。当業者は、生体構造の2D画像を利用して3D表面描写を構成するのに慣れている。したがって、このプロセスの詳細な説明については、簡略化のため省略している。一例として、入力解剖学的データは、X線、コンピュータ断層撮影(CT)、磁気共鳴断層撮影(MRI)、または3D表面描写を生成可能なその他任意の撮像データのうちの1つまたは複数を含んでいてもよい。以下により詳しく論じる通り、この入力解剖学的データは、(1)最も近い統計アトラス3D骨モデルを識別する始点、(2)3D表面頂点集合を用いた位置合わせ、および(3)再建出力の最終緩和ステップに使用可能であるが、これらに限定されない。
図7に示すように、入力解剖学的データ(たとえば、患者の骨モデル)を利用して、問題の患者の生体構造に最も類似する統計アトラスの解剖学的モデル(たとえば、骨モデル)を識別する。このステップは、アトラスの最も近い骨の探索として図3に示している。まず、患者の骨モデルに最も類似する統計アトラスの骨モデルを識別するため、1つまたは複数の相似基準を用いて、患者の骨モデルを統計アトラスの骨モデルと比較する。この最初の相似基準の結果は、後々の位置合わせステップで「初期推定」として用いられる統計アトラスからの骨モデルの選択である。位置合わせステップでは、アトラス骨モデルと整列した患者骨モデルが出力となるように、患者骨モデルを選択したアトラス骨モデル(すなわち、初期推定の骨モデル)に位置合わせする。位置合わせステップに続いて、形状が患者の骨形状に適合するように、整列した「初期推定」の形状パラメータを最適化する。
形状パラメータ(この場合は統計アトラスによる)の最適化によって、非変形または既存の骨の領域を用いることにより、再建と患者骨モデルとの間の誤差を最小限に抑える。形状パラメータの値を変化させることにより、さまざまな解剖学的形状を表すことができる。このプロセスは、(場合により、反復間の相対的な表面変化または最大許容反復数として測定される)再建形状の収束が実現されるまで、異なるスケール空間で繰り返す。
緩和ステップの実行によって、患者の元の3D組織モデルに最もよく適合するように最適化組織をモーフィングする。この例示的な場合と整合して、収束ステップにより出力された再建骨盤モデルからの欠落生体構造を患者固有の3D骨盤モデルに適用することにより、患者の再建骨盤の患者固有の3Dモデルを作成する。より具体的には、患者固有の3D骨盤モデル上に直接、再建骨盤モデル上の表面点を緩和(すなわち、モーフィング)させて、再建形状を患者固有の形状に最もよく適合させる。このステップの出力は、患者の正常/完全な生体構造となるべきものを表す十分に再建された患者固有の3D組織モデルである。
図1を参照して、異常データベースは、欠損分類モジュールのデータ入力およびトレーニングとして利用する。特に、異常データベースは、解剖学的な表面描写ならびに関連する臨床および人口統計データを含む異常解剖学的特徴に固有のデータを含む。
図1および図8を参照して、欠損分類モジュールには、正常/完全な組織を表す十分に再建された患者固有の3D組織モデルおよび異常データベースからの異常/不完全な組織を表す入力解剖学的データ(すなわち、3D表面描写を生成可能な3D表面描写またはデータ)を入力する。この異常データベースからの解剖学的データは、遺伝的特質の結果としての組織変性または組織欠如の場合の不完全な生体構造であってもよいし、遺伝的特質または環境条件(たとえば、再手術、疾病等)の結果としての変形した生体構造であってもよいし、1つまたは複数の生体構造の破壊の結果としての粉砕組織であってもよい。一例として、入力解剖学的データは、X線、コンピュータ断層撮影(CT)、磁気共鳴断層撮影(MRI)、または3D表面描写を生成可能なその他任意の撮像データのうちの1つまたは複数を含んでいてもよい。
欠損分類モジュールは、問題の生体構造の正規3D描写と結合された異常データベースから複数の異常3D表面描写を引き出して、定量的な欠損分類体系を作成する。この欠損分類体系を用いて、各欠損クラスまたはクラスタの「テンプレート」を作成する。より一般的に、欠損分類モジュールは、密に関連した欠陥(類似形状、臨床、外観、または他の特性を有する欠陥を表す)から成るクラスに解剖学的欠陥を分類して、これらの欠陥に対処する医療ソリューションの生成を容易化する。本欠損分類モジュールは、術前データと術中の観察者視覚化との間の相違を排除または低減する手段として、欠損を自動的に分類するソフトウェアおよびハードウェアを使用する。従来は、解剖学的な再建の必要性の程度を定性的に解析する手段として、術前にX線写真を撮っていたが、このため、術前の計画は行き当たりばったりでしかなかった。現在は、生体構造の欠陥の程度を観察者が術中に最終決定しており、X線写真に依拠した術前計画が不良または不完全であったことが何度も結論付けられている。結果として、本欠損分類モジュールは、欠損分類に関連する観察者間および観察者内の変動を抑えるとともに、新たな欠損事例を分類する定量的基準を提供することによって、現在の分類体系を改良したものである。
欠損分類モジュールの一部として、このモジュールは、初期状態として使用する1つまたは複数の分類種類を入力として取得するようにしてもよい。たとえば、骨盤の背景において、欠損分類モジュールは、米国整形外科学会(AAOS)のD’Antonioらに対応する入力欠損特徴として、骨欠損分類構造を使用するようにしてもよい。この構造には、(1)部分的骨粗しょうに対応するタイプI、(2)空洞性骨粗しょうに対応するタイプII、(3)部分的および空洞性組み合わせ骨粗しょうに対応するタイプIII、ならびに(4)骨盤断裂に対応するタイプIVという4つの異なるクラスを含む。あるいは、欠損分類モジュールは、骨盤に関して図10にグラフィック表示するPaprosky骨欠損分類構造でプログラムされていてもよい。この構造には、(1)骨融解を伴わない補助リムに対応するタイプI、(2)無傷補助カラムおよび2cm未満の上内側縁または側方移動を伴う歪んだ半球に対応するタイプII、ならびに(3)2cm超の上側移動かつコーラーの線が破損または無傷の深刻な坐骨融解に対応するタイプIIIという3つの異なるクラスを含む。さらに、欠損分類モジュールは、修正Paprosky骨欠損分類構造でプログラムされていてもよい。この構造には、(1)構成要素の移動を伴わない補助リムに対応するタイプ1、(2)3cm未満の上側移動を伴う歪んだ半球に対応するタイプ2A、(3)1/3未満のリム外周を有し、ドームが補助状態を保つより大きな半球歪みに対応するタイプ2B、(4)無傷リム、コーラーの線の内側への移動、および補助状態を保つドームに対応するタイプ2C、(5)3cm超の上側移動かつコーラーの線が無傷の深刻な坐骨融解に対応するタイプ3A、ならびに(6)3cm超の上側移動かつコーラーの線が破損し、リム欠損が外周の半分を超える深刻な坐骨融解に対応するタイプ3Bという6つの異なるクラスを含む。欠損分類モジュールは、出力の分類種類およびパラメータを用いて、解剖学的データを再建データと比較することにより、解剖学的データが最も類似することで得られた割り当て分類に相当する分類種類を識別する。
最初のステップとして、統計アトラス追加ステップでは、正常アトラス3D骨モデルと異常3D骨モデルとの間の対応付けを生成する。より具体的には、3D骨モデルを比較して、正常3Dモデルの骨のうち、異常3Dモデルに存在しない骨を識別する。例示的な形態においては、各3D骨モデルの表面上の点を比較するとともに、異常3D骨モデル上に存在しない正常3D骨モデルの表面上の離散点一覧を生成することにより、欠落/異常骨を識別する。また、このシステムでは、2つのモデル間に共通のこれら表面点を記録および一覧化(すなわち、識別)するようにしてもよいし、異常3D骨モデル上に存在しない点として記録されなければ、その他すべての点が両骨モデル(すなわち、正常骨モデルおよび異常骨モデルの両者)において共通に存在することに略式で留意するようにしてもよい。したがって、このステップの出力は、統計アトラス対応付けおよび異常3D骨モデルにおいて特徴(点)が存在しているか欠落しているかを示す正常アトラス3D骨モデルからの特徴(点)一覧を伴う異常3D骨モデルである。
正常アトラス3D骨モデル(全骨再建モジュールから生成)と異常3D骨モデル(入力解剖学的データから生成)との対応付けの生成後は、正常アトラス3D骨モデル上において、異常3D骨モデルからの欠落/異常領域を位置特定する。言い換えると、正常アトラス3D骨モデルを異常3D骨モデルと比較して、正常アトラス3D骨モデルに存在する骨の異常3D骨モデルからの欠落を識別および記録する。位置特定は、曲率比較、表面積比較、および点群面積比較等、さまざまに実行可能であるが、これらに限定されない。最終的に、例示的な形態においては、欠落/異常領域の幾何学的境界を識別する境界点集合として欠落/異常骨を位置特定する。
境界点を用いることにより、欠損分類モジュールは、入力臨床データを用いて欠落/異常領域から特徴を抽出する。例示的な形態において、抽出する特徴には、形状情報、体積情報、または不良(すなわち、欠落または異常)領域の全体的特性の記述に用いられるその他任意の情報を含んでいてもよい。これらの特徴は、現在の欠損分類データまたは解剖学的特徴に必ずしも関連していない患者の臨床情報(人口統計、病歴等)といった既存の臨床データに基づいて改良されるようになっていてもよい。このステップの出力は、類似組織(たとえば、骨)の変形をグループ化する後続ステップで用いられる不良領域を代表する数学的記述子である。
数学的記述子は、統計解析に基づいてクラスタリングまたはグループ化される。特に、この記述子は、統計的に解析され、他の患者/死体からの他の記述子との比較によって、所与の固体群内の一意の欠損クラスを識別する。この分類は、患者/死体数の増加に応じて離散グループの分類および識別を改良する複数の患者/死体からの複数の記述子を前提としていることが明らかである。この統計解析の出力は、新たな入力解剖学的データの分類に用いられる欠損クラス集合であり、テンプレート数を決定する。
欠損分類モジュールの出力は、テンプレートモジュールに向かう。例示的な形態において、テンプレートモジュールは、欠損分類モジュールにより識別された欠損分類それぞれに関して固有のデータを含む。一例として、所与の欠損分類の各テンプレートは、不良骨の表面描写、欠損の位置、および不良骨に関する測定結果を含む。このテンプレートデータは、表面形状データ、点群描写、1つまたは複数の曲率プロファイル、寸法データ、および物理量データの形態であってもよい。テンプレートモジュールおよび統計アトラスの出力は、マスカスタマイズモジュールが利用して、マスカスタマイズインプラント、固定機器、器具、または鋳型の設計、試験、および製造を可能とする。マスカスタマイズモジュールの例示的な利用については、以下により詳しく論じる。
患者固有の再建インプラント
図1および図20を参照して、不完全、変形、および/または粉砕生体構造に悩む患者用の患者固有の整形外科用インプラントガイドおよび関連する患者固有の整形外科用インプラントを生成する例示的なプロセスおよびシステムを説明する。例示的な記載を目的として、生体構造が不完全な患者用の完全股関節形成術を説明する。ただし、この例示的なプロセスおよびシステムは、不完全または変形生体構造が存在する事例において、患者固有のカスタマイズに適した任意の整形外科用インプラントに適用可能であることが了解されるものとする。たとえば、この例示的なプロセスおよびシステムは、骨の変性(不完全な生体構造)、骨の変形、または粉砕骨折が存在する肩関節置換および膝関節置換に適用可能である。結果として、以下に股関節インプラントを論じるものの、当業者であれば、初回整形外科手術または再置換術に使用する他の整形外科用インプラント、ガイド、器具等にこのシステムおよびプロセスを適用可能であることが理解されよう。
骨盤断裂は、完全股関節形成術(THA)と最もよく関連する骨粗しょうの異型であり、骨溶解または寛骨臼骨折によって、骨盤の上面が下部から分離する可能性がある。骨粗しょうの量および重症度ならびにインプラントの生物学的内部成長の可能性は、特定の患者に対する治療の選択に影響を及ぼし得る要因の一部である。重度の骨粗しょうおよび骨盤完全性の喪失の場合は、カスタムのトリフランジカップを使用するようにしてもよい。1992年に初めて導入されたこのインプラントは、既存のケージに対していくつかの利点を有する。骨盤断裂に対する安定性の付与、ケージの構造移植および術中成形の必要性の排除、ならびに周囲の骨に対する構成の骨結合の促進が可能である。
背景に関わらず、患者の不完全、変形、および/または粉砕生体構造が問題であろうとなかろうと、患者固有のインプラントおよび/またはガイドを生成する例示的なシステムおよびプロセスでは、上記の例示的な3D骨モデル再建プロセスおよびシステムを利用して(図1~図7および上記の例示的な記述を参照)、患者の再建生体構造の3次元モデルを生成する。より具体的に、骨盤断裂に関連する完全股関節形成術の背景において、例示的な患者固有のシステムでは、患者の骨盤データを利用して、体側(右側または左側)個別の患者の完全な骨盤の3Dモデルを生成する。結果として、不完全な生体構造の場合に患者の生体構造データを利用するとともに患者の生体構造の3D再建モデルを生成するシステムおよびプロセスの説明については、簡略化のため省略している。したがって、不完全、変形、および/または粉砕生体構造に悩む患者用の患者固有の整形外科用インプラントガイドおよび関連する患者固有の整形外科用インプラントを生成するプロセスおよびシステムの説明については、3次元再建モデルの形成後に記載する。
図20~図22および図27を具体的に参照して、骨盤および大腿骨の患者固有の再建3D骨モデルの生成後は、(骨盤および大腿骨の)不完全な患者固有の3D骨モデルおよび(骨盤および大腿骨の)再建3D骨モデルの両方を利用して、患者固有の整形外科用インプラントならびにインプラントに用いる患者固有の配置ガイドおよび/もしくはその締結具を作成する。特に、欠損形状抽出ステップには、患者固有の3Dモデルと再建3Dモデルとの間の対応付け(骨盤モデル間の対応付け、大腿骨モデル間の対応付けであって、ある大腿骨モデルと骨盤モデルとの間の対応付けではない)の生成を含む。より具体的には、3Dモデルを比較して、再建3Dモデルの骨のうち、患者固有の3Dモデルに存在しない骨を識別する。例示的な形態においては、各3Dモデルの表面上の点を比較するとともに、患者固有の3Dモデル上に存在しない再建3Dモデルの表面上の離散点一覧を生成することにより、欠落/異常骨を識別する。また、このシステムでは、2つのモデル間に共通のこれら表面点を記録および一覧化(すなわち、識別)するようにしてもよいし、患者固有の3Dモデル上に存在しない点として記録されなければ、その他すべての点が両モデル(すなわち、再建3Dモデルおよび患者固有の3Dモデルの両者)において共通に存在することに略式で留意するようにしてもよい。
図21を参照して、再建3Dモデル(全骨再建モジュールから生成)と患者固有の3Dモデル(入力解剖学的データから生成)との対応付けの生成後は、再建3Dモデル上において、患者固有の3Dモデルからの欠落/異常領域を位置特定する。言い換えると、再建3Dモデルを患者固有の3Dモデルと比較して、再建3Dモデルに存在する骨の患者固有の3Dモデルからの欠落を識別および記録する。位置特定は、曲率比較、表面積比較、および点群面積比較等、さまざまに実行可能であるが、これらに限定されない。最終的に、例示的な形態においては、欠落/異常骨を位置特定するが、この出力には、(a)患者固有の3Dモデルにおいて欠落または変形した再建3Dモデルの骨に対応する頂点を識別する第1のリストおよび(b)患者固有の3Dモデルにおいても存在し、正常である再建3Dモデルの骨に対応する頂点を識別する第2のリストという2つのリストを含む。
図21、図22、および図27を参照して、欠損形状抽出ステップの後には、インプラント軌跡ステップを実行する。欠損形状抽出ステップからの2つの頂点リストおよび統計アトラスからの正常な骨(たとえば、骨盤、大腿骨等)の3Dモデル(図1、図2、および上記の例示的な記述を参照)を入力して、大腿骨または骨盤インプラントの固定箇所を識別する。より具体的には、患者が残存骨を有する場所に位置決めされるように、固定箇所(すなわち、インプラント軌跡)を自動的に選択する。逆に、患者の残存骨の欠損領域には固定箇所を選択しない。このように、最終的なインプラントの設計/形状とは独立に固定箇所を選定する。固定箇所の選択は、形状情報および統計アトラス位置を用いて自動的に行われるようになっていてもよい。
図21に示すように、インプラント軌跡ステップの後は、次のステップによって、患者固有のインプラントパラメータを生成する。このステップを完了するには、インプラントの基本形状を規定するのに十分な数の設定パラメータによってインプラントを規定するインプラントパラメータ化テンプレートを入力する。一例として、骨盤の再建によって欠落または変性した寛骨臼を置換/増強する場合、インプラントパラメータ化テンプレートは、置換寛骨臼カップの配向用の角度パラメータおよび大腿骨頭の寸法に対応する深さパラメータを含む。寛骨臼インプラントの他のパラメータとしては、寛骨臼カップの直径、面配向、フランジ位置および形状、固定ねじの位置および配向が挙げられるが、これらに限定されない。多孔インプラントの場合は、細孔の位置および構造特性が含まれるものとする。一例として、大腿骨の再建により欠落または変性した大腿骨を置換/増強する場合、インプラントパラメータ化テンプレートは、置換大腿骨頭の配向用の角度パラメータ、頸部の長さ、骨頭オフセット、近位角、ならびに外側大腿骨および顆間チャネルの断面解析を含む。当業者であれば、インプラントの基本形状を規定するために選定するパラメータが置換または補完する生体構造によって決まることが理解されよう。結果として、インプラントの基本形状の規定に十分なパラメータの総記は実現困難である。その場合でも、たとえば図22に示すように、再建3D骨盤モデルを利用して、寛骨臼カップの半径、寛骨臼カップの周方向上側リッジを含む骨盤骨の識別、および残存骨盤に対する寛骨臼カップの配向の識別を得るようにしてもよい。さらに、インプラントが患者固有の生体構造に最もよく/よりよくフィットするようにインプラント軌跡を考慮することにより、パラメータを改良するようにしてもよい。
インプラントの基本形状の規定に十分な設定パラメータ数の決定に続いて、インプラントの設計に着手する。より具体的には、全体的なインプラント表面モデルの最初の反復を構成する。この全体的なインプラント表面モデルの最初の反復は、患者固有の輪郭および埋め込み領域の推定輪郭の組み合わせによって規定される。推定輪郭は、再建3D骨モデル、欠落した解剖学的な骨、および再建3D骨モデルから抽出された特徴により決定される。たとえば寛骨臼カップインプラントに関して図22に示すように、自動的に決定可能なこれらの特徴およびインプラント部位の位置を使用して、全体的なインプラント形状を決定する。
図20を再び参照して、全体的なインプラント表面モデルの最初の反復は、カスタム(すなわち、患者固有)の計画シーケンスによって処理する。このカスタム計画シーケンスには、反復的な精査および設計プロセスの一部として、外科医および技術者による入力を伴っていてもよい。特に、外科医および/または技術者は、全体的なインプラント表面モデルおよび再建3D骨モデルを確認して、全体的なインプラント表面モデルに変更が必要であるか否かを判定する。この精査により、技術者と外科医との間の合意が得られるまで、全体的なインプラント表面モデルが反復されるようになっていてもよい。このステップの出力は、最終的なインプラントの表面モデルであり、当該最終的なインプラントまたは有形モデルを作成するためのCADファイル、CNCマシン符号化、またはラピッドマニュファクチャリング命令の形態であってもよい。
図20、図22、および図23を参照して、患者固有の整形外科用インプラントの設計と同時または設計後に、患者固有の配置ガイドを設計する。例示的な形態で上述した通り、寛骨臼カップインプラントの背景においては、1つまたは複数の手術器具の設計および製造によって、患者固有の寛骨臼カップの配置を支援することができる。残存骨に適合するサイズおよび形状を有するように患者固有のインプラントを設計したので、この患者固有のインプラントの輪郭および形状を配置ガイドの一部として利用および包含するようにしてもよい。
例示的な形態において、寛骨臼配置ガイドは、腸骨、坐骨、および恥骨表面に接触するように構成された3つのフランジを備え、これら3つのフランジがリングで相互接続されている。さらに、寛骨臼カップインプラントに対して予定通りの同一位置を配置ガイドが有するように、配置ガイドのフランジは、寛骨臼カップインプラントの同一形状、サイズ、および輪郭を有していてもよい。言い換えると、寛骨臼配置ガイドは、患者の生体構造に対して正確に合致するように、寛骨臼カップインプラントと同様に、患者の生体構造(腸骨、坐骨、および恥骨の一部表面)のネガインプリントとして成形する。ただし、インプラントガイドは、孔開けおよび/または締結具配置をガイドするように構成された1つまたは複数の固定孔を含む点において、インプラントとは大きく異なる。例示的な形態において、配置ガイドは、画像解析(たとえば、マイクロCT)に基づいて、残存骨盤に寛骨臼カップインプラントを固定する際に利用される任意のドリルビットまたは他のガイド(たとえば、ダボ)の適正な配向を保証するようにサイズ指定および配向された孔を含む。孔の数および配向は、残存骨によって決まり、これは、寛骨臼カップインプラントの形状にも影響を及ぼす。図23は、完全股関節形成術に用いる患者固有の配置ガイドの一例を示している。別の事例においては、インプラントに嵌入して固定ねじの方向のみをガイドするようにガイドを作製可能である。この形態においては、インプラントの真上に配置可能となるように、インプラントのネガとしてガイドを成形する。その場合でも、患者固有の再建インプラントのサイズ、形状、および輪郭のうちの少なくとも一部の包含は、患者固有のインプラントが結合される対象の骨と無関係に適用される主題である。
本明細書に記載の例示的なシステムおよび方法を利用することにより、整形外科用配置の精度を高め、解剖学的統合を改善し、再建3次元モデルを介した真の角度および平面配向の術前測定を可能にする大量の情報を提供することができる。
マスカスタマイズ可能な構成要素を用いたカスタマイズインプラントの作成
図26を参照して、マスカスタマイズ可能な構成要素を用いてカスタマイズ整形外科用インプラントを生成する例示的なプロセスおよびシステムを説明する。例示的な記載を目的として、寛骨臼欠損が深刻な患者用の完全股関節形成術を説明する。ただし、この例示的なプロセスおよびシステムは、不完全な生体構造が存在する事例において、マスカスタマイズに適した任意の整形外科用インプラントに適用可能であることが了解されるものとする。
重度の寛骨臼欠損の場合は、特殊な処置および修復用のインプラント構成要素が必要である。1つの手法として、寛骨臼カップならびに腸骨、坐骨、および恥骨に取り付けられた3つのフランジから成る完全カスタムインプラントであるカスタムトリフランジが挙げられる。この例示的なプロセスおよびシステムに対して、従来技術のトリフランジインプラントは、製造が困難であり、事例ごとにインプラント全体の再設計を要する(すなわち、完全に患者固有の)単一の複雑な構成要素を備える。この例示的なプロセスおよびシステムでは、完全カスタムの構成要素のほか、マスカスタマイズ可能な構成要素をモジュール式に利用してカスタムのフィッティングおよび多孔性を可能とするカスタムトリフランジインプラントを生成する。
例示的なプロセスによる予備計画ステップを実行して、カップに対する3つのフランジの配向、フランジ接触箇所、ならびに寛骨臼カップの配向およびサイズを決定する。この予備計画ステップは、本項の直前に論じた「患者固有のインプラント」に従って行う。一例として、具体的なインプラント固定箇所は、直前の項で論じた通り、インプラント軌跡ステップによって、その前置きのデータ入力を用いることにより決定する。前述の通り、このインプラント軌跡ステップの一部として、欠損形状抽出ステップからの2つの頂点リストおよび統計アトラスからの正常な骨盤の3Dモデル(図1、図2、および上記の例示的な記述を参照)を入力することにより、カスタムトリフランジの固定箇所を識別する。より具体的には、患者が残存骨を有する場所に位置決めされるように、固定箇所(すなわち、インプラント軌跡)を選択する。言い換えると、患者の残存骨盤の欠損領域には固定箇所を選択しない。このように、最終的なインプラントの設計/形状とは独立に固定箇所を選定する。
固定箇所を決定した後、本項の直前に論じた「患者固有のインプラント」を用いて、トリフランジ構成要素(すなわち、フランジ)を設計する。フランジは、カップの配向によって許容範囲の関節機能が提供されるように置換寛骨臼カップに対して配向するように設計する。また、フランジの接触表面は、トリフランジの接触表面が骨盤骨表面の「ネガ」として成形される点において、患者の骨盤生体構造に適合するように輪郭を削る。図23の例示的なプロセスでは、図17に示すプロセスの最終ステップを利用して、フランジを迅速に試作する(または、従来のコンピュータ数値制御(CNC)装置を使用する)。フランジの製造後は、別の機械加工またはステップの実行によって、多孔材料をトリフランジに追加可能な空洞を提供するようにしてもよい。
カスタム構成要素である必要がないトリフランジシステムの部分としては、寛骨臼カップ構成要素がある。この例示的なプロセスにおいては、寛骨臼カップのファミリを最初に製造して、トリフランジシステムを構築する基礎を与える。これらの「ブランク」カップは、保管の上、必要に応じて使用する。カップに特定の多孔性が望ましい場合は、機械的特徴をカップに追加して、カップへの多孔材料の圧入を可能とする。あるいは、カップに特定の多孔性が望ましい場合は、1つまたは複数の多孔被膜を用いてカップを被覆するようにしてもよい。
上述の通り、ブランクカップの形成および任意の多孔性問題への対処の後は、カップを機械加工してフランジを受容することにより、カップが患者固有となる。特に、システムソフトウェアは、フランジの仮想モデルを用いて、フランジの仮想ロック機構を構成するが、これは、マシン符号化変換によって、カップ内に機械加工により機械加工される。これらのロック機構により、カップをフランジに固定可能であるため、フランジが患者の残存骨に取り付けられた場合に、カップが残存骨盤に対して適正に配向する。この機械加工では、従来のCNC装置を用いることにより、ロック機構をブランクカップ内に形成するようにしてもよい。
ブランクカップの一部としてのロック機構の製造に続いて、ロック機構間の界面を用いることにより、フランジをカップに取り付ける。トリフランジアセンブリ(すなわち、最終的なインプラント)には、アニーリングプロセスを適用して、構成要素間の強力な接合を促進する。トリフランジインプラントのアニーリング後、殺菌プロセスに続いて適当なパッケージングを行うことにより、トリフランジインプラントの無菌環境を確保する。
マスカスタマイズインプラントの作成
図28を参照して、不完全、変形、および/または粉砕生体構造に悩む患者用のマスカスタマイズ整形外科用インプラントガイドおよび関連するマスカスタマイズ整形外科用インプラントを生成する例示的なプロセスおよびシステムを説明する。例示的な記載を目的として、初回関節置換を要する患者用の完全股関節形成術を説明する。ただし、この例示的なプロセスおよびシステムは、不完全な生体構造が存在する事例において、マスカスタマイズに適した任意の整形外科用インプラントおよびガイドに適用可能であることが了解されるものとする。たとえば、この例示的なプロセスおよびシステムは、骨の変性(不完全な生体構造)、骨の変形、または粉砕骨折が存在する肩関節置換および膝関節置換に適用可能である。結果として、以下に股関節インプラントを論じるものの、当業者であれば、初回整形外科手術または再置換術に使用する他の整形外科用インプラント、ガイド、器具等にこのシステムおよびプロセスを適用可能であることが理解されよう。
例示的なプロセスでは、巨視的観点および微視的観点からの入力データを利用する。特に、巨視的観点には、整形外科用インプラントおよび対応する生体構造の全体的な幾何学的形状の決定を伴う。逆に、微視的観点には、海綿骨の形状および構造ならびにその多孔性を考慮することを伴う。
巨視的観点には、1つまたは複数の生体構造(たとえば、骨)の仮想3Dモデルを記録して、所与の個体群における特有の解剖学的多様性を捕捉する統計アトラスモジュールと通信するデータベースを含む。例示的な形態において、アトラスは、所与の解剖学的個体群の平均的な描写および平均的な描写に関する変動として表される1つまたは複数の生体構造の解剖学的特徴の数学的描写を記録する。図2ならびに統計アトラスおよび所与の個体群の統計アトラスに生体構造を追加する方法に関する上記の記述を参照する。統計アトラスの出力は、自動標識化モジュールおよび表面/形状解析モジュールに向かう。
自動標識化モジュールは、統計アトラスからの入力(たとえば、特定のランドマークを含む可能性がある領域)および局所的な幾何解析を利用して、統計アトラスにおける各生体構造事例の解剖学的ランドマークを算出する。この計算は、各ランドマークに固有である。たとえば、領域のおおよその形状が既知であるとともに、探索しているランドマークの位置が局所的な形状特性に対して既知である。たとえば、大腿骨遠位部の内側上顆点の位置付けは、統計アトラスにおける内側上顆点のおおよその位置に基づいて探索を改良することにより達成される。したがって、内側上顆点がこの探索ウィンドウ内の最も内側の点であるため、この最も内側の点の探索は、統計アトラスに規定された内側上顆領域内の各骨モデルに関して実行され、探索の出力が内側上顆点ランドマークとして識別されることが知られている。統計アトラス個体群内の各仮想3Dモデルに関する解剖学的ランドマークの自動算出の後、統計アトラスの仮想3Dモデルは、形状/表面解析出力と併せて、特徴抽出モジュールに向かう。
形状/表面出力は、同じく統計アトラスからの入力を受信した形状/表面モジュールによる。形状/表面モジュールの背景においては、自動標識化では網羅されていない形状/表面特徴に関して、統計アトラス個体群内の仮想3Dモデルを解析する。言い換えると、生体構造の全体的な3D形状には対応するが、過去の自動標識化ステップにおいて規定された特徴には属さない特徴を同様に算出する。たとえば、仮想3Dモデルに関して、曲率データを算出する。
表面/形状解析モジュールおよび自動標識化モジュールの出力は、特徴抽出モジュールに向かう。そして、ランドマークおよび形状特徴の組み合わせを用いることにより、インプラント設計に関わる数学的記述子(すなわち、曲率、寸法)をアトラスの各事例について算出する。これらの記述子は、クラスタリングプロセスの入力として使用する。
数学的記述子は、統計解析に基づいてクラスタリングまたはグループ化される。特に、この記述子は、統計的に解析され、その他の生体構造個体群からの他の記述子との比較によって、当該個体群内の類似特徴を有する(生体構造の)グループを識別する。このクラスタリングは、個体群全体の複数の生体構造からの複数の記述子を前提としていることが明らかである。最初のクラスタリングに存在しない新たな事例がクラスタリングに提示されると、出力クラスタの改良によって、新たな個体群がよりよく表される。この統計解析の出力は、解剖学的個体群の全体または大部分を網羅する有限個のインプラント(インプラントファミリおよびサイズを含む)である。
各クラスタに関して、パラメータ化モジュールは、当該クラスタ内の数学的記述子を抽出する。数学的記述子は、最終的なインプラントモデルのパラメータ(たとえば、CAD設計パラメータ)を構成する。抽出した数学的記述子は、インプラント表面生成モジュールに供給する。このモジュールは、数学的記述子の表面記述子への変換による各クラスタの生体構造の3D仮想モデルの生成を担う。3D仮想モデルは、負荷試験およびインプラント製造に先立つ微視的観点を補完する。
微視的観点においては、所与の個体群の各生体構造について、構造的完全性を示すデータを取得する。例示的な形態において、この骨のデータは、海綿骨に関する構造情報を与えるマイクロCTデータを含んでいてもよい。より具体的に、マイクロCTデータは、問題の骨の画像(個体群全体の複数の骨の複数のマイクロCT画像)を含んでいてもよい。その後、骨梁構造抽出モジュールによりこれらの画像を分割して、海綿骨の3次元形状を抽出するとともに、個体群内の各骨の仮想3Dモデルを作成する。得られた3D仮想モデルを細孔径・形状モジュールに入力する。図84にグラフィック表示する通り、3D仮想モデルには細孔径および形状の情報を含み、これを細孔径・形状モジュールで評価して、海綿骨の細孔径およびサイズを決定する。この評価は、髄内管における骨の細孔径および形状の解析に有用であり、大腿骨インプラントのステムの被膜処理あるいは多孔外部を示す処理によって、大腿骨の残存骨と大腿骨インプラントとの間の統合を促進することができる。このモジュールの出力は、インプラント表面生成モジュールから出力された3D仮想モデルとの組み合わせにより、仮想負荷試験モジュールに向かう。
負荷試験モジュールは、細孔径・形状モジュールからのインプラント多孔性データおよびインプラント表面生成モジュールからのインプラント形状データを組み合わせて、最終的なインプラント形状モデルおよび特性を規定する。たとえば、形状および特性には、問題の骨の海綿骨多孔性に概ね適合する最終インプラントモデルの多孔被膜の提供を含む。形状および特性を組み込んだ最終的なインプラントモデルは、仮想負荷試験(有限要素および力学解析)を行って、モデルの機能性品質を確認する。機能性品質が許容されない限りにおいては、許容範囲の性能が得られるまで、インプラントの形状および多孔性を規定するパラメータを修正する。最終的なインプラントモデルが負荷試験基準を満たすものと仮定して、この最終インプラントモデルを利用することにより、仮想モデルを有形インプラントに変換するのに必要なマシン命令を生成する(また、当業者に既知の製造プロセスによって、さらに改良可能である)。例示的な形態において、マシン命令には、(多孔構造を適正に捕捉する)ラピッドプロトタイピングプロセスまたは従来の製造およびラピッドプロトタイピングの組み合わせにより最終的なインプラントを製造するラピッドマニュファクチャリングマシン命令を含んでいてもよい。
性差/民族固有の股関節インプラントの作成
図29~図84を参照して、性差および/または民族固有のインプラントを生成する例示的なプロセスおよびシステムを説明する。例示的な記載を目的として、初回関節置換を要する患者用の完全股関節形成術を説明する。ただし、この例示的なプロセスおよびシステムは、カスタマイズに適した任意の整形外科用インプラントに適用可能であることが了解されるものとする。たとえば、この例示的なプロセスおよびシステムは、肩関節置換および膝関節置換ならびに他の初回関節置換術に適用可能である。結果として、以下に股関節インプラントを論じるものの、当業者であれば、初回整形外科手術または再置換術に使用する他の整形外科用インプラント、ガイド、器具等にこのシステムおよびプロセスを適用可能であることが理解されよう。
股関節は、大腿骨の骨頭および骨盤の寛骨臼で構成されている。股関節は、その生体構造によって、身体で最も安定した関節の1つとなっている。この安定性は、剛体ボールおよび窩構成によりもたらされる。大腿骨頭は、球体の2/3を形成する関節部においてほぼ球状である。大腿骨頭の直径は、男性よりも女性の方が小さいことがデータで示されている。正常な股関節において、大腿骨頭の中心は、寛骨臼の中心と厳密に一致するものと仮定されており、この仮定は、ほとんどの股関節システムの設計の基準として用いられる。ただし、生来の寛骨臼は、生来の大腿骨頭全体を覆うのに十分な深さではない。大腿骨頭のほぼ円形の部分は、最上部がわずかに平坦化されていることから、球状ではなく回転楕円状である。この回転楕円形状によって、上極周りのリング状パターンに負荷が分散される。
大腿骨頭の幾何学的中心は、水平軸、垂直軸、および前後軸という関節の3つの軸が横切っている。大腿骨頭は、骨幹につながる大腿骨の頸部によって支持されている。大腿骨頸部の軸は斜めに設定され、上方内側かつ前方に延びる。前頭面での骨幹に対する大腿骨頸部の傾斜角が頚体角である。ほとんどの成人において、この角度は90~135°で変化し、これにより股関節外転筋の有効性、肢長、および股関節に加わる力が決まるため、重要である。
125°よりも大きな傾斜角が外反股と称する一方、125°未満の傾斜角は、内反股と称する。125°よりも大きな傾斜角には、肢長の増加、股関節外転筋の有効性の低下、大腿骨頭に加わる負荷の増大、および大腿骨頸部の応力の増大を伴う。内反股の場合、125°未満の傾斜角には、肢長の減少、股関節外転筋の有効性の増大、大腿骨頭に加わる負荷の低減、および大腿骨頸部の応力の低減を伴う。大腿骨頸部は、大腿顆の左右軸と鋭角を成す。この角度は、内側かつ前方を向くため、前捻角と称する。成人において、この角度の平均は、約7.5°である。
寛骨臼は、腸骨、坐骨、および恥骨が会合する股関節の外側面に存在する。これら3つの独立した骨がつながって寛骨臼を構成するが、腸骨および坐骨がそれぞれ、寛骨臼の約2/5に寄与し、恥骨が1/5に寄与する。寛骨臼は、大腿骨頭全体を覆うのに十分な深さの窩ではなく、関節部および非関節部の両者を有する。ただし、寛骨臼唇が窩を深くして安定性を高める。寛骨臼は、寛骨臼唇とともに、大腿骨頭の50%をわずかに超えて覆う。また、寛骨臼の側面のみが関節軟骨で裏打ちされており、深い寛骨臼切痕が下方に割り込んでいる。寛骨臼空洞の中心部は、関節軟骨よりも深く、非関節部である。この中心部は、寛骨臼窩と称し、薄板によって骨盤骨の界面から分離されている。寛骨臼窩は、患者ごとに一意の領域であり、寛骨臼カップ構成要素の穿孔および配置を行う患者固有のガイドの作成に用いられる。また、解剖学的特徴の変動によって、個体群固有のインプラント設計がさらに必要となる。
従来技術のセメントレス構成要素の使用と関連付けられた問題のいくつかは、大腿管のサイズ、形状、および配向の多様さに帰することができる。大腿骨ステムの整形外科用インプラント設計の課題の1つとして、内外方向および前後方向の寸法の大きな変動がある。また、遠位管サイズに対する近位管サイズの比も大幅に変動する。正常な個体群におけるさまざまな円弧、テーパ角、曲線、およびオフセットの異なる組み合わせは膨大である。ただし、問題はこれだけではない。
大腿骨形態の系統的差異および現代の個体群に関する明確な標準の欠落によって、適正な股関節インプラントシステムの設計が問題となっている。たとえば、アメリカ先住民、アメリカ黒人、およびアメリカ白人の間には、前湾、捻れ、および断面形状の大幅な差異が存在する。アジア人および西洋人の個体群間の大腿骨の差異は、大腿骨の前湾部に見られ、中国人の大腿骨は、白人と比較して、より前方が湾曲するとともに外旋しており、髄内管および大腿顆遠位部がより小さくなっている。同様に、白人の大腿骨は、大腿顆遠位部の長さ寸法に関して、日本人の大腿骨よりも大きい。民族間の差異は、アメリカ黒人と白人との間において、大腿骨近位部の骨ミネラル密度(BMD)および股関節軸長にも存在する。より高いBMD、より短い股関節軸長、およびより短い転子間幅が組み合わさった影響として、骨粗しょう症性骨折の罹患率がアメリカ黒人女性において白人女性よりも低いことを説明できる。同様に、高齢のアジア人およびアメリカ黒人の男性は、白人およびヒスパニックの男性よりも皮質が厚くてBMDが高いことが分かっており、これらの民族グループにおける骨強度の上昇に寄与している可能性がある。一般的に、アメリカ黒人は、アメリカ白人よりも骨皮質が厚く、骨内膜直径が狭く、BMDが高い。
大腿骨および骨盤の系統的(民族的)差異を組み合わせると、主股関節システムがさらに困難となる。そして、再置換術がより複雑となる。これらの正常な解剖学的および民族的変動に加えて、再置換術を行う外科医が直面する困難には、(a)当初配置されたプロテーゼの周りの骨粗しょうによる大腿管の歪みと、(b)構成要素およびセメントの除去による医原性欠損とがある。
上記すべての要因により、多くの股関節外科医は、セメントで結合されていない大腿骨プロテーゼの設計を改良する方法を探すようになった。全股関節置換(初回または再置換)において、理想は、大腿骨ボールと寛骨臼カップとの間の最適なフィッティングを確立することである。大腿骨ステムの頸部は、十字型の断面を有して、剛性を低下させるものとする。ステムの長さは、ステムが2~3つの管内径にわたって大腿骨の壁と平行接触するようにするものとする。ステムの近位1/3は、多孔被覆またはヒドロキシアパタイト(HA)被覆されている。また、ステムは、円筒状であって(すなわち、テーパ状ではない)、曲げ荷重を調節するとともに、すべての回転方向および軸方向荷重の近位伝達が可能である。大腿骨頭の位置は、異常ではない場合の患者自身の頭部中心を再現するものとする。
これらの目標を満たす試みの1つとして、各患者個別に大腿骨プロテーゼを製造する。言い換えると、既製のプロテーゼにフィットするように患者の骨を再成形しようとするのではなく、特定の患者に固有のプロテーゼを作製する。
患者固有(または、マスカスタマイズ)の初回股関節置換および股関節再置換には、共通の設計基準がいくつか存在する。これらの設計基準の中には、(1)股関節ステムを鍔なし(再置換の場合を除く)として、大腿骨に対する均一な負荷分散を可能とすること、(2)股関節ステムを修正菱形断面として、フィッティング/充填を最大化する一方、回転安定性を維持すること、(3)股関節ステムを必要に応じて湾曲させ、患者の骨に適合させること、(4)プロテーゼと骨との間に間隙なく、股関節ステムを曲線経路に沿って挿入すること、(5)股関節ステムの頸部を十字断面として、剛性を低下させること、(6)股関節ステムが2~3つの管内径にわたって大腿骨の壁と平行接触するステム長にすること、(7)股関節ステムの近位1/3を多孔被覆またはヒドロキシアパタイト(HA)被覆すること、(8)股関節ステムを円筒状(すなわち、テーパ状ではない)にして、曲げ荷重を調節するとともに、すべての回転方向および軸方向荷重の近位伝達を可能にすること、(9)股関節ステムの大腿骨頭の位置によって、異常ではない場合の患者自身の骨頭中心を再現することがある。
以下は、患者個体群の性差および/または民族性を考慮した初回関節置換を要する患者のマスカスタマイズ整形外科用インプラントを生成する例示的なプロセスおよびシステムである。例示的な記載を目的として、生体構造が不完全な患者用の完全股関節形成術を説明する。ただし、この例示的なプロセスおよびシステムは、不完全な生体構造が存在する事例において、マスカスタマイズに適した任意の整形外科用インプラントに適用可能であることが了解されるものとする。たとえば、この例示的なプロセスおよびシステムは、骨の変性(不完全な生体構造)、骨の変形、または粉砕骨折が存在する肩関節置換および膝関節置換に適用可能である。結果として、以下に股関節インプラントの大腿骨構成要素を論じるものの、当業者であれば、初回整形外科手術または再置換術に使用する他の整形外科用インプラント、ガイド、器具等にこのシステムおよびプロセスを適用可能であることが理解されよう。
図29には、統計アトラスを用いてマスカスタマイズの股関節インプラントおよび患者固有の股関節インプラントの両者を生成する全体的なプロセスフローを示している。まず、このプロセスは、解析している1つまたは複数の骨の複数の事例を含む統計アトラスを具備する。股関節インプラントの例示的な背景において、統計アトラスは、骨盤骨および大腿骨に関して、骨モデルの複数の事例を含む。少なくとも寛骨臼構成要素(すなわち、寛骨臼)および大腿骨近位部構成要素(すなわち、大腿骨頭)に関して、関節表面形状解析を実施する。特に、関節表面形状解析には、統計アトラスの所与の個体群の各骨に関して、ランドマーク、測定結果、および形状特徴の計算を伴う。また、関節表面形状解析には、計算結果を代表する統計値等の定量値の生成を含む。これらの計算結果から、計算結果の分布をプロットし、分布に基づいて解析を行う。たとえば、釣鐘型分布の場合は、個体群の約90%がグループ化され、患者固有ではないインプラント(たとえば、マスカスタマイズインプラント)を設計してこのグループ化に適切にフィットさせることにより、患者固有のインプラントと比較して、患者のコストが低減されることが分かる。個体群のその他の10%に関しては、患者固有のインプラントがよりよい手法となり得る。
マスカスタマイズインプラントの背景においては、統計アトラスを利用して、所与の個体群の圧倒的大多数を網羅可能な異なるグループ(すなわち、異なるインプラント)の数を定量的に評価するようにしてもよい。これらの定量的評価の結果、患者固有ではないものの、市販の代替手段よりも固有の基本インプラント設計の一般パラメータをデータクラスタが示すようになっていてもよい。
患者固有のインプラントの背景においては、統計アトラスを利用して、正常な骨が具現化しているものと、患者の骨と正常な骨との間の差異とを定量的に評価するようにしてもよい。より具体的に、統計アトラスには、平均的な骨モデルまたはテンプレート骨モデルと関連付けられた曲率データを含んでいてもよい。そして、このテンプレート骨モデルを用いることにより、患者の正しい骨のあるべき形態を外挿するとともに、インプラント手術の実行に用いられるインプラントおよび手術器具を作製することができる。
図30は、マスカスタマイズの股関節インプラントおよび患者固有の股関節インプラントの設計における統計アトラスの利用を図としてまとめたものである。インプラントボックスの背景においては、図20および図21ならびにこれらの図と関連する記述を再び参照する。同様に、プランナボックスの背景においては、図20およびカスタム計画インターフェースの関連する記述を再び参照する。最後に、患者固有のガイドボックスの背景においては、図22およびこの図と関連する記述を再び参照する。
図31には、性差および/または民族固有の股関節インプラントの設計および製造に利用できる例示的なプロセスのフローチャートを示す。特に、このプロセスには、骨が属する個人の男女性別および民族性が関連データにより識別された大腿骨近位部(すなわち、大腿骨頭を含む大腿骨)のさまざまな試料を含む統計アトラスの利用を含む。さらに、統計アトラスモジュールは、1つまたは複数の生体構造(たとえば、骨)の仮想3Dモデルを記録して、所与の性差および/または民族的個体群における特有の解剖学的多様性を捕捉する。例示的な形態において、アトラスは、共通の性差および/または民族性を有し得る(または、解剖学的共通点が存在する複数の民族性のうちの1つを有するようにグループ化可能な)所与の解剖学的個体群の平均的な描写および平均的な描写に関する変動として表される1つまたは複数の生体構造の解剖学的特徴の数学的描写を記録する。図2ならびに統計アトラスおよび所与の個体群の統計アトラスに生体構造を追加する方法に関する上記の記述を参照する。統計アトラスの出力は、自動標識化モジュールおよび表面/形状解析モジュールに向かう。
図31~図43を参照して、自動標識化モジュールは、統計アトラスからの入力(たとえば、特定のランドマークを含む可能性がある領域)および局所的な幾何解析を利用して、統計アトラスにおける各生体構造事例の解剖学的ランドマークを算出する。一例としては、大腿骨の各3D仮想モデルについて、大腿骨近位部のさまざまなランドマークを算出する。ランドマークには、(1)球体で近似される大腿骨頭の中心点である大腿骨頭中心、(2)解剖学的な頸部中心線に垂直な頸部骨幹点を通過する平面までの距離が最短の大転子部上の点である大転子部点、(3)小転子部の端部から15mm(小転子部点から約30mm)の点である骨切り点、(4)最小の大腿骨頸部断面領域を接平面が囲む骨頭球体上の点である頸部骨幹点、(5)大腿骨幹に沿って直径が最小の断面である大腿骨括れ、(6)髄内管に沿って直径が最小の断面である髄内管括れ、(7)大腿骨頭中心および大腿骨解剖軸の遠位端とともに大腿骨頸部角と等しい角度を成す大腿骨解剖軸上の点である大腿骨頸部支点、および(8)最も外方に突出した小転子部領域上の点である小転子部点を含むが、これらに限定されない。別の例として、識別した解剖学的ランドマークを用いることにより、大腿骨の各3D仮想モデルについて、大腿骨近位部のさまざまな軸を算出する。軸には、(a)大腿骨頭中心を大腿骨頸部中心と結ぶ線に同軸の大腿骨頸部解剖軸、(b)大腿骨頭中心点と大腿骨頸部支点とを結ぶ線に同軸の大腿骨頸部軸、(c)大腿骨の近位端を始点とする大腿骨全長の23%および40%の距離に存在する2つの点を結ぶ線に同軸の大腿骨解剖軸を含むが、これらに限定されない。さらに別の例として、識別した解剖学的ランドマークおよび軸を用いることにより、大腿骨の各3D仮想モデルについて、大腿骨近位部のさまざまな測定結果を算出する。測定結果には、(i)大腿骨解剖軸と大腿骨頸部解剖軸との間の3D角である近位角、(ii)大腿骨解剖軸と大腿骨頭中心との間の水平距離である骨頭オフセット、(iii)小転子部点(上記に言及)と大腿骨頭中心との間の垂直距離である骨頭高さ、(iv)骨頭中心と大転子部点(上記に言及)との間の距離である大転子部-骨頭中心距離、(v)骨頭中心と頸部支点(上記に言及)との間の距離である頸部長、(vi)大腿骨頭にフィットした球体の半径である骨頭半径、(vii)大腿骨頸部解剖軸に垂直であり、頸部中心点(上記に言及)を通過する平面における頸部断面にフィットした円の直径である頸部直径、(viii)経上顆軸と大腿骨頸部軸との間の角度である大腿骨頸部経上顆前捻角、(ix)後顆軸と大腿骨頸部軸との間の角度である大腿骨頸部後顆前捻角、(x)機能軸と大転子部を指すベクトルとの間の角度であるLPFA、(xi)式(Z-X)/Zで規定されるカルカーインデックス面積(Zは小転子部中間点の下側10cmにおける大腿骨面積、Xは小転子部中間点の下側10cmにおける髄内管面積)、(xii)小転子部中間レベルの下側3cmにおける髄内管面積と小転子部中間の下側10cmにおける髄内管面積との比である管カルカー面積比、(xiii)小転子部中間の下側3cmにおける髄内管面積と小転子部中間の下側10cmにおける髄内管面積との比であるXYR面積、(xiv)フィッティング楕円体の短軸および長軸と髄内管上の最も狭い点における髄内管断面との間の比である短軸/長軸比、および(xv)大腿骨外周および大腿骨解剖軸に垂直な平面内の髄内管の周囲に最適フィッティングの円を用いた円半径の比である大腿骨半径/髄内管半径比(この比は、皮質骨の厚さひいては骨粗しょう症の場合の皮質骨粗しょうを反映する)を含むが、これらに限定されない。
図31および図45~図47を参照して、自動標識化モジュールの出力を用いることにより、所与の個体群について、大腿骨ステムのパラメータを評価する。特に、個体群が民族性、性差、またはこれら2つの組み合わせに基づいてグループ化されているか否かに関わらず、内側輪郭、頸部角、および骨頭オフセットを評価する。
内側輪郭の場合は、個体群内の各大腿骨の髄内管に関して、大腿骨支点を通って延びるとともに大腿骨解剖軸および頸部軸の両者に垂直な垂直軸(ベクトル外積)を有する平面に髄内管を交差させることにより生成される。個体群内の各大腿骨に関する輪郭の生成後は、髄内管のサイズによって、個体群をグループに細分する。細分に際しては、輪郭が面外となる場合があるため、整列プロセスの実行により、共通平面(たとえば、X-Z平面)に関して、すべての輪郭を整列させる。整列プロセスには、大腿骨頸部軸および解剖軸の両者に垂直な軸のY軸に対する整列と、その後、解剖軸のZ軸に対する整列とを含む。このように、特定の点に対してすべての輪郭を移動させることにより、輪郭が共通の座標系を有するようにする。
輪郭が共通の座標系を有するようになった後は、大腿骨頸部点を利用して、輪郭の点が面内であることを確認する。特に、大腿骨頸部点は、実際の生体構造を反映するとともに、輪郭上の点が面内であることを保証する整合点である。輪郭の点が面内であることを確認することにより、個体群の大腿骨間の整列多様性を大幅に抑えることができるため、骨頭オフセットおよびインプラント角度の設計への輪郭の利用が容易化される。
図48を参照して、統計アトラスは、正常な骨と骨粗しょう症の骨との間の補間にも有用である。大腿骨ステムの設計およびサイズ指定に際して、重要な検討事項の1つに、髄内管の寸法がある。正常な骨の事例において、大腿骨に関しては、骨粗しょう症を示す大腿骨と比較して、髄内管が大幅に狭まっている。この髄内管の狭隘寸法は、少なくとも一部が(大腿骨の主軸に対して直角に測定した)骨の厚さの減少の結果であり、これに対応して、髄内管の輪郭となる大腿骨の内部表面が後退している。この方法においては、健康な骨と重度の骨粗しょう症の骨との間の厚さの補間および前記厚さを有する仮想3Dモデルの生成によって、合成個体群を作成する。したがって、このデータセットは、骨粗しょう症の異なる段階に対応した骨を含む。以下、このデータセットは、インプラントステム設計の入力として使用可能である。
例示的な形態において、統計アトラスには、正常な骨粗しょう症ではない骨および骨粗しょう症の骨の個体群を含み、この場合の骨は大腿骨である。アトラスのこれら正常な大腿骨はそれぞれ、骨を統計アトラスに追加する本明細書に記載のプロセスに従って、3D仮想モデルとして定量化および表示する。同様に、アトラスの骨粗しょう症の大腿骨はそれぞれ、骨を統計アトラスに追加する本明細書に記載のプロセスに従って、3D仮想モデルとして定量化および表示する。正常な骨および骨粗しょう症の骨の3Dモデルの一部として、大腿骨の長手方向の長さに沿って髄内管の寸法を記録する。アトラスの点の対応付けを用いることにより、アトラスの骨上で、小転子部に近接した骨全長の固定割合(およそ5%)および皮質遠位点に近接した第2の固定割合(およそ2%)に及ぶものとして髄内管を識別する。また、これらの近位および遠位境界に含まれる骨の外部表面上の点は、外部点からIM管上の最も近い点までの距離として規定される骨の厚さの決定に用いられる。
大腿骨近位部の背景においては、図51~図62から、任意の民族個体群全体で性別による差異が存在することが確認される。図59および図60に示すように、女性の大腿骨近位部の統計アトラスのテンプレート3Dモデルは、男性の大腿骨近位部のテンプレート3Dモデルと比較した場合に、統計的に有意な測定結果を示している。特に、骨頭オフセットは、男性よりも女性が約9.3%少ない。現行のインプラントにおいては、ステムサイズとともに骨頭オフセットが大きくなるが、これは、正常な女性の場合に条件を満たしている。ただし、骨粗しょうによって髄内管のサイズが大きくなる(ステムサイズの大型化およびオフセットの増大を意味する)骨粗しょう症および骨減少症の場合の骨頭オフセットを捉える場合には、問題が生じる。同様に、頸部直径および骨頭半径は、男性よりも女性が約11.2%小さい。また、頸部長は、男性よりも女性が約9.5%短い。また、近位角は、男性よりも女性が約0.2%小さい。最後に、大腿骨頭高さは、男性よりも女性が約13.3%低い。結果として、性差骨データから、一般の大腿骨インプラント(すなわち、性的に中立)の単純なスケーリングでは骨の形状の差異を捉えられず、このため、性差に基づく大腿骨インプラントが必要であることが確認される。
図63~図68を参照して、大腿骨近位部の寸法のみならず、髄内管の長さに沿った大腿骨の断面形状についても、性別によって大きく異なる。特に、男性および女性の大腿骨の統計アトラス内の所与の個体群全体において、男性の髄内管断面は、女性よりも円に近い。より具体的に、髄内管の断面は、男性よりも女性が8.98%偏心している。以下により詳しく論じる通り、この性差固有のデータには、性差固有の大腿骨インプラントに到達するように数量および全体形状のパラメータが抽出されるクラスタに到達するようにプロットされた特徴抽出データの一部を含む。
図72~図74に示すように、統計アトラスには、前後(AP)方向の骨頭中心オフセットに関する(性別で分けた)所与の大腿骨個体群全体での測定結果に対応する計算結果を含む。例示的な形態において、AP方向は、機能軸および後顆軸の両者に垂直な前方を指すベクトルにより決定した。オフセットは、大腿骨頭中心と解剖軸の中点である第1の基準点および大腿骨頸部支点である第2の基準点の2つの基準点との間で測定した。要約すると、頸部支点および解剖軸中点に対するAP骨頭高さは、男女の大腿骨間で大きな差異を示さなかった。先と同様に、この性差固有のデータには、性差固有の大腿骨インプラントに到達するように数量および全体形状のパラメータが抽出されるクラスタに到達するようにプロットされた特徴抽出データの一部を含む。
図28および図31を再び参照して、統計アトラス個体群内の骨頭中心オフセット、髄内管の断面形状データ、および大腿骨の内側輪郭データには、図28のフローチャートおよび関連記述と整合する性差および/または民族固有のマスカスタマイズインプラントの設計のため、所与の個体群全体に存在するクラスタ数を識別するようにプロットされた抽出特徴データの一部を含む(各骨と関連付けられた民族性に関するデータを統計アトラスが含むものと仮定して、1つが性差固有、第2が民族固有である)。性差および/または民族固有の識別したクラスタを利用して、マスカスタマイズ大腿骨インプラントの設計に必要なパラメータを抽出する。
図76には、本開示に係る、例示的なマスカスタマイズ大腿骨構成要素を示している。特に、このマスカスタマイズ大腿骨構成要素は、ボール、頸部、ステム近位部、およびステム遠位部を含む4つの主要な要素を備える。これらの主要な要素はそれぞれ、その他の可換要素とのボール、頸部、およびステムの交換を可能とする可換インターフェースを含む。このように、大型の大腿骨ボールが必要な場合は、大腿骨ボールのみを交換する。
同様に、大きな頸部オフセットが望ましい場合は、必要なオフセットを与える異なる頸部要素に交換する一方、その他3つの要素については、必要に応じて維持する。このように、大腿骨構成要素は、一定の制限範囲内において、フリーサイズのインプラントを使用した場合には諦めざるを得ないフィッティングおよび運動学を必ずしも犠牲にすることなく、患者にフィットするようにカスタマイズ可能である。したがって、大腿骨要素はすべて、患者の生体構造により適するように、他のマスカスタマイズ要素と交換可能である。
この例示的な実施形態において、頸部は、ステム近位部に対するその回転配向を術中に調整できるように、ステム近位部の軸周りに回転するように構成されている。特に、術前測定によって、ステム近位部に対する頸部の計画回転位置を確立するようにしてもよい。その場合でも、生体内運動学的試験等の術中の検討により、外科医は、術前回転配向を変更して、運動学の改善または特定の衝突の回避を図る場合がある。一例として、頸部は、凹凸表面を有する周方向溝が差し込まれた円筒スタッドを具備する。この円筒スタッドは、ステム近位部の軸方向円筒チャネル内に受容される。この円筒チャネルのほか、第2のチャネルが円筒チャネルと交差しており、同じく凹凸で、差し込み周方向溝の凹凸表面と係合するように構成された半円の溝を有するプレートを受容するように成形されている。ステム近位部に固定された一対のねじがプレートを押して円筒スタッドと係合させることにより、最終的には、ステム近位部に対して、円筒スタッドの回転運動が不可能となる。したがって、この固定係合に達した場合は、ねじを緩めることにより、術中の回転調整に必要となるような円筒スタッドとステム近位部との間の回転運動を許可するようにしてもよい。
頸部とボールとの間の係合は従来型と考えられるが、ステム近位部とステム遠位部との間の係合は斬新である。特に、ステム近位部は、ねじ込みおよび係合によって、ステム遠位部に延入したねじ込み開口内に螺合受容される遠位脚部を具備する。したがって、ステム近位部は、脚部のねじ山がステム遠位部の開口のねじ山と係合するようにステム遠位部に対して回転させることにより、ステム遠位部に取り付けられる。ステム遠位部に対するステム近位部の回転は、ステム近位部がステム遠位部に当接した時点で完了となる。ただし、ステム近位部とステム遠位部との間で回転調整が必要な場合は、ワッシャを利用して、正しい回転調整に対応するスペーサを提供するようにしてもよい。別の例として、より大きな回転調整が必要な場合は、ワッシャの厚さを大きくする。一方、ワッシャが薄い場合は、それに対応して回転調整が小さくなる。
主要な要素はそれぞれ、所与の性差および/または民族性におけるサイズおよび輪郭の変動を捉える所定の代替手段として製造されるようになっていてもよい。このように、主要な要素の代替手段は、融合または適合によって、患者固有の大腿骨インプラントの生成に用いられるコストおよびプロセスのほんの一部で、従来のマスカスタマイズ大腿骨構成要素よりも患者の生体構造に近い患者固有のインプラントを模倣するようにしてもよい。
図77には、本開示に係る、さらに別の例示的なマスカスタマイズ大腿骨構成要素を示している。特に、このマスカスタマイズ大腿骨構成要素は、ボール、頸部、ステム近位部、ステム中間部、およびステム遠位部を含む5つの主要な要素を備える。これらの主要な要素はそれぞれ、その他の可換要素とのボール、頸部、およびステムの交換を可能とする可換インターフェースを含む。当業者であれば、患者の自然大腿骨の積層スライスと同種のマスカスタマイズ大腿骨構成要素の要素数を増やしてこの骨を再現することにより、マスカスタマイズ要素を用いた患者固有のインプラントのフィッティングにより近づけられることが理解されよう。
大腿骨近位部の性差および民族間の解剖学的差異と同様に、図78~図83によれば、統計アトラス内の一般的な骨盤個体群全体で性差および民族性の差異が存在することが確認される。図28を再び参照して、性差および民族性の少なくとも一方に基づいてグループ化された統計アトラスデータ(すなわち、骨盤個体群)を用いることにより、一連のマスカスタマイズ寛骨臼カップインプラントを設計および製造する。グループ化されたアトラスデータには、自動標識化プロセスおよび表面/形状解析プロセスを適用して、図78にグラフィック表示するように、個体群内の寛骨臼カップの形状を区分けする。また、図82および図83にグラフィック表示するように、(寛骨臼靱帯の位置の)標識化および(寛骨臼カップの輪郭を評価する)輪郭解析のプロセスによって特徴を抽出し、これにより、図79に示すように、解剖学的なカップインプラント表面を最終的に生成する。この解析から、図80および図81に示すように、寛骨臼カップおよび大腿骨頭が単一の曲率半径ではなく、複数の半径で構成されていることが分かる。
動物固有のインプラントの作成
図85を参照して、動物固有(すなわち、動物の患者固有)のインプラントおよび関連する器具類を設計および製造する例示的なシステムおよび方法は、図20に関して上記図示および説明したプロセスに類似しており、これを本明細書に援用する。前置きとして、動物の生体構造の画像を取得し、自動分割することにより、仮想3D骨モデルを生成する。CTスキャン画像としてグラフィック表示しているものの、MRI、超音波、およびX線等の非限定的なCT以外の他の撮像法を利用可能であることが了解されるものとする。罹患した生体構造の仮想3D骨モデルは、上記の例示的な開示に従って、統計アトラスにロードする。その後、統計アトラスからの入力を利用して、骨の再建および再建仮想3D骨モデルの作成を行う。また、再建仮想3D骨モデルの表面上で骨ランドマークを算出することにより、正しいインプラントサイズの決定を可能とする。そして、罹患した骨の形状をマッピングするとともに、パラメトリック形式に変換した後、これを用いて、残存解剖学的形状を模倣した動物固有のインプラントを作成する。動物固有のインプラントのほか、動物固有の器具類を製造および利用して、動物の残存骨の作成および動物固有のインプラントの配置を行う。
図86を参照して、マスカスタマイズ動物インプラントを設計および製造する例示的なシステムおよび方法は、図28に関して上記図示および説明したプロセスに類似しており、これを本明細書に援用する。前置きとして、問題の骨に関する統計アトラスからの3D動物骨モデルに自動標識化および表面/形状解析を適用する。自動標識化プロセスでは、アトラスに格納された情報(たとえば、特定のランドマークを含む可能性がある領域)および局所的な幾何解析を利用して、各3D動物骨モデルの解剖学的ランドマークを自動的に算出する。統計アトラス内の問題の各動物骨に関して、形状/表面解析では、3D仮想動物骨モデルの表面形状の特徴を直接抽出する。その後、3D動物骨モデルにはそれぞれ、ランドマークおよび形状特徴の組み合わせを用いてインプラント設計に関わる特徴を算出する特徴抽出プロセスを実行する。これらの特徴をクラスタリングプロセスの入力として使用し、所定のクラスタリング方法を用いて、類似の特徴を有するグループに動物骨個体群を分割する。得られた各クラスタは、単一の動物インプラントの形状およびサイズの規定に用いられる事例を表す。各クラスタ中心(インプラントサイズ)に関して、その後のパラメータ化プロセスにより、全体的なインプラントモデルのパラメータ(たとえば、コンピュータ支援設計(CAD)パラメータ)を抽出する。その後、抽出したパラメータを用いることにより、各クラスタに関して、全体的なインプラント表面およびサイズを生成する。また、動物の患者が含まれるクラスタに応じて、必須グループからマスカスタマイズインプラントを選択して埋め込む。
患者固有の切断ガイドの作成
図87~図102を参照して、多次元医用画像、コンピュータ支援設計(CAD)、およびコンピュータグラフィックス機能を統合して患者固有の切断ガイドを設計する例示的なプロセスおよびシステムを説明する。例示的な説明のみを目的として、完全股関節形成術の背景において患者固有の切断ガイドを説明する。その場合でも、当業者であれば、切断ガイドを利用可能な任意の外科手術にこの例示的なプロセスおよびシステムを適用可能であることに気付くであろう。
図87に示すように、例示的なシステムフローの概要は、生体構造を代表する入力データの受信から始まる。入力解剖学的データは、問題の生体構造の2次元(2D)画像または3次元(3D)表面描写を含み、たとえば表面モデルまたは点群の形態であってもよい。2D画像が用いられる状況においては、これら2D画像の利用によって、問題の生体構造の3D表面描写を構成する。当業者は、生体構造の2D画像を利用して3D表面描写を構成するのに慣れている。したがって、このプロセスの詳細な説明については、簡略化のため省略している。一例として、入力解剖学的データは、X線(少なくとも2つの視点から取得)、コンピュータ断層撮影(CT)、磁気共鳴断層撮影(MRI)、または3D表面描写を生成可能なその他任意の撮像データのうちの1つまたは複数を含んでいてもよい。例示的な形態において、生体構造には、骨盤および大腿骨を含む。
ただし、以下は、例示的なシステムと併用可能な生体構造の例示的な記述であるため、他の生体構造について、本システムとの併用を制限することを何ら意図したものではないことが了解されるものとする。本明細書において、組織は、骨、筋肉、靱帯、腱、および多細胞生物において特定の機能を備えたその他任意の有限種類の構造物質を含む。その結果、股関節に関する骨との関連で例示的なシステムおよび方法を論じる場合、当業者は、他の組織へのシステムおよび方法の適用可能性に気付くであろう。
システムの大腿骨および骨盤の入力生体構造データは、入力データの種類に応じて、2つのモジュールの一方に向かう。X線データの場合は、2D X線画像を非剛体モジュールに入力して、3D骨輪郭を抽出する。入力データがCTスキャンまたはMRI画像の形態である場合、これらのスキャン/画像は、自動分割モジュールに向かって、自動分割により3D骨輪郭(および3D軟骨輪郭)が抽出される。
図88を参照して、非剛体モジュールでは、少なくとも2つの異なる視点から取得した複数のX線画像を用いて、1つまたは複数の前処理ステップを適用する。これらのステップには、ノイズ低減および画像処理のうちの1つまたは複数を含んでいてもよい。得られた前処理X線画像には、校正ステップを適用して、X線画像を位置合わせする。X線画像は、固定位置校正機器の存在下で取得することにより、この固定位置校正機器に対して位置合わせするのが好ましい。ただし、固定位置校正機器が存在しない場合は、複数の画像にわたる共通の検出特徴を用いてX線画像を校正するようにしてもよい。この構成プロセスの出力は、撮像装置に対する生体構造の位置であり、図88においては、「位置」という参照記号で識別している。
得られた前処理X線画像には、特徴抽出ステップを適用する。この特徴抽出ステップには、前処理X線画像を利用した1つまたは複数の画像特徴演算を含む。一例として、これらの演算には、階調特徴、輪郭、質感成分、またはその他任意の画像由来特徴を含んでいてもよい。この例示的なプロセスにおいて、特徴抽出ステップは、X線画像からの導出として、図88において「輪郭」という参照記号で表される生体構造の外形(たとえば、骨の形状)のほか、「質感」という参照記号で表される画像特徴を出力する。外形としての生体構造および画像特徴データの両者は、非剛体位置合わせステップに向かう。
非剛体位置合わせステップでは、統計アトラスからの問題の生体構造の3Dテンプレートモデルに対して、特徴抽出ステップおよび校正ステップの出力を位置合わせする。一例として、3Dテンプレートモデルは、統計アトラスの一部を含む解剖学的データベースからの非線形主成分に応答して生成される。非剛体位置合わせステップにおいて、3Dテンプレートモデルは、その形状パラメータ(非線形主成分)の最適化によって、位置、輪郭、および質感データによるX線画像の形状パラメータを適合させる。非剛体位置合わせステップの出力は、CTスキャンまたはMRI画像について自動分割モジュールから出力される患者固有の3D骨モデルと同様に、患者固有の3D骨モデルであって、仮想テンプレーティングモジュールに向かう。
図91を参照して、自動分割プロセスは、たとえばCTスキャンまたはMRI画像の取得および自動分割シーケンスの実行によって初期化される。図90を具体的に参照して、自動分割シーケンスには、基準に対するスキャン/画像の整列または問題の生体構造の3Dモデルの開始を含む。スキャン/画像は、基準3Dモデルに対して整列した後、初期変形プロセスを介して処理することにより、法線ベクトルの計算、プロファイル点の位置決定、強度値の線形補間、Savitsky-Golayフィルタを用いた結果プロファイルのフィルタリング、プロファイルの勾配の生成、ガウス重みプロファイル式を用いたプロファイルの重み付け、最大プロファイルの決定、およびこれら最大プロファイルを用いた基準3Dモデルの変形を行う。得られた変形3Dモデルは、問題の生体構造に関する統計アトラスからのテンプレート3Dモデルに投射する。テンプレート3Dモデルのパラメータを用いて、変形3Dモデルを副変形プロセスにてさらに変形することにより、テンプレート3Dモデルに一意の特徴を見立てる。この後者の変形プロセスの後、変形3Dモデルをスキャン/画像と比較して、有意な差異が存在するか否かを識別する。
変形3Dモデルとスキャン/画像との間に有意な差異が存在する状況において、変形3Dモデルおよびスキャン/画像には、初期変形プロセスを再度適用した後、副変形プロセスを適用する。このループ状のプロセスは、変形3Dモデルとスキャン/画像との間の差異に対して、変形3Dモデルが所定の許容範囲内となるまで継続する。
変形3Dモデルが過去の反復に関して示す差異が有意でないとの決定または最大反復数の実現の後は、変形3Dモデルの表面縁部を平滑化した後、高解像度再メッシュステップにより表面をさらに平滑化して、平滑な3Dモデルを作成する。この平滑な3Dモデルには、初期変形シーケンス(表面平滑化に先立つ上記初期変形プロセスと同じ)を適用して、3D分割骨モデルを生成する。
図91を再び参照して、3D分割骨モデルの処理により、輪郭を生成する。特に、3D分割骨モデルとスキャン/画像との交点を算出し、これが各画像/スキャン平面における2値輪郭となる。
また、3D分割骨モデルを処理して、患者固有の骨外観の統計3Dモデルを生成する。特に、輪郭内および輪郭の外部に存在する画像情報に基づいて、骨および任意の解剖学的異常の外観をモデル化する。
その後、分割システムのユーザが骨輪郭を精査する。このユーザは、分割領域と相関しない3Dモデルの1つまたは複数の領域に気付く分割専門家または分割システムの低頻度ユーザであってもよい。この相関の欠如は、欠落領域または明らかに不正確な領域の背景において存在する場合がある。1つまたは複数の誤った領域の識別に際して、ユーザは、誤った領域が存在する領域の中心を示すモデル上の「シード点」を選択するようにしてもよい。あるいは、欠落領域の概要を手動で示す。システムのソフトウェアは、CTまたはMRIによる生体構造の最初のスキャン/画像を使用することにより、シード点を用いて、シード点近くの輪郭の加算または減算を行う。たとえば、ユーザは、骨棘が存在するはずの領域を選択することも可能であり、ソフトウェアは、スキャン/画像を3Dモデル上の領域と比較して、骨棘を分割シーケンスに追加する。3Dモデルに対する如何なる変更も、最終的にはユーザが精査して、確認または取り消しを行う。この精査および再置換シーケンスは、必要に応じて何回も繰り返すことにより、スキャン/画像と3Dモデルとの間の解剖学的差異を捉えるようにしてもよい。ユーザが3Dモデルに満足した場合は、得られたモデルを手動で操作して、仮想テンプレーティングモジュールへの出力に先立ち、必要に応じてブリッジを除去するとともに、モデルの領域を補修するようにしてもよい。
図87および図92に示すように、仮想テンプレーティングモジュールは、自動分割モジュールおよび非剛体位置合わせモジュールの一方または両方から、患者固有の3Dモデルを受信する。股関節の背景において、患者固有の3Dモデルは、骨盤および大腿骨を含み、いずれも自動標識化プロセスの入力となる。この自動標識化ステップでは、統計アトラスに存在する類似生体構造からの領域および局所的な形状探索によって、大腿骨および骨盤の3Dモデル上のインプラント配置に関わる解剖学的ランドマークを算出する。
図93に示すように、遠位固定による大腿骨ステムの自動配置の背景において、自動標識化には、大腿骨およびインプラント上の軸の規定を含む。大腿骨に関して、解剖学的大腿骨軸(AFA:Anatomical Femoral Axis)を算出した後、解剖学的近位軸(PAA:Proximal Anatomical Axis)を算出する。そして、頸部近位角(PNA:Proximal Neck Angle)を算出するが、これは、AFAとPNAとの間の角度として規定される。大腿骨インプラントに関して、インプラント軸はインプラントステムの長さに沿い、インプラント頸部軸はインプラント頸部の長さに沿っている。大腿骨のPNAと同様に、インプラント角は、インプラント軸とインプラント頸部軸との間の角度として規定される。そして、PNAに最も近いインプラント角を有するインプラントを選定する。その後、選定したインプラント角において大腿骨頭中心から引き出したベクトルに対する解剖学的近位軸の交点として、インプラントフィッティング角(IFA)を規定する。
図93に示すように、遠位固定および算出した解剖学的ランドマークによって大腿骨ステムの自動配置を用いる場合は、インプラントサイズ指定ステップによって、大腿骨構成要素の適当なインプラントサイズを決定/推定する。インプラントのサイズは、インプラントの幅を髄内管の幅と比較するとともに、髄内管に最も近い幅のインプラントを選択することによって選定する。その後、システムは、インプラント配置ステップに移行する。
遠位固定大腿骨ステムのインプラント配置ステップにおいては、外科医が好む手術法および過去に算出した解剖学的ランドマークに基づいて、関連するすべての埋め込み構成要素の初期インプラント位置を決定/選定する。また、切除面を作成して大腿骨近位部の骨切りを模擬するとともに、インプラントのフィッティングを評価する。フィッティングの評価は、インプラント軸に沿った異なるレベルでの整列インプラントおよび大腿骨髄内管の断面を解析することにより実施する。大腿骨に対するインプラントの整列は、大腿骨解剖軸に対するインプラント軸の整列の後、インプラントの頸部が大略的に大腿骨近位部の頸部の位置となるようにインプラントを移動させることによって行う。その後、大腿骨解剖軸の周りにインプラントを回転させて、所望の前捻を実現する。
このインプラント配置ステップの一部として、運動学的シミュレーションの一部としてインプラント配置に関する最初の「知識に基づく推測」の使用を含む反復スキームを利用することにより、「知識に基づく推測」の配置を評価する。例示的な形態において、運動学的シミュレーションでは、推定または測定した関節運動学を用いて、(選定したインプラントの配置に基づいて)インプラントを広範に運動させる。その結果、運動学的シミュレーションを用いて、衝突位置を決定するとともに、衝突後のインプラントの結果的な運動範囲を推定するようにしてもよい。運動学的シミュレーションの結果が満足できないデータ(たとえば、満足できない運動範囲、満足できない自然運動の模倣等)である場合は、インプラントを配置する別の位置を利用して、運動学的解析を行うことにより、満足できる結果に達するまで、インプラントの配置をさらに改良するようにしてもよい。関連するすべての埋め込み構成要素のインプラント位置を決定/選定した後は、テンプレートデータを治具生成モジュールに送る。
図94に示すように、圧入および3つの接点による大腿骨ステムの自動配置の背景において、自動標識化には、大腿骨およびインプラント上の軸の規定を含む。大腿骨に関して、解剖学的大腿骨軸(AFA)を算出した後、解剖学的近位軸(PAA)を算出する。そして、頸部近位角(PNA)を算出するが、これは、AFAとPNAとの間の角度として規定される。大腿骨インプラントに関して、インプラント軸はインプラントステムの長さに沿い、インプラント頸部軸はインプラント頸部の長さに沿っている。大腿骨のPNAと同様に、インプラント角は、インプラント軸とインプラント頸部軸との間の角度として規定される。そして、PNAに最も近いインプラント角を有するインプラントを選定する。その後、選定したインプラント角において大腿骨頭中心から引き出したベクトルに対する解剖学的近位軸の交点として、インプラントフィッティング角(IFA)を規定する。
図94に示すように、圧入、3つの接点、および算出した解剖学的ランドマークによって大腿骨ステムの自動配置を用いる場合は、インプラントサイズ指定ステップによって、骨盤および大腿骨構成要素の適当なインプラントサイズを決定/推定する。インプラントのサイズは、インプラント軸を大腿骨解剖軸に対して整列させてインプラントを大腿骨に対して整列させることにより選定する。そして、インプラントを回転させることにより、その頸部軸を大腿骨頸部軸に対して整列させる。そして、大腿骨近位部における解剖学的に適正な位置となるように、インプラントを移動させる。その後、システムは、インプラント配置ステップに移行する。
圧入大腿骨ステムのインプラント配置ステップにおいては、外科医が好む手術法および過去に算出した解剖学的ランドマークに基づいて、関連するすべての埋め込み構成要素の初期インプラント位置を決定/選定する。また、切除面を作成して大腿骨近位部の骨切りを模擬するとともに、インプラントのフィッティングを評価する。フィッティングの評価は、インプラントおよび大腿骨髄内管の輪郭を解析することにより実施する。輪郭は、解剖軸および大腿骨頸部軸の両者に垂直な平面に対して髄内管を交差させ、解剖軸および大腿骨頸部軸の交点を通過して輪郭を生成することにより作成する。インプラントおよび髄内管の輪郭の生成に際しては、同じ箇所で髄内管の幅より小さな幅のインプラントのみを保持することにより、多くの正しいインプラントサイズ候補が得られる。サイズ候補のグループは、インプラントと髄内管との間の平均二乗距離誤差を低減させる2つの方策によって縮小する。第1の方策では、インプラントと髄内管との内外側両者間の距離の平均二乗誤差(MSE)または他の数学的誤差基準を最小化する。第2の方策では、インプラントと髄内管との外側間の距離のMSEを最小化する。
このインプラント配置ステップの一部として、運動学的シミュレーションの一部としてインプラント配置に関する最初の「知識に基づく推測」の使用を含む反復スキームを利用することにより、「知識に基づく推測」の配置を評価する。例示的な形態において、運動学的シミュレーションでは、推定または測定した関節運動学を用いて、(選定したインプラントの配置に基づいて)インプラントを広範に運動させる。その結果、運動学的シミュレーションを用いて、衝突位置を決定するとともに、衝突後のインプラントの結果的な運動範囲を推定するようにしてもよい。運動学的シミュレーションの結果が満足できないデータ(たとえば、満足できない運動範囲、満足できない自然運動の模倣等)である場合は、インプラントを配置する別の位置を利用して、運動学的解析を行うことにより、満足できる結果に達するまで、インプラントの配置をさらに改良するようにしてもよい。関連するすべての埋め込み構成要素のインプラント位置を決定/選定した後は、テンプレートデータを治具生成モジュールに送る。
図87を再び参照して、治具生成モジュールは、患者固有のガイドモデルを生成する。より具体的に、テンプレートデータおよび関連する計画パラメータから、患者の残存骨に対して、患者固有のインプラントの形状および配置が既知である。その結果、仮想テンプレーティングモジュールは、患者固有の3D骨モデルを用いることにより、患者の残存骨に対するインプラントの位置を算出し、これによって、意図する患者の残存骨の保持程度に関する情報を治具生成モジュールに提供する。この骨保持データと整合して、治具生成モジュールは、骨保持データを利用することにより、1つまたは複数の骨切りを適用して、インプラントを計画通りに受け入れるのに必要な残存骨まで患者の現在の骨を減じる。意図した骨切りを用いることにより、治具生成モジュールは、単一の位置および配向で患者の骨と結合するように構成された形状を有する切断ガイド/治具の仮想3Dモデルを生成する。言い換えると、有形の切断ガイドが患者の生体構造に対して正確に適合するように、患者の残存骨の解剖学的表面の「ネガ」として切断治具の3Dモデルを作成する。このように、切断治具の位置決めに関連する如何なる当て推量も排除される。治具生成モジュールは、切断治具の仮想3Dモデルを生成した後、ラピッドプロトタイピングマシン、CNCマシン、または有形の切断ガイドを製造する類似機器に必要なマシンコードを出力する。一例として、大腿骨頭および頸部を切除する例示的な切断治具には、切断刃を一定の運動範囲内に制限する関連ガイドを構成するとともに、手術計画およびテンプレーティングモジュールから仮想切断を複製する所定の配向に切断刃を保持する中空スロットを含む。また、治具生成モジュールを利用して、大腿骨ステムの配置治具を作成する。
図100を参照して、大腿骨頭および頸部の切除後は、髄内穿孔と、その後の大腿骨ステム挿入とを行う。大腿骨インプラントの挿入に対して大腿骨を準備するため、大腿骨インプラントの配向と整合する配向に沿って、髄内管を穿孔する必要がある。穿孔がオフセットの場合は、大腿骨インプラントの配向を妥協するようにしてもよい。この問題に対処するため、治具生成モジュールは、患者の生体構造に対して正確に適合する切断ガイドをラピッドプロトタイピングマシン、CNCマシン、または類似機器が製造できるように、患者の残存骨または切除骨の解剖学的表面の「ネガ」である仮想ガイドを生成する。一例として、穿孔治具は、リーマが長手方向に沿って走行可能な軸方向ガイドを具備していてもよい。この穿孔治具を用いることにより、穿孔手術を行う外科医は、適正な配向の穿孔を確実に行う。
髄内管は、大腿骨ステムを受容するようにしてもよい。この場合も、髄内管における回転および角度の観点から大腿骨ステムが適正に位置決めされるように、治具生成モジュールは、大腿骨ステム配置ガイドを生成する。一例として、大腿骨ステム配置ガイドは、患者の残存骨または切除骨の解剖学的表面の「ネガ」および大腿骨ステムの上部を兼ねる。このように、配置ガイドは、大腿骨幹(大腿骨ボールを接続する大腿骨ステムの部分)の上を摺動すると同時に、患者の大腿骨に対して大腿骨ステムの配向が1つだけ可能となることで、術前計画に整合する大腿骨ステムの適正な埋め込みを保証するように、患者の残存骨または切除骨と調和する一意の形状を含む。ただし、初回股関節インプラントの背景において例示的な治具を説明したが、当業者であれば、上記例示的なプロセスおよびシステムが初回股関節インプラントにも、股関節インプラントにも、再置換外科手術にも限定されないことが了解されるものとする。その代わりに、上記プロセスおよびシステムは、膝、足首、肩、脊髄、頭部、および肘等の非限定的な身体の他の領域に関わる外科手術のほか、任意の股関節インプラントに適用可能である。
図101に示すように、寛骨臼の背景において、治具生成モジュールは、寛骨臼カップの穿孔および寛骨臼インプラント配置ガイドを製造する命令を生成するようにしてもよい。特に、テンプレートデータおよび関連する計画パラメータから、患者の残存骨盤に対して、患者固有の寛骨臼インプラントの形状および配置が既知である。その結果、仮想テンプレーティングモジュールは、患者固有の3D寛骨臼モデルを用いることにより、患者の残存骨に対する寛骨臼カップインプラントのサイズおよび位置を算出し、これによって、意図する患者の残存骨盤の保持程度および所望のインプラント配向に関する情報を治具生成モジュールに提供する。この骨保持データと整合して、治具生成モジュールは、骨保持データを利用することにより、1つまたは複数の骨切り/穿孔を適用して、寛骨臼インプラントを計画通りに受け入れるのに必要な残存骨まで患者の現在の骨盤を減じる。意図した骨切りを用いることにより、治具生成モジュールは、1つの配向のみで患者の骨盤の2つの部分と結合するように構成された形状を有する切断ガイド/治具の仮想3Dモデルを生成する。言い換えると、有形の穿孔ガイドが患者の生体構造に対して正確に適合するように、患者の骨盤の解剖学的表面の「ネガ」として切断治具の3Dモデルを作成する。このように、穿孔治具の位置決めに関連する如何なる当て推量も排除される。治具生成モジュールは、穿孔治具の仮想3Dモデルを生成した後、ラピッドプロトタイピングマシン、CNCマシン、または有形の穿孔治具を製造する類似機器に必要なマシンコードを出力する。一例として、寛骨臼を穿孔する例示的な寛骨臼構成要素治具は、4つから成る構造を含み、1つ目は、生来の寛骨臼に受容されるとともに、この1つ目を配置ガイドとして用いることにより2つ目が骨盤に固定されるまで、2つ目に対して一時的に取り付けられるように構成されている。2つ目が骨盤に固定された後は、1つ目を除去するようにしてもよい。その後、3つ目には、2つ目と一意に調和して、当該3つ目に対してリーマが長手方向に走行できるようにするものの、その配向については、1つ目および3つ目の組み合わせによって固定される円筒状または部分的に円筒状の構成要素を含む。穿孔後は、リーマを除去するとともに、3つ目を1つ目から除去する。また、4つ目を用いて、穿孔した寛骨臼に寛骨臼カップインプラントを取り付ける。特に、4つ目は、単一の配向のみで1つ目と係合するように一意に成形されると同時に、寛骨臼カップインプラントの内部に受容されるように構成されている。インプラントカップの位置決め後は、1つ目および4つ目をともに除去する。また、寛骨臼インプラントを据え付ける1つまたは複数の孔を骨盤に開ける別の治具を作成し、各孔開け治具を1つ目の代わりに取り付けて、ドリルビットの配向を確認可能であることに留意するものとする。
手術ナビゲーション
図103~図111には、1つまたは複数の慣性測定ユニット(IMU)を用いて外科手術中に整形外科用手術器具および整形外科用インプラントを正確に位置決めする手術ナビゲーションを容易化する別の例示的なシステムおよびプロセスを示している。この第1の別の例示的な実施形態は、完全股関節形成術を行う背景において説明する。その場合も、後述の方法、システム、およびプロセスは、手術器具およびインプラントの誘導が有用なその他任意の外科手術に適用可能である。
模式的に示すように、患者の画像(X線、CT、MRI等を問わず)を利用するとともに、分割または位置合わせによって、患者の生体構造の仮想テンプレートならびに適当なインプラントサイズ、形状、および配置に到達する最初のステップは、図87、図88、図90~図92を参照して上述したものに匹敵する。若干異なるのは、仮想テンプレーティングモジュールの下流で利用するモジュールおよびプロセスである。
仮想テンプレーティングモジュールの下流には、初期化モデル生成モジュールがある。このモジュールは、テンプレートデータおよび関連する計画パラメータを受信する(すなわち、患者の残存骨盤に対して、患者固有の寛骨臼インプラントの形状および配置が既知であるほか、患者の残存大腿骨に対して、患者固有の大腿骨インプラントの形状および配置が既知である)。この患者固有の情報を用いて、初期化モデル生成モジュールは、患者の生来の寛骨臼カップに関する初期化機器の3D仮想モデルおよび大腿骨インプラントに関する初期化機器の3D仮想モデルを製造する。言い換えると、有形の初期化機器が患者の寛骨臼に対して正確に適合するように、患者の寛骨臼の解剖学的表面の「ネガ」として寛骨臼初期化機器の3Dモデルを作成する。同様に、単一の箇所および単一の配向のみで、有形の初期化機器が患者の残存大腿骨および大腿骨インプラントに対して正確に適合するように、患者の残存大腿骨および大腿骨インプラントの解剖学的表面の「ネガ」として大腿骨ステム初期化機器の3Dモデルを作成する。また、これら初期化機器の生成のほか、初期化モデル生成モジュールは、ラピッドプロトタイピングマシン、CNCマシン、または有形の寛骨臼初期化機器および大腿骨初期化機器を製造する類似機器に必要なマシンコードを生成する。有形の寛骨臼初期化機器および大腿骨初期化機器は、製造して、少なくとも1つのIMU1002を有するように構成された手術ナビゲーション器具との取り付け(または、同時もしくは一体形成)または統合を行う。
配向および移動データを報告可能なIMU1002は、手術器具との組み合わせ(たとえば、取り付け)によって、手術機器およびインプラント機器の位置決めを含む手術ナビゲーションを支援する。これらのIMU1002は、その現在の位置および配向の計算を可能とする相対速度および時間を示す当該IMUからの出力データを受信するソフトウェアシステムに通信可能に結合(有線または無線)されるか、または、当該IMUと関連付けられた手術器具の位置および配向(以下により詳しく論じる)を算出して送信する。この例示的な説明において、各IMU1002は、単一の回路基板への組み込みまたは1つもしくは複数のセンサ(たとえば、ジャイロスコープ、加速度計、磁力計)の別個の基板での構成が可能な3つのジャイロスコープ、3つの加速度計、および3つのホール効果磁力計(3つ一組の3軸ジャイロスコープ、加速度計、磁力計)を含み、互いに垂直な3つの方向(たとえば、X、Y、Z方向)に関するデータを出力する。このように、各IMU1002は、3つのジャイロスコープ、3つの加速度計、および3つのホール効果磁力計から21個の電圧または数値出力を生成するように動作する。例示的な形態において、各IMU1002は、センサ基板および処理基板を具備し、センサ基板は、3つの加速度計、3つのジャイロセンサ、および3つの磁力計から成る統合検知モジュール(LSM9DS、ST-Microelectronics)と、3つの加速度計および3つの磁力計から成る2つの統合検知モジュール(LSM303、ST-Microelectronics)とを具備する。特に、IMU1002はそれぞれ、ピッチ(上下)、ヨー(左右)、およびロール(時計回りまたは反時計周りの回転)という少なくとも3つの軸について、空間の回転方向の変化を測定する角運動量センサを具備する。より具体的に、統合検知モジュールを構成する各磁力計は、回路基板上の異なる箇所に位置決めされ、印加磁界に比例する電圧を出力するとともに、3次元座標系における3つの方向それぞれについて、ある空間点での磁界の極性方向を検知するように割り当てられている。たとえば、第1の磁力計は、印加磁界に比例する電圧ならびに第1の箇所におけるX方向、Y方向、およびZ方向の磁界の極性方向を出力する。一方、第2の磁力計は、印加磁界に比例する電圧ならびに第2の箇所におけるX方向、Y方向、およびZ方向の磁界の極性方向を出力し、第3の磁力計は、印加磁界に比例する電圧ならびに第3の箇所におけるX方向、Y方向、およびZ方向の磁界の極性方向を出力する。これら3組の磁力計を用いることにより、局所磁界の変動の検出に加えて、IMUの進行配向を決定するようにしてもよい。各磁力計は、磁界を基準として用い、磁北からの配向逸脱を決定する。ただし、局所磁界は、鉄鋼または磁性材料によって歪む可能性があり、一般的には硬化および軟化鉄歪みと称する。軟化鉄歪みの例は、炭素鋼、ステンレス鋼等の透磁率が低い材料である。硬化鉄歪みは、永久磁石が原因となる。これらの歪みによって、非一様場が形成され(図184参照)、磁力計出力の処理および進行配向の決定に用いられるアルゴリズムの精度に影響が及ぶ。その結果、以下により詳しく論じる通り、校正アルゴリズムを利用して磁力計を校正することにより、検出磁界における均一性を回復する。各IMU1002は、CR2032コイン電池バッテリおよび200mAh充電式Liイオンバッテリ等の非限定的な交換式または充電式エネルギー貯蔵装置によって給電するようにしてもよい。
IMU1002の統合検知モジュールは、設定可能な信号調整回路と、センサの数値出力を生成するアナログ・デジタル変換器(ADC)とを具備していてもよい。IMU1002は、電圧出力を備えたセンサを使用するようにしてもよく、外部信号調整回路は、多チャンネル24ビットアナログ・デジタル変換器(ADC)(ADS1258、Texas Instruments)の入力範囲にセンサ出力を調整するように構成されたオフセット増幅器であってもよい。さらに、IMU1002は、マイクロコントローラおよび無線送信モジュールを含む統合処理モジュール(CC2541、Texas Instruments)を具備する。あるいは、IMU1002は、独立した低電力マイクロコントローラ(MSP430F2274、Texas Instruments)をプロセッサとして使用するとともに、小型の無線送信モジュール(A2500R24A、Anaren)を通信に使用するようにしてもよい。プロセッサは、各IMU1002の一部として統合されていてもよいし、各IMUから分離される一方、当該IMUに通信可能に結合されていてもよい。このプロセッサは、Bluetooth(登録商標)対応であり、ジャイロスコープ、加速度計、および磁力計に対する有線または無線通信を提供するほか、信号受信機との間に有線または無線通信を提供するようにしてもよい。
各IMU1002は、信号受信機に通信可能に結合されているが、これは、所定の機器識別番号を用いて、複数のIMUからの受信データを処理する。データレートは、IMUが1つの場合に約100Hzであり、共有ネットワークにつながるIMUの増加に伴って低下する。信号受信機のソフトウェアは、IMU1002から実時間で信号を受信し、受信IMUデータに基づいて、IMUの現在位置を連続的に算出する。具体的には、IMUからの加速度測定出力を時間に関して積分することにより、3つの軸それぞれにおけるIMUの現在の速度を算出する。各軸について算出した速度を時間で積分することにより、現在位置を算出する。ただし、有用な位置データを得るには、各IMUの校正を含む基準枠を確立する必要がある。
本開示は、手術ナビゲーションに用いる1つまたは複数のIMUを校正する新規なシステムおよび方法を含む。手術ナビゲーションにおける意図した補助具としてIMUを利用する従来の特許文献では、多くの理由による手術不能が問題であった。これらの理由には、金属製の手術器具に対するIMUの配置のほか、IMUの校正の欠如が挙げられる。より具体的に、磁力計を内蔵したIMUの背景においては、手術器具および関連する整形外科用構成要素の動作追跡のため、磁力計の局所的な校正が必要不可欠である。
図182を参照して、本開示によれば、新規な校正器具1000を利用して、磁力計を内蔵し得る1つまたは複数のIMU1002を校正する。例示的な形態において、校正器具1000は、制御装置1008が収容された固定基部1006、モータ1012、歯車装置1016、駆動軸1020、および電源1024を具備する。駆動軸1020は、モータ1012と同様に、歯車装置1016の一部に取り付けられているため、モータは、歯車装置を駆動するとともに駆動軸を回転させるように動作する。特に、モータ1012は、歯車装置1016の駆動ギアが取り付けられた単一の駆動軸を有する電動機を含む。この駆動ギアは、駆動軸1020に取り付けられた補助ギアと係合するため、モータ1012の回転運動が駆動軸1020の回転運動に変換される。
この例示的な構成において、固定基部1006は、モータ1012、歯車装置1016、制御装置1008、電源1024、および駆動軸1020の一部を収容する中空内部を部分的に規定する円形外装を具備する。一例としては、駆動軸1020の中心軸と同軸の中心垂直軸が固定基部1006を通って延びている。この同軸整列により、固定基部1006に対する駆動軸1020の回転の結果として発生する振動が抑えられる。駆動軸1020の回転は、固定基部1006に対して外側ステージ1030を回転させるように動作する。
例示的な形態においては、固定基部1006の上部と外側ステージ1030の底部との間に、リング状の軸受板1034が介在している。固定基部1006および軸受板1034の両者は、駆動軸1020の一部を通過可能な対応する軸方向開口を具備する。外側ステージ1030に近接する駆動軸1020の端部は、スリップリング1038に取り付けられ、これが外側ステージに取り付けられている。このように、固定基部1006に対する駆動軸1020の回転によって、外側ステージ1030は、中心垂直軸周りに回転する。以下により詳しく論じる通り、IMU1002は、中心垂直軸周りの回転によって部分的に校正する。
この例示的な実施形態において、外側ステージ1030は、対応する対向フォーク状付属品1042を備えたブロックU字状プロファイルを含む。各付属品1042は、中央軸1050を受けるとともに中央軸1050に対して枢動可能に取り付けられたころ軸受アセンブリ1046に取り付けられている。各中央軸1050は同時に、フォーク状付属品1042間に位置する内側プラットフォーム1054の相対側面に取り付けられている。内側プラットフォーム1054は、対応する対向フォーク状付属品1042にフィットするとともに、複数の直立突起1058を有する基部を具備したブロックU字状プロファイルを含む。以下により詳しく論じる通り、直立突起1058はそれぞれ、各IMU1002と関連付けられた対応凹部と係合することにより、校正器具1000の一部に対するIMUの位置を固定するように構成されている。各中央軸1050は、中央軸の回転が外側ステージ1030に対する内側プラットフォーム1054の回転と一致するように、中心軸に沿って長手方向に整列するとともに、内側プラットフォーム1054に取り付けられている。
外側ステージ1030に対して内側プラットフォーム1054を回転させるため、校正器具は、中央軸1050の一方に取り付けられたプーリ1060を具備する。特に、プーリ1060の取り付けおよび電動機1068と同時係合した駆動ベルト1064によるプーリの対応する回転に対応するため、中央軸1050の一方は、他方よりも長い。この例示的な実施形態においては、電動機1068の出力軸がそれ自体のプーリ1072に取り付けられ、駆動ベルト1064と係合することにより、最終的にプーリ1060を回転させるとともに、これに対応して、電動機に電力が供給された場合に、(中央軸1050の長手方向整列中心軸の周りに)内側プラットフォーム1054を外側ステージ1030に対して回転させる。電動機1068は、外側ステージ1030の底面からフォーク状付属品1042の一方の下側へと延びたモータ架台1076に取り付けられている。以下により詳しく論じる通り、IMU1002は、外側ステージ1030に対する内側プラットフォーム1054の回転ひいては中心垂直軸に垂直な長手方向中心軸に対するIMUの回転によって部分的に校正する。当業者であれば、第3の回転軸の導入によって、長手方向中心軸および長手方向垂直軸の両者に垂直な軸周りにIMUを回転させるようにしてもよいことが了解されるものとする。校正器具1000を用いて1つまたは複数のIMU1002を校正する例示的な校正シーケンスについては、以下に説明する。
例示的な形態において、IMU1002は、手術ナビゲーションにおける最終的な使用箇所のごく近くで校正するのが好ましい。これは、手術室内、より具体的には、患者が横たわる予定または実際に横たわっている患者ベッドの隣であってもよい。IMUの校正は、意図する使用箇所から離れた校正によって、校正箇所および使用領域(すなわち、手術領域)における磁界が有意に分散し得るように、位置固有である。結果として、使用領域の近くでIMU1002を校正するのが好ましい。
新規な校正器具1000を用いることにより、各IMU1002は、内側プラットフォーム1054の直立突起1058のうちの1つに取り付けられている。一例として、各IMU1002は、開放底部の輪郭となる成形外縁を有するハウジングに取り付けられている。IMU1002のハウジングの成形外縁は、IMUハウジングが対応する直立突起上にスナップフィットして、校正シーケンス中のIMUハウジングおよび内側プラットフォーム1054の係合を維持できるように、直立突起1058の外周を描くように構成されている。一例として、IMUハウジングは、対応する直立突起1058と係合する長方形、三角形、矩形等の辺を持つ外縁を有していいてもよい。例示的な記述および説明として、IMUハウジングは、直立突起1058の矩形断面よりもわずかに大きな一定の垂直断面により輪郭指定された矩形開口を有する。例示的な形態において、校正器具1000は、4つのIMU1002の同時校正を可能とするため、4つの直立突起1058を具備する。ただし、1つまたは複数のIMUの同時校正を可能とするため、内側プラットフォーム1054の一部として具備する直立突起1058の数は、4つより多くても少なくてもよいことに留意するものとする。
校正シーケンスの目標は、加速度計に関してゼロを確立する(すなわち、静止位置において、ゼロ加速度と整合するデータを加速度計が提供することを意味する)とともに、局所磁界をマッピングして、磁力計の出力を正規化することにより、方向の分散および検出磁界の歪み量を捉えることである。IMU1002の加速度計を校正するため、内側プラットフォーム1054が外側ステージ1030に対して静止状態を維持し、外側ステージ1030が固定基部1006に対して静止状態を維持する。外側ステージ1030に対する第1の固定静止位置において、内側プラットフォーム1054を備えたすべての加速度計から複数の測定値を取得する。その後、外側ステージ1030に対する第2の固定静止位置に内側ステージを移動させるとともに、すべての加速度計から第2の複数の測定値集合を取得する。加速度計固有の基準にて、複数の固定位置における加速度計の出力を記録して利用することにより、適用可能な加速度計のゼロ加速度測定値を確立する。また、加速度計に関してゼロを確立するほか、校正シーケンスでは、局所磁界をマッピングして、磁力計の出力を正規化することにより、方向の分散および検出磁界の歪み量を捉える。
各磁力計の局所磁界をマッピングするため(各IMU1002の複数の磁力計が異なる箇所に位置決めされているものと仮定)、固定基部1006に対して外側ステージ1030を駆動軸1020および中心垂直軸の周りに回転させるほか、外側ステージ1030に対して内側プラットフォーム1054を中央軸1050および中心軸の周りに回転させる。互いに垂直な2つの軸の周りに内側プラットフォーム1054を回転させている間に、各磁力計からの出力データを記録する。2つの垂直軸周りの各磁力計の再位置決めによって、各磁力計が検知した3次元局所磁界の点群およびマップが生成される。図(校正図1~3)は、2つの軸で同時に回転させつつ磁力計から受信したデータに基づいて、等角視、前面視、および上面視からマッピングした例示的な局所磁界を示している。局所磁界マップに反映させた通り、局所マップは、楕円体を具現化している。この楕円体形状は、一般的には硬化および軟化鉄歪みと称する鉄鋼または磁性材料の存在による局所磁界の歪みの結果である。軟化鉄歪みの例は、炭素鋼、ステンレス鋼等の透磁率が低い材料である。硬化鉄歪みは、永久磁石等の材料が原因となる。
ただし、局所磁界の歪みに関して、局所磁界マップが球体になるものと仮定する。その結果、校正シーケンスは、校正器具1000またはIMUの手動操作によって、さまざまな配向の局所磁界を記述するのに十分なデータ点を収集するように動作する。また、校正アルゴリズムが補正係数を算出することによって、歪んだ楕円状の局所磁界を均一な球体場にマッピングする。
図184を参照して、互いに異なる位置にIMU1002の一部として位置決めされた複数の磁力計を使用することにより、校正の完了後に局所磁界を検出する。磁界の歪みが一切ないため、磁力計はそれぞれ、磁北等の厳密に同じ方向を示すデータを提供するはずである。ただし、鉄鋼または磁性材料(たとえば、手術器具)の存在等の局所磁界の歪みによって、磁力計は、磁北の方向に関して異なるデータを提供する。言い換えると、磁力計の出力が均一に磁北を反映していない場合は、歪みが生じており、IMU1002は一時的に、追跡アルゴリズムで磁力計データを使用できないようにしてもよい。また、歪みが検出されたことをユーザに注意喚起するようにしてもよい。
図185および図186を参照して、IMU1002を受容する例示的な手術器具は、各器具に一意の電気スイッチパターンまたはグリッドを含む。より具体的に、各手術器具は、1つまたは複数の円筒空洞を除いて、大部分が平面状の上面を有する突起を具備する。例示的な形態において、各IMU1002は、手術器具の突起を受容するように構成された底部開口を規定するハウジングを具備する。この底部開口には、4つのスイッチがあり、それぞれ、押圧された場合にスイッチが閉じて対応する信号をIMU1002のプロセッサに送信するバイアス円筒ボタンを具備する。逆に、ボタンが押圧されない場合は、スイッチが開いたままとなり、スイッチの閉塞に対応する信号がIMU1002のプロセッサに送信されることはない。このように、プロセッサは、いずれのスイッチが開かれ、いずれのスイッチが閉じているかを判定し、この情報を用いて、IMU1002が取り付けられた手術器具を識別する。
手術器具の識別の一部として、突起の上面形状に応じて0~4つのスイッチを押圧するようにしてもよい。グラフィック表示のように、手術器具の突起の上面がスイッチに隣接して押されるように、突起をIMU1002のハウジングの底部開口に受容する。IMU1002のハウジングの突起および底部開口は、単一の回転配向のみで突起が底部開口に受容され、これにより、手術器具の誤識別に至る可能性がある突起とスイッチとの間のずれの可能性を制限するように構成されていることに留意するものとする。
特に、図185に示すように、校正アダプタ手術器具は、一意の構成を与えるように突起の右前隅部(削られた隅部の反対側)の近くに位置決めされた単一の円筒空洞を含む。したがって、校正アダプタ手術器具の突起がIMU1002のハウジングの底部開口に受容された場合は、2&2スイッチグリッドの単一のスイッチのみがIMU1002のハウジングの右前隅部の最も近くで作動されるが、これによって、IMU1002が校正アダプタ手術器具に取り付けられたことをIMU1002のプロセッサに知らせる。これに対して、患者解剖学的マッピング(PAM)位置合わせ器具アダプタ手術器具は、第2の一意の構成において、突起の右前および右後隅部の近くに位置決めされた2つの円筒空洞を含む。したがって、PAMアダプタ手術器具の突起がIMU1002のハウジングの底部開口に受容された場合は、2&2スイッチグリッドの2つのスイッチのみがIMU1002のハウジングの右側の最も近くで作動されるが、これによって、IMU1002がPAMアダプタ手術器具に取り付けられたことをIMU1002のプロセッサに知らせる。さらに、リーマアダプタ手術器具は、突起の前部の近く(すなわち、左前および右前隅部に隣接して)位置決めされた2つの円筒空洞を含む。したがって、リーマアダプタ手術器具の突起がIMU1002のハウジングの底部開口に受容された場合は、2&2スイッチグリッドの2つのスイッチのみがIMU1002のハウジングの前部の最も近くで作動されるが、これによって、IMU1002がリーマアダプタ手術器具に取り付けられたことをIMU1002のプロセッサに知らせる。最後に、インパクタアダプタ手術器具は、突起の前部および右側の近く(すなわち、左前、右前、および右後隅部に隣接して)位置決めされた3つの円筒空洞を含む。したがって、インパクタアダプタ手術器具の突起がIMU1002のハウジングの底部開口に受容された場合は、2&2スイッチグリッドの3つのスイッチのみがIMU1002のハウジングの前部および右側の最も近くで作動されるが、これによって、IMU1002がインパクタアダプタ手術器具に取り付けられたことをIMU1002のプロセッサに知らせる。当業者であれば、手術器具と関連付けられた複数の突起、空洞、または電気接点と調和する複数のスイッチまたは電気接点をIMU1002の一部として設けることによりIMU1002が取り付けられた手術器具を明確に識別することによって提供可能な変形例が理解されよう。
IMU1002が取り付けられた手術器具の識別は、正確な手術ナビゲーションに重要である。特に、本開示に係る手術ナビゲーションシステムは、場合によりIMU1002を取り付け可能な各手術器具のCADモデルまたは表面モデルを予めロードされたソフトウェアパッケージを含む。このため、ソフトウェアパッケージは、X方向の長さ、Y方向の幅、およびZ方向の高さ等、各手術器具の非限定的な相対寸法ならびに手術器具の長さ、幅、および高さに沿ったこれら寸法の変化の様子を把握している。したがって、IMU1002が既知の位置の手術器具に取り付けられた場合は、IMU1002からの(ジャイロスコープ、加速度計、および磁力計による)位置および配向情報を手術器具の位置および配向情報に変換することができる。このため、3D空間でIMU1002を追跡することにより、ソフトウェアパッケージは、3D空間でIMU1002が取り付けられた手術器具を追跡するとともに、この位置および配向を外科医または外科医の助手等のユーザに伝えることができる。
例示的な形態において、ソフトウェアパッケージは、各手術器具を3Dモデルとして表示するように動作する仮想ディスプレイを含む。IMU1002が手術器具に取り付けられた場合、IMU1002のプロセッサは、IMU1002が取り付けられた手術器具を識別可能なデータをソフトウェアパッケージに送信する。この識別の後、ソフトウェアパッケージは、IMUから導出された配向情報と整合する配向でIMU1002に取り付けられた手術器具の3Dモデルを表示する。また、手術器具の3D仮想モデルを実時間で操作して配向情報を提供するほか、ソフトウェアパッケージは、基準物体(すなわち、患者の骨)に取り付けられた第2の基準IMU1002を用いて、手術器具の位置に関する実時間データを提供する。ただし、ソフトウェアパッケージが有意な位置情報を提供可能となる前に、IMU1002(手術器具に取り付けられたIMU#1および基準物体(すなわち、骨)に取り付けられたIMU#2)は、互いに位置合わせする必要がある。
完全股関節形成術の背景における例示的な形態においては、図103~図110に示すように、位置合わせ器具を利用して、所定の配向での患者生体構造の係合により、テンプレート手術計画を再作成する。各実用IMU1002がその位置合わせ器具(1つが大腿骨、第2が骨盤)に取り付けられた場合は、位置合わせ器具を所定配向(患者の生体構造に対して正確に適合することによりIMUを「ゼロ」にする1つの配向のみ)の関連する骨に取り付ける。この位置合わせを実行するには、問題の骨に第2の基準IMUを剛体的に取り付ける(あるIMUを骨盤に取り付け、第2のIMUを大腿骨に取り付ける)。言い換えると、ある実用IMUを寛骨臼位置合わせ器具に取り付ける一方、第2の基準IMUを骨盤に対して剛体的に取り付ける。大腿骨の背景においては、ある実用IMUを大腿骨位置合わせ器具に取り付ける一方、第2の基準IMUを大腿骨に対して剛体的に取り付ける。位置合わせプロセスの一部として、コンピュータのソフトウェアは、両IMU(実用および基準)からの出力を利用することにより、位置合わせ器具が最終的に静止してその一意の位置および配向に位置付けられた場合の実用IMUの「ゼロ」位置を算出する。その後、IMU1002は、関連する位置合わせ器具から取り外して、所定の様態で手術器具(リーマ、ノコギリ、インプラント配置ガイド等)に取り付けることにより、手術器具の適正な配向および配置を保証するようにしてもよい。また、IMU1002は、外科手術が終わるまで、各手術器具に対する取り付けおよび取り外しを連続して行うようにしてもよい。
この例示的な実施形態において、寛骨臼位置合わせ器具は、(回転位置および角度位置を含む)単一の配向のみで患者の寛骨臼カップにフィットするように成形された一意の突起を有する細長軸を具備する。位置合わせ器具の近位端にはIMU1002の位置合わせホルスタを具備しており、このIMU1002の位置合わせホルスタは、IMU1002がホルスタ内にロックされた時にIMU1002を位置合わせ器具および一意の突起に対して剛体的に固定するようにIMU1002を受容するためのものである。位置合わせ器具と一致して、既知の位置で、第2の基準IMU1002を骨盤に対して剛体的に固定する。位置合わせ器具の一意の突起が患者の寛骨臼カップに正しく配向した場合(かつ、位置合わせホルスタ内にロックされたIMU1002および骨盤に取り付けられたIMU1002が作動した場合)、計画インプラントカップ配向(単一の正しい配向のみで一意の突起が寛骨臼カップに受容された場合に設定)に対する位置合わせホルスタにロックされたIMU1002の配向は、既知である。IMUが正しい位置にある旨をオペレータがソフトウェアシステムに示し、ソフトウェアは、各IMUの位置を記録する。そして、(IMU1002がホルスタにロックされた)位置合わせ器具を生体構造から取り外した後、IMU1002を位置合わせホルスタから取り外して、IMU1002を手術器具に取り付ける準備をする。
一例として、過去に寛骨臼位置合わせ器具に取り付けられたIMU1002を器具から取り外し、既知の位置の手術器具に取り付ける。例示的な形態において、(過去に寛骨臼位置合わせ器具に取り付けられた)IMU1002を穿孔方向に対する配向が既知のカップリーマに対して剛体的に固定することにより、骨盤に対するカップリーマの配向が既知となって、両IMU(カップリーマに取り付けられたIMU1002および骨盤に取り付けられたIMU1002)により動的に更新されるようにする。
ソフトウェアプログラムは、患者の骨盤の仮想モデルおよび問題の手術器具(この場合はカップリーマ)の仮想モデル(患者の骨盤の仮想モデルは、仮想テンプレーティングステップによって既に完了しており、カップリーマ等の手術器具の仮想モデルは、利用可能な特定のカップリーマ等の手術器具用のシステムに対して過去にロード済みである)を表示する外科医用のグラフィカルユーザインターフェースを提供するとともに、位置および配向情報を外科医に提供するグラフィカルユーザインターフェースによって、骨盤および手術器具の配向を実時間で更新する。本システムは、グラフィカルユーザインターフェースを使用するのではなく、リーマが正しく配向しているか否かと、正しく配向していない場合に、術前計画と整合してリーマを正しく配向させるのにリーマの再位置決めが必要な方向とを外科医に示す表示灯を有する手術器具を具備していてもよい。カップリーマを用いた面置換の完了後は、IMU1002をカップリーマから取り外し、挿入方向に対する配向が既知のカップ挿入器に対して剛体的に固定する。そして、カップ挿入器を利用してカップインプラントを配置するが、IMUは、ソフトウェアが利用する加速度フィードバックを提供し続けることにより、位置計算を行って、カップ挿入器に対する骨盤の位置に関する実時間フィードバックを提供する。カップの位置決め前または位置決め後に骨盤に孔が開けられている限りにおいて、過去に位置合わせ器具に取り付けられたIMU1002は、手術用ドリルへの剛体的な固定によって、骨盤に対するドリルの正しい配向を保証するようにしてもよい。また、類似の位置合わせ器具およびIMU集合をソフトウェアシステムと併用して、大腿骨ステム構成要素の配置を支援するようにしてもよい。
例示的な一実施形態において、大腿骨位置合わせ器具は、(回転位置および角度位置を含む)単一の配向のみで患者の大腿骨頸部に一部フィットするように成形された遠位形状を有する細長軸を具備する。位置合わせ器具の近位端にはIMU1002の位置合わせホルスタを具備しており、このIMU1002の位置合わせホルスタは、IMU1002がホルスタ内にロックされた時にIMU1002を位置合わせ器具および遠位形状に対して剛体的に固定するようにIMU1002を受容するためのものである。位置合わせ器具と一致して、既知の位置で、第2の基準IMU1002を大腿骨に対して剛体的に固定する。位置合わせ器具の遠位形状が大腿骨頸部に対して正しく配向した場合(かつ、位置合わせホルスタ内にロックされたIMU1002および大腿骨に取り付けられたIMU1002が作動した場合)、大腿骨配向(単一の正しい配向のみで遠位形状が大腿骨頸部上に受容された場合に設定)に対する位置合わせホルスタにロックされたIMU1002の配向は、既知である。IMUが正しい位置にある旨をオペレータがソフトウェアシステムに示し、ソフトウェアは、各IMUの位置を記録する。そして、(IMU1002がホルスタにロックされた)位置合わせ器具を生体構造から取り外した後、IMU1002を位置合わせホルスタから取り外して、IMU1002を手術器具に取り付ける準備をする。
一例として、過去に大腿骨位置合わせ器具に取り付けられたIMU1002を器具から取り外し、既知の位置の別の手術器具に取り付ける。例示的な形態においては、既知の位置の手術用ノコギリに対して、(過去に大腿骨位置合わせ器具に取り付けられた)IMU1002を剛体的に固定することにより、これに対応して、IMU1002の動きが手術用ノコギリの既知の動きに変換されるようにする。他方のIMU1002が既知の位置の大腿骨に対して固定的に取り付けられているものと仮定すると、IMUは、(加速度データによる)大腿骨および手術用ノコギリの両者の位置の変化に関する動的更新情報をソフトウェアシステムに提供するように協働する。
ソフトウェアプログラムは、患者の大腿骨の仮想モデルおよび問題の手術器具(この場合は手術用ノコギリ)の仮想モデル(患者の大腿骨の仮想モデルは、仮想テンプレーティングステップによって既に完了しており、手術用ノコギリ等の手術器具の仮想モデルは、利用可能な特定の手術用ノコギリ等の手術器具用のシステムに対して過去にロード済みである)を表示する外科医用のグラフィカルユーザインターフェースを提供するとともに、位置および配向情報を外科医に提供するグラフィカルユーザインターフェースによって、大腿骨および手術器具の配向を実時間で更新する。本システムは、グラフィカルユーザインターフェースを使用するのではなく、手術用ノコギリが正しく配向しているか否かと、正しく配向していない場合に、術前計画と整合して手術用ノコギリを正しく配向させて正しい骨切りを行うのに手術用ノコギリの再位置決めが必要な方向とを外科医に示す表示灯を有する手術器具を具備していてもよい。必要な骨切りの後、IMU1002を手術用ノコギリから取り外し、(髄内管を正しく穿孔するために)リーマに対して剛体的に固定した後、挿入方向に対する配向が既知の大腿骨ステム挿入器に取り付ける。そして、ステム挿入器を利用して穿孔髄内管に大腿骨ステムインプラントを配置するが、IMUは、ソフトウェアが利用する加速度フィードバックを提供し続けることにより、大腿骨およびステム挿入器の位置を実時間で算出するとともに、グラフィカルユーザインターフェースを介してこの位置データを外科医に表示する。
完全肩関節形成術の背景における例示的な形態においては、図187および図188に示すように、位置合わせ器具を利用して、所定の配向での患者生体構造の係合により、テンプレート手術計画を再作成する。各実用IMU1002がその位置合わせ器具(1つが上腕骨、第2が肩甲骨)に取り付けられた場合は、位置合わせ器具を所定配向(患者の生体構造に対して正確に適合することによりIMUを「ゼロ」にする1つの配向のみ)の関連する骨に取り付ける。この位置合わせを実行するには、問題の骨に第2の基準IMUを剛体的に取り付ける(あるIMUを上腕骨に取り付け、第2のIMUを肩甲骨に取り付ける)。言い換えると、ある実用IMUを上腕骨位置合わせ器具に取り付ける一方、第2の基準IMUを上腕骨に対して剛体的に取り付ける。肩甲骨の背景においては、ある実用IMUを肩甲骨位置合わせ器具に取り付ける一方、第2の基準IMUを肩甲骨に対して剛体的に取り付ける。位置合わせプロセスの一部として、コンピュータのソフトウェアは、両IMU(実用および基準)からの出力を利用することにより、位置合わせ器具が最終的に静止してその一意の位置および配向に位置付けられた場合の実用IMUの「ゼロ」位置を算出する。その後、IMU1002は、関連する位置合わせ器具から取り外して、所定の様態で手術器具(リーマ、ノコギリ、インプラント配置ガイド等)に取り付けることにより、手術器具の適正な配向および配置を保証するようにしてもよい。また、IMU1002は、外科手術が終わるまで、各手術器具に対する取り付けおよび取り外しを連続して行うようにしてもよい。
この例示的な実施形態において、図188に示すように、肩甲骨位置合わせ器具は、(回転位置および角度位置を含む)単一の配向のみで患者の関節窩にフィットするように成形された一意の突起を有する細長軸を具備する。位置合わせ器具の近位端には、IMU1002の位置合わせホルスタを具備しており、このIMU1002の位置合わせホルスタは、IMU1002がホルスタ内にロックされた時にIMU1002を位置合わせ器具および一意の突起に対して剛体的に固定するようにIMU1002を受容するためのものである。位置合わせ器具と一致して、既知の位置で、第2の基準IMU1002を肩甲骨に対して剛体的に固定する。位置合わせ器具の一意の突起が患者の関節窩に正しく配向した場合(かつ、位置合わせホルスタ内にロックされたIMU1002および肩甲骨に取り付けられたIMU1002が作動した場合)、計画インプラントカップ配向(単一の正しい配向のみで位置合わせ器具の一意の突起が関節窩に受容された場合に設定)に対する位置合わせホルスタにロックされたIMU1002の配向は、既知である。IMUが正しい位置にある旨をオペレータがソフトウェアシステムに示し、ソフトウェアは、各IMUの位置を記録する。そして、(IMU1002がホルスタにロックされた)位置合わせ器具を生体構造から取り外した後、IMU1002を位置合わせホルスタから取り外して、実用IMU1002を他の手術器具に取り付ける準備をする。
一例として、過去に肩甲骨位置合わせ器具に取り付けられたIMU1002を器具から取り外し、既知の位置の手術器具に取り付ける。例示的な形態において、(過去に肩甲骨位置合わせ器具に取り付けられた)IMU1002は、穿孔方向に対する配向が既知のカップリーマに対して剛体的に固定することにより、肩甲骨に対するカップリーマの配向が既知となって、両IMU(カップリーマに取り付けられたIMU1002および骨盤に取り付けられたIMU1002)により動的に更新されるようにする。
ソフトウェアプログラムは、患者の肩甲骨の仮想モデルおよび問題の手術器具(この場合はカップリーマ)の仮想モデル(患者の肩甲骨の仮想モデルは、仮想テンプレーティングステップによって既に完了しており、カップリーマ等の手術器具の仮想モデルは、利用可能な特定のカップリーマ等の手術器具用のシステムに対して過去にロード済みである)を表示する外科医用のグラフィカルユーザインターフェースを提供するとともに、位置および配向情報を外科医に提供するグラフィカルユーザインターフェースによって、肩甲骨および手術器具の配向を実時間で更新する。本システムは、グラフィカルユーザインターフェースを使用するのではなく、リーマが正しく配向しているか否かと、正しく配向していない場合に、術前計画と整合してリーマを正しく配向させるのにリーマの再位置決めが必要な方向とを外科医に示す表示灯を有する手術器具を具備していてもよい。カップリーマを用いた面置換の完了後は、実用IMU1002をカップリーマから取り外し、挿入方向に対する配向が既知のカップ挿入器に対して剛体的に固定する。そして、カップ挿入器を利用してカップインプラントを配置するが、IMUは、ソフトウェアが利用する加速度フィードバックを提供し続けることにより、位置計算を行って、カップ挿入器に対する肩甲骨の位置に関する実時間フィードバックを提供する。カップの位置決め前または位置決め後に肩甲骨に孔が開けられている限りにおいて、過去に位置合わせ器具に取り付けられた実用IMU1002は、手術用ドリルへの剛体的な固定によって、肩甲骨に対するドリルの正しい配向を保証するようにしてもよい。また、類似の位置合わせ器具およびIMU集合をソフトウェアシステムと併用して、上腕骨ステム構成要素の配置を支援するようにしてもよい。
例示的な一実施形態において、上腕骨位置合わせ器具は、(回転位置および角度位置を含む)単一の配向のみで患者の上腕骨頸部に一部フィットするように成形された遠位形状を有する細長軸を具備する。位置合わせ器具の近位端にはIMU1002の位置合わせホルスタを具備しており、このIMU1002の位置合わせホルスタは、IMU1002がホルスタ内にロックされた時にIMU1002を位置合わせ器具および遠位形状に対して剛体的に固定するようにIMU1002を受容するためのものである。位置合わせ器具と一致して、既知の位置で、第2の基準IMU1002を上腕骨に対して剛体的に固定する。位置合わせ器具が上腕骨頸部に対して正しく配向した場合(かつ、位置合わせホルスタ内にロックされたIMU1002および上腕骨に取り付けられた基準IMU1002が作動した場合)、上腕骨配向(単一の正しい配向のみで遠位形状が上腕骨頸部上に受容された場合に設定)に対する位置合わせホルスタにロックされたIMU1002の配向は、既知である。IMUが正しい位置で静止している旨をオペレータがソフトウェアシステムに示し、ソフトウェアは、各IMUの位置を記録して、予備計画方向の基準配向を確立する。そして、(IMU1002がホルスタにロックされた)位置合わせ器具を生体構造から取り外した後、実用IMU1002を位置合わせホルスタから取り外して、IMU1002を他の手術器具に取り付ける準備をする。
一例として、過去に上腕骨位置合わせ器具に取り付けられたIMU1002を器具から取り外し、既知の位置の別の手術器具に取り付ける。例示的な形態においては、既知の位置の手術用ノコギリに対して、(過去に上腕骨位置合わせ器具に取り付けられた)IMU1002を剛体的に固定することにより、これに対応して、IMU1002の動きが手術用ノコギリの既知の動きに変換されるようにする。基準IMU1002が既知の位置の上腕骨に対して固定的に取り付けられているものと仮定すると、IMUは、(加速度データによる)上腕骨および手術用ノコギリの両者の位置の変化に関する動的更新情報をソフトウェアシステムに提供するように協働する。
ソフトウェアプログラムは、患者の上腕骨の仮想モデルおよび問題の手術器具(この場合は手術用ノコギリ)の仮想モデル(患者の上腕骨の仮想モデルは、仮想テンプレーティングステップによって既に完了しており、手術用ノコギリ等の手術器具の仮想モデルは、利用可能な特定の手術用ノコギリ等の手術器具用のシステムに対して過去にロード済みである)を表示する外科医用のグラフィカルユーザインターフェースを提供するとともに、位置および配向情報を外科医に提供するグラフィカルユーザインターフェースによって、上腕骨および手術器具の配向を実時間で更新する。本システムは、グラフィカルユーザインターフェースを使用するのではなく、手術用ノコギリが正しく配向しているか否かと、正しく配向していない場合に、術前計画と整合して手術用ノコギリを正しく配向させて正しい骨切りを行うのに手術用ノコギリの再位置決めが必要な方向とを外科医に示す表示灯を有する手術器具を具備していてもよい。必要な骨切りの後、実用IMU1002を手術用ノコギリから取り外し、(上腕管を正しく穿孔するために)リーマに対して剛体的に固定した後、挿入方向に対する配向が既知の上腕骨ステム挿入器に取り付ける。そして、ステム挿入器を利用して穿孔管に上腕骨ステムインプラントを配置するが、IMUは、ソフトウェアが利用する加速度フィードバックを提供し続けることにより、上腕骨およびステム挿入器の位置を実時間で算出するとともに、グラフィカルユーザインターフェースを介してこの位置データを外科医に表示する。
逆肩関節インプラント手術の背景における例示的な形態においては、図189および図190に示すように、位置合わせ器具を利用して、所定の配向での患者生体構造の係合により、テンプレート手術計画を再作成する。各実用IMU1002がその位置合わせ器具(1つが上腕骨、第2が肩甲骨)に取り付けられた場合は、位置合わせ器具を所定配向(患者の生体構造に対して正確に適合することによりIMUを「ゼロ」にする1つの配向のみ)の関連する骨に取り付ける。この位置合わせを実行するには、問題の骨に第2の基準IMUを剛体的に取り付ける(あるIMUを上腕骨に取り付け、第2のIMUを肩甲骨に取り付ける)。言い換えると、ある実用IMUを上腕骨位置合わせ器具に取り付ける一方、第2の基準IMUを上腕骨に対して剛体的に取り付ける。肩甲骨の背景においては、ある実用IMUを肩甲骨位置合わせ器具に取り付ける一方、第2の基準IMUを肩甲骨に対して剛体的に取り付ける。位置合わせプロセスの一部として、コンピュータのソフトウェアは、両IMU(実用および基準)からの出力を利用することにより、位置合わせ器具が最終的に静止してその一意の位置および配向に位置付けられた場合の実用IMUの「ゼロ」位置を算出する。その後、IMU1002は、関連する位置合わせ器具から取り外して、所定の様態で手術器具(リーマ、ノコギリ、挿入器、ドリルガイド、ドリル等)に取り付けることにより、手術器具の適正な配向および配置を保証するようにしてもよい。また、IMU1002は、外科手術が終わるまで、各手術器具に対する取り付けおよび取り外しを連続して行うようにしてもよい。
この例示的な実施形態において、図190に示すように、肩甲骨位置合わせ器具は、(回転位置および角度位置を含む)単一の配向のみで患者の関節窩にフィットするように成形された一意の突起を有する細長軸を具備する。位置合わせ器具の近位端にはIMU1002の位置合わせホルスタを具備しており、このIMU1002の位置合わせホルスタは、IMU1002がホルスタ内にロックされた時にIMU1002を位置合わせ器具および一意の突起に対して剛体的に固定するようにIMU1002を受容するためのものである。位置合わせ器具と一致して、既知の位置で、第2の基準IMU1002を肩甲骨に対して剛体的に固定する。位置合わせ器具の一意の突起が患者の関節窩に正しく配向した場合(かつ、位置合わせホルスタ内にロックされたIMU1002および肩甲骨に取り付けられたIMU1002が作動した場合)、計画インプラントカップ配向(単一の正しい配向のみで一意の突起が関節窩に受容された場合に設定)に対する位置合わせホルスタにロックされたIMU1002の配向は、既知である。IMUが正しい位置にある旨をオペレータがソフトウェアシステムに示し、ソフトウェアは、各IMUの位置を記録する。そして、(IMU1002がホルスタにロックされた)位置合わせ器具を生体構造から取り外した後、IMU1002を位置合わせホルスタから取り外して、実用IMU1002を他の手術器具に取り付ける準備をする。
一例として、過去に肩甲骨位置合わせ器具に取り付けられたIMU1002を器具から取り外し、既知の位置の手術器具に取り付ける。例示的な形態において、(過去に肩甲骨位置合わせ器具に取り付けられた)IMU1002は、穿孔方向に対する配向が既知のカップリーマに対して剛体的に固定することにより、肩甲骨に対するカップリーマの配向が既知となって、両IMU(カップリーマに取り付けられたIMU1002および骨盤に取り付けられたIMU1002)により動的に更新されるようにする。
ソフトウェアプログラムは、患者の肩甲骨の仮想モデルおよび問題の手術器具(この場合はカップリーマ)の仮想モデル(患者の肩甲骨の仮想モデルは、仮想テンプレーティングステップによって既に完了しており、カップリーマ等の手術器具の仮想モデルは、利用可能な特定のカップリーマ等の手術器具用のシステムに対して過去にロード済みである)を表示する外科医用のグラフィカルユーザインターフェースを提供するとともに、位置および配向情報を外科医に提供するグラフィカルユーザインターフェースによって、肩甲骨および手術器具の配向を実時間で更新する。本システムは、グラフィカルユーザインターフェースを使用するのではなく、リーマが正しく配向しているか否かと、正しく配向していない場合に、術前計画と整合してリーマを正しく配向させるのにリーマの再位置決めが必要な方向とを外科医に示す表示灯を有する手術器具を具備していてもよい。カップリーマを用いた面置換の完了後は、実用IMU1002をカップリーマから取り外し、配向および位置が既知のドリルプレートに対して剛体的に固定する。そして、ドリルプレートを利用して肩甲骨に孔を開けるが、IMUは、ソフトウェアが利用する加速度フィードバックを提供し続けることにより、位置計算を行って、ドリルプレートに対する肩甲骨の位置に関する実時間フィードバックを提供し、その後、関節窩基板の位置決めおよび関節窩構成要素ボールの取り付けを行う。必須ではないものの、ドリルプレートを介した孔開けに際して、実用IMU1002は、手術用ドリルへの剛体的な固定によって、ドリルプレートに対するドリルの正しい配向を保証するようにしてもよい。また、類似の位置合わせ器具およびIMU集合をソフトウェアシステムと併用して、上腕骨ステム構成要素の配置を支援するようにしてもよい。
例示的な一実施形態において、上腕骨位置合わせ器具は、(回転位置および角度位置を含む)単一の配向のみで患者の上腕骨頸部に一部フィットするように成形された遠位形状を有する細長軸を具備する。位置合わせ器具の近位端にはIMU1002の位置合わせホルスタを具備しており、このIMU1002の位置合わせホルスタは、IMU1002がホルスタ内にロックされた時にIMU1002を位置合わせ器具および遠位形状に対して剛体的に固定するようにIMU1002を受容するためのものである。位置合わせ器具と一致して、既知の位置で、第2の基準IMU1002を上腕骨に対して剛体的に固定する。位置合わせ器具が上腕骨頸部に対して正しく配向した場合(かつ、位置合わせホルスタ内にロックされたIMU1002および上腕骨に取り付けられた基準IMU1002が作動した場合)、上腕骨配向(単一の正しい配向のみで遠位形状が上腕骨頸部上に受容された場合に設定)に対する位置合わせホルスタにロックされたIMU1002の配向は、既知である。IMUが正しい位置で静止している旨をオペレータがソフトウェアシステムに示し、ソフトウェアは、実用IMUを「ゼロ」にする各IMUの位置を記録する。そして、(IMU1002がホルスタにロックされた)位置合わせ器具を生体構造から取り外した後、実用IMU1002を位置合わせホルスタから取り外して、IMU1002を他の手術器具に取り付ける準備をする。
一例として、過去に上腕骨位置合わせ器具に取り付けられたIMU1002を器具から取り外し、既知の位置の別の手術器具に取り付ける。例示的な形態においては、既知の位置の上腕骨切除ブロックに対して、(過去に上腕骨位置合わせ器具に取り付けられた)IMU1002を剛体的に固定することにより、これに対応して、IMU1002の動きが切除ブロックの既知の動きに変換されるようにする。基準IMU1002が既知の位置の上腕骨に対して固定的に取り付けられているものと仮定すると、IMUは、(加速度データによる)上腕骨および切除ブロックの両者の位置の変化に関する動的更新情報をソフトウェアシステムに提供するように協働する。
ソフトウェアプログラムは、患者の上腕骨の仮想モデルおよび問題の手術器具(この場合は上腕骨切除ブロック)の仮想モデル(患者の上腕骨の仮想モデルは、仮想テンプレーティングステップによって既に完了しており、切除ブロック等の手術器具の仮想モデルは、利用可能な特定の切除ブロック等の手術器具用のシステムに対して過去にロード済みである)を表示する外科医用のグラフィカルユーザインターフェースを提供するとともに、位置および配向情報を外科医に提供するグラフィカルユーザインターフェースによって、上腕骨および手術器具の配向を実時間で更新する。本システムは、グラフィカルユーザインターフェースを使用するのではなく、切除ブロックが正しく配向しているか否かと、正しく配向していない場合に、術前計画と整合して切除ブロックを正しく配向させて正しい骨切りを行うのに切除ブロックの再位置決めが必要な方向とを外科医に示す表示灯を有する手術器具を具備していてもよい。この追加または代替として、基準ピンをそれぞれ挿入する1つまたは複数の孔を開けるのに用いられるドリルプレートに実用IMU1002を取り付けるようにしてもよい。このような事例においては、1つまたは複数の基準ピンを用いて手術用ブロックが適正に配置および配向されている場合、切除ブロックに必ずしもIMUが付随している必要はない。いずれにしても、必要な骨切りの後、実用IMU1002を手術器具から取り外し、(上腕管を正しく穿孔するために)リーマに対して剛体的に固定した後、挿入器に対する配向が既知の上腕骨ステム挿入器に取り付ける。そして、ステム挿入器を利用して穿孔管に上腕骨ステムインプラントを配置するが、IMUは、ソフトウェアが利用する加速度フィードバックを提供し続けることにより、上腕骨およびステム挿入器の位置を実時間で算出するとともに、グラフィカルユーザインターフェースを介してこの位置データを外科医に表示する。
構成要素の配置のほか、骨盤および大腿骨に取り付けられたIMUを用いて構成要素の潜在的な衝突を試験することにより、構成要素の回転を追跡して、術後の合併症を防止するとともに全体的な患者の満足を向上させることができる。
IMU1002の使用に関する上記開示に準じて、以下は、各IMUのジャイロスコープ、加速度計、および磁力計から3次元位置データを生成するのに用いられる数学モデルおよびアルゴリズムの例示的な記述である。例示的な形態において、各IMUプロセッサは、von Mises-Fisher密度アルゴリズムとともにシーケンシャルモンテカルロ法(SMC)を利用することにより、IMUのジャイロスコープ、加速度計、および磁力計からの入力に基づいてIMU1002の位置の変化を算出するようにプログラムされている。IMUデータストリームは、X、Y、Zの3軸に関する1組のジャイロデータ(G1)と、X、Y、Zの3軸に関する3組の加速度計データ(A1~A3)と、X、Y、Zの3軸に関する3組の磁力計データ(M1~M3)とから成る。IMU1002の配向追跡は、各センサ(すなわち、G1、A1、M1)からの1組のデータで達成されるようになっていてもよい。
一例としてG1、A1、およびM1を用い、センサの生データがすべて変換および処理されたものと仮定すると、
時間および状態=1において、
1)このアルゴリズムは、まず、以下に特定するアルゴリズム1で表すように、von Mises-Fisher密度の所定の分散係数によって、中立位置周りのN個の粒子の集合を生成する。各粒子は、X、Y、Z軸周りの4つ組形態の配向を表す。言い換えると、粒子は、同じ確率密度空間から引き出された独立かつ一様分布したランダム変数の集合を含む。配向追跡用途において、粒子は、観測配向の統計学的に制約された変形である。ただし、集めるサンプル数の増加に応じてアルゴリズムが特性を最適化するため、厳密な統計値(分散係数)は、「既知」である必要がないことに留意するものとする。初期推定としてより高い多様性を用いるとともに、アルゴリズムによる改良を可能とするのが好ましい。
G1、A1、およびM1から第1のデータセットを受信した後、IMUの現在の配向の推定値を算出する。これは、A1から測定した傾きをまず把握することによって達成される。傾き情報は、以下に特定するアルゴリズム2のステップ2および3として示すように、磁力計測定値を数学的に補正(回転解除)するのに必要である。その後、A1およびM1データを用いることにより、ガウス・ニュートン最適化法に基づくアルゴリズム2によって、IMUの初期配向を推定する。アルゴリズム2の目標は、推定値の傾きおよび進行成分がA1およびM1からの測定値と許容範囲の誤差で同じとなるように、配向(qobv)を反復的に決定することである。アルゴリズム2には、過去の状態からの入力を要するものの、時間=1では過去の状態が存在しないため、如何なる入力でも事足りることに留意するものとする。配向の追跡に加速度計および磁力計を単独で使用できない理由は、加速度計による傾き測定の制約である。一例として、一部の特定配向においては、三角法の四分円の特質から、IMUが異なる配向であっても傾きの出力が同じとなる場合があり得る。このため、ジャイロスコープは、IMUが含まれる四分円を記録する必要がある。
次に、以下の式に従って、中立位置のN個の粒子の集合(qvMF)を「回転」させ、それらの平均がA1およびM1からの配向推定値の中心となるようにする。
その後、以下の式により、G1に基づいて、すべての粒子を先行して推定する。
ここで、ωは時間tで測定した角速度、Δtはサンプリング周期である。
言い換えると、G1がX軸周りの角速度を示している場合は、ニュートンの運動方程式に基づいて、すべての粒子をX軸周りに回転させる。
現在の状態の配向期待値は、以下に特定するアルゴリズム3によって粒子推定値(qest,i(t+1))を平均化することより実現される。4つ組が4次元ベクトルであることから、平均化は、異なる方法で行う。アルゴリズム3では、粒子集合からの2つの4つ組について、一方のみが残るまで反復的に補間する。
時間および状態=2においては、第2のデータセットを受信する。段落0193に記載の同じ方法(アルゴリズム2)を用いて、最新の配向推定値を算出した後、過去の状態からのすべての粒子推定値と比較する(qest,i(t-1))。各粒子と現在の配向推定値との間の誤差/残余を用いて、以下の式により、粒子の精度を重み付けする(すなわち、推定値に近い粒子が遠い粒子よりも高い重みを受けることになる)。
δ
res,iは、粒子と現在の観測値との間の残余3D角度差である。
w
iは、粒子の重みである。
次に、粒子の質を評価して、重みが非常に低い粒子の除外および再サンプリングを行う。これは、決定論的、残余的、または補助的再サンプリングスキームを用いて行うことができる。アルゴリズムには観測値に近い粒子が好ましいため、粒子集合は、時間とともに多様性を失い始める。粒子は、集中の度合いが高くなって、統計的な意味を持たなくなる。その時、粒子のごく一部の置き換えによって、多様性が増すことになる。これは、まず、粒子の現在の分散係数を評価することによって行う。分散係数が高い集中を示す場合は、所定の分散係数に基づく中立位置での新たな粒子集合の生成によって、現在の粒子の一部を置き換える。新たな粒子は、中立位置から現在の配向期待値まで回転させる。これは、以下の式にまとめられる。
また、このSMC法アルゴリズムは、時間に依存するため、受信信号の遅延またはIMUデータストリームとの一時的な接続喪失によって、推定値に悪影響が及ぶ可能性がある。IMUデータストリームとの接続を密に監視していない場合は、粒子集合が発散して、フィルタが不安定になる可能性がある。このSMC法アルゴリズムでは、各反復後の粒子集合の特性を追跡して、過剰な発散を防止する。
最後に、G1からの新たなデータに基づいて、粒子を先行して推定するとともに、現在の配向状態を再び算出する。上記プロセスおよびアルゴリズムは、G1、A1、およびM1からの新たなデータの受信ごとに再利用する。
外傷プレートの作成
図112~図125を参照して、所定の個体群における骨プレート(すなわち、外傷プレート)を作成する例示的なプロセスおよびシステムを説明する。当業者であれば、骨折後の骨は、再生によって修復可能であることが分かる。骨折の重症度および箇所に応じて従来技術の外傷プレートを利用していたが、手術室で屈曲等の修正を行って、不規則な骨の形状に合わせるとともに、骨断片間の最大接触を実現する必要が多かった。ただし、過剰な屈曲は、外傷プレートの耐用年数が短くなり、骨プレートの不具合および/または外傷プレートのねじ固定の緩みにつながる場合がある。本プロセスおよびシステムでは、より精密な外傷プレート形状を与えることによって、術中のプレート成形の必要性を低減または排除することにより、プレートの耐用年数を長くするとともに、外傷プレートのねじ固定の緩みが生じるまでの時間を長くする。
外傷プレートを作成するための上記例示的な説明は、外傷プレートを適用可能なありとあらゆる骨に適用することができる。簡略化を目的として、例示的な説明では、上腕骨と併用する外傷プレートを作成するシステムおよびプロセスを記載する。ただし、このプロセスおよびシステムは、身体の他の骨および対応する外傷プレートの製造にも等しく適用可能であり、上腕骨外傷プレートに限定されないことが了解されるものとする。
外傷プレートを作成する例示的なプロセスおよびシステムの一部として、問題の骨の統計骨アトラスを作成および/または利用する。説明として、問題の骨には、上腕骨を含む。当業者は、統計アトラスおよび1つまたは複数の骨の背景において統計アトラスを構成する方法に慣れている。結果として、統計骨アトラスの構成に関する詳細な説明については、簡略化のため省略している。その場合も、例示的なシステムおよびプロセスの統計骨アトラスに関して一意となり得るのは、性差、年齢、民族性、変形、および/または部分的な構成に基づいて、統計骨アトラス内の上腕骨を分類することである。このように、上記分類のうちの1つまたは複数に合わせて1つまたは複数の外傷プレートをマスカスタマイズするようにしてもよく、この1つまたは複数の分類が特定の骨個体群を定める。
例示的な形態において、統計骨アトラスには、さまざまな形態をとり得る解剖学的データを含む。一例として、統計骨アトラスは、2次元または3次元画像のほか、測定結果を取得可能な骨パラメータに関する情報を含んでいてもよい。例示的なアトラス入力データは、X線画像、CTスキャン画像、MRI画像、レーザスキャン画像、超音波画像、分割骨、物理測定データ、および骨モデルを作成可能なその他任意の情報の形態であってもよい。統計アトラスデータにアクセスするソフトウェアがこの入力データを利用して、3次元骨モデルを構築することにより(または、既に作成され、統計アトラスの一部として保存された3次元骨モデルにアクセスすることにより)、ソフトウェアは、3次元の平均的な骨モデルまたはテンプレート骨モデルを作成するように動作する。
テンプレート骨モデルを用いることにより、ソフトウェアは、テンプレート骨モデルの外部表面上の点の自動指定または手動指定が可能である。説明として、平均的な上腕骨モデルの背景においては、上腕骨モデルの外部表面上で外傷プレートの形状を大略描くことにより、ソフトウェアのユーザが最終的な外傷プレートの大略的な境界形状を定める。また、外傷プレートの大略的な境界形状は、外側境界に対応する上腕骨モデルの外部表面上の一連の点をユーザが指定することによっても得られる。外側境界または境界点が定まったら、ソフトウェアは、規定境界内の上腕骨モデルの外部表面上の点の自動指定または手動指定が可能である。一例として、ソフトウェアは、上腕骨モデルの外部上の異なる位置にそれぞれ対応する一連の点が指定する外傷プレートの境界内の割合をユーザが指定可能な部分充填演算を提供する。また、ソフトウェアは、境界内の上腕骨モデルの外部表面上の1つまたは複数の点をユーザが指定可能な手動点指定機能を提供する。手動点指定を利用する場合、ユーザは、上腕骨モデルの外部上の点の指定の前置きとして境界を定める必要がないことに留意するものとする。むしろ、手動点指定が完了したら、指定した最外点によって境界を定める。
テンプレート骨モデルの外部表面上の点の指定後は、問題の骨個体群の全体にわたって、位置特定した点を伝搬する。特に、位置特定した点は、統計アトラスの点の対応付けによって、ソフトウェアにより所与の個体群内の各3次元骨モデルに自動適用する。一例として、所与の骨個体群は、性差および民族固有であって、白人女性の上腕骨を含んでいてもよい。個体群の各骨モデルの伝搬点を用いることにより、ソフトウェアは、3次元充填プロセスを用いて境界内の点間の隙間を埋めることにより、各骨の外傷プレートの3次元レンダリングを作成する。その後、ソフトウェアは、間引きプロセスによって、各外傷プレートの3次元レンダリングの長手方向正中線を算出する。
各3次元外傷プレートレンダリングの正中線には、その長さに沿ってさまざまな曲率を有する3次元正中線を含む。ソフトウェアは、3次元正中線を抽出し、最小二乗フィッティングを用いて、3次元正中線の主要曲率を協調的に最もよく近似する好ましい曲率半径数を決定する。上腕骨の背景においては、3つの曲率半径が正中線曲率を正確に近似することが判明している。ただし、この数は、骨個体群および外傷プレートの境界に応じて変化する可能性がある。ここでは、プレートの長さに沿った1つまたは複数の位置での断面曲率、回避する筋肉、神経、および他の軟部組織の位置、またはプレートサイズもしくは形状の規定に関連するその他任意の特徴等の付加的な特徴も同様に含み得る。一例として、正中線の3つの曲率半径は、上腕骨近位部における外傷プレートの屈曲、上腕骨幹と上腕骨頭との間の遷移、および上腕骨幹の曲率を表す。各曲率半径を記録し、4次元特徴ベクトルの曲率半径データへの適用によって、個体群に最もよくフィットするグループに半径をクラスタリングした。例示的な形態において、クラスタデータは、個体群への適正なフィッティングに複数の外傷プレートが必要であることを示していてもよい。曲率半径データをクラスタリングしたら、外傷プレートの寸法を確定するようにしてもよい。
プレート設計に関連する特徴抽出に際して、ソフトウェアは、個体群にフィットする最適なクラスタ数を決定する。図120に概要を示すように、極小を与える2つ以上のクラスタが存在する事例があることに留意する必要がある。各ファミリにおいて許容範囲の誤差および妥当数のプレートを提供する最適選択を決定するため、ソフトウェアは、各クラスタのプレートについて、3次元表面モデルを生成する。そして、これらのプレートを個体群に配置し、プレートと骨表面との間の不適合を演算することにより、自動評価を実行する。この解析の結果により、ソフトウェアは、この特定の個体群に用いる最適プレート数を選ぶことができる。そして、筋肉および軟部組織の位置を回避するとともに、固定を最大化するように、最終的なプレートモデルをパラメータ化して、各プレートにねじの位置を配置する。ねじの幅は、個体群全体での各ねじレベルにおける骨の断面解析によって決定する。
本プロセスおよび方法は、死体研究により上腕骨について検証した。特に、白人女性の死体の上腕骨のCTスキャンを取得した。これらのCTスキャンをソフトウェアが利用して、各上腕骨の別個の3次元モデルを作成した。この検証研究中に利用したCTスキャンも3次元モデルも、上腕骨外傷プレートの作成に利用した統計アトラスおよび関連する個体群の一部ではないことに留意するものとする。結果として、CTスキャンも3次元モデルも、設計した上腕骨外傷プレートの検証に用いられる新たなデータおよびモデルを含んでいなかった。3次元検証モデルの生成後、モデルはそれぞれ、特定のクラスタ(設計個体群からの上腕骨外傷プレートの設計の結果としてのクラスタ)に分類した。検証モデルを分類したクラスタに基づいて、当該クラスタ用に設計した上腕骨外傷プレートを適当な検証3次元上腕骨モデルにフィッティングして、検証3次元上腕骨モデルの外部表面と上腕骨外傷プレートの下面との間の任意の間隔を示す測定結果を算出した。図124は、検証3次元上腕骨モデルにフィッティングした外傷プレートの距離マップであって、骨と外傷プレートとの間の最大距離の領域を示している。外傷プレートの大部分が骨から最小の離隔である一方、低適合の領域は、間隔が0.06~0.09cmの範囲でしかないことが分かる。その結果、この死体研究の結論として、上記システムを用いて上記例示的なプロセスにより設計した外傷プレートは、術中に適用した場合に、外科医が骨プレートを屈曲させたり手動で再成形したりする必要性を排除できる並外れた輪郭適合を有することが判明した。
図131~図138を参照して、このプロセスの別の例示的な事例においては、鎖骨の外傷プレートを作成した。ここでは、たとえば白人個体群内の変動を十分に捕捉した多くの鎖骨から統計アトラスを作成した。統計アトラスには、多くの民族性、多くの患者年齢、およびさまざまな地理的領域からの鎖骨を含んでいてもよいことに留意するものとする。この例示的な開示は、白人個体群のデータセットを意図せず背景としているが、当業者であれば、上記システムおよび方法が白人個体群の統計アトラスのみに限定されないことが理解されよう。図132は、全体的な鎖骨生体構造を示している。
例示的な形態において、鎖骨の統計アトラスは、図134に示すように、各鎖骨の筋肉付着部位に関する位置も規定している。また、骨全体に沿って10%ずつ大きくなる断面輪郭(図138参照)のほか、筋肉付着部位および鎖骨括れにおける断面輪郭(図137参照)を抽出した。そして、各断面輪郭の最大および最小寸法を算出した。また、データセット中の全鎖骨表面にわたる同種点間の大きさおよび方向の差異を解析することによって、3次元表面全体の非対称性を調べた。その結果、鎖骨の非対称性に関する既存の研究、すなわち、左鎖骨が右鎖骨よりも長いが、右鎖骨が左鎖骨よりも厚いことが裏付けられた。ただし、図139に示すように、非対称性のパターンは、男女間で異なる。
また、図133に示すように、鎖骨の正中線は、既存の鎖骨外傷プレートの設計と同様に、対称的な「S」字形状に従わない。このため、本開示では、今日の鎖骨外傷プレートが鎖骨の解剖学的曲率を模倣できていないことが裏付けられる。図135および図136に関して、男性の鎖骨は、あらゆる次元において、筋肉および靱帯付着部位の輪郭が大幅に非対称である(p<.05)。一方、女性の非対称性は、より変化し易い。ただし、後中央骨幹の筋肉付着のない領域は、いずれの性別でも大幅に非対称であった。
統計アトラス全体で抽出した鎖骨の特徴から、(本出願における上述のクラスタリング方法(本明細書に援用)による)クラスタリングの実行によって、異なる各グループが特定の鎖骨外傷プレートとの関連付けにより個体群に最適フィットする異なる相似グループ(すなわち、個体群)を決定した。また、各外傷プレート個体群について、ねじ固定箇所および長さを決定することにより、軟部組織(筋肉付着部)を最適に回避するとともに、ねじが長過ぎたり短過ぎたりすることによる別の骨折またはプレートの緩みを防止した。このプロセスを用いて、図140~図149に示すように、マスカスタマイズ鎖骨外傷プレートに対応する複数の鎖骨外傷プレートファミリを設計した。
患者固有の外傷プレートの作成
図126には、さまざまな構成部品を含むように患者固有の外傷プロセスをグラフィック表示している。これらの構成部品には、術前手術計画、予備成形患者固有外傷プレートの生成、術中誘導による患者固有の外傷プレートの位置決めおよび固定、ならびに任意選択としての患者固有の外傷プレートの術後評価がある。これらの構成部品ならびに各構成部品に関わる例示的なプロセスおよび構造のより詳細な説明については、順次論じる。
図126~図130には、術前手術計画構成部品の例示的なプロセスフローを示している。問題の生体構造に関して、解剖学的データの初期入力を取得する。例示的な説明のみを目的として、鎖骨を骨折または変形生体構造として説明するとともに、鎖骨外傷プレートを患者固有の外傷プレートとして説明する。患者固有の鎖骨外傷プレートを選択または作成するように構成されたソフトウェアパッケージに解剖学的データを入力するが、この解剖学的データは、鎖骨の2次元(2D)画像または3次元(3D)表面描写を含み、たとえば表面モデルまたは点群の形態であってもよい。2D画像が用いられる状況においては、これら2D画像の利用によって、骨折した鎖骨の3D仮想表面描写を構成する。当業者は、生体構造の2D画像を利用して3D表面描写を構成するのに慣れている。したがって、このプロセスの詳細な説明については、簡略化のため省略している。一例として、入力解剖学的データは、X線、コンピュータ断層撮影(CT)、磁気共鳴断層撮影(MRI)、または問題の組織の3D表面描写を生成可能なその他任意の撮像データのうちの1つまたは複数を含んでいてもよい。この解剖学的データ入力の出力は、骨折した鎖骨構成部品の3D仮想表面描写である。
その後、骨折した鎖骨構成部品の3D仮想表面描写を評価して、骨折の位置および形状を識別する。一方、骨構成部品の完全骨折および分離の場合は、骨構成要素の相互位置および形状を識別する。
骨構成部品の完全骨折および分離の状況において、このプロセスおよび関連するソフトウェアは、骨折した鎖骨の3D仮想表面描写の手動再位置決めによってパッチワーク状の鎖骨の構成を可能とする骨折整復プロセスを実行する。このような状況において、ユーザは、骨折した鎖骨の3D仮想表面描写の再位置決めおよび再配向によって、3D仮想表面描写を含む構成部品から組み立てられた鎖骨に似た3Dパッチワーク状鎖骨モデルを作成する。あるいは、このプロセスおよび関連するソフトウェアは、任意選択として鎖骨の3Dテンプレートモデルを用いることにより、骨折した鎖骨の3D仮想表面描写の自動再位置決めおよび再建によって、パッチワーク状鎖骨モデルを構成するようにしてもよい。より具体的に、ソフトウェアは、まず、3D仮想表面描写を含む各骨折骨構成要素(すなわち、骨折の縁部)について、3D仮想表面描写から1つまたは複数の骨折部位を検出し、各骨折部位から輪郭を抽出する。そして、ソフトウェアは、抽出した輪郭を3Dテンプレート鎖骨モデルの輪郭と比較して、これら輪郭を対で適合させるとともに、各骨折部位の適合骨構成要素/骨片を位置特定する。そして、これらの適合した骨構成要素/骨片をグループ化する。適合した骨構成要素/骨片のグループ化の後、ソフトウェアは、グループ化した骨片を3Dテンプレート鎖骨モデルに適合させ、3Dテンプレート鎖骨モデルに関して、すべての骨構成要素/骨片の正しい位置を識別する。その後、適合した骨構成要素/骨片の整復によって、3Dテンプレート鎖骨モデルに似た3Dパッチワーク状鎖骨モデルを構成し、後述の通り、ソフトウェアがこれを利用して、3D再建鎖骨モデルを構成する。
整復後、図7および図127を再び参照して、3Dパッチワーク状鎖骨の使用により、問題の患者の3Dパッチワーク状鎖骨モデルに最も類似する統計アトラスの解剖学的モデル(たとえば、完全骨モデル)を識別する。このステップは、アトラスの最も近い骨の探索として図3に示している。まず、3Dパッチワーク状鎖骨モデルに最も類似する統計アトラスの骨モデルを識別するため、1つまたは複数の相似基準を用いて、3Dパッチワーク状鎖骨モデルを統計アトラスの骨モデルと比較する。この最初の相似基準の結果は、後々の位置合わせステップで「初期推定」として用いられる統計アトラスからの骨モデルの選択である。位置合わせステップでは、アトラス骨モデルと整列した患者固有の再建骨モデルが出力となるように、3Dパッチワーク状鎖骨モデルを選択したアトラス骨モデル(すなわち、初期推定の骨モデル)に位置合わせする。位置合わせステップに続いて、形状が3Dパッチワーク状鎖骨モデルに適合するように、整列した「初期推定」の形状パラメータを最適化する。
形状パラメータ(この場合は統計アトラスによる)の最適化によって、非骨折の骨の領域を用いることにより、再建患者固有骨モデルと3Dパッチワーク状鎖骨モデルとの間の誤差を最小限に抑える。形状パラメータの値を変化させることにより、さまざまな解剖学的形状を表すことができる。このプロセスは、(場合により、反復間の相対的な表面変化または最大許容反復数として測定される)再建形状の収束が実現されるまで繰り返す。
緩和ステップの実行によって、3Dパッチワーク状鎖骨モデルに最もよく適合するように最適化骨をモーフィングする。この例示的な場合と整合して、収束ステップにより出力された3Dパッチワーク状鎖骨モデルからの欠落生体構造をモーフィング3D鎖骨モデルに適用することにより、患者の再建鎖骨の患者固有の3Dモデルを作成する。より具体的には、患者固有の3D鎖骨モデル上に直接、3Dパッチワーク状鎖骨モデル上の表面点を緩和(すなわち、モーフィング)させて、再建形状を患者固有の形状に最もよく適合させる。このステップの出力は、患者の鎖骨の正常/完全な生体構造となるべきものを表す十分に再建された患者固有の3D鎖骨モデルである。
全生体構造再建の後、システムソフトウェアは、整復順序計画プロセスを開始する。この整復順序計画プロセスにおいて、ソフトウェアは、互いに再組み立ておよび取り付けを行う鎖骨構成部品(すなわち、骨折鎖骨片)ならびに順序の手動または自動決定を可能とする。このため、ソフトウェアは、骨構成部品からの鎖骨組み立ての進行の3Dモデルをメモリに記録する。これにより、鎖骨が骨折によって6つの構成部品になっているものと仮定すると、ソフトウェアは、6つの骨折骨構成部品すべての組み立て位置および配向を反映する最終的な3Dモデルに到達するまで、第1および第2の骨折構成部品の組み立てを示す第1の3Dモデルを記録した後、第1、第2、および第3の骨折構成部品の組み立てを示す第2の3Dモデルを記録し、以下同様とすることで、3Dパッチワーク状鎖骨モデルに類似するようにする。
この整復順序決定により、ソフトウェアは、3Dパッチワーク状鎖骨を用いた複数の鎖骨外傷プレートテンプレートのうちの1つからの手動または自動選択を可能とする。より具体的に、鎖骨外傷プレートテンプレートは、統計骨アトラスから取得した所与の個体群と関連付けられたサイズおよび形状パラメータと整合するように一般成形済みの鎖骨外傷プレートの一連の3D仮想表面描写を含む。言い換えると、統計骨アトラスは、サイズ、民族性、年齢、性別、および骨形状を示すその他任意のマーカのうちの1つまたは複数に基づいて分類済みの複数の正常な完全生体構造鎖骨の表面モデルを含む。テンプレート骨プレートに到達する手順の例示的な説明については、図112~図125に関して上述した通りであり、これを本明細書に援用する。自動選択モードにおいて、ソフトウェアは、複数の鎖骨外傷プレートテンプレートの寸法および輪郭を3Dパッチワーク状鎖骨と比較して、3Dパッチワーク状鎖骨に最もよく合うテンプレート(すなわち、骨の生体構造に関する輪郭および形状の類似性)を識別する。
3Dパッチワーク状鎖骨に最もよく合う鎖骨外傷プレートテンプレートを用いることにより、ソフトウェアは、外傷プレートを介した固定部位箇所の手動または自動識別のほか、利用する固定機器(たとえば、手術用ねじ)の方向および長さの決定を可能とする。自動固定部位識別モードにおいて、ソフトウェアは、筋肉および付着箇所のほか、神経位置を捉えることにより、神経または筋肉付着部位の経路における如何なる固定孔の配置も回避する。また、ソフトウェアは、外傷プレートと併用する固定締結具の手動または自動選択を可能とする。このように、ソフトウェアは、鎖骨の骨折構成要素のサイズおよび形状を考慮した締結具、外傷プレートを通って延びる締結具孔の位置および配向、ならびに締結具(たとえば、ねじ)の形状を自動的に選択して、固定強度を向上させるとともに、鎖骨の完全性における不必要な妥協を回避するようにしてもよい。
鎖骨外傷プレートテンプレート、固定孔位置、および固定締結具の選択後、ソフトウェアは、仮想骨プレート配置を実行する。これには、3Dパッチワーク状鎖骨上への鎖骨外傷プレートテンプレートの位置決めおよび鎖骨外傷プレートテンプレートの手動または自動変形を含み、3Dパッチワーク状鎖骨の外部表面輪郭の適合によって、サイズ、長さ、および輪郭寸法を有する患者固有の仮想3D鎖骨外傷プレートを作成する。ソフトウェアは、患者固有の鎖骨外傷プレート寸法を記録して、ラピッドマニュファクチャリングが可能な有形の患者固有鎖骨外傷プレートの生成を可能とするマシンコードにこれらの仮想寸法を変換する。
また、患者固有の鎖骨外傷プレート寸法を用いることにより、ソフトウェアは、骨折した鎖骨の領域内の患者の軟部組織、血管、および神経の位置および箇所に関する解剖学的データを受信して、切開計画を構成する。切開計画は、術前のものであり、骨折した鎖骨の構成部品へのアクセスを向上させると同時に、外科手術の侵襲性を低減することによって、潜在的に回復時間を短縮するとともに術後の付随的な外傷を少なくする1つまたは複数の切開を行う手術方式を提案する。図134は、患者の鎖骨に対する筋肉付着箇所を示すように表面を着色した3Dパッチワーク状鎖骨を示している。結果として、3Dパッチワーク状鎖骨に沿って長手方向に延びるパターン化円は、大部分が筋肉付着のない箇所に向かって配向した固定締結具の位置に対応する。
切開計画の構成後、外科医は、切開計画を精査し、計画の承認に先立って任意の修正を加える。切開計画は、その承認後、術中手術誘導システムにエクスポートされるようになっていてもよい。同様に、切開計画の利用によって、互いに取り付けられた再建鎖骨構成要素の形状を推定する有形の術前鎖骨モデルを構成することにより、患者の正常な鎖骨を模擬するようにしてもよい。そして、この有形鎖骨モデルを用いることにより、鎖骨外傷プレートへのフィッティングを試験するとともに、外科医が術前に要求し得る屈曲によって任意の輪郭修正を施すようにしてもよい。あるいは、有形の鎖骨モデルは、鎖骨構成要素を緩やかに含むことによって、外傷プレートのうちの1つまたは複数を取り付けて鎖骨構成要素を保持することにより、外傷プレートのフィッティングの生体外試験および外傷プレートの任意の生体外修正を外科医が行えるようにすることが必要であってもよい。
図128および図129を参照して、例示的な患者固有の鎖骨外傷プレートは、蛍光透視法により術中に位置決めされるようになっていてもよい。以下、患者の鎖骨または鎖骨構成部品に対する患者固有の鎖骨外傷プレートの取り付けに関して例示的な技術を論じるが、例示的なプロセスは、患者固有ではない外傷プレートの鎖骨への取り付け、より一般的には、任意の外傷プレートの任意の骨または骨折骨構成部品への取り付けにも等しく適用可能であることが了解されるものとする。
図128は、蛍光透視法により患者固有の外傷プレートを術中に位置決めする外傷プレート配置システムの一部として含まれるさまざまなステップを示したプロセスフローであって、基準マーカの配置と併せた予備計画データの利用による患者位置合わせの確立を含む。より具体的に、予備計画データは、外傷プレート配置システムのソフトウェアパッケージにロードするものであり、患者の形状、骨および組織の形状、各外傷プレートの位置、問題の骨または骨構成部品への外傷プレートの固定に用いられる固定機器の種類および位置、ならびに手術箇所および技術に影響するその他任意の関連情報を含んでいてもよい。蛍光透視法に用いる基準マーカは、光学IMU、電磁IMU等を含むが、これらに限定されない(ただし、図128のプロセスフローにおいては、光学マーカを参照し、患者の解剖学的ランドマークに対する既知の位置に位置決めされる)。基準マーカならびに患者の既知の解剖学的位置および寸法を用いることにより、外傷プレート配置システムは、術前座標系に対して患者を位置合わせする。その後、固定された患者の基準枠に対する1つまたは複数の切開箇所を示す術前計画と整合して、外傷プレート配置システムからのフィードバックを外科医に与えるように、基準マーカを空間中で追跡する。外傷プレート配置システムの一部として利用できる例示的なフィードバックシステムには、患者の表面への投射によって各切開の箇所および長さを描く視覚表示を含むが、これに限定されない。
骨折した鎖骨の背景において、鎖骨が別個の骨構成部品で構成されている場合、外傷プレート配置システムは、複数の鎖骨構成要素上に識別印を視覚表示して、骨構成要素の組み立ての順序を示すことも可能である。例示的な形態において、視覚表示には、目に見える各骨構成要素上に表示された色付き数字を含む。色付き数字は、骨構成要素の相互配向および位置によって色が変わる。例示的な形態において、第1の骨構成要素は、外部表面に投射された表示数値「1」によって識別される。この表示数値「1」は、骨の配向および位置に応じて、赤色、黄色、または緑色であってもよい。赤色の数字は、配向および位置が正しくないことを示す。移動に際して、外科医が骨構成要素を正しい方向に動かして術前計画と整合する配置を実現している場合は、この印が黄色に変わる。移動の継続に際して、適正な位置が実現されている場合は、数字が緑色となる。この再位置決めプロセスは、鎖骨構成要素ごとに繰り返す。
骨折した骨の構成要素の位置および配向に関して、この視覚フィードバックを外科医に提供するため、外傷プレート配置システムは、蛍光透視法によって、3D空間の骨構成要素を追跡することにより、骨の位置および配向が術前計画と整合するか否かを識別する。骨構成要素は、その追跡に先立ち、術前データを用いて位置合わせすることにより、骨構成要素の正しい位置および配向に関して、投射表示により実時間更新情報を外科医に提供する。各骨断片の追跡および最終的な鎖骨外傷プレートへの取り付けに際して、システムは、蛍光透視像を用いて外傷プレート配置の進展を確認することにより、プレートの配向および位置のほか、固定機器(たとえば、ねじ)および骨構成要素の配向および位置を確認する。最後に、1つまたは複数の鎖骨外傷プレートを介して骨構成要素が互いに結合された場合、システムは、当該手順が術前計画の目的を満たしており完結可能であることを示す最終印を外科医に表示する。
図130は、蛍光透視法の代わりに超音波を用いて患者固有の外傷プレートを術中に位置決めする外傷プレート配置システムの一部として含まれるさまざまなステップを示したプロセスフロー図である。図128に関する上記説明は、システムが蛍光透視法の代わりに超音波を用いて骨構成要素、外傷プレート、および固定機器を追跡することを除いて、図130の説明に匹敵しており、これを本明細書に援用する。結果として、冗長な説明については、簡略化のため省略している。
外傷プレート配置ガイドの作成
図150を参照して、患者固有の外傷プレート配置ガイドを作成する例示的なプロセスおよびシステムを説明する。当業者であれば、1つまたは複数の位置での骨折によって、互いに分離した骨断片が形成され得ることが分かる。骨を修復する再建手術の一部として、1つまたは複数の外傷プレートを用いることにより、これらの断片を固定配向に保持する。再建手術では、患者固有の解剖学的事実ではなく、元からの知識を用いて、骨を再度つなぎ合わせ用とした。その結果、患者の骨の生体構造が正常から変化したか、骨断片が著しく歪んだか、または、骨断片の数が多かったか、いずれかの限りにおいて、外科医は、従来技術の外傷プレートを使用するとともに、プレートの形状を骨断片に適合させるのではなく、骨断片をプレートの形状に適合させようとする。本プロセスおよびシステムは、外傷プレートを骨に適合させて元の骨形状および配向を複製する外傷プレート配置ガイドおよびカスタマイズ外傷プレートを作成することにより、従来技術の外傷プレート用途を改良する。
例示的なシステムフローは、骨折した生体構造を代表する入力データの受信から始まる。説明のみを目的として、骨折した生体構造には、人間の頭蓋を含む。上記プロセスおよびシステムは、腕、脚、および胴体の骨等、非限定的な他の生体構造/骨にも等しく適用可能であることに留意するものとする。例示的な形態において、生体構造データ入力は、X線、CTスキャン、MRI、または骨のサイズおよび形状を表し得るその他任意の撮像データの形態であってもよい。
入力生体構造データを利用して、骨折した生体構造の3次元仮想モデルを構成する。一例として、入力生体構造データには、骨折した頭蓋のコンピュータ断層撮影スキャンを含んでおり、ソフトウェアによる処理によって、このスキャンを分割するとともに3次元モデルを生成している。当業者は、コンピュータ断層撮影を利用して3次元仮想モデルを構成する方法に慣れている。結果として、このプロセスの態様の詳細な説明については、簡略化のため省略している。
骨折した頭蓋の3次元仮想モデルの生成に続いて、ソフトウェアは、頭蓋の3次元仮想モデルを統計アトラスからのデータと比較することにより、頭蓋が骨折した3次元仮想モデル中の領域を決定する。特に、ソフトウェアは、入力生体構造の表面モデルから抽出された特徴(たとえば、表面粗さ、曲率、形状係数、湾曲、隣接連結度)を利用して、骨折部位の領域を抽出する。そして、これらの骨折部位の外形輪郭を抽出し、一体的に適合させることによって、適合特徴部位を見つけ出す。また、骨折断片をアトラスと適合させて、適合した骨折部位を配置するのに最適な箇所を示すことにより、正常な生体構造を再建する。
骨折した頭蓋の再建3次元仮想モデルをソフトウェアが生成した後は、再建3次元仮想頭蓋モデルの外部上に控え壁を手動および/または自動で位置決めするようにしてもよい。控え壁の自動配置は、控え壁の数を最小限に抑えつつ骨断片の安定性を最大化するようにプログラムされたロジックの結果である。本明細書において、控え壁(buttressおよびその複数形)という用語は、骨断片の相互安定に用いられる任意の支持部を表す。特定の事例においては、手動で控え壁を配置する特徴を利用する場合、外科医等の学識あるユーザによる実際の経験が上記ロジックの補完または代替となる場合がある。いずれにしても、一連の控え壁がソフトウェアにプログラムされており、これによって、ソフトウェアまたはソフトウェアのユーザは、異なる用途に異なる控え壁を選択することができる。同時に、骨折および骨断片の寸法に基づいて、控え壁の長さを手動または自動で操作するようにしてもよい。
再建3次元仮想頭蓋モデル上での控え壁の割り当ておよび配置に続いて、ソフトウェアは、ソフトウェアの次元および各控え壁の輪郭を記録する。この記録には、各控え壁の製造に必要な情報を含む。あるいは、外科医等の学識ある個人が既存の控え壁を取り込んでそれぞれを配置ガイドに適合させるのに役立つ情報を最低でも含む。既存の控え壁を成型する背景において、ソフトウェアは、再建3次元仮想頭蓋モデルの輪郭を抽出することにより、再建3次元頭蓋モデルを示す1つまたは複数の有形モデルを作成するためのコンピュータ支援設計(CAD)命令を生成する。これらのCAD命令は、再建3次元頭蓋モデルを示す1つまたは複数の有形モデルを作成するラピッドプロトタイピングマシンに送られる。適正な解剖学的表面を有形モデルとして再作成することにより、埋め込みおよび患者の頭蓋への固定に先立って、各控え壁を目標箇所で有形モデルに適用して手動で適合可能である。
また、任意の控え壁の位置および長さに基づいて、ソフトウェアは、再建3次元仮想頭蓋モデルの輪郭を抽出することにより、1つまたは複数の患者固有の控え壁配置ガイドの輪郭データを生成する。特に、各控え壁の配置ガイドを生成するようにしてもよい。このように、配置ガイドには、単一の配向で患者の頭蓋の輪郭に適合する表面輪郭を含む。隣接する頭蓋外部表面の輪郭と同様に、再建頭蓋の仮想モデル上で控え壁の位置が既知であるものと仮定すると、ソフトウェアは、これら2つを組み合わせて、患者固有の仮想配置ガイドを作製する。この仮想ガイドは、CAD命令の形態でラピッドプロトタイピングマシンに出力して製造する。
この例示的な実施形態において、製造した患者固有の配置ガイドは、外科医が把持するように構成された細長ハンドルを備える。細長ハンドルの端部からは、ブロックC字状輪郭プレートが延びている。輪郭プレートの下面は、控え壁を位置決めすべき箇所において頭蓋の凸形状に適合するように凹状である。必須ではないが、輪郭プレートの両端部(または、別の部分)は、控え壁に固定されていてもよい。あるいは、輪郭プレートは単に、控え壁を整列させて最終的に頭蓋に固定する作業ウィンドウを提供していてもよい。控え壁を頭蓋に取り付けた後は、輪郭プレートを取り外すようにしてもよい。
カスタマイズ切断および配置ガイド、プレート
図151を参照して、変形、骨折、または不完全な生体構造の再建は、医療提供者が直面している複雑な問題の1つである。異常な生体構造は、出生状況、腫瘍、疾病、または身体傷害の結果である可能性がある。さまざまな病気に対する治療の一部として、医療提供者は、生体構造の再建または構成によって、骨折/粉砕骨折、骨変性、整形外科用インプラント再置換、整形外科用初期埋め込み、および疾病等の非限定的な種々状況に対する治療を容易化するのが好都合であることを見出している場合がある。
本開示は、骨移植片を用いた骨再建および組織再構成のシステムおよび方法を提供する。この再建を実行するため、システムおよび関連する方法では、患者の現在の生体構造画像を利用して、(a)現在の異常な生体構造を代表する第1の3Dモデルおよび(2)患者の再建生体構造を代表する第2のモデルという2つの仮想3Dモデルを構成する。患者の画像(X線、CTスキャン、MRI画像等)を用いて患者の異常な生体構造および再建生体構造の仮想モデルに到達することの詳細な説明については、上記の「全生体構造再建」項を参照する。本システムおよび方法では、骨移植片を取得可能な1つまたは複数の骨(すなわち、ドナー骨)の3D仮想モデルの構成と組み合わせて、「全生体構造再建」項に記載のシステムを構築することにより、上記2つの3D仮想モデルを利用する。以下により詳しく説明する通り、患者の再建された異常な生体構造の3D仮想モデルを解析して、再建に必要な骨移植片の3D仮想モデルを生成する。この3D仮想移植片モデルは、ドナー骨の3D仮想モデルとの比較によって、骨移植片を摘出可能なドナー骨上の1つまたは複数の部位にアクセスする。摘出箇所の決定後、移植骨を集めて再建部位に取り付ける切断ガイドおよび移植片配置ガイドを設計および製造する。
例示的な説明として、本システムおよび方法は、顔面再建の背景において記述するが、ドナー骨には腓骨を含む。当業者であれば、1つまたは複数の骨移植片を利用する任意の再建外科手術に本システムおよび方法を適用可能であることに気付くはずである。さらに、顔面再建および骨ドナーとしての腓骨について論じるが、当業者であれば、例示的なシステムおよび方法を腓骨以外のドナー骨と併用可能であることが了解されるものとする。
再建手術計画および骨移植片を用いた外科手術に使用する例示的なシステムおよび方法について論じる前段階として、上記の「全生体構造再建」項に記載のプロセスにより、患者の異常な生体構造の撮像および患者の異常かつ再建された生体構造の仮想3Dモデルの生成が完了しているものと仮定する。結果として、患者の画像を利用して患者の異常かつ再建された生体構造の両仮想3Dモデルを生成することの詳細な説明については、簡略化のため省略している。
患者の異常かつ再建された生体構造の仮想3Dモデルの作成が完了した後、ソフトウェアは、生体構造を比較して、異なる領域を強調する。特に、仮想3Dモデル間で共通の領域は保持される骨を示しているが、異なる領域は、再建する1つまたは複数の部位を示している。ソフトウェアは、患者の再建生体構造の仮想3Dモデルから、共通していない領域を抽出し、対象の骨移植片の別個の3D仮想モデルとしてこれらの領域を隔離する。外科医等の術前プランナは、仮想3D骨移植片モデルを確認し、骨移植片の摘出に最適と考えられる1つまたは複数の骨に関して判定を下す。
移植片候補として考え得る骨の最初の選定に用いられるロジックに関わらず、従来の方法(X線、CT、MRI等)を用いて、問題の骨を撮像する。また、上記の「全生体構造再建」項に記載のプロセスを用いて、撮像した各骨を分割するとともに、撮像した骨の仮想3Dモデルを作成する。この3Dドナー骨モデルを仮想3D骨移植片モデルと比較して、共通の領域を隔離する。特に、ソフトウェアは、3Dドナー骨モデルの表面輪郭を仮想3D骨移植片モデルの表面輪郭と比較して、共通の領域または類似の曲率を有する領域を識別する。共通または類似の領域がないものと仮定した場合は、別の考え得るドナー骨を解析することにより、プロセスを再開することができる。これに対して、共通または曲率が類似する1つまたは複数の領域がドナー骨に存在する場合は、3Dドナー骨モデル上でこれらの領域を強調する。特に、強調領域は、仮想3D骨移植片モデルの形状を模倣したものである。共通の領域が骨移植片の摘出に適しているとの判定の場合、ソフトウェアは、骨移植片を仮想3Dモデルとして仮想的に摘出し、(ドナー骨に関して固有/一意の輪郭を有する)骨移植片を患者の異常な生体構造の仮想3Dモデルに適用することによって、潜在的なフィッティングおよび再建の一部として摘出する必要があり得る患者の異常な生体構造の任意の領域を確認する。患者の異常な生体構造の仮想3Dモデルに対する摘出骨の仮想3Dモデルの適用によって満足できる再建が得られない状況においては、プロセスを骨選択点で再開するようにしてもよいし、再開によって異なる骨領域を摘出するようにしてもよい。ただし、患者の異常な生体構造の仮想3Dモデルに対する摘出骨の仮想3Dモデルの適用が適当なフィッティングに至るものと仮定すると、システムは、骨移植片の摘出を容易化する治具の設計および患者の残存骨に対する骨移植片の取り付けを進める。
この例示的な実施形態において、システムは、ラピッドプロトタイピングマシン、CNCマシン、または骨移植片切断ガイドおよび骨移植片配置ガイドを製造する類似の機器に必要なマシンコードを生成して出力する。骨移植片切断ガイドおよび骨移植片配置ガイドの製造に必要な出力を生成するため、システムは、患者の異常な生体構造の仮想3Dモデルに適用された摘出骨の仮想3Dモデルを利用する。
特に、摘出骨の仮想3Dモデルは、仮想3D切断ガイドの境界を規定する。さらに、この例示的な背景においては、腓骨の一部を摘出して骨移植片を提供することを意図している。腓骨の適当な部分が摘出されるように、仮想3D切断ガイドは、切断機器(ノコギリ、切断ドリル等)が横切って適当に描かれた骨移植片を作成するウィンドウを具備する。仮想3D切断ガイドは、適当な骨移植片外形を作成するように成形する必要があるのみならず、患者のドナー骨上の切断ガイドの配置が特定されるように成形する必要がある。より具体的には、ドナー骨上の切断ガイドの配置によって、摘出骨が正しい外形形状を含むとともに、正しい輪郭を示すようにする必要がある。このように、仮想3D切断ガイドの下面は、切断ガイドを取り付けるドナー骨の表面の「ネガ」となるように設計する。切断ガイドをドナー骨に固定する例示的な取り付け技術としては、ねじ、ダボ、およびピンが挙げられるが、これらに限定されない。また、これらの取り付け技術等のうちの1つまたは複数に対応するため、仮想3D切断ガイドは、手術用カッターが横切るウィンドウを除いて1つまたは複数の貫通オリフィスを含むように設計する。仮想3D切断ガイドの設計の完了後、システムは、ラピッドプロトタイピングマシン、CNCマシン、または骨移植片切断ガイドを製造する類似の機器に必要なマシンコードを生成して出力した後、実際の切断ガイドを製造する。
切断ガイドのほか、ソフトウェアは、1つまたは複数の骨移植片配置ガイドも設計する。骨移植片配置ガイドは、患者固有であり、患者の生体構造(ドナー骨およびドナー骨を取り付ける残存骨の両者)に適合して、残存骨に対する骨移植片の正しい配置を保証する。例示的な形態において、骨移植片配置ガイドは、下顎骨再建術用に構成されている。骨移植片配置ガイドを設計するため、ソフトウェアは、患者の異常な生体構造の仮想3Dモデルに適用された摘出骨の仮想3Dモデルを利用して、混成モデルを構成する。この混成モデルを用いて、隣接する残存骨に骨移植片が調和する(および、望ましくは骨成長によって接合する)関節を識別する。これらの関節においては、外科医の選好等のさまざまな要因に応じて、システムが骨移植片配置箇所を識別するとともに、各プレートについて、1つまたは複数のガイドを識別することにより、骨移植片および残存骨に対するプレートの正しい配置および固定を容易化する。
カスタマイズ外傷プレートテンプレートおよび配置ガイド
図152には、外傷プレートテンプレーティングのための例示的なシステムおよび方法をフロー図の形態でグラフィック表示している。このシステムおよび方法は、コンピュータおよび関連するソフトウェアを具備するが、一群のテンプレート外傷プレートの中での最適フィッティングを決定する計算を行って、外傷プレートとのフィッティングにより患者の骨形状に適合することが必要となり得る将来的な形状変化を抑制する。例示的な形態において、このシステムでは、患者の骨折した骨の3Dモデルを1つの骨として構成した後、3Dモデルに合うテンプレート外傷プレートを形成して、埋め込み前に外傷プレートの形状を画定する。このように、最終的な外傷プレートの形状は患者固有であり、患者の生体構造に対するより近いフィッティングが可能として、外傷プレートの配置箇所の曖昧さを排除するとともに手術時間を短縮する。このシステムは、日々の臨床環境または外科医のオフィスにおいて、容易に展開可能である。
図152を再び参照して、システムの最初の入力は、骨折した骨を示す任意数の医用画像である。一例として、これらの医用画像は、X線、超音波、CT、およびMRIのうちの1つまたは複数であってもよい。骨折した骨の画像は、人間のオペレータが解析することにより、複数の考え得るプログラムされた骨のうちで骨折した骨を選択する。骨の選択によって、ソフトウェアは、医用画像データを利用することにより、骨折した骨の構成要素の3Dモデルを形成する(図127およびその関連説明に関して上述した通りであり、これを本明細書に援用する)。そして、これらの3D骨モデルを整復する(すなわち、再組み立てによって、1つの骨折していない骨の一部の場合に互いにつながっているように3D骨モデルを配向および配置させるパッチワーク状の骨を形成する)ことにより、統計アトラスからの骨データを用いて3Dパッチワーク状骨モデルを形成する。同様に、3Dパッチワーク状骨モデルとの組み合わせにより、統計アトラスからの骨データも用いて、骨折していない完全な骨モデル上に3Dパッチワーク状骨モデルをモーフィングすることにより、問題の患者の骨の完全な3D骨モデル(非骨折)を生成する(再建骨モデルと称する)。
ソフトウェアは、この再建骨モデルを解析して、支配的な次元に沿う長手方向の曲線(たとえば、正中線曲線)を抽出する一方、支配的な次元に垂直な断面曲線も抽出して、外傷プレートの設計パラメータを抽出する。これらの設計パラメータから、ソフトウェアは、複数のテンプレート外傷プレートのうちで設計パラメータに最も類似するものを算出する。これらの設計パラメータとしては、外傷プレートの長さ、外傷プレートの長手方向曲率、長手方向曲率に垂直な横方向曲率、横方向の長さ、ならびに筋肉付着部位および神経位置との干渉を最小限に抑えると同時に、骨折した骨に対する外傷プレートの適正な取り付けおよび保持を保証する骨締結具の固定箇所が挙げられる。
また、再建骨モデルを利用して、有形の3D骨モデルを生成する。例示的な形態において、ソフトウェアは、仮想再建骨モデルをマシンコードとして出力することにより、加算または減算プロセスでの3D骨モデルのラピッドプロトタイピングを可能とするようにプログラムされている。本開示を目的として、加算プロセスには3D印刷を含み、材料の追加によって、連続層の印刷により積層された場合に最終的な骨モデルを構成する骨モデルの離散層またはスライスを形成することにより、起点となる空白のキャンバスからモデルを作成する。これに対して、減算プロセスでは、固体材料ブロックから始めて、マシンコード(たとえば、CNCコード)を用いることにより、材料を機械的に除去して固体骨モデルに到達する。当業者であれば、有形の骨モデルの製造に任意数のプロセスを利用可能であることが理解されよう。選定するプロセスに応じて、ソフトウェアは、3D仮想モデルをマシンコードに変換して、ラピッドプロトタイピングおよび3D骨モデルの構成を容易化するようにプログラムされている。
3D骨モデルの構成後、テンプレート外傷プレートは、患者の骨折した骨に最も適合するように成形された外傷プレートに関するソフトウェアの選択に基づいて、構成、機械加工、および選択を行うようにしてもよい。その直後に一度、テンプレート外傷プレートを3D骨モデルにフィッティングし、手動屈曲によってさらに改良することにより、外傷プレートを3D骨モデルに適合させる。外傷プレートと骨モデルとの十分な適合の後、外傷プレートは、患者固有と考えられ、殺菌後には、患者への埋め込みの準備ができている。
患者固有の股関節ケージのテンプレーティングおよび配置ガイド
図153には、股関節ケージテンプレーティングおよび配置ガイドのための例示的なシステムおよび方法をフロー図の形態でグラフィック表示している。このシステムおよび方法は、コンピュータおよび関連するソフトウェアを具備するが、一群のテンプレート股関節ケージの中での最適フィッティングを決定する計算を行って、股関節ケージとのフィッティングにより患者の骨形状に適合することが必要となり得る将来的な形状変化を抑制する。例示的な形態において、このシステムでは、患者の股関節の3Dモデルを(骨折または変性の場合、1つの骨として)構成した後、3Dモデルに合うテンプレート股関節ケージを形成して、埋め込み前に股関節ケージの形状を画定する。このように、最終的な股関節ケージの形状および取り付け部位は患者固有であり、患者の生体構造に対するより近いフィッティングが可能として、股関節ケージの配置箇所の曖昧さを排除するとともに手術時間を短縮する。このシステムは、日々の臨床環境または外科医のオフィスにおいて、容易に展開可能である。
図153を再び参照して、システムの最初の入力は、患者の股関節(骨盤の全部または一部)を示す任意数の医用画像である。一例として、これらの医用画像は、X線、超音波、CT、およびMRIのうちの1つまたは複数であってもよい。ソフトウェアは、寛骨の画像を利用することにより、患者の股関節の3D仮想骨モデルを構成する(図1、図7、およびその関連説明に関して上述した通りであり、これを本明細書に援用する)。そして、ソフトウェアは、この3D骨モデルを自動的に標識化する。
ソフトウェアは、統計アトラスからの入力(たとえば、特定のランドマークを含む可能性がある領域)および局所的な幾何解析を利用して、統計アトラスにおける寛骨モデルとの比較により、3D骨モデルの解剖学的ランドマークを算出する。この計算は、各ランドマークに固有である。たとえば、領域のおおよその形状が既知であるとともに、探索しているランドマークの位置が局所的な形状特性に対して既知である。たとえば、寛骨臼の前唇溝点の上縁の位置付けは、統計アトラスにおける前唇溝点の上縁のおおよその位置に基づいて探索を改良することにより達成される。このプロセスは、問題のランドマークごとに繰り返す。
3D骨モデルについての解剖学的ランドマークの自動算出後、ソフトウェアは、骨モデルを解析して、複数のテンプレート股関節ケージのうちで解剖学的ランドマークに最もフィットするものを算出する。また、複数の股関節ケージのうちで患者股関節の解剖学的ランドマークに最もフィットするものを算出することのほか、ソフトウェアは、ケージを患者の生体構造に取り付ける箇所を算出する。図20および図21を再び参照して、その関連する説明を本明細書に援用するが、ソフトウェアは、ケージを患者の生体構造に取り付ける箇所を決定するほか、再置換ケージの有形3D配置ガイドを構成するのに十分なマシンコードの出力に利用可能な仮想3Dガイドを生成するように動作する。
また、患者の股関節の骨モデルを利用して、有形の3D骨モデルを生成する。例示的な形態において、ソフトウェアは、仮想3D骨モデルをマシンコードとして出力することにより、加算または減算プロセスでの有形3D骨モデルのラピッドプロトタイピングを可能とするようにプログラムされている。本開示を目的として、加算プロセスには3D印刷を含み、材料の追加によって、連続層の印刷により積層された場合に最終的な骨モデルを構成する骨モデルの離散層またはスライスを形成することにより、起点となる空白のキャンバスからモデルを作成する。これに対して、減算プロセスでは、固体材料ブロックから始めて、マシンコード(たとえば、CNCコード)を用いることにより、材料を機械的に除去して固体骨モデルに到達する。当業者であれば、有形の骨モデルの製造に任意数のプロセスを利用可能であることが理解されよう。選定するプロセスに応じて、ソフトウェアは、3D仮想モデルをマシンコードに変換して、ラピッドプロトタイピングおよび3D骨モデルの構成を容易化するようにプログラムされている。
3D骨モデルの構成後、テンプレートケージは、患者の股関節に最も適合するように成形されたケージに関するソフトウェアの選択に基づいて、構成、機械加工、および選択を行うようにしてもよい。その直後に一度、テンプレートケージを3D骨モデルにフィッティングし、手動屈曲によってさらに改良することにより、ケージを3D骨モデルに適合させる。ケージと骨モデルとの十分な適合の後、ケージは、患者固有と考えられ、殺菌後には、患者への埋め込みの準備ができている。
IMU運動追跡
図154には、コンピュータおよび関連するソフトウェアを利用するIMUを用いて骨および軟部組織の運動を追跡する例示的なシステムおよびプロセスの概要を示している。たとえば、この運動追跡は、術前手術計画に使用する患者の運動学に関する有用な情報を提供可能である。例示的な説明として、本システムおよび方法は、骨および軟部組織を統合した3D仮想モデルによる骨運動の追跡および結果としての軟部組織運動の取得の背景において記述する。当業者であれば、任意の骨、軟部組織、または運動追跡の試みに本システムおよび方法を適用可能であることに気付くはずである。さらに、膝関節または脊髄の背景における骨および軟部組織の運動追跡について論じるが、当業者であれば、例示的なシステムおよび方法を膝以外の関節および椎骨以外の骨にも適用可能であることが了解されるものとする。
骨および軟部組織の運動追跡に使用する例示的なシステムおよび方法について論じる前段階として、上記の「全生体構造再建」項に記載のプロセス(本明細書に援用)により、患者の(追跡する)生体構造の撮像(X線、CT、MRI、および超音波を含むが、これらに限定されない)および患者の生体構造の仮想3Dモデルのソフトウェアによる生成が完了しているものと仮定する。結果として、患者の画像を利用して患者の生体構造の仮想3Dモデルを生成することの詳細な説明については、簡略化のため省略している。
軟部組織(たとえば、靱帯、腱等)の画像は、上記撮像方法に基づいて利用可能な場合、骨の分割によって患者の生体構造の仮想3Dモデルを形成するのであれば、ソフトウェアによる包含および分割も行う。上記撮像方法による軟部組織画像が利用不可能な場合は、骨の3D仮想モデルが患者固有軟部組織追加プロセスへと移行する。特に、3D骨モデルの各骨形状に対して軟部組織の位置を推定するには、統計アトラスを利用するようにしてもよい。
3D骨モデル(軟部組織がモデルの一部であるか否かに関わらず)には、ソフトウェアが実行する自動標識化プロセスを適用する。本明細書において上述した通り、自動標識化プロセスでは、統計アトラスからの入力(たとえば、特定のランドマークを含む可能性がある領域)および局所的な幾何解析を利用して、統計アトラスにおける各生体構造事例の解剖学的ランドマークを算出する。軟部組織が3D骨モデルから欠落した事例においては、3D骨モデルについてソフトウェアにより算出した解剖学的ランドマークを利用して、軟部組織の最も可能性の高い位置のほか、軟部組織の最も可能性の高い寸法を提供するが、これら両者を3D骨モデルに組み込んで、疑似的に患者固有の3D骨・軟部組織モデルを作成する。いずれの事例においても、解剖学的ランドマークおよび3D骨・軟部組織モデルは、ソフトウェアのユーザインターフェース(すなわち、ソフトウェアインターフェース)を用いて確認および操作可能である。
ソフトウェアインターフェースは、仮想骨・軟部組織モデルを含む患者の骨および軟部組織の相対的な動的位置に関する情報をユーザに提供する視覚表示に通信可能に結合されている。患者の骨および軟部組織の再位置決めに際して実時間で更新されるこの動的な視覚情報を提供するため、ソフトウェアインターフェースは、任意数のIMU1002にも通信可能に結合されている。これらのIMUは、仮想3Dモデルの骨に対応する1つまたは複数の骨に対して剛体的に固定され、骨の相対的な回転を追跡する。一例として、骨には、膝関節の背景における脛骨および大腿骨を含んでいてもよいし、脊髄の背景における1つまたは複数の椎骨(たとえば、L1およびL5椎骨)を含んでいてもよい。骨の移動を追跡するため、付加的な追跡センサ(超高帯域等)を各IMUと関連付けることにより(または、単一の機器の一部として組み合わせることにより)、取り付け対象の対応する骨に対して各IMUを位置合わせする。このように、3D空間で追跡センサを動的に追跡してIMUに対する追跡センサの位置および対応する骨に取り付けられた各IMUの位置を把握することにより、システムは、まず、問題の骨の動的位置に対して、追跡センサの動的な運動を相関させることができる。IMUから有意なデータを得るには、仮想3D骨・軟部組織モデルに対して患者の骨を位置合わせする必要がある。これを達成するため、仮想3D骨モデルの位置に対応する所定位置において、患者の関節または骨を静止状態に保持する。たとえば、大腿骨および脛骨が長手方向に整列した位置を3D仮想骨モデルが具現化するのと同時に、下腿が上腿に沿うように患者の大腿骨および脛骨が直線状になっていてもよい。同様に、大腿骨および脛骨が互いに垂直となるように3D仮想骨・軟部組織モデルを配向させるのと同時に、患者の大腿骨および脛骨が互いに垂直に配向して、この位置で保持されるようになっていてもよい。UWB追跡センサを用いることによって、IMUと同様に、仮想3D骨・軟部組織モデルに対して骨の相互位置を位置合わせする。上記開示に従って、本明細書に開示の例示的な校正器具1000を用いることにより、位置合わせに先立ってIMUが校正されることに留意するものとする。
たとえば、3D仮想骨・軟部組織モデルが大腿骨、脛骨、および膝関節の関連する軟部組織を含む膝関節の背景において、3D仮想モデルは、大腿骨および脛骨が共通軸に沿って延びる位置(すなわち、共通軸姿勢)を有していてもよい。この共通軸姿勢に患者を位置合わせするため、患者は、IMUおよび追跡センサ(脛骨および大腿骨に対して剛体的に固定)を装着するとともに、大腿骨および脛骨が共通軸に沿って整列する直線脚位置を取る。そして、IMUおよびセンサの位置が相対的に不変であることがソフトウェアインターフェースにより確認され、位置合わせ姿勢が取られていることをソフトウェアインターフェースのユーザが示すまで、この位置を保持する。このプロセスは、他の姿勢にも繰り返して、3D仮想モデルをIMUおよび追跡センサに対して位置合わせするようにしてもよい。当業者であれば、位置合わせ姿勢の数が増えるとともに、位置合わせの精度が一般的に高くなることが理解されよう。
図175および図176を参照して、3D仮想モデルが脊髄の特定の椎骨を含む脊髄の背景においては、テーブル上に横になった患者または直立する患者の場合、椎骨が共通軸の沿って延びる位置(すなわち、共通軸姿勢)を3D仮想モデルが有していてもよい。この共通軸姿勢に患者を位置合わせするため、患者は、図175に示すようにL1およびL5椎骨に対して剛体的に適所に固定されたIMU1002および他の追跡センサを装着するとともに、3D仮想モデルの中立直立脊髄位置と相関する中立直立脊髄位置を取る。そして、IMUおよび追跡センサの位置が相対的に不変であることがソフトウェアインターフェースにより確認され、位置合わせ姿勢が取られていることをソフトウェアインターフェースのユーザが示すまで、この位置を保持する。このプロセスは、他の姿勢にも繰り返して、3D仮想モデルをIMUおよび追跡センサに対して位置合わせするようにしてもよい。当業者であれば、位置合わせ姿勢の数が増えるとともに、位置合わせの精度が一般的に高くなることが理解されよう。
位置合わせ後、患者の生体構造を3D空間で移動させ、IMUおよび追跡センサを用いて動的に追跡することにより、骨および軟部組織の動きが3D仮想モデルの動きによって視覚表示上にグラフィック表示されるようにしてもよい(脊髄の背景における図176を参照)。患者が移動する間、ソフトウェアは、IMUおよび/または追跡センサから出力を読み出して処理することにより、(たとえば、靱帯長、関節姿勢、および関節表面接触面積を記録しつつ)視覚表示に示されている3Dモデルの動的なグラフィック変化に出力を変換する。図177に示すように、2つ以上のIMUを利用して患者の生体構造(たとえば、骨)を追跡する場合、von Mises-Fisher密度アルゴリズムとともにシーケンシャルモンテカルロ法(SMC)を利用することにより、IMUのジャイロスコープ、加速度計、および磁力計からの入力に基づいてIMU1002の位置の変化を算出するように各IMUプロセッサがプログラムされていることから、ソフトウェアインターフェースは、本明細書において上述した通り、第2のIMUに対する第1のIMUの相対的な配向を決定する。SMC法に関する上記開示内容については、本明細書に援用する。
腰部が健康な患者および腰部が病気の患者の運動プロファイルは、大幅に異なり、面外運動は病気の患者の場合により大きい。具体的に、健康であるか病気であるかについては、IMUを用いて、軸方向回転(AR:Axial Rotation)、側屈(LB:Lateral Bending)、および屈伸(FE:Flexion-Extension)という3つの活動を患者に行わせることにより区別することができる。これら規定の運動それぞれの係数は、以下のように算出される。
ここで、A
Mは、Cを算出する運動Mにおける角運動の絶対値の合計を表す。図178は、二重のIMUを用いて測定した健康な患者対病気の患者の応答を示している。IMUを用いることにより、この例示的なシステムでは、より高価で煩わしい追跡システムを要することなく、患者の運動学的解析および定量的評価が可能である。
図155および図174は、ソフトウェアインターフェースに対して動作可能に結合された例示的な視覚表示(すなわち、ユーザインターフェース)を示している。図155の例示的な形態に示すように、脛骨近位部と調和した大腿骨遠位部が表示されている(また、疑似的な腓骨近位部も表示されている)。この視覚表示は、ソフトウェアインターフェースの動的な更新を反映することにより、患者の上腿に対する下腿の再位置決めに際した各骨の位置の変化の様子を実時間で示している。また、図174の背景において、ソフトウェアは、運動学的データに基づいて、脛骨近位部上の予測負荷分散を算出することができる。言い換えると、膝関節の背景において、ソフトウェアは、大腿骨遠位部および脛骨近位部の動きを追跡するとともに、膝関節の運動範囲を通って大腿骨遠位部が脛骨表面の特定の部分に接触する頻度を記録する。大腿骨および脛骨の領域間の接触頻度に基づいて、ソフトウェアは、接触分布を反映した色勾配を生成することによって、赤色が濃い領域の接触頻度が最大である一方、青色領域が最小の接触頻度であり、赤色と青色との間の色の階調(橙色、黄色、緑色、および水色を含む)が最大接触頻度と最小接触頻度との間の領域を示すよう動作する。また、別の例として、ソフトウェアインターフェースは、図160~図162に示すように、軟部組織の変形箇所のほか、この運動範囲を通る追跡解剖軸を強調する。
たとえば、図156~図158に示すように、ソフトウェアは、統計骨アトラスに格納された軟部組織付着部位の位置を利用して付着部位を概算するとともに、追跡骨(この場合は大腿骨および脛骨)の運動学的移動に基づいて、軟部組織データを仮想モデルの一部として包含する。より具体的に、ソフトウェアインターフェースは、運動学的データベースおよび解剖学的データベース(たとえば、統計骨アトラス)に通信可能に結合されている。過去に相関させた(骨相互の運動学的運動を軟部組織付着部位の位置と結び付けた)2つのデータベースからのデータにより、ソフトウェアは、解剖学的データおよび運動学的データを同時に表示することができる。したがって、ソフトウェアは、図159に示すように、靱帯の構成または再建機能を含むように動作するため、靱帯が骨に結合されたように表示可能である。同様に、ソフトウェアインターフェースは、骨および靱帯モデルの運動を追跡して記録することにより、図160に示すように、患者の骨が時間の経過とともに運動範囲を通って移動した場合の靱帯の動的な伸張の様子を示す。この運動範囲のデータによれば、蛍光透視法と比較して、より鮮明な画像が提供されるとともに、患者に対する有害な放射線が回避される。
図164~図172を参照して、動的に移動する3D仮想骨・軟部組織モデルの視角描写は特に、診断および術前計画を行う臨床医に適用可能である。たとえば、臨床医は、引き出し試験等のさまざまな試験を膝関節に行って、運動範囲全体での骨および軟部組織の動きを確認するようにしてもよい。この運動追跡情報は、たとえば手術計画インターフェースへのインポートによって、運動学的データから得られた靱帯長に違反し得る切除計画を制限するようにしてもよい。また、運動学的データは、さまざまな膝試験の実時間定量化(たとえば、オックスフォード膝スコア)または統計的パターン認識もしくは機械学習技術を用いた新規の定量化可能な膝スコアリングシステムの作成に利用するようにしてもよい。要するに、臨床医試験は、蛍光透視法等の代替手段がより高コストかつ患者の健康に有害となり得る場合に、より正確な術前および術後評価に利用するようにしてもよい。
図173には、例示的なIMUホルスタを示している。ホルスタは、一対のラチェットストラップに対して固定的に取り付けられている。ラチェットストラップは、大腿骨遠位部等の問題の生体構造を束縛するとともに、締め付けによって、問題の生体構造に対するホルスタの大幅な再位置決めを抑制するように構成されている。また、ホルスタは、IMUパッケージを受容するようにサイズ指定されたIMUパッケージウェルを具備する。ウェルは、IMUパッケージが内部に位置決めされると、再位置決め可能なロックがIMUパッケージの相対端部と係合した場合のホルスタに対するIMUパッケージの大幅な移動を無効化するように寸法規定されている。このように、IMUパッケージは、ロックの操作によって、ホルスタに対する固定またはホルスタからの取り外しが可能である。
例示的な形態において、IMUパッケージは、電源オン/オフスイッチのほか、少なくとも1つのIMU1002および関連する電源、IMUプロセッサ、ならびに無線送信機を具備する。このように、IMUパッケージは、使用に際して患者の骨を追跡する場合にホルスタに結合し、その後、ホルスタから取り外し可能な自己包含品である。再利用および殺菌との関連で、IMUホルスタは、再利用可能であってもよいし、使い捨てであってもよいが、IMUパッケージは再利用を意図している。その場合も、特定に事例においては、IMUパッケージを使い捨てとする方が経済的となる可能性がある。
術前および術後評価のほか、本システムおよび方法は、術中評価に有用となり得る。患者固有の切除計画の場合は、計画および患者の骨データからカスタム切断ガイドを作成する。
TKA用のIMUを用いた手術ナビゲーション
図179には、1つまたは複数の慣性測定ユニット(IMU)を用いて完全膝形成(TKA)術中に脛骨構成要素を正確に位置決めする手術ナビゲーションを容易化する別の例示的なシステムおよびプロセスを示している。患者の画像(X線、CT、MRI等を問わず)を利用するとともに、分割または位置合わせによって、患者の生体構造の仮想テンプレートならびに適当なインプラントサイズ、形状、および配置に到達する最初のステップは、図87、図88、図90~図92を参照して上述したものに匹敵する。若干異なるのは、仮想テンプレーティングモジュールの下流で利用するモジュールおよびプロセスである。
仮想テンプレーティングモジュールの下流には、初期化モデル生成モジュールがある。上述の治具生成モジュールと同様に、このモジュールについても、テンプレートデータおよび関連する計画パラメータを受信する(すなわち、患者の残存脛骨に対して、患者固有の脛骨インプラントの形状および配置が既知であるほか、患者の残存大腿骨に対して、患者固有の大腿骨インプラントの形状および配置が既知である)。この患者固有の情報を用いて、初期化モデル生成モジュールは、患者の生来の大腿骨遠位部に関する初期化機器の3D仮想モデルおよび脛骨近位部に関する初期化機器の3D仮想モデルを製造する。言い換えると、有形の初期化機器が患者の大腿骨遠位部に対して正確に適合するように、患者の大腿骨遠位部の特定の解剖学的表面の「ネガ」として大腿骨初期化機器の3Dモデルを作成する。同様に、単一の箇所および単一の配向のみで、有形の初期化機器が患者の残存脛骨に対して正確に適合するように、患者の脛骨近位部の解剖学的表面の「ネガ」として脛骨初期化機器の3Dモデルを作成する。また、これら初期化機器の生成のほか、初期化モデル生成モジュールは、ラピッドプロトタイピングマシン、CNCマシン、または有形の大腿骨初期化機器および脛骨初期化機器を製造する類似機器に必要なマシンコードを生成する。有形の大腿骨初期化機器および脛骨初期化機器は、製造して、少なくとも1つのIMU1002を有するように構成された手術ナビゲーション器具との取り付け(または、同時もしくは一体形成)または統合を行う。
各IMU1002は、配向および移動データを報告可能であり、1つまたは複数の手術器具との組み合わせ(たとえば、取り付け)によって、TKA術中に大腿骨構成要素および脛骨構成要素を配置するように手術ナビゲーションを支援する。各IMU1002は、その現在の位置および配向の計算を可能とする相対速度および時間を示す当該IMUからの出力データを受信するソフトウェアシステムに通信可能に結合(有線または無線)されるか、または、当該IMUと関連付けられた手術器具の位置および配向(以下により詳しく論じる)を算出して送信する。この例示的な説明において、各IMU1002は、単一の回路基板への組み込みまたは1つもしくは複数のセンサ(たとえば、ジャイロスコープ、加速度計、磁力計)の別個の基板での構成が可能な3つのジャイロスコープ、3つの加速度計、および3つのホール効果磁力計(3つ一組の3軸ジャイロスコープ、加速度計、磁力計)を含み、互いに垂直な3つの方向(たとえば、X、Y、Z方向)に関するデータを出力する。このように、各IMU1002は、3つのジャイロスコープ、3つの加速度計、および3つのホール効果磁力計から21個の電圧または数値出力を生成するように動作する。例示的な形態において、各IMU1002は、センサ基板および処理基板を具備し、センサ基板は、3つの加速度計、3つのジャイロセンサ、および3つの磁力計から成る統合検知モジュール(LSM9DS、ST-Microelectronics)と、3つの加速度計および3つの磁力計から成る2つの統合検知モジュール(LSM303、ST-Microelectronics)とを具備する。特に、IMU1002はそれぞれ、ピッチ(上下)、ヨー(左右)、およびロール(時計回りまたは反時計周りの回転)という少なくとも3つの軸について、空間の回転方向の変化を測定する角運動量センサを具備する。より具体的に、統合検知モジュールを構成する各磁力計は、回路基板上の異なる箇所に位置決めされ、印加磁界に比例する電圧を出力するとともに、3次元座標系における3つの方向それぞれについて、ある空間点での磁界の極性方向を検知するように割り当てられている。たとえば、第1の磁力計は、印加磁界に比例する電圧ならびに第1の箇所におけるX方向、Y方向、およびZ方向の磁界の極性方向を出力する。一方、第2の磁力計は、印加磁界に比例する電圧ならびに第2の箇所におけるX方向、Y方向、およびZ方向の磁界の極性方向を出力し、第3の磁力計は、印加磁界に比例する電圧ならびに第3の箇所におけるX方向、Y方向、およびZ方向の磁界の極性方向を出力する。これら3組の磁力計を用いることにより、局所磁界の変動の検出に加えて、IMUの進行配向を決定するようにしてもよい。各磁力計は、磁界を基準として用い、磁北からの配向逸脱を決定する。ただし、局所磁界は、鉄鋼または磁性材料によって歪む可能性があり、一般的には硬化および軟化鉄歪みと称する。軟化鉄歪みの例は、炭素鋼、ステンレス鋼等の透磁率が低い材料である。硬化鉄歪みは、永久磁石が原因となる。これらの歪みによって、非一様場が形成され(図182参照)、磁力計出力の処理および進行配向の決定に用いられるアルゴリズムの精度に影響が及ぶ。その結果、以下により詳しく論じる通り、校正アルゴリズムを利用して磁力計を校正することにより、検出磁界における均一性を回復する。各IMU1002は、CR2032コイン電池バッテリおよび200mAh充電式Liイオンバッテリ等の非限定的な交換式または充電式エネルギー貯蔵装置によって給電するようにしてもよい。
IMU1002の統合検知モジュールは、設定可能な信号調整回路と、センサの数値出力を生成するアナログ・デジタル変換器(ADC)とを具備していてもよい。IMU1002は、電圧出力を備えたセンサを使用するようにしてもよく、外部信号調整回路は、多チャンネル24ビットアナログ・デジタル変換器(ADC)(ADS1258、Texas Instruments)の入力範囲にセンサ出力を調整するように構成されたオフセット増幅器であってもよい。さらに、IMU1002は、マイクロコントローラおよび無線送信モジュールを含む統合処理モジュール(CC2541、Texas Instruments)を具備する。あるいは、IMU1002は、独立した低電力マイクロコントローラ(MSP430F2274、Texas Instruments)をプロセッサとして使用するとともに、小型の無線送信モジュール(A2500R24A、Anaren)を通信に使用するようにしてもよい。プロセッサは、各IMU1002の一部として統合されていてもよいし、各IMUから分離される一方、当該IMUに通信可能に結合されていてもよい。このプロセッサは、Bluetooth(登録商標)対応であり、ジャイロスコープ、加速度計、および磁力計に対する有線または無線通信を提供するほか、信号受信機との間に有線または無線通信を提供するようにしてもよい。
各IMU1002は、信号受信機に通信可能に結合されているが、これは、所定の機器識別番号を用いて、複数のIMUからの受信データを処理する。データレートは、IMUが1つの場合に約100Hzであり、共有ネットワークにつながるIMUの増加に伴って低下する。信号受信機のソフトウェアは、IMU1002から実時間で信号を受信し、受信IMUデータに基づいて、IMUの現在位置を連続的に算出する。具体的には、IMUからの加速度測定出力を時間に関して積分することにより、3つの軸それぞれにおけるIMUの現在の速度を算出する。各軸について算出した速度を時間で積分することにより、現在位置を算出する。ただし、有用な位置データを得るには、各IMUの校正を含む基準枠を確立する必要がある。
手術ナビゲーションにおけるIMU1002の利用に先立ち、本明細書に上述した校正の開示によってIMUを校正するが、結果として、この開示を本明細書に援用する。さらに、各IMUプロセッサは、von Mises-Fisher密度アルゴリズムとともにシーケンシャルモンテカルロ法(SMC)を利用することにより、IMUのジャイロスコープ、加速度計、および磁力計からの入力に基づいてIMU1002の位置の変化を算出するようにプログラムされている。
校正に続いて、図179に示すように、問題の生体構造に対してIMU1002を位置合わせするようにしてもよい。この場合、IMUは、脛骨近位部および大腿骨遠位部に対して位置合わせする。IMU1002を脛骨近位部に対して位置合わせするには、単一の位置および配向のみで脛骨近位部の一部の外部に適合する内部表面を有する脛骨近位部位置決め器具に第1のIMUを取り付ける。脛骨近位部位置決め器具は、この一意の位置および配向で位置決めしたら、例示的な形態では手術用ねじを用いて、脛骨近位部に取り付ける。切除した脛骨近位部上に位置決めされた回転ナビゲーション器具には、第2のIMUを固定的に取り付ける。切除した患者の脛骨近位部上で回転ナビゲーション器具が正しく配向するとともに回転方向に位置決めされた場合は、第1のIMUに対する第2のIMU1002の配向が既知である。第1のIMUがその正しい位置にある旨をオペレータがソフトウェアシステムに示した後、ソフトウェアは、両IMUからの出力を用いて、第2のIMUの位置を確立する。この第2のIMUの位置は、過去に決定された手術計画との比較によって、手術計画に対する回転ナビゲーション器具の配向および回転方向の整列が正しいか否かを判定する。正しい場合は、回転ナビゲーション器具を利用して、脛骨近位部に1つまたは複数の孔を開けた後、TKAの永久脛骨構成要素を整列させる。回転方向の整列が正しくない場合は、ソフトウェアおよび視覚表示によって、脛骨近位部に対するナビゲーション器具の適正な手術ナビゲーションを容易化するフィードバックを外科医に提供する。
例示的な形態において、ソフトウェアプログラムは、患者の脛骨近位部の仮想モデルおよび回転ナビゲーション器具の仮想モデル(患者の脛骨の仮想モデルは、仮想テンプレーティングステップによって既に完了しており、回転ナビゲーション器具の仮想モデルは、利用可能な特定の回転ナビゲーション器具用のシステムに対して過去にロード済みである)を表示する外科医用のグラフィカルユーザインターフェースを提供するとともに、位置および配向情報を外科医に提供するグラフィカルユーザインターフェースによって、脛骨および回転ナビゲーション器具の配向を実時間で更新する。本システムは、グラフィカルユーザインターフェースを使用するのではなく、回転ナビゲーション器具が正しく配向しているか否かと、正しく配向していない場合に、術前計画と整合して回転ナビゲーション器具を正しく配向させるのにナビゲーション器具の再位置決めが必要な方向とを外科医に示す表示灯を有する手術器具を具備していてもよい。回転ナビゲーション器具の配向および位置の実現後、外科医は、TKAの脛骨近位部構成要素の埋め込みに備えて、1つまたは複数の孔を大腿骨近位部に開けるようにしてもよい。また、類似の位置合わせプロセスと併せて、類似の回転ナビゲーション器具およびIMU集合をソフトウェアシステムと併用することにより、TKA中の大腿骨遠位部構成要素の配置を支援するようにしてもよい。
当業者は、従来の下顎骨プレートに慣れているため、下顎骨プレートの一般設計の詳細な説明については、簡略化のため省略している。従来のシステムおよび方法と異なり、本システムおよび方法が実現していることは、残存骨および骨移植片の両者の形状を捉える患者固有の骨プレートおよび配置ガイドの形成である。特に、(自動または手動で)識別した各骨プレートの位置について、このシステムでは、仮想3D骨プレートおよび関連する配置ガイドを設計している。そして、各仮想3D骨プレートおよびガイドモデルを(骨移植片および患者の残存骨をそれぞれの再建箇所に含む)混成3Dモデルに対して重ね合わせることにより、各仮想3D骨プレートおよびガイドモデルの下面が下層の骨のネガ(骨移植片を含むか残存骨を含むかに関わらず)となるようにしている。このように、仮想3D骨プレートおよびガイドモデルは、骨プレートの適正な配置ならびに骨プレート、骨移植片、および残存骨間の対応する係合を保証するように一体となって作用する。骨プレートを骨移植片および残存骨に固定する例示的な取り付け技術としては、ねじ、ダボ、およびピンが挙げられるが、これらに限定されない。また、これらの取り付け技術等のうちの1つまたは複数に対応するため、各仮想3D骨プレートおよび配置ガイドは、1つまたは複数の貫通オリフィスを含む。各仮想3D骨プレートおよびガイドの設計の完了後、システムは、ラピッドプロトタイピングマシン、CNCマシン、または各3D骨プレートおよびガイドを製造する類似の機器に必要なマシンコードを生成して出力した後、実際の骨プレートおよびガイドを製造する。
UWB・IMU混成型追跡システム
図189~図212を参照することにより、例示的な混成型ナビゲーション・追跡システムについて開示する。この例示的な混成型システムは、超広帯域無線(UWB)および慣性測定ユニット(IMU)を利用するとともに、少なくとも1つの中央ユニット(すなわち、コアユニット)および1つの周辺ユニット(すなわち、サテライトユニット)を備える。例示的な形態において、各中央ユニットは、少なくとも1つのマイクロコンピュータ、少なくとも1つの3軸加速度計、少なくとも1つの3軸ジャイロスコープ、少なくとも3つの3軸磁力計、少なくとも1つの通信モジュール、少なくとも1つのUWB送受信機、少なくとも1つのマルチプレクサ、および少なくとも4つのUWBアンテナを備える(図189参照)。また、例示的な形態において、各周辺ユニットは、少なくとも1つのマイクロコンピュータ、少なくとも1つの3軸加速度計、少なくとも1つの3軸ジャイロスコープ、少なくとも3つの3軸磁力計、少なくとも1つの通信モジュール、少なくとも1つのUWB送受信機、少なくとも1つのマルチプレクサ、および少なくとも4つのUWBアンテナを備える。
図190Aおよび図190Bに示すように、混成型UWB・IMU手術ナビゲーションシステムを利用するこの例示的なシステムは、中央ユニットを位置基準として使用するとともに、周辺ユニットを用いて、手術器具の相対的な移動および配向をナビゲートする。
UWBナビゲーションシステムを用いて高精度な手術ナビゲーションを行う重要な側面の1つとして、送信機および受信機でのアンテナ位相中心変動を捉えることが挙げられる。パルスに含まれるすべての周波数がUWBアンテナの同じ点から放射されるのが理想的であり、これによれば、位相中心が固定されることになる。特に、位相中心は、周波数および方向の両者によって変動する。UWBアンテナの位相中心は、到達角度の変動に応じて、最大3センチメートルだけ変動する可能性がある。
アンテナ位相中心誤差を軽減するため、各UWBアンテナは、動作周波数帯の全体にわたって、考え得るすべての到達角度で位相中心が精密に特性化されるものとする。位相中心の特性化および軽減がGPSシステムにおいて定期的に実行されることにより、位置精度が向上する。UWBタグおよびアンカーは、モノポール、ダイポール、スパイラルスロット、およびビバルディ等の多様なUWBアンテナを利用可能である。
図153および図154は、システム動作中に位相中心バイアスを後で除去可能とするためのUWBアンテナ位相中心の3D特性化方法の概要を示している。図191に示すように、UWBアンテナを無響室に配置して、位相中心が指向性の影響を受ける程度を時間領域測定に基づいて定量化する。同じUWBアンテナのうちの2つを向かい合わせにして、1.5メートルの距離だけ離す。受信アンテナは、算出した「見掛けの位相中心」周りに、5°のステップで-45°から45°まで回転させる。見掛けの位相中心は、-45°から45°まで回転するUWB受信アンテナ上で、光学追跡プローブにより追跡される。光学系は、ミリメートル未満の精度の地上検証基準フレームを提供する。光学系によるこれらの基準点を用いて、実験中に実際の回転中心を計算する。これにより、図191に示すように、受信アンテナが回転して見掛けの位相中心の物理的な移動から分離されると、実際の位相中心が変化し得る。図192は、UWBビバルディアンテナについて測定した垂直および水平方向(E面およびH面)の位相中心誤差の一例を示している。図192に示すように、測定した位相中心変動対回転角度は、到達角度の変動に応じて、1~2センチメートルより大きな誤差が生じ得ることを示している。
このプロセスを用いることにより、UWBナビゲーションシステムに用いられる各UWBアンテナ設計(たとえば、モノポール、スパイラルスロット)について、UWBアンテナ位相中心変動を特性化する。考え得るすべての到達角度について、UWBアンテナ位相中心が完全に3D特性化された場合は、各タグの算出した3D位置を用いて各タグの位相中心バイアスを差し引くことにより、システムから位相中心誤差を取り除くことができる。
位相中心バイアスを取り除く別の手法では、アンテナを電動ジンバルに対して剛体的に取り付けるが、デジタルゴニオメータまたは慣性測定ユニットによって、角度フィードバックをモータの制御システムに与えることにより、アンテナをその最適位置にて位置決めおよび配向可能である。
図193に示すように、複数のアンテナを単一の送受信機に接続することによって、同じUWBユニット内に複数のアンカーまたはタグを生成可能である。中央ユニットおよび周辺ユニットの両者のUWBアンテナアレイは、アンテナのうちの1つがその他3つと同じ平面上とならないことを条件に、任意の構成で配置可能である。たとえば、四面体構成であれば、この条件を満たすことになる(図189参照)。
中央ユニットのUWBアンテナアレイは、システムのアンカーとして機能する。たとえば、四面体構成であれば、4つのアンテナが単一のUWB送受信機に接続されることになる。これにより、中央ユニットに4つのアンカーが形成される。単一のクロックおよび単一の送受信機でUWBパルスを複数のアンテナに供給する場合は、この構成によって、ユニット中のすべてのアンカーをクロック同期させることができる。この構成により、アンカーの設置の柔軟性を大幅に向上可能となるほか、ユニットの校正手順を容易にすることができる。短距離の位置特定用途においては、位置特定用の適切なアンカーを設けるのに単一の中央システムで十分である。大きな領域の位置特定用途においては、複数の中央システムを使用可能である。中央ユニットのクロックは、有線または無線方法によって、動作中に同期させる。
図193には、シリコン/ゲルマニウムモノリシックマイクロ波集積回路(MMIC)を用いたUWB送信機を示しているが、シュミットトリガがカレントミラーを駆動することにより生成された電流スパイクによって、交差結合した発振器コアが過渡的にオンされる。図194は、UWBアンテナの給電点にMMICを備えた集積基板設計を示している。MMICを用いた送信機は、より小型化されており、動作に必要な負荷が6ミリワットに過ぎない(1.5ボルト、4ミリアンペア)。
周辺ユニットのUWBアンテナアレイは、システムのタグとして機能する。たとえば、四面体構成であれば、4つのアンテナが単一のUWB送受信機に接続されている。これにより、周辺ユニットに4つのタグが形成される。単一のクロックおよび単一の送受信機でUWBパルスを複数のアンテナに供給する場合は、この構成によって、ユニット中のすべてのアンカーをクロック同期させることができる。この構成により、タグの位置特定に基づいて剛体力学を適用することにより、周辺ユニットの配向を計算することができる。
また、クロックジッタおよびドリフトを特性化して測距信号から取り除くことにより、センチメートル未満の精度を実現するものとする。図196は、静止位置のタグに関し、23分間にわたって受信した距離差信号に観測されたジッタおよびドリフトを示している。各時間差について、30~40ミリメートルという大きな誤差を含む有意な影響が観測された。これにより、30ミリメートル以上の3D位置決め誤差が生じる。これら極端に大きな誤差は、一貫してミリメートルの3D精度を実現するシステムの場合、軽減すべきである。
図197を参照して、タグの位置特定は、アンカー間の相対的な時間差を考慮するTDOAアルゴリズムによって実現される。既知の位置Rx1すなわち(x1、y1、z1)、Rx2すなわち(x2、y2、z2)、Rx3すなわち(x3、y3、z3)、およびRx4すなわち(x4、y4、z4)に4つのアンカーが存在するとともに、未知の位置(xu、yu、zu)にタグが存在する。4つの既知位置の受信機と未知位置のタグとの間の測定距離は、ρ1、ρ2、ρ3、およびρ4と表すことができ、以下により与えられる。
ここで、i=1、2、3、および4、cは光速、t
uはハードウェア中の未知の時間遅延である。
4つのアンカーとタグとの間の差分距離は、以下のように書き表すことができる。
ここで、k=2、3、および4であり、ハードウェア中の時間遅延t
uは相殺されている。
この式を微分すると、以下のようになる。
式(3)~式(5)においては、タグ位置のいくつかの初期値を仮定することによって、xu、yu、およびzuが既知の値として扱われる。そして、dxu、dyu、およびdzuが唯一の未知数と見なされる。最初のタグ位置によって、dxu、dyu、およびdzuの第1の集合を計算することができる。これらの値は、タグ位置xu、yu、およびzuの修正に用いられる。ここでも、更新タグ位置xu、yu、およびzuを既知の量と見なすことができる。この反復プロセスは、以下により与えられる特定の所定閾値をdxu、dyu、およびdzuの絶対値が下回るまで続く。
x
u、y
u、およびz
uの最終値が所望のタグ位置である。式(5)の行列形態の表現は、以下の通りである。
ここで、[]
-1は、α行列の逆行列を表す。アンカー数が5つ以上の場合は、最小二乗法を適用してタグ位置を見つけることができる。
TDOAアルゴリズムによるUWBシステムの移動追跡を検討するため、概念実証実験を行った。5つのアンカーを使用し、単一のタグをレールに沿って動的に追跡しながら実験を行った。比較として、光学追跡システムを使用した。実験の結果を図160A~図160Cに示す。
図199Aは、IEEE802.15.4aチャネルモード(式(8)に示す)に適合した視程(LOS)手術室環境のパラメータの不完全な一覧を示しており、時間領域および周波数領域の実験データにより得られたものである。
手術室は、UWB位置決めにとって、厳しい屋内環境である。図199(A)は、IEEE802.15.4aチャネルモード(式(8)に示す)に適合した視程(LOS)手術室環境のパラメータの不完全な一覧を示しており、時間領域および周波数領域の実験データにより得られたものである。図199Bは、実験データを式(9)にフィッティングさせて得られた手術室(OR)環境の経路損失を住居LOS、商業施設LOS、および工場LOSと比較して示している。ORの経路損失は、住居LOSに最も類似しているが、送信機および受信機の近くに配置する器具または室内のUWBタグおよびアンカーの位置に依って変化し得る。
ここで、式(8)は、時間領域におけるUWBチャネルのインパルス応答であり、式(9)は、対応するUWBチャネルにおいて用いられる経路損失モデルである。
ユニットの配向は、同じ物体に剛体的に取り付けられた4つのタグを用いて推定することができる。アンカーに対して、単一の一体的な剛体として動いている4つの点集合Z={P1、P2、P3、P4}を仮定する。タグとアンカーとの間の配向の相対変化は、以下の式を最小化することによって計算することができる。
ここで、Z
i=Z*T
iであり、T
iがアンカーに対するタグの最初の配向であって、Tは算出対象の新たな配向、Znは点群の新たな位置である。
位置特定能力は別として、UWBは、手術ナビゲーションシステムの無線通信を大幅に改善することも可能である。無線技術を利用する既存の手術ナビゲーションシステムは通常、400MHz、900MHz、および2.5GHzの産業・科学・医療用(ISM)周波数帯に限られる。これらの周波数帯の状態は、その他多くの機器が同じ周波数帯を共有することにより、ひどく汚染されている。第2に、これらの周波数帯におけるデータレートはプロトコルによって変化するが、ナビゲーションシステムに求められるより大きなデータセットの需要の増大を取り扱えなくなってきている。また、UWB技術は、手術ナビゲーションシステムの通信機器としても機能し得る。これは、比較的汚染されていない周波数帯で動作するため、従来の無線伝送プロトコルの数倍のデータレートを有する。また、UWB通信の電力消費は、Bluetooth(登録商標) Low Energy(BLE)と同等である。
本開示の慣性ナビゲーションシステムに移って、この慣性ナビゲーションシステムは、加速度計、ジャイロスコープ、および磁力計の組み合わせからの出力を用いて、ユニットの移動および配向を決定する。移動ナビゲーションの場合は、加速度計によって、システムに加わった線形加速度が提供される。システムの移動は、推測航法を用いてナビゲート可能である。運動方程式を用いることにより、加速度計データによる位置の基本的計算では、以下に示すように、加速度を時間で2回積分する。
ここで、aは加速度、vは速度、v
iは以前の状態の速度、sは位置、s
iは以前の状態からの位置、Δtは時間間隔である。
厳密な検討に際しては、以前の状態からの速度および位置についても、現在の状態の計算に寄与することが認識される。言い換えると、以前の状態からのノイズおよび誤差がある場合は、蓄積されることになる。これは、算術ドリフト誤差として知られている。慣性ナビゲーションシステムを設計する際に難しいのは、このドリフトを制御および最小化する能力である。この場合は、UWBシステムによってこのドリフトが制御されるが、これについては以下により詳しく説明する。
配向ナビゲーションの場合は、大量の推定および補正アルゴリズム(たとえば、カルマンフィルタ、粒子フィルタ)を用いて、センサ融合を実行することができる。慣性機器を用いたセンサ融合の基本は、ジャイロスコープを用いてユニットの後続の配向を推定すると同時に、加速度計および磁力計を用いて以前の推定からの誤差を補正することである。異なるアルゴリズムは、異なる方法で誤差補正を制御する。カルマンフィルタを用いる場合はシステムが線形かつガウス型と仮定されるが、粒子フィルタでは、このような仮定はなされない。
基本的なカルマンフィルタは、時間更新方程式および測定値更新方程式という2つの主要な式集合に分けられる。時間更新方程式は、それぞれ式(13)における時間k-1での現在の状態および誤差の共分散を把握していることから、時間kでの演繹的な推定値を予測する。
ここで、x
kは現在の状態の状態ベクトル、x
k-1は以前の状態からの状態ベクトル、Aは以前の状態を現在の状態に変換する過渡行列モデル、Bは以前の状態からの制御入力u
k-1の行列モデル、w
k-1はプロセスノイズであり、独立したものであって、通常はプロセスノイズ共分散行列Qにてゼロ平均周りに分散している。
測定値更新方程式は、演繹的な推定値により得られた測定値を用いて、帰納的な推定値を計算する。
は演繹的な誤差共分散行列、P
kは演繹的な誤差共分散行列、S
kは観測残差の誤差共分散行列、Hは演繹的な予測、
は演繹的な推定値、K
kは最適カルマンゲイン、z
kは測定値である。
そして、帰納的な推定値の使用により、次の時間ステップでの演繹的な推定値を予測する。上記式から分かるように、以前の状態からの状態および誤差共分散以外に必要な情報はない。このアルゴリズムは、非常に効率的であり、複数の同時入力測定値が求められるナビゲーション問題に適している。
システムを線形化する拡張カルマンフィルタならびにシステムの非線形変換が可能なシグマポイントおよびアンセンテッドカルマンフィルタ等、線形かつガウス型の仮定に対処するカルマンフィルタについて、複数の異なる実施態様が存在する。
粒子フィルタ(PF)またはシーケンシャルモンテカルロ(SMC)フィルタの基本は、未知のプロセスの後部確率密度関数を演算して推定計算に使用する確率モデルを解くことである。これには通常、後部密度を分解する状態予測および状態更新という2段階のプロセスを伴う。粒子フィルタの使用は、同じ確率密度空間からの大量の独立かつ一様分布したランダム変数または粒子に対して後部密度を近似する強引な手法と見なし得る。
N個の独立したランダムサンプル集合が確率密度p(xk|zk)から引き出されたものと考えると、以下のようになる。
xk(i)~p(xk|z1:k),i=1:N (19)
そして、確率密度のモンテカルロ表示は、以下のように近似可能である。
ここで、δ
x(i)は、質点のディラックデルタ関数である。
この解釈を用いることにより、任意の試料関数h(x)の期待値は、以下により与えられる。
実際のところは、推定における潜在的な隠れ変数のため、p(x)からの直接サンプリングは通例不可能である。あるいは、別の確率密度q(xk|z1:k)から引き出されたサンプルが提案される。
xk(i)~q(xk|z1:k),i=1:N (22)
これは一般的に、重要度関数または重要度密度として知られている。そして、補正ステップの使用により、確率密度q(xk|z1:k)からの期待値推定が有効に維持されるようにする。一般的にサンプルの重要度重み(wk(i))と見なされる補正係数は、目標確率密度と提案確率密度との間の比率に比例する。
式(22)から引き出されたサンプルに基づいて、後部確率密度は、以下のようになる。
また、式(22)および式(23)からの重要度重みは、以下のようになる。
そして、後部確率密度は、以下により経験的に近似可能である。
式(20)による推定の期待値は、以下のように表される。
式(28)~式(31)により実証される技術は、シーケンシャル重要度サンプリング(SIS)手順と見なされる。ただし、SISの問題として、重要度重みが数個のサンプルに集中する一方、残りのサンプルは、数回の再帰の後に無視可能となる。これは、粒子フィルタの縮退問題として知られている。この問題に対してよく用いられる手法として、サンプルの再サンプリングにより、後部密度に基づいて全サンプルが等しい重みとなるようにする。ただし、サンプルの再サンプリングは、モンテカルロ誤差を招来するため、すべての再帰において実行可能なわけではない。サンプルの重要度重みの分布が悪化した場合にのみ実行するものとする。サンプルの状態は、有効サンプルサイズによって決まり、以下により規定される。
ここで、w
k
*(i)は、サンプルの真の重みである。
ただし、サンプルの真の重みは直接決定できないため、以下の方法を用いることにより、正規化重みによって、有効サンプルサイズを経験的に近似する。
再サンプリングは、重みの大きなサンプルに対して重みの小さなサンプルを再配置し、粒子の重みを再配分することによって、N
effが所定の閾値N
thを下回った場合に実行される。
慣性ナビゲーションシステムを使用する際の課題の1つとして、強磁性体およびマルテンサイト材料(たとえば、炭素鋼)のほか、永久磁石(「磁気材料」と総称する)の影響を受け易く、これらが手術器具類のほか、高出力機器で一般的に使用される材料であることが挙げられる。本システムの一部として、慣性システム構成要素は、磁界中の異常を検出する少なくとも3つの磁力計を使用する。これらの磁力計は、ユニットの異なる位置に配置される。磁力計の出力は、磁気材料で構成された物体がユニットの近傍に移動してきた際、それぞれ異なる変化を示す。そこで、検出アルゴリズムの実装によって、各磁力計の出力のわずかな変化を検出する。校正により、任意の2つの信号ベクトルの絶対差の瞬時的な大きさ(M1、M2、M3信号)がほぼゼロとなり、それぞれの瞬時的な大きさは、約1であると予想される。このため、磁力計が校正されて歪みの追加がない場合は、図200の関係が成り立つものとする。
図200の情報を用いることによって、以下の式により構成される信号の異常値を検出することができる。まず、逆正規確率密度関数の使用により、受信した磁力計信号の大きさを重み付けするようにしてもよい。より具体的には、逆正規確率密度関数の使用によって、異常値を歪みサンプルと見なし得る内蔵磁力計の大きさの差を重み付けする。歪みが検出された場合は、以下に論じる通り、UWB配向を代わりとして使用可能である。
図201には、ユニットの移動および配向を決定するブロック図を示している。例示的な混成型慣性ナビゲーション・UWBシステムは、サブシステム(すなわち、IMU、UWB)それぞれの利点を利用して、センチメートル未満の移動精度および度未満の配向精度を実現する。システムの移動および配向の決定には、推定および補正アルゴリズム(たとえば、カルマンフィルタまたは粒子フィルタ)を使用可能である。慣性ナビゲーションシステムからの線形加速度は、システムの移動に関する良い推定値を与える一方、UWB位置特定システムは、補正によって、この推定値を正確な移動データに変換する。配向に関しては、慣性追跡システムによって、通常動作中に正確な配向を十分提供可能である。UWBシステムからの配向データは、主としてサニティチェックに用いられ、UWBナビゲーションアルゴリズムの境界条件を提供する。ただし、慣性システムによる磁気異常の検出に際しては、慣性データ融合アルゴリズムに対して、磁気センサデータが一時的に無効となる。進行方位の追跡は、ジャイロスコープ推定のみに基づいて行われる。進行方位の推定は、UWB配向計算に基づいて、後で補正される。
剛体力学によるUWBシステムの配向追跡を検討するため、概念実証実験を行った。図202は、実験設定を示している。実験に際しては、2つのユニットを使用した。中央ユニットに関しては、基準として、市販の3つのUWBアンカーおよびIMUシステムを剛体的かつ一体的に固定した。周辺ユニットに関しては、能動ナビゲーションユニットとして、市販の3つのUWBタグおよびIMUシステムを剛体的かつ一体的に固定した。第1の実験においては、UWBおよびIMUシステム間の最初の配向を初期配向として一体的に位置合わせした。周辺ユニットを中央ユニットに対して回転させ、各システムの配向を計算して図203に示した。第2の実験においては、両ユニットを固定した。ユニットの初期配向の位置合わせ後、周辺ユニットのIMUシステムに隣接して強磁性体を配置し、磁気歪み状況を模擬した。最初の環境および歪んだ環境のIMUシステムおよび混成型システムの3D角度を図204に示す。
図205を参照して、手術ナビゲーションシステムとしての使用の場合、例示的な混成型システムは、外科医に対して十分なナビゲーション能力を提供可能である。以下には、完全股関節形成術に使用する例示的な混成型システムの例示的な用途の概要を示す。術前、画像診断法によって股関節を撮像する。画像診断法による出力を用いて、患者固有の解剖学的仮想モデルを生成する。これらのモデルは、X線3次元再構成、CTスキャンもしくはMRIスキャンの分割、または3次元仮想モデルを生成可能なその他任意の画像診断法によって生成されるようになっていてもよい。患者固有のモデルを得るための手法に関わらず、これらのモデルを用いて、寛骨臼コンポーネントおよび大腿骨ステムの両者の計画および配置を行う。患者の寛骨臼および大腿骨の生体構造と併せて、手術計画データを例示的な混成型システムにインポートする。
大腿骨の位置合わせの場合、この混成型システムの例示的な一構成においては、中央ユニットを基準として患者の大腿骨に取り付ける。周辺ユニットは、マッピングプローブに取り付ける。この混成型システムの別の例示的な構成においては、中央ユニットをグローバル基準として手術台の隣に位置付ける。そして、第1の周辺ユニットを患者の大腿骨に取り付け、第2の周辺ユニットをマッピングプローブに取り付ける。いずれかの構成により、プローブを用いたペインティングによって、患者の露出した大腿骨の解剖学的表面をマッピングする。収集した表面点を患者の術前の解剖学的モデルに対して位置合わせする。これにより、大腿骨の術前計画を手術室に移し、患者の大腿骨の位置に対して位置合わせする。
患者の大腿骨の位置合わせ後、患者の骨盤の位置合わせを行うようにしてもよい。この混成型システムの例示的な一構成においては、中央ユニットを基準として患者の骨盤の腸骨稜に取り付ける。周辺ユニットは、マッピングプローブに取り付ける(図206参照)。この混成型システムの別の例示的な構成においては、中央ユニットを手術台の隣に位置付ける。そして、第1の周辺ユニットを患者の骨盤に取り付け、第2の周辺ユニットをマッピングプローブに取り付ける(図207参照)。いずれかの構成により、プローブを用いて表面をペインティングによって、患者の寛骨臼カップ形状をマッピングする。収集した表面点を患者の術前の解剖学的モデルに対して位置合わせする(図208参照)。これにより、カップの術前計画を手術室に移し、患者の骨盤の位置に対して位置合わせする。
寛骨臼カップの準備中、この混成型システムの一構成においては、中央ユニットを基準として患者の骨盤の腸骨稜に取り付ける。周辺ユニットは、寛骨臼リーマに取り付ける(図209参照)。本発明のさらに別の例示的な構成においては、中央ユニットを手術台の隣に位置付ける。そして、第1の周辺ユニットを患者の骨盤の腸骨稜に取り付け、第2の周辺ユニットを寛骨臼リーマに取り付ける。いずれかの構成により、中央および周辺ユニット間の相対的な配向と術前手術計画の一部として予め決定された寛骨臼カップ計画配向との間の差によって、穿孔方向を計算する。誤差(たとえば、手術計画からの逸脱)を最小限に抑えるため、外科医は、リーマの位置および配向が術前手術計画と一致しているかを示す手術ナビゲーション誘導ソフトウェアからのフィードバックに基づいて、寛骨臼リーマを操作するようにしてもよい。穿孔方向の誘導は、3D表示、臨床的表示、ならびにコンピュータレンダリング、X線シミュレーション、および蛍光透視シミュレーション等の複数のレンダリングオプション等、さまざまな表示オプションを介して外科医に与えられるようになっていてもよい。穿孔深さは、中央ユニットと周辺ユニットとの間の移動距離により計算される。外科医は、この情報を用いて穿孔距離を決定することにより、穿孔不足や過穿孔を回避する。
寛骨臼カップの配置中、この混成型システムの一構成においては、中央ユニットを基準として患者の骨盤の腸骨稜に取り付ける。周辺ユニットは、寛骨臼シェル挿入器に取り付ける(図210参照)。本発明のさらに別の例示的な構成においては、中央ユニットを手術台の隣に位置付ける。そして、第1の周辺ユニットを患者の骨盤の腸骨稜に取り付け、第2の周辺ユニットを寛骨臼シェル挿入器に取り付ける。いずれかの構成により、中央および周辺ユニット間の相対的な配向と術前手術計画により予め決定された寛骨臼カップ計画配向との間の差を用いて、混成型システムにより穿孔方向を計算する。誤差(たとえば、手術計画からの逸脱)を最小限に抑えるため、外科医は、混成型システムの手術ナビゲーション誘導ソフトウェアに基づいて、寛骨臼挿入器を操作するようにしてもよい。寛骨臼カップの配置方向は、3D表示、臨床的表示、ならびにコンピュータレンダリング、X線シミュレーション、および蛍光透視シミュレーション等の複数のレンダリングオプション等、さまざまな表示オプションを介して外科医に与えられるようになっていてもよい。寛骨臼カップの配置深さは、中央ユニットと周辺ユニットとの間の移動距離により計算される。外科医は、この情報を用いて、最終的な寛骨臼カップの配置を決定する。
大腿骨ステムの準備中、この混成型システムの例示的な一構成においては、中央ユニットを基準として患者の大腿骨に取り付ける。周辺ユニットは、大腿骨ブローチハンドルに取り付ける(図211参照)。本発明のさらに別の例示的な構成においては、中央ユニットを手術台の隣に位置付ける。そして、第1の周辺ユニットを患者の大腿骨に取り付け、第2の周辺ユニットを大腿骨ブローチハンドルに取り付ける。いずれかの構成により、中央および周辺ユニット間の相対的な配向と術前手術計画により予め決定された大腿骨ステム計画配向との間の差を用いて、混成型システムによりブローチ方向を計算する。誤差(たとえば、手術計画からの逸脱)を最小限に抑えるため、外科医は、混成型システムの手術ナビゲーション誘導ソフトウェアに基づいて、大腿骨ブローチを操作するようにしてもよい。ブローチ方向の誘導は、3D表示、臨床的表示、ならびにコンピュータレンダリング、X線シミュレーション、および蛍光透視シミュレーション等の複数のレンダリングオプション等、さまざまな表示オプションを介して外科医に与えられる。ブローチ深さは、中央ユニットと周辺ユニットとの間の移動距離により計算される。外科医は、この情報を用いてブローチ距離を決定することにより、削り不足や削り過ぎを回避する。また、ナビゲーションソフトウェアは、寛骨臼カップの配置および大腿骨のブローチ深さに基づいて、脚の全長およびオフセットを計算して提供する。
大腿骨ステムの配置中、この混成型システムの例示的な一構成においては、中央ユニットを基準として患者の大腿骨に取り付ける。周辺ユニットは、大腿骨ステム挿入器に取り付ける。本発明のさらに別の例示的な構成においては、中央ユニットを手術台の隣に位置付ける。そして、第1の周辺ユニットを患者の大腿骨に取り付け、第2の周辺ユニットを大腿骨ステム挿入器に取り付ける。いずれかの構成により、中央および周辺ユニット間の相対的な配向と術前手術計画により予め決定された大腿骨ステム計画配向との間の差を用いて、混成型システムにより配置方向を計算する。誤差(たとえば、手術計画からの逸脱)を最小限に抑えるため、外科医は、手術ナビゲーション誘導ソフトウェアに基づいて、大腿骨ステム挿入器を操作するようにしてもよい。大腿骨ステムの配置誘導方向は、3D表示、臨床的表示、ならびにコンピュータレンダリング、X線シミュレーション、および蛍光透視シミュレーション等の複数のレンダリングオプション等、さまざまな表示オプションを介して外科医に与えられる。大腿骨の配置深さは、中央ユニットと周辺ユニットとの間の移動距離により計算される。外科医は、この情報を用いて、最終的な大腿骨ステムの配置を決定する。ナビゲーションソフトウェアは、脚の全長およびオフセットを計算して提供する。
完全股関節形成術中に混成型システムを使用する上記の例示的な用途は、完全膝関節形成術、完全足関節形成術、完全肩関節形成術、脊髄手術、開胸手術、および低侵襲外科手術等、任意数のその他外科手術に適用可能であるが、これらに限定されない。さらに、混成型システムは、生体力学的解析(図212参照)等の人体運動追跡用の完全なボディスーツの一部として用いられるようになっていてもよいが、これに限定されない。
上記説明および発明の概要から、当業者には、本明細書に記載の方法および装置が本発明の例示的な実施形態を構成しているものの、本明細書に含まれる説明がこの明確な実施形態に限定されず、特許請求の範囲が規定する本発明の範囲から逸脱することなく、このような実施形態を変更可能であることが明らかなはずである。また、本発明は、特許請求の範囲によって規定されており、本明細書に記載の例示的な実施形態を記述する如何なる制限または要素についても、このような制限または要素が明記されていない場合は、如何なる請求要素の解釈にも組み込まれるものではないことが了解される。同様に、本発明が特許請求の範囲によって規定されており、また、本明細書において明確に論じられていなくても、本発明の特有の利点および/または予期せぬ利点が存在し得ることから、任意の請求項の範囲に含まれるように、本明細書に開示の発明のありとあらゆる特定された利点または目的を満足する必要はないことが了解される。