JP7057567B2 - 蛍光体及びそれを用いた発光装置 - Google Patents

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Description

本発明は、蛍光体、蛍光体の製造方法、および蛍光体の用途に関する。
蛍光体は、蛍光表示管(VFD(Vacuum-Fluorescent Display))、フィールドエミッションディスプレイ(FED(Field Emission Display)またはSED(Surface-Conduction Electron-Emitter Display)、プラズマディスプレイパネル(PDP(Plasma Display Panel))、陰極線管(CRT(Cathode-Ray Tube))、液晶ディスプレイバックライト(Liquid-Crystal Display Backlight)、白色発光ダイオード(LED(Light-Emitting Diode))などに用いられている。
これらのいずれの用途においても、蛍光体を発光させるためには、蛍光体を励起するためのエネルギーを蛍光体に供給する必要がある。蛍光体は、真空紫外線、紫外線、電子線、青色光などの高いエネルギーを有した励起源により励起されて、青色光、緑色光、黄色光、橙色光、赤色光等の可視光線を発する。
しかしながら、蛍光体は、前記励起源に曝される結果、蛍光体の輝度が低下し易いという問題があった。
そのため、従来のケイ酸塩蛍光体、リン酸塩蛍光体、アルミン酸塩蛍光体、硫化物蛍光体などの蛍光体に代わる、高エネルギーの励起においても輝度低下の少ない蛍光体が提案されている。そのような蛍光体として、例えば、サイアロン蛍光体、酸窒化物蛍光体、窒化物蛍光体などの、結晶構造に窒素を含有する無機結晶を母体とする蛍光体が挙げられる。
前記サイアロン蛍光体は、例えば、以下に述べるような製造プロセスによって製造される。
まず、窒化ケイ素(Si)、窒化アルミニウム(AlN)、酸化ユーロピウム(Eu)を所定のモル比に混合し、1気圧(0.1MPa)の窒素中において1700℃の温度で1時間保持してホットプレス法により焼成して製造される(例えば、特許文献1参照)。このプロセスで得られるEu2+イオンを付活したαサイアロンは、450から500nmの青色光で励起されて550から600nmの黄色の光を発する蛍光体となることが報告されている。また、αサイアロンの結晶構造を保ったまま、SiとAlとの割合あるいは酸素と窒素との割合を変えることにより、発光波長が変化することが知られている(例えば、特許文献2および特許文献3参照)。
前記サイアロン蛍光体の別の例として、β型サイアロンにEu2+を付活した緑色の蛍光体が知られている(特許文献4参照)。この蛍光体では、結晶構造を保ったまま酸素含有量を変化させることにより発光波長が短波長に変化することが知られている(例えば、特許文献5参照)。また、β型サイアロンにCe3+を付活すると青色の蛍光体となることが知られている(例えば、特許文献6参照)。
また、前記酸窒化物蛍光体の例としては、JEM相(LaAl(Si6-zAl)N10-z)を母体結晶としてCeを付活させた青色蛍光体(特許文献7参照)が知られている。この蛍光体では、結晶構造を保ったままLaの一部をCaで置換することにより、励起波長が長波長化するとともに発光波長が長波長化することが知られている。
更に、前記酸窒化物蛍光体の別の例として、La-N結晶LaSi11を母体結晶としてCeを付活させた青色蛍光体(特許文献8参照)が知られている。
また、前記窒化物蛍光体の例としては、CaAlSiNを母体結晶としてEu2+を付活させた赤色蛍光体(特許文献9参照)が知られている。この蛍光体を用いることにより、白色LEDの演色性を向上させる効果がある。光学活性元素としてCeを添加した蛍光体は橙色の蛍光体と報告されている。
このように、蛍光体は、母体となる結晶と、それに固溶させる金属イオン(付活イオン)との組み合わせで、発光色が決まる。さらに、母体結晶と付活イオンとの組み合わせによって、発光スペクトル、励起スペクトルなどの発光特性、化学的安定性、あるいは、熱的安定性も決まる。そのため、母体結晶が異なる場合、あるいは、付活イオンが異なる場合は、異なる蛍光体とみなされる。また、化学組成が同じであっても結晶構造が異なる材料は、母体結晶が異なることにより発光特性や安定性が異なるため、異なる蛍光体とみなされる。
さらに、多くの蛍光体においては、母体結晶の結晶構造を保ったまま、構成する元素の種類を置換することが可能であり、これにより発光色を変化させることが行われている。
例えば、YAG結晶にCeを添加した蛍光体は緑色発光をするが、YAG結晶中のYの一部をGdで、Alの一部をGaで置換した蛍光体は、黄色発光を呈する。さらに、CaAlSiNにEuを添加した蛍光体においては、Caの一部をSrで置換することにより結晶構造を保ったまま組成が変化し、発光波長が短波長化することが知られている。このように、結晶構造を保ったまま元素置換を行った蛍光体は、同じグループの材料と見なされる。
特開2002-363554号明細書 特開2005-8793号明細書 特開2005-307012号明細書 特開2005-255895号明細書 国際公開第2007/066733号 国際公開第2006/101096号 国際公開第2005/019376号 特開2005-112922号公報 特開2006-8721号公報
以上に述べたことから、新規蛍光体の開発においては、新規の結晶構造を持つ母体結晶を見つけることが重要であり、このような母体結晶に発光を担う金属イオンを付活して蛍光特性を発現させることにより、新規の蛍光体を提案することができる。
本発明では、新規な蛍光体を提供することを主な目的とする。さらに、本発明では、前記新規の蛍光体を含む発光素子、発光装置、画像表示装置を提供することを目的とする。
本発明では、特に、従来の蛍光体とは異なる発光特性(発光色や励起特性、発光スペクトル)を有し、かつ、470nm以下のLEDと組み合わせた場合でも発光強度が高く、化学的および熱的に安定な無機蛍光体を提供することを目的とする。
本発明者らは、新規な蛍光体を探査し、得られた蛍光体の特性について詳細に研究した結果、特定の元素を含み特定の組成式で表される蛍光体母体結晶に、特定の付活元素が固溶している新規な蛍光体を見出し、その製造方法と共に本発明の完成に至った。
さらに本発明の蛍光体を含む、発光素子、発光装置、画像表示装置を提供することも可能である。
(1)即ち本発明は、Lα(G,A)βγで表される蛍光体母体結晶に、Rδで表される元素が固溶した蛍光体であって、
前記Lは、Li、Na、Mg、Ca、Sr、Ba、Sc、Y、LaおよびAlから選ばれる1種類または2種類以上の元素であり、
前記Gは、SiおよびGeから選ばれる1種類又は2種類の元素であり、
前記Aは、Al、GaおよびBから選ばれる1種類又は2種類以上の元素であり、
前記Xは、O、N、FおよびClから選ばれる1種類又は2種類以上の元素(ただし、XがNのみであることを除く)であり、
前記Rは、Mn、Cr、Ti、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、HoおよびYbから選ばれる1種類又は2種類以上の元素であり、
前記α、β、γ及びδが、α+β+γ+δ=20であり、
3.70≦α≦4.30、
4.70≦β≦5.30、
10.70≦γ≦11.30、
0.00<δ≦0.20
である蛍光体である。
なお、蛍光体の組成式において、O即ち酸素としては、蛍光体表面の酸素分までは含んでない。これは本明細書において同様に解釈される。
(2)また、本発明では、前記蛍光体母体結晶において、
前記Lは、Mg、Ca、SrおよびBaから選ばれる1種類又は2種類以上の元素であり、
前記Gは、一部又は全部がSi元素であり、
前記Aは、一部又は全部がAl元素であり、
前記Xは、NおよびOから選ばれる1種類又は2種類の元素(ただし、XがNのみであることを除く)であり、
前記Rは、Mn、Cr、Ti、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、HoおよびYbから選ばれる1種類又は2種類以上の元素であることが好ましい。
(3)また、本発明では、前記蛍光体母体結晶が、斜方晶系に属し、空間群Pna21対称性を有する結晶であり得る。
(4)また、本発明では、前記蛍光体母体結晶の格子定数a、b及びcが、
a=1.8921±0.05 nm、
b=0.5412±0.05 nm、及び
c=0.9705±0.05 nm
の範囲の値であることが好ましい。
ここで、「±0.05」は、数値の許容範囲を示し、例えばaは、1.8921-0.05≦a≦1.8921+0.05の範囲であることを意味する。これは本明細書で同様に解釈される。
(5)更に、本発明では、前記蛍光体が、組成式CaSiAlh1h2で表され、
組成比e、f、g、h1、h2及びiが、
e+f+g+h1+h2+i=20、
3.70≦e≦4.30、
0.00≦f≦5.30、
0.00≦g≦5.30、
10.70≦h1+h2≦11.30(ただし、h1>0)、及び
0.00<i≦0.20
であることが好ましい。
(6)また、本発明では、前記組成比e、f、g、h1、h2及びiが、
e+i=4.00±0.30、
f+g=5.00±0.30、
h1+h2=11.00±0.30(ただし、h1>0)
であることが好ましい。
(7)また、本発明では、前記組成比f及びgが、
0.00≦g/(f+g)≦1.00
であることが好ましい。
(8)更に、本発明では、前記組成比h1及びh2が、
5/11≦h1/(h1+h2)≦10/11
であることが好ましい。
(9)また、本発明の蛍光体は、波長250nm以上500nm以下の波長範囲に光強度ピークを含む光を照射すると、430nm以上700nm以下、好ましくは440nm以上700nm以下の波長範囲に光強度ピークを含む蛍光を発し得る。
(10)更に、本発明の蛍光体は、前記波長250nm以上500nm以下の波長範囲に光強度ピークを含む光を照射すると、510nm以上530nm以下の波長範囲に光強度ピークを含む蛍光を発し得る。
(11)また、本発明では、前記Rで表される元素がEuを含むことが好ましい。
(12)更に、本発明では、前記蛍光体が、組成式Ca4-rSi4-qAl1+q6+q5-qEuで表され、
パラメータq及びrが、
-1.0<q≦2.0、及び
0.0<r≦0.2
であることが好ましい。
(13)本発明では、少なくともLを含む原料物質と、Gを含む原料物質と、Aを含む原料物質と、Xを含む原料物質と、Rを含む原料物質
(ただし、前記Lは、Li、Na、Mg、Ca、Sr、Ba、Sc、Y、LaおよびAlから選ばれる1種類又は2種類以上の元素であり、
前記Gは、SiおよびGeから選ばれる1種類又は2種類の元素であり、
前記Aは、Al、GaおよびBから選ばれる1種類又は2種類以上の元素であり、
前記Rは、Mn、Cr、Ti、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、HoおよびYbから選ばれる1種類又は2種類以上の元素であり、
前記Xは、O、N、F及びClから選ばれる1種類又は2種類以上の元素(ただし、XがNのみであることを除く)である。)と
を混合して原料混合物となし、
前記原料混合物を、1000℃以上1500℃以下の温度範囲で焼成すること
を含む、蛍光体の製造方法を提供する。
(14)また、本発明は、前記蛍光体を含む発光素子を提供する。
(15)また、本発明は、前記発光素子を用いた発光装置も提供する。
(16)更に、本発明は、前記発光素子を用いた画像表示装置も提供する。
本発明の実施により、即ち、Lα(G,A)βγで表される蛍光体母体結晶に、Rδで表される元素が固溶した蛍光体であって、
前記Lは、Li、Na、Mg、Ca、Sr、Ba、Sc、Y、LaおよびAlから選ばれる1種類または2種類以上の元素であり、
前記Gは、SiおよびGeから選ばれる1種類又は2種類の元素であり、
前記Aは、Al、GaおよびBから選ばれる1種類又は2種類以上の元素であり、
前記Xは、O、N、FおよびClから選ばれる1種類又は2種類以上の元素(ただし、XがNのみであることを除く)であり、
前記Rは、Mn、Cr、Ti、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、HoおよびYbから選ばれる1種類又は2種類以上の元素であり、
前記α、β、γ及びδが、α+β+γ+δ=20であり、
3.70≦α≦4.30、
4.70≦β≦5.30、
10.70≦γ≦11.30、
0.00<δ≦0.20
である、新規な蛍光体を得ることができる。
本発明の新規な蛍光体は、青色から黄緑色の高輝度の発光を示し、特定の組成では緑色の蛍光体として優れている。本発明の蛍光体は、長時間励起源に曝された場合でも、輝度が低下しないため、白色発光ダイオード等の発光素子、蛍光体プレートに好ましく用いることが想定され、さらに本発明の蛍光体を含む発光素子は、照明器具、液晶用バックライト光源などの発光装置や、VFD、FED、PDP、CRTなどの画像表示装置に好適に使用される。また、本発明の蛍光体は、紫外線を吸収することから顔料及び紫外線吸収剤の材料として用いることに好適である。さらに例えば本発明の蛍光体を含む樹脂組成物を、さらに成形した蛍光成形物、蛍光シートや蛍光フィルムのような成形体を得ることも可能である。
CaSiAl結晶の結晶構造を示す図である。 CaSiAl結晶の結晶構造から計算したCuKα線を用いた粉末X線回折を示す図である。 実施例1で合成した合成物の粉末X線回折結果を示す図である。 実施例1で合成した合成物の励起スペクトルおよび発光スペクトルを示す図である。 本発明による基板実装型LED素子の概略図である。
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、以下に説明する実施形態は、本技術の代表的な実施形態を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。
<1.蛍光体>
本発明の蛍光体に関する蛍光体母体結晶は、Lα(G,A)βγで表され、本発明の蛍光体は、前記蛍光体母体結晶にRδで表される元素が固溶したものである。
そして、蛍光体母体結晶の前記Lは、Li、Na、Mg、Ca、Sr、Ba、Sc、Y、LaおよびAlから選ばれる1種類または2種類以上の元素であり、
前記Gは、SiおよびGeから選ばれる1種類又は2種類の元素であり、
前記Aは、Al、GaおよびBから選ばれる1種類又は2種類以上の元素であり、
前記Xは、O、N、FおよびClから選ばれる1種類又は2種類以上の元素(ただし、XがNのみであることを除く)であり、
前記Rは、Mn、Cr、Ti、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、HoおよびYbから選ばれる1種類又は2種類以上の元素であり、
前記α、β、γ及びδが、α+β+γ+δ=20であり、
3.70≦α≦4.30、
4.70≦β≦5.30、
10.70≦γ≦11.30、
0.00<δ≦0.20
である。
なお、本発明が完成するまでの過程において、本発明者らは、Ca元素、Si元素、Al元素及びO元素をそれぞれ含む原料物質から、組成式がCaSiAlで表される物質を合成し、鋭意検討していたところ、該合成物質は、混合物ではなく、その結晶構造解析により、CaSiAlを単位とし、本発明以前において報告されてない結晶構造を有する単一の化合物であることを確認した。また、CaSiAl結晶のみならず、その一部又は全ての元素が他の特定の元素で置換されても、CaSiAl結晶と同じ結晶構造を保ちうることを確認し、これらを纏めて、L、G、A及びXの記号で表される、組成式がLα(G,A)βγの結晶(ただし、前記Lは、Li、Na、Mg、Ca、Sr、Ba、Sc、Y、LaおよびAlから選ばれる1種類又は2種類以上の元素であり、前記Gは、SiおよびGeから選ばれる1種類又は2種類の元素であり、前記Aは、Al、GaおよびBから選ばれる1種類又は2種類以上の元素であり、前記Xは、O、N、F、Clから選ばれる1種類又は2種類以上の元素(ただし、XがNのみであることを除く)である。)であることを確認した。
さらに前記のLα(G,A)βγ結晶に、Rδで表される元素(ただし、Rは、Mn、Cr、Ti、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、HoおよびYbから選ばれる1種類又は2種類以上の元素である。また前記α、β、γ及びδが、α+β+γ+δ=20であって、δについては0.00<δ≦0.20を満たす。)が固溶している結晶についても、Lα(G,A)βγ結晶と同じ結晶構造を保ち、しかもこれが蛍光発光を示すことから、前記組成式が、Lα(G,A)βγで表される結晶は、新規な蛍光体母体結晶となりうる、即ち組成式が、Lα(G,A)βγで表される蛍光体母体結晶に、Rδで表される元素が固溶している新規な蛍光体を見出すに至り、本発明の完成に至った。
表1に、本発明を完成するきっかけとなった、CaSiAl結晶に関する、X線結晶構造解析の結果を示した。
Figure 0007057567000001
表1において、格子定数a、b、cは単位格子の軸の長さを示し、α、β、γは単位格子の軸間の角度を示す。原子座標は単位格子中の各原子の位置を、単位格子を単位とした0から1の間の値で示す。この結晶中には、Ca、Si、Al、O、Nの各原子が存在し、Caは4種類の同じ席(Ca(1)からCa(4))に存在する解析結果を得た。また、SiとAlとは5種類の同じ席(Si,Al(1)からSi,Al(5))に存在する解析結果を得た。さらに、OとNとは11種類の同じ席(O,N(1)からO,N(11))に存在する解析結果を得た。
図1に、CaSiAl結晶の結晶構造を示す。
図1中、1は、O及びN原子である。2は、Ca原子である。3は、SiO及びAlO四面体である。即ち、CaSiAl結晶は斜方晶系に属し、Pna2空間群(International Tables for Crystallographyの33番の空間群)に属する。なお、この結晶中には、Rで表される元素、例えばEu等は、発光を担う所謂付活元素であり、Caの一部を置換する形で結晶中に取り込まれる。
以上の結果は、本発明の蛍光体が見出される以前に、公知の技術情報として知られてなく、即ち、組成式が、Lα(G,A)βγで表される蛍光体母体結晶に、Rδが固溶している本発明の蛍光体は新規な蛍光体である。
さらに組成式が、Lα(G,A)βγで表される結晶、即ち、CaSiAl結晶の元素の一部または全部を他の元素で置き換えたり、後述するようにEuなどの付活元素もさらに固溶させた結晶では、表1に示されるCaSiAl結晶の格子定数からは変動するが、基本的な結晶構造、原子が占める席、及び、その座標によって与えられる原子位置は、骨格原子間の化学結合が切れるほどには大きく変わることはなく、その結晶構造が変化することはない。
即ち、前述の「前記CaSiAl結晶のみならず、その一部又は全ての元素が他の特定の元素で置換されても、CaSiAl結晶と同じ結晶構造を保ちうる」とは、組成式が、Lα(G,A)βγで表される結晶に関し、X線回折又は中性子線回折の結果を、Pna2の空間群でリートベルト解析して求めた格子定数、及び原子座標から計算されたAl-NおよびSi-Nの化学結合の長さ(近接原子間距離)が、表1に示すCaSiAl結晶の格子定数と原子座標とから計算された化学結合の長さと比べて、±5%以内であることを満たすことである。このとき、化学結合の長さが±5%を超えて変化すると、化学結合が切れて別の結晶となることが実験上確認された。
本発明に係るLα(G,A)βγ結晶においては、例えば図1に示されるCaSiAl結晶において、Caが入る席にLの記号で表される元素が、Si、Alとが入る席には、それぞれG、Aの記号で表される元素が、O、Nとが入る席にXの記号で表される元素が入ることができる。この規則性により、CaSiAlの結晶構造を保ったまま、Lが4に対して、GとAとが合計で5、Xが合計で11の原子数の比とすることができる。また、Rで表される元素は、Caが入る席に入ることができる。ただし、L、G、A、Rで表される元素が示すプラス電荷の合計と、Xが示すマイナス電荷の合計とは、互いに打ち消し合い、結晶全体の電気的中性が保たれることが望ましい。
図2に、CaSiAl結晶の結晶構造から表1に示される数値を基に計算した、CuKα線を用いた粉末X線回折のピークパターンを示す。
なお、結晶構造が未知である結晶が、前記CaSiAl結晶と同じ結晶構造を有しているか否かの簡便な判定方法として、次の方法を好ましく用いることができる。即ち、判定対象となる結晶構造が未知である結晶に関して、測定したX線回折ピークの位置(2θ)と、図2に示される回折のピーク位置とが、主要ピークについて一致したときに両者の結晶構造が同じである、即ち結晶構造が未知であった結晶の結晶構造は、CaSiAl結晶と同じ結晶構造であると判定する方法である。主要ピークとしては、回折強度の強い10本程度で判定すると良い。本発明においては、実施例にてこの判定方法を用いた。
以上に述べたように、本発明の蛍光体は、Lα(G,A)βγで表される蛍光体母体結晶に、Rδで表される元素が固溶した蛍光体であるが、
Lは、Mg、Ca、SrおよびBaから選ばれる1種類又は2種類以上の元素であり、
Gは、一部又は全部がSi元素であり、
Aは、一部又は全部がAl元素であり、
Xは、NおよびOから選ばれる1種類又は2種類の元素(ただし、XがNのみであることを除く)であってもよい。
ここで、従来の蛍光体の製造では、N元素を含む原料物質、即ち窒化物を用いると、該原料物質由来でO元素がわずかに含まれる蛍光体が製造されていた。しかし、本発明では、後述するが、O元素を含む原料物質、即ち酸化物を用いて蛍光体が製造される。この製造方法は、酸化物のみを用いて蛍光体を製造することに限定されず、窒化物を用いてもよいが、窒化物のみを用いて蛍光体を製造しない。よって、Lα(G,A)βγで表される蛍光体母体結晶のXの全部がN元素で置換されることはない。
また本発明の蛍光体では、蛍光体母体結晶が、斜方晶系に属し、空間群Pna2対称性を有する結晶であってもよい。
また本発明の蛍光体では、蛍光体母体結晶の格子定数a、b及びcが、
a=1.8921±0.05 nm、
b=0.5412±0.05 nm、及び
c=0.9705±0.05 nm
の範囲の値であることが好ましい。
さらに本発明の蛍光体では、組成式CaSiAlh1h2で表され、
組成比e、f、g、h1、h2及びiが、
e+f+g+h1+h2+i=20、
3.70≦e≦4.30、
0.00≦f≦5.30、
0.00≦g≦5.30、
10.70≦h1+h2≦11.30(ただし、h1>0)、及び
0.00<i≦0.20
であることが好ましい。
このような組成比とすることで蛍光体母体結晶が安定して生成すると考えられ、より発光強度が高い蛍光体が得られうる。
前記組成比eは、Ca等の組成割合を表すパラメータであり、3.70以上、4.30以下であれば、結晶構造が不安定にならず、発光強度の低下を抑制できる。
前記組成比fは、Si等の組成割合を表すパラメータであり、0.00以上、5.30以下であれば、結晶構造が不安定にならず、発光強度の低下を抑制できる。
前記組成比gは、Al等の組成割合を表すパラメータであり、0.00以上、5.30以下であれば、結晶構造が安定になり発光強度が保持される。
前記組成比h1、h2は、O及びNの組成割合を表すパラメータであり、h1+h2が10.70以上、11.30以下(ただしh1>0)であれば、蛍光体の結晶構造が不安定にならず、発光強度の低下を抑制できる。
前記組成比iは、Eu等の付活元素Rの組成割合を表すパラメータであり、iが0.00を超えていれば、付活元素の不足による輝度の低下を抑制することができる。なおiは、0.20以下であれば、蛍光体母体結晶の構造を維持することが十分可能である。0.20を超えると、蛍光体母体結晶の構造が不安定となることがある。また、iをさらに0.20以下にすれば、付活元素間の相互作用により引き起こされる濃度消光現象による発光強度の低下を抑制することができるため好ましい。
さらに、前記組成比e、f、g、h1及びh2が、
e+i=4.00±0.30、
f+g=5.00±0.30、
h1+h2=11.00±0.30(ただし、h1>0)
であることが好ましい。このような組成比とすることで蛍光体母体結晶が安定して生成すると考えられ、より発光強度が高い蛍光体が得られうる。
さらに、前記組成比f及びgが、
0.00≦g/(f+g)≦1.00
である蛍光体は、結晶構造が安定であり特に発光強度が高いと考えられ、好ましい。
また、前記組成比h1及びh2が、
5/11≦h1/(h1+h2)≦10/11
である蛍光体は、さらにより結晶構造が安定であり、発光強度が高いと考えられ、好ましい。
また、本発明の蛍光体は、例えば、250nm以上500nm以下の波長範囲に光強度ピークを含む光を照射すると、430nm以上700nm以下、好ましくは440nm以上700nm以下の波長範囲に光強度ピークを含む蛍光を発し得る。
特に好ましくは、前記波長250nm以上500nm以下の波長範囲に光強度ピークを含む光を照射すると、510nm以上530nm以下の波長範囲に光強度ピークを含む蛍光を発し得る。
本発明の蛍光体は前記蛍光体母体結晶に、R(ただしRは、Mn、Cr、Ti、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho及びYbから選ばれる1種類又は2種類以上の元素である。)が付活元素として固溶している蛍光体であるが、付活元素RとしてEuを好ましく選択することができる。付活元素であるRとしてEuを含む蛍光体は、本発明の中でも発光強度が高い蛍光体であり、特定の組成では430nm以上700nm以下、好ましくは440nm以上700nm以下の青色から赤色の蛍光を発する蛍光体が得られる。
特に好ましくは、本発明の蛍光体は、組成式組成式Ca4-rSi4-qAl1+q6+q5-qEuで表され、
パラメータq及びrが、
-1.0<q≦2.0、及び
0.0<r≦0.2
と表すことができる蛍光体でもある。前記組成式で表される蛍光体は、安定な結晶構造を保ったまま、qとrのパラメータの値を適宜変えてEu/Ca比、Si/Al比、N/O比を変化させることにより、蛍光体の励起ピーク波長や発光ピーク波長を連続的に変化させることができる。qの範囲は、結晶が安定となるため、好ましくは、-0.5≦q≦1.0である。
蛍光体の発光ピーク波長が変化することにより、励起光が照射されたときに発光する色が、CIE1931色度座標上の(x,y)の値で、例えば0 ≦ x ≦ 0.4、0 ≦ y ≦ 0.9の範囲とすることができる。このような蛍光体は、例えば白色LED用の青色から黄緑色発光の蛍光体として好ましく用いられる。
なお本発明の蛍光体は、例えば励起源が100nm以上500nm以下の波長を持つ真空紫外線、紫外線、可視光、又は放射線の持つエネルギーを吸収して発光する蛍光体である。放射線としては、例えばX線、ガンマ線、α線、β線、電子線、中性子線が挙げられるが、特に限定されない。これらの励起源を用いることにより本発明の蛍光体を効率よく発光させることができる。本発明の蛍光体は、高温にさらしても劣化しないことから耐熱性に優れており、酸化雰囲気および水分環境下での長期間の安定性にも優れているという利点をも有し、耐久性に優れた製品を提供し得る。
本発明の蛍光体は、本発明の蛍光体の単結晶の粒子、又は本発明の蛍光体の単結晶が凝集した粒子、あるいはそれらの混合物であることが好ましい。本発明の蛍光体は、なるべく純度の高いことが望ましいが、本発明の蛍光体以外の物質、例えば不可避的に含まれる本発明の蛍光体以外の不純物については、蛍光体の発光が損なわれない限り含まれていて良い。
例えば、原料物質や焼成容器に含まれるFe、Co及びNiの不純物元素は、蛍光体の発光強度を低下させる恐れがある。この場合、蛍光体中のこれらの不純物元素の合計を500ppm以下とすることにより、発光強度低下への影響は少なくなる。
また本発明の蛍光体を製造すると、本発明の蛍光体以外の他の結晶相やアモルファス相(副相ともいう)を有する化合物が同時に生成することがありうる。副相は、本発明の蛍光体と同じ組成を有するとは限らない。本発明の蛍光体は、なるべく副相を含まない方が好ましいが、蛍光体の発光が損なわれない範囲において、副相を含んでいても良い。
即ち本発明の実施形態の1つとして、本発明の蛍光体は、上述のLα(G,A)βγで表される結晶を蛍光体母体結晶とし、これにRδの付活元素がイオンの状態で固溶している化合物と、前記化合物とは異なる副相などの他の結晶相との混合物であり、化合物の含有量が20質量%以上である蛍光体がある。
α(G,A)βγで表される結晶の蛍光体単体では目的の特性が得られない場合、前記実施形態を用いるとよい。Lα(G,A)βγで表される蛍光体母体結晶の含有量は目的する特性により調整するとよいが、20質量%以上にすれば発光強度が十分になる。このような観点から、本発明の蛍光体において、20質量%以上を上述の化合物の主成分とすることが好ましい。このような蛍光体であれば、励起源を照射することにより430nm以上700nm以下、好ましくは440nm以上700nm以下の範囲の波長にピークを持つ蛍光を発光し得る。
また、本発明の蛍光体の形状については特に限定はないが、分散した粒子として用いる場合には、例えば平均粒子径が0.1μm以上30μm以下の単結晶粒子、あるいは単結晶が集合体した粒子であることが好ましい。この範囲の粒子径に制御すると、発光効率が高く、LEDに実装する場合の操作性が良い。前記平均粒子径は、JIS Z8825(2013)で定められる、レーザ回折・散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置を用いて測定される粒度分布(累積分布)から算出される体積基準のメディアン径(d50)である。また、本発明の蛍光体を再度焼結し、非粒子の形状としても用いることが可能である。特に蛍光体を含む板状の焼結体は、一般に蛍光体プレートとも呼ばれ、例えば発光素子の発光部材として、好ましく用いることができる。
<2.蛍光体の製造方法>
本発明の蛍光体を製造する方法もまた、本発明の実施態様のひとつであり、
少なくともLを含む原料物質と、Gを含む原料物質と、Aを含む原料物質と、Xを含む原料物質と、Rを含む原料物質
(ただし、前記Lは、Li、Na、Mg、Ca、Sr、Ba、Sc、Y、LaおよびAlから選ばれる1種類又は2種類以上の元素であり、
前記Gは、SiおよびGeから選ばれる1種類又は2種類の元素であり、
前記Aは、Al、GaおよびBから選ばれる1種類又は2種類以上の元素であり、
前記Rは、Mn、Cr、Ti、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、HoおよびYbから選ばれる1種類又は2種類以上の元素であり、
前記Xは、O、N、F及びClから選ばれる1種類又は2種類以上の元素(ただし、XがNのみであることを除く)である。)と
を混合して原料混合物となし、
前記原料混合物を、1000℃以上1500℃以下の温度範囲で焼成すること
を含む、蛍光体の製造方法である。なお、原料物質が化合物の場合、1つの化合物に、L、G、A、X及びRのうち複数の元素を含んでいてもよく、また、原料物質が単体、すなわち単独の元素からなるものでもよい。
Lを含む原料物質は、Li、Na、Mg、Ca、Sr、Ba、Sc、Y、LaおよびAlから選ばれる1種類又は2種類以上の元素を含有する金属、酸化物、炭酸塩、水酸化物、酸窒化物、窒化物、水素化物、フッ化物及び塩化物から選ばれる単体又は2種類以上の混合物であり、具体的には酸化物が好ましく用いられる。
Gを含む原料物質は、SiおよびGeから選ばれる1種類又は2種類の元素を含有する金属、酸化物、炭酸塩、水酸化物、酸窒化物、窒化物、水素化物、フッ化物及び塩化物から選ばれる単体又は2種類以上の混合物であり、具体的には酸化物が好ましく用いられる。
Aを含む原料物質は、Al、GaおよびBから選ばれる1種類又は2種類以上の元素を含有する金属、酸化物、炭酸塩、水酸化物、酸窒化物、窒化物、水素化物、フッ化物及び塩化物から選ばれる単体又は2種類以上の混合物であり、具体的には酸化物が好ましく用いられる。
Rを含む原料物質は、Mn、Cr、Ti、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、HoおよびYbから選ばれる1種類又は2種類以上の元素を含有する金属、酸化物、窒化物、フッ化物及び塩化物から選ばれる単体又は2種類以上の混合物であり、具体的には酸化ユーロピウムが好ましく用いられる。各原料物質は粉末状であることが好ましい。
Xを含む原料物質は、酸化物、窒化物、フッ化物及び塩化物から選ばれる単体又は2種類以上の混合物である。前記酸化物、窒化物、フッ化物及び塩化物は、前記L、G、A又はRを含有するものでもよい。ただし、窒化物は原料物質の一部であって全部ではない。
例えば、Euで付活したCaSiAl蛍光体を製造する場合は、ユーロピウムの酸化物、窒化物、又はフッ化物と、カルシウムの酸化物、窒化物、又はフッ化物と、ケイ素の酸化物、窒化物、又はフッ化物と、アルミニウムの酸化物、窒化物、又はフッ化物とを含有する化合物を用いて原料混合物となすことが好ましい。また、カルシウムとケイ素、カルシウムとアルミニウム、アルミニウムとケイ素、カルシウムとケイ素とアルミニウムからなる複合金属、酸化物、炭酸塩、水酸化物、酸窒化物、窒化物、水素化物、フッ化物、又は塩化物などを出発原料として用いてもよい。特に、酸化ユーロピウムと酸化カルシウムと酸化ケイ素と酸化ケイ素アルミニウムとを用いるのがより好ましい。
本発明の蛍光体の製造方法では、本発明の蛍光体の合成のための焼成時に、焼成温度以下の温度で液相を生成する、蛍光体を構成する元素以外の元素を含む化合物を添加して焼成してもよい。このような液相を生成する化合物は、フラックスとして働き、蛍光体の合成反応及び粒成長を促進するように機能するため、安定な結晶が得られて蛍光体の発光強度が向上することがある。
前記焼成温度以下の温度で液相を生成する化合物には、Mg、Ca、Sr、Ba、Li、Na、Al、Ge、Ga、B、Sc、Y、La及びSiから選ばれる1種類又は2種類以上の元素のフッ化物、塩化物、ヨウ化物、臭化物及びリン酸塩の1種類又は2種類以上の混合物がある。これらの化合物はそれぞれ融点が異なるため、合成温度によって使い分けると良い。これら、液相を生成する化合物も、本発明では便宜上原料物質に含める。
蛍光体を粉体又は凝集体形状で製造するには、各原料物質は粉体であることが好ましい。
また、蛍光体の合成反応は、原料粉末間の接触部分が起点となり起こることから、原料粉末の平均粒子径を500μm以下とすると、原料粉末の接触部が増えて反応性が向上するため好ましい。
本発明の蛍光体の製造方法において、各原料物質を混合して原料混合物となす方法は特に限定はなく、公知の混合方法が用いられる。即ち、乾式で混合する方法の他、各原料物質と実質的に反応しない不活性な溶媒中で湿式混合した後に、溶媒を除去する方法などにより混合することができる。なお混合装置としては、V型混合機、ロッキングミキサー、ボールミル、振動ミル等が好ましく利用される。
原料混合物の焼成において、原料混合物を保持する焼成容器としては種々の耐熱性材料が使用されうるが、例えば、窒化ホウ素焼結体等の窒化ホウ素製の容器、アルミナ焼結体等のアルミナ製の容器、カーボン焼結体等のカーボン容器、モリブテンやタングステンやタンタル金属製の容器などを用いることができる。
本発明の蛍光体の製造方法においては、原料混合物の焼成温度は好ましくは1000℃以上1500℃以下であり、さらに好ましくは1200℃以上1400℃以下である。焼成温度が1000℃未満であると炭酸塩原料を用いた際に脱炭反応が進まないため、好ましくない。また焼成温度が1500℃を超えると本発明の蛍光体の分解が起こり、蛍光特性が低下するため、好ましくない。なお、焼成時間は焼成温度によっても異なるが、通常1~10時間程度である。焼成における加熱、温度保持、冷却の経時パターンやそれらの繰り返し回数は特に限定はなく、また焼成の途中で、必要に応じ原料物質を追加しても良い。
本発明の蛍光体の製造方法においては、十分な発光強度を得るためにEuの価数制御が重要であり、EuをEu3+からEu2+の状態に還元可能な還元性環境下での焼成が好ましい。例えば、還元性環境下として、断熱材やヒーターなどの炉材がカーボン製である黒鉛抵抗加熱方式の電気炉に窒素やアルゴンガス等の不活性ガスを封入した雰囲気や、断熱材やヒーターなどの炉材がモリブテンやタングステン製であるオールメタル炉にHガスやHガスを窒素やアルゴンガス等の不活性ガスで希釈して封入した雰囲気や、断熱材やヒーターなどの炉材に耐腐食性を付与した炉にNHガスやNHガスを窒素やアルゴンガス等の不活性ガスで希釈して封入した雰囲気や、断熱材やヒーターなどの炉材に耐腐食性を付与した炉にCHガスやCHガスを窒素やアルゴンガス等の不活性ガスで希釈して封入した雰囲気などが挙げられるが、十分な発光強度を得るための雰囲気として、HガスやNHガスを封入した雰囲気が好ましい。
焼成時の圧力範囲は、原料混合物及び生成物である蛍光体の熱分解が抑えられるため、可能な範囲で加圧した雰囲気が好ましい。具体的には、0.1MPa(大気圧)以上が好ましい。また焼成時の雰囲気中の酸素分圧は、各原料物質や蛍光体が焼成中に酸化されることを抑制するため、好ましくは、0.0001%以下である。
焼成して得られた蛍光体、及びこれを粉砕処理した後の蛍光体粉末、さらに粒度調整後の蛍光体粉末を、600℃以上、1300℃以下の温度で熱処理(アニール処理ともいう)することもできる。この操作により、蛍光体に含まれる欠陥及び粉砕による損傷が回復することがある。欠陥及び損傷は発光強度の低下の要因となることがあり、前記熱処理により発光強度が回復することがある。
さらに、焼成後や前記アニール処理後の蛍光体を、溶剤や、酸性又は塩基性溶液で洗浄することもできる。この操作により、焼成温度以下の温度で液相を生成する化合物の含有量や副相が低減させることもできる。その結果、蛍光体の発光強度が高くなることがある。
最終的に得られる本発明の蛍光体の平均粒子径は、体積基準のメディアン径(d50)で50nm以上200μm以下のものが、発光強度が高いので好ましい。体積基準の平均粒子径の測定は、JIS Z8825に規定されるレーザ回折・散乱法によって測定できる。粉砕、分級及び酸処理から選ばれる1種ないし複数の方法を用いることにより、焼成により合成した蛍光体粉末の平均粒子径を50nm以上200μm以下に粒度調整するとよい。より好ましくは、50nm以上50μm以下に粒度調整するとよい。
このように本発明の蛍光体は、放射線、及び、紫外線から可視光の幅広い励起範囲を持ち得、青色から赤色の発光をし得、特に特定の組成では450nm以上650nm以下の青色から赤色を呈し得、かつ、発光波長や発光ピーク幅を調節し得る。このような発光特性により、本発明の蛍光体は、さらに本発明の蛍光体や、本発明の蛍光体を含む蛍光体プレートを用いた発光素子を構成する材料として有用である。さらに前記発光素子を用いた照明器具、画像表示装置も、また本発明の蛍光体は、顔料、紫外線吸収剤にも好適である。本発明の蛍光体はそれ単独で用いるだけでなく、例えば本発明の蛍光体を含む諸材料と樹脂等とを混合した組成物を、さらに成形した蛍光成形物、蛍光シートや蛍光フィルムのような成形体を提供することができる。なお本発明の蛍光体は、高温にさらしても劣化しないことから耐熱性に優れており、酸化雰囲気及び水分環境下での長期間の安定性にも優れているという利点をも有し、耐久性に優れた製品を提供し得る。
<3.発光素子>
本発明の蛍光体は、種々の用途に使用することができるが、本発明の蛍光体を含む発光素子もまた本発明の態様のひとつである。前記発光素子に含まれる本発明の蛍光体の形状は、粒子状であっても、粒子状の蛍光体を再度焼結したものであっても良い。粒子状の蛍光体を再度特に平板状に焼結したものを蛍光体プレートと呼ぶこともある。またここでいう発光素子は、一般的に蛍光体、及び前記蛍光体の励起源とを含み構成されている。
本発明の蛍光体を用いて、一般に発光ダイオード(LEDともいう)と呼ばれる発光素子をなす場合には、例えば樹脂やガラス(これらを纏めて固体媒体という)中に、本発明の蛍光体を分散させた蛍光体含有組成物を、励起源からの励起光が蛍光体に照射されるように配置した形態が一般的に好ましく採用される。このとき、蛍光体含有組成物中には、本発明の蛍光体以外の蛍光体を併せて含有させることも可能である。
前記蛍光体含有組成物の固体媒体として使用可能な樹脂は、成形する以前や蛍光体を分散させるときにおいては液状の性質を示し、本発明の蛍光体や発光素子として好ましくない反応等を生じないものであれば、任意の樹脂を目的等に応じて選択することが可能である。樹脂の例としては、付加反応型シリコーン樹脂、縮合反応型シリコーン樹脂、変性シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。前記樹脂が熱硬化性樹脂である場合は、これを硬化させることにより、本発明の蛍光体を散させた蛍光体含有組成物が得られる。
前記固体媒体の使用割合は、特に限定はなく、用途等に応じて適宜調整すればよいが、一般的には、本発明の蛍光体に対する固体媒体の質量割合で、通常3質量%以上、好ましくは5質量%以上、また、通常30質量%以下、好ましくは15質量%以下の範囲である。
また、本発明の蛍光体含有組成物は、本発明の蛍光体及び固体媒体に加え、その用途等に応じて、その他の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、拡散剤、増粘剤、増量剤、干渉剤等が挙げられる。具体的には、アエロジル等のシリカ系微粉、アルミナ等が挙げられる。
また本発明の蛍光体以外の蛍光体としては、Euを付活したβ-サイアロン緑色蛍光体、Euを付活したα-サイアロン黄色蛍光体、Euを付活したSrSi橙色蛍光体、Euを付活した(Ca,Sr)AlSiN橙色蛍光体、および、Euを付活したCaAlSiN赤色蛍光体から選ばれる1種または2種以上の蛍光体をさらに含んでもよい。上記以外の黄色蛍光体としては、例えば、YAG:Ce、(Ca,Sr,Ba)Si:Euなどを用いてもよい。
本発明の発光素子の実施形態の1つとして、本発明の蛍光体に加えて、さらに、発光体または発光光源によりピーク波長500nm以上550nm以下の光を発する緑色蛍光体を含むことができる。このような、緑色蛍光体としては、例えば、β-サイアロン:Eu、(Ba,Sr,Ca,Mg)SiO:Eu、(Ca,Sr,Ba)Si:Euなどがある。
さらに、本発明の発光装置の実施形態の1つとして、本発明の蛍光体に加えて、さらに、発光体又は発光光源によりピーク波長550nm以上600nm以下の光を発する黄色蛍光体を含むことができる。このような黄色蛍光体としては、YAG:Ce、α-サイアロン:Eu、CaAlSiN:Ce、LaSi11:Ceなどがある。
さらにまた、本発明の発光装置の実施形態の1つとして、本発明の蛍光体に加えて、さらに、発光体または発光光源によりピーク波長600nm以上700nm以下の光を発する赤色蛍光体を含むことができる。このような赤色蛍光体としては、CaAlSiN:Eu、(Ca,Sr)AlSiN:Eu、CaSi:Eu、SrSi:Euなどがある。
本発明の発光素子に、本発明の蛍光体が、蛍光体プレートの形状として含まれる場合、前記蛍光体プレートとは、粒子状の本発明の蛍光体を、所望の形状に成型後、加熱焼結したものである。ただし、本発明の蛍光体プレートには、本発明の蛍光体以外の蛍光体や、その他の成分を含んでいても良い。ここでいうその他成分としては、例えば媒体となるガラス等や、バインダー樹脂、分散剤、及び焼結助剤が挙げられる。前記バインダー樹脂、分散剤、及び焼結助剤の添加剤は特に限定はないが、一般に加熱焼結時に同時に分解除去される当該分野で公知の物質を好ましく用いることができる。
前記蛍光体プレートを製造する際に用いる蛍光体粒子の平均粒子径については、特に限定はないが、成形性を付与するバインダー樹脂の添加量を蛍材料の粒子の比表面積に伴って加減するため、例えば0.1μm以上30μm以下の平均粒子径を有するものを好ましく用いることができる。
前記蛍光体プレートは、公知の方法で製造することができる。例えば、粉末状とした本発明の蛍光体に、バインダー樹脂、分散剤、焼結助剤等の添加剤を添加し、さらに分散媒を加えて湿式混合し、得られたスラリーを粘度を調整してシート状、ディスク状等の形状にし、これを加熱焼成して添加剤を分解除去すると共に、本発明の蛍光体シートを得ることができる。加熱焼成の温度、時間、及び焼成雰囲気は、用いた材料によって公知の条件に適宜変更すればよい。その他に、本発明の蛍光体より低融点なガラス粉末を加えて成形し、その後焼成して蛍光体プレートを製造する方法なども有効である。
本発明の発光素子に含まれる励起源とは、本発明の蛍光体や他の種類の蛍光体を励起させて発光させる、励起エネルギーを発する例えば光源である。本発明の蛍光体は、100~190nmの真空紫外線、190~380nmの紫外線、電子線などを照射しても発光するが、好ましい励起源としては、例えば青色半導体発光素子が挙げられる。この励起源からの光により本発明の蛍光体も発光し、発光素子として機能する。なお、本発明の発光素子は、単一の素子である必要は無く、複数の発光素子が組み合わされた一体型の素子であっても良い。
本発明の発光素子の一形態として、発光体又は発光光源がピーク波長300~500nm、好ましくは300~470nmの紫外又は可視光を発し、本発明の蛍光体が発する青色光~緑色光(例えば、430nm以上、好ましくは440nm~530nm)と、本発明の他の蛍光体が発する430nm以上、好ましくは440nm以上の波長の光を混合することにより白色光又は白色光以外の光を発する発光素子がある。
なお、前述の発光素子の実施形態は例示であって、本発明の蛍光体に加えて、青色蛍光体、緑色蛍光体、黄色蛍光体あるいは赤色蛍光体を適宜組み合わせ、所望の色味を有した白色光を達成することができることは言うまでもない。
またさらに、本発明の発光素子の実施形態の1つとして、発光体又は発光光源が280~500nmの波長の光を発するLEDを用いると発光効率が高いため、高効率の発光装置を構成することができる。
なお、使用する励起源からの光は、特に単色光に限定されず、複色光でもよい。
図5に、本発明による発光素子(表面実装型LED)の概略を示す。
表面実装型白色発光ダイオードランプ(11)を製作した。可視光線反射率の高い白色のアルミナセラミックス基板(19)に2本のリードワイヤ(12、13)が固定されており、それらワイヤの片端は基板のほぼ中央部に位置し、他端はそれぞれ外部に出ていて電気基板への実装時ははんだづけされる電極となっている。リードワイヤのうち1本(12)は、その片端に、基板中央部となるように発光ピーク波長450nmの青色発光ダイオード素子(14)が載置され固定されている。青色発光ダイオード素子(14)の下部電極と下方のリードワイヤとは導電性ペーストによって電気的に接続されており、上部電極ともう1本のリードワイヤ(13)とが金細線からなるボンディングワイヤ(15)によって電気的に接続されている。
第一の樹脂(16)と実施例1で作製した緑色蛍光体と赤色蛍光体(17)を混合したものが、発光ダイオード素子近傍に実装されている。この蛍光体を分散した第一の樹脂は、透明であり、青色発光ダイオード素子(14)の全体を被覆している。また、セラミック基板上には中央部に穴の開いた形状である壁面部材(20)が固定されている。壁面部材(20)は、その中央部が青色発光ダイオード素子(14)及び蛍光体(17)を分散させた樹脂(16)がおさまるための穴となっていて、中央に面した部分は斜面となっている。この斜面は光を前方に取り出すための反射面であって、その斜面の曲面形は光の反射方向を考慮して決定される。また、少なくとも反射面を構成する面は白色又は金属光沢を持った可視光線反射率の高い面となっている。当該発光素子では、該壁面部材(20)を白色のシリコーン樹脂によって構成した。壁面部材の中央部の穴は、チップ型発光ダイオードランプの最終形状としては凹部を形成するが、ここには青色発光ダイオード素子(14)及び蛍光体(17)を分散させた第一の樹脂(16)のすべてを封止するようにして透明な第二の樹脂(18)を充填している。当該発光素子では、第一の樹脂(16)と第二の樹脂(18)とには同一のエポキシ樹脂を用いることができる。同発光素子は 白色発光する。
<4.発光装置>
さらに、前記本発明の発光素子を含む発光装置も、本発明の態様のひとつである。発光装置の具体例としては、照明器具、液晶パネル用バックライト、各種の表示器具等が挙げられる。
<5.画像表示装置>
さらに、前記本発明の発光素子を含む画像表示装置も、本発明の態様のひとつである。画像表示装置の具体的としては、蛍光表示管(VFD)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、陰極線管(CRT)、液晶ディスプレイ(LCD)等が挙げられる。
<6.顔料>
本発明の蛍光体は、その機能を利用して、例えば顔料の構成材料として使用することも可能である。即ち、本発明の蛍光体に太陽光、蛍光灯などの照明を照射すると白色の物体色が観察されるが、その発色がよいこと、そして長期間に渡り劣化しないことから、本発明の蛍光体は例えば無機顔料に好適にしようすることができる。このため、塗料、インキ、絵の具、釉薬、プラスチック製品に添加する顔料として用いると長期間に亘って良好な白色を高く維持することができる。
<7.紫外線吸収剤>
本発明の蛍光体は、それ単独で使用するのではなく、その機能を利用して、例えば紫外線吸収剤の構成材料として使用することも可能である。即ち、本発明の蛍光体を含む紫外線吸収剤を、例えばプラスチック製品や塗料内部に練り込んだり、プラスチック製品の表面に塗布したりすると、それらを紫外線劣化から効果的に保護することができる。
<8.蛍光体シート>
本発明の蛍光体を、例えば樹脂と混合して組成物となし、さらにこれを成形した蛍光体成形物、蛍光体フィルム、蛍光体シートも、本発明の蛍光体の好ましい使用例として挙げられる。例えばここでいう本発明の蛍光体シートとは、本発明の蛍光体を、媒体中に均一に分散させるように含ませたシートである。媒体の材質は特に限定されないが、透明性を有することが好ましく、シート状に形態を保持できる材料であり、例えば樹脂が挙げられる。具体的には、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリアリレート樹脂、PET変性ポリアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、環状オレフィン、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリメチルメタアクリレート樹脂、ポリプロピレン樹脂、変性アクリル、ポリスチレン樹脂及びアクリルニトリル・スチレン共重合体樹脂等が挙げられる。本発明の蛍光体シートにおいては、透明性の面からシリコーン樹脂やエポキシ樹脂が好ましく用いられる。耐熱性の面を考慮すると、シリコーン樹脂が好ましく用いられる。
本発明の蛍光体シートには、必要に応じた添加剤を加えることができる。例えば、成膜時の必要に応じて成膜時のレベリング剤、蛍光体の分散を促進する分散剤やシート表面の改質剤としてシランカップリング剤等の接着補助剤等を添加してもよい。また、蛍光体沈降抑制剤としてシリコーン微粒子等の無機粒子を添加してもよい。
本発明の蛍光体シートの膜厚は、特に限定されないが、蛍光体含有量と、所望の光学特性から決めるのがよい。蛍光体含有量や作業性、光学特性、耐熱性の観点から、膜厚は、例えば、10μm以上、3mm以下、より好ましくは50μm以上1mm以下である。
本発明の蛍光体シートの製造方法には特に限定はなく、公知の方法を用いることができる。なお本発明の蛍光体シートは、本発明の蛍光体を含んでいればよく、単層シートであっても多層シートであっても良く、シート全体が均一である必要はない。シートの片側又は両側の表面、又は内部に、基材層を設けることも可能である。基材層の材質も、特に限定はないが、例えば、公知の金属、フィルム、ガラス、セラミック、紙等を使用することができる。具体的には、アルミニウム(アルミニウム合金も含む)、亜鉛、銅、鉄などの金属板や箔、セルロースアセテート、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリビニルアセタール、アラミドなどのプラスチックのフィルム、前記プラスチックがラミネートされた紙、又は前記プラスチックによりコーティングされた紙、前記金属がラミネート又は蒸着された紙、前記金属がラミネート又は蒸着されたプラスチックフイルムなどが挙げられる。また、基材が金属板の場合、表面にクロム系やニッケル系などのメッキ処理やセラミック処理されていてもよい。特に、基材は柔軟で、強度が高いフィルム状であることが好ましい。そのため、例えば、樹脂フィルムが好ましく、具体的には、PETフィルム、ポリイミドフィルム等が挙げられる。
本発明を、以下に示す実施例によってさらに詳しく説明するが、これはあくまでも本発明を容易に理解するための一助として開示したものであって、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
(参考例)
α(G,A)βγで表される結晶、又は前記Lα(G,A)βγで表される結晶を除くCaSiAlで表される蛍光体母体結晶と同一の結晶構造を有する結晶である、蛍光体母体結晶の代表となるものとして、CaSiAlを合成し、これを参考例とした。次いで、得られた参考例のCaSiAlの結晶構造を解析し、これが前例の無い新規物質であることをまず確認した。実施例1~2で合成した各蛍光体の蛍光体母体結晶の結晶構造と比較するための基準とした。
<原料物質>
参考例のCaSiAlの原料物質として、窒化ケイ素(宇部興産(株)製のSN-E10グレード)と、窒化アルミニウム((株)トクヤマ製のEグレード)と、酸化アルミニウム(大明化学工業製タイミクロン)と、酸化ケイ素(高純度化学製)と、炭酸カルシウム(高純度化学製)と、酸化カルシウム(高純度化学製)と、酸化ユーロピウム(信越化学工業製)と、酸化セリウム(信越化学工業製)とを用いた。
炭酸カルシウム(CaCO)、窒化ケイ素(Si)、酸化ケイ素(SiO)、窒化アルミニウム(AlN)、酸化アルミニウム(Al)をカチオン比がCa:Si:Al =4:4:1となるような割合で混合組成を設計した。これらの原料粉末を、上記混合組成となるように秤量し、窒化ケイ素焼結体製乳棒と乳鉢を用いて10分間混合を行なった。次いで、得られた混合粉末を、窒化ホウ素焼結体製のるつぼに投入した。
混合粉末が入ったるつぼを黒鉛抵抗加熱方式の電気炉にセットした。混合粉末の焼成手順は次の通りであった。まず、拡散ポンプにより焼成雰囲気を1×10-1Pa以下圧力の真空とし、室温から200℃まで毎分5℃の速度で加熱し、200℃で純度が99.999体積%の窒素を導入して炉内の圧力を0.03MPaとし、毎分5℃の速度で900℃まで昇温し、900℃から毎分10℃の速度で1400℃まで昇温し、その温度で4時間保持した。
合成物を光学顕微鏡で観察し、合成物中から10μm×19μm×13μmの大きさの結晶粒子を採取した。この粒子をエネルギー分散型元素分析器(EDS;ブルカー・エイエックスエス社製QUANTAX)を備えた走査型電子顕微鏡(SEM;日立ハイテクノロジーズ社製のSU1510)を用いて、結晶粒子に含まれる元素の分析を行った。その結果、Ca、Si、Al、O、N元素の存在が確認され、Ca、Si、Alの含有原子数の比は、4:4:1であることが測定された。
次に、この結晶粒子をガラスファイバーの先端に有機系接着剤で固定した。これをMoKα線の回転対陰極付きの単結晶X線回折装置(ブルカー・エイエックスエス社製のSMART APEXII Ultra)を用いて、X線源の出力が50kV50mAの条件でX線回折測定を行った。その結果、この結晶粒子が単結晶であることを確認した。
X線回折測定結果から単結晶構造解析ソフトウエア(ブルカー・エイエックスエス社製のAPEX2)を用いて結晶構造を求めた。得られた結晶構造データを表1に、結晶構造を図1に示す。表1には、結晶系、空間群、格子定数、原子の種類、および、原子位置が記述してあり、このデータを用いて、単位格子の形、大きさ、その中の原子の並びを決めることができる。なお、SiとAlとは同じ原子位置にある割合で入り、酸素と窒素とは同じ原子位置にある割合で入り、全体として平均化したときにその結晶の組成割合となる。
この結晶は、斜方晶系(Orthorhombic)に属し、空間群Pna2、(International Tables for Crystallographyの33番の空間群)に属し、格子定数a、b、cおよび角度角度α、β、γは、それぞれ
a = 1.8921nm、
b = 0.5412nm、
c = 0.9705nm、
α = 90度、
β = 90度、
γ = 90度
であった。
原子位置は前記表1に示すとおりであった。SiとAlとは同じ原子位置に組成によって決まるある割合で存在し、OとNとは同じ原子位置に組成によって決まるある割合で存在する。また、Xが入る席には酸素と窒素とが入ることができるが、Caは+2価、Siは+4価、Alは+3価であるので、原子位置およびCaとSiとAlとの比がわかれば、(O,N)位置を占めるOとNとの比は、結晶の電気的中性の条件から求められる。EDSの測定値のCa:Si:Al比と結晶構造データとから求めたこの結晶の組成は、CaSiAlであった。
なお、出発原料組成と結晶組成とが異なるのは、少量の第二相としてCaSiAl以外の組成物が生成したことによるが、本測定は単結晶を用いているので解析結果は、純粋なCaSiAl構造を示している。
類似組成の検討を行ったところ、CaSiAl結晶は、結晶構造を保ったままCaの一部または全てをMgで置換できることがわかった。すなわち、ASiAl(Aは、Mg、Caから選ばれる1種または2種または混合)の結晶は、CaSiAl結晶と同一の結晶構造を持つ。さらにSiの一部をAlで置換、Alの一部をSiで置換、Nの一部を酸素で置換することができ、この結晶は、CaSiAlと同一の結晶構造を持つ無機結晶の1つの組成であることが確認された。また、電気的中性の条件から、これらの無機結晶を
組成式:Ca4-rSi4-qAl1+q6+q5-qEu
(ただし組成式中
-1.0<q≦2.0、及び
0.0<r≦0.2である)
で示される組成としても記述できる。
結晶構造データからこの結晶は今まで報告されていない新規の物質であることが確認された。結晶構造データから粉末X線回折パターンを計算した。
図2に、CaSiAl結晶の結晶構造から計算したCuKα線を用いた粉末X線回折を示す。
今後は、合成物の粉末X回折測定を行い、測定された粉末X線回折パターンが図2と同じであれば図1のCaSiAl結晶が生成していると判定できる。
なお、CaSiAl系結晶として結晶構造を保ったまま格子定数等が変化したものは、粉末X線回折測定により得られた格子定数の値と表1の結晶構造データとから粉末X線回折パターンを計算できる。したがって、計算した粉末X線回折パターンと測定された粉末X線回折パターンとを比較することによりCaSiAl系結晶が生成していると判定できる。
(実施例1-18及び比較例1)
表2に示す、実施例および比較例における設計組成(原子比)、にしたがって、原料粉末を、表3の原料混合組成(質量比)となるように秤量した。

秤量した原料粉末を窒化ケイ素焼結体製乳棒と乳鉢とを用いて10分間混合を行なった。その後、混合粉末を窒化ホウ素焼結体製のるつぼに投入した。
Figure 0007057567000002
Figure 0007057567000003
Figure 0007057567000004
混合粉末が入ったるつぼを黒鉛抵抗加熱方式の電気炉にセットした。混合粉末の焼成手順は次の通りであった。まず、拡散ポンプにより焼成雰囲気を1×10-1Pa以下圧力の真空とし、室温から200℃まで毎分5℃の速度で加熱し、200℃で純度が99.999体積%の窒素を導入して炉内の圧力を0.03MPaとし、毎分5℃の速度で900℃まで昇温し、900℃から毎分10℃の速度で1400℃まで昇温し、その温度で4時間保持した。(表5の焼成条件)。
Figure 0007057567000005
次に、合成物をメノウの乳鉢を用いて粉砕し、CuのKα線を用いた粉末X線回折測定を行った。
図3に、実施例1で合成物の粉末X線回折結果を示す。また、表6に実施例および比較例における主な生成相を示す。
さらに、EDS測定により、合成物が、希土類元素、アルカリ土類金属、Si、Al、O、Nを含むことを確認した。
Figure 0007057567000006
図3の合成物の粉末X線回折パターンは、図2に示す構造解析によるCaSiAl結晶のX線回折パターンと良い一致を示し、CaSiAl結晶と同一の結晶構造を持つ結晶が主成分であることが確認された。
例えば、図2の2θ=34.28度、37.02度、33.08度、24.98度、38.34度、28.28度、50.48度、59.48度、17.02度、64.98度のピークが、図4の2θ=34.38度、37.14度、33.18度、25.06度、38.46度、28.34度、50.62度、59.52度、17.12度、65.12度の夫々のピークと一部に強度の高さの逆転はあるものの、ほぼ対応しているので、良い一致を示している。
ここで、2θの角度の誤差は、±1度と見積もった。さらに、EDS測定より、実施例1の合成物は、Ca、Eu,Si、Al、O、Nを含むことが確認された。また、Ca:Si:Alの比は、4:4:1であることが確認された。
以上から、実施例1の合成物は、Ca(Si,Al)(O,N)11(詳細にはCaSiAl)結晶にEuが固溶した無機化合物であることが確認された。
図示しないが、他の実施例も同様のX線回折パターンを得た。他の実施例のX線回折パターンと図2の主要ピークとの対応を、それぞれ10本の主要ピークで行った結果も、同様であった。
また、前記表6に示すように、本発明の実施例の合成物は、CaSiAl結晶と同じ結晶構造を持つ相が、主な生成相として、20質量%以上含有されることを確認した。混合原料組成と合成物の化学組成との差異は、合成物中に不純物第二相が微量混在していることを示唆している。
以上より、本発明の実施例の合成物は、CaSiAl系結晶にEuやCe等の付活イオンRが固溶した無機化合物を主成分として含むことが確認された。
焼成後、この得られた合成物(焼成体)を粗粉砕の後、窒化ケイ素焼結体製のるつぼと乳鉢とを用いて手で粉砕し、30μmの目のふるいを通した。粒度分布を測定したところ、平均粒径は10~15μmであった。
これらの粉末に、波長365nmの光を発するランプで照射した結果、青色から黄緑色に発光することを確認した。この粉末の発光スペクトルおよび励起スペクトルを、蛍光分光光度計を用いて測定した。結果を図5に示す。励起スペクトルのピーク波長と発光スペクトルのピーク波長とを表7に示す。
図4は、実施例1で合成した合成物の励起スペクトルおよび発光スペクトルを示す図である。
Figure 0007057567000007
図4によれば、実施例1の合成物は、310nmで最も効率よく励起できることがわかり、310nmで励起したときの発光スペクトルは、516nmにピークを持つ緑色発光することがわかった。
また、実施例1の合成物の発光色は、CIE1931色度座標において、0 ≦ x ≦ 0.4および0 ≦ y ≦ 0.9の範囲内であることを確認した。
また、表7によれば、本発明の合成物は、300nm~380nmの紫外線、380nm~450nmの紫色または青色光で励起することが可能であり、青色から黄緑色発光する蛍光体であることが確認された。
以上より、本発明の実施例の合成物は、CaSiAl系結晶にEuやCe等の付活イオンRが固溶した無機化合物を主成分として含み、この無機化合物は蛍光体であることが分かった。
さらに、表3および表7によれば、特定の組成に制御することにより、青色から黄緑色発光する蛍光体を得ることができることが分かる。
例えば、実施例1から17の合成物に示されるように、A元素がCaであり、B元素がSiであり、C元素がAlであり、X元素がNあるいはNとOとの組み合わせである結晶にR元素としてEuが固溶した無機化合物を含む蛍光体は、490nm以上550nm以下の範囲の波長、より好ましくは510nm以上530nm以下の波長にピークを持つ緑色発光する。実施例18の合成物に示されるように、A元素がCaであり、B元素がSiであり、C元素がAlであり、X元素がNあるいはNとOとの組み合わせである結晶にR元素としてCeが固溶した無機化合物を含む蛍光体は、440nm以上500nm以下の範囲の波長、より好ましくは440nm以上460nm以下の波長にピークを持つ青色発光する。
なお、混合原料組成と合成物の化学組成が異なっている部分は、不純物第二相として合成物中に微量混在していると考えられる。
図示しないが、実施例1~18で得られた合成物が白色の物体色を持ち、発色に優れていることを確認した。本発明の合成物である無機化合物は、太陽光または蛍光灯などの照明の照射によって、白色の物体色を示すので、顔料または蛍光顔料として利用できることが分かった。
1.O,N原子
2.Ca原子
3.AlO,SiO四面体(Al,Si中心)
11 表面実装型白色発光ダイオードランプ
12、13 リードワイヤ
14 青色発光ダイオード素子
15 ボンディングワイヤ
16 第一の樹脂
17 蛍光体
18 第二の樹脂
19 アルミナセラミックス基板
20 壁面部材


Claims (16)

  1. α(G,A)βγで表される蛍光体母体結晶に、Rδで表される元素が固溶した、Ca Si Al 結晶と同じ結晶構造を有する蛍光体であって、
    前記Lは、Mg、Ca、Srおよびaから選ばれる1種類または2種類以上の元素であり、
    前記Gは、SiおよびGeから選ばれる1種類又は2種類の元素であり、
    前記Aは、Al、GaおよびBから選ばれる1種類又は2種類以上の元素であり、
    前記Xは、OおよびNから選ばれる1種類又は2種類以上の元素(ただし、XがNのみであることを除く)であり、
    前記Rは、Cおよびuから選ばれる1種類又は2種類以上の元素であり、
    前記α、β、γ及びδが、α+β+γ+δ=20であり、
    3.70≦α≦4.30、
    4.70≦β≦5.30、
    10.70≦γ≦11.30、
    0.00<δ≦0.20
    である蛍光体。
  2. 前記蛍光体母体結晶において、
    前記Lは、Mg、Ca、SrおよびBaから選ばれる1種類又は2種類以上の元素であり、
    前記Gは、一部又は全部がSi元素であり、
    前記Aは、一部又は全部がAl元素であり、
    前記Xは、NおよびOから選ばれる1種類又は2種類の元素(ただし、XがNのみであることを除く)であり、
    前記Rは、Cおよびuから選ばれる1種類又は2種類以上の元素である、
    請求項1記載の蛍光体。
  3. 前記蛍光体母体結晶が、斜方晶系に属し、空間群Pna2対称性を有する結晶である、請求項1又は2記載の蛍光体。
  4. 前記蛍光体母体結晶の格子定数a、b及びcが、
    a=1.8921±0.05 nm、
    b=0.5412±0.05 nm、および
    c=0.9705±0.05 nm
    の範囲の値である、請求項3記載の蛍光体。
  5. 前記蛍光体が、組成式CaSiAlh1h2で表され、
    組成比e、f、g、h1、h2及びiが、
    e+f+g+h1+h2+i=20、
    3.70≦e≦4.30、
    0.00≦f≦5.30、
    0.00≦g≦5.30、
    10.70≦h1+h2≦11.30(ただし、h1>0)、及び
    0.00<i≦0.20
    である、請求項1~4いずれか一項記載の蛍光体。
  6. 前記組成比e、f、g、h1、h2及びiが、
    e+i=4.00±0.30、
    f+g=5.00±0.30、
    h1+h2=11.00±0.30(ただし、h1>0)
    である、請求項5記載の蛍光体。
  7. 前記組成比f及びgが、
    0.00≦g/(f+g)≦1.00
    である、請求項5又は6記載の蛍光体。
  8. 前記組成比h1及びh2が、
    5/11≦h1/(h1+h2)≦10/11
    である、請求項5~7いずれか一項記載の蛍光体。
  9. 波長250nm以上500nm以下の波長範囲に光強度ピークを含む光を照射すると、430nm以上700nm以下の波長範囲に光強度ピークを含む蛍光を発する、請求項1~8いずれか一項記載の蛍光体。
  10. 長250nm以上500nm以下の波長範囲に光強度ピークを含む光を照射すると、510nm以上530nm以下の波長範囲に光強度ピークを含む蛍光を発する、請求項1~9いずれか一項記載の蛍光体。
  11. 前記Rで表される元素がEuを含む、請求項1~10いずれか一項記載の蛍光体。
  12. 前記蛍光体が、組成式Ca4-rSi4-qAl1+q6+q5-qEuで表され、
    パラメータq及びrが、
    -1.0<q≦2.0、及び
    0.0<r≦0.2
    である、請求項1~11いずれか一項記載の蛍光体。
  13. 請求項1~12のいずれか一項記載の蛍光体の製造方法であって、
    少なくともLを含む原料物質と、Gを含む原料物質と、Aを含む原料物質と、Xを含む原料物質と、Rを含む原料物質
    (ただし、前記Lは、Mg、Ca、Sr、およびaから選ばれる1種類又は2種類以上の元素であり、
    前記Gは、SiおよびGeから選ばれる1種類又は2種類の元素であり、
    前記Aは、Al、GaおよびBから選ばれる1種類又は2種類以上の元素であり、
    前記Rは、Cおよびuから選ばれる1種類又は2種類以上の元素であり、
    前記Xは、OおよびNから選ばれる1種類又は2種類以上の元素(ただし、XがNのみであることを除く)である。)と
    を混合して原料混合物となし、
    前記原料混合物を、1000℃以上1500℃以下の温度範囲で焼成すること
    を含む、製造方法。
  14. 請求項1~12いずれか一項記載の蛍光体を含む、発光素子。
  15. 請求項14記載の発光素子を用いた、発光装置。
  16. 請求項14記載の発光素子を用いた、画像表示装置。
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