JP7056906B2 - 癌スフェロイドの製造方法 - Google Patents
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患者の癌組織から得た細胞集団を、
ROCK阻害剤、TGF-βI型受容体阻害剤、EGFおよびbFGF;並びに
アデノシン受容体アゴニスト、PPARアゴニスト、カルシウム活性化カリウムチャネル(KCa)アクチベーター、NMDA型グルタミン酸受容体アゴニスト、ヒスタミンH3受容体アゴニストおよびレチノイン酸受容体(RXR)β2アゴニストから選択される薬剤
を含む培地中で培養することを含む方法に関する。
前記方法により癌スフェロイドを製造すること、および
得られた癌スフェロイドまたはこれに由来する癌スフェロイドを候補薬剤とインビトロで接触させること
を含む方法に関する。
前記方法により癌スフェロイドを製造すること、および
得られた癌スフェロイドまたはこれに由来する癌スフェロイドを非ヒト動物に移植すること、
を含む方法に関する。
前記方法によりPDSXモデルを作製すること、および
得られたPDSXモデルに候補薬剤を投与すること
を含む方法に関する。
前記方法により癌スフェロイドを製造すること、および
得られた癌スフェロイドまたはこれに由来する癌スフェロイドにおいてMSIステータスまたはミスマッチ修復遺伝子の標的遺伝子の変異を調べること
を含む方法に関する。
ROCK阻害剤、TGF-βI型受容体阻害剤、EGFおよびbFGF;並びに
アデノシン受容体アゴニスト、PPARアゴニスト、カルシウム活性化カリウムチャネル(KCa)アクチベーター、NMDA型グルタミン酸受容体アゴニスト、ヒスタミンH3受容体アゴニストおよびレチノイン酸受容体(RXR)β2アゴニストから選択される薬剤
を含む培地で培養する。
ROCK阻害剤、TGF-βI型受容体阻害剤、EGFおよびbFGF;並びに
アデノシン受容体アゴニスト、PPARアゴニスト、カルシウム活性化カリウムチャネル(KCa)アクチベーター、NMDA型グルタミン酸受容体アゴニスト、ヒスタミンH3受容体アゴニストおよびレチノイン酸受容体(RXR)β2アゴニストから選択される薬剤
を含む培地中で培養する。培地は、アデノシン受容体アゴニスト、PPARアゴニスト、カルシウム活性化カリウムチャネル(KCa)アクチベーター、NMDA型グルタミン酸受容体アゴニスト、ヒスタミンH3受容体アゴニストおよびレチノイン酸受容体(RXR)β2アゴニストから選択される薬剤を2種類以上含んでいても良い。
PPARαアゴニストとしては、GW7647(2-methyl-2-[[4-[2-[[(cyclohexylamino)carbonyl](4-cyclohexylbutyl)amino]ethyl]phenyl]thio]-propanoic acid)、CP 775146(2-Methyl-2-[3-[(3S)-1-[2-[4-(1-methylethyl)phenyl]acetyl]-3-piperidinyl]phenoxy]-propanoic acid);
PPARγアゴニストとしては、S26948([[4-[2-(6-Benzoyl-2-oxo-3(2H)-benzothiazolyl)ethoxy]phenyl]methyl]-1,3-propanedioic acid dimethyl ester)、Troglitazone(5-[[4-[(3,4-Dihydro-6-hydroxy-2,5,7,8-tetramethyl-2H-1-benzopyran-2-yl)methoxy]phenyl]methyl]-2,4-thiazolidinedione);
PPARδアゴニストとしては、GW0742([4-[[[2-[3-fluoro-4-(trifluoromethyl)phenyl]-4-methyl-5-thiazolyl]methyl]thio]-2-methyl phenoxy]-acetic acid)、L-165,041([4-[3-(4-Acetyl-3-hydroxy-2-propylphenoxy)propoxy]phenoxy]acetic acid)、GW 501516(2-[2-Methyl-4-[[[4-methyl-2-[4-(trifluoromethyl)phenyl]-5-thiazolyl]methyl]thio]phenoxy]acetic acid);
が挙げられる。
[1]
癌スフェロイドの製造方法であって、
患者の癌組織から得た細胞集団を、
ROCK阻害剤、TGF-βI型受容体阻害剤、EGFおよびbFGF;並びに
アデノシン受容体アゴニスト、PPARアゴニスト、カルシウム活性化カリウムチャネル(KCa)アクチベーター、NMDA型グルタミン酸受容体アゴニスト、ヒスタミンH3受容体アゴニストおよびレチノイン酸受容体(RXR)β2アゴニストから選択される薬剤
を含む培地中で培養することを含む方法。
[2]
癌が大腸癌である、前記[1]に記載の方法。
[3]
癌組織が原発巣から得られたものである、前記[1]または[2]に記載の方法。
[4]
薬剤がアデノシン受容体アゴニストである、前記[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]
アデノシン受容体アゴニストが、NECAまたはCV1808である、前記[4]に記載の方法。
[6]
アデノシン受容体アゴニストが、NECAである、前記[5]に記載の方法。
[7]
薬剤がPPARアゴニストである、前記[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[8]
PPARアゴニストが、GW0742、GW7647、S26948またはL-165,041である、前記[7]に記載の方法。
[9]
薬剤がKCaアクチベーターである、前記[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[10]
KCaアクチベーターが、DCEBIOまたはSKA-31である、前記[9]に記載の方法。
[11]
薬剤がNMDA型グルタミン酸受容体アゴニストである、前記[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[12]
NMDA型グルタミン酸受容体アゴニストが、NMDAである、前記[11]に記載の方法。
[13]
薬剤がヒスタミンH3受容体アゴニストである、前記[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[14]
ヒスタミンH3受容体アゴニストが、イメピップである、前記[13]に記載の方法。
[15]
薬剤がRXRβ2アゴニストである、前記[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[16]
RXRβ2アゴニストが、AC55649である、前記[15]に記載の方法。
[17]
薬剤が、NECA、CV1808、GW0742、GW7647、S26948、L-165,041、DCEBIO、SKA-31、NMDA、イメピップおよびAC55649から選択される、前記[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[18]
ROCK阻害剤がY27632である、前記[1]~[17]のいずれかに記載の方法。
[19]
TGF-βI型受容体阻害剤がSB431542である、前記[1]~[18]のいずれかに記載の方法。
[20]
培地がさらに血清を含む、前記[1]~[19]のいずれかに記載の方法。
[21]
細胞を1週間~2ヶ月培養する、前記[1]~[20]のいずれかに記載の方法。
[22]
前記[1]~[21]のいずれかに記載の方法により得られた癌スフェロイドまたはこれに由来する癌スフェロイドを含む組成物。
[23]
患者の薬剤感受性を調べる方法であって
前記[1]~[21]のいずれかに記載の方法により癌スフェロイドを製造すること、および
得られた癌スフェロイドまたはこれに由来する癌スフェロイドを候補薬剤とインビトロで接触させること
を含む方法。
[24]
癌治療薬のスクリーニング方法であって
前記[1]~[21]のいずれかに記載の方法により癌スフェロイドを製造すること、および
得られた癌スフェロイドまたはこれに由来する癌スフェロイドを候補薬剤とインビトロで接触させること
を含む方法。
[25]
癌スフェロイドの細胞にレポーター遺伝子を導入することをさらに含む、前記[23]または[24]に記載の方法。
[26]
患者由来スフェロイド移植(PDSX)モデルの作製方法であって
前記[1]~[21]のいずれかに記載の方法により癌スフェロイドを製造すること、および
得られた癌スフェロイドまたはこれに由来する癌スフェロイドを非ヒト動物に移植すること、
を含む方法。
[27]
患者の薬剤感受性を調べる方法であって
前記[26]に記載の方法によりPDSXモデルを作製すること、および
得られたPDSXモデルに候補薬剤を投与すること
を含む方法。
[28]
癌治療薬のスクリーニング方法であって
前記[26]に記載の方法によりPDSXモデルを作製すること、および
得られたPDSXモデルに候補薬剤を投与すること
を含む方法。
[29]
マイクロサテライト不安定性(MSI)の検査方法であって、
前記[1]~[21]のいずれかに記載の方法により癌スフェロイドを製造すること、および
得られた癌スフェロイドまたはこれに由来する癌スフェロイドにおいてMSIステータスまたはミスマッチ修復遺伝子の標的遺伝子の変異を調べること
を含む方法。
[30]
免疫チェックポイント阻害剤の効果予測のための、前記[29]に記載の方法。
[31]
免疫チェックポイント阻害剤が抗PD-1抗体である、前記[30]に記載の方法。
[32]
マイクロサテライトマーカーであるBAT25、BAT26、D5S346、D2S123、およびD17S250の反復回数を調べることを含む、前記[29]~[31]のいずれかに記載の方法。
[33]
ミスマッチ修復遺伝子の標的遺伝子が、TGFBR2、IGF2R、BAX、またはCASP5である、前記[29]~[31]のいずれかに記載の方法。
患者由来腫瘍始原細胞(patient-derived tumor initiating cell, PD-TIC)スフェロイドの製造
1.方法
大腸癌腫瘍始原細胞(CRC-TIC)および正常結腸上皮細胞のスフェロイド培養
141人の大腸癌(CRC)患者から得た外科標本から、2片の腫瘍(各0.5-4 cm3)および1片の正常粘膜(~4 cm3)を単離し、氷冷洗浄培地(DMEM/F12に、HEPESおよびl-グルタミン (Nacalai)、100単位/ml ペニシリン (Nacalai)、0.1 mg/ml ストレプトマイシン (Nacalai) および10% 仔ウシ血清 (SAFC Biosciences) を添加)中に保存した。組織は術後24時間以内に処理した。1片のCRC標本(0.5-1.0 cm3) または正常粘膜の組織片 (1-2 cm2) を結合組織から分離し、PBSで洗浄し、60 mmペトリディッシュ中でハサミにより刻み細かくした。この組織片を、2 mlのコラゲナーゼ溶液(洗浄培地に0.2% コラゲナーゼタイプI (Thermo Fisher) および 50 μg/ml ゲンタマイシン (Thermo Fisher) を添加)により40-60分間37℃にて消化し、1 mlピペットにて約20分間隔で2-3回ピペッティングし分離させた。次いで、細胞を100-μm セルストレイナー (Corning)でろ過し、回収した。各ウェル当たり約1×104個~5×104個の細胞をMatrigel (Corning)に懸濁し、12ウェルの細胞培養プレート (30 μl/ウェル)の各ウェルの中心に播種した。Matrigelを37℃で重合化した後、CRC標本由来の細胞を癌細胞用培地(Advanced DMEM/F-12 (Thermo Fisher) , 100 単位/ml ペニシリン, 0.1 mg/ml ストレプトマイシン, 2 mM l-グルタミン (Nacalai) , 10 μM Y27632 (R&D) , 10または1 μM SB431542 (R&D) , 5 μg/ml Plasmocin (Invivogen) , および5% FBS (Thermo Fisher))により、正常粘膜由来の細胞をeL-WRN培地(Advanced DMEM/F-12, 100 単位/ml ペニシリン, 0.1 mg/ml ストレプトマイシン, 2 mM l-グルタミン, 50% L-WRNコンディションドメディウム, 10 μM Y27632, 10または1 μM SB431542, 50 ng/ml EGF (Peprotech), 5 μg/ml Plasmocin, および20% FBS)により培養した。L-WRN細胞(College of American Pathologists Consensus Statement 1999. Arch Pathol Lab Med. 2000;124:979-94.)のコンディションドメディウム(L-WRN CM)は文献(Gene. 1991;108:193-9)に記載の方法で調製した。一部の実験では、癌細胞用培地に100 ng/ml bFGF (Peprotech)、50 ng/ml EGF、1 μM NECA (Sigma)、および/またはB27サプリメント (Thrmo Fisher)を添加した。癌スフェロイド培養を1プレート(12ウェルプレートの12ウェル)まで拡張した場合に、スフェロイドの樹立が成功したと判断した。培養終了時の細胞数は1ウェル当たり約5×104個~2×105個であった。得られた癌スフェロイドは各実験まで凍結保存した。以下の実験では、解凍した癌スフェロイドを5回~20回継代した後、トリプシン処理して数個から数十個の細胞を含む細胞塊を作製し、これらを再びMatrigel (Corning)に埋め込んで実験に用いた。スフェロイド株樹立後の培養では、必要最小限の添加物を選択して培養した。
Matrigel中のスフェロイドをCell Recovery Solution (Corning)に懸濁し、1.5 mlチューブに回収した。Matrigelを4℃で30-60分間回転させながら消化した。スフェロイドを200 × gで5分間遠心し、4℃でPBSにて2回洗浄した。DNAをDNeasy Blood & Tissue Kit (Qiagen)を用いて精製した。組織学的解析のため、より大きな細胞凝集体が形成されるように、スフェロイドをトリプシン処理なしで1回または2回継代した。得られたスフェロイドを iPGell (Genostaff)に包埋し、4%パラホルムアルデヒド(PBS中)により4℃で16時間固定した。
ホルマリン固定パラフィン包埋標本を厚さ4 μmで切片化し、H&Eで染色した。原発癌およびスフェロイドの組織学的グレードはWHOのガイドラインおよびCollege of American Pathologistsの推奨に沿って決定した。
50種類の癌関連遺伝子における突然変異多発点をMacrogen社への委託解析によりIon AmpliSeq Cancer Hotspot Panel v2 (Thermo Fisher)を用いて検出した。シークエンスした遺伝子および変異のリストは製造元のウェブサイト (http://tools.invitrogen.com/downloads/cms_106003.csv)に開示されている。データセットはIntegrative Genomics Viewer software (Broad Institute)を用いて解析した。
アレイベースのCGH解析はAgilent SurePrint G3 human CGH マイクロアレイ 1x1M (G4447A, Agilent, Hachioji, Japan) およびGenomic DNA ULS Labeling Kit (#5190-0419, Agilent) を用いて製造元の説明にしたがい行った。ヒトゲノムDNA (G1521およびG1471, Promega, Madison, WI, USA)をレファレンスおよびコントロールとして使用した。アレイスライドはAgilent G2565BA マイクロアレイスキャナー (Agilent) によりスキャンした。
ホタルルシフェラーゼをコードするcDNAフラグメント(luc2, Promega) を、CAGプロモーターを含むpCXベクターに挿入し、pCX-Luc2を作製した。pCX-Luc2の発現ユニット (CAG-ルシフェラーゼ) をレンチウイルスベクター(pCDH, System Biosciences) に挿入し、pCDH-CAG-Luc2を構築した。レンチウイルス粒子は、文献(Gene. 1991;108:193-9)に記載の方法を一部改変して調製した。具体的には、2×107個の293FT細胞 (Thermo Fisher) を4枚の10 cmディッシュに播種し、一晩培養した。この細胞に、DNA(40 μgのpCDH-CAG-Luc2 プラスミド、26 μgのpsPAX2 パッケージングプラスミド、および14 μgのpMD2.G エンベローププラスミド)を、Lipofectamine 2000 (Thermo Fisher)を用いてトランスフェクトした。トランスフェクションの2日後および3日後にウイルス粒子を回収し、PEG-it Virus-Precipitation Solution (System Biosciences)を用いて沈殿させた。ウイルス粒子を2 mlの洗浄培地に再懸濁し、1.5 mlチューブに分注し (各50 μl)、-80℃で保存した。12ウェル細胞培養プレートの1ウェルで培養したスフェロイドをトリプシン処理し、約半分の細胞を遠心分離(200 × g)により1.5 mlチューブに回収した。10 μg/ml臭化ヘキサジメトリンおよび10 μM Y27632を含む50 μlのウイスル溶液中に細胞を再懸濁し、37℃で6時間インキュベートした。次いで細胞を遠心分離(200 × g)により回収し、60 μlのMatrigelに再懸濁し、12ウェル細胞培養プレートの2つのウェルに播種した。
増殖モニタリングアッセイのため、ルシフェラーゼ発現スフェロイドを12ウェルの細胞培養プレートの2-3個のウェル中で培養した。スフェロイドをトリプシン処理し、40-μm セルストレイナー (Corning)でろ過し、300 μlのMatrigelに再懸濁した。希釈倍率(Matrigelの量を基準とする)は、細胞の増殖速度およびスフェロイドの密度に基づき、4-8倍に調整した。Matrigel中のスフェロイド細胞を、37℃のプレートヒーター上、96ウェル細胞培養プレート(白) (Corning; 3 μl/ウェル) に播種し、100 μl/ウェルの培地中で一晩培養した。スフェロイドを100 μl/ウェルのPBSで洗浄し、50 μlの150 μg/ml ルシフェリンと、フェノールレッドフリーDMEM/F12培地(Nacalai) 中で10分間室温 (20-28℃) でインキュベートした。蛍光は通常の画像装置 (Gel Doc XR+, BioRad)で記録した。この最初の測定の後、各ウェル中のスフェロイドを100 μlのPBSで洗浄し、100 μlの選択した培地中で培養した。蛍光を毎日または3日後に測定した。各ウェルの細胞増殖率は、Day 1のフォトンカウントに対する割合で評価した。化合物スクリーニング実験を除き、いずれの実験も、各データポイントについて4つまたは6つの複製物(同程度の統計的検出力を有する)を解析した。
患者由来大腸癌スフェロイドの作製
患者由来大腸癌腫瘍始原細胞スフェロイド(PD-CRC-TICスフェロイド)の培養のため、基本培地 (Advanced DMEM/F12) にFBS (5%) とROCK阻害剤(Y27632)およびTGF-βI型受容体阻害剤(SB431542)を添加した癌細胞用培地を調製した。同じ患者由来の正常結腸上皮細胞のスフェロイドは、L-WRNコンディションドメディウムにY27632とSB431542とを添加した「eL-WRN培地」で培養した。141人の大腸癌患者から得た148個のサンプルを培養した。サンプルは、標準的な組織学的基準によれば、病理学的に、低グレード(138/148))、高グレード(5/148)、およびムチン性 (5/148) の腺癌に分類された。癌上皮の組織学的特徴は、原発腫瘍とそのスフェロイドとの間でよく一致していた(図1)。重要な遺伝子変異を特定するため、36個のCRC-TICスフェロイドラインにおいて50個の癌関連遺伝子の配列を調べた(図5)。
三次元培養で生存細胞数を測定することは容易ではなく、増殖率の測定が困難であることから、スフェロイド培養における細胞数を正確に測定するため、CAGプロモーターによりルシフェラーゼを発現するベクターを含むレンチウイルスをスフェロイドに感染させた。感染効率が非常に高く、発現が確認された細胞を濃縮する必要がなかったことから、サブクローニングなしで感染後のスフェロイドを2-3回継代し、直接細胞増殖アッセイに用いた。正常スフェロイドラインと癌スフェロイドラインの増殖を、継代後1-4日目まで(Day 1-4)、1日1回モニターした(図2A)。図2Bに示すように、16個のウェルの生物発光レベルにはやや差があり、培養開始時の細胞数の差が反映されていた(変動係数6.5-7.6%)。しかしながら、Day 1のフォトンカウントで較正すると、変動は1.6-3.2%に減少した(図2C)。本方法によれば、高い信頼性でスフェロイドの増殖をモニターすることができる。
EGFおよびbFGFが上記癌細胞用培地においてスフェロイドの増殖を補助するかを調べるため、野生型RAS/RAF遺伝子を有する4つの増殖の遅いCRC-TICスフェロイド(HC6T、HC9T、HC11T、HC21T)をEGFおよび/またはbFGFとともに培養した。EGF/bFGFが実質的にスフェロイドの増殖を促進したことから(図3A)、次にその効果を蛍光による増殖モニタリングにより定量した。効果の較正のため、GEI(growth effect index)(各ペアード試験における溶媒のみの対照群に対する処置群の相対的増殖率)を導入した。EGFおよびbFGFの両方の添加により、野生型RAS/RAF遺伝子を有する4つ全てのスフェロイドラインで、GEIが2倍以上になった(図3B、図6A)。EGFおよびbFGFによる増殖促進の程度は、スフェロイドライン毎に異なっていた。2つのライン(HC6T、HC9T)ではbFGFがEGFより有効であり、1つのライン(HC11T)ではその反対であった(図3B)。もう一つのスフェロイドライン(HC21T)では、bFGFとEGFの効果は同程度であった(図3B)。RASまたはRAF変異を有する3つのスフェロイド(HC2T、HC13T、HC18T)では、EGF/bFGFの増殖抑制効果は限定的であった(EGFおよびbFGFにより< 55%の増殖、図3Cおよび図6C)。EGFおよびbFGFは、正常結腸上皮細胞のスフェロイドの増殖も2倍に増殖した(図3D)。HC6TおよびHC9TではFGF9の染色体領域が増幅しており、このことが正常スフェロイドと比較してこれら癌スフェロイドラインにおけるbFGFのGEIが優れることの理由である可能性がある。
スフェロイドの増殖を促進しうる更なる補助因子を同定するため、80種類の薬理学的アゴニストまたはアクチベーターの増殖促進効果を、中程度の増殖率(3日間で3-4倍)を示す3種類のルシフェラーゼ発現CRC-TICスフェロイドライン(HC21T、HC18T、HC25T)において調べた。その結果、スフェロイドの増殖を25%以上刺激する11種類の化合物が同定された(図4A、図8)。11種類の化合物は、アデノシン受容体(AR)アゴニスト2種類(NECA, CV1808)、PPARアゴニスト4種類(GW7647, GW0742, S26948, L-165,041)、カルシウム活性化カリウムチャネル(KCa)アクチベーター2種類(DCEBIO, SKA-31)、NMDA型グルタミン酸受容体アゴニスト1種類(NMDA)、ヒスタミンH3受容体アゴニスト1種類(イメピップ)、レチノイン酸受容体(RXR)β2アゴニスト1種類(AC55649)であった(各10 μM)。
A2Bが結腸上皮に発現する唯一のアデノシン受容体であることから、これら細胞においてNECAはサイクリックAMP(cAMP)-プロテインキナーゼA(PKA)シグナルを刺激していると考えられた。実際、NECAおよびCV1808は、スフェロイドにおいて細胞の平板化およびスフェアサイズの増加を特徴とする形態変化を誘導し、これはフォルスコリン処理スフェロイドにおいて観察される形態変化と類似していた(図4C、図9C)。EGFおよびbFGFが増殖刺激に有効でなかった増殖の遅い3つのスフェロイドライン(HC28T, HC32T, HC52T)に対しEGFおよびbFGFに加えてNECAを添加すると、これらスフェロイドラインを安定に維持することができた。そこで、これらスフェロイドラインにレンチウイルスを感染させてルシフェラーゼ遺伝子を発現させ増殖モニタリングを行うと、EGF、bFGFおよびNECAの添加によって増殖が有意に50%以上増加することが確認された(図4D)。これらスフェロイドは、癌細胞用培地のみではほとんど増殖しなかった(増殖率約1.0)(図9D)。これらの結果は、cAMP-PKAおよびMAPK/ERKシグナルの活性化がCRC-TICスフェロイドの増殖を増強することを示す。基本の癌細胞用培地にEGF、bFGFおよびNECAの3種類のさらなる成分を補うことにより、非常に増殖の遅いスフェロイドでも培養することが可能となった。
以上の結果に基づき、正常スフェロイドおよび癌スフェロイドの培養培地を改変した。表1のA~Dの期間は、基本培地のみでは増殖が悪かった場合にEGFおよびbFGFを添加した。SB431542による増殖阻害が10μMで観察される場合があったことから、表1のVの期間にはその濃度を1μMに変更した(図7A)。また、B27サプリメント(Thrmo Fisher)がCRC-TICスフェロイドの増殖を促進したことから(図7B)、表1のEの期間は、PD-CRC-TICの培養開始時にEGF、bFGF、NECA、B27サプリメント(Thrmo Fisher)を添加した。
(1)PDXモデルおよびPDSXモデルの比較
PDXモデルとPDSXモデルの薬剤感受性試験における有用性を比較するため、89人の大腸癌患者からの外科的切除により得た92例のサンプルからPDXモデルおよびPDSXモデルを作製した。
T/C (%) = 相対的腫瘍体積 (処置群) / 相対的腫瘍体積 (コントロール) × 100
TGI (%) = [1 - Δ相対的腫瘍体積 (コントロール) /Δ相対的腫瘍体積 (処置群)] × 100、または
TGI (%) = [1 - Δ相対的腫瘍体積 (コントロール)] × 100 (Δ相対的腫瘍体積 (コントロール) < 0 (腫瘍退縮)の場合)
Δ相対的腫瘍体積 = (day 22の相対的腫瘍体積) - (day 1の相対的腫瘍体積)
PDSXの薬剤応答を患者の臨床成績と比較する後向き研究を実施した。原発巣の切除後に転移に対する化学療法を受けた7人の患者からPDSXを作製し、各患者の化学療法と一致する9種類の薬剤投与試験を行った。PDSXを用いた9種類の薬剤投与試験のうち8種類(89%)において、対応する臨床成績がよく反映されていた。すなわち、患者において有効であった治療計画(RECISTにより部分奏効(PR)または安定 (SD))は、PDSXにおいても有効であり、有効でなかった治療計画(RECISTにより進行 (PD) )はPDSXにおいても有効でなかった。さらに、PDSXの薬剤投与試験の結果(Treated/Control, T/C)と臨床成績の間に強い相関がみられた(RECISTでのベストレスポンス (BR) (r = 0.70, p = 0.04) および患者における臨床応答の持続期間(DOR) (r = -0.77, p = 0.04))。また、TGI (Tumor Growth Inhibition)と臨床成績の間に強い相関がみられた(BR (r = -0.72, p = 0.03) およびDOR (r = 0.83, p = 0.02))。
(1)大腸癌におけるスフェロイド由来DNAサンプルを用いたマイクロサテライト不安定性(MSI)の検出およびミスマッチ修復(MMR)タンパク質の免疫組織化学的解析
110人の大腸癌患者の手術標本から、111種の癌細胞スフェロイドラインおよび対応する11種の正常上皮細胞スフェロイドラインを樹立した。1人の患者は重複癌であった。
ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織由来DNAサンプルとスフェロイド由来DNAサンプルの質を比較するため、52例のFFPE由来DNAサンプルおよびスフェロイド由来DNAサンプルについてオンチップMSIテストを行った。はじめに、DNAサンプルの質を確認した。スフェロイド由来DNAサンプルの方がFFPE由来DNAサンプルよりもA260/A280中央値が有意に高く (1.8 vs 1.7, p < 0.0001)、濃度中央値も高かった(44 ng/μl vs 30 ng/μl, p = 0.06) (図15A、B)。FFPE由来DNAサンプルを用いてMSI検査を行うと、4人(8.0%)のMSI-Hと、46人のMSI-LおよびMSS (MSI-L: 14例、MSS: 32例)が検出された。一方、スフェロイド由来DNAサンプルの解析では、5人(10%)のMSI-Hと、45人のMSI-LおよびMSSが検出された。
Claims (14)
- 癌スフェロイドの製造方法であって、
患者の癌組織から得た細胞集団を、
ROCK阻害剤、TGF-βI型受容体阻害剤、EGFおよびbFGF;並びに
アデノシン受容体アゴニスト、PPARアゴニスト、カルシウム活性化カリウムチャネル(KCa)アクチベーター、NMDA型グルタミン酸受容体アゴニスト、ヒスタミンH3受容体アゴニストおよびレチノイン酸受容体(RXR)β2アゴニストから選択される薬剤
を含む培地中で培養することを含む方法。 - 癌が大腸癌である、請求項1に記載の方法。
- 薬剤が、アデノシン受容体アゴニストである、請求項1または2に記載の方法。
- アデノシン受容体アゴニストが、NECAまたはCV1808である、請求項3に記載の方法。
- 薬剤が、NECA、CV1808、GW0742、GW7647、S26948、L-165,041、DCEBIO、SKA-31、NMDA、イメピップおよびAC55649から選択される、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
- ROCK阻害剤がY27632である、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
- TGF-βI型受容体阻害剤がSB431542である、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
- 培地がさらに血清を含む、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
- 患者の薬剤感受性を調べる方法であって
請求項1~8のいずれかに記載の方法により癌スフェロイドを製造すること、および
得られた癌スフェロイドまたはこれに由来する癌スフェロイドを候補薬剤とインビトロで接触させること
を含む方法。 - 癌治療薬のスクリーニング方法であって
請求項1~8のいずれかに記載の方法により癌スフェロイドを製造すること、および
得られた癌スフェロイドまたはこれに由来する癌スフェロイドを候補薬剤とインビトロで接触させること
を含む方法。 - 患者由来スフェロイド移植(PDSX)モデルの作製方法であって
請求項1~8のいずれかに記載の方法により癌スフェロイドを製造すること、および
得られた癌スフェロイドまたはこれに由来する癌スフェロイドを非ヒト動物に移植すること
を含む方法。 - 患者の薬剤感受性を調べる方法であって
請求項11に記載の方法によりPDSXモデルを作製すること、および
得られたPDSXモデルに候補薬剤を投与すること
を含む方法。 - 癌治療薬のスクリーニング方法であって
請求項11に記載の方法によりPDSXモデルを作製すること、および
得られたPDSXモデルに候補薬剤を投与すること
を含む方法。 - マイクロサテライト不安定性(MSI)の検査方法であって、
前請求項1~8のいずれかに記載の方法により癌スフェロイドを製造すること、および
得られた癌スフェロイドまたはこれに由来する癌スフェロイドにおいてMSIステータスまたはミスマッチ修復遺伝子の標的遺伝子の変異を調べること
を含む方法。
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