以下、本実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、機能が同じ構成要素及び処理には全図面を通して同じ符号を付与し、重複する説明を省略する。
<第1実施形態>
生体情報測定装置10は生体8に関する情報(生体情報)のうち、特に循環器系に関する生体情報を測定する装置である。循環器系とは、例えば血液のような体液を体内で循環させながら輸送するための器官群を総称するものである。
循環器系に関する生体情報には複数の指標が存在するが、血液を血管に送り出す心臓の状態を示す指標の1つとして、例えば心臓から拍出される血液量を表す心拍出量(CO:Cardiac Output)が挙げられる。
心拍出量は様々な心臓疾患の検査、又は投薬効果の確認に利用されている。
心拍出量の測定方法には、例えば肺動脈カテーテルを心拍出量の測定対象者である被測定者に挿入し、0℃近くに冷却された生理溶液を血管内に注入したり、心臓内に留置したサーマルフィラメントで血液を温めたりして、血液の温度を変化させてカテーテル先端部のサーミスタで血液の温度変化と時間の関係を読み取る方法が用いられる。
しかしながら、カテーテルを用いた心拍出量の測定方法では、被測定者の血管にカテーテルを挿入する必要があるため外科的処置が必要となり、他の測定方法に比べて被測定者における侵襲性が高くなる。
したがって、カテーテルを用いた心拍出量の測定方法よりも被測定者の負担が少なくなるように、被測定者の脈波から得られる酸素飽和度を用いて心拍出量を測定する方法が研究されている。脈波とは、心臓による血液の送り出しに伴う血管の拍動変化を示す指標である。
まず、図1を参照して、生体情報のうち、血中の酸素飽和度の測定方法について説明する。ここで血中の酸素飽和度とは、血中の酸素濃度を示す指標の一例であり、血液中のヘモグロビンがどの程度酸素と結合しているかを示す指標であり、血中の酸素飽和度が低下するにつれて、例えば酸素欠乏等の症状が発生しやすくなることを示すものである。
図1に示すように、血中の酸素飽和度は、被測定者の体(生体8)に向けて発光素子1から光を照射し、受光素子3で受光した、被測定者の体内に張り巡らされている動脈4、静脈5、及び毛細血管6等で反射又は透過した光の強さ、すなわち反射光又は透過光の受光量を用いて測定される。
図2は、例えば生体8に吸収される光量の変化量を示す概念図である。図2に示すように、生体8における吸光量は、時間の経過と共に変動する傾向が見られる。
更に、生体8における吸光量の変動に関する内訳について見てみると、主に動脈4によって吸光量が変動し、静脈5及び静止組織を含むその他の組織では、動脈4に比べて吸光量が変動しないとみなせる程度の変動量であることが知られている。これは、心臓から拍出された動脈血は脈波を伴って血管内を移動するため、動脈4が動脈4の断面方向に沿って経時的に伸縮し、動脈4の厚みが変化するためである。なお、図2において、矢印94で示される範囲が、動脈4の厚みの変化に対応した吸光量の変動量を示す。
図2において、時刻taにおける受光量をIa、時刻tbにおける受光量をIbとすれば、動脈4の厚みの変化による光の吸光量の変化量ΔAは、(1)式で表される。
(数1)
ΔA=ln(Ib/Ia)・・・(1)
これに対して、図3は、動脈4を流れる酸素と結合したヘモグロビン(酸化ヘモグロビン)及び酸素と結合していないヘモグロビン(還元ヘモグロビン)の各波長に対する光の吸光量の一例を示す図である。図3において、グラフ96が酸化ヘモグロビンにおける光の吸光量を表し、グラフ97が還元ヘモグロビンにおける光の吸光量を表す。
図3に示すように、酸化ヘモグロビンは還元ヘモグロビンと比較して、約850nm近辺の波長を有する赤外線(infrared:IR)領域99の光を吸収しやすく、還元ヘモグロビンは酸化ヘモグロビンと比較して、特に約660nm近辺の波長を有する赤色領域98の光を吸収しやすいことが知られている。
更に、酸素飽和度は、異なる波長における吸光量の変化量ΔAの比率と比例関係があることが知られている。
したがって、他の波長の組み合わせに比べて、酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンとで吸光量の差が現われやすい赤外光(IR光)と赤色光を用いて、IR光を生体8に照射した場合の吸光量の変化量ΔAIRと、赤色光を生体8に照射した場合の吸光量の変化量ΔARedとの比率をそれぞれ算出することで、(2)式によって酸素飽和度Sが算出される。なお、(2)においてkは比例定数である。
(数2)
S=k(ΔARed/ΔAIR)・・・(2)
すなわち、血中の酸素飽和度を算出する場合、それぞれ異なる波長の光を照射する複数の発光素子1を生体8に照射する。具体的には、IR光を照射する発光素子1と赤色光を照射する発光素子1を生体8に用いる。この場合、IR光を照射する発光素子1と赤色光を照射する発光素子1との発光期間は重複してもよいが、望ましくは発光期間が重複しないよう発光させる。そして、各々の発光素子1による反射光又は透過光を受光素子3で受光して、各受光時点における受光量から(1)式及び(2)式、又は、これらの式を変形して得られる公知の式を算出することで、酸素飽和度が測定される。
上記(1)式を変形して得られる公知の式として、例えば(1)式を展開して、光の吸光量の変化量ΔAを(3)式のように表してもよい。
(数3)
ΔA=lnIb-lnIa・・・(3)
また、(1)式は(4)式のように変形することができる。
(数4)
ΔA=ln(Ib/Ia)=ln(1+(Ib-Ia)/Ia) ・・・(4)
通常、(Ib-Ia)≪Iaであることから、ln(Ib/Ia)≒(Ib-Ia)/Iaが成り立つため、(1)式の代わりに、光の吸光量の変化量ΔAとして(5)式を用いてもよい。
(数5)
ΔA≒(Ib-Ia)/Ia ・・・(5)
以降では、IR光を照射する発光素子1と赤色光を照射する発光素子1とを区別して説明する必要がある場合、IR光を照射する発光素子1を「発光素子1A」といい、赤色光を照射する発光素子1を「発光素子1B」ということにする。
こうした方法によれば、発光素子1及び受光素子3を被測定者の体表に近づけることで血中の酸素飽和度が測定されるため、血管にカテーテルを挿入して血中の酸素飽和度を測定するよりも被測定者の負担が少なくなる。
そして、測定された被測定者の酸素飽和度を用いて、生体情報測定装置10は後述する方法により心拍出量を算出する。
図4は、生体情報測定装置10の構成例を示す図である。図4に示すように、生体情報測定装置10は光電センサ11、脈波処理部12、呼吸波形抽出部13、酸素飽和度測定部14、酸素循環時間測定部17、及び心拍出量測定部18を含む。
生体情報測定装置10は、呼吸を直接検出することなく被測定者の呼吸状態が変化したことを検出する。ここで、「呼吸状態が変化」とは、通常の呼吸状態における吸気や呼気の周期的な変化を意味するものではなく、通常の呼吸状態から呼吸を停止した場合や呼吸を停止した状態から呼吸を再開した場合等、単位時間当たりの酸素摂取量が明確に変化するような呼吸状態の変化を意味する。換言すれば、通常の呼吸状態における吸気ごとの酸素摂取量のバラつきを超えるような呼吸状態の変化を意味する。
光電センサ11は、約850nmの波長を中心波長とするIR光を照射する発光素子1A、約660nmの波長を中心波長とする赤色光を照射する発光素子1B、及びIR光及び赤色光を受光する受光素子3を備える。なお、本実施の形態におけるIR光は、750nm以上で且つ1000nm以下の波長であり、赤色光は620nm以上で且つ750nm未満の波長である。
図5に光電センサ11における発光素子1A、発光素子1B、及び受光素子3の配置例を示す。図5に示すように、発光素子1A、発光素子1B、及び受光素子3は、生体8の一方の面に向かって並べて配置される。この場合、受光素子3は、生体8の毛細血管6等で反射されたIR光及び赤色光を受光する。
しかしながら、発光素子1A、発光素子1B、及び受光素子3の配置は、図5の配置例に限定されない。例えば、図6に示すように、発光素子1A及び発光素子1Bと、受光素子3とをそれぞれ生体8を挟んで対向する位置に配置するようにしてもよい。この場合、受光素子3は、生体8を透過したIR光及び赤色光を受光する。
ここでは一例として、発光素子1A及び発光素子1Bは、例えばVCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting Laser)のような面発光レーザ素子として説明するが、これに限らず、端面発光レーザ素子であってもよい。また、発光素子1A及び発光素子1BはLED(Light Emitting Diode)であってもよい。また、発光素子1A及び発光素子1Bはレーザ素子とLEDの組み合わせであってもよい。
光電センサ11には、被測定者の体の部位に光電センサ11を取り付けるための図示しないクリップが備えられており、測定環境にある照明光などの周囲の光が光電センサ部に入らないように、光電センサ11は図示しないクリップによって被測定者の体表に接触するように取り付けられる。被測定者の生体8で反射又は透過したIR光及び赤色光を受光素子3でできるだけ正確に受光するためには、光電センサ11を被測定者の体表に接触するように配置することが好ましいが、被測定者の生体8で反射したIR光及び赤色光、又は被測定者の生体8を透過したIR光及び赤色光が受光素子3で受光される範囲内で、光電センサ11を体表から離した位置に取り付けてもよい。
光電センサ11は、受光素子3で受光したIR光及び赤色光のそれぞれの受光量を例えば電圧値に変換して脈波処理部12に出力する。
発光素子1A及び発光素子1Bからは予め定めた光量が照射されているため、光電センサ11で受光したIR光及び赤色光のそれぞれの受光量から、生体8におけるIR光及び赤色光の吸光量が得られる。
したがって、脈波処理部12は、光電センサ11から受け付けたIR光及び赤色光のそれぞれの受光量を用いて、IR光から得られた被測定者の脈波を表す脈波信号と、赤色光から得られた被測定者の脈波を表す脈波信号をそれぞれ生成する。脈波処理部12は、受け付けたIR光及び赤色光のそれぞれの受光量に対応する電圧値が、脈波信号の生成に適した予め定めた範囲に含まれるように電圧値を増幅する。そして、脈波処理部12は、公知のフィルタ等を用いてノイズ成分を除去したそれぞれの脈波信号を生成する。
脈波処理部12は、生成したそれぞれの脈波信号を、呼吸波形抽出部13及び酸素飽和度測定部14に出力する。
呼吸波形抽出部13は、脈波処理部12から出力された脈波信号から被測定者の呼吸状態を表す呼吸波形を抽出する。
図7に示すように、呼吸波形抽出部13は、取得部50、第1の除去部52、変曲点検出部54、補間部56、抽出部58、解析部60、遮断周波数決定部62、及び第2の除去部64を備える。
取得部50は、脈波処理部12から出力された脈波信号を取得する。図8には脈波信号の一例として脈波信号S1を示した。
第1の除去部52は、取得部50が取得した脈波信号から脈動に対応した第1の周波数成分よりも低い第2の周波数成分を除去する。ここで、第1の周波数成分とは、脈動に対応した周波数成分、すなわち呼吸波形の抽出に必要な周波数成分をいう。また、第2の周波数成分とは、脈動と関係の無い周波数成分、すなわち呼吸波形の抽出に必要の無い周波数成分であり、例えば神経性の変動等に対応する周波数成分である。なお、第1の周波数成分よりも高い第3の周波数成分を除去するようにしてもよい。ここで、第3の周波数成分とは、脈動と関係の無い周波数成分、すなわち呼吸波形の抽出に必要の無い周波数成分であり、例えば体動等に対応する周波数成分である。このように、第1の除去部52は、バンドパスフィルタとしての機能を有する。図9には、図8の脈波信号S1から第2の周波数成分を除去した後の信号波形の一例として信号波形S2を示した。
変曲点検出部54は、第1の除去部52から出力された脈波信号から第1の脈波変曲点及び第2の脈波変曲点を検出する。ここで、本実施形態において、第1の脈波変曲点とは、脈波信号の値が上昇から下降に転じる点、すなわちピーク側の点をいう。また、第2の脈波変曲点とは、脈波信号の値が下降から上昇に転じる点、すなわちボトム側の点をいう。なお、第1の脈波変曲点を、脈波信号の値が下降から上昇に転じるボトム側の点とし、第2の脈波変曲点を、脈波信号の値が上昇から下降に転じるピーク側の点としてもよい。図10には、検出した第1の脈波変曲点H1同士を繋げたピーク波形の一例としてピーク波形S3-1を、第2の脈波変曲点H2同士を繋げたボトム波形の一例としてボトム波形S3-2を示した。なお、「ピーク波形」とは、第1の脈波変曲点の大きさの時間変化を表す時系列のデータであり、一例として、第1の脈波変曲点を直線で結んだ線で表される。また、「ボトム波形」とは、第2の脈波変曲点の大きさの時間変化を表す時系列のデータであり、一例として、第2の脈波変曲点を直線で結んだ線で表される。
なお、第1の脈波変曲点及び第2の脈波変曲点のみだと、第1の脈波変曲点に対応する位置(時間的な位置)には第2の脈波変曲点が無く、また、第2の脈波変曲点に対応する位置には第1の脈波変曲点が無いため、時間的に同じ位置における脈波信号のピーク側とボトム側の差分を求めることができない。
そこで、補間部56は、隣接する第1の脈波変曲点の間を補間すると共に、隣接する第2の脈波変曲点の間を補間する。具体的には、例えばスプライン補間等の公知の補間手法を用いて脈波信号のピーク側とボトム側の差分を求めることができるように補間する。すなわち、第1の脈波変曲点と時間的に同じ位置にボトム側の点を補間する。同様に、第2の脈波変曲点と時間的に同じ位置にピーク側の点を補間する。なお、補間の周期は、一例として50Hz(0.02秒間隔)であるが、これに限られるものではない。図11には、補間部56による補間処理後のピーク波形及びボトム波形の一例として、ピーク波形S4-1及びボトム波形S4-2を示した。
抽出部58は、脈波信号から第1の脈波変曲点と第1の脈波変曲点の次に現れる第2の脈波変曲点との差分に相当する値の時間変化を表す差分波形を抽出する。具体的には、第1の脈波変曲点と、第1の脈波変曲点と時間的に同じ位置に補間したボトム側の点と、の差分を算出する。また、第2の脈波変曲点と、第2の脈波変曲点と時間的に同じ位置に補間したピーク側の点と、の差分を算出する。これにより、差分波形が算出される。図12には差分波形の一例として差分波形S5を示した。
解析部60は、抽出部58により抽出された差分波形に対して周波数解析を行う。具体的には、差分波形を高速フーリエ変換(FFT)し、差分波形に含まれる周波数成分を算出する。
遮断周波数決定部62は、解析部60により算出された周波数成分のうち、呼吸の主成分に相当する最大周波数成分fmaxを求め、求めた最大周波数成分の前後の周波数を遮断周波数fc1、fc2として決定する。ここで、fc1=fmax-a、fc2=fmax+aであり、aは定数であり、例えば0.05Hzに設定される。
第2の除去部64は、周波数解析の結果に基づき差分波形における最も大きい周波数成分以外の周波数成分を除去する。具体的には、遮断周波数決定部62が決定した遮断周波数fc1以下の周波数成分及び遮断周波数fc2以上の周波数成分を除去する。このように、第2の除去部64は、バンドパスフィルタとしての機能を有する。なお、遮断周波数fc1、fc2を予め定めておき、差分波形からfc2Hz以上の周波数成分およびfc1Hz以下の周波数成分の少なくとも一部を除去するようにしてもよい。この場合、遮断周波数fc1は一例として0.1Hz、遮断周波数fc2は一例として0.5Hzとすることが好ましいが、遮断周波数はこれらに限られるものではない。また、最大周波数成分fmaxの半値幅に応じて遮断周波数fc1、fc2を決定しても良い。例えば最大周波数成分fmaxの半値幅が大きくなるに従って定数aの値を大きくしてもよい。
第2の除去部64により差分波形から遮断周波数fc1以下の周波数成分及び遮断周波数fc2以上の周波数成分が除去された波形は、呼吸波形として呼吸停止時期特定部40及び呼吸再開時期特定部41に出力される。図13には、呼吸波形の一例として呼吸波形S6を示した。
なお、本実施の形態における呼吸波形の抽出方法では、IR光から得られた脈波信号を用いて呼吸波形を抽出する場合の方が、赤色光から得られた脈波信号を用いて呼吸波形を抽出する場合よりも、呼吸波形の精度が高くなりやすい。よって、本実施の形態における呼吸波形抽出部13では、IR光から得られた脈波信号を用いて呼吸波形を抽出する。これは、図3に示したように、IR光は赤色光に比べて酸化ヘモグロビンに吸収されやすいため、動脈4内の血液量の変化に対する脈波信号の振幅が赤色光から得られた脈波信号の振幅より大きくなる傾向が見られるためである。したがって、IR光から得られた脈波信号から抽出した呼吸波形は、赤色光から得られた脈波信号から抽出した呼吸波形よりも波形の変動が明確になり、精度の高い呼吸波形が得られる。本実施の形態における呼吸波形の抽出方法は、脈波信号のわずかな振幅の変動から呼吸波形を抽出する方法のため、上記のとおり、IR光から得られた脈波信号を用いるか、赤色光から得られた脈波信号を用いるかによって、抽出される呼吸波形が影響を受ける。なお、赤色光の受光信号をIR光の受光信号と同じ振幅となるように増幅させ、増幅させた赤色光の受光信号を呼吸波形の抽出に使用する方法も考えられる。しかしながら、この方法では、赤色光の受光信号に重畳したノイズ等も増幅され、IR光の受光信号と同じような受光信号を得ることが難しい。
酸素飽和度測定部14は、脈波処理部12から出力された脈波信号から被測定者の酸素飽和度を測定する。具体的には、酸素飽和度測定部14は脈波信号を用いて、動脈4内の血液量の変化によるIR光の吸光量の変化量ΔAIRと、赤色光の吸光量の変化量ΔARedとをそれぞれ(1)式に従って算出する。そして、酸素飽和度測定部14は、算出した変化量ΔAIRと変化量ΔARedを用いて、例えば(2)式から被測定者の酸素飽和度を測定し、測定した酸素飽和度を酸素循環時間測定部17に出力する。
以降では一例として、酸素飽和度測定部14が被測定者の酸素飽和度を測定する例について説明するが、酸素飽和度測定部14は、被測定者の酸素飽和度の時間変化を示す値であればどのような値を測定してもよい。例えば、酸素飽和度測定部14は、酸素飽和度の逆数、又は変化量ΔARedと変化量ΔAIRの比率といった、酸素飽和度の時間変化と相関関係を有する値を測定してもよい。
図14のグラフは、被測定者の特定の部位における血中の酸素飽和度の変化例を示しており、横軸は時間を表し、縦軸は酸素飽和度の逆数を表している。
被測定者が時刻t0で呼吸を停止すると、被測定者における血中の酸素飽和度が減少し始める。被測定者が呼吸を停止する期間として予め定めた規定時間の経過後(時刻t1)に被測定者が呼吸を再開しても、呼吸の再開により血中に取り込まれた酸素が肺から特定の部位まで到達するのには時間がかかるため、時刻t1の後も被測定者における血中の酸素飽和度は減少する。そのうち、呼吸の再開により血中に取り込まれた酸素が肺から特定の部位まで到達するため、被測定者における血中の酸素飽和度は増加に転じる。血中の酸素飽和度が減少から増加に転じる箇所を「酸素飽和度変曲点」といい、酸素飽和度変曲点が現れた時刻を時刻t2とすれば、酸素循環時間は時刻t1と時刻t2の差分によって表される。
すなわち、酸素循環時間とは、肺から特定の部位まで酸素が運搬されるのに要する時間を表し、「酸素運搬時間」とも呼ばれる。
酸素飽和度から測定される酸素循環時間は、呼吸の停止期間のばらつきによって測定精度もばらつく傾向があるため、呼吸の停止期間を規定した規定時間が設けられている。
規定時間は、生体情報測定装置10における酸素循環時間の測定精度が高くなるように、生体情報測定装置10の実機による実験や生体情報測定装置10の設計仕様に基づくコンピュータシミュレーション等により予め求められている値である。
酸素循環時間測定部17は、図4に示すように、検出部30、酸素飽和度回復時期特定部31、及び酸素循環時間算出部32を含む。検出部30は、呼吸停止時期特定部40及び呼吸再開時期特定部41を含む。
呼吸停止時期特定部40は、呼吸波形抽出部13から出力された呼吸波形に基づき、呼吸が停止した呼吸停止時期を特定する。具体的には、呼吸波形の第1の呼吸変曲点と第2の呼吸変曲点との差分に相当する値の変動幅が第1の変動幅から第1の変動幅よりも小さい第2の変動幅に変化したことを検出した場合に、検出した時期を呼吸停止時期として特定する。この場合、第1の変動幅とは、呼吸している状態における第1の呼吸変曲点と第2の呼吸変曲点との差分の変動幅であり、第2の変動幅とは、呼吸を停止している状態における第1の呼吸変曲点と第2の呼吸変曲点との差分の変動幅である。
例えば図15に示すような脈波信号から求めた呼吸波形S7-1について呼吸停止時期を特定する場合について説明する。なお、図15には、参考までに、鼻息の温度から求めた呼吸波形S7-2を示した。図15に示すように、時間順(t1、t2、t3、・・・)に第1の呼吸変曲点Pt1、第2の呼吸変曲点Bt2、第1の呼吸変曲点Pt3、第2の呼吸変曲点Bt4・・・とした場合に、振幅Anを次式により算出する。
(数6)
An=Ptn-Btn+1 ・・・(6)
上記(6)式においてnは奇数である。そして、振幅Anと一つ前の振幅An-1とを比較し、振幅Anが振幅An-1よりも予め定めた閾値以上小さくなっていた場合、すなわち、呼吸している状態から呼吸が停止した状態に変化した場合のように振幅が大きく減少した場合は、第1の呼吸変曲点Ptnの位置(時間)を呼吸停止時期として特定する。図15の例の場合、振幅A7は振幅A5と比較すると予め定めた閾値以上小さくなっているため、t7の時点が呼吸停止時期として特定される。
なお、呼吸している期間が長い場合は、振幅Anの一つ前の振幅An-1との比較ではなく、振幅Anより前の複数の振幅An-1、An-2、・・・の平均値と比較してもよい。
呼吸再開時期特定部41は、呼吸波形抽出部13から出力された呼吸波形に基づき、呼吸を停止してから呼吸を再開した呼吸再開時期を特定する。具体的には、呼吸波形の第1の呼吸変曲点と第2の呼吸変曲点との差分に相当する値の変動幅が第1の変動幅から第1の変動幅よりも大きい第2の変動幅に変化したことを検出した場合に、検出した時期を呼吸再開時期として特定する。この場合、第1の変動幅とは、呼吸を停止している状態における第1の呼吸変曲点と第2の呼吸変曲点との差分の変動幅であり、第2の変動幅とは、呼吸している状態における第1の呼吸変曲点と第2の呼吸変曲点との差分の変動幅である。
例えば図16に示すような呼吸波形S8-1について呼吸再開時期を特定する場合について説明する。なお、図16には、参考までに、鼻息の温度から求めた呼吸波形S8-2を示した。図16に示すように、呼吸停止時期の特定の場合と同様に、時間順に第1の呼吸変曲点Pt1、第2の呼吸変曲点Bt2、第1の呼吸変曲点Pt3、第2の呼吸変曲点Bt4・・・とした場合に、振幅Anを上記(6)式により算出する。
そして、振幅Anと一つ前の振幅An-1とを比較し、振幅Anが振幅An-1よりも予め定めた閾値以上大きくなった場合、すなわち、呼吸が停止している状態から呼吸が再開した状態に変化した場合のように振幅が大きく増加した場合は、第1の呼吸変曲点Ptnの位置(時間)を呼吸再開時期として特定する。なお、呼吸停止期間が長い場合は、振幅Anの一つ前の振幅An-1との比較ではなく、振幅Anより前の複数の振幅An-1、An-2、・・・の平均値と比較してもよい。
なお、変動幅が第1の変動幅から第2の変動幅に変化した回数を検出するようにしてもよい。これにより、呼吸状態が変化した回数がカウントされる。
酸素飽和度回復時期特定部31は、酸素飽和度測定部14が測定した酸素飽和度に基づいて、酸素飽和度が回復に向かう酸素飽和度回復時期を特定する。すなわち、前述したように、酸素飽和度が減少から増加に転じる酸素飽和度変曲点を酸素飽和度回復時期として特定する。
酸素循環時間算出部32は、呼吸再開時期特定部41が特定した呼吸再開時期と酸素飽和度回復時期特定部31が特定した酸素飽和度回復時期とに基づいて、被測定者の体内に取り込まれた酸素が被測定者の測定部位に到達するまでの時間を表す酸素循環時間を算出する。
具体的には、呼吸再開時期特定部41により特定された呼吸再開時期をt1、酸素飽和度回復時期特定部31により特定された酸素飽和度回復時期をt2とし、t1とt2の差分で表される時間を酸素循環時間として測定する。
そして、酸素循環時間測定部17は、測定した酸素循環時間を心拍出量測定部18に出力する。
なお、酸素循環時間の測定部位は、被測定者における光電センサ11の取り付け位置によって決定されるが、本実施の形態では光電センサ11を被測定者の指先に装着し、肺から指先まで酸素が運搬される場合の酸素循環時間を測定する。これは、他の部位に比べて肺からの距離が長くとれることにより酸素循環時間が長くなることから、他の部位に光電センサ11を取り付けた場合と比較して、精度の高い酸素循環時間が得られるためである。
したがって、肺から指先までの酸素循環時間を、特にLFCT(Lung to Finger Circulation Time)ということがある。本実施の形態においても、光電センサ11を被測定者の指先に取り付け、酸素循環時間測定部17でLFCTを測定する例について説明するが、光電センサ11の取り付け部位は指先に限られない。得られる酸素循環時間の測定誤差が予め定めた範囲内に含まれるような部位であればよい。そのような部位としては、例えば、被測定者の首、肩、または股関節よりも末消側の部位(末消部位)があげられる。具体的には、耳たぶ、手首、足首、肘や膝の内側等、被測定者の何れの部位に光電センサ11を取り付けてもよい。なお、「指先」とは被測定者の手の指先を指すが、足の指先に光電センサ11を取り付けてもよい。
心拍出量測定部18は酸素循環時間算出部32が算出した酸素循環時間に基づいて、被測定者の心拍出量を算出する。
心拍出量COは、例えば(7)式に示す公知の演算式を用いてLFCTから得られる。
(数7)
CO=(a0×S)/LFCT ・・・(7)
ここで、a0は定数であり、例えばa0=50が用いられる。また、Sは被測定者の体表面積(m2)であり、LFCTの単位は秒である。
なお、心拍出量測定部18は心拍出量の他に、心拍出量に関する情報を測定してもよい。「心拍出量に関する情報」とは、心拍出量と相関関係が認められる情報であり、例えば心係数及び1回拍出量等が含まれる。
「心係数」とは、被測定者の体格差による心拍出量の違いを補正するため、被測定者の心拍出量を被測定者の体表面積で割った値である。また、「1回拍出量」とは、心臓が1回の収縮によって動脈4へ拍出する血液の量を示す値であり、心拍出量を被測定者の1分間の心拍数で割ることで求められる。
上述した生体情報測定装置10は、例えばコンピュータを用いて構成される。図17は、コンピュータ20を用いて構成された生体情報測定装置10における電気系統の要部構成例を示す図である。
コンピュータ20は、CPU(Central Processing Unit)21、ROM(Read Only Memory)22、RAM(Random Access Memory)23、不揮発性メモリ24、及び入出力インターフェース(I/O)25を備える。そして、CPU21、ROM22、RAM23、不揮発性メモリ24、及びI/O25がバス26を介して各々接続されている。なお、CPU21は、脈波処理部12、呼吸波形抽出部13、酸素飽和度測定部14、酸素循環時間測定部17、及び心拍出量測定部18として機能する。
不揮発性メモリ24は、不揮発性メモリ24に供給される電力が遮断されても記憶した情報を維持する記憶装置の一例であり、例えば半導体メモリが用いられるがハードディスクであってもよい。
I/O25には、例えば光電センサ11、入力ユニット27、表示ユニット28、及び通信ユニット29が接続される。
光電センサ11はI/O25と有線又は無線によって接続される。なお、生体情報測定装置10と光電センサ11とが分離されるように、それぞれを別体として構成してもよく、生体情報測定装置10と光電センサ11とが一体化されるように、それぞれを同じ筺体に収容する構成としてもよい。
入力ユニット27は、例えば生体情報測定装置10のユーザの指示を受け付けてCPU21に通知するユニットである。入力ユニット27には、例えばボタン、タッチパネル、キーボード、及びマウス等が含まれる。ここで生体情報測定装置10のユーザとは、例えば被測定者及び生体情報測定装置10を操作する例えば医療従事者等の操作者が含まれる。
表示ユニット28は、例えばCPU21で処理された情報を視覚的に生体情報測定装置10のユーザに表示するユニットである。表示ユニット28には、例えば液晶ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)、及びプロジェクタ等の表示装置が用いられる。
なお、表示ユニット28は必ずしも生体情報測定装置10に必要なユニットではなく、例えば呼吸の再開指示等を生体情報測定装置10のユーザに報知するものであれば、どのような種類のユニットがI/O25に接続されてもよい。
例えば、生体情報測定装置10から通知される情報を生体情報測定装置10のユーザに音声で通知する場合、表示ユニット28の代わりに例えばスピーカーユニットを接続してもよい。また、生体情報測定装置10から通知される情報を生体情報測定装置10のユーザに体感を通して通知する場合、表示ユニット28の代わりに例えば振動ユニットを接続してもよい。更には、例えば表示ユニット28及びスピーカーユニットのように複数のユニットを用いて、生体情報測定装置10から通知される情報を生体情報測定装置10のユーザに通知してもよい。
通信ユニット29は、例えばインターネット等の通信回線と生体情報測定装置10を接続する通信プロトコルを備え、通信回線に接続される他の外部装置と生体情報測定装置10との間でデータ通信を行う。通信ユニット29における通信回線への接続形態は有線であっても無線であってもよい。生体情報測定装置10が通信回線に接続される他の外部装置とデータ通信を行う必要がなければ、必ずしもI/O25に通信ユニット29を接続する必要はない。
なお、I/O25に接続されるユニットは上述した例に限られず、例えば印字ユニット等、他のユニットをI/O25に接続してもよい。
次に、図18を用いて、生体情報測定装置10の動作について説明する。
図18は、被測定者の指先に光電センサ11が取り付けられた状態で、生体情報測定装置10のユーザから入力ユニット27を介して心拍出量の測定指示を受け付けた場合に、CPU21によって実行される生体情報測定処理の流れの一例を示すフローチャートである。生体情報測定装置10は心拍出量の測定指示を受け付けると、少なくとも心拍出量の測定が終了するまで被測定者の呼吸波形を抽出し続けると共に、酸素飽和度を測定し続けるものとする。
生体情報測定処理を規定する生体情報測定プログラムは、例えば生体情報測定装置10のROM22に予め記憶されている。生体情報測定装置10のCPU21は、ROM22に記憶される生体情報測定プログラムを読み込み、生体情報測定処理を実行する。
ステップS100では、脈波信号を生成する。すなわち、光電センサ11から受け付けたIR光及び赤色光のそれぞれの受光量を用いて、IR光から得られた被測定者の脈波を表す脈波信号と、赤外光から得られた被測定者の脈波を表す脈波信号をそれぞれ生成する。なお、脈波信号の生成は、少なくとも後述するステップS118において酸素飽和度回復時期が検出されるまでは繰り返し実行される。
ステップS102では、図19に示す呼吸波形の抽出処理を実行する。呼吸波形の抽出処理は、少なくとも後述するステップS114において呼吸の再開が検知されるまでは繰り返し実行される。
図19に示すように、呼吸波形の抽出処理では、まずステップS200において、脈波信号を取得する。
ステップS202では、ステップS200で取得した脈波信号に対してフィルタ処理を実行する。すなわち、脈波信号から脈動に対応した第1の周波数成分よりも低い第2の周波数成分を除去する。
ステップS204では、ステップS202でフィルタ処理された脈波信号から第1の脈波変曲点及び第2の脈波変曲点を検出する。
ステップS206では、ステップS204で検出した第1の脈波変曲点及び第2の脈波変曲点に対して、隣接する第1の脈波変曲点の間を補間すると共に、隣接する第2の脈波変曲点の間を補間する。
ステップS208では、第1の脈波変曲点と、第1の脈波変曲点と時間的に同じ位置に補間されたボトム側の点と、の差分を算出する。また、第2の脈波変曲点と、第2の脈波変曲点と時間的に同じ位置に補間されたボトム側の点と、の差分を算出する。これにより差分波形が生成される。
ステップS210では、ステップS208で求めた差分波形に対してフーリエ変換を実行する。
ステップS212では、ステップS210のフーリエ変換の結果に基づいて遮断周波数を決定する。すなわち、フーリエ変換の結果から呼吸の主成分に相当する最大周波数成分fmaxを求め、求めた最大周波数成分の前後の周波数を遮断周波数fc1、fc2として決定する。
ステップS214では、ステップS210で生成した差分波形に対して、ステップS212で決定した遮断周波数fc1以下の周波数成分及び遮断周波数fc2以上の周波数成分を除去するフィルタ処理を実行する。これにより、呼吸波形が抽出される。
図18のステップS104では、酸素飽和度を測定する。すなわち、ステップS100で生成した脈波信号からIR光の吸光量の変化量及び赤色光の吸光量の変化量を算出し、算出した双方の変化量を用いて酸素飽和度を測定する。
ステップS106では、被測定者に呼吸を停止するよう指示する。具体的には、息を吸って吐いた状態で呼吸を停止するよう促すメッセージを表示ユニット28に表示する。また、生体情報測定装置10にスピーカーユニットが接続されている場合、CPU21は、例えば呼吸を停止するよう促す音声をスピーカーユニットから出力する。
ステップS108では、呼吸波形を参照し、被測定者が呼吸を停止したか否かを判定する。すなわち、呼吸波形の第1の呼吸変曲点と第2の呼吸変曲点との差分に相当する値の変動幅が第1の変動幅から第1の変動幅よりも小さい第2の変動幅に変化したか否かを判定する。
そして、被測定者が呼吸を停止していない、すなわち呼吸が継続されていると判定された場合はステップS108の処理を繰り返し実行して、被測定者の呼吸波形を監視する。一方、被測定者が呼吸を停止したと判定された場合はステップS110に移行する。
ステップS110では、呼吸の停止期間が規定時間に達したか否かを判定する。呼吸の停止期間が規定時間に達していない場合にはステップS110の処理を繰り返し実行して、被測定者における呼吸の停止期間を監視する。一方、呼吸の停止期間が規定時間に達した場合にはステップS112に移行する。
ステップS112では、被測定者に呼吸を再開するよう指示する。具体的には、呼吸を再開するよう促すメッセージを表示ユニット28に表示する。また、生体情報測定装置10にスピーカーユニットが接続されている場合、CPU21は、例えば呼吸を再開するよう促す音声をスピーカーユニットから出力する。
ステップS114では、呼吸波形を参照し、被測定者が呼吸を再開したか否かを判定する。すなわち、呼吸波形の第1の呼吸変曲点と第2の呼吸変曲点との差分に相当する値の変動幅が第1の変動幅から第1の変動幅よりも大きい第2の変動幅に変化したか否かを判定する。
そして、被測定者が呼吸を再開していない、すなわち呼吸停止が継続されていると判定された場合はステップS114の処理を繰り返し実行して、被測定者の呼吸波形を監視する。一方、被測定者が呼吸を再開したと判定された場合はステップS116に移行する。
なお、ステップS112では、呼吸の停止期間が規定時間に達するタイミングに合わせて呼吸の再開指示を被測定者に指示したが、呼吸の再開が突然指示されると、被測定者は呼吸の再開指示を受けてから実際に呼吸を再開するまでに遅れが生じることがある。したがって、呼吸の停止期間中に、あとどのくらい呼吸を停止していればよいかを被測定者に知らせるため、規定時間に達するまでの残り時間を表示ユニット28に逐次表示して、被測定者に呼吸の停止期間の終了時期を事前に通知してもよい。
ステップS116では、被測定者の呼吸の再開を検知した時点の時刻t1を例えばCPU21に内蔵された図示しないタイマから取得して、取得した時刻t1を呼吸再開時期としてRAM23に記憶する。
ステップS118では、酸素飽和度回復時期が特定できたか否かを判定する。すなわち、酸素飽和度変曲点を検知したか否か、換言すれば、酸素飽和度が減少から回復に転じたか否かを判定する。
そして、酸素飽和度が減少し続け、変曲点が検知されない場合にはステップS118の処理を繰り返し実行して、酸素飽和度の変化を監視する。一方、酸素飽和度変曲点が検知された場合にはステップS120に移行する。
ステップS120では、酸素飽和度変曲点を検知した時点の時刻t2を取得して、取得した時刻t2を酸素飽和度回復時期としてRAM23に記憶する。そして、時刻t2とステップS116でRAM23に記憶した時刻t1の差分をLFCTとして算出する。
ステップS122では、ステップS120で取得したLFCTを用いて、例えば(7)式から心拍出量を測定する。更に、測定した心拍出量を用いて心拍出量に関する情報を算出してもよい。
なお、LFCTが精度よく測定される呼吸の停止期間は、例えば被測定者の年齢、性別、及び体調等によって変化する。したがって、生体情報測定装置10のユーザが入力ユニット27を介して生体情報測定装置10に設定した被測定者の情報に基づいて、CPU21は、呼吸の停止期間を規定する規定時間を被測定者毎に調整してもよい。また、生体情報測定装置10のユーザが規定時間を調整してもよい。
規定時間は例えば1秒単位で設定してもよく、例えば15秒、20秒、及び25秒のように、予め用意した複数の時間から選択された時間を規定時間として設定してもよい。規定時間の設定単位に制限はなく、例えばミリ秒単位であっても5秒単位であってもよい。
設定した被測定者毎の規定時間は例えば不揮発性メモリ24に記憶され、心拍出量の測定指示に先立って、被測定者の名前又は患者番号といった被測定者を識別する情報が生体情報測定装置10に入力されると、CPU21は、被測定者に対応付けられた規定時間を図18のステップS110の判定に用いるようにする。
なお、本実施形態では、図18のステップS114において、被測定者の呼吸が再開されるのを待ってからLFCTの測定を開始する場合について説明したが、生体情報測定装置10から被測定者に呼吸の再開を指示してから被測定者の呼吸が再開されるまでの期間が遅れると、呼吸の停止期間が規定時間よりも長くなり、呼吸の停止期間を規定時間に合わせた場合と比較してLFCTの測定精度が低くなることがある。
したがって、呼吸の再開を指示してから被測定者の呼吸が再開されるまでの期間が、予め定めた期間である許容遅延期間以内の場合に、CPU21はLFCTを測定するようにしてもよい。換言すれば、CPU21は、呼吸の再開を指示してから被測定者の呼吸が再開されるまでの期間が許容遅延期間を超えた場合、図18のステップS116以降の処理の実行を中止して、LFCTを測定することなく図18に示す生体情報測定処理を終了してもよい。
このように第1実施形態に係る生体情報測定装置10によれば、呼吸波形の第1の呼吸変曲点と第1の呼吸変曲点の次に現れる第2の呼吸変曲点との差分に相当する値の変動幅が第1の変動幅から第1の変動幅よりも大きい第2の変動幅に変化したことを検出した場合を呼吸再開時期として特定する。また、呼吸波形の第1の呼吸変曲点と第1の呼吸変曲点の次に現れる第2の呼吸変曲点との差分に相当する値の変動幅が第1の変動幅から第1の変動幅よりも小さい第2の変動幅に変化したことを検出した場合を呼吸停止時期として特定する。これにより、呼吸を直接検出することなく被測定者の呼吸状態が変化したことが検出される。
なお、本実施形態では、呼吸波形の第1の呼吸変曲点と第1の呼吸変曲点の次に現れる第2の呼吸変曲点との差分に相当する値の変動幅が、第1の変動幅から第2の変動幅に変化したことを検出する場合について説明したが、脈波信号の第1の脈波変曲点の変動幅が第1の変動幅から第2の変動幅に変化したことを検出するようにしてもよいし、脈波信号の第2の脈波変曲点の変動幅が第1の変動幅から第2の変動幅に変化したことを検出するようにしてもよい。
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同一部分については同一符号を付し、詳細な説明は省略する。
図20には、第2実施形態に係る呼吸波形抽出部13Aの構成例を示した。図20に示す呼吸波形抽出部13Aが図7に示す呼吸波形抽出部13と異なる点は、解析部60及び遮断周波数決定部62に代えて基線算出部59を備えた点である。
基線算出部59は、差分波形から差分波形の変化の傾向を表す基線、すなわち差分波形の低周波成分を算出する。具体的には、基線算出部59は、移動平均フィルタとしての機能を有し、差分波形に対して移動平均処理を実行することにより差分波形の基線を算出する。このように、移動平均処理を用いることで、信号の上下変化に対応した基線を求められる。図21には、基線の一例として差分波形S10の基線S11を示した。なお、移動平均処理は、単純移動平均法や、多項式適合法、適応化平滑化法などがあり、どの手法を適用してもよい。ただし、単純移動平均法は、平均点数を増やすと信号歪が大きくなる傾向があり、本実施の形態における基線の算出に適用した場合、必要な信号成分まで平滑化されやすくなる。一方、多項式適合法又は適応化平滑化法は単純移動平均法より複雑な処理が必要ではあるが、本実施の形態における基線の算出に適用した場合、単純移動平均法と比較し、信号のピークや幅などを表す高周波成分を維持しながら平滑化される。よって、より精度が高い呼吸波形を抽出な場合は、多項式適合法又は適応化平滑化法を用いるとよい。更に、多項式適合法を用いる場合は、最小二乗平滑化処理の一例であるSavitzky-Golay法を用いるとよい。Savitzky-Golay法は、他の方式と比較し比較的容易に複雑な処理を実行することが可能であり、本実施の形態における基線の算出において有用である。なお、基線の算出方法としては、移動平均法以外の方法を用いてもよい。
第2の除去部64は、差分波形を基線算出部59により算出された基線で除算することで、差分波形から被測定者の呼吸に対応した周波数成分以外の周波数成分、具体的には低周波成分の少なくとも一部を除去する。図22には、差分波形S10を基線S11で除算した波形S12を示した。なお、波形S12を算出する場合に、差分波形を基線で規格化できればよく、除算以外の方法を使用して規格化してもよい。
また、第2の除去部64は、差分波形を基線で除算した波形に対して平滑化処理、具体的には、例えば移動平均処理を実行し、高周波成分を除去する。図23には、波形S12に対してSavitzky-Golay法を用いた最小二乗平滑化処理を実行した波形S13を示した。ここで、Savitzky-Golay法を用いた最小二乗平滑化処理は、移動平均処理の一例である。なお、移動平均処理としては、基線算出部59における処理と同様に、様々な移動平均処理が適用可能である。また、移動平均法以外の方法を用いて平滑化処理を行ってもよい。
ここで、心拍出量測定においては、呼吸を再開したタイミングと停止タイミングを精度よく測定することが望まれるが、第1の実施形態では、周波数フィルタを用いているため、算出した呼吸波形に時間的な遅れが生じる。これに対し、第2の実施形態では、基線を用いることで遅延が抑制される。よって、周波数フィルタを用いる場合と比較し、呼吸の停止および再開を精度よく特定しやすい。また、図15の呼吸の停止を判断する方法においては、周波数フィルタを用いた場合は、振幅A5が第2の実施形態より小さくなる傾向がみられ、図16の呼吸の再開を判断する方法においては、振幅A9が第2の実施形態より小さくなる傾向がみられる。このように、呼吸停止及び再開の判断を行う場合に、第2の実施形態を採用した方が精度が高まる。
次に、呼吸波形抽出部13Aで実行される呼吸波形抽出処理について図24に示すフローチャートを参照して説明する。
図24に示す呼吸波形抽出処理が図19に示す呼吸波形抽出処理と異なる点は、ステップS210、S212、S214に代えてステップS211、S213、S215の処理を実行する点である。
ステップS211では、ステップS208で求めた差分波形に対して最小二乗平滑化処理を実行することにより差分波形の基線を算出する。
ステップS213では、差分波形をステップS211で求めた基線で除算する。
ステップS215では、ステップS213で求めた波形に対して最小二乗平滑化処理を実行し、高周波成分を除去する。
このように、本実施形態では、差分波形から差分波形の変化の傾向を表す基線を算出し、算出した基線で差分波形を除算することで差分波形から被測定者の呼吸に対応した周波数成分以外の周波数成分を除去する。
以上、各実施の形態を用いて本発明について説明したが、本発明は各実施の形態に記載の範囲には限定されない。本発明の要旨を逸脱しない範囲で各実施の形態に多様な変更又は改良を加えることができ、当該変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
例えば、上記各実施形態では、受光素子3で受光したIR光及び赤色光のそれぞれの受光量が脈波処理部12に入力される構成としたが、脈波処理部12を省略して、受光素子3で受光したIR光及び赤色光のそれぞれの受光量が直接呼吸波形抽出部13及び酸素飽和度測定部14に入力される構成としてもよい。
また、上記各実施形態では、IR光と赤色光との組み合わせによる例を示したが、緑色光と赤色光との組み合わせであってもよい。ここで緑色光とは、500nm以上で且つ560nm未満の波長の光をいう。更には、IR光、赤色光、および緑色光のそれぞれに対応する三種類の発光素子を使用し、IR光と赤色光とで酸素飽和度を測定し、緑色光で呼吸波形を抽出するようにしてもよい。
また、図4に示した生体情報測定装置10を、光電センサ11、脈波処理部12、及び呼吸波形抽出部13のみを備えた構成としてもよい。言い換えると、酸素飽和度、酸素循環時間、及び心拍出量に関する測定機能を有する構成としてもよいし、有さない構成としてもよい。また、呼吸波形抽出部13の後段に、抽出した呼吸波形から、呼吸数、呼吸周期、呼吸の深さ、呼吸停止回数等の呼吸に関する呼吸情報を算出する呼吸情報算出部を設け、呼吸情報を算出する生体情報測定装置として構成してもよい。この場合、脈波を検出しやすい緑色光を使用するとよい。
また、各実施の形態では、一例として生体情報測定処理をソフトウエアで実現する形態について説明したが、図18、図19、及び図24に示したフローチャートと同等の処理を、例えばASIC(Application Specific Integrated Circuit)に実装し、ハードウエアで処理させるようにしてもよい。この場合、検出処理の高速化が図られる。
また、上述した各実施の形態では、生体情報測定プログラムがROM12にインストールされている形態を説明したが、これに限定されるものではない。本発明に係る生体情報測定プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記録された形態で提供することも可能である。例えば、本発明に係る生体情報測定プログラムを、CD(Compact Disc)-ROM、又はDVD(Digital Versatile Disc)-ROM等の光ディスクに記録した形態で提供してもよい。また、本発明に係る生体情報測定プログラムを、USBメモリ及びフラッシュメモリ等の半導体メモリに記録した形態で提供してもよい。更に、生体情報測定装置10は通信ユニット29を介して、通信回線に接続された外部装置から本発明に係る生体情報測定プログラムを取得するようにしてもよい。