JP7052514B2 - 車両用環境試験室の空調システム - Google Patents

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Description

本発明は、車両用環境試験室の空調システムに関する。
自動車の開発現場では、様々な試験装置が用いられている(例えば、特許文献1-3および非特許文献1を参照)。
特開平9-61307号公報 特開2012-163389号公報 特開昭55-117938号公報
市橋弘茂、「省エネルギーを目指した自動車環境試験室向け直膨空調システム」、日本冷凍空調学会、平成24年2月、第87巻、第1012号、p. 43―49
車両を所望の環境下で試験する環境試験室には、環境試験室内の温度や湿度を調整する空調機、走行中の車両が受ける走行風を模擬する車風速ファン、走行中の車両が路面から受ける抵抗等を模擬するダイナモメータ、その他の各種装置類が設けられている。車両の試験においては、例えば、温暖な地域の環境を模擬する場合のみならず、北極圏のような極めて低温な環境を模擬する場合もあるため、環境試験室の空調には、従来、冷却能力の大きい大型の空調機が用いられていた。大型の空調機は、多大な設置スペースを要するため、環境試験室の室外に設置されることが多い。しかし、空調機を環境試験室の室外に設置する場合、空調機と環境試験室とを繋ぐ空調用のダクトが必要になるため、ダクトの通気抵抗等に起因する空調動力の損失が不可避的に生ずる。
そこで、近年著しい空調機の高性能化や省エネ化、環境試験室を断熱する断熱材の高性能化に鑑み、空調機を環境試験室内に設置することでダクトを省略し、ダクトの通気抵抗等に起因する空調動力の損失の抑制を図ることが考えられる。しかし、空調機を環境試験室内に設置すると、ダイナモメータに搭載されている車両の車速に連動して風量が増減する車風速ファンの気流が空調機の吸気に影響を及ぼす可能性がある。
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、空調機を環境試験室内に設置し且つ当該環境試験室を小型化した場合に、車風速ファンの気流が空調機に及ぼす影響を可及的に抑制することを課題とする。
上記課題を解決するため、本発明では、車両用環境試験室の天井面の車風速ファン付近に空調機を設置すると共に、少なくともダイナモメータの前輪用のローラの上部から空調機の底部へ至る整流板を車両用環境試験室の上部に配置することにした。
詳細には、本発明は、ダイナモメータと、ダイナモメータに載る車両へ走行風を送る車風速ファンが室内に設置されている車両用環境試験室の空調システムであって、車両用環境試験室の天井面のうち車風速ファン付近に設置されており、車風速ファンの風向と逆方
向に気流を発生させる空調ファンを有する空調機と、車両用環境試験室の上部に配置される板状の部材であり、少なくともダイナモメータの前輪用のローラの上部から空調機の底部へ至る第1整流板と、を備える。
上記の空調システムであれば、空調機の吸気側に設置された第1整流板が、車両に当たって上方向に流れた気流が空調機を経由せずに車風速ファンへ流れるのを防ぐ。よって、空調機の吸気側は、車風速ファンが発生する気流の影響を受けにくい。
なお、車両用環境試験室の天井面は、水平面であり、第1整流板は、天井面と平行に配置されていてもよい。天井面が水平面となっている車両用環境試験室において、第1整流板がこのように設置されていれば、車両に当たった車風速ファンの風が天井面に沿って空調機へスムーズに流れる。よって、空調機へ向かう気流の流れが安定し、車風速ファンの気流が空調機の吸気に影響を及ぼしにくい。
また、第1整流板は、空調機が車両用環境試験室を車両用環境試験室の設計条件に沿って温度制御可能となる程度に、車風速ファンから車両へ送られた走行風が空調機を経由せずに車風速ファンへ戻る量を抑制する長さを有していてもよい。ここで、車両用環境試験室の設計条件とは、車両の環境試験を適正に行うために車両用環境試験室に要求される諸条件であり、例えば、車両用環境試験室の温度の精度及び移行時間が挙げられる。車両用環境試験室を適正に温度制御するには、空調機が車両用環境試験室内の空気を適正に吸引することが望ましい。この点、第1整流板が上記の長さを有していれば、空調機が車両用環境試験室内の空気を適正に吸引し、車両用環境試験室を設計条件に沿って空調することが可能となる。
上記の車両用環境試験室の空調システムであれば、空調機を環境試験室内に設置し且つ当該環境試験室を小型化した場合に、車風速ファンの気流が空調機に及ぼす影響を可及的に抑制することが可能である。
図1は、車両用環境試験室の全体構成を示した概略図である。 図2は、空調機の内部構造を示した図である。 図3は、空調機を吸気口側から示した図である。 図4は、車両用環境試験室の内部構造を側方(車両の左側)から示した図である。 図5は、車両用環境試験室の内部構造を上方から示した図である。 図6は、空調システムの変形例を示した図である。 図7は、車両用環境試験室の空調システムの第1比較例を示した図である。 図8は、第1比較例に係る車両用環境試験室の全体構成を示した概略図である。 図9は、第2比較例に係る車両用環境試験室の全体構成を示した概略図である。 図10Aは、整流板の長さに対する気流への影響を解析したシミュレーション結果の図である。 図10Bは、整流板の効果を解析したシミュレーション結果の図である。 図10Cは、比較例2に相当する車両用環境試験室で天井高が8mある場合の気流と温度分布を解析したシミュレーション結果の図である。 図10Dは、比較例2に相当する車両用環境試験室で天井高が8mある場合の気流と風速の分布を解析したシミュレーション結果の図である。 図10Eは、比較例2に相当する車両用環境試験室で天井高が4mある場合のシミュレーション結果の図である。 図10Fは、実施例1に相当する車両用環境試験室で整流板の長さが1.85mある場合のシミュレーション結果の図である。 図10Gは、実施例1に相当する車両用環境試験室で整流板の長さが2.85mある場合のシミュレーション結果の図である。 図10Hは、実施例1に相当する車両用環境試験室で整流板の長さが3.00mある場合のシミュレーション結果の図である。 図10Iは、実施例1に相当する車両用環境試験室で整流板の長さが3.30mある場合のシミュレーション結果の図である。 図10Jは、実施例2に相当する車両用環境試験室で整流板の長さが3.30mある場合のシミュレーション結果の図である。 図10Kは、実施例1に相当する車両用環境試験室で整流板の長さが3.85mある場合のシミュレーション結果の図である。 図10Lは、実施例1に相当する車両用環境試験室で整流板の長さが4.85mある場合のシミュレーション結果の図である。 図10Mは、実施例1に相当する車両用環境試験室で整流板の長さが5.85mある場合のシミュレーション結果の図である。 図10Nは、実施例1に相当する車両用環境試験室で整流板の長さが6.85mある場合のシミュレーション結果の図である。 図10Oは、実施例1に相当する車両用環境試験室で整流板の長さが7.85mある場合のシミュレーション結果の図である。 図10Pは、比較例1に相当する車両用環境試験室のシミュレーション結果の図である。
以下、本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態は、本発明の実施形態の一例であり、本発明の技術的範囲を以下の態様に限定するものではない。
図1は、車両用環境試験室の全体構成を示した概略図である。車両用環境試験室1は、床1F、天井面1R、壁面1WF、壁面1WB、壁面1WL、壁面1WRに囲まれる空間であり、床1Fにシャシダイナモメータ設備2(本願でいう「ダイナモメータ」の一例である)と車風速ファン3が設置されている。シャシダイナモメータ設備2は、試験対象の車両4が走行中に路面から受ける抵抗等を模擬する装置であり、車両4の前輪を支持するローラ2Fと、車両4の後輪を支持するローラ2Rとを有する。ローラ2Fとローラ2Rは、動力伝達機構を介して互いに連動するように構成されており、車両4が前輪駆動車あるいは後輪駆動車であっても非駆動輪側のローラ(ローラ2Fまたはローラ2R)が回転する。車風速ファン3は、車両4が走行中に受ける走行風を模擬する電動のファンであり、車両4の車速に一致する風速の走行風が発生するようにモータの回転数がインバータで制御される。
なお、車両用環境試験室1では、車風速ファン3が発生させる走行風がシャシダイナモメータ設備2によって乱されるのを防ぐため、シャシダイナモメータ設備2が床1Fに埋め込まれている。しかし、車両用環境試験室1は、シャシダイナモメータ設備2を床1Fに埋め込んだ形態に限定されるものではない。車両用環境試験室1は、例えば、床1Fに置かれた小型のシャシダイナモメータ設備を有するものであってもよい。また、シャシダイナモメータ設備2には車両4の前輪と後輪の両方に各々対応するローラ2Fとローラ2Rが備わっているが、シャシダイナモメータ設備2は、車両4の駆動輪に対応するローラのみを備える簡易型のものであってもよい。
車両用環境試験室1には空調システム5が備わっている。空調システム5は、空調機6と整流板7(本願でいう「第1整流板」の一例である)を備える。空調機6は、車両用環境試験室1の天井面1Rのうち車風速ファン3付近に設置されており、車風速ファン3の風向と逆方向に気流を発生させる空調ファンを内蔵する。また、整流板7は、水平な天井面1Rと平行に水平配置される板材であり、シャシダイナモメータ設備2に備わるローラ2Fの上部から空調機6の底部へ至る長さを有する。
整流板7の長さは、空調機6が車両用環境試験室1を車両用環境試験室1の設計条件に沿って温度制御可能となる程度に、車風速ファン3から車両4へ送られた走行風が空調機6を経由せずに車風速ファン3へ戻る量を抑制する長さである。車両用環境試験室1の設計条件とは、車両4の環境試験を適正に行うために車両用環境試験室1に要求される諸条件であり、例えば、車両用環境試験室1の温度の精度(許容できる温度の誤差)及び移行時間(設定温度を変更してから設定温度に到達するまでの時間)が挙げられる。整流板7がこのような長さを有していれば、空調機6が車両用環境試験室1内の空気を適正に吸引し、車両用環境試験室1を設計条件に沿って速やかに空調可能となる。
図2は、空調機6の内部構造を示した図である。また、図3は、空調機6を吸気口側から示した図である。空調機6は、空調ファン6A、加湿ノズル6C、電気ヒータ6D、直膨コイル6E、ドレンパン6Fを内蔵する空調ユニットである。空調ファン6Aは、空調機6の内部で3台並列に内蔵されている。電気ヒータ6Dと直膨コイル6Eは、3台ある空調ファン6Aの流路全てに跨るように構成されている。一方、加湿ノズル6Cは、重量低減のため、3台ある空調ファン6Aのうち1つの空調ファン6Aの流路に跨るように構成されている。電気ヒータ6Dには、車両用環境試験室1の制御装置によって通電状態が制御される電気ケーブルが接続されている。また、直膨コイル6Eには、冷凍機から供給されるホットガス(圧縮された冷媒ガス)を受け入れる冷媒入口6E-inと、冷凍機へ冷媒ガスを出す冷媒出口6E-outが設けられている。冷媒入口6E-inから直膨コイル6Eに流入したホットガスは、直膨コイル6E内で膨張することにより直膨コイル6Eのコイル表面を低温にし、空調ファン6Aから送風される空気を冷却する。
空調ファン6Aは、車両用環境試験室1で作る試験環境の温度条件に耐えるものが好ましい。また、空調ファン6Aは、車風速ファン3による気流の影響を受けても所定の風量を維持できる能力を有するものが好ましい。例えば、車両用環境試験室1で作る試験環境の温度条件の範囲がマイナス40℃から+25℃である場合、空調ファン6Aとしては、低温仕様のモータを備えた有圧ファンが好適である。
加湿ノズル6Cは、車両用環境試験室1で作る試験環境の湿度条件を満たす能力を有するものが好ましい。例えば、車両用環境試験室1で作る試験環境の湿度条件の範囲が40%から75%と広範な場合、加湿器から加湿ノズル6Cへ供給される蒸気が少量あるいは多量の何れであっても、蒸気が加湿ノズル6Cで凝縮してドレンパン6Fに滴下しにくいノズル形状を有していることが好ましい。また、車両用環境試験室1で氷点下の試験環境を作る場合には、加湿ノズル6C内に残留した水の凍結による破損や閉塞が生じないよう、加湿ノズル6Cは、内部で蒸気が凝縮しても凝縮水が内部に残留しない構造であることが好ましい。内部に凝縮水が残留しない構造としては、例えば、凝縮水を排水するための排水口を加湿ノズル6Cの最下部に設けた構造が挙げられる。
図4は、車両用環境試験室1の内部構造を側方(車両4の左側)から示した図である。また、図5は、車両用環境試験室1の内部構造を上方から示した図である。整流板7は、図4に示されるように、天井面1Rと平行に配置されており、ローラ2Fの上部から空調機6の底部へ至る長さを有している。また、整流板7は、壁面1WLから壁面1WRへ至る横幅を有している。また、整流板7には、空調機6の内部を吸気側から点検するための
点検扉7Aが備わっている。整流板7の素材は、気流を制御可能で且つ車風速ファン3の風圧に耐えるものであればよく、例えば、ステンレスやアルミニウム等の金属板、アクリル等の樹脂板、断熱性のパネル、微小な孔を多数設けたパンチングメタル、その他の各種素材を適用可能である。
また、空調システム5には、空調機6や整流板7の他、制御装置8や冷凍機9、冷却塔10、加湿器11、除湿機12が備わっている。制御装置8は、車両4の車速に応じて風量を増減させる車風速ファン3の制御量に比例して空調ファン6Aの風量を増減させる制御装置である。冷凍機9は、直膨コイル6Eへ冷媒を供給する冷凍機であり、冷媒配管を介して直膨コイル6Eの冷媒入口6E-inや冷媒出口6E-outと接続されている。冷却塔10は、冷凍機9に冷却水を供給する冷却塔であり、冷却水配管を介して冷凍機9の凝縮器と接続されている。加湿器11は、車両用環境試験室1を加湿するための蒸気を発生させる加湿器であり、蒸気配管を介して加湿ノズル6Cと接続されている。除湿機12は、車両用環境試験室1を除湿する除湿機であり、天井面1Rに設けられた吸排気口を通じて車両用環境試験室1の空気を除湿する。車両用環境試験室1が例えばマイナス40℃程度の温度に調整されている場合、車両用環境試験室1の室内が仮に相対湿度50%であったとしても、室温が25℃の場合に比べると絶対湿度は300分の1程度であり、また、極めて低温なので直膨コイル6Eの表面で結露水が凍結してしまう。そこで、除湿機12は、シリカゲル等を用いた化学吸着方式の除湿機となっている。
図6は、空調システム5の変形例を示した図である。空調システム5には、例えば、図6に示されるように、車両4の前輪付近において車両4の左側に立設される衝立状の整流板7Lと、車両4の前輪付近において車両4の右側に立設される衝立状の整流板7Rが更に備わっていてもよい(整流板7L,7Rは、本願でいう「第2整流板」の一例である)。整流板7Lは、車両4に当たった車風速ファン3からの風が空調機6を経由せずに車風速ファン3へ流れるのを防ぐための整流板であるため、車両4の左前輪付近から壁面1WLへ至る横幅と、床1Fから整流板7へ至る高さを有する。整流板7Rも整流板7Lと同様である。そして、整流板7L,整流板7Rの板面は、車風速ファン3から吹き出る風の方向に対して約45度の角度で斜め側方に傾いており、車両4に当たった車風速ファン3からの風が車両4の後方へスムーズに流れるよう、車両4の前方から後方へ向かって流路を徐々に広げるように配置されている。
図7は、車両用環境試験室の空調システムの第1比較例を示した図である。車両用の環境試験室に従来用いられていた空調システムの一例としては、例えば、図7に示されるように、環境試験室とは別に用意された機械室に空調機を設置したものがある。空調機を環境試験室の室外に設置する場合、空調機と環境試験室とを繋ぐ空調用のダクトが必要になるため、ダクトの通気抵抗等に起因する空調動力の損失が不可避的に生ずる。また、ダクトや空調機の保温材等を通じた熱エネルギーの損失も不可避的に生ずる。
一方、上記実施形態や変形例の空調システム5のように、空調機6を車両用環境試験室1の中に配置する場合、車両用環境試験室1と空調機6とを繋ぐダクトが不要であり、また、ダクトや空調機の保温材等を通じた熱エネルギーの損失も生じない。
また、上記実施形態や変形例の空調システム5では、空調機6の風量が車風速ファン3の風量と比例するように空調ファン6Aが制御装置8で制御されるため、シャシダイナモメータ設備2に搭載されている車両4の車速に連動して風量が増減する車風速ファン3の気流が空調機6の吸気側へ及ぼす影響が可及的に抑制される。すなわち、車風速ファン3と空調機6が相互に及ぼす気流の影響の度合いは、車風速ファン3と空調機6が設置されている空間の大きさが狭くなるに従って大きくなる。よって、車両用環境試験室1が比較的小さい場合、車風速ファン3と空調機6が各々独立して風量を増減すると、空調機6の
吸気が不安定になる。この点、上記実施形態や変形例の空調システム5では、空調機6の風量が車風速ファン3の風量と比例するように制御されるため、車風速ファン3と空調機6の吸排気量がバランスし、空調機6の吸気が安定する。
上記実施形態や変形例の空調システム5の効果をシミュレーションで検証したので、その結果を以下に示す。図8は、第1比較例に係る車両用環境試験室の全体構成を示した概略図である。また、図9は、第2比較例に係る車両用環境試験室の全体構成を示した概略図である。本検証においては、図8に示すように、空調機を環境試験室の室外に設け、環境試験室の天井面に設けた吸排気口を介して環境試験室の空調を行う空調システムを比較例として用意した(以下、「比較例1」という)。また、本検証においては、図9に示すように、空調システム5から整流板7を省略し、車両用環境試験室1の天井面1Rに空調機6を吊り下げただけの空調システムを比較例として用意した(以下、「比較例2」という)。本検証においては、以下、図1に示した実施形態の空調システム5を「実施例1」、図6に示した変形例の空調システム5を「実施例2」と呼ぶことにする。
本検証において、環境試験室の寸法、空調機の寸法および整流板7の位置は以下の通りである。
<環境試験室の寸法> 奥行:約12m; 幅: 約7m; 高さ: 約4m
<空調機の寸法> 奥行:約1.6m; 幅: 約3m; 高さ: 約1.2m
<整流板7の位置> 床面から約3mの高さの位置
図10Aは、整流板7の長さに対する気流への影響を解析したシミュレーション結果の図である。図10Aの各図は、車両の幅方向略中央の鉛直断面におけるシミュレーション結果を示している。また、後述する図10C~図10Pの各図も同様に車両の幅方向中央の鉛直断面におけるシミュレーション結果を示している。図10Aで「無し」と記載されている図は比較例2に相当し、その他の図は実施例1に相当する。図10Aで「1.85m」、「2.85m」、「3.00m」、「3.30m」、「3.85m」、「4.85m」、「5.85m」、「6.85m」、「7.85m」と記載されているのは、整流板7の寸法であり、ローラ2Fの上部から空調機6の底部へ至る長さを示している。
図10Aの各図を見ると判るように、車風速ファン3から吹き出された風は車両4に当たると車両4のボンネットやフロントガラスに沿って上へ流れる。しかし、図10Aで「無し」と記載されている比較例2相当の図を見ると判るように、整流板7が省略されている場合、車両4に当たって上へ流れた風は車両4の上部で逆流し、空調機6を経由せずに車風速ファン3へ吸い込まれていることが判る。一方、図10Aで「1.85m」、「2.85m」、「3.00m」、「3.30m」、「3.85m」、「4.85m」、「5.85m」、「6.85m」、「7.85m」と記載されている実施例1相当の図を見ると判るように、整流板7がある場合、車両4に当たった風が空調機6を経由せずに車風速ファン3へ吸い込まれる風の量は抑制されている。この検証結果より、整流板7がある場合、整流板7が無い場合に比べると、寸法について上記したように比較的狭い環境試験室であっても車風速ファン3から吹き出た気流が空調機6を経ずに車風速ファン3へ再び吸い込まれるショートサーキット現象が生じず、車風速ファン3の発生する気流が空調機6の吸気に及ぼす影響が抑制されることが判る。そして、例えば、車風速ファン3の吹出口が車両4の前端から1~2m程度離間しており、図10Aに示されるように空調機6が車風速ファン3の吹出口の真上付近に取り付けられている場合、整流板7の最適な長さは、少なくとも2.85m以上の長さを有し、より好ましくは3.3m以上の長さを有していれば、車両4の上部で空調機6を経由せずに車風速ファン3へ吸い込まれる気流の発生を抑制できることが判る。整流板7の長さが3.3m程度であれば、車両用環境試験室1の天井面1Rに照明が設置されていても、車両4やその周囲の照明光を整流板7が遮ることも殆ど無い。
整流板7がこのような長さを有していれば、車風速ファン3においてショートサーキット現象が生じにくいため、空調機6が車両用環境試験室1内の空気を適正に吸引し、車両用環境試験室1を設計条件に沿って速やかに空調可能となる。車両用環境試験室1の設計条件は、例えば、以下の通りである。
<温度条件>
-40~+25℃ ±2.0℃
<湿度条件>
40~75%(成行)
<移行条件>
+25℃から0℃への移行(冷却):25分以内
0℃から-40℃への移行(冷却):80分以内
-40℃から0℃への移行(加熱):80分以内
0℃から25℃への移行(加熱):25分以内
車両用環境試験室1の設計条件が例えば上記のように規定される場合、空調機6の能力は、以下のようにして決定することができる。すなわち、まず、車両用環境試験室1を構成する各材料(例えば、壁材や各種機器類)の比熱と重量を基に、車両用環境試験室1の設計条件のうち、空調機6の能力が最も要求される条件(例えば、最短の移行時間と最大の移行温度幅)を満たすのに必要な熱容量(kJ/h)を各材料について算出する。その後、全ての構成要素の熱容量(W)の合計値を算出し、多少の余裕値を加えた数値を用いて、車両用環境試験室1の設計条件で規定される最短の移行時間を達成するために必要な全空調機6の能力(熱容量)を算出する。そして、算出値を空調機の台数で除算し、一台あたりの必要な能力を算出する。
このように、車両用環境試験室1の設計条件で規定される最短の移行時間をベースに、空調機6の能力が設定されている場合、車風速ファン3においてショートサーキット現象が生ずると、車両用環境試験室1の設計条件で規定される最短の移行時間を満たすことができない。この点、上記実施形態のように整流板7が設けられていれば車風速ファン3におけるショートカットが防止されるため、空調機6の能力に過大な余裕度を見込む必要がなく、安価な空調機を選択可能になる。
なお、空調機6の能力は、上記の手法で決定されるものに限られない。車両用環境試験室1の設計条件が上記以外の要件を規定している場合、空調機6の能力はこの要件に沿うように決定可能である。
図10Bは、整流板7L,整流板7Rの効果を解析したシミュレーション結果の図である。図10Bのシミュレーション結果は、環境試験室の寸法、空調機や車風速ファンの空気の流れは、図10Aと同様の条件に設定してシミュレーションを行った結果である。図10Bにおいて「空調機方式」と記載されている図は比較例1に相当し、「天吊空調機方式+整流板3.30m」と記載されている図は実施例1に相当し、「天吊空調機方式+整流板+衝立」と記載されている図は実施例2に相当する。図10Bにおいて「空調機方式」と記載されている図を見ると判るように、比較例1のように整流板7が無い場合、車風速ファン3から吹き出た風は車両4に当たっても、車両4の左右両側で斜め後方に流れる。ところが、図10Bにおいて「天吊空調機方式+整流板3.30m」と記載されている図を見ると判るように、実施例1のように整流板7がある場合、車風速ファン3から吹き出た風は車両4に当たると車両4の左右両側で車両4の真横の方へ流れ、気流の一部は空調機6を経由せずに車風速ファン3へ直接流れている。一方、図10Bにおいて「天吊空調機方式+整流板+衝立」と記載されている図を見ると判るように、実施例2のように整流板7L,整流板7Rがある場合、車風速ファン3から吹き出た風は、車両4に当たって
車両4の左右両側に流れると、整流板7L,整流板7Rの板面に案内されて車両4の左右両側で斜め後方に流れる。すなわち、実施例2であれば、車両4に当たってから空調機6を経由せずに車風速ファン3へ直接流れる気流が整流板7L,整流板7Rで遮られるため、車両4の左右で空調機6を経由せずに車風速ファン3へ吸い込まれる気流の発生を抑制できることが判る。
また、空調ファンの動力について試算したところ、例えば、比較例1において空調ファンに必要な動力が30kWの場合、実施例1に置き換えると6台ある空調ファン6Aの動力の合計値が4.5kWであり、実施例1は比較例1に比べて空調ファンの動力を約85%程度も低減できるという結果となった。また、冷凍機の冷凍能力について試算したところ、例えば、比較例1において冷凍機に必要な冷凍能力が207kWの場合、実施例1に置き換えると冷凍機9の冷凍能力は190kWであり、実施例1は比較例1に比べて冷凍機の冷凍能力を約15%程度も低減できるという結果となった。これは、ダクトが不要になるため、空調ファンの圧力損失を小さくできることや、空調機本体およびダクトから機械室への放熱ロスが低減できること、空調機本体およびダクトの熱容量を低減できることなどが理由と考えられる。
図10Cは、比較例2に相当する車両用環境試験室で天井高が8mある場合の気流と温度分布を解析したシミュレーション結果の図である。また、図10Dは、比較例2に相当する車両用環境試験室で天井高が8mある場合の気流と風速の分布を解析したシミュレーション結果の図である。また、図10Eは、比較例2に相当する車両用環境試験室で天井高が4mある場合のシミュレーション結果の図である。図10Eにおいて「温度」と記載されている図が気流と温度分布を解析したシミュレーション結果を示し、図10Eにおいて「速度」と記載されている図が気流と速度分布を解析したシミュレーション結果を示している。図10C,図10Dと図10Eとを見比べると判るように、車両用環境試験室の天井高が8mある場合、天井高が4mある場合に比べると、空調機6と車風速ファン3が互いに離れているため、空調機6へ向かって流れる気流が車風速ファン3の吸気口へ吸い込まれにくい。すなわち、車風速ファン3の気流が空調機6に影響を及ぼしにくい。このことから、車両用環境試験室の天井高を低くしたい場合、比較例2の形態では車風速ファン3の気流が空調機6に影響を及ぼすため、実施例1や実施例2の形態が有効であることが判る。
図10Fは、実施例1に相当する車両用環境試験室で整流板7の長さが1.85mある場合のシミュレーション結果の図である。また、図10Gは、実施例1に相当する車両用環境試験室で整流板7の長さが2.85mある場合のシミュレーション結果の図である。また、図10Hは、実施例1に相当する車両用環境試験室で整流板7の長さが3.00mある場合のシミュレーション結果の図である。また、図10Iは、実施例1に相当する車両用環境試験室で整流板7の長さが3.30mある場合のシミュレーション結果の図である。また、図10Jは、実施例2に相当する車両用環境試験室で整流板7の長さが3.30mある場合のシミュレーション結果の図である。また、図10Kは、実施例1に相当する車両用環境試験室で整流板7の長さが3.85mある場合のシミュレーション結果の図である。また、図10Lは、実施例1に相当する車両用環境試験室で整流板7の長さが4.85mある場合のシミュレーション結果の図である。また、図10Mは、実施例1に相当する車両用環境試験室で整流板7の長さが5.85mある場合のシミュレーション結果の図である。また、図10Nは、実施例1に相当する車両用環境試験室で整流板7の長さが6.85mある場合のシミュレーション結果の図である。また、図10Oは、実施例1に相当する車両用環境試験室で整流板7の長さが7.85mある場合のシミュレーション結果の図である。
図10Fを見ると判るように、整流板7の長さが1.85m程度の場合、車両4に当た
った風の一部が空調機6を経由せずに車風速ファン3へ吸い込まれていることが判る。一方、図10Gから図10Oまでの各図を見ると判るように、整流板7の長さが2.85m以上ある場合、車両4に当たった風が空調機6へ吸い込まれており、車風速ファン3の気流が空調機6の吸気に影響を殆ど及ぼさないことが判る。
図10Pは、比較例1に相当する車両用環境試験室のシミュレーション結果の図である。比較例1のように空調機の吸気口が天井面にある場合、空調機の吸気口が車風速ファン3から離れているため、車風速ファン3の気流が空調機の吸気に影響を殆ど及ぼさないことが判る。
1・・車両用環境試験室:1F・・床:1R・・天井面:1WF,1WB,1WL,1WR・・壁面:2・・シャシダイナモメータ設備:2F,2R・・ローラ:3・・車風速ファン:4・・車両:5・・空調システム:6・・空調機:6A・・空調ファン:6C・・加湿ノズル:6D・・電気ヒータ:6E・・直膨コイル:6F・・ドレンパン:6E-in・・冷媒入口:6E-out・・冷媒出口:7・・整流板:7L・・整流板:7R・・整流板:7A・・点検扉:8・・制御装置:9・・冷凍機:10・・冷却塔:11・・加湿器:12・・除湿機

Claims (2)

  1. ダイナモメータと、前記ダイナモメータに載る車両へ走行風を送る車風速ファンが室内に設置されている車両用環境試験室の空調システムであって、
    前記車両用環境試験室の天井面のうち前記車風速ファン付近に設置されており、前記車風速ファンの風向と逆方向に気流を発生させる空調ファンを有する空調機と、
    前記車両用環境試験室の上部に配置される板状の部材であり、少なくとも前記ダイナモメータの前輪用のローラの上部から前記空調機の底部へ至る第1整流板と、を備え
    前記車両用環境試験室の天井面は、水平面であり、
    前記第1整流板は、前記天井面と平行に配置されている、
    車両用環境試験室の空調システム。
  2. 前記第1整流板は、前記空調機が前記車両用環境試験室を前記車両用環境試験室の設計条件に沿って温度制御可能となる程度に、前記車風速ファンから前記車両へ送られた走行風が前記空調機を経由せずに前記車風速ファンへ戻る量を抑制する長さを有する、
    請求項1に記載の車両用環境試験室の空調システム。
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