以下に、実施の形態にかかる診断システム、診断プログラムおよび診断方法を図面に基づいて詳細に説明する。
実施の形態1.
図1は、実施の形態1にかかる鉄道管理システムの構成例を示す図である。鉄道管理システム3は、検査システム60-1~60-Nおよび計測システム70-1~70-Mから、鉄道車両である車両5のさまざまな情報を収集して分析することで車両5に搭載される車載機器の劣化の診断を行い、車両5のライフサイクルを管理する装置である。また、診断システム1は、鉄道管理システム3の解析結果等を、利用者の端末装置9へ送信することもできる。Nは2以上の整数であり、Mは1以上の整数である。検査システム60-1~60-Nおよび計測システム70-1~70-Mは、複数の地上の計測箇所の一例である。なお、計測システム70-1~70-Mを設けずに、鉄道管理システム3は、複数の地上の計測箇所として検査システム60-1~60-Nから車両5の情報を収集してもよい。
検査システム60-1~60-Nは、例えば、車両基地または車両基地の周辺に設けられる。以下では、検査システム60-1~60-Nが車両基地内に設けられる場合を例に挙げて説明するが、これに限らず、検査システム60-1~60-Nは車両基地の周辺に設けられてもよく、また検査システム60-1~60-Nの一部が車両基地に設けられ残部が車両基地外に設けられてもよい。検査システム60-1~60-Nは、それぞれに対応する車両基地に入庫する車両5の計測データを取得して計測データを解析して検査データを生成する。すなわち、検査システム60-1~60-Nは、それぞれ異なる車両基地に入庫する車両5の検査データを生成する。以下、検査システム60-1~60-Nのそれぞれを個別に区別せずに示すときは検査システム60と記載する。
計測システム70-1~70-Mは、例えば、車両基地以外の線路脇、線路の上部、駅などに設けられる。計測システム70-1~70-Mのそれぞれは、計測装置71および通信装置72を備える。計測装置71は、走行中または停車中の車両5を計測する。計測装置71における計測については後述する。通信装置72は計測装置71により計測された計測結果を示す計測データを鉄道管理システム3へ送信する。車両5の車両番号以下、計測システム70-1~70-Mのそれぞれを個別に区別せずに示すときは計測システム70と記載する。
図2は、本実施の形態の検査システム60および計測システム70の配置例を模式的に示す図である。図2に示した例では、検査システム60-1~60-3がそれぞれ車両基地74-1~74-3に設けられている。また図2に示した例では、線路73の脇または線路73の上部などに計測システム70-1~70-4が設けられている。なお、図2は一例であり、検査システム60および計測システム70のそれぞれの数は図2に示した例に限定されない。以下、車両基地74-1~74-3のそれぞれを個別に区別せずに示すときは車両基地74と記載する。
図2に示すように、車両5は、パンタグラフ51、車輪52、床下機器53および車上装置54を備える。床下機器53は、例えば、VVVF(Variable Voltage Variable Frequency)インバータ装置、断流器、補助電源装置、コンプレッサーである。パンタグラフ51、車輪52および床下機器53は、車両5に搭載される車載機器(以下、単に機器ともいう)の例であり、車両5にはこれら以外にも図示しないブレーキ、台車、歯車、歯車箱等の機器も搭載されており、車両5に搭載される機器は図2に示した例に限定されない。また、車両5の車体も車両5に搭載される機器の一例であるとする。すなわち、本実施の形態の診断対象となる、車両5に搭載される機器は、パンタグラフ51、車輪52、ブレーキ、車体、モータ、台車のうち少なくとも1つを含む。車上装置54は、車両5に搭載される機器に制御指令を送信するとともに、各機器から、制御指令に対する応答、各機器の状態を示す情報等を受信する。
鉄道事業者は、図2に例示したように、複数の車両基地を設けている場合が多く、鉄道事業者の運用によっては、同一車両5が常に同じ車両基地に入庫するとは限らない。同一車両5が、ある日は検査システム60-1が設けられている車両基地74-1に入庫し、別の日には検査システム60-2が設けられている車両基地74-2に入庫するといったように、複数の車両基地74に入庫する場合がある。このような場合、車両5が入庫した車両基地74で得られた計測データだけを用いて車両5に搭載される機器の劣化解析を行うと、断片的な計測データを用いた劣化解析を行うことしかできず、車両5の走行全体に対応した劣化傾向を分析することができない。
そこで、本実施の形態では、鉄道管理システム3が1つの車両基地74だけではなく、複数の車両基地74からデータを取得し、取得したデータを統合した統合データを用いて車両5の機器の劣化傾向を分析する。これにより、本実施の形態では、走行全体に対応した車両5の走行全体に対応した劣化傾向を分析することができる。さらに、鉄道管理システム3が、計測システム70から計測データを取得し、複数の車両基地74からデータに加えてこの計測データも用いて機器の劣化傾向を分析することでより時間的な分解能の高い分析を行うことができる。
図1の説明に戻る。本実施の形態の鉄道管理システム3は、図1に示すように、診断システム1と、データベースシステム2とを備える。鉄道管理システム3は、例えばクラウドシステムにより実現されるが、これに限定されない。
データベースシステム2は、図1に示すように、各種のデータを記憶する記憶部21と、通信部22と、データ管理部23とを備える。データベースシステム2の通信部22は、検査データを各検査システム60から受信し、これらを記憶部21へ格納する。また、通信部22は、各計測システム70から計測データを受信し、これらを記憶部21へ格納する。データ管理部23は、記憶部21に格納されたデータを管理する。詳細には、データ管理部23は、検査データおよび計測データをそれぞれに含まれる少なくとも車両番号を用いて、これらを対応付けて管理する。すなわち、記憶部21に格納される検査データおよび計測データは車両番号ごとに管理される。なお、検査データおよび計測データには後述するように、それぞれ対応する時刻が格納されている。また、検査データには、当該検査データを生成した検査システム60を識別する識別情報が含まれ、計測データには計測した計測システム70を識別する識別情報が含まれる。
ここで、検査データには、後述するように対応する車両番号が含まれるが、計測データには車両番号が含まれていない場合もある。計測データに車両番号が含まれていない場合、通信部22は、図示しない運行管理システムから運行計画を取得し、データ管理部23が、運行計画と各計測システム70の設置位置と計測データに含まれる時刻とに基づいて、各計測データに対応する車両番号を特定し、計測データに車両番号を付加する。また、この計測データへの車両番号の付加は、診断システム1が行ってもよい。なお、運行管理システムは、車両5の運行を管理するシステムであり、運行計画を管理する。また、計測システム70が、運行管理システムから運行計画を取得し、運行計画と自身の位置とに基づいて計測データに対応する車両番号を求め、求めた車両番号を計測データに付加して送信してもよい。この場合は、データ管理部23による車両番号の付加は不要である。
診断システム1は、データベースシステム2に蓄積されたデータを用いて、車両5の劣化を診断する診断装置である。これにより、診断システム1は、鉄道事業者、車両5の製造業者、車両5に搭載される機器の製造メーカ等の利用者に、メンテナンスの効率化に供する情報を提供することができる。診断システム1は、複数の車両基地74に対応する複数の検査システム60で取得されたデータを用いて診断を行うので、走行全体に対応した車両5の走行全体に対応した劣化傾向を分析することができる。また、診断システム1は、鉄道管理システム3の解析結果等を、利用者の端末装置9へ送信することもできる。
次に、検査システム60の構成例について説明する。検査システム60は、上述したように、例えば、車両基地74または車両基地74の周辺に設けられる。検査システム60は、図1に示すように、解析装置6、データ収集装置7および計測システム8を備える。なお、解析装置6は、鉄道管理システム3に含まれてもよい。
図3は、本実施の形態のデータ収集装置7および計測システム8の一例を示す図である。計測システム8は、一般には車両基地74の周辺または車両基地74内に設けられる。図3に示した例では、計測システム8は、車両5を上部から計測する計測装置である架線上装置81と、車両5の走行する軌道84に設けられる計測装置である軌道内装置82と、車両5を側面から計測する計測装置である軌道脇装置83とを備える。架線上装置81は、例えば、ステレオカメラ、超音波センサである。軌道内装置82は、例えば、振動センサ、加速度センサ、カメラ等である。データ収集装置7は、例えばパーソナルコンピュータである。軌道脇装置83は、例えば、カメラである。軌道脇装置83は、車両5の車両番号を読み取るセンサを含んでいてもよい。
なお、ここでは、計測システム8が、これら3種類の計測装置を備える例を説明したが、計測装置の種類はこれらに限定されない。計測システム8は、これらの3種類のうちの1種類または2種類であってもよいし、これら3種類以外の計測装置を含んでいてもよい。なお、パンタグラフ51のすり板の摩耗量を計測する場合には架線上装置81を備え、車輪52の劣化を計測する場合には、軌道内装置82を備えるといったように、検査の対象に応じて計測装置を設置すればよい。また、複数の検査システム60の全ての計測システム8が、同じ構成であってもよいし、少なくとも一部の構成が異なっていてもよい。例えば、検査システム60-1,60-2は架線上装置81としてステレオカメラを備え、検査システム60-3は架線上装置81として超音波センサを備えるといったように、検査システム60によって計測装置が異なっていてもよい。
計測システム8を構成する各計測装置は、計測した計測データを、データ収集装置7に送信する。データ収集装置7は、各計測装置から受信した計測データを解析装置6へ送信する。
解析装置6は、各計測装置から受信した計測データを用いて、車両5に搭載される各機器の検査のための解析を行う。この解析は、検査システム60の計測システム8により計測された計測データに基づいて算出された機器の劣化の度合いを示す劣化量を求める処理を含む。この解析は、複数の日時のそれぞれに対応する機器の劣化の度合いを示す劣化量を求める処理を含んでいてもよい。図4は、本実施の形態の解析装置6の構成例を示す図である。図4に示すように、解析装置6は、通信部61、計測データ記憶部62、解析部63、解析結果提示部64、反映部65および検査データ生成部66を備える。
通信部61は、データ収集装置7から、各計測装置の計測データを受信し、計測データ記憶部62へ格納する。計測データ記憶部62は、各計測装置の計測データを記憶する。解析部63は、計測データ記憶部62に記憶されている計測データを用いて、車両5に搭載される各機器の検査のための解析を行う。解析結果提示部64は、解析部63による解析により得られた解析結果を、検査を行う作業者等に提示する。反映部65は、検査を行う作業者等からの解析結果に関する入力を受け付け、入力された情報を検査データ生成部66へ出力する。検査データ生成部66は、解析結果と入力された情報とに基づいて、検査データを生成する。検査データ生成部66は、検査データを作業者等に提示する。また、検査データ生成部66は、検査データを通信部61へ出力し、通信部61は、検査データをデータベースシステム2へ送信する。なお、通信部61は、計測データ記憶部62に記憶されている計測データ、解析部63の解析結果についても、データベースシステム2へ送信してもよい。解析結果および検査データの詳細については後述する。
次に、計測システム70について説明する。上述したように、計測システム70は計測装置71および通信装置72を備える。計測装置71は、例えば、検査システム60の計測システム8における架線上装置81、軌道内装置82および軌道脇装置83のうちの1つ以上である。図1では、各計測システム70が1つの計測装置71を備えているが、各計測システム70が備える計測装置71は複数であってもよい。通信装置72は、計測装置71により計測された計測データを鉄道管理システム3へ送信する。
通信装置72は、有線ネットワークを介して鉄道管理システム3へ計測データを送信してもよいし、無線通信により鉄道管理システム3へ計測データを送信してもよい。通信装置72は、例えば、運行管理システムとして設けられた地上の複数の無線装置へ計測データを送信することで運行管理システムを介して、鉄道管理システム3へ計測データを送信してもよいし、携帯電話ネットワークなどを介して計測データを送信してもよい。また、車両5の車上装置54は、一般に無線通信を行う機能を有しているため、通信装置72が、車上装置54を中継装置として用いて計測データを無線通信によって送信することで、計測データを鉄道管理システム3へ送信してもよい。車両5の車上装置54を中継装置として利用することで、通信ネットワークの敷設が難しい山間部などにおいても計測システム70を設置して、当該計測システム70から計測データを収集することができる。
計測システム70が、計測データに車両番号を付加する場合には、例えば、計測システム70が、図示を省略した制御部をさらに備え、制御部が、運行計画と自身の位置と時刻とに基づいて、計測データに対応する車両番号を付加する。
次に、本実施の形態の鉄道管理システム3における診断システム1の構成例を説明する。図5は、本実施の形態の診断システム1の構成例を示す図である。図5に示すように、本実施の形態の診断システム1は、通信部11、データ取得部12、データ記憶部13、劣化解析部14、劣化予測部15、交換時期推定部16、表示部17、解析部18およびデータ統合部19を備える。
通信部11は、データベースシステム2、端末装置9等と通信を行うことができる。データ取得部12は、通信部11を介してデータベースシステム2から機器の診断に用いるデータを取得し、データ記憶部13へ格納する。機器の診断に用いるデータは、診断対象の機器に関する検査データおよび計測システム70から取得された計測データを含む。例えば、データ取得部12は、データベースシステム2を介して、検査データを複数の検査システム60のそれぞれから取得する。また、データ取得部12は、車両基地74以外に設けられた1つ以上の計測システム70により計測された計測データを取得する。上述したように、計測システム70から取得された計測データについては用いられなくてもよいが、ここでは計測データも診断に用いられる例を説明する。検査データは、検査システム60の計測システム8により計測された計測データに基づいて算出された機器の劣化の度合いを示す劣化量を含む。なお、本実施の形態の機器の診断は、機器の劣化の実績の解析、機器の劣化の予測、機器の劣化の評価等のうちの少なくとも1つを含む。診断対象の機器は、利用者により指定されてもよいし、あらかじめ定められた手順に従い、劣化の解析等が必要な、全ての車載機器に関する診断を自動で行うようにしてもよい。例えば、利用者によって機器の診断の開始が指示された場合に、診断システム1は、自動的に劣化の解析等が必要な、全ての車載機器に関する診断を行ってもよい。利用者による機器の診断の開始の指示、および利用者による診断対象の機器の指定は、端末装置9を介して行われてもよいし、診断システム1の図5では図示しない入力手段を用いて行われてもよい。
解析部18は、計測システム70から取得された計測データを用いて、解析装置6の解析部63と同様に、車両5に搭載される各機器の劣化に関する解析を行い、複数の計測データに対応する複数の解析結果を含む解析データをデータ記憶部13に格納する。すなわち、解析部18は、計測システム70により計測された計測データを用いて機器の劣化の度合いを示す劣化量を算出する。なお、解析部18が、検査システム60の解析装置6の解析部63、解析結果提示部64および反映部65と同様の機能を有し、解析部63と同様の解析を行って解析結果を作業者等に提示し、作業者からの入力を反映し、作業者からの入力後の解析結果を含む解析データをデータ記憶部13に格納してもよい。解析部18が行う解析は、解析部63が行う解析と同様に、計測データに基づいて機器の劣化の度合いを示す劣化量を求める処理を含む。
データ統合部19は、複数の検査システム60から取得された複数の検査データを統合して統合データを生成する。また、データ統合部19は、複数の検査データと解析部18による解析結果とを統合して統合データを生成してもよい。例えば、データ統合部19は、データ記憶部13に格納されている検査データおよび解析データを、車両番号および機器IDごとに統合し、統合したデータである統合データをデータ記憶部13に格納する。詳細には、データ統合部19は、車両番号および機器IDが同一の検査データおよび解析データを抽出し、抽出した検査データおよび解析データ内の解析結果を、日時の順すなわち時刻順に並べることで統合データを生成する。
図6は、本実施の形態のデータ統合部19によるデータの統合の一例を示す図である。図6では、識別情報A1の検査システム60である検査システム60-1において生成された検査データと、識別情報A2の検査システム60である検査システム60-2において生成された検査データと、識別情報B1の計測システム70である計測システム70-1で計測された計測データを用いて生成された解析データとを統合する例を示している。
図6に示すように、検査データは、車両5を識別するための車両番号と、機器を示す機器IDと、日時ごとの解析結果とを含む。すなわち、検査データは、複数の日時においてそれぞれ計測した計測データに基づいて算出された複数の日時のそれぞれに対応する機器の劣化量を含む。なお、検査データに含まれる解析結果は、上述した反映部65を介した作業者からの入力が反映された解析結果であるが、検査データに、解析装置6の解析部63による解析結果自体も含めてもよい。また、検査データに、計測システム8の計測データを含めてもよい。検査データの具体的な形式は図6に示した例に限定されない。解析データは、検査データと同様に、車両番号と、機器を示す機器IDと、日時ごとの解析結果とを含む。図6の左下に示した統合データでは、2つの検査データと1つの解析データとの合計3つのデータが統合されて解析結果が時刻順に並べられている。
図5の説明に戻る。劣化解析部14は、データ記憶部13に格納された統合データに基づいて、機器の劣化の解析を行う。機器の劣化の解析は、例えば、パンタグラフ51の摩耗量の時間変化の傾向の算出、車輪52の摩耗量の解析、車輪52に発生する平らな傷であるフラットの発生状況の解析、ブレーキの摩耗の解析、台車の劣化度合いの解析等である。機器の劣化の解析は、これらに限定されない。機器の劣化の解析の具体例については後述する。
なお、上記の例では、診断システム1が、データベースシステム2から検査データおよび計測データを取得して、データ記憶部13に記憶しているが、データ統合部19が、記憶部21に格納された検査データを用いて統合データを生成し、劣化解析部14がデータ統合部19から受け取った統合データを用いて、機器の劣化の解析を行ってもよい。また、解析部18が記憶部21に記憶された計測データを用いて解析データを生成してデータ記憶部13に格納し、データ統合部19が、記憶部21に格納された検査データとデータ記憶部13に格納された検査データとを用いて統合データを生成し、劣化解析部14が、データ統合部19から受け取った統合データを用いて、機器の劣化の解析を行ってもよい。
劣化予測部15は、劣化解析部14による解析結果を用いて機器の将来の劣化量を予測する。詳細には、劣化解析部14の解析結果とデータ記憶部13に格納されたデータとに基づいて、将来の機器の劣化を予測する。推定部である交換時期推定部16は、機器の劣化の予測結果に基づいて、機器が交換または調整を要する状態となる時期を推定する。機器の劣化の予測、および交換時期の推定の具体例については後述する。表示部17は、劣化解析部14の解析結果、劣化予測部15の予測結果、交換時期推定部16の推定結果等を表示する。
次に、本実施の形態の各システムおよび各装置のハードウェア構成について説明する。上述したように、本実施の形態の鉄道管理システム3は、例えば、クラウドシステムにより実現される。クラウドシステムでは、コンピュータシステムのハードウェアと、機能ごとのサーバ等の装置との切り分けを任意に設定できる。例えば、1台のコンピュータシステムが複数の装置としての機能を有していてもよいし、複数台のコンピュータシステムで1つの装置としての機能を有していてもよい。したがって、鉄道管理システム3は、1台のコンピュータシステムで実現されてもよいし、複数台のコンピュータにより実現されてもよい。なお、この例に限らず、鉄道管理システム3は、クラウドシステム以外で実現されてもよい。例えば、鉄道管理システム3が1台のコンピュータシステムにより実現されてもよく、診断システム1と、データベースシステム2とがそれぞれ1台のコンピュータシステムにより実現されてもよい。いずれにしても、鉄道管理システム3は、1台以上のコンピュータシステムにより実現される。
鉄道管理システム3を実現するコンピュータシステムの構成例を説明する。図7は、本実施の形態の鉄道管理システム3を実現するコンピュータシステムの構成例を示す図である。図7に示すように、このコンピュータシステムは、制御部101と入力部102と記憶部103と表示部104と通信部105と出力部106とを備え、これらはシステムバス107を介して接続されている。
図7において、制御部101は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等である。制御部101は、本実施の形態の鉄道管理システム3が実施する各処理が記述された鉄道管理プログラムを実行する。入力部102は、たとえばキーボード、マウス等で構成され、コンピュータシステムのユーザが、各種情報の入力を行うために使用する。記憶部103は、RAM(Random Access Memory),ROM(Read Only Memory)等の各種メモリおよびハードディスク等のストレージデバイスを含み、上記制御部101が実行すべきプログラム、処理の過程で得られた必要なデータ等を記憶する。また、記憶部103は、プログラムの一時的な記憶領域としても使用される。表示部104は、LCD(Liquid Crystal Display:液晶表示パネル)等で構成され、コンピュータシステムのユーザに対して各種画面を表示する。通信部105は、通信処理を実施する通信回路等である。通信部105は、複数の通信方式にそれぞれ対応する複数の通信回路で構成されていてもよい。出力部106は、プリンタ、外部記憶装置等の外部の装置へデータを出力する出力インタフェイスである。なお、図7は、一例であり、コンピュータシステムの構成は図7の例に限定されない。例えば、コンピュータシステムは出力部106を備えていなくてもよい。また、鉄道管理システム3が複数のコンピュータシステムにより実現される場合、これらの全てのコンピュータシステムが図7に示したコンピュータシステムでなくてもよい。例えば、一部のコンピュータシステムは図7に示した表示部104、出力部106および入力部102のうち少なくとも1つを備えていなくてもよい。
ここで、本実施の形態の鉄道管理プログラムのうち診断システム1の処理が記述された診断プログラムが実行可能な状態になるまでのコンピュータシステムの動作例について説明する。上述した構成をとるコンピュータシステムには、たとえば、図示しないCD(Compact Disc)-ROMドライブまたはDVD(Digital Versatile Disc)-ROMドライブにセットされたCD-ROMまたはDVD-ROMから、診断プログラムが記憶部103にインストールされる。そして、診断プログラムの実行時に、記憶部103から読み出された診断プログラムが記憶部103の主記憶装置となる領域に格納される。この状態で、制御部101は、記憶部103に格納された診断プログラムに従って、本実施の形態の診断システム1としての処理を実行する。鉄道管理プログラムのうちデータベースシステム2の処理が記述されたプログラムが実行可能な状態になるまでのコンピュータシステムの動作例は鉄道管理プログラムの場合と同様である。
なお、上記の説明においては、CD-ROMまたはDVD-ROMを記録媒体として、診断システム1における処理を記述したプログラムを提供しているが、これに限らず、コンピュータシステムの構成、提供するプログラムの容量等に応じて、たとえば、通信部105を経由してインターネット等の伝送媒体により提供されたプログラムを用いることとしてもよい。
本実施の形態の診断プログラムは、診断システム1に、車両5に搭載される機器の状態を複数の日時においてそれぞれ計測した計測データに基づいて算出された複数の日時のそれぞれに対応する機器の劣化の度合いを示す劣化量を含む検査データを、複数の検査システム60のそれぞれから取得する取得ステップ、を実行させる。さらに、本実施の形態の診断プログラムは、診断システム1に、複数の検査システム60から取得された複数の検査データを統合して統合データを生成する統合ステップと、統合データを用いて、機器の劣化を解析する劣化解析ステップとを実行させる。
図1に示したデータベースシステム2の通信部22は、図7に示した通信部105により実現され、図1に示した記憶部21は図7に示した記憶部103の一部であり、図1に示したデータ管理部23は図7に示した制御部101により実現される。
また、図5に示した診断システム1の通信部11は、図7に示した通信部105により実現される。図5に示したデータ記憶部13は、図7に示した記憶部103の一部である。図5に示したデータ取得部12、劣化解析部14、劣化予測部15、交換時期推定部16、解析部18及びデータ統合部19は、図7に示した制御部101により実現される。図5に示した表示部17は、図7に示した制御部101および表示部104により実現される。
図4に示した解析装置6はコンピュータシステムにより実現される。解析装置6を実現するコンピュータシステムの構成は、図7に示したコンピュータシステムと同様である。解析装置6は、複数台のコンピュータシステムによって構成されていてもよい。解析装置6が複数台のコンピュータシステムによって構成される場合、これらのうちの一部が表示部104、出力部106および入力部102のうち少なくとも1つを備えていなくてもよい。図4に示した通信部61は、図7に示した通信部105により実現される。図4に示した計測データ記憶部62は、図7に示した記憶部103の一部である。図4に示した解析部63は、図7に示した制御部101により実現される。図4に示した解析結果提示部64および検査データ生成部66は、図7に示した制御部101および表示部104により実現される。検査データ生成部66が検査データの表示を行う場合、検査データ生成部66の実現にはさらに表示部104も用いられる。図4に示した反映部65は、図7に示した入力部102により実現される。
端末装置9は、コンピュータシステムにより実現される。端末装置9を実現するコンピュータシステムの構成は、図7に示したコンピュータシステムと同様である。また、端末装置9は、タブレット、スマートフォン等のコンピュータシステムであってもよい。
次に、本実施の形態の動作について説明する。まず、本実施の形態の機器の診断の一例として、パンタグラフ51のすり板の摩耗量に関する診断を説明する。パンタグラフ51のすり板の摩耗量は、機器の劣化の度合いを示す劣化量の一例である。図8は、本実施の形態の劣化の診断対象の一例である、パンタグラフ51のすり板を示す図である。図8に示したすり板511の形状は一例であり、すり板511の形状は図8に示した例に限定されない。パンタグラフ51はすり板511を備えており、すり板511が、架線であるトロリ線55と接触することで、パンタグラフ51はトロリ線55から電力を集電する。なお、本実施の形態において車両5に搭載される機器として、パンタグラフ51、車輪52等を例示したが、パンタグラフ51を構成するすり板511等についても車両5に搭載される機器である。すなわち、ある機器を構成する部品も車両5に搭載される機器である。
すり板511は、トロリ線55との機械的接触と、トロリ線55から離れる際に生じるアーク放電との主に2つの要因により摩耗が発生する。すり板511の摩耗が進むと、集電できなくなる可能性があるため、一般に、すり板511の摩耗量には、すり板511を使用可能な限界値が定められている。この限界値は、例えば、鉄道事業者ごとに定められる。車両5の検査を行う際には、すり板511の摩耗量の確認が行われ、摩耗量が限界値を超えた場合には、すり板511の交換が行われる。
このため、検査システム60では、計測システム8によりすり板511の摩耗量を検知するための計測が行われている。この計測の一例は、ステレオカメラによる画像の撮影、超音波センサによるすり板511の形状の計測等である。計測の具体的な方法は、これらに限定されず、すり板511の形状を把握可能な計測であればよい。解析装置6は、計測システム8により計測された計測データを、データ収集装置7を介して取得し、取得した計測データを解析する。
図8に示すように、すり板511の長手方向をX軸とし、すり板511の短手方向をY軸とする。X軸の正方向は、紙面の右側へ向かう方向とし、Y軸の正方向をX軸の正方向を90度回転させた方向とし、Z軸を、XYZ座標系が右手系となるように定義する。このとき、すり板511のうち法線がZ軸正方向を向く面である上面がトロリ線55と接触することになる。図8に示すように、XYZ座標系の原点を、摩耗が生じていないときの上面上に設ける。この場合、概ねZ軸の負の方向に摩耗が進むことになる。
図9は、本実施の形態の計測システム8により計測されたすり板511の形状の一例を示す図である。図9は、図8に示すようにXYZ座標系を定義したときのすり板511の形状を示している。図9の縦軸は、図8のXYZ座標系のZ軸に相当する。図9の縦軸の数値は、原点すなわち摩耗が無い状態からの変位量を示している。このため、図9の縦軸の数値の絶対値が摩耗量である。また、図9の縦軸に直交する面は図8のXY面に相当する。図8において、縦軸に直交する軸に示した数値は、すり板511のX軸方向の位置を示している。数値は示されていないが同様に、図9の紙面の奥行方向は、すり板511のY軸方向の位置を示している。なお、図8および図9で示したXYZ座標系の定義は一例であり、すり板511の形状がわかるように定義されていればよく、座標系の定義は図8および図9に示した例に限定されない。
すり板511の摩耗量は、一般には時間が経過すると増加する。すなわち、時間の経過とともに摩耗が進行する。検査システム60では、摩耗の進行を把握できる情報を、検査を行う作業者に提示することができる。具体的には、解析装置6が、計測データを蓄積し、蓄積した計測データを用いて解析して、解析結果を表示する。これにより、作業者は、すり板511の摩耗の時間変化の傾向を把握しやすくなる。
図10は、本実施の形態の解析装置6の解析結果の一例を示す図である。図10では、解析装置6が、異なる複数の日に計測されたすり板511の形状の計測データに基づいて解析を行った結果を示している。なお、ここでは、計測周期すなわち、計測日から次の計測日までの日数は固定であるとするが、計測周期は固定されていなくてもよい。図10の上部には、計測日の異なる3つの計測データが示されている。これら3つの計測データは、複数の日時においてそれぞれ計測した計測データの一例である。各計測日の計測データは、図9に示した例と同様に、すり板511の形状をXYZ座標系で表したものである。図10の下部には、解析装置6の解析部63が、これらの3つの計測データから、それぞれの摩耗量の最大値200を算出し、算出した最大値200を計測日と対応付けて解析結果として求めた例を示している。図10に示す摩耗量実績値201は、横軸を日付としたときの摩耗量の変化を示している。なお、図9と同様に、図10の縦軸は実際には、摩耗が生じていないときからのZ軸方向の変位であるため、摩耗量実績値201は負の値で示されているが、この値の絶対値が、摩耗した量としての摩耗量の実績値である。解析結果提示部64は、このような解析結果を、図10に示すようなグラフとして表示することにより、作業者に解析結果を提示する。摩耗量実績値201は、計測データに基づいて算出された複数の日時のそれぞれに対応する機器の劣化の度合いを示す劣化量の一例である。また、このとき、解析結果提示部64は、図10の上部に示された計測データを解析結果とともに表示する。なお、ここでは、計測データを解析結果とともに表示する例を示したが、解析対象の機器、解析の内容によっては、解析結果だけが表示されてもよい。
作業者は、解析結果を視認することにより、すり板511の摩耗量の時間変化の様子を確認することができる。また、図10の摩耗量実績値201は、各計測日における摩耗量の最大値200に相当しているが、すり板511の劣化を評価する際に検査すべき箇所は、摩耗量の最大値であるとは限らない。例えば、すり板511のY軸方向の位置により摩耗の影響が異なっている等の理由により、最大値ではない箇所の摩耗量が検査の対象となることがある。このような場合、作業者は、計測データから抽出すべき点を最大値200から評価対象点202に変更する。詳細には、例えば、図10に示した図が表示され、表示画面上で、評価対象点202をマウスで選択することにより入力可能としてもよいし、評価対象点202とするXY面内の位置座標を数値で入力できるようにしてもよい。反映部65は、評価対象点202を示す情報の入力を受け付け、検査データ生成部66へ渡す。検査データ生成部66は、反映部65から受け取った情報に基づいて解析結果を修正して検査データを生成する。図10に示した摩耗量実績値301は、検査データの一例である。
なお、解析装置6は、計測データと、反映部65が受け付けた入力情報との対応を保持して蓄積しておき、蓄積した情報を機械学習してもよい。例えば、ニューラルネットワーク等の機械学習モデルを用い、入力である計測データと、結果である入力情報とを教師データとして学習する。これにより、解析装置6は、計測データを受け取ると、学習済モデルを用いて入力情報を推定して、解析結果とともに推定した入力情報を表示するようにしてもよい。なお、解析装置6は、計測データと入力情報との組をデータベースシステム2へ送信し、診断システム1がデータベースシステム2から、これらの情報を受け取ることにより、診断システム1が、上述した機械学習を行ってもよい。
以上のように、検査システム60では、作業者が実績値を確認して検査を行うことが可能である。解析装置6は、検査データを生成すると、データベースシステム2へ検査データを送信する。なお、図10で例示したように、過去の計測データも用いて検査データが生成されている場合には、検査データのなかには、既に送信済みの部分が含まれている場合もある。この場合には、解析装置6は、更新されたデータだけをデータベースシステム2へ送信してもよい。データベースシステム2は、受信した検査データを記憶部21へ記憶する。このとき、データ管理部23は、各車両5の機器ごとに検査データを記憶部21へ記憶する。
以下、本実施の形態の診断システム1の動作について説明する。図11は、本実施の形態の診断システム1における診断処理手順の一例を示すフローチャートである。図11に示すように、診断システム1は、診断対象機器の計測データを用いて解析を行う(ステップS1)。具体的には、データ取得部12が、通信部11を介して、データベースシステム2から診断対象の機器に対応する検査データおよび計測データを取得し、データ記憶部13に格納する。そして、解析部18が、データ記憶部13に格納された計測データを用いて解析装置6と同様に解析を行って解析データを生成し、生成した解析データをデータ記憶部13に格納する。
次に、診断システム1は、診断対象機器に関して、複数の検査システム60の検査データと複数の解析結果を統合する(ステップS2)。詳細には、データ統合部19が、データ記憶部13に格納されている検査データおよび解析データのうち、検査対象機器に関するデータを抽出し、当該データ内の解析結果を時刻順に並べることで統合データを生成し、統合データをデータ記憶部13へ格納する。
次に、診断システム1は、統合データを用いて機器の劣化の実績を解析する(ステップS3)。詳細には、劣化解析部14が、データ記憶部13に格納されている統合データに基づいて機器の劣化の実績を解析する。例えば、劣化解析部14は、データ記憶部13に格納されている距離対応情報と統合データ内の日時とを用いて走行距離を算出し、走行距離と劣化量との関係を求める。距離対応情報は、経過時間を走行距離に換算するための情報であり、例えば、車両番号ごとに単位時間あたりの平均走行距離が格納されている。距離対応情報は、編成ごとにいつどの区間を走行するかを示す運行計画と各編成がどの車両5で構成されるかを示す編成情報とであってもよい。なお、区間の一例は路線であるが、区間は、路線内の一部であってもよいし、複数の路線を跨いでいてもよい。距離対応情報が、運行計画と編成情報である場合には、劣化解析部14は、統合データに対応する車両5がどの区間をいつ走行したかを運行結果に基づいて把握して走行距離を算出する。そして、劣化解析部14は、例えば、線形回帰分析により、すり板511の摩耗量f(R)を、以下の式(1)に示すような走行距離Rの一次関数として近似するためのパラメータb1,b2を算出する。式(1)は2次元の線形回帰分析を行う例であるが、多次元の線回帰分析を行い、すり板511の摩耗量を複数の変数の関数として算出するための各パラメータを算出してもよい。また、線形回帰分析に限らず、走行距離とすり板511の摩耗量との関係を多項式で近似するための回帰分析を行い、多項式の係数を各パラメータとして求めてもよい。これらのパラメータは、走行距離と劣化量との関係を示すパラメータの例である。
f(R)=b1・R+b2・・・(1)
図12は、本実施の形態の、機器の劣化の実績の解析結果の一例を示す図である。図12に示した例では、劣化解析部14が図6に例示した統合データを用いてすり板511の摩耗量を解析した結果を示している。図12では、横軸は走行距離で示されている。計測点401,403は、検査システム60-1の検査データに含まれる解析結果に対応し、計測点402,404は、検査システム60-2の検査データに含まれる解析結果に対応し、計測点405は、計測システム70-1の計測データに基づいて算出された解析結果に対応する。このように、本実施の形態では、複数の検査システム60で生成された検査データを統合して解析を行うことができるため、鉄道車両の走行全体に対応した劣化傾向を分析することができる。例えば、検査システム60-1だけの検査データだけでは計測点401から計測点402までの劣化と、計測点402から計測点403までの劣化とを分けて把握することができないが、検査システム60-2の検査データを用いることで、計測点401から計測点402までの劣化と、計測点402から計測点403までの劣化とを分けて把握することができ、より詳細な劣化解析を行うことができる。なお、図12に示すように、走行距離を横軸にとることで、一般には、摩耗の傾向をより把握しやすくなる。図12に示した例では、摩耗量が走行距離に概ね比例しており、計測点401~405を用いて、走行距離と摩耗量との関係を表す実績406を示すパラメータが算出される。なお、ここでは走行距離を横軸にとったが日時を横軸としてもよい。
図11の説明に戻る。ステップS3の後、診断システム1は、機器の劣化を予測する(ステップS4)。詳細には、劣化予測部15が、劣化解析部14の解析結果を用いて、機器の劣化を予測する。例えば、劣化予測部15は、図12に示すように、破線で示すように、劣化解析部14の解析結果を用いて、将来の走行距離に対応する摩耗量を予測する。
図11の説明に戻る。次に、診断システム1は、交換時期を推定する(ステップS5)。詳細には、交換時期推定部16が、劣化予測部15の予測値と、あらかじめ定められた、機器の交換条件と、を用いて、機器の交換時期を推定する。機器の交換条件は、例えば、機器がすり板511である場合、摩耗量が限界値を超えるという条件である。図12に示した例では、限界値407が示されており、この限界値407と実績406を延長した破線の予測値とが交わる点が交換時期に対応する走行距離となる。交換時期推定部16は、データ記憶部13に格納されている距離対応情報を用いて、交換時期に対応する走行距離を日時に変換することで、交換時期を求める。また、交換時期推定部16は、予測結果と、あらかじめ定められた機器の調整の条件とに基づいて、機器が調整を要する状態となる時期を推定してもよい。調整の一例は、車輪断面の摩耗、および、フラットを除去するために、車輪52を削る作業である。ここでいう車輪断面とは、切断面を、車輪52を含む面としたときの車輪52の断面であり、車輪断面の摩耗は、この断面における車輪52の形状が元の形状から摩耗によりすり減ることを意味する。交換および調整に関するこれらの条件は機器ごとに定められており、機器ごとの条件を交換時期推定部16が保持している。この条件は、端末装置9を介して診断システム1に設定されてもよいし、解析装置6から診断システム1が受信することで設定されてもよいし、診断システム1に直接、作業者等により入力されてもよい。
次に、表示部17は、結果を提示する(ステップS6)。表示部17は、例えば、上述した処理で得られる結果を表示する。表示される結果は、ステップS3の解析結果であってもよいし、ステップS4の予測結果であってもよいし、ステップS5の交換時期の推定値であってもよいし、これらの組み合わせであってもよい。表示部17は、日付に対する劣化量を示すグラフと、第1情報に対する劣化量を示すグラフと、を切替え可能であってもよい。なお、診断システム1は、これらの結果を端末装置9へ送信し、端末装置9がこれらの結果を表示してもよい。
図13は、本実施の形態におけるすり板511の摩耗量の予測結果の表示例を示す図である。図13に示した例では、ステップS4で算出された予測値409が、摩耗量実績値408とともに表示される。摩耗量実績値408は、図12に示した走行距離と摩耗量との関係を表す実績406を日付と摩耗量の関係に変換したものである。図13では、日付を横軸にとっているため、作業者は、交換時期を把握しやすくなる。図13に示した限界値407は、図12と同様に摩耗量の限界値を示している。
また、以上の説明では、パンタグラフ51のすり板511の摩耗量を例に挙げて説明したが、上述したように、他の車載機器の劣化の解析および予測を行うことも可能である。図14は、本実施の形態の劣化の一例である車輪断面の摩耗を示す図である。図14は、車軸57を通る断面を切断面としたときの車輪52の断面を模式的に示す。車輪52には、図14の車輪52の右端部分に示されているようにフランジが設けられる。車輪52の右側の平な部分は線路と接触する接触面(車輪踏面)である。フランジと車輪踏面との境界部分はなだらかな曲面となっている。図14では、正常な車輪52の形状を実線で示しており、2種類の摩耗により車輪52の形状が変化したときの車輪52の形状をそれぞれ摩耗形状521,522として1点鎖線で示している。
摩耗形状521は、車輪52のフランジが削られるフランジ摩耗が生じた場合の車輪52の断面の形状を模式的に示している。フランジ摩耗が生じると、摩耗形状521として示したように、正常時に比べて、フランジと車輪踏面を接続する曲面が急峻になったりフランジの厚みが減少したりする。摩耗形状522は、車輪踏面の勾配が変化するような摩耗が生じた場合の車輪52の断面の形状を模式的に示している。摩耗形状521,522に示されるような車輪52の断面形状を変化させる摩耗である車輪断面の摩耗が生じると、車両5が脱線するなどの重大事故になる可能性がある。このため、車輪断面の摩耗が進行した場合には、車輪52の車輪踏面を削る調整作業が行われる。また、摩耗がより進行して調整作業では対応しきれない場合には、車輪52の交換が行われる。車輪断面の摩耗がどの程度進行すると調整作業が行われるかの条件はあらかじめ定められている。このため、検査システム60の計測システム8では、軌道内装置82により、カメラ、レーザーなどの計測機器により、車輪断面を計測し、車輪52に生じた摩耗を検知する。解析装置6は、上述したすり板511の摩耗量と同様に、車輪断面の摩耗量の変化を解析する。解析対象の摩耗量は、例えば、フランジの厚さ、車輪52の厚さ、フランジと車輪踏面を接続する曲面の曲率半径、車輪踏面の勾配等のうちの少なくとも1つである。これらの車輪断面の摩耗量は線路の形状、カーブ量などに依存するため、診断システム1は、車輪断面の摩耗量を劣化量として扱って、上述したすり板511の摩耗量と同様の解析および予測を行うことも可能である。また、診断システム1は、上述した調整、交換の条件を用いて、車輪52の調整または交換の時期を推定することも可能である。
同様に、計測システム8は、パンタグラフ51の傾き、上昇度、がいしの破損等を検出するための計測を行うことができる。また、計測システム8は、車両5の外観すなわち車体の傷、凹み等を検出するための計測を行うことができる。また、計測システム8は、ブレーキの摩耗を検出するための計測、モータの絶縁劣化を検出するための計測、台車の劣化度合いを検出するための計測、歯車、歯車箱、モータ等の材質の劣化度合いを検出するための計測等様々な計測を行うことができる。ブレーキの摩耗としては、踏面ブレーキにおける制輪子の摩耗、ディスクブレーキにおけるライニングの摩耗が例示できる。台車の劣化度合を表す指標としては、画像を取得することによりキズ、亀裂等の数および大きさが挙げられる。台車の劣化度合を表す別の指標としては、画像から算出される車体の高さが挙げられる。車体の高さを求めることによる空気バネの劣化の度合いを把握することができる。また、機器の劣化の度合いを検出するための計測として、サーモカメラ等により温度の計測が行われてもよい。例えば、台車、歯車、歯車箱、モータ等の材質の劣化度合いを検出するために、これらに対応する箇所の温度を計測してもよい。診断システム1は、これらの計測データを用いて生成される検査データを用いて、すり板511の摩耗量と同様に、これらの機器の劣化の度合いを示す劣化量の実績を解析したり、劣化量を予測したり、交換または調整を要する状態となる時期を推定したりすることができる。なお、データベースシステム2が、単一の鉄道事業者により運行される様々な車両5だけでなく、複数の鉄道事業者により運行される車両5の各種情報を収集するようにすることで、本実施の形態の診断システム1は、複数の鉄道事業者に車両5の劣化の診断結果を提供することができる。
また、以上の説明では、データ統合部19が、検査データの時刻に基づいてデータを統合したが、診断システム1が、各車両5がどの基地に入庫されるかの計画を含む運行計画を取得できる場合には、運行計画に基づいて、各検査システム60から取得した検査データおよび計測データを統合してもよい。これにより、例えば、各検査システム60および計測システム70から、例えば、1週間などの一定期間内に一度ずつの解析結果が格納された検査データを受け取る場合に、検査データ内の時刻の参照を要せずに検査データ内の解析結果を時刻順に統合することができる。また、図示しない検査管理装置が、車両5がどの基地に入庫されて検査を受けるかを示す検査計画を管理している場合には、診断システム1が検査管理装置から検査計画を取得し、データ統合部19が、検査計画を用いて検査システム60から取得した検査データを統合してもよい。運行計画および検査計画は、いずれも車両5がいつどの車両基地に入庫されるかを示す情報であり、このように、データ統合部19は、いつどの車両基地に入庫されるかを示す情報を用いて統合データを生成してもよい。
以上のように、本実施の形態では、診断システム1が、複数の車両基地74にそれぞれ対応する複数の検査システム60の検査データを統合して劣化解析を行うようにした。このため、同一車両5が複数の車両基地74に入庫する場合であっても、鉄道車両の走行全体に対応した劣化傾向を分析することができる。
実施の形態2.
図15は、実施の形態2にかかる鉄道管理システムの構成例を示す図である。本実施の鉄道管理システム3aでは、検査システム60および計測システム70に加えて、複数の区間における複数の車両5の運行を管理する運行管理システム41と、車両5に搭載される車上装置54と無線通信を行う無線装置42と、からもデータを取得する。なお、上述したように、区間の一例は路線であるが、区間は、路線内の一部であってもよいし、複数の路線を跨いでいてもよい。実施の形態1と同様の構成要素は、実施の形態1と同一の符号を付して重複する説明を省略する。以下、実施の形態1と異なる点を主に説明する。
本実施の形態の鉄道管理システム3aは、図15に示すように、診断システム1aと、データベースシステム2とを備える。データベースシステム2は、受信して管理するデータが実施の形態1から追加となるが、構成は実施の形態1のデータベースシステム2と同様である。鉄道管理システム3aは、実施の形態1の鉄道管理システム3と同様に、例えばクラウドシステムにより実現されるが、これに限定されない。
データベースシステム2の通信部22は、車両5の走行データを、無線装置42を介して受信し、運行情報を運行管理システム41から受信し、検査データを検査システム60から受信し、計測データを計測システム70から受信し、これらを記憶部21へ格納する。走行データおよび運行情報については後述する。データ管理部23は、記憶部21に格納されたデータを管理する。詳細には、データ管理部23は、検査データ、運行情報および走行データそれぞれに含まれる少なくとも車両番号を含む編成情報を用いて、これらを対応付けて管理する。
車両5の車上装置54は、車両5に搭載される機器に制御指令を送信するとともに、各機器から、制御指令に対する応答、各機器の状態を示す情報等を受信する。また、車両5には、各機器の状態だけでなく、走行距離、速度等を計測しており、車上装置54は、これらの計測結果も取得する。また、車両5が列車重量、車内温度および外気温等を計測している場合には、車上装置54は、これらの計測結果も取得する。
また、車上装置54は、各機器を制御するための制御指令、および各機器から受信した応答および情報、各計測結果を、走行データとして無線により送信する。走行データは、車両5における制御指令、制御指令に対する応答および車両5の状態を計測した状態値のうち少なくとも1つを含むデータである。車両5から送信された無線信号は、無線装置42により受信される。無線装置42は、受信した走行データを運行管理システム41へ送信し、運行管理システム41は受信した走行データをデータベースシステム2へ送信する。無線装置42は、受信した走行データを運行管理システム41へ送信し、運行管理システム41は受信した走行データをデータベースシステム2へ送信する。これにより、データベースシステム2は、無線装置42および運行管理システム41を介して車両5の走行データを取得することができる。なお、図15では、図の簡略化のため無線装置42を1つ図示しているが、一般には、複数の無線装置42が、例えば、線路に沿って配置される。また、図15では、1つの車両5を示しているが、複数の車両5が1編成の列車を構成してもよい。
運行管理システム41は、複数の区間の運行計画を保持しており、運行計画に従って、複数の車両5の運行を管理する。複数の車両5が1編成の列車を構成する場合、編成ごとに、いつどの区間を走行するかが運行計画として定められる。また、運行管理システム41は、各編成で、どの車両5が用いられるかを示す情報(車両番号)を編成情報として保持している。さらに、運行管理システム41は、どの編成がどの区間を走行したかを示す運行実績も保持している。また、運行管理システム41は、区間ごとの、距離、停車駅数を示す区間状態情報を含む。運行管理システム41は、運行計画、運行実績、区間状態情報および編成情報を含む情報である運行情報を、データベースシステム2へ送信する。なお、運行実績を車上装置54も管理している場合には、データベースシステム2は、車上装置54から運行実績を取得してもよい。
本実施の形態の検査システム60および計測システム70の構成および動作は、実施の形態1と同様であるため重複する説明を省略する。
図16は、本実施の形態の診断システム1aの構成例を示す図である。本実施の形態の診断システム1aの構成は、実施の形態1のデータ取得部12、劣化解析部14および劣化予測部15の代わりに、データ取得部12a、劣化解析部14aおよび劣化予測部15aを備える以外は、実施の形態1と同様である。
データ取得部12aは、通信部11を介してデータベースシステム2から機器の診断に用いるデータを取得し、データ記憶部13へ格納する。本実施の形態では、機器の診断に用いるデータは、診断対象の機器に関する検査データ、計測データ、走行データおよび運行情報を含む。なお、実施の形態1と同様に、計測データは用いられなくてもよい。また、データ取得部12aは、運行実績および編成情報から、各車両5の走行した区間を示す、すなわち各車両5がどの区間を走行したかを示す区間情報を取得してデータ記憶部13へ格納する。なお、1編成が1車両で構成される場合には、編成情報は不要である。区間情報は、車両5ごとの当該車両がどの区間を走行する予定であるかの計画を含んでいてもよい。区間情報の詳細については後述する。
データ統合部19は、実施の形態1と同様に、データ記憶部13に格納されている複数の検査データ、またはデータ記憶部13に格納されている複数の検査データおよび1つ以上の解析データを統合して統合データを生成する。なお、実施の形態1で述べたように、データ統合部19が、データ記憶部13の代わりに記憶部21に格納されたデータに基づいて、データの統合を行ってもよい。この場合、データ取得部12aが実施する区間情報の生成をデータ管理部23が行い、区間情報を記憶部21で管理すればよい。
劣化解析部14aは、データ記憶部13に格納されたデータに基づいて、機器の劣化の解析を行う。具体的には、劣化解析部14aは、区間情報を用いて、車両5の走行の状態の実績を示す第1情報を取得し、第1情報と統合データとを用いて機器の劣化を解析する。第1情報は、例えば、診断対象の機器が搭載された鉄道車両の走行距離の実績値である。機器の劣化の解析は、実施の形態1と同様に、例えば、パンタグラフ51の摩耗量の時間変化の傾向の算出、車輪52の摩耗量の解析、フラットの発生状況の解析、ブレーキの摩耗の解析、台車の劣化度合いの解析等である。機器の劣化の解析は、これらに限定されない。
劣化予測部15aが、劣化解析部14aの解析結果と、運行情報に含まれる運行計画とに基づいて、機器の劣化を予測する。
本実施の形態の診断システム1aは、実施の形態1と同様に統合データを用いて劣化診断を行う。ここで、本実施の形態の劣化診断について説明する。例えば、実施の形態1で述べた方法により、すり板511の摩耗量などの劣化量の今後の変化を予測することができる。一方、すり板511の摩耗量は実際には経過日数自体に依存するものではない。実施の形態1で述べたように、すり板511の摩耗の主たる要因は、機械的接触とアーク放電である。したがって、例えば、車両5が故障等の要因により運行されずに車両基地74に留まっていた場合には摩耗の進行は抑制される。このため、すり板511の摩耗量の予測精度を向上させるためには、経過時間だけでなく他の情報との相関も考慮することが望ましい。すり板511の摩耗の主要因が機械的接触とアーク放電であることを考慮すると、すり板511の摩耗量は、概ね車両5の走行距離に依存すると考えられる。したがって、走行距離の関数として摩耗量を表せば、経過時間の関数として摩耗量を表す場合より正確な関数が求められると予想できる。一方、すり板511の摩耗がどのような要因でどのように進行するかの詳細については明らかになっていない面もある。このため、すり板511の摩耗量を、車両5に関する様々な情報と関連付けて解析することが、すり板511の摩耗の発生のメカニズムの解明のために有効であると考えられる。すり板511に限らず、車両5の車載機器全般に関しても、計測データを、車両5に関する様々な情報と関連付けて解析することで、劣化のメカニズムの解明のために有効であると考えられる。
例えば、すり板511の摩耗が、a1からa10までの10個の、車両5の状態量に依存すると仮定する。この場合、すり板511の摩耗量はa1からa10に関する関数f(a1,a2,・・・,a10)で表すことができる。車両5の状態量は、例えば、走行距離、走行した経路のカーブの数、ある値以上の速度で走行した回数等である。このうち、1つの状態量だけを考慮して摩耗量を示す関数を求めると、a1からa10の10個の状態量の関数として求めるときに比べて、関数の精度は低くなるため、この関数を用いて予測を行う場合の予測の精度も低くなる。このため、a1からa10の状態量が何であるかがわかっている場合には、これら全てを計測して、計測データに基づいて関数を求めると高精度な予測を実現できる。しかしながら、実施には、すり板511の摩耗のメカニズムは完全には解明されていないため、どのような状態量を考慮すべきかを決めることができない。また、すり板511の摩耗が、a1からa10の10個の状態量に依存するとしても、これらの状態量のなかには、すり板511の摩耗に対する寄与度が少なく、当該状態量を考慮せずともすり板511の摩耗量を十分な精度で予測できるものも含まれる可能性がある。
以上のことから、すり板511の摩耗量の検査データを、車両5に関する様々な情報と対応付けることができるようにすることで、すり板511の摩耗量を示す関数の算出等の解析の精度の向上を実現できる可能性が高まる。本実施の形態では、図15に示したように、鉄道管理システム3aが、走行データ、運行情報、検査データを収集して蓄積し、これらを用いて、すり板511の摩耗量の解析をはじめとした各機器の劣化の解析を行うことで、機器の劣化の高精度な解析および効率的な解析のうち少なくとも一方の実現を図る。
図17は、本実施の形態の診断システム1aにおける診断処理手順の一例を示すフローチャートである。ステップS1は実施の形態1と同様である。ステップS1の後、診断システム1aは、走行データおよび運行情報から、対応する車両の区間情報を取得する(ステップS8)。詳細には、データ取得部12aが、通信部11を介して、データベースシステム2から診断対象の機器に対応する走行データおよび運行情報を取得し、データ記憶部13に格納する。そして、データ取得部12aが、データ記憶部13に格納されている走行データおよび運行情報から、対応する車両の区間情報に対応する情報を抽出することにより、区間情報を生成して、区間情報をデータ記憶部13に格納する。区間情報は、少なくとも車両5の走行した区間を示す情報を含むが、ここでは、将来、車両5が走行する区間を示す情報も含むこととする。区間情報が、将来車両5が走行する区間を示す情報を含む場合には、後述する劣化量の予測で区間情報を用いることができる。データ取得部12aは、将来車両5が走行する区間を示す情報を、運行情報の運行計画から取得することができる。なお、運行情報だけから区間情報を生成できる場合には、データ取得部12aは、走行データを用いずに運行情報から区間情報を生成する。なお、検査データ、走行データ及び運行情報は、編成情報を用いて対応付けて管理されてもよい。
区間情報には、車両5の走行した区間を示す情報が含まれており、これにより車両5がどの車両基地に入庫されるかを把握することができ、また、どの車両5がいつどこを走行したかを把握することができる。このため、データ統合部19は、区間情報を用いて、データ記憶部13に格納されている複数の検査データ、またはデータ記憶部13に格納されている複数の検査データおよび1つ以上の解析データを統合して統合データを生成してもよい。
図18は、本実施の形態の走行データの一例を示す図である。図18に示した例では、走行データは、編成情報(車両番号)と日時ごとの各機器に対応する制御指令、応答、状態値等とを含む。なお、制御指令、応答、状態値が周期的に取得される場合には、個別に日時が付加されている必要はなく、これらのデータのはじめのデータの日時だけが示されていればよい。走行データの具体的な形式は図18に示した例に限定されない。制御指令は、例えば、ノッチ指令、ブレーキ指令等である。状態値は、例えば、車両5の速度、車両5の重量、車両5の車内温度、車内湿度、外気温、外気の湿度、台車の空気ばね圧力、ブレーキ管圧力、ブレーキシリンダ圧力のうちの少なくとも1つである。
図19は、本実施の形態の運行情報に含まれる区間状態情報の一例を示す図である。区間状態情報は、図19に示すように、区間名と、区間の総距離である距離と、停車駅数と、カーブ情報と、点検情報とを含む。なお、図示はしないが運行情報には、編成情報(車両番号)が含まれてもよい。なお、図19では、区間を識別する区間識別情報の一例として区間名を記載しているが、区間識別情報は区間名に限定されない。停車駅数は、快速、普通、特急といった列車種別ごとに示される。カーブ情報は、当該区間におけるカーブの位置、曲率等を含む。カーブ情報は、区間のカーブに関する情報であればよく、上述した例に限定されず、カーブの総数であってもよい。点検情報は、当該区間の点検において、なんらかの異常が検出されたことを示す情報である。点検情報は、例えば、トロリ線がいつ更新されたかを示す情報、トロリ線の異常の有無等を含んでいてもよい。このようなトロリ線に関する情報が点検情報に含まれていると、劣化解析部14aは、例えば、トロリ線の状態とパンタグラフ51のすり板511の摩耗量との関係を解析することができる。なお、区間状態情報のうち、カーブ情報と点検情報は、運行情報に含まれていなくてもよく、診断システム1aに直接これらの情報が入力されてもよい。または、データベースシステム2が、カーブ情報と点検情報を他の装置から収集して、運行管理システム41から取得した運行情報の区間状態情報に追加してもよい。
図20は、本実施の形態の区間情報の一例を示す図である。上述したように、区間情報は、例えば、運行情報に基づいて生成される。データベースシステム2には、車両5の車両番号と日時ごとに区間情報が格納されている。区間情報は、車両5ごとに、当該車両5がどの区間を走行したかを示す情報を少なくとも含む。図20に示した例では、区間情報は、区間名等の区間を識別する区間識別情報と、快速、普通といった列車種別を示す情報と、車両5が運行される時間帯を示す時間帯情報とを示す。時間帯情報は、1日の時間帯を例えば、早朝、朝のラッシュ時間帯、昼間の時間帯、夕方からのラッシュ時間帯、夜間の時間帯など、乗客の数、気温等が異なると思われる時間帯に区分しておき、車両5が走行したその時間帯で各区間を走行したかを示す。また、時間帯情報に、平日と休祝日との区分を示す情報を追加してもよい。なお、時間帯の区分は上述した例に限定されない。
なお、ここでは、診断システム1aのデータ取得部12aが区間情報を生成する例を説明するが、データベースシステム2のデータ管理部23が、運行情報に基づいて区間情報を生成し、診断システム1aがデータベースシステム2から区間情報を取得してもよい。また、診断システム1aは、区間情報を生成せずに、区間情報に相当する情報を、走行データおよび運行情報のうち少なくとも1つから対応する情報を抽出して用いることにより、区間情報を用いた処理を実施してもよい。この場合も、区間情報を用いた処理を行っていることに相当する。
図17の説明に戻る。ステップS8の後、実施の形態1と同様にステップS2が実施される。ステップS2の後、診断システム1aは、統合データおよび区間情報を用いて機器の劣化の実績を解析する(ステップS3a)。例えば、劣化解析部14aは、区間情報を用いて、対応する区間状態情報を参照することで、検査データ内の各解析結果である各劣化量に対応する日時における車両5の走行の状態の実績を示す第1情報を求め、第1情報と劣化量の対応を求める。第1情報の一例は上述したように過去の走行距離であるが、これに限らず、機器が搭載された車両5の走行した区間のカーブに関する情報、停車した駅の数等であってもよい。さらには、第1情報は、車両5の走行した区間に関する後述する点検情報であってもよい。第1情報と劣化量の対応は、例えば、第1情報と劣化量との関係を示すパラメータにより示される。このように、劣化解析部14aによる解析結果は、例えば、第1情報と劣化量との関係を示すパラメータを含む。パラメータの具体例については後述する。
また、例えば、劣化解析部14aが、列車種別ごとに、走行距離と機器の劣化量との関係を算出する等といった解析を行うことも可能である。同様に、列車種別および時間帯ごとに、走行距離と機器の劣化量との関係を算出する等といった解析を行うことも可能である。また、各区間の時間帯ごとの乗客数の平均値などを算出しておき、区間および時間帯ごとの乗客数を混雑度情報としてデータ記憶部13に格納しておき、劣化解析部14aが、区間情報と混雑度情報に基づいて、乗客数を算出することで、車両5の重量の履歴を推定してもよい。劣化解析部14aは、車両5の重量の履歴を用いて、機器の劣化量を解析してもよい。なお、混雑度情報として乗客数に基づいて重量自体を、区間および時間帯ごとに保持してもよい。
また、劣化解析部14aは、区間状態情報だけでなく、走行データも用いることで、速度が一定値以上であった時間の積分値とすり板511の摩耗量との相関を求めるなどの解析を行ってもよい。同様に、走行データとして格納されている各種状態値自体、または走行データから算出されるブレーキの回数等と、すり板511の摩耗量との相関を求め、相関の高いものを横軸にとってすり板511の摩耗量を表示することも可能である。すり板511の摩耗量に限らず、同様に、各機器の劣化を解析することができる。劣化解析部14aは、例えば、すり板511の摩耗量等の各機器の劣化を示す劣化量と相関の高いデータを選択し、選択したデータの関数として劣化量を表すことができる。具体的には、劣化解析部14aは、例えば、線形回帰分析により、すり板511の摩耗量f(R)を、実施の形態1で述べたように式(1)に示すような走行距離Rの一次関数として近似するためのパラメータb1,b2を算出する。式(1)は2次元の線形回帰分析を行う例であるが、多次元の線回帰分析を行い、すり板511の摩耗量を複数の変数の関数として算出するための各パラメータを算出してもよい。また、線形回帰分析に限らず、走行距離等の変数とすり板511の摩耗量との関係を多項式で近似するための回帰分析を行い、多項式の係数を各パラメータとして求めてもよい。これらのパラメータは、第1情報と劣化量との関係を示すパラメータの例である。
ステップS3aの後、診断システム1aは、機器の劣化を予測する(ステップS4a)。詳細には、劣化予測部15aが、劣化解析部14aの解析結果と、区間情報を用いて車両5の将来の走行の状態を示す第2情報を取得し、第2情報とパラメータとに基づいて機器の将来の劣化量を予測する。第2情報は、走行距離等の第1情報と同種の情報であるが、第1情報は過去の情報であるのに対し、第2情報は将来の情報である。例えば、ステップS3aの解析により、すり板511の摩耗量が走行距離の関数として算出されていた場合には、運行計画または区間情報に基づいて、区間状態情報から各区間の距離を取得することにより当該車両5の将来の日時ごとの走行距離を求め、すり板511の摩耗量を予測する。ステップS5、ステップS6は実施の形態1と同様である。
このように、本実施の形態では、実施の形態1と同様に統合データを用いて劣化診断を行うことで実施の形態1と同様の効果を奏するとともに、区間情報を用いて、検査データと検査データに対応する車両5が走行した区間に関する情報を対応付けることができるので、多様な情報に基づいて、機器の劣化を解析することができる。したがって、解析の精度の向上を図ることができる。さらに、走行データを用いて解析を行うと、さらなる解析の精度の向上を図ることができる。
実施の形態3.
図21は、実施の形態3にかかる診断システムの構成例を示す図である。本実施の鉄道管理システムは、実施の形態2の診断システム1aのかわりに診断システム1bを備える以外は実施の形態2の鉄道管理システム3aと同様である。本実施の形態の端末装置9、検査システム60、運行管理システム41、無線装置42および車両5は実施の形態2と同様である。実施の形態2と同様の構成要素は、実施の形態2と同一の符号を付して重複する説明を省略する。以下、実施の形態2と異なる点を主に説明する。
図21に示すように、診断システム1bは、実施の形態2の診断システム1に学習部31が追加され、データ記憶部13に記憶する情報が増える以外は、診断システム1aと同様である。本実施の形態では、劣化予測部15aは、予測した結果を推定結果としてデータ記憶部13へ格納する。また、推定結果には予測に用いた検査データも格納しておく。学習部31は、データ記憶部13に格納された推定結果に対応する検査データに含まれる劣化量である劣化量の実績値を取得すると、実績値と推定結果との差分を求める。学習部31は、劣化予測部15aの予測に用いたパラメータと差分とを対応付けて教師データとして用いてニューラルネットワーク等の機械学習モデルを生成する。このパラメータは、上述した第1情報と劣化量との関係を示すパラメータである。すなわち、学習部31は、劣化予測部15aにより予測された予測値と、計測データに基づいて算出された当該予測値に対応する日時の劣化量の実績値との差分を算出し、劣化予測部15aの予測に用いたパラメータと差分との関係を学習する。
学習部31は、新たな検査データを受け取ると、学習済の機械学習モデルを用いて差分の推定値を算出する。この差分の推定値を用いて、劣化予測部15aがパラメータを修正することで、高精度な予測を実現することができる。なお、差分を学習する際に、データベースシステム2が情報を収集する全ての車両5の同一の機器の情報に基づいて機械学習を行ってもよいし、鉄道事業者ごと、または走行した区間ごとに機械学習を行ってもよい。例えば、学習部31は、パンタグラフ51のすり板511に関して全鉄道事業者の車両5に関して、走行距離と摩耗量の関係を算出することにより得られる予測値と、対応する実績値との差分を算出し、走行距離と摩耗量の関係を示すパラメータと差分との組を教師データとして学習しておく。そして、学習部31は、新たな検査データを取得して、走行距離と摩耗量の関係を示すパラメータを学習済モデルに入力して差分の推定値を得ることで、パラメータを補正する。または、摩耗量と対応する走行距離との複数組のデータセットと上述した差分とを教師データとして用いて、機械学習を行っておき、新たな検査データを取得すると走行距離と摩耗量とのデータセットを学習済モデルに入力して差分の推定値を得てもよい。さらには、走行距離だけでなく、検査データに対応する車両5の走行した区間状態情報から得られる情報と走行データの状態値等の全ての情報と上記の差分とのデータセットを教師データとして用いて機械学習を行ってもよい。
なお、上述した例では、実施の形態2の診断システム1aに学習部31を追加したが、実施の形態1の診断システム1に学習部31を追加して、走行距離と摩耗量の関係を示すパラメータとの差分を学習し、学習した結果を用いてパラメータを補正してもよい。
実施の形態4.
図22は、実施の形態4にかかる診断システムの構成例を示す図である。本実施の形態の鉄道管理システムは、実施の形態2の診断システム1aのかわりに診断システム1cを備える以外は実施の形態2の鉄道管理システム3aと同様である。本実施の形態の端末装置9、検査システム60、運行管理システム41、無線装置42および車両5は実施の形態2と同様である。実施の形態2と同様の構成要素は、実施の形態2と同一の符号を付して重複する説明を省略する。以下、実施の形態2と異なる点を主に説明する。
図22に示すように、診断システム1cは、実施の形態2の診断システム1aに分類部32が追加され、データ記憶部13が記憶する情報が増える以外は、診断システム1aと同様である。
本実施の形態では、検査データに、機器IDだけでなく、機器の製造メーカ、機器の型番、製造年月日、ロット番号等を示す製造情報が含まれる。製造情報は、少なくとも機器の製造メーカを示す情報を含む。図23は、本実施の形態の検査データの一例を示す図である。診断システム1cは、図17に示したステップS3aまでの処理、またはステップS4aまでの処理が行われた後、これらの結果をデータ記憶部13に製造情報ごとに、グルーピング情報として保持しておく。本実施の形態の診断システム1cは、多数の車両5の情報に基づいて解析を行うことができるため、製造情報ごとに劣化の解析結果等をグルーピングすることで、製品自体の異常、またはロット異常などを検出することができる。
図24は、本実施の形態のグルーピング結果の一例を示す図である。図24では、分類部32により製造情報ごとに、グルーピングされた後の、各グループの劣化の実績値および予測値を示している。分類部32は、グループごとの劣化の実績値および予測値をグルーピング情報としてデータ記憶部13へ格納する。図24は、パンタグラフ51のすり板511の摩耗量を例にあげて、3つのグループの摩耗量の実績値および予測値を示している。摩耗量501は、グループ#1の摩耗量の実績値および予測値を示し、摩耗量502は、グループ#2の摩耗量の実績値および予測値を示し、摩耗量503は、グループ#3の摩耗量の実績値および予測値を示している。なお、実線部分が実績値であり、破線部分が予測値である。図24に示した例では、グループ#3に対応するロットのすり板511の摩耗量が大きくなっている。なお、図24では予測値も表示される例を示しているが、実績値だけが表示されてもよい。分類部32は、劣化解析部14aによる解析結果を、機器の製造メーカごとに分類してもよいし、製造メーカおよび製造年月日ごと、すなわちロットごとに分類してもよい。
また、各機器は、常時、同じ車両5に搭載されているとは限らず、途中で、別の車両5への載せ替えが行われる場合がある。例えば、車両5の走行距離がわかったとしても、載せ替えが行われた機器に対応する真の走行距離を把握することができない。このため、このような載せ替えの情報をトレース情報として管理すると、機器に着目した劣化をより精度よく解析することができる。図25は、本実施の形態のトレース情報の一例を示す図である。図25に示すように、トレース情報は、機器IDと当該機器に対応する製造情報といつからいつまでどの車両5に搭載されたかを示す情報を示す。例えば、このトレース情報と実施の形態1で述べた区間情報とを組み合わせることにより、各機器に対応する走行距離を算出することができる。これにより、各機器のトレーサビリティを向上させるとともに、機器の劣化の解析精度を向上させることができる。なお、トレース情報には、製造情報を含めなくてもよい。製造情報に基づく、分類を行わない場合でも、機器ごとに劣化の解析および予測を行うことで、解析精度および予測精度を向上させることができる。
なお、上述した例では、実施の形態2の診断システム1aに分類部32を追加したが、実施の形態1の診断システム1または実施の形態3の診断システム1bに分類部32を追加してもよい。実施の形態3の診断システム1bに分類部32を追加する場合、学習部31は、グループごとに、推定結果の学習を行ってもよい。
以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、実施の形態同士を組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。