以下、本発明の実施形態を図面を用いて説明する。なお、以下では、作業機の先端のアタッチメントとしてバケット10を備える油圧ショベルを例示するが、バケット以外のアタッチメントを備える油圧ショベルで本発明を適用しても構わない。また、以下の説明では、同一の構成要素が複数存在する場合、符号(数字)の末尾にアルファベットを付すことがあるが、当該アルファベットを省略して当該複数の構成要素をまとめて表記することがある。例えば、3つのポンプ300a、300b、300cが存在するとき、これらをまとめてポンプ300と表記することがある。
<第1実施形態>
図1は本発明の第1の実施形態に係る油圧ショベルの構成図であり、図2は本発明の第1の実施形態に係る油圧ショベルの制御コントローラを油圧駆動装置と共に示す図である。図1において、油圧ショベル1は、フロント作業機1Aと車体1Bで構成されている。車体1Bは、下部走行体11と、下部走行体11の上に旋回可能に取り付けられた上部旋回体12とからなる。フロント作業機1Aは、垂直方向にそれぞれ回動する複数の被駆動部材(ブーム8、アーム9及びバケット10)を連結して構成されており、フロント作業機1Aのブーム8の基端は上部旋回体12の前部に支持されている。
ブーム8、アーム9、バケット10、上部旋回体12及び下部走行体11はそれぞれブームシリンダ5、アームシリンダ6、バケットシリンダ7、旋回油圧モータ4及び左右の走行モータ3a、3bによりそれぞれ駆動される被駆動部材を構成する。これら被駆動部材8,9,10,12,11への動作指示は、上部旋回体12上の運転室内に搭載された走行右レバー23a、走行左レバー23b、操作右レバー1aおよび操作左レバー1b(これらを操作レバー1、23と総称することがある)のオペレータによる操作に応じて出力される。
運転室内には、走行右レバー23aを有する操作装置47a(図2参照)と、走行左レバー23bを有する操作装置47b(図2参照)と、操作右レバー1aを有する操作装置45a、46aと、操作左レバー1bを有する操作装置45b、46bが設置されている。操作装置45~47は油圧パイロット方式であり、それぞれオペレータにより操作される操作レバー1、23の操作量(例えば、レバーストローク)と操作方向に応じたパイロット圧(操作圧と称することがある)を制御信号として、パイロットライン144a~149b(図2参照)を介して対応する流量制御弁15a~15f(図2参照)の油圧駆動部150a~155bに供給し、これら流量制御弁15a~15fを駆動する。
油圧ポンプ2から吐出した圧油がコントロールバルブユニット20内の流量制御弁15a、15b、15c、15d、15e、15f(図2参照)を介して走行右油圧モータ3a、走行左油圧モータ3b、旋回油圧モータ4、ブームシリンダ5、アームシリンダ6、バケットシリンダ7に供給される。供給された圧油によってブームシリンダ5、アームシリンダ6、バケットシリンダ7が伸縮することで、ブーム8、アーム9、バケット10がそれぞれ回動し、バケット10の位置及び姿勢が変化する。また、供給された圧油によって旋回油圧モータ4が回転することで、下部走行体11に対して上部旋回体12が旋回する。さらに、供給された圧油によって走行右油圧モータ3a、走行左油圧モータ3bが回転することで、下部走行体11が走行する。
一方、ブーム8、アーム9、バケット10の回動角度α、β、γ(図4参照)を測定可能なように、ブームピンにブーム角度センサ30、アームピンにアーム角度センサ31、バケットリンク13にバケット角度センサ32が取付けられ、上部旋回体12には基準面(例えば水平面)に対する上部旋回体12(車体1B)の前後方向の傾斜角θ(図4参照)を検出する車体傾斜角センサ33が取付けられている。
図1の油圧ショベル1は、図2に示されるように、油圧ポンプ2と、この油圧ポンプ2からの圧油により駆動されるブームシリンダ5、アームシリンダ6、バケットシリンダ7、旋回油圧モータ4及び左右の走行モータ3a、3bを含む複数の油圧アクチュエータと、これら油圧アクチュエータ3~7のそれぞれに対応して設けられた走行右レバー23a、走行左レバー23b、操作右レバー1a、操作左レバー1bと、油圧ポンプ2と複数の油圧アクチュエータ3~7間に接続され、操作レバー1、23の操作量及び操作方向に応じて操作装置45a、45b、46a、46b、47a、47bから出力される制御信号によって制御され、油圧アクチュエータ4~7に供給される圧油の流量及び方向を制御する複数の流量制御弁15a~15fと、油圧ポンプ2と流量制御弁15a~15fの間の圧力が設定値以上になった場合に開くリリーフ弁16とを有している。これらは油圧ショベル1の被駆動部材を駆動する油圧駆動装置を構成している。
本実施例の油圧ショベルには、オペレータの掘削操作を補助する制御システムが備えられている。具体的には、操作装置45b,46aによるアーム9又はバケット10への動作指示がある場合、目標掘削面と作業機1Aの先端の位置関係を基に、作業機1Aの先端(バケット10の爪先)の位置が目標掘削面上及びその上方の領域内に保持されるようにブーム8を強制的に上昇させる制御(「領域制限制御」と称することがある)を実行する掘削制御システムが備えられている。この領域制限制御の実行が可能な掘削制御システムは、運転室内の操作パネルの上方などオペレータの視界を遮らない位置に設置され領域制限制御の有効無効を切り替える制限制御スイッチ17と、ブーム8用の操作装置45aのパイロットライン144a、144bに設けられ、操作レバー1aの操作量としてパイロット圧(制御信号)を検出する圧力センサ70a、70bと、アーム9用の操作装置45bのパイロットライン145a、145bに設けられ、操作レバー1bの操作量としてパイロット圧(制御信号)を検出する圧力センサ71a、71bと、一次ポート側がパイロットポンプ48に接続されパイロットポンプ48からのパイロット圧を減圧して出力する電磁比例弁54aと、ブーム8用の操作装置45aのパイロットライン144aと電磁比例弁54aの二次ポート側に接続され、パイロットライン144a内のパイロット圧と電磁比例弁54aから出力される制御圧の高圧側を選択し、流量制御弁15aの油圧駆動部150aに導くシャトル弁82と、ブーム8用の操作装置45aのパイロットライン144bに設置され、電気信号に応じてパイロットライン144b内のパイロット圧を減圧して出力する電磁比例弁54bと、領域制限制御が実行可能なコンピュータである制御コントローラ(制御装置)40を備えている。
アーム9用のパイロットライン145a、145bには、パイロット圧を検出して制御コントローラ40に出力する圧力センサ71a、71bと、制御コントローラ40からの制御信号を基にパイロット圧を低減して出力する電磁比例弁55a、55bが設けられている。バケット10用のパイロットライン146a、146bには、パイロット圧を検出して制御コントローラ40に出力する圧力センサ72a、72bと、制御コントローラ40からの制御信号を基にパイロット圧を低減して出力する電磁比例弁56a、56bが設けられている。なお、図2では、圧力センサ71、72及び電磁比例弁55、56と制御コントローラ40との接続線は紙面の都合上省略している。
制御コントローラ40には、後述のROM93又はRAM94に記憶された目標掘削面の形状情報と位置情報、角度センサ30~32と傾斜角センサ33の検出信号、および圧力センサ70~72の検出信号、が入力される。また制御コントローラ40は領域を制限した掘削制御(領域制限制御)を行うための制御信号(パイロット圧)の補正を行う電気信号を電磁比例弁54~56に出力する。
図3に、制御コントローラ40のハードウェア構成を示す。制御コントローラ40は、入力部91と、プロセッサである中央処理装置(CPU)92と、記憶装置であるリードオンリーメモリ(ROM)93及びランダムアクセスメモリ(RAM)94と、出力部95とを有している。入力部91は、操作装置45~47からの信号、目標掘削面を設定するための設定装置51からの信号、角度センサ30~32及び傾斜角センサ33からの信号を入力し、A/D変換を行う。ROM93は、後述する図8、図9のフローチャートを実行するための制御プログラムと、当該フローチャートの実行に必要な各種情報等が記憶された記録媒体であり、CPU92は、ROM93に記憶された制御プログラムに従って入力部91及びメモリ93、94から取り入れた信号に対して所定の演算処理を行う。出力部95は、CPU92での演算結果に応じた出力用の信号を作成し、その信号を電磁比例弁54~56や報知装置53に出力することで、油圧アクチュエータ4~7を駆動・制御したり、車体1B、バケット10及び目標掘削面等の画像を報知装置53であるモニタの表示画面上に表示させたりする。なお、図3の制御コントローラ40は、記憶装置としてROM93及びRAM94という半導体メモリを備えているが、記憶装置であれば特に代替可能であり、例えばハードディスクドライブ等の磁気記憶装置を備えても良い。
図5は、本発明の実施形態に係る制御コントローラ40の機能ブロック図である。制御コントローラ40は、作業機姿勢演算部41と、目標掘削面演算部42と、目標動作演算部43と、電磁比例弁制御部44と、目標動作判断部49とを備えている。また、制御コントローラ40には、作業機姿勢検出装置50、目標掘削面設定装置51、オペレータ操作検出装置52、報知装置53、電磁比例弁54~56、がそれぞれ接続されている。
作業機姿勢検出装置50は、ブーム角度センサ30、アーム角度センサ31、バケット角度センサ32、車体傾斜角センサ33、から構成される。目標掘削面設定装置51は、目標掘削面に関する情報(目標掘削面の位置情報も含む)を入力可能なインターフェースである。目標掘削面設定装置51への入力は、オペレータが手動で行っても、ネットワーク等を介して外部から取り込んでも良い。また、目標掘削面設定装置51には、衛星通信アンテナが接続され、ショベルのグローバル座標を演算しても良い。オペレータ操作検出装置52は、オペレータによる操作レバー1の操作によって生じる操作圧を取得する圧力センサ70a、70b、71a、71b、72a、72bから構成される。報知装置53は、オペレータに目標掘削面と作業機1Aの位置関係を表示するディスプレイ(表示装置)、あるいは目標掘削面と作業機1Aの位置関係を音(音声も含む)により通達するスピーカの少なくとも一つから構成される。電磁比例弁54~56は、図2で説明したパイロット圧(操作圧)の油圧ラインに設けられており、オペレータのレバー操作によって発生した操作圧を下流で増減することが可能である。また、オペレータのレバー操作なしに操作圧を発生させることも可能である。
作業機1Aを自動又は半自動で制御し、目標掘削面を整形する機能であるマシンコントロールによる、水平掘削動作の例を図6に示す。オペレータが操作レバー1を操作して、矢印A方向へのアーム9の引き動作によって水平掘削を行う場合には、バケット10の先端(爪先)が目標掘削面60の下方に侵入しないように適宜ブーム上げ指令が出力され、ブーム8の上げ動作が自動的に行われるよう電磁比例弁54aが制御される。また、オペレータが要求する掘削速度、あるいは掘削精度を実現するように、電磁比例弁55が制御されアーム9の引き動作が行われる。このとき、掘削精度向上のため、電磁比例弁55によりアーム9の速度を必要に応じて減速させても良い。また、バケット10背面の目標掘削面60に対する角度Bが一定値となり、均し作業が容易となるように、電磁比例弁56を制御してバケット10が自動で矢印C方向(ダンプ方向)に回動するようにしても良い。このように、オペレータによる操作レバー1の操作量に対して、自動または半自動でアクチュエータを制御し、ブーム8、アーム9、バケット10、上部旋回体12といった作業機を動作させる機能をマシンコントロールと呼称する。領域制限制御はマシンコントロールの1つである。
作業機姿勢演算部41は作業機姿勢検出装置50からの情報に基づき、作業機1Aの姿勢を演算する。作業機1Aの姿勢は図4のショベル基準座標に基づいて定義できる。図4のショベル基準座標は、上部旋回体12に設定された座標であり、上部旋回体12に回動可能に支持されているブーム8の基底部を原点とし、上部旋回体12における鉛直方向にZ軸、水平方向にX軸を設定した。X軸に対するブーム8の傾斜角をブーム角α、ブームに対するアーム9の傾斜角をアーム角β、アームに対するバケット爪先の傾斜角をバケット角γとした。水平面(基準面)に対する車体1B(上部旋回体12)の傾斜角を傾斜角θとした。ブーム角αはブーム角度センサ30により、アーム角βはアーム角度センサ31により、バケット角γはバケット角度センサ32により、傾斜角θは車体傾斜角センサ33により検出される。ブーム角αは、ブーム8を最大(最高)まで上げたとき(ブームシリンダ5が上げ方向のストロークエンドのとき、つまりブームシリンダ長が最長のとき)に最大となり、ブーム8を最小(最低)まで下げたとき(ブームシリンダ5が下げ方向のストロークエンドのとき、つまりブームシリンダ長が最短のとき)に最小となる。アーム角βは、アームシリンダ長が最短のときに最小となり、アームシリンダ長が最長のときに最大となる。バケット角γは、バケットシリンダ長が最短のとき(図4のとき)に最小となり、バケットシリンダ長が最長のときに最大となる。
目標掘削面演算部42は、目標掘削面設定装置51からの情報に基づき、目標掘削面60を演算する。目標動作演算部43は、作業機姿勢演算部41、目標掘削面演算部42、目標動作判断部49およびオペレータ操作検出装置52からの情報に基づき、目標掘削面上及びその上方の領域内をバケット10が移動するよう作業機1Aの目標動作を演算する。電磁比例弁制御部44は、目標動作演算部43からの指令に基づき、電磁比例弁54~56への指令を演算する。電磁比例弁54~56は、電磁比例弁制御部44からの指令に基づき制御される。また、報知装置53は、目標動作演算部43からの情報に基づき、マシンコントロールに関連する各種情報をオペレータへ通達する。
目標動作演算部43から電磁比例弁制御部44に出力される指令にはブーム上げ指令が含まれる。ブーム上げ指令は、領域制限制御の実行時に、バケット10の先端の位置が目標掘削面60上及びその上方の領域内に保持されるようにブーム8を強制的に上昇させる際に電磁比例弁制御部44に出力される指令である。ブーム上げ指令が入力されると、電磁比例弁制御部44は電磁比例弁54aに開弁指令(指令電流)を出力し、電磁比例弁54aで発生した圧油(以下2次圧と称す)が油圧駆動部150aに供給され制御弁15aが駆動される。これにより油圧ポンプ2からブームシリンダ5のボトム側の油圧室に作動油が導かれブーム8が上昇する。その際のブーム8の上昇速度(ブーム上げ速度)は、電磁比例弁54aの2次圧の値、すなわち電磁比例弁制御部44から電磁比例弁54aへの指令により制御可能である。
目標動作判断部49は、作業機1Aの先端が目標掘削面の下方に位置する場合、領域制限制御の実行時のブーム8の上昇速度の制御モードとして第1モード(通常ブーム上げ制御)及び当該第1モードより遅い速度で規定された第2モード(減速ブーム上げ緩動作制御)のいずれのモードを選択するのが好ましいかを判定し、その判定結果を目標動作演算部43に出力する。目標動作演算部43はこの判定結果を基に演算した指令を電磁比例弁制御部44に出力する。電磁比例弁制御部44はこの指令を基に電磁比例弁54aに指令を出力し、最終的に、目標動作判断部49で選択された制御モードでブームの上昇速度が制御される。
本実施形態では、目標動作判断部49は、目標掘削面60に対する作業機1Aの先端(バケット10の爪先)の下方への侵入量を基に上記の判定を行い、その侵入量が所定値以上の場合に第2モード(減速ブーム上げ緩動作制御)を選択し、所定値未満の場合に第1モード(通常ブーム上げ制御)を選択している。詳細は図7を用いて説明する。
本実施形態の目標動作判断部49による制御フローチャートを図7に示す。まずステップ100において、目標動作判断部49は、作業機姿勢演算部41から入力したショベル基準座標におけるバケット10の先端の位置と、目標掘削面演算部42から入力したショベル基準座標における目標掘削面(図7では「目標面」と略す)60の位置とを基に、目標掘削面60とバケット10の先端の距離を演算する。そして、目標掘削面60の下にバケット10の先端が位置する場合の当該距離を目標掘削面60に対する作業機1Aの侵入量D、ここではバケット10の先端の侵入量Dとする。ここで侵入量Dが所定値D1(例えば300mm)以上の場合、ステップ101に進む。
ステップ101では、オペレータから操作装置45b,46aによるアーム9又はバケット10への動作指示、すなわち操作レバー1b,1aへの操作入力があるか否かをオペレータ操作検出装置52からの出力を基に判断する。ステップ101で、アーム9又はバケット10に対する操作入力があると判断された場合、ステップ104で減速ブーム上げ緩動作制御が制御モードとして選択される。これにより目標動作判断部49は目標動作演算部43に対して第2モードの制御モード指令を出力し、ブーム上げ制御時のブーム上昇速度が電磁比例弁54aによって第2モードで制御される。
ここで、通常ブーム上げ制御(第1モード)と減速ブーム上げ緩動作制御(第2モード)について説明する。通常、前述の領域制限制御が実行されると、目標動作演算部43からブーム上げ指令が出力され、当該指令を基にバケット先端が目標掘削面60に侵入しないようブーム上げ動作が制御される。このときのブーム上昇速度の制御モードを通常ブーム上げ制御(第1モード)とする。一方、減速ブーム上げ緩動作制御(第2モード)は、バケット先端の目標掘削面60への侵入防止を目的としたものではなく、オペレータへの違和感を小さくするために選択される制御モードであり、その時のブーム上げ速度は、同条件での通常ブーム上げ制御時の速度より常に小さく設定される。例えば第1モード時の速度に所定の割合(例えば20%)を乗じた値を第2モード時の速度とすることができる。第2モード時の速度が常に第1モード時の速度以下に制御されるように、第2モード時の速度を所定値に保持することもできる。この場合の所定値としては、ブーム上昇速度の最小値、すなわち制御弁15aを中立位置から移動可能な最小のパイロット圧が油圧駆動部150aに作用しているときのブーム上昇速度、が選択できる。
減速ブーム上げ緩動作制御に基づくブーム速度制御は、目標掘削面60より上にバケット先端が位置するまで継続して実施されるようにすることができる。つまり、この場合、減速ブーム上げ緩動作制御が一旦選択されると、バケット先端の目標掘削面60に対する侵入量が所定値未満となっても、侵入している間は減速ブーム上げ緩動作制御が選択されることになる。なお、これは他の実施の形態にも適用可能である。
また、ステップ104で減速ブーム上げ緩動作制御が選択された場合は、ステップ105で、減速ブーム上げ緩動作制御が選択された旨をオペレータに通知するように、報知装置53に指令が出される。このとき、オペレータが制限制御スイッチ17を領域制限制御の無効位置に切り換えれば、減速ブーム上げ緩動作制御の選択および領域制限制御の実行が停止される。
一方、ステップ101でアーム9又はバケット10の操作入力がないと判断された場合には、ブーム上げ制御は実行されない(ステップ107)。
また、ステップ100で、目標掘削面に対するバケット先端の侵入量が所定値以下であると判断された場合には、ステップ102へ進む。ステップ102以降では、通常の領域制限制御が実行される。まず、ステップ102において、オペレータ操作検出装置52からの出力を基にアーム9又はバケット10の操作があると判断された場合、ステップ103へ進む。
ステップ103では、目標動作判断部49は、目標動作演算部43からの入力信号を基に目標動作演算部43からブーム上げ指令が出力されているか否かの判断を行う。ステップ103でブーム上げ指令が出力されている場合、ステップ106で通常ブーム上げ制御を選択してブーム上げが実行される。つまり目標動作判断部49が目標動作演算部43に対して第1モードの制御モード指令を出力し、ブーム上げ制御時のブーム上昇速度が電磁比例弁54aによって第1モードで制御される。
ステップ103でブーム上げ指令速度が出力されていないと判断された場合、または、ステップ102でアーム9又はバケット10の操作入力が無いと判断された場合には、ブーム上げ制御は実行されない。
フローチャート中の「RETURN」まで進んだら、ステップ100に戻って上記の処理を繰り返す。
本構成による効果を、図8を用いて説明する。図8には、油圧ショベルと目標掘削面60の位置関係が示されている。油圧ショベルは現況地形における地面600上を走行可能である。目標掘削面60は破線で示されており、これは今から盛土作業を行い、最終的に成形される面を示している。
ここで、矢印Eに示すように、油圧ショベルが地面600上を左から右に走行し目標掘削面60の下方にバケット10の先端が侵入したとする。油圧ショベルの走行は、通常、フロント作業機1Aの操作(フロント操作)無しに行われる。つまり、アーム9又はバケット10の操作は無いので、図7のステップ101又は102の存在によりブーム上げ制御は実施されず、バケット10の先端は走行により目標掘削面60の下方に入り込む。符号Dは、目標掘削面60とバケット10の先端との距離(侵入量)を示し、符号D1はステップ100の所定値を示す。
特許第5706050号公報のように、侵入量Dが所定値(ここでは本実施形態と同じD1とする)以上のときは領域制限制御を実行しないように油圧ショベルを構成した場合には、図8の右側の油圧ショベルの状態でオペレータによってアーム9の操作がされても侵入量DがD1以上の範囲で作業する間はブーム上げ制御は実行されない。そのため、オペレータは侵入量DがD1未満のときに領域制限制御が実行されることを失念したり、侵入量Dに関わらず領域制限制御は全く機能しない状況であると誤解したりする可能性が高くなる。そしてその後、盛り土作業が進んで侵入量Dが減少し、バケット10の先端がD1に達した場合に、第1モードで規定される通常速度のブーム上げ制御が突然実行されることになる。この急動作の発生は、ブーム上げ動作を予期しない又は望まないオペレータにとって大きな違和感となる。また、侵入量Dが継続的にD1の近傍の値となる状況下の作業では、侵入量Dの変化に応じてブーム上げ制御のON/OFFの切り替えが頻繁に発生するため、オペレータの所望する動作をスムーズに実施できず、作業の進捗に支障を来すおそれもある。
これに対して上記のように構成した本実施形態では、図8の右側の油圧ショベルの状態でアーム9の操作が行われると第2モードで規定される低速度でブーム上げ制御が実行される。このときのブーム上昇速度は通常の場合(つまり侵入量DがD1未満の場合)よりも低速なので、マシンコントロールによる突然のブーム上げ動作にオペレータが動揺することを抑制できる。また、ブーム上げ動作の発現により領域制限制御が機能していることをオペレータが看取できるので、上記の失念や誤解が生じることもない。さらに、領域制限制御が不要な場合にはオペレータが制限制御スイッチ17で領域制限制御を自主的に中断するきっかけとなるため、オペレータの意図と異なるマシンコントロールの実行を防止できる。したがって、本実施の形態によれば、目標掘削面の下方に作業機先端がある場合にブーム上げ動作の突然の発生を抑制できるので、オペレータに与える違和感を抑制できる。
また、上記では、第2モードが選択された場合にオペレータにその旨を通知装置を介して通知するように構成した。これによりオペレータの領域制限制御に対する認識をさらに促進できるので、上記の失念や誤解が生じることを更に抑制できる。
また、上記で言及したように、減速ブーム上げ緩動作制御(第2モード)に基づくブーム速度制御が、目標掘削面60より上にバケット先端が位置するまで継続して実施されるように構成した場合には、目標掘削面60に対する侵入量Dが所定値D1以下となっても、バケット先端が目標掘削面60より上に出るまでは減速ブーム上げ緩動作制御に基づくブーム上げ制御が実施される。そのため、バケット先端が目標掘削面60に達するまでは自動ブーム上げの速度が急変することはないため、オペレータに与える違和感を軽減できる。
<第2実施形態>
次に本発明の第2の実施の形態について説明する。なお、本実施形態の油圧ショベルのハードウェア構成は第1の実施形態と同じであるため説明は省略し、第1の実施形態と重複する機能の説明も省略することがある。
本実施形態では、目標動作判断部49における「判定」が第1の実施形態と異なっており、目標掘削面に侵入した理由を考慮することで、ブーム上げ制御時のブーム上昇速度の制御モードを変える構成としている。すなわち、走行または旋回による侵入、ショベルが前傾姿勢となることによる侵入、その他の予期しない理由による侵入(例えば掘削中の制御精度悪化による侵入)、といった目標掘削面への侵入理由に応じてブーム上昇速度の制御モードを変えている。
具体的には、目標動作判断部49は、操作装置46b,47a,47b(操作レバー1b,23a,23b)による下部走行体11又は上部旋回体12への動作指示と、目標掘削面60と作業機1Aの先端の位置関係とを基に、第1モードと第2モードのいずれを選択してブーム上げ制御時のブーム速度を制御するのが好ましいかを判定を行う。そして、操作装置46b,47a,47b(操作レバー1b,23a,23b)による下部走行体11又は上部旋回体12への動作指示により作業機1Aの先端が目標掘削面60の下方に移動した場合には第2モード(減速ブーム上げ緩動作制御)を選択し、操作装置46b,47a,47bによる下部走行体11又は上部旋回体12への動作指示のない場合および作業機1Aの先端が目標掘削面60の上方に位置する場合には第1モード(通常ブーム上げ制御)を選択する。詳細は図9を用いて説明する。
図9は、本実施形態の目標動作判断部49における制御フローチャートである。なお、本フローチャートは、制御周期ごとに実施するものとする。
まずステップ200において、1周期前の制御周期において、目標掘削面60に対するバケット先端の侵入があったか否かを判断する。バケット先端の目標掘削面60への侵入がないと判断された場合には、現在のバケット先端は目標掘削面60の上方に位置するとみなしてステップ201に進む。
ステップ201では、操作レバー1bまたは操作レバー23a,23bを介した走行操作または旋回操作があるかを判定する。ここで走行操作又は旋回操作があると判定された場合には、ステップ202に進む。
ステップ202では、目標動作判断部49は、作業機姿勢演算部41から入力したバケット10の先端の位置と、目標掘削面演算部42から入力した目標掘削面60の位置とを基に、目標掘削面60に対するバケット先端の侵入があるか否かを判定する。ステップ202で目標掘削面60に対して侵入があると判定された場合、侵入した原因は走行又は旋回操作であると判断してステップ203に進む。
ステップ203では、操作レバー1b,1aによるアーム9又はバケット10に対する操作入力があるか否かを判断する。ここで、アーム9又はバケット10の操作入力があると判断された場合、ステップ209において減速ブーム上げ緩動作制御(第2モード)がブーム上げ速度の制御モードとして選択される。そして、ステップ210で、旋回または走行があったため減速ブーム上げ緩動作制御が選択されていることをオペレータに通知するように報知装置53に指令を出す。なお、第1実施形態と同様に、減速ブーム上げ緩動作制御を、作業機1Aが目標掘削面60より上に出るまで実行しても良い。
ステップ201で走行操作又は旋回操作が無いと判断された場合には、ステップ204に進む。
ステップ204では、車体傾斜角センサ33からの出力を基に車体傾斜角θが前傾方向に所定角度θ1より大きいか否か判定する。所定角度θ1より大きいとステップ204で判断された場合、ステップ215へと進む。
ステップ215では、目標動作判断部49は、作業機姿勢演算部41から入力したバケット10の先端の位置と、目標掘削面演算部42から入力した目標掘削面60の位置とを基に、目標掘削面60に対するバケット先端の侵入があるか否かを判定する。ステップ215で目標掘削面60に対して侵入があると判定された場合、侵入した原因は車体の前傾姿勢によるものと判断してステップ205に進む。
ステップ205では、アーム9又はバケット10の操作入力があるか否かを判定する。ステップ205でアーム9又はバケット10の操作入力があると判定された場合、ステップ206へ進む。
ステップ206では、図7のステップ103と同様に、ブーム上げ指令が出力されているかどうかを判定する。ステップ206でブーム上げ指令が出力されていると判定された場合、ステップ212では、車体傾斜角θが大きいためブーム上げ制御を実行しないことを決定する(すなわちステップ206のブーム上げ指令はキャンセルする)とともに、ブーム上げ制御を実施しない旨を通知するように報知装置53に指令を出す。
ステップ200で侵入有りと判定された場合と、ステップ202,215で目標掘削面60に対して侵入無しと判定された場合と、ステップ204で車体傾斜角θが所定角度θ1以下と判定された場合には、ステップ207へ進む。なお、ステップ207に進むケースとして、走行、旋回又は前傾姿勢による侵入ではなく、掘削作業中の何らかの理由(例えば掘削中の制御精度悪化)で侵入した場合も含まれることになる。
ステップ207,208では、アーム9又はバケット10操作があり、そのときブーム上げ指令が出力されていれば、ステップ213で通常ブーム上げ制御(第1モード)を選択する。また、ステップ203、205、207において、アーム又はバケット操作が無いと判定された場合と、ステップ206、208においてブーム上げ指令が出力されていない場合は、ステップ211でブーム上げ制御を実行しないこととする。
本実施の形態の効果を説明する。下部走行体11の走行又は上部旋回体12の旋回により作業機1Aの先端が目標掘削面60の下方に移動した場合は、掘削作業中にバケット先端が目標掘削面60に侵入した訳ではない。そこで本実施形態では、このような場合に第1モードよりも低速度の第2モードでブーム上げ制御が実行されるようにし、通常と異なる制御が機能していることをオペレータに報知するようにした。これにより走行又は旋回後に低速のブーム上げ動作が発生した場合には、走行又は旋回が原因で目標掘削面60の下方に移動したことをオペレータに容易に認識させることができる。そのため、領域制限制御(ブーム上げ制御)の実行を希望しない場合には、オペレータが制限制御スイッチ17で領域制限制御を自主的に中断することも容易となる。
また、地形が悪く車体傾斜が原因でバケット先端が目標掘削面60に侵入した場合には、ショベルが不安定な姿勢になっていることが多く、そのような状況下では掘削精度の悪化が懸念される。そこで、本実施形態では、下部走行体11又は上部旋回体12への動作指示が無いまま目標掘削面60に侵入した場合であっても、車体傾斜角θが前傾方向に所定角度θ1より大きいときには、車体傾斜が侵入原因とみなし、ブーム上げ制御(領域制限制御)を中断する構成とした。これによりショベルが不安定な姿勢でのブーム上げ制御の実施を回避でき、安定した作業を継続できる。
また、本実施の形態では、ステップ201及び204でNOとなった場合にステップ207を実行するように構成しているため、上記(走行、旋回または車体傾斜)以外の原因でバケット先端が目標掘削面60に侵入した場合も、第1モードでブーム速度を制御することとなる。これにより、掘削作業時に何らかの原因(例えばバケット先端の制御精度の悪化)でバケット先端が目標掘削面60の下方に侵入した場合に、バケット先端を速やかに目標掘削面60まで復帰させることができるので掘削作業の作業効率が低下することを防止できる。
したがって本実施形態によれば、上記のような種々の状況に応じて適切なブーム上げ制御を実施することが可能となる。
<第3実施形態>
次に本発明の第3の実施の形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態の変形例である。なお、本実施形態の油圧ショベルのハードウェア構成は第1の実施形態と同じであるため説明は省略し、第1及び第2の実施形態と重複する機能の説明も省略する。
図10は第3の実施形態の目標動作判断部49におけるフローチャートである。この図から明らかなように、目標動作判断部49は、ステップ204においてショベルの車体傾斜角θを基に判定を行っており、(1)侵入量Dが所定値D1以上の場合(ステップ104を通過する場合)は第2モードを選択し、(2)侵入量Dが所定値D1未満かつ車体傾斜角θが所定角度θ1以上の場合(ステップ212を通過する場合)は領域制限制御を中断し、(3)侵入量Dが所定値D1未満かつ車体傾斜角θが所定角度θ1未満の場合(ステップ105を通過する場合)は第1モードを選択している。
このように構成した本実施形態においても、第2の実施形態と同様にショベルが不安定な姿勢でのブーム上げ制御の実施を回避でき、安定した作業を継続できる。
<付記>
領域制限制御の実行時のブーム上昇速度の制御モードである第1モードと第2モードの例について図11及び図12を用いて説明する。
図11では、第1モードのブーム上げ速度VBは直線で規定され、第2モードの速度VBは曲線で規定されている。第1モードと第2モードは所定値D1で滑らかに接続されており、侵入量DがD1以上の状態からD1未満の状態に変化する場合、所定値D1の前後でモードを切り替える場合を想定している。なお、第1モードも曲線で規定しても良いし、第2モードも直線で規定しても良い。
図12では、第2モードの速度VBは侵入量Dに関わらず一定値で規定されている。図12では、侵入量DがD1以上の状態からD1未満の状態に変化する場合、侵入量Dが所定値D1に到達してもモードを切り替えず侵入量Dがゼロになるまで第2モードを保持する場合(第2モードに基づくブーム速度制御を目標掘削面60より上にバケット先端が位置するまで継続して実施する場合)を想定している。
図11,12の例では説明を簡素化するために侵入量Dとブーム上げ速度VBを関連付けているが、各モードのブーム上げ速度VBは侵入量と独立させることもできる。図11,12の例以外にも、同じ侵入量で第2モードの速度が第1モードの速度以下の値になるものであれば、あらゆるパターンが適用可能である。
ところで、上記の各実施形態において、作業機1Aの目標掘削面60の侵入について、バケット先端の侵入量を例として挙げたが、バケット先端に限定するものではない。例えばバケット先端ではなく、バケットの背面のように、バケット上の任意の点を制御対象としても良い。
姿勢情報のためのブーム、アーム、バケットの角度を検出するために角度センサを用いたが、角度センサに代えて、ブームシリンダ、アームシリンダ、バケットシリンダのストローク長さを検出するストロークセンサによりショベルの姿勢情報を算出しても良い。
図7,9,10の各フローチャートにおいて、ステップ101,102,103,203,205,206,207,208は省略可能である。
油圧ショベルに設定した2次元座標系(ショベル座標系)にバケット先端と目標掘削面を設定して各種制御を行ったが、これに代えて、地面(地球)に設定した3次元座標系(世界座標系)にバケット先端と目標掘削面を設定しても良い。
第1実施形態において、ステップ101でYESと判定された場合にステップ103と同じ判定(ブーム上げ指令の有無の判定)を追加的に実行し、当該判定がYESの場合にステップ104に進み、当該判定がNOの場合にステップ107に進むようにしても良い。
第2実施形態において、ステップ202でNOと判定された場合(走行操作/旋回操作が無しの場合)にはステップ204でなくステップ207に進むようにしても良い。すなわち、ステップ204、205,206,212は省略可能である。
ステップ202での判断を走行又は旋回操作があるか否かとしたが、これを走行のみとしても良い。また、旋回も含めてマシンコントロールするものとして、旋回により目標掘削面に侵入しようとする場合、その旋回に制御介入をしても良い。
また、ステップ204での判定条件を車体傾斜角θが前傾方向(ピッチ角)に所定角度θ1以上としたが、これは前傾方向に限定しなくともよい。例えば後傾方向や、左右傾斜(ロール角)に応じた判定条件としても良い。
走行又は旋回による目標掘削面への侵入の判断に関しては種々のパターンが利用可能である。例えば、上記の例に代えて、走行操作中または旋回操作中のバケット先端と目標面の位置関係を監視しておき、バケット先端が目標掘削面の上方から下方に移動したことが確認できたらステップ203の処理を実行するように構成しても良い。
第2実施形態及び第3実施形態では、車体傾斜角θがθ1を越える場合にブーム上げ制御を中断する場合を説明したが、これに代えて第2モードでブーム上げ制御を行うようにシステムを構成しても良い。