以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら詳述する。
まず、本発明に至った経緯について説明する。
クロム系材料の薄膜のドライエッチングにおけるサイドエッチングの問題を解決する手段として、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いるドライエッチングにおいて、混合ガス中の塩素系ガスの混合比率を大幅に高めることが検討されている。塩素系ガスは、イオン性のプラズマになる傾向が大きいからである。ただし、塩素系ガスの混合比率を高めた塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いたドライエッチングでは、クロム系材料の薄膜のエッチングレートが低下することは避けられない。このクロム系材料の薄膜のエッチングレートの低下を補うために、ドライエッチング時に印加されるバイアス電圧を大幅に高くすることも検討されている。なお、このような塩素系ガスの混合比率を高めた塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用い、且つ高いバイアス電圧を印加した状態で行われるドライエッチングのことを、以降の説明において、単に「高バイアス条件のドライエッチング」と呼ぶこととする。
クロム系材料膜に対する高バイアス条件のドライエッチングでは、同じエッチングガスの条件を用いて通常のバイアス電圧で行うドライエッチング(以下、「通常条件のドライエッチング」とも呼ぶ。)に比べて膜厚方向のエッチングのエッチングレートを大幅に速くすることができる。通常、薄膜をドライエッチングする際には、化学反応によるドライエッチングと物理的作用によるドライエッチングの両方が行われる。化学反応によるドライエッチングは、プラズマ状態のエッチングガスが薄膜の表面に接触し、薄膜中の金属元素と結合して低沸点の化合物を生成して昇華するプロセスで行われる。これに対し、物理的作用によるドライエッチングは、バイアス電圧によって加速されたエッチングガス中のイオン性のプラズマが薄膜の表面に衝突することで、薄膜表面の金属元素を含む各元素を物理的にはじき飛ばし、その金属元素と低沸点の化合物を生成して昇華するプロセスで行われる。
高バイアス条件のドライエッチングは、通常条件のドライエッチングに比べて物理的作用によるドライエッチングを高めたものである。物理的作用によるドライエッチングは、膜厚方向へのエッチングに対して大きく寄与するが、パターンの側壁方向へのエッチングにはあまり寄与しない。これに対し、化学反応によるドライエッチングは、膜厚方向へのエッチング及びパターンの側壁方向へのエッチングのいずれにも寄与するものである。したがって、サイドエッチング量を従来よりも小さくするためには、クロム系材料膜における化学反応によるドライエッチングのされやすさを従来よりも低減しつつ、物理的作用によるドライエッチングのされやすさを従来と同等程度に維持することが必要となる。
クロム系材料膜における化学反応によるドライエッチングに係るエッチング量を小さくするためには、たとえばクロム系材料膜中のクロム含有量を増やすことが挙げられる。しかし、クロム系材料膜中のクロム含有量が多すぎると、物理的作用によるエッチング量が大幅に小さくなってしまい、クロム系材料膜のエッチングレートが大幅に低下してしまう。エッチングレートが大幅に低下すると、クロム系材料膜をパターニングするときのエッチング時間が大幅に長くなり、パターンの側壁がエッチングガスに晒される時間が長くなるので、サイドエッチング量が増加することにつながる。したがって、クロム系材料膜中のクロム含有量を単に増やすといった方法は、膜のエッチングレートが大きく低下し、サイドエッチング量の抑制には結びつかない。
そこで、本発明者は、クロム系材料膜中のクロム以外の構成元素について検討した。サイドエッチング量を抑制するためには、化学反応によるドライエッチングを促進する酸素ラジカルを消費する軽元素を含有させることが効果的である。本発明におけるエッチングストッパー膜を形成するクロム系材料に、一定量以上含有させることができる軽元素としては、酸素、窒素、炭素などが挙げられる。
たとえば、本発明におけるエッチングストッパー膜を形成するクロム系材料に酸素を含有させることで、高バイアス条件のドライエッチング及び通常条件のドライエッチングのいずれの場合もエッチングレートが大幅に速くなる。同時にサイドエッチングも進行しやすくなるが、エッチングストッパー膜の厚さは通常20nm以下であり、膜厚方向のエッチング時間が大きく短縮されることを考慮すると、高バイアス条件のドライエッチングの場合、エッチングストッパー膜を形成するクロム系材料には酸素を含有させる必要がある。
また、エッチングストッパー膜を形成するクロム系材料に窒素を含有させると、上述の酸素を含有させる場合ほど顕著ではないが、高バイアス条件のドライエッチング及び通常条件のドライエッチングのいずれの場合もエッチングレートが速くなる。しかし、同時にサイドエッチングも進行しやすくなる。クロム系材料に窒素を含有させた場合、膜厚方向のエッチング時間が短縮される度合いに比べ、サイドエッチングの進行しやすさが大きくなることを考慮すると、高バイアス条件のドライエッチングの場合、エッチングストッパー膜を形成するクロム系材料には窒素を含有させない方が望ましいといえる。
また、通常条件のドライエッチングの場合、クロム系材料に炭素を含有させると、クロムのみからなる膜の場合よりもエッチングレートがわずかに遅くなる。しかし、クロム系材料に炭素を含有させると、クロムのみからなる膜の場合よりも物理的作用によるドライエッチングに対する耐性が低くなる。このため、物理的作用によるドライエッチングの傾向が大きい高バイアス条件のドライエッチングの場合には、クロム系材料に炭素を含有させると、クロムのみからなる膜の場合よりもエッチングレートが速くなる。また、クロム系材料に炭素を含有させると、サイドエッチングを促進する酸素ラジカルを消費するため、酸素や窒素を含有させる場合に比べてサイドエッチングが進行しにくい。これらを考慮すると、高バイアス条件のドライエッチングの場合、エッチングストッパー膜を形成するクロム系材料には炭素を含有させる必要がある。
クロム系材料に窒素を含有させた場合と炭素を含有させた場合とでは上記のような大きな相違が生じるのは、Cr-N結合とCr-C結合との間の相違に起因する。Cr-N結合は結合エネルギーが低く、結合の解離がし易い傾向があるため、プラズマ状態の塩素と酸素が接触すると、Cr-N結合が解離して低沸点の塩化クロミルを形成し易い。他方、Cr-C結合は結合エネルギーが高く、結合の解離がし難い傾向があるため、プラズマ状態の塩素と酸素が接触しても、Cr-C結合が解離して低沸点の塩化クロミルを形成し難い。
高バイアス条件のエッチングは、前記のように、物理的作用によるドライエッチングの傾向が大きく、この物理的作用によるドライエッチングでは、イオン衝撃によって薄膜中の各元素がはじき飛ばされて、その際に各元素間の結合が断ち切られた状態になる。このため、元素間の結合エネルギーの高さの相違によって生じる塩化クロミルの形成し易さの差は、化学反応によるドライエッチングの場合に比べて小さい。前述のように、物理的作用によるドライエッチングは、膜厚方向のエッチングに対して大きく寄与する半面、パターンの側壁方向へのエッチングへはあまり寄与しない。したがって、クロム系材料で形成するエッチングストッパー膜の膜厚方向への高バイアス条件のドライエッチングでは、Cr-N結合とCr-C結合との間でのエッチングのされ易さの差は小さい。
これに対し、パターンの側壁方向に進行するサイドエッチングでは、化学反応によるドライエッチングの傾向が高いため、エッチングストッパー膜を形成するクロム系材料中のCr-N結合の存在比率が高いとサイドエッチングが進行しやすい。他方、エッチングストッパー膜を形成するクロム系材料中のCr-C結合の存在比率が高いとサイドエッチングが進行し難いことになる。
本発明者は、これらのことを総合的に考慮し、さらには薄膜の深さ方向の化学結合状態を分析することにも着目して検討した結果、上記課題を解決するため、透光性基板上にエッチングストッパー膜およびパターン形成用薄膜(例えば遮光膜)がこの順に積層した構造を備え、上記パターン形成用薄膜はケイ素およびタンタルから選ばれる1以上の元素を含有する材料からなるマスクブランクであって、転写パターンが形成された上記パターン形成用薄膜をマスクとし、たとえば高バイアス条件のドライエッチングでパターニングされる上記エッチングストッパー膜は、クロム、酸素および炭素を含有する材料からなり、このエッチングストッパー膜は、クロム含有量が50原子%以上であり、このエッチングストッパー膜は、X線光電子分光法で分析して得られるN1sのナロースペクトルの最大ピークが検出下限値以下であり、このエッチングストッパー膜は、X線光電子分光法で分析して得られるCr2pのナロースペクトルが574eV以下の結合エネルギーで最大ピークを有するものであることがよいとの結論に至り、本発明を完成するに至ったものである。
以下、実施の形態に基づいて本発明を詳細に説明する。
[第1の実施の形態]
図1は、本発明に係るマスクブランクの第1の実施の形態を示す断面概略図である。
図1に示されるとおり、本発明の第1の実施の形態に係るマスクブランク10は、透光性基板1上に、エッチングストッパー膜2、およびパターン形成用薄膜である遮光膜3がこの順に積層され、さらにこの遮光膜3上にハードマスク膜4を備える構造のバイナリマスクブランクである。
ここで、上記マスクブランク10における透光性基板1としては、半導体デバイス製造用の転写用マスクに用いられる基板であれば特に限定されない。半導体デバイス製造の際の半導体基板上へのパターン露光転写に使用する露光波長に対して透明性を有するものであれば特に制限されず、合成石英基板や、その他各種のガラス基板(例えば、ソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス等)が用いられる。この中でも合成石英基板は、微細パターン形成に有効なArFエキシマレーザー(波長193nm)又はそれよりも短波長の領域で透明性が高いので、特に好ましく用いられる。
上記エッチングストッパー膜2は、直上の遮光膜3とエッチング選択性の高い素材であることが必要であり、本発明では、エッチングストッパー膜2の素材にクロム系材料を選択することにより、ケイ素系材料またはタンタル系材料からなる遮光膜3との高いエッチング選択性を確保することができる。
次に、本発明における上記エッチングストッパー膜2の構成をさらに詳しく説明する。
上記エッチングストッパー膜2は、クロム(Cr)、酸素(O)および炭素(C)を含有する材料からなる。
このエッチングストッパー膜2は組成がほぼ一定であり、具体的には厚さ方向における各構成元素の含有量の差がいずれも10原子%未満であることが好ましい。
また、本発明において、上記エッチングストッパー膜2は、クロム含有量が50原子%以上である。このクロム含有量が50原子%以上であれば、転写パターンが形成された上記遮光膜3をマスクとし、このエッチングストッパー膜2を高バイアス条件のドライエッチングでパターニングするときに生じるサイドエッチングを抑制することができる。
また、上記エッチングストッパー膜2は、クロム含有量が80原子%以下であることが好ましい。このクロム含有量が80原子%よりも多いと、エッチングストッパー膜2を高バイアス条件のドライエッチングでパターニングするときのエッチングレートが大幅に低下してしまう。従って、エッチングストッパー膜2を高バイアス条件のドライエッチングでパターニングするときのエッチングレートを十分に確保するためには、上記のとおり、エッチングストッパー膜2は、クロム含有量が80原子%以下であることが好ましい。
また、本発明において、上記エッチングストッパー膜2は、X線光電子分光法(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)で分析して得られるN1sのナロースペクトルの最大ピークが検出下限値以下である。
このN1sのナロースペクトルのピークが存在すると、上記エッチングストッパー膜2を形成するクロム系材料中にCr-N結合が所定比率以上存在することになる。上記エッチングストッパー膜2を形成する材料中にCr-N結合が所定比率以上存在すると、エッチングストッパー膜2を高バイアス条件のドライエッチングでパターニングするときのサイドエッチングの進行を抑制することが困難となる。本発明では、上記エッチングストッパー膜2における窒素(N)の含有量は検出限界値以下であることが望ましい。
また、本発明においては、上記エッチングストッパー膜2は、X線光電子分光法で分析して得られるCr2pのナロースペクトルが574eV以下の結合エネルギーで最大ピークを有する。
クロム系材料において、Cr2pのナロースペクトルが574eVよりも高い結合エネルギーで最大ピークを有している状態、すなわちケミカルシフトしている状態である場合、他の原子(特に窒素)と結合しているクロム原子の存在比率が高い状態であることを示している。このようなクロム系材料は、パターンの側壁方向へのエッチングに寄与する化学反応によるドライエッチングに対する耐性が低い傾向があるため、サイドエッチングの進行を抑制することが困難である。これに対し、本発明のように上記エッチングストッパー膜2が、X線光電子分光法で分析して得られるCr2pのナロースペクトルが574eV以下の結合エネルギーで最大ピークを有するクロム系材料で形成されている場合、このようなエッチングストッパー膜2を高バイアス条件のドライエッチングでパターニングするときのサイドエッチングの進行を抑制することができる。
また、本発明において、上記エッチングストッパー膜2における炭素の含有量[原子%]をクロム、炭素および酸素の合計含有量[原子%]で除した比率は、0.1以上であることが好ましく、より好ましくは、0.14以上である。本発明において、上記エッチングストッパー膜2は、クロム、酸素および炭素を含有する材料からなり、エッチングストッパー膜2中のクロムは、Cr-O結合の形態、Cr-C結合の形態、酸素および炭素のいずれとも結合していない形態のいずれかの形態で存在するものが大勢となっている。したがって、炭素の含有量[原子%]をクロム、炭素および酸素の合計含有量[原子%]で除した比率が高いクロム系材料は、材料中のCr-C結合の存在比率が高く、このようなクロム系材料を高バイアス条件のドライエッチングでパターニングしたときのサイドエッチングの進行を抑制することができる。
上記のとおり、エッチングストッパー膜2は、クロム、酸素および炭素を含有する材料からなるが、これらクロム、酸素および炭素の合計含有量が95原子%以上であることが好ましく、より好ましくは98原子%以上である。上記エッチングストッパー膜2は、たとえば成膜時に混入することが不可避な不純物を除き、上記のクロム、酸素および炭素で構成されていることが特に好ましい。ここでいう混入することが不可避な不純物とは、エッチングストッパー膜2をスパッタリング法で成膜するときのスパッタリングガスに含まれる例えばアルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、水素等の元素である。
本発明においては、上記エッチングストッパー膜2は、酸素含有量が10原子%以上35原子%以下であることが好ましい。エッチングストッパー膜2を形成するクロム系材料中にこのような範囲の含有量で酸素を含有することにより、高バイアス条件のドライエッチングの場合のエッチングレートが大幅に速くなり、膜厚方向のエッチング時間を大幅に短縮することができる。
また、上記エッチングストッパー膜2は、炭素含有量が10原子%以上20原子%以下であることが好ましい。エッチングストッパー膜2を形成するクロム系材料中にこのような範囲の含有量で炭素を含有することにより、高バイアス条件のドライエッチングの場合のエッチングレートを速めるとともに、サイドエッチングの進行を抑制することができる。
また、上記エッチングストッパー膜2は、X線光電子分光法で分析して得られるSi2pのナロースペクトルの最大ピークが検出下限値以下であることが好ましい。Si2pのナロースペクトルのピークが存在すると、エッチングストッパー膜2を形成する材料中に、未結合のケイ素や、他の原子と結合したケイ素が所定比率以上存在することになる。このような材料は、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスによるドライエッチングに対するエッチングレートが低下する傾向があるため望ましくない。したがって、上記エッチングストッパー膜2は、ケイ素の含有量が1原子%以下であることが好ましく、検出限界値以下であることが望ましい。
上記エッチングストッパー膜2を形成する方法については特に制約される必要はないが、なかでもスパッタリング成膜法が好ましく挙げられる。スパッタリング成膜法によると、均一で膜厚の一定な膜を形成することが出来るので好適である。上記エッチングストッパー膜2の形成には導電性の高いターゲットを用いるため、成膜速度が比較的速いDCスパッタリングを用いることがより好ましい。
上記エッチングストッパー膜2の膜厚は特に制約される必要はないが、例えば3nm以上20nm以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは3.5nm以上15nm以下である。
次に、上記遮光膜3について説明する。
本実施形態において、上記遮光膜3は、ケイ素およびタンタルから選ばれる1以上の元素を含有する材料からなる。
本発明では、上記遮光膜3の素材にケイ素系材料やタンタル系材料を選択することにより、上述のクロム系材料からなる上記エッチングストッパー膜2との高いエッチング選択性を確保することができる。
上記遮光膜3を形成するケイ素およびタンタルから選ばれる1以上の元素を含有する材料としては、本発明では以下の材料が挙げられる。
ケイ素を含有する材料としては、ケイ素および窒素からなる材料、またはこの材料に半金属元素および非金属元素から選ばれる1以上の元素を含有する材料が挙げられる。この場合の半金属元素は、ホウ素、ゲルマニウム、アンチモンおよびテルルから選ばれる1以上の元素であると好ましい。また、この場合の非金属元素には、狭義の非金属元素(窒素、炭素、酸素、リン、硫黄、セレン)、ハロゲン、および貴ガスが含まれる。
また、このほかの遮光膜3に好適なケイ素を含有する材料としては、ケイ素および遷移金属に、酸素、窒素、炭素、ホウ素および水素から選ばれる1以上の元素を含有する材料が挙げられる。この場合の遷移金属としては、例えば、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、ルテニウム(Ru)、スズ(Sn)、クロム(Cr)などが挙げられる。このようなケイ素と遷移金属を含有する材料は遮光性能が高く、遮光膜3の厚さを薄くすることが可能となる。
また、タンタルを含有する材料としては、タンタル金属のほか、タンタルに窒素、酸素、ホウ素および炭素から選ばれる1以上の元素を含有する材料が用いられ、具体的には、例えば、Ta、TaN、TaO、TaON、TaBN、TaBO、TaBON、TaCN、TaCO、TaCON、TaBCN、TaBOCNなどが好ましく挙げられる。
上記遮光膜3を形成する方法についても特に制約される必要はないが、なかでもスパッタリング成膜法が好ましく挙げられる。スパッタリング成膜法によると、均一で膜厚の一定な膜を形成することが出来るので好適である。遮光膜2がケイ素および窒素からなる材料、またはこの材料に半金属元素および非金属元素から選ばれる1以上の元素を含有する材料で形成される場合、ターゲットの導電性が低いため、RFスパッタリングやイオンビームスパッタリングを用いて成膜することが好ましい。一方、遮光膜2がケイ素および遷移金属に、酸素、窒素、炭素、ホウ素および水素から選ばれる1以上の元素を含有する材料あるいはタンタルを含有する材料で形成される場合、ターゲットの導電性が比較的高いため、成膜速度が比較的速いDCスパッタリングを用いて成膜することが好ましい。
上記遮光膜3は、単層構造でも、積層構造でもよい。例えば、遮光層と表面反射防止層の2層構造や、さらに裏面反射防止層を加えた3層構造とすることができる。
上記遮光膜3は、所定の遮光性を確保することが求められ、例えば微細パターン形成に有効なArFエキシマレーザー(波長193nm)の露光光に対する光学濃度(OD)が2.8以上であることが求められ、3.0以上であるとより好ましい。
また、上記遮光膜3の膜厚は特に制約される必要はないが、バイナリマスクブランクにおいて微細パターンを精度良く形成できるためには80nm以下であることが好ましく、70nm以下であるとより好ましい。他方、遮光膜3は、上記のとおり所定の遮光性(光学濃度)を確保することが求められることから、上記遮光膜3の膜厚は、30nm以上であることが好ましく、40nm以上であることがより好ましい。
また、本実施の形態のように、マスクブランク10の表面に形成するレジスト膜の薄膜化を目的として、上記遮光膜3上に、この遮光膜3とはエッチング選択性を有する材料からなるハードマスク膜(「エッチングマスク膜」と呼ばれることもある。)4を設けることが好ましい。
このハードマスク膜4は、ドライエッチングで遮光膜3にパターンを形成する際のエッチングマスクとして機能するため、ハードマスク膜4の材料は、遮光膜3のドライエッチング環境に対して十分な耐性を有する材料で形成する必要がある。ケイ素系材料またはタンタル系材料からなる遮光膜3のドライエッチングには、通常、フッ素系ガスがエッチングガスとして用いられるため、ハードマスク膜4の材料としては、このフッ素系ガスのドライエッチングに対し、遮光膜3との間で十分なエッチング選択性を有するクロムを含有するクロム系材料を用いることが好適である。
上記ハードマスク膜4を形成するクロム系材料としては、例えば、クロムに、酸素、炭素、窒素、水素、およびホウ素などの元素から選ばれる1種以上の元素を添加したクロム化合物などが挙げられる。このハードマスク膜4は、マスクブランク10の表面に形成されたレジスト膜のパターンをマスクとし、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いたドライエッチングによりパターニングされるので、この塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスによるドライエッチングにおけるエッチングレートが速いことが好ましく、この観点からは、上記ハードマスク膜4は少なくともクロムおよび酸素を含有する材料からなることが好ましい。なお、ハードマスク膜4は、エッチングストッパー膜2と同じ材料を用いた単層膜とするとより好ましい。この場合、ハードマスク膜4の透光性基板1側とは反対側の表面およびその近傍の領域は、酸化の進行が避け難いため、酸素含有量が増加した組成傾斜部を有する単層膜となる。
上記ハードマスク膜4を形成する方法については特に制約される必要はないが、なかでもスパッタリング成膜法が好ましく挙げられる。スパッタリング成膜法によると、均一で膜厚の一定な膜を形成することが出来るので好適である。上記ハードマスク膜4の形成には導電性の高いターゲットを用いるため、成膜速度が比較的速いDCスパッタリングを用いることがより好ましい。
上記ハードマスク膜4の膜厚は特に制約される必要はないが、このハードマスク膜4は、フッ素系ガスを用いたドライエッチングにより、直下の遮光膜3をパターニングするときのエッチングマスクとして機能するものであるため、少なくとも直下の遮光膜3のエッチングが完了する前に消失しない程度の膜厚が必要である。一方、ハードマスク膜4の膜厚が厚いと、直上のレジストパターンを薄膜化することが困難である。このような観点から、上記ハードマスク膜4の膜厚は、例えば3nm以上15nm以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは3.5nm以上10nm以下である。
また、図1には示されていないが、以上の構成のマスクブランク10の表面にレジスト膜を有する形態のものも本発明のマスクブランクに含まれる。
上記レジスト膜は有機材料からなるもので、電子線描画用のレジスト材料であると好ましく、特に化学増幅型のレジスト材料が好ましく用いられる。
上記レジスト膜は、通常、スピンコート法等の塗布法によってマスクブランクの表面に形成される。このレジスト膜は、微細パターン形成の観点から、例えば200nm以下の膜厚とすることが好ましいが、上記ハードマスク膜4を備えることにより、レジスト膜をより薄膜化することができ、例えば100nm以下の膜厚とすることが可能である。
以上説明した構成を有する本実施の形態のマスクブランク10によれば、透光性基板1上に、本発明の構成のクロム系材料からなるエッチングストッパー膜2、ケイ素系材料またはタンタル系材料からなる遮光膜(パターン形成用薄膜)3、およびハードマスク膜4がこの順に積層された構造のマスクブランクであって、転写パターンが形成された遮光膜3をマスクとし、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用い、高バイアス条件のドライエッチングでエッチングストッパー膜2をパターニングした場合においても、エッチングストッパー膜2のパターン側壁に生じるサイドエッチング量を低減でき、このことにより、エッチングストッパー膜2のパターンの細りによる転写パターンの倒れを抑制でき、微細な転写パターンを精度良く形成することが可能となる。
したがって、本発明のマスクブランクは、微細なパターン(例えば寸法が50nm以下のSRAF(Sub Resolution Assist Features)パターンなど)を高いパターン精度で形成することが要求される場合に特に好適である。
本発明は、上記の本発明に係るマスクブランクから作製される転写用マスクの製造方法についても提供するものである。
図3は、上述した第1の実施の形態のマスクブランクを用いた転写用マスクの製造工程を示す断面概略図である。
マスクブランク10の表面に、例えばスピンコート法で電子線描画用のレジスト膜を所定の膜厚で形成する。このレジスト膜に対して、所定のパターンを電子線描画し、描画後、現像することにより、所定のレジスト膜パターン6aを形成する(図3(a)参照)。このレジスト膜パターン6aは最終的な転写パターンとなる遮光膜3に形成されるべき所望のデバイスパターンを有する。
次に、上記レジスト膜パターン6aをマスクとして、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いたドライエッチングにより、クロム系材料からなるハードマスク膜4に、ハードマスク膜のパターン4aを形成する(図3(b)参照)。
次に、残存する上記レジスト膜パターン6aを除去した後、上記ハードマスク膜4に形成されたパターン4aをマスクとして、フッ素系ガスを用いたドライエッチングにより、ケイ素系材料またはタンタル系材料からなる遮光膜3に、遮光膜のパターン3aを形成する(図3(c)参照)。
次に、上記遮光膜3に形成された遮光膜パターン3aをマスクとして、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いたドライエッチングにより、本発明の構成のクロム系材料からなるエッチングストッパー膜2にパターン2aを形成するとともに、上記ハードマスク膜のパターン4aを除去する(図3(d)参照)。本発明では、この場合前述の高バイアス条件のドライエッチングを適用することが好ましい。
本実施形態のマスクブランク10を用いることにより、上記エッチングストッパー膜2を塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いたドライエッチングでパターニングする際のエッチングストッパー膜2のパターン側壁に生じるサイドエッチングを抑制でき、このことにより、エッチングストッパー膜2のパターンの細りによる転写パターン(上記遮光膜パターン3a)の倒れを抑制でき、微細な転写パターンであっても精度良く形成することが可能となる。
以上のようにして、透光性基板1上に転写パターンとなる遮光膜の微細パターン3aを備えたバイナリ型の転写用マスク20が出来上がる(図3(d)参照)。このように、本実施形態のマスクブランク10を用いることにより、高精度の微細な転写パターンが形成された転写用マスク20を製造することができる。
また、このような本実施形態のマスクブランクを使用して製造される転写用マスク20を用いて、リソグラフィー法により当該転写用マスクの転写パターンを半導体基板上のレジスト膜に露光転写する工程を備える半導体デバイスの製造方法によれば、パターン精度の優れたデバイスパターンが形成された高品質の半導体デバイスを製造することができる。
なお、上述の実施形態では、本発明をバイナリマスクブランクに適用し、さらにこの実施形態のバイナリマスクブランクを用いて製造されるバイナリ型の転写用マスクについて説明したが、上述の実施形態のマスクブランク10と同様の構成のマスクブランクを用いて、たとえば基板掘り込みタイプの位相シフトマスク(例えば、掘り込みレベンソン型位相シフトマスク、クロムレス位相シフトマスクなど)を製造することも可能である。すなわち、本実施形態のマスクブランクは、上記位相シフトマスク作製用のマスクブランクとしても使用することができる。
[第2の実施の形態]
図2は、本発明に係るマスクブランクの第2の実施の形態を示す断面概略図である。
図2に示されるとおり、本発明の第2の実施の形態に係るマスクブランク30は、透光性基板1上に、位相シフト膜5、エッチングストッパー膜2、ケイ素系材料またはタンタル系材料からなる遮光膜3、およびクロム系材料からなるハードマスク膜4をこの順に積層した構造の位相シフト型マスクブランクである。
本実施の形態においても、上記エッチングストッパー膜2は本発明の構成を備えるものである。すなわち、本実施形態の上記エッチングストッパー膜2は、クロム、酸素および炭素を含有する材料からなり、クロム含有量が50原子%以上であり、また、このエッチングストッパー膜2は、X線光電子分光法で分析して得られるN1sのナロースペクトルの最大ピークが検出下限値以下であり、また、X線光電子分光法で分析して得られるCr2pのナロースペクトルが574eV以下の結合エネルギーで最大ピークを有するものである。本実施形態のエッチングストッパー膜2の詳細については、上述の第1の実施の形態のエッチングストッパー膜の場合と同様であるので、ここでは重複説明を省略する。
また、本実施形態のマスクブランク30における上記透光性基板1、上記遮光膜3、および上記ハードマスク膜4の詳細についても、上述の第1の実施の形態の場合と同様であるので、ここでは重複説明を省略する。
なお、本実施形態のマスクブランク30における上記エッチングストッパー膜2、上記遮光膜3、および上記ハードマスク膜4を形成する方法についても、第1の実施の形態の場合と同様、スパッタリング成膜法が好適である。また、これらの各膜の膜厚についても第1の実施の形態の場合と同様であるが、本実施形態においては、上記位相シフト膜5、上記エッチングストッパー膜2及び上記遮光膜3の積層構造において、例えばArFエキシマレーザー(波長193nm)の露光光に対する光学濃度(OD)が2.8以上であることが求められ、3.0以上であるとより好ましい。
また、上記位相シフト膜5は、ケイ素を含有する材料から形成されるが、本実施形態に適用される上記位相シフト膜5の構成は特に限定される必要はなく、例えば従来から使用されている位相シフトマスクにおける位相シフト膜の構成を適用することができる。
上記位相シフト膜5は、例えばケイ素を含有する材料、遷移金属とケイ素を含有する材料のほか、膜の光学特性(光透過率、位相差など)、物性(エッチングレート、他の膜(層)とのエッチング選択性など)等を改良するために、さらに窒素、酸素及び炭素のうち少なくとも1つの元素を含む材料で形成される。
上記ケイ素を含有する材料としては、具体的には、ケイ素の窒化物、酸化物、炭化物、酸窒化物(酸化窒化物)、炭酸化物(炭化酸化物)、あるいは炭酸窒化物(炭化酸化窒化物)を含む材料が好適である。
また、上記遷移金属とケイ素を含有する材料としては、具体的には、遷移金属及びケイ素からなる遷移金属シリサイド、または遷移金属シリサイドの窒化物、酸化物、炭化物、酸窒化物、炭酸化物、あるいは炭酸窒化物を含む材料が好適である。遷移金属には、モリブデン、タンタル、タングステン、チタン、クロム、ハフニウム、ニッケル、バナジウム、ジルコニウム、ルテニウム、ロジウム、ニオブ等が適用可能である。この中でも特にモリブデンが好適である。
また、上記位相シフト膜5は、単層構造、あるいは、低透過率層と高透過率層とからなる積層構造のいずれにも適用することができる。
上記位相シフト膜5の好ましい膜厚は、材質によっても異なるが、特に位相シフト機能、光透過率の観点から適宜調整されることが望ましい。通常は、たとえば100nm以下、さらに好ましくは80nm以下の範囲である。上記位相シフト膜5を形成する方法についても特に制約される必要はないが、スパッタリング成膜法が好ましく挙げられる。
また、図2には示されていないが、以上の構成のマスクブランク30の表面にレジスト膜を有する形態のものも本発明のマスクブランクに含まれる。このレジスト膜については、前述の第1の実施の形態の場合と同様である。
次に、第2の実施の形態のマスクブランク30を用いた転写用マスクの製造方法について説明する。
図4は、上述した第2の実施の形態のマスクブランク30を用いた転写用マスク(ハーフトーン型位相シフトマスク)の製造工程を示す断面概略図である。
まず、マスクブランク30の表面に、例えばスピンコート法で電子線描画用のレジスト膜を所定の膜厚で形成する。このレジスト膜に対して、所定のパターンを電子線描画し、描画後、現像することにより、所定のレジスト膜パターン7aを形成する(図4(a)参照)。このレジスト膜パターン7aは最終的な転写パターンとなる位相シフト膜5に形成されるべき所望のデバイスパターンを有する。
次に、上記レジスト膜パターン7aをマスクとして、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いたドライエッチングにより、クロム系材料からなるハードマスク膜4に、ハードマスク膜のパターン4aを形成する(図4(b)参照)。
次に、残存する上記レジスト膜パターン7aを除去した後、上記ハードマスク膜4に形成されたパターン4aをマスクとして、フッ素系ガスを用いたドライエッチングにより、ケイ素系材料またはタンタル系材料からなる遮光膜3に、遮光膜パターン3aを形成する(図4(c)参照)。
次に、上記の遮光膜パターン3aが形成されたマスクブランクの全面に上記と同様のレジスト膜を形成し、このレジスト膜に対して、所定の遮光パターン(例えば遮光帯パターン)を描画し、描画後、現像することにより、上記ハードマスク膜4上に、所定の遮光パターンを有するレジスト膜パターン7bを形成する(図4(d)参照)。
次に、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いたドライエッチングにより、上記遮光膜3に形成された遮光膜パターン3aをマスクとして、本発明の構成のクロム系材料からなるエッチングストッパー膜2にパターン2aを形成するとともに、上記レジストパターン7bをマスクとして、上記ハードマスク膜4に上記遮光パターンを有するパターン4bを形成する(図4(e)参照)。本発明では、この場合前述の高バイアス条件のドライエッチングを適用することが好ましい。
次に、上記レジスト膜パターン7bを除去した後、フッ素系ガスを用いたドライエッチングにより、上記エッチングストッパー膜2に形成されたエッチングストッパー膜パターン2aをマスクとして、上記位相シフト膜5に位相シフト膜パターン5aを形成するとともに、上記遮光パターンを有するハードマスク膜パターン4bをマスクとして、上記遮光膜3に遮光パターンを有するパターン3bを形成する(図4(f)参照)。
次に、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いたドライエッチングにより、上記遮光パターンが形成された遮光膜パターン3bをマスクとし、上記エッチングストッパー膜2に遮光パターンを有するパターン2bを形成するとともに、残存する上記ハードマスク膜パターン4bを除去する(図4(g)参照)。
以上のようにして、透光性基板1上に転写パターンとなる位相シフト膜の微細パターン5aおよび外周領域の遮光パターン(遮光帯パターン)を備えたハーフトーン型位相シフトマスク(転写用マスク)40が出来上がる(図4(g)参照)。
本実施形態のマスクブランク30を用いることにより、上記遮光膜3に形成された遮光膜パターン3aをマスクとし、上記エッチングストッパー膜2を塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いたドライエッチングでパターニングする際(図4(e)の工程)のエッチングストッパー膜2のパターン側壁に生じるサイドエッチングを抑制でき、このことにより、エッチングストッパー膜2のパターン2aの細りによる上記遮光膜パターン3aの倒れを抑制でき、微細なパターンであっても精度良く形成することが可能となる。さらにこのエッチングストッパー膜パターン2aをマスクとして位相シフト膜5をパターニングすることで(図4(f)の工程)、位相シフト膜5にも微細な転写パターンを精度良く形成することが可能となる。
このように、本実施形態のマスクブランク30を用いることにより、高精度の微細な転写パターンが形成された転写用マスク(ハーフトーン型位相シフトマスク)40を製造することができる。
また、このような本実施形態のマスクブランク30から製造される転写用マスク40を用いて、リソグラフィー法により当該転写用マスクの転写パターンを半導体基板上のレジスト膜に露光転写する工程を備える半導体デバイスの製造方法によれば、パターン精度の優れたデバイスパターンが形成された高品質の半導体デバイスを製造することができる。
以下、実施例により、本発明の実施の形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1)
本実施例は、波長193nmのArFエキシマレーザーを露光光として用いる転写用マスク(バイナリマスク)の製造に使用するマスクブランク及び転写用マスクの製造に関するもので、前述の第1の実施の形態に対応する実施例である。
本実施例に使用するマスクブランク10は、図1に示すような、透光性基板1上に、エッチングストッパー膜2、遮光膜3およびハードマスク膜4をこの順に積層した構造のものである。このマスクブランク10は、以下のようにして作製した。
合成石英ガラスからなる透光性基板1(大きさ約152mm×152mm×厚み約6.35mm)を準備した。この透光性基板1は、主表面及び端面が所定の表面粗さ(例えば主表面はRqで0.2nm以下)に研磨されている。
まず、枚葉式DCスパッタリング装置内に、上記透光性基板1を設置し、クロムからなるターゲットを用い、アルゴン(Ar)と二酸化炭素(CO2)とヘリウム(He)の混合ガス雰囲気中で、反応性スパッタリングを行うことにより、上記透光性基板1の主表面上に、クロム、酸素および炭素を含有するCrOC膜からなるエッチングストッパー膜2を厚さ10nmで形成した。
次に、枚葉式DCスパッタリング装置内に上記エッチングストッパー膜2を形成した透光性基板1を設置し、モリブデン(Mo)とケイ素(Si)との混合ターゲット(Mo:Si=13原子%:87原子%)を用い、窒素(N2)とアルゴン(Ar)の混合ガスをスパッタリングガスとし、DCスパッタリングにより、上記エッチングストッパー膜2の表面に接して、モリブデン、ケイ素および窒素を含有するMoSiN膜(Mo:9.2原子%、Si:68.3原子%、N:22.5原子%)からなる遮光膜の下層を47nmの厚さで形成した。続いて、上記と同じMoSi混合ターゲットを用い、窒素(N2)とアルゴン(Ar)の混合ガスによるDCスパッタリングにより、上記遮光膜の下層の上に、モリブデン、ケイ素および窒素を含有するMoSiN膜(Mo:5.8原子%、Si:64.4原子%、N:27.7原子%)からなる遮光膜の上層を4nmの厚さで形成した。こうして、合計の厚さが51nmの二層構造のMoSi系の遮光膜3を形成した。形成したMoSi系遮光膜3の積層膜の光学濃度は、ArFエキシマレーザーの波長(193nm)において3.0以上であった。
次に、枚葉式DCスパッタリング装置内に、上記遮光膜3までを形成した透光性基板1を設置し、クロムからなるターゲットを用い、アルゴン(Ar)と二酸化炭素(CO2)とヘリウム(He)の混合ガスによるDCスパッタリングをエッチングストッパー膜2を形成するときと同じ成膜条件で行うことにより、上記遮光膜3の表面に、クロム、酸素および炭素を含有するCrOC膜からなるハードマスク膜4を厚さ10nmで形成した。
以上のようにして、本実施例のマスクブランク10を作製した。
別の透光性基板の主表面上に上記と同じ条件で上記エッチングストッパー膜2のみを形成したものを準備した。このエッチングストッパー膜2に対し、X線光電子分光法(RBS補正有り)で分析を行った。この結果、上記エッチングストッパー膜2における各構成元素の含有量は、平均値でCr:71原子%、O:15原子%、C:14原子%であることが確認できた。さらに、上記エッチングストッパー膜2の厚さ方向における各構成元素の含有量の差がいずれも3原子%以下(ただし、分析結果が大気の影響を受けるエッチングストッパー膜2の表面近傍の領域を除く。)であり、厚さ方向の組成傾斜は実質的にないことが確認できた。また、同様に、別の透光性基板の主表面上に上記と同じ条件でハードマスク膜4のみを形成したものを準備した。このハードマスク膜4に対し、X線光電子分光法(RBS補正有り)で分析を行ったところ、エッチングストッパー膜2の場合と同様の組成であることが確認できた。
別の透光性基板1上に形成されたこの実施例1のエッチングストッパー膜2に対するX線光電子分光法での分析を行うことによって得られた、Cr2pナロースペクトルの深さ方向化学結合状態分析の結果を図6に、O1sナロースペクトルの深さ方向化学結合状態分析の結果を図7に、N1sナロースペクトルの深さ方向化学結合状態分析の結果を図8に、C1sナロースペクトルの深さ方向化学結合状態分析の結果を図9に、Si2pナロースペクトルの深さ方向化学結合状態分析の結果を図10に、それぞれ示す。
上記エッチングストッパー膜2に対するX線光電子分光法による分析では、まずエッチングストッパー膜2の表面に向かってX線を照射してエッチングストッパー膜2から放出される光電子のエネルギー分布を測定し、次いでArガススパッタリングでエッチングストッパー膜2を所定時間だけ掘り込み、掘り込んだ領域のエッチングストッパー膜2の表面に対してX線を照射してエッチングストッパー膜2から放出される光電子のエネルギー分布を測定するというステップを繰返すことで、エッチングストッパー膜2の膜厚方向の分析を行う。なお、本実施例では、このX線光電子分光法での分析は、X線源に単色化Al(1486.6eV)を用い、光電子の検出領域は100μmφ、検出深さが約4~5nm(取り出し角45deg)の条件で行った(以降の実施例及び比較例においても同様。)。
また、図6~図10における各深さ方向化学結合状態分析では、エッチングストッパー膜2の最表面から1.60minだけArガススパッタリングで掘り込んだ後におけるエッチングストッパー膜2の膜厚方向の位置での分析結果が各図中の「1.60min」のプロットにそれぞれ示されている。
なお、エッチングストッパー膜2の最表面から1.60minだけArガススパッタリングで掘り込んだ後におけるエッチングストッパー膜2の膜厚方向の位置は、表面から約6nmの深さの位置であり、「1.60min」のプロットは、その深さの位置における測定結果である。
また、図6~図10の各ナロースペクトルにおける縦軸のスケールは同じではない。図8のN1sナロースペクトルと図10のSi2pナロースペクトルは、図6、図7及び図9の各ナロースペクトルに比べて縦軸のスケールを大きく拡大している。従って、図8のN1sナロースペクトルと図10のSi2pナロースペクトルにおける振動の波は、ピークの存在が表れているのではなく、ノイズが表れているだけである。
図6のCr2pナロースペクトルの結果から、上記実施例1のエッチングストッパー膜2は、結合エネルギーが574eVで最大ピークを有していることがわかる。この結果は、上記エッチングストッパー膜2では、酸素等の原子と未結合のクロム原子が一定比率以上存在していることを意味している。
図7のO1sナロースペクトルの結果から、上記実施例1のエッチングストッパー膜2は、結合エネルギーが約530eVで最大ピークを有していることがわかる。この結果は、上記エッチングストッパー膜2では、Cr-O結合が一定比率以上存在していることを意味している。
図8のN1sナロースペクトルの結果から、上記実施例1のエッチングストッパー膜2は、最大ピークが検出下限値以下であることがわかる。この結果は、上記エッチングストッパー膜2では、Cr-N結合を含め、窒素と結合した原子が検出されなかったことを意味している。
図9のC1sナロースペクトルの結果から、上記実施例1のエッチングストッパー膜2は、結合エネルギーが282eV~283eVで最大ピークを有していることがわかる。この結果は、上記エッチングストッパー膜2では、Cr-C結合が一定比率以上存在していることを意味している。
図10のSi2pナロースペクトルの結果から、上記実施例1のエッチングストッパー膜2は、最大ピークが検出下限値以下であることがわかる。この結果は、上記エッチングストッパー膜2では、Cr-Si結合を含め、ケイ素と結合した原子が検出されなかったことを意味している。
次に、上記マスクブランク10を用いて、前述の図3に示される製造工程に従って、転写用マスク(バイナリマスク)を製造した。なお、以下の符号は図3中の符号と対応している。
まず、上記マスクブランク10の上面に、スピン塗布法によって、電子線描画用の化学増幅型レジスト(富士フィルムエレクトロニクスマテリアルズ社製 PRL009)を塗布し、所定のベーク処理を行って、膜厚80nmのレジスト膜を形成した。次に、電子線描画機を用いて、上記レジスト膜に対して所定のデバイスパターン(遮光膜3に形成すべき転写パターンに対応するパターン)を描画した後、レジスト膜を現像してレジストパターン6aを形成した(図3(a)参照)。なお、このレジストパターン6aは、線幅50nmのSRAFパターンを含むものとした。
次に、上記レジストパターン6aをマスクとし、前述の高バイアス条件のドライエッチングでハードマスク膜4のドライエッチングを行い、ハードマスク膜4にパターン4aを形成した(図3(b)参照)。エッチングガスとしては塩素ガス(Cl2)と酸素ガス(O2)との混合ガス(Cl2:O2=13:1(流量比))を用い、バイアス電圧を印加した時の電力が50Wの高バイアスでドライエッチングを行った。
次に、上記レジストパターン6aを除去した後、上記ハードマスク膜のパターン4aをマスクとし、MoSi系の二層構造の遮光膜3のドライエッチングを連続して行い、遮光膜3にパターン3aを形成した(図3(c)参照)。エッチングガスとしてはフッ素系ガス(SF6)を用いた。
次に、上記遮光膜のパターン3aをマスクとし、前述の高バイアス条件のドライエッチングでエッチングストッパー膜2のドライエッチングを行い、エッチングストッパー膜2にパターン2aを形成するとともに、上記ハードマスク膜パターン4aを除去した(図3(d)参照)。エッチングガスとしては塩素ガス(Cl2)と酸素ガス(O2)との混合ガス(Cl2:O2=13:1(流量比))を用い、バイアス電圧を印加した時の電力が50Wの高バイアスでドライエッチングを行った。
このようにして、透光性基板1上にエッチングストッパー膜のパターン2aおよび遮光膜のパターン3aの積層からなる転写パターンを備えた転写用マスク(バイナリマスク)20を完成した(図3(d)参照)。
上記と同様の手順で、実施例1の転写用マスク20を別に製造し、SRAFパターンが形成されている領域の断面STEM(Scanning Transmission Electron Microscope)像を取得し、遮光膜のパターン3aおよびエッチングストッパー膜のパターン2aのそれぞれのライン幅の測長を行った。
そして、上記遮光膜のパターン3aのライン幅と上記エッチングストッパー膜のパターン2aのライン幅との間の変化量であるエッチングバイアスを算出した。その結果、エッチングバイアスは6nm程度であり、従来のクロム系材料膜に対するドライエッチングの場合よりも大幅に小さい値であった。
このことは、上記遮光膜のパターン3aをマスクとし、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用い、高バイアス条件のドライエッチングでエッチングストッパー膜2をパターニングした場合においても、エッチングストッパー膜2のパターン側壁に生じるサイドエッチングを抑制できることを示している。また、このことにより、エッチングストッパー膜2のパターン2aの細りによる上記遮光膜パターン3aの倒れを抑制でき、例えばライン幅50nm以下のSRAFパターンのような微細なパターンを有する転写パターンであっても精度良く形成できることを示している。
得られた上記転写用マスク20に対してマスク検査装置によってマスクパターンの検査を行った結果、パターンの倒れは無く、設計値から許容範囲内で微細パターンが形成されていることが確認できた。
以上のように、本実施例のマスクブランクを用いることにより、高精度の微細な転写パターンが形成された転写用マスク20を製造することができる。
さらに、この転写用マスク20に対し、AIMS193(Carl Zeiss社製)を用いて、波長193nmの露光光で半導体デバイス上のレジスト膜に露光転写したときにおける露光転写像のシミュレーションを行った。このシミュレーションで得られた露光転写像を検証したところ、設計仕様を十分に満たしていた。以上のことから、本実施例のマスクブランクから製造された転写用マスク20は、露光装置にセットしてArFエキシマレーザーの露光光による露光転写を行うと、半導体デバイス上のレジスト膜に対して高精度で露光転写を行うことができるといえる。
(実施例2)
実施例2のマスクブランク10は、エッチングストッパー膜2以外については、実施例1と同様にして作製した。実施例2におけるエッチングストッパー膜2は、以下のように実施例1のエッチングストッパー膜2とは成膜条件を変更して形成した。
具体的には、枚葉式DCスパッタリング装置内に、上記実施例1と同じ透光性基板1を設置し、クロムからなるターゲットを用い、アルゴン(Ar)と二酸化炭素(CO2)とヘリウム(He)の混合ガス雰囲気中で、反応性スパッタリングを行うことにより、上記透光性基板1の主表面上に、クロム、酸素および炭素を含有するCrOC膜からなるエッチングストッパー膜2を厚さ10nmで形成した。
次に、上記エッチングストッパー膜2の上に、実施例1と同じ条件でMoSi系遮光膜3を形成した。
次に、枚葉式DCスパッタリング装置内に、上記遮光膜3までを形成した透光性基板1を設置し、クロムからなるターゲットを用い、アルゴン(Ar)と二酸化炭素(CO2)とヘリウム(He)の混合ガスによるDCスパッタリングをこの実施例2のエッチングストッパー膜2を形成するときと同じ成膜条件で行うことにより、上記遮光膜3の表面に、クロム、酸素および炭素を含有するCrOC膜からなるハードマスク膜4を厚さ10nmで形成した。
以上のようにして、実施例2のマスクブランク10を作製した。
次に、別の透光性基板の主表面上に上記と同じ条件で上記実施例2のエッチングストッパー膜2のみを形成したものを準備した。この実施例2のエッチングストッパー膜2に対し、X線光電子分光法(RBS補正有り)で分析を行った。この結果、上記エッチングストッパー膜2における各構成元素の含有量は、平均値でCr:55原子%、O:30原子%、C:15原子%であることが確認できた。さらに、上記エッチングストッパー膜2の厚さ方向における各構成元素の含有量の差がいずれも3原子%以下(ただし、分析結果が大気の影響を受けるエッチングストッパー膜2の表面近傍の領域を除く。)であり、厚さ方向の組成傾斜は実質的にないことが確認できた。また、同様に、別の透光性基板の主表面上に上記と同じ条件でハードマスク膜4のみを形成したものを準備した。このハードマスク膜4に対し、X線光電子分光法(RBS補正有り)で分析を行ったところ、エッチングストッパー膜2の場合と同様の組成であることが確認できた。
実施例1の場合と同様に、別の透光性基板1上に形成されたこの実施例2におけるエッチングストッパー膜2に対するX線光電子分光法での分析を行うことによって得られた、Cr2pナロースペクトルの深さ方向化学結合状態分析の結果を図11に、O1sナロースペクトルの深さ方向化学結合状態分析の結果を図12に、N1sナロースペクトルの深さ方向化学結合状態分析の結果を図13に、C1sナロースペクトルの深さ方向化学結合状態分析の結果を図14に、Si2pナロースペクトルの深さ方向化学結合状態分析の結果を図15に、それぞれ示す。
なお、図11~図15における各深さ方向化学結合状態分析では、エッチングストッパー膜2の最表面から1.60minだけArガススパッタリングで掘り込んだ後におけるエッチングストッパー膜2の膜厚方向の位置(最表面から約6nmの深さの位置)での分析結果が各図中の「1.60min」のプロットにそれぞれ示されている。
また、図11~図15の各ナロースペクトルにおける縦軸のスケールは同じではない。図13のN1sナロースペクトルと図15のSi2pナロースペクトルは、図11、図12及び図14の各ナロースペクトルに比べて縦軸のスケールを大きく拡大している。従って、図13のN1sナロースペクトルと図15のSi2pナロースペクトルにおける振動の波は、ピークの存在が表れているのではなく、ノイズが表れているだけである。
図11のCr2pナロースペクトルの結果から、上記実施例2のエッチングストッパー膜2は、結合エネルギーが574eVで最大ピークを有していることがわかる。この結果は、上記エッチングストッパー膜2では、酸素等の原子と未結合のクロム原子が一定比率以上存在していることを意味している。
図12のO1sナロースペクトルの結果から、上記実施例2のエッチングストッパー膜2は、結合エネルギーが約530eVで最大ピークを有していることがわかる。この結果は、上記エッチングストッパー膜2では、Cr-O結合が一定比率以上存在していることを意味している。
図13のN1sナロースペクトルの結果から、上記実施例2のエッチングストッパー膜2は、最大ピークが検出下限値以下であることがわかる。この結果は、上記エッチングストッパー膜2では、Cr-N結合を含め、窒素と結合した原子が検出されなかったことを意味している。
図14のC1sナロースペクトルの結果から、上記実施例2のエッチングストッパー膜2は、結合エネルギーが282eV~283eVで最大ピークを有していることがわかる。この結果は、上記エッチングストッパー膜2では、Cr-C結合が一定比率以上存在していることを意味している。
図15のSi2pナロースペクトルの結果から、上記実施例2のエッチングストッパー膜2は、最大ピークが検出下限値以下であることがわかる。この結果は、上記エッチングストッパー膜2では、Cr-Si結合を含め、ケイ素と結合した原子が検出されなかったことを意味している。
次に、この実施例2のマスクブランク10を用いて、前述の実施例1と同様の製造工程に従って、透光性基板1上にエッチングストッパー膜のパターン2aおよび遮光膜のパターン3aの積層からなる転写パターンを備え転写用マスク(バイナリマスク)20を製造した。
実施例1と同様の手順で、上記実施例2の転写用マスク20を別に製造し、SRAFパターンが形成されている領域の断面STEM像を取得し、遮光膜のパターン3aおよびエッチングストッパー膜のパターン2aのそれぞれのライン幅の測長を行った。
そして、上記遮光膜のパターン3aのライン幅と上記エッチングストッパー膜2のパターン2aのライン幅との間の変化量であるエッチングバイアスを算出した結果、エッチングバイアスは10nm程度であり、従来のクロム系材料膜に対するドライエッチングの場合よりも大幅に小さい値であった。
このことは、実施例2のマスクブランクにおいても、上記遮光膜のパターン3aをマスクとし、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用い、高バイアス条件のドライエッチングでエッチングストッパー膜2をパターニングした場合において、エッチングストッパー膜2のパターン側壁に生じるサイドエッチングを抑制できるので、このことにより、エッチングストッパー膜2のパターン2aの細りによる上記遮光膜パターン3aの倒れを抑制でき、例えばライン幅50nm以下のSRAFパターンのような微細なパターンを有する転写パターンであっても精度良く形成できることを示している。
得られた実施例2の転写用マスク20に対してマスク検査装置によってマスクパターンの検査を行った結果、パターンの倒れは無く、設計値から許容範囲内で微細パターンが形成されていることが確認できた。
以上のように、本実施例2のマスクブランクを用いることにより、高精度の微細な転写パターンが形成された転写用マスク20を製造することができる。
さらに、この実施例2の転写用マスク20に対し、実施例1と同様にAIMS193(Carl Zeiss社製)を用いて、波長193nmの露光光で半導体デバイス上のレジスト膜に露光転写したときにおける露光転写像のシミュレーションを行った。このシミュレーションで得られた露光転写像を検証したところ、設計仕様を十分に満たしていた。以上のことから、実施例2のマスクブランクから製造された転写用マスク20は、露光装置にセットしてArFエキシマレーザーの露光光による露光転写を行うと、半導体デバイス上のレジスト膜に対して高精度で露光転写を行うことができるといえる。
(実施例3)
本実施例は、波長193nmのArFエキシマレーザーを露光光として用いるハーフトーン型位相シフトマスク(転写用マスク)の製造に使用するマスクブランク及びハーフトーン型位相シフトマスク(転写用マスク)の製造に関するもので、前述の第2の実施の形態に対応する実施例である。
本実施例に使用するマスクブランク30は、図2に示すような、透光性基板1上に、位相シフト膜5、エッチングストッパー膜2、遮光膜3およびハードマスク膜4をこの順に積層した構造のものである。このマスクブランク30は、以下のようにして作製した。
実施例1と同様にして準備した透光性基板1(合成石英基板)を枚葉式DCスパッタリング装置内に設置し、モリブデン(Mo)とケイ素(Si)との混合ターゲット(Mo:Si=12原子%:88原子%)を用い、アルゴン(Ar)、窒素(N2)およびヘリウム(He)の混合ガス(流量比 Ar:N2:He=8:72:100、圧力0.2Pa)をスパッタリングガスとし、DCスパッタリングにより、上記透光性基板1の表面に、モリブデン、ケイ素および窒素を含有するMoSiN膜(Mo:4.1原子%、Si:35.6原子%、N:60.3原子%)からなる位相シフト膜5を69nmの厚さで形成した。
次に、スパッタリング装置から上記位相シフト膜5を形成した透光性基板1を取り出し、上記基板上の位相シフト膜5に対し、大気中での加熱処理を行った。この加熱処理は、450℃で30分間行った。この加熱処理後の位相シフト膜5に対し、位相シフト量測定装置を使用してArFエキシマレーザーの波長(193nm)における透過率と位相シフト量を測定した結果、透過率は6.44%、位相シフト量は174.3度であった。
次に、上記位相シフト膜5を形成した基板を再びスパッタリング装置内に導入し、上記位相シフト膜5の上に、実施例1と同じ成膜条件で、実施例1のCrOC膜からなるエッチングストッパー膜2、二層構造のMoSi系材料からなる遮光膜3(ただし、遮光膜の下層は35nmの厚さで形成した。)、およびCrOC膜からなるハードマスク膜4をこの順に形成した。
以上のようにして、実施例3のマスクブランク30を作製した。
次に、上記マスクブランク30を用いて、前述の図4に示される製造工程に従って、ハーフトーン型位相シフトマスクを製造した。なお、以下の符号は図4中の符号と対応している。
まず、上記マスクブランク30の上面に、スピン塗布法によって、電子線描画用の化学増幅型レジスト(富士フィルムエレクトロニクスマテリアルズ社製 PRL009)を塗布し、所定のベーク処理を行って、膜厚80nmのレジスト膜を形成した。次に、電子線描画機を用いて、上記レジスト膜に対して所定のデバイスパターン(位相シフト膜5に形成すべき転写パターンに対応するパターン)を描画した後、レジスト膜を現像してレジストパターン7aを形成した(図4(a)参照)。なお、このレジストパターン7aは、線幅(50nm)のSRAFパターンを含むものとした。
次に、上記レジスト膜パターン7aをマスクとし、前述の高バイアス条件のドライエッチングでハードマスク膜4のドライエッチングを行い、ハードマスク膜4にパターン4aを形成した(図4(b)参照)。エッチングガスとしては塩素ガス(Cl2)と酸素ガス(O2)との混合ガス(Cl2:O2=13:1(流量比))を用い、バイアス電圧を印加した時の電力が50Wの高バイアスでドライエッチングを行った。
次に、残存する上記レジスト膜パターン7aを除去した後、上記ハードマスク膜4に形成されたパターン4aをマスクとし、フッ素系ガスを用いたドライエッチングにより、MoSi系の二層構造の遮光膜3のドライエッチングを連続して行い、遮光膜3にパターン3aを形成した(図4(c)参照)。エッチングガスとしてはフッ素系ガス(SF6)を用いた。
次に、上記遮光膜のパターン3aが形成されたマスクブランクの全面に上記と同様のレジスト膜を形成し、このレジスト膜に対して、所定の遮光パターン(遮光帯パターン)を描画し、描画後、現像することにより、上記ハードマスク膜4上に、所定の遮光パターンを有するレジスト膜パターン7bを形成した(図4(d)参照)。
次に、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いたドライエッチングにより、上記遮光膜のパターン3aをマスクとし、本発明の構成のクロム系材料からなるエッチングストッパー膜2にパターン2aを形成するとともに、上記レジストパターン7bをマスクとして、上記ハードマスク膜4に上記遮光パターンを有するパターン4bを形成した(図4(e)参照)。エッチングガスとしては塩素ガス(Cl2)と酸素ガス(O2)との混合ガス(Cl2:O2=13:1(流量比))を用い、バイアス電圧を印加した時の電力が50Wの高バイアスでドライエッチングを行った。
ドライエッチング終了後に、パターンの検査を行ったところ、上記遮光膜のパターン3aの倒れは生じていなかった。
次に、上記レジスト膜パターン7bを除去した後、フッ素系ガスを用いたドライエッチングにより、上記エッチングストッパー膜2に形成されたエッチングストッパー膜パターン2aをマスクとして、位相シフト膜5に位相シフト膜パターン5aを形成するとともに、上記遮光パターンを有するハードマスク膜パターン4bをマスクとして、上記遮光膜3に遮光パターンを有するパターン3bを形成した(図4(f)参照)。エッチングガスとしてはフッ素系ガス(SF6)を用いた。
次に、塩素ガス(Cl2)と酸素ガス(O2)との混合ガス(Cl2:O2=4:1(流量比))を用いたドライエッチングにより、上記遮光パターンが形成された遮光膜パターン3bをマスクとし、上記エッチングストッパー膜2に上記遮光パターンを有するパターン2bを形成するとともに、残存する上記ハードマスク膜パターン4bを除去した(図4(g)参照)。
以上のようにして、透光性基板1上に転写パターンとなる位相シフト膜のパターン5aおよび外周領域の遮光パターン(遮光帯パターン)を備えたハーフトーン型位相シフトマスク(転写用マスク)40を完成した(図4(g)参照)。
得られた上記位相シフトマスク40に対してマスク検査装置によってマスクパターンの検査を行った結果、設計値から許容範囲内で位相シフト膜の微細パターンが形成されていることが確認できた。
実施例3のマスクブランク30を用いることにより、上記遮光膜3に形成された遮光膜パターン3aをマスクとし、上記エッチングストッパー膜2を塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いたドライエッチングでパターニングする際(図4(e)の工程)のエッチングストッパー膜2のパターン側壁に生じるサイドエッチングを抑制でき、エッチングストッパー膜2のパターン2aの細りによる上記遮光膜パターン3aの倒れを抑制できるため、微細な遮光膜パターン(転写パターン)であっても精度良く形成することができる。さらに、サイドエッチングによるパターン幅の細りの無いエッチングストッパー膜のパターン2aをマスクとして位相シフト膜5をパターニングすることで(図4(f)の工程)、位相シフト膜5にも微細な転写パターンを精度良く形成することができる。
さらに、この位相シフト40に対し、実施例1と同様にAIMS193(Carl Zeiss社製)を用いて、波長193nmの露光光で半導体デバイス上のレジスト膜に露光転写したときにおける露光転写像のシミュレーションを行い、このシミュレーションで得られた露光転写像を検証したところ、設計仕様を十分に満たしていた。従って、実施例3のマスクブランクから製造された位相シフトマスク40は、半導体デバイス上のレジスト膜に対して高精度で露光転写を行うことが可能である。
(実施例4)
本実施例は、実施例1のマスクブランク10と同様の構成のマスクブランクを用いた基板掘り込みタイプの位相シフトマスク(クロムレス位相シフトマスク)の製造に関するものであり、図5に示される製造工程に従って説明する。
本実施例に使用するマスクブランクは、透光性基板1上に、エッチングストッパー膜2、遮光膜3およびハードマスク膜4をこの順に積層した構造のものであり、以下のようにして作製した。
実施例1と同様にして準備した透光性基板1(合成石英基板)を枚葉式DCスパッタリング装置内に設置し、上記基板上に、実施例1と同じ成膜条件で、実施例1のCrOC膜からなるエッチングストッパー膜2を形成した。
次に、上記エッチングストッパー膜2上に、実施例1と同じ成膜条件で、MoSiN膜の下層31とMoSiN膜の上層32の二層構造のMoSi系遮光膜3を形成した。次いで、この遮光膜3上に、実施例1と同じ成膜条件で、CrOC膜からなるハードマスク膜4を形成した。
以上のようにして、実施例4のマスクブランクを作製した。
次に、上記実施例4のマスクブランクを用いて、図5に示される製造工程に従って、位相シフトマスクを製造した。
まず、上記マスクブランクの上面に、スピン塗布法によって、電子線描画用の化学増幅型レジスト(富士フィルムエレクトロニクスマテリアルズ社製 PRL009)を塗布し、所定のベーク処理を行って、膜厚80nmのレジスト膜を形成した。次に、電子線描画機を用いて、上記レジスト膜に対して所定のデバイスパターン(基板に掘り込む転写パターンに対応するパターン)を描画した後、レジスト膜を現像してレジストパターン8aを形成した(図5(a)参照)。なお、このレジストパターン8aは、線幅50nmのライン・アンド・スペースパターンを含むものとした。
次に、上記レジストパターン8aをマスクとし、前述の高バイアス条件のドライエッチングでハードマスク膜4のドライエッチングを行い、ハードマスク膜4にパターン4aを形成した(図5(b)参照)。エッチングガスとしては塩素ガス(Cl2)と酸素ガス(O2)との混合ガス(Cl2:O2=13:1(流量比))を用い、バイアス電圧を印加した時の電力が50Wの高バイアスでドライエッチングを行った。
次に、上記レジストパターン8aを除去した後、上記ハードマスク膜のパターン4aをマスクとし、エッチングガスとしてフッ素系ガス(SF6)を用い、MoSi系の二層構造の遮光膜3のドライエッチングを連続して行い、遮光膜3にパターン3aを形成した(図5(c)参照)。
次に、上記遮光膜のパターン3aをマスクとし、前述の高バイアス条件のドライエッチングでエッチングストッパー膜2のドライエッチングを行い、エッチングストッパー膜2にパターン2aを形成するとともに、上記ハードマスク膜パターン4aを除去した(図5(d)参照)。エッチングガスとしては塩素ガス(Cl2)と酸素ガス(O2)との混合ガス(Cl2:O2=13:1(流量比))を用い、バイアス電圧を印加した時の電力が50Wの高バイアスでドライエッチングを行った。
ドライエッチング終了後に、パターンの検査を行ったところ、上記遮光膜のパターン3aの倒れは生じていなかった。
次に、上記遮光膜のパターン3aが形成されたマスクブランクの全面に上記と同様のレジスト膜を形成し、このレジスト膜に対して、所定の遮光パターン(遮光帯パターン)を描画し、描画後、現像することにより、遮光パターンを有するレジスト膜パターン8bを形成した(図5(e)参照)。
次に、上記レジスト膜パターン8bをマスクとし、フッ素系ガスを用いたドライエッチングにより、露出している遮光膜のパターン3aを剥離除去するとともに、エッチングストッパー膜2に形成されたエッチングストッパー膜パターン2aをマスクとして、透光性基板1(合成石英基板)のドライエッチングを行い、基板掘り込みタイプの位相シフトパターン1aを形成した(図5(f)参照)。このとき、180度の位相差が得られる深さ(約173nm)に基板を掘り込んだ。なお、ドライエッチングのエッチングガスにはフッ素系ガス(CF4)とヘリウム(He)との混合ガスを用いた。
次に、レジスト膜パターン8bをマスクとし、塩素ガス(Cl2)と酸素ガス(O2)との混合ガス(Cl2:O2=4:1(流量比))を用いたドライエッチングにより、露出している上記エッチングストッパー膜パターン2aを剥離除去するとともに、残存するレジスト膜パターン8bを除去した(図5(g)参照)。
以上のようにして、透光性基板1に、掘り込みタイプの位相シフトパターン1aが形成され、外周領域の遮光パターン(遮光帯パターン)を備えた基板掘り込みタイプの位相シフトマスク(転写用マスク)50を完成した(図5(g)参照)。
得られた上記位相シフトマスク50に対してマスク検査装置によってマスクパターンの検査を行った結果、設計値から許容範囲内で位相シフトパターンが形成されていることが確認できた。
実施例4においても、上記遮光膜3に形成された遮光膜パターン3aをマスクとし、上記エッチングストッパー膜2を塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いたドライエッチングでパターニングする際(図5(d)の工程)のエッチングストッパー膜2のパターン側壁に生じるサイドエッチングを抑制でき、エッチングストッパー膜2のパターン2aの細りによる上記遮光膜パターン3aの倒れを抑制できる。さらに、サイドエッチングによるパターン幅の細りの無いエッチングストッパー膜のパターン2aをマスクとして基板を掘り込むことで(図5(f)の工程)、基板掘り込みによる微細な位相シフトパターンを精度良く形成することができる。
さらに、この位相シフトマスク50に対し、実施例1と同様にAIMS193(Carl Zeiss社製)を用いて、波長193nmの露光光で半導体デバイス上のレジスト膜に露光転写したときにおける露光転写像のシミュレーションを行い、このシミュレーションで得られた露光転写像を検証したところ、設計仕様を十分に満たしていた。従って、実施例4のマスクブランクから製造された位相シフトマスク50は、半導体デバイス上のレジスト膜に対して高精度で露光転写を行うことが可能である。
(比較例1)
比較例1のマスクブランクは、エッチングストッパー膜以外については、実施例1と同様にして作製した。比較例1におけるエッチングストッパー膜は、以下のように実施例1のエッチングストッパー膜2とは成膜条件を変更して形成した。
具体的には、枚葉式DCスパッタリング装置内に、上記実施例1と同じ透光性基板(合成石英基板)を設置し、クロムからなるターゲットを用い、アルゴン(Ar)と二酸化炭素(CO2)と窒素(N2)とヘリウム(He)の混合ガス雰囲気中で、反応性スパッタリングを行うことにより、上記透光性基板の主表面上に、クロム、酸素、炭素及び窒素を含有するCrOCN膜からなるエッチングストッパー膜を厚さ10nmで形成した。次に、上記エッチングストッパー膜の上に、実施例1と同じ条件で実施例1のMoSi系遮光膜3およびハードマスク膜4を順に形成した。
以上のようにして、比較例1のマスクブランクを作製した。
次に、別の透光性基板の主表面上に上記と同じ条件で上記比較例1のエッチングストッパー膜のみを形成したものを準備した。この比較例1のエッチングストッパー膜に対し、X線光電子分光法(RBS補正有り)で分析を行った。この結果、上記比較例1のエッチングストッパー膜における各構成元素の含有量は、平均値でCr:55原子%、O:22原子%、C:12原子%、N:11原子%であることが確認できた。さらに、上記エッチングストッパー膜の厚さ方向における各構成元素の含有量の差がいずれも3原子%以下(ただし、分析結果が大気の影響を受けるエッチングストッパー膜の表面近傍の領域を除く。)であり、厚さ方向の組成傾斜は実質的にないことが確認できた。
実施例1の場合と同様に、この比較例1におけるエッチングストッパー膜に対するX線光電子分光法での分析の結果得られた、Cr2pナロースペクトルの深さ方向化学結合状態分析の結果を図16に、O1sナロースペクトルの深さ方向化学結合状態分析の結果を図17に、N1sナロースペクトルの深さ方向化学結合状態分析の結果を図18に、C1sナロースペクトルの深さ方向化学結合状態分析の結果を図19に、Si2pナロースペクトルの深さ方向化学結合状態分析の結果を図20に、それぞれ示す。
なお、図16~図20における各深さ方向化学結合状態分析では、エッチングストッパー膜の最表面から1.60minだけArガススパッタリングで掘り込んだ後におけるエッチングストッパー膜の膜厚方向の位置(最表面から約7nmの深さの位置)での分析結果が各図中の「1.60min」のプロットにそれぞれ示されている。
図16のCr2pナロースペクトルの結果から、上記比較例1のエッチングストッパー膜は、574eVよりも大きい結合エネルギーで最大ピークを有していることがわかる。この結果は、いわゆるケミカルシフトしている状態で、窒素、酸素等の原子と未結合のクロム原子の存在比率がかなり低い状態であることを意味している。そのため、化学反応が主体のエッチングに対する耐性が低く、サイドエッチングを抑制することが困難である。
図17のO1sナロースペクトルの結果から、上記比較例1のエッチングストッパー膜は、結合エネルギーが約530eVで最大ピークを有していることがわかる。この結果は、Cr-O結合が一定比率以上存在していることを意味している。
図18のN1sナロースペクトルの結果から、上記比較例1のエッチングストッパー膜は、結合エネルギーが約397eVで最大ピークを有していることがわかる。この結果は、比較例1のエッチングストッパー膜では、Cr-N結合が一定比率以上存在していることを意味している。そのためサイドエッチングが進行しやすいといえる。
図19のC1sナロースペクトルの結果から、上記比較例1のエッチングストッパー膜は、結合エネルギーが283eVで最大ピークを有していることがわかる。この結果は、Cr-C結合が一定比率以上存在していることを意味している。
図20のSi2pナロースペクトルの結果から、上記比較例1のエッチングストッパー膜は、最大ピークが検出下限値以下であることがわかる。この結果は、比較例1のエッチングストッパー膜では、Cr-Si結合を含め、ケイ素と結合した原子が検出されなかったことを意味している。
次に、この比較例1のマスクブランクを用いて、前述の実施例1と同様の製造工程に従って、比較例1の転写用マスク(バイナリマスク)を製造した。
さらに、実施例1と同様の手順で、この比較例1の転写用マスクを別に製造し、SRAFパターンが形成されている領域の断面STEM像を取得し、遮光膜のパターンおよびエッチングストッパー膜のパターンのそれぞれのライン幅の測長を行った。
そして、上記遮光膜のパターンのライン幅と上記エッチングストッパー膜のパターンのライン幅との間の変化量であるエッチングバイアスを算出した結果、エッチングバイアスは27nmであり、従来のクロム系材料膜に対するドライエッチングの場合と同様、比較的大きい値であった。
このことは、比較例1のマスクブランクにおいては、上記遮光膜パターンをマスクとし、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用い、高バイアス条件のドライエッチングでエッチングストッパー膜をパターニングした場合、エッチングストッパー膜のパターン側壁に生じるサイドエッチングを抑制することが難しく、そのためエッチングストッパー膜パターンの細りによる遮光膜パターンの倒れが起こり、例えばライン幅50nm以下の微細な転写パターンを精度良く形成することが困難であることを示している。
実際、得られた比較例1の転写用マスクに対してマスク検査装置によってマスクパターンの検査を行った結果、遮光膜パターンの倒れが生じていることが確認できた。
さらに、この比較例1の転写用マスクに対し、実施例1と同様にAIMS193(Carl Zeiss社製)を用いて、波長193nmの露光光で半導体デバイス上のレジスト膜に露光転写したときにおける露光転写像のシミュレーションを行った。このシミュレーションで得られた露光転写像を検証したところ、転写不良が確認された。これは、上記の遮光膜パターンの倒れが要因であると推察される。
(比較例2)
比較例2のマスクブランクは、エッチングストッパー膜以外については、実施例1と同様にして作製した。比較例2におけるエッチングストッパー膜は、以下のように実施例1のエッチングストッパー膜とは成膜条件を変更して形成した。
具体的には、枚葉式DCスパッタリング装置内に、上記実施例1と同じ透光性基板を設置し、クロムからなるターゲットを用い、アルゴン(Ar)と一酸化窒素(NO)とヘリウム(He)の混合ガス雰囲気中で、反応性スパッタリングを行うことにより、上記透光性基板の主表面上に、クロム、酸素及び窒素を含有するCrON膜からなるエッチングストッパー膜を厚さ10nmで形成した。次に、このエッチングストッパー膜の上に、実施例1と同じ条件で実施例1のMoSi系遮光膜3およびハードマスク膜4を順に形成した。
以上のようにして、比較例2のマスクブランクを作製した。
次に、別の透光性基板の主表面上に上記と同じ条件で上記比較例2のエッチングストッパー膜のみを形成したものを準備した。この比較例2のエッチングストッパー膜に対し、X線光電子分光法(RBS補正有り)で分析を行った。この結果、上記比較例2のエッチングストッパー膜における各構成元素の含有量は、平均値でCr:58原子%、O:17原子%、N:25原子%であることが確認できた。さらに、上記エッチングストッパー膜の厚さ方向における各構成元素の含有量の差がいずれも3原子%以下(ただし、分析結果が大気の影響を受けるエッチングストッパー膜の表面近傍の領域を除く。)であり、厚さ方向の組成傾斜は実質的にないことが確認できた。
実施例1の場合と同様に、この比較例2のエッチングストッパー膜に対するX線光電子分光法での分析を行い、Cr2pナロースペクトルの深さ方向化学結合状態分析の結果、O1sナロースペクトルの深さ方向化学結合状態分析の結果、N1sナロースペクトルの深さ方向化学結合状態分析の結果、C1sナロースペクトルの深さ方向化学結合状態分析の結果、Si2pナロースペクトルの深さ方向化学結合状態分析の結果をそれぞれ取得した。
Cr2pナロースペクトルの結果から、上記比較例2のエッチングストッパー膜は、574eVよりも大きい結合エネルギーで最大ピークを有していることがわかった。この結果は、いわゆるケミカルシフトしている状態で、窒素、酸素等の原子と未結合のクロム原子の存在比率がかなり低い状態であることを意味している。そのため、化学反応が主体のエッチングに対する耐性が低く、サイドエッチングを抑制することが困難である。
O1sナロースペクトルの結果から、上記比較例2のエッチングストッパー膜は、結合エネルギーが約530eVで最大ピークを有していることがわかった。この結果は、Cr-O結合が一定比率以上存在していることを意味している。
N1sナロースペクトルの結果から、上記比較例2のエッチングストッパー膜は、結合エネルギーが約397eVで最大ピークを有していることがわかった。この結果は、比較例2のエッチングストッパー膜では、Cr-N結合が一定比率以上存在していることを意味している。そのためサイドエッチングが進行しやすいといえる。
C1sナロースペクトルの結果から、上記比較例2のエッチングストッパー膜は、最大ピークが検出下限値以下であることがわかった。この結果は、比較例2のエッチングストッパー膜では、Cr-C結合を含め、炭素と結合した原子が検出されなかったことを意味している。
また、Si2pナロースペクトルの結果から、上記比較例2のエッチングストッパー膜は、最大ピークが検出下限値以下であることがわかった。この結果は、比較例2のエッチングストッパー膜では、Cr-Si結合を含め、ケイ素と結合した原子が検出されなかったことを意味している。
次に、この比較例2のマスクブランクを用いて、前述の実施例1と同様の製造工程に従って、比較例2のバイナリ型の転写用マスクを製造した。
さらに、実施例1と同様の手順で、この比較例2の転写用マスクを別に製造し、SRAFパターンが形成されている領域の断面STEM像を取得し、遮光膜のパターンおよびエッチングストッパー膜のパターンのそれぞれのライン幅の測長を行った。
そして、上記遮光膜のパターンのライン幅と上記エッチングストッパー膜のパターンのライン幅との間の変化量であるエッチングバイアスを算出し、さらにエッチングバイアスの算出した結果、エッチングバイアスは30nmであり、従来のクロム系材料膜に対するドライエッチングの場合と比べても、大分大きい値であった。
このことは、比較例2のマスクブランクでは、上記遮光膜パターンをマスクとし、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用い、高バイアス条件のドライエッチングでエッチングストッパー膜をパターニングした場合、エッチングストッパー膜のパターン側壁に生じるサイドエッチングを抑制することが難しく、そのためエッチングストッパー膜パターンの細りによる遮光膜パターンの倒れが起こり、例えばライン幅50nm以下の微細な転写パターンを精度良く形成することが困難であることを示している。
実際、得られた比較例2の転写用マスクに対してマスク検査装置によってマスクパターンの検査を行った結果、遮光膜パターンの倒れが生じていることが確認できた。
さらに、この比較例2の転写用マスクに対し、実施例1と同様にAIMS193(Carl Zeiss社製)を用いて、波長193nmの露光光で半導体デバイス上のレジスト膜に露光転写したときにおける露光転写像のシミュレーションを行った。このシミュレーションで得られた露光転写像を検証したところ、転写不良が確認された。これは、上記の遮光膜パターンの倒れが要因であると推察される。
以上、本発明の実施形態及び実施例について説明したが、これは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載した技術には、以上に例示した具体例を変形、変更したものが含まれる。