特許法第30条第2項適用 令和1年8月28日 ウェブサイトのアドレス https://www.jsac.or.jp/nenkai/nenkai68 で発表
特許法第30条第2項適用 核酸化学懇話会2020 北海道・東北地区セミナー 開催日 令和2年1月9日~令和2年1月10日(公開日は令和2年1月9日)で発表
本発明の第1態様において、下記式(1)の化合物が提供される:
式(1)中、環Aは、
であり、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9、R
10及びR
11は独立に、水素、ヒドロキシ基、チオール基、ハロ、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリール基、アミノ基である。
本明細書において、式(1)のR1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10及びR11の基の部分が置換されることができる場合、用語「置換される」とは、「置換される」を用いる表現で示される基の1以上の(例えば、1、2、3、4、5または6の;いくつかの実施形態において1、2または3つの;他の実施形態において1または2の)水素が、その置換が安定な化合物をもたらすという条件で、列挙された表示基から選択された基または当業者に公知の適切な基で置換できることを示す。置換される基の適切な置換基としては、アルキル、アルケニル、アルキニル、アルコキシ、ハロ、ハロアルキル、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、アリール、ヘテロアリール、複素環、シクロアルキル、アルカノイル、アルコキシカルボニル、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、トリフルオロメチルチオ、ジフルオロメチル、アセチルアミノ、ニトロ、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、カルボキシ、カルボキシアルキル、ケト、チオキソ、アルキルチオ、アルキルスルフィニル、アルキルスルホニル、アリールスルフィニル、アリールスルホニル、ヘテロアリールスルフィニル、ヘテロアリールスルホニル、複素環スルフィニル、ヘテロサイクルスルホニル、ホスファート、スルファート、ヒドロキシルアミン、ヒドロキシル(アルキル)アミンおよびシアノを挙げることができる。
用語「ハロ」は、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基およびヨード基のことを言う。
用語「アルキル」は、分枝鎖、非分枝鎖または環式の飽和炭化水素を言う。いくつかの実施形態において、アルキル基は、例えば1~20個の炭素原子を有し、多くの場合1~12個の炭素原子または1~6個の炭素原子を有する。アルキル基の例は、限定するものではないが、メチル、エチル、1-プロピル、2-プロピル、1-ブチル、2-メチル-1-プロピル、2-ブチル、2-メチル-2-プロピル(t-ブチル)、1-ペンチル、2-ペンチル、3-ペンチル、2-メチル-2-ブチル、3-メチル-2-ブチル、3-メチル-1-ブチル、2-メチル-1-ブチル、1-ヘキシル、2-ヘキシル、3-ヘキシル、2-メチル-2-ペンチル、3-メチル-2-ペンチル、4-メチル-2-ペンチル、3-メチル-3-ペンチル、2-メチル-3-ペンチル、2,3-ジメチル-2-ブチル、3,3-ジメチル-2-ブチル、ヘキシル、オクチル、デシル、ドデシルなどが挙げられる。アルキルは置換されていなくてもよく、置換されていてもよい。置換アルキル基は、酸素、窒素、硫黄、ハロゲン及びリン等の非炭素及び非水素原子を1以上含んでもよい。
用語「アルケニル」とは、炭素-炭素sp2二重結合を有する分枝鎖または非分枝鎖の不飽和炭化水素を言う。いくつかの実施形態において、アルケニル基は、例えば2~ 10炭素原子を有することもでき、2~ 6炭素原子を有することもできる。他の実施形態において、アルケニル基は2~ 4炭素原子を有する。アルケニルの例は、限定するものではないが、エチレンまたはビニル、アリル、シクロペンテニル、5-ヘキセニルなどを含む。アルケニルは、置換されていなくてもよく、置換されていてもよい。置換アルケニル基は酸素、窒素、硫黄、ハロゲン及びリン等の非炭素及び非水素原子を1以上含んでもよい。
用語「アルキニル」は、炭素-炭素sp三重結合を有する分枝鎖または非分枝鎖の不飽和炭化水素鎖のことを言う。いくつかの実施形態において、アルキニル基は、例えば2~ 10炭素原子を有することもでき、2~ 6炭素原子を有することもできる。他の実施形態において、アルキニル基は2~ 4炭素原子を有することができる。アルキニル基の例は、限定するものではないが、エチニル、1-プロピニル、2-プロピニル、1-ブチニル、2-ブチニル、3-ブチニル、1-ヘキシニル、2-ヘキシニル、3-ヘキシニル、1-オクチニルなどを含む。アルキニルは、置換されていなくてもよく、置換されていてもよい。置換アルキニル基は酸素、窒素、硫黄、ハロゲン及びリン等の非炭素及び非水素原子を1以上含んでもよい。
用語「アルコキシ」は、アルキル-O-(アルキルは本明細書で定義される)のことを言う。いくつかの実施形態において、アルコキシ基は、1~12個の炭素原子または1~6個の炭素原子を有する。アルコキシ基の例は、限定するものではないが、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、iso-プロポキシ、n-ブトキシ、tert-ブトキシ、sec-ブトキシ、n-ペントキシ、n-ヘキシルオキシ、1,2-ジメチルブトキシなどを含む。アルコキシは、置換されていなくてもよく、置換されていてもよい。置換アルコキシ基は置換アルキル基と結合した酸素を含んでよい。
用語「アリール」は、親芳香環の炭素原子1つから水素原子1つを除去することによって誘導される芳香族炭化水素基のことを言う。アリール基は、6~ 18炭素原子、6~ 14炭素原子または6~ 10炭素原子を有することができる。アリール基は、少なくとも1つの環が芳香族(例えば、ナフチル、ジヒドロフェナントレニル、フルオレニルまたはアントリル)である単環式環(例えば、フェニル)または多縮合環(縮合環)を有することができる。典型的なアリール基は、限定するものではないが、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ビフェニルなどに由来するラジカルを含む。アリールは、置換されていなくてもよく、置換されていてもよい。例えば、アリール基は、1以上の置換基(前述のように)で置換されて、種々の置換アリール、例えば、ペンタフルオロフェニルまたはp-トリフルオロメチルフェニルなどを生じることができる。
用語「アミノ」は、-NH2のことを言う。アミノ基は、用語「置換される」について定義されたように、任意に置換され得る。例えば、アミノ基は、-NR2(Rは「置換される」の定義において列挙された基である)であることができる。例えば、基-NR2は、"アルキルアミノ"(少なくとも1つのRはアルキルであり、もう1つのRはアルキルまたは水素である)および/または"アシルアミノ"(-N(R)C(=O)R)(各Rは独立して水素、アルキル、アルカリールまたはアリールである)を含むことができる。アミノ基は1級アミン(NH2)、2級アミン(NHR)、又は3級アミンのいずれでもよい。
発明者らは、モノメチンシアニン色素 BIQの蛍光量子収率φflが極めて低いことから、より蛍光量子収率φflが高いいくつかの公知の蛍光色素の構造に基づいて新たなシアニン色素の設計及び合成を試み、ベンゾ [c,d]インドール環とオキザロピリジン環とを連結した新規モノメチンシアニン色素を設計、合成した。
上記式(1)の化合物は、核酸との結合により蛍光を発するため、蛍光色素として使用することができる。また、上記式(1)の化合物は、DNAよりもRNAに選択的で、RNAを高感度に検出することができる。上記式(1)の化合物を含有する蛍光色素又は上記式(1)の化合物からなる蛍光色素は、生細胞に適用可能で、且つ、RNAを豊富に含む核小体を低濃度(1.0μM)、短時間(20min)で選択的に染色でき、明確な応答性能を有するため、細胞内RNAイメージングに好適に使用することができる。
上記式(1)の化合物は、抗体、タンパク、ペプチド、ポリペプチド、アミノ酸、酵素、核酸、脂質、多糖類、薬物、ビーズ、固体支持体( 例えばガラス又はプラスチック) 等の他分子に共有結合させてもよい。
上記式(1)の化合物は、好適には、核酸が存在しない場合は蛍光をほとんど発しないか全く発しない。蛍光は、前記化合物を適切な波長により照射し、放射される蛍光をモニターすることで計測できる。前記化合物は、好適には、DNAの存在下よりもRNAの存在下においてより強い蛍光を発する。DNA存在下での蛍光に対するRNA存在下での蛍光は、化合物濃度を一定とし、RNA及びDNA濃度を一定として計測する。RNA/DNA蛍光比が高いほど、DNA存在下におけるRNA検出にとり好適である。RNA/DNA蛍光比は、好適には1以上であり、より好適には1よりも大きく、1.2以上、1.5以上、及び2以上である。上記式(1)の化合物は、RNA検出に好適な基準を満たしている。
上記式(1)の化合物はまた、最大励起及び発光波長により特徴付けられうる。例えば、最大励起は約450nm~ 約650nmであってもよい。これらの値の間の最大励起は、約450nm、約475nm、約500nm、約525nm、約550nm、約575nm、約600nm、約625nm、約650nm、及びこれらの任意の2値の間であってもよい。例えば、最大放出は約500nm~ 約675nmであってもよい。これらの値の間の最大放出は、約500nm、約525nm、約550nm、約575nm、約600nm、約625nm、約650nm、約675nm、及びこれらの任意の2値の間であってもよい。
好ましい実施形態では、式(1)の化合物は、式(1a)又は式(1b)の化合物である。
式(1)、(1a)、(1b)のいくつかの実施形態において、R1、R2、R3、R4、R6、R7、R8、R9、R10及びR11は独立に、水素、ヒドロキシ基、チオール基、ハロ、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリール基、アミノ基であり、R5はアルキル基である。
式(1)、(1a)、(1b)のいくつかの実施形態において、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10及びR11は独立に、水素、ヒドロキシ基、ハロ、アルキル基、アリール基、又はアミノ基である。
式(1)、(1a)、(1b)のいくつかの実施形態において、R1、R2、R3、R4、R6、R7、R8、R9、R10及びR11は独立に、水素、ヒドロキシ基、チオール基、ハロ、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリール基、アミノ基であって、いずれも非置換であり、R5も非置換である。
いくつかの好ましい実施形態において、R1、R2、R3、R6、R7、R8、R9、R10及びR11は水素であり、R4は炭素数1~6個のアルキルであり、R5はメチルである。
いくつかの好ましい実施形態において、上記式(1)の化合物は、式(2a)の化合物である。式(2a)の化合物は、Benzo[c,d]IndoleとOxazoloPyridineを組み合わせたものであることから以下では、BIOPと呼ぶこともある。
上記式(2a)の化合物は、DNAよりもRNAに選択的で、RNAを高感度に検出することができる。また、蛍光強度変化が高く、SYTO RNA select(商標)(Invitrogen社)のような公知のRNAプローブよりも光安定性が高い。さらに、式(2a)の化合物からなる蛍光色素は、生細胞に適用可能で、且つ、RNAを豊富に含む核小体を低濃度(1.0μM)、短時間(20min)で選択的に染色でき、明確な応答性能を有するため、細胞内RNAイメージングに好適に使用することができる。
式(2a)の化合物(BIOP)は、Benzo[c,d]indole-2(1H)-one (1)(ベンゾ[c,d]インドール-2(1H)-オン(1))を出発物質として用いた場合を例にとると、下記スキーム1により製造することができる。
まず、Benzo[c,d]indole-2(1H)-one (化合物1)を用いて、J. Med. Chem., 2016, 59, 1565-1579.に従い、1-methylbenzo[c,d]indol-2(1H)-one (化合物2)が得られる。得られた化合物2の (0.55 g, 3.0 mmol)とLawesson試薬(2.43 g, 6.0 mmol)を含む1,4-dioxane溶液を100℃で一晩攪拌する。この溶液を室温で濾過し、得られた固体を1,4-dioxaneで洗浄し、1-methylbenzo[c,d]indol-2(1H)-thione粗生成物3 が得られる。次に、粗生成物3 (1.71 g)にヨードメタンを加えて、一晩加熱還流する。この溶液を減圧濃縮した後に、ジエチルエーテルを加えて、30分間超音波処理した。得られた固体を濾取し、1-methyl-2(methylthio)benzo[c,d]indole-1-ium (化合物4)が得られる。次に、2-methyl-oxazolo[4,5-b]pyridineとヨードメタンとの反応により得られる4-methyl-2-methyl-oxazolo[4,5]pyridinium iodide (化合物5, 193 mg, 0.70 mmol)及び化合物4 (162 mg, 0.47 mmol)を含むアセトニトリル溶液にテトラエチルアミン0.5mLを添加する。この溶液を攪拌しながら加熱還流(60℃)で1時間反応させた後、室温まで冷却する。その後、ジエチルエーテルを添加させると得られた沈殿物を濾取する。その後、水を加えて再度濾取し、乾燥させることで化合物6 (BIOP)が得られる。
いくつかの好ましい実施形態において、上記式(1)の化合物は、式(2b)の化合物である。式(2b)の化合物は、BIOP[5,4-c]と呼ぶこともある。
上記式(2b)の化合物は、DNAよりもRNAに選択的で、RNAを高感度に検出することができる。また、蛍光強度変化が高く、SYTO RNA selectのような公知のRNAプローブよりも光安定性が高い。式(2b)の化合物は、式(2a)の化合物よりも蛍光量子収率が大幅に改善されている。さらに、式(2b)の化合物からなる蛍光色素は、生細胞に適用可能で、且つ、RNAを豊富に含む核小体を低濃度(1.0μM)、短時間(20min)で選択的に染色でき、明確な応答性能を有するため、細胞内RNAイメージングに好適に使用することができる。
式(2b)の化合物(BIOP[5,4-c])は、例えば下記スキーム2により製造することができる。
化合物4(1-methyl-2(methylthio)benzo[c,d]indole-1-ium)を得るまでは、前述のBIOPの製造過程で記載したものと同じである。化合物4を用いて、Dyes and Pigments., 1991, 15, 215-223. に従い、化合物7((1-methyl-2(methylthio)benzo[c,d]indole-1-ium))を経て、最終的に化合物8(1,2-dimethylbenzo[cd]indol-1-ium iodide)が得られる。
一方、4-aminopyridin-3-olを出発物質としてEur. J. Med. Chem., 2005, 40, 15-23.に従い、化合物9(2-(methylthio)oxazolo[5,4-c]pyridine)が得られる。化合物9をJ. Mater. Chem. B., 2014, 2, 2688-2693.に従い化合物10(5-methyl-2-(methylthio)oxazolo[5,4-c]pyridin-5-ium tosylate)が得られる(スキーム3)。
スキーム2で製造した化合物8(110 mg, 0.36 mmol)と、スキーム3で製造した化合物10(100 mg, 0.23 mmol)を含むアセトニトリル溶液にテトラエチルアミン0.8mLを添加する。この溶液を攪拌しながら40℃で22時間反応させた後、室温まで冷却する。その後、ジエチルエーテルを添加させると得られた沈殿物を濾取する。この沈殿物をメタノールに溶かした後、ヨウ化ナトリウム溶液20 mLを滴下する。この溶液を攪拌しながら室温で2時間反応させた後、得られる沈殿物を濾取し、乾燥させることでBIOP(5,4-c)が得られる(スキーム4)。
いくつかの好ましい実施形態において、上記式(1)の化合物は、式(2c)の化合物である。式(2c)の化合物は、BIOP[5,4-c]-nBuと呼ぶこともある。
上記式(2c)の化合物は、RNAを高感度に検出することができる。また、蛍光強度変化が高く、SYTO RNA selectのような公知のRNAプローブよりも光安定性が高い。式(2c)の化合物は、式(2a)の化合物よりも蛍光量子収率が大幅に改善されている。さらに、式(2c)の化合物からなる蛍光色素は、生細胞に適用可能で、且つ、RNAを豊富に含む核小体を低濃度(1.0μM)、短時間(20min)で選択的に染色でき、明確な応答性能を有するため、細胞内RNAイメージングに好適に使用することができる。
式(2c)の化合物(BIOP[5,4-c]-nBu)は、例えば下記スキーム5により製造することができる。
化合物9(2-(methylthio)oxazolo[5,4-c]pyridine)を得るまでは、前述のBIOP[5,4-c] の製造過程で記載したものと同じである。化合物9 (0.20g, 1.2 mmol)と1-ヨウ化ブタン(0.81g, 4.4 mmol)とを含むアセトニトリル溶液を撹拌しながら加熱還流で14時間反応させる。その後溶媒を減圧により取り除くことで、粗生成物11(5-butyl-2-(methylthio)oxazolo[5,4-c]pyridin-5-ium iodide)が得られる。
一方、BIOP[5,4-c] の製造過程で記載した、化合物8(1,2-dimethylbenzo[cd]indol-1-ium iodide)を準備する。化合物8(150 mg, 0.49 mmol)とスキーム5で製造した化合物11(220 mg, 0.63 mmol)を含むアセトニトリル溶液にテトラエチルアミン0.8mLを添加する。この溶液を攪拌しながら40℃で17時間反応させた後、室温まで冷却する。その後、ジエチルエーテルを添加させると得られた沈殿物を濾取する。この沈殿物をシリカゲルクロマトグラフィーにより精製する。得られる粗生成物をメタノールに溶かした後、水を滴下して得られる沈殿物を濾取し、乾燥させることでBIOP(5,4-c)-nBuが得られる(スキーム6)。
本発明の第2態様において、上記式(1)の化合物を、RNAを含有する試料と共に混合して、該化合物と該試料中のRNAとが結合された混合試料を形成する工程、および該混合試料を照射して、混合試料中のRNAを検出する工程、を含む方法が提供される。
式(1)の化合物の詳細は、第1態様の式(1)の化合物に関して説明した通りである。
RNAを含有する試料は、特に限定されず、例えば、該試料は1種類又は2種類以上の細胞、組織、細胞溶解物、細胞培地等であってもよい。あるいは、該試料は非生物的試料であってよい。細胞は、バクテリア細胞、菌細胞、昆虫細胞、及び哺乳動物細胞等の任意の細胞であってよい。哺乳類細胞は好ましくはヒト細胞である。好ましい実施形態では、細胞は生細胞である。該試料は固体、液体又は懸濁液であってもよい。該試料は血液、血漿又は尿等の生物学的流体であってもよい。該試料は、ゲル中又は膜上に固定してもよく、1つ又は複数のビーズと結合させてもよく、アレイの形で構成してもよい。該試料は、部分的に又は全体に精製された核酸調製物を含む緩衝液又は水でもよい。
式(1)の化合物を、RNAを含有する試料と混合して、化合物と該試料中のRNAとが結合された混合試料を形成する工程は、適切な任意の温度、時間で実施してもよい。典型的には、前記温度は常温又は室温である。当該温度の例としては約20℃ 、約25℃ 、約30℃ 、約35℃ 、約37℃ 、約40℃ 、約42℃ 、及び、これらの任意の2値の間の範囲が挙げられる。約42℃ 以上の温度及び約20℃ 以下の温度もまた、被検試料によっては適用可能である。当該時間は、特に限定されず、蛍光変化の検出に適切な任意の時間であってもよい。時間の長さの例としては約10分、約20分、約30分、約40分、約50分、約60分、約90分、約120分、約180分、約240分、約300分、約360分、約420分、約480分、約540分、約600分、及びこれらの任意の2値の間の範囲が挙げられる。さらに時間を延長することも、被検試料によっては可能である。
式(1)の化合物の濃度は、特に限定されず、RNAの存在下において蛍光の励起及び発光のシグナルが適切に検出できる任意の濃度であってよい。濃度範囲の例としては、約10nM~ 1mMが挙げられる。濃度の例としては、約10nM、約100nM、約1μM、約10μM、約100μM、約1mM及びこれらの任意の2値の間の範囲が挙げられる。
好適な照射装置としては、可搬紫外線ランプ、水銀アークランプ、キセノンランプ、レーザ( アルゴン及びYAGレーザ等) 、及びレーザダイオードが挙げられる。これらの照射源は、典型的には、レーザスキャナ、蛍光マイクロプレートリーダ又は標準的分光光度計又はマイクロ蛍光分光光度計の中に光学的に統合されている。
検出工程は、目視検査又は種々の計測器の利用により実施してもよい。計測器の例としてはCCDカメラ、ビデオカメラ、写真フィルム、レーザスキャナ装置、蛍光強度計、フォトダイオード、量子カウンタ、落射蛍光顕微鏡、走査顕微鏡、フローサイトメータ、蛍光マイクロプレートリーダ、又は光増倍管等の増幅装置が挙げられる。
前記検出工程は、単一の時点において実施してもよく、複数の時点で実施してもよく、連続的に実施してもよい。
本発明の第3態様において、試料中のRNAを検出するためのキットであって、上記式(1)の化合物、及び試料中のRNAを検出するための説明書を備えたキットが提供される。
式(1)の化合物の詳細は、第1態様の式(1)の化合物に関して説明した通りである。
試料は、RNAを含有する試料であれば特に限定されず、例えば、該試料は1種類又は2種類以上の細胞、組織、細胞溶解物、細胞培地等であってもよい。あるいは、該試料は非生物的試料であってよい。細胞は、バクテリア細胞、菌細胞、昆虫細胞、及び哺乳動物細胞等の任意の細胞であってよい。哺乳類細胞は好ましくはヒト細胞である。好ましい実施形態では、細胞は生細胞である。該試料は固体、液体又は懸濁液であってもよい。該試料は血液、血漿又は尿等の生物学的流体であってもよい。該試料は、ゲル中又は膜上に固定してもよく、1つ又は複数のビーズと結合させてもよく、アレイの形で構成してもよい。該試料は、部分的に又は全体に精製された核酸調製物を含む緩衝液又は水でもよい。
キットは、好ましい実施形態では、式(1)の化合物を収容する容器を備える。キットはピペット、スポイト又は他の試料操作基材を備えてもよい。
キットは陽性対照及び/又は陰性対照の試料を備えてもよい。陽性対照の試料はRNA、及び/又は、DNAを共存させたRNAを含んでもよい。陰性対照の試料はRNAを含まないDNAを含む試料でもよく、又は核酸を全く含まない試料でもよい。
キットは1つ又は複数の追加の色素又は染色剤を備えてもよい。例えば、キットは全核酸染色剤を備えてもよい。キットは、生細胞と死細胞を識別するための細胞透過性核酸染色剤を備えてもよい。
キットは、さらに水、緩衝液、緩衝液塩、界面活性剤、表面活性剤、塩、多糖類又は一般的にバイオアッセイに用いられる他の材料を備えてもよい。キットは、水溶性、非水溶性、又は水溶性/非水溶性溶媒系等の溶媒を備えてもよい。
本発明の第4態様において、試料中のエンベロープを有するウイルス粒子を検出するための方法であって、上記式(1)の化合物又は下記式(3)の化合物からなる蛍光性プローブと、ウイルスのエンベロープに結合する蛍光性プローブとを、ウイルス粒子の存在が疑われる試料と接触させる工程、及び前記接触後に、前記試料に光照射を行う工程を含み、2種類の蛍光性プローブがともに発蛍光応答を示す場合に、前記試料中にウイルス粒子が存在する可能性が高いことを示す、方法が提供される。
図1に、第4態様における試料中のウイルス粒子を検出するための方法を模式的に示す。
ウイルス粒子(1)は、外被としてのエンベロープ(2)と、エンベロープ(2)に内包されたウイルスRNA(3)とを有する。直径Dは100nm程度である。このため、ウイルスのエンベロープ(2)に選択的に結合するエンベロープ結合性プローブ(4)としての蛍光色素と、ウイルスRNA(3)に選択的に結合するRNA結合性プローブ(5)としての式(1)の化合物又は下記式(3)の化合物とを、ウイルス粒子(1)存在が疑われる試料と接触させると、試料中にウイルス粒子(1)が存在する場合には、エンベロープ(2)と蛍光色素が結合し、該結合に由来する発光強度の上昇を検出することができると共に、ウイルスRNA(3)と式(1)の化合物又は下記式(3)の化合物とが結合し、該結合に由来する発光強度の上昇を検出することができる。
試料中にウイルス粒子(1)が存在しない場合には、エンベロープ(2)への蛍光色素の結合及びウイルスRNA(3)への式(1)の化合物又は下記式(3)の化合物の結合の一方または両方に由来する発光強度の上昇を検出することができない。
これにより、試料中のウイルス粒子の存在又は不在を迅速、簡便かつ高感度で検出又は判定することができる。
また、内包されたウイルスRNAに選択的に結合する式(1)の化合物又は下記式(3)の化合物と、ウイルスのエンベロープに結合する蛍光性プローブとの2種類の蛍光色素を用いることで、両方の色素がウイルス粒子に結合した場合、蛍光エネルギー移動が発生する場合があり、これらの蛍光強度を検出することでウイルスの種類や特徴を判別することができる可能性がある。
ウイルス粒子を構成するウイルスとしては、ゲノムとしてRNAを有し、なおかつエンベロープ構造を有する任意のウイルスであってよく、例えばコロナウイルス、インフルエンザウイルス、ヘルペスウイルス、風疹ウイルス、B型及びC型肝炎ウイルス、エイズウイルス等が挙げられるがこれらに限定されない。
上記式(1)の化合物の詳細は、第1態様の式(1)の化合物に関して説明した通りである。
式(3)の化合物は以下の通り表される。
式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、及びR12は独立に、水素、ヒドロキシ基、チオール基、ハロ、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリール基、アミノ基である。
本明細書において、式(3)のR1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11及びR12の基の部分が置換されることができる場合、用語「置換される」とは、「置換される」を用いる表現で示される基の1以上の(例えば、1、2、3、4、5または6の;いくつかの実施形態において1、2または3つの;他の実施形態において1または2の)水素が、その置換が安定な化合物をもたらすという条件で、列挙された表示基から選択された基または当業者に公知の適切な基で置換できることを示す。置換される基の適切な置換基としては、アルキル、アルケニル、アルキニル、アルコキシ、ハロ、ハロアルキル、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、アリール、ヘテロアリール、複素環、シクロアルキル、アルカノイル、アルコキシカルボニル、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、トリフルオロメチルチオ、ジフルオロメチル、アセチルアミノ、ニトロ、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、カルボキシ、カルボキシアルキル、ケト、チオキソ、アルキルチオ、アルキルスルフィニル、アルキルスルホニル、アリールスルフィニル、アリールスルホニル、ヘテロアリールスルフィニル、ヘテロアリールスルホニル、複素環スルフィニル、ヘテロサイクルスルホニル、ホスファート、スルファート、ヒドロキシルアミン、ヒドロキシル(アルキル)アミンおよびシアノを挙げることができる。
用語「ハロ」は、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基およびヨード基のことを言う。
用語「アルキル」は、分枝鎖、非分枝鎖または環式の飽和炭化水素を言う。いくつかの実施形態において、アルキル基は、例えば1~20個の炭素原子を有し、多くの場合1~12個の炭素原子または1~6個の炭素原子を有する。アルキル基の例は、限定するものではないが、メチル、エチル、1-プロピル、2-プロピル、1-ブチル、2-メチル-1-プロピル、2-ブチル、2-メチル-2-プロピル(t-ブチル)、1-ペンチル、2-ペンチル、3-ペンチル、2-メチル-2-ブチル、3-メチル-2-ブチル、3-メチル-1-ブチル、2-メチル-1-ブチル、1-ヘキシル、2-ヘキシル、3-ヘキシル、2-メチル-2-ペンチル、3-メチル-2-ペンチル、4-メチル-2-ペンチル、3-メチル-3-ペンチル、2-メチル-3-ペンチル、2,3-ジメチル-2-ブチル、3,3-ジメチル-2-ブチル、ヘキシル、オクチル、デシル、ドデシルなどが挙げられる。アルキルは置換されていなくてもよく、置換されていてもよい。置換アルキル基は、酸素、窒素、硫黄、ハロゲン及びリン等の非炭素及び非水素原子を1以上含んでもよい。
用語「アルケニル」とは、炭素-炭素sp2二重結合を有する分枝鎖または非分枝鎖の不飽和炭化水素を言う。いくつかの実施形態において、アルケニル基は、例えば2~ 10炭素原子を有することもでき、2~ 6炭素原子を有することもできる。他の実施形態において、アルケニル基は2~ 4炭素原子を有する。アルケニルの例は、限定するものではないが、エチレンまたはビニル、アリル、シクロペンテニル、5-ヘキセニルなどを含む。アルケニルは、置換されていなくてもよく、置換されていてもよい。置換アルケニル基は酸素、窒素、硫黄、ハロゲン及びリン等の非炭素及び非水素原子を1以上含んでもよい。
用語「アルキニル」は、炭素-炭素sp三重結合を有する分枝鎖または非分枝鎖の不飽和炭化水素鎖のことを言う。いくつかの実施形態において、アルキニル基は、例えば2~ 10炭素原子を有することもでき、2~ 6炭素原子を有することもできる。他の実施形態において、アルキニル基は2~ 4炭素原子を有することができる。アルキニル基の例は、限定するものではないが、エチニル、1-プロピニル、2-プロピニル、1-ブチニル、2-ブチニル、3-ブチニル、1-ヘキシニル、2-ヘキシニル、3-ヘキシニル、1-オクチニルなどを含む。アルキニルは、置換されていなくてもよく、置換されていてもよい。置換アルキニル基は酸素、窒素、硫黄、ハロゲン及びリン等の非炭素及び非水素原子を1以上含んでもよい。
用語「アルコキシ」は、アルキル-O-(アルキルは本明細書で定義される)のことを言う。いくつかの実施形態において、アルコキシ基は、1~12個の炭素原子または1~6個の炭素原子を有する。アルコキシ基の例は、限定するものではないが、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、iso-プロポキシ、n-ブトキシ、tert-ブトキシ、sec-ブトキシ、n-ペントキシ、n-ヘキシルオキシ、1,2-ジメチルブトキシなどを含む。アルコキシは、置換されていなくてもよく、置換されていてもよい。置換アルコキシ基は置換アルキル基と結合した酸素を含んでよい。
用語「アリール」は、親芳香環の炭素原子1つから水素原子1つを除去することによって誘導される芳香族炭化水素基のことを言う。アリール基は、6~ 18炭素原子、6~ 14炭素原子または6~ 10炭素原子を有することができる。アリール基は、少なくとも1つの環が芳香族(例えば、ナフチル、ジヒドロフェナントレニル、フルオレニルまたはアントリル)である単環式環(例えば、フェニル)または多縮合環(縮合環)を有することができる。典型的なアリール基は、限定するものではないが、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ビフェニルなどに由来するラジカルを含む。アリールは、置換されていなくてもよく、置換されていてもよい。例えば、アリール基は、1以上の置換基(前述のように)で置換されて、種々の置換アリール、例えばペンタフルオロフェニルまたはp-トリフルオロメチルフェニルなどを生じることができる。
用語「アミノ」は、-NH2のことを言う。アミノ基は、用語「置換される」について定義されたように、任意に置換され得る。例えば、アミノ基は、-NR2(Rは「置換される」の定義において列挙された基である)であることができる。例えば、基-NR2は、"アルキルアミノ"(少なくとも1つのRはアルキルであり、もう1つのRはアルキルまたは水素である)および/または"アシルアミノ"(-N(R)C(=O)R)(各Rは独立して水素、アルキル、アルカリールまたはアリールである)を含むことができる。アミノ基は1級アミン(NH2)、2級アミン(NHR)、又は3級アミンのいずれでもよい。
いくつかの実施形態において、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、及びR12は独立に、水素、ヒドロキシ基、チオール基、ハロ、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリール基、アミノ基であり、R6はアルキル基である。
いくつかの実施形態において、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、及びR12は独立に、水素、ヒドロキシ基、ハロ、アルキル基、アリール基、又はアミノ基である。
いくつかの実施形態において、R1、R2、R3、R4、R5、R7、R8、R9、R10、R11、及びR12は独立に、水素、ヒドロキシ基、チオール基、ハロ、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリール基、アミノ基であって、いずれも非置換であり、R6も非置換である。
いくつかの好ましい実施形態において、上記式(3)の化合物は、式(4)の化合物(モノメチンシアニン色素(BIQ))である。
上記式(3)の化合物は、Anal. Chem. 2019, 91, 14254-14260に開示された方法により製造することができる(スキーム7)。
化合物4の粗生成物を得るまでは、式(1)の化合物の製造と同様である。その後、4-methylquinolineとヨードメタンとの反応により得られる1,4-dimethylquinolin-1-ium (化合物12, 258 mg, 0.91 mmol)及び化合物4の粗生成物(194 mg, 0.57 mmol)を含むアセトニトリル溶液にテトラエチルアミン0.5mLを添加する。この溶液を攪拌しながら加熱還流で1時間反応させた後、室温まで冷却させる。その後、溶液に、ジエチルエーテルを添加し、濾取により沈殿物を得ることができる。得られた沈殿物を水で洗浄した後、メタノールに溶かす。その後、ジエチルエーテルを加え、得られた沈殿物を乾燥させることで化合物13(BIQ)が得られる。
一方、ウイルスのエンベロープに結合する蛍光色素としては、エンベロープの脂質二重膜構造に対して選択的に結合しうるペプチド性蛍光色素、細胞膜染色色素等が挙げられる。
エンベロープの脂質二重膜構造に対して高選択的に結合しうるペプチド性蛍光色素としては、発明者らが以前に開発したエクソソームを標的とする結合性ペプチド等が挙げられる(日本化学会第98春季年会(2018年(4G3-02)), 日本分析化学会第68年会(2019年(D1101,D1102,L2006)), RSC Advances,10, 38323-38327 (2020). [DOI:10.1039/d0ra07763a])。これは、エクソソームが直径100 nm程度の高曲率性脂質二重膜を持っており、その脂質二重膜表面には脂質パッキング欠損と呼ばれる疎水性領域が局所的に現れることに着目したものであり、該結合性ペプチドは、脂質パッキング欠損に対する結合モチーフとして両親媒性のα-ヘリックスペプチドを基盤として用い、これに環境応答性蛍光色素を連結したものである。ウイルスはエクソソームと同程度の直径を持つため、このようなα-ヘリックスペプチドをベースとした蛍光色素がウイルスのエンベロープに対して選択的に結合しうると期待できる。
エンベロープの脂質二重膜構造に対して選択的に結合しうるペプチド性蛍光色素の設計において、ペプチドの部分は、エンベロープの脂質パッキング構造を認識するように設計され、環境応答性蛍光色素はペプチドのN末端、C末端等、エンベロープとペプチドの結合に干渉しない位置に取り付けられる。
脂質パッキング欠損に対して結合する両親媒性のα-ヘリックスペプチドの設計はFEBS Lett., 2010, 584, 1840-1847に記載されている。そのようなα-ヘリックスペプチドとしては、ArfGAPl (R. norvegicus)、ヌクレオポリンNupl33 (H. sapiens)、αシヌクレイン(H. sapiens). DivIVA (B. subtillis) 、dAmph (D. melanogaster) 、エンドフィリンAl (R. norvegicus)、Sarlp (S. cervisiae)、抗微生物マゲイニン2 (X. laevis)、GMAP-210 (H. sapiens)のstring様N末端、ステロールトランスポーターKeslp (S. cerevisiae) 、SpoVM (B. subtilis)、Epsin (H. sapiens) 、Binl/amphiphysin II (H. sapiens) 、BRAP/Bin2由来のH0-NBAR、ミリストイル化 Arf 1 (B. taurus)、メリチン(A. mellifera) 等のα-ヘリックスペプチド若しくはこれらのα-ヘリックスペプチドをベースとしたペプチド(例えばα-ヘリックスペプチドの一部や、α-ヘリックスペプチドの1~数個、より具体的には1~5個程度のアミノ酸を変異させたアミノ酸)が挙げられるが、これらに限定されない。エンベロープの脂質二重膜構造に対して選択的に結合しうるペプチド性蛍光色素のペプチドとして、当業者には種々のペプチドの配列を適宜選択することができる。
環境応答性蛍光色素としては、親水場環境では蛍光強度が弱いが疎水場環境になると強度が増大する任意の色素を使用することができ、そのような色素は当該技術分野において公知である。環境応答性蛍光色素の例としては、ダンシル色素及びその誘導体、Dapoxyl色素及びその誘導体、ベンゾフェノキサジン色素及びその誘導体等を挙げることができる。環境応答性蛍光色素の具体例としては、1-アニリノナフタレン-8-スルホン酸(ANS)、N-メチル-2-アリニノナフタレン-6-スルホン酸(MANS)、2-p-トルイジニルナフタレン-6-スルホン酸(TNS)等のアリルナフタレンスルホン酸類;ジメチルアミノナフタレンスルホン酸;ニトロベンゾフラザン(NBD)等のベンゾフラザン誘導体;Dapoxyl色素(Benzenesulfonic acid, 4-[5-[4-(dimethylamino)phenyl]-2- oxazolyl);Dapoxyl sulfonyl chloride 、Dapoxyl succinimidyl ester、Dapoxyl 3-sulfonamidopropionic acid、Dapoxyl (2-bromoacetamidoethyl) sulfonamide、Dapoxyl (2-aminoethyl) sulfonamide等のDapoxyl誘導体;ダンシルクロリド、ダンシルスルホンアミド、ダンシルアミノエチル-3-リン酸、1-ダンシルスルホンアミド-3-N,N-ジメチルアミノプロパン、ダンシルコリン、ダンシルガラクトシド、ダンシルリジン、ダンシルホスファチジルエタノールアミンなどのダンシル色素;ナイルレッド、ナイルブルー等のベンゾフェノキサジン誘導体等を例示することができる。
この原理に沿って、ウイルスのエンベロープに対して高選択的に結合し、蛍光応答を示すペプチド性蛍光色素を作製することができる。
ウイルスのエンベロープの脂質二重膜構造に対して選択的に結合しうるペプチド性プローブの好ましい実施形態としては、下記の式(9)の化合物などの両親水性α-ヘリックスペプチドプローブが挙げられる。
上記式(9)のペプチド性のプローブは、以下のようにして製造できる。
まず、Fmoc基で保護されたアミノ酸を用いてペプチド鎖を伸長した後に、蛍光色素Nile Red誘導体を連結することで製造する。具体的にはRink-Amide-ChemMatrix resin(Biotage社)にFmoc基保護アミノ酸を[1-(1-cyano-ethoxy-2-oxoethylideneamino-oxy)-dimethylamino-morpholino methylene]methanaminium hexafluorophosphate (COMU)とdiisopropylethylamine(DIEA)とを用いて連結する。続いて、J.Chem.Soc.,Perkin Trans., 1997, 1, 1051-1058. に従い合成したNile Red誘導体(6-((9-(diethylamino)-5-oxo-5H-benzo[a]phenoxazin-2-yl)oxy)hexanoic acid)を連結する。その後、レジンからの切り出しおよび脱保護を処理した後、得られた粗生成物を逆相HPLCで精製することで、ペプチド性の蛍光プローブが得られる。
上記においてペプチド性プローブに用いる蛍光色素としては環境応答性色素に限らず、フルオロセイン色素やその誘導体、またローダミン色素やその誘導体のような非環境応答性色素も利用可能である。ただし、環境応答性色素を用いた蛍光プローブには、親水場で蛍光強度が小さく、疎水場で強度が大きい特徴があるため、洗浄などの操作不要で蛍光を検出可能となる。一方、非環境応答性色素を用いた蛍光プローブでは、エンベロープに非結合時と結合時の識別が不可能なため、洗浄などの操作が必要となる。好適には、式(9)の化合物等の環境応答性色素が好ましいが、目的や、用途によっては、非環境応答性色素の使用を検討してもよい。
細胞膜染色色素としては、細胞膜を染色可能な公知の色素を使用することができ、特には脂質二重膜を染色する脂溶性色素が好ましい。このような脂溶性色素としては、タカラバイオ株式会社のPICシリーズや、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製のMolecular Probes(登録商標) シリーズにおけるSP-DiOC1 8 (3)といった脂溶性カルボシアニン色素、五陵化学社製のPolaric(登録商標)等が挙げられる。脂溶性カルボシアニン色素は通常、長鎖炭化水素鎖を有するカルボシアニン色素である。また、これらに加えて、細胞膜染色色素としては、脂質染色に従来用いられているズダンIII 、ズダンII(オイルレッドO) 、ズダンブラックB(SBB) 、ナイルブルー、ファットレッド、リピッドクリムゾンなどの脂溶性色素も同様に用いることができる。
RNAを含有する試料は、特に限定されず、例えば、該試料は1種類又は2種類以上の細胞、組織、細胞溶解物、細胞培地等であってもよい。あるいは、該試料は非生物的試料であってよい。細胞は、バクテリア細胞、菌細胞、昆虫細胞、及び哺乳動物細胞等の任意の細胞であってよい。哺乳類細胞は好ましくはヒト細胞である。好ましい実施形態では、細胞は生細胞である。該試料は固体、液体又は懸濁液であってもよい。該試料は血液、血漿又は尿等の生物学的流体であってもよい。また、空気中に浮遊している状態のものを捕捉したものでもよい。該試料は、ゲル中又は膜上に固定してもよく、1つ又は複数のビーズと結合させてもよく、アレイの形で構成してもよい。該試料は、部分的に又は全体に精製された核酸調製物を含む緩衝液又は水でもよい。
接触させる工程は、適切な任意の温度、時間で実施してもよい。典型的には、前記温度は常温又は室温である。当該温度の例としては約20℃ 、約25℃ 、約30℃ 、約35℃ 、約37℃ 、約40℃ 、約42℃ 、及びこれらの任意の2値の間の範囲が挙げられる。約42℃ 以上の温度及び約20℃ 以下の温度もまた、被検試料によっては適用可能である。当該時間は、特に限定されず、蛍光変化の検出に適切な任意の時間であってもよい。時間の長さの例としては約10分、約20分、約30分、約40分、約50分、約60分、約90分、約120分、約180分、約240分、約300分、約360分、約420分、約480分、約540分、約600分、及びこれらの任意の2値の間の範囲が挙げられる。さらに時間を延長することも、被検試料によっては可能である。
また、接触させる媒体はどのようなものであってもよい。式(1)の化合物又は式(3)の化合物と、ウイルスのエンベロープに結合する蛍光性プローブとの混合物を直接、試料に混合する形でもよい。或いは、例えば、マスクなどの媒体に式(1)の化合物又は下記式(3)の化合物と、ウイルスのエンベロープに結合する蛍光性プローブとの混合液を含ませたものを含浸させ、空気中に漂う試料を捕捉して反応させてもよい。
式(1)の化合物及び式(3)の化合物の濃度は、特に限定されず、RNAの存在下において蛍光の励起及び発光のシグナルが適切に検出できる任意の濃度であってよい。濃度範囲の例としては、約10nM~ 1mMが挙げられる。濃度の例としては、約10nM、約100nM、約1μM、約10μM、約100μM、約1mM及びこれらの任意の2値の間の範囲が挙げられる。
好適な照射装置としては、可搬紫外線ランプ、水銀アークランプ、キセノンランプ、レーザ( アルゴン及びYAGレーザ等) 、及びレーザダイオードが挙げられる。これらの照射源は、典型的には、レーザスキャナ、蛍光マイクロプレートリーダ又は標準的分光光度計又はマイクロ蛍光分光光度計の中に光学的に統合されている。
検出又は判定工程は、目視検査又は種々の計測器の利用により実施してもよい。計測器の例としてはCCDカメラ、ビデオカメラ、写真フィルム、レーザスキャナ装置、蛍光強度計、フォトダイオード、量子カウンタ、落射蛍光顕微鏡、走査顕微鏡、フローサイトメータ、蛍光マイクロプレートリーダ、又は光増倍管等の増幅装置が挙げられる。
検出又は判定工程は、単一の時点において実施してもよく、複数の時点で実施してもよく、連続的に実施してもよい。
式(1)の化合物又は下記式(3)の化合物に由来する蛍光シグナルと、ウイルスのエンベロープに結合する蛍光性プローブに由来する蛍光シグナルの両方が検出された場合に、試料中にウイルス粒子が存在する可能性が高いと検出又は判定することができる。
本発明の第5態様において、試料中のエンベロープを有するウイルス粒子を検出するための方法であって、上記式(1)の化合物又は下記式(3)の化合物からなる蛍光性プローブを、ウイルス粒子の存在が疑われる試料と接触させる工程、及び前記接触後に、前記試料に光照射を行う工程を含み、蛍光性プローブが発蛍光応答を示す場合に、前記試料中にウイルス粒子が存在する可能性が高いことを示す、方法が提供される。
本発明の第5態様の各工程及び使用される材料の詳細は本発明の第4態様で説明した通りである。
上記本発明の第4態様のウイルス粒子の検出方法では、式(1)の化合物若しくは下記式(3)の化合物に由来する蛍光シグナルと、エンベロープに結合する蛍光プローブに由来する蛍光シグナルとが検出しているが、本発明のウイルス粒子の検出方法はこれに限られるものではない。他の検出手法として、例えば本発明の第5態様では、式(1)の化合物若しくは下記式(3)の化合物に由来する蛍光シグナルを検出している。これは、ウイルス粒子の中にあるRNAと、溶液中のRNAとを比較すると、ウイルス粒子の場合、空間的に限られた系であるので、強い強度を有する輝点として観察される。一方、溶液中のRNAや、エンベロープに結合する蛍光プローブは、溶液全体が淡く光る。これを利用して、蛍光強度の強い輝点の割合からウイルス粒子の検出を行ってもよい。本発明の第4態様によれば、式(1)の化合物若しくは下記式(3)の化合物に由来する蛍光シグナル単独でもウイルス粒子の検出が可能となる。
本発明の第6態様において、細胞のウイルス感染をインビトロで検出するための方法であって、
上記式(1)の化合物又は上記式(3)の化合物と、ウイルスのエンベロープに結合する蛍光色素とを、ウイルス感染が疑われる細胞と接触させる工程、及び
前記接触後に、前記細胞に光照射を行う工程を含み、
式(1)の化合物又は下記式(3)の化合物に由来する蛍光シグナルと、ウイルスのエンベロープに結合する蛍光性プローブに由来する蛍光シグナルの両方が検出された場合に、前記細胞がウイルス感染の可能性が高いことを示す、方法が提供される。
式(1)の化合物及び式(3)の化合物の詳細は、第1態様の式(1)の化合物及び第4態様の方法に関して説明した通りであり、インビトロ内で式(1)の化合物又は上記式(3)の化合物と、ウイルスのエンベロープに結合する蛍光色素とを、ウイルス感染が疑われる細胞と接触させる以外は、第4様態と同様である。
本発明の第6態様のさらなる実施形態では、ウイルス感染者における式(1)の化合物若しくは下記式(3)の化合物に由来する蛍光シグナルの平均値、ウイルス感染者における式(1)の化合物若しくは下記式(3)の化合物に由来する蛍光シグナルの中央値、又はウイルス感染者とウイルス非感染者を切り分ける式(1)の化合物若しくは下記式(3)の化合物に由来する蛍光シグナルの値を第1の閾値とする。また、ウイルス感染者におけるウイルスのエンベロープに結合する蛍光性プローブに由来する蛍光シグナルの平均値、ウイルス感染者におけるウイルスのエンベロープに結合する蛍光性プローブに由来する蛍光シグナルの中央値、又はウイルス感染者とウイルス非感染者を切り分けるウイルスのエンベロープに結合する蛍光性プローブに由来する蛍光シグナルの値を第2の閾値とする。
式(1)の化合物又は下記式(3)の化合物に由来する蛍光シグナルと、ウイルスのエンベロープに結合する蛍光性プローブに由来する蛍光シグナルの両方が検出され、かつそれぞれのシグナルの値が第1の閾値以上及び第2の閾値以上である場合に、ウイルス感染者がウイルスに感染している可能性が高いと検出又は判定することができる。
本発明の第7態様において、細胞のウイルス感染をインビトロで検出するための方法であって、上記式(1)の化合物又は上記式(3)の化合物を、ウイルス感染が疑われる細胞と接触させる工程、及び前記接触後に、前記細胞に光照射を行う工程を含み、式(1)の化合物又は下記式(3)の化合物に由来する蛍光シグナルが検出された場合に、前記細胞がウイルス感染の可能性が高いことを示す、方法が提供される。
本発明の第7態様の各工程及び使用される材料の詳細は本発明の第6態様で説明した通りである。
本発明の第7態様のさらなる実施形態では、式(1)の化合物又は下記式(3)の化合物に由来する蛍光シグナルが検出され、シグナルの値が第1の閾値以上である場合に、ウイルス感染者がウイルスに感染している可能性が高いと検出又は判定することができる。
上記本発明の第6態様のウイルス粒子の検出方法では、式(1)の化合物若しくは下記式(3)の化合物に由来する蛍光シグナルと、エンベロープに結合する蛍光プローブに由来する蛍光シグナルとが検出しているが、本発明の細胞のウイルス感染をインビトロで検出するための方法はこれに限られるものではない。他の検出手法として、例えば本発明の第7態様では、式(1)の化合物若しくは下記式(3)の化合物に由来する蛍光シグナルを検出している。本発明の第7態様によれば、式(1)の化合物若しくは下記式(3)の化合物に由来する蛍光シグナル単独でも細胞のウイルス感染をインビトロで検出することが可能となる。
本発明の第8態様において、試料中のウイルス粒子、特に、コロナウイルスを検出するためのキットであって、下記式(1)の化合物又は下記式(3)の化合物、ウイルスのエンベロープに結合する蛍光色素、及びウイルス粒子を検出するための説明書を備えたキットが提供される。
式(1)の化合物及び式(3)の化合物の詳細は、第1態様の式(1)の化合物及び第4態様の方法に関して説明した通りである。
キットは、好ましい実施形態では、式(1)の化合物又は下記式(3)の化合物を収容する容器を備える。キットはピペット、スポイト又は他の試料操作基材を備えてもよい。
キットは陽性対照及び/又は陰性対照の試料を備えてもよい。陽性対照の試料はRNA、及び/又は、DNAを共存させたRNAを含んでよい。陰性対照の試料はRNAを含まないDNAを含む試料でもよく、又は核酸を全く含まない試料でもよい。
キットは1つ又は複数の追加の色素又は染色剤を備えてもよい。例えば、キットは全核酸染色剤を備えてもよい。キットは、生細胞と死細胞を識別するための細胞透過性核酸染色剤を備えてもよい。
キットは、さらに水、緩衝液、緩衝液塩、界面活性剤、表面活性剤、塩、多糖類又は一般的にバイオアッセイに用いられる他の材料を備えてもよい。キットは、水溶性、非水溶性、又は水溶性/非水溶性溶媒系等の溶媒を備えてもよい。
一実施形態では、式(1)の化合物又は下記式(3)の化合物に由来する蛍光シグナルと、ウイルスのエンベロープに結合する蛍光性プローブに由来する蛍光シグナルの両方が検出された場合に、試料中にウイルス粒子が存在すると検出又は判定することができる。
さらなる実施形態では、ウイルス感染者における式(1)の化合物若しくは下記式(3)の化合物に由来する蛍光シグナルの平均値、ウイルス感染者における式(1)の化合物若しくは下記式(3)の化合物に由来する蛍光シグナルの中央値、又はウイルス感染者とウイルス非感染者を切り分ける式(1)の化合物若しくは下記式(3)の化合物に由来する蛍光シグナルの値を第1の閾値とする。また、ウイルス感染者におけるウイルスのエンベロープに結合する蛍光性プローブに由来する蛍光シグナルの平均値、ウイルス感染者におけるウイルスのエンベロープに結合する蛍光性プローブに由来する蛍光シグナルの中央値、又はウイルス感染者とウイルス非感染者を切り分けるウイルスのエンベロープに結合する蛍光性プローブに由来する蛍光シグナルの値を第2の閾値とする。
式(1)の化合物又は下記式(3)の化合物に由来する蛍光シグナルと、ウイルスのエンベロープに結合する蛍光性プローブに由来する蛍光シグナルの両方が検出され、かつそれぞれのシグナルの値が第1の閾値以上及び第2の閾値以上である場合に、ウイルス感染者がウイルスに感染している可能性が高いと検出又は判定することができる。
本発明の第9態様において、試料中のウイルス粒子、特に、コロナウイルスを検出するためのキットであって、下記式(1)の化合物又は下記式(3)の化合物、及びウイルス粒子を検出するための説明書を備えたキットが提供される。
本発明の第9態様のキット及び使用される材料の詳細は本発明の第8態様で説明した通りである。
本発明の第9態様のさらなる実施形態では、式(1)の化合物又は下記式(3)の化合物に由来する蛍光シグナルが検出され、シグナルの値が第1の閾値以上である場合に、ウイルス感染者がウイルスに感染している可能性が高いと検出又は判定することができる。
上記本発明の第8態様のキットは、式(1)の化合物若しくは下記式(3)の化合物と、エンベロープに結合する蛍光プローブとを備えているが、本発明の試料中のウイルス粒子を検出するためのキットはこれに限られるものではない。例えば本発明の第9態様のキットは、式(1)の化合物若しくは下記式(3)の化合物を備えている。本発明の第9態様のキットによれば、式(1)の化合物若しくは下記式(3)の化合物に由来する蛍光シグナル単独でも試料中のウイルス粒子を検出することが可能となる。
第4~7態様の方法並びに第8及び9態様のキットは、医療・研究現場におけるウイルス感染予防、防止、並びにウイルス付着の可視化に応用することができる。さらには、ウイルス感染の治療、ウイルス感染防止技術の開発、ウイルス汚染の除去、ウイルス不活性化の検証にも貢献することができる。
また、本発明は以下の構成を採用することもできる。
項1.下記式(1)の化合物。
であり、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9、R
10及びR
11は独立に、水素、ヒドロキシ基、チオール基、ハロ、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリール基、アミノ基である。)
項2.前記式(1)の化合物は、式(1a)又は式(1b)の化合物である項1に記載の化合物。
式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10及びR11は独立に、水素、ヒドロキシ基、チオール基、ハロ、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリール基、アミノ基である。
項3.前記式(1)の化合物は、式(2a)、式(2b)又は式(2c)の化合物である項1又は2に記載の化合物。
項4.項1~3のいずれかに記載の化合物を含有する蛍光色素。
項5.RNA検出剤である項4に記載の蛍光色素。
項6.細胞内RNAイメージングのための項1~3のいずれかに記載の化合物の使用。
項7.試料中のRNAを検出するための方法であって、
項1~3のいずれかに記載の化合物を、RNAを含有する試料と共に混合して、前記化合物と前記試料中のRNAとが結合された混合試料を形成する工程、および
前記混合試料を光照射して、前記混合試料中のRNAを検出する工程、
を含む方法。
項8.前記試料が生細胞である項7に記載の方法。
項9.試料中のRNAを検出するためのキットであって、
項1~3のいずれかに記載の化合物、及び
試料中のRNAを検出するための説明書、
を備えたキット。
項10.エンベロープを有するウイルスに対する感染を検出するための方法であって、
項1~3のいずれかに記載の式(1)の化合物又は下記式(3)の化合物と、前記ウイルスのエンベロープに結合する蛍光色素とを、前記ウイルス粒子の存在が疑われる試料と接触させる工程、及び
前記接触後に、前記試料に光照射を行う工程を含み、
前記式(1)の化合物又は下記式(3)の化合物に由来する蛍光シグナルと、ウイルスのエンベロープに結合する蛍光性プローブに由来する蛍光シグナルの両方が検出された場合に、前記試料中にコロナウイルス粒子が存在する可能性が高いことを示す、方法。
式(3)中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、及びR12は独立に、水素、ヒドロキシ基、チオール基、ハロ、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリール基、アミノ基である。
項11.エンベロープを有するウイルス感染を検出するための方法であって、
項1~3のいずれかに記載の式(1)の化合物又は下記式(3)の化合物を、前記ウイルス粒子の存在が疑われる試料と接触させる工程、及び
前記接触後に、前記試料に光照射を行う工程を含み、
式(1)の化合物又は式(3)の化合物に由来する蛍光シグナルが検出された場合に、前記試料中にコロナウイルス粒子が存在する可能性が高いことを示す、方法。
式(3)中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、及びR12は独立に、水素、ヒドロキシ基、チオール基、ハロ、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリール基、アミノ基である。
項12.細胞のウイルス感染をインビトロで検出するための方法であって、
項1~3のいずれかに記載の式(1)の化合物又は下記式(3)の化合物と、ウイルスのエンベロープに結合する蛍光色素とを、ウイルス感染が疑われる細胞と接触させる工程、及び
前記接触後に、前記細胞に光照射を行う工程を含み、
式(1)の化合物又は下記式(3)の化合物に由来する蛍光シグナルと、ウイルスのエンベロープに結合する蛍光性プローブに由来する蛍光シグナルの両方が検出された場合に、前記細胞がウイルス感染の可能性が高いことを示す、方法。
式(3)中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、及びR12は独立に、水素、ヒドロキシ基、チオール基、ハロ、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリール基、アミノ基である。
項13.細胞のウイルス感染をインビトロで検出するための方法であって、
項1~3のいずれかに記載の式(1)の化合物又は下記式(3)の化合物を、ウイルス感染が疑われる細胞と接触させる工程、及び
前記接触後に、前記細胞に光照射を行う工程を含み、
式(1)の化合物又は式(3)の化合物に由来する蛍光シグナルが検出された場合に、前記細胞がウイルス感染の可能性が高いことを示す、方法。
式(3)中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、及びR12は独立に、水素、ヒドロキシ基、チオール基、ハロ、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリール基、アミノ基である。
項14.エンベロープを有するウイルスに対する感染を検出するためのキットであって、
項1~3のいずれかに記載の式(1)の化合物又は下記式(3)の化合物、
コロナウイルスのエンベロープに結合する蛍光色素、及び
細胞のウイルス感染を検出するための説明書、
を備えたキット。
式(3)中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、及びR12は独立に、水素、ヒドロキシ基、チオール基、ハロ、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリール基、アミノ基である。
項14.エンベロープを有するウイルスに対する感染を検出するためのキットであって、
項1~3のいずれかに記載の式(1)の化合物又は下記式(3)の化合物、及び
細胞のウイルス感染を検出するための説明書、
を備えたキット。
式(3)中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、及びR12は独立に、水素、ヒドロキシ基、チオール基、ハロ、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリール基、アミノ基である。
本明細書中に引用されているすべての特許出願および文献の開示は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれるものとする。
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
実施例1 新規な蛍光色素の合成
1.BIOPの合成
(BIOPの製造)
式(2a)の化合物であるBIOPの製造方法については上述したとおりである。
(BIOPの同定)
BIOPの同定は核磁気共鳴(NMR)及びエレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI-MS)を用いて行った。
・核磁気共鳴による解析結果
使用装置:Bruker社 Avance III 500
磁場強度:500MHz,スペクトル幅:3089Hz
得られた1H NMR スペクトル
1H-NMR (500 MHz, DMSO-d6): d 8.61 (d, J = 7.5 Hz, 1H), 8.54 (d, J = 8.5 Hz, 1H), 8.31 (d, J = 8.0 Hz, 2H), 8.02-8.00 (m, 1H), 7.76 (m, 1H), 7.68 (t, J = 7.0 Hz, 2H),
7.52 (t, J = 6.0 Hz, 1H), 6.40 (s, 1H), 4.44 (s, 3H), 3.81 (s, 3H)上記1H NMR スペクトルは、式(1)の化合物の構造式から予測される1H の位置、および積分比が実測値と一致している。
・エレクトロスプレーイオン化質量分析による解析結果
使用装置:JEOL社 JMS-T100CS
ESI-MSスペクトル
BIOPの化合物の計算値(Calcd ([M+])):314.1288, 実測値(found ([M+])): 314.1176
以上の核磁気共鳴及びエレクトロスプレーイオン化質量分析から、BIOPの構造が同定された。
(BIOPの特性測定結果)
・蛍光測定
使用装置:日本分光社FP-6500
蛍光量子収率の算出には、Rhodamine 6Gのエタノール溶液(蛍光量子収率φfl=0.95, Photochem.Photobiol., 2002, 75, 327.)を参照として用いた。 ・蛍光顕微鏡測定
使用装置:GE Healthcare社 Deltavision Elite microscopy system BIOPの蛍光シグナル検出にはTRITC filterを、SYTO RNAselectの蛍光シグナル検出にはFITC filterを用いた。
BIOPは担体ではほぼ無蛍光であるが、大腸菌由来total RNAの添加に伴い明瞭なlight-up応答を示した(励起波長λexは539.5nm、発光波長λemは580nm)。また、BIOPのRNA結合状態における蛍光量子収束φflは0.42と算出され、このBIOPの量子収束φflは、ベンゾ[c,d]インドールとキノリンを結合させた式(4)の化合物BIQの量子収束φが0.0085であり、50倍近い値であり、オキザロピリジンとキノリンを結合させたJO-PRO-1の量子収束φが0.38であることからすると、予想外に優れた蛍光応答能を有することが見出された。
2.BIOP[5,4-c]の合成
([5,4-c]の製造)
式(2b)の化合物であるBIOP[5,4-c]の製造方法については上述したとおりである。
(BIOP[5,4-c]の同定)
BIOP[5,4-c]の同定は、BIOPと同様、核磁気共鳴(NMR)及びエレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI-MS)を用いて行った。
1H NMR スペクトル
1H-NMR (500 MHz, DMSO-d6) d 9.88 (d, J = 7.3 Hz, 1H), 9.41 (s, 1H), 8.74 (d, J = 6.7 Hz, 1H), 8.26 (d, J = 8.2 Hz, 1H), 8.19 (d, J = 6.7 Hz, 1H), 7.95 (t, J = 7.6 Hz, 1H), 7.72 (d, J = 8.2 Hz, 1H), 7.66 (t, J = 7.6 Hz, 1H), 7.45 (d, J = 7.3 Hz, 1H), 6.35 (s, 1H), 4.33 (s, 3H), 3.77 (s, 3H)
ESI-MSスペクトル
BIOP[5,4-c]化合物の計算値 314.1288、実測値 314.1744
以上の核磁気共鳴及びエレクトロスプレーイオン化質量分析から、BIOP[5,4-c]の構造が同定された。
(BIOP[5,4-c]の特性測定結果)
BIOPと同じ装置及び測定条件で、BIOP[5,4-c]についても蛍光測定及び蛍光顕微鏡測定を行った。
BIOP[5,4-c]は単体ではほぼ無蛍光であるが、大腸菌由来total RNAの添加に伴い明瞭なlight-up応答を示した(励起波長λexは530nm、発光波長λemは570nm)。また、BIOP[5,4-c]のRNA結合状態における蛍光量子収束φflは0.52と算出され、このBIOP[5,4-c]の量子収束φflは、BIOPよりもさらに高かった。
3.BIOP[5,4-c]-nBuの合成
(BIOPの製造)
式(2c)の化合物であるBIOP[5,4-c]-nBuの製造方法については上述したとおりである。
(BIOP[5,4-c]-nBuの同定)
BIOP[5,4-c]-nBuの同定は、BIOPと同様、核磁気共鳴(NMR)及びエレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI-MS)を用いて行った。
1H-NMR (500 MHz, DMSO-d6) d 9.87 (d, J = 7.3 Hz, 1H), 9.49 (d, J = 3.4 Hz, 1H), 8.83 (d, J = 6.7 Hz, 1H), 8.27 (d, J = 8.2 Hz, 1H), 8.21 (d, J = 6.7 Hz, 1H), 7.95 (t, J = 7.8 Hz, 1H), 7.72 (d, J = 8.2 Hz, 1H), 7.66 (t, J = 7.8 Hz, 1H), 7.46 (d, J = 7.0 Hz, 1H), 6.35 (s, 1H), 4.57 (t, J = 7.3 Hz, 2H), 3.78 (s, 3H), 1.91-1.97 (m, 2H), 1.30-1.36 (m, 2H), 0.94 (t, J = 7.5 Hz, 3H)
ESI-MSスペクトル
BIOP[5,4-c]-nBu化合物の計算値 356.1757、実測値 356.1946
以上の核磁気共鳴及びエレクトロスプレーイオン化質量分析から、BIOP[5,4-c]-nBuの構造が同定された。
(BIOP[5,4-c]-nBUの特性測定結果)
BIOPと同じ装置及び測定条件で、BIOP[5,4-c]-nBUについても蛍光測定及び蛍光顕微鏡測定を行った。
BIOP[5,4-c] -nBUは単体ではほぼ無蛍光であるが、大腸菌由来total RNAの添加に伴い明瞭なlight-up応答を示した(励起波長λexは530nm、発光波長λemは570nm)。
実施例2 生物由来の核酸に対する蛍光応答
(材料と方法)
試料として、牛胸腺DNA(Sigma-Aldrich社)または大腸菌total RNA(Thermo Fisher Scientific 社)を用いた。試料とBIOPとを混ぜ、PBS緩衝液中での蛍光スペクトルを測定した。BIOP濃度は1μMとし、核酸の濃度は0,10μM, 100μM,1000μM(M = mol/L per nucleotide)とした
(結果)
図2A,Bに、生物由来の核酸に対する蛍光色素BIOPの波長に対する、蛍光応答について示す。図2A,Bに示すように、核酸が存在しない場合、BIOPはほとんど蛍光を示さないが、核酸との結合に伴い、580 nm付近の蛍光強度が著しく増加することが分かったこれはBIOPのモノメチンを介したヘテロ環同士の自由回転が核酸との結合により抑制されることに起因すると考えられる。
蛍光応答は、大腸菌total RNAに対する応答の方が、牛胸腺DNAに対する応答よりも大きかった。これはBIOPがRNA選択的な蛍光応答を示していることを示唆している。
実施例3 大腸菌total RNAと牛胸腺DNAのそれぞれに対する各種蛍光色素の蛍光応答
(材料と方法)
実施例2と同様の条件で、BIOP[5,4-c]、BIQについても蛍光応答を調べた。各蛍光色素の濃度を1 mMとし、大腸菌total RNAの濃度を100 mM(100mM NaClと1.0mM EDTAを含有する10 mMリン酸ナトリウム緩衝液 (pH 7.0))とした。
(結果)
図3に、 BIOP[5,4-c]、BIOP、BIQの各蛍光色素の大腸菌total RNAと牛胸腺DNAに対する蛍光応答を示す。縦軸はRNA選択性の尺度である。BIOP[5,4-c]及びBIOPは、BIQと比較してRNAとの結合時における蛍光強度が著しく大きかった。また、BIOP[5,4-c]及びBIOPは、 BIQと同程度のRNA選択性を示した。
実施例4 合成核酸に対する蛍光応答
(材料と方法)
化学合成DNA(日本遺伝子研究所)または化学合成RNA(GeneDesign社)をannealingした後、BIOPと混ぜ、PBS緩衝液中で測定した。
BIOP濃度は5μMとし、各合成核酸濃度は20μMとした。
(結果)
図4A,Bに、合成核酸に対する蛍光強度を示す。図4A,Bに示すように、RNA及びDNAのいずれの場合も、蛍光応答は、二本鎖RNA, DNAに対する応答の方が、一本鎖RNA, DNAに対する応答よりも大きかった。これはBIOPが塩基対間へ挿入されること(インターカレーション)を示唆している。
塩基の違いの点では、一本鎖のグアニンRNA及びDNAに対する応答が他の塩基からなる一本鎖よりも大きかった。これはBIOSのグアニン四重鎖への結合を示唆している。
実施例5 蛍光色素の光安定性
(材料と方法)
BIOP、BIOP[5,4-c]、BIOP[5,4-c]-nBU、又は公知の緑色蛍光色素であるSYTO RNASelect(商標) (Invitrogen社)を大腸菌Total RNAと混ぜ、PBS緩衝液中における蛍光強度の時間変化を測定した。
BIOS、BIOP[5,4-c]、及びBIOP[5,4-c]-nBUの濃度は1μM、大腸菌total RNAの濃度は700μMとした。
光への照射時間は90分とした。BIOPの励起波長λexは539.5nm、発光波長λemは579.5nmであり、BIOP[5,4-c]及びBIOP[5,4-c]-nBUの励起波長λexは530nm、発光波長λemは570nmであり、RNAselectの励起波長λexは490nm、発光波長λemは530nmである。
(結果)
図5に、RNAselect及びBIOP、BIOP[5,4-c]、BIOP[5,4-c]-nBUそれぞれの時間経過に対する発光強度の変化を示す。図5に示すように、RNAselectでは時間の経過と共に発光強度が減少する(38%の減少)のに対し、BIOPでは試験開始から90分後でも減少試験開始時に比べて発光強度の減少は2%にとどまり、BIOPは従来の核酸結合性蛍光色素であるRNAselectに比べて極めて高い光安定性を有した。BIOP[5,4-c]、BIOP[5,4-c]-nBUについても、BIOP[5,4-c]はBIOPと同程度に極めて高い光安定性を有し、いずれもRNAselectに比べて極めて高い光安定性を有した。
実施例6 細胞中のRNAの検出
(材料と方法)
1.8×105個のMCF-7細胞を5%CO2、37度において10%FCSを含むRPMI 1640培地中でインキュベートした。その後、1μM BIOPを含む上記培地と取り換え、5%CO2、37度において20分間インキュベートした。その後、PBS緩衝液を用いて2回洗浄した後、PBS緩衝液中において蛍光顕微鏡を用いて細胞を観察した。細胞の撮影条件は露光時間0.5s, 透過率32%とした。
(結果)
図6Aに、BIOPを生きたMCF-7細胞に適用したRNAイメージング画像、図6Bに、図6A中の線上における蛍光強度(図6Aの上から下の方向に沿った強度を図6Bの左から右方向に示した)を示す。図6A,Bに示すように、BIOPを生きたMCF-7細胞を用いてRNAイメージングへ適用したところ、BIOPは低濃度(1.0μM)、短時間(20min)でもRNAを豊富に含む核小体を選択的に染色できることが確認された。
図7Aに、MCF-7細胞を固定・透過化処理したものを、DNA分解酵素(DNase)で処理したもの、RNA分解酵素(RNase)で処理したもの、どちらの処理も行っていないもの(control)の微分干渉像(DIC),BIOPのRNAイメージング画像、微分干渉像(DIC)とBIOPのRNAイメージング画像を重ねたmerge画像を示す。また、図7Bに、BIOPのRNAイメージング画像中の線上における蛍光強度(図7Aの左から右の方向に沿った強度を図7Bの左から右方向に示した)を示す。図7A,Bに示すように、MCF-7細胞を固定・透過化処理し、さらにDNA分解酵素(DNase)又はRNA分解酵素(RNase)で処理した場合、Rnase処理では核小体の蛍光強度が著しく減少した。一方で、DNase処理では核小体の蛍光に影響は見られなかった。これは核小体の蛍光シグナルが、RNAとの結合に基づくことを示唆している。以上、本研究ではBIOPが生細胞内RNAイメージングに適用しうる、高輝度な蛍光プローブとして機能することを見出した。
図8Aに、細胞をBIOPで染色したイメージング画像、RNAselectBで染色したイメージング画像、両方で同時染色(共染色)したもの(merge)を示す。図8Bに、merge 画像中の線分に沿って上から下方向に走査した場合の蛍光強度を示す。図8A,Bにおいて、同じ細胞をBIOPとRNAselectで別々、ならびに同時染色した場合には、BIOPは核小体に選択性があるのに対し、RNAselectでは核全体が不明瞭に光った。
実施例7
(材料と方法)
実施例6と同じ条件で、生きたMCF-7細胞をBIOP, BIO BIOP[5,4-c]及びBIOP[5,4-c]-nBuで染色した。なお、細胞の撮影条件は露光時間0.2s, 透過率10%とした。
(結果)
イメージングした結果、図9(A)-(F)に示すように、いずれのプローブもRNAを豊富に含む核小体を染色できることが分かった。核小体からの蛍光シグナルは、BIOP[5,4-c]-nBuが最も強いことが分かった。さらに、図10に示すように、6個の細胞を用いたイメージングの結果から、核小体、核、細胞質由来の蛍光シグナルを比較したところ、いずれの蛍光プローブも核や細胞質よりも、RNAを豊富に含む核小体の方が蛍光強度が大きく、核小体選択性があることがわかった。プローブ間を比較した結果、BIOP[5,4-c] 、BIOP[5,4-c]-nBu、BIOPの順に核小体選択性が高いことがわかった。
実施例8 ウイルス感染の検出(ヒト風邪コロナウイルスを感染させた細胞から精製したウイルス粒子に対するBIOPの蛍光応答)
(材料と方法)
LLC-MK2細胞(アカゲザルの腎臓由来細胞)にHCoV-229E(ヒト風邪コロナウイルス)を感染させ、回収したウイルス粒子(log TCID50/mL = 6)をViraTrap Virus Purification Kitにより精製した。精製により得られた溶液を二倍段階希釈法で希釈系列(1, 1/2,1/4,1/8,1/16,1/32倍) の溶液を作成した。それぞれの段階の溶液10μLとBIOPとを混合し、それぞれ合計200 μL(BIOPの最終濃度は1.0 μM)になるようにしてサンプルを調整した。各サンプルを室温で10分間静置した後、蛍光プレートリーダー(MolecularDevice社SpectraMax Gemini装置)により蛍光強度を測定した(検出条件:励起波長544nm,検出波長590nm)。
Negative controlとしてウイルスを含まないサンプルを、ウイルスを含まない以外は同様の条件で作成し比較対処とした。
(結果)
図11に、各希釈系列でのヒト風邪コロナウイルスを感染させた細胞にBIOPを適用した際の、蛍光強度を示す。ヒト風邪コロナウイルスを感染させた細胞を含む試料をBIOPと混合することで、有意な蛍光応答を示し、BIOPはヒト風邪コロナウイルスを可視化することが示された。また、BIOPはBIOPの濃度には依存せず、ウイルス粒子の濃度に依存的な蛍光応答を示した。
この結果は、BIOPはRNA選択性があることから、ヒト風邪コロナウイルスの細胞膜内部のRNAに迅速に結合することで、蛍光応答を示す性質を有することが明らかとなった。したがって、BIOPはヒト風邪コロナウイルスに内包されるRNA検出試薬として機能することが示唆される。