JP7021989B2 - 中性子捕捉療法システム、及び中性子線検出装置 - Google Patents
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Description
本発明は、中性子捕捉療法システム、及び中性子線検出装置に関する。
中性子線とガンマ線とを弁別する技術として特許文献1に記載の技術がある。特許文献1に係るシステムでは、検出した信号の波高分布から中性子線による信号とガンマ線による信号とを弁別している。このシステムは、所定の判定閾値を設定し、検出した信号のうち、波高が判定閾値を超えたものを中性子線に関する信号として弁別している。また、このシステムは、検出器が劣化することで波高分布が低エネルギー側へ移動しても、判定閾値を設定し直すことで、弁別を好適に行っている。
上述のシステムによれば、同じ中性子場であっても検出器によって検出される波高分布が検出器の劣化によって変化する。従って、上述のシステムは、弁別を好適に行うことはできるものの、作業者にとって、波高分布が適切であるかを判断し難い。また、検出器の動作が安定しない場合には、一時的に波高分布が安定せず、エネルギー方向にずれることがある。
従って、本発明は、検出器の劣化に関わらず弁別を好適に行い、作業者が適切な波高分布であることを判断し易い中性子捕捉療法システム、及び中性子線検出装置を提供することを目的とする。
本発明に係る中性子捕捉療法システムは、被照射体に中性子線を照射する中性子線照射装置と、中性子線を検出する中性子線検出装置と、情報を表示する表示部と、を備える中性子捕捉療法システムであって、中性子線検出装置は、放射線が入射すると光を発生させるシンチレータと、シンチレータで発生した光を伝送する光ファイバーと、光ファイバーによって伝送された光を受光し、受光した光に関する検出信号の波高が判定閾値を超えた場合に、検出信号を中性子線に関する信号として弁別する弁別部と、を備え、弁別部は、波高分布における中性子線によるピークを検出し、ピークにおける波高が予め定めた範囲から外れた場合、ピークにおける波高が予め定めた範囲内となるように、波高分布全体をエネルギー方向に拡大又は縮小して調整し、調整後の波高分布において、判定閾値を超えた波高の検出信号を中性子線に関する信号として弁別し、表示部は、調整後の波高分布を表示する。
この中性子捕捉療法システムでは、弁別部が、受光したシンチレータからの光に関する検出信号の波高が判定閾値を超えた場合に、検出信号を中性子線に関する信号と弁別する。弁別部は、波高分布における中性子線によるピークを検出し、ピークにおける波高が予め定めた範囲から外れた場合、ピークにおける波高が予め定めた範囲内となるように、波高分布全体をエネルギー方向に拡大又は縮小して調整する。また、調整後の波高分布において、判定閾値を超えた波高の検出信号を中性子線に関する信号として弁別する。これにより、中性子線を検出する検出器の劣化などによってピークにおける波高がずれた場合であっても、弁別部は、ずれを解消するように波高分布を調整することができる。従って、弁別部は、中性子線を検出する検出器の劣化状態によらず、正確に弁別を行うことができる。また、表示部は、調整後の波高分布を表示する。作業者は、検出器の劣化によるずれを解消された状態の波高分布を確認することができる。以上により、検出器の劣化に関わらず弁別を好適に行い、作業者が適切な波高分布であることを判断し易くなる。
中性子捕捉療法システムにおいて、弁別部は、ピークにおける波高と判定閾値との差分が予め定めた範囲から外れた場合、差分が予め定めた範囲内となるように、波高分布全体をエネルギー方向に拡大又は縮小して調整してよい。このように、弁別部が差分を用いて判定を行うことで、波高値のベースラインシフト(すなわちノイズ)の影響を受けることを低減できる。例えば、検出信号にノイズが乗った場合、検出される波高値はノイズによる波高値の分が加算された物となる。すなわち、波高分布全体がノイズによる波高値の分だけ高エネルギー側にシフトする。従って、弁別部が差分を用いて判定を行う場合、ノイズによる波高値をキャンセルした上で判定を行うことができる。
本発明に係る中性子線検出装置は、中性子線を検出する中性子線検出装置であって、放射線が入射すると光を発生させるシンチレータと、シンチレータで発生した光を伝送する光ファイバーと、光ファイバーによって伝送された光を受光し、受光した光に関する検出信号の波高が判定閾値を超えた場合に、検出信号を中性子線に関する信号として弁別する弁別部と、を備え、弁別部は、波高分布における中性子線によるピークを検出し、ピークにおける波高が予め定めた範囲から外れた場合、ピークにおける波高が予め定めた範囲内となるように、波高分布全体をエネルギー方向に拡大又は縮小して調整し、調整後の波高分布において、判定閾値を超えた波高の検出信号を中性子線に関する信号として弁別する。
この中性子線検出装置によれば、上述の中性子捕捉療法システムと同様の作用・効果を得ることができる。
本発明によれば、検出器の劣化に関わらず弁別を好適に行い、作業者が適切な波高分布であることを判断し易い中性子捕捉療法システム、及び中性子線検出装置を提供することができる。
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1に示される中性子捕捉療法システム150は、中性子捕捉療法装置(中性子線照射装置)1と、中性子線検出装置100と、表示部31と、入力部32と、を備える。ここでは、まず中性子捕捉療法装置1について説明する。中性子捕捉療法装置1は、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT:Boron Neutron Capture Therapy)を用いたがん治療を行う装置である。中性子捕捉療法装置1では、例えばホウ素(10B)が投与された患者(被照射体)50の腫瘍に中性子線Nを照射する。
中性子捕捉療法装置1は、サイクロトロン2を備えている。サイクロトロン2は、陰イオン等の荷電粒子を加速して、荷電粒子線Rを作り出す加速器である。本実施形態において、荷電粒子線Rは陰イオンから電荷を剥ぎ取って生成した陽子ビームである。このサイクロトロン2は、例えば、ビーム半径40mm、60kW(=30MeV×2mA)の荷電粒子線Rを生成する能力を有している。なお、加速器は、サイクロトロンに限られず、シンクロトロンやシンクロサイクロトロン、ライナックなどであってもよい。
サイクロトロン2から出射された荷電粒子線Rは、中性子線生成部Mへ送られる。中性子線生成部Mは、ビームダクト3とターゲット7とからなる。サイクロトロン2から出射された荷電粒子線Rは、ビームダクト3を通り、ビームダクト3の端部に配置されたターゲット7へ向かって進行する。このビームダクト3に沿って複数の四極電磁石4、電流モニタ5、及び走査電磁石6が設けられている。複数の四極電磁石4は、例えば電磁石を用いて荷電粒子線Rのビーム軸調整を行うものである。
電流モニタ5は、ターゲット7に照射される荷電粒子線Rの電流値(つまり、電荷,照射線量率)をリアルタイムで検出するものである。電流モニタ5は、荷電粒子線Rに影響を与えずに電流測定可能な非破壊型のDCCT(DC Current Transformer)が用いられている。電流モニタ5は、検出結果を後述する制御部20に出力する。なお、「線量率」とは、単位時間当たりの線量を意味する。
具体的には、電流モニタ5は、ターゲット7に照射される荷電粒子線Rの電流値を精度よく検出するため、四極電磁石4による影響を排除すべく、四極電磁石4より下流側(荷電粒子線Rの下流側)で走査電磁石6の直前に設けられている。すなわち、走査電磁石6はターゲット7に対して常時同じところに荷電粒子線Rが照射されないように走査するため、電流モニタ5を走査電磁石6よりも下流側に配設するには大型の電流モニタ5が必要となる。これに対し、電流モニタ5を走査電磁石6よりも上流側に設けることで、電流モニタ5を小型化することができる。
走査電磁石6は、荷電粒子線Rを走査し、ターゲット7に対する荷電粒子線Rの照射制御を行うものである。この走査電磁石6は、荷電粒子線Rのターゲット7に対する照射位置を制御する。
中性子捕捉療法装置1は、荷電粒子線Rをターゲット7に照射することにより中性子線Nを発生させ、患者50に向かって中性子線Nを出射する。中性子捕捉療法装置1は、ターゲット7、遮蔽体9、減速材8、コリメータ10、ガンマ線検出部11を備えている。
また、中性子捕捉療法装置1は、制御部20を備えている。制御部20は、CPU[Central Processing Unit]、ROM[Read Only Memory]、RAM[Random Access Memory]等から構成されており、中性子捕捉療法装置1を総合的に制御する電子制御ユニットである。制御部20の詳細な構成については後述する。
ターゲット7は、荷電粒子線Rの照射を受けて中性子線Nを生成するものである。ここでのターゲット7は、例えば、ベリリウム(Be)やリチウム(Li)、タンタル(Ta)、タングステン(W)により形成され、例えば直径160mmの円板状を成している。なお、ターゲット7は、円板状に限らず、他の形状であってもよい。また、ターゲット7は固体状に限らず液体状であってもよい。
減速材8は、ターゲット7で生成された中性子線Nのエネルギーを減速させるものである。減速材8は、中性子線Nに含まれる速中性子を主に減速させる第1の減速材8Aと、中性子線Nに含まれる熱外中性子を主に減速させる第2の減速材8Bと、からなる積層構造を有している。
遮蔽体9は、発生させた中性子線N、及び当該中性子線Nの発生に伴って生じたガンマ線等を外部へ放出されないよう遮蔽するものである。遮蔽体9は、減速材8を囲むように設けられている。遮蔽体9の上部及び下部は、減速材8より荷電粒子線Rの上流側に延在しており、これらの延在部にガンマ線検出部11が設けられている。
コリメータ10は、中性子線Nの照射野を整形するものであり、中性子線Nが通過する開口10aを有する。コリメータ10は、例えば中央に開口10aを有するブロック状の部材である。
ガンマ線検出部11は、荷電粒子線Rの照射により中性子線生成部Mから発生するガンマ線をリアルタイムで検出するものである。ガンマ線検出部11としては、シンチレータや電離箱、その他様々なガンマ線検出機器を採用することができる。本実施形態において、ガンマ線検出部11は、ターゲット7の周囲で減速材8より荷電粒子線Rの上流側に設けられている。
ガンマ線検出部11は、荷電粒子線Rの上流側に延在する遮蔽体9の上部及び下部の内側にそれぞれ配置されている。なお、ガンマ線検出部11の数は特に限定されず、一つであってもよく、三つ以上であってもよい。ガンマ線検出部11を三つ以上設けるときは、ターゲット7の外周を囲むように所定間隔で設けることができる。ガンマ線検出部11は、ガンマ線の検出結果を制御部20に出力する。このガンマ線検出部11を備えていない構成でもよい。
次に、本実施形態に係る中性子線検出装置100の構成について、図2及び図3を参照して説明する。
図2に示されるように、中性子線検出装置100は、中性子線検出器12と、制御部20と、を備える。また、中性子線検出装置100の制御部20は、表示部31及び入力部32と、接続されている。
コリメータ10には、コリメータ10の開口10aを通過する中性子線Nをリアルタイムで検出するための中性子線検出器12が設けられている。中性子線検出器12は、コリメータ10に形成された貫通孔10b(開口10aと直交する方向に形成された貫通孔)中に少なくともその一部が設けられている。中性子線検出器12は、シンチレータ13、光ファイバー14、光検出器15を有している。
シンチレータ13は、入射した放射線(中性子線N、ガンマ線)を光に変換する蛍光体である。シンチレータ13は、入射した放射線の線量に応じて内部結晶が励起状態となり、シンチレーション光を発生させる。シンチレータ13は、コリメータ10の貫通孔10b内に設けられており、コリメータ10の開口10aに露出している。シンチレータ13は、開口10a内の中性子線Nまたはガンマ線がシンチレータ13に入射することで発光する。シンチレータ13には、6Liガラスシンチレータ、LiCAFシンチレータ、6LiFを塗布したプラスチックシンチレータ、6LiF/ZnSシンチレータ等を採用できる。
光ファイバー14は、シンチレータ13で生じた光を伝達する部材である。光ファイバー14は、例えば、フレキシブルな光ファイバーの束などから構成されている。光検出器15は、光ファイバー14を通じて伝達された光を検出するものである。光検出器15としては、例えば光電子増倍管や光電管など各種の光検出機器を採用することができる。光検出器15は、光検出時に電気信号(検出信号)を制御部20に出力する。
表示部31は、使用者に対して各種情報を表示する機器である。表示部31として、ディスプレイ等が採用される。使用者に入力させたい情報がある場合、表示部31は、使用者に対して情報の入力を案内する通知を表示する。また、表示部31は、使用者の入力を受けて制御部20で演算された結果などを表示する。表示部31は、中性子線検出器12の検出信号の波高分布を表示する。入力部32は、使用者による各種入力がなされる機器である。入力部32は、キーボード、マウス、タッチスクリーン等によって構成されている。
図3に示されるように、制御部20は、線量算出部21と、波高分布調整部23と、照射制御部22と、を有している。制御部20は、電流モニタ5、走査電磁石6、ガンマ線検出部11及び光検出器15(中性子線検出器12)、表示部31、及び入力部32と電気的に接続されている。
線量算出部21は、電流モニタ5による荷電粒子線Rの電流値の検出結果に基づいて、ターゲット7に照射される荷電粒子線Rの線量をリアルタイムで測定(算出)する。線量算出部21は、測定された荷電粒子線Rの電流値を時間に関して逐次積分し、荷電粒子線Rの線量をリアルタイムで算出する。
また、線量算出部21は、ガンマ線検出部11によるガンマ線の検出結果に基づいて、ガンマ線の線量をリアルタイムで測定(算出)する。
さらに、線量算出部21は、中性子線検出器12による中性子線Nの検出結果に基づいて、コリメータ10の開口10aを通過する中性子線Nの線量を測定(算出)する。線量算出部21は、光検出器15から検出信号を受信し、中性子線に関する信号とガンマ線に関する信号とを弁別する(詳しくは後述する)。線量算出部21は、波高分布調整部23によって波高分布の調整がなされた場合、当該調整された波高分布に基づいて弁別を行う。光検出器15、線量算出部21、及び波高分布調整部23は、弁別部を構成する。
線量算出部21は、算出した荷電粒子線Rの線量、ガンマ線の線量、及び中性子線Nの線量に基づいて、ターゲット7で発生した中性子線Nの線量を総合的にリアルタイムで算出する。中性子線Nの線量など線量算出部21による算出結果は、例えば表示部31に表示される。
波高分布調整部23は、検出信号に基づく波高分布を調整する。波高分布調整部23は、調整後の波高分布を表示部31へ送信し、当該表示部31で表示させる。なお、波高分布調整部23の詳細については、後述する。
照射制御部22は、線量算出部21によって算出された中性子線Nの線量に基づいて、ターゲット7に対する荷電粒子線Rの照射を制御する。照射制御部22は、サイクロトロン2及び走査電磁石6に指令信号を送信してターゲット7に対する荷電粒子線Rの照射を制御することで、ターゲット7から生成される中性子線Nの患者に対する照射制御を行う。照射制御部22は、線量算出部21の算出する中性子線Nの線量が予め設定された治療計画に沿うように中性子線Nの照射制御を行う。
次に、弁別部である線量算出部21及び波高分布調整部23の機能について、より詳細に説明する。
線量算出部21は、光検出器15で受光した光に関する検出信号の波高(光量)が判定閾値x0を超えているか否か判定し、中性子線Nによる検出信号と、ガンマ線による検出信号とを弁別する。シンチレータ13において、放射線として中性子線N及びガンマ線が入射するので、光量の強さに応じて中性子線Nとガンマ線とを弁別する。
図4は、検出信号の波高分布を示すグラフである。図4では、横軸に光検出器15で受光した光に関する検出信号の波高(光量)を示し、縦軸に検出信号のイベント数(Count/s)を示している。線量算出部21は、波高分布に対してフィッティングを行い、波高分布のピークを検出する。フィッティングのための関数としては、下記式(1)のガウス関数が挙げられる。
xは検出信号の光量を示し、μはピークの位置を示している。
xは検出信号の光量を示し、μはピークの位置を示している。
図4(a)に示されるように、線量算出部21は、波高分布において2つ目のピークを中性子線Nによるピークとする。ここで、判定閾値x0を求めるための判定閾値計算式は、「x0=μ-aσ」と表される。「μ」は中性子線Nによるピークのエネルギー方向(グラフにおける横軸方向)の位置、すなわち検出信号の波高を示している。「σ」は、中性子が作る分布の標準偏差を示す。「a」は、σに対する係数を示す。すなわち、判定閾値x0は、エネルギー方向における中性子線Nによるピークの波高μからaσだけ低い値に設定される。例えば、「a=1.5」に設定され、中性子線Nによるピークの波高μから1.5σ低い値が判定閾値x0に設定される。
ここで、中性子捕捉療法装置1を使用することによって、中性子線検出器12が劣化する。例えば、光ファイバー14は放射線を受けて劣化し、光の透過率が低下する。光ファイバー14の光の透過率が低下すると、線量算出部21で計測される光の光量が低下する。従って、図4に示す波高分布は透過率の低下に応じて低エネルギー側へずれるように縮小される。図4(a)は、中性子線検出器12の劣化前、すなわち初期状態における波高分布を示している。図4(b)は、中性子線検出器12の劣化後における波高分布を示している。図4(b)に示すように、劣化後の波高分布は、初期状態における波高分布に比して低エネルギー側へずれるように、エネルギー方向において縮小されている。このように、中性子線検出器12が劣化した場合には、図4(b)に示すような波高分布が、実測の測定値に基づく波高分布となる。従って、以降の説明においては、図4(b)に示す波高分布を「実測による波高分布」と称する場合もある。
なお、図4(a)に示すように、初期状態での中性子線Nによるピークのエネルギー方向における位置、すなわち波高を「μ0」と示す。また、ピークにおける波高μ0と判定閾値x0との差分を「d0」と示す。一方、図4(b)に示すように、実測に基づく中性子線Nによるピークの波高を「μ」と示す。また、ピークにおける波高μと判定閾値x0との差分を「d」と示す。なお、図5(a)に示すように、調整後の波高分布において、中性子線Nによるピークの波高を「μ1」と示す。また、ピークにおける波高μ1と判定閾値x0との差分を「d1」と示す。
波高分布調整部23は、中性子線Nによるピークにおける波高μが予め定めた範囲から外れた場合、ピークにおける波高μ1が予め定めた範囲内となるように、波高分布全体をエネルギー方向に拡大又は縮小して調整する。波高分布調整部23は、実測に基づく波高分布でのピークの波高μが予め定めた範囲から外れた場合、調整後の波高分布でのピークの波高μ1が予め定めた範囲内となるように、実測に基づく波高分布全体をエネルギー方向に拡大又は縮小して調整することで、調整後の波高分布を作成する。
ここで、波高分布調整部23は、中性子線Nによるピークにおける波高μが予め定めた範囲から外れたか否かを、ピークにおける波高μと判定閾値x0との差分dが予め定めた範囲から外れたか否かを判定することで行ってもよい。すなわち、波高分布調整部23は、ピークにおける波高μと判定閾値x0との差分dが予め定めた範囲から外れた場合、差分d1が予め定めた範囲内となるように、波高分布全体をエネルギー方向に拡大又は縮小して調整する。差分dに対して予め定められた範囲は、初期状態における差分d0を基準として低エネルギー側及び高エネルギー側に所定の閾値を定めることで、設定されてよい。差分dが低エネルギー側の閾値を下回った場合、又は高エネルギー側の閾値を上回った場合に、波高分布調整部23は、中性子線Nによるピークにおける波高μが予め定めた範囲から外れたと判定してよい。
波高分布調整部23の具体的な処理内容の一例について説明する。波高分布調整部23は、線量算出部21が式(1)を用いて実測に基づく波高分布に対するフィッティングにより得られたピークの波高μ、及び標準偏差σを取得する。次に、波高分布調整部23は、ピークにおける波高μと判定閾値x0との差分dが予め定めた範囲から外れたか否かを判定する。図4(b)に示すように、波高分布が低エネルギー側へずれるように縮小されることで、波高分布調整部23が差分dが予め定めた範囲から外れたと判定した場合、波高分布調整部23は、波高分布の調整を行う。
波高分布調整部23は、以下の式(2)の関係が満たされるように、調整パラメータbを決定する。調整パラメータbを用いることで、実測に基づく波高分布の値と調整後の波高分布の値との間には、式(3),(4)の関係が成り立つ。式(2)~(4)の連立方程式よりbを演算することで、調整パラメータbは式(5)のように示される。波高分布調整部23は、式(5)に対して判定閾値x0、実測に基づく波高分布のピークの波高μ、及び実測に基づく波高分布の標準偏差σを代入することで、調整パラメータbを演算する。
x0=μ1 - aσ1 …(2)
μ1=bμ …(3)
σ1=bσ …(4)
b=x0/(μ-aσ) …(5)
x0=μ1 - aσ1 …(2)
μ1=bμ …(3)
σ1=bσ …(4)
b=x0/(μ-aσ) …(5)
波高分布調整部23は、調整パラメータbを用いて次のような演算を行うことにより、波高分布を調整する。例えば、劣化後の波高分布をy=f(x)と表すならば、調整後の波高分布をy=f(bx)となるようにする。すなわち、波高分布調整部23は、波高値をb倍にしつつ、イベント数を同じ値とすることによって、劣化前の波高分布と等しくする。これにより、波高分布調整部23は、実測に基づく波高分布のピークが高エネルギー側へずれるように当該波高分布を拡大する。調整後の波高分布を図5(a)に示す。調整後の波高分布のピークの波高μ1は、劣化前の波高分布のピークの波高μ0と等しくなる。なお、劣化が十分に遅い場合は、波高分布を解析して一度bの値を決めておけば、毎回bの値を計算しなくとも、弁別が可能となる。すなわち、検出器が入ってくる波高値をb倍し、b倍した後の値が判定閾値x0以上であれば、当該検出信号は中性子に起因するものであることを判定できる。例えば、劣化は徐々に起きるが、観測可能なレベルまで検出器が劣化するのに10分かかるとした場合、10分に1回の頻度でbを計算し、計算後から10分の間は同じbの値を使用することもできる。この場合、波高分布を毎度調整する方法に比して、演算量を少なくすることができ、リアルタイム性を向上できる。
なお、調整後の波高分布のピークの波高μ1は、劣化前の波高分布のピークの波高μ0と完全に等しくならなくともよく、波高μ0から予め定めた範囲内に収まっていればよい。例えば、波高分布調整部23が中性子線Nによるピークにおける波高μが予め定めた範囲から外れたか否かを判定するための閾値の範囲内に、ピークの波高μ1が収まるようにしてよい。また、上述の説明においては、劣化に伴って初期状態よりも波高分布が低エネルギー側へ縮小する場合に、波高分布調整部23が、高エネルギー側へ拡大するように波高分布を調整した。これに対し、所定の理由により、初期状態よりも波高分布が高エネルギー側へ拡大する場合に、波高分布調整部23が、低エネルギー側へ縮小するように波高分布を調整してもよい。
以上により、中性子線検出器12が劣化した場合であっても、線量算出部21は、劣化前と同等の波高分布に基づき、劣化前と同じ判定閾値x0を用いて弁別を行うことができる。また、表示部31は、調整後の波高分布を表示する。従って、表示部31に表示される波高分布は、中性子線検出器12の劣化の状態に関わらず、劣化前と同等の波高分布が示される。
次に、本実施形態に係る中性子捕捉療法システム150、及び中性子線検出装置100の作用・効果について説明する。
まず、比較例に係る中性子線捕捉療法システムについて説明する。比較例に係る中性子線捕捉療法システムの線量算出部21は、所定インターバル時間ごとに判定閾値を変更(調整)する。線量算出部21は、判定閾値を変更するためのインターバル時間を設定し、このインターバル時間内に受光した光に関する検出信号の波高に基づいて波高分布を作成し、この波高分布に基づいて判定閾値を変更する。中性子線検出器12の劣化に伴って波高分布がずれたとき、線量算出部21は、インターバル時間における波高分布にガウス関数をフィッティングして中性子線Nによるピークを設定し、このピークからaσ低い値を新たな判定閾値x1に設定する(図5(b)参照)。線量算出部21は、新たな判定閾値x1に基づいて、中性子線Nによる検出信号とガンマ線による検出信号とを弁別する。比較例に係る中性子線捕捉療法システムによれば、初期状態とは異なる波高分布が表示部31に表示されるため、弁別を好適に行うことはできるものの、作業者にとって、波高分布が適切であるかを判断し難い。また、中性子線検出器12の動作が安定しない場合には、一時的に波高分布が安定せず、エネルギー方向にずれることがある。
一方、本実施形態に係る中性子捕捉療法システム150では、線量算出部21が、受光したシンチレータからの光に関する検出信号の波高が判定閾値x0を超えた場合に、検出信号を中性子線に関する信号と弁別する。波高分布調整部23は、波高分布における中性子線Nによるピークを検出し、ピークにおける波高μが予め定めた範囲から外れた場合、ピークにおける波高μ1が予め定めた範囲内となるように、波高分布全体をエネルギー方向に拡大又は縮小して調整する。また、調整後の波高分布において、判定閾値x0を超えた波高の検出信号を中性子線Nに関する信号として弁別する。これにより、中性子線Nを検出する中性子線検出器12の劣化などによってピークにおける波高μがずれた場合であっても、波高分布調整部23は、ずれを解消するように波高分布を調整することができる。従って、線量算出部21は、中性子線Nを検出する中性子線検出器12の劣化状態によらず、正確に弁別を行うことができる。また、表示部31は、調整後の波高分布を表示する。作業者は、中性子線検出器12の劣化によるずれを解消された状態の波高分布を確認することができる。以上により、中性子線検出器12の劣化に関わらず弁別を好適に行い、作業者が適切な波高分布であることを判断し易くなる。なお、図5(b)のハッチングで示す領域、すなわち判定閾値x0よりも高エネルギー側の領域の面積が、図5(a)のハッチングで示す領域、すなわち判定閾値x1よりも高エネルギー側の領域の面積と等しくなる。
中性子捕捉療法システム150において、波高分布調整部23は、ピークにおける波高μと判定閾値x0との差分が予め定めた範囲から外れた場合、差分が予め定めた範囲内となるように、波高分布全体をエネルギー方向に拡大又は縮小して調整してよい。このように、波高分布調整部23が差分を用いて判定を行うことで、波高値のベースラインシフト(すなわちノイズ)の影響を受けることを低減できる。例えば、検出信号にノイズが乗った場合、検出される波高値はノイズによる波高値の分が加算された物となる。すなわち、波高分布全体がノイズによる波高値の分だけ高エネルギー側にシフトする。従って、波高分布調整部23が差分を用いて判定を行う場合、ノイズによる波高値をキャンセルした上で判定を行うことができる。
本実施形態に係る中性子線検出装置100は、中性子線を検出する中性子線検出装置100であって、放射線が入射すると光を発生させるシンチレータ13と、シンチレータ13で発生した光を伝送する光ファイバー14と、光ファイバー14によって伝送された光を受光し、受光した光に関する検出信号の波高が判定閾値を超えた場合に、検出信号を中性子線Nに関する信号として弁別する弁別部と、を備え、弁別部の波高分布調整部23は、波高分布における中性子線Nによるピークを検出し、ピークにおける波高μが予め定めた範囲から外れた場合、ピークにおける波高μ1が予め定めた範囲内となるように、波高分布全体をエネルギー方向に拡大又は縮小して調整し、線量算出部21は、調整後の波高分布において、判定閾値x0を超えた波高の検出信号を中性子線に関する信号として弁別する。
この中性子線検出装置100によれば、上述の中性子捕捉療法システム150と同様の作用・効果を得ることができる。
本発明は、前述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、下記のような種々の変形が可能である。
例えば、シンチレータ13が配置される場所は、コリメータ10内に限定されずその他の場所でもよい。シンチレータは例えばコリメータ10の下流に配置されていてもよく、患者の表面(被照射部の近傍)に配置されていてもよい。
また、上記の実施形態では、σに対する係数aを1.5とし、中性子線Nによるピークの波高μから1.5σ低い値を判定閾値x0として調整しているが、その他の値となるように判定閾値x0を変更してもよい。例えば、中性子線Nによるピークの波高μからσ低い値を判定閾値x0とした場合には、中性子線Nの検出効率は84.1%であった。中性子線Nによるピークの波高μから1.5σ低い値を判定閾値x0とした場合には、中性子線Nの検出効率は93%であった。また、中性子線Nによるピークの波高μから2σ低い値を判定閾値x0とした場合には、中性子線Nの検出効率は99.8%であった。このように、中性子線Nによるピークの波高μからσ低い値を判定閾値x0としてもよく、中性子線Nによるピークの波高μから2σ低い値を判定閾値x0としてもよく、その他の値低い判定閾値x0でもよい。
また、上記実施形態では、波高分布にガウス関数をフィッティングして中性子線によるピーク検出しているが、その他の関数を用いて波高分布を近似して、中性子線によるピークを検出してもよい。
また、上記実施形態では、中性子線検出装置を中性子捕捉療法装置1に適用しているが、中性子線検出装置の用途は限定されない。例えば、原子炉の運転状態を監視するモニタとして、本発明の中性子線検出装置を適用してもよい。また、物理実験で使用される加速中性子を測定する際に本発明の中性子線検出装置を使用してもよい。また、非破壊検査用の中性子照射装置において、本発明の中性子線検出装置を使用してもよい。
1…中性子捕捉療法装置(中性子線照射装置)、12…中性子線検出器、13…シンチレータ、14…光ファイバー、15…光検出器(弁別部)、20…制御部、21…線量算出部(弁別部)、23…波高分布調整部(弁別部)、100…中性子線検出装置、150…中性子捕捉療法システム、N…中性子線。
Claims (3)
- 被照射体に中性子線を照射する中性子線照射装置と、
前記中性子線を検出する中性子線検出装置と、
情報を表示する表示部と、を備える中性子捕捉療法システムであって、
前記中性子線検出装置は、
放射線が入射すると光を発生させるシンチレータと、
前記シンチレータで発生した前記光を伝送する光ファイバーと、
前記光ファイバーによって伝送された前記光を受光し、受光した前記光に関する検出信号の波高が判定閾値を超えた場合に、前記検出信号を前記中性子線に関する信号として弁別する弁別部と、を備え、
前記弁別部は、
波高分布における前記中性子線によるピークを検出し、
前記ピークにおける波高が予め定めた範囲から外れた場合、前記ピークにおける波高が予め定めた範囲内となるように、波高分布全体をエネルギー方向に拡大又は縮小して調整し、
調整後の波高分布において、前記判定閾値を超えた波高の前記検出信号を前記中性子線に関する信号として弁別し、
前記表示部は、調整後の前記波高分布を表示する、中性子捕捉療法システム。 - 前記弁別部は、前記ピークにおける波高と前記判定閾値との差分が予め定めた範囲から外れた場合、前記差分が予め定めた範囲内となるように、波高分布全体をエネルギー方向に拡大又は縮小して調整する、請求項1に記載の中性子捕捉療法システム。
- 前記中性子線を検出する中性子線検出装置であって、
放射線が入射すると光を発生させるシンチレータと、
前記シンチレータで発生した前記光を伝送する光ファイバーと、
前記光ファイバーによって伝送された前記光を受光し、受光した前記光に関する検出信号の波高が判定閾値を超えた場合に、前記検出信号を前記中性子線に関する信号として弁別する弁別部と、を備え、
前記弁別部は、
波高分布における前記中性子線によるピークを検出し、
前記ピークにおける波高が予め定めた範囲から外れた場合、前記ピークにおける波高が予め定めた範囲内となるように、波高分布全体をエネルギー方向に拡大又は縮小して調整し、
調整後の波高分布において、判定閾値を超えた波高の前記検出信号を前記中性子線に関する信号として弁別する、中性子線検出装置。
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