JP7020893B2 - セメント組成物及びセメント質硬化体の製造方法 - Google Patents
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Description
例えば、特許文献1には、セメント、BET比表面積が15~25m2/gのシリカフューム、50%累積粒径が0.8~5μmの無機粉末、最大粒径が1.2mm以下の骨材A、高性能減水剤、消泡剤及び水を含むセメント組成物であって、上記セメント、上記シリカフューム及び上記無機粉末の合計量100体積%中、上記セメントの割合が55~65体積%、上記シリカフュームの割合が5~25体積%、上記無機粉末の割合が15~35体積%であることを特徴とするセメント組成物、及び、該セメント組成物が、金属繊維等の繊維を3体積%以下の割合で含むことが記載されている。
特許文献1に記載されたセメント組成物は、金属繊維を2体積%含有する場合、硬化前には良好な流動性を有し、硬化後には、400N/mm2を超えるような高い圧縮強度と40N/mm2を超えるような高い曲げ強度を発現するものである。
本発明の目的は、高い圧縮強度(270N/mm2以上)及び高い曲げ強度(45N/mm2以上)を有し、かつ、耐衝撃性に優れるセメント質硬化体を製造することができるセメント組成物(モルタルまたはコンクリート)を提供することである。
[1] セメント、BET比表面積が15~25m2/gのシリカフューム、50%体積累積粒径が0.8~5μmの無機粉末、最大粒径が1.2mm以下の骨材A、直径が0.01~1.0mmでかつ長さが2~30mmの金属繊維、高性能減水剤、消泡剤及び水を含むセメント組成物であって、上記セメント、上記シリカフューム及び上記無機粉末の合計量100体積%中、上記セメントの割合が55~65体積%、上記シリカフュームの割合が5~25体積%、上記無機粉末の割合が15~35体積%であり、上記セメント組成物中の上記金属繊維の割合が、3.0体積%を超え、4.5体積%以下であることを特徴とするセメント組成物。
[2] 上記セメント組成物が、直径が0.010~0.020mm、長さが4~8mm、及びアスペクト比(繊維長/繊維直径)が300~470の有機繊維を含み、上記セメント組成物中の上記有機繊維の割合が、0.01~0.5体積%である請求項1に記載のセメント組成物。
[3] 硬化後に、圧縮強度が300N/mm2以上でかつ曲げ強度が50N/mm2以上である前記[1]又は[2]に記載のセメント組成物。
[4] 上記セメント組成物は、最大粒径が1.2mmを超え、13mm以下の骨材Bを含む前記[1]又は[2]に記載のセメント組成物。
[5] 硬化後に、圧縮強度が270N/mm2以上でかつ曲げ強度が50N/mm2以上である前記[4]に記載のセメント組成物。
[7] 上記常温養生工程と上記加熱養生工程の間に、上記硬化した成形体に吸水させる吸水工程を含む前記[6]に記載のセメント質硬化体の製造方法。
また、本発明のセメント組成物によれば、有機繊維を含むことにより、耐火性に優れたセメント質硬化体を製造することができる。
以下、本発明のセメント組成物について詳細に説明する。
中でも、セメント組成物の流動性を向上させる観点から、中庸熱ポルトランドセメント又は低熱ポルトランドセメントを使用することが好ましい。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
中でも、セメント組成物の流動性を向上させ、セメント質硬化体の強度(圧縮強度及び曲げ強度)や耐衝撃性をより高くする観点から、石英粉末またはフライアッシュを使用することが好ましい。
なお、本明細書中、50%体積累積粒径が0.8~5μmの無機粉末には、セメントは含まれないものとする。
無機粉末の50%体積累積粒径は、市販の粒度分布測定装置(例えば、日機装社製、製品名「マイクロトラックHRA モデル9320-X100」)を用いて求めることができる。
具体的には、粒度分布測定装置を用いて、累積粒度曲線を作成し、該累積粒度曲線から50%体積累積粒径を求めることができる。この際、試料を分散させる溶媒であるエタノール20cm3に対して、試料0.06gを添加し、90秒間、超音波分散装置(例えば、日本精機製作所社製、製品名「US300」)を用いて超音波分散したものを測定する。
無機粉末の95%体積累積粒径は、セメント質硬化体の強度(圧縮強度及び曲げ強度)や耐衝撃性をより高くする観点から、好ましくは8μm以下、より好ましくは7μm以下、特に好ましくは6μm以下である。
セメント、シリカフューム及び無機粉末の合計量100体積%中、シリカフュームの割合は5~25体積%、好ましくは7~23体積%である。該割合が5体積%未満の場合、セメント質硬化体の強度(圧縮強度及び曲げ強度)や耐衝撃性が低下する。該割合が25体積%を超える場合、セメント組成物の流動性が低下する。
セメント、シリカフューム及び無機粉末の合計量100体積%中、無機粉末の割合は15~35体積%、好ましくは17~33体積%である。該割合が15体積%未満の場合、セメント質硬化体の強度(圧縮強度及び曲げ強度)や耐衝撃性が低下する。該割合が35体積%を超える場合、セメント組成物の流動性が低下する。
骨材Aの最大粒径は、1.2mm以下、好ましくは1.1mm以下、特に好ましくは1.0mm以下である。該最大粒径が1.2mm以下であれば、セメント質硬化体の強度(圧縮強度及び曲げ強度)や耐衝撃性が高くなる。
骨材Aの粒度分布は、セメント組成物の流動性を向上させ、セメント質硬化体の強度(圧縮強度及び曲げ強度)や耐衝撃性をより高くする観点から、0.6mm以下の粒径の骨材の割合が、95質量%以上、0.3mm以下の粒径の骨材の割合が、40~50質量%、及び、0.15mm以下の粒径の骨材の割合が、6質量%以下であることが好ましい。
セメント組成物中の骨材Aの割合は、好ましくは20~40体積%、より好ましくは22~38体積%、さらに好ましくは30~37体積%、特に好ましくは32~36体積%である。該割合が20体積%以上であれば、セメント組成物の発熱量が小さくなり、かつ、セメント質硬化体の収縮量が小さくなる。該割合が40体積%以下であれば、セメント質硬化体の強度(圧縮強度及び曲げ強度)や耐衝撃性がより高くなる。
高性能減水剤の配合量は、セメント、シリカフューム及び無機粉末の合計量100質量部に対して、固形分換算で、好ましくは0.2~1.5質量部であり、より好ましくは0.4~1.3質量部である。該量が0.2質量部以上であれば、減水性能が向上し、セメント組成物の流動性が向上する。該量が1.5質量部以下であれば、セメント質硬化体の強度(圧縮強度及び曲げ強度)や耐衝撃性がより高くなる。
消泡剤の配合量は、セメント、シリカフューム及び無機粉末の合計量100質量部に対して、好ましくは0.001~0.1質量部、より好ましくは0.01~0.07質量部、特に好ましくは0.01~0.05質量部である。該量が0.001質量部以上であれば、セメント組成物の強度発現性が向上する。該量が0.1質量部を超えると、セメント組成物の強度発現性の向上効果が頭打ちとなる。
金属繊維の寸法は、セメント組成物中における金属繊維の材料分離の防止や、セメント質硬化体の曲げ強度や耐衝撃性の向上の観点から、直径が0.01~1.0mmでかつ長さが2~30mmであることが好ましく、直径が0.05~0.5mmでかつ長さが5~25mmであることがより好ましい。また、金属繊維のアスペクト比(繊維長/繊維直径)は、好ましくは20~200、より好ましくは40~150である。
さらに、金属繊維の形状は、直線状よりも、何らかの物理的付着力を付与する形状(例えば、螺旋状や波形)であることが好ましい。螺旋状等の形状であれば、金属繊維とマトリックスとが、引き抜けながら応力を担保するため、セメント質硬化体の曲げ強度や破壊抵抗性が向上する。
セメント組成物中の金属繊維の割合は、3.0体積%を超え、4.5体積%以下、好ましくは3.2~4.2体積%、より好ましくは3.3~3.7体積%である。該割合が3.0体積%以下では、セメント質硬化体の曲げ強度や耐衝撃性が低下する。該割合が4.5体積%を超えると、セメント組成物の流動性や作業性が大きく低下する。
水の配合量は、セメント、シリカフューム及び無機粉末の合計量100質量部に対して、好ましくは10~20質量部、より好ましくは11~18質量部、特に好ましくは14~16質量部である。該量が10質量部以上であれば、セメント組成物の流動性が向上する。該量が20質量部以下であれば、セメント質硬化体の強度(圧縮強度及び曲げ強度)や耐衝撃性がより高くなる。
有機繊維としては、例えば、アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、ポリエチレン繊維、ポリアリート繊維、ポリプロピレン繊維、ポリビニルアルコール繊維等が挙げられる。中でも、入手の容易性及びセメント質硬化体の耐火性の向上の観点から、ポリプロピレン繊維が好ましい。
有機繊維の寸法は、セメント組成物中における有機繊維の材料分離の防止や、セメント質硬化体の耐火性の向上の観点から、直径が0.005~1.000mmでかつ長さが2~30mmであることが好ましく、直径が0.008~0.500mmでかつ長さが4~25mmであることがより好ましく、直径が0.010~0.030mmでかつ長さが4~10mmであることがさらに好ましく、直径が0.012~0.020mmでかつ長さが4~8mmであることが特に好ましい。
中でも、セメント質硬化体の耐火性のさらなる向上の観点から、直径が0.010~0.030mm、長さが4~10mm、及びアスペクト比(繊維長/繊維直径)が230~480のポリプロピレン繊維が好ましく、直径が0.010~0.020mm、長さが4~8mm、及びアスペクト比(繊維長/繊維直径)が300~470のポリプロピレン繊維がより好ましく、直径が0.012~0.020mm、長さが4~8mm、及びアスペクト比(繊維長/繊維直径)が300~450のポリプロピレン繊維が特に好ましい。
セメント組成物中の有機繊維の割合は、好ましくは0.01~0.5体積%、より好ましくは0.03~0.4体積%、さらに好ましくは0.05~0.3体積%、さらに好ましくは0.07~0.25体積%、特に好ましくは0.09~0.2体積%である。該割合が0.01体積%以上であれば、セメント質硬化体の耐火性がより向上する。該割合が0.5体積%以下であれば、セメント質硬化体の強度(圧縮強度及び曲げ強度)や耐衝撃性がより高くなる。
なお、本発明のセメント組成物は、長期強度の低下を避ける等の観点から、ガラス繊維を含まないものが好適である。
また、上記セメント組成物からなるモルタル(後述する骨材Bを含まないもの)を硬化してなるセメント質硬化体の圧縮強度は、好ましくは300N/mm2以上、より好ましくは320N/mm2以上、さらに好ましくは330N/mm2以上、さらに好ましくは350N/mm2以上、さらに好ましくは370N/mm2以上、特に好ましくは400N/mm2以上である。
骨材Bとしては、川砂、山砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂、天然エメリー砂、人工細骨材(例えば、スラグ細骨材や、フライアッシュ等を焼成してなる焼成細骨材や、人工(人造)エメリー砂)、再生細骨材、川砂利、山砂利、陸砂利、砕石、人工粗骨材(例えば、スラグ粗骨材や、フライアッシュ等を焼成してなる焼成粗骨材)、再生粗骨材、アルミナまたは炭化物(例えば、炭化ケイ素、炭化ホウ素等)の粗粉砕物、またはこれらの混合物等が挙げられる。
骨材Bの最大粒径は、13mm以下、好ましくは12mm以下、より好ましくは11mm以下、特に好ましくは10mm以下である。該最大粒径が13mm以下であれば、セメント組成物の強度発現性が向上し、例えば、270N/mm2以上の圧縮強度及び45N/mm2以上の曲げ強度を発現することができる。
また、骨材Bの最大粒径は、コストの低減等の観点から、1.2mmを超える値であり、好ましくは3mm以上、より好ましくは5mm以上、特に好ましくは7mm以上である。
なお、本明細書中、骨材Bの最大粒径が5mm以上の場合における「最大粒径」とは、骨材B全体の90質量%以上が通るふるいのうち、最小寸法のふるいの呼び寸法で示される骨材Bの粒径(一般に、粗骨材の最大粒径の定義として知られているもの)をいう。
なお、本明細書中、骨材Bの最小粒径とは、骨材Bの中の最も粒径が小さいものから粒径が大きなものに向かって累積していった場合において、骨材B全体の15質量%に達したときの骨材Bの粒径をいう。
骨材Aと骨材Bの合計量に対する骨材Bの割合は、好ましくは40体積%以下、より好ましくは30体積%以下、特に好ましくは25体積%以下である。該割合が40体積%以下であれば、セメント質硬化体の強度(圧縮強度及び曲げ強度)や耐衝撃性をより高くすることができる。
骨材Bを含むセメント組成物(例えば、コンクリート)を硬化してなるセメント質硬化体の圧縮強度は、好ましくは270N/mm2以上、より好ましくは280N/mm2以上、さらに好ましくは290N/mm2以上、さらに好ましくは300N/mm2以上、さらに好ましくは310N/mm2以上、特に好ましくは315N/mm2以上である。
本発明のセメント質硬化体の製造方法の一例は、セメント組成物を型枠内に打設して、未硬化の成形体を得る成形工程と、未硬化の成形体を、10~40℃で24時間以上、封緘養生または気中養生した後、型枠から脱型し、硬化した成形体を得る常温養生工程と、硬化した成形体について、70℃以上100℃未満で1時間以上の、蒸気養生もしくは温水養生と、100~200℃で1時間以上のオートクレーブ養生のいずれか一方または両方を行い、加熱養生後の硬化体を得る加熱養生工程と、加熱養生後の硬化体を、150~200℃で24時間以上、加熱(ただし、オートクレーブ養生による加熱を除く。)して、セメント質硬化体を得る高温加熱工程を含むものである。
本工程は、セメント組成物を型枠内に打設して、未硬化の成形体を得る工程である。
打設を行う前に、セメント組成物を混練する方法としては、特に限定されるものではない。また、混練に用いる装置も特に限定されるものではなく、オムニミキサ、パン型ミキサ、二軸練りミキサ、傾胴ミキサ等の慣用のミキサを使用することができる。さらに、打設(成形)方法も特に限定されるものではない。
なお、本工程における未硬化の成形体は、セメント組成物中の気泡を低減又は除去したセメント組成物からなるものであってもよい。セメント組成物中の気泡を低減又は除去することで、セメント質硬化体の強度(圧縮強度及び曲げ強度)や耐衝撃性をより高くすることができる。
セメント組成物中の気泡を低減又は除去する方法としては、(1)セメント組成物の混練を減圧下で行う方法、(2)混練後のセメント組成物を、型枠内に打設する前に減圧して脱泡させる方法、(3)セメント組成物を型枠内に打設した後、減圧して脱泡させる方法等が挙げられる。
本工程は、未硬化の成形体を、10~40℃(好ましくは15~30℃)で24時間以上(好ましくは24~72時間、より好ましくは24~48時間)、封緘養生または気中養生した後、型枠から脱型し、硬化した成形体を得る工程である。
養生温度が10℃以上であれば、養生時間をより短くすることができる。養生温度が40℃以下であれば、セメント質硬化体の強度(圧縮強度及び曲げ強度)や耐衝撃性をより高くすることができる。
養生時間が24時間以上であれば、脱型の際に、硬化した成形体に欠けや割れ等の欠陥が生じにくくなる。
また、本工程において、硬化した成形体が、好ましくは20~100N/mm2、より好ましくは30~80N/mm2の圧縮強度を発現した時に、硬化した成形体を型枠から脱型することが好ましい。該圧縮強度が20N/mm2以上であれば、脱型の際に、硬化した成形体に欠けや割れ等の欠陥が生じにくくなる。該圧縮強度が100N/mm2以下であれば、後述する吸水工程において、少ない労力で、硬化した成形体に吸水させることができる。
本工程は、前工程で得られた硬化した成形体について、70℃以上100℃未満(好ましくは75~95℃、より好ましくは80~92℃)で1時間以上の蒸気養生もしくは温水養生と、100~200℃(好ましくは160~190℃)で1時間以上のオートクレーブ養生のいずれか一方または両方を行い、加熱養生後の硬化体を得る工程である。
本工程において、蒸気養生または温水養生のみを行う場合、その養生時間は、好ましくは12時間以上、より好ましくは24~96時間、特に好ましくは36~72時間である。オートクレーブ養生のみを行う場合、その養生時間は、好ましくは2時間以上、より好ましくは3~60時間、特に好ましくは4~48時間である。蒸気養生もしくは温水養生とオートクレーブ養生の両方を行う場合(例えば、蒸気養生もしくは温水養生を行った後、さらにオートクレーブ養生を行う場合)、蒸気養生もしくは温水養生における養生時間は、好ましくは1~72時間、より好ましくは2~48時間であり、オートクレーブ養生における養生時間は、好ましくは1~24時間、より好ましくは2~18時間である。
本工程において、養生温度が前記範囲内であれば、養生時間を短くすることができ、また、セメント質硬化体の強度(圧縮強度及び曲げ強度)や耐衝撃性をより高くすることができる。
また、本工程において、養生時間が前記範囲内であれば、セメント質硬化体の強度(圧縮強度及び曲げ強度)や耐衝撃性をより高くすることができる。
本工程は、加熱養生後の硬化体を、150~200℃(好ましくは170~190℃)で24時間以上(好ましくは24~72時間、より好ましくは36~48時間)、加熱(ただし、オートクレーブ養生による加熱を除く。)して、セメント組成物を硬化してなるセメント質硬化体を得る工程である。
本工程における加熱は、通常、乾燥雰囲気下(換言すると、水や水蒸気を人為的に供給しない状態)で行われる。
加熱温度が150℃以上であれば、加熱時間をより短くすることができる。加熱温度が200℃以下であれば、セメント質硬化体の強度(圧縮強度及び曲げ強度)や耐衝撃性をより高くすることができる。
加熱時間が24時間以上であれば、セメント質硬化体の強度(圧縮強度及び曲げ強度)や耐衝撃性をより高くすることができる。
常温養生工程と加熱養生工程の間に、常温養生工程において得られた硬化した成形体に吸水させる吸水工程を含んでもよい。
硬化した成形体に吸水させる方法としては、該成形体を水中に浸漬させる方法が挙げられる。また、該成形体を水中に浸漬させる方法において、短時間で吸水量を増やし、セメント質硬化体の強度(圧縮強度及び曲げ強度)や耐衝撃性をより高くする観点から、(1)該成形体を、減圧下の水の中に浸漬させる方法、(2)該成形体を、沸騰している水の中に浸漬させた後、該成形体を浸漬させたまま、水温を40℃以下に低下させる方法、(3)該成形体を、沸騰している水の中に浸漬させた後、該成形体を沸騰している水から取り出して、次いで、40℃以下の水に浸漬させる方法、(4)該成形体を、加圧下の水の中に浸漬させる方法、又は(5)該成形体への水の浸透性を向上させる薬剤を溶解させた水溶液の中に、該成形体を浸漬させる方法、が好ましい。
上記成形体を、沸騰している水の中に浸漬させる方法としては、高温高圧容器や熱温水水槽等の設備を利用する方法が挙げられる。
硬化した成形体を、減圧下の水または沸騰している水の中に浸漬させる時間は、吸水率を高くする観点から、好ましくは3分間以上、より好ましくは8分間以上、特に好ましくは20分間以上である。該時間の上限は、セメント質硬化体の強度(圧縮強度及び曲げ強度)や耐衝撃性をより高くする観点から、好ましくは60分間、より好ましくは45分間である。
これらの吸水率が0.20体積%以上であれば、セメント質硬化体の強度(圧縮強度及び曲げ強度)や耐衝撃性をより高くすることができる。
また、得られたセメント質硬化体は、大きな曲げ強度を有する。上記セメント質硬化体の「土木学会基準 JSCE-G 552-2010(鋼繊維補強コンクリートの曲げ強度および曲げタフネス試験方法)」に準拠して測定した曲げ強度は、好ましくは45N/mm2以上、より好ましくは48N/mm2以上、さらに好ましくは50N/mm2以上、特に好ましくは53N/mm2以上である。
また、得られたセメント質硬化体は、耐衝撃性に極めて優れている。
また、本発明のセメント組成物が有機繊維を含む場合、該セメント組成物が硬化してなるセメント質硬化体は、耐火性に優れている。
さらに、本発明のセメント組成物が硬化してなるセメント質硬化体は、寸法安定性に優れている。「JIS A 1129-2:2010(モルタル及びコンクリートの長さ変化測定方法-第2部:コンタクトゲージ方法)」に準拠して測定した、40×40×160mmの供試体を6カ月間保存した場合における上記セメント質硬化体の収縮ひずみは、好ましくは10×10-6以下、より好ましくは8×10-6以下、特に好ましくは6×10-6以下である。
また、本発明のセメント組成物が有機繊維を含む場合、該セメント組成物が硬化してなるセメント質硬化体は、耐火性にも優れるため、火薬類あるいはガス等による爆発事故等によって発生した飛来物や高温から人や設備等を保護するための防爆パネルとして好適に使用できる。
[使用材料]
(1)セメント:低熱ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)
(2)シリカフューム:BET比表面積20m2/g
(3)無機粉末:珪石粉末、50%体積累積粒径2μm、最大粒径12μm、95%体積累積粒径5.8μm
(4)骨材A(細骨材):珪砂(最大粒径1.0mm、0.6mm以下の粒径のもの:98質量%、0.3mm以下の粒径のもの:45質量%、0.15mm以下の粒径のもの:3質量%)
(5)ポリカルボン酸系高性能減水剤:固形分量27.4質量%、フローリック社製、商品名「フローリックSF500U」
(6)消泡剤:BASFジャパン社製、商品名「マスターエア404」
(7)水:水道水
(8)金属繊維:鋼繊維(直径:0.2mm、長さ:15mm)
(9)有機繊維:ポリプロピレン繊維(直径:0.014mm、長さ:6mm、アスペクト比:429)
(10)骨材B(粗骨材):硬質砂岩砕石1005(粒径:5~10mm)
セメント、シリカフューム及び無機粉末を、粉体原料(セメント、シリカフューム及び無機粉末)の合計量100体積%中、セメント等の各割合が表1に示す割合となるように混合した。得られた混合物と、セメント組成物中の骨材Aの割合が表1に示す割合となる量の骨材Aを、オムニミキサに投入して、15秒間空練りを行った。
次いで、水、ポリカルボン酸系高性能減水剤、及び消泡剤を、表1に示す量でオムニミキサに投入して、2分間混練した。
混練後、オムニミキサ内の側壁に付着した混練物を掻き落とし、さらに4分間混練を行った。
その後、セメント組成物中の金属繊維の割合が表1に示す割合となる量の金属繊維を、オムニミキサに投入して、さらに2分間混練を行った。
混練後のセメント組成物のフロー値を、「JIS R 5201(セメントの物理試験方法)11.フロー試験」に記載される方法において、15回の落下運動を行わないで測定した。なお、本明細書中、該フロー値を「0打ちフロー値」という。
この成形体を、減圧したデシケーター内で、30分間水に浸漬した(表2中、「減圧下」と示す。)。なお、減圧は、アズワン社製の「アスピレーター(AS-01)」を使用して行った。浸漬前後の成形体の質量を測定し、得られた測定値から、吸水率を算出した。
浸漬後、この成形体を90℃で48時間蒸気養生を行い、次いで、20℃まで降温した後、180℃で48時間加熱を行った。
加熱後の成形体(セメント質硬化体)の圧縮強度を、「JIS A 1108(コンクリートの圧縮強度試験方法)」に準じて測定した。
また、加熱後の成形体(セメント質硬化体)の曲げ強度を、「土木学会規準 JSCE-G 552-2010(鋼繊維補強コンクリートの曲げ強度および曲げタフネス試験方法)」に準じて測定した。
図2に示すように、平板供試体11の中央部に、鋼製重錘12(質量20kg、先端直径200mm)を、1回目が10cm、2回目が20cm、3回目が30cmというように、回数が増えるごとに落下高さを10cmずつ高くして自由落下させること(例えば、五回目の自由落下は、50cmの高さから行う。)で、繰返し載荷を加え、何回目の落下で平板供試体11が破断するのか、その回数を測定した。
得られた回数を用いて、セメント質硬化体の耐衝撃性を評価した。該回数が多いほど耐衝撃性に優れていることを意味する。
0打ちフロー値、吸水率、圧縮強度、曲げ強度、および耐衝撃性の評価(回数)を表2に示す。
また、後述の実施例および比較例における0打ちフロー値等も表2に示す。
ポリカルボン酸系高性能減水剤の配合量を0.93質量部、金属繊維の配合割合を3.5体積%に変更した以外は、実施例1と同様にして、セメント組成物及びセメント質硬化体を得た。なお、脱型時の圧縮強度は43N/mm2であった。
また、実施例1における加熱後の成形体(セメント質硬化体)と同様にして、40×40×160mmの供試体を製造し、「JIS A 1129-2:2010 モルタル及びコンクリートの長さ変化測定方法-第2部:コンタクトゲージ方法」に準拠して、6か月保存した場合における収縮ひずみを測定したところ、収縮ひずみは4×10-6であった。
さらに、上記加熱後の成形体(セメント質硬化体)に対して、「JIS A 1148(コンクリートの凍結溶解試験方法)」に準拠して測定した値を用いて、「ASTM C666 75」の耐久性指数(300サイクル)を算出したところ、耐久性指数は100であった。
なお、耐久性指数は、最大値が100であり、最大値に近いほど凍結融解抵抗性に優れていることを示す。
[実施例3]
ポリカルボン酸系高性能減水剤の配合量を0.96質量部、金属繊維の配合割合を4.0体積%に変更した以外は、実施例1と同様にして、セメント組成物及びセメント質硬化体を得た。なお、脱型時の圧縮強度は44N/mm2であった。
ポリカルボン酸系高性能減水剤の配合量を0.93質量部、金属繊維の配合割合を3.1体積%に変更し、かつ、セメント組成物中の有機繊維の割合が表1に示す割合となる量の有機繊維を、金属繊維と共にオムニミキサに投入する以外は実施例1と同様にして、セメント組成物及びセメント質硬化体を得た。なお、脱型時の圧縮強度は43N/mm2であった。
また、加熱後の成形体(セメント質硬化体)について、耐火炉を用いて加熱を行い、60分間加熱した場合における耐火性及び180分間加熱した場合における耐火性を評価した。加熱は、「ISO834」に定められた加熱曲線に準拠して、所定の時間(60分間または180分間)行い、加熱後、自然冷却した。なお、上記加熱における最高温度は、60分間加熱した場合、900℃であり、180分間加熱した場合、1,100℃であった。
冷却後の成形体(セメント質硬化体)について、爆裂の有無、質量減少率及び残存圧縮強度を用いて、特に爆裂の有無を重視して耐火性を評価した。なお、爆裂が少なく、質量減少率が小さくかつ残存圧縮強度が大きいほど耐火性に優れている。結果を表2に示す。
なお、表2中、「◎」は、耐火性に極めて優れている(冷却後の成形体のひび割れ幅は1mm未満)ことを表し、「○」は、耐火性に優れている(冷却後の成形体のひび割れ幅は1mm以上、10mm未満)ことを表し、「×」は耐火性に劣っている(冷却後の成形体のひび割れ幅は10mm以上であり、かつ、剥落がある)ことを示す。
ポリカルボン酸系高性能減水剤の配合量を0.95質量部、金属繊維の配合割合を3.5体積%に変更した以外は、実施例4と同様にして、セメント組成物及びセメント質硬化体を得た。なお、脱型時の圧縮強度は43N/mm2であった。
また、実施例2と同様にして、収縮ひずみの測定、および、耐久性指数の算出を行った。その結果、収縮ひずみは3×10-6であり、耐久性指数は100であった。
[実施例6]
脱型後の成形体を、減圧したデシケーター内で水に浸漬する代わりに、沸騰水に浸漬する(表2中、「沸騰水」と示す。)以外は、実施例5と同様にして、セメント組成物及びセメント質硬化体を得た。なお、脱型時の圧縮強度は43N/mm2であった。
また、実施例4と同様にして、耐火性の評価を行った。
粉体原料100体積%中、シリカフュームおよび無機粉末の配合割合を20体積%、ポリカルボン酸系高性能減水剤の配合量を0.94質量部、金属繊維の配合割合を3.5体積%に変更する以外は、実施例6と同様にして、セメント組成物及びセメント質硬化体を得た。なお、脱型時の圧縮強度は47N/mm2であった。
また、実施例2と同様にして、収縮ひずみの測定、および、耐久性指数の算出を行った。その結果、収縮ひずみは4×10-6であり、耐久性指数は100であった。
さらに、実施例4と同様にして、耐火性の評価を行った。
[実施例8]
ポリカルボン酸系高性能減水剤の配合量を0.86質量部、骨材Aの配合量を28.5体積%に変更し、セメント組成物中の骨材Bの割合が7.0体積%となる量の骨材Bを使用して、各材料(粉体原料、骨材A、水、ポリカルボン酸系高性能減水剤、金属繊維、有機繊維及び消泡剤)を混練した後、さらに骨材Bをオムニミキサに投入して、1分間混練した以外は実施例7と同様にして、セメント組成物及びセメント質硬化体を得た。なお、脱型時の圧縮強度は35N/mm2であった。
また、実施例4と同様にして、耐火性の評価を行った。
ポリカルボン酸系高性能減水剤の配合量を0.76質量部、金属繊維の配合割合を2.0体積%に変更した以外は、実施例1と同様にして、セメント組成物及びセメント質硬化体を得た。なお、脱型時の圧縮強度は45N/mm2であった。
[比較例2]
ポリカルボン酸系高性能減水剤の配合量を0.83質量部、金属繊維の配合割合を2.0体積%に変更した以外は、実施例4と同様にして、セメント組成物及びセメント質硬化体を得た。なお、脱型時の圧縮強度は44N/mm2であった。
また、実施例4と同様にして、耐火性の評価を行った。
[比較例3]
ポリカルボン酸系高性能減水剤の配合量を1.10質量部、金属繊維の配合割合を5.0体積%に変更した以外は、実施例1と同様にして、セメント組成物及びセメント質硬化体を得た。
実施例1と同様にして、セメント組成物の0打ちフロー値の測定を行った。
また、得られたセメント組成物は、流動性および作業性の悪いものであったため、成形をすることができなかった。
また、実施例1~3におけるセメント質硬化体(金属繊維の配合割合:3.1~4.0体積%)の曲げ強度は60N/mm2以上であり、比較例1におけるセメント質硬化体(金属繊維の配合割合:2.0体積%)の曲げ強度(41N/mm2)と比較して、非常に大きいことがわかる。
また、実施例1~3におけるセメント質硬化体の耐衝撃性(8~9回)は、比較例1におけるセメント質硬化体の耐衝撃性(6回)よりも優れていることがわかる。
また、実施例8におけるセメント質硬化体(骨材B(粗骨材)を含むもの)の圧縮強度は、315N/mm2であり、大きいことがわかる。
また、実施例4~7におけるセメント質硬化体(金属繊維の配合割合:3.1~3.5体積%)の曲げ強度は60N/mm2以上であり、比較例2におけるセメント質硬化体(金属繊維の配合割合:2.0体積%)の曲げ強度(41N/mm2)と比較して、非常に大きいことがわかる。
また、実施例4~8におけるセメント質硬化体の耐衝撃性(8~9回)は、比較例2におけるセメント質硬化体の耐衝撃性(6回)よりも優れていることがわかる。
また、実施例4、6~8におけるセメント質硬化体は、耐火性に優れていることがわかる。
また、実施例2、5、7におけるセメント質硬化体の収縮ひずみは3×10-6~4×10-6と小さいものであり、耐久性指数が100であることがわかる。
これらの結果から、本発明のセメント組成物を硬化してなるセメント質硬化体は、寸法安定性及び凍結融解抵抗性に優れていることがわかる。
12 鋼製重錘
Claims (6)
- セメント、BET比表面積が15~25m2/gのシリカフューム、50%体積累積粒径が0.8~5μmの無機粉末、最大粒径が1.2mm以下の骨材A、直径が0.01~1.0mm、長さが2~30mm、及び、アスペクト比(繊維長/繊維直径)が20~200の金属繊維、高性能減水剤、消泡剤及び水を含むセメント組成物の硬化体であって、
上記セメント、上記シリカフューム及び上記無機粉末の合計量100体積%中、上記セメントの割合が55~65体積%、上記シリカフュームの割合が5~25体積%、上記無機粉末の割合が15~35体積%であり、
上記セメント組成物中、上記金属繊維の割合が、3.3~3.7体積%であり、かつ、上記骨材Aの割合が、20~40体積%であり、
上記無機粉末が、石英粉末、火山灰、フライアッシュ、スラグ粉末、石灰石粉末、長石類粉末、ムライト類粉末、アルミナ粉末、シリカゾル、炭化物粉末、及び窒化物粉末の中から選ばれる1種以上であり、
上記セメント組成物は、最大粒径が1.2mmを超える骨材を含まず、かつ、硬化後に、上記セメント組成物からなるφ50×100mmの円柱形の成形体を用いて測定した圧縮強度及び曲げ強度の値として、「JIS A 1108(コンクリートの圧縮強度試験方法)」に準じて測定した圧縮強度が300N/mm 2 以上でかつ、「土木学会規準 JSCE-G 552-2010(鋼繊維補強コンクリートの曲げ強度および曲げタフネス試験方法)」に準じて測定した曲げ強度が50N/mm 2 以上であることを特徴とするセメント質硬化体。 - セメント、BET比表面積が15~25m 2 /gのシリカフューム、50%体積累積粒径が0.8~5μmの無機粉末、最大粒径が1.2mm以下の骨材A、直径が0.01~1.0mm、長さが2~30mm、及び、アスペクト比(繊維長/繊維直径)が20~200の金属繊維、高性能減水剤、消泡剤及び水を含むセメント組成物の硬化体であって、
上記セメント、上記シリカフューム及び上記無機粉末の合計量100体積%中、上記セメントの割合が55~65体積%、上記シリカフュームの割合が5~25体積%、上記無機粉末の割合が15~35体積%であり、
上記セメント組成物中、上記金属繊維の割合が、3.3~3.7体積%であり、かつ、上記骨材Aの割合が、20~40体積%であり、
上記無機粉末が、石英粉末、火山灰、フライアッシュ、スラグ粉末、石灰石粉末、長石類粉末、ムライト類粉末、アルミナ粉末、シリカゾル、炭化物粉末、及び窒化物粉末の中から選ばれる1種以上であり、
上記セメント組成物は、最大粒径が1.2mmを超え、13mm以下の骨材Bを含み、かつ、硬化後に、上記セメント組成物からなるφ50×100mmの円柱形の成形体を用いて測定した圧縮強度及び曲げ強度の値として、「JIS A 1108(コンクリートの圧縮強度試験方法)」に準じて測定した圧縮強度が270N/mm 2 以上でかつ、「土木学会規準 JSCE-G 552-2010(鋼繊維補強コンクリートの曲げ強度および曲げタフネス試験方法)」に準じて測定した曲げ強度が50N/mm 2 以上であることを特徴とするセメント質硬化体。 - 上記セメント組成物が、直径が0.010~0.020mm、長さが4~8mm、及びアスペクト比(繊維長/繊維直径)が300~470の有機繊維を含み、上記セメント組成物中の上記有機繊維の割合が、0.01~0.5体積%である請求項1又は2に記載のセメント質硬化体。
- 上記消泡剤の配合量が、上記セメント、上記シリカフューム及び上記無機粉末の合計量100質量部に対して、0.04~0.05質量部である請求項1~3のいずれか1項に記載のセメント質硬化体。
- 請求項1~4のいずれか1項に記載のセメント質硬化体を製造するための方法であって、
上記セメント組成物を型枠内に打設して、未硬化の成形体を得る成形工程と、
上記未硬化の成形体を、10~40℃で24時間以上、封緘養生または気中養生した後、上記型枠から脱型し、硬化した成形体を得る常温養生工程と、
上記硬化した成形体について、70℃以上100℃未満で1時間以上の、蒸気養生もしくは温水養生と、100~200℃で1時間以上のオートクレーブ養生のいずれか一方または両方を行い、加熱養生後の硬化体を得る加熱養生工程と、
上記加熱養生後の硬化体を、150~200℃で24時間以上、加熱(ただし、オートクレーブ養生による加熱を除く。)して、上記セメント質硬化体を得る高温加熱工程、を含むことを特徴とするセメント質硬化体の製造方法。 - 上記常温養生工程と上記加熱養生工程の間に、上記硬化した成形体に吸水させる吸水工程を含む請求項5に記載のセメント質硬化体の製造方法。
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