JP7017811B2 - ウイルス様粒子及びその使用 - Google Patents

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Description

特許法第30条第2項適用 ・Watanabe S.,et al.,「Development of immunogenic chimeric virus-like particles based on bovine papillomavirus type 6」Vaccine,Volume 38,Issue 49,Pages 7774-7779 Elsevier BVに掲載
本発明は、ウイルス様粒子及びその使用に関する。より具体的には、本発明は、ウイルス様粒子、核酸、ウイルス様粒子の製造方法及び免疫方法に関する。
パピローマウイルスは、ヒトにおいてはヒトパピローマウイルス(HPV)感染症の原因となるウイルスである。ヒトパピローマウイルスは、子宮頸部に感染すると子宮頸癌に進行する場合があることが知られている。また、ウシにおいてはウシパピローマウイルスが牛乳頭腫症の原因ウイルスであることが知られている。牛乳頭腫症は体表皮膚や粘膜の様々な場所に発生する腫瘍であり、その多くは良性で自然治癒するが、まれに持続化や悪性化の経過をたどる。乳頭部皮膚に多数の腫瘍が形成されると、乳頭が大きく変形し搾乳困難や搾乳不可能になることがあり、それが乳房炎の誘発要因ともなる。乳頭部皮膚に病変を形成する牛乳頭腫症の原因として最も多く検出されるのはウシパピローマウイルス6型である。また、牛乳頭腫症が集団発生し、感染の拡大や長期にわたる病変の持続等から、牛の市場価格低下や乳量低下等の経済的損失をひきおこす場合がある。
発明者らは、以前に、ウシパピローマウイルス6型(BPV6)の主要外殻タンパク質(L1タンパク質)をバキュロウイルス発現系で組換えタンパク質として発現させると、ウシパピローマウイルスと酷似した外見のウイルス様粒子(BPV6-VLP)を形成することを明らかにした。さらに、BPV6-VLPをマウスに投与すると、BPV6-VLPが抗原となり、BPV6に対する抗体が誘導されることを明らかにした(非特許文献1を参照。)。発明者らはまた、BPV6-VLPをウシに投与した場合においても、BPV6に対する抗体が誘導されることを明らかにしている。
Watanabe S., et al., Production of highly immunogenic virus-like particles of bovine papillomavirus type 6 in silkworm pupae, Vaccine, 35, 5878-5882, 2017.
本発明は、パピローマウイルス由来のウイルス様粒子に外来タンパク質を導入した、キメラウイルス様粒子を作製する技術を提供することを目的とする。
本発明は以下の態様を含む。
[1]パピローマウイルス由来L1タンパク質と100~300アミノ酸の外来タンパク質との融合タンパク質を含むウイルス様粒子。
[2]前記融合タンパク質が、前記L1タンパク質のDEループの内部に前記外来タンパク質が連結されたものである、[1]に記載のウイルス様粒子。
[3]前記パピローマウイルスがウシパピローマウイルス6型である、[1]又は[2]に記載のウイルス様粒子。
[4]前記融合タンパク質が、前記L1タンパク質の第136番目と第137番目のアミノ酸の間に前記外来タンパク質が連結されたものである、[3]に記載のウイルス様粒子。
[5]前記外来タンパク質が病原体に由来するタンパク質である、[1]~[4]のいずれかに記載のウイルス様粒子。
[6][1]~[5]のいずれかに記載のウイルス様粒子をコードする核酸。
[7][6]に記載の核酸を細胞中で発現させる工程を含む、[1]~[5]のいずれかに記載のウイルス様粒子の製造方法。
[8][1]~[5]のいずれかに記載のウイルス様粒子を、非ヒト動物に投与する工程を含む、免疫方法。
本発明によれば、パピローマウイルス由来のウイルス様粒子に外来タンパク質を導入した、キメラウイルス様粒子を作製する技術を提供することができる。
ウシパピローマウイルス6型由来L1タンパク質のアミノ酸配列を示す図である。 実験例2において、融合タンパク質を密度勾配遠心法により精製した結果を示す写真である。 (a)は、実験例3において撮影した、融合タンパク質の電子顕微鏡写真である。(b)は、実験例3において撮影した、ウシパピローマウイルス6型由来L1タンパク質の電子顕微鏡写真である。 実験例4におけるウエスタンブロッティングの結果を示す写真である。 (a)は、実験例5において撮影した、融合タンパク質遺伝子を有する組換えバキュロウイルスを感染させたSf21AE細胞の明視野観察顕微鏡写真の一例である。(b)は、(a)と同一視野を蛍光顕微鏡で観察し、GFPの蛍光を撮影した蛍光顕微鏡写真である。 (a)は、実験例6におけるELISAの結果を示すグラフである。(b)は、実験例6におけるウエスタンブロッティングの結果を示す写真である。 実験例7におけるELISAの結果を示すグラフである。
[ウイルス様粒子]
1実施形態において、本発明は、パピローマウイルス由来L1タンパク質と100~300アミノ酸の外来タンパク質との融合タンパク質を含むウイルス様粒子を提供する。
実施例において後述するように、本実施形態のウイルス様粒子はL1タンパク質と外来タンパク質との融合タンパク質であるにもかかわらず、ウイルス様粒子の形態を有している。すなわち、本実施形態のウイルス様粒子によれば、外来タンパク質の機能(立体構造)を保持した状態で、外来タンパク質をパピローマウイルス様粒子上に発現させることができる。
また、本実施形態のウイルス様粒子をヒト又は非ヒト動物に投与することにより、パピローマウイルス及び外来タンパク質に対する抗体の産生を効率よく誘導することができる。
したがって、外来タンパク質として病原体に由来するタンパク質を使用した場合には、本実施形態のウイルス様粒子をパピローマウイルスと当該病原体の双方に対する免疫を誘導するワクチンとして利用することができる。
病原体に由来する外来タンパク質としては、例えば、牛ウイルス性下痢ウイルスE2タンパク質、豚コレラウイルスE2タンパク質、伝染性ファブリキウス嚢病ウイルスVP2タンパク質、鶏貧血ウイルスVP1タンパク質、ロタウイルスVPタンパク質等が挙げられるがこれらに限定されない。
例えば、外来タンパク質が由来する病原体の宿主と、L1タンパク質が由来するパピローマウイルスの宿主が同一の種である場合、本実施形態のウイルス様粒子は、L1タンパク質が由来するパピローマウイルスの宿主に対する多価ワクチンとして用いることができる。
すなわち、1種のワクチンで、パピローマウイルスに由来する疾患及び外来タンパク質が由来する病原体に由来する疾患の複数の疾患に対応するワクチンとして利用することができる。
また、L1タンパク質が由来するパピローマウイルスの宿主と外来タンパク質が由来する病原体の宿主が異なる場合、本実施形態のウイルス様粒子は、外来タンパク質が由来する病原体の宿主に対する識別可能ワクチンとして利用することができる。識別可能ワクチンとは、ワクチン投与を行った動物と、天然の病原体に感染した動物とを識別することができるワクチンである。
例えば、ニワトリやブタの血液中に、ウシパピローマウイルス6型に対する抗体が確認された場合、本実施形態のウイルス様粒子が投与されたことを確認することができる。そして、これらのニワトリやブタが保有する外来タンパク質に対する抗体は、本実施形態のウイルス様粒子に組み込まれていた外来タンパク質に由来することを示す。
また、本実施形態のウイルス様粒子において、融合タンパク質は、パピローマウイルス由来L1タンパク質のDEループの内部に外来タンパク質が連結されたものであることが好ましい。実施例において後述するように、パピローマウイルス由来L1タンパク質のDEループの内部に外来タンパク質が連結された融合タンパク質は、外来タンパク質の立体構造を保持した状態で、外来タンパク質をウイルス様粒子上に発現させることができる。
配列番号1に、ウシパピローマウイルス6型由来L1タンパク質のアミノ酸配列を示す。配列番号1に示すアミノ酸配列において、第51番目~第75番目のアミノ酸は、L1タンパク質の立体構造におけるBCループを形成する。また、第109番目~152番目のアミノ酸は、L1タンパク質の立体構造におけるDEループを形成する。また、第169番目~第186番目のアミノ酸は、L1タンパク質の立体構造におけるEFループを形成する。また、第259番目~第288番目のアミノ酸は、L1タンパク質の立体構造におけるFGループを形成する。また、第348番目~第363番目のアミノ酸は、L1タンパク質の立体構造におけるHIループを形成する。
ウシパピローマウイルス6型以外のパピローマウイルスに由来するL1タンパク質も、ウシパピローマウイルス6型のL1タンパク質に類似した立体構造を有している。このため、例えば、ClustalW等のソフトウエアを用いて、ウシパピローマウイルス6型由来L1タンパク質のアミノ酸配列と、対象となるL1タンパク質のアミノ酸配列とをアラインメントすることにより、アミノ酸配列上のDEループの位置を特定することができる。
本実施形態のウイルス様粒子において、L1タンパク質は、ウシパピローマウイルス6型由来であることが好ましい。また、L1タンパク質がウシパピローマウイルス6型由来である場合、融合タンパク質は、L1タンパク質の第136番目と第137番目のアミノ酸の間、又は、第136番目と第137番目のアミノ酸の近傍の、立体構造上分子外部に突出した部位に外来タンパク質が連結されたものであることが好ましい。
また、L1タンパク質がウシパピローマウイルス6型以外のパピローマウイルスに由来するL1タンパク質である場合、融合タンパク質は、ウシパピローマウイルス6型由来L1タンパク質の第136番目と第137番目のアミノ酸に相当するアミノ酸の間、又は、ウシパピローマウイルス6型由来L1タンパク質の第136番目と第137番目のアミノ酸に相当するアミノ酸の近傍の、立体構造上分子外部に突出した部位に外来タンパク質が連結されたものであることが好ましい。
ウシパピローマウイルス6型由来L1タンパク質の第136番目と第137番目のアミノ酸に相当するアミノ酸は、上述したように、例えば、ClustalW等のソフトウエアを用いて、ウシパピローマウイルス6型由来L1タンパク質のアミノ酸配列と、対象となるL1タンパク質のアミノ酸配列とをアラインメントすることにより特定することができる。
[核酸]
1実施形態において、本発明は、上述したウイルス様粒子をコードする核酸を提供する。本実施形態の核酸は、上述したパピローマウイルス由来L1タンパク質と外来タンパク質との融合タンパク質をコードする核酸であるということもできる。実施例において後述するように、本実施形態の核酸を発現させることにより、外来タンパク質の立体構造を保持した状態でウイルス様粒子を形成することができる。
上述したように、融合タンパク質は、L1タンパク質のDEループの内部に外来タンパク質が連結されたものであることが好ましい。また、L1タンパク質は、ウシパピローマウイルス6型由来であることが好ましい。また、外来タンパク質は、L1タンパク質の第136番目と第137番目のアミノ酸の間に連結されていることが好ましい。外来タンパク質としては、上述したものと同様であり、病原体に由来するタンパク質であることができる。
本実施形態の核酸は、プラスミドベクター、ウイルスベクター等に保持されていてもよい。
[ウイルス様粒子の製造方法]
1実施形態において、本発明は、上述した核酸を細胞中で発現させる工程を含む、上述したウイルス様粒子の製造方法を提供する。本実施形態の製造方法によれば、外来タンパク質の機能(立体構造)を保持した状態で、外来タンパク質をパピローマウイルス様粒子上に発現させることができる。
細胞としては、特に限定されず、大腸菌等の原核細菌、酵母、昆虫細胞、動物細胞等の真核細胞等を用いることができる。なかでも、昆虫細胞中で発現させることが好ましい。また、昆虫細胞としては、カイコ虫体が好ましく、幼虫、蛹を用いることができる。なかでも、蛹が好ましい。
実施例において後述するように、上述した核酸を細胞中で発現させると、発現した融合タンパク質がウイルス様粒子を形成する。形成されたウイルス様粒子は、密度勾配遠心法、カラムクロマトグラフィー等の通常の方法により精製することができる。
[免疫方法]
1実施形態において、本発明は、上述したウイルス様粒子を、動物に投与する工程を含む、免疫方法を提供する。
上述したように、本実施形態の免疫方法によれば、L1タンパク質が由来するパピローマウイルスの宿主と外来タンパク質が由来する病原体の宿主が同一の種である場合には、1種類のウイルス様粒子を多価ワクチンとして用いて、疾患に対する予防効果を得ることができる。また、上述したように、L1タンパク質が由来するパピローマウイルスの宿主と外来タンパク質が由来する病原体の宿主が異なる種である場合にはワクチン投与を行った動物を識別する識別可能ワクチンとして利用することができる。
本実施形態の免疫方法において、対象はヒトであってもよく、非ヒト動物であってもよいが、非ヒト動物であることが好ましい。
本実施形態の免疫方法において、ウイルス様粒子はワクチン組成物として製剤化されていることが好ましい。ワクチン組成物は、上述したウイルス様粒子と、薬学的に許容される担体とを含む。
ワクチン組成物は、薬学的に許容される担体と混合して、一般的な製薬手法により製剤化することができる。ワクチン組成物は、例えば、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤等の形態で経口的に、あるいは、注射剤、点眼剤、経鼻投与剤等の形態で非経口的に投与することができる。注射剤は、皮内投与、皮下投与、静脈注射等により投与することができる。点眼剤は、点眼により投与することができる。経鼻投与剤は、経鼻的に投与することができる。
薬学的に許容される担体としては、ワクチン組成物の製剤化に一般的に使用されるものを用いることができ、具体的には、アジュバント、賦形剤、乳化剤、安定剤、pH調整剤、溶剤等が挙げられる。
アジュバントとしては、ワクチン製剤のアジュバントとして一般的に使用されるものを特に限定なく使用することができ、例えば、水酸化アルミニウム、ミョウバン、カルボキシビニルポリマー等の沈降性アジュバント、流動パラフィン、不完全型フロイントアジュバント、完全型フロイントアジュバント等の油性アジュバント等が挙げられるがこれらに限定されない。
賦形剤としては、有機系賦形剤、無機系賦形剤等が挙げられる。有機系賦形剤としては、乳糖、白糖等の糖誘導体;トウモロコシデンプン、馬鈴薯デンプン等のデンプン誘導体;結晶セルロース等のセルロース誘導体;アラビアゴム等が挙げられる。無機系賦形剤としては、硫酸カルシウム等の硫酸塩が挙げられる。
乳化剤としては、ベントナイト、ビーガム等のコロイド性粘土;ラウリル硫酸ナトリウム等の陰イオン界面活性剤;塩化ベンザルコニウム等の陽イオン界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル等の非イオン界面活性剤;ステアリン酸ポリグリセリル-10、ジステアリン酸ポリグリセリル-10、トリステアリン酸ポリグリセリル-10、ペンタステアリン酸ポリグリセリル-10等の(ポリ)グリセリル脂肪酸エステル界面活性剤等が挙げられる。
安定剤としては、メチルパラベン、プロピルパラベン等のパラヒドロキシ安息香酸エステル類;クロロブタノール等のアルコール類;フェノール、クレゾール等のフェノール類が挙げられる。
pH調整剤としては、フタル酸、リン酸、クエン酸、コハク酸、酢酸、フマル酸、リンゴ酸、炭酸やそれらのカリウム塩、ナトリウム塩又はアンモニウム塩、水酸化ナトリウム等が挙げられる。
溶剤としては、注射剤、点眼剤、経鼻投与剤等に一般的に使用されるものを特に限定なく使用することができ、例えば、生理食塩水、ブドウ糖、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム等の補助薬を含む等張液等が挙げられるがこれらに限定されない。溶剤は、エタノール等のアルコール;プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等のポリアルコール;ポリソルベート80(商標)、HCO-50等の非イオン性界面活性剤等を含有していてもよい。
また、投与量は、対象の年齢、体重、症状、投与方法等により適宜調整することができ、通常ヒト成人(体重60kg)においては、1回あたり、例えば0.001mg~1000mg、例えば0.001mg~1000mg、例えば0.1mg~10mgの有効成分(ウイルス様粒子)を投与する量が挙げられる。
また、例えばウシ(哺乳牛、哺育牛、育成牛、肥育牛)においては、1回あたり、例えば0.001mg~1000mg、例えば0.001mg~1000mg、例えば0.1mg~10mgの有効成分(ウイルス様粒子)を投与する量が挙げられる。
また、例えばブタ(哺乳豚、離乳豚、育成豚、肥育豚)においては、1回あたり、例えば0.001mg~1000mg、例えば0.001mg~1000mg、例えば0.1mg~10mgの有効成分(ウイルス様粒子)を投与する量が挙げられる。
また、例えばニワトリ(初生雛、幼雛、中雛、大雛、成鶏)においては、1回あたり、例えば0.001mg~1000mg、例えば0.001mg~1000mg、例えば0.1mg~10mgの有効成分(ウイルス様粒子)を投与する量が挙げられる。
ワクチン組成物の対象への投与回数は、1回であってもよいが、効率的に免疫を誘導するためには複数回投与することが好ましい。複数回投与する場合の投与間隔は、例えば数日から数か月であってもよい。
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実験例1]
(L1タンパク質への外来タンパク質挿入部位の選定)
ウシパピローマウイルス6型由来L1タンパク質の立体構造を予測して、外来タンパク質を挿入してもウイルス様粒子の形状を維持できる可能性がある部位を選択した。
上述したように、ウシパピローマウイルス6型由来L1タンパク質(配列番号1)において、第51番目~第75番目のアミノ酸はBCループを形成する。また、第109番目~152番目のアミノ酸はDEループを形成する。また、第169番目~第186番目のアミノ酸はEFループを形成する。また、第259番目~第288番目のアミノ酸はFGループを形成する。また、第348番目~第363番目のアミノ酸はHIループを形成する。
これらのループのうち、下記表1に示す、No.1~No.6の位置を外来タンパク質挿入部位として選定した。図1に、ウシパピローマウイルス6型由来L1タンパク質(配列番号1)のアミノ酸配列、各ループの位置及びNo.1~No.6の各位置を示す。
Figure 0007017811000001
[実験例2]
(融合タンパク質の作製)
実験例1で選定した、No.1~No.6の各位置のそれぞれに、終止コドンを欠損させたEGFPタンパク質を挿入した融合タンパク質をコードする遺伝子断片を作製し、それぞれバキュロウイルストランスファーベクターであるpAcYM1にクローニングした。以下、各融合タンパク質をそれぞれ融合タンパク質No.1~No.6という。
配列番号2に、ウシパピローマウイルス6型由来L1タンパク質(配列番号1)をコードする遺伝子の塩基配列を示す。また、配列番号3に、終始コドンを欠損させたEGFPタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列を示す。
続いて、上述した融合タンパク質No.1~No.6の各トランスファーベクターと、核多角体病ウイルス(AcNPV)のゲノムDNAを、昆虫細胞株であるSf21AE細胞に共移入し、融合タンパク質No.1~No.6を発現する遺伝子組換えバキュロウイルスを作製した。
続いて、作成した各遺伝子組換えバキュロウイルスをSf21AE細胞に感染多重度(MOI)1で感染させ、3~4日間培養することにより各融合タンパク質を発現させた。培養した細胞は使用するまで-80℃で保存した。
続いて、超音波破砕により融合タンパク質を発現した細胞を破砕し、不溶性画分を除いた。続いて、塩化セシウム密度勾配遠心法により各融合タンパク質を濃縮・精製した。なお、密度勾配遠心法は、ウイルスの濃縮・精製に広く用いられる方法である。その結果、融合タンパク質No.2のみが、EGFPの蛍光を有するバンドとして濃縮・精製された。図2は、融合タンパク質No.2を密度勾配遠心法により精製した結果を示す写真である。
[実験例3]
(融合タンパク質の透過型電子顕微鏡観察)
実験例2で濃縮・精製した、融合タンパク質No.2を透過型電子顕微鏡で観察した。また、比較のために、ウシパピローマウイルス6型由来L1タンパク質をバキュロウイルス発現系で発現させて得られたウイルス様粒子(BPV6-VLP)も同様に透過型電子顕微鏡で観察した。
図3(a)は、融合タンパク質No.2の電子顕微鏡写真である。また、図3(b)はBPV6-VLPの電子顕微鏡写真である。図3(a)及び(b)中、スケールバーは200nmを示す。
その結果、融合タンパク質No.2が、BPV6-VLPと同様のウイルス様粒子を形成することが明らかとなった。
[実験例4]
(融合タンパク質のウエスタンブロッティングによる解析)
実験例2で発現させた融合タンパク質No.1~No.6を、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)に供した。融合タンパク質No.4については融合タンパク質の発現が認められなかった。続いて、SDS-PAGE後のゲルをPVDF膜に転写し、抗GFP抗体(カタログ番号「632593」、クロンテック社)で染色した。
図4はウエスタンブロッティングの結果を示す写真である。その結果、融合タンパク質として発現したNo.1~No.3、No.5、No.6のいずれも抗GFP抗体で染色されたことが明らかとなった。この結果は、上記表1のNo.1~No.3、No.5、No.6のいずれの位置に外来タンパク質を挿入しても、融合タンパク質として発現することを示す。
[実験例5]
(融合タンパク質の蛍光検出)
実験例2で作製した、融合タンパク質No.1~No.3、No.5、No.6を発現する遺伝子組換えバキュロウイルスを、昆虫細胞株であるSf21AE細胞にそれぞれ感染させた。続いて、72時間インキュベートした後、蛍光顕微鏡で観察した。
図5(a)は、遺伝子組換えバキュロウイルスを感染させたSf21AE細胞の代表的な明視野観察顕微鏡写真である。図5(b)は、図5(a)と同一視野を蛍光顕微鏡で観察し、GFPの蛍光を撮影した蛍光顕微鏡写真である。
その結果、融合タンパク質No.1~No.3、No.5、No.6を発現させたウイルス感染細胞のいずれにおいてもEGFP遺伝子由来の緑色蛍光が認められた。
実験例3~5の結果から、上記表1のNo.1~No.3、No.5、No.6のいずれの位置に外来タンパク質を挿入しても、融合タンパク質として発現するが、上記表1のNo.2の位置に外来タンパク質を挿入した場合のみウイルス様粒子を形成することができることが明らかとなった。また、上記表1のNo.2の位置であれば、少なくとも239アミノ酸もの大きさを有するEGFPタンパク質を挿入してもウイルス様粒子を形成することができることが明らかとなった。
[実験例6]
(マウスを用いた抗体誘導効果の検討)
実験例2で濃縮・精製した、融合タンパク質No.2をマウスに免疫し、ウシパピローマウイルス6型に対する抗体及びEGFPタンパク質に対する抗体の双方を誘導できるか否かを検討した。
実験例2で濃縮・精製した、融合タンパク質No.2 20μgを、アジュバントを含まないリン酸緩衝生理食塩水(PBS(+))50μLに懸濁し、6週齢のBALB/cマウス(メス、日本エスエルシー社)に筋肉内注射した(n=5)。続いて、初回免疫から2週間後に同様の方法により追加免疫を行った。また、対照(コントロール)として、50μLのPBS(+)のみを筋肉内注射した群を用意した(n=3)。
初回免疫から7週間の間、各群のマウスから毎週血液を採取し、遠心分離により血清を回収し、-80℃で保存した。

ウシパピローマウイルス6型由来L1タンパク質を、バキュロウイルス発現系で発現させて調製したウイルス様粒子(BPV6-VLP)を、25μg/mLの濃度でコートしたイムノプレートを準備した。続いて、このプレートを用いたELISAにより、各群のマウスの血清中の、ウシパピローマウイルス6型に対するIgG抗体の存在量を測定した。
また、マウス血清中のEGFPタンパク質に対するIgG抗体の存在を、精製されたEGFPタンパク質を抗原に用いたウエスタンブロッティングにより検出した。ウエスタンブロッティングでは、1次抗体として、初回免疫から7週間後に採取したマウス血清を1:100(100倍容量)に希釈したものを使用した。また、比較のために、1次抗体として、抗EGFP抗体(クロンテック社)を用いたウエスタンブロッティングも行った。
図6(a)はELISAの結果を示すグラフである。また、図6(b)はウエスタンブロッティングの結果を示す写真である。図6(a)及び(b)中、「キメラウイルス様粒子」は、融合タンパク質No.2を免疫した結果であることを示す。また、図6(a)中、「*」はP<0.05でコントロールと比較して有意差があることを示し、「**」はP<0.01でコントロールと比較して有意差があることを示す。
その結果、図6(a)に示すように、ウシパピローマウイルス6型に対するIgG抗体の血清中レベルは、初回免疫の1週間後に上昇し、追加免疫の1週間後にピークに達し、その後、初回免疫から7週間後まで維持されたことが明らかとなった。また、抗体力価は初回免疫から3週間後に1:12,800に達し、その後、初回免疫から7週間後まで維持されたことが明らかとなった。これに対し、対照群の血清中には、ウシパピローマウイルス6型に対するIgG抗体は検出されなかった。
また、図6(b)に示すように、融合タンパク質No.2で免疫したマウスの血清を1次抗体に用いたウエスタンブロッティングでは、約27kDaのEGFPのバンドが検出された。
実験に用いた全てのマウスは、健康を維持し、実験中に体重の減少を示さなかった。これらの結果から、融合タンパク質No.2でマウスを免疫することにより、ウシパピローマウイルス6型に対する抗体及びEGFPタンパク質に対する抗体の双方を誘導できることが明らかとなった。
[実験例7]
(ブタを用いた抗体誘導効果の検討)
実験例2で濃縮・精製した、融合タンパク質No.2を、1mg/頭の投与量で、ブタに2週間おきに2回経口投与した。また、対照(コントロール)として、融合タンパク質No.2を投与しないブタも用意した。続いて、2回目の投与から1週間後に各ブタを解剖して各臓器を回収し、各臓器の粘膜中に存在する、ウシパピローマウイルス6型に対するIgA抗体の存在量をELISAにより測定した。
図7は、ELISAの結果を示すグラフである。その結果、図7に示すように、融合タンパク質No.2を投与したブタにおける、ウシパピローマウイルス6型に対するIgA抗体の存在量は、気管、膣、十二指腸~空腸上部のいずれの臓器においても顕著に上昇したことが明らかとなった。
この結果から、融合タンパク質No.2をブタに経口投与することにより、ウシパピローマウイルス6型に対する抗体を誘導できることが明らかとなった。
本発明によれば、パピローマウイルス由来のウイルス様粒子に外来タンパク質を導入した、キメラウイルス様粒子を作製する技術を提供することができる。

Claims (6)

  1. パピローマウイルス由来L1タンパク質と100~300アミノ酸の外来タンパク質との融合タンパク質を含み、
    前記融合タンパク質が、前記L1タンパク質のDEループの内部に前記外来タンパク質が連結されたものであり、
    前記パピローマウイルスがウシパピローマウイルス6型である、
    ウイルス様粒子。
  2. 前記融合タンパク質が、前記L1タンパク質の第136番目と第137番目のアミノ酸の間に前記外来タンパク質が連結されたものである、請求項に記載のウイルス様粒子。
  3. 前記外来タンパク質が病原体に由来するタンパク質である、請求項1又は2に記載のウイルス様粒子。
  4. 請求項1~のいずれか一項に記載のウイルス様粒子をコードする核酸。
  5. 請求項に記載の核酸を細胞中で発現させる工程を含む、請求項1~のいずれか一項に記載のウイルス様粒子の製造方法。
  6. 請求項1~のいずれか一項に記載のウイルス様粒子を、非ヒト動物に投与する工程を含む、免疫方法。
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