以下、本発明の建設機械の実施の形態について図面を用いて説明する。本実施の形態においては、建設機械の一例として油圧ショベルを例に挙げて説明する。
[第1の実施の形態]
まず、本発明の建設機械の第1の実施の形態としての油圧ショベルの構成について図1及び図2を用いて説明する。図1は本発明の建設機械の第1の実施の形態を適用した油圧ショベルを示す斜視図である。図2は本発明の建設機械の第1の実施の形態及びその一部を構成するコントローラの機能ブロックを示す図である。ここでは、運転席に着座したオペレータから見た方向を用いて説明する。
図1において、建設機械としての油圧ショベルは、掘削作業等を行うためのフロント作業装置1と、フロント作業装置1が回動可能に取り付けられた車体とで構成されている。車体は、自走可能な下部走行体2と、下部走行体2上に旋回可能に搭載された上部旋回体3とで構成されている。車体は、下部走行体2の走行動作や上部旋回体3の旋回動作の各動作に伴い変位するものである。
フロント作業装置1は、複数の被駆動部材を垂直方向に回動可能に連結することで構成された多関節型の作業装置である。複数の被駆動部材は、例えば、ブーム6、アーム7、作業具としてのバケット8とで構成されている。ブーム6の基端部は、上部旋回体3の前部に回動可能に支持されている。ブーム6の先端部には、アーム7の基端部が回動可能に支持されている。アーム7の先端部には、バケット8が回動可能に支持されている。ブーム6、アーム7、バケット8はそれぞれ、油圧アクチュエータであるブームシリンダ10、アームシリンダ11、バケットシリンダ12によって駆動される。なお、バケット8は、バケット8と連動して回動するリンク部材13を介して駆動される。
下部走行体2は、例えば、左右にクローラ式の走行装置14(一方側のみ図示)を備えている。走行装置14は、油圧アクチュエータである走行油圧モータ14aによって駆動する。
上部旋回体3は、例えば、油圧アクチュエータである旋回油圧モータ4によって下部走行体2に対して旋回駆動されるように構成されている。上部旋回体3は、オペレータが搭乗する運転室16と、各種機器を収容する機械室17とを備えている。
運転室16には、各油圧アクチュエータ4、10、11、12、14aを操作するための操作装置18a、18b、18cが設けられている。操作装置18a、18bは、例えば、前後左右に傾倒可能な操作レバーを有する電気式の操作レバー装置である。電気式の操作レバー装置18a、18bは、操作レバーの傾倒方向および傾倒量、すなわち操作方向および操作量を電気的に検出する検出装置(図示せず)を有しており、検出した操作方向および操作量に応じた操作信号をコントローラ40(図2参照)へ電気配線を介して出力する。操作レバー装置18a、18bの前後方向の操作および左右方向の操作はそれぞれ、各油圧アクチュエータ4、10、11、12の操作として割り当てられている。すなわち、操作レバー装置18a、18bの各操作は、フロント作業装置1の操作や上部旋回体3の旋回操作などとして割り当てられている。操作装置18cは、前後に傾倒可能な走行レバー及び走行ペダルを有する電気式の操作装置である。操作装置18cは、油圧アクチュエータ14aの操作、すなわち、左右の走行装置14の走行操作として割り当てられている。また、運転室16には、各種情報の表示や入力が可能なモニタ19(図2参照)が設置されている。
なお、操作装置18a、18b、18cは、電気式でなく、油圧式で構成することも可能である。この構成の場合、各操作装置18a、18b、18cの操作方向及び操作量に応じた操作パイロット圧を制御弁ユニット23の各制御弁に対して駆動信号として供給することで、各油圧アクチュエータ4、10、11、12、14aを駆動させるように構成する。
機械室17には、エンジンや電動機などの原動機21や原動機21により駆動される油圧ポンプ装置22などが配置されている。油圧ポンプ装置22から吐出された圧油が油圧アクチュエータ4、10、11、12、14aの各々に供給されることで各油圧アクチュエータ4、10、11、12、14aが駆動する。各油圧アクチュエータ4、10、11、12、14aの駆動は、各油圧アクチュエータ4、10、11、12、14aに対応する制御弁の集合体である制御弁ユニット23によって制御される。制御弁ユニット23を構成する各制御弁は、対応する油圧アクチュエータ4、10、11、12、14aに対して油圧ポンプ装置22から供給される圧油の方向及び流量を制御するものである。各制御弁の駆動は、例えば、パイロットポンプ(図示せず)から電磁比例弁(図示せず)を介して出力される操作パイロット圧により制御される。各電磁比例弁が操作装置18a、18b、18cからの操作信号に基づいてコントローラ40により制御されることで、制御弁ユニット23の各制御弁を介して各油圧アクチュエータ4、10、11、12、14aの動作が制御される。
上部旋回体3には、図1及び図2に示すように、車体の動作及び姿勢に関する情報を計測する慣性計測装置(Inertial Measurement Unit:IMU)25が設置されている。また、フロント作業装置1の構成部材であるブーム6、アーム7、バケット8にもそれぞれ、各構成部材6、7、8の姿勢に関する情報を計測する慣性計測装置(IMU)26、27、28が設置されている。これら4つの慣性計測装置25、26、27、28を区別するため、上部旋回体3(車体)用の慣性計測装置25を車体IMU、ブーム6用の慣性計測装置26をブームIMU、アーム7用の慣性計測装置27をアームIMU、バケット8用の慣性計測装置28をバケットIMUと称する。なお、バケットIMU28は、バケット8ではなく、バケット8と連動して回動するリンク部材13に設置することも可能である。
IMUは、加速度センサ31及び角速度センサ32(ともに図4参照)の2つのセンサを備えた装置であり、加速度センサにより検出された加速度及び角速度センサにより検出された角速度を用いて角度を演算する角度演算機能(角度演算部33)を有している。IMUは、次の2つの演算方法を組み合わせて角度を演算している。第1の方法は、加速度センサが検出した加速度と重力加速度とを比較することで、基準面(例えば、水平面)に対する角度を演算するものである。第2の方法は、角速度センサが検出した角速度を積分することで角度を演算するものである。ただし、第2の方法は、建設機械が静止状態のときの或る角度を起点とした角度変化しか算出することができない。このため、IMUの角度演算としては、建設機械の静止時の任意の角度を算出可能な第1の方法が主に用いられる。
車体IMU25は、上部旋回体3(設置部分)に生じる加速度及び角速度を検出すると共に、検出結果(加速度及び角速度)に基づき当該設置部分3の基準面に対する角度を演算する角度演算を行うものである。具体的には、車体IMU25は、上部旋回体3が静止状態のとき、車体IMU25に設定されたIMU座標系において検出された重力加速度の方向(鉛直下向きの方向)および車体IMU25の取付状態(車体IMU25と上部旋回体3との相対的な位置関係)に基づき、水平面に対する上部旋回体3の前後方向への傾き(ピッチ角)および左右方向(幅方向)への傾き(ロール角)を演算することが可能である。車体IMU25は、上部旋回体3(車体)の加速度及び角速度の検出結果(上部旋回体3の動作に関する情報)及び車体2、3のピッチ角及びロール角(角度情報)の演算結果(車体の姿勢に関する情報)をコントローラ40へ出力する。
ブームIMU26、アームIMU27、バケットIMU28はそれぞれ、設置部分(ブーム6、アーム7、バケット8)の角速度及び加速度を検出すると共に、検出結果(加速度及び角速度)に基づき当該設置部分6、7、8の基準面に対する角度を演算する角度演算を行うものである。ブームIMU26、アームIMU27、バケットIMU28は、車体IMU25と同様に、車体が静止している場合、各IMU26、27、28に設定されたIMU座標系において検出された重力加速度の方向および各IMU26、27、28の取付状態(フロント作業装置1の各構成部材6、7、8との相対的な位置関係)に基づいて、各構成部材6、7、8の角度情報を演算することが可能である。ブームIMU26、アームIMU27、バケットIMU28はそれぞれ、各構成部材6、7、8の角速度及び加速度の検出結果及び各構成部材6、7、8の角度情報の演算結果(各構成部材6、7、8の姿勢に関する情報)をコントローラ40へ出力する。
これら4つの車体IMU25、ブームIMU26、アームIMU27、バケットIMU28は、上部旋回体3及びフロント作業装置1の各構成部材6、7、8の加速度及び角速度を検出すると共に検出結果の加速度及び角速度に基づいて角度演算を行うことで、建設機械の姿勢に関する情報を計測する角度計測装置として機能するものである。
上部旋回体3には、複数の衛星からの測位信号を受信可能な受信装置としての2つのGNSSアンテナ36、37が取り付けられている。各GNSSアンテナ36、37が受信した測位信号は、図2に示すGNSS受信機38に入力される。GNSS受信機38は、GNSSアンテナ36、37が受信した測位信号を基に、アンテナ座標(車体の特定部分の位置)の演算や上部旋回体3(車体)の方位角の演算などの測位演算を行う測位演算装置として機能するものである。GNSSアンテナ36、37とGNSS受信機38は、油圧ショベルに対する衛星測位を行う測位システム35(図4参照)を構成している。GNSS受信機38は、上述の位置及び方位角の演算に統計処理を用いているので、当該位置及び方位角に加えてそれらの分散も同時に計算している。また、GNSS受信機38は、GNSSアンテナ36、37(車体)の位置だけでなく、速度も演算可能である。GNSS受信機38は、測位演算の演算結果であるGNSSアンテナ36、37(車体)の位置及び速度や上部旋回体3(車体)の方位角、並びに、それらの分散をコントローラ40へ出力する。
GNSS受信機38(測位システム35)は、現場内に設置されたGNSS固定局に無線通信を介して接続することで、RTK(Real Time Kinematic)測位を実行することが可能である。GNSS固定局がない現場の場合には、インターネットを介して電子基準局の情報を取得するネットワーク型RTKを利用した測位を実行することが可能である。以下、現場内の固定局の有無を問わず、GNSS受信機38がRTK測位を実行可能であることを想定している。
コントローラ40は、図2に示すように、GNSS受信機38の演算結果、並びに、車体IMU25、ブームIMU26、アームIMU27、バケットIMU28の検出結果及び角度演算の結果などに基づき、油圧ショベルの動作の制御やオペレータの操作支援を実行するものである。コントローラ40は、ハード構成として例えば、RAMやROM等からなる記憶装置41と、CPUまたはMPU等からなる処理装置42とを備えている。記憶装置41には、油圧ショベルの動作制御に必要なプラグラムや各種情報が予め記憶されている。処理装置42は、記憶装置41からプログラムや各種情報を適宜読み込み、当該プログラムに従って処理を実行することで以下の機能を含む各種機能を実現する。
コントローラ40は、処理装置42により実行される機能の一部として、ポジショニング演算部51、施工目標面演算部52、モニタ表示制御部53、油圧システム制御部54を有している。
ポジショニング演算部51は、GNSS受信機38の演算結果、並びに、車体IMU25、ブームIMU26、アームIMU27、バケットIMU28の検出結果及び角度演算の演算結果に基づき、油圧ショベルの作業現場内における位置(座標)及び方位、並びに、フロント作業装置1の姿勢情報を演算する姿勢演算を行うものである。フロント作業装置1の姿勢情報を算出するには、上部旋回体3とフロント作業装置1を構成するブーム6、アーム7、バケット8における各々の連結関係にある2つの部材の相対角を演算する必要がある。具体的には、ブーム6の相対角は、車体IMU25の演算結果の角度及びブームIMU26の演算結果の角度に基づいて算出される。アーム7の相対角は、ブームIMU26の演算結果の角度及びアームIMU27の演算結果の角度に基づいて算出される。バケット8の相対角は、アームIMU27の演算結果の角度及びバケットIMU28の演算結果の角度に基づいて算出される。ポジショニング演算部51は、施工目標面演算部52、モニタ表示制御部53、油圧システム制御部54へ演算結果を出力する。ポジショニング演算部51の演算結果の精度(油圧ショベルの実際上の位置や姿勢に対する誤差)は、これら各部52、53、54の演算や制御に影響を与えてしまう。そのため、ポジショニング演算部51の演算結果は高精度であることが求められている。ポジショニング演算部51の構成の詳細は後述する。
施工目標面演算部52は、記憶装置41に予め記憶されている3次元施工図面などの施工情報、および、ポジショニング演算部51の演算結果の油圧ショベル位置情報や姿勢情報に基づき、施工対象の目標形状を定義する施工目標面を演算するものである。施工情報は、例えば、入力デバイスとしてモニタ19などを介して施工管理者が入力したものである。また、施工目標面演算部52は、施工目標面と参照点(例えば、バケット8の爪先)との距離を算出する。なお、施工目標面は、オペレータがモニタ19を操作してその場で設定することも可能である。施工目標面演算部52は、モニタ表示制御部53及び油圧システム制御部54へ演算結果を出力する。
モニタ表示制御部53は、運転室16内のモニタ19の表示を制御するものである。モニタ表示制御部53は、施工目標面演算部52の演算結果である施工目標面、並びに、ポジショニング演算部51の演算結果である油圧ショベルの位置情報及び姿勢情報に基づき、オペレータに対する操作支援の指示内容を演算し、演算結果を表示装置として機能するモニタ19に表示する。モニタ表示制御部53は、例えば、フロント作業装置1の姿勢ならびにフロント作業装置1のバケット8の先端位置や角度をモニタ19に表示することで、オペレータの操作を支援するマシンガイダンスシステムとしての機能の一部を担っている。GNSS受信機38の測位結果に異常が生じた場合、又は、4つのIMU25、26、27、28のいずれかの演算結果の角度情報の精度が設定された要求精度を満たしていない場合には、ガイダンスの実行を停止、または、ガイダンス中断の警告をモニタ19に表示させる構成が可能である。また、モニタ19に対して、画面表示だけでなく、音声を出力することで、作業指示や注意喚起を行うように構成することも可能である。すなわち、モニタ表示制御部53は、GNSS受信機38の測位結果やIMU25、26、27、28の演算結果に問題がある場合には、ガイダンスの実行に対して否定的な措置を講じるように構成されている。
なお、モニタ19は、単なる表示デバイスではなく、タッチパネルを備えることで入力デバイスとして利用可能であることが望ましい。モニタ19は、例えば、運転室16内に据え付けた構成や可搬性のタブレット端末を運転室16内に着脱可能に設置する構成が可能である。
油圧システム制御部54は、油圧ポンプ装置22、複数の油圧アクチュエータ4、10、11、12、14a、制御弁ユニット23(共に図1参照)を含む油圧システムを制御するものである。油圧システム制御部54は、例えば、施工目標面演算部52の演算結果である施工目標面並びにポジショニング演算部51の演算結果である油圧ショベルの位置情報及び姿勢情報に基づき油圧ショベルの動作を演算し、演算結果の動作を実現するように油圧システムを制御する。油圧システム制御部54は、バケット8の先端が施工目標面に一定以上接近しないように動作に制限をかけたり、バケット8が施工目標面に沿って動くよう制御したりするマシンコントロールシステムとしての機能の一部を担っている。油圧システム制御部54は、GNSS受信機38の測位結果に異常が生じたとき又は4つのIMU25、26、27、28のいずれかの演算結果の角度情報の精度が所定の要求精度を満たしていないときに、モニタ表示制御部53がガイダンスの実行を停止する場合には、それに応じてマシンコントロール機能を停止させることが望ましい。
以下において、施工目標面演算部52とモニタ表示制御部53の両機能を併せたものをマシンガイダンスシステムと呼ぶ。また、施工目標面演算部52と油圧システム制御部54の両機能を併せたものをマシンコントロールシステムと呼ぶ。
本実施の形態においては、1つのコントローラ40が図2に示す機能部をすべて実行するように構成しているが、各機能部をそれぞれ異なるコントローラが実行する構成も可能である。各機能部が別々のコントローラによって実装される場合、各機能部を構成するコントローラの集合体が油圧ショベルの姿勢情報を演算してフロント作業装置1の操作支援を実行するコントローラを構成する。
次に、コントローラによるマシンガイダンスやマシンコントロールの実行に影響を及ぼすIMUの角度演算の精度低下について説明する。コントローラ40のポジショニング演算部51は、油圧ショベルの姿勢情報を演算するために、衛星の測位信号を利用したGNSS受信機38(測位システム35)の演算結果並びに4つのIMU25、26、27、28の検出結果及び演算結果を用いている。ポジショニング演算部51の演算結果の姿勢情報は、モニタ表示制御部53および油圧システム制御部54で用いられる。各IMU25、26、27、28の演算結果である角度情報の精度が低下すると、角度情報の精度低下の影響がポジショニング演算部51の演算結果に及ぶので、モニタ表示制御部53によってモニタ19に表示されるバケット8の爪先位置が実際の位置から変動してしまい、適切なマシンガイダンスを実行することができない懸念がある。また、油圧システム制御部54により制御されるバケット8の爪先位置が実際の位置とは異なってしまい、仕上げ面が波打つような形状になってしまう懸念がある。
以下に、IMU25、26、27、28の演算結果の角度情報の精度低下が生じる具体的な例について図3を用いて説明する。図3は本発明の建設機械の第1の実施の形態の一部を構成する慣性計測装置(IMU)の角度演算の精度低下を示す説明図である。図3中、上段図は操作装置(走行レバーまたは走行ペダル)の操作量を、中段図はIMUが検出した加速度の合成値の一例を、下段図はIMUの角度演算の演算結果と真の角度との差分(IMUの演算角度の誤差)の一例を示している。IMUは、車体IMU25、ブームIMU26、アームIMU27、バケットIMU28のいずれかのIMUである。
図3の上段図に示すように、初期時刻t0から時刻t1までの間、操作装置18cの走行レバーまたは走行ペダル(図1参照)が操作されておらず、油圧ショベルは走行せずに停止状態である。したがって、図3の中段図に示すように、IMUが検出する加速度の合成値は重力加速度gとほぼ一致する。このとき、油圧ショベルが静止状態なので、IMUの角度演算の方法として第1の方法が用いられる。ただし、IMUの演算結果の角度は、加速度センサのバイアス(定常的な誤差)や加速度センサでの量子化誤差などにより、真(実際上)の角度と完全には一致しない。IMUの角度演算において、静止状態(図3の下段図に示す時刻t0から時刻t1の間)のときに生じる角度誤差を最小誤差εminと呼ぶ。最小誤差εminは、IMUの演算精度に対する定常時の仕様値(許容誤差)εs未満の値である。
図3の上段図に示すように、時刻t1にて操作装置18c(走行レバー又は走行ペダル)が操作される。これにより、油圧ショベルが停止状態から走行動作に移行するので、油圧ショベルに加速度が生じる。このとき、図3の中段図に示すように、IMUにより検出された加速度の合成値が重力加速度gと一致しなくなるので、IMUは第1の演算方法を利用できない。そこで、IMUは、第1の方法から第2の方法へ演算方法を切り替えて角度演算を行う。演算方法の切替えを適切なタイミングで行うことで、図3の下段図に示すように、演算角度の誤差が時刻t1以降に急激に大きくなることを防止している。しかし、第2の方法による角度演算は、角速度センサの検出結果(角速度)を積分するものなので、長時間適用すると、角速度センサのバイアスの影響が積み重なって、演算結果の精度が低下してしまう(演算角度の誤差が大きくなってしまう)。
時刻t2から時刻t3では、図3の上段図に示すように、操作装置18c(走行レバーまたは走行ペダル)の操作量が略一定なので、油圧ショベルの走行速度が略一定になる。このため、油圧ショベルには走行による加速度が生じなくなる。ただし、油圧ショベルが略一定速度で走行中(時刻t2から時刻t3の間)であっても、図3の中段図に示すように、IMUが検出する合成加速度は常に重力加速度gと一致しない。なぜなら、油圧ショベルでは、舗装された路面を走行する自動車とは異なり作業現場の凹凸のある路面を走行すると共に、走行装置14(図1参照)が金属製の履帯の駆動により走行するので、走行時に比較的大きな振動が生じるからである。このため、油圧ショベルの走行中は、IMUの角度演算として第1の方法を利用することができない。しかし、第2の方法を継続して用いると、図3の下段図に示すように、角速度センサのバイアスの影響が積み重なることで、演算角度の誤差が徐々に大きくなっていく。
図3の上段図に示すように、時刻t3にて操作装置18cの操作が停止される。これにより、油圧ショベルが急減速するので、図3の中段図に示すように、IMUが検出した加速度の合成値が再び重力加速度gから大きく変動する。その後、油圧ショベルの並進加速度は0になるが、急減速によって生じた車体振動が継続する。時刻t4になってようやく、図3の中段図に示すように、油圧ショベルが完全に停止した状態となる。
この場合、油圧ショベルの完全な停止後の適切な時期にIMUの角度演算が第2の方法から第1の方法に切り替わる。この演算方法の切替時では、第2の方法による演算結果及び第1の方法による演算結果に対して補間処理やフィルタ処理などの処理を行うことで、演算結果の連続性を担保している。したがって、このため、油圧ショベルが完全に停止してIMUの角度演算が第1の方法に切り替わったとしても、完全な停止後の暫くの間、IMUが出力する角度情報には第2の演算方法に起因した誤差が残存するので、IMUの演算角度の誤差が時刻t4にて直ちに最小誤差εminになることはない。すなわち、IMUの演算角度の誤差は、図3の下段図に示すように、完全に車体が停止した時刻t4以降も徐々に減少していき、時刻t5にて最小誤差εminに収束する。
このように、IMUの演算角度の精度(誤差)は、走行動作から停止状態へと移行した後も暫くの間、定常時の仕様値(許容誤差)εsを満たすことができない場合がある。したがって、走行動作が行われておらず停止状態であることのみを判断材料にして、時刻t4においてマシンガイダンスが実行されると、IMUが出力する低精度の角度情報を基に演算した不正確な姿勢情報にしたがって操作支援が行われるので、施工面を傷つけてしまう懸念がある。このことは、走行動作から停止状態へと移行した場合だけでなく、旋回動作から停止状態へと移行した場合にも当てはまる。
このため、マシンガイダンスやマシンコントロールなどの操作支援を実行する場合には、油圧ショベルが停止状態であっても、走行や旋回の動作状態から停止状態への移行後の一定期間はIMUの演算角度の精度(誤差)が要求精度(許容誤差)を満たしてない場合があることを考慮する必要がある。そこで、本実施の形態に係るコントローラ40は、車体(上部旋回体3)の走行動作及び旋回動作から停止状態への移行後におけるIMUの演算角度の精度低下の有無を評価するように構成されている。コントローラ40は、IMUが出力する低精度の角度情報を基にした不正確な姿勢情報の利用を抑制するために、IMUの演算角度の精度(誤差)が要求精度(許容角度)を満たしていないと判定した場合には、マシンガイダンスやマシンコントロールなどの作業装置1の操作支援の停止または警告などを講じるように構成されている。
次に、本発明の建設機械の第1の実施の形態におけるコントローラのポジショニング演算部の機能構成の詳細及びモニタ表示制御部の機能構成を図4~図6を用いて説明する。図4は図2に示すコントローラのポジショニング演算部の機能構成及びモニタ表示部の機能構成を示すブロック図である。図5は図4に示すコントローラのポジショニング演算部の一部を構成する要求角度精度演算部の機能構成を示すブロック図である。図6は図4に示すコントローラのポジショニング演算部の一部を構成するIMU演算精度評価部の機能構成を示すブロック図である。
図4において、コントローラ40は、測位システム35からの情報、各IMU25、26、27、28からの情報、要求精度設定装置19からの情報が入力されるように構成されている。測位システム35は、GNSSアンテナ36、37が受信した複数の衛星からの測位信号に基づきGNSS受信機38が演算した位置及びその分散の情報をコントローラ40へ出力する。
各IMU25、26、27、28は、加速度を検出する加速度センサ31及び角速度を検出する角速度センサ32を備えている。また、各IMU25、26、27、28は、加速度センサ31により検出された加速度及び角速度センサ32により検出された角速度に基づき、各IMU25、26、27、28が設置された部分の基準面に対する角度を演算する角度演算を行う角度演算部33としての機能を有している。各IMU25、26、27、28は、加速度センサ313が検出した加速度、角速度セン23サが検出した角速度、角度演算部33が演算した角度の各情報をコントローラ40へ出力する。
要求精度設定装置は、例えば、入力デバイスを有するモニタ19によって構成されており、フロント作業装置1の操作支援に用いられる情報に対して要求精度を設定するものである。具体的には、要求精度設定装置19では、操作支援の情報に対する要求精度である仕上げ精度として、例えば、寸法次元の許容誤差(許容寸法誤差)をオペレータの操作によって入力可能である。仕上げ精度の許容寸法誤差は、例えば、粗掘削時に10cm、仕上げ掘削時に2cmなど、油圧ショベルの動作に応じて設定可能である。
コントローラ40のポジショニング演算部51は、油圧ショベルの姿勢を示す姿勢情報を演算する姿勢演算部61と、IMU25、26、27、28の角度演算に対する要求精度(第2要求精度)を演算する要求角度精度演算部62と、IMU25、26、27、28の角度演算の精度を評価するIMU演算精度評価部63とを有している。
具体的には、姿勢演算部61は、測位システム35の演算結果(位置及び方位角並びにその分散)と各IMU25、26、27、28の検出結果(加速度及び角速度)及び演算結果(角度)とを用いて姿勢情報を演算するものである。姿勢情報は、例えば、バケット8の爪先中央位置などマシンガイダンスやマシンコントロールに必要な各種の3次元座標である。この演算は一般的な幾何学的な関係に従うものなので、詳細な説明は省略する。姿勢演算部61の演算結果の姿勢情報は、施工目標面演算部52、モニタ表示制御部53、油圧システム制御部54へ出力され、マシンガイダンスやマシンコントロールに利用される。
要求角度精度演算部62は、要求精度設定装置19によって要求精度(第1要求精度)が設定されているか否かを判定するものである。さらに、要求精度が設定されている場合には、要求精度設定装置19により設定された要求精度(第1要求精度)に基づき、IMU25、26、27、28の角度演算の演算結果に対する要求精度(第2要求精度)を演算するものである。
具体的には、要求角度精度演算部62は、操作支援の情報に対する要求精度(第1要求精度)としての許容寸法誤差を、IMU25、26、27、28の角度演算の演算結果に対する要求精度(第2要求精度)として、許容される角度次元の誤差(許容角度誤差)に変換する。例えば図5に示すように、要求角度精度演算部62は、要求精度設定装置19から入力された寸法次元の許容誤差(許容寸法誤差)を角度次元の許容誤差(許容角度誤差)に変換する誤差変換テーブル621を備えている。誤差変換テーブル621は、例えば、仕上げ精度(許容寸法誤差)が10cmのときの許容角度誤差は0.5度、仕上げ精度が2cmのときの許容角度誤差は0.1度というように、数値計算によって事前に算出した関係性から導出されたものである。要求角度精度演算部62は、要求精度設定装置19により設定された要求精度(第1要求精度)としての許容寸法誤差に対して1つの許容角度誤差(第1要求精度)をIMU演算精度評価部63へ出力する。
許容角度誤差の最小値は、IMU25、26、27、28の仕様値で定まるものであり、最小許容角度誤差Aminと呼ぶ。最小許容角度誤差Aminに対応する許容寸法誤差よりも小さい数値は、要求精度設定装置19での入力を制限することが望ましい。例えば,最小許容角度誤差Aminに対応する許容寸法誤差が2.0cmの場合、オペレータが要求精度設定装置19を操作して仕上げ精度として1.0cmを入力しようとした場合、コントローラ40が要求精度設定装置19に対して仕上げ精度を2.0cm以上に設定するように警告メッセージを出力することが望ましい。
IMU演算精度評価部63は、図4に示すように、IMU25、26、27、28の検出結果(加速度及び角速度)に基づき、IMU25、26、27、28の角度演算の精度に影響を及ぼす車体2、3の走行動作及び旋回動作の有無を判定する動作判定部65と、IMU25、26、27、28の角度演算の精度が要求角度精度演算部62の演算結果の第2要求精度を満たしているか否かを判定する演算精度判定部66とを備えている。
動作判定部65は、各IMU25、26、27、28の検出結果の加速度及び角速度に基づき、車体2、3が動作している状態(走行状態や旋回状態)にあるか又は停止状態にあるかを判定する。すなわち、各IMU25、26、27、28により検出された加速度及び角速度のいずれかが閾値を超えた場合には車体2、3が動作している状態であると判定する一方、閾値以下の場合には停止状態と判定する。また、動作判定部65は、車体2、3が動作している状態(走行状態または旋回状態)から停止状態へと変化しているか否かを判定する動作停止判定も行う。動作判定部65は、車体2、3の動作状態の判定結果を演算精度判定部66へ出力する。
より具体的には、例えば、車体IMU25が検出したx軸の加速度をAx、y軸の加速度をAy、z軸の加速度をAzとする。このときの3軸の加速度の合成値Accが重力加速度gと一致しない場合、または、3軸のいずれかの角速度が0でない場合、車体2、3が動作(走行動作又は旋回動作)している状態であると判定する。ただし、車体IMU25の検出値には、バイアス(定常的な誤差)が存在したりノイズが含まれていたりするので、判定には閾値を設けることが望ましい。例えば、加速度閾値をAth、角速度閾値をωthとし、次の(式1)~(式5)のいずれかの式が成立する場合には、動作判定部65は、車体2、3が動作している状態であると判定する。
Acc > g + Ath … (式1)
Acc < g - Ath … (式2)
|ωx| > ωth … (式3)
|ωy| > ωth … (式4)
|ωz| > ωth … (式5)
なお、ωx、ωy、ωzはそれぞれ、車体IMU25のx軸、y軸、z軸の角速度の検出値である。
演算精度判定部66は、例えば図6に示すように、要求角度精度演算部62の演算結果の第2要求精度(許容角度誤差)に基づき精度判定の比較対象である時間閾値を設定する時間変換テーブル661と、或る時点からの経過時間tをカウントするカウンタ662と、カウンタ662がカウントした経過時間tと時間変換テーブル661が出力する時間閾値とを比較することで、IMUの角度演算の精度が第2要求精度を満たしているか否かを判定する比較判定部663とを備えている。演算精度判定部66は、油圧ショベルに搭載されたIMUと高精度な角度センサの両者の出力を比較して図3の下段図に示すような油圧ショベルの動作状態とIMUの演算角度の誤差との関係を示す実験データを予め取得し、当該実験データの関係を基に時間変換テーブル661を作成することで実現できる。例えば、油圧ショベルに搭載するには非常に高価であるが精度に優れた光ファイバジャイロスコープ(Fiber Optical Gyroscope:FOG)を搭載した実験機を用いることで、図3の下段図に示すIMUの演算角度の誤差の時系列を取得することができる。
時間変換テーブル661は、要求角度精度演算部62の演算結果の第2要求精度である許容角度誤差θaに対応する時間閾値Tthの関係が規定されている。時間変換テーブル661の許容角度誤差に対する時間閾値の関係は、許容角度誤差が大きくなる(第2要求精度が低くなる)にしたがって時間閾値が小さくなる一方、許容角度誤差が小さくなる(第2要求精度が高くなる)にしたがって時間閾値が大きくという特性を有している。時間変換テーブル661は、要求角度精度演算部62の演算結果の許容角度誤差の入力に対して時間閾値を比較判定部へ出力する。
時間変換テーブル661の関係は、例えば、図3の下段図における時刻t4(IMUにより検出された合成加速度が重力加速度に略一致した時点)から時刻t5(IMUの演算角度の誤差が最小誤差εminになる時刻)までの演算角度の誤差の時間推移を示す実験データから得られたものである。すなわち、油圧ショベルの車体が走行状態又は旋回状態から停止状態へと変化したタイミングを起点として最小誤差εminに到達する時刻までの演算角度の誤差の時間推移を基に規定されている。すなわち、時間変換テーブル661の関係は、車体が走行状態又は旋回状態から停止状態へと変化しても、IMUの角度演算の誤差が要求精度内に収束するには或る程度の時間経過を必要とすることを示したものである。時間変換テーブル661では、要求角度精度演算部62からの入力とは無関係に、最小の許容角度誤差θminに到達する時間閾値tmax(図3の下段図における時刻t4から時刻t5までの経過時間に相当する期間)が予め定められる。
カウンタ662は、動作判定部65によって車体2、3が走行状態又は旋回状態から停止状態へと変化したと判定された時点からの経過時間をカウントするものである。カウンタ662は、カウントした経過時間tを比較判定部663へ出力する。
比較判定部663は、カウンタ662がカウントした経過時間tと時間変換テーブル661が出力した時間閾値Tthとを比較することで、IMU25、26、27、28の角度演算の精度が要求角度精度演算62の演算結果の第2要求精度を満たしているか否かを判定するものである。比較判定部663は、カウンタ662の経過時間tが時間変換テーブル661の時間閾値Tthよりも小さい場合には、IMU25、26、27、28の角度演算の精度が第2要求精度を満たしていないと判定し、IMUの角度演算が要求精度を満たしていないことを示す低精度フラグを有効にする。一方、カウンタ662の経過時間tが時間変換テーブル661の時間閾値Tth以上の場合には、IMU25、26、27、28の角度演算の精度が第2要求精度を満たしていると判定し、低精度フラグを無効にする。なお、カウンタ662の経過時間tが時間変換テーブル661の最大の時間閾値tmax以上になれば、IMU25、26、27、28の角度演算の精度が第2要求精度を満たしていると自動的に判定することができる。比較判定部663は、比較判定に応じて設定した低精度フラグの有効又は無効をモニタ表示制御部53へ出力する。
コントローラ40のモニタ表示制御部53は、図4に示すように、ポジショニング演算部51の姿勢演算部61の演算結果の油圧ショベルの姿勢情報をモニタ19に表示するガイダンス実行部531を備えている。ガイダンス実行部531は、また、IMU演算精度評価部63の評価結果の低精度フラグの有効又は無効に応じてマシンガイダンスの実行の継続または停止を判断する。低精度フラグが有効の場合には、マシンガイダンスの実行を停止する。なお、ガイダンス実行部531は、マシンガイダンスの実行の停止の代わりに、マシンガイダンスの実行に対する警告や作業停止を促す指示をモニタに表示するように構成することも可能である。すなわち、ガイダンス実行部531は、低精度フラグが有効の場合には、マシンガイダンスの実行に対して否定的な措置を講じるように構成される。
次に、本発明の建設機械の第1の実施の形態を構成するコントローラのポジショニング演算部及びモニタ表示制御部の処理手順の一例について図4及び図7~図9を用いて説明する。図7は本発明の建設機械の第1の実施の形態を構成するコントローラにおけるガイダンス実行の判断の処理手順の一例を示すフローチャートである。図8は図7に示すフローチャートにおける車体の動作状態の判定の処理手順の一例を示すフローチャートである。図9は図7に示すフローチャートにおけるIMUの演算精度の判定の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図7において、図4に示すコントローラ40のポジショニング演算部51は、先ず、測位システム35(GNSS受信機38)から演算結果(位置やその分散)を取り込むと共に、各IMU25、26、27、28から検出結果(加速度及び角速度)及び演算結果(角度)を取り込む(ステップS10)。
次に、ポジショニング演算部51の姿勢演算部61は、測位システム35の演算結果の位置及び各IMU25、26、27、28の演算結果の角度に基づき、油圧ショベルの姿勢情報を演算する(ステップS20)。
次いで、ポジショニング演算部51の要求角度精度演算部62は、操作支援の情報に対する要求精度(第1要求精度)としての仕上げ精度(許容寸法誤差)が要求精度設定装置19によって設定されているか否かを判定する(ステップS30)。第1要求精度が設定されている場合(YESの場合)にはステップS40に進む一方、第1要求精度が設定されていない場合(NOの場合)にはステップS90に進む。
ステップS30にてNOの場合、コントローラ40のモニタ表示制御部53のガイダンス実行部531が姿勢演算部61の演算結果の姿勢情報に基づきガイダンスを実行する(ステップS90)。第1要求精度が設定されていない場合には、IMUの角度演算の精度に対する比較対象が存在しないので、当該精度が要求精度を満たしているかを評価することができない。したがって、この場合には、コントローラ40は、従来と同様に、マシンガイダンスの機能を実行する。
一方、ステップS30にてYESの場合、要求角度精度演算部62は、IMU25、26、27、28の角度演算の精度に対する要求誤差を演算する(ステップS40)。具体的には、要求角度精度演算部62は、誤差変換テーブル621を参照して、要求精度設定装置19によって設定された許容寸法誤差(仕上げ精度)から第2要求精度である許容角度誤差を演算する。
次に、ポジショニング演算部51のIMU演算精度評価部63の動作判定部65が車体2、3の動作状態を判定する(ステップS50)。ステップS50では、概略すると、動作判定部65がIMU25、26、27、28が検出した加速度及び角速度に基づき車体2、3が走行状態または旋回状態であるか否かを判定する。
具体的には、図8に示すように、動作判定部65は、IMU25、26、27、28が検出した3軸方向の加速度を基に合成加速度を演算する(ステップS510)。次いで、演算した合成加速度が所定の閾値の範囲内で重力加速度gと一致するか否かを判定する(ステップS520)。この判定は、上述の式1及び式2に相当する。ステップS520にて、合成加速度が閾値の範囲内において重力加速度gと一致していない場合、すなわち上述の式1及び式2のいずれかが成立する場合(NOの場合)には、車体2、3の動作状態が走行状態であると判定したことを示す走行フラグを有効し(ステップS530)、その後、ステップS540に進む。一方、合成加速度が閾値の範囲内において重力加速度gと一致する場合(YESの場合)には、走行フラグを有効にすることなくステップS540に進む。
ステップS540において、動作判定部65は、IMU25、26、27、28が検出した各軸方向の角速度を基に各軸方向の角速度の絶対値を演算する。次いで、演算した角速度の絶対値が予め設定されている閾値(角速度センサのバイアス)以下か否かを判定する(ステップS550)。この判定は、上述の式3~式5に相当する。ステップS550にて、角速度の絶対値が閾値よりも大きい場合、すなわち上述の式3~式5のいずれかが成立する場合(NOの場合)には、車体2、3の動作状態が旋回状態であると判定したことを示す旋回フラグを有効し(ステップS560)、その後、ステップS570に進む。一方、角速度の絶対値が閾値以下の場合(YESの場合)には、旋回フラグを有効にすることなくステップS570に進む。
ステップS570では、動作判定部65は、前回と今回の制御サイクルのときの走行フラグを比較して走行フラグが有効から無効へと変化しているかを判定すると共に、前回と今回の制御サイクルのときの旋回フラグを比較して旋回フラグが有効から無効へと変化しているかを判定する。すなわち、車体2、3の動作状態が走行状態から停止状態への変化が生じたか否かを判定すると共に、旋回状態から停止状態への変化が生じたか否かを判定する。この状態は、車体2、3が停止状態であっても、IMUの角度演算の精度が低下する懸念がある状況である。動作判定部65は、走行フラグの有効から無効への変化の有無の判定及び旋回フラグの変化の有効から無効への変化の有無の判定に対してOR処理を行うことで、車体2、3の動作状態がIMU25、26、27、28の角度演算の精度を低下させる所定の状態であることを示す情報を1つの信号に統合する。動作判定部65がステップS570の手順を実行することでステップS50が終了する。
ステップS50の終了後、図7に示すように、IMU演算精度評価部63がIMU25、26、27、28の角度演算の精度を評価する(ステップS60)。ステップS60では、概略すると、IMU演算精度評価部63は、IMU25、26、27、28の演算結果の角度の精度がステップS40にて演算した第2要求精度を満たしているか否かを評価する。
具体的には、図9に示すように、動作判定部65は、車体2、3の動作状態がIMUの角度演算の精度が低下している所定の停止状態であるか否かを判定する(ステップS610)。つまり、車体2、3が走行状態から停止状態へと変化しているか又は旋回状態から停止状態へと変化しているかを判定する。具体的には、この判定は、走行フラグの有効から無効への変化の有無の判定及び旋回フラグの変化の有効から無効への変化の有無の判定の結果に基づき判定される。
ステップS610にて、車体2、3がIMUの角度演算の精度を低下させるような停止状態である(YES)と動作判定部65が判定した場合には、ステップS620に進む。ステップS620では、演算精度判定部66が、時間変換テーブル661を参照することで、要求角度演算部62の演算結果である許容角度誤差θaに対応する時間閾値Tthを演算する。
次に、演算精度判定部66のカウンタ662が起動して経過時間tをカウントする(ステップS630)。これは、車体2、3が走行状態または旋回状態から停止状態へと変化したときを起点に経過時間tをカウントするものである。
次いで、演算精度判定部66の比較判定部663は、カウンタ662によりカウントされた経過時間tが時間変換テーブル661の出力である時間閾値Tthよりも小さいか否か判定する(ステップS640)。これは、図3の下段図の時刻t4から時刻t5までのIMUの演算角度の誤差の時系列に示されているように、車体2、3が動作している状態から停止状態へと変化してからの経過時間がIMUの演算精度の回復時間に到達したかを見極めるものである。
ステップS640にて、カウンタの経過時間tが時間閾値Tthよりも小さい場合(YESの場合)には、ステップS650に進み、比較判定部663はIMU25、26、27、28の角度演算の精度が要求精度を満たしていないことを示す低精度フラグを有効にする。一方、カウンタの経過時間tが時間閾値Tth以上の場合(NOの場合)には、ステップS660に進み、比較判定部663は低精度フラグを無効にする。
一方、ステップS610にて、車体2、3の動作状態がIMUの演算精度を低下させるような停止状態ではない(NO)と動作判定部65が判定した場合には、ステップS660に進み、IMUの演算精度の判定が不要なので、演算精度判定部66は低精度フラグを無効にする。
ステップS650又はステップS660の終了によりステップS60の手順が終了する。これにより、コントローラ40はステップS70の手順へ進む。
図7に示すステップS70では、IMU25、26、27、28の角度演算の精度が第2要求精度を満たしていないか否かを演算精度判定部66が判定する。具体的には、演算精度判定部66は、低精度フラグの有効の有無によって判定する。低精度フラグが有効である場合(YESの場合)には、ステップS80に進む。一方、低精度フラグが無効である場合(NOの場合)には、ステップS90に進む。
ステップS80では、モニタ表示制御部53のガイダンス実行部531がガイダンスの実行を停止する。なぜなら、車体2、3が停止状態であっても、IMU25、26、27、28の低精度な演算角度を基にした不正確な姿勢情報にしたがって操作支援が行われると、施工面を傷つけてしまう懸念があるからである。一方、ステップS90では、IMU25、26、27、28の角度演算の精度が要求精度を満たしていると判定されているので、モニタ表示制御部53のガイダンス実行部531はガイダンスを実行する。
ステップS80又はステップS90の手順を実行した後、コントローラ40は開始に戻る。ポジショニング演算部51及びモニタ表示制御部53は、ステップS10~S90を1サイクルとする制御サイクルを何度も繰り返し実行することで操作支援の1つであるマシンガイダンスを実行したり停止したりする。
このように、本実施の形態に係るコントローラ40は、車体2、3がIMU25、26、27、28の演算精度を低下させるような所定の停止状態であるか否かを判定し、車体2、3が所定の停止状態である場合にはマシンガイダンスの実行の停止や警告などの作業支援に対して否定的な措置を講じることで、マシンガイダンスの実行の際に不正確な姿勢情報の利用を抑制することができる。
上述したように、本発明の第1の実施の形態に係る油圧ショベル(建設機械)は、車体2、3と、車体2、3に対して回動可能に取り付けられたフロント作業装置1(作業装置)と、車体2、3及びフロント作業装置1(作業装置)に設置され、設置部分の加速度及び角速度を検出すると共に検出結果に基づき当該設置部分の基準面に対する角度を演算する角度演算を行うIMU25、26、27、28(角度計測装置)と、IMU25、26、27、28(角度計測装置)により演算された角度に基づいて車体2、3及びフロント作業装置1(作業装置)の姿勢を示す姿勢情報を演算し、演算された姿勢情報をモニタ19(表示装置)に表示させると共に、演算された姿勢情報に基づいてフロント作業装置1(作業装置)の操作支援を実行するコントローラ40とを備えている。コントローラ40は、フロント作業装置1(作業装置)の操作支援に用いられる情報に対して設定された要求精度である第1要求精度に基づいて、IMU25、26、27、28(角度計測装置)の角度演算に対する要求精度である第2要求精度を演算する要求精度演算を行い、IMU25、26、27、28(角度計測装置)の検出結果に基づいて、車体2、3が動作している状態から停止状態へと変化しているか否かを判定する動作停止判定を行い、IMU25、26、27、28(角度計測装置)の角度演算の精度が第2要求精度を満たしているか否かを判定する精度判定を行い、車体が動作している状態から停止状態へと変化したと判定し、且つ、IMU25、26、27、28(角度計測装置)の角度演算の精度が第2要求精度を満たしていないと判定した場合には、フロント作業装置1(作業装置)の操作支援の停止または警告を講じるように構成されている。
この構成よれば、車体2、3が停止状態であっても、IMU25、26、27、28(角度計測装置)の角度演算の精度が要求精度を満たしていない場合には、コントローラ40がマシンガイダンスやマシンコントロールなどのフロント作業装置1(作業装置)の操作支援の停止または警告を講じるので、フロント作業装置1(作業装置)の操作支援の実行の際に不正確な姿勢情報が利用されることを抑制することができる。
また、本実施の形態に係るコントローラ40の精度判定は、第2要求精度が高くなるにしたがって時間閾値時間閾値Tthが大きくなるように予め規定された時間変換テーブル661(変換テーブル)を用いて、要求精度演算により演算された第2要求精度から時間閾値Tthを設定し、動作停止判定において車体2、3が動作している状態から停止状態へと変化したと判定した時点からの経過時間tをカウントし、カウントしている経過時間tと設定された時間閾値Tthとを比較することで行われ、カウントした経過時間tが設定した時間閾値Tthよりも小さいときに、IMU25、26、27、28(角度計測装置)の角度演算の精度が第2要求精度を満たしていないと判定するものである。
この構成によれば、実験データなどを基に予め規定された変換テーブルを用いることで、IMU25、26、27、28(角度計測装置)の演算結果を用いることなく、車体2、3の動作停止への移行時点からの経過時間tによってIMU25、26、27、28(角度計測装置)の角度演算の精度を評価することができる。
[第1の実施の形態の変形例]
次に、本発明の建設機械の第1の実施の形態の変形例について図10を用いて説明する。図10は本発明の建設機械の第1の実施の形態の変形例におけるコントローラのポジショニング演算部の一部を構成する要求角度精度演算部の機能構成を示すブロック図である。なお、図10において、図1~図9に示す符号と同符号のものは、同様な部分であるので、その詳細な説明は省略する。
本発明の建設機械の第1の実施の形態の変形例が第1の実施の形態に対して相違する点は、コントローラ40のポジショニング演算部51における要求角度精度演算部62Aの機能構成が異なっていることである。第1の実施の形態に係る要求角度精度演算部62は、要求精度設定装置19から入力された1つの許容寸法誤差(第1要求精度)に対して1つの許容角度誤差(第2要求精度)を出力するものである(図5参照)。それに対して、第1の実施の形態の変形例に係る要求角度精度演算部62Aは、図10に示すように、上部旋回体3、ブーム6、アーム7、バケット8にそれぞれ設置された各IMU25、26、27、28に対応した4つの誤差変換テーブル6211、6212、6213、6214と、要求精度設定装置19により設定された許容寸法誤差(第1要求精度としての仕上げ精度)を各IMU25、26、27、28に対応した誤差変換テーブル6211、6212、6213、6214に対して予め定められた関係に基づき配分する要求精度配分演算部622とを備えている。
油圧ショベルでは、一般的に、ブーム6はバケット8に比べて長さ寸法が大きいので、各IMU25、26、27、28の角度演算の誤差(精度)が同じ値であっても、バケットのつめ先の位置情報の演算に与える影響は異なっている。例えば、ブームIMU26の角度演算の精度が0.5度低下すると、バケット8のつめ先位置の演算結果が5cm変化するのに対して、バケットIMU28の角度演算の精度が0.5度低下しても、当該つめ先位置の演算結果は1cmしか変化しない。第1の実施の形態の変形例に係る要求角度精度演算部62Aは、このことを考慮したものであり、ブーム6の相対角の演算に関係する車体IMU25及びブームIMU26の角度演算の誤差(精度)をバケット8の相対角の演算に関係するアームIMU27及びバケットIMU28の角度演算の誤差(精度)とは異なるように設定するように構成したものである。
各IMU25、26、27、28用の第1~第4の誤差変換テーブル6211、6212、6213、6214は、図5に示す第1の実施の形態に係る要求角度精度演算部62における誤差変換テーブル621と同様に、要求精度設定装置19から入力された寸法次元の許容誤差(許容寸法誤差)を角度次元の許容誤差(許容角度誤差)に変換するものである。ただし、第1~第4の変換テーブル6211、6212、6213、6214は、要求精度配分演算部622の演算結果に応じて入力される許容寸法誤差の大きさが異なっている。
要求精度配分演算部622は、フロント作業装置1を構成するブーム6、アーム7、バケット8に対して、要求精度設定装置19により設定された仕上げ精度、すなわち許容寸法誤差の割付けを行うものである。この割付けは、フロント作業装置1の各構成部材6、7、8の寸法に応じて設定されることが望ましい。例えば、要求精度配分演算部622は、要求精度設定装置19により設定された仕上げ精度が10cmである場合、3つの構成部材6、7、8の寸法比に応じて、ブームパートを5cm、アームパートを3cm、バケットパートを2cmに割り当てる。要求精度配分演算部622は、各パートに割り当てる許容寸法誤差を各パートに対応する誤差変換テーブル6211、6212、6213、6214へ出力する。これにより、各誤差変換テーブル6211、6212、6213、6214が各IMU25、26、27、28に対する許容角度誤差を算出する。
ブームパートの誤差は、車体IMU25及びブームIMU26の角度演算の精度で決まる。このため、第1及び第2の誤差変換テーブル6211、6212に対する参照値はブームパートに対する誤差で決定される。アームパートの誤差は、ブームIMU26及びアームIMU27の精度で決まるが、ブームIMU26に対する許容角度誤差は既に決定されているので、アームIMU27の精度のみで決定することが可能である。バケットパートの誤差も、アームパートの誤差と同様に、バケットIMU28の精度のみで決定することが可能である。
上述した本発明の建設機械の第1の実施の形態の変形例によれば、前述した第1の実施の形態と同様に、車体2、3が停止状態であっても、IMU25、26、27、28(角度計測装置)の角度演算の精度が要求精度を満たしていない場合には、コントローラ40がフロント作業装置1(作業装置)の操作支援の停止または警告を講じるので、フロント作業装置1(作業装置)の操作支援の実行の際に不正確な姿勢情報が利用されることを抑制することができる。
また、本変形例におけるコントローラ40の要求精度演算は、各IMU25、26、27、28に対してフロント作業装置1の操作支援の情報(バケット8の先端位置の情報)に対する各構成部材6、7、8の姿勢情報の影響の度合いに応じて第1要求精度としての許容寸法誤差を配分し、許容寸法誤差が大きくなるにしたがって許容角度誤差が大きくなるように予め規定された各IMU25、26、27、28の誤差変換テーブル6211、6212、6213、6214を用いて各IMU25、26、27、28に対して配分された許容寸法誤差から各IMU25、26、27、28の角度演算に対する第2要求精度としての許容角度誤差を演算するものである。
この構成によれば、フロント作業装置1の操作支援の情報(バケット8の先端位置の情報)に対する各構成部材6、7、8の姿勢情報の影響の度合いに応じて許容寸法誤差(第1要求精度)の大きさを変更することで、各IMU25、26、27、28の角度演算に対する要求精度(第2要求精度)をフロント作業装置1の操作支援の情報(バケット8の先端位置の情報)の影響の度合いに応じて変更することができるので、フロント作業装置1の操作支援の実行の際に不正確な姿勢情報の利用を更に抑制することができる。
[第2の実施の形態]
次に、本発明の建設機械の第2の実施の形態について図11~図14を用いて説明する。図11は本発明の建設機械の第2の実施の形態におけるコントローラの機能構成を示すブロック図である。図12は図11に示すコントローラのポジショニング演算部の一部を構成するIMU演算精度評価部の機能構成を示すブロック図である。図13は図12に示す本発明の建設機械の第2の実施の形態のコントローラのIMU演算精度評価部における精度評価の方法を示す説明図である。図14は図12に示す本発明の建設機械の第2の実施の形態におけるコントローラのIMU演算精度評価部の処理手順の一例を示すフローチャートである。なお、図11~図14において、図1~図10に示す符号と同符号のものは、同様な部分であるので、その詳細な説明は省略する。
図11及び図12に示す本発明の建設機械の第2の実施の形態が第1の実施の形態に対して相違する点は、コントローラ40のポジショニング演算部51におけるIMU演算精度評価部63Bの演算精度判定部66Bの機能構成が異なっていることである。
第1の実施の形態に係る演算精度判定部66は、車体2、3の動作している状態から停止状態へと変化した後のIMUの演算角度の誤差(精度)の時系列を予め取得しておくことでIMU25、26、27、28の演算角度の誤差(精度)と許容角度誤差の範囲内に達する時間との関係を示す時間変換テーブル661を用いるものである(図6参照)。演算精度判定部66は、車体2、3が動作している状態から停止状態へと変化した後の経過時間tを時間変換テーブル661の参照により設定した時間閾値Tthと比較することで、IMU25、26、27、28の演算精度が要求精度を満たしているか判定している(図6参照)。第1の実施の形態を実現するには、図3の下段図に示すような実験データを別途取得する必要があるので、当該機能をコントローラに実装するには大きな工数が必要となる。
それに対して、第2の実施の形態に係る演算精度判定部66Bは、図11及び図12に示すように、IMU25、26、27、28の演算結果の角度を用いることで、IMU25、26、27、28の角度演算の精度が要求精度を満たしているかを判定するものである。具体的には、演算精度判定部66Bは、図12に示すように、第1の実施の形態と同様な動作判定部65に加えて、要求角度精度演算部62の演算結果の第2要求精度(許容角度誤差)に基づき精度判定の比較対象である角度閾値θthを設定する角度閾値変換テーブル661Bと、IMU25、26、27、28の演算結果の角度に対して時間的変化量δθを演算する角度変化量演算部662Bと、角度変化量演算部662Bが演算した角度の時間的変化量δθと角度閾値変換テーブル661Bが出力する角度閾値θthとを比較することで、IMU25、26、27、28の角度演算の精度が第2要求精度を満たしているか否かを判定する比較判定部663Bとを備えている。演算精度判定部66Bは、次の内容を基に実現するものである。
図13は、図3の下段図の時刻t4以降のIMUの角度演算の誤差を拡大した図である。車体が停止状態にある場合、IMUの演算結果の角度は,IMUのバイアスの影響を含んだ或る値θtrueを取り続ける。ただし、車体が動作している状態から停止状態へと変化した直後では、車体の動作時におけるIMUの角度演算の誤差が積み重なっているので、IMUの演算結果の角度は所定値θtrueからずれた値となっている。時刻t4以降は、車体の停止状態が継続することからIMUの演算結果の角度が所定値θtrueに徐々に近づいてき、IMUの角度演算の誤差も徐々に減少していく。時刻t5以降、IMUが出力する角度は、所定値θtrueとほぼ一致するようになる。
ここで、IMUの演算結果の角度θの変化量δθに注目する。δθは、或る時刻kのときのIMUの演算結果の角度θkと次の時刻k+1のときのIMUの演算結果の角度θk+1との差分の絶対値である。すなわち、δθ=|θk+1-θk|である。図13に示すように、時刻t5以降では変化量δθが所定値θth以下であるというデータを得ることができる。この事実から、δθ=|θk+1-θk|≦θthの場合には、IMUの角度演算の精度が低精度でないと判定することが可能である。
角度閾値変換テーブル661Bは、IMUの角度演算の角度変化量δθが収束したか否かの判定基準である角度閾値θthを設定するものである。角度閾値変換テーブル661Bは、要求角度精度演算部62の演算結果の第2要求精度である許容角度誤差θaに対応する角度閾値θ
thの関係が規定されている。角度閾値変換テーブル661Bの許容角度誤差θAに対する角度閾値θthの関係は、許容角度誤差が大きくなる(第2要求精度が低くなる)にしたがって角度閾値が大きくなる一方、許容角度誤差が小さくなる(第2要求精度が高くなる)にしたがって角度閾値が小さくなるという特性を有している。角度閾値変換テーブル661Bは、要求角度精度演算部62の演算結果の許容角度誤差の入力に対して角度閾値を比較判定部663Bへ出力する。
角度変化量演算部662Bは、時刻k+1のときに取り込んだIMU25、26、27、28の演算結果の角度θk+1と以前の時刻kのときに取り込んだIMU25、26、27、28の演算結果の角度θkとの差分の絶対値である角度の時間的変化量δθを演算する。この角度変化量δθは、上述したように、IMU25、26、27、28の演算精度が要求精度を満たしているか否かの指標となるものである。角度変化量演算部662Bは、車体2、3が動作している状態から停止状態への変化が生じたと動作判定部65が判定した場合に(第1の実施の形態の演算精度判定部66のカウンタ662の起動タイミングと同じときに)、角度変化量δθの演算を開始する。角度変化量演算部662Bは、演算した角度変化量δθを比較判定部663Bへ出力する。
比較判定部663Bは、角度変化量演算部662Bの演算した角度変化量δθと角度閾値変換テーブル661Bが出力した角度閾値θthとを比較することで、IMU25、26、27、28の角度演算の精度が要求角度精度演算部62の演算結果の第2要求精度を満たしているか否かを判定するものである。比較判定部663Bは、角度変化量演算部662Bの角度変化量δθが角度閾値変換テーブル661Bの角度閾値θthよりも大きい場合には、IMU25、26、27、28の角度演算の精度が第2要求精度を満たしていないと判定し、低精度フラグを有効にする。一方、角度変化量δθが角度閾値θth以下の場合には、IMU25、26、27、28の角度演算の精度が第2要求精度を満たしていると判定し、低精度フラグを無効にする。
次に、第2実施の形態に係るIMU演算精度評価部63Bの処理手順の一例を説明する。第1実施の形態のIMU演算精度評価部63のIMU25、26、27、28の角度演算の精度を評価する手順であるステップS60(図9参照)の代わりに、図14に示すステップS60Bが実行される。
具体的には、第1実施の形態の場合と同様であるステップS610にて、車体2、3がIMUの角度演算の精度を低下させるような停止状態である(YES)と動作判定部65が判定した場合には、ステップS620Bに進む。ステップS620Bでは、演算精度判定部66が、角度閾値変換テーブル661Bを参照することで、要求角度演算部62の演算結果である許容角度誤差θAに対応する角度閾値θthを演算する。
次に、演算精度判定部66の角度変化量演算部662Bが角度変化量δθの演算を行う(ステップS630B)。これは、車体2、3が走行状態または旋回状態から停止状態へと変化したときから演算を開始するものである。
次いで、演算精度判定部66の比較判定部663Bは、角度変化量演算部662Bが演算した角度変化量δθが角度閾値変換テーブル661Bの出力である角度閾値θthよりも大きいか否か判定する(ステップS640B)。これは、図13の時刻t5以降のIMUの演算角度の誤差の時系列に示されているように、車体2、3が停止状態へと変化してIMUの演算角度が所定値の近傍に収束しているかを見極めるものである。
ステップS640Bにて、角度変化量δθが角度閾値θthよりも大きい場合(YESの場合)には、ステップS650に進み、比較判定部663Bは低精度フラグを有効にする。一方、角度変化量δθが角度閾値θth以下の場合(NOの場合)には、ステップS660に進み、比較判定部663Bは低精度フラグを無効にする。ステップS650又はステップS660の終了によりステップS60Bの手順が終了する。
上述した本発明の建設機械の第2の実施の形態によれば、前述した第1の実施の形態と同様に、車体2、3が停止状態であっても、IMU25、26、27、28(角度計測装置)の角度演算の精度が要求精度を満たしていない場合には、コントローラ40がフロント作業装置1(作業装置)の操作支援の停止または警告を講じるので、フロント作業装置1(作業装置)の操作支援の実行の際に不正確な姿勢情報が利用されることを抑制することができる。
また、本実施の形態に係るコントローラ40の精度判定は、第2要求精度が高くなるにしたがって角度閾値θthが小さくなるように予め規定された角度閾値変換テーブル661Bを用いて要求精度演算により演算された第2要求精度から角度閾値θthを設定し、IMU25、26、27、28(角度計測装置)により演算された角度の時間的変化量δθを演算し、演算した角度の時間的変化量δθと設定した角度閾値θthとを比較することで行われ、演算した角度の時間的変化量δθが設定した角度閾値θthよりも大きいときに、IMU25、26、27、28(角度計測装置)の角度演算の精度が第2要求精度を満たしていないと判定するものである。
この構成によれば、IMU25、26、27、28(角度計測装置)の角度演算の精度判定の比較対象である閾値を設定するための変換テーブルが高価なセンサを利用して取得した実験データを基に規定されているものである第1の実施の形態の場合と比べると、精度判定の比較対象である閾値を設定するための角度閾値変換テーブル661Bが事前に実験データを取得せずとも規定することができるので、コントローラ40への実装に大きな工数を必要としない。
[第3の実施の形態]
次に、本発明の建設機械の第3の実施の形態について図15~図19を用いて説明する。図15は本発明の建設機械の第2の実施の形態における問題点を示す説明図である。図16は本発明の建設機械の第3の実施の形態におけるコントローラの機能構成を示すブロック図である。図17は図16に示すコントローラのポジショニング演算部の一部を構成するIMU演算精度評価部の機能構成を示すブロック図である。図18は図17に示す本発明の建設機械の第2の実施の形態におけるコントローラのIMU演算精度評価部の処理手順の一例を示すフローチャートである。図19は本発明の建設機械の第3の実施の形態の作用及び効果を示す説明図である。なお、図15~19において、図1~図14に示す符号と同符号のものは、同様な部分であるので、その詳細な説明は省略する。
第2の実施形態のIMU演算精度評価部63Bにおいては、IMU25、26、27、28の演算結果の角度の時間変化量δθに基づいてIMU25、26、27、28の角度演算の精度を評価している。しかし、IMUの演算特性によっては、演算精度の評価を誤る懸念がある。例えば、IMUの演算特性が図15に示すような特性を有している場合である。IMUの演算結果(出力値)の角度θは、所定値θtrueに単調に近づくのではなく、時刻taから時刻tbの間において当該角度θの時間的変化が一時的に停止し、その後、時刻t5以降において所定値θtrueとほぼ一致するようになっている。このような場合、第2の実施の形態では、コントローラ40のIMU演算精度評価部63Bにおける角度の時間的変化量δθが時刻taから時刻tbの間で角度閾値θth以下となるので、IMU25、26、27、28の演算精度は要求精度を満たしていると判定してしまう。しかしこのとき、IMU25、26、27、28の演算結果の角度には所定値θtrueに対してΔθa分の誤差が生じているので、IMU5、26、27、28の演算精度が要求精度を満たしていない場合がある。
そこで、第3の実施の形態は、事前に高価なセンサを利用した実験データの取得が不要であるという第2の実施の形態の利点を維持しつつ、簡易な演算で判定の誤りが少ないIMUの演算精度の評価を行うものである。図16に示す本発明の建設機械の第3の実施の形態が第2の実施の形態に対して相違する点は、コントローラ40のIMU演算精度評価部63Cが動作判定部65及び演算精度判定部66Cに加えて傾斜角演算部67を備えていること、及び、演算精度判定部66Cの機能構成が異なることである。
具体的には、傾斜角演算部67は、各IMU25、26、27、28によって検出された加速度を基に基準面に対する角度である傾斜角θsを演算する。この演算は、重力加速度gを参照値とする上述のIMU25、26、27、28の角度演算の第1の方法と同じことを実行していることに他ならない。
演算精度判定部66Cは、図17に示すように、第2の実施の形態の角度変化量演算部662Bに代えて、角度差演算部662Cを備えている。さらに、第2の実施の形態の比較判定部663Bとは異なる判定方法によってIMU25、26、27、28の演算精度を判定する比較判定部663Cを備えている。演算精度判定部66Cは、第2の実施の形態の角度閾値変換テーブル661Bが不要であり、比較判定部663Cは要求角度精度演算部62の演算結果の許容角度誤差が直接入力されるように構成されている。
角度差演算部662Cは、IMU25、26、27、28の演算結果(出力値)の角度θと傾斜角演算部67の演算結果の傾斜角θsとの差分の絶対値である角度差Δθsを演算する。傾斜角演算部の演算結果の傾斜角θsは車体2、3が静止状態のときIMU25、26、27、28の演算角度の真値となるので、角度差ΔθsはIMUの演算精度が要求精度を満たしているか否かの指標となるものである。角度差演算部662Cは、演算した角度誤差Δθsを比較判定部663Cへ出力する。
比較判定部663Cは、角度差演算部662Cの演算した角度差Δθsと要求角度精度演算部62の演算結果の許容角度誤差とを比較することで、IMU25、26、27、28の演算精度が第2要求精度を満たしているか否かを判定するものである。比較判定部663Cは、角度差演算部662Cの角度差Δθsが要求角度精度演算部62の許容角度誤差θaよりも大きい場合には、IMU25、26、27、28の角度演算の精度が第2要求精度を満たしていないと判定し、低精度フラグを有効にする。一方、角度差演算部662Cの角度差Δθsが要求角度精度演算部62の許容角度誤差θa以下の場合には、IMU25、26、27、28の角度演算の精度が第2要求精度を満たしていると判定し、低精度フラグを無効にする。この判定は、車体2、3が停止状態であると動作判定部65が判定したときだけ実行される。
次に、第3実施の形態に係るIMU演算精度評価部66Cの処理手順の一例を説明する。第1実施の形態のIMU演算精度評価部63のIMU25、26、27、28の角度演算の精度を評価する手順であるステップS60(図9参照)の代わりに、図18に示すステップS60Cが実行される。
具体的には、IMU演算精度評価部63Cの傾斜角演算部67が各IMU25、26、27、28により検出された加速度を基に傾斜角θsを演算する(ステップS620C)。次いで、IMU演算精度評価部63Cの演算精度判定部66Cの角度差演算部662Cが、IMU25、26、27、28の演算結果の角度θと傾斜角演算部67の演算結果の傾斜角θsとの差分の絶対値である角度差Δθsを演算し(ステップS630C)、ステップS635に進む。
ステップS635では、第1実施の形態の場合のステップS610と同様な判定を行う。すなわち、車体2、3の動作状態がIMUの角度演算の精度が低下している所定の停止状態であるか否かを動作判定部65が判定する。車体2、3が所定の停止状態である(YES)と動作判定部65が判定した場合には、ステップS640Cに進む。一方、NOと判定した場合には、第1実施の形態の場合と同様に、ステップS660に進む。
ステップS640Cでは、角度差演算部662Cが演算した角度差Δθsが要求角度精度演算部62の許容角度誤差θaよりも大きいか否かを判定する。ステップS640Cにて、角度差Δθsが許容角度誤差θaよりも大きい場合(YESの場合)には、ステップS650に進み、比較判定部663Cは低精度フラグを有効にする。一方、角度差Δθsが許容角度誤差θa以下の場合(NOの場合)には、ステップS660に進み、比較判定部663Bは低精度フラグを無効にする。ステップS650又はステップS660の終了によりステップS60Cの手順が終了する。
次に、本発明の建設機械の第3の実施の形態の作用及び効果について図19を用いて説明する。図19中、太い破線はIMUの演算角度θ(出力値)を、実線はIMU演算精度評価部の傾斜角演算部の演算結果の傾斜角θsを示している。
時刻t3(車体2、3の走行操作が停止された時刻)の直後は車体2、3が振動するので、様々な方向に加速度を生じる。その結果、コントローラ40のIMU演算精度評価部63Cの傾斜角演算部67が演算する傾斜角θsは振動的な振る舞いになる。一方、このとき、IMU25、26、27、28の角度演算では、主に角速度センサ32の検出結果を用いることで演算結果の角度θが振動的になることを抑制している。しかし、IMU25、26、27、28の角度演算では、平滑化の効果によって演算角度θが真値θtrueから乖離してしまう。
車体振動が停止した時刻t4では、振動による加速度が生じないので、傾斜角演算部67の演算結果の傾斜角θsは真値θtrueとほぼ一致している。それに対して、IMU25、26、27、28の演算結果の角度θは、真値θtrueとは異なる値となっている。時刻t4を含む時刻taから時刻tbの間では、振動による加速度が極めて小さいか又は加速度が生じていないので、IMU25、26、27、28の演算結果の角度θの時間的変化が一時的に止まっている。
前述した第2の実施の形態の場合には、時刻taから時刻tbの間において、コントローラ40の演算精度判定部66Bの角度変化量演算部662Bの演算結果の角度変化量δθが角度閾値θth以下となる。このため、演算精度判定部66Bの比較判定部663Bは、IMU25、26、27、28の演算精度が要求精度を満たしていると誤った判定を行ってしまう。
それに対して、第3の実施の形態においては、時刻taから時刻tbの間において、演算精度判定部66Cの角度差演算部662Cの演算結果の角度差Δθsが許容角度誤差θaよりも大きくなっている。したがって、比較判定部663Cは、IMU25、26、27、28の演算精度が要求精度を満たしていないと正しく判定することができる。このように、第3の実施の形態では、第2の実施の形態のような誤判定を抑制することができる。
時刻tc以降は、角度差Δθsが許容角度誤差θaよりも小さくなっているので、比較判定部663CはIMU25、26、27、28の演算精度が要求精度を満たしていると正しく判定することができる。
上述した本発明の建設機械の第3の実施の形態によれば、前述した第2の実施の形態と同様に、車体2、3が停止状態であっても、IMU25、26、27、28の角度演算の精度が要求精度を満たしていない場合には、コントローラ40がフロント作業装置1の操作支援の停止または警告を講じるので、フロント作業装置1の操作支援の実行の際に不正確な姿勢情報が利用されることを抑制することができる。
また、本実施の形態においては、コントローラ40の要求精度演算が第2要求精度として角度の次元の許容誤差である許容角度誤差θaを演算するものであり、かつ、コントローラ40の精度判定は、IMU25、26、27、28(角度計測装置)により検出された加速度に基づいて基準面に対する角度θsを演算し、コントローラ40が演算した角度θsとIMU25、26、27、28(角度計測装置)が演算した角度θとの差分の絶対値である角度差Δθsを演算し、演算した角度差Δθsを許容角度誤差θaと比較することで行われ、演算した角度差Δθsが許容角度誤差θaよりも大きいときに、IMU25、26、27、28(角度計測装置)の角度演算の精度が第2要求精度を満たしていないと判定するものである。
この構成によれば、IMU25、26、27、28(角度計測装置)の角度演算の精度判定の比較対象を設定するための変換テーブルを高価なセンサを利用して取得した実験データを基に規定する第1の実施の形態の場合と比べると、そのような変換テーブルが不要なので、コントローラ40への実装に大きな工数を必要としない。さらに、IMU25、26、27、28(角度計測装置)の検出結果の加速度を基にコントローラ40で演算した角度θsとIMU25、26、27、28(角度計測装置)の演算結果の角度θとの差分に基づき、IMU25、26、27、28(角度計測装置)の角度演算の精度判定を行うので、IMU25、26、27、28(角度計測装置)の演算結果の低精度であってその時間的変化量が一時的に変化しない場合あっても、簡易な演算で誤りの少ない判定を行うことができる。
[第4の実施の形態]
次に、本発明の建設機械の第4の実施の形態について図20及び図21を用いて説明する。図20は 本発明の建設機械の第4の実施の形態におけるコントローラの機能構成を示すブロック図である。図21は図20に示すコントローラのポジショニング演算部の一部を構成する要求角度精度演算部の機能構成を示すブロック図である。なお、図20及び図21において、図1~図19に示す符号と同符号のものは、同様な部分であるので、その詳細な説明は省略する。
図20及び図21に示す本発明の建設機械の第4の実施の形態が第1の実施の形態に対して相違する点は、コントローラ40のポジショニング演算部51における演算要求角度演算部62Dの機能構成が異なっていることである。第1の実施の形態に係る演算要求角度演算部62(第2及び第3の実施の形態の場合も同様)は、要求精度設定装置19によって設定された要求精度(仕上げ精度としての許容寸法誤差)に対してIMUの角度演算に対する要求精度(許容角度誤差)を演算するものである。しかしながら、マシンガイダンスが提供する油圧ショベルの姿勢情報は、測位システム35の位置情報とIMU25、26、27、28の角度情報の両方で定まるものである。そのため、IMUの演算角度が正確であっても、測位システム35からの位置情報が不正確な場合には、マシンガイダンスが提供する姿勢情報が不正確なものになってしまう懸念がある。この観点から、本実施の形態における要求角度演算部62Dは、測位システム35の位置情報の精度を考慮してIMU25、26、27、28の角度演算の要求精度を設定するようにしたものである。
具体的には、要求角度精度演算部62Dは、第1の実施の形態と同様な誤差変換テーブル621に加えて、要求精度設定装置19により設定された第1要求精度(許容寸法誤差)に対して、GNSS受信機38の測位演算の位置や速度の分散値(演算誤差に対応する値)を用いてIMU25、26、27、28の演算で補償すべき要求精度を算出する構成を備えている。すなわち、要求角度精度演算部62Dは、GNSS受信機38の測位演算の誤差が大きい場合には、その分、IMU25、26、27、28の角度演算の要求精度を高めるように調整するものである。
測位システム35では、衛星の測位信号の受信環境が良好で、かつ、RTK測位が実行されている場合であっても、測位演算の標準偏差(分散σ2の平方根)は2cm程度となる。したがって、要求精度設定装置19の要求精度(許容寸法誤差)に対して測位演算の標準偏差(分散の平方根)をそのまま利用することは難しい。なぜなら、仕上げ作業時の要求精度が2cmに設定された場合、要求精度設定装置19の要求精度から測位演算の標準偏差を単純に減算すると、IMU25、26、27、28の角度演算で補償すべき寸法精度は0cmとなるので、IMU25、26、27、28の角度演算で誤差を全く許容しないことになってしまう。
そこで、要求角度精度演算部62Dは、GNSS受信機38の測位演算の分散値を調整寸法に変換する変換テーブル624を備えている。調整寸法は、IMU25、26、27、28の角度演算において、GNSS受信機38の測位演算の誤差に対して調整すべき寸法の次元の許容誤差の大きさを示している。変換テーブル624は、測位演算の分散値が所定値σ2
th以下の場合には調整寸法が0であると共に、当該分散値が所定値σ2
thよりも大きい場合には、分散値が大きくなるにしたがって調整寸法が大きくなる特性を有している。つまり、測位システム35の測位状態が良好であれば、調整寸法が0cmに設定される。一方、測位状態が悪化して測位演算の分散値が大きくなると、調整寸法が分散値の大きさに応じた値となる。
また、要求角度精度演算部62Dは、要求精度設定装置19で設定された許容寸法誤差から変換テーブル624で設定された調整寸法を減算することで、IMU25、26、27、28の角度演算に対する要求精度を調整する許容誤差調整部625を備えている。許容誤差調整部625は、GNSS受信機38の位置情報の誤差に応じて、IMU25、26、27、28の角度演算に対する寸法の次元の要求精度である許容寸法誤差を演算するものである。許容誤差調整部625は、演算結果の許容寸法誤差を変換テーブル621へ出力する。もし、測位システム35の測位演算に利用可能な衛星数が変化して測位演算の分散値が所定値σ2
th以上となった場合において、調整寸法として1cmを出力したとする。要求精度設定装置19によって第1要求精度(許容寸法誤差)が2cmに設定されている場合には、許容誤差調整部625の出力は1cmになる。許容誤差調整部625の出力が0cm以下となった場合には、IMU25、26、27、28の演算精度は要求精度を達成することができない。そこで、モニタ表示制御部53(ガイダンス実行部531)に対して警告表示の実行を指令するように許容誤差調整部625を構成することが可能である。
なお、変換テーブル621は、第1の実施の形態の変換テーブルと同様であり、許容誤差調整部625からの許容寸法誤差に応じて許容角度誤差を設定する。設定した許容角度誤差はIMU演算精度評価部63へ出力される。
上述した本発明の建設機械の第4の実施の形態によれば、前述した第1の実施の形態と同様に、車体2、3が停止状態であっても、IMU25、26、27、28の角度演算の精度が要求精度を満たしていない場合には、コントローラ40がフロント作業装置1の操作支援の停止または警告を講じるので、フロント作業装置1の操作支援の実行の際に不正確な姿勢情報が利用されることを抑制することができる。
また、本実施の形態に係る油圧ショベル(建設機械)は、車体2、3に取り付けられ、複数の衛星からの測位信号を受信するGNSSアンテナ36、37(受信装置)と、GNSSアンテナ36、37(受信装置)が受信した複数の衛星からの測位信号を基に車体2、3の位置及び車体2、3の位置の分散値を演算するGNSS受信機38(測位演算装置)とを更に備えている。さらに、コントローラ40の要求精度演算は、第1要求精度として寸法の次元の精度が設定されている場合において、車体2、3の位置の分散値が所定値σ2
thよりも大きい場合に車体2、3の位置の分散値が高くなるにしたがって調整寸法が大きくなるように予め規定された変換テーブル624を用いて、GNSS受信機38(測位演算装置)により演算された車体2、3の位置の分散値から調整寸法を設定し、第1要求精度から設定された調整寸法を減算することで、IMU25、26、27、28(角度計測装置)の角度演算に対する寸法の次元の要求精度である許容寸法誤差を演算する許容寸法誤差演算を行い、許容寸法誤差が大きくなるにしたがって第2要求精度が低くなるように予め規定された変換テーブル621を用いて、許容誤差演算により演算された許容寸法誤差から第2要求精度を演算するものである。
この構成によれば、操作支援に対して設定された第1要求精度に対して、GNSS受信機38(測位演算装置)の演算結果の位置の分散値に応じて設定した調整寸法を減算した結果を基に第2要求精度を設定するので、GNSS受信機38(測位演算装置)の位置情報の演算誤差の大小に応じてIMU25、26、27、28(角度計測装置)の角度演算の要求精度の高低を調整することができる。GNSS受信機38(測位演算装置)の位置情報が低精度のときには、IMU25、26、27、28(角度計測装置)の角度演算の要求精度を厳しくすることで、操作支援の実行の際に不正確な姿勢情報の利用を更に抑制することができる。
[第5の実施の形態]
次に、本発明の建設機械の第5の実施の形態について図3及び図22を用いて説明する。図22は本発明の建設機械の第5の実施の形態におけるコントローラの機能構成を示すブロック図である。なお、図22において、図1~図21に示す符号と同符号のものは、同様な部分であるので、その詳細な説明は省略する。
図22に示す本発明の建設機械の第5の実施の形態が第2の実施の形態に対して相違する点は、コントローラ40のポジショニング演算部51におけるIMU演算精度評価部63Eの演算精度の判定結果が油圧システム制御部54へ出力されていること、及び、その演算精度の判定結果に応じて油圧システム制御部54の制御を変更することである。
図3の下段図に示すように、車体の走行動作又は旋回動作が開始された直後(時刻t1の直後)では、IMUの演算角度の誤差は大きくない。しかし、その動作が継続されると、IMUのセンサバイアスの影響により演算角度の誤差が徐々に増加する。逆に、その動作が継続さなければ、IMUの演算精度は要求精度を逸脱することないので、作業継続が可能である。
そこで、本実施の形態においては、車体2、3の走行動作又は旋回動作によってIMU25、26、27、28の演算精度が要求精度を逸脱すると、IMU25、26、27、28の演算精度の低下の要因である当該走行動作又は旋回動作を直ちに停止するようにする。具体的には、IMU演算精度評価部63Eの動作判断部65Eによって走行又は旋回の動作が或る所定の期間以上継続していると判定された場合において、IMU25、26、27、28の角度演算の精度が要求精度を満たしていないとIMU演算精度評価部63Eが評価したときに、コントローラ40の油圧システム制御部54は、当該動作を停止させるように油圧システムを制御する。動作判断部65Eの判定は、例えば、図8に示すフローチャートのステップS50(ステップS510~S570)の処理を実行することで基本的に可能である。ただし、ステップS570において、動作判定部65Eは、制御サイクルの継続中に走行フラグの有効が所定の期間以上継続しているか否かを判定すると共に、旋回フラグの有効が所定の期間以上継続しているか否かを判定するように構成すればよい。動作判定部65Eは、走行フラグの有効の継続の有無の判定及び旋回フラグの有効の継続の有無の判定に対してOR処理を行うことで、車体2、3の動作している状態が所定の期間以上継続していることを示す情報を1つの信号に統合する。
なお、走行及び旋回の動作を自動的に停止させると、オペレータの操作と油圧ショベルの動作が一致しない状況が生じ得る。したがって、本制御は、タブレット端末などによって任意のタイミングで有効と無効の切替が可能である構成が望ましい。
上述した本発明の建設機械の第5の実施の形態によれば、前述した第2の実施の形態と同様な効果を得ることができる。
また、本実施の形態に係るコントローラ40は、さらに、IMU25、26、27、28(角度計測装置)の検出結果に基づいて車体2、3の動作している状態が所定の期間以上継続しているか否かを判定する動作継続判定を行い、車体2、3の動作している状態が所定の期間以上継続していると判定した場合、且つ、IMU25、26、27、28(角度計測装置)の角度演算の精度が第2要求精度を満たしていないと判定した場合には、車体2、3の動作を停止させるように構成されている。
この構成によれば、IMU25、26、27、28(角度計測装置)の角度演算の誤差が大きくなる前にIMU25、26、27、28(角度計測装置)の演算精度の低下の要因である動作を停止させることで、正確な姿勢情報を使用したマシンガイダンスを実行し直すことが可能である。
[第6の実施の形態]
次に、本発明の建設機械の第6の実施の形態について図23を用いて説明する。図23は本発明の建設機械の第6の実施の形態におけるコントローラの機能構成を示すブロック図である。なお、図23において、図1~図22に示す符号と同符号のものは、同様な部分であるので、その詳細な説明は省略する。
図23に示す本発明の建設機械の第6の実施の形態が第1の実施の形態に対して相違する点は、コントローラ40のポジショニング演算部51における要求角度精度演算部62Fが施工管理システム100で管理している施工情報に基づいて第2要求精度である許容角度誤差を演算することである。施工管理システム100は、例えば、施工情報などの現場の施工の進捗状態を管理するクラウドシステムである。施工情報は、設計情報として寸法の次元の要求精度である許容寸法誤差を含んでいる。
要求角度精度演算部62Fは、要求精度設定装置19からの入力がない場合には、施工管理システム100から施工目標面演算に入力された施工情報に含まれる要求精度を基にIMU25、26、27、28の角度演算に対する角度の次元の要求精度の演算を実行する。コントローラ40は、施工管理システム100が管理している施工の進捗状況に応じて、施工情報に含まれる要求精度(第1要求精度)を変更するように構成することが可能である。例えば、施工管理システム100が管理している施工の進捗状態が進行するほど、設計情報としての許容寸法誤差を小さくする(要求精度を高める)ように変更する。例えば、施工開始直後では、掘削目標面に対して土砂が数十cm上まで存在する状態なので、粗掘削の設定値(例えば、10cm)が自動的に設定され、施工が進むにつれて徐々に仕上げ掘削の設定値(例えば、2cm)へと切り替わるようにする。
第1~第5の実施の形態においては、オペレータ自身の操作によって要求精度設定装置19を介して第1要求精度(許容寸法誤差)が設定されるように構成されている。このような構成では、粗掘削や仕上げ掘削などの操作に応じてオペレータが要求精度を変更する必要があるので、オペレータの操作が煩雑になる。
それに対して、本実施の形態においては、コントローラ40が、現場の施工の進捗状態を管理する施工管理システム100で管理されている施工情報に含まれている要求精度を第1要求精度として施工管理システム100から取り込み、施工管理システム100によって管理されている施工の進捗状態が進行するにつれて第1要求精度を高めていくように構成されている。
この構成によれば、オペレータの操作によらずに第1要求精度が設定されるので、オペレータの操作の手間を軽減することができる。また、コントローラ40が施工の進捗状況に応じて第1要求精度を自動的に変更するので、オペレータが粗掘削や仕上げ掘削などの操作に応じて要求寸法精度を設定し直す必要がなく、オペレータの操作の手間を軽減することができる。
上述した本発明の建設機械の第6の実施の形態によれば、前述した第1の実施の形態と同様な効果を得ることができる。
[その他の実施の形態]
なお、上述した実施の形態においては、本発明を油圧ショベルに適用した例を示したが、本発明はIMUの演算結果の角度情報を基に制御する各種の建設機械に広く適用することができる。
また、本発明は本実施の形態に限られるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記した実施形態は本発明をわかり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。ある実施形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることも可能である。