JP7007590B2 - 電極、腐食解析装置および腐食解析方法 - Google Patents
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Description
本発明は、地中に埋設された金属材料の腐食を解析する技術に関する。
我々の生活を支えるインフラ設備は、高度経済成長期以降のおよそ20年間に大量にかつ急速に整備されてきた。そのため、2030年には建設後50年を経過する設備が全体の半数以上を占めることから、今後見込まれる老朽化設備はますます増加すると懸念されている。また、インフラ設備の維持管理を確実に遂行する上で不可欠な熟練技術者の就労人口が急速に減少しており、メンテナンスの許容量は減少の一途をたどっている。以上から、インフラ設備の持続的維持が困難になると危惧されている。
この状況に対し、設備の劣化を予測することができれば、どの設備に対し、いつ、どういった措置を施すべきかを事前に判断することができるため、長期的かつ効率的な保全計画を策定することができる。
設備の劣化を予測・推定するには、統計的手法が一般的に用いられる。統計的手法は膨大な設備の点検データから劣化過程の背後に存在する規則性をモデル化することを特徴としており、設備全体の平均的な劣化現象を把握することができる(非特許文献1)。日々の点検によって点検データが豊富に蓄積された架空設備については、前記統計的手法を用いた劣化予測が効果的である。しかしながら、地中埋設された設備は、直接視認することができないため点検データを容易に入手することができず、統計解析に堪え得るデータの蓄積がなされていない場合がほとんどである。
地中埋設された設備として、水道およびガスのパイプライン、電力用ケーブル管路、地下タンク、使用済核燃料のオーバーパック材、鋼管柱、支線アンカ等が挙げられ、鋼材をはじめとする金属材料が極めて多く使用されている。地中に埋設された金属材料は、土壌腐食によって劣化が進行する。土壌腐食は、金属材料が土壌と接する界面で錆を生じながら、部材の厚みが減る現象である。地中埋設された設備の劣化を予測するためには、材料の観点から腐食メカニズムを解明し、腐食進行モデル(腐食速度式)を構築する手法が効果的である。
腐食メカニズムを解明する上で、最も重要な要素の一つとして腐食表面のリアルタイム解析が挙げられる。各種顕微鏡を用いたin situ解析手法の発展により、局部腐食の発生メカニズム解明に向けた研究が大きく進展した例が過去に存在する(非特許文献2)。
貝戸 清之, 杉崎 光一, 小林 潔司, "事前の主観的情報が劣化予測結果のベイズ更新に及ぼす影響", 土木学会, 構造工学論文集, Vol. 53A, pp. 775-783 (2007)
原 信義, "局部腐食研究の進歩と研究", 材料と環境, Vol. 63, pp. 132-137 (2014)
村井 秀征, 柏田 歩, 松田 清美, "pH応答性キトサンゲルの膨潤特性と薬物号出挙動", 第56回構文学会年次大会, Vol. 56, pp. 1749-1750 (2007)
崎山 高明, "高分子ゲルの膨潤特性とその制御", 日本食品工学会誌, Vol. 12, No. 2, pp. 47-53 (2011)
服部 弥江, 仲西 正, "PEOゲルの膨潤に対する塩効果", 生活工学研究, Vol. 4, No. 2, pp.274-277 (2002)
辻野 文三, 沖 猛雄, "土壌中における鋼の腐食挙動とそのモニタリング", 表面技術, Vol.40, No.5, pp.707-708(1989)
山本 悟, 竹子 賢士郎, 高谷 哲, "コンクリート中鋼材の腐食速度測定方法(CIPE法)の開発", さび, 148号, pp. 2-8 (2015)
宮田 義一, 朝倉 祝治, "電気化学的手法を中心とした土壌腐食計測(その1)", 材料と環境, Vol. 46, pp.541-551 (1997)
原 信義, "ステンレス鋼の不働態と局部腐食研究の進歩", Materia Japan, Vol. 55, No. 5, pp. 207-214 (2016)
従来のリアルタイム解析は、大気中もしくは水中の腐食を想定したものであり、観察は水溶液中で実施されることがほとんどである。一方で、土壌に埋設された金属材料を対象にリアルタイム解析を実施した例は、まだ無い。土壌中に埋設された金属表面は土粒子が遮蔽物となるため、そもそも視認することができずリアルタイム解析が不可能である。
土壌中の腐食は、大気中または水中とは異なり、固相(土)・液相(水)・気相(空気)が共存する特殊な環境下で発生する。土壌中の腐食は、水中の腐食と同様に、金属材料表面と水の界面とで発生すると考えられている。しかしながら、土粒子と金属表面とが接する領域、土粒子と金属表面の細孔に毛細管現象で捕捉された水が存在する領域、土粒子間隙に捕捉された空気と金属表面とが接する領域等において、土壌腐食が発生及び進行する過程を、リアルタイムで解析した例は今までに存在しない。
また、電気化学的な測定手法を用いた場合、金属表面全体の平均腐食速度が導出される。そのため、局所的に1点のみで腐食が進行している金属に対して電気化学的測定を実施すると、導出される腐食速度は小さく見積られてしまう。この場合、腐食リスクは小さいと判定される可能性が高いことから、局部腐食で発生した穴あき等による設備の故障リスクを見逃す恐れが生じる。
しかしながら、地中に埋設された金属材料に対して、腐食表面のリアルタイム解析を適用することは非常に困難である。なぜなら金属材料を覆う土粒子の存在によって、金属材料の表面を目視で観察することができないからである。
本発明は、この課題に鑑みてなされたものであり、地中に埋設された金属材料の土壌腐食をリアルタイム解析可能な技術を提供することを目的とする。
本発明の一態様に係る電極は、埋設金属材料の腐食をリアルタイム解析するための電極であって、金属材料から成る金属部と、前記金属部の露出面以外を被覆し固定する金属固定部と、前記露出面に接するように配置される複数の粒子と、複数の前記粒子を覆い、前記露出面と前記金属固定部に密着する膠化体部と、前記金属部との電気的導通を確保する導通部とを備え、複数の前記粒子および前記膠化体部は、光を透過する。
また、本発明の一態様に係る腐食解析装置は、前記電極と、複数の前記粒子と前記膠化体部が配置された方向から前記露出面を撮影する撮影部と、前記導通部を介して前記電極と接続し、前記電極の電気化学測定を行う電気化学測定部と、前記撮影部の撮影画像および前記電気化学測定部の測定結果を用いて前記金属部の腐食速度を算出する解析部と、を備える。
また、本発明の一態様に係る腐食解析装置は、前記腐食解析装置が行う腐食解析方法であって、前記金属部の露出面を撮影する撮影ステップと、前記電極の電気化学測定を前記撮影ステップと並行して行う電気化学測定ステップと、前記撮影ステップの撮影画像および前記電気化学測定ステップの測定結果を用いて、前記金属部の腐食速度を算出するステップと、を行う。
本発明によれば、地中に埋設された金属材料の土壌腐食をリアルタイム解析可能な技術を提供することができる。
土壌環境は固相・液相・気相の三相が共存する複雑な環境である。土壌中に埋設された金属材料の腐食は、基本的に大気中及び水溶液中と同じ下記式(A1)および(A2)の反応に基づき進行すると言われている。
Fe→Fe2++2e- (A1)
O2+2H2O+4e-→4OH- (A2)
しかしながら、埋設された金属材料の腐食は、大気中及び水溶液中とは異なり、固相(土粒子)が存在することによって様々な金属表面状態が存在する。例えば、土粒子が金属表面と接する領域、水が金属表面と接する領域、土粒子と金属表面とが接する近傍の間隙中に毛細管現象によって補足された水が存在する領域、空気と金属表面が接する領域等の金属表面状態が存在する。このような各領域で、腐食反応に必要な水の乾燥挙動、土粒子の充填度による酸素濃度等が異なることが想定され、各領域において腐食の進み具合はそれぞれ違うと考えられる。
O2+2H2O+4e-→4OH- (A2)
しかしながら、埋設された金属材料の腐食は、大気中及び水溶液中とは異なり、固相(土粒子)が存在することによって様々な金属表面状態が存在する。例えば、土粒子が金属表面と接する領域、水が金属表面と接する領域、土粒子と金属表面とが接する近傍の間隙中に毛細管現象によって補足された水が存在する領域、空気と金属表面が接する領域等の金属表面状態が存在する。このような各領域で、腐食反応に必要な水の乾燥挙動、土粒子の充填度による酸素濃度等が異なることが想定され、各領域において腐食の進み具合はそれぞれ違うと考えられる。
電気化学的に腐食速度を算出した場合、得られる結果は金属表面上で発生する腐食反応の総和となる。従って、前記各領域における腐食速度の違いを評価することができない。なお、前記領域において、腐食の進行が速い領域を「活性領域」、腐食の進行が遅い領域を「不活性領域」とする。
電気化学的に算出した腐食速度が小さい値の場合、2つの腐食パターン(腐食モード)が考えられる。第1の腐食パターンは、金属表面全面が比較的遅い速度で全面腐食するパターンである。第2の腐食パターンは、ある一部分の極小面積のみが局部的に腐食するパターンである。
しかしながら、電気化学的な測定のみを実施した場合、腐食リスクが小さいと判定されてしまう。これにより、第2の腐食パターンに該当する、実際の設備(埋設金属材料)に対して、活性領域における穴あきを見逃す可能性がある。例えば水道管、ガス管、地下タンク等の設備の場合、穴あきが発生すると重大な事故に発展しかねない。これは、埋設された金属材料の腐食が、どの様に発生し進行するかが未だ解明されていないことに起因する。
そこで、金属表面のリアルタイム解析が挙げられる。金属表面で発生する腐食を直接in situ(その場)観察することができれば、金属表面上でどの部分が活性領域または不活性領域に該当するかを解明することが可能である。また、活性領域の発生箇所を特定することができれば、土壌腐食のメカニズム解明にも大きく貢献することが可能である。金属表面のリアルタイム解析は、電気化学測定と同時に用いることができ、画像によるin situ観察と電気化学的な定量評価を組み合わせることで信頼度の高い土壌腐食の評価方法を確立することができる。
しかしながら、地中に埋設された金属材料に対して金属表面のリアルタイム解析を適用することは非常に困難である。なぜなら金属材料を覆う土粒子の存在によって、金属表面を目視で観察することができないからである。本実施形態では、固相として光透過性粒子を用い、更に光透過性粒子と金属表面との接触を担保しつつ腐食反応に必要な水を供給する液相の役割を担う光透過性膠化体を用いることで土壌腐食が発生する表面状態を模擬し、地中に埋設された金属材料の腐食をリアルタイムで解析することが可能な電極及び装置を提供する。
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。複数の図面中同一のものには同じ参照符号を付与する。
<電極の構成>
図1は、本発明の実施形態に係る、埋設金属材料の腐食をリアルタイム解析するための電極10(リアルタイム解析用電極)の構成例を模式的に示す構成図である。図1(a)は、電極10を上から見た平面図である。図1(b)は、図1(a)の電極10を図示するA-Aの線で切断した断面図である。
図1は、本発明の実施形態に係る、埋設金属材料の腐食をリアルタイム解析するための電極10(リアルタイム解析用電極)の構成例を模式的に示す構成図である。図1(a)は、電極10を上から見た平面図である。図1(b)は、図1(a)の電極10を図示するA-Aの線で切断した断面図である。
図1に示す電極10は、金属部11と、複数の光透過性粒子12と、光透過性膠化体部13と、金属固定部14と、導通部15とを少なくとも1つずつ備える。
金属部11には、腐食をリアルタイムで解析したい対象の金属材料(金属)と同種の金属材料から成る。金属部11は、1つの露出面111を除いた全ての面(部分)が金属固定部14により被覆されている。なお、図示する金属部11は、直方体であるが、金属部11の形状は、露出面となる1つの平面を備えるものであればよく、直方体に限定されない。
金属部11の露出面は、金属固定部14に覆われていない平面の部分である。金属部11の寸法は、限定しない。ただし、腐食試験を実施する金属部11の露出面の面積は、把握しておく必要がある。露出面の面積を把握することで、電気化学測定の結果から腐食速度を算出することができる。
金属部11の露出面は、リアルタイム解析時に表面状態の変化を詳細に観察するために、鏡面研磨を実施してもよい。例えば、露出面は、耐水研磨紙を用い、最終的に粒度#1500まで研磨する。研磨は、粒度の粗い研磨紙から順に実施し、例えば粒度#220、#320、#800、#1500の順に行う。研磨は、摩擦熱による表面状態の変化を抑えるため、常に水をかけながら実施しても良い。
さらに、粒度#1500まで研磨した後に、研磨剤を塗ったクロスで露出面をバフ研磨すると、きれいな鏡面を得ることができる。粒度#1500よりも細かい研磨紙を使用すれば、さらに良い鏡面を作成することが可能となる。
複数の光透過性粒子12は、金属部11の露出面に接するように配置される。複数の光透過性粒子12は、土粒子の役割を担う。光透過性粒子12は、金属部11の露出面を目視で観察することができるように、光を透過する材料から成る。また、金属部11の露出面を目視で観察することができる程度の光透過性を保持するため、露出面に接する光透過性粒子12は1層で形成するのが好ましい。ただし、目視で観察することが可能であれば光透過性粒子12は複数層であってもよい。
光透過性粒子12には、例えばガラスビーズ、セラミックス粒子等を使用することができる。ただし、土粒子の構成元素は、ケイ素、アルミニウム、鉄、カルシウム、ナトリウム、マグネシウムの順で多く含まれているため、光透過性粒子部12には、ケイ素から成るガラスビーズを使用することが好ましい。
光透過性粒子12の粒子径は、任意に定めることができる。土壌腐食において土の粒子径は、金属表面に存在する水と酸素の状態を決定する重要な因子であることから、異なる粒子径の複数の光透過性粒子12を用いて、腐食のリアルタイム解析を実施することが好ましい。
例えば、土壌腐食の進行が極端に速い土壌環境が存在する場合、その原因を解明するために現地の土壌を採取し、粒子径分布測定から得られた結果に基づき粒子径を決定しても良い。粒子径分布を測定する具体的な手法としては、例えばJIS A 1204:2009に記載の土の粒度試験方法を採用しても良いし、レーザー回折/散乱式粒度分析法を採用しても良い。
ただし、JISに記載の土の粒度試験方法では、75μm以上はふるい分析を、75μm未満は沈降分析を適用しなければならず、結果が得られるまで長時間を要することに加え、分析には500mL超の土壌を必要とする。レーザー回折/散乱式粒度分析法では、測定に要する時間は数十秒と非常に短時間であることに加え、分析に必要な土壌は数mL用意できれば良い。したがって、粒子径分布測定は、レーザー回折/散乱式粒度分析法を適用することが好ましい。
なお、土壌の粒子径分布範囲が広く、かつ土壌の混合が不十分な場合、サンプリング方法によっては正しい結果が得られない可能性がある。そのため、土壌は十分に混合したうえで複数のサンプリングデータを取得し、これらを平均化したものを最終的な測定結果とするのが好ましい。
このようにして得られた粒子径分布に基づいて、大小さまざまな粒子径の複数の光透過性粒子12(ガラスビーズ等)を混合し、腐食のリアルタイム解析に適用することで、土壌腐食の進行が極端に速い原因の解明が可能になると考えられる。
光透過性膠化体13は、金属部11の露出面と光透過性粒子12とを覆い、かつ、金属部11(露出面)および金属固定部14に密着する状態で配置される。光透過性膠化体13は、金属部11の露出面と光透過性粒子12との密着性を保持しつつ、腐食反応に必要な水を露出面に供給する役割を担うため含水している。また、本実施形態の光透過性膠化体13は、金属部11の露出面を目視で観察することができるように、光を透過する材料から成る。
膠化体とは、高分子が架橋剤によって三次元網目構造を形成し、網目内部に溶液を包摂して膨潤したものである。膠化体は、ゲルもしくは高分子ゲルとも呼ばれる。膠化体は、固体とほぼ同じ力学的性質を示しつつ、組成はほぼ液体である。このことから、膠化体は、複数の光透過性粒子12を露出面に固定し、露出面への水供給を同時に果たすことができる。光透過性膠化体部13で使用する高分子ゲルとして、例えばポリアクリル酸ゲル、ポリヒドロキシエチルメタクリレートゲルなどが挙げられる。
膠化体の高分子架橋構造の網目内部に包摂する溶液として、純水以外にも塩水、酸性溶液、塩基性溶液等を用いることで、これら溶液の違いが金属の土壌腐食に与える影響を評価することができる。その際、膠化体が、pH、イオン強度、溶液組成などの環境条件に対してどのような膨潤挙動を示すか把握し、条件に応じて高分子材料を選定しなければならない。
例えば、ポリアクリル酸ゲルおよびポリヒドロキシエチルメタクリレートゲルは、溶液に純水を用いることで膨潤しゲル化するが、イオン強度が高いまたはpHが低い溶液を使用すると膨潤率が減少し膠化体としての機能を発揮することができない。
例えば、pHの低い溶液で評価を行う場合、アミノ基をもつキトサンにポリビニルピロリドン(PVP)を導入した半相互侵入高分子網目ゲルを使用することができる(非特許文献3参照)。キトサンは、甲殻類の殻の主成分であるキチンを、加水分解することで得られる。
例えば、pHの高い溶液で評価を行う場合、硫酸をもつk-カラギーナンとキトサンとの複合体ゲル、または、カルボキシル基をもつザンタン(キサンタンガム)とキトサンとの複合体ゲルを使用することができる(非特許文献4参照)。k-カラギーナンは紅藻類から抽出することができ、ザンタンは細菌Xanthomonas campestrisから抽出することができる。
例えば、塩濃度の高い溶液で評価を行う場合、アルカリ金属塩(LiCl)およびアルカリ土類金属塩(MgCl2)を含む溶液で、純水中と同程度あるいはそれ以上の膨潤率を示すポリエチレンオキシド(PEO)ゲルを使用することができる(非特許文献5参照)。
光透過性膠化体部13で用いる高分子ゲルは、外部から金属部11の露出面が目視あるいは各種顕微鏡で確認することができる程度の光透過性を有する必要がある。そのため、露出面に形成される膠化体の厚さは、0.5~1mm程度であることが望ましい。しかしながら、光透過性が確保されるのであれば、膠化体の厚さは0.5~1mmに限定されない。
なお、光透過性粒子12および光透過性膠化体13について、両者の屈折率は同程度であることが望ましい。これにより、金属部11の露出面が観察しやすくなる。
金属固定部14は、金属部11の1つの露出面を除く、全ての面を被覆し固定する。また、金属固定部14は、電気化学測定を実施する際に必須となる導通を確保するため、金属部11と導通部15との接続部を固定する役割を果たす。金属固定部14が露出面を除く金属部11の全ての面を被覆することで、露出面で腐食反応面積を定義し、電気化学測定を用いて正確な腐食速度を算出することが可能となる。
金属固定部14に用いる材料として、金属部11を固定するに十分な強度を有しており、かつ外部の腐食環境に堪え得る材料を選定する必要がある。このような条件を満たすために、金属固定部14には、例えばエポキシ樹脂等を使用してもよい。
金属固定部14が十分な強度を有していない場合、金属部11の露出面の端辺と金属固定部14との間に隙間が生じる。この隙間部で、「すきま腐食」という本来想定していない特殊な腐食パターンが発生すると、正確に金属部11の腐食の評価が行われない。すきま腐食は、局所的に速い腐食速度で進行することから、電気化学測定で得られた結果は、過大評価となることが想定される。また、金属固定部14が外部の腐食環境に堪え得る材料でない場合、金属部11の露出面以外の面が露出すること、金属部11と導通部15との接触が不十分となり電気化学測定が実施できなくなること等のリスクが生じる。
導通部15は、金属部11の露出面を除くいずれかの面と接触している。導通部15は、電気化学測定を実施する際に、金属部11と電気化学測定部との電気的導通を確保する架け橋となる。電気化学測定部については後述する。金属部11と導通部15とは、金属固定部14により固定されるが、両者の接触を確実に確保したい場合は、金属部11と導通部15との接触部を、導電性の粘着テープで固定し、更に上から接着剤で接触部を固定すると良い。
<電極の変形例1>
図1に示す本実施形態の電極10の変形例1として、複数の光透過性膠化体を使用してもよい。
図1に示す本実施形態の電極10の変形例1として、複数の光透過性膠化体を使用してもよい。
図2は、変形例1の電極10Aの構成を模式的に示す構成図である。変形例1の電極10Aは、複数の光透過性膠化体部13A、13Bを有する。図2(a)は、変形例1の電極10Aを上から見た平面図である。図2(b)は、図2(a)の電極10Aを図示するA-Aの線で切断した断面図である。
図示する電極10Aでは、第1の光透過性膠化体部13Aに物理ゲルを、第2の光透過性膠化体部13Bに化学ゲルを用いることができる。物理ゲルは、高分子鎖同士が水素結合、または、ファンデルワールス力などの非共有結合で架橋されたものであり、弱結合ゲルとも呼ばれる。化学ゲルは、共有結合で架橋されたものであり、強結合ゲルとも呼ばれる。
物理ゲルは、比較的流動性が高く液体に近い性質を有するため、金属部11の露出面に水を効率良く供給する。化学ゲルは、比較的流動性が低く、固体に近い性質を有するため、露出面と光透過性粒子12との接着性および密着性を担保する。物理ゲルとして、例えば寒天、ポリスチレンゲル等が挙げられる。化学ゲルとして、例えばポリアクリル酸ゲル、ポリヒドロキシエチルメタクリレートゲル、ポリアクリルアミドゲルなどが挙げられる。
<電極の変形例2>
図1に示す本実施形態の電極10の変形例2として、複数の金属部11を備えることとしてもよい。
図1に示す本実施形態の電極10の変形例2として、複数の金属部11を備えることとしてもよい。
電気化学測定の手法によって、電極の構成は異なる。例えば、三電極法を用いる場合、図1または図2に示す電極10、10Aを使用する。三電極法で使用する電極数は、作用電極、対極、参照電極の3つである。三電極法の作用電極として、解析対象の埋設金属材料と同じ材料の金属部11を有する電極10、10Aを採用する。
二電極法を用いる場合、電極数は2つとなり、変形例2の複数の金属部11を備える電極を採用する。
図3は、変形例2の電極10Bの構成を模式的に示す構成図である。図3に示す電極10Bは、2つの金属部11と、2つの導通部15とを備える点において、図1に示す電極10と異なり、その他は、電極10と同じである。二電極法で用いる電極は、作用電極と対極とである。作用電極と対極とは、2つの金属部11と同義である。
なお、三電極法を用いる場合、参照電極が存在することで金属部11の自然電位を測定することができる。そのため、交流インピーダンス測定のみならず、金属部11の自然電位を要する直流分極抵抗測定およびアノード腐食電流測定を実施することができる。しかし、参照電極の導入により、高濃度の塩溶液が測定系に流出し、光透過性膠化体13の膨潤挙動に影響を与える恐れがある。従って、塩橋を用いる等の対策を講じる必要がある。
一方、二電極法を用いる場合、図3に示す構成で全ての電極をまかなうことができるため測定系がシンプルであり構築し易い。また、参照電極を使用しないため、塩溶液による測定系の汚染を考慮しなくて良い。しかし、三電極法と異なり二電極法では、金属部11の自然電位を測定することができないため、適用可能な電気化学測定は交流インピーダンス測定等に留まることに注意する。リアルタイム腐食解析電極を使用する目的に合わせて電極の仕様や測定手法を選択するのが良い。
<リアルタイム腐食解析装置>
図4は、本実施形態のリアルタイム腐食解析装置の構成例を模式的に示す構造図である。図示するリアルタイム腐食解析装置1は、電極部100と、撮影部20と、電気化学測定部30と、解析部40とを少なくとも1つずつ備える。
図4は、本実施形態のリアルタイム腐食解析装置の構成例を模式的に示す構造図である。図示するリアルタイム腐食解析装置1は、電極部100と、撮影部20と、電気化学測定部30と、解析部40とを少なくとも1つずつ備える。
図5は、電気化学測定に三電極法を用いる場合の電極部100の構成を模式的に示す構造図である。図示する電極部100は、作用電極10,10Aと、対極と、参照電極とを有する。これら3つの電極は、それぞれ電気化学測定部30に電気的に接続される。作用電極10,10Aは、解析対象の埋設金属材料と同じ材料の金属部11を有する電極10、10Aを用いる(図1、図2)。対極は、例えば白金、炭素などを使用してもよい。参照電極は、例えば銀塩化銀電極、飽和甘汞電極(カロメル電極)等を使用しても良い。
図6は、電気化学測定に二電極法を用いる場合の電極部100の構成を模式的に示す構造図である。図示する電極部100は、作用電極および対極として、2つの金属部11および2つの導通部15を備える電極10Bを用いる(図3)。2つの金属部11(作用電極、対極)は、それぞれ電気化学測定部30に電気的に接続される。
図5および図6に示すように、電極10、10A、10Bは、光透過性膠化体部13の乾燥を防ぐために、溶液中に浸漬した状態で静置するのが好ましい。光透過性膠化体部13が乾燥すると、金属部11の露出面に腐食反応に必要な水分の供給ができなくなることに加え、光透過性膠化体部13の収縮で膠化体の光透過率が減少し露出面の観察が不可能になるからである。
また、使用する溶液は光透過性膠化体13を膨潤させる際に使用した溶液と同じものを使用する。光透過性膠化体13に使用した物質によっては、膨潤挙動の異なる溶液と接触することにより収縮が起こり、これにより光透過率が減少する可能性が生じるからである。
なお、光透過性膠化体部13が乾燥しないよう、例えば加湿機能を備える等の機構を有する場合は、光透過性膠化体部13を含む電極10、10A、10Bを、溶液中に浸漬した状態で静置していなくてもよい。
撮影部20は、図5および図6に示すように、光透過性粒子12および光透過性膠化体部13が配置された方向から、金属部11の露出面を撮影する機能を有する。撮影部20が露出面を撮影した画像から、ユーザは、露出面の腐食挙動を観察することができる。例えば、ユーザは、露出面のうち腐食が起きやすい箇所(すなわち活性領域)と、腐食が起きにくい箇所(すなわち不活性領域)とを判別することが可能となる。なお、撮影する画像は、所定の時間の動画であっても、所定のタイミングに撮影した静止画であってもよい。
撮影部20には、目的に応じて適切な分解能を有する撮影装置を用いる。露出面の全体像を観察したい場合、例えば分解能が低いCCDカメラまたは3Dマクロスコープを使用することができる。また、露出面の局所的な腐食を詳細に観察したい場合は、例えば分解能が高い光学顕微鏡または共焦点レーザー顕微鏡を使用することができる。更に、分子レベルで腐食挙動や発生メカニズムを観察する場合は、例えば透過型電子顕微鏡を使用することができる。
ただし、露出面は光透過性粒子12および光透過性膠化体部13で覆われているため、プローブ走査によって表面画像を取得する原子間力顕微鏡および走査型電子顕微鏡は、使用することができない。
また、撮影部20に用いる撮影装置の画像収集時間にも留意する。これは、撮影部20により撮像した画像と、電気化学測定部30による測定結果とを同時に用いる場合、画像収集時間が長いと両者の結果を時刻で比較できないためである。例えば、光学顕微鏡または透過型電子顕微鏡の画像収集時間は10 ms~0.1 sであり、共焦点レーザー顕微鏡は0.1 s~1 sである。撮影と電気化学測定のズレをどの程度まで許容できるかによって使用する撮影装置を選定しても良い。
図7は、撮影部20により撮影された電極10、10A、10B(以下、「電極10」とする)の画像における、金属部11の露出面を拡大した拡大画像の一例を示す図である。図7から、露出面における活性領域Aと不活性領域Bとを判別することができる。これにより、例えば光透過性粒子12と露出面との間に毛細管現象で捕捉された水が存在する領域が活性領域Aになり易く、露出面と気相が接する領域および露出面と光透過性粒子12が接する領域が不活性領域Bになり易い、などの腐食状況に関する情報を把握することができる。このような情報が得られることで、使用する金属の種類および溶液の種類ごとに、活性領域Aおよび不活性領域Bの傾向分析および腐食発生メカニズムの解明に繋がる。
なお、活性領域Aおよび不活性領域Bの面積を算出する際は、光透過性粒子12および光透過性膠化体13の屈折率を予め算出し、両者の屈折率を補正することが望ましい。
電気化学測定部30は、電極部100の電極10と、導通部15を介して接続し、腐食速度および腐食挙動を求めるため、電気化学的手法で、分極抵抗、アノード腐食電流などを測定する。
例えば、電気化学的に腐食速度を算出する場合、腐食進行に伴う反応抵抗(分極抵抗Rp)を測定する手法が一般的に用いられている(非特許文献6参照)。分極抵抗Rpを測定する手法として、例えば直流分極抵抗法、あるいは交流インピーダンス法を用いる。
直流分極抵抗法における測定は、自然電位を基準に金属部11の露出面を荒らさない範囲で、かつ得られる電流-電位特性から抵抗値の算出が可能な電位範囲で電流電位の掃引を実施する。例えば、電気化学測定において金属表面への影響が小さいと考えられている交流インピーダンス法における印加電位である±5 [mV]で実施しても良い。分極抵抗Rpは、得られた電流-電位特性の傾きから算出する。傾きの算出方法は、例えば最小二乗法を用いても良いし、外挿法を用いても良い。
交流インピーダンス法における測定は、高周波数から低周波数に向かって実施し、得られるナイキスト線図の高周波領域および低周波領域にそれぞれ容量性の半円が出現する。
図8は、ナイキスト線図の一例を示す。分極抵抗Rpは、低周波領域の円弧に由来すると考えられるため、低周波領域の半円の開始点から終着点までの横軸(インピーダンス実部, Z’ [Ω・cm2])の値から分極抵抗Rpを算出する。交流印加電位は金属表面への影響が小さいと考えられている±5 [mV]で実施するのが好ましい。
なお、直流分極抵抗法で得られる分極抵抗Rpは、測定系全体の抵抗値が算出されるため、光透過性粒子12の材料によっては、分極抵抗Rpに対して光透過性粒子12の抵抗値が無視できないほど大きく出現する可能性が考えられる。
一方で、交流インピーダンス法では、印加電位の周波数によって測定される抵抗値を分離することが可能なため、例えば図8において、高周波領域の半円は光透過性粒子12(土壌)に由来する抵抗を反映し、低周波領域の半円は分極抵抗Rpのみを反映する。このことから、交流インピーダンス法では、分極抵抗Rpのみを正確に求めることができる。以上により、電気化学測定部30は、交流インピーダンス法を採用して、電気化学測定を行うことが好ましい。
解析部40は、撮影部20で撮影した画像を用いた腐食分布および凹凸形状の解析と、電気化学測定部30の測定結果を用いた腐食速度の算出および腐食挙動の解析と、を実施する。
解析部40は、撮影部20から出力された電極10の露出面の撮影画像(動画または静止画)を、画像解析する。例えば、撮影部20(撮影装置)にCCDカメラ、光学顕微鏡等を用いた場合、解析部40は、色(色調)を用いて撮影画像を解析し、活性領域Aの合計面積を算出する。具体的には、金属部11の露出面に腐食生成物が生じて、色が赤褐色等に変化した部分を活性領域Aと判定し、それ以外の部分を不活性領域Bと判定する。
腐食生成物と考えられるものとして、一般的に赤錆(茶色)、黒錆が考えられる。そのため、解析部40は、撮影画像の色を解析し、赤錆、黒錆などの錆に対応する所定の1つまたは複数の色となっている部分を、活性領域Aとして撮像画像から算出する。あるいは、解析部40は、鉄以外はすべて透明なため、鉄素地以外の色を腐食生成物(錆)と判定し、撮像画像の鉄素地以外の色の部分を活性領域Aとして算出してもよい。
また、撮影部20に3Dマクロスコープ、透過型電子顕微鏡等を用いた場合、例えば、解析部40は、表面の凹凸形状を用いて撮影画像を解析し、腐食によって板厚が減少している部分、すなわち凹部を活性領域Aと判定し、それ以外の部分を不活性領域Bと判定する。このように、解析部40は、撮影画像の凹部を検出する画像解析を行うことで、活性領域Aの合計面積を算出する。
解析部40は、電気化学測定部30から出力された測定結果を受け付け、所定の処理および計算を行う。例えば、解析部40は、直流分極抵抗法、交流インピーダンス法などで分極抵抗Rpが測定された場合、分極抵抗Rpから次式に基づき腐食電流密度icorrを算出する。
ここで、icorrは腐食電流密度[A/cm2]、Kは換算係数[V]、Rpは分極抵抗[Ω・cm2]を示す。ここでは、換算係数Kを予め算出しておく。換算係数Kは、アノード及びカソード分極曲線からターフェル(Tafel)勾配を導いて次式に基づいて算出される(非特許文献7)。
ここで、βaはアノード勾配[V/decade]、βcはカソード勾配[V/decade]を示す。もしくは、ターフェル勾配測定することなく、βa = βc = 0.1 [V/decade]と仮定し、換算係数Kを算出しても良い(非特許文献8)。
次に、解析部40は、次式に基づいて腐食速度rを算出する。
ここで、rは腐食速度[cm/sec]、zはイオン価数、ρは密度[g/cm2]、Fはファラデー定数[C]、Mは原子量[g/mol]を示す。z(イオン価数)、ρ(密度)およびM(原子量)は、電極10の金属部11(作用電極)で使用する材料ごとに、所定の値が存在する。
解析部40は、撮影部20の撮影画像および電気化学測定部30の測定結果を用いて金属部11の腐食速度を算出する。具体的には、撮影部20の撮影画像から金属部11の露出面における活性領域Aの面積を算出し、電気化学測定部30の測定結果から算出される腐食速度を、活性領域Aの面積を用いて補正する。このように、本実施形態では、撮影部20の撮影画像と電気化学測定部30の測定結果とを用いることで、精度の高い腐食量の評価および腐食発生・進行メカニズムの解明に繋がる。
例えば、金属部11の露出面に局所的な腐食が発生している状況で、電気化学測定部30のみを実施した場合、導出される結果は露出面の表面積に対する平均の腐食速度である。このため、孔食等の穴あきが発生する局所的な腐食パターン(腐食モード)に、平均の腐食速度を適用することは意味がない。
本実施形態では、解析部40は、撮影部20の撮影画像から活性領域Aの面積(合計面積)を取得し、活性領域Aの面積に対する腐食速度に補正(換算)する。例えば、電極面積をb(mm2)、腐食速度をx(mm/year)とすと、通常では、電極面積bに対して1年で平均x(mm)が腐食によって金属の厚さが薄くなると判断する。しかし、上記の条件で活性領域Aが、電極面積bに対してa%だった場合、活性領域Aの面積に対する腐食速度に補正する計算式は、以下のとおりである。
x(mm/y)×(b/(ab/100)) = 100x/a(mm/y)
すなわち、活性領域Aが50%だった場合、算出される腐食速度は2x(mm/y)と補正されることになる。
すなわち、活性領域Aが50%だった場合、算出される腐食速度は2x(mm/y)と補正されることになる。
このように、本実施形態の解析部40は、電気化学測定部30の測定結果から算出される腐食速度だけでなく、当該腐食速度を腐食の状況に応じて補正した補正後の腐食速度も解析結果として出力する。また、解析部40は、撮影画像から取得される活性領域Aの割合、および、活性領域Aの分布などの腐食の挙動の推移を経時的に示す画像を出力する。
このような解析部40の解析結果(出力データ)に基づいて、ユーザは、局所的な腐食パターンの場合であっても、妥当性の高い評価を下すことが可能になる。例えば、撮影画像から、土粒子が金属表面と接する領域、および土粒子と金属表面が接す近傍の間隙中に毛細管現象によって補足された水が存在する領域に腐食が多い、等を画像の色解析から判断することができる。
また、撮影部20に3Dマクロスコープ等を用いた場合、解析部40は、撮影画像から活性領域Aである凹部の面積を算出し、前述の計算式を用いて電気化学測定部30の測定結果から算出される腐食速度を補正することができる。これにより、解析部40の解析結果に基づいて、ユーザは、腐食パターンに応じて妥当性の高い評価を下すことが可能になる。
また、解析部40は、撮影画像の凹部の体積から腐食量(腐食減肉量)を算出し、出力する。ユーザは、この腐食量を用いて、電気化学測定部30の解析結果と比較検証することで、より高い確度で腐食の状況を判断することができる。
具体的には、解析部40は、電気化学測定の測定結果に基づいて、腐食反応の起こりにくさ(電荷移動抵抗)を腐食電流に換算し、腐食速度を算出した後、腐食速度の経時変化を時間積分することで腐食量を算出する。このように電気化学測定の測定結果のみを用いて腐食量を算出した場合、実際の金属表面の腐食状況に基づいて腐食量を判断することができない。このため、本実施形態の解析部40は、電気化学測定から算出した腐食量を出力するとともに、当該腐食量の妥当性を補強するために、測定結果撮影画像から算出した腐食量も併せて出力してもよい。このように、ユーザは、電気化学測定で得られた結果の妥当性を検証する上で、3Dマクロスコープの撮影画像から算出される腐食量を用いることができる。
また、ユーザは、解析部40が出力する撮影画像から、腐食形態およびその経時変化(腐食部は円形か、経時変化とともにその円形は大きく成長するか、それとも形状に変化はなく深さ方向に腐食が進行するか等)を把握することができる。
また、電気化学測定部30で例えばアノード分極測定を採用した場合、撮影部20の撮影画像と併せることで、金属部11の露出面における腐食挙動を解析することができる。例えば、撮影部20に光学顕微鏡を導入し、電気化学測定部30でアノード分極測定を行う。
解析部40は、アノード分極測定の測定結果として、電極電位に対する溶解電流密度の経時変化を示す曲線(アノード分極曲線)を出力する。アノード分極曲線は、金属が腐食している(活性態)か、否(不動態)かを判断する材料となる。具体的な電気化学測定では、何もしていない金属の電位(自然電位)を基準として貴(+)の方向に電圧を印加し、溶解電流密度の変化を解析する。
解析部40が、アノード分極曲線および経時的な腐食の状況を示す撮影画像を出力することで、孔食発生のモデル構築およびメカニズム解析に繋がる。具体的には、露出面が溶解するとアノード分極曲線において電流値の上昇が観察される。孔食の起点となるピットが発生したとき、アノード分極曲線の挙動によりその性質を判断することができる。例えば、電流スパイクが現れると再不働態化性ピットが、電流の急上昇が現れると成長性ピットが発生したと考えられる(非特許文献9参照)。
また、同時に撮影部20でピットの生成過程や形態変化等の外観変化を捉えることができる。例えば初期のピットはどのような形態で現れるか、再不働態化ピットが現れた時点で難溶性の腐食生成物が発生したのではないか、成長性ピットが出現しているにも関わらずピットの形態変化が観察できないため深さ方向に孔食が進んでいるのではないか、等の情報を得ることができる。
図9は、本実施形態のリアルタイム腐食解析方法において、腐食速度の算出および腐食挙動の経時的変化を示す画像を出力する処理手順を示す動作フローである。図9に示すように、撮影部20は電極10の露出面の動画撮影を行う(ステップS101)。また、ステップS101と並行して、電気化学測定部30は、電極10の電気化学測定を行う(ステップS102)。
そして、撮影部20および電気化学測定部30で得られた結果は、解析部40に送出され、各種の解析を行うことで、腐食速度および腐食量の算出、経時的な腐食挙動を示す画像を出力する(ステップS13)。これにより、ユーザは、埋設金属材料の腐食をリアルタイム解析することができる。
なお、撮影部20と電気化学測定部30で得られた結果は、解析部40で突合される。そのため、両者を突合する際には、同じ時刻で得られた結果同士で検証を行うため、時刻を記録する媒体はズレの無いよう十分に注意する。例えば、インピーダンス法で腐食速度を算出する場合は一定間隔毎に測定を実施する。この場合、測定間隔は任意に設定することができる。アノード分極測定を行う場合、自然電位から電位が貴の方に掃引する際に、掃引速度を設定する(例えば0.1mV/sec)。何Vまで電位を掃引するかは任意に設定することができ、また何Vまで掃引したかが分かれば掃引速度と併せると測定開始から終了までの時間を紐付けることができる。
本実施形態では、腐食速度を算出する場合、解析部40は、撮影部20の動画から活性領域の面積を、電気化学測定部30の測定結果から分極抵抗を取得し、腐食の状況に応じた腐食速度を導出する。
解析部40から出力される撮影部20の動画から孔食ピットの形態を把握し、解析部40から出力されるアノード分極曲線を用いることで、腐食挙動を評価することができる。
なお、腐食速度の導出および腐食挙動の評価が可能であれば、撮影部20における撮影装置や撮影手法、電気化学測定部30における測定手法や測定様式は本実施形態に限定するものではない。
以上説明した本実施形態の電極は、埋設金属材料の腐食をリアルタイム解析するための電極であって、金属材料から成る金属部と、金属部の1つの露出面以外を被覆し固定する金属固定部と、露出面に接するように配置される複数の粒子と、複数の粒子を覆い露出面と金属固定部に密着する膠化体部と、金属部との電気的導通を確保する導通部とを備え、複数の粒子および膠化体部は光を透過する。
このように、本実施形態の電極は、固相として土粒子を模擬した透過性の高い光透過性粒子と、光透過性粒子と金属表面との接触を担保しつつ腐食反応に必要な水を供給する液相の役割を担う光透過性膠化体(ゲル)とを備える電極である。この電極を用いることで、土壌腐食が発生する表面状態を模擬し、地中に埋設された金属材料の腐食をリアルタイムで解析することが可能となる。
すなわち、本実施形態の電極を用いることで、金属表面(露出面)に発生する腐食を、直接in situ(その場で)観察することができ、金属表面上でどの部分が活性領域または不活性領域に該当するかを解明すること可能である。また、本実施形態の電極により、活性領域の発生箇所を特定することができ、土壌腐食のメカニズム解明にも大きく貢献することが可能である。
また、本実施形態の腐食解析装置によれば、電気化学測定とともに、腐食表面のリアルタイム解析を実施することができ、腐食の実態に見合う適切な評価を下すことが可能となる。すなわち、露出面の撮影画像によるin situ観察と、電気化学的な定量評価とを組み合わせることで、信頼度の高い土壌腐食の解析結果を算出することができ、また、土壌腐食の評価方法の確立につなげることができる。
上記説明したリアルタイム腐食解析装置1の解析部40には、例えば、CPU(Central Processing Unit、プロセッサ)と、メモリと、ストレージ(HDD:Hard Disk Drive、SSD:Solid State Drive)と、通信装置と、入力装置と、出力装置とを備える汎用的なコンピュータシステムを用いることができる。このコンピュータシステムにおいて、CPUがメモリ上にロードされた解析部40用のプログラムを実行することにより、解析部40の各機能が実現される。また、制御部40用のプログラムは、HDD、SSD、USBメモリ、CD-ROM、DVD-ROM、MOなどのコンピュータ読取り可能な記録媒体に記憶することも、ネットワークを介して配信することもできる。
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で数々の変形が可能である。
1 :リアルタイム腐食解析装置
10:電極
11:金属部
12:光透過性粒子
13:光透過性膠化体部
14:金属固定部
15:導通部
20:撮影部
30:電気化学測定部
40:解析部
100:電極部
A :活性領域
B :不活性領域
10:電極
11:金属部
12:光透過性粒子
13:光透過性膠化体部
14:金属固定部
15:導通部
20:撮影部
30:電気化学測定部
40:解析部
100:電極部
A :活性領域
B :不活性領域
Claims (6)
- 埋設金属材料の腐食をリアルタイム解析するための電極であって、
金属材料から成る金属部と、
前記金属部の露出面以外を被覆し固定する金属固定部と、
前記露出面に接するように配置される複数の粒子と、
複数の前記粒子を覆い、前記露出面と前記金属固定部に密着する膠化体部と、
前記金属部との電気的導通を確保する導通部と、を備え、
複数の前記粒子および前記膠化体部は、光を透過すること、
を特徴とする電極。 - 請求項1記載の電極であって、
前記膠化体部は、前記露出面に水分を供給するために含水していること、
を特徴とする電極。 - 請求項1または2に記載の電極であって、
複数の前記金属部と、
複数の前記導通部と、を備えること
を特徴とする電極。 - 請求項1から3のいずれか1項に記載の電極と、
複数の前記粒子と前記膠化体部が配置された方向から前記露出面を撮影する撮影部と、
前記導通部を介して前記電極と接続し、前記電極の電気化学測定を行う電気化学測定部と、
前記撮影部の撮影画像および前記電気化学測定部の測定結果を用いて前記金属部の腐食速度を算出する解析部と、を備えること
を特徴とする腐食解析装置。 - 請求項4に記載の腐食解析装置であって、
前記解析部は、前記撮影画像から前記露出面における腐食の活性領域の面積を算出し、前記電気化学測定部の測定結果から算出される腐食速度を、前記活性領域の面積を用いて補正すること
を特徴とする腐食解析装置。 - 請求項4または5に記載の腐食解析装置が行う腐食解析方法であって、
前記金属部の露出面を撮影する撮影ステップと、
前記電極の電気化学測定を前記撮影ステップと並行して行う電気化学測定ステップと、
前記撮影ステップの撮影画像および前記電気化学測定ステップの測定結果を用いて、前記金属部の腐食速度を算出するステップと、
を行うことを特徴とする腐食解析方法。
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