以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。図1から図7では、同一または類似の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
(第1比較例)
図3は、第1比較例の発電プラント1の構成を示す模式図である。本比較例の発電プラント1は、発電プラント1を制御するプラント制御装置2を備えている。本比較例の発電プラント1は、一軸直結型のC/C発電プラントである。
発電プラント1は、燃料調節弁11と、燃焼器12と、圧縮機13と、ガスタービン14と、回転軸15と、発電機16と、サーボ弁17と、圧縮空気温度センサ18と、出力センサ19と、排熱回収ボイラ21と、ドラム22と、過熱器23と、蒸気タービン31と、復水器32と、加減弁33と、バイパス調節弁34と、メタル温度センサ35と、主蒸気温度センサ36とを備えている。また、圧縮器13は、入口13aと、複数の入口案内翼(IGV:Inlet Guide Vane)13bとを備えており、ガスタービン14は、複数の排ガス温度センサ14aを備えている。
一方、プラント制御装置2は、関数発生器41と、設定器42と、加算器43と、上限制限器44と、下限制限器45と、切替器51と、平均値演算器52と、減算器53と、PID(Proportional-Integral-Derivative)コントローラ54と、下限制限器55と、設定器61と、減算器62と、比較器63と、ミスマッチチャート演算部64と、NOTゲート65と、ANDゲート66とを備えている。これらのブロックは、サーボ弁17の動作を制御することで、IGV13bの開度を制御する開度制御部として機能する。
プラント制御装置2はさらに、燃料調節弁11の動作を制御することで、ガスタービン14の出力を制御するGT(ガスタービン)出力制御部56と、加減弁33の動作(またはバイパス調節弁34の動作)を制御することで、蒸気タービン31の出力を制御するST(蒸気タービン)出力制御部57とを備えている。GT出力制御部56は、第1出力制御部の一例である。ST出力制御部57は、第2出力制御部の一例である。
燃料調節弁11は、燃料配管に設けられている。燃料調節弁11を開くと、燃料配管から燃焼器12に燃料A1が供給される。一方、圧縮器13は、入口13aに設けられたIGV13bを備えている。圧縮機13は、入口13aからIGV13bを介して空気A2を導入し、燃焼器12に圧縮空気A3を供給する。燃焼器12は、燃料A1を圧縮空気A3中の酸素と共に燃焼させ、高温・高圧の燃焼ガスA4を発生させる。
ガスタービン14は、燃焼ガスA4により回転駆動されることで、回転軸15を回転させる。発電機16は、回転軸15に接続されており、回転軸15の回転を利用して発電を行う。ガスタービン14から排出された排ガスA5は、排熱回収ボイラ21に送られる。排ガス温度センサ14aの各々は、ガスタービン14の出口付近で排ガスA5の温度を検出し、温度の検出結果をプラント制御装置2に出力する。排熱回収ボイラ21は、後述するように、排ガスA5の熱を利用して蒸気を生成する。
サーボ弁17は、IGV13bの開度を調節するために使用される。圧縮空気温度センサ18は、圧縮器13の出口付近で圧縮空気A3の温度を検出し、温度の検出結果をプラント制御装置2に出力する。出力センサ19は、発電機16に設けられており、発電機16の電気出力を検出し、出力の検出結果をプラント制御装置2に出力する。発電機16の電気出力は、ガスタービン14の出力(ガスタービン14が外部に与えた仕事)と、蒸気タービン31の出力(蒸気タービン31が外部に与えた仕事)との合計に相当する。
ドラム22と過熱器23は、排熱回収ボイラ21内に設けられており、排熱回収ボイラ21の一部を構成している。ドラム22内の水は、不図示の蒸発器に送られ、蒸発器内で排ガスA5により加熱されることで飽和蒸気となる。飽和蒸気は、過熱器23に送られ、過熱器23内で排ガスA5により過熱されることで過熱蒸気A6となる。排熱回収ボイラ21により生成された過熱蒸気A6は、蒸気配管に排出される。以下、この過熱蒸気A6を主蒸気と呼称する。
蒸気配管は、主配管とバイパス配管とに分岐している。主配管は、蒸気タービン31に接続されており、バイパス配管は、復水器32に接続されている。加減弁33は、主配管に設けられている。バイパス調節弁34は、バイパス配管に設けられている。
加減弁33を開くと、主配管からの主蒸気A6が蒸気タービン31に供給される。蒸気タービン31は、主蒸気A6により回転駆動されることで、ガスタービン14と共に回転軸15を回転させる。蒸気タービン31から排出された主蒸気A7は、復水器32に送られる。
一方、バイパス調節弁34を開くと、バイパス配管からの主蒸気A6が蒸気タービン31をバイパスして復水器32に送られる。復水器32は、主蒸気A6、A7を循環水A8により冷却し、主蒸気A6、A7を水に戻す。循環水A8が海水である場合には、復水器32から排出された循環水A8は海に戻される。
メタル温度センサ35は、蒸気タービン31の第1段内面のメタル温度を検出し、温度の検出結果をプラント制御装置2に出力する。主蒸気温度センサ36は、排熱回収ボイラ21の主蒸気出口付近で主蒸気A6の温度を検出し、温度の検出結果をプラント制御装置2に出力する。
排ガスA5の温度は、燃料A1の供給量や空気A2の流量を調節することで制御可能である。以下、燃料A1の供給量や空気A2の流量の詳細について説明する。
燃料A1の供給量は、燃料調節弁11の開度を制御することで調節される。プラント制御装置2のGT出力制御部56は、燃料調節弁11の開度を制御するための弁制御指令信号を出力することで、燃料A1の供給量を調節する。例えば、燃料A1の供給量が増加すると、燃焼ガスA4の温度が低下し、ガスタービン14の出力値が低下し、排ガスA5の温度が低下する。一方、燃料A1の供給量が減少すると、燃焼ガスA4の温度が上昇し、ガスタービン14の出力値が上昇し、排ガスA5の温度が上昇する。このように、GT出力制御部56は、燃料調節弁11の開度を制御することでガスタービン14の出力値を制御することができ、これにより排ガスA5の温度を制御することができる。
空気A2の流量は、IGV13bの開度を制御することで調節される。IGV13bの開度は、燃料調節弁11の開度と同様に、プラント制御装置2により制御される。圧縮機13は、空気A2をIGV13bを介して吸い込み、空気A2を圧縮して圧縮空気A3を生成する。例えば、IGV13bの開度が増加すると、空気A2の流量が増加し、圧縮空気A3の流量が増加する。この際、圧縮空気A3の温度は、圧縮工程により元の空気A2の温度(ほぼ大気温度)よりも高くなるが、燃焼ガスA4の温度に比べれば非常に低温である。その結果、IGV13bが開度が増加すると、圧縮空気A3の影響が増加して燃焼ガスA4の温度が低下し、排ガスA5の温度が低下する。一方、IGV13bの開度が減少すると、圧縮空気A3の影響が減少して燃焼ガスA4の温度が上昇し、排ガスA5の温度が上昇する。このように、プラント制御装置2は、IGV13bの開度を制御することで、排ガスA5の温度を制御することができる。なお、燃料A1の供給量を一定に保ちつつIGV13bの開度を変化させる場合には、ガスタービン14の出力値はほとんど変化しない。
図4は、第1比較例の蒸気タービン31の構造を示す断面図である。
蒸気タービン31は、複数の動翼を有する回転子31aと、複数の静翼を有する固定子31bと、蒸気流入口31cと、蒸気流出口31dとを備えている。主蒸気A6は、蒸気流入口31cから導入され、蒸気タービン31内を通過し、蒸気流出口31dから主蒸気A7として排出される。
図4は、メタル温度センサ35の設置位置を示している。メタル温度センサ35は、蒸気タービン31の第1段静翼の内面付近に設置されている。よって、メタル温度センサ35は、第1段静翼の内面のメタル温度を検出することができる。
以下、図3を再び参照し、プラント制御装置2の詳細を説明する。
関数発生器41は、ガスタービン14の出力値(以下「GT出力値」と呼ぶ)と、通常時における排ガスA5の温度(以下「排ガス温度」と呼ぶ)との対応関係を示す関数を発生させる。関数発生器41は、GT出力値の測定値B1を出力センサ19から取得し、関数発生器41に設定されたファンクションカーブに従って、測定値B1に対応する排ガス温度の設定値B2を出力する。
なお、関数発生器41は、圧縮空気A3の圧力(以下「圧縮空気圧力」と呼ぶ)と、通常時における排ガス温度との対応関係を示す関数を発生させてもよい。この場合、関数発生器41は、圧縮空気圧力の測定値を取得し、この測定値に対応する排ガス温度の設定値B2を出力する。
設定器42は、起動時における排ガス温度と、蒸気タービン31の第1段内面のメタル温度(以下「メタル温度」と呼ぶ)との間の温度差の設定値ΔTを保持している。加算器43は、メタル温度の測定値B3をメタル温度センサ35から取得し、設定値ΔTを設定器42から取得する。そして、加算器43は、メタル温度の測定値B3に設定値ΔTを加算して、排ガス温度の設定値「B3+ΔT」を出力する。
上限制限器44は、排ガス温度の上限値ULを保持しており、設定値B3+ΔTと上限値ULの小さい方を出力する。下限制限器45は、排ガス温度の下限値LLを保持しており、上限制限器44の出力と下限値LLの大きい方を出力する。よって、下限制限器45は、排ガス温度の設定値B4として、設定値B3+ΔT、上限値UL、および下限値LLのうちの中間値を出力する。これは、排ガス温度の設定値「B3+ΔT」を、上限値ULと下限値LLとの間の値に制限したことを意味する。
なお、本比較例の発電プラント1はコールド起動により起動されるため、メタル温度の測定値B3は低温である。そのため、B3+ΔTも低温となることから、設定値B4は下限値LLとなることが多い。この場合、蒸気タービン31に熱応力が発生しやすいため、プラント制御装置2は以下のようにヒートソーク用のブロックを備えている。
設定器61は、主蒸気A6の温度(以下「主蒸気温度」と呼ぶ)とメタル温度との間の温度差の設定値(30℃)を保持している。減算器62は、メタル温度の測定値B3をメタル温度センサ35から取得し、温度差の設定値を設定器61から取得する。そして、減算器62は、メタル温度の測定値B3から温度差の設定値を減算して、主蒸気温度の設定値D2である「B3-30℃」を出力する。
比較器63は、主蒸気温度の測定値D1を主蒸気温度センサ36から取得し、主蒸気温度の設定値D2を減算器62から取得する。そして、比較器63は、主蒸気温度の測定値D1と設定値D2とを比較し、比較結果に対応する切替信号D3を出力する。
ミスマッチチャート演算部64は、メタル温度の測定値B3をメタル温度センサ35から取得し、メタル温度の測定値B3に基づいて、蒸気タービン31の初負荷ヒートソーク時間D4を演算して出力する。本比較例では、初負荷ヒートソーク時間が90分となる例について後述する。蒸気タービン31の初負荷ヒートソーク運転が初負荷ヒートソーク時間D4だけ継続すると、ミスマッチチャート演算部64は、初負荷ヒートソーク終了信号D5を出力する。
NOTゲート65は、初負荷ヒートソーク終了信号D5をミスマッチチャート演算部64から取得し、初負荷ヒートソーク終了信号D5のNOT演算結果D6を出力する。具体的には、初負荷ヒートソーク終了信号D5がオン(1)のときにはNOT演算結果D6が0になり、初負荷ヒートソーク終了信号D5がオフ(0)のときにはNOT演算結果D6が1になる。
ANDゲート66は、切替信号D3を比較器63から取得し、NOT演算結果D6をNOTゲート65から取得する。そして、ANDゲート66は、切替信号D3とNOT演算結果D6とのAND演算結果を示す切替信号D7を出力する。
切替器51は、通常時における排ガス温度の設定値B2を関数発生器41から取得し、起動時における排ガス温度の設定値B4を下限制限器45から取得し、ANDゲート66からの切替信号D7に応じて排ガス温度の設定値C1を出力する。以下、切替信号D3と切替信号D7の性質を踏まえて、切替器51の動作について説明する。
切替信号D3の指示は、主蒸気温度の測定値D1(X)が設定値D2(Y)まで上昇して、設定値D2(Y)に到達したか否かにより変化する(X≧Y)。よって、切替信号D7の指示は、主蒸気温度の測定値D1が設定値D2に到達したか否かと、蒸気タービン31の初負荷ヒートソーク運転が終了したか否かとにより変化する。図5を参照して後述するように、初負荷ヒートソーク運転が終了するのは、主蒸気温度の測定値D1が設定値D2に到達するよりずっと後であるから、図3の説明は、初負荷ヒートソーク運転が終了する前の状況に限定して行うことにする。よって、図3の説明では、初負荷ヒートソーク終了信号D5は常にオフ(0)であり、切替信号D7の指示は常に切替信号D3の指示に一致する。
よって、測定値D1が設定値D2に到達する前は、切替器51は、設定値C1を通常時における排ガス温度の設定値B2に維持する。一方、測定値D1が設定値D2に到達すると、切替器51は、設定値C1を起動時における排ガス温度の設定値B4に切り替える。設定値C1は、PID制御の設定値(SV値)として使用される。以下、設定値C1をSV値とも表記する。
平均値演算器52は、ガスタービン14内の個々の排ガス温度センサ14aから排ガス温度の測定値C2を取得する。これらの排ガス温度センサ14aは、ガスタービン14の排気部の円周に沿って設置されている。平均値演算器52は、これらの測定値C2の平均値C3を算出して出力する。平均値C3は、PID制御のプロセス値(PV値)として使用される。以下、平均値C3をPV値とも表記する。
減算器53は、排ガス温度のSV値C1を切替器51から取得し、排ガス温度のPV値C3を平均値演算器52から取得する。そして、減算器53は、PV値C3からSV値C1を減算して、排ガス温度のSV値C1とPV値C3との偏差C4を出力する(偏差C4=PV値C3-SV値C1)。
PIDコントローラ54は、減算器53から偏差C4を取得し、偏差C4をゼロに近づけるためのPID制御を行う。PIDコントローラ54から出力される操作量(MV値)C5は、IGV13bの開度(以下「IGV開度」と呼ぶ)である。PIDコントローラ54がMV値C5を変化させると、IGV開度が変化し、排ガス温度が変化する。その結果、排ガス温度のPV値C3がSV値C1に近づくように変化する。
このように、PIDコントローラ54は、排ガス温度をフィードバック制御により制御する。具体的には、PIDコントローラ54は、排ガス温度のSV値C1とPV値C3との偏差C4に基づいてMV値C5を算出し、MV値C5の制御を通じて排ガス温度を制御する。
ただし、IGV開度が過度に小さくなると、燃焼器12内での燃焼に支障がでる可能性がある。そのため、MV値C5は、IGV開度の下限値LL(最小開度)を保持する下限制限器55に入力される。下限制限器55は、修正されたMV値C6として、MV値C5と下限値LLの大きい方を出力する。
プラント制御装置2は、MV値C6を出力してサーボ弁17を駆動し、サーボ弁17の油圧作用によりIGV開度を制御する。その結果、IGV開度がMV値C6に従って変化し、排ガス温度のPV値C3がSV値C1に近づくように変化する。
以下、通常時の排ガス温度の設定値B2と、起動時の排ガス温度の設定値B4との違いについて説明する。
通常時の排ガス温度の設定値B2は例えば、発電プラント1の起動時において、主蒸気温度が所定の条件に到達するまで使用される。一方、起動時の排ガス温度の設定値B4は例えば、発電プラント1の起動時において、主蒸気温度が所定の条件に到達した後に使用される。
[通常時の排ガス温度の設定値B2]
コンバインドサイクル型の発電プラント1の起動時には、排ガス温度を高くして主蒸気A6の生成を積極的に促すことが望ましい。そのため、関数発生器41のファンクションカーブは、排ガス温度が比較的高温になるように設定されるのが一般的である。
よって、排ガス温度の設定値C1が通常時の設定値B2に設定されている場合には、偏差C4はマイナス値に維持され、IGV開度のMV値C6は最小開度に維持される。すなわち、発電プラント1の起動直後には、IGV開度は、GT出力値に関わらず最小開度に維持される。最小開度の値は例えば、30%開度から50%開度の間に設定される。
[起動時の排ガス温度の設定値B4]
一方、起動時の排ガス温度の設定値B4は、主蒸気温度を蒸気タービン31の起動に適した温度に設定するために使用される。具体的には、GT出力値の測定値B1が初負荷に到達した場合に、主蒸気温度をメタル温度に近づけるために、排ガス温度の設定値C1が、通常時の設定値B2から起動時の設定値B4に切り替えられる。設定値B4は通常、メタル温度の測定値B3と温度差の設定値ΔTとの和で与えられる(すなわち、排ガス温度=メタル温度+ΔT)。
これにより、主蒸気温度とメタル温度とのミスマッチが低減される。この状態で蒸気タービン31の通気を行うと、蒸気タービン31に発生する熱応力の少ない好適な主蒸気A6が得られる。設定値ΔTは、例えば30℃である。
ただし、排ガス温度の設定値B4が極端に大きな値や小さな値になると、ガスタービン14や排熱回収ボイラ21の運転に不都合が生じる。そのため、設定値B4は、「メタル温度+ΔT」の値を上限値ULと下限値LLとの間の値に制限することで設定される。
なお、上述の説明では、排ガス温度のSV値C1を設定値B2から設定値B4に切り替える例について説明したが、蒸気タービン31の初負荷ヒートソークの終了時には、逆に排ガス温度のSV値C1が設定値B4から設定値B2に切り替えられる。具体的には、初負荷ヒートソークが終了すると、初負荷ヒートソーク終了信号D5が1になり、NOT演算結果D6が0になるため、切替信号D4の指示が設定値B4でも、切替信号D7の指示は設定値B2になる。よって、初負荷ヒートソークが終了すると、切替器51は、SV値C1を設定値B4から設定値B2に切り替える。このような切替処理の詳細については、図5を参照して説明する。
図5は、第1比較例の発電プラント1の動作を説明するためのグラフである。
[時刻t0]
時刻t0に発電機16が並列されると、GT出力値は、ゼロから初負荷に向かって上昇し始める(波形W1)。これにより、排ガス温度や主蒸気温度も上昇し始める(波形W3、W5)。このとき、主蒸気温度の測定値D1は設定値D2より低いため、排ガス温度のSV値C1は通常時の設定値B2に設定される。また、設定値B2は一般に高温であるため、偏差C4はマイナス値に維持され、IGV開度は最小開度であるP1%に維持される(波形W2)。一方、本比較例ではコールド起動が行われるため、メタル温度は低温である(波形W4)。
[時刻t1]
GT出力制御部56は、時刻t1にGT出力値の設定値を切り替える。よって、GT出力値は、時刻t1に初負荷から第2出力値に向かって上昇し始める(波形W1)。これにより、排ガス温度は、設定値B2まで上昇する(波形W3)。一方、主蒸気温度は上昇し続ける(波形W5)。
[時刻t2]
主蒸気温度が時刻t2にメタル温度-30℃に到達すると(波形W5)、排ガス温度のSV値C1が起動時の設定値B4に切り替えられる。このとき、メタル温度の測定値B3が低温であるため(波形W4)、設定値B4は一般に低温になる。そのため、偏差C4はプラス値になり、IGV開度はP1%からP2%に向かって上昇し始める(波形W2)。これにより、排ガス温度は、設定値B4まで低下する(波形W3)。一方、主蒸気温度は上昇し続ける(波形W5)。開度P1%は第1開度の一例であり、開度P2%は第2開度の一例である。開度P1%、P2%はそれぞれ、GT出力値が第1出力値、第2出力値のときに排ガス温度を設定値B4に維持可能な開度であり、P1%<P2%の関係が成り立つ。なお、GT出力値は、時刻t2以降も第2出力値に維持される(波形W1)。
[時刻t3]
時刻t3に、IGV開度はP2%に到達し、排ガス温度は設定値B4に到達する(波形W2、W3)。また、主蒸気温度は、時刻t3ごろにメタル温度に到達する(波形W5)。そこで、ST出力制御部57は、時刻t3に加減弁33を開いて蒸気タービン31の通気を開始し、加減弁33の開度を徐々に増加させる。こうして、蒸気タービン31が起動され、蒸気タービン31の出力値(以下「ST出力値」と呼ぶ)がゼロからS1(5%)に向かって上昇し始める(波形W7)。
本比較例では、排ガス温度の設定値B4は下限値LLであるため(波形W3)、時刻t3の主蒸気温度は一時的にメタル温度の近傍の値になる(波形W5)。その後、主蒸気温度は排ガス温度を追って上昇していき、主蒸気温度がメタル温度よりも高温となる。ここで、高温の主蒸気に接触する回転軸15(タービンロータ)の表面は高温になる一方で、高温の主蒸気に接触しない回転軸15の内部は低温に維持される。その結果、回転軸15の熱膨張による歪が発生して、蒸気タービン31にはタービンロータボア熱応力(以下「ボア熱応力」と呼ぶ)が発生する。タービンロータボアとは、回転軸15(タービンロータ)に設けられた円筒状の内腔部(ボア)である。時刻t3以降、ボア熱応力は主蒸気温度の上昇に伴って増加していく(波形W6)。
本比較例のガスタービン14と蒸気タービン31は同じ回転軸15に直結されているため、蒸気タービン31の回転数は、ガスタービン14により駆動されて上昇する。具体的には、蒸気タービン31は、時刻t0からガスタービン14により駆動されて定格回転数で運転されており、時刻t3でもこの運転を継続している。時刻t3より前には、加減弁33は全閉しており、主蒸気A6は蒸気タービン31に流入しないため、蒸気タービン31のボア熱応力は発生せずゼロである(波形W6)。
ここで、排ガス温度の設定値B4の下限値LLについて説明する。一般に蒸気タービン31の通気時には、主蒸気温度は、熱応力を低く抑えるためにメタル温度に近いことが望ましい。そのため、本比較例の加算器43は、排ガス温度の理想的な設定値として「B3+ΔT」を出力する。ただし、典型的なコールド起動ではメタル温度は80℃~160℃という低温であり、排ガス温度の理想的な設定値は、定常的に80℃~160℃の近傍になるが、この排ガス温度は、正常な燃焼運転が不可能な低温である。そこで、本比較例の下限値LLは、ガスタービン14の正常な燃焼運転が可能な最も低温の排ガス温度に設定されている。一方、蒸気タービン31の通気は主蒸気温度が一時的にメタル温度の近傍の値になったときに開始されるが、その後、主蒸気温度は排ガス温度を追って上昇していくことを余儀なくされる。その過程で、蒸気タービン31に大きなボア熱応力が発生する。
なお、蒸気タービン31に発生する熱応力には、タービンロータのボアに発生する熱応力や、タービンロータの表面に発生する熱応力がある。主蒸気温度がメタル温度より高温のときには、前者の熱応力の極性はプラス値であり、後者の熱応力の極性はマイナス値である。本比較例では両者の熱応力が問題となるが、図5は代表として前者の熱応力(ボア熱応力)を示している。
[時刻t4]
時刻t4にST出力値は5%負荷(S1)に到達する(波形W7)。そして、蒸気タービン31の初負荷ヒートソーク(以下適宜「初負荷HS」とも略記する)が開始され、ST出力値が時刻t4から90分間だけ5%負荷に保持される。5%というST出力値は、蒸気タービン31の出力値の所定値の一例であり、90分という期間は、蒸気タービン31の出力値を所定値に保持する所定期間の一例である。なお、ここに記載した90分と5%という数値は、説明の便宜上の一例である。
主蒸気温度は、排ガス温度の近傍に到達するまで上昇し続ける(波形W5)。初負荷ヒートソーク中の排ガス温度は一定温度(下限値LL)に維持されるため(波形W3)、主蒸気温度も初負荷ヒートソーク中においてやがて一定温度になる。主蒸気の流入に対するボア熱応力の応答は時間的に少し遅れるので、ボア熱応力は、時刻t4を少し過ぎた時点で第1のピークQ1に到達する(波形W6)。しかし、その後はロータ部材内部にも徐々に熱が浸透していくので、ボア熱応力は、徐々に減少しながらも、残留熱応力としてQ0程度の値に維持される。本比較例の初負荷ヒートソーク中において、GT出力値は第2出力値に保持され(波形W1)、IGV開度はP2%に保持される(波形W2)。第2出力値というGT出力値は、ガスタービン14の出力値の所定値の一例である。
ここで、初負荷ヒートソーク運転の詳細を説明する。
従来のC/C発電プラントに使用される蒸気タービンは、10MPa近傍の圧力の主蒸気で駆動されていたが、昨今のC/C発電プラントの蒸気タービンは、ガスタービンの高出力化・高性能化に合わせて大容量化が進み、15MPa近傍の高圧の主蒸気で駆動されるようになっている。その結果、蒸気タービンの構成部材(例えばタービンロータやタービンケーシング)は、高圧に耐え得る物理的強度を要求されるので、肉厚の部材で構成される。
熱応力発生のメカニズムは、前述の通り、高温の主蒸気に接触する部材表面が高温になり、高温の主蒸気に接触しない部材内部が低温に維持される結果、熱膨張による歪に起因して熱応力が生じるというものである。よって、蒸気タービンの部材が肉厚になるほど、熱応力は深刻な問題になる。
そこで、昨今のC/C発電プラントの蒸気タービンを起動する際には、小容量の蒸気タービンを起動する際には必要なかった初負荷ヒートソーク運転が行われるようになってきた。具体的には、蒸気タービンが初負荷(一般に定格100%負荷の3~5%が初負荷)に到達したときに、所定の初負荷ヒートソーク時間(一般的には60~120分の保持時間)だけ初負荷を保持する運転を行うものである。初負荷ヒートソーク運転は、比較的少量の主蒸気が蒸気タービンに継続的に流入する運転なので、熱応力の問題を緩和させることが可能となる。
仮に、初負荷ヒートソーク運転を行わずに、多量の主蒸気を短時間に一気に蒸気タービンに流入させる運転(具体的には、蒸気タービンが初負荷に到達した後一気に負荷上昇を行う運転)を行うと、タービン部材表面が急激に高温になる一方で、タービン部材内部は低温のまま維持されるため、大きな熱応力が生じてしまう。より正確には、タービン部材内部にも徐々にタービン部材表面からの熱が伝わり徐々に高温にはなっていくが、タービン部材表面はタービン部材内部に比べて著しく速く高温になっていく。その結果、蒸気タービンの熱応力は瞬発的な態様で発生し、蒸気タービンの耐用年数(寿命)を大きく損耗させるおそれがある。
このような起動と対照的なのが初負荷ヒートソーク運転である。初負荷ヒートソーク運転では、比較的少量の主蒸気流量を蒸気タービンに流入させて、長時間を掛けて徐々に部材に熱を伝えるようにする。これにより、熱応力の発生を緩和することができ、小さい熱応力で蒸気タービンの寿命消費の進行を遅らせその耐用年数を伸ばすことができる。
よって、初負荷ヒートソーク時間をどれくらいの長さに設定するかは、蒸気タービンの起動における大きなテーマである。ヒートソーク時間を長時間に設定すれば、部材に熱がゆっくり伝達し熱応力は緩和されるが、プラント起動時間が遅れる。逆にヒートソーク時間を短時間に設定すれば、熱応力は大きくなるが、プラント起動時間は短縮される。このような背景の下、蒸気タービンのヒートソーク時間(ヒートソークの実行時間)は、経済性に基づく耐用年数と、商用機として期待される高速起動性とのトレードオフとして決定される。前述のヒートソーク時間の具体例が60~120分という設定幅を有するのは、蒸気タービンの機種モデルの相違や、発電プラントごとに異なる上記の要素を考慮した結果である。
また、熱応力を小さくする観点では、主蒸気流量を減らすことが効果的であるが、プラント起動時間が遅延することになる。また、初負荷を維持するために主蒸気流量を減らした運転を継続した場合、加減弁の開度が極端に微開状態となり、弁体に大きな圧力損失などの必要以上の負担がかかる。よって、熱応力を小さくするためには、主蒸気流量を減らす代わりに初負荷ヒートソーク運転を行うことが一般的である。
なお、C/C発電プラントよりも大容量の蒸気タービンが使用される汽力発電プラントでは一般に、初負荷ヒートソークに加えて、低速ヒートソークと高速ヒートソークが実行される。本比較例の記載は、初負荷ヒートソークを行うC/C発電プラントの一例を説明するものである。
[時刻t5~t7]
時刻t5に90分間の初負荷ヒートソークが終了する。プラント制御装置2では、時刻t5に初負荷ヒートソーク終了信号D5がオンになり、排ガス温度のSV値C1が設定値B4から設定値B2に切り替わる。
時刻t5~t7の期間中には、時刻t7からGT出力値を定格100%負荷に向けて上昇させるための2つの起動工程が開始される。
第1の起動工程では、IGV開度がP2%からP1%(最小開度)に向けて絞られ(波形W2)、これに伴い、時刻t5に排ガス温度が下限値LLから急激に上昇し始める(波形W3)。第1の起動工程の前には、IGV開度は、下限値LLという低温の排ガス温度を生成するために、比較的低いGT出力値(第2出力値)に許容される変則的な「特殊運転モード」でP2%という大開度に設定される。一方、第1の起動工程では、GT出力値を第2出力値よりも大きな出力域に上昇させるために、IGV開度は、「通常運転モード」でP1%開度という小開度に戻される。
第1の起動工程において、IGV開度は、時刻t5にP2%からP1%に向けて減少し始め、時刻t5と時刻t7との間の時刻t6にP1%に到達する(波形W2)。一般的に、時刻t5~t6の期間は3分程度となる。この約3分という時間は、IGV13bの機構上、IGV開度がP2%からP1%に低下するのに要する時間である。IGV開度の減少に伴い、排ガス温度は下限値LL から急速に上昇し、時刻t6に設定値B2という高温に到達する(波形W3)。なお、主蒸気温度も排ガス温度に追従して急激な上昇するため(波形W5)、主蒸気に接触するロータ部材表面は高温になり、主蒸気に接触しないロータ内部部材は低温に維持され、ボア熱応力が再び増加する傾向を示す(波形W6)。主蒸気の流入に対するボア熱応力の応答は時間的に少し遅れるので、ボア熱応力は、時刻t7を少し過ぎた時点で第2のピークQ2に到達する(波形W6)。
第2の起動工程では、ST出力値が、初負荷であるS1(5%)から上昇し始めて(波形W7)、バイパス調節弁34が全閉される。バイパス調節弁34が全閉されるメカニズムは、ST出力値の上昇と共に加減弁33の開度が増加することによるものである。すなわち、バイパス調節弁34を経由していた主蒸気A6が、加減弁33の開度の増加により加減弁33に流入することで、圧力制御によりバイパス調節弁34が全閉する。バイパス調節弁34が全閉された時点でのST出力値は、図5に示すS2である。
もし時刻t7からのGT出力値の上昇がバイパス調節弁34の開弁中に起こると、GT出力値の上昇は主蒸気A6の増加をもたらすことから、バイパス調節弁34の開度は増加することになる。この場合、主蒸気A6の一部が発電に寄与せずにバイパス調節弁34を経由して復水器32に棄てられてしまうという不経済性が問題となる。さらには、バイパス調節弁34の開度が極端に増加すると、バイパス調節弁34が全開してしまうおそれがある。そのため、第2の起動工程を実行することで、時刻t7からのGT出力値の上昇前にバイパス調節弁34を全閉させる必要がある。
[時刻t7~t8]
時刻t7にGT出力値は第2出力値から定格の100%出力に向けて上昇し始める(波形W1)。GT出力値の上昇は、GT制御部56により制御される。
GT出力値の上昇に伴い、排ガス温度は設定値B2よりも高温になるが、この場合の排ガス温度の温度変化率はゆるやかである(波形W3)。理由は、時刻t7からの排ガス温度の上昇は、燃料調節弁11の開度をゆるやかに増加させてGT出力値を増加させていくことで起こるものなので、IGV開度をP2%開度からP1%開度に減少させる場合のような、排ガス温度を急激に上昇させる作用は及ばないからである。
よって、時刻t7からの主蒸気温度の上昇も、排ガス温度と同様にゆるやかになり(波形W5)、ボア熱応力が大きく増加することはない(波形W6)。ボア熱応力は、時刻t7を少し過ぎた時点で第2のピークQ2に到達した後は、次第に減少していく。また、ST出力値も、GT出力値の上昇に伴う主蒸気A6の熱量の増加(流量や温度の上昇)の影響により上昇する(波形W7)。
[時刻t8~t10]
時刻t8にIGV開度はP1%から最大開度に向けて増加し始める(波形W2)。一方、排ガス温度は時刻t8に最高温度(アイソサーマル温度)に到達し、時刻t9まで最高温度を維持した後、わずかに低下する(波形W3)。
時刻t10に、GT出力値は定格の100%出力に到達し(波形W1)、IGV開度は最大開度に到達する(波形W2)。主蒸気の流入に対するST出力値の応答は時間的に少し遅れるので、時刻t10を少し過ぎた時点で定格の100%出力に到達する(波形W6)。
(第1実施形態)
第1実施形態では、第1比較例で発生したボア熱応力の第2のピークQ2を解消または緩和するためのプラント制御を採用する。ここで、蒸気タービン31のタービンロータのボアに熱応力(ボア熱応力)が発生するときには、蒸気タービン31のタービンロータの表面にも熱応力が発生する。第1実施形態で採用するプラント制御は、前者の熱応力(ボア熱応力)だけでなく後者の熱応力も解消または緩和するものである。
第1比較例において初負荷ヒートソークの説明で触れたように、大きな熱応力は蒸気タービン31の耐用年数(寿命)を大きく損耗させるという問題がある。この熱応力を緩和する手段としては例えば、熱応力が問題となり得る期間の主蒸気の温度変化率をゆるやかにすることが挙げられる。具体的には、時刻t5~t6の期間をより長く設定することで主蒸気の温度変化率をゆるやかにすることが可能である。しかし、ゆるやかな温度変化率を採用すると、発電プラント1が定格100%出力になるまでに長時間を要することが問題となる。すなわち、熱応力の緩和(耐用年数の延長)とプラント起動時間の短縮は一般にトレードオフの関係にあるが、第1実施形態では、これらの事項の両立を図ることが可能なプラント制御を採用する。
図1は、第1実施形態の発電プラント1の構成を示す模式図である。
図1のプラント制御装置2は、ミスマッチチャート演算部64、NOTゲート65、およびANDゲート66の代わりに、ミスマッチチャート演算部71と、NOTゲート72と、ANDゲート73と、減算器74と、除算器75と、設定器76と、切替器77と、設定器78と、変化率制限器79とを備えている。
ミスマッチチャート演算部71は、メタル温度の測定値B3をメタル温度センサ35から取得し、メタル温度の測定値B3に基づいて、蒸気タービン31の初負荷ヒートソーク時間E1を演算して出力する。本実施形態の初負荷ヒートソーク時間は、例えば90分である。ミスマッチチャート演算部71はさらに、蒸気タービン31の初負荷ヒートソーク運転を開始する際に初負荷ヒートソーク開始信号E2を出力する。
NOTゲート72は、初負荷ヒートソーク開始信号E2をミスマッチチャート演算部71から取得し、初負荷ヒートソーク開始信号E2のNOT演算結果E3を出力する。具体的には、初負荷ヒートソーク開始信号E1がオン(1)のときにはNOT演算結果E3が0になり、初負荷ヒートソーク開始信号E1がオフ(0)のときにはNOT演算結果E3が1になる。
ANDゲート73は、切替信号D3を比較器63から取得し、NOT演算結果E3をNOTゲート73から取得する。そして、ANDゲート73は、切替信号D3とNOT演算結果E3とのAND演算結果を示す切替信号E4を出力する。
切替器51は、通常時における排ガス温度の設定値B2を関数発生器41から取得し、起動時における排ガス温度の設定値B4を下限制限器45から取得し、ANDゲート73からの切替信号E3に応じて排ガス温度の設定値C1を出力する。以下、切替信号D3と切替信号E3の性質を踏まえて、切替器51の動作について説明する。
切替信号D3の指示は、主蒸気温度の測定値D1(X)が設定値D2(Y)まで上昇して、設定値D2(Y)に到達したか否かにより変化する(X≧Y)。よって、切替信号E3の指示は、主蒸気温度の測定値D1が設定値D2に到達したか否かと、蒸気タービン31の初負荷ヒートソーク運転が開始したか否かとにより変化する。図2を参照して後述するように、初負荷ヒートソーク運転が開始するのは、主蒸気温度の測定値D1が設定値D2に到達するよりも後である。そこで、図1の説明は、まず初負荷ヒートソーク運転が開始する前の状況に限定して行い、次に初負荷ヒートソーク運転が開始した後の状況も考慮して行うことにする。よって、ここでの図1の説明では、初負荷ヒートソーク開始信号E2は常にオフ(0)であり、切替信号E3の指示は常に切替信号D3の指示に一致すると想定する。
よって、測定値D1が設定値D2に到達する前は、切替器51は、設定値C1を通常時における排ガス温度の設定値B2に維持する。一方、測定値D1が設定値D2に到達すると、切替器51は、設定値C1を起動時における排ガス温度の設定値B4に切り替える。設定値C1は、PID制御の設定値(SV値)として使用されるため、以下SV値とも表記する。
平均値演算器52は、ガスタービン14内の個々の排ガス温度センサ14aから排ガス温度の測定値C2を取得する。平均値演算器52は、これらの測定値C2の平均値C3を算出して出力する。平均値C3は、PID制御のプロセス値(PV値)として使用されるため、以下PV値とも表記する。
減算器53は、排ガス温度のSV値C1を切替器51から取得し、排ガス温度のPV値C3を平均値演算器52から取得する。そして、減算器53は、PV値C3からSV値C1を減算して、排ガス温度のSV値C1とPV値C3との偏差C4を出力する。
なお、減算器53は、正確には、SV値C1ではなく、SV値C1を修正して得られた修正SV値E8を取得し、修正SV値E8とPV値C3との偏差C4を出力する。しかしながら、後述するように、初負荷ヒートソーク運転の開始前には修正SV値E8はSV値C1に一致するため、減算値53は、SV値C1とPV値C3との偏差C4を出力するように動作する。
PIDコントローラ54は、減算器53から偏差C4を取得し、偏差C4をゼロに近づけるためのPID制御を行う。PIDコントローラ54から出力される操作量(MV値)C5は、IGV13bの開度(IGV開度)である。PIDコントローラ54がMV値C5を変化させると、IGV開度が変化し、排ガス温度が変化する。その結果、排ガス温度のPV値C3がSV値C1に近づくように変化する。
ただし、IGV開度が過度に小さくなると、燃焼器12内での燃焼に支障がでる可能性がある。そのため、MV値C5は、IGV開度の下限値LL(最小開度)を保持する下限制限器55に入力される。下限制限器55は、修正されたMV値C6として、MV値C5と下限値LLの大きい方を出力する。
以上、初負荷ヒートソーク運転が開始する前の状況に限定してプラント制御装置2の動作を説明したが、次に、初負荷ヒートソーク運転が開始した後の状況も考慮してプラント制御装置2の動作を説明する。
減算器74は、通常時における排ガス温度の設定値B2を関数発生器41から取得し、起動時における排ガス温度の設定値B4を下限制限器45から取得する。そして、減算器53は、設定値B2から設定値B4を減算して、設定値B2と設定値B4との偏差E5を出力する(偏差E5=設定値B2-設定値B4)。
除算器75は、減算器74から偏差E5を取得し、ミスマッチチャート演算部71から蒸気タービン31の初負荷ヒートソーク時間E1を取得する。そして、除算器75は、偏差E5を初負荷ヒートソーク時間E1で割算して、割算計算結果E6を出力する(割算計算結果E6=偏差E5÷初負荷ヒートソーク時間E1)。
後述するように、本実施形態のプラント制御装置2は、初負荷ヒートソーク中に排ガス温度を設定値B4から設定値B2に上昇させる。よって、割算計算結果E6は、初負荷ヒートソーク中の排ガス温度の平均昇温速度(平均変化率)に相当する。本実施形態のプラント制御装置2は、ヒートソーク中の排ガス温度の昇温速度が、この平均昇温速度に近付くように動作する。以下、割算計算結果E6を、排ガス温度の昇温速度(変化率)の設定値とも表記する。
設定器76は、排ガス温度の変化率の別の設定値(1000℃/分)を保持している。切替器77は、変化率の設定値E6を除算器75から取得し、変化率の別の設定値(1000℃/分)を設定器76から取得し、ミスマッチチャート演算部71からの初負荷ヒートソーク開始信号E2に応じて変化率の制限値E7を出力する。具体的には、切替器77は、初負荷ヒートソーク開始信号E2がオフのときには制限値E7として1000℃/分を出力し、初負荷ヒートソーク開始信号E2がオンのときには制限値E7として設定値E6を出力する。
設定器78は、変化率の別の制限値(-1000℃/分)を保持している。変化率制限器79は、排ガス温度のSV値C1を切替器51から取得し、排ガス温度の変化率の制限値E7を切替器77から取得し、排ガス温度の変化率の別の制限値(-1000℃/分)を設定器78から取得する。
変化率制限器79は、SV値C1の変化率を上限値と下限値との間に制限するように動作する。具体的には、SV値C1の変化率が上限値と下限値との間にある場合には、変化率制限器79は、SV値C1をそのまま修正SV値E8として出力する。また、SV値C1の変化率が上限値よりも大きい場合には、変化率が上限値になるようSV値C1を減少させ、減少されたSV値C1を修正SV値E8として出力する。また、SV値C1の変化率が上限値よりも小さい場合には、変化率が下限値になるようSV値C1を増加させ、増加されたSV値C1を修正SV値E8として出力する。
変化率制限器79は、変化率の上限値として制限値E7を使用し、変化率の下限値として-1000℃/分を使用する。よって、初負荷ヒートソーク開始信号E2がオフのときには、上限値は1000℃/分となり、下限値は-1000℃/分となる。一方、初負荷ヒートソーク開始信号E2がオンのときには、上限値は設定値E6となり、下限値は-1000℃/分となる。
ここで、1000℃/分という値は、現実的には起こり得ない大きな値となっており、-1000℃/分という値は、現実的には起こり得ない小さな値となっている。よって、本実施形態の修正SV値E8は、初負荷ヒートソーク開始信号E2がオンのときにのみ、上限値(設定値E6)に基づいてSV値C1から変化する。
なお、上述の説明では、排ガス温度のSV値C1を設定値B2から設定値B4に切り替える例について説明したが、蒸気タービン31の初負荷ヒートソークの開始時には、逆に排ガス温度のSV値C1が設定値B4から設定値B2に切り替えられる。具体的には、初負荷ヒートソークが開始すると、初負荷ヒートソーク開始信号E2が1になり、NOT演算結果E2が0になるため、切替信号E3の指示が設定値B4でも、切替信号E4の指示は設定値B2になる。よって、初負荷ヒートソークが開始すると、切替器51は、SV値C1を設定値B4から設定値B2に切り替える。
その結果、IGV開度がP2%からP1%に向かって低下し始め、排ガス温度が設定値B4から設定値B2に向かって上昇し始める。しかしながら、変化率制限器79が、排ガス温度のSV値C1の変化率を設定値E6以下に制限するように動作するため、排ガス温度はゆるやかに上昇し、IGV開度はゆるやかに低下することとなる。これにより、主蒸気温度が急激に上昇して蒸気タービン31に大きな熱応力が発生することを抑制することが可能となる。
ここで、設定値E6は、設定値B2と設定値B4との差を90分(初負荷ヒートソーク時間E1)で割ったものである。よって、排ガス温度のSV値C1の変化率が設定値E6以下に制限されると、ヒートソーク中の排ガス温度は、90分かけて設定値B4から設定値B2にゆるやかに連続的に上昇することになる。このような温度上昇を実現するため、ヒートソーク中のIGV開度は、90分かけてP2%からP1%にゆるやかに連続的に低下することになる。このような制限処理の詳細については、図2を参照して説明する。
図2は、第1実施形態の発電プラント1の動作を説明するためのグラフである。
[時刻t3]
まず、時刻t0から時刻t3まで第1比較例と同様の処理を行うことで、時刻t3に、IGV開度はP2%に到達し、排ガス温度は設定値B4に到達する(波形W2、W3)。また、主蒸気温度は、時刻t3ごろにメタル温度に到達する(波形W5)。そこで、ST出力制御部57は、時刻t3に加減弁33を開いて蒸気タービン31の通気を開始し、加減弁33の開度を徐々に増加させる。こうして、蒸気タービン31が起動され、ST出力値がゼロからS1(5%)に向かって上昇し始める(波形W7)。
本実施形態の排ガス温度の設定値B4は下限値LLであるため(波形W3)、時刻t3の主蒸気温度は一時的にメタル温度の近傍の値になる(波形W5)。その後、主蒸気温度は排ガス温度を追って上昇していき、主蒸気温度がメタル温度よりも高温となる。ここで、高温の主蒸気に接触する回転軸15(タービンロータ)の表面は高温になる一方で、高温の主蒸気に接触しない回転軸15の内部は低温に維持される。その結果、回転軸15の熱膨張による歪が発生して、蒸気タービン31にはボア熱応力が発生する。時刻t3以降、ボア熱応力は主蒸気温度の上昇に伴って増加していく(波形W6)。
[時刻t4]
時刻t4にST出力値は5%負荷(S1)に到達する(波形W7)。そして、蒸気タービン31の初負荷ヒートソークが開始され、ST出力値が時刻t4から90分間5%負荷に保持される。プラント制御装置2では、時刻t4に初負荷ヒートソーク開始信号E2がオンになり、排ガス温度のSV値C1が設定値B4から設定値B2に切り替わる。
一方、IGV開度は、初負荷ヒートソーク開始信号E2に応じて、時刻t4にP2%からP1%に向かって低下し始める(波形W2)。よって、排ガス温度は、設定値B4(下限値LL)から設定値B2に向かって上昇し始め(波形W3)、主蒸気温度は、排ガス温度の近傍に到達するよう上昇し続ける(波形W5)。
初負荷ヒートソークが開始されると、初負荷ヒートソーク開始信号E2に応じて、排ガス温度のSV値C1の変化率の上限値が設定値E6に制限される。設定値E6は、排ガス温度の設定値B2と設定値B4との差を90分(初負荷ヒートソーク時間E1)で割ったものである。よって、初負荷ヒートソーク中のSV値C1の変化率は、上限値を超えることができないため、初負荷ヒートソーク中のSV値C1は、90分かけて設定値B4から設定値B2にゆるやかに上昇する(波形W3)。
そのため、第1比較例のIGV開度が、時刻t5~t6の約5~10分間でP2%からP1%に急激に低下するのに対し、本実施形態のIGV開度は、時刻t4~t5の90分間でP2%からP1%にゆるやかに低下する(波形W2)。その結果、主蒸気温度も90分間でゆるやかに上昇し(波形W5)、ボア熱応力は、時刻t4を少し過ぎた時点で第1のピークQ1’に到達する(波形W6)。
本実施形態の第1のピークQ1’は、第1比較例の第1のピークQ1とほぼ同等か、第1比較例の第1のピークQ1よりもやや大きくなる。理由は、本実施形態の主蒸気温度の変化率が、第1比較例に比べてやや急峻だからである。ただし、この差異は蒸気タービン31の耐用年数(寿命)に大きな影響を及ぼすものではない。本実施形態では、第1のピークQ1’の後にロータ部材内部にも徐々に熱が浸透していくので、ボア熱応力は、徐々に減少しながらも、残留熱応力としてQ0’程度の値に維持される。本実施形態の初負荷ヒートソーク中において、GT出力値は第2出力値に保持される(波形W1)。
なお、本実施形態の初負荷ヒートソーク中のIGV開度は、排ガス温度のような直線状ではなく、曲線状に変化している。理由は、IGV開度と排ガス温度との関係は直線関係ではないため、排ガス温度の変化率を一定にすると、IGV開度の変化率は一定とはならないからである。
[時刻t5~t7]
時刻t5に90分間の初負荷ヒートソークが終了する。第1比較例と異なり、時刻t5のIGV開度はP1%であり、時刻t5の排ガス温度は設定値B2である。
時刻t5~t7の期間中には、時刻t7からGT出力値を定格100%負荷に向けて上昇させるための2つの起動工程が開始される。第1比較例では、IGV開度をP2%からP1%に低下させる第1の起動工程と、ST出力値を初負荷であるS1(5%)から上昇させる第2の起動工程が行われるのに対し、本実施形態では、第2の起動工程のみが行われる。理由は、本実施形態では、第1の起動工程に相当する工程を初負荷ヒートソーク中に実行済みであるからである。
よって、本実施形態の時刻t5~t7の期間中には、排ガス温度と主蒸気温度は一定に保持される(波形W3、W5)。その結果、時刻t7を少し過ぎた時点で現れるボア熱応力の第2のピークQ2’は、第1比較例の第2のピークQ2に比べて大いに低下する(波形W6)。
[時刻t7~t8]
時刻t7にGT出力値は第2出力値から定格の100%出力に向けて上昇し始める(波形W1)。GT出力値の上昇は、GT制御部56により制御される。
GT出力値の上昇に伴い、排ガス温度は設定値B2よりも高温になるが、この場合の排ガス温度の温度変化率はゆるやかである(波形W3)。理由は、時刻t7からの排ガス温度の上昇は、燃料調節弁11の開度をゆるやかに増加させてGT出力値を増加させていくことで起こるものなので、第1比較例でIGV開度をP2%開度からP1%開度に減少させる場合のような、排ガス温度を急激に上昇させる作用は及ばないからである。
よって、時刻t7からの主蒸気温度の上昇も、排ガス温度と同様にゆるやかになり(波形W5)、ボア熱応力が大きく増加することはない(波形W6)。ボア熱応力は、時刻t7を少し過ぎた時点で第2のピークQ2’に到達した後は、次第に減少していく。また、ST出力値も、GT出力値の上昇に伴う主蒸気A6の熱量の増加(流量や温度の上昇)の影響により上昇する(波形W7)。
[時刻t8~t10]
時刻t8にIGV開度はP1%から最大開度に向けて増加し始める(波形W2)。一方、排ガス温度は時刻t8に最高温度(アイソサーマル温度)に到達し、時刻t9まで最高温度を維持した後、わずかに低下する(波形W3)。
時刻t10に、GT出力値は定格の100%出力に到達し(波形W1)、IGV開度は最大開度に到達する(波形W2)。主蒸気の流入に対するST出力値の応答は時間的に少し遅れるので、時刻t10を少し過ぎた時点で定格の100%出力に到達する(波形W6)。
以上のように、本実施形態では、蒸気タービン31の初負荷ヒートソーク中に、IGV開度をP2%からP1%にゆるやかに低下させる。よって、本実施形態によれば、ボア熱応力の第2のピークQ2’を低下させることが可能となり、蒸気タービン31の耐用年数を伸ばすことが可能となる。C/C発電プラントでは一般に、コールド起動を行う頻度が高く、ボア熱応力が問題となりやすいため、本実施形態によれば、C/C発電プラントの蒸気タービン31の耐用年数を効果的に伸ばすことが可能となる。このように、本実施形態によれば、C/C発電プラントに適したヒートソークを実行することが可能となる。
[第1実施形態の詳細]
次に、図1および図2を参照し、第1実施形態の発電プラント1の詳細を説明する。
第1比較例の起動方法では、初負荷ヒートソーク後の起動工程で「急激な変化率」で主蒸気温度を上昇させる必要が生じ、このときに大きな蒸気タービンの熱応力(第2のピークQ2)が発生することが問題となる。単純にこの熱応力のみを緩和することは、例えば初負荷ヒートソーク後の主蒸気の温度変化率をゆるやかにすることで実現可能である。しかし、この場合には発電プラント1が定格100%出力になるまでに長時間を要することが問題となる。すなわち、一般に熱応力(耐用年数)とプラント起動時間はトレードオフの関係にある。
一方、本実施形態の第1の特徴は、発電プラント1の高速起動性を妨げずに蒸気タービン31の熱応力を解消または緩和するために、比較的長時間(例えば90分)の初負荷ヒートソーク中に主蒸気温度を徐々に上昇させながら熱応力を抑制することである。すなわち、第1比較例のように大きな熱応力を短期間に集中発生させるのではなく、熱応力の発生を長期間に分散させるのである。この結果、本実施形態の熱応力の第2のピークQ2’は、第1比較例の第2のピークQ2より顕著に小さくなる。これにより、蒸気タービン31の負担は減り、その耐用年数(寿命)は延伸される。また、本実施形態では、このように熱応力の発生を抑えながらも、プラントの起動時間は第1比較例と同じである。
本実施形態の第2の特徴は、排ガス温度の変化率(昇温速度)をヒートソーク時間E1に基づき決定することにある。本実施形態では、排ガス温度の変化率を、排ガス温度の設定値B2と設定値B4との差をヒートソーク時間E1で割った値に制限することで、排ガス温度を直線状に上昇させる。これにより、主蒸気温度もほぼ直線状に上昇することとなり、熱応力の発生を90分間で平滑化することができる。その結果、蒸気タービン31の負担をより低減することが可能となる。
本実施形態の第3の特徴は、IGV開度を低下させることで主蒸気温度を上昇させていることである。より詳細には、初負荷ヒートソーク中に、GT出力値を第2出力値に保持しつつIGV開度を低下させることで、主蒸気温度を上昇させている。以下、この第3の特徴について詳細に説明する。
主蒸気温度の上昇は、排ガス温度の上昇により実現することができるが、排ガス温度の上昇は、1)GT出力値を増加させる(すなわち燃料A1を増加させる)か、2)IGV開度を減少させることで実現することができる。以下、前者を方法1と呼び、後者を方法2と呼ぶことにする。
方法1を採用する場合には、初負荷ヒートソーク中にGT出力値を第2出力値から増加させることが考えられる。この場合には例えば、第2出力値を、すべての主蒸気A6がバイパス調節弁34を経由して復水器32に流入したときに、復水器32の出入口の循環水A8の温度差が所定値を越えない最大のGT出力値と設定する場合に問題が生じる。
具体的には、蒸気タービン31の通気前の起動工程では、すべての主蒸気A6がバイパス調節弁34を経由して復水器32に流入するため、復水器32の負担が大きく、復水器31の出入口の循環水A8の温度差が大きくなる。そこで、第2出力値を上記のように循環水A8の温度差を考慮して設定すると、循環水A8の温度差が環境保全の観点で許容される温度差(例えば7℃)に収まるように、GT出力値を制御することが可能となる。このような制御を実現可能なGT出力値の最大値が、この場合の第2出力値である。
この場合、方法1を採用して、初負荷ヒートソーク中にGT出力値を第2出力値から増加させると、ドラム22から発生する主蒸気A6の流量が増加する。これは、循環水A8の温度差が7℃という制限を逸脱して、環境保全上の問題が生じ得ることを意味する。
ただし、このメカニズムを理解するためには、初負荷ヒートソーク中の状況と、蒸気タービン31の通気前の状況は、復水器32の負担という観点では類似した状況にあるということを考慮する必要がある。具体的には、初負荷は3~5%負荷という小さな負荷であるため、初負荷ヒートソーク中に蒸気タービン31に流入する主蒸気A6は少量である。よって、初負荷ヒートソーク中は、大部分の主蒸気A6がタービンバイパス調節弁34を経由して復水器32に流入するので、復水器32の負担が大きいという観点では、初負荷ヒートソーク中の状況と、蒸気タービン31の通気前の状況は、類似しているのである。
一方、本実施形態のように方法2を採用する場合には、IGV開度の減少により排ガス温度を上昇させる。よって、初負荷ヒートソーク中にGT出力値を第2出力値を保持したまま排ガス温度を上昇させることができる。よって、方法1を採用する場合のような、循環水A8の温度差を7℃に収めるという問題を回避できる。正確には、燃料A1の流量を一定にしつつIGV開度を減少させると、GT出力値がわずかに上昇し得ることで、主蒸気A6の流量もわずかに上昇し得るが、循環水A8の温度差が問題となるような大きな変化は起こらない。
なお、本実施形態では、IGV開度を増大させると、圧縮空気A3の流量が増加して、排ガス温度が低下する。一方、IGV開度を減少させると、圧縮空気A3の流量が減少して、排ガス温度が上昇する。
しかしながら、ガスタービン14の機種モデルによっては、IGV開度の定義が本実施形態の定義と逆の場合がある。すなわち、ガスタービン14の機種モデルによっては、IGV13bの翼が「寝る」状態になり、圧縮空気A3の流量が増加することを、IGV開度が減少すると表現し、IGV13bの翼が「立つ」状態になり、圧縮空気A3の流量が減少することを、IGV開度が増加すると表現する。本実施形態のプラント制御は、このような機種モデルも適用対象とするものであり、本実施形態のプラント制御をこのような機種モデルに適用する場合には、翼が寝ることをIGV開度の増加と解釈し、翼が立つことをIGV開度の減少と解釈する。
以上のように、本実施形態の起動方法では、蒸気タービン31のヒートソーク運転中にIGV開度を低下させて、主蒸気温度をゆるやかに上昇させる。よって、本実施形態によれば、蒸気タービン31の熱応力を緩和することが可能となり、プラント起動時間を無駄に延長することなく蒸気タービン31にとって負担が少ない起動を実現することが可能となる。
(第2実施形態)
図6は、第2実施形態の発電プラント1の構成を示す模式図である。
図6の発電プラント1は、図1に示す構成要素に加え、減温装置24と過熱器25とを備えている。以下、過熱器23を「一次過熱器23」とも呼び、過熱器25を「二次過熱器25」とも呼ぶ。一次過熱器23、減温装置24、および二次過熱器25は、排熱回収ボイラ21の構成要素である。
一次過熱器23は、ドラム22から飽和蒸気を受け取り、排ガスA5の熱を利用して飽和蒸気を過熱することで飽和蒸気から一次蒸気を生成する。減温装置24は、一次過熱器23から一次蒸気を受け取り、一次蒸気に冷却水A9を注入することで一次蒸気を冷却する。二次過熱器25は、減温装置24から一次蒸気を受け取り、排ガスA5の熱を利用して一次蒸気を過熱することで一次蒸気から二次蒸気を生成する。排熱回収ボイラ21は、この二次蒸気を主蒸気A6として排出する。
図6は、3箇所にプラント制御装置2を示しているが、これらは同じ1個のプラント制御装置2を表している。図6に示すプラント制御装置2は、図1に示すプラント制御装置2と同じ構成要素を備えている。加えて、図6に示すプラント制御装置2は、冷却水A9用の弁(冷却水流量調節弁)の開閉や開度を制御する信号E9を出力する。信号E9に応じてこの弁が開放されると、この弁を通過した冷却水A9が減温装置24内で一次蒸気に注入される。
第2実施形態のプラント制御方法は、第1実施形態のプラント制御方法で発生したボア熱応力の第1のピークQ1’(図2参照)をさらに緩和することができる。以下、第2実施形態のプラント制御方法の詳細を説明する。
第1実施形態においては、初負荷ヒートソークの90分の間に排ガス温度を設定値B4から設定値B2に上昇させるようにIGV開度を制御する。この場合、B2は蒸気タービン31を起動(通気)する前の温度であり、早期の主蒸気発生を促すために比較的高温である。
しかしながら、必ずしも初負荷ヒートソーク中に排ガス温度を高温のB2にまで上昇させなくともよい。第2実施形態のプラント制御方法は、その一例に相当する。第2実施形態においては、初負荷ヒートソークの90分の間に排ガス温度を設定値B4から設定値B5に上昇するようにIGV開度を制御する。ここで、第2実施形態のB5は、B2よりも低温である(B5<B2)。
プラント制御装置2は、主蒸気温度、すなわち、主蒸気(二次蒸気)A6の温度の測定値D1を主蒸気温度センサ36から取得し、測定値D1と閾値とを比較する。閾値は例えば560℃である。プラント制御装置2は、測定値D1が閾値未満の場合には冷却水A9用の弁を閉鎖し、測定値D1が閾値以上の場合には冷却水A9用の弁を開放するように、信号E9を出力する。その結果、減温装置24は、測定値D1が閾値以上の場合に一次蒸気に冷却水A9を注入する。この閾値は、第1温度の一例である。
そして、第2実施形態の設定値B5は、この閾値に基づいて定められており、具体的には、この閾値と同じ値に定められている。よって、設定値B5は例えば560℃である。設定値B5は、第2温度の一例である。
以下、減温装置24の詳細を説明する。
減温装置24がない発電プラント1では、初負荷ヒートソークが終了して排ガス温度がB2になると、主蒸気A6の温度もB2に漸近していく。そのため、排熱回収ボイラ21は、B2という高温を有する主蒸気A6に耐え得る高価な素材で製造する必要がある。
これに対し、本実施形態の発電プラント1は、減温装置24により冷却水A9を注入して主蒸気A6の温度をB5以下になるように冷却する。これが、冷却水A9による主蒸気A6の減温スプレー制御であり、その制御の温度設定値(SV値)がB5[℃]である。なお、B5は正確には、減温スプレー制御のための設定値ではなく、初負荷ヒートソークの終了時の排ガス温度の設定値であるが、本実施形態では両者は同じ値(540℃)であるため、B5を減温スプレー制御のための温度設定値とも呼ぶことにする。
プラント制御装置2は、冷却水流量調節弁の開度を加減して、主蒸気A6の温度がB5以下になるように冷却水A9を注入する。これにより、プラント熱効率(性能)は若干犠牲になるものの、排熱回収ボイラ21は、B2という高温への耐熱性を有する必要がなくなり、より低温のB5という温度への耐熱性を有すれば十分になるため、排熱回収ボイラ21の製造コストを低減できる。
昨今の発電プラントでは、経済性と環境保護が指向され、最新ガスタービンでは、タービン入口温度(燃焼温度)の高温化による性能向上が著しい。そのため、排ガス温度も従来型ガスタービンより各負荷帯で軒並み高温となる。このようなトレンドにおいては、本実施形態のような減温装置24による冷却には、充分な経済的合理性が存在する。
減温装置24の利点は例えば、排ガス温度がB5以上の高温になっても、主蒸気A6の温度はB5を上限として温度上昇が抑制されることにある。タービンロータの熱応力を直接的に発生させるのは主蒸気A6の上昇であり、排ガス温度の上昇ではないことに注目すれば、第1実施形態のように排ガス温度をB2まで上昇させることは、第2実施形態のように減温装置24が設置されているケースでは無駄となる。すなわち、本実施形態の排ガス温度はB5まで上昇させれば充分であり、そのような温度上昇によれば、排ガス温度の上昇レートを低減できる。以下、このような上昇レートについて説明する。
図7は、第2実施形態の発電プラント1の動作を説明するためのグラフである。
[時刻t2]
まず、時刻t0から時刻t2まで、第1実施形態と同様の処理を行う。その結果、時刻t1から時刻t2のIGV排ガス温度制御の設定値B2は高温に維持され、IGV開度は最小開度であるP1%に維持される。
この起動初期の段階では、ドラム22から蒸気ができるだけ早く生成されるように、排ガス温度は許容される範囲内で高温であることが望ましい。したがって、後工程の初負荷ヒートソーク終了[時刻t5]時点では、排ガス温度は低温のB5にまでしか上昇させないが、時刻t2の段階では、第1実施形態と同じく高温のB2でエネルギッシュに排熱回収ボイラ21を焚き上げる。このような焚き上げが可能となるのは、時刻t2の段階では主蒸気温度がまだ低温だからである。
[時刻t3]
次に、時刻t2から時刻t3まで、第1実施形態と同様の処理を行う。時刻t3に、IGV開度はP2%に到達し、排ガス温度は設定値B4に低下する(波形W2、W3)。さらに、主蒸気温度は、時刻t3ごろにメタル温度に到達する(波形W5)。そこで、時刻t3に加減弁33を開いて蒸気タービン31の通気を開始し、加減弁33の開度を徐々に増加させる。こうして、蒸気タービン31が起動され、ST出力値がゼロからS1(5%)に向かって上昇し始める(波形W7)。
なお、本実施形態ではコールド起動が行われるため、主蒸気温度(≒メタル温度)は、この段階では主蒸気減温スプレー制御の温度設定値B5よりも充分に低温であり、冷却水A9の注入は未だ開始されない。
第1実施形態と同様に、主蒸気温度は排ガス温度を追って上昇していき、これに伴い蒸気タービン31にはボア熱応力が発生する。時刻t3以降、ボア熱応力は主蒸気温度の上昇に伴って増加していく(波形W6)。
[時刻t4]
時刻t4に、ST出力値は5%負荷(S1)に到達する(波形W7)。そして、蒸気タービン31の初負荷ヒートソークが開始され、ST出力値が時刻t4から90分間5%負荷に保持される。そして、時刻t4に初負荷ヒートソークが開始されると、排ガス温度制御の設定値は設定値B4から設定値B5に切り替わる。この動作が、第1実施形態と異なる制御である。第1実施形態では設定値B4から設定値B2に切り替わるのに対し、第2実施形態では設定値B4から設定値B5に切り替わる。このような切替は例えば、図1の切替器51が、入力端子として、B2用の端子とB4用の端子とに加えて、B5用の端子を備えることで実現可能である。
一方、IGV開度は、初負荷ヒートソーク開始に応じて、時刻t4にP2%からP3%に向かって低下し始める(波形W2)。よって、排ガス温度は、設定値B4から設定値B2に向かって上昇し始め(波形W3)、主蒸気温度は、排ガス温度に追従するようにして上昇する(波形W5)。
ここで、本実施形態の初負荷ヒートソーク中の排ガス温度の上昇レートを、第1実施形態と比較する。第1実施形態の排ガス温度制御のSV値C1は、初負荷ヒートソークの90分をかけて設定値B4から設定値B2に上昇する。よって、第1実施形態の排ガス温度の上昇レートは、(B2-B4)÷90[℃/分]となる。一方、第2実施形態の排ガス温度の上昇レートは、(B5-B4)÷90[℃/分]となる。上述のように、B2とB5との間にはB5<B2が成り立つため、第2実施形態の上昇レートは、第1実施形態の上昇レートよりも小さくなる。
この排ガス温度の上昇に伴い、主蒸気温度も90分間でゆるやかに上昇し(波形W5)、ボア熱応力は、時刻t4を少し過ぎた時点で第1のピークQ1’’に到達する(波形W6)。第2実施形態では、排ガス温度の上昇は第1実施形態に比べて緩やかなので、主蒸気温度の上昇も第1実施形態に比べて緩やかとなる。その結果、第2実施形態の第1のピークQ1’’は、第1実施形態の第1のピークQ1’に対して小さくなる。
なお、第2実施形態では、主蒸気減温スプレー制御による冷却水A9の注入が開始されると、主蒸気温度はB5の一定に保持され、蒸気タービン31のボア熱応力はもう増加することはなくなる。これに関しては、後述の時刻t5~t6で再度言及する。もし減温装置24を有する第2実施形態の発電プラント1に第1実施形態のプラント制御方法を適用すると、排ガス温度は初負荷ヒートソーク中にB4からB5ではなくB2に向かって上昇する(B4<B5<B2)。しかし、排ガス温度がB5からB2に上昇する期間では、既に主蒸気温度はB5に保持されているのだから、ボア熱応力に配慮してこの帯域で排ガス温度を緩やかに上昇させることは無意味である。むしろ、ボア熱応力に配慮して緩やかに排ガス温度を上昇させるべき期間は、排ガス温度がB4からB5に上昇する期間である。そのため、第2実施形態では上記のように排ガス温度を上昇させている。
なお、第1実施形態と同様に、本実施形態の初負荷ヒートソーク中のIGV開度は、排ガス温度のような直線状ではなく、曲線状に変化している。理由は、IGV開度と排ガス温度との関係は直線関係ではないため、排ガス温度の変化率を一定にすると、IGV開度の変化率は一定とはならないからである。
[時刻t5~t7]
時刻t5に、90分間の初負荷ヒートソークが終了する。第1実施形態と異なり、時刻t5のIGV開度はP3%であり、時刻t5の排ガス温度は設定値B5である。本実施形態のプラント制御装置2は、時刻t5の排ガス温度が設定値B5になるように、初負荷ヒートソーク中にIGV開度をP2%からP3%に低下させる(P2%>P3%)。設定値B5と設定値B2との大小関係はB5<B2なので、IGV開度の大小関係はP3%>P1%となる。このP3%は、第3開度の一例である。
時刻t5~t7の期間中には、時刻t7からGT出力値を定格100%負荷に向けて上昇させるための2つの起動工程が開始される。第2実施形態では、第1比較例の場合と同じ理由に基づき、IGV開度をP3%からP1%に低下させる第1の起動工程と、ST出力値を初負荷であるS1(5%)から上昇させる第2の起動工程が行われる。
よって、本実施形態の時刻t5~t6の期間中に、第1比較例と同様に、排ガス温度が上昇する。具体的には、排ガス温度は、時刻t5にB5から上昇し始め、時刻t6にB2に到達する(波形W3)。一方、排ガス温度に追従してきた主蒸気温度は、時刻t5を少し過ぎた時点でB5に到達する(波形W5)。
そして、主蒸気温度がB5に到達すると、主蒸気減温スプレー制御により冷却水A9の注入が開始され、それ以後の主蒸気温度は、排ガス温度が上昇しても一定値(B5)に保持される。この点が、本実施形態では第1比較例と相違している。
蒸気タービン31のボア熱応力は、主蒸気温度の上昇に起因する。そのため、主蒸気温度がB5に保持されて以後は、たとえ排ガス温度が急峻に上昇しても、蒸気タービン31のボア熱応力は増加しない。よって、第1比較例では時刻t5からボア熱応力が上昇を開始するのに対し、本実施形態のボア熱応力は残留熱応力であるQ0’’程度に保持される。
[時刻t7~t8]
時刻t7にGT出力値は第2出力値から定格の100%出力に向けて上昇し始める(波形W1)。また、ST出力値も、GT出力値の上昇に伴う主蒸気A6の熱量の増加(流量の上昇)の影響により上昇する(波形W7)。
GT出力値の上昇に伴い、排ガス温度は設定値B2よりも高温になる。しかし上述した通り、主蒸気温度はB5に保持されので、蒸気タービン31のボア熱応力は残留熱応力であるQ0’’程度に保持される。第1実施形態では、時刻t7を少し過ぎた時点でボア熱応力が第2のピークQ2’を示したのに対し、第2実施形態では、これに相当するような第2のピークは発生しない。このように、第2実施形態によれば、ボア熱応力の第2のピークの発生を抑制することが可能となる。
最後に、第2実施形態の詳細を補足する。
第2実施形態では、燃料A1のエネルギーにより生成した蒸気を冷却水A9により冷却するのであるから、プラント熱効率(性能)を犠牲にしている。しかしながら、最新型ガスタービンでは、タービン入口温度(燃焼温度)の高温化が指向されていることが留意される。このような最新型ガスタービンは、排ガス温度が、低負荷運転時の排ガス温度である設定値B2であっても、最高排ガス温度(一般に定格100%ベース負荷よりも中間負荷帯域で発揮される)に遜色のない高温特性を示す。このような最新型ガスタービンを有する発電プラント1では、B2より低温の設定値であるB5に基づき冷却水A9を注入しても、プラント熱効率の劣化はわずかである。例えば、B2が600℃近傍となる最新型ガスタービンと、B5が560℃となる主蒸気減温スプレー制御とを組み合わせた場合には、蒸気タービン31の熱応力を緩和させながら、効率低下も容認できる範囲内に収めることができる。
一方、ガスタービン14の種類によっては、このような特性を有せず、低負荷運転時の設定値B2が低温となるケースがある。このようなガスタービン14を備える発電プラント1に第2実施形態を適用して、設定値B2よりさらに低温のB5を採用することは、経済性を追求する商用発電プラントでは容認しがたい。このようなケースでは、より実用的なプラント制御方法として、主蒸気減温スプレー制御の温度設定値を二段階に切り替えることなどが考えられる。例えば、初負荷ヒートソーク中のみ低温の温度設定値B5を適用し、それ以外の期間では高温の温度設定値B5’を採用する。このような方法を採用する場合にも、蒸気タービン31の熱応力を過大にしないことが望まれる。このことに着目して、例えば次の第3実施形態の方法を採用してもよい。
(第3実施形態)
以下、第3実施形態の発電プラント1について、図6を参照して説明する。以下の説明中、プラント制御装置2の構成や当該構成に関する符号については図2を、発電プラント1の動作や当該動作に関する符号については図7を参照されたい。
第2実施形態のプラント制御装置2は、時刻t5の排ガス温度が設定値B5になるように、初負荷ヒートソーク中にIGV開度をP2%からP3%に低下させる(P2%>P3%)。設定値B5は、例えば560℃である。設定値B5と設定値B2との大小関係はB5<B2なので、IGV開度の大小関係はP3%>P1%となる。
一方、第3実施形態のプラント制御装置2は、時刻t5の排ガス温度が設定値B6になるように、初負荷ヒートソーク中にIGV開度をP2%からP4%に低下させる(P2%>P4%)。設定値B6は、例えば540℃である。設定値B6と設定値B2との大小関係はB6<B2なので、IGV開度の大小関係はP4%>P1%となる。このP4%は、P3%と同様に、第3開度の一例である。
なお、第3実施形態の発電プラント1は、減温装置24と過熱器25とを備えていてもよいし、減温装置24と過熱器25とを備えていなくてもよい。
以下、設定値B6の詳細を説明する。
本実施形態のB6は、蒸気タービン31の起動がミスマッチチャートにおいてホット起動と定義される場合の蒸気タービン31のメタル温度に基づいて定められており、具体的には、このメタル温度に適切なマージンを加算して定められている。このメタル温度は、第3温度の一例であり、例えば500℃である。B6は、第4温度の一例であり、例えば540℃である。本実施形態のB6は、500℃に一定値のマージンである40℃を加算して定められている。
蒸気タービン31の起動モードには、コールド起動、ウォーム起動、ホット起動などが存在する。これらは、蒸気タービン31のメタル温度に応じて定義付けされる起動モードである。コールド起動は、一般にメタル温度が約300℃以下の温度帯域に定義される起動モードである。一方、ウォーム起動は、一般に内面メタル温度がおおむね300℃を超える帯域(ただし500℃以上はホット起動)に定義される起動モードである。
本実施形態のプラント制御方法は、第1および第2実施形態のプラント制御方法と同様に、起動工程上に長い初負荷ヒートソーク時間(90分)を有するコールド起動に対して適用される。しかしながら、本実施形態では、ホット起動の熱応力挙動に着目し、ホット起動の内容をコールド起動時のプラント制御方法に取り入れている。
ミスマッチチャート演算部71は、ミスマッチチャートを備えている。ミスマッチチャートの具体例は一般的に知られており、例えば、初負荷保持時間(初負荷ヒートソーク時間)がミスマッチチャートにより規定されている。ミスマッチチャートの一例によれば、蒸気タービン31のメタル温度が高くなるほど初負荷ヒートソーク時間が減少し、ホット起動においては初負荷ヒートソーク時間はゼロになる。この場合、ホット起動の起動工程上において初負荷ヒートソークを実施する必要性はない。
ホット起動に定義および分類されるメタル温度は、蒸気タービン31のモデル型式毎に相違する。昨今のプラント制御のミスマッチチャートは、上記のように、蒸気タービン31の通気前に計測したメタル温度が500℃近傍または500℃以上の高温帯域をホット起動と定義するのが一般的である。よって、本実施形態では、通気直前のメタル温度が500℃以上の場合をホット起動と定義するが、その他の定義を採用してもよい。
一般に初負荷ヒートソーク運転は、少量の主蒸気A6を蒸気タービン31に流入させ、長時間を掛けて徐々に主蒸気A6からそのタービンロータに熱を伝えるようにして熱応力の発生を緩和させる目的で行われる。一方、ホット起動では、メタル温度が500℃以上の高温を保持しているため、メタル温度よりも高温の主蒸気A6が蒸気タービン31に流入しても、タービンロータに深刻な熱応力は発生しない。よって、ホット起動では、初負荷ヒートソーク運転が必要なくなる。
第3実施形態では、この事実に着目している。具体的には、初負荷ヒートソーク終了時点(t5)に蒸気タービン31のメタル温度が500℃にまで上昇するような起動工程を実施する。これは、蒸気タービン31の状態が、通気開始時点にはコールド起動の状態にあったものが、初負荷ヒートソーク終了時点にはホット起動の状態に転換しているものであり、いわば擬似的なホット起動が実現されていると表現できる。そして、初負荷ヒートソーク終了以後の起動工程では、排ガス温度や主蒸気温度が上昇するが、ホット起動と同様に500℃の高いメタル温度が保持されているため、蒸気タービン31に高温の主蒸気温度が流入しても、タービンロータに過大な熱応力は発生しない。
本実施形態では、初負荷ヒートソークの90分間に排ガス温度を設定値B6に上昇させるようにIGV開度を制御して、擬似的なホット起動を実現する。本実施形態では、ホット起動のメタル温度である500℃に、例えば40℃のマージンを加算することで、設定値B6を540℃に設定する。
この40℃という温度は例えば、排ガス温度と主蒸気温度との間の温度偏差や、主蒸気温度とメタル温度との間の温度偏差を考慮して設定されたものである。すなわち、排ガス温度が上昇すると、主蒸気温度は排ガス温度に追従して上昇し、メタル温度は主蒸気温度に追従して上昇する。よって、これらの上昇中において、主蒸気温度は排ガス温度よりもやや低くなり、メタル温度は主蒸気温度よりもやや低くなる。別言すると、主蒸気温度は排ガス温度に遅れて上昇し、メタル温度は主蒸気温度に遅れて上昇する。なお、図2、図5、および図7は、蒸気タービン31の通気前のメタル温度(W4)のみを図示していることに留意されたい。
排ガス温度の上昇に対する主蒸気温度の上昇の遅れ分や、主蒸気温度の上昇に対するメタル温度の上昇の遅れ分は、発電プラント1ごとに固有の値となる。ただし、これらの遅れ分は、起動工程上の時間帯(例えば初負荷ヒートソークの初期段階か終了間際か)で異なる値となる。一般的に、これらの遅れ分は20℃~60℃と評価される。よって、本実施形態では、排ガス温度の上昇に対するメタル温度の上昇の遅れ分を40℃と想定し、上記のマージンを40℃に設定している。一方、蒸気タービン31の実機試運転等に基づいてこの遅れ分を精度よく特定し、このようにして特定された遅れ分を500℃に加算して設定値B6を決定してもよい。
以下、第3実施形態と第2実施形態とを比較する。
これらの実施形態では、設定値B5を560℃とした事例や、設定値B6を540℃とした事例を説明した。560℃、540℃という値は例示に過ぎないが、B5>B6という関係は多くの場合に成り立つと考えられる。理由は以下の通りである。
適切な商用コンバインドサイクル発電プラントの熱平衡計画(ヒートバランス)では、主蒸気減温スプレー制御の設定値B5は、ホット起動と定義される場合のメタル温度(例えば500℃)より高温で計画される。なぜならば、一般に、主蒸気減温スプレー制御の設定値B5が上限値として事実上、主蒸気温度を決定するからである。もし設定値B5が500℃より低温であれば、主蒸気温度もメタル温度も500℃を超えることはなく、ホット起動の定義は意味をなさないと考えられる。よって、設定値B5は500℃より高温に設定され、500℃にマージン(例えば40℃)を加算したとしても、設定値B6は設定値B5より低温となるのが一般的であると考えられる。
以上のように、第1から第3実施形態のプラント制御方法では、蒸気タービン31のヒートソーク運転中にIGV開度を減少させて、緩やかな温度変化率で主蒸気温度を上昇させる。よって、これらの実施形態によれば、蒸気タービン31の熱応力を緩和することが可能となり、プラント起動時間を犠牲にすることなく蒸気タービン31にとって負担が少ない起動方法を採用することが可能となる。
以上、いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例としてのみ提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図したものではない。本明細書で説明した新規な装置、方法、およびプラントは、その他の様々な形態にて実施することができる。また、本明細書で説明した装置、方法、およびプラントの形態に対し、発明の要旨を逸脱しない範囲内で、種々の省略、置換、変更を行うことができる。添付の特許請求の範囲およびこれに均等な範囲は、発明の範囲や要旨に含まれるこのような形態や変形例を含むように意図されている。