JP6993693B2 - 豚丹毒菌プロリン合成関連遺伝子欠損株とその利用 - Google Patents
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一方、食肉検査所において、豚丹毒として廃棄される豚の関節からは、豚丹毒菌小金井65-0.15株が分離される事例が多く報告されている。本発明者らが解析したところ、このワクチンを利用する農場にて豚団毒を発症した株から分離された株の65%(101/155株)は小金井6-0.15株であり、そのうち4株はマーカーとされるアクリフラビン耐性を消失していた(非特許文献1)。また、豚丹毒菌小金井65-0.15株の弱毒化の機構は、前記のとおり不明であるため、強毒株復帰への懸念がある。事実、本発明者らは、野外臨床分離菌の解析を基に、豚丹毒菌小金井65-0.15株の強毒化に関わると考えられる病原性復帰変異が起こることを明らかにしている(非特許文献2、3)。
〔1〕グルタミン酸からプロリンを合成する経路に関連する酵素または1-ピロリン-3-ヒドロキシ-5-カルボキシレートからプロリンを合成する経路に関連する酵素をコードするプロリン合成関連遺伝子が遺伝子破壊されていることにより、前記遺伝子の機能が低下または欠損されており、
前記プロリン合成関連遺伝子がproA、proBおよびproCからなる群より選ばれる1つ以上であることを特徴とする豚丹毒菌プロリン合成関連遺伝子欠損株、
〔2〕前記プロリン合成関連遺伝子をコードする塩基配列を構成する少なくとも1つ以上の塩基が置換または欠失している前記〔1〕に記載の豚丹毒菌プロリン合成関連遺伝子欠損株、
〔3〕豚丹毒菌プロリン合成関連遺伝子欠損株が、豚丹毒菌藤沢株(Erysipelothrix rhusiopathiae Fujisawa)の変異株であるERproA株(NITE P-02769)、ERproB株(NITE P-02770)、ERproC株(NITE P-02771)、ERproAB株(NITE P-02772)またはERproABC株(NITE P-02773)である前記〔1〕または〔2〕に記載の豚丹毒菌プロリン合成関連遺伝子欠損株、
〔4〕非ヒトの動物における豚丹毒菌に関連する疾患の治療または予防に使用するためのワクチン組成物であって、
前記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の豚丹毒菌プロリン合成関連遺伝子欠損株を含むことを特徴とするワクチン組成物、
〔5〕非ヒトの動物における疾患の治療または予防のための医薬組成物を製造するための、前記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の豚丹毒菌プロリン合成関連遺伝子欠損株の使用、
〔6〕前記豚丹毒菌プロリン合成関連遺伝子欠損株がワクチンベクターである前記〔5〕に記載の豚丹毒菌プロリン合成関連遺伝子欠損株の使用、
〔7〕前記豚丹毒菌プロリン合成関連遺伝子欠損株が、豚丹毒菌以外の外来異種抗原を発現するよう形質転換されている前記〔5〕に記載の豚丹毒菌プロリン合成関連遺伝子欠損株の使用
に関する。
また、外来異種抗原を発現させたワクチンベクターとしても使用することが可能である。
そして、前記グルタミン酸からプロリンを合成する経路に関連する酵素について、前記1-ピロリン-3-ヒドロキシ-5-カルボキシレートからプロリンを合成する経路に関連する酵素としては、グルタメート5-キナーゼ(glutamate 5-kinase)(EC2.7.2.11)、グルタメート-5-セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ(glutamate-5-semialdehyde dehydrogenase)(EC1.2.1.41)などが挙げられている。
前記1-ピロリン-3-ヒドロキシ-5-カルボキシレートからプロリンを合成する経路に関連する酵素としては、プロリンオキシダーゼピロリン-5-カルボキシレートレダクターゼ(pyrroline-5-carboxylate reductase)(EC1.5.1.2)などが挙げられる。
例えば、グルタメート5-キナーゼの遺伝子については、例えば、生命システム情報統合データベースであるKEGGにおいて、「K00931」としてエントリーされており、その遺伝子については「proB」として公知の塩基配列を指す。
グルタメート-5-セミアルデヒドデヒドロゲナーゼの遺伝子については、KEGGにおいて、「K00147」としてエントリーされており、その遺伝子については「proA」として公知の塩基配列を指す。
プロリンオキシダーゼピロリン-5-カルボキシレートレダクターゼの遺伝子については、KEGGにおいて、「K00286」エントリーされており、その遺伝子については「proC」として公知の塩基配列を指す。
本発明の豚丹毒菌としては、前記proA、proB、proCのいずれか1つの遺伝子が欠損している株、前記proAおよびproBの遺伝子が欠損している株、前記proAおよびproCの遺伝子が欠損している株、前記proBおよびproCの遺伝子が欠損している株、前記proA、proBおよびproCの遺伝子がすべて欠損している株が含まれる。
なお、前記インフレーム・デリーション法、豚丹毒菌の菌体内に外来遺伝子を導入する方法、豚丹毒菌の菌体内で染色体と外来遺伝子とをホモロガス・リコンビネーションさせる方法などについては、公知の方法に従えばよい。
なお、PCT法などでproA、proB、proCを増幅する手法については、使用する装置のマニュアルに従って行えばよく、特に限定はない。
前記溶媒としては、水、生理食塩水、溶解液、グリコール、ポリグリコール、プロピレングリコール、ポリグリコールエーテル、DMSO、各種液体培地などが挙げられる。
また、必要に応じて、ラクトース、グルタメート、油性物質(鉱油、植物油、動物油)またはワックスを含んでもよい。
また、経口投与については、マンニトール、ラクトース、スターチ、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、滑石、セルロース、グルコース、スクロースおよび炭酸マグネシウムのような固体担体を用いてもよい。
前記成分の含有量としては、特に限定はない。
前記有効成分としては、本発明の豚丹毒菌に悪影響を与えるものでなければよく、特に限定はない。
前記外来異種抗原としては、例えば、マイコプラズマ・ハイオニューモニエのP97抗原
などが挙げられるが、特に限定はない。
さらに、本発明の豚丹毒菌は、生きている限り、定着している前記動物体内に感染防御抗原を供給し続けることが可能であるため、一度、豚丹毒菌を投与すれば所望の効果が奏される。
proAをコードする塩基配列の上下流域の遺伝子を、インフレーム・デリーション法によって、proA遺伝子の31番目から1203番目の塩基(1173bp)を欠損させた形でつなぎ合わせ、得られた遺伝子断片を豚丹毒菌の菌体内にエレクトロポレーション法を用いて導入することにより、豚丹毒菌の染色体とその遺伝子断片がホモロガス・リコンビネーションで置き換わった株を作製した。
インフレーム・デリーション法は、具体的には、Appl Environ Microbiol. 2004, 70(11):6887-6891 に記載の手順に基づいておこなった。
なお、遺伝子断片は、proAの上下流域の断片をそれぞれPCR法により増幅し、それらを結合させた形の遺伝子断片をさらにテンプレートとしてPCRを行うことにより得た。なお、PCRの条件は、添付のマニュアルに従った。
豚丹毒菌としては、豚丹毒菌Fujisawa株を用いた。
また、前記遺伝子断片がホモロガス・リコンビネーションで置き換わった株の確認は、proAの上下流に設計したプライマーを用いてPCRを行い、その遺伝子断片の配列をシークエンスにより確認することで行った。
したがって、ERproA株は、proAが遺伝子破壊されていることにより、この遺伝子の機能が欠損されている豚丹毒菌であることがわかった。
なお、前記シークエンスには、Applied Biosystems 社製「3130xl Genetic Analyzer」を用いた。
proBをコードする塩基配列の上下流域の遺伝子を、インフレーム・デリーション法によって、proB遺伝子の31番目から822番目の塩基(792bp)を欠損させた形でつなぎ合わせ、得られた遺伝子断片を豚丹毒菌の菌体内にエレクトロポレーション法を用いて導入することにより、豚丹毒菌の染色体とその遺伝子断片がホモロガス・リコンビネーションで置き換わった株を作製した。
作製手法については、proBを標的とした以外は実施例1と同様の手順で行ったため、詳細は省略する。
なお、豚丹毒菌(エリシペロスリクス・ルシオパシエ)である前記ERproB株は、本件出願人が、2018年8月23日付けにて独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物センターに寄託し、受託番号「NITE P-02770」が付されている。
proCをコードする塩基配列の上下流域の遺伝子を、インフレーム・デリーション法によって、proC遺伝子の31番目から744番目の塩基(714bp)を欠損させた形でつなぎ合わせ、得られた遺伝子断片を豚丹毒菌の菌体内にエレクトロポレーション法を用いて導入することにより、豚丹毒菌の染色体とその遺伝子断片がホモロガス・リコンビネーションで置き換わった株を作製した。
作製手法については、proCを標的とした以外は実施例1と同様の手順で行ったため、詳細は省略する。
なお、豚丹毒菌(エリシペロスリクス・ルシオパシエ)である前記ERproC株は、本件出願人が、2018年8月23日付けにて独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物センターに寄託し、受託番号「NITE P-02771」が付されている。
proAおよびproBをコードするそれぞれの塩基配列の上下流域の遺伝子を、インフレーム・デリーション法によって、proBの31番目からproAの1203番目の塩基まで、計2012bpを除去した形でつなぎ合わせ、得られた遺伝子断片を豚丹毒菌の菌体内にエレクトロポレーション法を用いて導入することにより、豚丹毒菌の染色体とその遺伝子断片がホモロガス・リコンビネーションで置き換わった株を作製した。
作製手法については、proA、proBを標的とした実施例1、2と同様の手順で行ったため、詳細は省略する。
なお、豚丹毒菌(エリシペロスリクス・ルシオパシエ)である前記ERproAB株は、本件出願人が、2018年8月23日付けにて独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物センターに寄託し、受託番号「NITE P-02772」が付されている。
proA、proBおよびproCをコードするそれぞれの塩基配列の上下流域の遺伝子を、インフレーム・デリーション法によって、proBの31番目からproAの1203番目の塩基までの計2012bpおよびproC遺伝子の31番目から744番目の塩基(714bp)を欠損させた形の遺伝子断片を豚丹毒菌の菌体内にエレクトロポレーション法を用いて導入することにより、豚丹毒菌の染色体とその遺伝子断片がホモロガス・リコンビネーションで置き換わった株を作製した。
作製手法については、proA、proB、proCを標的とした実施例1、2、3と同様の手順で行ったため、詳細は省略する。
なお、豚丹毒菌(エリシペロスリクス・ルシオパシエ)である前記ERproABC株は、本件出願人が、2018年8月23日付けにて独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物センターに寄託し、受託番号「NITE P-02773」が付されている。
実施例1~5で得られたERproA株、ERproB株、ERproC株、ERproAB株、ERproABC株をそれぞれ、2~5匹のマウスに1×108CFUの量に調整して皮下接種した。その結果を表1に示す。
また、ERproAB株を接種したマウスも5匹中3匹は生残していた。
試験例1で生残したERproA株、ERproB株、ERproC株、ERproAB株、ERproABC株を接種したマウスに、103CFU菌量の豚丹毒菌強毒株で攻撃した。その結果を表1に示す。なお、豚丹毒菌強毒株としては、豚丹毒菌Fujisawa株を用いた。
また、ERproC株を接種したマウスも2匹中1匹は生残した。
以上の結果から、ERproA株、ERproB株、ERproC株、ERproAB株、ERproABC株は、安全性および防御誘導能に優れた株であることがわかる。
Claims (7)
- グルタミン酸からプロリンを合成する経路に関連する酵素または1-ピロリン-3-ヒドロキシ-5-カルボキシレートからプロリンを合成する経路に関連する酵素をコードするプロリン合成関連遺伝子が遺伝子破壊されていることにより、前記遺伝子の機能が低下または欠損されており、
前記プロリン合成関連遺伝子がproA、proBおよびproCからなる群より選ばれる1つ以上であることを特徴とする豚丹毒菌プロリン合成関連遺伝子欠損株。 - 前記プロリン合成関連遺伝子をコードする塩基配列を構成する少なくとも1つ以上の塩基が置換または欠失している請求項1に記載の豚丹毒菌プロリン合成関連遺伝子欠損株。
- 豚丹毒菌プロリン合成関連遺伝子欠損株が、豚丹毒菌藤沢株(Erysipelothrix rhusiopathiae Fujisawa)の変異株であるERproA株(NITE P-02769)、ERproB株(NITE P-02770)、ERproC株(NITE P-02771)、ERproAB株(NITE P-02772)またはERproABC株(NITE P-02773)である請求項1または2に記載の豚丹毒菌プロリン合成関連遺伝子欠損株。
- 非ヒトの動物における豚丹毒菌に関連する疾患の治療または予防に使用するためのワクチン組成物であって、
請求項1~3のいずれかに記載の豚丹毒菌プロリン合成関連遺伝子欠損株を含むことを特徴とするワクチン組成物。 - 非ヒトの動物における疾患の治療または予防のための医薬組成物を製造するための、請求項1~3のいずれかに記載の豚丹毒菌プロリン合成関連遺伝子欠損株の使用。
- 前記豚丹毒菌プロリン合成関連遺伝子欠損株がワクチンベクターである請求項5に記載の豚丹毒菌プロリン合成関連遺伝子欠損株の使用。
- 前記豚丹毒菌プロリン合成関連遺伝子欠損株が、豚丹毒菌以外の外来異種抗原を発現するよう形質転換されている請求項5に記載の豚丹毒菌プロリン合成関連遺伝子欠損株の使用。
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