本発明に係るクラッチユニットの実施形態を図面に基づいて詳述する。以下の実施形態では、自動車用シートリフタ部に組み込まれたクラッチユニットを例示するが、自動車用シートリフタ部以外にも適用可能である。
図1および図2はクラッチユニット10の断面図、図3は図1中のP−P線に沿う断面図、図4は図1のQ−Q線に沿う断面図である。図1は、図3中のR−R線に沿う断面図であり、図2は、図3中のS−S線に沿う断面図である。図5はブレーキ側から見たクラッチユニット10の分解斜視図である。なお、以下の説明では軸方向の一方側(図1において図面右側)を「レバー側」と呼び、軸方向の他方側(図1において図面左側)を「ブレーキ側」と呼ぶ。
この実施形態のクラッチユニット10は、図1および図2に示すように、入力側クラッチ部としてのレバー側クラッチ部11と、出力側クラッチ部としてのブレーキ側クラッチ部12とをユニット化した構造を具備する。
レバー側クラッチ部11は、入力された回転トルクの伝達および遮断を制御可能な構成を有する。ブレーキ側クラッチ部12は、レバー側クラッチ部11から伝達された回転トルクを出力側へ伝達すると共に、出力側から逆入力される回転トルク(逆入力トルク)を遮断する逆入力遮断機能を有する。
レバー側クラッチ部11は、外輪14と、内輪15と、係合子としての複数の円筒ころ16と、保持器17と、センタリングばね18とで主要部が構成されている。
外輪14は、円筒状の大径部14aと、円筒状の小径部14bと、大径部14aの一端と小径部14bの一端を半径方向でつなぐ平板状の接続部14cと、小径部14bの他端から内径方向に延びた平板状の内周部14dと、大径部14aの他端から外径方向に延びたフランジ部14eとを一体に有する。
大径部14aの内周面には、複数のカム面140が形成されている。小径部14bは、大径部14aと軸方向でオーバーラップして、大径部14aの内径側に配置されている。接続部14cは、内周部14dよりもレバー側にある。内周部14dの中心には、軸孔141が形成され、この軸孔141に後述する出力軸22の小径軸部22cが挿入されている。
外輪14のフランジ部14eには、ねじ止め等により操作レバー43(図6参照)が取り付けられる。外輪14への回転トルクの入力は、軸心Oを中心として操作レバー43を正逆方向に揺動させることにより行われる。
図1に示すように、内輪15は軸方向に延びた円筒状をなし、外輪14の大径部14aと小径部14bの間に配置される。内輪15は、外輪14から入力される回転トルクをブレーキ側クラッチ部12に伝達する。本実施形態における内輪15は、レバー側クラッチ部11の出力部材、およびブレーキ側クラッチ部12の入力部材としての機能を併せ持つ。内輪15の構成の詳細は後で述べる。
図3に示すように、内輪15の円筒状の外周面150と、外輪14のカム面140との間に正逆両方向の楔すきま20が円周方向で等間隔に形成されている。各楔すきま20に、円筒ころ16が配置されている。円筒ころ16が楔すきま20に係合することで、外輪14と内輪15がロックされて一体に回転可能となる。
保持器17には、円筒ころ16を収容する複数のポケット17bが円周方向等間隔に形成されている。この保持器17により、円筒ころ16が外輪14と内輪15の間で円周方向等間隔に保持される。
センタリングばね18は、C字状の薄板ばねである。このセンタリングばね18は、図1に示すように、保持器17の外径側に配置される。センタリングばね18の半径方向に延びる両端部18aは、図2および図4に示すように、保持器17に設けた半径方向に延びる突出部17aと、後述する静止部材、例えば側板25に設けた軸方向の突出部25aの双方に円周方向で係止させている。
レバー操作により外輪14から回転トルクが入力されると、円筒ころ16が楔すきま20に噛み込み、外輪14と共に内輪15が回転する。外輪14の回転に追従する保持器17の回転に伴ってセンタリングばね18が押し拡げられる。これにより、センタリングばね18に弾性力が蓄積される。
操作レバーの解放により外輪14からの回転トルクが消失すると、センタリングばね18に蓄積された弾性力による回転トルクで保持器17が逆方向に回転し、保持器17に押された円筒ころ16が外輪14のカム面140を押圧する。そのため、円筒ころ16、保持器17、および外輪14が内輪15に対して空転し、これらが図3に示す中立位置に復帰する。その際、内輪15は、レバーの操作によって与えられた回転位置をそのまま維持する。従って、レバー操作を繰り返し行うと、内輪15に各レバー操作の回転量が重畳的に蓄積される。
ブレーキ側クラッチ部12は、図2および図4に示すように、レバー側クラッチ部11から延びる入力部材としての内輪15と、出力部材としての出力軸22と、静止部材としての外輪23および側板25と、係合子としての円筒ころ27と、ばね部材28とで主要部が構成されている。
内輪15は、既に述べたように円筒状に形成される。図2に示すように、内輪15には、円筒状の外周面150を有する円筒部15aと、円筒部15aのブレーキ側の端部からブレーキ側に突出する複数の柱部15bと、円筒部15aの内径側に突出した凸部15cと、円筒部15aのレバー側の端部から内径方向に突出する案内部15dとを有する。円筒部15a、柱部15b、凸部15c、および案内部15dは一体に形成される。凸部15cは、例えば、隣接する柱部15bの間で、かつ円筒部15aのブレーキ側の端部に設けられる。
内輪15の案内部15dの内周には、レバー側クラッチ部11の外輪14の小径部14bが嵌合されている。内輪15の回転は、小径部14bの外周面によって案内される。
出力軸22は、ピニオンギヤ部22aと、ピニオンギヤ部22aのレバー側に設けられた大径軸部22bと、大径軸部22bのレバー側に設けられた小径軸部22cとを同軸で一体に有する。
ピニオンギヤ部22aは、セクターギヤ47(図6参照)と連結される。ピニオンギヤ部22aと大径軸部22bの間にブレーキ側の止め輪31aが装着され、小径軸部22cにレバー側の止め輪31bが装着される。両止め輪31a、31bにより、出力軸22の抜け止めがなされる。小径軸部22cは、外輪14の内周部14dの内径端に嵌合されている。
図4に示すように、出力軸22の大径軸部22bの外周には、複数の平坦なカム面220が円周方向等間隔に形成されている。このカム面220と外輪23の円筒状内周面230との間に楔すきま26が形成されている。
各楔すきま26に、それぞれそれ円筒ころ27が配置されている。隣接する二つの円筒ころ27の間にばね部材28が配置されており、このばね部材28によって、各円筒ころ27に楔すきま26に係合する方向の付勢力が付与されている。ばね部材28として、本実施形態ではコイルばねを使用した場合を例示している。円筒ころ27が楔すきま26に係合することにより、出力軸22から逆入力される逆入力トルクが遮断される。従って、レバー側クラッチ部11には逆入力トルクは伝達されない。また、円筒ころ27が楔すきまから離脱することにより、出力軸22が回転可能になり、内輪15から後述するトルク伝達部を介して入力される回転トルクにより、出力軸22が回転する。
2つの円筒ころ27およびコイルばね28を1つのローラアセンブリ24として、円周方向に等配した3個所に3つのローラアセンブリ24が配置される。隣接する柱部15b間に形成されたポケットに各ローラアセンブリ24が収容される。内輪15の柱部15bは、各ローラアセンブリ24を円周方向等間隔に保持する機能を有する。
図2および図3に示すように、出力軸22の大径軸部22bのレバー側の端面には、内輪15からの回転トルクを受けるための凹部22dが設けられている。凹部22dの外径端は大径軸部22bの外周面に開口している。凹部22dは、隣接するローラアセンブリ24の間に配設して、円周方向に等配した3個所に設けられる。
この凹部22dには、内輪15の凸部15cが収容される。凸部15cが凹部22dと円周方向で係合することにより、内輪15から出力軸22への回転トルクの伝達が行われる。従って、凸部15cと凹部22dは、内輪15と出力軸22の間で回転トルクを伝達するトルク伝達部を構成する。凹部22dの円周方向の寸法は、凸部15cの円周方向の寸法よりも大きく、従って、凸部15cと凹部22dの間には、円周方向のクリアランス(α+α)が形成される(図3参照)。
ブレーキ側クラッチ部12の外輪23と側板25は、図5に示すように、外輪23の外周部に形成された切欠き23bに、側板25の外周縁部に形成されたレバー側に突出する突出部25aを嵌合させ、両者を加締めることにより一体化されている。
側板25の内周には、図1および図2に示すように、制動部材として摩擦リング60が取り付けられている。摩擦リング60は、例えば樹脂で形成することができる。摩擦リング60の内周面を出力軸22の外周面に圧接することにより、出力軸22に制動力が付与される。
以上のような構造を具備するレバー側クラッチ部11およびブレーキ側クラッチ部12の動作例を以下に説明する。
レバー側クラッチ部11では、レバー操作により外輪14に回転トルクが入力されると、円筒ころ16が外輪14と内輪15間の楔すきま20に係合する。この楔すきま20での円筒ころ16の係合により、内輪15に回転トルクが伝達されて内輪15が回転する。この時、外輪14および保持器17の回転に伴ってセンタリングばね18に弾性力が蓄積される。
レバー操作による回転トルクの入力がなくなると、センタリングばね18の弾性力により保持器17および外輪14が中立状態に復帰する。一方で、内輪15は、与えられた回転位置をそのまま維持する。従って、操作レバー43のポンピング動作による外輪14の回転繰り返しで、内輪15は寸動回転する。
ブレーキ側クラッチ部12では、座席シート40(図6参照)への着座により出力軸22に回転トルクが逆入力されても、円筒ころ27が出力軸22と外輪23間の楔すきま26に係合して出力軸22が外輪23に対してロックされる。
このようにして、出力軸22から逆入力された回転トルクは、ブレーキ側クラッチ部12によってロックされてレバー側クラッチ部11への還流が遮断される。これにより、座席シート40の座面高さは保持される。
一方、レバー操作によりレバー側クラッチ部11からの回転トルクが内輪15に入力されると、内輪15の柱部15aが円筒ころ27と当接してコイルばね28の弾性力に抗して円筒ころ27を押圧する。
これにより、円筒ころ27が出力軸22と外輪23間の楔すきま26から離脱する。この楔すきま26での円筒ころ27の離脱により、出力軸22のロック状態が解除されて出力軸22は回転可能となる。
そして、内輪15がさらに回転することにより、内輪15の凸部15cと出力軸22の凹部22dとの間のクリアランスα(図2参照)が詰まって凸部15cが凹部22dに回転方向で当接する。
これにより、レバー側クラッチ部11からの回転トルクは、内輪15の柱部15bおよび凸部15cを介して出力軸22に伝達されて出力軸22が回転する。つまり、内輪15が寸動回転すると、出力軸22も寸動回転する。これにより、座席シート40の座面高さが調整可能となる。
以上で説明したクラッチユニット10は、レバー操作により座席シート40の座面高さを調整する自動車用シートリフタ部39に組み込まれて使用される。図6は自動車の乗員室に装備される座席シート40およびシートリフタ部39を示す側面図である。
図6に示すように、シートリフタ部39における座席シート40の座面高さは、クラッチユニット10におけるレバー側クラッチ部11の外輪14(図1参照)に取り付けられた操作レバー43により調整される。シートリフタ部39は平行リンク機構を有するもので、具体的には以下の構造を具備する。
スライド可動部材44にリンク部材45,46の一端がそれぞれ回動自在に枢着されている。リンク部材45,46の他端はそれぞれ座席シート40に回動自在に枢着されている。リンク部材45の他端にはセクターギヤ47が一体的に設けられている。セクターギヤ47は出力軸22のピニオンギヤ部22aと噛合している。
このシートリフタ部39において、例えば、座席シート40の座面を低くする場合、レバー側クラッチ部11でのレバー操作、つまり、操作レバー43を下側へ揺動させることにより、ブレーキ側クラッチ部12(図1参照)のロック状態を解除する。
ブレーキ側クラッチ部12でのロック解除により、レバー側クラッチ部11からブレーキ側クラッチ部12に伝達された回転トルクでもって、ブレーキ側クラッチ部12の出力軸22のピニオンギヤ部22aが時計方向(図6の矢印方向)に回動する。
シートリフタ部39では、ピニオンギヤ部22aと噛合するセクターギヤ47が反時計方向(図6の矢印方向)に揺動し、リンク部材45とリンク部材46が共に傾倒して座席シート40の座面が低くなる。
このようにして、座席シート40の座面高さを調整した後、操作レバー43を開放すると、操作レバー43がセンタリングばね18(図1参照)の弾性力によって上側へ揺動して元の位置(中立状態)に戻る。
なお、操作レバー43を上側へ揺動させた場合は、前述とは逆の動作で座席シート40の座面が高くなる。座席シート40の座面高さを調整した後に操作レバー43を開放すると、操作レバー43が下側へ揺動して元の位置(中立状態)に戻る。
この実施形態におけるクラッチユニット10の全体構成は、前述のとおりであるが、その特徴的な構成について、以下に詳述する。
ブレーキ側クラッチ部12での出力軸22のロック時、座席シート40(図6参照)への着座状態で、車両の追突等により衝撃的な荷重が座席シート40に負荷された場合、過大な回転トルクが瞬間的に出力軸22に逆入力されることになる。また、悪路などでの車両走行時に上下振動が発生すると、正方向の回転トルクと逆方向の回転トルクが交互に繰り返し出力軸22に逆入力されることになる。これらの逆入力トルクにより、座席シート40の位置が乗員の意図とは関係なく下がるおそれがある。
このような逆入力トルクが出力軸22に与えられた場合でも、出力軸22をロックし続けるため、この実施形態のクラッチユニット10のブレーキ側クラッチ部12は、以下に説明するロック機構を有する。
このロック機構は、図2に示すように、ブレーキ側クラッチ部12の外輪23に設けられた、第一ギヤ部材としてのスライドギヤ32と、出力軸22に設けられた、第二ギヤ部材としてのインナーギヤ33と、スライドギヤ32とインナーギヤ33を噛合状態と噛合状態を解除した状態との間で切り換える切換機構34とを主要部として構成される。
図5に示すように、スライドギヤ32は、内周に歯部32a(以下、内歯と称す)が形成された内歯歯車である。スライドギヤ32の外周の円周方向複数箇所(本実施形態では3箇所)には、レバー側に一体的に延びる突出部32bが形成されている。
ブレーキ側クラッチ部12の外輪23の外周の円周方向複数箇所(本実施形態では6箇所)には、半径方向に突出し、さらにその外径端がブレーキ側に延びた支持部23aが形成されている。隣接する二つの支持部23aの間にスライドギヤ32の突出部32bが嵌合している。これにより、スライドギヤ32が外輪23に支持される。また、スライドギヤ32の回転は、静止部材である外輪23により拘束される。
図1に示すように、外輪23の支持部23aの先端は側板25に接触している。後述するように、スライドギヤ32は、軸方向に往復移動するが、支持部23aの先端を側板25に接触させることにより、スライドギヤ32のストロークの全行程でスライドギヤ32を外輪23で支持することができる。
インナーギヤ33は、外周に歯部33a(以下、外歯と称す)が形成された外歯歯車である。このインナーギヤ33の外歯33aはスライドギヤ32の内歯32aと噛合可能である。インナーギヤ33は、出力軸22のピニオンギヤ部22aとカム面220の間で出力軸の外周に嵌合される。具体的には、図1に示すように、大径軸部22bのブレーキ側の端部の外周に切り欠き部22eを設け、この切り欠き部22eにインナーギヤ33が嵌合される。
図5に示すように、インナーギヤ33の外周面には、レバー側に外歯33aが形成され、ブレーキ側に円筒面状のガイド面33bが形成される。図1に示すように、ガイド面33bの直径寸法は、スライドギヤ32の内歯32aの歯先円直径よりも僅かに小さい。ガイド面33bと内歯32aの歯先面とは嵌合可能であり、両者間には、スライドギヤ32とインナーギヤ33が芯ずれを起こすことなく軸方向に相対移動できる程度の嵌め合い隙間が形成される。
切換機構34(図2参照)は、出力軸22に回転トルクが伝達されていない時にスライドギヤ32とインナーギヤ33を噛合状態とし、出力軸22に回転トルクが伝達されている時にスライドギヤ32とインナーギヤ33の噛合状態を解除する。
図7は、図3のA方向から見たクラッチユニット10の平面図である。
図7に示すように、この実施形態の切換機構34は、スライドギヤ32に設けられたカム溝320と、レバー側クラッチ部11の外輪14に設けられたカム部141からなるカム機構で構成される。カム溝320は、スライドギヤ32の突出部32bの先端にV字状に形成され、カム部141は、外輪14の外周から軸方向のブレーキ側に一体に延ばした突出部14fの先端に凸アール状に形成される。カム機構は円周方向に等配した3個所に形成される(図5参照)。
この切換機構34では、スライドギヤ32と、ブレーキ側クラッチ部12の静止部材、例えば側板25との間に、スライドギヤ32を軸方向のレバー側に弾性的に付勢する弾性部材35を介在させている。本実施形態では、弾性部材35の一例として、ウェーブスプリングを使用している。
かかる切換機構34において、レバー側クラッチ部11の外輪14に回転トルクが与えられていない状態では、図7に示すように、ウェーブスプリング35の弾性力によりスライドギヤ32がレバー側に押圧される。そのため、スライドギヤ32の内歯32aとインナーギヤ33の外歯33aは噛合した状態に保持される(図1参照)。また、カム溝320とカム部140は嵌合した状態に保持される(図8参照)。
スライドギヤ32の内歯32aとインナーギヤ33の外歯33aとが噛合した状態では、出力軸22は、静止部材であるブレーキ側クラッチ部12の外輪23に回転方向で拘束される。そのため、出力軸22は回転が規制されたロック状態となる。
このように出力軸22がロックされた状態では、車両追突時に出力軸22に瞬間的に大きな逆入力トルクが作用し、あるいは悪路走行等により出力軸に正逆方向の逆入力トルクが繰り返し作用した場合でも、出力軸22は回転しない。そのため、車両追突時や悪路走行時の出力軸22の回転を回避し、出力軸22に負荷された逆入力トルクで座席シート40が意図せず降下する現象を回避することができる。
また、スライドギヤ32の内歯32aとインナーギヤ33の外歯33aとの噛み合いにより、ブレーキ側クラッチ部12に対して大容量のトルク負荷が可能となる。そのため、ブレーキ側クラッチ部12を構成する円筒ころ27の数を低減することもでき、クラッチユニット10の軽量化およびコスト低減が図れる。
その一方で、レバー側クラッチ部11の外輪14に回転トルクが入力されると、外輪14の回転に伴って切換機構34のカム部141がカム溝320をブレーキ側に押し込む。これにより、図8に示すように、スライドギヤ32がウェーブスプリング35の弾性力に抗してブレーキ側に押し込まれ、図中の二点鎖線で示す位置までスライドする(スライド後のインナーギヤを符号32’で表し、内歯を符号32a’で表す)。
このスライドギヤ32の軸方向スライドにより、スライドギヤ32の内歯32aの歯先が、インナーギヤ33の外歯33aとの対向領域から離脱し、インナーギヤ33のガイド面33bと対向する。そのため、スライドギヤ32の内歯32aとインナーギヤ33の外歯33aとの噛合状態が解除される。これにより、出力軸22のロックが解除され、出力軸22は外輪23に対して回転可能な状態となる。
この際、ガイド面33bによって、スライドギヤ32のスライド移動がガイドされるため、スライドギヤ32とインナーギヤ33の芯ずれを防止することができる。従って、スライドギヤ32を再度、レバー側にスライドさせた際にも、内歯32aと外歯33aをスムーズに噛合させることができる。
レバー操作により外輪14がさらに回転すると、上述したとおり、内輪15の凸部15cと出力軸22の凹部22dとが係合し、内輪15の回転トルクが出力軸22に伝達されて出力軸22が回転する。これにより、座席シート40の座面高さが調整可能となる。
なお、スライドギヤ32の内歯32aがインナーギヤ33の外歯33aから離脱した直後は、ブレーキ側クラッチ部12では、円筒ころ27が外輪23と出力軸22間の楔すきま26に係合した状態にある。そのため、この時点で出力軸22に回転トルクが逆入力されても、出力軸22はロックされ続ける。
その後、スライドギヤ32の軸方向スライドにより、スライドギヤ32の内歯32aがインナーギヤ33の外歯33aから完全に離脱した後で、円筒ころ27が外輪23と出力軸22間の楔すきま26から離脱する。従って、レバー操作時にスライドギヤ32と出力軸22間で歯打ち音などの異音が発生することはない。
このように静止側に支持されたギヤ部材(スライドギヤ32)と回転側に支持されたギヤ部材(インナーギヤ33)との噛合により出力軸の回転をロックし、かつ両者の噛合状態と噛合状態の解除とを切り換え可能とした構成では、出力軸22の回転停止時点の回転方向の位相によっては、図9に示すように、スライドギヤ32の内歯32aの歯先と、インナーギヤ33の外歯33aの歯先とが軸方向で当接する場合がある。
このように内歯32aの歯先と外歯33aの歯先が当接すると、そのままでは、ウェーブスプリング35の弾性力をスライドギヤ32に作用させても、スライドギヤ32がレバー側に移動できず、内歯32aと外歯33aを噛合させることが困難となる。かかる事態を解消するため、クラッチユニット10に、内歯32aと外歯33aの噛み合いを調整するアライメント機構を設けるのが望ましい。
アライメント機構は、出力軸22に対するインナーギヤ33の微小回転を許容する一方で、両者の微小回転以上の相対回転時に出力軸22とインナーギヤ33をロックする機能を有する。アライメント機構の一例として以下の構成を挙げることができる。
アライメント機構は、図11および図12に示すように、出力軸22とインナーギヤ33の位相が合った中立状態(図11参照)でインナーギヤ33の微小回転を許容し、さらに微小回転後の出力軸22とインナーギヤ33を、両者の位相がずれた状態(図12参照)から、図11に示す中立状態に復帰させるものである。このアライメント機構は、インナーギヤ33の微小回転を許容するアライメント部50と、出力軸22に対して位相ずれしたインナーギヤ33を中立位置に復帰させるセンタリング部54とを主要部として構成される。
アライメント部50は、インナーギヤ33の内周面と出力軸22の外周面との対向領域において、出力軸22の外周面に形成された平坦面51と、インナーギヤ33の内周面に形成された傾斜面52とを備える。
図11に示す中立状態において、軸方向から見た時、平坦面51は、軸心Oを中心とした円の弦を描く。この平坦面51は、出力軸22の外周面の180°対向した位置に設けられる。
この時の傾斜面52は、前記弦と鋭角に交差する線分を描く。平坦面51に対する交差角を等しくし、かつ中凸形状となるように傾斜方向を逆にした2つの傾斜面52を1セットとして、インナーギヤ33の内周面の180°対向位置に2セットの傾斜面52が設けられる。このように傾斜方向を逆にした2つの二種類の傾斜面52を隣接して形成することにより、回転トルクの正方向と逆方向の両方に対応することができる。
図11に示す中立状態では、出力軸22の平坦面51に、インナーギヤ33の2つの傾斜面52の間に設けた中央部位53が当接する。
図12に示すように、出力軸22に対してインナーギヤ33が微小回転して両者の位相がずれた状態では、平坦面51にインナーギヤ33のいずれか一方の傾斜面52が面接触する。これにより、出力軸22とインナーギヤ33が、微小回転方向と同方向に供回り可能となる。つまり、図11に示す中立状態から、平坦面51にインナーギヤ33の何れか一方の傾斜面52が接触するまで(図12参照)、インナーギヤ33は出力軸22に対して微小回転可能となる。
インナーギヤ33に許容される、出力軸22に対する微小回転量、すなわちアライメント量は、少なくともインナーギヤ33の歯のピッチの半分程度が好ましい。例えば、スライドギヤ32およびインナーギヤ33の歯数を30とした場合、360°/歯数=12°となるので、12°の半分の6°をアライメント量とする。なお、アライメント量は少なくともスライドギヤ32の内歯32aの歯元厚さの半分以上あれば足りるが、本実施形態では、余裕を持たすために、これよりも大きめのアライメント量を設定している。
センタリング部54は、出力軸22とインナーギヤ33との間に回転方向の弾性力を付与する弾性部材56を有する。弾性部材56として、図13に示すC字状のリングばねを使用することができる。リングばね56の両端56aは、軸方向に延びている。リングばね56の弾性力は、ウェーブスプリング35(図1参照)の弾性力よりも小さい。
図13に示すように、リングばね56の両端56aは、出力軸22とインナーギヤ33に跨って形成された収容部55内に収容される。収容部55は、例えば、出力軸22の大径軸部22bのブレーキ側の端面に設けた凹所57と、インナーギヤ33の内周に軸方向に貫通させて形成した切り欠き部58の円周方向位置を整合させることで形成される。図11に示すように、収容部55にリングばね56の両端56aを挿入し、収容部55の円周方向両側で出力軸22およびインナーギヤ33にリングばね56の両端56aを係止することで、センタリング部54が構成される。
このように、アライメント部50で、出力軸22に対してインナーギヤ33の微小回転を許容することにより、図9に示すように、出力軸22の回転が停止した時点(操作レバーを解放した時点)で、スライドギヤ32の内歯32aとインナーギヤ33の外歯33aの歯先同士が当接した状態になっても、ウェーブスプリング35の弾性力を受けたスライドギヤ32の内歯32aが、インナーギヤ33の外歯33aを回転方向に押圧する。この押圧力がリングばね56の弾性力に打ち勝つため、インナーギヤ33が微小回転し、図10に示すように、インナーギヤ33の外歯33aがスライドギヤ32の内歯32aと噛み合う。
これにより、図9に示す噛合不良状態を自動的に解消し、スライドギヤ32とインナーギヤ33を噛合させて出力軸22をロックすることができる。そのため、出力軸22に作用した逆入力トルクによる座席シートの意図しない降下を防止することができる。
なお、内歯32aからの軸方向の押圧力を、外歯33aに対する回転方向の押圧力に変換できるように、スライドギヤの内歯32aおよびインナーギヤ33の外歯33aの各歯先は、軸方向に対して傾斜したテーパ面状に形成するのが好ましい(図9参照)。
このように噛合不良を解消した状態では、図12に示すように、出力軸22とインナーギヤ33は位相ずれを生じた状態にある。この位相ずれは、操作レバーを操作して出力軸22に回転トルクを伝達する際に解消される。すなわち、操作レバーの操作により出力軸22に回転トルクが伝達された際には、切換機構34(図7参照)の作用により、スライドギヤ32とインナーギヤ33の噛合状態が解消され、インナーギヤ33が回転フリーの状態となる。そのため、スライドギヤ32とインナーギヤの噛合状態が解消されると同時に、リングばね56に蓄積された弾性力でインナーギヤ33が微小回転方向と反対方向に回転し、出力軸22に対してインナーギヤ33が図11に示す中立位置に復帰する。
このようにして、インナーギヤ33を出力軸22に対して中立位置に復帰させることで、次の出力軸22の回転停止時に再度インナーギヤ33の外歯33aとスライドギヤ32の内歯32aとが当接した状態となっても、アライメント部50により両者を噛合させることができる。
図14に、特許文献1に記載のクラッチユニットにおけるブレーキ側クラッチ部の断面図を示す。なお、図14では、本実施形態で述べた部材と共通する機能を有する部材に、本実施形態で使用した符号と同じ符号を付している。
図14に示すように、従来のクラッチユニットでは、出力軸22と内輪の間でトルク伝達を行うトルク伝達部としての凸部100を出力軸22の大径軸部22bに設け、凸部100と係合する凹部101を内輪15に設けている。また、凸部100は大径軸部22bの円周方向に隣接するカム面220の間で半径方向へ突出する形で設けられている。
ところで、図1に示す本実施形態のクラッチユニットにおいて、特許文献1のトルク伝達部を採用した場合、以下の不具合の何れか一方または双方を生じることが明らかになった。
(1)アライメント機構の動作不良
シートリフタ用のクラッチユニット10は、座席シートのドア側の側面に取り付けられるのが通例である。座席シートとドアの間の空間の幅寸法の拡大には限度があるため、クラッチユニット10の軸方向寸法は極力小さくする必要がある。かかる要請から、インナーギヤ33は、出力軸22の大径軸部22bのブレーキ側の端面と接触させて配置するのが好ましい(図1参照)。
特許文献1のクラッチユニットのように、外径側に突出するトルク伝達用の凸部100を大径軸部22bに設けた場合には、出力軸22の最大回転半径D1が大きくなる。そのため、特許文献1のトルク伝達部を本実施形態で採用すると、アライメント機構によりインナーギヤ33を出力軸22に対して微小回転させる際に、出力軸22との間の摺動抵抗が大きくなる。加えて、インナーギヤ33の端面と出力軸22の端面(大径軸部22bのブレーキ側の端面)との接触部がグリースあるいは潤滑油の介在により湿潤した状態にあるため、両者が吸着したような状態となり、摺動抵抗の増大が助長される。そのため、アライメント機構によるインナーギヤ33の微小回転が阻害され、アライメント動作に支障を来すおそれがある。
(2)出力軸の製作コストの高騰
出力軸22の製作は、鍛造により行うのがコスト面で有利となる。しかしながら、特許文献1のように、出力軸22の大径軸部22bに半径方向に突出する凸部100を設けた場合、凸部100とカム面220を鍛造で同時に形成することが困難であるため、出力軸22を鍛造で製作することが難しい。この場合、出力軸22は、切削加工等により製作せざるを得ず、出力軸22の製作コストが高騰する。
以上に述べた(1)および(2)の課題は、本実施形態のように、内輪15と出力軸22の間に形成するトルク伝達部の凸部15cを内輪15に設け、凹部22dを出力軸22の端面に設けることで解決することができる。
上記(1)の課題との関係については、凹部22dを出力軸22の大径軸部22bのレバー側の端面に設けることにより、図15に示すように、出力軸22の最大回転半径D2が特許文献1の最大回転半径D1に比べて小さくなる。そのため、アライメント機構によりインナーギヤ33を出力軸に対して微小回転させる際に、出力軸22との間の摺動抵抗が小さくなり、アライメント機構によるインナーギヤ33の微小回転をスムーズに行うことが可能となる。
加えて、本実施形態では、図1および図2に示すように、インナーギヤ33(外歯33aも含む)の外径寸法をブレーキ側クラッチ部12の外輪23の内径寸法よりも小さくしている。この大小関係を逆にすると、インナーギヤ33の外径部が外輪23の端面と接触するため、インナーギヤを微小回転させる際の摺動抵抗が大きくなるが、上記の構成を採用することで、かかる摺動抵抗を軽減することができる。そのため、アライメント機構によるインナーギヤ33の微小回転をより一層スムーズに行うことが可能となる。
さらに、図16に示すように、インナーギヤ33のレバー側の端面の複数箇所に突起103を設けておけば、インナーギヤ33と出力軸22の大径軸部22bとを点接触させることができる。これにより、インナーギヤ33と出力軸22との吸着を防止できるため、アライメント機構によるインナーギヤ33の微小回転をより一層スムーズに行うことが可能となる。この突起103は、インナーギヤ33の傾きを防止するためにも、インナーギヤ34のレバー側の端面の円周方向3個所に形成するのが好ましい。
以上に述べた突起103は、インナーギヤ33に設ける他、インナーギヤ33と軸方向で対向する大径軸部22b、例えば大径軸部22bのブレーキ側の端面に設けることもできる。
この他、インナーギヤ33のレバー側の端面および出力軸22の大径軸部22bのブレーキ側の端面のうち、いずれか一方の表面粗さを他方よりも小さくすることにより、同様に、インナーギヤ33と大径軸部22bとの吸着を防止して、アライメント機構の機能を確保することができる。
また、上記(2)の課題との関係については、凹部22dを出力軸22の大径軸部22bのレバー側の端面に設けることにより、大径軸部22bの外周面が平滑化されて極端な凹凸がなくなるため、カム面220を含む出力軸22の殆どの部分を鍛造で成形することが可能となる。そのため、出力軸22の製作コストを低廉化することができる。具体的には、鍛造後は、少なくとも止め輪31a,31dを装着する止め輪溝の形成、およびピニオンギヤ部22aの最終仕上げを切削加工で行う必要があるが、その他の部位は、後加工なしに鍛造で仕上げることができる。この場合、出力軸22の最終製品では、ピニオンギヤ部22aおよび止め輪溝以外の領域(大径軸部22b、カム面220、小径軸部22c、凹部22d、凹所57)が全て鍛造肌(鍛造面)となり、ピニオンギヤ部22aおよび止め輪溝が切削された切削面となる。
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。