以下に、実施の形態にかかるミシン、ミシンのデータ処理装置、ミシンのデータ表示装置、ミシンの学習装置、ミシンの推論装置およびミシンの記憶装置を図面に基づいて詳細に説明する。
実施の形態1.
実施の形態1では、搬送機構によって被縫製物を移動させながら縫製動作を行う工業用電子ミシンの構成例を説明する。被縫製物は、布、革、生地、ベルト、帯、ロープといった縫製素材である。ただし、ミシンは、縫い針が装着される針棒と、縫い目の引き締めを行う天秤とを互いに独立した駆動源によって駆動するミシンであれば良く、一般ミシン、職業用ミシン、家庭用ミシン、刺繍機、パターンシーマ等であっても良い。以下の説明において、使用者とは、ミシンの使用者とする。
図1は、実施の形態1にかかるミシンの全体構成を示す斜視図である。図2は、実施の形態1にかかるミシンの頭部ユニットを示す斜視図である。図3は、実施の形態1にかかるミシンの針棒機構と天秤機構とを示す斜視図である。図4は、実施の形態1にかかるミシンの下軸ユニットを示す斜視図である。図5は、実施の形態1にかかるミシンのかま機構を示す斜視図である。
X軸、Y軸およびZ軸は、互いに垂直な3軸である。X軸とY軸とは、水平方向の軸である。Z軸は、鉛直方向の軸である。Z軸方向は、縫い針が上下動する方向である。X軸方向は、後述する滑り板104の長手方向である。図1から図5には、右手系のXYZ座標系を示している。
[全体構成]
図1に示すように、実施の形態1にかかるミシン100の主要部は、筐体機構P0と、搬送機構P1と、制御装置P2と、頭部ユニットP3と、下軸ユニットP4とで構成される。
[筐体機構P0]
図1に示すように、ミシン100の筐体機構P0は、頭部ユニットP3を支持するアーム101と、搬送機構P1に含まれるXYステージ11を格納するベッド102と、アーム101およびベッド102を設置床から支持する支持脚103と、ベッド102の上面に固定されてXYステージ11が駆動する送り板12を平面上で摺動自在となるようにZ軸方向に支持する滑り板104とを有する。筐体機構P0は、ミシン100が動作する時の衝撃による機械的な破壊に耐え得るように設計された高剛性の鋼板または鋳物といった素形材、または、衝撃を分散させて吸収する柔軟材で構成される。
筐体機構P0の構成は、図1に示す構成に限定されない。頭部ユニットP3を支持するための高い剛性をアーム101に持たせるために、アーム101の形状にはガントリ型の形状を採用しても良い。また、ヒッチステッチの発生を防ぎ、常にパーフェクトステッチの縫い目を形成するために、アーム101の先端で頭部ユニットP3をZ軸周りに回転させる回転機構を設けても良い。
[搬送機構P1]
搬送機構P1は、ミシン100の縫製対象物である被縫製物を搬送する位置決め手段である。図1に示すように、実施の形態1において、ミシン100の搬送機構P1は、XYステージ11と、送り板12と、エアシリンダ13とを有する。XYステージ11は、図示しない搬送用モータであるX軸モータおよびY軸モータによって、送り板12をX軸方向とY軸方向とへ移動させる。XYステージ11は、送り板12を移動させることによって被縫製物を搬送する。X軸モータは、送り板12をX軸方向へ駆動する駆動源である。Y軸モータは、送り板12をY軸方向へ駆動する駆動源である。
XYステージ11は、可動部に連結された保持装置によって送り板12を保持する。保持装置は、エアシリンダ13を備える空圧機器である。送り板12には、縫製素材である被縫製物が固定される。XYステージ11は、縫い針に対して被縫製物が適切に位置決めされるように、滑り板104の水平面上において送り板12を搬送する。
搬送機構P1の構成は、図1に示す構成に限定されない。XYステージ11には、例えば、本出願人が先に公開した国際公開第2017/175526号に示される構成を適用しても良い。縫い針に対して被縫製物が搬送可能であれば良いため、ミシン100は、被縫製物ではなく、縫い針を水平方向に移動させても良い。
また、例えば、送り歯により被縫製物を縫い針に対して搬送する他種のミシン、またはロボットにより被縫製物を立体的に搬送するミシンであっても、実施の形態1による品質評価および品質管理の方法を適用することができる。さらに、搬送機構P1を備えず、手作業を含む別の手段によって被縫製物を縫い針に対して搬送するミシンであっても、実施の形態1による品質評価および品質管理の方法を適用することができる。また、搬送機構P1を備えないミシンであっても、針棒モータおよび天秤モータの各駆動情報を用いることによって、縫製品質のトレーサビリティを確保することができる。
[制御装置P2]
図1に示すように、実施の形態1において、ミシン100の制御装置P2は、操作盤21と、データ表示装置22と、制御盤23と、フットスイッチ24とを有する。操作盤21は、使用者が操作盤21を操作することによって作成された縫製パターンデータに基づいて、ミシン100を駆動するための縫製指令信号を生成する。縫製パターンデータは、縫製パターンおよび制御パラメータが記録されたデータである。操作盤21は、生成された縫製指令信号を制御盤23へ送る。
データ表示装置22は、制御盤23から送信される表示用データに基づいて、ミシン100の異常、異常の発生頻度、およびメンテナンス方法を判断し、判断結果の内容を表示する。データ表示装置22は、判断結果の内容を、表示によって使用者へ通知する。なお、データ表示装置22は、表示用データそのものを表示しても良い。
制御盤23は、搬送機構P1による搬送動作を制御する。また、制御盤23は、頭部ユニットP3による縫製動作の速度および縫製動作のタイミングを制御する。制御盤23は、データ表示装置22へ表示用データを送る。フットスイッチ24は、ボタンまたはタッチパネルを使用者が押下する操作を受けて、ミシン100の制御を開始するタイミングを示す動作開始信号と、保持装置が被縫製物の保持と不保持とを切り換えるタイミングを示す保持信号とを制御盤23へ出力する。
[頭部ユニットP3]
図2に示すように、実施の形態1において、ミシン100の頭部ユニットP3は、糸調子機構31と、針棒機構32と、天秤機構33と、中押さえ機構34と、針棒機構32の駆動源である針棒モータ35と、天秤機構33の駆動源である天秤モータ36と、筐体130と、糸案内131,132とを有する。
中押さえ機構34を構成する中押さえ34aは、縫い針32aおよび天秤33aの上昇動作に伴う被縫製物の浮き上がりまたはばたつきを防ぐために、縫製作業時において被縫製物を押圧する。中押さえ34aの先端部には円筒形状の貫通孔34bが形成されている。貫通孔34bには、縫い針32aが挿通される。
中押さえ機構34は、図示しない駆動源である中押さえモータによって中押さえ34aを上下動させる。実施の形態1において、中押さえモータは、回転型のサーボモータとする。中押さえ機構34は、例えば、中押さえモータの回転軸にカップリングを介して接続されたラックアンドピニオン機構を含む。ミシン100は、中押さえモータの回転を制御することで、中押さえ機構34以外の機構に対して独立して、上下方向に中押さえ34aを駆動する。
なお、被縫製物の浮き上がりまたはばたつきを防ぐために被縫製物を押圧可能であれば、中押さえ機構34を構成する中押さえモータおよび機構には、周知のモータおよび機構を採用できる。中押さえ機構34には、本出願人が先に公開した国際公開第2019/043813号に示される構成を適用しても良い。
次に、図2を参照して、ミシン100の上糸経路と、上糸張力の制御に関わる糸調子機構31の構成とについて説明する。実施の形態1において、糸調子機構31は、上糸Tの残長を調整するプリテンション31aと、縫い目における上糸Tの締り加減を調整するメインテンション31bと、上糸Tがかまを潜る際における糸抜けを補助する糸取りばね31cとを有する。
使用者は、ミシン100での縫製作業を実施する前に、縫い目を形成した際に上側の糸となる上糸Tを、図示しない糸巻きから、上糸Tの消費部である縫い針32aまでの上糸経路に沿って供給する。糸巻きは、上糸Tの供給源である。上糸経路は、糸巻きから、1つ以上の糸案内131と、プリテンション31aと、メインテンション31bと、糸取りばね31cと、天秤33aの小穴33bと、1つ以上の糸案内132とを経由して、縫い針32aの先端部にある針孔32bに至る。糸巻きは、上糸経路の始点である。針孔32bは、上糸経路の終点である。
中押さえ34aの貫通孔34bに縫い針32aが挿通されることで、針孔32bに挿通された上糸Tも貫通孔34bに挿通される。糸案内131,132は、上糸Tが挿通される通し穴である。上糸Tは、糸案内131,132に挿通されることによって、筐体130に沿って案内される。これにより、縫製作業時における上糸Tのばたつき、絡まり、または解れが防がれる。上糸Tの張力は、プリテンション31aおよびメインテンション31bが有するばねの反発による付勢力を受けた1対の皿状部材間で上糸Tを挟持することによって付与される。上糸Tは、縫製作業時において、針棒32cの駆動に伴って被縫製物を貫通し、滑り板104の下方へ供給される。
次に、図3を参照して、針棒機構32の構成と天秤機構33の構成とについて説明する。実施の形態1において、針棒機構32は、縫い針32aと、針棒32cと、針棒シャフト32dと、針棒クランク32eと、連接棒32fと、スライダ32gと、針棒抱き32hとを有する。縫い針32aは、上糸Tが挿通される針孔32bを有する。
針棒モータ35は、針棒駆動情報を検出する針棒駆動情報検出器133を有する。針棒駆動情報は、針棒モータ35の動作を表す情報であって、針棒モータ35の固定子に対する可動子の回転情報である。実施の形態1において、針棒モータ35は、回転型のサーボモータとする。カップリング135は、針棒モータ35の回転軸と針棒シャフト32dとを接続する。
針棒32cには、縫い針32aが装着される。針棒32cは、縫製動作において、縫い針32aを被縫製物へ刺して被縫製物から縫い針32aを抜く動作を繰り返す。針棒32cは、縫い針32aを被縫製物へ刺す動作によって、針孔32bに挿通された上糸Tを被縫製物の表から裏へ供給する。針棒モータ35は、針棒32cを駆動する駆動源である。針棒クランク32eは、針棒シャフト32dのうちカップリング135に連結された端部とは逆の端部に設けられている。連接棒32fの一方の端部は、針棒クランク32eに接続されている。連接棒32fの他方の端部には、連接棒32fに針棒32cを支持する針棒抱き32hが設けられている。
針棒シャフト32dは、針棒モータ35の動力を受けて回転する。針棒シャフト32dの回転運動は、針棒クランク32eと連接棒32fとによって、針棒32cの並進運動へと変換される。縫い針32aは、針棒32cのうち下方先端部に装着される。針棒32cの上下動に伴って、縫い針32aは、上下方向に動作する。これにより、針棒32cは、針孔32bに上糸Tが通された縫い針32aを被縫製物へ刺して被縫製物から縫い針32aを抜く動作を繰り返す。針孔32bに上糸Tが通された縫い針32aが被縫製物を貫くことによって、被縫製物の表から裏へ上糸Tが供給される。
ミシン100は、針棒モータ35の回転を制御することで、針棒機構32以外の機構に対して独立して、上下方向に針棒32cを駆動する。なお、ミシン100は、少なくとも、天秤33aに対して独立して針棒32cを駆動するものであれば良い。
実施の形態1において、天秤機構33は、天秤33aと、天秤シャフト33cと、天秤クランク33dと、天秤ロッド33eと、を備える。天秤33aは、上糸Tが挿通される小穴33bを有する。天秤モータ36は、天秤駆動情報を検出する天秤駆動情報検出器134を有する。天秤駆動情報は、天秤モータ36の動作を表す情報であって、天秤モータ36の固定子に対する可動子の回転情報である。実施の形態1において、天秤モータ36は、回転型のサーボモータとする。カップリング136は、天秤モータ36の回転軸と天秤シャフト33cとを接続する。
天秤33aは、縫製作業時に、被縫製物から上糸Tを引き上げる動作によって縫い目の引き締めを行う。天秤33aは、例えば、ベルクランク形状の剛体であって、金属素材からなる。小穴33bは、天秤33aの一方の端部に形成されている。天秤33aは、かかる端部を被縫製物から引き離すように動作することによって、縫い目から上糸Tを引き上げる。天秤モータ36は、天秤33aを駆動する駆動源である。
天秤クランク33dは、天秤シャフト33cのうちカップリング136に連結された端部とは逆の端部に設けられている。天秤33aのうち小穴33bが設けられている端部とは逆の端部は、天秤クランク33dに回転可能に接続される。天秤ロッド33eの一方の端部は、天秤33aのうちベルクランク形状の屈曲部に連結される。天秤ロッド33eの他方の端部は、頭部ユニットP3の筐体130に回転可能に接続される。
天秤シャフト33cは、天秤モータ36の動力を受けて回転する。天秤シャフト33cの回転運動は、天秤クランク33dと天秤ロッド33eとによって、天秤33aのうち小穴33bが形成されている端部の並進運動へと変換される。
ミシン100は、天秤モータ36の回転を制御することで、天秤機構33以外の機構に対して独立して、天秤33aを動作させる。なお、ミシン100は、少なくとも、針棒32cに対して独立して天秤33aを駆動するものであれば良い。針棒モータ35と天秤モータ36とは、互いに独立した駆動源である。
[下軸ユニットP4]
図4に示すように、実施の形態1において、ミシン100の下軸ユニットP4は、糸切り機構41と、かま機構42と、糸切り機構41の駆動源である糸切りモータ43と、かま機構42の駆動源であるかまモータ44と、筐体140とを有する。糸切り機構41は、糸切り41aと、糸切り41aを水平方向に駆動する糸切りカム機構41bとを有する。
実施の形態1において、糸切りモータ43は、回転型のサーボモータとする。糸切りカム機構41bは、カップリングを介して、糸切りモータ43の回転軸に接続される。糸切り41aは、かま42aと滑り板104との間に配置される。糸切り41aは、縫製終了時に、上糸Tと図示しない下糸とを切断する。
次に、図5を参照して、かま機構42の構成について説明する。実施の形態1において、かま機構42は、かま42aと、かまシャフト42c,42dと、大径ギヤ42eと、小径ギヤ42fとを有する。かま42aは、上糸Tを捕捉する剣先42bを有する。かま42aは、上糸Tを捕捉することによって上糸Tと下糸とを絡ませる。
かまモータ44は、かま駆動情報を検出するかま駆動情報検出器141を有する。かま駆動情報は、かまモータ44の動作を表す情報であって、かまモータ44の固定子に対する可動子の回転情報である。実施の形態1において、かまモータ44は、回転型のサーボモータとする。カップリング142は、かまモータ44とかまシャフト42cとを接続する。
かまシャフト42cのうちカップリング142に連結された端部とは逆側の端部は、大径ギヤ42eを貫いている。大径ギヤ42eは、かまシャフト42cに接続されている。かま42aは、かまシャフト42dの一方の端部に設けられている。かまシャフト42dのうちかま42aが設けられている端部とは逆側の端部は、小径ギヤ42fを貫いている。小径ギヤ42fは、かまシャフト42dに接続されている。大径ギヤ42eと小径ギヤ42fとは、互いに噛合する。
かまシャフト42cは、かまモータ44の動力を受けて回転する。かまシャフト42cとともに大径ギヤ42eが回転することによって、小径ギヤ42fが回転する。小径ギヤ42fとともにかまシャフト42dが回転することによって、かま42aが回転する。このようにして、かま42aは、かまモータ44の動力が伝達されることによって回転運動を行う。ミシン100は、かまモータ44の回転を制御することで、かま機構42以外の機構に対して独立して、かま42aを回転駆動する。かまモータ44は、かま42aを駆動する駆動源である。
縫い針32aが下死点から上死点へと移動することによって、上糸Tのループが形成される。かま42aが回転することによって、剣先42bは、かかるループを捕捉する。剣先42bは、かま42aのうちの外かまに形成されている。かま42aは、下糸が巻かれた図示しないボビンと、外かまからボビンが抜け落ちないようにボビンを収納する図示しないボビンケースとを有する。
実施の形態1では、かま42aには全回転かまが採用されるものとする。かま42aは、上糸Tのループを捕捉可能であれば良く、全回転かまに限定されない。かま42aは、半回転かま、水平かま、または垂直かまであっても良い。全回転かまが使用される場合、かま機構42は、針棒32cの上下動に対して2倍の速さでかま42aを駆動する必要がある。このため、実施の形態1では、かま機構42には、大径ギヤ42eおよび小径ギヤ42fで構成される倍速機が使用されている。かま機構42は、倍速機を使用せずに、かまモータ44によってかま42aを直接駆動する構成であっても良い。この場合、ミシン100は、噛合部分のバックラッシに起因する大径ギヤ42eまたは小径ギヤ42fの損壊、焼き付きといった異常を、かま機構42の異常として検出する必要が無くなる。なお、全回転かまの構成は、周知の技術であるため、拡大図の参照による説明は省略する。
ミシン100は、針棒機構32と、天秤機構33と、中押さえ機構34と、かま機構42と、搬送機構P1とが互いに協働することによって、被縫製物に縫い目を形成する縫製作業を行う。縫製動作の詳細は、次に述べるとおりである。
[頭部ユニットP3および下軸ユニットP4による縫製作業]
まず、針棒モータ35を回転させることにより、針孔32bに上糸Tが通された縫い針32aが滑り板104の上方から下降し、被縫製物へ挿針される。縫い針32aの下降動作によって、上糸Tが被縫製物の下方へ供給される。その後、縫い針32aが下死点から上昇する際、上糸Tは、被縫製物との間の摩擦によって、被縫製物よりも下側にてループを形成する。
この上糸Tのループが形成されるタイミングに調時して、かまモータ44によって回転するかま42aの剣先42bが上糸Tを捕捉し、上糸Tと下糸とを絡み合わせる。その後、縫い針32aが被縫製物から抜針されることで、上糸Tは被縫製物から引き上げられる。その後、天秤モータ36の駆動によって、天秤33aのうち小穴33bが形成されている端部が上昇する。小穴33bを通されている上糸Tが被縫製物の上方へ引き上げられることによって、被縫製物に縫い目が形成される。このとき、中押さえ34aは、縫い針32aと天秤33aとの各々が上昇する動作に伴って被縫製物が浮き上がったりばたついたりしないように、被縫製物を滑り板104のほうへ押圧する。そして、縫い目が形成されると、搬送機構P1がXYステージ11を駆動することにより、縫い針32aが被縫製物に挿針される場所を移動し、縫い目の方向やピッチが調整される。
[比較例の縫製機構]
次に、実施の形態1の比較例にかかる一般的なミシンに備えられる縫製機構について説明する。比較例にかかる縫製機構は、針棒と、天秤と、かまとを駆動する主軸モータを有する。すなわち、1つの主軸モータが、針棒の駆動源と、天秤の駆動源と、かまの駆動源とを兼ねる。比較例にかかる縫製機構において、天秤機構は、天秤クランクを有するリンク機構であって、針棒機構は、天秤クランクに連結されたリンク機構である。比較例にかかる縫製機構は、主軸モータと天秤機構とを連結する上軸と、かま機構に接続された下軸と、上軸に装着された駆動側の上軸プーリと、従動側の下軸プーリと、上側プーリと下側プーリとに架け渡されたタイミングベルトと、下軸プーリに接続された大径ギヤと、下軸に接続されて大径ギヤと噛合する小径ギヤとを有する。
このように、比較例にかかる縫製機構は、リンク機構とギヤとタイミングベルトとを用いて、針棒と天秤とかまとを駆動する。比較例にかかる縫製機構の場合、リンク機構では、主軸モータからみた負荷のイナーシャが主軸モータの回転角度に依存して変動し、ギヤの噛合部ではバックラッシが発生し、タイミングベルトではモータトルクの伝達剛性が低下する、といった課題がある。比較例にかかる縫製機構を採用するミシンでは、これらの機械的な連結部に起因して、主軸モータの制御トルクまたはモータ速度にリプルが発生し、主軸モータの回転速度を一定に制御することが困難である。リプルを抑えるために、フライホイールまたはカウンタ機構といった部品を上軸または下軸に設ける、ノンバックラッシギヤを使用する、剛性の高いタイミングベルトを使用する等の対策が挙げられるが、機構または制御の複雑化、機構の大型化、および高コスト化を招く。
実施の形態1によると、比較例にかかる縫製機構に備えられるような機械的な連結部を、同期制御技術によって無くし、縫製機構を言わば電気的な連結に置き換えることによって、各機構の高精度な駆動が可能となる。また、実施の形態1によると、品質評価および品質管理の価値を付加することができる。
次に、図6を参照して、実施の形態1にかかるミシン100に備えられる制御装置P2の構成について説明する。図6は、実施の形態1にかかるミシンの制御構成を示すブロック図である。
図6には、針棒32cを駆動する針棒モータ35と、天秤33aを駆動する天秤モータ36と、かま42aを駆動するかまモータ44と、中押さえ34aを駆動する中押さえモータ51と、XYステージ11を駆動するX軸モータ52およびY軸モータ53とを示している。中押さえモータ51は、中押さえ34aの駆動源である。中押さえモータ51は、中押さえ駆動情報を検出する中押さえ駆動情報検出器151を有する。中押さえ駆動情報は、中押さえモータ51の動作を表す情報であって、中押さえモータ51の固定子に対する可動子の回転情報である。X軸モータ52とY軸モータ53とは、XYステージ11の駆動源である。X軸モータ52は、X軸モータ52の搬送軸駆動情報を検出するX軸駆動情報検出器152を有する。X軸モータ52の搬送軸駆動情報は、X軸モータ52の動作を表す情報であって、X軸モータ52の固定子に対する可動子の回転情報である。Y軸モータ53は、Y軸モータ53の搬送軸駆動情報を検出するY軸駆動情報検出器153を有する。Y軸モータ53の搬送軸駆動情報は、Y軸モータ53の動作を表す情報であって、Y軸モータ53の固定子に対する可動子の回転情報である。
[操作盤21の構成]
操作盤21は、表示器211と、プロセッサ212と、記憶装置213と、入力装置214と、データ処理装置215とを有する。使用者は、表示器211を参照しながら入力装置214を操作することによって、縫い目の形状、柄、パターン等の縫製パターンデータD1を一針ごとに入力する。入力装置214は、押下式のボタンまたはタッチパネル等で構成される。入力装置214の操作によって、縫製パターンデータD1が記憶装置213に保存される。縫製パターンデータD1は、例えば、被縫製物に形成する縫い目の位置および形状、並びにミシン100の動作速度を決めるデータである。操作盤21のオペレーティングシステムは、プロセッサ212によって運用される。記憶装置213に保存された縫製パターンデータD1を使用することにより、縫製パターンの作成、編集および複製が容易となる。
プロセッサ212は、操作盤21で作成された縫製パターンデータD1を縫製指令信号へ変換する。プロセッサ212は、制御盤23の指令生成部230へ縫製指令信号を送信する。操作盤21と制御盤23との間の信号の伝送は、図示しない通信用回路を介して行われる。
表示器211は、縫製パターンデータD1の入力を行う際の入力画面を表示する。表示器211は、入力画面を表示するほか、ミシン100に異常が発生した場合には、異常が発生したことを表示によって使用者へ通知する。
表示器211には、制御盤23から出力される各種の監視信号が入力される。異常を検知したことを示す各種の監視信号が表示器211へ入力された場合に、表示器211は、異常が発生したことを表示する。各種の監視信号は、針棒軸監視信号、天秤軸監視信号、かま軸監視信号、PF(Pressure Foot)軸監視信号、X軸監視信号、Y軸監視信号のいずれか1つまたは複数である。表示器211は、入力された各種の監視信号を、データ処理装置215へ送る。各種の監視信号は、表示器211を介さずにデータ処理装置215へ送られても良い。なお、PF軸は、中押さえモータ51の制御軸である。
表示器211は、各種の監視信号に基づいてミシン100の異常を検知した場合、ミシン100で異常が発生したことを表示する。表示器211は、同じ設定条件で縫い目を形成しているにも関わらず各種の監視信号が1針ごとに変動する場合にも、ミシン100で異常が発生したことを表示する。
データ処理装置215は、特徴量抽出部215aを有する。特徴量抽出部215aは、針棒軸監視信号に示される第1の物理量の演算処理によって、縫製品質を評価するための特徴量を第1の物理量から抽出する。特徴量抽出部215aは、天秤軸監視信号に示される第2の物理量の演算処理によって、縫製品質を評価するための特徴量を第2の物理量から抽出する。第1の物理量は、針棒モータ35の回転に伴う挿針によって縫い針32aまたは針棒32cが被縫製物から受ける物理量である。第2の物理量は、天秤モータ36の回転に伴う天秤33aの動作時に天秤33aが上糸Tから受ける物理量である。
特徴量抽出部215aは、時系列で入力される各種の監視信号に対して、例えば、平均、加重平均、分散、実効値、最大値、最小値、中央値、標準偏差、尖度、歪度、波形率、波高率、周波数スペクトル、ウェーブレット変換値、ヒルベルト変換値およびフィルタ演算のいずれか1つまたは複数を求める処理を行って、特徴量を計算する。また、特徴量抽出部215aは、特徴量の次元圧縮処理を行う。次元圧縮処理は、例えば、主成分分析、線形判別分析、特異値分解、ニューラルネットワークのいずれか1つまたは複数の処理である。ミシン100は、このようにして抽出された特徴量の変化に基づいて縫製品質を評価する。
データ処理装置215は、特徴量の計算結果を、蓄積用データとして記憶装置213へ出力する。蓄積用データは、記憶装置213のデータ蓄積部D2に保存される。記憶装置213には、縫製パターンデータD1に蓄積用データを関連付けて、蓄積用データを記憶する。ミシン100は、縫製パターンデータD1に関連付けられた特徴量を保存することによって、使用者によって指定された縫い目ごとに縫製品質を管理する。データ処理装置215は、特徴量の計算結果を、表示用データとしてデータ表示装置22へ送信する。
[データ表示装置22の構成]
データ表示装置22は、異常通知部221と、異常頻度通知部222と、保守方法通知部223とを有する。異常通知部221と、異常頻度通知部222と、保守方法通知部223との各々は、操作盤21から送信される表示用データを受信する。
異常通知部221は、表示用データに基づいて、縫い針32aまたは針棒32cと、天秤33aと、かま42aと、中押さえ34aと、XYステージ11とにおける異常の有無を判断する。異常通知部221は、XYステージ11については、X軸方向の駆動における異常の有無と、Y軸方向の駆動における異常の有無とを判断する。異常通知部221は、縫い針32aまたは針棒32cと、天秤33aと、かま42aと、中押さえ34aと、XYステージ11とのうちの1つまたは複数の異常を検知した場合に、ミシン100で異常が発生したことを表示する。異常通知部221は、ミシン100で異常が発生したことを表示によって使用者へ通知する。
異常頻度通知部222は、表示用データに基づいて、縫い針32aまたは針棒32cと、天秤33aと、かま42aと、中押さえ34aと、XYステージ11とにおける1つまたは複数における異常の発生頻度を計算する。異常頻度通知部222は、XYステージ11については、X軸方向の駆動における異常の発生頻度と、Y軸方向の駆動における異常の発生頻度とを計算する。異常頻度通知部222は、発生頻度の計算結果を表示することによって、異常の発生頻度を使用者へ通知する。
例えば、異常頻度通知部222は、異常が検知されたときにおける特徴量の変化と、過去に記録された特徴量の変化との類似度を計算し、類似度が高い場合に過去と同じ異常が発生したと判断する。発生頻度は、あらかじめ設定された期間ごとにおける異常発生回数である。期間は、例えば、1年、1ヵ月、1週間、1日または1時間である。発生頻度は、1ロットについての縫製が行われる期間、または1縫製パターンについての縫製が行われる期間などであっても良い。
保守方法通知部223は、異常通知部221によって、針棒32cと、天秤33aと、かま42aと、中押さえ34aと、XYステージ11とのうちの1つまたは複数の異常を検知した場合に、メンテナンス箇所およびメンテナンス方法を表示する。保守方法通知部223は、XYステージ11については、X軸方向の駆動におけるメンテナンス箇所およびメンテナンス方法と、Y軸方向の駆動におけるメンテナンス箇所およびメンテナンス方法とを表示する。メンテナンス箇所は、異常を解消するためにメンテナンスが必要な箇所である。メンテナンス方法は、異常を解消するために必要なメンテナンスの内容を表す。保守方法通知部223は、メンテナンス箇所とメンテナンス方法とを、表示によって使用者へ通知する。
保守方法通知部223は、メンテナンス箇所を示す情報とメンテナンス方法を示す情報とを表示する。保守方法通知部223は、針棒32cと、天秤33aと、かま42aと、中押さえ34aと、送り板12をX軸方向へ移動させる可動部と、送り板12をY軸方向へ移動させる可動部と、の部品ごとにあらかじめ用意された要領書を表示することにより、メンテナンス箇所およびメンテナンス方法を表示しても良い。保守方法通知部223は、過去に記録された特徴量の変化と関連付けて、メンテナンス箇所およびメンテナンス方法を表示しても良い。これにより、異常が検知されたときにおける特徴量の変化と、過去に記録された特徴量の変化との類似度が高い場合に、使用者は、過去に行われたメンテナンスについてのメンテナンス箇所とメンテナンス方法とを参照することができる。
[制御盤23の構成]
制御盤23は、ミシン100を制御する。制御盤23は、指令生成部230と、針棒軸モータ制御演算部231と、天秤軸モータ制御演算部232と、かま軸モータ制御演算部233と、PF軸モータ制御演算部234と、X軸モータ制御演算部235と、Y軸モータ制御演算部236と、を有する。このほかに、制御盤23には、糸が無くなったことを知らせる通知用センサ、搬送機構P1が原点復帰を行うための位置センサ等を駆動する制御回路、および電源回路が備えられても良いが、これらについての説明は省略する。
制御盤23には、操作盤21のプロセッサ212から出力される縫製指令信号と、フットスイッチ24から出力される保持信号および動作開始信号とが入力される。また、制御盤23には、針棒駆動情報検出器133から出力される針棒駆動情報である針棒軸回転信号と、天秤駆動情報検出器134から出力される天秤駆動情報である天秤軸回転信号と、かま駆動情報検出器141から出力されるかま駆動情報であるかま軸回転信号と、中押さえ駆動情報検出器151から出力される中押さえ駆動情報であるPF軸回転信号と、X軸駆動情報検出器152から出力される搬送軸駆動情報であるX軸回転信号と、Y軸駆動情報検出器153から出力される搬送軸駆動情報であるY軸回転信号とが入力される。
実施の形態1では、針棒駆動情報検出器133と、天秤駆動情報検出器134と、かま駆動情報検出器141と、中押さえ駆動情報検出器151と、X軸駆動情報検出器152と、Y軸駆動情報検出器153との各検出器は、固定子に対する可動子の角度を検出する光学式エンコーダとする。各検出器は、レゾルバまたはポテンショメータ等であっても良い。
制御盤23は、制御盤23へ入力される信号に基づいて、針棒モータ35を駆動するための針棒軸制御電流と、天秤モータ36を駆動するための天秤軸制御電流と、かまモータ44を駆動するためのかま軸制御電流と、中押さえモータ51を駆動するためのPF軸制御電流と、X軸モータ52を駆動するためのX軸制御電流と、Y軸モータ53を駆動するためのY軸制御電流とを演算する。制御盤23は、針棒モータ35へ針棒軸制御電流を出力する。制御盤23は、天秤モータ36へ天秤軸制御電流を出力する。制御盤23は、かまモータ44へかま軸制御電流を出力する。制御盤23は、中押さえモータ51へPF軸制御電流を出力する。制御盤23は、X軸モータ52へX軸制御電流を出力する。制御盤23は、Y軸モータ53へY軸制御電流を出力する。
制御盤23は、制御盤23へ入力される信号に基づいて、保持指令信号を演算する。制御盤23は、エアシリンダ13へ保持指令信号を出力する。制御盤23は、制御盤23へ入力される信号に基づいて、針棒軸監視信号と、天秤軸監視信号と、かま軸監視信号と、PF軸監視信号と、X軸監視信号と、Y軸監視信号とを演算する。制御盤23は、針棒軸監視信号と、天秤軸監視信号と、かま軸監視信号と、PF軸監視信号と、X軸監視信号と、Y軸監視信号とを、操作盤21の表示器211へ出力する。
指令生成部230には、プロセッサ212から出力される縫製指令信号と、フットスイッチ24から出力される保持信号および動作開始信号とが入力される。指令生成部230は、これらの入力信号に基づいて、針棒軸指令信号と、天秤軸指令信号と、かま軸指令信号と、PF軸指令信号と、X軸指令信号と、Y軸指令信号と、保持指令信号とを生成する。
針棒軸指令信号は、針棒モータ35の回転角度を指定する電気信号である。天秤軸指令信号は、天秤モータ36の回転角度を指定する電気信号である。かま軸指令信号は、かまモータ44の回転角度を指定する電気信号である。PF軸指令信号は、中押さえモータ51の回転角度を指定する電気信号である。X軸指令信号は、X軸モータ52の回転角度を指定する電気信号である。Y軸指令信号は、Y軸モータ53の回転角度を指定する電気信号である。これらの各指令信号は、縫製パターンデータD1の内容に従って、指令生成部230の内部で計算される。
指令生成部230は、針棒軸モータ制御演算部231へ針棒軸指令信号を出力する。指令生成部230は、天秤軸モータ制御演算部232へ天秤軸指令信号を出力する。指令生成部230は、かま軸モータ制御演算部233へかま軸指令信号を出力する。指令生成部230は、PF軸モータ制御演算部234へPF軸指令信号を出力する。指令生成部230は、X軸モータ制御演算部235へX軸指令信号を出力する。指令生成部230は、Y軸モータ制御演算部236へY軸指令信号を出力する。
保持信号は、XYステージ11の保持装置が送り板12を保持するようにエアシリンダ13の圧力を指定する電気信号である。動作開始信号は、針棒軸指令信号と、天秤軸指令信号と、かま軸指令信号と、PF軸指令信号と、X軸指令信号と、Y軸指令信号との各々を、それぞれ針棒軸モータ制御演算部231と、天秤軸モータ制御演算部232と、かま軸モータ制御演算部233と、PF軸モータ制御演算部234と、X軸モータ制御演算部235と、Y軸モータ制御演算部236とへ送信し始めるタイミングを指定する電気信号である。
針棒軸モータ制御演算部231は、針棒モータ35を制御する制御回路である。針棒軸モータ制御演算部231には、針棒軸指令信号と針棒軸回転信号とが入力される。針棒軸モータ制御演算部231は、これらの入力信号に基づいて、針棒モータ35へ針棒軸制御電流を出力する。針棒軸モータ制御演算部231は、針棒軸制御電流を調整することによって、針棒軸指令信号と針棒軸回転信号との差分がゼロになるように針棒モータ35の回転を調整する。さらに、針棒軸モータ制御演算部231は、針棒モータ35の回転に伴う挿針によって縫い針32aまたは針棒32cが被縫製物から受ける物理量である第1の物理量を監視する。針棒軸モータ制御演算部231は、第1の物理量を監視する監視部の機能を備える。針棒軸モータ制御演算部231は、かかる物理量の監視結果を示す針棒軸監視信号を表示器211へ出力する。
針棒軸モータ制御演算部231が監視する物理量である第1の物理量は、例えば、位置、速度、加速度、ジャーク、スナップ、力、トルク、摩擦のいずれか1つまたは複数である。針棒軸モータ制御演算部231は、1または複数の次元の第1の物理量を監視する。針棒軸モータ制御演算部231は、縫い針32aまたは針棒32cに加わる力であって、針棒モータ35の回転軸からみた外力を監視しても良い。針棒軸モータ制御演算部231は、少なくとも、縫い針32aが被縫製物に挿針される第1の期間において縫い針32aおよび針棒32cが被縫製物から受ける物理量を監視する。
天秤軸モータ制御演算部232は、天秤モータ36を制御する制御回路である。天秤軸モータ制御演算部232には、天秤軸指令信号と天秤軸回転信号とが入力される。天秤軸モータ制御演算部232は、これらの入力信号に基づいて、天秤モータ36へ天秤軸制御電流を出力する。天秤軸モータ制御演算部232は、天秤軸制御電流を調整することによって、天秤軸指令信号と天秤軸回転信号との差分がゼロになるように天秤モータ36の回転を調整する。さらに、天秤軸モータ制御演算部232は、天秤モータ36の回転に伴う天秤33aの動作時に天秤33aが上糸Tから受ける物理量である第2の物理量を監視する。天秤軸モータ制御演算部232は、第2の物理量を監視する監視部の機能を備える。天秤軸モータ制御演算部232は、かかる物理量の監視結果を示す天秤軸監視信号を表示器211へ出力する。
天秤軸モータ制御演算部232が監視する物理量である第2の物理量は、位置、速度、加速度、ジャーク、スナップ、力、トルク、摩擦のいずれか1つまたは複数である。天秤軸モータ制御演算部232は、1または複数の次元の第2の物理量を監視する。天秤軸モータ制御演算部232は、天秤33aに加わる力であって、天秤モータ36の回転軸からみた外力を監視しても良い。天秤軸モータ制御演算部232は、少なくとも、天秤33aの小穴33bが被縫製物から引き離されることで縫い目の引き締めを行う第2の期間において天秤33aが上糸Tから受ける物理量を監視する。
かま軸モータ制御演算部233は、かまモータ44を制御する制御回路である。かま軸モータ制御演算部233には、かま軸指令信号とかま軸回転信号とが入力される。かま軸モータ制御演算部233は、これらの入力信号に基づいて、かまモータ44へかま軸制御電流を出力する。かま軸モータ制御演算部233は、かま軸制御電流を調整することによって、かま軸指令信号とかま軸回転信号との差分がゼロになるようにかまモータ44の回転を調整する。さらに、かま軸モータ制御演算部233は、かまモータ44の回転に伴うかま42aの動作によってかま42aが上糸Tから受ける物理量を監視する。かま軸モータ制御演算部233は、かま42aが受ける物理量とかま42aの異常とを監視する監視部の機能を備える。かま軸モータ制御演算部233は、かかる物理量の監視結果を示すかま軸監視信号を表示器211へ出力する。
かま軸モータ制御演算部233が監視する物理量は、例えば、位置、速度、加速度、ジャーク、スナップ、力、トルク、摩擦のいずれか1つまたは複数である。かま軸モータ制御演算部233は、1または複数の次元の物理量を監視する。かま軸モータ制御演算部233は、少なくとも、縫い針32aが上昇することで形成される上糸Tのループを剣先42bが捕捉する期間においてかま42aが上糸Tから受ける物理量を監視する。なお、このかま軸モータ制御演算部233の技術は、本出願人が国際公開第2018/179398号で開示した技術を用いることができる。
PF軸モータ制御演算部234は、中押さえモータ51を制御する制御回路である。PF軸モータ制御演算部234には、PF軸指令信号とPF軸回転信号とが入力される。PF軸モータ制御演算部234は、これらの入力信号に基づいて、中押さえモータ51へPF軸制御電流を出力する。PF軸モータ制御演算部234は、PF軸制御電流を調整することによって、PF軸指令信号とPF軸回転信号との差分がゼロになるように中押さえモータ51の回転を調整する。さらに、PF軸モータ制御演算部234は、中押さえモータ51が回転または停止する際に中押さえ34aが上糸Tから受ける物理量を監視する。PF軸モータ制御演算部234は、中押さえ34aが受ける物理量と中押さえ34aの異常とを監視する監視部の機能を備える。PF軸モータ制御演算部234は、かかる物理量の監視結果を示すPF軸監視信号を表示器211へ出力する。
PF軸モータ制御演算部234が監視する物理量は、例えば、位置、速度、加速度、ジャーク、スナップ、力、トルク、摩擦のいずれか1つまたは複数である。PF軸モータ制御演算部234は、1または複数の次元の物理量を監視する。PF軸モータ制御演算部234は、少なくとも、天秤33aの小穴33bが被縫製物から引き離されることで縫い目の引き締めを行う第2の期間において中押さえ34aが上糸Tから受ける物理量を監視する。なお、このPF軸モータ制御演算部234の技術は、本出願人が国際公開第2019/043813号で開示した技術を用いることができる。
X軸モータ制御演算部235は、X軸モータ52を制御する制御回路である。X軸モータ制御演算部235には、X軸指令信号とX軸回転信号とが入力される。X軸モータ制御演算部235は、これらの入力信号に基づいて、X軸モータ52へX軸制御電流を出力する。X軸モータ制御演算部235は、X軸制御電流を調整することによって、X軸指令信号とX軸回転信号との差分がゼロになるようにX軸モータ52の回転を調整する。さらに、X軸モータ制御演算部235は、X軸モータ52が回転または停止する際にX軸モータ52の回転軸が滑り板104または縫い針32aから受ける物理量を監視する。X軸モータ制御演算部235は、かかる物理量の監視結果を示すX軸監視信号を表示器211へ出力する。
X軸モータ制御演算部235が監視する物理量は、例えば、位置、速度、加速度、ジャーク、スナップ、力、トルク、摩擦のいずれか1つまたは複数である。X軸モータ制御演算部235は、1または複数の次元の物理量を監視する。X軸モータ制御演算部235は、XYステージ11の可動部に加わる力であって、X軸モータ52の回転軸からみた外力を監視しても良い。かかる外力には、滑り板104と送り板12との間の摩擦力、および縫い針32aが被縫製物に与える力等が含まれる。
X軸モータ制御演算部235は、少なくとも、縫い針32aが被縫製物に挿針される期間である第1の期間において被縫製物を介してX軸モータ52の回転軸が縫い針32aから受ける物理量である第3の物理量を監視する。また、X軸モータ制御演算部235は、少なくとも、天秤33aが縫い目の引き締めを行う第2の期間において被縫製物を介してX軸モータ52の回転軸が上糸Tから受ける物理量である第3の物理量を監視する。X軸モータ制御演算部235は、X軸モータ52が受ける第3の物理量とXYステージ11の異常とを監視する監視部の機能を備える。
X軸モータ制御演算部235の構成は、後述する針棒軸モータ制御演算部231および天秤軸モータ制御演算部232の構成と同じであるので、詳細を図示しない。また、X軸モータ制御演算部235は、後述する針棒軸モータ制御演算部231および天秤軸モータ制御演算部232の処理と同じ処理を行う。X軸モータ制御演算部235は、X軸回転信号に基づいて、被縫製物を介してX軸モータ52の回転軸が縫い針32aから受ける物理量と、被縫製物を介してX軸モータ52の回転軸が上糸Tから受ける物理量とを監視する。
Y軸モータ制御演算部236は、Y軸モータ53を制御する制御回路である。Y軸モータ制御演算部236には、Y軸指令信号とY軸回転信号とが入力される。Y軸モータ制御演算部236は、これらの入力信号に基づいて、Y軸モータ53へY軸制御電流を出力する。Y軸モータ制御演算部236は、Y軸制御電流を調整することによって、Y軸指令信号とY軸回転信号との差分がゼロになるようにY軸モータ53の回転を調整する。さらに、Y軸モータ制御演算部236は、Y軸モータ53が回転または停止する際にY軸モータ53の回転軸が滑り板104または縫い針32aから受ける物理量を監視する。Y軸モータ制御演算部236は、かかる物理量の監視結果を示すY軸監視信号を表示器211へ出力する。
Y軸モータ制御演算部236が監視する物理量は、例えば、位置、速度、加速度、ジャーク、スナップ、力、トルク、摩擦のいずれか1つまたは複数である。Y軸モータ制御演算部236は、1または複数の次元の物理量を監視する。Y軸モータ制御演算部236は、XYステージ11の可動部に加わる力であって、Y軸モータ53の回転軸からみた外力を監視しても良い。かかる外力には、滑り板104と送り板12との間の摩擦力、および縫い針32aが被縫製物に与える力等が含まれる。
Y軸モータ制御演算部236は、少なくとも、縫い針32aが被縫製物に挿針される期間である第1の期間において被縫製物を介してY軸モータ53の回転軸が縫い針32aから受ける物理量である第3の物理量を監視する。また、Y軸モータ制御演算部236は、少なくとも、天秤33aが縫い目の引き締めを行う第2の期間において被縫製物を介してY軸モータ53の回転軸が上糸Tから受ける物理量である第3の物理量を監視する。Y軸モータ制御演算部236は、Y軸モータ53が受ける第3の物理量とXYステージ11の異常とを監視する監視部の機能を備える。
Y軸モータ制御演算部236の構成は、後述する針棒軸モータ制御演算部231および天秤軸モータ制御演算部232の構成と同じであるので、詳細を図示しない。また、Y軸モータ制御演算部236は、後述する針棒軸モータ制御演算部231および天秤軸モータ制御演算部232の処理と同じ処理を行う。Y軸モータ制御演算部236は、Y軸回転信号に基づいて、被縫製物を介してY軸モータ53の回転軸が縫い針32aから受ける物理量と、被縫製物を介してY軸モータ53の回転軸が上糸Tから受ける物理量とを監視する。
[縫い目を形成する動作]
次に、ミシン100が縫い目を形成する動作について説明する。まず、使用者は、上述した上糸経路に沿って上糸Tを供給する。縫い目を形成した際に下側の糸となる下糸は、かま42aのボビンケース内に格納するボビンに巻き付けられる。
そして、使用者によってフットスイッチ24が押下されると、フットスイッチ24は、指令生成部230へ保持信号を送る。指令生成部230は、保持信号が入力されると、保持指令信号をエアシリンダ13へ出力する。保持指令信号に従ってエアシリンダ13が作動することによって、XYステージ11は、被縫製物を搬送可能に保持する。
その後、さらにフットスイッチ24が押下されると、フットスイッチ24は、指令生成部230へ動作開始信号を送る。指令生成部230は、動作開始信号が入力されると、X軸モータ制御演算部235へX軸指令信号を出力し、かつY軸モータ制御演算部236へY軸指令信号を出力する。X軸モータ制御演算部235は、X軸指令信号が入力されることによって、X軸モータ52へX軸制御電流を出力する。Y軸モータ制御演算部236は、Y軸指令信号が入力されることによって、Y軸モータ53へY軸制御電流を出力する。これにより、制御盤23は、搬送機構P1を動作させる。
指令生成部230は、動作開始信号が入力されると、針棒軸モータ制御演算部231へ針棒軸指令信号を出力し、天秤軸モータ制御演算部232へ天秤軸指令信号を出力し、PF軸モータ制御演算部234へPF軸指令信号を出力する。針棒軸モータ制御演算部231は、針棒軸指令信号が入力されることによって、針棒モータ35へ針棒軸制御電流を出力する。天秤軸モータ制御演算部232は、天秤軸指令信号が入力されることによって、天秤モータ36へ天秤軸制御電流を出力する。PF軸モータ制御演算部234は、PF軸指令信号が入力されることによって、中押さえモータ51へPF軸制御電流を出力する。これにより、制御盤23は、頭部ユニットP3を動作させる。
指令生成部230は、動作開始信号が入力されると、かま軸モータ制御演算部233へかま軸指令信号を出力する。かま軸モータ制御演算部233は、かま軸指令信号が入力されることによって、かまモータ44へかま軸制御電流を出力する。これにより、制御盤23は、下軸ユニットP4を動作させる。以上により、ミシン100は、使用者が操作盤21を操作することによってあらかじめ指定しておいた位置から、縫い目の形成を開始する。
針棒軸モータ制御演算部231からの針棒軸制御電流によって針棒モータ35が駆動すると、針孔32bに上糸Tが通された縫い針32aが、滑り板104の上方から下降し、被縫製物へ挿針される。この縫い針32aの動作により、上糸Tが被縫製物の下側へ供給される。その後、縫い針32aが下死点から上昇する際、上糸Tは、被縫製物との間の摩擦により被縫製物の下側でループを形成する。
かま42aの剣先42bは、この上糸Tのループが形成されるタイミングに調時して上糸Tを捕捉し、上糸と下糸とを絡み合わせる。縫い針32aが上死点に位置するときの針棒モータ35の回転角度を0度とした場合、剣先42bが上糸Tを捕捉するタイミングは、一般に、針棒モータ35の回転角度が190度から210度となる範囲内に設定される。上糸Tと下糸が絡み合った後は、縫い針32aが被縫製物から抜針されることで、上糸Tは被縫製物の上方へ引き出される。
その後、天秤モータ36の回転によって天秤33aの小穴33bが上糸Tを被縫製物の上方へ引き上げると、上糸Tが締め上げられ、縫い目が形成される。縫い針32aが上死点に到達したときにおける針棒モータ35の回転角度を基準として、天秤モータ36は、通常、針棒モータ35の回転角度がその基準から60度程度回転したときに小穴33bが上死点に到達するように天秤33aを駆動する。
天秤33aによる上糸Tの締め上げによって縫い目が形成されるとき、中押さえ34aは、被縫製物が浮き上がったりばたついたりしないように、中押さえモータ51の動力によって被縫製物を下方へ押圧する。
X軸モータ52およびY軸モータ53によって駆動される搬送機構P1が被縫製物を搬送することによって、ミシン100は、縫い針32aによる挿針位置を次の場所へ移す。
プリテンション31aとメインテンション31bは、ミシン100が縫い目を形成する期間において、上糸Tへ一定の張力を付与する。糸調子機構31は、モータによってメインテンション31bの動作を制御することで、上糸Tへ付与する張力を縫い目ごとに変更できるように構成されても良い。
糸取りばね31cは、かま42aの剣先42bが上糸Tを捕捉する行程で必要な上糸量と、天秤33aによる上糸供給量のバランスとを保つように動作する。糸取りばね31cが動作することによって、上糸張力に応じて必要分の上糸Tが糸巻きから供給される。
糸切り41aは、糸切りモータ43の駆動によって、縫製パターンデータD1により指定された縫製終了時に上糸Tと下糸を切断する。これにより、ミシン100は、縫製作業を終了する。
[ミシン100の動作パターン]
次に、図7を参照して、実施の形態1にかかるミシン100の動作パターンについて説明する。図7は、実施の形態1にかかるミシンの動作パターンを示すタイミングチャートである。ここでは、ミシン100の動作パターンとして、針棒機構32と、天秤機構33と、かま機構42と、中押さえ機構34と、搬送機構P1との各々が動作するタイミングについて説明する。実施の形態1では、一例として、伸縮性が小さく、かつ厚さが薄い被縫製物Ob1の縫製作業を行う場合について説明する。
図7のタイミングチャートは、上から順に、縫い針32aの位置、かま42aの回転角度、天秤33aの位置、中押さえ34aの位置、X軸方向における被縫製物Ob1の位置、およびY軸方向における被縫製物Ob1の位置を示す。縫い針32aの位置は、Z軸方向における針孔32bの位置とする。図7の第1段目には、針棒モータ35の回転角度を横軸として、針棒モータ35の回転角度に対する縫い針32aの位置を表している。
かま42aの回転角度は、剣先42bの回転角度とする。図7の第2段目には、針棒モータ35の回転角度を横軸として、針棒モータ35の回転角度に対する剣先42bの回転角度を表している。天秤33aの位置は、Z軸方向における小穴33bの位置とする。図7の第3段目には、針棒モータ35の回転角度を横軸として、針棒モータ35の回転角度に対する小穴33bの位置を表している。中押さえ34aの位置は、Z軸方向における中押さえ34aの底面部の位置とする。図7の第4段目には、針棒モータ35の回転角度を横軸として、針棒モータ35の回転角度に対する中押さえ34aの底面部の位置を表している。
被縫製物Ob1は、X軸モータ52によるXYステージ11の駆動によって、X軸方向へ移動する。図7の第5段目には、針棒モータ35の回転角度を横軸として、X軸方向における被縫製物Ob1の位置を表している。また、被縫製物Ob1は、Y軸モータ53によるXYステージ11の駆動によって、Y軸方向へ移動する。図7の第6段目には、針棒モータ35の回転角度を横軸として、Y軸方向における被縫製物Ob1の位置を表している。なお、以下の説明において、縫い針32aと、天秤33aと、かま42aと、中押さえ34aと、XYステージ11とを総称する場合に、被駆動体と記載する。被駆動体は、制御装置P2による制御に従って駆動する。
図7に示すように、被駆動体は、針棒モータ35の回転角度によって、動作タイミングの同期が取られている。実施の形態1では、針棒モータ35の駆動指令である針棒軸指令信号によって被駆動体を同期させるものと記載するが、駆動指令でなくとも針棒軸回転信号の検出値によって被駆動体を同期させても良い。すなわち、実施の形態1では、図7の横軸を、針棒軸指令信号により示される針棒モータ35の回転角度としているが、針棒軸指令信号と針棒軸回転信号との差分がゼロになるように針棒軸モータ制御演算部231が針棒モータ35を駆動するため、横軸を針棒軸回転信号として同期制御系を構築しても良い。
図7には、ミシン100が(n+3)針以上の縫製動作を繰り返し行ったとして、(n)針目の終わりから(n+3)針目の初動までにおける被駆動体の駆動波形を示している。なお、nは、n≧1を満たす自然数とする。
図7の第1段目には、針棒モータ35の駆動による縫い針32aの駆動波形であって、Z軸方向において針孔32bが辿る軌跡を示している。図7の第1段目に示す駆動波形では、(n+1)針目の縫製動作を開始する時点にて、縫い針32aが上死点に位置する。このように、縫い針32aの位置は、指令生成部230から出力される針棒軸指令信号に基づいて制御される。
縫い針32aが上死点に位置するとき、針棒モータ35の回転角度は、a=0°である。「a」は、1針ごとの縫製動作が開始されるときにおける回転角度である。「a」は、1針ごとの縫製動作が終了するときの回転角度でもあることから、a=360°ともいえる。縫い針32aは、針棒モータ35が回転することによって上死点から下降を始め、針棒モータ35の回転角度が「b」であるときに滑り板104上の被縫製物Ob1へ挿針される。針棒モータ35の回転角度がc=180°であるとき、縫い針32aは下死点に到達する。このようにして、縫い針32aは、針棒32cとともに、ストローク「lh」の上下動を行う。針棒モータ35の回転角度が「d」であるタイミングにて、縫い針32aの上昇によって上糸Tが形成するループをかま42aの剣先42bが捕捉する。剣先42bがループを捕捉することによって、上糸Tと下糸が絡み合う。
図7において、針棒モータ35の回転角度が「d」のタイミングにおける縫い針32aの位置を、黒塗りの丸印で示している。以下の説明では、かかるタイミングを、縫い針32aとかま42aとの出会いのタイミングと記載する。縫い針32aは、針棒モータ35の回転角度が「e」であるタイミングにて、被縫製物Ob1から抜針される。縫い針32aは、その後さらに上昇し、回転角度が「a′」であるときに、(n+2)針目の縫製動作が開始される上死点に到達する。
したがって、縫い針32aは、針棒モータ35の回転角度が「b」から「e」となるまでの期間「tn」の間は被縫製物Ob1へ挿針された状態になる。縫い針32aは、被縫製物Ob1への挿針時に、被縫製物Ob1の固さに依存した反力を受ける。この反力は、縫い針32aの貫通力に対する反力である。また、縫い針32aは、期間「tn」において送り板12がXYステージ11によって移動することで、被縫製物Оb1から外力を受ける。さらに、縫い針32aは、期間「tn」の間に被縫製物Оb1から摩擦力を受ける。
実施の形態1において、(n+2)針目における針棒32cの動作は、(n+1)針目における動作と同じである。縫い針32aは、針棒モータ35の回転角度が「b′」から「e′」となるまでの期間「tn′」の間は被縫製物Ob1へ挿針された状態になる。針棒モータ35の回転角度が「a′′」であるタイミング以降では、(n+3)針目の縫製作業を行う。また、実施の形態1において、縫い針32aの駆動波形は、針棒モータ35の回転角度が「a」から「a′」となるまでの期間を1周期とする正弦波として記載しているが、これに限定されない。縫い針32aが被縫製物Ob1を貫通し、かま42aとの出会いのタイミングで上糸Tがループを形成するように駆動されるのであれば、縫い針32aの駆動において、加減速を変更したり、停止区間を設けたりしても良い。
図7の第2段目には、針棒モータ35の回転角度に対応するかま42aの回転角度を示している。かま42aの駆動波形は、全振幅が「lk」である正弦波により便宜上表現できる。実施の形態1では、かま42aとして全回転かまを採用するので、かま42aの駆動波形の周波数は、縫い針32aの駆動波形の周波数の2倍となる。図7の第2段目における黒塗りの丸印は、縫い針32aとかま42aの出会いのタイミングを示している。出会いのタイミングは、針棒モータ35の回転角度が「d」または「d′」であるときである。かかるタイミングにおいて、かま42aの剣先42bは、上糸Tが形成するループを捕捉する。捕捉された上糸Tは、針棒モータ35の回転角度が「a」から一回転半した回転角度「i」になったタイミングから、剣先42bによる捕捉から解除され始める。したがって、かま42aの剣先42bは、針棒モータ35の回転角度が「d」から「i」となるまでの期間「ts」の間に上糸Tを捕捉する。(n+2)針目におけるかま42aの動作は、(n+1)針目における動作と同じである。
なお、かま42aは、常に一定速度で回転させなくても良く、かま42aのタイミングチャートは図7に示すものに限定されない。上糸Tが形成するループを剣先42bが期間「ts」の間に捕捉するようにかま42aが駆動されるのであれば、かま42aの回転における加減速が変更されても良く、かま42aの回転に停止区間が設けられても良い。
図7の第3段目には、天秤モータ36の回転角度に対応する天秤33aの駆動波形であって、Z軸方向において小穴33bが辿る軌跡を示している。天秤33aの駆動波形の振幅は、「lt」である。天秤33aの小穴33bは、針棒モータ35の1回転を1周期とし、針棒モータ35の回転角度「h」および「h′」の各タイミングで上死点となり、回転角度「i」および「i′」の各タイミングで下死点となる。(n+2)針目における天秤33aの動作は、(n+1)針目における動作と同じである。
天秤33aの小穴33bが辿る軌跡は、天秤33aおよび天秤ロッド33eの形状と、リンク機構の支点により機械的に定められる。(n+1)針目の縫製動作が開始されてから縫い針32aが被縫製物Ob1に挿針されるまでの間、すなわち針棒モータ35の回転角度が「a」から「b」となるまでの期間内と、(n+2)針目の縫製動作が開始されてから縫い針32aが被縫製物Ob1に挿針されるまでの間、すなわち針棒モータ35の回転角度が「a′」から「b′」となるまでの期間内との各々において、小穴33bは上死点となる。このように、天秤モータ36は、天秤33aを駆動する。実施の形態1では、針棒モータ35の回転角度が「a」から60°回転した角度を、小穴33bが上死点となるときの針棒モータ35の回転角度「h」とする。また、針棒モータ35の回転角度が「a′」から60°回転した角度を、小穴33bが上死点となるときの針棒モータ35の回転角度「h′」とする。
一方、かま42aが回転角度「a」から1回転半したタイミングと、かま42aが回転角度「a′」から1回転半したタイミングとの各々において、小穴33bが下死点となるように、天秤モータ36は、天秤33aを駆動する。回転角度「i」は、回転角度「a」のタイミングからかま42aが1回転半したタイミングにおける針棒モータ35の回転角度である。回転角度「i′」は、回転角度「a′」のタイミングからかま42aが1回転半したタイミングにおける針棒モータ35の回転角度である。
これにより、針棒モータ35の回転角度が「i」であるタイミングと、針棒モータ35の回転角度が「i′」であるタイミングとの各々において、剣先42bが上糸Tの捕捉を解除し始める。仮に、剣先42bが上糸Tの捕捉を解除する前に小穴33bを被縫製物Ob1から引き離した場合は、天秤33aの動作によって生じるテンションに上糸Tが耐えきれず、上糸Tがほつれるか、上糸Tが切断される。具体的に、実施の形態1では、針棒モータ35の回転角度がi=270°であるタイミングにおいて小穴33bが下死点となるように、天秤モータ36は天秤33aを駆動する。
このように天秤33aを駆動することによって、小穴33bは、針棒モータ35の回転角度が「i」から「h′」となるまでの期間「tb」と、針棒モータ35の回転角度が「i′」から「h′′」となるまでの期間「tb」との各々において、下死点から上死点へ移動する。天秤33aは、期間「tb」において被縫製物Ob1から小穴33bを引き離すことによって、縫い目の引き締めを行う。
なお、小穴33bが辿る軌跡は図7に示すものに限定されない。期間「tb」において縫い目の引き締めを行うように天秤33aが駆動されるのであれば、天秤33aの動作における加減速が変更されても良く、天秤33aの動作に停止区間が設けられても良い。
図7の第4段目には、針棒モータ35の回転角度に対応する中押さえ34aの駆動波形であって、中押さえ34aの底面部が辿る軌跡を示している。(n+1)針目の縫製作業において、中押さえ34aは、中押さえモータ51の回転に伴って、上死点、または被縫製物Ob1の上方の停止位置から下降を始めた後、縫い針32aが被縫製物Ob1に挿針されるまでの間に、被縫製物Ob1の上面へ当てられるように駆動される。被縫製物Ob1は伸縮性が小さいので、中押さえ34aが下降して被縫製物Ob1に当てられたときの高さで中押さえ34aは被縫製物Ob1を押圧しながら停止する。また、中押さえ34aは、縫い針32aが被縫製物Ob1に挿針される前から被縫製物Ob1を押圧する。その後、中押さえ34aは、天秤33aの小穴33bが下死点から上死点へ移動する間、すなわち針棒モータ35の回転角度が「i」から「h′」となるまでの期間「tp」において、中押さえ34aの底面部が被縫製物Ob1から距離「dlo」だけ上昇した位置で停止するように動作する。中押さえ34aは、(n+2)針目の縫製作業において被縫製物Ob1を押圧した後にも、針棒モータ35の回転角度が「i′」から「h′′」となるまでの期間「tp」において、中押さえ34aの底面部が被縫製物Ob1から距離「dlo」だけ上昇した位置で停止するように動作する。
期間「tp」は、期間「tb」と同じである。距離「dlo」は、上糸Tが中押さえ34aと被縫製物Ob1との隙間を通過できるように、少なくとも上糸Tの直径よりも長い距離とする。このように中押さえ34aを駆動し、さらに、本出願人が国際公開第2019/043813号にて開示した張力監視部の技術を用いることで、上糸Tが中押さえ34aを介して中押さえモータ51に付与する負荷を、PF軸回転信号に基づいて検出することが可能になる。
中押さえ34aは、期間「tp」で停止した後、上死点に向かって上昇する。そして、中押さえ34aは、縫い針32aが被縫製物Ob1に挿針されるまでの間に再び下降し、被縫製物Ob1の上面へ当てられるように駆動される。
中押さえ34aの底面部が被縫製物Ob1に当てられているときにおける底面部の高さから上死点までの距離は、「lо」である。距離「lo」は、被縫製物Ob1の厚さに応じて変化するパラメータである。図7では、中押さえ34aは、針棒モータ35の回転角度が「h」から「b」となるまでの期間と、針棒モータ35の回転角度が「h′」から「b′」となるまでの期間とにおいて、距離「lо−dlо」を上昇して上死点に到達してから距離「lо」を下降する。かかる中押さえ34aの上下動は、必要に応じて行えば良い。例えば、(n+1)針目と(n+2)針目とで被縫製物Ob1の厚さが変わる場合や障害物を回避する必要がある場合に上下動するように中押さえ34aを駆動しても良い。(n+2)針目における中押さえ34aの動作は、(n+1)針目における動作と同じである。
なお、中押さえ34aの底面部が辿る軌跡は、図7に示すものに限定されない。期間「tp」において中押さえ34aの底面部が被縫製物Ob1に当てられるように駆動されるのであれば、中押さえ34aを一定速で駆動しても良く、僅かに加減速させても良い。
図7の第5段目は、X軸方向におけるXYステージ11の駆動波形であって、X軸方向において送り板12が辿る軌跡を示している。「lx」は、送り板12が1針ごとにX軸方向へ移動する距離である。実施の形態1において、送り板12は、針棒モータ35の回転角度が「a」から「a′」となるまでの期間と、針棒モータ35の回転角度が「a′」から「a′′」となるまでの期間とにおいて、一定速で距離「lx」を移動する。(n+2)針目におけるXYステージ11のX軸方向の動作は、(n+1)針目におけるX軸方向の動作と同じである。図7の第5段目において、期間「tx1」と期間「tx2」とは、X軸モータ制御演算部235が上述の物理量を監視する期間である。期間「tx1」は、期間「tn」と同じである。期間「tx2」は、期間「tb」と同じである。
なお、送り板12がX軸方向において辿る軌跡は、図7に示すものに限定されない。X軸方向における送り板12の駆動は常に一定速でなくても良い。期間「tx1」と期間「tx2」のうちの一方または双方において送り板12が動作されるのであれば、送り板12の動作における加減速が変更されても良く、送り板12の動作に停止区間が設けられても良い。
図7の第6段目は、Y軸方向におけるXYステージ11の駆動波形であって、Y軸方向において送り板12が辿る軌跡を示している。実施の形態1において、送り板12は、縫製作業中にY軸方向には移動しないものとする。ただし、Y軸指令信号は固定値であって、Y軸モータ制御演算部236は、Y軸指令信号とY軸回転信号の差分がゼロになるようにY軸モータ53へY軸制御電流を供給する。図7の第6段目において、期間「ty1」と期間「ty2」とは、Y軸モータ制御演算部236が上述の物理量を監視する期間である。期間「ty1」は、期間「tn」と同じである。期間「ty2」は、期間「tb」と同じである。
なお、Y軸方向における送り板12の軌跡は、図7に示すものに限定されない。X軸方向における軌跡と同様に、Y軸方向においても常に一定速で送り板12を駆動させても良い。送り板12の動作における加減速が変更されても良く、送り板12の動作に停止区間が設けられても良い。
次に、図8から図12を参照して、実施の形態1にかかるミシン100による針棒32cの動作の監視と天秤33aの動作の監視とについて詳細に説明する。
[針棒32cの動作の監視と天秤33aの動作の監視]
図8は、実施の形態1にかかるミシンが有する針棒軸モータ制御演算部と天秤軸モータ制御演算部との詳細を示すブロック図である。図9は、実施の形態1にかかるミシンが有する針棒軸偏差抑制部の詳細を示すブロック図である。図10は、実施の形態1にかかるミシンが有する針棒軸監視部の詳細を示すブロック図である。図11は、実施の形態1にかかるミシンによる針棒の動作の監視について説明するためのタイミングチャートである。図12は、実施の形態1にかかるミシンによる天秤の動作の監視について説明するためのタイミングチャートである。
まず、針棒軸モータ制御演算部231が、針棒軸回転信号に基づいて針棒軸監視信号を計算し出力する処理について説明する。図8に示すように、制御盤23の針棒軸モータ制御演算部231は、針棒軸偏差抑制部231aと、電流制御部231bと、針棒軸監視部231cとを有する。針棒軸偏差抑制部231aは、被縫製物へ縫い針32aが刺されたときから縫い針32aが抜かれるまでの期間である第1の期間において検出された針棒駆動情報に基づいて、縫い針32aが被縫製物から受ける第1の物理量を計算する物理量計算部である。針棒軸監視部231cは、第1の物理量の変化に基づいて縫い針32aまたは針棒32cの異常を監視する監視部である。
針棒軸偏差抑制部231aは、指令生成部230から出力される指令である針棒軸指令信号と、針棒駆動情報検出器133から出力される針棒軸回転信号と、針棒軸監視部231cから出力される針棒軸監視信号とが入力される。針棒軸偏差抑制部231aは、これらの入力信号に基づいて、針棒軸指令信号と針棒軸回転信号の差分である針棒軸偏差信号と、針棒軸モータ駆動信号とを生成する。針棒軸偏差抑制部231aは、針棒軸監視部231cへ針棒軸偏差信号を出力する。針棒軸偏差抑制部231aは、電流制御部231bへ針棒軸モータ駆動信号を出力する。実施の形態1において、縫い針32aが被縫製物Ob1から受ける物理量は針棒軸偏差信号として観測される。実施の形態1において、針棒軸偏差信号は、位置の次元の偏差信号である。
図9に詳細を示すように、針棒軸偏差抑制部231aは、スイッチ231dと、差分器231eと、偏差抑制補償器231fと、異常検知部231gとを有する。
スイッチ231dには、指令生成部230により出力される針棒軸指令信号と、異常検知部231gにより出力される針棒軸異常信号とが入力される。ミシン100が縫製作業を実行している最中に針棒32cに異常が発生したことが異常検知部231gによって検知されると、スイッチ231dは、針棒軸異常信号に基づいて、針棒軸指令信号の値の変化を停止させることによって、異常の発生に連動して針棒モータ35を停止させる。これにより、ミシン100は、針棒32cに異常が発生した直後に針棒モータ35を停止することで、縫製動作を停止する。
スイッチ231dと同じ機能は、天秤軸モータ制御演算部232と、かま軸モータ制御演算部233と、PF軸モータ制御演算部234と、X軸モータ制御演算部235と、Y軸モータ制御演算部236との各々にも設けられても良い。かかる機能により、天秤軸モータ制御演算部232は、針棒軸異常信号に基づいて天秤指令信号の値の変化を停止させることによって、異常の発生に連動して天秤モータ36を停止させる。かま軸モータ制御演算部233は、針棒軸異常信号に基づいてかま軸指令信号の値の変化を停止させることによって、異常の発生に連動してかまモータ44を停止させる。PF軸モータ制御演算部234は、針棒軸異常信号に基づいてPF軸指令信号の値の変化を停止させることによって、異常の発生に連動して中押さえモータ51を停止させる。X軸モータ制御演算部235は、針棒軸異常信号に基づいてX軸指令信号の値の変化を停止させることによって、異常の発生に連動してX軸モータ52を停止させる。Y軸モータ制御演算部236は、針棒軸異常信号に基づいてY軸指令信号の値の変化を停止させることによって、異常の発生に連動してY軸モータ53を停止させる。これにより、ミシン100は、ミシン100全体の動作を停止させても良い。これにより、ミシン100は、異常の発生直後における余分な縫製動作を防止することができる。
差分器231eは、スイッチ231dにより出力される針棒軸指令信号と、針棒駆動情報検出器133により出力される針棒軸回転信号との差分である針棒軸偏差信号を生成する。差分器231eは、偏差抑制補償器231fと針棒軸監視部231cとへ針棒軸偏差信号を出力する。
偏差抑制補償器231fは、針棒軸偏差信号がゼロに収束するように針棒モータ35の駆動を調整するための針棒軸モータ駆動信号を生成する。偏差抑制補償器231fは、電流制御部231bへ針棒軸モータ駆動信号を出力する。偏差抑制補償器231fは、針棒軸偏差信号をゼロへ収束させるため、比例演算を行う比例補償器と、積分演算を行う積分補償器と、微分演算を行う微分補償器とのうち、少なくとも1つを有する。実施の形態1では、比例補償器および積分補償器によるPI制御を偏差抑制補償器231fに採用するものとして説明する。
異常検知部231gには、針棒軸監視部231cにより出力される針棒軸監視信号が入力される。異常検知部231gは、針棒軸監視信号の変化に基づいて、針棒軸異常信号を計算する。針棒軸異常信号は、例えば、異常の検知と異常の非検知とを表す二値の信号である。異常検知部231gは、スイッチ231dへ針棒軸異常信号を出力する。
図8に示す電流制御部231bは、針棒軸モータ駆動信号に基づいて、針棒軸偏差信号がゼロになるように針棒モータ35を駆動するための針棒軸制御電流を生成する。電流制御部231bは、針棒モータ35へ針棒軸制御電流を供給する。電流制御部231bは、電流制御回路とインバータ回路等を備える。
針棒軸監視部231cは、縫い針32aまたは針棒32cの異常を監視する。針棒軸監視部231cには、針棒軸偏差抑制部231aの差分器231eにより出力される針棒軸偏差信号が入力される。針棒軸監視部231cは、針棒軸偏差信号に基づいて針棒軸監視信号を計算する。針棒軸監視部231cは、操作盤21の表示器211と針棒軸偏差抑制部231aとへ針棒軸監視信号を出力する。
図10に詳細を示すように、針棒軸監視部231cは、フィルタ処理部231hと、記録部231iと、比較器231jとを有する。針棒軸監視部231cは、比較器231jによって、あらかじめ記録部231iに記録された針棒軸監視信号である数値データと第1の物理量である現在の針棒軸監視信号とを比較することによって第1の物理量の変化を検出する。
フィルタ処理部231hは、異常の検出精度を改善するために、針棒軸偏差信号に対し、針棒モータ35の回転周波数よりも高い針棒軸偏差信号の周波数成分を低減する演算と、針棒モータ35の回転周波数よりも低い針棒軸モータ駆動信号の周波数成分を低減する演算とのうちの一方または双方を施す。これにより、フィルタ処理部231hは、針棒軸監視信号を計算する。フィルタ処理部231hは、針棒軸監視信号を記録部231iと比較器231jとへ出力する。
フィルタ処理部231hは、針棒軸モータ駆動信号の位相を操作する位相フィルタ、または、針棒軸モータ駆動信号の振幅を変更する比例演算などを針棒軸偏差信号に施しても良い。針棒軸監視部231cは、位相フィルタを用いることで、針棒駆動情報検出器133の検出遅れ、または通信遅れを補正し、異常発生時の検知精度を向上できる。また、針棒軸監視部231cは、ゲインの乗算によって振幅を変更する比例演算を針棒軸偏差信号に施すことで、針棒軸監視信号を任意の検出仕様へ正規化することができる。
記録部231iは、例えば、被縫製物Ob1を設置しないで縫製作業を実行した場合の針棒軸監視信号を記録する。この場合、縫い針32aが被縫製物Ob1から受ける物理量はゼロである。記録部231iは、記録された針棒軸監視信号を現在の縫製タイミングと同期させて出力する。
記録部231iは、一針前の縫製作業を行う間にフィルタ処理部231hが出力する針棒軸監視信号を記録しても良い。つまり、記録部231iは、一針に要する時間を逓倍した時間分の遅延を発生させる遅延計算機でも良い。比較器231jが、このようにして記録部231iに記録された針棒軸監視信号と現在の針棒軸監視信号とを比較することで針棒軸監視部231cは、一針単位で針棒軸監視信号の変化を監視することができる。
比較器231jは、記録部231iが出力する被縫製物Ob1を設置しない場合の針棒軸監視信号と、フィルタ処理部231hが出力する現在の針棒軸監視信号とを比較し、現在の針棒軸監視信号を出力する。
図11の第1段目には、針棒モータ35の駆動による縫い針32aの駆動波形であって、Z軸方向において針孔32bが辿る軌跡を示している。図11の第1段目に示す駆動波形は、図7の第1段目に示す駆動波形と同じである。かかる駆動波形から、縫い針32aが被縫製物Ob1に挿針される期間である「tn」および「tn′」を確認することができる。
図11の第2段目には、針棒軸監視部231cの比較器231jによる針棒軸監視信号の比較動作について説明するための針棒軸監視信号の波形を示している。図11の第3段目には、針棒軸監視部231cの異常検知部231gによる異常検出について説明するための針棒軸異常信号の波形を示している。
図11の第2段目には、フィルタ処理部231hが出力する針棒軸監視信号の波形の例を示す。図11の第2段目において、実線のグラフは、被縫製物Ob1を設置して針棒32cを駆動した場合における針棒軸監視信号を表している。図11の第2段目において、破線のグラフは、被縫製物Ob1を設置しない場合における針棒軸監視信号を表している。また、図11の第2段目において、「TNH」は、被縫製物Ob1を設置せずに針棒32cを駆動した場合における針棒軸監視信号の最大値である。「TNL」は、被縫製物Ob1を設置せずに針棒32cを駆動した場合における針棒軸監視信号の最小値である。
比較器231jは、被縫製物Ob1を設置して縫製動作を実際に行った場合に、期間「tn」の間において、針棒軸監視信号が「TNH」よりも大きくなるか否か、および、針棒軸監視信号が「TNL」よりも小さくなるか否かを監視する。つまり、被縫製物Ob1の縫製を行う場合は、縫い針32aは、被縫製物Ob1を貫通する際に、被縫製物Ob1からの反力と、被縫製物Ob1との間における摩擦力とを受ける。このため、被縫製物Ob1を設置した場合は、被縫製物Ob1を設置しない場合に比べて、縫い針32aの位置偏差の変動が大きくなる。比較器231jは、その位置偏差の変動を監視することによって、針棒32cの異常を判断する。
図11の第2段目において、(n+1)針目における針棒軸監視信号は、針棒32cが正常に動作するときにおける針棒軸監視信号である。このときは、実線により示す針棒軸監視信号は、期間「tn」において、「TNH」よりも大きくなり、かつ、「TNL」よりも小さくなる。一方、図11の第2段目において、(n+2)針目における針棒軸監視信号は、針棒32cに異常が発生したときの針棒軸監視信号の例である。このときは、実線により示す針棒軸監視信号は、期間「tn′」において、「TNL」よりも小さくはなるが、「TNH」よりも大きくはならない。つまり、比較器231jは、針棒軸監視信号の値と「TNH」および「TNL」の値とを比較することで、縫い針32aが被縫製物Ob1から受ける物理量の変化を監視する。
図11の第2段目において、(n+2)針目における針棒軸監視信号は、(n+1)針目における針棒軸監視信号に比べて変化していることから、縫い針32aに、折損、屈曲または損壊といった異常が生じている可能性があると推測できる。このようにして、針棒軸監視部231cは、針棒軸監視信号の変動に基づいて縫い針32aの異常を監視する。使用者は、針棒軸監視部231cによる異常の監視によって、縫い針32aが被縫製物Ob1に正常に挿針されたか否かを針棒軸回転信号から追跡することができる。また、ミシン100は、針棒軸回転信号の変化を縫い目に関連付けることで、縫い目の品質を管理できる。さらに、ミシン100は、針棒軸監視信号の変化率または類似度を計算することで、異常が発生する傾向を評価することができる。
図11の第3段目には、異常検知部231gが出力する針棒軸異常信号の波形の例を示す。針棒32cが正常に動作する(n+1)針目では、期間「tn」において、針棒軸監視信号が「TNH」よりも大きくなり、かつ針棒軸監視信号が「TNL」よりも小さくもなるので、異常検知部231gは、異常を検知しない。一方、異常が発生する(n+2)針目では、期間「tn」において、針棒軸監視信号が「TNL」よりも小さくはなるが、針棒軸監視信号が「TNH」よりも大きくはならない。このような針棒軸監視信号の変動に基づいて、異常検知部231gは、異常を検知する。異常検知部231gは、期間「tn′」が終了するタイミング、すなわち針棒モータ35の回転角度が「e′」であるときに、針棒軸異常信号を「非検知」から「検知」に切り換える。
次に、天秤軸モータ制御演算部232が、天秤軸回転信号に基づいて天秤軸監視信号を計算し出力する処理について説明する。図8に示すように、制御盤23の天秤軸モータ制御演算部232は、天秤軸偏差抑制部232aと、電流制御部232bと、天秤軸監視部232cとを有する。天秤軸偏差抑制部232aは、天秤33aの動作による縫い目の引き締めが行われる期間である第2の期間において検出された天秤駆動情報に基づいて、天秤33aが上糸Tから受ける第2の物理量を計算する物理量計算部である。天秤軸監視部232cは、第2の物理量の変化に基づいて天秤33aの異常を監視する監視部である。
天秤軸偏差抑制部232aは、指令生成部230から出力される指令である天秤軸指令信号と、天秤駆動情報検出器134から出力される天秤軸回転信号と、天秤軸監視部232cから出力される天秤軸監視信号とが入力される。天秤軸偏差抑制部232aは、これらの入力信号に基づいて、天秤軸指令信号と天秤軸回転信号の差分である天秤軸偏差信号と、天秤軸モータ駆動信号とを生成する。天秤軸偏差抑制部232aは、天秤軸監視部232cへ天秤軸偏差信号を出力する。天秤軸偏差抑制部232aは、電流制御部232bへ天秤軸モータ駆動信号を出力する。実施の形態1において、天秤33aが小穴33bにおいて上糸Tから受ける物理量は天秤軸偏差信号として観測される。実施の形態1において、天秤軸偏差信号は、位置の次元の偏差信号である。
天秤軸偏差抑制部232aは、図9に示す針棒軸偏差抑制部231aと同様の構成を有する。すなわち、天秤軸偏差抑制部232aは、針棒軸偏差抑制部231aに備えられるスイッチ231d、差分器231e、偏差抑制補償器231fおよび異常検知部231gと同様の、スイッチ、差分器、偏差抑制補償器および異常検知部を有する。ここでは、天秤軸偏差抑制部232aの詳細な構成については図示を省略する。
天秤軸偏差抑制部232aのスイッチには、指令生成部230により出力される天秤軸指令信号と、天秤軸偏差抑制部232aの異常検知部により出力される天秤軸異常信号とが入力される。ミシン100が縫製作業を実行している最中に天秤33aに異常が発生したことが天秤軸偏差抑制部232aの異常検知部によって検知されると、スイッチは、天秤軸異常信号に基づいて、天秤軸指令信号の値の変化を停止させることによって、異常の発生に連動して天秤モータ36を停止させる。これにより、ミシン100は、天秤33aに異常が発生した直後に天秤モータ36を停止する。
天秤軸偏差抑制部232aの差分器は、天秤軸偏差抑制部232aのスイッチにより出力される天秤軸指令信号と、天秤駆動情報検出器134により出力される天秤軸回転信号との差分である天秤軸偏差信号を生成する。差分器は、天秤軸偏差抑制部232aの偏差抑制補償器と天秤軸監視部232cとへ天秤軸偏差信号を出力する。
天秤軸偏差抑制部232aの偏差抑制補償器は、天秤軸偏差信号がゼロに収束するように天秤モータ36の駆動を調整するための天秤軸モータ駆動信号を生成する。偏差抑制補償器は、電流制御部232bへ天秤軸モータ駆動信号を出力する。偏差抑制補償器は、天秤軸偏差信号をゼロへ収束させるため、比例演算を行う比例補償器と、積分演算を行う積分補償器と、微分演算を行う微分補償器とのうち、少なくとも1つを有する。実施の形態1では、比例補償器および積分補償器によるPI制御を偏差抑制補償器に採用するものとして説明する。
天秤軸偏差抑制部232aの異常検知部には、天秤軸監視部232cにより出力される天秤軸監視信号が入力される。異常検知部は、天秤軸監視信号の変化に基づいて、天秤軸異常信号を計算する。天秤軸異常信号は、例えば、異常の検知と異常の非検知とを表す二値の信号である。異常検知部は、天秤軸偏差抑制部232aのスイッチへ天秤軸異常信号を出力する。
図8に示す電流制御部232bは、天秤軸モータ駆動信号に基づいて、天秤軸偏差信号がゼロになるように天秤モータ36を駆動するための天秤軸制御電流を生成する。電流制御部232bは、天秤モータ36へ天秤軸制御電流を供給する。電流制御部232bは、電流制御回路とインバータ回路等を備える。
天秤軸監視部232cは、天秤33aの異常を監視する。天秤軸監視部232cには、天秤軸偏差抑制部232aの差分器により出力される天秤軸偏差信号が入力される。天秤軸監視部232cは、天秤軸偏差信号に基づいて天秤軸監視信号を計算する。天秤軸監視部232cは、操作盤21の表示器211と天秤軸偏差抑制部232aとへ天秤軸監視信号を出力する。
天秤軸監視部232cは、図10に示す針棒軸監視部231cと同様の構成を有する。すなわち、天秤軸監視部232cは、針棒軸監視部231cに備えられるフィルタ処理部231h、記録部231iおよび比較器231jと同様の、フィルタ処理部、記録部および比較器を有する。ここでは、天秤軸監視部232cの詳細な構成については図示を省略する。天秤軸監視部232cは、比較器によって、あらかじめ記録部に記録された天秤軸監視信号である数値データと第2の物理量である現在の天秤軸監視信号とを比較することによって第2の物理量の変化を検出する。
天秤軸監視部232cのフィルタ処理部は、異常の検出精度を改善するために、天秤軸偏差信号に対し、天秤モータ36の回転周波数よりも高い天秤軸偏差信号の周波数成分を低減する演算と、天秤モータ36の回転周波数よりも低い天秤軸モータ駆動信号の周波数成分を低減する演算とのうちの一方または双方を施す。これにより、フィルタ処理部は、天秤軸監視信号を計算する。フィルタ処理部は、天秤軸監視信号を、天秤軸監視部232cの記録部と、天秤軸監視部232cの比較器とへ出力する。天秤軸監視部232cのフィルタ処理部には、針棒軸監視部231cのフィルタ処理部231hと同様のフィルタ処理部を使用することができる。
天秤軸監視部232cの記録部は、例えば、上糸経路に沿って上糸Tを供給しないで縫製作業を実行した場合の天秤軸監視信号を記録する。この場合、天秤33aが上糸Tから受ける物理量は存在しない。記録部は、記録された天秤軸監視信号を現在の縫製タイミングと同期させて出力する。天秤軸監視部232cの記録部によって天秤軸監視信号を記録する態様は、針棒軸監視部231cの記録部231iが針棒軸監視信号を記録する場合と同様とする。
天秤軸監視部232cの比較器は、天秤軸監視部232cの記録部が出力する被縫製物Ob1を設置しない場合の天秤軸監視信号と、天秤軸監視部232cのフィルタ処理部が出力する現在の天秤軸監視信号とを比較し、現在の天秤軸監視信号を出力する。
図12の第1段目には、天秤モータ36の駆動による天秤33aの駆動波形であって、Z軸方向において小穴33bが辿る軌跡を示している。図12の第1段目に示す駆動波形は、図7の第3段目に示す駆動波形と同じである。かかる駆動波形から、被縫製物Ob1から小穴33bを引き離すことによって、縫い目の引き締めを行う期間である「tb」を確認することができる。
図12の第2段目には、天秤軸監視部232cの比較器による天秤軸監視信号の比較動作について説明するための天秤軸監視信号の波形を示している。図12の第3段目には、天秤軸監視部232cの異常検知部による異常検出について説明するための天秤軸異常信号の波形を示している。
図12の第2段目には、天秤軸監視部232cのフィルタ処理部が出力する天秤軸監視信号の波形の例を示す。図12の第2段目において、実線のグラフは、上糸経路に沿って上糸Tを供給して天秤33aを駆動した場合における天秤軸監視信号を表している。破線のグラフは、上糸Tを供給せずに天秤33aを駆動した場合における天秤軸監視信号を表している。また、図12の第2段目において、「TBH」は、上糸Tを供給せずに天秤33aを駆動した場合における天秤軸監視信号の最大値である。「TBL」は、上糸Tを供給せずに天秤33aを駆動した場合における天秤軸監視信号の最小値である。
天秤軸監視部232cの比較器は、上糸Tを供給して縫製動作を実際に行った場合に、期間「tb」の間において、天秤軸監視信号が「TBH」よりも大きくなるか否か、および、天秤軸監視信号が「TBL」よりも小さくなるか否かを監視する。つまり、上糸Tを供給して縫製作業を実際に行う場合は、天秤33aが引き上げられる際に、天秤33aは、上糸Tからの張力を受ける。このため、上糸Tを供給した場合は、上糸Tを供給しない場合に比べて、天秤33aの位置偏差の変動が大きくなる。天秤軸監視部232cの比較器は、その位置偏差の変動を監視することによって、天秤33aの異常を判断する。
図12の第2段目において、(n+1)針目における天秤軸監視信号は、天秤33aが正常に動作するときにおける天秤軸監視信号である。このときは、実線により示す天秤軸監視信号は、期間「tb」において、「TBH」よりも大きくなり、かつ、「TBL」より小さくなる。一方、図12の第2段目において、(n+2)針目における天秤軸監視信号は、天秤33aに異常が発生したときの天秤軸監視信号の例である。このときは、実線により示す天秤軸監視信号は、期間「tb」において、「TBH」よりも大きくなるが、「TBL」よりも小さくはならない。つまり、天秤軸監視部232cの比較器は、天秤軸監視信号の値と「TBH」および「TBL」の値とを比較することで、天秤33aが上糸Tから受ける物理量の変化を監視する。
図12の第2段目において、(n+2)針目における天秤軸監視信号は、(n+1)針目における天秤軸監視信号に比べて変化していることから、天秤33aに、折損、屈曲または損壊といった異常が生じている可能性があると推測できる。または、上糸Tのばたつき、撓み、または切断といった異常が発生した可能性があると推測できる。このようにして、天秤軸監視部232cは、天秤軸監視信号の変動に基づいて天秤33aの異常を監視する。使用者は、天秤軸監視部232cによる異常の監視によって、天秤33aが正常に動作したか否かを天秤軸回転信号から追跡することができる。また、ミシン100は、天秤軸回転信号の変化を縫い目に関連付けることで、縫い目の品質を管理できる。さらに、ミシン100は、天秤軸監視信号の変化率または類似度を計算することで、異常が発生する傾向を評価することができる。
図12の第3段目には、天秤軸監視部232cの異常検知部が出力する天秤軸異常信号の波形の例を示す。天秤33aが正常に動作する(n+1)針目では、期間「tb」において、天秤軸監視信号が「TBH」よりも大きくなり、かつ天秤軸監視信号が「TBL」よりも小さくもなるので、異常検知部は、異常を検知しない。一方、異常が発生する(n+2)針目では、期間「tb」において、天秤軸監視信号が「TBH」よりも大きくはなるが、天秤軸監視信号が「TBL」よりも小さくはならない。このような天秤軸監視信号の変動に基づいて、異常検知部は、異常を検知する。異常検知部は、期間「tb」が終了するタイミング、すなわち針棒モータ35の回転角度が「h′′」であるときに、天秤軸異常信号を「非検知」から「検知」に切り換える。
以上により、実施の形態1にかかるミシン100は、針棒モータ35の回転角度の変化に応じて計算される針棒軸監視信号および天秤軸監視信号に基づいて、針棒32cの異常と天秤33aの異常とを監視する。ミシン100は、縫い目を形成するプロセスの途中において品質管理を行うことができる。また、ミシン100は、針棒軸回転信号と天秤軸回転信号とに基づいて異常を監視することによって、少なくとも、縫い針32aの動作に関連する品質管理と、天秤33aの動作に関連する品質管理とを独立に行うことができる。これにより、ミシン100は、品質管理の精度を向上させることができる。
また、ミシン100は、縫い針32a、天秤33a、かま42a、糸等の動作を検出する検出器を別途設ける必要がないため、ミシン100の設計、製造、または保守に要するコストの増加を回避することができる。ミシン100は、縫製機構の周辺にセンサを追加する必要が無いので、レイアウトの制約を受けず、設計、製造、または保守コストを低減することができる。
また、ミシン100は、少なくとも、縫い針32aと天秤33aとを互いに独立した駆動源によって駆動するため、連結部の少ない簡単な機構を採用できる。
また、ミシン100は、少なくとも、針棒機構32を駆動する針棒モータ35と天秤機構33を駆動する天秤モータ36とを設けたことで、負荷変動の少ない機構を採用できる。さらに、ミシン100には、これらのモータを一定速で回転させるために複雑なモータ制御系が不要となる。
また、ミシン100は、針棒軸監視部231cと天秤軸監視部232cとを備えることによって、少なくとも、針棒32cの異常と天秤33aの異常とを区別して検知することができる。
また、ミシン100は、針棒軸監視信号と天秤軸監視信号とに基づいて異常を監視するので、少なくとも、縫い針32aの異常が発生する傾向と、天秤33aの異常が発生する傾向とを検知して、縫い目に縫製不良が発生する前に縫製動作を停止することができる。
また、ミシン100は、縫い針32aが被縫製物Ob1に挿針されている期間に検出されたデータと、天秤33aが縫い目の引き締めを行う期間に検出されたデータとを用いて異常を監視するので、縫製動作中の全期間のデータを検出する場合に比べて、品質評価および品質管理に用いるデータ量を少なくすることができる。
また、ミシン100は、天秤33aとは独立して縫い針32aを駆動するので、縫い針32aと天秤33aとの縫製動作に関わる異常の中から縫い針32aに関する異常を容易に抽出することができる。これにより、ミシン100は、縫製品質のトレーサビリティの確保、すなわち、縫い針32aの駆動に関する縫製品質の追跡が可能となる。
また、ミシン100は、縫い針32aとは独立して天秤33aを駆動するので、縫い針32aと天秤33aの縫製動作に関わる異常の中から天秤33aに関する異常を容易に抽出することができる。これにより、ミシン100は、縫製品質のトレーサビリティの確保、すなわち、天秤33aの駆動に関する縫製品質の追跡が可能となる。
また、ミシン100のデータ処理装置215は、縫い針32aが被縫製物Ob1から受ける物理量と天秤33aが上糸Tから受ける物理量とのうちのいずれか1つまたは両方のデータから特徴量を抽出する特徴量抽出部215aを有する。データ処理装置215は、特徴量抽出部215aによって、特徴量の次元圧縮処理を行うので、少なくとも、針棒32cまたは天秤33aの動作に関連する縫製品質のトレーサビリティを確保するために必要なデータ量を削減することができる。
また、ミシン100のデータ表示装置22は、少なくとも、縫い針32aまたは天秤33aの動作不良に起因して発生する異常を区別して表示するので、ミシン100のメンテナンス性を改善することができる。
また、ミシン100は、縫い針32aと、天秤33aと、かま42aと、中押さえ34aと、XYステージ11とをそれぞれ個別のモータにより駆動する。ミシン100は、これらの被駆動体の動作を、針棒軸モータ制御演算部231と、天秤軸モータ制御演算部232と、かま軸モータ制御演算部233と、PF軸モータ制御演算部234と、X軸モータ制御演算部235と、Y軸モータ制御演算部236とによって、互いに独立して監視する。このようにすることで、ミシン100は、被駆動体を駆動するための各軸の異常を区別して検知することができるので、メンテナンス性を格段に改善することができる。
なお、針棒軸偏差抑制部231aの異常検知部231gと、天秤軸偏差抑制部232aの異常検知部とは、使用者による入力装置214の操作等によって指定された閾値を、「TNH」、「TNL」、「TBH」および「TBL」として設定しても良い。その際、「TNH」、「TNL」、「TBH」および「TBL」は、縫い方向または被縫製物Ob1の形状に起因した一針ごとのばらつきを考慮して設定されることが望ましい。また、試し縫いによる事前の試験動作を通じて、使用者が入力装置214の操作によって該閾値を制御盤23の外部から設定できるように、操作盤21および制御盤23が構成されても良い。例えば、操作盤21の記憶装置213に該閾値を記録し、プロセッサ212または図示しない通信用回路を通じて制御盤23の針棒軸モータ制御演算部231および天秤軸モータ制御演算部232へ該閾値を送る構成を、操作盤21および制御盤23には採用することができる。このようにすることで、ミシン100は、使用者の要求に合わせて縫製品質の良否の判断基準を変更することができる。
また、針棒軸偏差抑制部231aの異常検知部231gまたは針棒軸監視部231cの比較器231jは、一針前の針棒軸監視信号の最大値、最小値、平均値などの特徴量を計算して、現在の針棒軸異常信号の特徴量と比較しても良い。これにより、ミシン100は、一針前から現在までにおける針棒軸監視信号の変化率を把握しやすくすることができる。また、天秤軸偏差抑制部232aの異常検知部または天秤軸監視部232cの比較器は、一針前の天秤軸監視信号の最大値、最小値、平均値などの特徴量を計算して、現在の天秤軸監視信号の特徴量と比較しても良い。これにより、ミシン100は、一針前から現在までにおける天秤軸監視信号の変化率を把握しやすくすることができる。例えば、これらの変化率は、(n+1)針目にて記録された最大値および最小値をそれぞれ100%および0%と正規化して、(n+2)針目における最大値と最小値とがどの程度の比率で低下しているかを、針棒軸監視部231cの比較器231jまたは天秤軸監視部232cの比較器によって評価しても良い。
さらに、使用者が入力装置214を操作することによって指定した閾値に比べて、針棒軸監視信号の変化率が大きい場合に、針棒軸偏差抑制部231aの異常検知部231gは、針棒軸異常信号を「非検知」から「検知」に切り換えても良い。使用者が入力装置214を操作することによって指定した閾値に比べて、天秤軸監視信号の変化率が大きい場合に、天秤軸偏差抑制部232aの異常検知部は、天秤軸異常信号を「非検知」から「検知」に切り換えても良い。
なお、針棒軸監視部231cは、入力信号である針棒軸偏差信号に基づいて針棒軸監視信号を計算および出力する代わりに、針棒軸モータ駆動信号が入力されて、針棒軸モータ駆動信号に基づいて針棒軸監視信号を計算および出力しても良い。針棒軸モータ駆動信号は、図8に示す針棒軸モータ制御演算部231の内部の信号であって、例えば、トルクまたは推力の次元の物理量である。また、針棒軸監視部231cは、針棒モータ35に供給する針棒軸制御電流の値、または針棒軸制御電流を検出するシャント抵抗の両端電圧の値が入力されて、針棒軸制御電流の値または両端電圧の値に基づいて針棒軸監視信号を計算および出力しても良い。これにより、ミシン100は、異常の検知精度を向上できる場合がある。
天秤軸監視部232cは、入力信号である天秤軸偏差信号に基づいて天秤軸監視信号を計算および出力する代わりに、天秤軸モータ駆動信号が入力されて、天秤軸モータ駆動信号に基づいて天秤軸監視信号を計算および出力しても良い。天秤軸モータ駆動信号は、図8に示す天秤軸モータ制御演算部232の内部の信号であって、例えば、トルクまたは推力の次元の物理量である。また、天秤軸監視部232cは、天秤モータ36に供給する天秤軸制御電流の値、または天秤軸制御電流を検出するシャント抵抗の両端電圧の値が入力されて、天秤軸制御電流の値または両端電圧の値に基づいて天秤軸監視信号を計算および出力しても良い。これにより、ミシン100は、異常の検知精度を向上できる場合がある。
針棒軸監視部231cは、針棒軸モータ駆動信号および針棒軸回転信号を入力とする外乱オブザーバを構成し、針棒モータ35および針棒機構32の数式モデルに基づいて、縫い針32aが被縫製物Ob1から受ける外乱を推定しても良い。そして、針棒軸監視部231cの比較器231jは、外乱の推定結果を示す入力信号に基づいて針棒軸監視信号を計算しても良い。または、針棒軸偏差抑制部231aの異常検知部231gは、外乱の推定結果を示す入力信号に基づいて針棒軸異常信号を計算しても良い。これにより、ミシン100は、異常の検知精度を向上できる場合がある。
1針ごとにおける天秤軸監視信号の変動が小さくなるように、プリテンション31aおよびメインテンション31bが調整されても良い。プリテンション31aおよびメインテンション31bは、例えば使用者によって調整される。これにより、ミシン100は、天秤33aが上糸Tから受ける張力のばらつきが抑えられることにより、品質の安定した縫い目を形成することができる。
データ表示装置22の異常通知部221は、針棒軸偏差抑制部231aの異常検知部231gと同様の処理によって異常を検知して、針棒32cの異常を使用者へ通知することとしても良い。異常通知部221は、天秤軸偏差抑制部232aの異常検知部と同様の処理によって異常を検知して、天秤33aの異常を使用者へ通知することとしても良い。
制御盤23は、針棒軸異常信号および天秤軸異常信号を操作盤21およびデータ表示装置22へ送信しても良い。これにより、ミシン100は、異常通知部221の処理を減らすことができる。
縫い針32aによる被縫製物Ob1への挿針が可能であれば、針棒モータ35は、サーボモータまたはステッピングモータといった回転電機に限られず、技術的観点で言えば、複数のリニアモータ、平面モータ、球面モータ、ボイスコイルモータ等であっても良い。それに合わせて、針棒機構32は、針棒クランク32e、連接棒32f、スライダ32g等で構成されるリンク機構以外の機構に変更されても良い。縫い針32aが被縫製物Ob1に挿針されるように針棒32cを駆動可能であれば、針棒機構32には、周知の任意の機構を採用することができる。例えば、針棒モータ35にはリニアモータを採用し、針棒機構32は負荷質量等の剛体としてリニアモータの推力が針棒32cに直接加わるように構成しても良い。針棒モータ35がリニアモータ等で構成されて並進方向に駆動される場合、針棒駆動情報検出器133は、針棒モータ35の固定子に対する可動子の並進の情報を検出する。このように構成することで、ミシン100は、針棒32cが被縫製物Ob1から受ける物理量を針棒モータ35の挙動から把握し易くすることができる。
天秤33aの小穴33bが被縫製物Ob1に対して引き離されるように駆動され、縫製作業時に小穴33bによる縫い目の引き締めが可能であれば、天秤モータ36は、サーボモータまたはステッピングモータといった回転電機に限られず、技術的観点で言えば、複数のリニアモータ、平面モータ、球面モータ、ボイスコイルモータ等であっても良い。それに合わせて、天秤機構33は、天秤クランク33d、天秤ロッド33e等で構成されるリンク機構以外の機構に変更されても良い。天秤33aの小穴33bが被縫製物Ob1に対して引き離されるように駆動され、縫製作業時に縫い目の引き締めが可能であれば、天秤機構33には、周知の任意の機構を採用することができる。例えば、天秤モータ36としてリニアモータを採用し、天秤機構33は負荷質量等の剛体としてリニアモータの推力が天秤33aまたは小穴33bに直接加わるように構成しても良い。天秤モータ36がリニアモータ等で構成されて並進方向に駆動される場合、天秤駆動情報検出器134は天秤モータ36の固定子に対する可動子の並進の情報を検出する。このように構成することで、ミシン100は、天秤33aが上糸Tから受ける物理量を天秤モータ36の挙動から把握し易くすることができる。
針棒シャフト32dおよび天秤シャフト33cは、頭部ユニットP3の大型化を回避するため、またはねじり剛性を高くするために、短い方が好ましい。頭部ユニットP3のレイアウトの都合によって針棒シャフト32dおよび天秤シャフト33cが長くされる場合に、針棒シャフト32dまたは天秤シャフト33cが少なくとも1つ以上の軸受けで支持される構成としても良い。針棒シャフト32dおよび天秤シャフト33cを短くし、軸受けの数を減らした方が、ベンディングモード、ねじり振動、または軸受け故障の発生が軽減されるため、ミシン100は、品質評価及び品質管理の精度を向上することができる。
中押さえ34aが被縫製物Ob1を押圧している期間において被縫製物Ob1から中押さえ34aが受ける物理量の観測または推定が可能であれば、針棒モータ35または天秤モータ36によって中押さえ34aを駆動しても良い。中押さえ34aが被縫製物Ob1から受ける物理量の観測値または推定値を、針棒軸モータ制御演算部231が監視する物理量または天秤軸モータ制御演算部232が監視する物理量から差し引くことで、実施の形態1による品質評価および品質管理の方法を実施できる。ただし、中押さえ34aまたは中押さえ機構34の異常と、縫い針32aまたは天秤33aの異常とを区別するためには、中押さえ34aは、専用の駆動源により駆動されることが好ましい。これにより、ミシン100は、品質評価および品質管理の精度を高めることができる。
かま42aが上糸Tを捕捉している期間において、かまモータ44の回転軸が上糸Tから受ける物理量の観測または推定が可能であれば、針棒モータ35または天秤モータ36によってかま42aを駆動しても良い。かま42aが上糸Tから受ける物理量の観測値または推定値を、針棒軸モータ制御演算部231が監視する物理量または天秤軸モータ制御演算部232が監視する物理量から差し引くことで、実施の形態1における品質評価および品質管理の方法を実施できる。ただし、かま42aの異常と、縫い針32aまたは天秤33aの異常とを区別するためには、かま42aは、専用の駆動源により駆動されることが好ましい。これにより、ミシン100は、品質評価および品質管理の精度を高めることができる。
針棒クランク32eの形状、質量、イナーシャ、重心位置、および素材は、針棒モータ35から見た負荷の変動が小さくなるように設計されることが好ましい。このように針棒クランク32eが設計されることによって、針棒モータ35の回転角度によって変化する第1物理量の変動が針棒機構32の異常として検知されることを防ぐことができる。これにより、ミシン100は、品質評価および品質管理の精度を向上することができる。
天秤クランク33dの形状、質量、イナーシャ、重心位置、および素材は、天秤モータ36から見た負荷の変動が小さくなるように設計されることが好ましい。このように天秤クランク33dが設計されることによって、天秤モータ36の回転角度によって変化する第2物理量の変動を天秤機構33の異常として検知されることを防ぐことができる。これにより、ミシン100は、品質評価および品質管理の精度を向上することができる。
表示器211は、操作盤21の内部に設けられるものに限られない。表示器211は、操作盤21の外部に存在する液晶パネル、信号機、シグナルタワーといった表示器でも良い。この場合、表示器211と制御盤23との通信は、有線通信および無線通信のいずれでも良い。また、表示器211は、データ表示装置22または制御盤23に含まれるものでも良く、筐体機構P0に組み込まれたものでも良い。
記憶装置213は、操作盤21の内部に設けられるものに限られない。記憶装置213は、操作盤21の外部に設けられても良い。記憶装置213は、データベースとして用意されたクラウドPC(Personal Computer)、エッジPCまたはサーバPC等に設けられても良い。記憶装置213が操作盤21の外部に設けられる場合、記憶装置213と制御盤23との通信は、有線通信および無線通信のいずれでも良い。また、データ表示装置22は、操作盤21または制御盤23に含まれるものでも良い。また、データ表示装置22と、操作盤21または制御盤23との通信は、有線通信および無線通信のいずれでも良い。
データ表示装置22の異常通知部221は、期間「tn」、「tn′」における物理量の監視結果を示す針棒軸監視信号と、期間「tb」における物理量の監視結果を示す天秤軸監視信号と、期間「ts」における物理量の監視結果を示すかま軸監視信号と、期間「tp」における物理量の監視結果であるPF軸監視信号と、期間「tx1」、「tx2」における物理量の監視結果であるX軸監視信号と、期間「ty1」、「ty2」における物理量の監視結果であるY軸監視信号とに基づいて、針棒32cと、天秤33aと、かま42aと、中押さえ34aと、XYステージ11との各々における異常の有無を判断する。異常通知部221は、XYステージ11については、X軸方向の駆動における異常の有無と、Y軸方向の駆動における異常の有無とを判断する。
異常通知部221は、針棒32cと、天秤33aと、かま42aと、中押さえ34aと、XYステージ11のX軸方向における駆動と、XYステージ11のY軸方向における駆動との各々の異常を独立に監視し、これらのうち1つまたは複数の異常を区別して表示しても良い。これにより、データ表示装置22は、これらのうち1つまたは複数の異常を区別して使用者へ通知することができる。
例えば、実施の形態1では、ミシン100が薄い被縫製物Ob1の縫製作業を行う場合であって、X軸モータ52を常に一定速で回転させて送り板12を移動する場合を想定している。このため、縫い針32aが被縫製物Ob1に刺さった状態で送り板12をX軸方向に移動させることとなり、X軸モータ52の回転軸は期間「tx1」において被縫製物Ob1からの負荷を受ける。また、期間「tx2」においては、X軸モータ52の回転軸は、被縫製物Ob1を介して天秤33aが縫い目を引き締める際の上糸張力による負荷を受ける。X軸モータ52の駆動に異常がないケースでは、X軸モータ52の回転軸が被縫製物Ob1から受ける負荷は縫い目ごとに一定となる。しかし、保持装置を駆動するエアシリンダ13に異常が生じており、送り板12の保持が適切でないような場合には、X軸監視信号の変動またはY軸監視信号の変動が、正常時における変動に比べて大きくなる。送り板12が障害物に接触した場合も同様に、X軸監視信号の変動またはY軸監視信号の変動が正常時における変動に比べて大きくなる。したがって、ミシン100は、針棒軸監視信号または天秤軸監視信号の監視とともに、X軸監視信号およびY軸監視信号を同時に監視することによって、針棒32cおよび天秤33aの異常と、X軸方向およびY軸方向におけるXYステージ11の駆動の異常とを区別して検知することが可能になる。
実施の形態1によると、縫製機構の周辺にセンサを追加することなく、簡単な構成によって縫製品質の評価および管理を少ないデータで行うことができるミシン100を提供することができる。ただし、実施の形態1にて説明する異常の監視技術は、品質評価および品質管理のためのセンサを備えるミシンに用いることも可能である。このように、品質評価または品質管理で用いるセンサと、実施の形態1にかかる監視技術とを併用することにより、センサ信号に基づく品質評価および品質管理の信頼性の向上が可能となる。
さらに、実施の形態1の構成には、本出願人が国際公開第2018/179398号にて開示したかま軸による目飛びの検知技術、または、国際公開第2019/043813号にて開示したPF軸による上糸張力の検知技術が組み合わせられても良い。実施の形態1と、これらの技術とによって、全ての駆動軸を独立に監視することで、ミシン100のメンテナンス性を格段に向上させることができる。また、各軸の駆動データを用いることで縫製品質の追跡性能を向上させることができる。ただし、国際公開第2018/179398号にて開示した目飛びの検知技術と国際公開第2019/043813号にて開示した上糸張力の検知技術とを他の先行技術と組み合わせたとしても、実施の形態1にかかる針棒軸監視部231cと天秤軸監視部232cを備えなければ、縫い目を形成するプロセスの途中における針棒32cの動作と天秤33aの動作とに起因する異常を少ないデータで区別することができないことは明らかである。
実施の形態2.
図13に基づき、実施の形態2にかかるミシン100の構成と動作とについて説明する。図13は、実施の形態2にかかるミシンの動作パターンを示すタイミングチャートである。
実施の形態1では、薄い被縫製物Ob1の縫製作業をミシン100が行うケースについて説明した。実施の形態2では、厚い被縫製物Ob2の縫製作業をミシン100が行うケースについて説明する。このため、図13に示す各機構のタイミングチャートと、X軸方向におけるXYステージ11の駆動の態様とが、実施の形態1にかかるミシン100の場合とは異なる。実施の形態2におけるその他の構成および動作については、実施の形態1の場合と同じである。実施の形態2では、実施の形態1とは異なる構成および動作について主に説明する。
図13のタイミングチャートは、上から順に、縫い針32aの位置、天秤33aの位置、かま42aの回転角度、中押さえ34aの位置、X軸方向における被縫製物Ob2の位置、およびY軸方向における被縫製物Ob2の位置を示す。縫い針32aの位置は、Z軸方向における針孔32bの位置とする。天秤33aの位置は、Z軸方向における小穴33bの位置とする。中押さえ34aの位置は、Z軸方向における中押さえ34aの底面部の位置とする。
図13の第1段目には、針棒モータ35の駆動による縫い針32aの駆動波形であって、Z軸方向において針孔32bが辿る軌跡を示している。縫い針32aの駆動波形は、図7の第1段目に示す駆動波形と同様に、正弦波の軌跡を描く。しかし、実施の形態2では、厚い被縫製物Ob2に対して縫製作業を行うため、針棒モータ35の回転角度が「b」となるタイミングは、図7に示す場合に比べて早くなる。加えて、縫い針32aが被縫製物Ob2に挿針されている期間「tn」、「tn′」が、図7に示す場合に比べて長くなる。針棒モータ35の回転角度が「e」となるタイミング、すなわち抜針のタイミングは、図7に示す場合に比べて遅くなる。被縫製物Ob2が厚くなるに従って、期間「tn」、「tn′」は長くなる。すなわち、期間「tn」、「tn′」は、被縫製物Ob2の厚さに依存して長くなる。このため、針棒軸モータ制御演算部231は、実施の形態1の場合に比べて長い期間において物理量を監視して、監視結果を示す針棒軸監視信号を出力する。
図13の第2段目には、天秤モータ36の回転角度に対応する天秤33aの駆動波形であって、Z軸方向において小穴33bが辿る軌跡を示している。天秤33aの駆動波形は、図7の第3段目に示す駆動波形と同じである。天秤33aの小穴33bは、針棒モータ35の回転角度が「i」から「h′」となるまでの期間「tb」と、針棒モータ35の回転角度が「i′」から「h′′」となるまでの期間「tb」との各々において、被縫製物Ob2から引き離される。被縫製物Ob2が厚くなっても期間「tb」の長さは変わらない。すなわち、期間「tb」の長さは、被縫製物Ob2の厚さに依存しない。このため、天秤軸モータ制御演算部232は、実施の形態1の場合と同じ長さの期間において物理量を監視して、監視結果を示す天秤軸監視信号を出力する。
図13の第3段目には、針棒モータ35の回転角度に対応するかま42aの回転角度を示している。かま42aの駆動波形は、図7の第2段目に示す駆動波形と同じである。かま42aの剣先42bは、針棒モータ35の回転角度が「d」から「i」となるまでの期間「ts」の間に上糸Tを捕捉する。被縫製物Ob2が厚くなっても期間「ts」の長さは変わらない。すなわち、期間「ts」の長さは、被縫製物Ob2の厚さに依存しない。このため、かま軸モータ制御演算部233は、実施の形態1の場合と同じ長さの期間において物理量を監視して、監視結果を示すかま軸監視信号を出力する。
図13の第4段目には、針棒モータ35の回転角度に対応する中押さえ34aの駆動波形であって、中押さえ34aの底面部が辿る軌跡を示している。中押さえ34aの駆動波形の概形は、図7の第4段目に示す駆動波形と同じである。PF軸モータ制御演算部234は、針棒モータ35の回転角度が「i」から「h′」となるまでの期間「tp」と、針棒モータ35の回転角度が「i′」から「h′′」となるまでの期間「tp」とにおいて物理量を監視して、監視結果を示すPF軸監視信号を出力する。被縫製物Ob2が厚くなっても期間「tp」の長さは変わらない。期間「tp」の長さは、被縫製物Ob2の厚さに依存しない。このため、PF軸モータ制御演算部234は、実施の形態1の場合と同じ長さの期間において物理量を監視して、監視結果を示すPF軸監視信号を出力する。
図13の第5段目は、X軸方向におけるXYステージ11の駆動波形であって、X軸方向において送り板12が辿る軌跡を示している。厚い被縫製物Ob2の縫製作業を行う場合は、薄い被縫製物Ob1の縫製作業を行う場合に比べて縫い針32aと被縫製物Ob2との接触面が増える。このため、XYステージ11を常に一定速で駆動すると、被縫製物Ob2に挿針されている間に縫い針32aが被縫製物Ob2から受ける力が大きくなり、場合によっては縫い針32aが折損、屈曲、または損壊する場合がある。
そこで、実施の形態2では、縫い針32aが被縫製物Ob2に挿針されている期間「tx1」において、X軸モータ52による送り板12の移動を停止させる。また、縫い針32aが被縫製物Ob2から抜針されている期間において、送り板12を移動させることによって被縫製物Ob2を搬送する。縫い針32aが被縫製物Ob2から抜針されている期間は、針棒モータ35の回転角度が「e」から「b′」となるまでの期間である。
実施の形態2において、X軸モータ制御演算部235は、期間「tx1」と期間「tx2」において物理量を監視して、監視結果を示すX軸監視信号を出力する。期間「tx1」は、期間「tn」と同じである。期間「tx2」は、期間「tb」と同じである。図13に示すように、実施の形態2では、厚い被縫製物Оb2の縫製作業を行うため、期間「tx1」と期間「tx2」とは、針棒モータ35の回転角度が「i」から「e」となるまでの間と、針棒モータ35の回転角度が「i′」から「e′」となるまでの間との各々において重複する。
また、実施の形態2において、データ処理装置215の特徴量抽出部215aは、期間「tx1」におけるX軸監視信号と、期間「tx2」におけるX軸監視信号との各々について特徴量を計算する。つまり、特徴量抽出部215aは、期間「tx1」において出力されたX軸監視信号と期間「tx2」において出力されたX軸監視信号とに対して、例えば、平均、加重平均、分散、実効値、最大値、最小値、中央値、標準偏差、尖度、歪度、波形率、波高率、周波数スペクトル、ウェーブレット変換値、ヒルベルト変換値およびフィルタ演算のいずれか1つまたは複数を算出する演算処理によって、特徴量を計算する。
さらに、データ表示装置22の異常通知部221は、期間「tn」において出力された針棒軸監視信号に基づいて算出された特徴量の変化と、期間「tx1」において出力されたX軸監視信号に基づいて算出された特徴量の変化とを比較する。異常通知部221は、かかる比較によって、針棒32cの異常と、X軸方向の駆動におけるXYステージ11の異常とを区別して表示する。また、異常通知部221は、期間「tb」において出力された天秤軸監視信号に基づいて算出された特徴量の変化と、期間「tx2」において出力されたX軸監視信号に基づいて算出された特徴量の変化とを比較する。異常通知部221は、かかる比較によって、天秤33aの異常と、X軸方向の駆動におけるXYステージ11の異常とを区別して表示する。
図13の第6段目は、Y軸方向におけるXYステージ11の駆動波形であって、Y軸方向において送り板12が辿る軌跡を示している。実施の形態2においても、送り板12は、実施の形態1の場合と同様に、縫製作業中にY軸方向には移動しないものとする。ただし、Y軸指令信号は固定値であって、Y軸モータ制御演算部236は、Y軸指令信号とY軸回転信号の差分がゼロになるようにY軸モータ53へY軸制御電流を供給する。Y軸モータ制御演算部236は、期間「ty」において物理量を監視して、監視結果を示すY軸監視信号を出力する。期間「ty」は、期間「tx1」および期間「tn」の各々と同じである。
データ処理装置215の特徴量抽出部215aは、Y軸監視信号に対し、X軸監視信号に対して行う処理と同様の処理を行う。データ表示装置22の異常通知部221は、Y軸監視信号に対し、X軸監視信号の場合と同様に、針棒32cの異常と、Y軸方向の駆動におけるXYステージ11の異常とを区別して表示する。異常通知部221は、Y軸監視信号に対し、X軸監視信号の場合と同様に、天秤33aの異常と、Y軸方向の駆動におけるXYステージ11の異常とを区別して表示する。
以上により、実施の形態2にかかるミシン100は、厚い被縫製物Ob2に対して縫製作業を行う。実施の形態2では、針棒32cが受ける物理量が監視される期間「tn」と、天秤33aが受ける物理量が監視される期間「tb」とが、針棒モータ35の回転角度が「i」から「e」となるまでの間において重複する。実施の形態1の比較例にかかる縫製機構を備えるミシン、または、別途検出センサが追加されて縫製管理を行う従来のミシンでは、針棒モータ35の回転角度が「i」から「e」となるまでの間に異常が発生しても、異常の要因を区別することはできない。すなわち、異常の要因が、針棒32cと天秤33aとのいずれであるのかが区別できない。実施の形態2によると、ミシン100は、回転角度が「i」から「e」となるまでの間に発生した異常が、針棒32cの異常と天秤33aの異常とのいずれであるのかを区別して検知することができる。これにより、ミシン100は、厚い被縫製物Ob2に対して縫製作業を行う場合においても、メンテナンス性を向上することができる。
また、実施の形態2において、X軸モータ制御演算部235は、期間「tx1」と期間「tx2」とにおいてXYステージ11が受ける物理量を監視する。期間「tx1」と期間「tx2」とは、針棒モータ35の回転角度が「i」から「e」となるまでの間において重複する。特徴量抽出部215aは、期間「tx1」において出力されたX軸監視信号と期間「tx2」において出力されたX軸監視信号との各々から特徴量を計算する。これにより、ミシン100は、針棒32cの異常と、XYステージ11のX軸方向における駆動の異常とを区別して検知することができる。また、ミシン100は、天秤33aの異常と、XYステージ11のX軸方向における駆動の異常とを区別して検知することができる。これにより、ミシン100は、異常の要因を高い精度で区別して検知することができる。
データ表示装置22の異常通知部221は、期間「tn」、「tn′」における物理量の監視結果を示す針棒軸監視信号と、期間「tb」における物理量の監視結果を示す天秤軸監視信号と、期間「ts」における物理量の監視結果を示すかま軸監視信号と、期間「tp」における物理量の監視結果であるPF軸監視信号と、期間「tx1」、「tx2」における物理量の監視結果であるX軸監視信号と、期間「ty」における物理量の監視結果であるY軸監視信号とに基づいて、針棒32cと、天秤33aと、かま42aと、中押さえ34aと、XYステージ11との各々における異常の有無を判断する。異常通知部221は、XYステージ11については、X軸方向の駆動における異常の有無と、Y軸方向の駆動における異常の有無とを判断する。
異常通知部221は、針棒32cと、天秤33aと、かま42aと、中押さえ34aと、XYステージ11のX軸方向における駆動と、XYステージ11のY軸方向における駆動との各々の異常を独立に監視し、これらのうち1つまたは複数の異常を区別して表示しても良い。これにより、データ表示装置22は、これらのうち1つまたは複数の異常を区別して使用者へ通知することができる。
薄い被縫製物Ob1の縫製作業を行う場合に比べて、厚い被縫製物Ob2の縫製作業を行う場合は、各軸を監視する期間に重複が生じ易い。実施の形態2によると、ミシン100は、各軸の異常を独立に監視するので異常の区別が容易となり、厚い被縫製物Ob2に対して縫製作業を行う場合でもメンテナンス性を格段に向上することができる。
実施の形態3.
図14に基づき、実施の形態3にかかるミシン100の構成と動作とについて説明する。図14は、実施の形態3にかかるミシンの動作パターンを示すタイミングチャートである。
実施の形態3では、実施の形態1と同様に薄い被縫製物Ob1の縫製作業をミシン100が行うケースについて説明する。実施の形態3では、縫い針32aとかま42aとの出会いのタイミングにおける、針孔32bと送り板12とのZ軸方向における距離が、実施の形態1の場合とは異なる。図14の第1段目に示す「ld」は、当該出会いのタイミングにおける針孔32bと送り板12との距離を示す。実施の形態3におけるその他の構成および動作については、実施の形態1の場合と同じである。実施の形態3では、実施の形態1とは異なる構成および動作について主に説明する。
図14のタイミングチャートは、上から順に、縫い針32aの位置、かま42aの回転角度、天秤33aの位置、中押さえ34aの位置、X軸方向における被縫製物Ob1の位置、およびY軸方向における被縫製物Ob1の位置を示す。縫い針32aの位置は、Z軸方向における針孔32bの位置とする。天秤33aの位置は、Z軸方向における小穴33bの位置とする。中押さえ34aの位置は、Z軸方向における中押さえ34aの底面部の位置とする。
図14の第1段目には、針棒モータ35の駆動による縫い針32aの駆動波形であって、Z軸方向において針孔32bが辿る軌跡を示している。縫い針32aの駆動波形は、図7の第1段目に示す駆動波形と同様に、正弦波の軌跡を描く。しかし、実施の形態3では、縫い針32aとかま42aとの出会いのタイミングにおける針孔32bと送り板12との距離「ld」が、実施の形態1の場合と比べて長い。このため、針棒モータ35の回転角度が「b」となるタイミングは、図7に示す場合に比べて早くなる。加えて、縫い針32aが被縫製物Ob1に挿針されている期間「tn」、「tn′」が、図7に示す場合に比べて長くなる。針棒モータ35の回転角度が「e」となるタイミング、すなわち抜針のタイミングは、図7に示す場合に比べて遅くなる。距離「ld」が長くなるに従って、期間「tn」、「tn′」は長くなる。すなわち、期間「tn」、「tn′」は、距離「ld」の長さに依存して長くなる。このため、針棒軸モータ制御演算部231は、実施の形態1の場合に比べて長い期間において物理量を監視して、監視結果を示す針棒軸監視信号を出力する。
図14の第2段目には、針棒モータ35の回転角度に対応するかま42aの回転角度を示している。かま42aの駆動波形は、図7の第2段目に示す駆動波形と同じである。かま42aの剣先42bは、針棒モータ35の回転角度が「d」から「i」となるまでの期間「ts」の間に上糸Tを捕捉する。距離「ld」が長くなっても期間「ts」の長さは変わらない。すなわち、期間「ts」の長さは、距離「ld」の長さに依存しない。このため、かま軸モータ制御演算部233は、実施の形態1の場合と同じ長さの期間において物理量を監視して、監視結果を示すかま軸監視信号を出力する。
図14の第3段目には、天秤モータ36の回転角度に対応する天秤33aの駆動波形であって、Z軸方向において小穴33bが辿る軌跡を示している。天秤33aの駆動波形は、図7の第3段目に示す駆動波形と同じである。天秤33aの小穴33bは、針棒モータ35の回転角度が「i」から「h′」となるまでの期間「tb」と、針棒モータ35の回転角度が「i′」から「h′′」となるまでの期間「tb」との各々において、被縫製物Ob1から引き離される。距離「ld」が長くなっても期間「tb」の長さは変わらない。すなわち、期間「tb」の長さは、距離「ld」の長さに依存しない。このため、天秤軸モータ制御演算部232は、実施の形態1の場合と同じ長さの期間において物理量を監視して、監視結果を示す天秤軸監視信号を出力する。
図14の第4段目には、針棒モータ35の回転角度に対応する中押さえ34aの駆動波形であって、中押さえ34aの底面部が辿る軌跡を示している。中押さえ34aの駆動波形の概形は、図7の第4段目に示す駆動波形と同じである。PF軸モータ制御演算部234は、針棒モータ35の回転角度が「i」から「h′」となるまでの期間「tp」と、針棒モータ35の回転角度が「i′」から「h′′」となるまでの期間「tp」とにおいて物理量を監視して、監視結果を示すPF軸監視信号を出力する。距離「ld」が長くなっても期間「tp」の長さは変わらない。期間「tp」の長さは、距離「ld」の長さに依存しない。このため、PF軸モータ制御演算部234は、実施の形態1の場合と同じ長さの期間において物理量を監視して、監視結果を示すPF軸監視信号を出力する。
図13の第5段目は、X軸方向におけるXYステージ11の駆動波形であって、X軸方向において送り板12が辿る軌跡を示している。実施の形態3では、薄い被縫製物Ob1の縫製動作を行うため、XYステージ11は、実施の形態1の場合と同様に、X軸方向へ一定速で駆動する。
実施の形態3において、X軸モータ制御演算部235は、期間「tx1」と期間「tx2」において物理量を監視して、監視結果を示すX軸監視信号を出力する。期間「tx1」は、期間「tn」と同じである。期間「tx2」は、期間「tb」と同じである。図14に示すように、実施の形態3では、期間「tx1」と期間「tx2」とは、針棒モータ35の回転角度が「i」から「e」となるまでの間と、針棒モータ35の回転角度が「i′」から「e′」となるまでの間との各々において重複する。
また、実施の形態3において、データ処理装置215の特徴量抽出部215aは、実施の形態2の場合と同様に、期間「tx1」におけるX軸監視信号と、期間「tx2」におけるX軸監視信号との各々について特徴量を計算する。つまり、特徴量抽出部215aは、期間「tx1」において出力されたX軸監視信号と期間「tx2」において出力されたX軸監視信号とに対して、例えば、平均、加重平均、分散、実効値、最大値、最小値、中央値、標準偏差、尖度、歪度、波形率、波高率、周波数スペクトル、ウェーブレット変換値、ヒルベルト変換値およびフィルタ演算のいずれか1つまたは複数を算出する演算処理によって、特徴量を計算する。
さらに、データ表示装置22の異常通知部221は、期間「tn」において出力された針棒軸監視信号に基づいて算出された特徴量の変化と、期間「tx1」において出力されたX軸監視信号に基づいて算出された特徴量の変化とを比較する。異常通知部221は、かかる比較によって、針棒32cの異常と、X軸方向の駆動におけるXYステージ11の異常とを区別して表示する。また、異常通知部221は、期間「tb」において出力された天秤軸監視信号に基づいて算出された特徴量の変化と、期間「tx2」において出力されたX軸監視信号に基づいて算出された特徴量の変化とを比較する。異常通知部221は、かかる比較によって、天秤33aの異常と、X軸方向の駆動におけるXYステージ11の異常とを区別して表示する。
図14の第6段目は、Y軸方向におけるXYステージ11の駆動波形であって、Y軸方向において送り板12が辿る軌跡を示している。実施の形態3においても、送り板12は、実施の形態1の場合と同様に、縫製作業中にY軸方向には移動しないものとする。ただし、Y軸指令信号は固定値であって、Y軸モータ制御演算部236は、Y軸指令信号とY軸回転信号の差分がゼロになるようにY軸モータ53へY軸制御電流を供給する。Y軸モータ制御演算部236は、期間「ty1」と期間「ty2」とにおいて物理量を監視して、監視結果を示すY軸監視信号を出力する。期間「ty1」は、期間「tx1」および期間「tn」の各々と同じである。期間「ty2」は、期間「tx2」、期間「tb」および期間「tp」の各々と同じである。
データ処理装置215の特徴量抽出部215aは、Y軸監視信号に対し、X軸監視信号に対して行う処理と同様の処理を行う。データ表示装置22の異常通知部221は、Y軸監視信号に対し、X軸監視信号の場合と同様に、針棒32cの異常と、Y軸方向の駆動におけるXYステージ11の異常とを区別して表示する。異常通知部221は、Y軸監視信号に対し、X軸監視信号の場合と同様に、天秤33aの異常と、Y軸方向の駆動におけるXYステージ11の異常とを区別して表示する。
なお、距離「ld」は、例えば、糸切り機構41および糸切りモータ43の配置または形状に依存する。実施の形態3は、糸切り機構41または糸切りモータ43のレイアウトの都合によって、距離「ld」を長くする必要がある場合を含む。
以上により、実施の形態3にかかるミシン100は、縫い針32aとかま42aとの出会いのタイミングにおける、針孔32bと送り板12とのZ軸方向における距離が、実施の形態1の場合よりも長い。このため、実施の形態3では、針棒32cが受ける物理量が監視される期間「tn」と、天秤33aが受ける物理量が監視される期間「tb」とが、針棒モータ35の回転角度が「i」から「e」となるまでの間において重複する。実施の形態1の比較例にかかる縫製機構を備えるミシン、または、別途検出センサが追加されて縫製管理を行う従来のミシンでは、針棒モータ35の回転角度が「i」から「e」となるまでの間に異常が発生しても、異常の要因を区別することはできない。すなわち、異常の要因が、針棒32cと天秤33aとのいずれであるのかが区別できない。実施の形態3によると、ミシン100は、回転角度が「i」から「e」となるまでの間に発生した異常が、針棒32cの異常と天秤33aの異常とのいずれであるのかを区別して検知することができる。これにより、ミシン100は、実施の形態1の場合よりも距離「ld」を長くして縫製作業を行う場合においても、メンテナンス性を向上することができる。
また、実施の形態3において、特徴量抽出部215aは、実施の形態2の場合と同様に、期間「tx1」において出力されたX軸監視信号と期間「tx2」において出力されたX軸監視信号との各々から特徴量を計算する。これにより、ミシン100は、天秤33aの異常と、XYステージ11のX軸方向における駆動の異常とを区別して検知することができるため、異常の要因を高い精度で区別して検知することができる。
異常通知部221は、実施の形態2の場合と同様に、針棒32cと、天秤33aと、かま42aと、中押さえ34aと、XYステージ11のX軸方向における駆動と、XYステージ11のY軸方向における駆動との各々の異常を独立に監視し、これらのうち1つまたは複数の異常を区別して表示しても良い。これにより、データ表示装置22は、これらのうち1つまたは複数の異常を区別して使用者へ通知することができる。
実施の形態4.
図15から図17に基づき、実施の形態4にかかるミシン100の構成と動作とについて説明する。図15は、実施の形態4にかかるミシンが有する針棒軸監視部の構成を示すブロック図である。
実施の形態4にかかるミシン100は、針棒軸モータ制御演算部231が有する針棒軸監視部231cの構成および動作と、天秤軸モータ制御演算部232が有する天秤軸監視部232cの構成および動作とが、実施の形態1から3の場合とは異なる。針棒軸監視部231cおよび天秤軸監視部232c以外の構成要素における構成および動作は、実施の形態1から3のいずれか1つの場合と同様である。実施の形態4では、実施の形態1から3とは異なる構成および動作について主に説明する。
針棒軸監視部231cは、針棒32cの異常を監視する。針棒軸監視部231cは、針棒32cの監視によって正常時において検出されたデータと異常時において検出されたデータとを学習して学習済モデルを生成する学習器と、学習済モデルに基づいて、縫い針32aまたは針棒32cが異常であるか否かを検出されたデータから推論する推論器とを有する。針棒軸監視部231cには、針棒軸回転信号に基づいて検出された1種類または複数種類の信号が入力される。
図15に示すように、針棒軸監視部231cは、データ取得部231kと、モデル生成部231lと、学習済モデル記憶部231mと、推論部231nとを有する。
天秤軸監視部232cは、天秤33aの異常を監視する。天秤軸監視部232cは、天秤33aの監視によって正常時において検出されたデータと異常時において検出されたデータとを学習して学習済モデルを生成する学習器と、学習済モデルに基づいて、天秤33aが異常であるか否かを検出されたデータから推論する推論器とを有する。天秤軸監視部232cには、天秤軸回転信号に基づいて検出された1種類または複数種類の信号が入力される。
天秤軸監視部232cは、図15に示す針棒軸監視部231cと同様の構成を有する。すなわち、天秤軸監視部232cは、針棒軸監視部231cに備えられるデータ取得部231k、モデル生成部231l、学習済モデル記憶部231mおよび推論部231nと同様の、データ取得部、モデル生成部、学習済モデル記憶部および推論部を有する。ここでは、天秤軸監視部232cの構成については図示を省略する。また、針棒軸監視部231cによる針棒32cの監視方法と、天秤軸監視部232cによる天秤33aの監視方法とは同じである。以下、断りがない限り、針棒軸監視部231cの構成および動作について説明する。
実施の形態4にかかるミシン100では、針棒軸監視部231cによる針棒32cの監視方法を、針棒32cおよび天秤33aのみならず、かま42aと、中押さえ34aと、XYステージ11と各々における異常を監視するために用いてもよい。XYステージ11については、X軸方向の駆動における異常の監視と、Y軸方向の駆動における異常の監視との各々を監視するために、当該監視方法を用いても良い。これにより、ミシン100は、全ての駆動軸の各々における異常の監視精度を向上させることができ、異常の検知と区別とを高精度に行うことができる。
図15に示す針棒軸監視部231cにおいて、データ取得部231kと、モデル生成部231lと、学習済モデル記憶部231mとは、ミシン100の学習装置である学習器を構成する。また、図15に示す針棒軸監視部231cにおいて、データ取得部231kと、推論部231nとは、ミシン100の推論装置である推論器を構成する。
[学習器の構成]
次に、学習器の構成について説明する。データ取得部231kには、針棒軸回転信号に基づいて計算された1種類または複数種類の信号が入力される。データ取得部231kに入力される信号は、例えば、針棒軸偏差信号および針棒軸モータ駆動信号などである。データ取得部231kは、かかる1種類または複数種類の信号を含む学習用データを、図8に示す針棒軸偏差抑制部231aから取得する。データ取得部231kには、針棒軸偏差信号または針棒軸モータ駆動信号以外の信号が入力されても良い。データ取得部231kに入力される信号のうち、少なくとも1種類の信号が、針棒軸回転信号に基づいて計算された信号であれば良い。針棒軸偏差信号と針棒軸モータ駆動信号との各々は、針棒軸回転信号に基づいて計算された信号である。データ取得部231kは、取得された学習用データを、針棒軸監視信号として出力する。
例えば、データ取得部231kには、学習用データとして、針棒軸偏差信号と、針棒軸モータ駆動信号と、天秤軸偏差信号と、天秤軸モータ駆動信号との各種信号が入力されても良い。このように、データ取得部231kへ入力される信号の種類が増えるほど、針棒32cの異常と天秤33aの異常とを区別する精度が向上する場合がある。また、データ取得部231kには、針棒軸回転信号が直接入力されても良い。
データ取得部231kへ入力される信号の各々は、例えば、位置、速度、加速度、ジャーク、スナップ、力、トルク、摩擦のいずれか1つまたは複数を表す信号であって、1または2以上の次元の物理量を表す信号である。針棒軸モータ制御演算部231は、縫い針32aまたは針棒32cに加わる力であって、針棒モータ35の回転軸からみた外力を推定して、推定結果である信号をデータ取得部231kへ入力しても良い。針棒軸モータ制御演算部231は、少なくとも、縫い針32aが被縫製物に挿針される期間である第1の期間において上述する各種信号を検出して、検出された各種信号をデータ取得部231kへ入力する。
データ取得部231kは、データ取得部231kへ時系列で入力される信号、例えば、位置、速度、加速度、ジャーク、スナップまたは力を表す信号の処理によって、学習用データを取得しても良い。データ取得部231kは、平均、加重平均、分散、実効値、最大値、最小値、中央値、標準偏差、尖度、歪度、波形率、波高率、周波数スペクトル、ウェーブレット変換値、ヒルベルト変換値およびフィルタ演算のいずれか1つまたは複数を求める処理を行うことによって、学習用データを取得しても良い。このような処理を施すことによって、異常の検知精度が向上する場合がある。
天秤軸監視部232cのデータ取得部には、天秤軸回転信号に基づいて計算された1種類または複数種類の信号が入力される。天秤軸監視部232cのデータ取得部に入力される信号は、例えば、天秤軸偏差信号および天秤軸モータ駆動信号などである。天秤軸監視部232cのデータ取得部は、かかる1種類または複数種類の信号を含む学習用データを、図8に示す天秤軸偏差抑制部232aから取得する。天秤軸監視部232cのデータ取得部には、天秤軸偏差信号または天秤軸モータ駆動信号以外の信号が入力されても良い。天秤軸監視部232cのデータ取得部に入力される信号のうち、少なくとも1種類の信号が、天秤軸回転信号に基づいて計算された信号であれば良い。天秤軸偏差信号と天秤軸モータ駆動信号との各々は、天秤軸回転信号に基づいて計算された信号である。天秤軸監視部232cのデータ取得部は、取得された学習用データを、天秤軸監視信号として出力する。
例えば、天秤軸監視部232cのデータ取得部には、学習用データとして、天秤軸偏差信号と、天秤軸モータ駆動信号と、針棒軸偏差信号と、針棒軸モータ駆動信号との各種信号が入力されても良い。このように、天秤軸監視部232cのデータ取得部へ入力される信号の種類が増えるほど、針棒32cの異常と天秤33aの異常とを区別する精度が向上する場合がある。また、天秤軸監視部232cのデータ取得部には、天秤軸回転信号が直接入力されても良い。天秤軸モータ制御演算部232は、少なくとも、天秤33aの動作による縫い目の引き締めが行われる期間である第2の期間において上述する各種信号を検出して、検出された各種信号を天秤軸監視部232cのデータ取得部へ入力する。天秤軸監視部232cのデータ取得部は、針棒軸監視部231cのデータ取得部231kの場合と同様に、データ取得部へ時系列で入力される信号の処理によって、学習用データを取得しても良い。
針棒軸監視部231cのモデル生成部231lは、データ取得部231kから出力される1種類または複数種類の信号を含む学習用データに基づいて、正常時における針棒32cの動作状態を学習する。学習用データは、針棒軸回転信号に基づいて計算された信号である針棒軸偏差信号および針棒軸モータ駆動信号等を互いに関連付けたデータである。すなわち、モデル生成部231lは、針棒32cを駆動する針棒軸偏差信号または針棒軸モータ駆動信号等から正常な針棒32cの動作状態を推論するための学習済モデルを生成する。
また、モデル生成部231lは、データ取得部231kから出力される1種類または複数種類の信号を含む学習用データに基づいて、異常時における針棒32cの動作状態を学習しても良い。この場合、モデル生成部231lは、異常時における針棒32cの動作状態として、縫い針32aの折損または屈曲、縫い針32aの異物への衝突、縫い針32aにおける過度な摩擦の発生といった異常における動作状態を学習する。
モデル生成部231lは、正常時における針棒32cの動作状態を推論するための学習済モデルと、異常時における針棒32cの動作状態を推論するための学習済モデルとのうちの少なくとも一方を生成する。モデル生成部231lにおいて、正常時の動作状態を推論するための学習済モデルに加えて、異常時の動作状態を推論するための学習済モデルを生成することで、現在の動作状態の分類、または異常要因の特定が容易になる場合がある。
モデル生成部231lが用いる学習アルゴリズムには、教師あり学習、教師なし学習、強化学習等の公知のアルゴリズムを用いることができる。例えば、K平均(K-means)法、決定木、サポートベクターマシーン、カーネル近似、ディープラーニング等を用いることができる。ここでは、一例として、教師なし学習であるK平均法を適用した場合について説明する。教師なし学習は、一般にラベルと称される結果を含まない学習用データを学習装置に与えることで、それらの学習用データにある特徴を学習する手法のことである。
モデル生成部231lは、例えば、K平均法によるグループ分け手法に従って、正常時における針棒32cの動作状態、または異常時における針棒32cの動作状態を学習する。K平均法は、非階層型クラスタリングのアルゴリズムであり、クラスタの平均を用い、与えられたクラスタ数をk個に分類する手法である。
具体的には、K平均法では、以下のような流れでデータを処理する。まず、各データxiに対してランダムにクラスタを割り振る。次いで、割り振ったデータを基に、各クラスタの中心Vjを計算する。次いで、各xiと各Vjとの距離を求め、xiを最も近い中心のクラスタに割り当て直す。そして、上記の処理で全てのxiのクラスタの割り当てが変化しなかった場合、あるいは変化量が事前に設定した一定の閾値を下回った場合に、クラスタの割り当てが収束したと判断して処理を終了する。
実施の形態4においては、学習器は、データ取得部231kによって取得される針棒軸偏差信号および針棒軸モータ駆動信号等の組合せに基づいて作成される学習用データに従って、いわゆる教師なし学習により、正常時における針棒32cの動作状態、または異常時における針棒32cの動作状態を学習する。モデル生成部231lは、以上のような学習を実行することによって、学習済モデルを生成する。モデル生成部231lは、生成された学習済モデルを学習済モデル記憶部231mへ出力する。学習済モデル記憶部231mは、モデル生成部231lから出力された学習済モデルを記憶する。
[推論器の構成]
次に、推論器の構成について説明する。データ取得部231kには、推論処理を行う場合にも、学習処理の場合と同様に、針棒軸回転信号に基づいて計算された1種類または複数種類の信号が入力される。データ取得部231kに入力される信号は、例えば、針棒軸偏差信号および針棒軸モータ駆動信号などである。データ取得部231kは、かかる1種類または複数種類の信号を含むデータである推論処理のためのデータを、図8に示す針棒軸偏差抑制部231aから取得する。データ取得部231kには、針棒軸偏差信号または針棒軸モータ駆動信号以外の信号が入力されても良い。データ取得部231kに入力される信号のうち、少なくとも1種類の信号が、針棒軸回転信号に基づいて計算された信号であれば良い。針棒軸偏差信号と針棒軸モータ駆動信号との各々は、針棒軸回転信号に基づいて計算された信号である。データ取得部231kは、取得されたデータを、針棒軸監視信号として出力する。
天秤軸監視部232cのデータ取得部には、推論処理を行う場合にも、学習処理の場合と同様に、天秤軸回転信号に基づいて計算された1種類または複数種類の信号が入力される。天秤軸監視部232cのデータ取得部に入力される信号は、例えば、天秤軸偏差信号および天秤軸モータ駆動信号などである。天秤軸監視部232cのデータ取得部は、かかる1種類または複数種類の信号を含むデータである推論処理のためのデータを、図8に示す天秤軸偏差抑制部232aから取得する。天秤軸監視部232cのデータ取得部には、天秤軸偏差信号または天秤軸モータ駆動信号以外の信号が入力されても良い。天秤軸監視部232cのデータ取得部に入力される信号のうち、少なくとも1種類の信号が、天秤軸回転信号に基づいて計算された信号であれば良い。天秤軸偏差信号と天秤軸モータ駆動信号との各々は、天秤軸回転信号に基づいて計算された信号である。天秤軸監視部232cのデータ取得部は、取得された学習用データを、天秤軸監視信号として出力する。
針棒軸監視部231cの推論部231nは、学習済モデル記憶部231mに記憶された学習済モデルを利用して、針棒32cの動作状態を推論する。すなわち、この学習済モデルにデータ取得部231kで取得された針棒軸偏差信号および針棒軸モータ駆動信号を入力することで、針棒軸偏差信号と針棒軸モータ駆動信号とがいずれのクラスタに属するかを推論し、推論結果を針棒軸監視信号として出力する。
例えば、推論部231nは、学習済モデルに入力された針棒軸偏差信号と針棒軸モータ駆動信号とが、正常時を示すクラスタに属しているか、それとも異常時を示すクラスタに属しているかを判定する。そして、針棒軸偏差信号と針棒軸モータ駆動信号とが正常時を示すクラスタに属している場合、推論部231nは、縫い針32aの折損または屈曲、縫い針32aの異物への衝突、縫い針32aにおける過度な摩擦の発生といった異常が発生していないと推論する。一方、針棒軸偏差信号と針棒軸モータ駆動信号とが異常時を示すクラスタに属している場合、推論部231nは、上述のような異常が発生していると推論する。
ただし、学習済モデルは、正常時の針棒軸偏差信号と針棒軸モータ駆動信号からなる複数のクラスタ群のうちのいずれかに分類するためのモデルとして構成されても良い。この場合は、学習済モデルに入力された針棒軸偏差信号と針棒軸モータ駆動信号が正常時を示すクラスタに属する場合、推論部231nは、上述のような異常が発生していないと推論する。また、学習済モデルに入力された針棒軸偏差信号と針棒軸モータ駆動信号が正常時を示すクラスタに属していない場合、推論部231nは、上述のような異常が発生したと推論する。
なお、実施の形態4では、針棒軸監視部231cのモデル生成部231lで生成された学習済モデルを用いて、推論部231nが針棒32cの動作状態を推論するものと説明したが、針棒軸監視部231cは、針棒軸監視部231cの外部の学習装置によって生成された学習済モデルを取得しても良い。針棒軸監視部231cは、外部から取得された学習済モデルに基づいて針棒32cの動作状態を推論しても良い。
このようにして、推論部231nは、針棒軸偏差信号と針棒軸モータ駆動信号に基づいて得られた針棒軸監視信号を、針棒軸偏差抑制部231aの異常検知部231gと、操作盤21の表示器211とへ出力する。
次に、図16と図17とを参照して、学習器による学習処理と推論器による推論処理とについて説明する。針棒軸監視部231cは、学習処理と推論処理を行うことで、現在の針棒32cの駆動状態が正常と異常のどちらであるかを縫製作業時に監視する。学習処理については、縫製動作の前に試運転を行って学習済モデルをあらかじめ用意しても良いし、縫製動作中にモデルを更新しても良い。
[学習器による学習処理]
まず、図16を参照して、学習器による学習処理について説明する。図16は、実施の形態4にかかるミシンの学習装置による学習処理の手順を示すフローチャートである。
ステップS1において、データ取得部231kは、学習用データを取得する。学習用データは、針棒軸回転信号に基づいて計算された1種類または複数種類の信号であって、例えば、針棒軸偏差信号および針棒軸モータ駆動信号等である。実施の形態4では、データ取得部231kは、針棒軸偏差信号および針棒軸モータ駆動信号等を同時に取得する。ただし、針棒軸偏差信号および針棒軸モータ駆動信号等は、互いに関連付けられてデータ取得部231kで取得されれば良い。データ取得部231kには、針棒軸偏差信号および針棒軸モータ駆動信号等の各々がそれぞれ別のタイミングで入力されても良い。
ステップS2において、モデル生成部231lは、学習用データに基づいて学習処理を行う。すなわち、モデル生成部231lは、データ取得部231kによって取得された針棒軸偏差信号および針棒軸モータ駆動信号等の組合せに基づいて作成される学習用データに従って、いわゆる教師なし学習により、正常時の針棒32cの動作状態、または異常時の針棒32cの動作状態を学習し、学習済モデルを生成する。
ステップS3において、学習済モデル記憶部231mは、モデル生成部231lによって生成された学習済モデルを記憶する。以上により、学習器は、図16に示す手順による学習処理を終了する。
[推論器による推論処理および針棒32cの駆動状態を監視する工程]
次に、図17を参照して、推論器による推論処理と、針棒32cの駆動状態を監視する工程について説明する。図17は、実施の形態4にかかるミシンの推論装置による推論処理の手順と、針棒の駆動状態を監視する工程とを示すフローチャートである。針棒軸監視部231cは、推論処理によって、針棒32cの駆動状態を監視する。
ステップS11において、データ取得部231kは、推論処理のためのデータを取得する。データは、学習用データと同様に、針棒軸回転信号に基づいて計算された1種類または複数種類の信号であって、例えば、針棒軸偏差信号および針棒軸モータ駆動信号等である。実施の形態4では、データ取得部231kは、針棒軸偏差信号および針棒軸モータ駆動信号等を同時に取得する。ただし、針棒軸偏差信号および針棒軸モータ駆動信号等は、互いに関連付けられてデータ取得部231kで取得されれば良い。データ取得部231kには、針棒軸偏差信号および針棒軸モータ駆動信号等の各々がそれぞれ別のタイミングで入力されても良い。
ステップS12において、推論部231nは、学習済モデル記憶部231mに記憶された学習済モデルに取得されたデータを入力し、針棒32cの動作状態を示す針棒軸監視信号を計算する。
ステップS13において、推論部231nは、学習済モデルへのデータ入力によって得られたデータである針棒軸監視信号を、針棒軸偏差抑制部231aの異常検知部231gと、操作盤21の表示器211とへ出力する。
ステップS14において、異常検知部231gおよび表示器211は、針棒軸監視信号に基づいて、異常の有無を判定する。異常検知部231gおよび表示器211は、縫い針32aまたは針棒32cの動作が正常であるか異常であるかを表示する。または、異常検知部231gおよび表示器211は、縫い針32aまたは針棒32cの動作が異常である場合に、異常が発生したことを表示によって使用者へ通知する。
実施の形態4にかかるミシン100において、針棒軸モータ制御演算部231の学習器は、縫い針32aの動作不良に起因して発生する異常を、針棒モータ35の動作を示す針棒軸回転信号に基づいて学習する。また、針棒軸モータ制御演算部231の学習器は、天秤33aの動作不良に起因して発生する異常を、天秤モータ36の動作を示す天秤軸回転信号に基づいて学習する。これにより、ミシン100は、少なくとも1種類以上のデータから正常または異常を精度良く学習することによって、高精度な学習済モデルを生成することができる。
針棒軸モータ制御演算部231の推論器は、縫い針32aの動作不良に起因して発生する異常を現在のデータと高精度な学習済モデルとに基づいて推論する。針棒軸モータ制御演算部231の推論器は、天秤の動作不良に起因して発生する異常を現在のデータと精度の良い学習済モデルに基づき推論する。これにより、ミシン100は、異常の検知精度を向上することができる。ミシン100は、縫い針32aの異常と天秤33aの異常とを区別して検知することができるため、メンテナンス性の向上が可能となる。
なお、実施の形態4では、モデル生成部231lおよび推論部231nが用いる学習アルゴリズムに教師なし学習を適用した場合について説明したが、これに限られるものではない。学習アルゴリズムには、教師なし学習以外にも、強化学習、教師あり学習、又は半教師あり学習等を適用することができる。
学習器に用いられる学習アルゴリズムとしては、特徴量そのものの抽出を学習する、深層学習(Deep Learning)を用いることもでき、他の公知の方法を用いてもよい。また、実施の形態4における教師なし学習を実現する場合は、上記のようなK平均法による非階層型クラスタリングに限らず、クラスタリング可能な他の公知の方法を用いても良い。例えば、最短距離法等の階層型クラスタリングであっても良い。
実施の形態4において、学習器および推論器は、ミシン100の制御盤23に内蔵されているものとして記載したが、学習器および推論器は、操作盤21、データ表示装置22、あるいはミシン100の外部の機器または装置で実現されても良い。学習器および推論器は、例えば、無線LANまたは産業用ネットワーク等を介してミシン100に接続された別個の学習装置および推論装置で実現されても良い。また、学習器および推論器は、GPU(Graphics Processing Unit)での演算によって実現されても良く、クラウドサーバ上に存在していても良い。また、学習済モデル記憶部231mは、データベースとして用意されたクラウドPC、エッジPC、サーバPC等に設けられても良い。
モデル生成部231lは、複数のミシン100で作成される学習用データに従って、縫い針32aまたは天秤33aの動作状態を学習しても良い。また、モデル生成部231lは、同一の縫製範囲で使用される複数のミシン100から学習用データを取得しても良く、異なる縫製範囲で独立して動作する複数のミシン100から収集される学習用データを利用して、縫い針32aまたは天秤33aの動作状態を学習しても良い。また、学習用データを収集するミシン100を途中で対象に追加したり、対象から除去したりすることも可能である。さらに、あるミシン100に関して縫い針32aまたは天秤33aの動作状態を学習した学習装置を、これとは別のミシン100に適用し、当該別のミシン100に関して縫い針32aまたは天秤33aの動作状態を再学習して更新するようにしても良い。
天秤軸モータ制御演算部232に学習器および推論器を設けて天秤33aの異常を監視する場合は、少なくとも天秤33aの小穴33bが被縫製物から引き離されることで縫い目の引き締めを行う期間において上述した種類の信号が検出されて、検出された信号が天秤軸モータ制御演算部232のデータ取得部へ入力される。
かま軸モータ制御演算部233に学習器および推論器を設けてかま42aの異常を監視する場合は、少なくとも縫い針32aが上昇することで形成される上糸Tのループをかま42aの剣先42bが捕捉する期間において上述した種類の信号が検出されて、検出された信号がかま軸モータ制御演算部233のデータ取得部へ入力される。
PF軸モータ制御演算部234に学習器および推論器を設けて中押さえ34aの異常を監視する場合は、少なくとも天秤33aの小穴33bが被縫製物から引き離されることで縫い目の引き締めを行う期間において上述した種類の信号が検出されて、検出された信号がPF軸モータ制御演算部234のデータ取得部へ入力される。
X軸モータ制御演算部235に学習器および推論器を設けてX軸方向におけるXYステージ11の駆動における異常を監視する場合は、少なくとも、縫い針32aが被縫製物に挿針される期間、または天秤33aが縫い目の引き締めを行う期間において上述した種類の信号を検出し、検出された信号がX軸モータ制御演算部235のデータ取得部へ入力される。
Y軸モータ制御演算部236に学習器および推論器を設けてY軸方向におけるXYステージ11の駆動における異常を監視する場合は、少なくとも、縫い針32aが被縫製物に挿針される期間、または天秤33aが縫い目の引き締めを行う期間において上述した種類の信号を検出し、検出された信号がY軸モータ制御演算部236のデータ取得部へ入力される。
このように、ミシン100は、各信号の検出期間を設定してデータ量を少なくすることで、異常の検出精度を高めるとともに、監視部の計算量を削減することができる。
実施の形態5.
図18および図19に基づき、実施の形態5にかかるミシン100の構成と動作とについて説明する。図18は、実施の形態5にかかるミシンのデータ処理装置の構成を示すブロック図である。図19は、実施の形態5にかかるミシンのデータ処理装置が有する異常通知部による表示例を示す図である。
実施の形態5にかかるミシン100は、操作盤21が備えるデータ処理装置215の構成および動作と、データ処理装置215が出力する表示用データおよび蓄積用データとが、実施の形態1から4の場合とは異なる。それ以外の構成要素における構成および動作は、実施の形態1から4のいずれか1つの場合と同様である。実施の形態5では、実施の形態1から4とは異なる構成および動作について主に説明する。
実施の形態5において、データ処理装置215は、少なくとも、針棒32cの異常と、天秤33aの異常と、かま42aの異常と、中押さえ34aの異常と、X軸方向の駆動におけるXYステージ11の異常と、Y軸方向の駆動におけるXYステージ11の異常とのいずれか1つまたは複数を、他の異常とは区別する処理を行う。また、データ処理装置215は、針棒32cと、天秤33aと、かま42aと、中押さえ34aと、XYステージ11のX軸方向の駆動と、XYステージ11のY軸方向の駆動とのうちいずれが異常であるかを学習済モデルとして学習する学習器と、当該学習済モデルと現在の各種監視信号から異常が発生した要素を推論する推論器とを含む。
実施の形態5において、データ処理装置215へ入力される信号は、針棒軸監視信号、天秤軸監視信号、かま軸監視信号、PF軸監視信号、X軸監視信号およびY軸監視信号を含む。これらの信号は、それぞれ、針棒軸回転信号、天秤軸回転信号、かま軸回転信号、PF軸回転信号、X軸回転信号、Y軸回転信号に基づいて計算された信号である。データ処理装置215へ入力される信号は、針棒軸回転信号、天秤軸回転信号、かま軸回転信号、PF軸回転信号、X軸回転信号またはY軸回転信号に基づいて計算された信号であれば良く、針棒軸監視信号、天秤軸監視信号、かま軸監視信号、PF軸監視信号、X軸監視信号およびY軸監視信号以外の信号であっても良い。
図18に示すように、データ処理装置215は、データ取得部215bと、モデル生成部215cと、学習済モデル記憶部215dと、推論部215eとを有する。図18に示すデータ処理装置215において、データ取得部215bと、モデル生成部215cと、学習済モデル記憶部215dとは、ミシン100の学習装置である学習器を構成する。また、図18に示すデータ処理装置215において、データ取得部215bと、推論部215eとは、ミシン100の推論装置である推論器を構成する。
[学習器の構成]
次に、学習器の構成について説明する。データ取得部215bには、針棒軸監視信号、天秤軸監視信号、かま軸監視信号、PF軸監視信号、X軸監視信号およびY軸監視信号等が入力される。データ取得部215bは、図8に示す針棒軸監視部231cから針棒軸監視信号を取得する。データ取得部215bは、図8に示す天秤軸監視部232cから天秤軸監視信号を取得する。データ取得部215bは、図6に示すかま軸モータ制御演算部233からかま軸監視信号を取得する。データ取得部215bは、図6に示すPF軸モータ制御演算部234からPF軸監視信号を取得する。データ取得部215bは、図6に示すX軸モータ制御演算部235からX軸監視信号を取得する。データ取得部215bは、図6に示すY軸モータ制御演算部236からY軸監視信号を取得する。データ取得部215bは、針棒軸監視信号、天秤軸監視信号、かま軸監視信号、PF軸監視信号、X軸監視信号およびY軸監視信号のうち2つ以上の信号を含む学習用データを各監視部から取得する。データ取得部215bは、取得された学習用データを、異常診断信号として出力する。
データ取得部215bへ入力される信号の種類が増えるほど、針棒32cの異常と、天秤33aの異常と、かま42aの異常と、中押さえ34aの異常と、X軸方向の駆動におけるXYステージ11の異常と、Y軸方向の駆動におけるXYステージ11の異常とを区別する精度が向上する場合がある。また、データ取得部215bには、針棒軸回転信号、天秤軸回転信号、かま軸回転信号、PF軸回転信号、X軸回転信号またはY軸回転信号が直接入力されても良い。
データ取得部215bへ入力される信号の各々は、例えば、位置、速度、加速度、ジャーク、スナップ、力、トルク、摩擦のいずれか1つまたは複数によって表される物理量であって、1または複数の次元の物理量を表す信号である。針棒軸モータ制御演算部231は、縫い針32aまたは針棒32cに加わる力であって、針棒モータ35の回転軸からみた外力を推定して、推定結果である信号をデータ取得部215bへ入力しても良い。天秤軸モータ制御演算部232は、天秤33aに加わる力であって、天秤モータ36の回転軸からみた外力を推定して、推定結果である信号をデータ取得部215bへ入力しても良い。かま軸モータ制御演算部233は、かま42aに加わる力であって、かまモータ44の回転軸からみた外力を推定して、推定結果である信号をデータ取得部215bへ入力しても良い。PF軸モータ制御演算部234は、中押さえ34aに加わる力であって、中押さえモータ51の回転軸からみた外力を推定して、推定結果である信号をデータ取得部215bへ入力しても良い。X軸モータ制御演算部235は、送り板12に加わる力であって、X軸モータ52の回転軸からみた外力を推定して、推定結果である信号をデータ取得部215bへ入力しても良い。Y軸モータ制御演算部236は、送り板12に加わる力であって、Y軸モータ53の回転軸からみた外力を推定して、推定結果である信号をデータ取得部215bへ入力しても良い。
データ取得部215bへ時系列で入力される信号、例えば、位置、速度、加速度、ジャーク、スナップまたは力を表す信号に対して、平均、加重平均、分散、実効値、最大値、最小値、中央値、標準偏差、尖度、歪度、波形率、波高率、周波数スペクトル、ウェーブレット変換値、ヒルベルト変換値およびフィルタ演算のいずれか1つまたは複数を求める処理を行うことによって、データ取得部215bは、学習用データを取得してもよい。このような処理を施すことによって、異常を区別する精度が向上する場合がある。
モデル生成部215cは、データ取得部215bから出力される1種類以上の信号を含む学習用データに基づいて、針棒32cと、天秤33aと、かま42aと、中押さえ34aと、XYステージ11のX軸方向の駆動と、XYステージ11のY軸方向の駆動とのいずれに異常が生じたかを学習する。学習用データは、針棒軸監視信号、天秤軸監視信号、かま軸監視信号、PF軸監視信号、X軸監視信号およびY軸監視信号等を互いに関連付けたデータである。すなわち、モデル生成部215cは、データ取得部215bから出力される1種類以上の信号からミシン100のうち異常が生じた要素を推論するための学習済モデルを生成する。
モデル生成部215cが用いる学習アルゴリズムには、教師あり学習、教師なし学習、強化学習等の公知のアルゴリズムを用いることができる。例えば、K平均法、決定木、サポートベクターマシーン、カーネル近似、ディープラーニング等を用いることができる。ここでは、一例として、教師なし学習であるK平均法を適用した場合について説明する。
モデル生成部215cは、例えば、K平均法によるグループ分け手法に従って、針棒32cと、天秤33aと、かま42aと、中押さえ34aと、XYステージ11のX軸方向の駆動と、XYステージ11のY軸方向の駆動とのうちいずれの要素に異常があるのかを学習する。K平均法におけるデータ処理は、実施の形態4の場合と同様であるため、ここでは詳細についての説明を省略する。
実施の形態5においては、学習器は、データ取得部215bによって取得される針棒軸監視信号、天秤軸監視信号、かま軸監視信号、PF軸監視信号、X軸監視信号およびY軸監視信号等の組合せに基づいて作成される学習用データに従って、いわゆる教師なし学習により、針棒32cと、天秤33aと、かま42aと、中押さえ34aと、XYステージ11のX軸方向の駆動と、XYステージ11のY軸方向の駆動とのうちいずれの要素に異常があるのかを学習する。モデル生成部215cは、以上のような学習を実行することによって、学習済モデルを生成する。モデル生成部215cは、生成された学習済モデルを学習済モデル記憶部215dへ出力する。学習済モデル記憶部215dは、モデル生成部215cから出力された学習済モデルを記憶する。
[推論器の構成]
次に、推論器の構成について説明する。データ取得部215bには、推論処理を行う場合にも、学習処理の場合と同様に、針棒軸監視信号、天秤軸監視信号、かま軸監視信号、PF軸監視信号、X軸監視信号およびY軸監視信号等が入力される。データ取得部215bは、針棒軸監視信号、天秤軸監視信号、かま軸監視信号、PF軸監視信号、X軸監視信号およびY軸監視信号のうち2つ以上の信号を含むデータである推論処理用のデータを各監視部から取得する。データ取得部215bは、取得されたデータを、異常診断信号として出力する。データ取得部215bへ入力される信号の種類は、学習処理の場合と同様に、針棒軸監視信号、天秤軸監視信号、かま軸監視信号、PF軸監視信号、X軸監視信号およびY軸監視信号に限定されない。
推論部215eは、学習済モデル記憶部215dに記憶された学習済モデルを利用して、いずれの要素に異常があるのかを推論する。すなわち、この学習済モデルにデータ取得部215bで取得されたデータを入力することで、針棒軸監視信号、天秤軸監視信号、かま軸監視信号、PF軸監視信号、X軸監視信号およびY軸監視信号がいずれのクラスタに属するかを推論する。推論部215eは、推論結果を、表示用データおよび蓄積用データのうちの一方または双方として出力する。
例えば、推論部215eは、学習済モデルに入力された針棒軸監視信号、天秤軸監視信号、かま軸監視信号、PF軸監視信号、X軸監視信号およびY軸監視信号が、針棒32cと、天秤33aと、かま42aと、中押さえ34aと、XYステージ11のX軸方向の駆動と、XYステージ11のY軸方向の駆動とのうち、いずれの要素の異常を示すクラスタに属しているかを判定する。
なお、実施の形態5では、データ処理装置215のモデル生成部215cで生成された学習済モデルを用いて、ミシン100のうち異常を発生した要素を推論部215eが推論するものと説明したが、データ処理装置215は、データ処理装置215の外部の学習装置によって生成された学習済モデルを取得しても良い。データ処理装置215は、外部から取得された学習済モデルに基づいて異常を発生した要素を推論しても良い。
このようにして、推論部215eは、針棒軸監視信号、天秤軸監視信号、かま軸監視信号、PF軸監視信号、X軸監視信号およびY軸監視信号に基づいて得られた表示用データをデータ表示装置22へ出力する。
データ表示装置22は、例えば、図19に例示するように、表示用データを異常度に換算して、異常が発生している可能性が高い要素を区別して表示する。図19において、その他に分類されるミシン100の機構は、例えば、糸調子機構31および糸切り機構41などである。これらの異常を高精度に区別するために、糸調子機構31、または糸切り機構41を駆動するモータの駆動情報がデータ取得部215bへ入力されても良い。
データ処理装置215は、表示用データ、異常診断信号および学習済モデルのうちのいずれか1つまたは複数を、蓄積用データとして、記憶装置213へ出力する。記憶装置213は、蓄積用データを記憶する。
データ処理装置215の学習器による学習処理と、データ処理装置215の推論器による推論処理とは、実施の形態4の場合と同様であるため、ここでは説明を省略する。
実施の形態5にかかるミシン100において、データ処理装置215の学習器は、針棒軸監視信号、天秤軸監視信号、かま軸監視信号、PF軸監視信号、X軸監視信号およびY軸監視信号に基づいて、ミシン100のうち異常が発生した要素を学習する。これにより、ミシン100は、少なくとも1種類以上のデータから、ミシン100のうち異常が発生した要素を精度良く学習することによって、高精度な学習済モデルを生成することができる。
また、データ処理装置215の推論器は、ミシン100のうち異常が発生した要素を、現在のデータと高精度な学習済モデルとに基づいて推論する。これにより、ミシン100は、異常が生じた要素を区別する精度を向上することができる。ミシン100は、異常の区別を高精度に行うことができることによって、メンテナンス性の向上が可能となる。また、使用者は、表示用データまたは蓄積用データを参照することによって、異常の頻度、異常の発生パターン、または異常発生の要因を追跡することができるため、ミシン100のメンテナンス性が向上する。
なお、実施の形態5では、モデル生成部215cおよび推論部215eが用いる学習アルゴリズムに教師なし学習を適用した場合について説明したが、これに限られるものではない。学習アルゴリズムには、教師なし学習以外にも、強化学習、教師あり学習、又は半教師あり学習等を適用することができる。
学習器に用いられる学習アルゴリズムとしては、特徴量そのものの抽出を学習する、深層学習を用いることもでき、他の公知の方法を用いてもよい。また、実施の形態5における教師なし学習を実現する場合は、上記のようなK平均法による非階層型クラスタリングに限らず、クラスタリング可能な他の公知の方法を用いても良い。例えば、最短距離法等の階層型クラスタリングであっても良い。
実施の形態5において、学習器および推論器は、ミシン100の操作盤21に内蔵されているものとして記載したが、学習器および推論器は、データ表示装置22、制御盤23、あるいはミシン100の外部の機器または装置で実現されても良い。学習器および推論器は、例えば、無線LAN(Local Area Network)または産業用ネットワーク等を介してミシン100に接続された別個の学習装置および推論装置で実現されても良い。また、学習器および推論器は、GPUでの演算によって実現されても良く、クラウドサーバ上に存在していても良い。また、学習済モデル記憶部215dは、データベースとして用意したクラウドPC、エッジPC、サーバPC等に設けられても良い。
モデル生成部215cは、複数のミシン100で作成される学習用データに従って、ミシン100のうち異常が発生した要素を学習しても良い。また、モデル生成部215cは、同一の縫製範囲で使用される複数のミシン100から学習用データを取得しても良く、異なる縫製範囲で独立して動作する複数のミシン100から収集される学習用データを利用して、異常が発生した要素を学習しても良い。また、学習用データを収集するミシン100を途中で対象に追加したり、対象から除去したりすることも可能である。さらに、あるミシン100に関して異常が発生した要素を学習した学習装置を、これとは別のミシン100に適用し、当該別のミシン100に関して異常が発生した要素を再学習して更新するようにしても良い。
データ処理装置215は、少なくとも縫い針32aが被縫製物に挿針される期間において針棒軸監視信号を検出し、データ取得部215bへ針棒軸監視信号を入力する処理を行っても良い。データ処理装置215は、少なくとも天秤33aの小穴33bが被縫製物から引き離されることで縫い目の引き締めを行う期間において天秤軸監視信号を検出し、データ取得部215bへ天秤軸監視信号を入力する処理を行っても良い。データ処理装置215は、少なくとも縫い針32aが上昇することで形成される上糸Tのループをかま42aの剣先42bが捕捉する期間においてかま軸監視信号を検出し、データ取得部215bへかま軸監視信号を入力する処理を行っても良い。
データ処理装置215は、少なくとも天秤33aの小穴33bが被縫製物から引き離されることで縫い目の引き締めを行う期間においてPF軸監視信号を検出し、データ取得部215bへPF軸監視信号を入力する処理を行っても良い。データ処理装置215は、少なくとも、縫い針32aが被縫製物に挿針される期間、または天秤33aが縫い目の引き締めを行う期間においてX軸監視信号を検出し、データ取得部215bへX軸監視信号を入力する処理を行っても良い。データ処理装置215は、少なくとも、縫い針32aが被縫製物に挿針される期間、または天秤33aが縫い目の引き締めを行う期間においてY軸監視信号を検出し、データ取得部215bへY軸監視信号を入力する処理を行っても良い。
このように、ミシン100は、各信号の検出期間を設定してデータ量を少なくすることで、異常が発生した要素を区別する精度を高めるとともに、データ処理装置215の計算量を削減することができる。
次に、実施の形態1から5にかかるミシン100の制御盤23が有するハードウェア構成について説明する。制御盤23の機能は、処理回路を使用して実現される。処理回路は、制御盤23に搭載される専用のハードウェア、または、メモリに格納されるプログラムを実行するプロセッサである。
図20は、実施の形態1から5にかかるミシンが有する制御盤のハードウェア構成の例を示す第1の図である。図20には、制御盤23の機能が専用のハードウェアを使用して実現される場合におけるハードウェア構成を示している。制御盤23は、各種処理を実行する処理回路61と、制御盤23の外部の機器との接続インタフェースであるインタフェース回路62と、情報を記憶する記憶装置63とを有する。
専用のハードウェアである処理回路61は、単一回路、複合回路、プログラム化されたプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、又はこれらの組み合わせである。指令生成部230と、針棒軸モータ制御演算部231と、天秤軸モータ制御演算部232と、かま軸モータ制御演算部233と、PF軸モータ制御演算部234と、X軸モータ制御演算部235と、Y軸モータ制御演算部236との各機能は、処理回路61の使用によって実現される。インタフェース回路62は、エアシリンダ13、操作盤21、フットスイッチ24、針棒モータ35、天秤モータ36、かまモータ44、中押さえモータ51、X軸モータ52およびY軸モータ53の各々との通信を行う。記憶装置63は、HDD(Hard Disk Drive)またはSSD(Solid State Drive)である。
図21は、実施の形態1から5にかかるミシンが有する制御盤のハードウェア構成の例を示す第2の図である。図21には、プログラムを実行するハードウェアを用いて制御盤23の機能が実現される場合におけるハードウェア構成を示している。制御盤23は、インタフェース回路62と、記憶装置63と、プロセッサ64と、メモリ65とを有する。
プロセッサ64は、CPU(Central Processing Unit)である。プロセッサ64は、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、又はDSP(Digital Signal Processor)であっても良い。指令生成部230と、針棒軸モータ制御演算部231と、天秤軸モータ制御演算部232と、かま軸モータ制御演算部233と、PF軸モータ制御演算部234と、X軸モータ制御演算部235と、Y軸モータ制御演算部236との各機能は、プロセッサ64とソフトウェアの組み合わせによって実現される。当該各機能は、プロセッサ64とファームウェアの組み合わせ、または、プロセッサ64とソフトウェアとファームウェアの組み合わせによって実現されても良い。ソフトウェアまたはファームウェアは、プログラムとして記述され、内蔵メモリであるメモリ65に格納される。
メモリ65は、不揮発性もしくは揮発性の半導体メモリであって、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)またはEEPROM(登録商標)(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)である。プログラムは、コンピュータシステムによる読み取りが可能とされた記憶媒体に記憶されたものであっても良い。記憶媒体は、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスクまたはDVD(Digital Versatile Disc)である。
また、実施の形態4の学習器または推論器を構成するデータ取得部231k、モデル生成部231lおよび推論部231nの各機能は、プロセッサ64とソフトウェアの組み合わせ、プロセッサ64とファームウェアの組み合わせ、または、プロセッサ64とソフトウェアとファームウェアとの組み合わせによって実現される。学習済モデル記憶部231mの機能は、記憶装置63の使用によって実現される。
次に、実施の形態1から5にかかるミシン100のデータ処理装置215が有するハードウェア構成について説明する。図22は、実施の形態1から5にかかるミシンのデータ処理装置が備えるハードウェア構成の例を示す図である。図22には、プログラムを実行するハードウェアを用いてデータ処理装置215の機能が実現される場合におけるハードウェア構成を示している。データ処理装置215の機能は、専用のハードウェアである処理回路によって実現されても良い。
データ処理装置215は、プロセッサ71と、メモリ72と、インタフェース回路73とを有する。プロセッサ71は、CPUである。プロセッサ71は、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、またはDSPであっても良い。特徴量抽出部215a、データ取得部215b、モデル生成部215cおよび推論部215eの各機能は、プロセッサ71とソフトウェアの組み合わせによって実現される。当該各機能は、プロセッサ71とファームウェアの組み合わせ、または、プロセッサ71とソフトウェアとファームウェアの組み合わせによって実現されても良い。ソフトウェアまたはファームウェアは、プログラムとして記述され、内蔵メモリであるメモリ72に格納される。メモリ72は、不揮発性もしくは揮発性の半導体メモリであって、RAM、ROM、フラッシュメモリ、EPROMまたはEEPROMである。学習済モデル記憶部215dの機能は、メモリ72の使用によって実現される。プログラムは、コンピュータシステムによる読み取りが可能とされた記憶媒体に記憶されたものであっても良い。
インタフェース回路73は、データ処理装置215の外部の機器との接続インタフェースである。インタフェース回路73は、表示器211、記憶装置213およびデータ表示装置22の各々との通信を行う。
次に、実施の形態1から5にかかるミシン100のデータ表示装置22が有するハードウェア構成について説明する。図23は、実施の形態1から5にかかるミシンのデータ表示装置が備えるハードウェア構成の例を示す図である。図23には、プログラムを実行するハードウェアを用いてデータ表示装置22の機能が実現される場合におけるハードウェア構成を示している。データ表示装置22の機能は、専用のハードウェアである処理回路によって実現されても良い。
データ表示装置22は、プロセッサ81と、メモリ82と、インタフェース回路83と、記憶装置84と、ディスプレイ85とを有する。プロセッサ81は、CPUである。プロセッサ81は、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、またはDSPであっても良い。異常通知部221の処理機能と、異常頻度通知部222の処理機能と、保守方法通知部223の処理機能とは、プロセッサ81とソフトウェアの組み合わせによって実現される。当該各処理機能は、プロセッサ81とファームウェアの組み合わせ、または、プロセッサ81とソフトウェアとファームウェアの組み合わせによって実現されても良い。ソフトウェアまたはファームウェアは、プログラムとして記述され、内蔵メモリであるメモリ82に格納される。メモリ82は、不揮発性もしくは揮発性の半導体メモリであって、RAM、ROM、フラッシュメモリ、EPROMまたはEEPROMである。
インタフェース回路83は、データ表示装置22の外部の機器との接続インタフェースである。インタフェース回路83は、操作盤21との通信を行う。記憶装置84は、表示のための各種情報を記憶する。記憶装置84は、HDDまたはSSDである。ディスプレイ85は、画面において各種情報を表示する。ディスプレイ85は、液晶ディスプレイなどの表示装置である。異常通知部221の表示機能と、異常頻度通知部222の表示機能と、保守方法通知部223の表示機能とは、ディスプレイ85の使用によって実現される。
以上の各実施の形態に示した構成は、本開示の内容の一例を示すものである。各実施の形態の構成は、別の公知の技術と組み合わせることが可能である。各実施の形態の構成同士が適宜組み合わせられても良い。本開示の要旨を逸脱しない範囲で、各実施の形態の構成の一部を省略または変更することが可能である。