JP6985926B2 - 析出硬化型マルテンサイト系工具鋼 - Google Patents
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Description
本実施形態に係る析出硬化型マルテンサイト系工具鋼は、Si、Ni、Cr、Mo、Nb、Al及びTiを含む。以下、この工具鋼における各元素の役割が詳説される。
Siは、工具鋼の焼入れ特性を高める。Siはさらに、Niを含む金属間化合物の生成に寄与する。Siの添加により、硬度が大きい工具鋼が得られうる。この観点から、工具鋼におけるSiの含有率は0.0050質量%以上が好ましく、0.010質量%以上がより好ましく、0.015質量%以上が特に好ましい。Siの過剰な添加は、引張強さ及び耐衝撃性を阻害する。引張強さ及び耐衝撃性の観点から、Siの含有率は1.00質量%以下が好ましく、0.90質量%以下がより好ましく、0.85質量%以下が特に好ましい。Siの含有率は、「JIS G 1256」の規定に準拠して測定される。
Niは、δフェライト相の生成を抑制する。Niはさらに、他の元素と共に、金属間化合物を析出させる。具体的な金属間化合物として、Ni−Al、Ni−Ti、Ni−Mo及びNi−Nbが例示される。これらの金属間化合物の時効析出により、硬度が高く、引張強さが大きく、耐衝撃性に優れた工具鋼が得られうる。Niはさらに、他の金属間化合物であるNi−Siも析出させる。このNi−Siは、工具鋼の高硬度に寄与しうる。これらの観点から、工具鋼におけるNiの含有率は10.0質量%以上が好ましく、13.0質量%以上がより好ましく、15.0質量%以上が特に好ましい。Niは、オーステナイト形成元素である。Niの過剰の添加は、マルテンサイト変態を阻害し、引張強さ及び耐衝撃性を低下させることがある。引張強さ及び耐衝撃性の観点から、Niの含有率は25.0質量%以下が好ましく、20.0質量%以下がより好ましく、18.0質量%以下が特に好ましい。Niの含有率は、「JIS G 1256」の規定に準拠して測定される。
Crは、Fe中への他の元素の固溶に寄与する。さらにCrは、工具鋼の耐食性にも寄与する。これらの観点から、工具鋼におけるCrの含有率は0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、1.0質量%以上が特に好ましい。Crは、フェライト形成元素である。Crが過剰に添加された工具鋼では、高温に保持されてもオーステナイトが生じにくい。従ってこの工具鋼では、溶体化処理によってもマルテンサイト組織が得られにくい。この工具鋼の強度は、低い。強度の観点から、Crの含有率は5.0質量%以下が好ましく、4.5質量%以下がより好ましく、4.0質量%以下が特に好ましい。Crの含有率は、「JIS G 1256」の規定に準拠して測定される。
Moは、Fe中への他の元素の固溶に寄与する。さらにMoは、Niとの金属間化合物を形成する。この金属間化合物は、工具鋼の高硬度に寄与する。これらの観点から、工具鋼におけるMoの含有率は3.5質量%以上が好ましく4.0質量%以上がより好ましく、4.5質量%以上が特に好ましい。Moが過剰に添加された工具鋼では、δフェライトが生成される。このδフェライトは、工具鋼の機械的特性を阻害する。さらに、Moが過剰に添加された工具鋼では、FeとMoとの金属間化合物が形成される。この金属間化合物は、工具鋼の機械的特性を阻害する。機械的特性の観点から、Moの含有率は7.0質量%以下が好ましく、6.5質量%以下がより好ましく、6.0質量%以下が特に好ましい。Moの含有率は、「JIS G 1256」の規定に準拠して測定される。
Nbは、Fe中への他の元素の固溶に寄与する。さらにNbは、Niとの金属間化合物を形成する。この金属間化合物は、工具鋼の高硬度に寄与する。これらの観点から、工具鋼におけるNbの含有率は0.050質量%以上が好ましく、0.10質量%以上がより好ましく、0.30質量%以上が特に好ましい。Nbが過剰に添加された工具鋼では、金属間化合物の量も過剰である。過剰の金属間化合物は、工具鋼の機械的特性を阻害する。機械的特性の観点から、Nbの含有率は1.00質量%以下が好ましく、0.95質量%以下がより好ましく、0.90質量%以下が特に好ましい。Nbの含有率は、「JIS G 1258」の規定に準拠して測定される。
Alは、Niとの金属間化合物を形成し、Tiとの金属間化合物も形成する。これらの金属間化合物は、工具鋼の高硬度に寄与する。これらの観点から、工具鋼におけるAlの含有率は0.050質量%以上が好ましく、0.10質量%以上がより好ましく、1.00質量%以上が特に好ましい。Alが過剰に添加された工具鋼では、金属間化合物の量も過剰である。過剰の金属間化合物は、工具鋼の機械的特性を阻害する。機械的特性の観点から、Alの含有率は4.0質量%以下が好ましく、3.9質量%以下がより好ましく、3.8質量%以下が特に好ましい。Alの含有率は、「JIS G 1258」の規定に準拠して測定される。
Tiは、Niとの金属間化合物を形成し、Alとの金属間化合物も形成する。これらの金属間化合物は、工具鋼の高硬度に寄与する。これらの観点から、工具鋼におけるTiの含有率は0.1質量%以上が好ましく、1.0質量%以上がより好ましく、1.5質量%以上が特に好ましい。Tiが過剰に添加された工具鋼では、金属間化合物の量も過剰である。過剰の金属間化合物は、工具鋼の機械的特性を阻害する。機械的特性の観点から、Tiの含有率は5.0質量%以下が好ましく、4.0質量%以下がより好ましく、3.5質量%以下が特に好ましい。Tiの含有率は、「JIS G 1258」の規定に準拠して測定される。
この工具鋼の残部は、Fe及び不可避的不純物である。この工具鋼は、Coを実質的に含まない。この工具鋼において、不可避的不純物であるCoの含有は、許容される。具体的には、Coの含有率は、1.0質量%未満である。不可避的不純物であるもの以外のCoを含まないので、この工具鋼は特定化学物質障害予防規制の対象外である。従ってこの工具鋼は、取り扱い性に優れる。合金元素(特にSi、Nb及びCr)の含有率が適正なので、この工具鋼は、Coを含まないにもかかわらず、引張強さ、硬さ及び耐衝撃性に優れている。
この工具鋼からなる成形体は、典型的には、鋳造法によって得られる。例えば、高周波真空溶解炉によって得られた溶湯から、成形体が得られる。高周波真空溶解炉では、溶湯の空気との接触が抑制される。この製造方法により、不純物の少ない成形体が得られる。
本実施形態に係る析出硬化型マルテンサイト系工具鋼は、Si、Ni、Cr、Mo、Nb、Al、Ti及びOを含む。本実施形態に係る工具鋼におけるSi、Ni、Cr、Mo、Nb、Al及びTiの役割は、第一実施形態に係る工具鋼におけるこれらの元素の役割と同じである。本実施形態に係る工具鋼におけるSi、Ni、Cr、Mo、Nb、Al及びTiの含有率の好ましい範囲は、第一実施形態に係る工具鋼における範囲と同じである。
本実施形態に係る析出硬化型マルテンサイト系工具鋼は、Si、Ni、Cr、Mo、Nb、Al、Ti及びNを含む。本実施形態に係る工具鋼におけるSi、Ni、Cr、Mo、Nb、Al及びTiの役割は、第一実施形態に係る工具鋼におけるこれらの元素の役割と同じである。本実施形態に係る工具鋼におけるSi、Ni、Cr、Mo、Nb、Al及びTiの含有率の好ましい範囲は、第一実施形態に係る工具鋼における範囲と同じである。
本実施形態に係る析出硬化型マルテンサイト系工具鋼は、Si、Ni、Cr、Mo、Nb、Al、Ti、O及びNを含む。本実施形態に係る工具鋼におけるSi、Ni、Cr、Mo、Nb、Al及びTiの役割は、第一実施形態に係る工具鋼におけるこれらの元素の役割と同じである。本実施形態に係る工具鋼におけるSi、Ni、Cr、Mo、Nb、Al及びTiの含有率の好ましい範囲は、第一実施形態に係る工具鋼における範囲と同じである。
[実施例1]
高周波真空溶解炉を用いて、真空度が1.0×10−2Pa以下の条件下で、温度が1600℃である溶湯を得た。この溶湯から、鋳造にて鋼塊を得た。1ton鍛造機を用いてこの鋼塊に熱間鍛造を施し、直径が100mmであり長さが200mmである円柱材の成形体を得た。この成形体に、均質化処理を施した。この均質化処理では、成形体が1100℃の温度下に3時間保持された。この成形体に、溶体化処理を施した。この溶体化処理では、成形体が850℃の温度下に1時間保持された。この成形体に、時効処理を施した。この時効処理では、成形体が450℃の温度下に6時間保持された。これらの処理により、実施例1の工具鋼を得た。この工具鋼は、0.017質量%のSi、17.1質量%のNi、1.29質量%のCr、5.0質量%のMo、0.86質量%のNb、3.23質量%のAl、及び2.8質量%のTiを含む。残部は、Fe及び不可避的不純物である。
下記の表1−3に示される通りの組成とした他は実施例1と同様にして、実施例2−45及び比較例1−29の工具鋼を得た。実施例2−45及び比較例1−10の鋼の成分の残部は、Fe及び不可避的不純物である。比較例11−29の鋼には、意図的にCoが添加されている。
「JIS Z 2245」の規定に準拠して、各成形体のロックウェル硬さを測定した。ロックウェル硬さが56HRC以上をSSS、56HRC未満54HRC以上をSS、54HRC未満52HRC以上をS、52HRC未満50HRC以上をA、50HRC未満48HRC以上をB、48HRC未満46HRC以上をC、46HRC未満44HRC以上をD、44HRC未満をFとランク付けした。この結果が、下記の表1−3に示されている。
「JIS Z 2241」の規定に準拠して引張試験を実施し、各成形体の引張強さを測定した。引張強さが2600N/m2以上をSSS、2600N/m2未満2500N/m2以上をSS、2500N/m2未満2400N/m2以上をS、2400N/m2未満2300N/m2以上をA、2300N/m2未満2200N/m2以上をB、2200N/m2未満2100N/m2以上をC、2100N/m2未満2000N/m2以上をD、2000N/m2未満をFとランク付けした。この結果が、下記の表1−3に示されている。
「JIS Z 2242」の規定に準拠して、成形体のシャルピー衝撃値を測定した。シャルピー衝撃値が50J/cm2以上をSSS、50J/cm2未満48J/cm2以上をSS、48J/cm2未満46J/cm2以上をS、46J/cm2未満44J/cm2以上をA、44J/cm2未満42J/cm2以上をB、42J/cm2未満40J/cm2以上をC、40J/cm2未満38J/cm2以上をD、38J/cm2未満をFとランク付けした。この結果が、下記の表1−3に示されている。
ロックウェル硬さ、引張強さ及び衝撃値のランクのうち最も低いランクを、総合評価のランクとした。この結果が、下記の表1−3に示されている。
[実施例46]
高周波真空溶解炉を用いて、真空度が1.0×10−2Pa以下の条件下で、温度が1600℃である溶湯を得た。この溶解炉の圧力を、大気圧に戻した。この溶湯に、アルゴンガスを用いたガスアトマイズを施し、粉末を得た。この粉末を円筒缶に充填し、HIP法で固化させて成形体を得た。この成形体の表面を、ピーリングで除去した。除去後の成形体は、100mmの直径及び200mmの長さを有する。この成形体に、均質化処理を施した。この均質化処理では、成形体が1100℃の温度下に3時間保持された。この成形体に、溶体化処理を施した。この溶体化処理では、成形体が850℃の温度下に1時間保持された。この成形体に、時効処理を施した。この時効処理では、成形体が450℃の温度下に6時間保持された。これらの処理により、実施例46の工具鋼を得た。この工具鋼は、0.007質量%のSi、17.3質量%のNi、2.3質量%のCr、4.8質量%のMo、0.60質量%のNb、1.97質量%のAl、3.5質量%のTi、及び570ppmのOを含む。残部は、Fe及び不可避的不純物である。
下記の表4及び5に示される通りの組成とした他は実施例46と同様にして、実施例47−70及び比較例30−35の工具鋼を得た。表4及び5に示された成分の残部は、Fe及び不可避的不純物である。
実験1と同様の方法で、ロックウェル硬さ、引張強さ及び衝撃値を測定し、ランク付けを行った。この結果が、下記の表4及び5に示されている。
[実施例71]
高周波真空溶解炉を用いて、真空度が1.0×10−2Pa以下の条件下で、温度が1600℃である溶湯を得た。この溶解炉の圧力を、大気圧に戻した。この溶湯に、窒素ガスを用いたガスアトマイズを施し、粉末を得た。この粉末を円筒缶に充填し、HIP法で固化させて成形体を得た。この成形体の表面を、ピーリングで除去した。除去後の成形体は、100mmの直径及び200mmの長さを有する。この成形体に、均質化処理を施した。この均質化処理では、成形体が1100℃の温度下に3時間保持された。この成形体に、溶体化処理を施した。この溶体化処理では、成形体が850℃の温度下に1時間保持された。この成形体に、時効処理を施した。この時効処理では、成形体が450℃の温度下に6時間保持された。これらの処理により、実施例96の工具鋼を得た。この工具鋼は、0.013質量%のSi、16.3質量%のNi、0.46質量%のCr、4.4質量%のMo、0.82質量%のNb、3.70質量%のAl、1.9質量%のTi、760ppmのO、及び680ppmのNを含む。残部は、Fe及び不可避的不純物である。
下記の表6及び7に示される通りの組成とした他は実施例71と同様にして、実施例72−95及び比較例36−39の工具鋼を得た。表6及び7に示された成分の残部は、Fe及び不可避的不純物である。
実験1と同様の方法で、ロックウェル硬さ、引張強さ及び衝撃値を測定し、ランク付けを行った。この結果が、下記の表6及び7に示されている。
[実施例96]
高周波真空溶解炉を用いて、真空度が1.0×10−2Pa以下の条件下で、温度が1600℃である溶湯を得た。この溶解炉の圧力を、大気圧に戻した。この溶湯に、窒素ガスを用いたガスアトマイズを施し、粉末を得た。この粉末に、酸化処理を施した。この酸化処理では、粉末が、温度が300℃である大気雰囲気に保持された。この粉末を円筒缶に充填し、HIP法で固化させて成形体を得た。この成形体の表面を、ピーリングで除去した。除去後の成形体は、100mmの直径及び200mmの長さを有する。この成形体に、均質化処理を施した。この均質化処理では、成形体が1100℃の温度下に3時間保持された。この成形体に、溶体化処理を施した。この溶体化処理では、成形体が850℃の温度下に1時間保持された。この成形体に、時効処理を施した。この時効処理では、成形体が450℃の温度下に6時間保持された。これらの処理により、実施例96の工具鋼を得た。この工具鋼は、0.013質量%のSi、16.3質量%のNi、0.46質量%のCr、4.4質量%のMo、0.82質量%のNb、3.70質量%のAl、1.9質量%のTi、760ppmのO、及び680ppmのNを含む。残部は、Fe及び不可避的不純物である。
下記の表8−10に示される通りの組成とした他は実施例96と同様にして、実施例97−145及び比較例40−59の工具鋼を得た。実施例97−145及び比較例40−49の鋼の成分の残部は、Fe及び不可避的不純物である。比較例50−59の鋼には、意図的にCoが添加されている。
実験1と同様の方法で、ロックウェル硬さ、引張強さ及び衝撃値を測定し、ランク付けを行った。この結果が、下記の表8−10に示されている。
Claims (4)
- 0.0050質量%以上1.00質量%以下のSi、10.0質量%以上25.0質量%以下のNi、0.01質量%以上5.0質量%以下のCr、3.5質量%以上7.0質量%以下のMo、0.050質量%以上1.00質量%以下のNb、0.050質量%以上4.0質量%以下のAl、及び0.1質量%以上5.0質量%以下のTiを含み、残部がFe及び不可避的不純物である析出硬化型マルテンサイト系工具鋼。
- 0.0050質量%以上1.00質量%以下のSi、10.0質量%以上25.0質量%以下のNi、0.01質量%以上5.0質量%以下のCr、3.5質量%以上7.0質量%以下のMo、0.050質量%以上1.00質量%以下のNb、0.050質量%以上4.0質量%以下のAl、0.1質量%以上5.0質量%以下のTi、及び20ppm以上1000ppm以下のOを含み、残部がFe及び不可避的不純物である析出硬化型マルテンサイト系工具鋼。
- 0.0050質量%以上1.00質量%以下のSi、10.0質量%以上25.0質量%以下のNi、0.01質量%以上5.0質量%以下のCr、3.5質量%以上7.0質量%以下のMo、0.050質量%以上1.00質量%以下のNb、0.050質量%以上4.0質量%以下のAl、0.1質量%以上5.0質量%以下のTi、及び20ppm以上1000ppm以下のNを含み、残部がFe及び不可避的不純物である析出硬化型マルテンサイト系工具鋼。
- 0.0050質量%以上1.00質量%以下のSi、10.0質量%以上25.0質量%以下のNi、0.01質量%以上5.0質量%以下のCr、3.5質量%以上7.0質量%以下のMo、0.050質量%以上1.00質量%以下のNb、0.050質量%以上4.0質量%以下のAl、0.1質量%以上5.0質量%以下のTi、20ppm以上1000ppm以下のO、及び20ppm以上1000ppm以下のNを含み、残部がFe及び不可避的不純物である析出硬化型マルテンサイト系工具鋼。
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