以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態による配水制御システムの全体構成例を示す図である。図1に示すように、本実施形態の配水制御システムは、供給側である水源地のポンプ場100と、需要側である灌漑地区における複数の水田を有する圃場200と、ポンプ場100と圃場200の各水田との間を繋ぐパイプライン300とを有して成る水利系統における配水の制御を行うシステムである。
ポンプ場100には、水源地(図示せず)からパイプライン300への給水を行う給水ポンプ(揚水ポンプ)11と、当該給水ポンプ11のポンプ流量を測定する流量計12と、給水ポンプ11のポンプ圧力を測定する圧力計13と、流量計12および圧力計13に接続されたPLC(Programmable Logic Controller)14とが備えられている。PLC14は、インターネット等の通信ネットワーク700を介してサーバ400に接続可能であり、流量計12および圧力計13により測定されたポンプ流量およびポンプ圧力を所定のシーケンスに従ってサーバ400に送信する。
灌漑地区の圃場200は、図1の例では3つの圃場ブロックBL1,BL2,BL3に分けられており、各圃場ブロックBL1,BL2,BL3とパイプライン300との間(各圃場ブロックの入口)には、それぞれ分水バルブ31が設置されている。また、それぞれの分水バルブ31に対応して、分水バルブ31のバルブ流量を測定する流量計32と、分水バルブ31のバルブ圧力を測定する圧力計33とが設置されている。
それぞれの流量計32および圧力計33には、無線通信装置34が接続されている。無線通信装置34は、流量計32および圧力計33により測定された分水バルブ31のバルブ流量およびバルブ圧力をPLC25に送信する。この送信に際して、無線通信装置34は、どの分水バルブ31について測定されたバルブ流量およびバルブ圧力であるかを識別可能とするために、分水バルブ31に対して付与された固有のバルブIDを送信する。
なお、ここでは圃場200の灌漑地区を3つの圃場ブロックBL1,BL2,BL3に分ける例を示したが、ブロックの数はこれに限定されない。また、圃場200の規模によっては、複数の圃場ブロックに分けない場合もある(圃場ブロックが1つの場合に相当)。この場合、圃場ブロックの入口に分水バルブ31を設けることは不要であり、分水バルブ31に対応して流量計32、圧力計33および無線通信装置34を設置することも不要である。
1つの圃場ブロックは、農道や簡易畦畔などによって複数の水田(耕作区)に区画されている。区画された各水田には、給水バルブ21と、当該給水バルブ21のバルブ流量を測定する流量計22と、給水バルブ21のバルブ圧力を測定する圧力計23と、無線通信装置24とが設置されている。無線通信装置24は、流量計22および圧力計23により測定された給水バルブ21のバルブ流量およびバルブ圧力をPLC25に送信する。この送信に際して、無線通信装置24は、どの給水バルブ21について測定されたバルブ流量およびバルブ圧力であるかを識別可能とするために、給水バルブ21に対して付与された固有のバルブIDを送信する。
なお、図1では、1つの水田に設けられた給水バルブ21、流量計22、圧力計23および無線通信装置24にのみ符号を付しているが、他の水田も同様の構成を有している(図面を見やすくするために、符号の図示は省略している)。
PLC25は、インターネット等の通信ネットワーク700を介してサーバ400に接続可能であり、各水田の給水バルブ21に対応して設置された流量計22および圧力計23により測定された給水バルブ21のバルブ流量およびバルブ圧力と、分水バルブ31に対応して設置された流量計32および圧力計33により測定された分水バルブ31のバルブ流量およびバルブ圧力とを、所定のシーケンスに従ってサーバ400に送信する。
なお、給水バルブ21は、水田に給水される用水を一定の水位に保つように開栓および閉栓を自動的に制御する自動給水栓であってもよいし、農家が開栓および閉栓を手動で行う手動給水栓であってもよい。給水バルブ21が自動給水栓である場合、その水田には水位計が更に設置される。自動給水栓である給水バルブ21は、水位計により測定される水位を監視し、例えば、あらかじめ設定した水位よりも所定量だけ水位が下がったことを検知した場合にバルブを開栓する。そして、あらかじめ設定した水位に達したことを検知した場合にバルブを閉栓する。
圃場200の各水田は、これらの全てにおいて同時に耕作が行われているとは限らない。すなわち、気象条件や農家による耕作計画、その他種々の理由によって、ある期間において耕作を行っている水田と、耕作を行っていない水田とが混在することがあり得る。ある期間において耕作を行っている水田では、給水バルブ21が定期的あるいは非定期的に動作(開閉)する。ある期間において耕作を行っていない水田では、その期間中に給水バルブ21は動作(開閉)しない。
サーバ400は、ポンプ場100のPLC14から送られてくるポンプ流量およびポンプ圧力と、圃場200およびパイプライン300のPLC25から送られてくるバルブ流量およびバルブ圧力(給水バルブ21のバルブ流量およびバルブ圧力、分水バルブ31のバルブ流量およびバルブ圧力)とに基づいて、ポンプ場100からパイプライン300を介して圃場200の各水田に対して行う配水の制御を行う。これについての詳細は後述する。
サーバ400には、通信ネットワーク700を介して、ポンプ場100の施設管理者が使用する管理者端末500と、圃場200の農家が使用する農家端末600とが接続可能に構成されている。管理者端末500および農家端末600は、サーバ400にアクセスすることにより、給水ポンプ11、分水バルブ31および給水バルブ21の動作状況の他、後述するようにして決定された給水ポンプ11の回転数など、サーバ400にて処理した結果の情報を閲覧することができるようになっている。また、管理者端末500および農家端末600は、サーバ400にアクセスすることにより、配水の制御に関連する情報を入力することもできるようになっている。
図2は、サーバ400が備える機能構成例を示すブロック図である。図2に示すように、サーバ400は、その機能構成として、ポンプ特性情報取得部41、損失特性情報取得部42、使用状況情報取得部43およびポンプ回転数決定部44を備えている。これらの各機能ブロック41〜44は、ハードウェア、DSP(Digital Signal Processor)、ソフトウェアの何れによっても構成することが可能である。例えばソフトウェアによって構成する場合、上記各機能ブロック41〜44は、実際にはコンピュータのCPU、RAM、ROMなどを備えて構成され、RAMやROM、ハードディスクまたは半導体メモリ等の記録媒体に記憶されたプログラムが動作することによって実現される。
ポンプ特性情報取得部41は、ポンプ場100に設置される給水ポンプ11に関して、ポンプ回転数に応じたポンプ流量とポンプ圧力との相関関係を示したポンプ特性情報を取得する。図3は、このポンプ特性情報を模式的に示した図である。図3では、横軸にポンプ流量Q[m2/s]、縦軸にポンプ圧力H[m:水柱メートル]をとって表したQ−H曲線を示している。N0〜N3は、給水ポンプ11の回転数を示しており、その大小関係はN0>N1>N2>N3である。これらのポンプ回転数に応じたQ−H曲線は、使用する給水ポンプ11の設計値(諸元)から決まるものである。
例えば、ポンプ特性情報取得部41は、給水ポンプ11のメーカが公表している諸元情報を入力し、ポンプ回転数に応じたポンプ流量とポンプ圧力との相関関係を示したポンプ特性情報として、給水ポンプ11のQ−H曲線を取得する。なお、入力する諸元情報がQ−H曲線そのものである場合は、入力したQ−H曲線をそのままポンプ特性情報として取得すればよい。一方、入力する諸元情報が、離散的なポンプ流量とポンプ圧力との組み合わせ値である場合には、それらの離散値から近似曲線を算出し、当該近似曲線から成るQ−H曲線をポンプ特性情報として取得すればよい。なお、諸元情報の入力は、例えば、ポンプ場100の施設管理者が管理者端末500から入力する。
損失特性情報取得部42は、圃場200の各水田に対して設置される給水バルブ21およびパイプライン300に対して必要に応じて設置される分水バルブ31を任意の組み合わせで開閉した場合に、開栓している給水バルブ21のうちポンプ場100からの損失が最も大きく水の出にくい位置にある給水バルブ21(以下、開栓中最大損失バルブという)に対して必要最低水頭を与える際のポンプ流量とポンプ圧力との相関関係を示した損失特性情報を取得する。ここで、パイプライン300に対して分水バルブ31が必要に応じて設置される場合とは、圃場200が複数の圃場ブロックに分割されている場合である。
必要最低水頭とは、給水バルブ21から必要な水が流れるのに必要な圧力である。例えば、給水バルブ21から水田への水の供給量をあらかじめ設定し、給水バルブ21のポンプからパイプへの摩擦損失、パイプの曲がりなどの形状損失を考慮した公知の節点水頭法を用いた定常パイプライン解析により、必要最低水頭を算出することが可能である。この場合、ポンプ場100からの損失が最も大きく水の出にくい位置とは、摩擦損失および形状損失の両方による損失を含めて、最も水の出にくい位置という意味である。損失特性とは、給水バルブ21や分水バルブ31のパイプ内を水が流れるときに生じる圧力損失を示す特性である。
図4は、この損失特性情報を模式的に示した図である。図4では、横軸にポンプ流量Q[m2/s]、縦軸にポンプ圧力H[m]をとって表したR曲線を示している。R曲線の右側端点にあるO点は、全ての水田の全ての給水バルブ21を開栓したとき(これを最大使用流量時または全バルブ開栓時という)に、ポンプ場100から最も損失が大きい位置にある給水バルブ21に対して必要最低水頭を与えるのに必要な給水ポンプ11のポンプ流量とポンプ圧力とを示している。また、R曲線の左側端点にあるS点は、ポンプ場100から最も損失が大きい位置にある水田の給水バルブ21のみを開栓したとき(これを最大損失バルブ開栓時という)に、当該給水バルブ21に対して必要最低水頭を与えるのに必要な給水ポンプ11のポンプ流量とポンプ圧力とを示している。
O点とS点との間の曲線上の各点は、全体の水利系統上にある複数の給水バルブ21および複数の分水バルブ31のうち、1つまたは複数のバルブを任意の組み合わせで開栓した場合に、開栓している給水バルブ21のうちポンプ場100から最も損失が大きい位置にある給水バルブ21(開栓中最大損失バルブ)に対して必要最低水頭を与えるのに必要な給水ポンプ11のポンプ流量とポンプ圧力とを示している。
損失特性情報取得部42は、この図4に示すようなR曲線を損失特性情報として算出し、取得する。R曲線の算出には、種々の方法を適用することが可能である。以下に、その算出方法を2つ例示する。
図5は、第1の方法を説明するための図である。第1の方法を用いる場合、損失特性情報取得部42は、まず、バルブを単体で開いたときに生じる損失が最大となる給水バルブ21を定常パイプライン解析により見つける。次に、給水バルブ21および分水バルブ31を任意の組み合わせで開閉した場合に開栓中最大損失バルブに必要最低水頭を与えるのに必要なポンプ流量とポンプ圧力との組み合わせを、それぞれ定常パイプライン解析により算出する。図5において、○印で示す各プロット点が、それぞれの算出結果を示している。次に、損失特性情報取得部42は、これらのプロット点から1つの近似曲線を算出し、当該近似曲線をR曲線とする。
図6は、第2の方法を説明するための図である。第2の方法を用いる場合、損失特性情報取得部42は、まず、最大損失バルブ開栓時に最大損失となるS点におけるポンプ流量およびポンプ圧力と、全バルブ開栓時に最大損失となるO点におけるポンプ流量およびポンプ圧力のみを算出する。ここでの算出方法は、上述のパイプライン解析、または給水バルブ21を順番に開いたときの最大損失を現地で求める方法のいずれかでもよい。後者の場合、給水バルブ21を単体で開くときに、流量計22および圧力計23の情報を得ることにより、最大損失点を自動で見つけることができるため、パイプライン解析を行わなくてもS点を求めることが可能である。
次に、損失特性情報取得部42は、S点とO点とを結ぶ多項式を求めることにより、当該多項式により表される曲線をR曲線とする。なお、多項式のモード(形状のモード)はあらかじめ設定しておく。第2の方法によれば、給水バルブ21と分水バルブ31とが多くの組み合わせで開閉している場合のバルブ流量とバルブ圧力とを計算しなくてもR曲線を推定することが可能である。また、どの給水バルブ21が開閉しているかの開閉情報を把握することで、最大損失バルブの位置が変わったときも自動でS点を感知することができ、それに応じてR曲線を引きなおすことで、より適正な配水を行うことが可能になる。なお、給水バルブ21の開閉情報は、後述するように、各水田の流量計22および圧力計23から無線通信装置24およびPLC25を介してサーバ400に送られてくる使用状況情報(バルブID)に基づいて把握することが可能である。
使用状況情報取得部43は、圃場200の各水田に設置された給水バルブ21およびパイプライン300に設置された分水バルブ31の使用状況を示す情報を、通信ネットワークを介して取得する。すなわち、使用状況情報取得部43は、各水田の給水バルブ21に対応して設置された流量計22および圧力計23と、パイプライン300の分水バルブ31に対応して設置された流量計32および圧力計33とにより測定されたバルブ流量およびバルブ圧力の少なくとも一方に関する測定情報を、各バルブのバルブIDと共に、PLC25から通信ネットワーク700を介して使用状況情報として取得する。
なお、以下では一例として、使用状況情報取得部43がバルブ流量の測定情報を取得するものとして説明する。この場合、使用状況情報取得部43が取得したバルブ流量が“0”でない値を示すときは、その測定値に対応するバルブは使用状態にある(動作中)と言える。一方、バルブ流量が“0”の値を示すときは、その測定値に対応するバルブは不使用状態にある(停止中)と言える。
上述したように、圃場200の各水田は、これらの全てにおいて同時に耕作が行われているとは限らず、動作している給水バルブ21と動作していない給水バルブ21とが存在する。使用状況情報取得部43は、耕作期間に該当する水田に設置された給水バルブ21が開栓しているときに流量計22により測定されたバルブ流量と、分水バルブ31が開栓しているときに流量計32により測定されたバルブ流量とを取得する。
ポンプ回転数決定部44は、ポンプ特性情報取得部41により取得されたポンプ特性情報(Q−H曲線)と、損失特性情報取得部42により取得された損失特性情報(R曲線)と、使用状況情報取得部43により取得された使用状況情報とに基づいて、給水ポンプ11のポンプ回転数を決定する。
具体的には、ポンプ回転数決定部44は、損失特性情報取得部42により取得された損失特性情報(R曲線)と、使用状況情報取得部43により取得される使用状況情報とに基づいて、当該使用状況情報により開栓していることが示されている給水バルブ21のうちポンプ場100から最も損失が大きい位置にある給水バルブ(開栓中最大損失バルブ)に対して必要最低水頭を与えるのに必要なポンプ流量およびポンプ圧力を需要情報として求める。そして、ポンプ回転数決定部44は、当該求めた需要情報と、ポンプ特性情報取得部41により取得されたポンプ特性情報(Q−H曲線)とに基づいて、給水ポンプ11のポンプ回転数を決定する。
以下に、このポンプ回転数決定部44の処理内容を詳しく説明する。まず、ポンプ回転数決定部44は、使用状況情報取得部43により測定情報と共に取得されたバルブIDに基づいて、どの給水バルブ21および分水バルブ31が同期間に動作中であるかを特定する。なお、耕作期間中の複数の水田に設置された複数の給水バルブ21であっても、必ずしも同時に開栓されるとは限らない。そこで、ポンプ回転数決定部44は、瞬時的なタイミングで同時に測定情報が取得された各バルブ21,31を動作中と特定するのではなく、所定の期間内に測定情報が取得された各バルブ21,31を同期間に動作中と特定する。
使用状況情報取得部43により取得された使用状況情報(バルブID)に基づいて、動作中の各バルブ21,31(所定の期間内に開栓しているバルブ)を特定できると、ポンプ回転数決定部44は、損失特性情報取得部43により取得された損失特性情報(R曲線)に基づいて、動作中の給水バルブ21のうちポンプ場100から最も損失が大きい位置にある開栓中最大損失バルブに対して必要最低水頭を与えるのに必要なポンプ流量およびポンプ圧力を特定することが可能となる。
すなわち、ポンプ回転数決定部44は、実際に動作中のバルブ21,31を開栓する一方、動作中ではない他のバルブを閉栓した場合に、開栓中最大損失バルブに必要最低水頭を与えるのに必要なポンプ流量とポンプ圧力との組み合わせを、図5を用いて説明した各プロット点の算出と同様に、定常パイプライン解析により算出する。このようにして算出した値は、R曲線上に存在するとは限らない。R曲線自体が近似曲線だからである。そこで、ポンプ回転数決定部44は、算出された値に最も近いR曲線上の値を求め、このR曲線の値を、開栓中最大損失バルブに対して必要最低水頭を与えるのに必要なポンプ流量およびポンプ圧力として特定する。ポンプ回転数決定部44は、こうして特定したR曲線上のポンプ流量およびポンプ圧力を、圃場200の各水田における需要情報として求める。
次いで、ポンプ回転数決定部44は、ポンプ特性情報取得部41により取得されたポンプ回転数に応じたポンプ特性情報(Q−H曲線)のうち、上記のようにして求めた需要情報で示されるR曲線上のポンプ流量およびポンプ圧力を曲線上の値として有するQ−H曲線を特定する。そして、当該特定Q−H曲線のポンプ回転数を、需要情報に応じた給水ポンプ11のポンプ回転数として決定する。
なお、ここでは、R曲線上のポンプ流量およびポンプ圧力を、圃場200の各水田における需要情報として求めるようにしたが、測定情報から算出されるポンプ流量およびポンプ圧力の少なくとも一方を、圃場200の各水田における需要情報として求めるようにしてもよい。この場合、ポンプ回転数決定部44は、まず、使用状況情報取得部43により取得される使用状況情報に基づいて、当該使用状況情報により開栓していることが示されている給水バルブ21のうち開栓中最大損失バルブに対して必要最低水頭を与えるのに必要なポンプ流量およびポンプ圧力の少なくとも一方を定常パイプライン解析により求め、これを需要情報とする。例えば、ポンプ流量を需要情報として求めるものとする。
次に、ポンプ回転数決定部44は、当該需要情報として求めたポンプ流量と、ポンプ特性情報取得部41により取得されたポンプ特性情報(Q−H曲線)と、損失特性情報取得部42により取得された損失特性情報(R曲線)とに基づいて、給水ポンプ11のポンプ回転数を決定する。すなわち、上記のように需要情報として求めたポンプ流量となるR曲線上の点を求めた後、ポンプ回転数に応じたQ−H曲線のうち、上記のようにして求めたR曲線上の点を通るQ−H曲線を特定する。そして、当該特定Q−H曲線のポンプ回転数を、需要情報に応じた給水ポンプ11のポンプ回転数として決定する。
図7は、このポンプ回転数決定部44の動作を説明するための図である。図7において、ポンプ回転数N0のQ−H曲線は、全バルブ開栓時に開栓中最大損失バルブに対して必要最低水頭を与えるのに必要な給水ポンプ11のポンプ流量QAとポンプ圧力とを示したO点を通るQ−H曲線であり、ポンプ回転数を最大のN0とすべき場合を示したものである。
これに対し、ポンプ回転数決定部44により算出された需要情報が、例えばポンプ流量QBで特定されるR曲線上のSB点の値であった場合、ポンプ回転数決定部44は、このSB点を通るQ−H曲線を特定し、当該特定したQ−H曲線のポンプ回転数N1を、需要情報に応じた給水ポンプ11のポンプ回転数として決定する。
同様に、ポンプ回転数決定部44により算出された需要情報が、例えばポンプ流量QCで特定されるR曲線上のSC点の値であった場合、ポンプ回転数決定部44は、このSC点を通るQ−H曲線を特定し、当該特定したQ−H曲線のポンプ回転数N2を、需要情報に応じた給水ポンプ11のポンプ回転数として決定する。また、ポンプ回転数決定部44により算出された需要情報が、例えばポンプ流量QDで特定されるR曲線上のSD点の値であった場合、ポンプ回転数決定部44は、このSD点を通るQ−H曲線を特定し、当該特定したQ−H曲線のポンプ回転数N3を、需要情報に応じた給水ポンプ11のポンプ回転数として決定する。
従来は、給水バルブ21や分水バルブ31の実際の使用状況を考慮した配水管理を行っていなかったため、放流不足が生じないようにするため、給水ポンプ11のポンプ回転数を高めの値(例えば、N0)に設定して運用していた。これに対し、本実施形態では、給水バルブ21や分水バルブ31の実際の使用状況を考慮して給水ポンプ11のポンプ回転数を求めるようにしている。
このようにすれば、給水バルブ21や分水バルブ31がどのような使用状況であっても常に最大のポンプ回転数N0で給水ポンプ11を稼働させる場合に比べて、給水バルブ21や分水バルブ31の実際の使用状況(どれが動作中か)に合わせて、給水ポンプ11が過不足のない配水をするためのポンプ回転数(例えば、N1,N2,N3)を適切に決定することができる。
例えば、需要情報としてのポンプ流量がSBの場合は、最大のポンプ回転数N0で給水ポンプ11を動作させる場合に比べて、ポンプ圧力を図7に示すHBだけ低減することができる。同様に、需要情報としてのポンプ流量がSCの場合はポンプ圧力をHCだけ低減することができ、需要情報としてのポンプ流量がSDの場合はポンプ圧力をHDだけ低減することができる。ここで、SB>SC>SD、HB<HC<HDであり、需要のポンプ流量が少ないほど、給水ポンプ11のポンプ圧力の低減効果は高くなる。
以上のようにして決定された給水ポンプ11のポンプ回転数は、管理者端末500や農家端末600からサーバ400にアクセスして閲覧可能な情報として提供される。ポンプ場100の施設管理者は、管理者端末500からサーバ400にアクセスし、上述のようにして決定された給水ポンプ11のポンプ回転数を確認し、それに従って実際に給水ポンプ11のポンプ回転数を制御する。
これにより、ポンプ場100、圃場200およびパイプライン300の全体の状況を考慮して、各水田に対する過剰放流や放流不足のない適切な配水の管理を行うことができる。その結果、水田に対して必要以上に水が供給され過ぎたり、必要なときに水が供給されないなどの問題を防止でき、適正な配水管理による大幅な省エネおよび節水が可能となる。また、過剰圧力による設備の破損を防止することも可能となる。
なお、サーバ400と通信可能な制御装置(インバータなどを含む)をポンプ場100に設け、サーバ400のポンプ回転数決定部44により決定されたポンプ回転数を制御装置に通知することにより、当該決定されたポンプ回転数となるように、給水ポンプ11のポンプ回転数を制御装置によって自動的に制御するようにしてもよい。また、サーバ400が備えるポンプ特性情報取得部41、損失特性情報取得部42、使用状況情報取得部43およびポンプ回転数決定部44の機能を、ポンプ場100の制御装置が備えるようにしてもよい。なお、この制御装置は、特許請求の範囲の制御部に相当する。
上記実施形態では、給水バルブ21に対応して設置された流量計22および圧力計23と、分水バルブ31に対応して設置された流量計32および圧力計33とにおける使用状況情報に基づいて給水ポンプ11のポンプ回転数を決定する例について説明したが、給水ポンプ11および給水バルブ21の使用予定に関してあらかじめ入力したスケジュール情報に基づいて、給水ポンプ11のポンプ回転数を決定するようにすることも可能である。
図8は、スケジュール情報に基づいてポンプ回転数を決定する変形例に係るサーバ400の機能構成例を示すブロック図である。なお、この図8において、図2に示した符号と同一の符号を付したものは同一の機能を有するものであるので、ここでは重複する説明を省略する。図8に示すように、変形例に係るサーバ400は、その機能構成として、スケジュール作成部45を更に備えている。また、ポンプ回転数決定部44に代えてポンプ回転数決定部44’を備えている。
スケジュール作成部45は、ポンプ場100に設置される給水ポンプ11の稼働に関する所定期間のスケジュール(以下、ポンプスケジュールという)と、各水田に設置される給水バルブ21およびパイプライン300に設置される分水バルブ31の少なくとも一方の開閉に関する所定期間のスケジュール(以下、バルブスケジュールという)とを作成する。そのための具体的な機能構成として、スケジュール作成部45は、スケジュール入力部45Aおよびスケジュール調整部45Bを備えている。
スケジュール入力部45Aは、管理者端末500から所定期間(例えば、1ヵ月間または数ヵ月間)のポンプスケジュールを入力するとともに、農家端末600から同じ所定期間のバルブスケジュールを入力する。ポンプスケジュールは、水源地の貯水状況、所定期間における天気予報情報、ポンプ場100の施設のメンテナンスを含む運転状況などを考慮して、ポンプ場100の施設管理者により設定されるものであり、給水ポンプ11をどのタイミングでどの程度の流量で稼働させるかを示す情報である。
また、バルブスケジュールは、水田の耕作運用状況や稲の生育状況などに基づく水利用の需要を考慮して、圃場200の農家により設定されるものである。具体的には、バルブスケジュールは、圃場200における各水田のうち、どの水田の給水バルブ21をどのタイミングで開栓するかや、パイプライン300に設置された各分水バルブ31のうち、どの分水バルブ31をどのタイミングで開栓するかなどを示す情報である。このバルブスケジュールにより、圃場200の全体としてどのタイミングでどの程度の流量の水が必要となるかが特定されることになる。
スケジュール調整部45Bは、スケジュール入力部45Aにより入力されたポンプスケジュールで特定されるポンプ流量と、スケジュール入力部45Aにより入力されたバルブスケジュールで特定されるバルブ流量との間に差分がある場合、その差分がなくなるように、ポンプスケジュールまたはバルブスケジュールを調整する。バルブスケジュールで特定されるバルブ流量とは、圃場200の全体として同時に開栓する(厳密な意味で同時であることを意味するものではなく、所定単位期間内のどこかのタイミングで開栓することを意味する)予定の給水バルブ21に流れる水の総流量である。
具体的には、スケジュール調整部45Bは、ポンプスケジュールで特定されるポンプ流量が、バルブスケジュールで特定されるバルブ流量より少ない場合、その差分がなくなるように、バルブ流量を減らすようにバルブスケジュールを調整する。一方、ポンプスケジュールで特定されるポンプ流量が、バルブスケジュールで特定されるバルブ流量より多い場合、その差分がなくなるように、ポンプ流量を減らすようにポンプスケジュールを調整する。
ポンプスケジュールで特定されるポンプ流量がバルブスケジュールで特定されるバルブ流量より少ない場合とは、農家の水需要量に対し、水源での貯水量が足りない場合である。この場合は、農家の水需要により入力されたバルブスケジュールの通りに水の供給を行うことができない。よって、この場合は、圃場200の全体でのバルブ流量を減らすようにバルブスケジュールを調整する。例えば、スケジュール調整部45Bは、あらかじめ設定しておいた水管理ルールに基づいて、どの給水バルブ21のバルブ流量をどの程度減らすのか、あるいは、どの分水バルブ31のバルブ流量をどの程度減らすのかなどを決定する。
水管理ルールとは、圃場ブロック毎に水配分の優先順位を設定したルールである。例えば、上流側の水田に対して優先的に給水するといったルールがその一例である。また、図1のように分水バルブ31よりも下流側に3つの圃場ブロックBL1,BL2,BL3がある場合において、水源地の水が不足する場合は、上流側の圃場ブロックからBL1,BL2,BL3の順で給水を行うルールとしてもよい。このとき、圃場ブロックBL1に給水する場合は、他の圃場ブロックBL2,BL3の分水バルブ31は閉じておく。また、圃場ブロックBL2,BL3への給水時も同じように、給水しない圃場ブロックの分水バルブ31は閉じる。こうすることで、使用していない給水バルブ21に余剰な水が配水されるのを防ぐ効果がある。このような水管理ルールは、一般的に、地域毎に慣行によって決められた優先度を示すものである。よって、このルールは任意の内容であらかじめ設定しておくことが可能である。なお、水管理ルールを設定せず、例えば複数の給水バルブ21のバルブ流量を均等に減らすことによって、ポンプスケジュールを満たすようなバルブスケジュールとなるように調整する構成としてもよい。
なお、ここではスケジュール調整部45Bが自動的にバルブスケジュールを調整する例について説明したが、これに限定されない。例えば、ポンプスケジュールで特定されるポンプ流量がバルブスケジュールで特定されるバルブ流量に対してどの程度少ないかの情報を、農家端末600からサーバ400にアクセスして閲覧可能な情報として提示する。そして、この情報を確認した農家が、農家端末600からバルブスケジュールを再入力することによって、バルブスケジュールの調整を行うようにしてもよい。
逆に、ポンプスケジュールで特定されるポンプ流量がバルブスケジュールで特定されるバルブ流量より多い場合とは、農家の水需要量に対し、水源から水供給量が余剰している場合である。この場合は、農家の水需要量をそのまま満たす程度に水源からの水供給量を減らせばよい。よって、この場合は、余剰分の水供給量を減らすようにポンプスケジュールを調整する。
ポンプ回転数決定部44’は、スケジュール調整部45Bにより調整されたポンプスケジュールで特定されるポンプ流量、ポンプ特性情報取得部41により取得されたポンプ特性情報(Q−H曲線)、および、損失特性情報取得部42により取得された損失特性情報(R曲線)に基づいて、給水ポンプ11のポンプ回転数を決定する。このポンプ回転数決定部44’の動作は、使用状況情報に基づいて特定されるポンプ流量を需要情報として用いることに代えて、ポンプスケジュールに基づいて特定されるポンプ流量を需要情報として用いること以外は、上述した実施形態と同様である。
また、上記実施形態では、全バルブ開栓時における開栓中最大損失バルブに対して必要最低水頭を与えるのに必要なポンプ流量とポンプ圧力とを示したO点と、最大損失バルブ開栓時における開栓中最大損失バルブに対して必要最低水頭を与えるのに必要なポンプ流量とポンプ圧力とを示したS点との間を繋ぐR曲線を求める例について説明したが、これに限定されない。
上記実施形態で求めたR曲線は、ポンプ場100から最も損失が大きい給水バルブ21を末端流量として作成したものであるが、ポンプ場100から最も近い位置にあり損失が小さい給水バルブ21のみを開栓して給水するときは、S点よりも小さなポンプ圧力で良い。そこで、図9に示すように、S点のポンプ圧力を下方修正するように補正し、補正後のS’点とO点との結ぶR曲線を求めるようにしてもよい。すなわち、給水バルブ21の開栓箇所をリアルタイムで把握することで、より需要に応じた最適なポンプ運転を行うことが可能になる。このようにすることで、さらなる節水と節電が可能になる。
なお、給水バルブ21が自動給水栓の場合、給水バルブ21の開閉状況や水位計により測定される水田の水位を示す情報を、PLC41から通信ネットワーク700を介してサーバ400に送信するようにしてもよい。この場合、各水田の水位の上昇速度に基づいて、給水バルブ21による給水量を推定することができるので、R曲線をより実態に近い状態に補正することができる。すなわち、給水バルブ21の位置的な使用状況が分かるため、ポンプ場100に近い位置の給水バルブ21しか開栓していない場合は、推定した給水バルブ21の給水量に応じてポンプ回転数をN3よりも小さい値に落とすことが可能になる。
例えば、図6のように第2の方法によってS点とO点とを結ぶR曲線を算出した上で、図9のようにR曲線を補正することにより、第1の方法で示した多数のプロット点を算出するパイプライン解析が不要で、かつ、より実態にあったR曲線を求めて給水ポンプ11のポンプ回転数を決定することができる。
なお、給水バルブ21の全てが自動給水栓である必要はなく、部分的に設置されている自動給水栓から送られてくる開閉状況や、バルブ流量やバルブ圧力の測定情報に基づいて、パイプライン300の上流から下流までの位置関係から全体の使用状況を推定してR曲線を作成することが可能である。例えば、ある位置にある給水バルブ21の測定情報に基づいて、それより下流にある給水バルブ21は使用していないなどと推定することが可能である。
また、上記実施形態では、動作中の各バルブ21,31に対応して設置された流量計12,22および圧力計13,23の測定情報をサーバ400に送信し、当該測定情報と共に送信するバルブIDによって、動作中のバルブ(所定期間内に開栓しているバルブ)を特定する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、各バルブ21,31の開閉情報をバルブIDと共にサーバ400に送信するようにしてもよい。または、動作中の各バルブ21,31のバルブIDのみを送信するようにしてもよい。測定情報は、管理者端末500や農家端末600からサーバ400にアクセスして閲覧可能な情報としてのみ用いるようにしてよい。
また、上記実施形態では、圃場200の各水田における給水バルブ21やパイプライン300の分水バルブ31の使用状況情報をサーバ400に送信し、サーバ400においてポンプ場100における給水ポンプ11のポンプ回転数を決定する例について説明した。また、当該決定したポンプ回転数に基づいて給水ポンプ11のポンプ回転数を自動制御することについても言及した。これに対し、スケジュールの調整結果に基づいて、サーバ400からPLC25および無線通信装置34を介して制御信号を送信することにより、自動給水栓で構成した分水バルブ31の開閉を自動的に制御するようにしてもよい。例えば、水源地の水が不足する場合において、スケジュール調整後に、上述した水管理ルールに従って圃場ブロックBL1,BL2,BL3毎に給水制限を行う場合、給水を行わない圃場ブロックに対応する分水バルブ31を閉め、または開度を制限して流量を調整するなどの制御を自動で行うようにすることが可能である。
同様に、スケジュールの調整結果に基づいて、サーバ400からPLC25および無線通信装置24を介して制御信号を送信することにより、自動給水栓で構成した給水バルブ21の開閉を自動的に制御するようにしてもよい。例えば、上述した水管理ルールに従って、給水を行わない水田に対応する給水バルブ21を閉め、または開度を制限して流量を調整するなどの制御を自動で行うようにすることが可能である。
なお、以上のように、サーバ400が調整後のバルブスケジュールに従って給水バルブ21や分水バルブ31の開閉を自動制御する場合、サーバ400は、水管理ルールの情報をあらかじめ記憶しておく。
なお、上述した給水バルブ21や分水バルブ31の自動制御は、サーバ400からの制御ではなく、ポンプ場100が備える制御装置からの制御に基づいて行うようにすることも可能である。例えば、図8に示した機能構成をポンプ場100の制御装置が備え、当該制御装置で調整したバルブスケジュールに従って、給水バルブ21や分水バルブ31の開閉を遠隔で自動制御することが可能である。
その他、上記実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。