柱梁接合部には、柱主筋、梁主筋及びせん断補強筋等の多くの鉄筋が配置される。そのため、図21に示すように、梁主筋4の外径よりも内径が大きいシース2を柱梁接合部に配置すると、鉄筋の設置可能スペースが小さくなる。また、シース2内にグラウトを充填するという手間が必要であり、さらに、グラウトが正しく充填されたかの判断及び確認が困難である。特に、シース2が水平である場合には、シース2の上部に空気が溜まりやすく、シース2と梁主筋4との付着性能が得られにくい。また、シース2に梁主筋4を挿入するため、梁部材3を柱部材1に向かって水平方向に移動させる必要があり、複数の柱部材1に複数の梁部材3を接合するためには特定の順番で組み立てる必要がある。よって、組み立ての順番を間違うと施工のやり直しが必要になり、また、一部のプレキャストコンクリート部材に不具合(気泡の存在等)があると、その部材の交換又は補修が終わるまで、それよりも後に組み立てるべきものの施工ができない。また、地震が起きた場合に、接合部内で破壊が生じやすく、大掛かりな補修を要する。
特許文献1に記載の柱梁接合構造では、挿通鉄筋が梁部材及び柱部材とは別体として構成されているため、組み立て順序の制約は少ない。しかし、その他の点においては、図21に示す柱梁接合構造と同様の問題が生じる。
このような問題を鑑み、本発明は、柱部材と、プレキャストコンクリート製の梁部材とが互いに接合された柱梁接合構造において、シースが不要で、組み立て順序の制約が少なく、接合部の損傷を抑制できる構造及びその構築方法を提供することを目的とする。
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、柱部材(11)と、プレキャストコンクリート製の梁部材(12)とが互いに接合された柱梁接合構造(10)であって、前記柱部材は、梁の幅方向に互いに対向するように柱部材本体(13)から側方に突出するコンクリート製の1対の突出部(14,14)と、前記1対の突出部に対して前記幅方向の内側に配置され、前記柱部材本体から直接又は間接に突出する内側筋(15)と、前記柱部材本体及び前記1対の突出部内にて前記内側筋に平行に延在する外側筋(16)とを有し、前記梁部材は、前記内側筋に接合された梁部材主筋(20)を有し、前記内側筋の前記柱部材本体から突出した部分、及び前記梁部材主筋の梁部材本体(18)から突出した部分は、前記1対の突出部間に打設されたコンクリートからなる梁端内側部(22)に埋設されていることを特徴とする。ここで、内側筋が「前記柱部材本体から直接又は間接に突出する」とは、梁部材主筋に連結できるように、内側筋自体が柱部材本体から突出すること、又は、内側筋に取り付けられた機械式継手が柱部材本体から突出することを意味する。
この構成によれば、柱梁接合部に梁の主筋を通すためのシースが不要となり、シースを使用することによって生じる柱梁接合部内の鉄筋の設置可能スペースの減少、シース内にグラウトを充填する手間及びその確認の手間の発生、グラウトの充填不良によるシースと梁の主筋との付着性能の低下等の問題が発生しない。また、梁部材を柱部材に対して上下方向から挿入して柱梁接合構造を構築できるため、柱部材及び梁部材の組み立て順序の制約を低減できる。また、梁の主筋として機能する部分は、内側筋又は梁部材主筋と外側筋とが重なっている部分と、梁部材主筋のみの部分とに分かれるが、地震時の曲げ降伏位置がその境界位置となるため、柱梁接合部ではなく梁で破壊が生じ、破壊後の補修が比較的容易である。
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、上記構成において、前記外側筋の先端には定着部(17)が設けられていることを特徴とする。
この構成によれば、外側筋がコンクリート部分から引き抜かれることを防止できる。
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、上記構成のいずれかにおいて、前記1対の突出部及び前記梁端内側部の互いの当接面には、コッター(34)が形成されていることを特徴とする。
この構成によれば、突出部及び梁端内側部間の付着がより確実になる。
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、上記構成のいずれかにおいて、前記外側筋は、前記内側筋よりも高強度であることを特徴とする。
外側筋の端部を通る断面が危険断面(降伏位置)であるところ、この構成によれば、危険断面よりも柱部材本体側の部分における曲げ耐力が大きくなるため、より危険断面で降伏しやすくなる。
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、上記構成のいずれかにおいて前記1対の突出部の少なくとも一方及び前記梁端内側部の双方に埋設され、かつ、前記外側筋の少なくとも一部及び前記内側筋の少なくとも一部の双方に対して直交するように隣接する補強筋(37,38)を有することを特徴とする。
この構成によれば、このように配置された補強筋によって1対の突出部及び梁端内側部の一体化がより確実に行われるとともに、これらの補強筋がせん断補強筋としても作用する。
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、上記構成のいずれかにおいて、前記1対の突出部の外面間距離は、前記梁部材本体の梁幅よりも大きく、前記外側筋は、前記1対の突出部の各々において、前記幅方向に複数の列をなすように配置されたことを特徴とする。
この構成によれば、前記1対の突出部の外面間距離が大きいことにより梁端部では幅が広くなり、それにより、梁の主筋を配置可能なスペースが広くなる。さらに、そのスペースに外側筋を複数列配置することにより、梁端部の曲げ補強筋量が多くなり、ヒンジリロケーションがより確実になる。
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、プレキャストコンクリート製の柱部材(11)と、プレキャストコンクリート製の梁部材(12)とが互いに接合された柱梁接合構造(10)の構築方法であって、互いに梁の幅方向に対向するように柱部材本体から側方に突出するコンクリート製の1対の突出部(14,14)と、前記1対の突出部に対して前記幅方向の内側に配置され、前記柱部材本体から直接又は間接に突出する内側筋(15)と、前記柱部材本体及び前記1対の突出部内にて前記内側筋に平行に延在する外側筋(16)とを有する前記柱部材を所定の位置に配置するステップと、前記内側筋に整合可能に梁部材本体(18)から突出する梁部材主筋(20)を有する前記梁部材を所定の位置に配置するステップと、前記内側筋と前記梁部材主筋とを機械式継手(19)により互いに接合するステップと、前記内側筋の前記柱部材本体から突出した部分、前記梁部材主筋の前記梁部材本体から突出した部分、及び前記機械式継手を埋設するように前記1対の突出部間に現場打ちコンクリートを打設して梁端内側部(22)を構築するステップとを有し、前記梁部材を配置するステップは、前記1対の突出部間に前記梁部材主筋が挿し込まれるように、上下方向に前記梁部材を移動させることを含むことを特徴とする。
この構成によれば、梁部材を柱部材に対して上下方向から挿し入れることができるため、柱部材と梁部材との組み立て順序の制約が低減される。また、接合部にシースが不要であるため、シースの使用に伴う問題が生じない。また、地震時の曲げ降伏位置が梁端部ではなく梁の中間部となるため、破壊後の補修が比較的容易である。
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、上記構成において、前記機械式継手は、前記梁部材を所定の位置に配置するステップよりも前に、前記梁部材主筋又は前記内側筋が挿通されるように仮設置されることを特徴とする。
この構成によれば、容易に機械式継手を取り付けることができる。
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、上記方法の構成のいずれかにおいて、前記梁部材主筋の前記梁部材本体から突出した部分又は前記内側筋の前記柱部材本体から突出した部分を囲う端部あばら筋(21a)は、前記梁部材主筋の前記梁部材本体から突出した部分の内の前記梁部材本体よりの部分、又は前記内側筋の前記柱部材本体から突出した部分の内の前記柱部材本体よりの部分に、仮設置され、前記梁部材を所定の位置に配置するステップの後、かつ、前記梁端内側部を構築するステップの前に、スライド移動して所定の位置に配置されることを特徴とする。
この構成によれば、端部あばら筋を、梁の架設位置ではなく、プレキャストコンクリートの工場や建設現場の作業ヤード等で仮設置できるため、梁の架設位置での作業を減らすことができる。
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、上記方法の構成のいずれかにおいて、前記梁端内側部の現場打ちコンクリートの打設は、床スラブ(24)の現場打ちコンクリートの打設と一体に行われ、前記突出部のコンクリート強度は、前記梁部材のコンクリート強度よりも高く、前記梁端内側部及び前記床スラブのコンクリート強度は、前記梁部材のコンクリート強度よりも低いことを特徴とする。
この構成によれば、床スラブ及び梁端表層部のコンクリートを同時に打設することにより、施工を省力化できる。また、一般に、床スラブには、梁よりも強度の低いコンクリートを使用することができるが、この構成の方法によれば、梁端表層部にそのような強度の低いコンクリートを使用しても、突出部のコンクリート強度が梁部材のコンクリート強度よりも高いため、梁端部全体として梁に要求されるコンクリート強度を得ることができる。
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、上記方法の構成のいずれかにおいて、前記柱部材は、前記1対の突出部の下端間を連結するように前記柱部材本体から突出する下部突出部(31)をさらに有し、前記梁部材を配置するステップは、前記1対の突出部間に前記梁部材主筋が挿し込まれるように、下方に向かって前記梁部材を移動させることを含み、前記1対の突出部及び前記下部突出部は、前記梁端内側部を打設するための型枠となることを特徴とする。
この構成によれば、1対の突出部及び下部突出部が型枠となるため、梁端内側部を打設するために工事現場において型枠を設置する必要がない。
本発明によれば、シースが不要で、組み立て順序の制約が少なく、接合部の損傷を抑制できる柱梁接合構造及びその構築方法を提供できる。
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、各図では柱主筋及び帯筋の図示並びに断面を示すハッチングを省略している。
図1及び図2は、実施形態に係る柱梁接合構造10を示す。柱梁接合構造10は、プレキャストコンクリート製の柱部材11と、柱部材11に接合されたプレキャストコンクリート製の梁部材12とを有する。
柱部材11は、建物の柱を構成し、内部に図示しない柱主筋及び帯筋を含む柱部材本体13と、互いに梁の幅方向で対向するように柱部材本体13から梁部材12が接合されるべき側方に突出するコンクリート製の1対の突出部14,14を有する。柱部材本体13のコンクリートと突出部14のコンクリートとは、互いに同一の強度のものを同時に打設したものでも、同一又は異なる強度のものを別々に打設したものでもよい。本実施形態では、柱部材11に対して左右2方向でそれぞれ梁部材12が接合されるが、1方向、互いに直角をなすような2方向、T字上の3方向又は十字状の4方向でそれぞれ梁部材12が接合されてもよく、その接合されるべき方向のそれぞれに1対の突出部14,14が設けられる。
柱部材11は、それぞれ、梁の主筋の一部を構成する内側筋15(図1Bでは上下方向の中間に位置する内側筋15の図示を省略)と外側筋16(図1Bでは図示を省略)とを有する。内側筋15は、1対の突出部14,14よりも梁の幅方向の内側において、柱部材本体13から梁部材12が接合される方向に突出している。内側筋15は、1対の突出部14,14の上面よりも上方に位置する上部内側筋15aと、1対の突出部14,14の上面よりも下方に位置する下部内側筋15bとを有する。外側筋16は、1対の突出部14,14の上面に沿って内側筋15と平行に柱部材本体13から突出する上部外側筋16aと、柱部材本体13及び1対の突出部14,14内にて内側筋15と平行に延在する下部外側筋16bとを有する。図1及び図2のように、柱部材11の左右両側に梁部材12が接合するときは、内側筋15及び外側筋16の中間部はそれぞれ柱部材本体13に埋設され、内側筋15及び上部外側筋16aの両端部は柱部材本体13から突出して現場打ちコンクリートに埋設され、下部外側筋16bの両端部は1対の突出部14,14内に埋設されている。なお、柱部材11の左右方向の片側にのみ梁部材12が接合するときは、梁部材12が接合しない側の内側筋15及び外側筋16の端部は柱部材本体13に定着される。また、上部外側筋16aと下部外側筋16bとの柱部材本体13からの突出長は互いに等しく、外側筋16の先端には、コンクリート部分から引き抜かれないように定着部17が設けられている。定着部17は、外側筋16の端部をフック形状にするなどして外側筋16をコンクリート部分に定着させたものである。なお、定着部17は、外側筋16の先端に取り付けられた定着金物でもよい。また、上下方向に延在する補強筋23(図1Bでは図示を省略)が、外側筋16の柱部材本体13から突出した部分に隣接するように設けられている。補強筋23の下部は、1対の突出部14,14内に埋設されており、補強筋23の上部は、1対の突出部14,14から突出して現場打ちコンクリートに埋設されている。
梁部材12は、プレキャストコンクリートによって形成されたコンクリート部分を含む梁部材本体18と、内側筋15に整合して機械式継手19により内側筋15に接合された梁部材主筋20(図1Bでは上下方向の中間に位置する梁部材主筋20の図示を省略)とを有する。梁部材主筋20は、中間部が梁部材本体18の上面に対して離間しかつ沿うように配置されて全体が現場打ちコンクリートに埋設された上部梁部材主筋20aと、中間部が梁部材本体18に埋設されて端部が現場打ちコンクリートに埋設された下部梁部材主筋20bとを有する。梁部材本体18の長尺方向の長さは、構築位置に配置された2つの柱部材11の柱部材本体13間の距離よりも短くなっており、その突出部14の互いに対向する突出端面間距離に略等しいことが好ましい。梁部材本体の幅は、1対の突出部14,14の内面間距離に略等しい。梁部材本体18には、あばら筋21の下部が埋設されている。内側筋15、外側筋16及び梁部材主筋20が梁の主筋となる。梁の主筋の量が変化する外側筋16の端部近傍が曲げ降伏位置となるため、機械式継手19の位置は、そこから離間させ、柱部材本体13に近い方が好ましい。
柱部材本体13及び梁部材本体18間には、機械式継手19によって互いに連結された梁部材主筋20及び内側筋15を囲うように梁部材12の延在方向に直交する方向に延在する端部あばら筋21aが設けられている。また、1対の突出部14,14間には梁端内側部22が現場打ちコンクリートによって形成され、梁部材本体18、1対の突出部14,14及び梁端内側部22の上側には、床スラブ24が形成されている。梁端内側部22には、下部内側筋15bと、下部梁部材主筋20bと、両者を連結する機械式継手19と、端部あばら筋21aの下部とが埋設されている。床スラブ24はスラブ筋25を有する。床スラブ24には、上部内側筋15aと、上部梁部材主筋20aと、両者を連結する機械式継手19と、端部あばら筋21aを含むあばら筋21の上部とが埋設されている。
1対の突出部14,14、梁部材本体18及び梁端内側部22のコンクリート強度のすべてを、梁に要求されるコンクリート強度としてもよいが、梁部材本体18のコンクリート強度を梁に要求されるコンクリート強度(例えば48N/mm2)とし、1対の突出部14,14のコンクリート強度を梁に要求されるコンクリート強度よりも高い強度、例えば柱に要求されるコンクリート強度(例えば60N/mm2)とし、梁端内側部22のコンクリート強度を梁に要求されるコンクリート強度よりも低い強度、例えば床スラブ24に要求されるコンクリート強度(例えば30N/mm2)としてもよい。この場合、低い強度の梁端内側部22のコンクリートの外側に高い強度の1対の突出部14,14のコンクリートが存在するため、全体として梁に要求される強度を満たす。
次に、図3〜図6を参照して、実施形態に係る柱梁接合構造10の構築方法について説明する。なお、図3〜図6では、端部あばら筋21a以外のあばら筋21及び補強筋23の図示を省略している。
まず、図3に示すように、柱部材本体13及び1対の突出部14,14のコンクリートが工場で打設されたプレキャストコンクリート部材である柱部材11を、クレーン(図示せず)等により建物の柱を構築すべき位置に配置する。
次に、図4に示すように、梁部材主筋20の梁部材本体18から突出した部分に、機械式継手19及び端部あばら筋21aを仮設置した後、梁部材12を、クレーン等により建物の梁を構築すべき位置に配置する。ここで、機械式継手19及び端部あばら筋21aの仮設置とは、梁部材主筋20及び内側筋15に対してスライド移動可能な状態をいう。この時、梁部材12は、柱部材11に対して上方又は下方から挿し入れる。このように梁部材12を上下方向から挿し入れることができるのは、梁部材主筋20並びにこれに仮設置された機械式継手19及び端部あばら筋21aが、1対の突出部14,14の内面間距離よりも、狭い範囲に配置されているためである。梁部材本体18の柱部材11側の端面が、1対の突出部14,14の突出端面と略同一平面に位置するように、梁部材12は配置される。その後、図5に示すように、機械式継手19をスライド移動させて内側筋15と梁部材主筋20とを互いに接合するとともに、端部あばら筋21aを所定の位置までスライド移動させて内側筋15又は梁部材主筋20に結束する。
なお、機械式継手19を内側筋15に仮設置してもよい。また、端部あばら筋21aを内側筋15に仮設置してもよく、又は、端部あばら筋21aを仮設置せず、機械式継手19により内側筋15と梁部材主筋20とを互いに接合させた後に、端部あばら筋21aを内側筋15又は梁部材主筋20に取り付けてもよい。
次に、1対の突出部14,14の下面間及び床スラブ24(図1参照)用の型枠(図示せず)を設置し、図6に示すように、現場打ちコンクリートを打設することによって梁端内側部22が形成される。床スラブ24(図6では図示を省略)も同時に形成される。型枠を取り外すと、図1に示すように柱梁接合構造10が完成する。
実施形態に係る柱梁接合構造10の作用効果について説明する。
柱梁接合構造10には、図21に示すようなシース2が用いられていないため、シース2を用いることによって生じる問題が生じない。すなわち、シース2によって鉄筋の設置可能スペースが小さくなくことを防止でき、シース2内にグラウトを充填するという手間やその確認が不要となり、グラウトの充填不良によるシース2と梁主筋4との付着性能の低下が起こらない。また、接合部内の鉄筋の量を増やすことも可能となる。また、シース2がある場合には、シース2にグラウトを充填するためのホースが必要であり、そのホースが構造物中に残ってしまうが、本実施形態に係る柱梁接合構造10では、そのホースが不要であるため、構造がより強固になる。
また、梁部材12を上下方向から2つの柱部材11間に挿し入れることができるため、柱部材11と梁部材12との組み立て順序の制限が緩和される。例えば、その階層のすべての柱部材11を設置した後に、その階層の梁部材12を順序を問わずに挿し入れることができる。さらに、柱部材11の高さを2階分(2層1節)にしても、柱部材11の設置後に、2つの階層の梁部材12を挿し入れることができる。
図1及び図2に示すように、内側筋15、外側筋16及び梁部材主筋20は、梁の主筋であり、柱側から外側筋16の先端までが内側筋15又は梁部材主筋20と外側筋16との双方があり、その先は梁部材主筋20のみとなって主筋の量が少なくなっている。そのため、外側筋16の先端近傍が降伏位置となる。実際の地震時には、図7に丸印で示した位置で曲げ降伏し、コンクリートの破壊が生じる。曲げ降伏位置はヒンジとして機能するが、図8に示すように、従来の構造は、梁の中間位置で梁の主筋の継手が行われ、柱の近傍で曲げ降伏していた。一方、本実施形態に係る柱梁接合構造10では、柱部材本体13の近傍で梁の主筋の継手(内側筋15及び梁部材主筋20間の継手)が行われ、曲げ降伏位置が従来に比べて梁の中央によっている。このようなヒンジリロケーションが行われているため、地震時に、柱と梁との接合部分で破壊が生じることを防ぎ、梁で破壊が生じる。そのため、補修が比較的容易となる。外側筋16の量を増やして、梁端部の曲げ強度を高めて、ヒンジリロケーションをより確実にしてもよい。また、外側筋16の量を増やすことに代え、又は加えて、外側筋16を内側筋15及び梁部材主筋20よりも高強度の鉄筋とし、ヒンジリロケーションをより確実にしてもよい。
図9〜図20は、それぞれ、上記実施形態に係る柱梁接合構造10の変形例1〜12を示す。以下に具体的に説明する部分を除いて、上記実施形態又は記載済みの変形例と同じ符号を付した部材は、上記実施形態と同様の構成及び作用を有する。
図9に示す第1変形例に係る柱梁接合構造10は、1対の突出部14,14の上面の位置が床スラブ24の上面の高さに一致している点で上記実施形態と異なる。すべての外側筋16が、柱部材本体13及び一対の突出部14,14内に埋設されている。1対の突出部14,14の上面の位置が床スラブ24の上面の高さに一致しているため、梁端内側部22と床スラブ24とが分離している。1対の突出部14,14が型枠となって、梁端内側部22と床スラブ24とを異なる強度のコンクリートで打ち分けることができる。また、内側筋15と梁部材主筋20との互いの接合は、重ね継手によりなされている。なお、上記実施形態及び他の変形例の継手を重ね継手やあき重ね継手のような公知の継手に変更してもよく、第1変形例の継手を、機械式継手やあき重ね継手のような公知の継手に変更してもよい。また、定着部17として、定着金物を使用した例を図示している。
図10に示す第2変形例に係る柱梁接合構造10は、梁部材本体18の柱部材11側の端部が、1対の突出部14,14間に入り込んでいる点で、上記実施形態と異なる。梁部材本体18の幅は、1対の突出部14,14の内面間距離に等しいか、それよりもわずかに小さい。このような構成により、型枠を設置する際に、1対の突出部14,14と梁部材本体18との間からのコンクリートの漏れを防ぐための処理が容易となる。
図11に示す第3変形例に係る柱梁接合構造10は、1対の突出部14,14の下端間を架け渡すように柱部材本体13から突出するコンクリート製の下部突出部31を有する点で上記実施形態と異なる。下部突出部31は、平板状をなし、梁端内側部22を打設するときの型枠となる。下部突出部31は、型枠としての強度を確保するための鉄筋32を有するが、コンクリート部分だけで必要な強度を確保できる場合は鉄筋32を省略できる。また、鉄筋32を、外側筋16と同様の機能を有する梁の主筋としてもよい。
図12に示す第4変形例に係る柱梁接合構造10は、梁部材本体18の柱部材11側の端部が、下部突出部31に載せられている点で第3変形例と異なる。下部突出部31は、梁部材12を所定の位置に配置後、機械式継手19で梁部材主筋20を内側筋15に連結するまで、梁部材12を支持できるように、鉄筋32を有する。梁部材本体18の下面が下部突出部31の下面に面一となるように、梁部材本体18の柱部材11側の端部には下側に切欠き33が設けられている。機械式継手19で梁部材主筋20を内側筋15に連結する前に、梁部材12をクレーンから取り外すことができるため、効率的に作業を行える。
図13に示す第5変形例に係る柱梁接合構造10は、1対の突出部14,14の内面に、梁端内側部22に係合するコッター34が形成されている点で、上記実施形態と異なる。図13Aでは、梁端内側部22、上下方向の中間位置に配置された内側筋15及び梁部材主筋20、並びにあばら筋21の図示を省略し、図13Bでは、梁端内側部22の図示を省略している。コッター34は、角錐台形状をなし、プレキャストコンクリートによって形成されている。梁端内側部22には、現場打ちコンクリートの打設によりコッター34に補完的な形状の凹部35が形成されている。コッター34及び凹部35により、柱部材11及び梁端内側部22間の一体性が向上する。なお、1対の突出部14,14の内面に凹部35を設け、現場打ちコンクリートの打設により凹部35に補完的なコッター34を形成してもよい。
図14に示す第6変形例に係る柱梁接合構造10は、1対の突出部14,14と梁端内側部22との間にU形筋36が設けられている点で上記実施形態と異なる。図13A及びBは、それぞれ、図12A及びBと同様に一部の部材の図示を省略している。U形筋36の両端部が突出部14に埋設され、中間部が梁端内側部22に埋設される。U形筋36の1対の突出部14,14への取り付けは、1対の突出部14,14へのコンクリートの打設前に行ってもよく、1対の突出部14,14へのコンクリートの打設後であって柱部材11の構築位置への配置前に行ってもよい。U形筋36が突出部14及び梁端内側部22を互いに連結する差し筋として機能するため、プレキャストコンクリート製の突出部14と現場打ちコンクリート製の梁端内側部22との一体性が向上する。
図15に示す第7変形例に係る柱梁接合構造10は、プレキャストコンクリート製の突出部14と現場打ちコンクリート製の梁端内側部22とを互いに連結するのがJ形状の補強筋37である点で第6変形例と異なる。図15Bでは、床スラブ24の図示を省略している。補強筋37は、水平方向に延在する鉄筋の両端部を上方に向けて90°屈折させた形状をなし、上下方向長さの短い側が突出部14に埋設され、上下方向長さの長い側が梁端内側部22に埋設される。補強筋37は、梁の幅方向の一方及び他方のそれぞれ配置されたものを1組として、複数組みの補強筋37が、梁の長尺方向に所定の間隔をおいて設けられる。各々の補強筋37は、短端側において突出部14内の外側筋16に沿い、長端側においてその外側筋16に近接する側に並んだ内側筋15に沿い、水平方向に延在する中間部において最も下側に位置する内側筋15及び外側筋16に沿うように配置される。補強筋37は、そのJ字形状の内周側においてこれらの内側筋15及び外側筋16に接するように配置される。
補強筋37は、突出部14へのコンクリート打設前に柱部材11に対して所定の位置に配置される。補強筋37の中間部は、最も下側の内側筋15及び外側筋16の下方に位置し、補強筋37の長端側は上下方向に延在するため、構築位置に配置するために梁部材12を上方から下方に向かって移動させることを阻害しない。端部あばら筋21aは、仮設置されず、梁部材12を柱部材11に対して所定の位置に配置した後に設置される。補強筋37が突出部14及び梁端内側部22を互いに連結する差し筋として機能するため、プレキャストコンクリート製の突出部14と現場打ちコンクリート製の梁端内側部22との一体性が向上する。また、補強筋37は、せん断補強筋としても作用する。
図16に示す第8変形例に係る柱梁接合構造10は、J形状の補強筋38の中間部の長さが、第7変形例の補強筋37のものよりも長い点で第7変形例と異なる。図15Bでは、床スラブ24の図示を省略している。各々の補強筋38は、短端側において突出部14内の外側筋16に沿い、長端側においてその外側筋16と梁の幅方向の反対側の外側筋16に近接する側に並んだ内側筋15に沿い、水平方向に延在する中間部において最も下側に位置する内側筋15及び外側筋16に沿うように配置される。補強筋38は、そのJ字形状の内周側においてこれらの内側筋15及び外側筋16に接するように配置される。従って、組みをなす2つの補強筋38の水平方向に延在する中間部は、互いに一部が重なっている。第8変形例に係る柱梁接合構造10は、第7変形例に対して、同様の施工手順により構築され、同様の作用効果を有する。
図17に示す第9変形例に係る柱梁接合構造10は、J形状の補強筋38の長端側の一部に重なるように、内側筋15に沿って配置されたU形状のせん断補強筋39を有する点で第8変形例と異なる。せん断補強筋39は、水平方向に延在する鉄筋に対してその両端部を下方に向かって90°屈曲させた形状を有し、両端部の上下方向長さは略等しい。せん断補強筋39は、補強筋38と同様に、梁の延在方向において所定の間隔で配置される。せん断補強筋39は、そのU字形状の内周側で、上部内側筋15a及び一部の下部内側筋15b(下部内側筋15bの内、上側に配置されたもの)に隣接するように配置される。せん断補強筋39は、梁部材12を柱部材11に対して所定の位置に配置した後に、上方からかぶせるように設置される。せん断補強筋39と、互いに組みをなす2つの補強筋38とで内側筋15を囲うため、これらは、端部あばら筋21aと同様の働きをする。よって、端部あばら筋21aを省略すること、又は端部あばら筋21aの数を減らすことができる。
図18に示す第10変形例に係る柱梁接合構造10は、1対の突出部14,14の各々の梁の幅方向の寸法が大きく、外側筋16が梁の幅方向の両側で、それぞれ複数列になっている点で上記実施形態と異なる。1対の突出部14,14及び梁端内側部22によって構成される梁の端部は、上下寸法よりも幅寸法が大きい扁平形となっており、1対の突出部14,14の外面間距離は、柱部材11の幅寸法に略等しくなっている。補強筋23は、上下方向に沿って列をなす外側筋16の各列に沿って設置される。第10変形例に係る柱梁接合構造10は、ヒンジリロケーションを確実にするために、外側筋16の量を増やしたい場合に好適である。
図19に示す第11変形例に係る柱梁接合構造10のように、第10変形例よりも扁平の度合いが大きくし、1対の突出部14,14の外面間距離を、柱部材本体13の幅よりも大きくしてもよい。さらに、図20に示す第12変形例のように、補強筋23を、幅方向の両側のそれぞれに配置された外側筋16を囲むように設けてもよい。
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。柱部材を現場打ちコンクリートで構築してもよい。また、柱部材の運搬に要するスペースを小さくするため、柱部材本体をプレキャストコンクリートとし、突出部のコンクリートを建設現場の作業ヤードで打設してもよい。