以下で、一実施形態である車両用燃料ポンプ制御装置について、添付した図面を参照しながら説明する。各実施の形態において同一の構成については、同一の符号を付す。
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る車両用燃料ポンプ制御装置1を用いた燃料供給システムの構成例を示す概略図である。実施の形態1に係る車両用燃料ポンプ制御装置1を用いた燃料供給システムは、車両用燃料ポンプ制御装置1、燃料ポンプ2、燃料フィルター3、燃料タンク4、エンジン制御装置5、エンジン6、燃料噴射装置7、高圧ポンプ8、燃料ポンプ2の吐出側に設けられた燃料圧力センサ9、水温センサ10、外気温センサ11、外気温センサ11からの温度情報を取得する車室内温度制御装置12、及び吐出側配管40を備える。
車両用燃料ポンプ制御装置1は、燃料ポンプ2が有するブラシレスモータ20の回転を制御する。ブラシレスモータ20の目標回転速度は、エンジン6の運転状況に応じてエンジン6への燃料の吐出量を制御するエンジン制御装置5が設定し、指令値として、車両用燃料ポンプ制御装置1に送信される。そして、車両用燃料ポンプ制御装置1の制御部13は、この目標回転速度に基づいて、ブラシレスモータ20の回転を制御する。なお、エンジン制御装置5から送信される指令値は、ブラシレスモータ20の目標回転速度だけでなく、ブラシレスモータ20に印加する電圧、または駆動電量、あるいはトルクであってもよい。
車両用燃料ポンプ制御装置1によって燃料ポンプ2が駆動されると、燃料タンク4に蓄積された燃料が燃料フィルター3を介して燃料ポンプ2に吸引される。吸引された燃料は、燃料ポンプ2の内部で昇圧される。そして、昇圧された燃料は、燃料ポンプ2の吐出管と接続された吐出側配管40を経て、高圧ポンプ8に送られる。高圧ポンプ8は、エンジン6と連動して動作し、エンジン6が作動すると、燃料ポンプ2から送られてきた燃料をさらに昇圧し、燃料噴射装置7に供給する。そして、燃料噴射装置7からエンジン6のシリンダー内に燃料が噴射される。なお、エンジン制御装置5は、吐出側配管40における燃料ポンプ2と高圧ポンプ8との間に設けられた燃料圧力センサ9、エンジン6を冷却する冷却水の温度である水温を検出する水温センサ10や、燃料ポンプ2が搭載される車両外部の温度である外気温を検出する外気温センサ11から、各々のセンサによる検出値を得ることができる。また、エンジン制御装置5は、外気温センサ11からの外気温の情報を、車室内温度制御装置12を介して得る。
図2は、実施の形態1に係る車両用燃料ポンプ制御装置1の構成例を示すブロック図である。車両用燃料ポンプ制御装置1は、エンジン制御装置5及び燃料ポンプ2と接続されている。また、車両用燃料ポンプ制御装置1は、エンジン制御装置5が設定した目標回転速度に基づいて燃料ポンプ2が有するブラシレスモータ20の回転を制御する制御部13、ブラシレスモータ20を駆動する駆動回路14、ブラシレスモータ20の駆動に用いられる電流である駆動電流を検出する電流検出部15、ブラシレスモータ20の回転速度を検出する速度検出部16、燃料ポンプ2の吸入口で発生したベーパーを検出するベーパー検出部17、及び記憶部18を備えている。なお、車両用燃料ポンプ制御装置1及び燃料ポンプ2のブラシレスモータ20を駆動するための電力は、図示しないバッテリーから電源ケーブル及び電源回路を介して、車両用燃料ポンプ制御装置1に供給される。また、記憶部18は、エンジン制御装置5が設定した目標回転速度、電流検出部15により検出された駆動電流、速度検出部16により検出された回転速度、及び各目標回転速度でブラシレスモータ20が回転する時の駆動電流の基準値である電流基準値を記憶している。
図3は、実施の形態1に係る燃料ポンプ2を燃料ポンプ2が有するブラシレスモータ20の回転軸に沿って切断した場合の燃料ポンプ2の断面図である。燃料ポンプ2は、ブラシレスモータ20及びポンプ部22を備えている。燃料ポンプ2は、ポンプ部22の備えるインペラ110の回転により、図3の下方に示す吸入口115から燃料を吸入し、その燃料を昇圧して、図3の上方に示す吐出管116から昇圧された燃料を吐出する。
ポンプ部22は、インペラ110、下ケーシング111及び上ケーシング112を備える。インペラ110は、燃料ポンプ2の吸入側から吐出側に向かう方向において下ケーシング111及び上ケーシング112に挟まれるように配置され、インペラ110を中心に吸入側に下ケーシング111が、吐出側に上ケーシング112が位置する。インペラ110は、円盤状を成し、その円盤の両表面には周方向に並ぶ複数の羽根溝119が設けられている。インペラ110は、ブラシレスモータ20から伸びるロータシャフト106に固定され、ロータシャフト106と共に回転する。また、上ケーシング112のインペラ110側の表面(下面)及び下ケーシング111のインペラ110側の表面(上面)には、ロータシャフト106と平行な方向から見たときに環状を成す溝130が形成されている。また、溝130の位置は、ロータシャフト106の中心軸と平行な方向から見たときに羽根溝119と重なっている。さらに、溝130の幅は一定であり、その深さは、燃料の吸入側から排出側に向かって浅くなっていく。つまり、溝130により形成される燃料の流路は、吸入側から排出側に向かって狭くなる。その結果、インペラ110の回転によって、羽根溝119が流動させる燃料の圧力は、溝130を通過することで、吸入側から排出側に向かうにつれて高くなる。なお、溝130を通過した燃料は、上ケーシング112に設けられた排出口を通過してブラシレスモータ20に排出され後、さらにブラシレスモータ20内を通過して、吐出管116から吐出される。また、吐出管116からの燃料の逆流を防ぐために、吐出管116には逆止弁114が設けられている。
ブラシレスモータ20は、三相交流ブラシレスモータであり、ステータ99、ロータ120、ロータシャフト106を備える。
ステータ99は、円筒状を成し、ステータ鉄心100及びステータコイル101を有している。ステータ鉄心100は、鉄等の磁性材料で形成される。ステータコイル101は、ステータ鉄心100に巻回され、三相巻線を構成する。ステータコイル101が巻回されたステータ鉄心100は、その周囲を鉄フレーム103に覆われるとともに、鉄フレーム103に対して固定されている。
ロータ120は、ステータ99の内側に回転可能に収容される。ロータ120は、ロータ鉄心125とロータ鉄心125の周囲に固定されたロータマグネット124を備えている。また、ロータマグネット124は、ロータ鉄心125の周方向にN極とS極とが交互に配置されている。
ロータシャフト106は、ロータ120の中心に圧入固定され、ロータ120とともに回転する。ロータシャフト106は、その一方側が燃料ポンプ2の外形をなすポンプケース113に固定された軸受107に回転可能に支持され、他方側が上ケーシング112に設けられた軸受108に回転可能に支持される。さらに、ロータシャフト106の他方側の端部は、スラスト軸受109により支持されている。
図4は、図3のA−A’断面における断面図である。燃料ポンプ2を駆動するブラシレスモータ20は、4極6スロットの3相ブラシレスモータで構成される。ステータ鉄心100は、U相ステータ鉄心100U1,100U2、V相ステータ鉄心100V1,100V2、およびW相ステータ鉄心100W1,100W2から構成される。ステータコイル101は、U相ステータコイル101U1,101U2、V相ステータコイル101V1,101V2、およびW相ステータコイル101W1,101W2から構成される。そして、U相、V相、W相それぞれに設けられたステータコイル端子102(図3に示す)から、ステータ99の各相のステータコイル101に三相電力が供給されると、ステータ99に回転磁界が生じ、ロータ120とロータシャフト106とが回転する。
次に、図5及び図6を参照しながら、燃料ポンプ2におけるベーパー発生と、実施の形態1に係る車両用燃料ポンプ制御装置1の動作について説明する。また、下記では、ベーパーが発生しやすい状況として、ブラシレスモータ20の目標回転速度が急速に低下した場合を例として説明する。なお、ブラシレスモータ20の目標回転速度は、エンジン制御装置5が設定し、エンジン制御装置5からの指令として、車両用燃料ポンプ制御装置1に送信される。この指令に含まれる目標回転速度に基づいて、車両用燃料ポンプ制御装置1の制御部13が、ブラシレスモータ20の回転を制御する。
図5は、実施の形態1に係る車両用燃料ポンプ制御装置1におけるベーパー発生に関するタイミングチャートである。図6は、燃料の温度、燃料の圧力、燃料の飽和蒸気圧及び図5のタイミングチャートに示される各時間における燃料の状態の関係を示す図である。なお、図6のQt1は図5の時刻T1における燃料の状態を表し、図6のQt2は図5の時刻T2における燃料の状態を表し、図6のQt3は図5の時刻T3における燃料の状態を表し、図6のQt4は図5の時刻T4における燃料の状態を表し、図6のQt5は図5の時刻T5における燃料の状態を表し、図6のQt6は図5の時刻T6における燃料の状態を表す。
図5(a)の実線で示されるブラシレスモータ20の目標回転速度が、時刻T1において下がると、これに合わせて、車両用燃料ポンプ制御装置1は、燃料ポンプ2に内蔵されたブラシレスモータ20への印加電圧を低減し、図5(a)の一点鎖線で示されるブラシレスモータ20の実際の回転速度を目標回転速度に合うように低下させる。このとき、図5(b)に示すように、車両用燃料ポンプ制御装置1の電源電流も低下する。また、ブラシレスモータ20の回転速度の低下に伴って、燃料ポンプ2の吸引力が低下する。その結果、燃料ポンプ2における吸入口115の燃料の圧力は、燃料タンク4に貯められた燃料全体の圧力に近づく。これにより、図5(c)に示すように、燃料ポンプ2の吸入口115の燃料の圧力は上昇する。なお、車両用燃料ポンプ制御装置1の電源電流は、駆動回路14に接続された駆動電流を電流検出部15で検出することにより、間接的に検出することができる。
ところで、吸入口115における燃料の温度は、ブラシレスモータ20の減速とともに上昇する。具体的には、ブラシレスモータ20が高速で回転し、燃料ポンプ2を多くの燃料が短時間で通過する場合には、ブラシレスモータ20の回転によって発生した熱の大部分が、燃料ポンプ2を通過する燃料によって奪われていく。その結果、ブラシレスモータ20で発生した熱が鉄フレーム103を経由して吸入口115へ伝達されても、吸入口115における燃料の温度を著しく上昇させるといった事態には至らない。しかし、図5(a)に示すように、ブラシレスモータ20の回転速度が急速に低下し、燃料ポンプ2を通過する燃料が大幅に減少すると、燃料ポンプ2を通過する燃料によって奪われるブラシレスモータ20の熱が、ブラシレスモータ20が高速で回転している場合よりも大幅に減少する。その結果、ブラシレスモータ20で発生した熱が鉄フレーム103を経由して吸入口115へ伝達し、図5(d)に示すように吸入口115における燃料の温度が上昇する。これにより、吸入口115における燃料の状態は、図6に示すように、Qt1からQt2に遷移する、つまり、ベーパーが発生する領域に近づいていく。
時刻T2において吸入口115の燃料にベーパーが発生したあと、車両用燃料ポンプ制御装置1のベーパー検出部17がベーパーを検出する時刻T3まで、図6に示すように、吸入口115における燃料の温度は上昇し続ける。そして、図5(e)に示すように、時刻T3においてベーパー検出部17がベーパーを検出すると、その信号を受け、制御部13は、図5(f)に示すように、ブラシレスモータ20を停止する。なお、ベーパー検出部17によるベーパーの検出方法については、後述する。
時刻T3において、ブラシレスモータ20が停止すると、燃料ポンプ2から燃料が吐出されなくなるため、図2に示される燃料ポンプ2の逆止弁114が閉じる。その結果、図5(c)及び図6に示すように、吸入口115の燃料の圧力が一気に上昇する。その後、ブラシレスモータ20の停止により、ブラシレスモータ20からの発熱が抑えられ、図5(d)及び図6に示すように、吸入口115の温度が下がり始める。
ブラシレスモータ20の停止後、時刻T4になると吸入口115における燃料のベーパーが消失し始める。さらに時間が経過し時刻T5になると、吸入口115における燃料の圧力及び温度が、図6のQt5に示すように、ベーパーがほとんど発生しない領域に達する。そして、時刻T5において、車両用燃料ポンプ制御装置1の制御部13は、エンジン制御装置5により設定されたブラシレスモータ20の目標回転速度に合うように、再び、ブラシレスモータ20の回転速度を制御する。結果として、図5(d)及び図6に示すように、吸入口115における燃料の温度は上昇するものの、ベーパーが発生する領域には達しない。従って、時刻T3から時刻T5までブラシレスモータ20の回転を停止させたことで、ベーパーの発生が抑制されたといえる。
次に、ベーパー検出部17を用いたベーパーの検出方法について説明する。ベーパー検出部17は、ブラシレスモータ20の駆動に用いられる電流である駆動電流を、駆動回路14と接続された電流検出部15から取得し、この駆動電流の値から吸入口115におけるベーパーの発生を検出する。具体的に以下で説明する。
吸入口115でベーパーが発生すると、燃料ポンプ2を通過する燃料の密度が低くなる。これにより、燃料ポンプ2のインペラ110を回転させるための負荷が軽くなる。これに伴って、インペラ110を駆動させるブラシレスモータ20の負荷も軽くなる。その結果、ある回転速度を維持してブラシレスモータ20を回転させる際、吸入口115にベーパーが発生していない状態とベーパーが発生している状態とでは、ベーパーが発生している状態の方が、ブラシレスモータ20の駆動電流の値が低くなる。そこで、車両用燃料ポンプ制御装置1のベーパー検出部17は、ブラシレスモータ20がある目標回転速度で回転する時の駆動電流の基準値として記憶部18に記憶されている電流基準値と、ブラシレスモータ20が目標回転速度に追従して回転しているとみなせる時に電流検出部15により検出された駆動電流の値である電流検出値とを比較する。そして、ベーパー検出部17は、電流検出値が電流基準値よりも小さい場合には、燃料ポンプ2の吸入口115でベーパーが発生した判定する。このようにして、ベーパー検出部17は、燃料ポンプ2の吸入口115で発生するベーパーを検出できる。
次に、図7のフローチャートを参照して、燃料ポンプ2の吸入口115におけるベーパーの発生を抑制する制御について説明する。図7は、実施の形態1に係る車両用燃料ポンプ制御装置1における制御のフローチャートである。車両用燃料ポンプ制御装置1における制御は、燃料ポンプ2が燃料を供給するエンジンの始動により開始される。
エンジンが始動すると、ステップS101にて、エンジン制御装置5から送信されてきたブラシレスモータ20の目標回転速度が記憶部18に記憶される。そして、ステップS102にて、制御部13は、記憶部18を参照して、ブラシレスモータ20の回転速度が目標回転速度となるように、駆動回路14を介してブラシレスモータ20を制御する。つまり、制御部13は、目標回転速度に応じた電圧を、駆動回路14を介してブラシレスモータ20に印加する。
次に、ステップS103にて、速度検出部16が、ブラシレスモータ20の回転速度を検出するとともに、電流検出部15が、駆動電流を検出する。ステップS104にて、速度検出部16が検出した回転速度が検出回転速度として記憶部18に記憶されるとともに、電流検出部15が検出した駆動電流が、電流検出値として記憶部18に記憶される。
そして、ステップS105にて、ベーパー検出部17は、記憶部18から、目標回転速度と検出回転速度を読み込む。さらに、ステップS106にて、ベーパー検出部17は、目標回転速度及び検出回転速度の差の絶対値である回転速度偏差を算出する。
ステップS107にて、ベーパー検出部17は、回転速度偏差が予め定められた値以上であるか未満であるかを判定する。回転速度偏差が予め定められた値以上である場合には、本制御は、再びステップS101に戻る。回転速度偏差が予め定められた値未満である場合、つまり、目標回転速度と検出回転速度の差の絶対値が予め定められた値よりも小さい場合には、本制御は、ステップS108に進み、駆動電流の比較動作に移る。なお、回転速度偏差が予め定められた値以上である場合に駆動電流の比較動作に移らない理由は、回転速度偏差が予め定められた値以上のときは、ブラシレスモータ20が目標回転速度になる前の過渡状態であり、このような状態では、ブラシレスモータ20が目標回転速度に追従して回転しているとみなせないため、上述の検出方法によりベーパーを検出することが困難だからである。また、回転速度偏差について予め定められた値とは、検出回転速度が目標回転速度に追従しているか否かを判断するための値であり、例えば、回転速度の検出誤差以上の値である。なお、ステップS107からステップS101に再び戻った場合には、エンジン制御装置5から新たに送信されてきたブラシレスモータ20の目標回転速度が記憶部18に記憶され、この目標回転速度に基づいて、ステップS102以降の制御が行われる。
ステップS108にて、ベーパー検出部17は、記憶部18から、電流基準値及び電流検出値を読み込む。
ステップS109にて、ベーパー検出部17は、電流基準値と電流検出値の差を算出する。そして、ステップS110にて、ベーパー検出部17は、電流基準値から電流検出値を引いた値である電流変化値が正であるか否かを判定する。電流変化値が正である場合、つまり電流検出値が電流基準値よりも小さい場合には、ベーパーが発生したと判定し、ステップS111にて、ベーパー検出部17は、ベーパー発生状態であるフラグを立て、その信号を制御部13に送信する。電流変化値が0以下である場合には、つまり電流検出値が電流基準値以上の場合には、ベーパーは発生していないと判定して、本制御はステップS101に戻る。なお、ステップS110からステップS101に再び戻った場合には、エンジン制御装置5から新たに送信されてきたブラシレスモータ20の目標回転速度が記憶部18に記憶され、この目標回転速度に基づいて、ステップS102以降の制御が行われる。
ステップS112にて、制御部13は、ベーパー検出部17からのベーパー発生の信号を受信する。その後、制御部13は、ステップS113にて、ブラシレスモータ20を停止する。そして、制御部13は、ステップS114にて、制御部13に内蔵されたタイマーによる経過時間の計測を開始する。
続くステップS115において、制御部13は、タイマーの経過時間がブラシレスモータ20を停止させる時間として予め定められた時間Taになったか否かを判定する。また、タイマーの経過時間が予め定められた時間Taになるまで、本ステップは繰り返される。そして、タイマーの経過時間が時間Taを経過すると、本制御は、ステップS116に進む。なお、予め定められた時間Taとは、例えば、事前に実験により求められた値である。具体的には、ブラシレスモータ20を停止させる時間が短すぎると吸入口115の温度が十分に下がりきらず、ブラシレスモータ20の回転再開後に、再びベーパーが発生する。これを防ぐために、予め定められた時間Taとは、ブラシレスモータ20の回転再開後も、ベーパーが発生しない程度に、ブラシレスモータ20を停止させる時間である。
ステップS116にて、制御部13は、ベーパー検出部17に対してベーパー発生を示すフラグを下ろすように命令し、ベーパー検出部17のベーパー発生フラグは下ろされる(ベーパー発生フラグリセット)。そして、ステップS117にて、制御部13は、ブラシレスモータ20の停止を解除する。その後、本制御は、ステップS101に戻る。なお、ステップS116からステップS101に再び戻った場合には、エンジン制御装置5から新たに送信されてきたブラシレスモータ20の目標回転速度が記憶部18に記憶され、この目標回転速度に基づいて、ステップS102以降の制御が行われる。
以上のように構成された車両用燃料ポンプ制御装置1では、ブラシレスモータを有する燃料ポンプ2の吸入口115におけるベーパーの発生を抑制することができる。具体的には、車両用燃料ポンプ制御装置1では、ベーパー検出部17が燃料ポンプ2の吸入口115で発生したベーパーを検出すると、燃料ポンプ2のブラシレスモータ20を停止させる。その停止から予め定められた時間経過後に、ブラシレスモータ20の回転の停止を解除する。つまり、車両用燃料ポンプ制御装置1では、ベーパー検出部17がベーパーを検出すると、燃料ポンプ2のブラシレスモータ20を停止させ、その停止から予め定められた時間が経過するまでは、ブラシレスモータ20の回転を再開させない。これにより、ブラシレスモータ20が停止後、吸入口115における燃料のベーパーが消失し、さらに時間が経過することで、吸入口における燃料の状態は、ベーパーをほとんど発生しない領域に達する。その後、車両用燃料ポンプ制御装置1の制御部13がブラシレスモータ20の停止を解除することで、吸入口115における燃料の温度は上昇するものの、ベーパーが発生する領域に達することなく、燃料ポンプ2は、その稼働を継続することができる。従って、車両用燃料ポンプ制御装置1では、燃料ポンプ2の吸入口115におけるベーパーの発生を抑制することができる。
また、車両用燃料ポンプ制御装置1では、吸入口115で発生したベーパーを検出するための特別なセンサを必要としない。具体的には、車両用燃料ポンプ制御装置1のベーパー検出部17は、記憶部18に記憶された目標回転速度と速度検出部16により検出された検出回転速度の差の絶対値が予め定められた値よりも小さい場合、つまり、ブラシレスモータ20が目標回転速度に追従して回転しているとみなせる場合であって、電流検出部15が検出した駆動電流の値である電流検出値が電流基準値よりも小さい場合には、燃料ポンプ2の吸入口115でベーパーが発生したと判定する。このようにして、車両用燃料ポンプ制御装置1では、駆動電流を介して燃料ポンプ2の吸入口115で発生するベーパーを検出できるため、例えば、燃料タンク4内の燃料の圧力や温度を検出するような各種のセンサを必要としない。
実施の形態2.
図8は、実施の形態2に係る車両用燃料ポンプ制御装置1Aの構成例を示すブロック図である。図8において、図2と同一又は相当する部分は、同一の符号を付し説明を省略する。
実施の形態2である車両用燃料ポンプ制御装置1Aと実施の形態1である車両用燃料ポンプ制御装置1との相違点は、燃料ポンプ2の吸入口115で発生するベーパーの検出方法である。従って、ベーパー検出部17Aが実施の形態1と異なる部分である。また、ベーパーの検出方法の相違に伴って、記憶部に記憶される内容も実施の形態1と異なるため、実施の形態2における記憶部の符号を18Aとする。
前述のとおり、ある回転速度を維持してブラシレスモータ20を回転させる際、吸入口115にベーパーが発生していない状態とベーパーが発生している状態とでは、ベーパーが発生している状態の方が、ベーパーが発生していない状態よりも、ブラシレスモータ20を駆動させるために必要な駆動電流の値が小さくなる。そこで、実施の形態2に係る車両用燃料ポンプ制御装置1Aでは、ベーパー検出部17Aが、ブラシレスモータ20が同一回転速度で回転している状態における異なる時刻の駆動電流の値を比較し、又は、ブラシレスモータ20の回転が加速状態における異なる時刻の駆動電流の値を比較し、先の時刻に検出された駆動電流の値よりも後の時刻に検出された駆動電流の値が小さければ、ベーパーが発生したと判定する。
図9のフローチャートを参照しながら、より具体的に実施の形態2に係る車両用燃料ポンプ制御装置1Aについて説明する。図9は、実施の形態2に係る車両用燃料ポンプ制御装置1Aにおける制御のフローチャートである。図9において、図7で示した実施の形態1に係るフローチャートと同一のステップには同一の符号を付し、説明を省略する。
実施の形態2に係る車両用燃料ポンプ制御装置1Aにおける制御では、エンジンが始動すると、ステップS201として、今回のエンジン始動前に検出されて記憶部18に記憶されていたブラシレスモータ20の回転速度及び駆動電流の値が、初期化される(ゼロリセット)。このとき、便宜的に、速度検出部16がブラシレスモータ20の回転速度を検出し、電流検出部15が駆動電流の値を検出したとして、初期化された回転速度の値が回転速度の前回値として記憶部18Aに記憶され、初期化された駆動電流の値が電流前回値として記憶部18Aに記憶される。なお、以下では、回転速度の前回値となる回転速度を第1の回転速度、第1の回転速度が検出された時刻を第1の時刻と称す。
次に、実施の形態1に係る車両用燃料ポンプ制御装置1における制御と同様に、ステップS101にて、エンジン制御装置5から送信されてきたブラシレスモータ20の目標回転速度が記憶部18Aに記憶され、ステップS102にて、制御部13が目標回転速度に応じた電圧を、駆動回路14を介してブラシレスモータ20に印加すると、図9に示すように、本制御は、ステップS202に進む。
ステップS202では、速度検出部16が、ブラシレスモータ20の回転速度を検出するとともに、電流検出部15も駆動電流の値を検出する。そして、ステップS203では、ステップS202で速度検出部16が検出した回転速度が回転速度の今回値として記憶部18Aに記憶され、電流検出部15が検出した駆動電流の値が電流今回値として記憶部18Aに記憶される。なお、以下では、回転速度の今回値となる回転速度を第2の回転速度、第2の回転速度が検出された時刻を第2の時刻と称す。
ステップS204では、ベーパー検出部17Aが、記憶部18Aから、回転速度の今回値と回転速度の前回値を読み込む。そして、ステップS205にて、ベーパー検出部17Aは、回転速度の今回値と回転速度の前回値の差を算出する。
ステップS206にて、ベーパー検出部17Aは、回転速度の今回値から回転速度の前回値を引いた値である回転速度変化値が0以上であるか否かを判定する。回転速度変化値が0以上である場合、つまり、回転速度の今回値である第2の回転速度が回転速度の前回値である第1の回転速度以上である場合には、本制御は、ステップS207に進む。回転速度変化値が0未満である場合、つまり、回転速度の今回値が回転速度の前回値未満の場合には、本制御はステップS101に戻る。なお、再びステップS101に戻る場合には、ステップS210として回転速度の今回値が回転速度の前回値として記憶部18Aに上書きされ、さらに、ステップS211として電流今回値が電流前回値として記憶部18Aに上書きされた上で、ステップS101に戻る。また、ステップS206からステップS101に再び戻った場合には、エンジン制御装置5から新たに送信されてきたブラシレスモータ20の目標回転速度が記憶部18Aに記憶され、この目標回転速度に基づいて、ステップS102の制御が行われる。その後、ステップS202で再度ブラシレスモータ20の回転速度及び駆動電流が再度検出される。さらに、ステップS202で再度検出された回転速度は、ステップS203で回転速度の今回値として記憶部18Aに記憶され、ステップS202で再度検出された駆動電流の値は、ステップS203で電流今回値として記憶部18Aに記憶される。そして、ベーパー検出部17Aが、ステップS204で回転速度の今回値及び回転速度の前回値を読み込み、ステップS205で回転速度変化値を算出し、ステップS206で回転速度変化値が0以上か判定する。このようなステップが、回転速度の今回値が回転速度の前回値以上になるまで繰り返される。
ステップS207にて、ベーパー検出部17Aは、記憶部18Aから、電流今回値と電流前回値を読み込む。
ステップS208にて、ベーパー検出部17Aは、電流前回値と電流今回値の差を算出する。そして、ステップS209にて、ベーパー検出部17Aは、電流前回値から電流今回値を引いた値である電流変化値が正であるか否かを判定する。電流変化値が正である場合、つまり、電流今回値が電流前回値よりも小さい場合には、ベーパー検出部17Aは、ベーパーが発生したと判定し、ステップS111にて、ベーパー検出部17Aは、ベーパー発生状態であるフラグを立て、その信号を制御部13に送信する。その後、本制御は、ステップS112に進む。また、電流変化値が0以下である場合、つまり、電流今回値が電流前回値以上の場合には、本制御はステップS101に戻る。再びステップS101に戻る場合には、ステップS210として回転速度の今回値が回転速度の前回値として記憶部18Aに上書きされ、さらに、ステップS211として電流今回値が電流前回値として記憶部18Aに上書きされた上で、その後のステップが繰り返される。なお、ステップS209からステップS101に再び戻った場合には、エンジン制御装置5から新たに送信されてきたブラシレスモータ20の目標回転速度が記憶部18Aに記憶され、この目標回転速度に基づいて、その後の制御が行われる。また、ステップS112以降の制御については、実施の形態1で説明した制御と同じであるので、ここでの説明を省略する。
以上のように、実施の形態2である車両用燃料ポンプ制御装置1Aでは、ベーパー検出部17Aは、回転速度の今回値である第2の回転速度が回転速度の前回値である第1の回転速度以上の場合であって、電流今回値が電流前回値よりも小さい場合には、燃料ポンプ2の吸入口115でベーパーが発生したと判定する。このようにしてベーパーを検出することで、車両用燃料ポンプ制御装置1Aでは、ブラシレスモータ20がある目標回転速度で回転する時の駆動電流の基準値である電流基準値を記憶部18Aに予め記憶させておく必要がない。
実施の形態2である車両用燃料ポンプ制御装置1Aにおける他の構成は、実施の形態1である車両用燃料ポンプ制御装置1と同様である。従って、実施の形態2である車両用燃料ポンプ制御装置1Aにおける他の構成、効果は、実施の形態1である車両用燃料ポンプ制御装置1での説明のとおりである。
実施の形態3.
図10は、実施の形態3に係る車両用燃料ポンプ制御装置1Bの構成例を示すブロック図である。図10において、図2と同一又は相当する部分は、同一の符号を付し説明を省略する。
実施の形態3である車両用燃料ポンプ制御装置1Bと実施の形態1である車両用燃料ポンプ制御装置1との相違点は、燃料ポンプ2の吸入口115で発生するベーパーの検出方法である。従って、ベーパー検出部17Bが実施の形態1と異なる部分である。また、ベーパーの検出方法の相違に伴って、記憶部に記憶される内容も実施の形態1と異なるため、実施の形態3における記憶部の符号を18Bとする。
図11は、ベーパー発生前からベーパーロック発生時までのブラシレスモータ20の相電流と車両用燃料ポンプ制御装置1Bの電源電流との関係を示す図である。図12は、ベーパー発生前から初期ベーパー発生時におけるブラシレスモータ20の相電流と車両用燃料ポンプ制御装置1Bの電源電流との関係を示す図である。図13は、初期ベーパー発生時におけるブラシレスモータ20への制御信号、ブラシレスモータ20の相電流及び車両用燃料ポンプ制御装置1Bの電源電流との関係を示す図である。図14は、燃料ポンプが正常動作している状態におけるブラシレスモータ20への制御信号、ブラシレスモータ20の相電流及び車両用燃料ポンプ制御装置1Bの電源電流との関係を示す図である。
実施の形態3である車両用燃料ポンプ制御装置1Bでは、燃料ポンプ2の吸入口115で発生するベーパーの検出方法として、車両用燃料ポンプ制御装置1Bの電源電流の波形から、ベーパーを検出する。なお、車両用燃料ポンプ制御装置1Bの電源電流は、ブラシレスモータ20の駆動電流を検出することで確認することができる。つまり、車両用燃料ポンプ制御装置1Bの電源電流は、電流検出部15により間接的に検出することができる。
具体的には、燃料ポンプ2でベーパーが発生する場合には、図11に示すように、燃料ポンプ2が正常動作している状態である正常動作区間T301から、ベーパーがわずかに発生する状態である初期ベーパー発生区間T302へ移行した後に、燃料ポンプ2が再び正常動作している状態である正常動作復帰区間T303に移行する。その後、実際にベーパーロックが発生するベーパーロック発生区間T304に移行する。
ここで、燃料ポンプ2に用いられるブラシレスモータ20が3相交流ブラシレスモータの場合、図12に示すように、車両用燃料ポンプ制御装置1Bの電源電流の値は、3相ブラシレスモータの相電流周期の1/6の時間と同期したリップルが発生しているものの、正常動作区間T301ではほぼ一定の値を保っている。しかし、初期ベーパー発生区間T302では、車両用燃料ポンプ制御装置1Bの電源電流の波形が、ブラシレスモータ20の相電流の周期に近い周期で波打つことを、本願発明者は見出した。
そこで、車両用燃料ポンプ制御装置1Bでは、電流検出部15が、図13に示すように、第3の時刻T3Bにおける駆動電流の値である第3の電流値と、ブラシレスモータ20の相電流周期の1/6のN倍(Nは自然数)に相当する時間が第3の時刻T3Bから経過した時である第4の時刻T4Bにおける駆動電流の値である第4の電流値を検出する。次に、ベーパー検出部17Bが、第3の電流値と第4の電流値の値との差の絶対値D1が、予め定められた値以上であるか判定する。このとき、絶対値D1が予め定められた値以上の場合には、車両用燃料ポンプ制御装置1Bの電源電流の波形がブラシレスモータ20の相電流の周期に近い周期で波打っていると推定できる。従って、第3の電流値と第4の電流値との差の絶対値D1が、予め定められた値以上である場合にはベーパーが発生したと判定できる。なお、予め定められた値とは、事前に実験により求められた値であり、第3の電流値と第4の電流値との差の絶対値D1が予め定められた値以上の場合には、車両用燃料ポンプ制御装置1Bの電源電流の波形が、ブラシレスモータ20の相電流の周期に近い周期で波打っていると予想するための閾値となる値である。また、図13に示す例では、ブラシレスモータ20の相電流周期の1/6の2倍に相当する時間が第3の時刻T3Bから経過した時を第4の時刻T4Bとしているが、例えば、ブラシレスモータ20の相電流周期の1/6の5倍に相当する時間が第3の時刻T3Bから経過した時を第4の時刻T4Bとしてもよい。従って、第4の時刻T4Bは、ブラシレスモータ20の相電流周期の1/6のN倍(Nは自然数)に相当する時間が第3の時刻T3Bから経過した時である。
ところで、実施の形態3におけるベーパーの検出方法において、第3の時刻T3Bにおける第3の電流値と、ブラシレスモータ20の相電流周期の1/6のN倍に相当する時間が第3の時刻から経過した時である第4の時刻T4Bにおける第4の電流値とを比較する理由は、適当な時間間隔で検出した電流値同士を比較すると、車両用燃料ポンプ制御装置1Bの電源電流の波形が、ブラシレスモータ20の相電流に近い周期で波打っていることを判定できないからである。例えば、燃料ポンプ2が正常動作している状態を示す図14を参照しながら説明すると、ある時刻T5Bで第5の電流値を検出し、その後の任意の時刻T6Bにおける第6の電流値を検出したとする。また、第5の電流値が、車両用燃料ポンプ制御装置1の電源電流に発生しているリップルの谷部分の電流値であり、第6の電流値が車両用燃料ポンプ制御装置1Bの電源電流に発生しているリップルの山部分の電流値であるとする。この場合、燃料ポンプ2が正常動作しているにも関わらず、第5の電流値と第6の電流値の差の絶対値D2が予め定められた値以上になってしまい、結果として、ベーパーを誤検出してしまうことになる。
ここで、車両用燃料ポンプ制御装置1Bの電源電流で発生するリップルは、ブラシレスモータ20の相電流周期の1/6の時間と同期している。従って、図13に示すように、第3の時刻T3Bにおける第3の電流値と、ブラシレスモータ20の相電流周期の1/6のN倍に相当する時間が第3の時刻から経過した時である第4の時刻T4Bにおける第4の電流値とを検出することで、リップルの谷部分の電流値とリップルの山部分の電流値とを検出するという事態が避けられ、結果として、ベーパーの誤検出を抑制できる。
図15のフローチャートを参照しながら、より具体的に実施の形態3に係る車両用燃料ポンプ制御装置1Bについて説明する。図15は、実施の形態3に係る車両用燃料ポンプ制御装置における制御のフローチャートである。図15において、図7で示した実施の形態1のフローチャートと同一のステップには同一の符号を付し、説明を省略する。
実施の形態3に係る車両用燃料ポンプ制御装置1Bのベーパーの発生を抑制する制御では、ステップS102にて、エンジン制御装置5から送信された目標回転速度となるように、ブラシレスモータ20の回転速度の制御を始めると、つまり、制御部13が、目標回転速度に応じた電圧を、駆動回路14を介してブラシレスモータ20に印加すると、図15に示すように、本制御は、ステップS301に進む。
ステップS301では、電流検出部15が第3の時刻T3Bにおける駆動電流の電流値を第3の電流値として検出する。検出された第3の電流値は、ステップS302で、記憶部18Bに記憶される。
ステップS303にて、制御部13は、制御部13に内蔵されたタイマーによる経過時間の計測を開始する。つまり、制御部13は、タイマーをセットする。
続くステップS304にて、制御部13は、タイマーの経過時間がブラシレスモータ20の相電流周期の1/6のN倍に相当する時間になったか否かを判定する。また、タイマーの経過時間がブラシレスモータ20の相電流周期の1/6のN倍に相当する時間になるまで、本ステップは繰り返される。そして、タイマーの経過時間がブラシレスモータ20の相電流周期の1/6周期のN倍に相当する時間になると、本制御は、ステップS305に進む。
ステップS305では、電流検出部15が第4の時刻における駆動電流の電流値を第4の電流値として検出する。検出された第4の電流値は、ステップS306で記憶部18Bに記憶される。そして、ステップS307では、ベーパー検出部17Bが、記憶部18Bから、第3の電流値と第4の電流値を読み込む。
ステップS308にて、ベーパー検出部17Bは、第3の電流値と第4の電流値との差の絶対値D1を算出する。そして、ステップS309にて、ベーパー検出部17Bは、第3の電流値と第4の電流値との差の絶対値D1が予め定められた値以上であるか否かを判定する。第3の電流値と第4の電流値との差の絶対値D1が予め定められた値以上である場合には、ベーパー検出部17Bはベーパーが発生したと判定し、ステップS111にて、ベーパー検出部17Bは、ベーパー発生状態であるフラグを立て、その信号を制御部13に送信する。その後、本制御は、図7で示されるフローチャートと同様にステップS112に進む。第3の電流値と第4の電流値との差の絶対値D1が予め定められた値未満である場合には、ベーパーは発生していないと判定して、本制御はステップS101に戻る。なお、ステップS309からステップS101に再び戻った場合には、エンジン制御装置5から新たに送信されてきたブラシレスモータ20の目標回転速度が記憶部18Bに記憶され、この目標回転速度に基づいて、その後の制御が行われる。また、ステップS112以降の制御については、実施の形態1で説明したベーパーの発生を抑制する制御と同じであるので、ここでの説明を省略する。
以上のように、実施の形態3である車両用燃料ポンプ制御装置1Bでは、まず、電流検出部15が、第3の時刻における駆動電流の値である第3の電流値と、ブラシレスモータ20の相電流周期の1/6周期のN倍(Nは自然数)に相当する時間が第3の時刻から経過した時である第4の時刻における駆動電流の値である第4の電流値を検出する。そして、ベーパー検出部17Bは、第3の電流値と第4の電流値との差の絶対値が、予め定められた値以上の場合には、ベーパーが発生したと判定する。このようにしてベーパーの発生を検出することで、実施の形態3である車両用燃料ポンプ制御装置1Bでは、ベーパーロック発生にいたる前のベーパーがわずかに発生する状態である初期ベーパー発生区間T302でベーパーを検出できる。従って、実施の形態3である車両用燃料ポンプ制御装置1Bでは、早期のベーパーの検出が可能である。なお、実施の形態3では、ベーパー検出部17Bは、第3の電流値と第4の電流値とを検出し比較したが、例えば、駆動電流を3回以上検出し、駆動電流の値の差が最大となる2つの電流値を選択し、それらの電流値の差の絶対値が、予め定められた値以上の場合には、ベーパーが発生したと判定してもよい。このようにすることで、2つの電流値だけを検出してそれらを比較する場合と比べて、より精度よくベーパーを検出できる。また、実施の形態3においてブラシレスモータ20の相電流周期の1/6のN倍に相当する時間を制御部13に内蔵されたタイマーを用いて計測したが、本発明はこれに限定するものではなく、例えばブラシレスモータ20の通電相の切り換えタイミングに同期した信号を用いて相電流周期の1/6のN倍に相当する時間を計測してもよい。さらに、実施の形態3におけるベーパーの検出方法は、目標回転速度が可能な限り一定である状態で行うと、初期ベーパー発生区間T302でのベーパーをより精度よく検出できる。
実施の形態3である車両用燃料ポンプ制御装置1Bにおける他の構成は、実施の形態1である車両用燃料ポンプ制御装置1と同様である。従って、実施の形態3である車両用燃料ポンプ制御装置1Bにおける他の構成、効果は、実施の形態1である車両用燃料ポンプ制御装置1での説明のとおりである。
実施の形態4.
図16は、実施の形態4に係る車両用燃料ポンプ制御装置1Cの構成例を示すブロック図である。図17は、実施の形態4に係る車両用燃料ポンプ制御装置における制御のフローチャートである。図18は、実施の形態4に係るブラシレスモータ20の回転速度と時間の関係を示す図である。実施の形態4である車両用燃料ポンプ制御装置1Cと実施の形態1である車両用燃料ポンプ制御装置1との相違点は、ブラシレスモータ20の回転停止を解除した後の制御である。つまり、ブラシレスモータ20の回転の制御が、実施の形態4と実施の形態1との相違点であるため、実施の形態4に係る車両用燃料ポンプ制御装置1Cの構成例を示す図16では、ブラシレスモータ20の回転を制御する制御部の符号を13Cとしている。
実施の形態4に係る車両用燃料ポンプ制御装置1Cでは、ブラシレスモータ20の回転停止の解除後において、エンジン制御装置5が設定するブラシレスモータ20の目標回転速度よりも、速い回転速度でブラシレスモータ20を制御する。図17のフローチャートを参照しながら、実施の形態4に係る車両用燃料ポンプ制御装置1による制御について具体的に説明する。なお、図17において、図7で示した実施の形態1のフローチャートと同一のステップには同一の符号を付し、説明を省略する。
実施の形態4に係る車両用燃料ポンプ制御装置1Cによる制御では、制御部13Cが、ステップS117にてブラシレスモータ20の停止を解除すると、ステップS401にて、制御部13Cは、エンジン制御装置5が設定した目標回転速度が、予め定められた回転速度よりも遅いか否かを判定する。例えば、実施の形態4では、エンジン制御装置5が設定した目標回転速度が、ブラシレスモータ20の最大回転速度の70%未満かを判定する。そして、エンジン制御装置5が設定した目標回転速度が、ブラシレスモータ20の最大回転速度の70%未満に設定されていた場合には本制御はステップS402に進み、ブラシレスモータ20の最大回転速度の70%以上に設定されていた場合には本制御はステップS102に戻る。なお、予め定められた回転速度は、最大回転速度の70%に限られるものではなく、任意に設定できる。
ステップS402にて、制御部13Cが、ブラシレスモータ20の回転を再開させた時の回転速度を設定し、ブラシレスモータ20を制御する。例えば、本実施の形態4では、制御部13Cは、ブラシレスモータ20の回転を再開させた時の回転速度を、ブラシレスモータ20の最大回転速度の70%の回転速度に設定し、ブラシレスモータ20を制御する。つまり、ステップS402では、制御部13Cが、目標回転速度よりも速い回転速度で、ブラシレスモータ20を回転させる。
そして、制御部13Cは、ステップS403にて、制御部13Cに内蔵されたタイマーによる経過時間の計測を開始する。
続くステップS404にて、制御部13Cは、タイマーの経過時間が、ブラシレスモータ20の回転速度をエンジン制御装置5が設定した目標回転速度に復帰させる時間として予め定められた時間T102になったか否かを確認する。また、タイマーの経過時間が予め定められた時間T102になるまで、本ステップは繰り返される。そして、タイマーの経過時間が時間T102を経過すると、本制御は、ステップS101に戻る。なお、予め定められた時間T102とは、例えば、事前に実験により求められた時間である。具体的には、ブラシレスモータ20の回転速度が、エンジン制御装置5が設定した目標回転速度を十分に上回るために必要な時間である。
以上のように、実施の形態4である車両用燃料ポンプ制御装置1Cでは、図18の実線に示すように、ブラシレスモータ20の停止を解除した時間T1Cの後であってブラシレスモータ20を目標回転速度で回転させる前に、エンジン制御装置5が設定したブラシレスモータ20の目標回転速度よりも速い回転速度で、ブラシレスモータ20を回転させる。これにより、実施の形態4である車両用燃料ポンプ制御装置1Cでは、燃料ポンプ2の吐出管116と接続された吐出側配管40内のベーパーの発生を抑制できる。
具体的には、燃料ポンプ2の吐出管116と接続された吐出側配管40のうちエンジン6近くの部分は、エンジン6からの熱により高温になる。ここで、ブラシレスモータ20の停止により燃料ポンプ2から燃料が吐出されなくなると、吐出側配管40内の燃料の圧力が低下する。このような状態が長期におよぶと吐出側配管40内でベーパーが発生するおそれがある。従って、ブラシレスモータ20の停止後、できるだけ早期に吐出側配管40内の燃料の圧力をブラシレスモータ20の停止前の状態に戻す必要がある。そこで、実施の形態4である車両用燃料ポンプ制御装置1Cでは、目標回転速度が予め定められた回転速度よりも遅い場合に、ブラシレスモータ20の停止を解除した後であってブラシレスモータ20を目標回転速度で回転させる前に、エンジン制御装置5が設定したブラシレスモータ20の目標回転速度よりも速い回転速度で、ブラシレスモータ20を回転させる。これにより、燃料ポンプ2からは、ブラシレスモータ20を目標回転速度で回転させたときよりも短時間に多くの燃料が吐出され、吐出側配管40内の燃料の圧力を早期に回復させることができる。結果として、吐出側配管40内のベーパーの発生を抑制できる。なお、目標回転速度が予め定められた回転速度よりも速い場合に、目標回転速度よりも速い速度でブラシレスモータ20を回転させない理由は、例えば、目標回転速度がブラシレスモータ20の最大回転速度の100%に設定されていた場合には、それ以上に速度を上げることができないから、又は、ある回転速度以上でブラシレスモータ20を回転させても吐出側配管40内の圧力に対する効果が回転速度に比例して得られるとは限らないからである。
実施の形態4である車両用燃料ポンプ制御装置1Cにおける他の構成は、実施の形態1である車両用燃料ポンプ制御装置1と同様である。従って、実施の形態4である車両用燃料ポンプ制御装置1Cにおける他の構成、効果は、実施の形態1である車両用燃料ポンプ制御装置1での説明のとおりである。
実施の形態5.
図19は、実施の形態5に係る車両用燃料ポンプ制御装置1Dの構成例を示すブロック図である。図20は、実施の形態5に係る車両用燃料ポンプ制御装置1Dにおける、水温又は外気温とブラシレスモータの回転を停止させる時間との関係を示す図である。実施の形態5である車両用燃料ポンプ制御装置1Dと実施の形態1である車両用燃料ポンプ制御装置1との相違点は、ベーパーの検出後におけるブラシレスモータ20の回転停止時間を、水温又は外気温により変化させる点である。つまり、ブラシレスモータ20の回転の制御が、実施の形態5と実施の形態1との相違点であるため、実施の形態5に係る車両用燃料ポンプ制御装置1Dの構成例を示すブロック図19では、ブラシレスモータ20の回転を制御する制御部の符号を13Dとしている。
前述のとおり、燃料ポンプ2の吸入口115でベーパーが発生しやすい条件として、燃料の温度が高いこと、及び燃料の圧力が低いことが挙げられる。従って、燃料タンク4に蓄積された燃料の温度が高ければ、燃料ポンプ2の吸入口115に流入する燃料の温度も高くなり、ベーパーが発生しやすくなる。ここで、燃料タンク4に蓄積された燃料の温度は、燃料タンク4周囲の温度に影響を受ける。そこで、実施の形態5に係る車両用燃料ポンプ制御装置1Dでは、燃料タンク4周囲の温度を示す指標として、エンジンを冷却する冷却水の温度である水温、または、車両外部の温度である外気温を使用する。また、車両用燃料ポンプ制御装置1Dは、それらの情報を、エンジン制御装置5及び車室内温度制御装置12を介して取得する。そして、図20に示すように、制御部13Dは、水温又は外気温が高いほど、ベーパー発生検出後におけるブラシレスモータ20の回転を停止させる時間として予め定められた時間Taを長くする。つまり、制御部13Dは、水温が第1の水温T1Wより高い第2の水温T2Wの時における予め定められた時間Taを、第1の水温T1Wの時における予め定められた時間Taよりも長くしている。または、制御部13Dは、外気温が第1の外気温T1Gより高い第2の外気温T2Wの時における予め定められた時間Taを、第1の外気温T1Gの時における予め定められた時間Taよりも長くしている。ただし、予め定められた時間Taがあまりにも長いと、エンジン6に燃料が吐出されなくなりエンジンが止まるため、予め定められた時間Taには上限時間T1Dが設定されている。なお、水温センサ10が検出する水温が高ければ高いほど、エンジン6から排出される排気ガスの温度も高くなる。そして、排気ガスの温度が高いほど、排気ガスを排気するエキゾーストパイプの温度が高くなり、結果として、エキゾーストパイプの周囲に位置する燃料タンク4が温まる。従って、水温センサ10が検出する水温が示す値は、燃料タンク4の周囲の温度を間接的に示している。外気温センサ11が検出する外気温についても、外気温が高いほど、燃料タンク4は温まるため、燃料タンク4の周囲の温度を間接的に示していると言える。
以上のような理由から、実施の形態5である車両用燃料ポンプ制御装置1Dでは、水温又は外気温が高いほど、ベーパー発生検出後におけるブラシレスモータ20の回転を停止させる時間である予め定められた時間Taを長くしている。これにより、実施の形態5である車両用燃料ポンプ制御装置1Dでは、燃料ポンプ2の吸入口115でのベーパーの発生を、実施の形態1である車両用燃料ポンプ制御装置1よりも、さらに効果的に抑制することができる。
実施の形態5である車両用燃料ポンプ制御装置1Dにおける他の構成は、実施の形態1である車両用燃料ポンプ制御装置1と同様である。従って、実施の形態5である車両用燃料ポンプ制御装置1における他の構成、効果は、実施の形態1である車両用燃料ポンプ制御装置1での説明のとおりである。
ここで、上述の各実施の形態に係る車両用燃料ポンプ制御装置1,1A,1B,1C,1Dのハードウェア構成を説明する。図21(a)および図21(b)は、各実施の形態に係る車両用燃料ポンプ制御装置1,1A,1B,1C,1Dのハードウェア構成例を示す図である。車両用燃料ポンプ制御装置1,1A,1B,1C,1Dにおける駆動回路14は、例えば3相インバータである。車両用燃料ポンプ制御装置における制御部13、13C、13D、電流検出部15、速度検出部16、ベーパー検出部17、17A、17B、記憶部18、18A、18Bの各機能は、処理回路により実現される。従って、車両用燃料ポンプ制御装置1,1A,1B,1C,1Dは、上記の各機能を実現するための処理回路を備える。処理回路は、専用のハードウェアとしての処理回路200であってもよいし、メモリ202に格納されるプログラムを実行するプロセッサ201であってもよい。
図21(a)に示すように、処理回路が専用のハードウェアである場合、処理回路200は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)または、これらを組み合わせたものが該当する。制御部13、13C、13D、電流検出部15、速度検出部16、ベーパー検出部17、17A、17B、及び記憶部18、18A、18Bの機能を複数の処理回路200で実現してもよいし、各部の機能をまとめて1つの処理回路200で実現してもよい。
図21(b)に示すように、処理回路がプロセッサ201である場合、制御部13、13C、13D、電流検出部15、速度検出部16、ベーパー検出部17、17A、17B、記憶部18、18A、18Bの各機能は、ソフトウェア、ファームウェア、またはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェアまたはファームウェアはプログラムとして記述され、メモリ202に格納される。プロセッサ201は、メモリ202に格納されたプログラムを読みだして実行することにより、各部の機能を実現する。従って、車両用燃料ポンプ制御装置1,1A,1B,1C,1Dは、プロセッサ201により実行されたときに、図7等のフローチャートで示されるステップが結果的に実行されることになるプログラムを格納するためのメモリ202を備える。また、このプログラムは、制御部13、13C、13D、電流検出部15、速度検出部16、ベーパー検出部17、17A、17B、記憶部18、18A、18Bの手順または方法をコンピュータに実行させるものであるといえる。
ここで、プロセッサ201とは、CPU(Central Processing Unit)、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、またはマイクロコンピュータ等のことである。メモリ202は、RAM(Random Access Memory)、Rom(Read Only Memory)、EPROM(Eraseble Programmable ROM)、またはフラッシュメモリ等の不揮発性もしくは揮発性の半導体メモリであってもよいし、ハードディスクまたはフレキシブルディスク等の磁気ディスクであってもよいし、CD(Compact Disc)またはDVD(Digital Versaile Disc)等の光ディスクであってもよい。
なお、制御部13、13C、13D、電流検出部15、速度検出部16、ベーパー検出部17、17A、17B、記憶部18、18A、18Bの各機能について、一部を専用のハードウェアで実現し、一部をソフトウェアまたはファームウェアで実現するようにしてもよい。このように、車両用燃料ポンプ制御装置1,1A,1B,1C,1Dにおける処理回路は、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、またはこれらの組み合わせによって、上述の各機能を実現することができる。
他の実施の形態.
本開示に係る車両用燃料ポンプ制御装置は、前述の実施の形態に限らずその要旨の範囲内において変更可能である。例えば、ベーパー検出部17がベーパーの発生を検出した際に、上記の各実施の形態では、ブラシレスモータ20の回転を停止したが、これに代えて、ブラシレスモータ20の回転をエンジン制御装置5が設定した目標回転速度よりも小さい予め定められた回転速度に制限し、ブラシレスモータ20の回転速度の制限から予め定められた時間経過後にブラシレスモータの回転速度の制限を解除してブラシレスモータ20の温度を下げることで、ベーパーの発生を抑制してもよい。また、ベーパー検出の方法は、ブラシレスモータ20の駆動電流によるものでなくても、ベーパーを検出する他の方法、例えば、燃料タンク内の燃料の圧力や温度を検出するような各種のセンサを用いてベーパーを検出する方法であってもよい。さらに、各実施の形態を組み合わせてもよい。