以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
(電池用端子の構成)
まず、図1〜図10を参照して、本発明の一実施形態によるクラッド端子を、クラッド端子が、図1に示すような組電池100に用いられる負極端子20である場合を例に挙げて説明する。
組電池100は、電気自動車(EV、electric vehicle)、ハイブリッド自動車(HEV、hybrid electric vehicle)、および住宅蓄電システムなどに用いられる大型の電池システムである。図1に示すように、組電池100は、複数のリチウムイオン電池1を複数の平板状のバスバー101(点線で図示)を用いて電気的に接続することによって構成されている。
組電池100では、平面的に見てリチウムイオン電池1の短手方向(X方向)に沿って並ぶように、複数のリチウムイオン電池1が配置されている。また、組電池100では、平面的に見て短手方向と直交する長手方向(Y方向)の一方側(Y1側)に正極端子10が位置するとともに、Y方向の他方側(Y2側)に負極端子20が位置するリチウムイオン電池1(1a)と、Y2側に正極端子10が位置するとともに、Y1側に負極端子20が位置するリチウムイオン電池1(1b)とが、X方向に沿って交互に配置されている。
また、所定のリチウムイオン電池1の正極端子10と、所定のリチウムイオン電池1と隣接するリチウムイオン電池1の負極端子20とが、X方向に延在する純Alから構成されるバスバー101のX方向の一方端および他方端に抵抗溶接により接合されている。これにより、リチウムイオン電池1の負極端子20は、バスバー101を介して、隣接するリチウムイオン電池1の正極端子10と接続されている。このようにして、複数のリチウムイオン電池1が直列に接続された組電池100が構成されている。
なお、純Alからなるバスバー101を用いることによって、純Cuからなるバスバーを用いる場合と比べて、バスバー101を軽量化することができるため、複数のバスバー101を用いる組電池100全体を軽量化することが可能である。ここで、純Alとは、たとえば、JIS規格に規定されたA1000番台のアルミニウムを意味している。また、純Cuとは、たとえば、無酸素銅やタフピッチ銅、りん脱酸銅などのJIS規格に規定されたC1000番台の銅を意味している。
<リチウム電池の構造>
リチウムイオン電池1は、図2に示すように、略直方体形状の外観を有している。また、リチウムイオン電池1は、X方向およびY方向(X−Y平面方向)と直交する上下方向(Z方向)の一方側(Z1側)に配置される蓋部材2と、他方側(Z2側)に配置される電池ケース本体3とを備えている。この蓋部材2および電池ケース本体3は、共にNiめっき鋼板からなる。
蓋部材2は、図3に示すように、平板状に形成されている。また、蓋部材2には、Z方向に貫通するように、一対の挿入穴2aおよび挿入穴2bが設けられている。この一対の挿入穴2aおよび挿入穴2bは、蓋部材2のY方向に所定の間隔を隔てて形成されているとともに、蓋部材2のX方向の略中央に形成されている。また、一対の挿入穴2aおよび挿入穴2bには、それぞれ、正極端子10および負極端子20が挿入されるように構成されている。
また、リチウムイオン電池1は、正極4a、負極4bおよびセパレータ4cがロール状に積層された発電素子4と、図示しない電解液とを備えている。正極4aは、正極活物質が塗布されたAl箔から構成されている。負極4bは、負極活物質が塗布されたCu箔から構成されている。セパレータ4cは、正極4aと負極4bとを絶縁する機能を有している。
また、リチウムイオン電池1は、正極端子10と発電素子4の正極4aとを電気的に接続する正極集電体5と、負極端子20と発電素子4の負極4bとを電気的に接続する負極集電体6とを備えている。
正極集電体5は、正極端子10に対応するようにY1側に配置されている。また、正極集電体5は、正極端子10が挿入される穴部5dが形成された接続部5aと、Z2側に延びる脚部5bと、脚部5bと複数の正極4aとを接続する接続板5cとを含んでいる。また、正極集電体5は、正極4aと同様に純Alから構成されている。
負極集電体6は、負極端子20に対応するようにY2側に配置されている。また、負極集電体6は、負極端子20が挿入される穴部6dが形成された接続部6aと、Z2側に延びる脚部6bと、脚部6bと複数の負極4bとを接続する接続板6cとを含んでいる。また、負極集電体6は、負極4bと同様に純Cuから構成されている。
蓋部材2の挿入穴2aおよび2bには、それぞれ、絶縁性を有するシール部材7およびシール部材8が嵌め込まれている。シール部材7には、正極端子10が挿入される穴部7aが形成されている。シール部材7は、蓋部材2のZ1側の上面および挿入穴2aの内側面と正極端子10とが接触するのを抑制するとともに、蓋部材2のZ2側の下面と正極集電体5とが接触するのを抑制するように配置されている。
シール部材8には、負極端子20が挿入される穴部8aが形成されている。シール部材8は、蓋部材2のZ1側の上面および挿入穴2bの内側面と負極端子20とが接触するのを抑制するとともに、蓋部材2のZ2側の下面と負極集電体6とが接触するのを抑制するように配置されている。
図3および図4に示すように正極端子10は、Z方向に延びる円柱状の軸部11と、軸部11のZ1側の端部において、軸部11からZ方向と直交するX−Y平面方向に放射状の広がりを持つように形成された円環状の鍔部12とを有している。
図1および図5に示すように、正極端子10は、正極集電体5およびバスバー101と同様に、純Alから構成されている。また、軸部11のZ2側の端部には、かしめるための凹部13が形成されている。また、正極端子10は、蓋部材2の挿入穴2a(シール部材7の穴部7a)および正極集電体5の穴部5dに挿入された状態で、凹部13を形成する壁部を用いて正極集電体5に対してかしめられるとともに、かしめられた状態で、レーザ溶接により正極集電体5に接合されて固定されている。図5では、溶接部W1を細かい斜線(ハッチング)の領域で表している。なお、軸部11、鍔部12および凹部13を有する正極端子10は、図示しないAl板材に対してプレス加工が行われることにより形成される。
(負極端子の構造)
負極端子20は、図6に示すように、Z方向に延びる円柱状の軸部21と、軸部21のZ1側の端部において、軸部21からX方向およびY方向(以下、X−Y平面方向と記載する)に放射状の広がりを持つように形成された円環状の鍔部22とを有している。軸部21は、負極端子20のX−Y平面方向の略中央に位置するように構成されている。なお、負極端子20は、特許請求の範囲の「クラッド端子」の一例であるとともに、特許請求の範囲の「電池用端子」の一例である。また、X−Y平面方向は、特許請求の範囲の「放射方向」の一例である。
負極端子20は、図6に示すように、軸部21がAl層31側(Z1側)からNi層33側(Z2側)に突出して延びるT字形状を有するか、または、図7に示すように、十字形状を有する。負極端子20が十字形状を有する場合は、負極端子20は、軸部21がAl層31側(Z1側)からNi層33側(Z2側)に突出して延びる第1軸部21aと、Ni層33側(Z2側)への突出長さt1よりも小さい突出長さt2でAl層31側(Z1側)に突出する第2軸部21bとを有する。
また、図6および図8に示すように、軸部21のZ2側の端部には、軸部21のAl層側からNi層側に延びる軸部21のNi層側の先端からさらにZ2側に延びる壁部24に囲まれる凹部23を有する。凹部23は、凹部23を形成する壁部24を用いて負極端子20を負極集電体6に対してかしめるために用いられる。凹部23は、Z2側から見て円状に形成されており、その結果、凹部23が形成された軸部21のZ2側は、円筒状になるように形成されている。つまり、凹部23は、円筒状の壁部24に外側から囲まれた領域に形成されている。
壁部24のNi層33側(Z2側)に延びた先端には、Ni層33から構成されるNi部分33aを有している。Ni部分33aは、Al層31、Cu層32およびNi層33がこの順に積層されて接合されたクラッド材30のNi層33が、後述するプレス加工により、壁部24においてCu層32の表面に位置するとともに、壁部24の先端側(Z2側)に位置することにより形成される。つまり、Ni部分33aは、負極端子20の壁部24のCu層32の軸方向(Z方向)のZ2側の先端面を覆う部分である。また、Ni層33は、壁部24の内壁面と外壁面とを構成している。
図9に示すように、負極端子20は、蓋部材2の挿入穴2b(シール部材8の穴部8a)および負極集電体6の穴部6dに挿入された状態で、負極集電体6に対してかしめられるとともに、かしめられた状態で、Ni層33を介してレーザ溶接により環状に接合されている。これにより、リチウムイオン電池1には、軸部21と、負極集電体6の接続部6aとを接合する溶接部W2(細かい斜線(ハッチング)の領域)がX−Y平面方向において環状に形成されている。
図10に示すように、負極端子20を形成するためのクラッド材30は、純AlまたはAl基合金から構成されたAl層31と、純CuまたはCu基合金から構成されたCu層32と、純NiまたはNi基合金から構成されたNi層33とがZ1側からZ2側に向かって、この順に積層された状態で圧延により接合された、3層構造のクラッド材30である。これにより、クラッド圧延されているAl層31とCu層32との接合された界面において、Al層31とCu層32とが拡散接合されているとともに、クラッド圧延されているCu層32とNi層33との接合された界面において、Cu層32とNi層33とが拡散接合されている。
Al層31を構成する純Alとしては、A1050(JIS規格)、A1100(JIS規格)、A1200(JIS規格)などの約99質量%以上のAlを含む純Alなどを用いることが可能である。また、Al基合金としては、A5052などのA5000番台(JIS規格)を用いてよく、A3000番台(JIS規格)なども用いることが可能である。
Cu層32を構成する純Cuとしては、C1000番台(JIS規格)の、いわゆる、無酸素銅、りん脱酸銅、タフピッチ銅などを用いてよく、結晶の粗大化を抑制するために微量のZrが添加されたC1510(JIS規格)なども用いることが可能である。また、Cu基合金としては、C2600などのC2000番台(JIS規格)などを用いることが可能である。
Ni層33を構成する純Niとしては、JIS規格に規定されたNW2200やNW2201などのニッケルを用いることが可能である。また、Ni基合金としては、JIS規格に規定されたNW4400番台のNi−Cu系合金を用いることが可能である。
ここで、純Niから構成されたNi層33の熱伝導率は約95W/(m・K)であり、純Cuから構成されたCu層32の熱伝導率(約400W/(m・K))よりも小さい。つまり、Cu層32と比べて、Ni層33には熱が蓄積されやすい。また、純Niから構成されたNi層33の表面は、純Cuから構成されたCu層32の表面よりも、レーザ溶接で一般的に用いられる基本波長(1064nm)のレーザ光を反射しにくい。つまり、Ni層33は、Cu層32と比べて、レーザ光を照射した際にレーザ光のエネルギーを吸収しやすく、レーザ光の出力制御が容易になるため、良好なレーザ溶接性が得られる。
図10に示すように、Cu層32を構成する純CuまたはCu基合金は、Al層31を構成する純AlまたはAl基合金よりも硬い。そのため、クラッド材全体の強度を高めるためにCu層32の厚みt4は、Al層31の厚みt3よりも大きいほうが好ましい。また、Ni層33はCu層32よりも硬く、Cu層32よりも厚みが大きいと後述するプレス加工の時にCu層32の延びに追従できずに、割れる可能性がある。そのため、Ni層33のビッカース硬さは230HV以下であるのが好ましいが、Ni層33が軟らか過ぎると負極端子20を形成するときに千切れてCu層32が露出する可能性があるため、Ni層33のビッカース硬さは180HV以上であるのが好ましい。本実施形態では、Ni層33のビッカース硬さは、クラッド材30の厚み方向(Z方向)と直交する方向(X方向)で測定する。また、Ni層33は、その厚みt5をCu層32の厚みt4よりもNi層33が割れない程度まで小さくし、負極端子20を形成した際にCu層32が露出しない程度の厚みにするのが好ましい。たとえば、負極端子20のNi部分33aのZ方向の厚みt7(図6参照)を25μm以上50μm以下に形成しようとする場合、Ni部分33aにおける厚み(t)とビッカース硬さ(h)との比率(h/t)を考慮し、さらにNi部分33aにおけるプレス加工前後の加工率を考慮し、Ni層33の厚みt5を30μm以上80μm以下にすることが好ましい。Ni部分33aにおける上記比率(h/t)および上記加工率については後述する。
図7に示すような十字形状の場合の負極端子20および図9に示すようなT字形状の場合の負極端子20において、Al層31は、軸部21および鍔部22のZ1側に配置されており、軸部21および鍔部22のZ1側の表面および鍔部22の側端部のZ1側において露出している。図7に示す十字形状の負極端子20では、Al層31は、第2軸部21bにバスバー101が配置された状態で、抵抗溶接により、バスバー101に接合されるように構成されている。また、図9に示すT字形状の負極端子20では、Al層31は、Z1側からバスバー101が配置された状態で、抵抗溶接により、バスバー101に接合されるように構成されている。
図6に示すように、Cu層32は、軸部21および鍔部22において、Al層31よりもZ2側に配置されている。壁部24を構成するCu層32は、その表面がNi層33によって覆われていることにより、腐食することが抑制される。また、壁部24を構成するCu層32は、軸部21が延びる方向(Z方向)と直交する方向(Y方向)の厚みt6が大きいほうが好ましく、仮にNi層33に割れに起因してCu層32の表面に腐食が生じた場合であっても、Cu層32の中心部まで腐食しにくくなる。
図6に示すように、Ni層33は、軸部21および鍔部22において、Cu層32よりもZ2側に配置されている。また、Ni層33は、鍔部22のZ2側の部分を構成するCu層32の下面(Z2側の面)の一部分と、軸部21の壁部24を形成するCu層32の部分とを覆うように形成されている。なお、Ni層33のCu層32に接合されていない部分、つまり、Ni層33の表面は外部に露出している。
図6に示すように、本実施形態では、軸部21からさらにZ2側に延びる壁部24の先端にはNi部分33aが位置する。そして、軸部21の軸方向(Z方向)における断面視で、軸部21が延びる方向(Z方向)すなわち軸方向と直交する方向(X−Y平面方向)のNi部分33aの肉厚の中心部CにおけるNi部分33aのZ方向の厚みt7は、たとえば、25μm以上50μm以下である。また、中心部CにおけるNi部分33aのZ方向の厚みt7は、好ましくは、29μm以上45μm以下である。
図6に示すように、軸部21の軸方向(Z方向)と直交する方向(X−Y平面方向)のNi部分33aの肉厚の中心部Cにおけるビッカース硬さは、たとえば、180HV以上230HV以下である。また、中心部CにおけるNi部分33aのビッカース硬さは、好ましくは、190HV以上210HV以下である。また、中心部CにおけるNi部分33aのビッカース硬さは、より好ましくは190HV以上205HV以下である。ビッカース硬さは、ダイヤモンドでできた剛体(圧子)を被試験物に対して押込み、規定の保持時間(10秒〜15秒)経過後に圧子を逃がし、そのときにできるくぼみ(圧痕)の対角線長さと表面積とから硬さが判断される。本実施形態では、図6に示すように、Ni部分33aの軸方向(Z方向)の切断面において、Ni部分33aの肉厚(Y方向の厚み)の略中心で軸方向(Z方向)に直交する方向(X方向)のX1側に向かって245mN(25gf)の試験力で剛体(圧子)を押し込んで規定の保持時間経過後に圧子を逃がし、そのときにできるくぼみ(圧痕)の対角線長さと表面積とを測定してビッカース硬さを算定する。Ni部分33aの軸部21の軸方向(Z方向)と直交するY方向の肉厚(Y方向の厚み)の中心部Cは、上記切断面におけるY方向の中心位置およびその近傍を含む。また、Ni部分33aにおけるビッカース硬さは中心部Cのみを測定してもよいが、中心部Cとその近傍の複数個所を測定し平均するのが好ましい。
本実施形態では、図6に示すように、Ni部分33aの軸部21の軸方向(Z方向)と直交する方向(Y方向)の肉厚(Y方向の厚み)の中心部Cで測定される、Ni部分33aの軸部21の軸方向(Z方向)の厚みをtとし、Ni部分33aの軸部21の軸方向(Z方向)と直交する方向(X方向)のビッカース硬さをhとするとき、厚みtとビッカース硬さhとの比率h/tが、4以上9以下である。そして、Ni部分33aにおける割れの発生抑制の効果およびNi部分33aに起因する負極端子20全体の導電率の低下抑制の効果を高める観点から、好ましくは、4以上7以下である。なお、Ni部分33aの上記厚みtは、図6に示す負極端子20のNi部分33aの厚みt7に対応する。Ni部分33aの上記厚みtと上記ビッカース硬さhとの比率h/tが4以上9以下であれば、負極端子20をプレス加工で形成するときにNi部分33aに割れが発生しない。また、Ni部分33aの上記厚みtと上記ビッカース硬さhとの比率h/tが4以上9以下であれば、Ni部分33aが適切な機械的強さを有するため、負極端子20の壁部24を折り曲げて、かしめて、他の部材(負極集電体6)に固定するときに、Ni部分33aに割れが発生しない。そのため、負極端子20のNi部分33aに下地のCu層32が露出せず、Ni部分33aと他の部材(負極集電体6)とをレーザ溶接により適切に接合(固定)することができる。また、Ni部分33aの上記厚みtと上記ビッカース硬さhとの比率h/tが4以上9以下であれば、負極端子20のNi部分33aを、たとえば、25μm以上50μm以下の適切な厚みにすることができるとともに、さらに29μm以上45μm以上の好ましい厚みにすることができるため、Ni部分33aの厚みに起因する負極端子20全体の導電率の低下(電気抵抗率の増大)を抑制することができる。
(負極端子の製造方法)
次に、図10および図11〜図17を参照して、本実施形態における負極端子20の製造方法について説明する。
まず、図11に示すように、純AlまたはAl基合金により構成される帯状のAl板材131と、純CuまたはCu基合金により構成される帯状のCu板材132と、純NiまたはNi基合金により構成される帯状のNi板材133とを準備する。このとき、作製された図10に示すクラッド材30のNi層33の厚みが、Cu層32およびAl層31よりも小さくなるように、Al板材131およびCu板材132よりも小さい厚みを有するNi板材133を準備する。また、クラッド材30のCu層32の厚みが、Al層31の厚みよりも大きくなるように、Al板材131よりも大きい厚みを有するCu板材132を準備する。なお、Al板材131とCu板材132とNi板材133との厚み比率は、クラッド材30のAl層31とCu層32とNi層33との厚み比率と同じになる。
Cu板材132およびNi板材133は、Al板材131よりも硬く、圧延したときに延びにくい。そこで、圧延したときにAl板材131に追従させて延ばすために、クラッド圧延の前に、必要に応じて、Cu板材132およびNi板材133に対しては軟化焼鈍など、Al板材131に対しては調質圧延など、それぞれの調質工程が行われる。
そして、帯状のAl板材131と、帯状のCu板材132と、帯状のNi板材133とを、この順に積層した状態で、圧延ローラRを用いて所定の圧下率で連続的に圧延を行う。この際、帯状のAl板材131、Cu板材132およびNi板材133の長手方向が、圧延方向になる。これにより、Al板材131と、Cu板材132と、Ni板材133とが、この順に積層された状態で互いに接合(圧延接合)された、帯状のクラッド板材130が作製される。クラッド圧延のパス数は、適宜選択可能である。なお、本願明細書では、圧延後、拡散焼鈍前のクラッド材30をクラッド板材130と記載している。
その後、必要に応じて中間圧延等を行った後に、焼鈍炉50を用いてクラッド板材130を所定の温度環境下で所定時間保持することによって、拡散焼鈍を行う。これにより、Al層31とCu層32とが接合された界面およびCu層32とNi層33とが接合された界面において、それぞれ、適度な金属拡散を生じさせて層間の接合強度を高くする。なお、拡散焼鈍は、Al板材131の溶融防止および過度な金属拡散を生じさせない観点で、Al板材131の融点よりも低い温度で短時間の保持を行うことが好ましい。たとえば、JIS規格A1000系からなるAl板材131と、JIS規格C1000系からなるCu板材132と、JIS規格NW2200系からなるNi板材133を用いる場合、A1000系の融点(A1050であれば約660℃)よりも低い、たとえば600℃以上640℃以下の温度で、たとえば2分以上6分以下の保持を行うことが好ましい。そして、拡散焼鈍によりクラッド材30の表面に着色が生じたときは研磨を行い、必要に応じて、厚み調整などのための圧延、形状矯正などを行い、図10に示すような3層構造のクラッド材30が作製される。クラッド材30は、上記拡散焼鈍によりAl板材131、Cu板材132およびNi板材133のすべてが材質に応じて軟化された状態になるものの、材質の軟化点の違いにより、Cu板材132およびNi板材133はAl板材131よりも硬く、Ni板材133はCu板材132よりも硬い状態になる。なお、プレス加工で負極端子20を形成するために、クラッド材30の厚み方向と直交する方向のビッカース硬さは、それぞれ、Al板材131が20HV以上40HV以下、Cu板材132が50HV以上70HV以下、および、Ni板材133が180HV以上230HV以下、好ましくは220HV以下、より好ましくは、210HV以下になることが好ましい。
(プレス加工)
上記のように作製されたクラッド材30を用いて、プレス加工が行われる。プレス加工は、第1プレス工程、第2プレス工程および第3プレス工程を含む。
図12に示すように、第1プレス工程として、クラッド材30を所定の大きさおよび形状に打ち抜く、打ち抜き加工が行われる。これにより、図6または図7に示す形態の負極端子20を製造するためのクラッド個片(成形用クラッド材)を得る。この場合、第2プレス工程および第2プレス工程で負極端子20を形成するために、クラッド個片(成形用クラッド材)の厚み方向と直交する方向のビッカース硬さは、Al板材131が20HV以上40HV以下、Cu板材132が50HV以上70HV以下、および、Ni板材133が180HV以上230HV以下であることが好ましい。クラッド個片の大きさおよび形状は、用途に応じて適宜調整され、Z方向からの平面視で、円形状、矩形状などに形成される。
図13に示すように、第2プレス工程では、第1プレス工程で作製された成形用クラッド材(クラッド個片)に対して、プレス加工を行う。具体的には、まず、第1金型40の雌型40aのキャビティ内に、成形用クラッド材を配置する。なお、第1金型40の雌型40aのキャビティは、図6または図7に示す負極端子20の形態に対応する形状ではなく、第1金型40の押圧方向(Z2方向)においてはZ1側からZ2側に向かって傾斜し、押圧方向に直交する方向(Y方向)においては雌型40aの内周面側からキャビティ中心に向かって傾斜するように形成されている。
図14に示すように、第1金型40に配置された成形用クラッド材は、プレスされることによりCu層32およびNi層33が下方(Z2方向)に塑性変形し、Cu層32のZ2側の部分およびNi層33が、押圧方向(Z方向)においてはZ2側からZ1側に向かって傾斜し、押圧方向と直交する方向(Y方向)においては成形用クラッド材の側面(Y1側およびY2側)の下側(Z2側)から成形用クラッド材の中心に向かって傾斜する。この結果、成形用クラッド材のNi層33は、負極端子20の鍔部22が広がる方向に対応するY方向おいては負極端子20の軸部21に対応する成形用クラッド材の中心部分の側から放射方向(Y1方向およびY2方向)に向かって傾斜するとともに、負極端子20の軸部21の軸方向に対応する成形用クラッド材の中心方向においてはNi層33側(Z2側)からAl層31側(Z1側)に傾斜するように、形成される。
図15に示すように、第3プレス工程では、第2プレス工程で特定の傾斜面を有するようにプレス加工された成形用クラッド材を、第2金型41の雌型41aのキャビティ内に配置する。なお、第2金型41の雌型41aのキャビティは、図6に示すT字形状の負極端子20の形態に対応する形状を有している。また、第2金型41には、図6に示す負極端子20の凹部23を形成するための凸部41bが設けられている。
第3プレス工程では、図15に示す状態からプレス加工をすることにより、図16に示すように、Cu層32がNi層33のY1側およびY2側の側面を覆うように塑性変形し、Cu層32とNi層33の界面の境界部は、下面側(Z2側)に移動される。これは、Cu層32を構成する純CuまたはCu基合金がNi層33を構成する純NiまたはNi基合金よりも軟らかく延びやすいため、Cu層32がNi層33よりも大きく延びたためである。
第3プレス工程により、図17に示す負極端子20の形態に対応するクラッド成形体が作製される。このクラッド成形体には、図6に示す負極端子20の軸部21と、鍔部22と、凹部23と、壁部24と同じ構成の軸部21、鍔部22、凹部23および壁部24が備わっている。また、このクラッド成形体には、図6に示す負極端子20の軸部21からさらにZ2側に延びる壁部24のZ2側の先端に位置するNi部分33aと同じ構成のNi部分33aが備わっている。すなわち、このクラッド成形体は、図6に示す負極端子20である。
第2金型41を用いたプレス加工では、図17および図6に示すように、凹部23の先端側(Z2側)に位置するNi部分33aの軸方向(Z方向)と直交する方向(Y方向)の中心部Cにおける厚み(t7)について、プレス加工前後の変形の度合いを表す加工率Tが+21.5%以上+37.0%未満、好ましくは、加工率Tが+25.0%以上+34.0%以下になるように、凹部23が形成される。Ni部分33aの厚み(t7)に係る加工率が+21.5%以上+37.0%未満になるように負極端子20の凹部23を形成すれば、プレス加工時にNi部分33aを構成するためのNi層33が好ましい度合いで変形されるため、Ni部分33aの割れの発生を抑制することができる。好ましくは、Ni部分33aの割れ抑制の効果を高めるために、Ni部分33aの厚み(t7)に係る加工率が+25.0%以上+34.0%以下になるように負極端子20の凹部23を形成する。
Ni部分33aの厚み(t7)に係る加工率Tは、下記の式1で表すことができる。式1の分子に示す「T1−T2」は、プレス加工前のクラッド材30のNi層33の厚み(t5)をT1とし、プレス加工後の負極端子20のNi部分33aの厚み(t7)をT2としたときの差分である。この差分(T2−T1)をプレス加工前のNi層33の厚みT1で割ることにより、加工率Tを算出することができる。
加工率Tは、プレス加工によりNi部分33aの厚みT2がNi層33の厚みT1よりも小さくなる場合は、T2<T1になるため正の値になる。一方、加工率Tは、プレス加工時によりNi部分33aの厚みT2がNi層33の厚みT1よりも大きくなる場合は、T2>T1になるため負の値になる。加工率Tが負の値になるようなプレス加工をすると、Ni部分33aの厚みT2が過度に小さくなる可能性がある。本実施形態では加工率Tは正の値である。
(負極端子の溶接工程)
次に、図6および図18〜図21を参照して、本実施形態における負極端子20の負極集電体6への溶接工程の一例について説明する。
まず、図18に示すように、シール部材8が挿入穴2bに嵌め込まれた蓋部材2を準備する。そして、負極集電体6の接続部6aを蓋部材2のZ2側の面に当接させる。その状態で、負極集電体6のZ2側の面に、かしめ治具103の固定部材103aを当接させて固定する。その状態で、かしめ治具103の棒状部材103bをZ2側から挿入穴2b(シール部材8の穴部8a)に挿入する。そして、挿入された棒状部材103bのZ1側の端部を、負極端子20の凹部23内に嵌め込む。
そして、かしめ治具103の押圧部材103cにより、負極端子20をZ1側から押圧する。これにより、図19に示すように、負極端子20は、棒状部材103bとともに、Z2側に移動される。そして、押圧部材103cの押圧力により、負極端子20は、壁部24のZ2側の端部が挿入穴2bよりもZ2側に位置するまで移動される。続いて、負極端子20は、円筒状の壁部24が棒状部材103bの外周面に沿って変形されながらZ2側に移動される。その後、負極端子20の壁部24が、図20に示すように曲げ変形されると、棒状部材103bの移動が停止する。その結果、負極端子20の壁部24が、図20に示すような半円状の断面になるように折り曲げられる。これにより、負極端子20が、負極集電体6にかしめられる。ここで、かしめられた状態において、負極端子20の軸部21のZ2側の端部に位置するNi部分33a(図6参照)は、負極集電体6に当接する。また、負極端子20の凹部23を構成する壁部24の内側面部23aは、外側に露出する。
その後、図21に示すように、かしめられた状態の負極端子20と負極集電体6とをレーザ溶接により溶接する。その際、負極端子20の壁部24の少なくともZ2側の先端面に、Cu層32から構成されたCu部分ではなく、Ni層33から構成されたNi部分33aが位置しているため、レーザ光が反射しにくくレーザ光の出力調整が容易になる。そして、負極端子20の壁部24のZ2側の先端側に位置するNi部分33a付近にレーザ光を照射することにより、レーザ光が効率よく吸収されて効率よく発熱し、Ni部分33a付近が好ましい溶融状態になるため、効率のよいレーザ溶接が適切に行われる。そして、負極端子20のX−Y平面方向において放射状に折り曲げられた壁部24の先端側のNi部分33a付近を、環状にレーザ溶接して適切に接合することによって、図9に示すように、リチウムイオン電池1の負極集電体6と接合する側である負極端子20のZ2側が、負極集電体6に接合される。このように、負極端子20の壁部24を折り曲げて、負極集電体6にかしめてから適切にレーザ溶接することにより、負極端子20が負極集電体6に強固に固定される。
<本実施形態の効果>
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
本実施形態では、負極端子20は、軸部21のNi層33側の先端から軸部21の軸方向にさらに延びる壁部24に囲まれる凹部23を備え、軸部21の軸方向にさらに延びる壁部24の先端にはNi層33から構成されたNi部分33aを有し、Ni部分33aの軸部21の軸方向と直交する方向の肉厚の中心部Cで測定される、Ni部分33aの軸部21の軸方向(Z方向)の厚みをtとし、Ni部分33aの軸部21の軸方向(Z方向)と直交する方向(X−Y平面方向)のビッカース硬さをhとするとき、厚みtとビッカース硬さhとの比率h/tが、4以上9以下である。壁部24の先端のNi部分33aにおける比率h/tが4以上9以下になる負極端子20は、その負極端子20をプレス加工で形成するときに、壁部24の先端のNi部分33aに割れが発生することを抑制することができる。また、壁部24の先端のNi部分33aにおける比率h/tが4以上9以下になる負極端子20は、その負極端子20の壁部24を折り曲げるとともにかしめることにより、他の部材(負極集電体6)に固定するときに壁部24の先端のNi部分33aに割れがすることを抑制することができる。そのため、負極端子20は、壁部24の先端のNi部分33aにおいて、Ni部分33aよりもレーザ溶接性が劣る下地のCu層32が露出することがなく、壁部24の先端部分と他の部材(負極集電体6)とをレーザ溶接により適切に接合(固定)することができる。また、壁部24の先端のNi部分33aにおける比率h/tが4以上9以下になる負極端子20は、の壁部24の先端のNi部分33aにおいて、たとえば、25μm以上50μm以下の適切な厚みtを有することができるため、壁部24の先端のNi部分33aの厚みに起因する負極端子20全体の導電率の低下(電気抵抗率の増大)を抑制することができる。
本実施形態では、肉厚の中心部Cで測定される、Ni部分33aの軸部21の軸方向(Z方向)の厚みtと、Ni部分33aの軸部21の軸方向(Z方向)と直交する方向(X−Y平面方向)のビッカース硬さhとの比率h/tが、4以上7以下である。壁部24の先端のNi部分33aにおける比率h/tが4以上7以下である負極端子20は、負極端子20をプレス加工で形成するときに、壁部24の先端のNi部分33aの割れが発生することをより抑制することができる。また、壁部24の先端のNi部分33aにおける比率h/tが4以上7以下になる負極端子20は、その負極端子20の壁部24を折り曲げて、かしめて、他の部材(負極集電体6)に固定するときに、壁部24の先端のNi部分33aの割れが発生することをより抑制することができる。
本実施形態では、好ましくは、Ni部分33aの軸部21の軸方向と直交する方向の肉厚の中心部Cで測定される、Ni部分33aの軸部21の軸方向(Z方向)の厚みtが、25μm以上50μm以下である。壁部24の先端のNi部分33aの厚みtが25μm以上になる負極端子20は、その負極端子20をプレス加工で形成するときに、壁部24の先端のNi部分33aの割れの発生を抑制することが容易となる。また、壁部24の先端のNi部分33aの厚みtが25μm以上である負極端子20は、その負極端子20の壁部24を折り曲げるとともにかしめることにより、他の部材(負極集電体6)に固定するときに、壁部24の先端のNi部分33aの割れが発生することをより容易に抑制することができる。また、壁部24の先端のNi部分33aの厚みtが50μm以下である負極端子20は、Ni部分33aの厚みtが50μm以下と小さいため、Ni部分33aの厚みに起因する負極端子20全体の導電率の低下(電気抵抗率の増大)を抑制することができる。
本実施形態では、好ましくは、Ni部分33aの軸部21の軸方向と直交する方向の肉厚の中心部Cで測定される、Ni部分33aの軸部21の軸方向(Z方向)の厚みtが、29μm以上45μm以下である。壁部24の先端のNi部分33aの厚みtが29μm以上である負極端子20は、その負極端子20をプレス加工で形成するときに、壁部24の先端のNi部分33aの割れが発生することをより容易に抑制することができる。また、壁部24の先端のNi部分33aの厚みtが29μm以上である負極端子20は、その負極端子20の壁部24を折り曲げるとともにかしめることにより、他の部材(負極集電体6)に固定するときに、壁部24の先端のNi部分33aの割れがより抑制されやすい。また、壁部24の先端のNi部分33aの厚みtが45μm以下である負極端子20は、Ni部分33aの厚みtが45μm以下とより小さいため、Ni部分33aの厚みに起因する負極端子20全体の導電率の低下(電気抵抗率の増大)をさらに抑制することができる。
本実施形態では、好ましくは、Ni部分33aの軸部21の軸方向と直交する方向の肉厚の中心部Cで測定される、Ni部分33aの軸部21の軸方向(Z方向)と直交する方向(X−Y平面方向)のビッカース硬さhが、180HV以上230HV以下である。壁部24の先端のNi部分33aのビッカース硬さhが230HV以下である負極端子20は、その負極端子20をプレス加工で形成するときに、Ni部分33aを構成するためのNi層33がCu層32の延びに追従しやすくなるため、Ni層33とCu層32との延び差に起因するNi部分33aの割れの発生をより一層容易に抑制することができる。また、の壁部24の先端のNi部分33aにおけるビッカース硬さhが230HV以下である負極端子20は、その負極端子20の壁部24を折り曲げるとともにかしめることにより、他の部材(負極集電体6)に固定するときに、壁部24の先端のNi部分33aが延びやすくなるため、壁部24の先端のNi部分33aの割れの発生をより一層抑制することができる。また、壁部24の先端のNi部分33aにおけるビッカース硬さhが180HV以上である負極端子20は、その負極端子20をプレス加工で形成するときに、Ni層33の過度な延びを抑制することが容易となるため、Ni層33の過度な延びに起因するNi部分33aの割れをより一層抑制することができる。
本実施形態では、好ましくは、Ni部分33aの軸部21の軸方向と直交する方向の肉厚の中心部Cで測定される、Ni部分33aの軸部21の軸方向(Z方向)と直交する方向(X−Y平面方向)のビッカース硬さhが、192HV以上201HV以下である。の壁部24の先端のNi部分33aにおけるビッカース硬さhが210HV以下である負極端子20は、その負極端子20をプレス加工で形成するときに、Ni層33がCu層32の延びにより追従しやすくなるため、壁部24の先端のNi部分33aの割れの発生をより一層容易に抑制することができる。また、壁部24の先端のNi部分33aにおけるビッカース硬さhが210HV以下である負極端子20は、その負極端子20の壁部24を折り曲げるとともにかしめることにより、他の部材(負極集電体6)に固定するときに、壁部24の先端のNi部分33aがより延びやすくなるため、壁部24の先端のNi部分33aの割れの発生を一層容易に抑制することができる。また、壁部24の先端のNi部分33aにおけるビッカース硬さhが190HV以上である負極端子20は、その負極端子20をプレス加工で形成するときに、Ni層33の過度な延びをより抑制することができるため、壁部24の先端のNi部分33aの割れの発生をより一層容易に抑制することができる。この場合、より好ましい効果を得る観点で、負極端子20のNi部分33aの軸部21の軸方向と直交する方向の肉厚の中心部Cで測定される、Ni部分33aの軸部21の軸方向(Z方向)と直交する方向(X−Y平面方向)のビッカース硬さhが、190HV以上205HV以下になるようにするとよい。
本実施形態による負極端子20の製造方法は、図10に示すように、Ni層33の厚み方向(Z方向)と直交する方向(X方向)のビッカース硬さが180HV以上230HV以下になるように形成されたクラッド材30を用いて、負極端子20の壁部24の先端のNi部分33aの軸部21の軸方向と直交する方向の肉厚の中心部Cで測定される、Ni部分33aの軸部21の軸方向(Z方向)の厚みをtとし、Ni部分33aの軸部21の軸方向(Z方向)と直交する方向(X−Y平面方向)のビッカース硬さをhとするとき、厚みtとビッカース硬さhとの比率h/tが、4以上9以下になるように、凹部23を形成する工程を含む。これにより、プレス加工時に、負極端子20の壁部24の先端のNi部分33aを構成するためのNi層33の急激な変形を抑制することができるため、Ni層33の変形が好ましい度合いで進むように調整することができる。そのため、負極端子20の壁部24の先端のNi部分33aは、Ni層33の急激な変形に起因する割れの発生が抑制されるとともに、適切な厚みtおよび適切なビッカース硬さhを有することができる。たとえば、負極端子20のの壁部24の先端のNi部分33aは、25μm以上50μm以下の適切な厚みtおよび180HV以上230HV以下の適切なビッカース硬さhに調整することができる。また、負極端子20の壁部24の先端のNi部分33aがプレス加工時に割れる可能性を考慮して、Ni部分33aの厚みが余分に大きくなるような調整を行う必要がなくなるため、適切な厚みのNi部分33aを形成することができるようになり、負極端子20全体の導電率の余分な低下(電気抵抗率の余分な増大)を抑制することができる。
本実施形態では、好ましくは、プレス加工する工程は、Ni部分33aの軸部21の軸方向と直交する方向の肉厚の中心部Cで測定される、Ni部分33aの軸部21の軸方向(Z方向)の厚みのプレス加工前後の変形の度合いを表す加工率Tが、+21.5%以上+37.0%未満になるように、凹部23を形成する工程を含む。これにより、プレス加工時に負極端子20の壁部24の先端のNi部分33aを構成するためのNi層33が好ましい度合いで変形されるため、Ni部分33aの割れの発生を抑制することができる。
本実施形態では、好ましくは、プレス加工する工程は、加工率Tが+25.0%以上+34.0%以下になるように、凹部23を形成する工程を含む。これにより、プレス加工時に負極端子20の壁部24の先端のNi部分33aを構成するためのNi層33がより好ましい度合いで変形されるため、Ni部分33aの割れの発生をより抑制することができる。
本実施形態では、好ましくは、プレス加工する工程は、凹部23を形成する工程の前に、少なくともNi層33を、鍔部22が広がる方向において軸部21側から放射方向に傾斜するとともに、軸方向においてNi層33側(Z2側)からAl層31側(Z1側)に傾斜するように、形成する工程を含む。これにより、クラッド材30を用いたプレス加工において、凹部23を形成する前に、予めクラッド材30のNi層33に軸方向の上記傾斜を付与しておくことにより、プレス加工時に軸部21を形成するときにNi層33を軸方向(Z2方向)に延ばしやすくすることができる。
本実施形態では、好ましくは、プレス加工する工程は、負極端子20の壁部24の先端のNi部分33aにおいて、壁部24の軸部21の軸方向と直交する方向の肉厚の中心部Cで測定される、Ni部分33aの軸部21の軸方向(Z方向)の厚みtが、25μm以上50μm以下になるように、凹部23を形成する工程を含む。これにより、負極端子20の壁部24の先端のNi部分33aの厚みtが25μm以上と大きいため、負極端子20をプレス加工で形成するときの壁部24の先端のNi部分33aの割れが抑制されやすい。また、負極端子20の壁部24の先端のNi部分33aの厚みtが50μm以下と小さいため、Ni部分33aの厚みに起因する負極端子20全体の導電率の低下(電気抵抗率の増大)を抑制することができる。
本実施形態では、好ましくは、プレス加工する工程は、負極端子20の壁部24の先端のNi部分33aにおいて、壁部24の軸部21の軸方向と直交する方向の肉厚の中心部Cで測定される、Ni部分33aの軸部21の軸方向(Z方向)の厚みtが、29μm以上45μm以下になるように、凹部23を形成する工程を含む。これにより、負極端子20の壁部24の先端のNi部分33aの厚みtが29μm以上とより大きいため、負極端子20をプレス加工で形成するときの壁部24の先端のNi部分33aの割れの発生をより抑制することができる。また、の壁部24の先端のNi部分33aの厚みtが45μm以下とより小さいため、Ni部分33aの厚みに起因する負極端子20全体の導電率の低下(電気抵抗率の増大)をより抑制することができる。
本実施形態では、好ましくは、プレス加工する工程は、負極端子20の壁部24の先端のNi部分33aの軸部21の軸方向と直交する方向の肉厚の中心部Cで測定される、Ni部分33aの軸部21の軸方向(Z方向)と直交する方向(X−Y平面方向)のビッカース硬さhが、180HV以上230HV以下になるように、凹部23を形成する工程を含む。負極端子20をプレス加工で形成するときに、負極端子20の壁部24の先端のNi部分33aにおけるビッカース硬さhが230HV以下になるようにすることにより、Ni部分33aを構成するためのNi層33がCu層32の延びに追従しやすくなるため、Ni層33とCu層32との延び差に起因するNi部分33aの割れが抑制されやすい。また、負極端子20をプレス加工で形成するときに、負極端子20の壁部24の先端のNi部分33aにおけるビッカース硬さhが180HV以上になるようにすることにより、Ni部分33aを構成するためのNi層33の過度な延びが抑制することができるため、Ni層33の過度な延びに起因するNi部分33aの割れの発生をより一層抑制することができる。
本実施形態では、好ましくは、プレス加工する工程は、負極端子20の壁部24の先端のNi部分33aの軸部21の軸方向と直交する方向の肉厚の中心部Cで測定される、Ni部分33aの軸部21の軸方向(Z方向)と直交する方向(X−Y平面方向)のビッカース硬さhが、190HV以上210HV以下になるように、凹部23を形成する工程を含む。負極端子20をプレス加工で形成するときに、負極端子20の壁部24の先端のNi部分33aにおけるビッカース硬さhが210HV以下になるようにすることにより、Ni部分33aを構成するためのNi層33がCu層32の延びにより追従しやすくなるため、の壁部24の先端のNi部分33aの割れの発生をより一層抑制することができる。また、負極端子20をプレス加工で形成するときに、負極端子20の壁部24の先端のNi部分33aにおけるビッカース硬さhが190HV以上になるようにすることにより、Ni部分33aを構成するためのNi層33の過度な延びがより抑制されやすくなるため、壁部24の先端のNi部分33aの割れの発生をより一層抑制することができる。この場合、より好ましい効果を得る観点で、負極端子20のNi部分33aの軸部21の軸方向と直交する方向の肉厚の中心部Cで測定される、Ni部分33aの軸部21の軸方向(Z方向)と直交する方向(X−Y平面方向)のビッカース硬さhが、190HV以上205HV以下になるようにするとよい。
[実施例]
次に、図20を参照して、負極端子20のNi部分33aの厚みおよび加工率Tと、Ni部分33aにおける割れの発生との関係について説明する。
まず、上記実施形態の製造方法と同様に、実施例1〜4のプレス加工前のクラッド材30(図10参照)を作製した。その際、圧延条件および圧延後の拡散焼鈍条件を調整し、クラッド材30のNi層33が表1に示す厚みおよび180HV以上230HV以下のビッカース硬さになるとともに、クラッド材30のAl層31とCu層32とNi層33との厚み比率が概ね160:140:3になるように形成した。なお、クラッド材30のNi層33のビッカース硬さの平均値(平均硬さ)は、約208HVとなった。
表1に示すように、実施例1〜3では、プレス加工前のクラッド材30におけるNi層33の厚みを、44μmに調整した。また、実施例4では、プレス加工前のクラッド材30におけるNi層33の厚みを、60μmに調整した。
そして、図13〜図17に示す第1金型40および第2金型41を用いて、上記実施形態と同様にプレス加工を行った。これにより、実施例1〜4の負極端子20を作製した。実施例1では、負極端子20のNi部分33aの厚みを29μm(加工率Tは+34%)に形成した。実施例2では、負極端子20のNi部分33aの厚みを30μm(加工率Tは+32%)に調整した。実施例3では、負極端子20のNi部分33aの厚みを33μm(加工率Tは+25%)に調整した。実施例4では、負極端子20のNi部分33aの厚みを45μm(加工率Tは+25%)に調整した。なお、壁部24の軸部21が延びる方向(軸方向)の先端側に位置するNi部分33aの厚みは、図6に示すように、負極端子20のNi部分33aの軸部21の軸方向(X方向)の2つの切断面において、それぞれ、Ni部分33aの肉厚の中心部Cの軸方向(Z方向)の長さ、すなわち、Ni部分33aの軸部21の軸方向(Z方向)と直交する方向(X−Y平面方向)の中心部Cの軸方向(Z方向)の長さを測定し、平均値(平均厚み)を算出した。そして、その平均厚みを、その負極端子20のNi部分33aの厚みtとした。
また、比較例1では、プレス加工前のクラッド材30におけるNi層33の厚みを、30μmに調整した。また、比較例2、3では、プレス加工前のクラッド材30におけるNi層33の厚みを、37μmに調整した。
そして、図13〜図17に示す第1金型40および第2金型41を用いて、上記実施形態と同様にプレス加工を行った。これにより、比較例1〜3の負極端子20を作製した。比較例1では、負極端子20のNi部分33aの厚みを19μm(加工率Tは+37%)に調整した。比較例2では、負極端子20のNi部分33aの厚みを20μm(加工率Tは+46%)に調整した。比較例3では、負極端子20のNi部分33aの厚みを21μm(加工率Tは+43%)に調整した。
続いて、表2に示すように、作製した負極端子20のNi部分33aにおけるビッカース硬さを、Ni部分33aの軸部21の軸方向(X方向)の切断面において、Ni部分33aの肉厚の中心部C付近で、すなわち、Ni部分33aの軸部21の軸方向(Z方向)と直交する方向(X−Y平面方向)の中心部C付近で、隣接するCu層32に触れないように測定した。より詳しくは、図6に示すX1側からX2側に向かって、ダイヤモンドでできた剛体(圧子)を245mN(25gf)の試験力で負極端子20のNi部分33aに押込み、既定の保持時間経過後に圧子を逃がし、そのときに形成されたくぼみ(圧痕)の対角線長さと表面積とからビッカース硬さを求めた。また、ビッカース硬さは、Ni部分33aの軸部21の軸方向(Z方向)と直交する方向(X−Y平面方向)の肉厚の中心部Cおよびその近傍の5点で測定し、平均値(平均硬さ)を算出した。そして、その平均硬さを、その負極端子20のNi部分33aのビッカース硬さhとした。
表2に示すように、実施例1では、負極端子20のNi部分33aにおいて、厚み(t)は29μmとなり、ビッカース硬さ(h)は201HVとなった。これにより、Ni部分33aにおける厚みtとビッカース硬さhとの比率h/tは、201HVを29μmで除すれば6.93(約7)となる。
実施例2では、負極端子20のNi部分33aにおいて、厚み(t)は30μmとなり、ビッカース硬さ(h)は199HVとなった。これにより、Ni部分33aにおける厚みtとビッカース硬さhとの比率h/tは、199HVを30μmで除すれば6.63(約7)となる。
実施例3では、負極端子20のNi部分33aにおいて、厚み(t)は33μmとなり、ビッカース硬さ(h)は193HVとなった。これにより、Ni部分33aにおける厚みtとビッカース硬さhと比率h/tは、193HVを33μmで除すれば5.85(約6)となる。
実施例4では、負極端子20のNi部分33aにおいて、厚み(t)は45μmとなり、ビッカース硬さ(h)は192HVとなった。これにより、Ni部分33aにおける厚みtとビッカース硬さhとの比率h/tは、192HVを45μmで除すれば4.27(約4)となる。
比較例1では、負極端子20のNi部分33aにおいて、厚み(t)は19μmとなり、ビッカース硬さ(h)は200HVとなった。これにより、Ni部分33aにおける厚みtとビッカース硬さhとの比率h/tは、200HVを19μmで除すれば10.53(約11)となる。
比較例2では、負極端子20のNi部分33aにおいて、厚み(t)は20μmとなり、ビッカース硬さ(h)は209HVとなった。これにより、Ni部分33aにおける厚みtとビッカース硬さhとの比率h/tは、209HVを20μmで除すれば10.45(約10)となる。
比較例3では、負極端子20のNi部分33aにおいて、厚み(t)は21μmとなり、ビッカース硬さ(h)は206HVとなった。これにより、Ni部分33aにおける厚みtとビッカース硬さhとの比率h/tは、206HVを21μmで除すれば9.81(約10)となる。
次に、作製した負極端子20のNi部分33aにおいて、割れの有無を確認した。表3に示すように、実施例1〜4では、負極端子20のNi部分33aにおいて割れは発生していなかった。一方、比較例1〜3では、負極端子20のNi部分33aにおいて割れが発生していた。
表1〜表3に示すように、Ni部分33aにおける厚み(t)が、21μmを超えて、29μm以上45μm以下となるようにプレス加工で形成された負極端子20は、Ni部分33aにおける割れの発生が抑制されることを本願発明者は知得した。そして、本願発明者の検討から、Ni部分33aにおける厚み(t)が少なくとも25μm以上50μm以下となるようにプレス加工で形成された負極端子20は、Ni部分33aにおける割れの発生が抑制されやすいことが分かった。
また、プレス加工前のクラッド材30のNi層33(図10参照)の厚みと、プレス加工後の負極端子20のNi部分33a(図6参照)の厚みに着目したとき、プレス加工前後の変更の度合いを表す加工率Tが+25%以上+34%以下となるようにプレス加工で形成された負極端子20は、Ni部分33aにおける割れの発生が抑制されることを本願発明者は知得した。そして、本願発明者の検討から、Ni部分33aの加工度が少なくとも+21.5%以上+37.0%未満となるようにプレス加工で形成された負極端子20は、Ni部分33aにおける割れの発生が抑制されやすいことが分かった。
また、Ni部分33aにおける厚みtとビッカース硬さhとの比率h/tが4以上7以下となるようにプレス加工で形成された負極端子20は、Ni部分33aにおける割れの発生が抑制されることを本願発明者は知得した。そして、本願発明者の検討から、Ni部分33aにおける厚みtとビッカース硬さhとの比率h/tが少なくとも4以上9以下となるようにプレス加工で形成された負極端子20は、Ni部分33aにおける割れの発生が抑制されることが分かった。
また、上記したように、負極端子20の軸部21の軸方向(Z方向)の切断面において、負極端子20のNi部分33aの軸部21の軸方向と直交する方向の肉厚の中心部Cで測定される、Ni部分33aの軸部21の軸方向(Z方向)の厚みtは25μm以上50μm以下であるのが好ましく、Ni部分33aの軸部21の軸方向(Z方向)と直交する方向(X−Y平面方向)ののビッカース硬さhは180HV以上230HV以下であるのが好ましい。この観点からも、負極端子20のNi部分33aにおける厚みtとビッカース硬さhとの比率h/tが4以上9以下となるようにするのがよいことを確認することができる。具体的には、ビッカース硬さhの好ましい下限値180HVを厚みtの好ましい上限値50μmで除すれば3.60(約4)となり、ビッカース硬さhの好ましい上限値230HVを厚みtの好ましい下限値25μmで除すれば9.20(約9)となることから、負極端子20のNi部分33aにおける厚みtとビッカース硬さhとの比率h/tは、4以上9以下であるのがよいことを確認することができる。
[変形例]
上記した実施形態および実施例は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態および実施例の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
たとえば、本実施形態では、クラッド端子が、たとえばリチウムイオン電池に好適な電池用端子であって、負極端子を構成する例(負極端子20)を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、たとえば、クラッド端子は、コネクタの端子を構成することも可能である。
また、本実施形態では、3層構造のクラッド材(図10参照)からクラッド端子を構成する例(負極端子20)を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、4層構造以上のクラッド材によりクラッド端子を構成することも可能である。
また、本実施形態では、クラッド材をプレス加工する際に、第1プレス工程から第3プレス工程までを行う例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、特定の傾斜面を有するようにプレス加工された成形用クラッド材を形成するための第2プレス工程を省略してもよく、また、上記以外の別のプレス工程を追加してもよく、あるいは研磨工程などの別の工程を含んでいてもよい。
また、本実施形態では、クラッド端子の鍔部が円形である例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、図6に示す負極端子20の鍔部22をZ1側からみると、その外形は円形にみえるが、本発明はこれに限られない。本発明では、クラッド端子の鍔部を軸部の軸方向からみたときに、その外形が矩形状などにみるものであってもよい。