以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
[静電噴出装置の全体構成と動作概要]
本実施形態に係る静電噴出装置10は、図1A、図1B及び図2に示すように、液体を収容するカートリッジ100と、該カートリッジ100を挿脱可能な静電噴出本体200とを備えている。また、本実施形態に係る静電噴出装置100は、静電噴出本体200に装着されるキャップ11を更に備えており、使用時にはキャップ11を外し(図1B参照)、使用後にキャップ11を装着するようになっている(図1A参照)。
本実施形態に係る静電噴出装置10は、使用者が手で握ることができる形状と大きさになっているハンドヘルドタイプの装置であり、静電スプレー法により、液体組成物(液体)を対象物に向けて噴出する。静電スプレー法とは、液体組成物(例えば、高分子化合物を揮発性の溶媒に溶解した溶液)に、高電圧(例えば、数kVから数十kV)を印加して液体組成物を静電チャージし(静電的に帯電させ)、帯電した液体組成物と対象物との電位差に基づく静電気力によって、液体組成物を対象物に向けて噴出する方法である。静電スプレー法により噴出された液体組成物は、極細の糸状になって対象物に向かって送り出される。噴出された液体組成物は、噴出されてから対象物に向かって送り出されている過程、及び、対象物に付着した後に、揮発性物質である溶媒が乾燥することで、対象物の表面に被膜を形成することができる。なお、本実施形態に係る静電噴出装置10は、静電紡糸用の原料を含む溶液すなわち紡糸用液を、対象物に向けて噴出する静電紡糸装置としても使用することができる。
液体組成物として、例えば、揮発性物質と繊維形成用水不溶性ポリマーと水を含む溶液を採用した場合には、使用者が静電噴出装置10を手で握り、この液体組成物を使用者の皮膚に向けて噴出することで、使用者の皮膚の表面に被膜を形成することができる。被膜は、繊維を含む堆積物である。
具体的には、静電紡糸装置において使用される紡糸用の液体組成物としては、例えば、繊維形成の可能な高分子化合物が溶媒に溶解した溶液を用いることができる。そのような高分子化合物としては、水溶性高分子化合物または水不溶性高分子化合物のいずれも用いることができる。
水不溶性高分子化合物を用いる場合、液体組成物は、アルコール及びケトンから選ばれる揮発性液剤を50質量%以上含有する。揮発性液剤は、液体の状態において揮発性を有する物質である。揮発性液剤はその蒸気圧が20℃において0.01kPa以上、106.66kPa以下であることが好ましく、0.13kPa以上、66.66kPa以下であることがより好ましく、0.67kPa以上、40.00kPa以下であることが更に好ましく、1.33kPa以上、40.00kPa以下であることがより一層好ましい。
揮発性液剤のうち、アルコールとしては例えば一価の鎖式脂肪族アルコール、一価の環式脂肪族アルコール、一価の芳香族アルコールが好適に用いられる。一価の鎖式脂肪族アルコールとしてはC1−C6アルコール、一価の環式アルコールとしてはC4−C6環式アルコール、一価の芳香族アルコールとしてはベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール等がそれぞれ挙げられる。それらの具体例としては、エタノール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、フェニルエチルアルコール、n−プロパノール、n−ペンタノールなどが挙げられる。これらのアルコールは、これらから選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。
揮発性液剤のうち、ケトンとしてはジC1−C4アルキルケトン、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどが挙げられる。これらのケトンは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
揮発性液剤は、より好ましくはエタノール、イソプロピルアルコール及びブチルアルコールから選ばれる1種又は2種以上であり、より好ましくはエタノール及びブチルアルコールから選ばれる1種又は2種であり、形成される繊維の感触の観点から更に好ましくはエタノールを含有する揮発性液剤である。
液体組成物における揮発性液剤の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、55質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることが更に好ましい。また、95質量%以下であることが好ましく、94質量%以下であることがより好ましく、93質量%以下であることが更に好ましい。液体組成物における揮発性液剤の含有量は、50質量%以上95質量%以下であることが好ましく、55質量%以上94質量%以下であることがより好ましく、60質量%以上93質量%以下であることが更に好ましい。この割合で液体組成物中に揮発性液剤を含有させることで、静電スプレー法を行うときに液体組成物を十分に揮発させることができ、皮膚又は爪の表面に繊維を含む被膜を形成することができる。
また、エタノールは、揮発性の高さと形成される繊維の感触の観点から、揮発性液剤の全量に対して、50質量%以上であることが好ましく、65質量%以上であることが更に好ましく、80質量%以上であることが一層好ましい。また100質量%以下であることが好ましい。エタノールは揮発性液剤の全量に対して、50質量%以上100質量%以下であることが好ましく、65質量%以上100質量%以下であることが更に好ましく、80質量%以上100質量%以下であることが一層好ましい。
また、液体組成物は、繊維形成用水不溶性ポリマーを含むことが好ましい。繊維形成用水不溶性ポリマーは、揮発性液剤に溶解することが可能な物質である。ここで、溶解するとは20℃において分散状態にあり、その分散状態が目視で均一な状態、好ましくは目視で透明又は半透明な状態であることをいう。
繊維形成用水不溶性ポリマーとしては、揮発性物質に可溶で、水に対して不溶なポリマーである。本明細書において「水溶性ポリマー」とは、1気圧・23℃の環境下において、ポリマー1gを秤量したのちに、10gのイオン交換水に浸漬し、24時間経過後、浸漬したポリマーの0.5g以上が水に溶解する性質を有するものをいう。一方、本明細書において「水不溶性ポリマー」とは、1気圧・23℃の環境下において、ポリマー1g秤量したのちに、10gのイオン交換水に浸漬し、24時間経過後、浸漬したポリマーの0.5g以上が溶解しない性質を有するもの、言い換えれば溶解量が0.5g未満の性質を有するものをいう。
水不溶性である繊維形成能を有するポリマーとしては、例えば被膜形成後に不溶化処理できる完全鹸化ポリビニルアルコール、架橋剤と併用することで被膜形成後に架橋処理できる部分鹸化ポリビニルアルコール、ポリ(N−プロパノイルエチレンイミン)グラフト−ジメチルシロキサン/γ−アミノプロピルメチルシロキサン共重合体等のオキサゾリン変性シリコーン、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ツエイン(とうもろこし蛋白質の主要成分)、ポリエステル、ポリ乳酸(PLA)、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリメタクリル酸樹脂等のアクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂などが挙げられる。これらの水不溶性ポリマーから選ばれる1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの水不溶性ポリマーのうち、被膜形成後に不溶化処理できる完全鹸化ポリビニルアルコール、架橋剤と併用することで被膜形成後に架橋処理できる部分鹸化ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリメタクリル酸樹脂等のアクリル樹脂、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリ(N−プロパノイルエチレンイミン)グラフト−ジメチルシロキサン/γ−アミノプロピルメチルシロキサン共重合体等のオキサゾリン変性シリコーン、ポリ乳酸(PLA)、ツエインから選ばれる1種又は2種以上を用いることが好ましい。これらの水不溶性ポリマーのうち、アルコール溶媒への分散性、繊維の感触の観点等から、部分鹸化ポリビニルアルコール、完全鹸化ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール樹脂、ポリメタクリル樹脂、ポリウレタン樹脂がより好ましく、部分鹸化ポリビニルアルコール、完全鹸化ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール樹脂がさらに好ましく、皮膚又は爪の表面に繊維を含む被膜を安定して効率的に形成することができる点、被膜の耐久性、被膜の形成性、皮膚への追随性と耐久性との両立の点からポリビニルブチラール樹脂が殊更に好ましい。
液体組成物中の繊維形成用水不溶性ポリマーの含有量は、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることが一層好ましい。また、30質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることが更に好ましい。液体組成物の繊維形成用水不溶性ポリマーの含有量は、1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、3質量%以上25質量%以下であることが更に好ましく、5質量%以上20質量%以下が一層好ましい。この割合で液体組成物中に繊維形成用水不溶性ポリマーを含有させることで、繊維状の被膜を安定して効率的に形成することができる。
また、液体組成物は、水を含むことが好ましい。水は、エタノール等の電離しない溶媒に比べて電離し荷電するため、液体組成物に導電性を付与することができる。そのため、静電スプレーにより皮膚や爪の表面上に繊維状の被膜が安定して形成される。また、水は、静電スプレーにより形成される被膜の皮膚や爪への密着性の向上、耐久性の向上、外観に寄与する。これらの作用効果を得る点から、水は、液体組成物中に0.2質量%以上25質量%以下含有することが好ましく、0.3質量%以上20質量%以下がより好ましく、湿度の高い環境においても繊維状の被膜の形成性の観点から0.4質量%以上10質量%以下がさらに好ましい。
液体組成物は、更に他の成分が含まれていてもよい。他の成分としては、例えばポリオール、液状油、繊維形成用水不溶性ポリマーの可塑剤、液体組成物の導電率制御剤、水溶性ポリマー、着色顔料、体質顔料等の粉体、染料、香料、忌避剤、酸化防止剤、安定剤、防腐剤、各種ビタミン等が挙げられる。液体組成物中に他の成分が含まれる場合、当該他の成分の含有割合は、0.1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上20質量%以下であることがさらに好ましい。
更に、液体組成物中にグリコールを含有することができる。グリコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられる。静電スプレー法を行うときに揮発性液剤を十分に揮発させる観点、繊維形成性の観点、形成される繊維の感触の観点から、液体組成物中に10質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、1質量%以下が好ましく、実質含まないことが好ましい。
液体組成物の粘度は、繊維状の被膜を安定して形成する点、静電スプレー時の紡糸性の観点、被膜の耐久性を向上する観点と、被膜の感触を向上する観点から、25℃で2mPa・s以上3000mPa・s以下が好ましく、10mPa・s以上1500mPa・s以下がより好ましく、15mPa・s以上1000mPa・s以下がさらに好ましく、15mPa・s以上800mPa・s以下がよりさらに好ましい。液体組成物の粘度は、E型粘度計を用いて25℃で測定される。E型粘度計としては例えば東京計器株式会社製のE型粘度計(VISCONICEMD)を用いることができる。その場合の測定条件は、25℃、コーンプレートのローターNo.43、回転数は粘度に応じた適切な回転数が選択され、500mPa・S以上の粘度は5rpm、150mPa・S以上500mPa・S未満の粘度は10rpm、150mPa・S未満の粘度は20rpmとする。
静電噴出本体200は、図2に示すように、ハウジング210と、該ハウジング210に装着されるカバー250とを備えている。ハウジング210は、カートリッジ100及びカバー250が着脱可能となっている。
これらハウジング210及びカバー250は、絶縁性材料、すなわち、電気を通し難い性質を有する材料により形成されている。なお、ここでいう「絶縁性」又は「電気を通し難い」とは、例えば1012Ωmを超える体積抵抗率(ASTM D257, JIS K6911)を有することをいうものとする。ハウジング210及びカバー250に用いられる絶縁性材料としては、例えば、合成樹脂等の絶縁性の有機材料、又はガラス若しくはセラミック等の絶縁性の無機材料等が例示される。絶縁性の有機材料としては、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、モノマーキャストナイロンなどを用いることができる。一方、導電性材料とは、電気を通し易い性質を有する材料、すなわち、例えば10-2Ωm以下の体積抵抗率を有する材料をいうものとする。
[カートリッジの構成]
カートリッジ100は、液体の供給対象となる装置に交換可能に装着される使い捨て容器であり、その使用用途は特に制限されるものではないが、本実施形態では、静電紡糸装置に用いられる静電紡糸装置用カートリッジである。具体的には、図2に示すように、カートリッジ100は、液体を収容可能な液収容袋(液収容部)110と、液収容袋110内の液体を噴出させる噴出部120とを有している。
液収容袋110は、同形同大の2枚のシート体を重ね、両者の周縁部を接合して形成した扁平な袋状の密閉容器であり、その内部に液体組成物が収容されている。
各シート体は、袋状とされた際の内面を形成する内層と、外面を形成する外層と、内層と外層との間に配されたバリア層とを備える積層体からなる。なお、これら内層と外層との間に更に任意の層、例えば、PETフィルム等の接着層等が設けられても良い。
内層は、収容される液体組成物に耐性を有すると共に、シーラント効果(熱融着性)を有するシーラント層で形成されることが好ましい。具体的には、無延伸ポリプロピレン(CPP)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)、LDPEとLLDPEのブレンド、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、メタロセンポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合フィルム(EVA)等を用いることができる。その中でも低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)、LDPEとLLDPEのブレンドが好ましい。内層の厚さは、30μm以上であることが好ましく、40μm以上であることがより好ましい。また、内層の厚さは、150μm以下であることが好ましく、80μm以下であることがより好ましい。
外層は、内層よりも機械的強度の優れた材料で形成される。外層の材料としては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、延伸ポリプロピレン(OPP)及び延伸ナイロン(ONy)等が例示される。その中でもポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましい。外層の厚さは、10μm以上であることが好ましく、15μm以上であることがより好ましい。また、外層の厚さは、30μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましい。外層は、バリア層との界面に印刷層を有していてもよい。印刷層は、通常、高揮発性溶剤液体組成物に溶けやすい着色剤を主成分とするインキによって形成される。
バリア層は、液収容袋110内の液体組成物が外層へ浸透することを抑制可能な材料で形成される。バリア層としては、例えばアルミニウムシートを用いることができる。アルミニウムシートの厚さは、5μm以上であることが好ましく、7μm以上であることがより好ましい。アルミニウムシートの厚さは、15μm以下であることが好ましく、9μm以下であることがより好ましい。
また、バリア層としては、PETフィルムやポリプロピレン(PP)フィルムなどの樹脂フィルムにアルミニウム、酸化アルミニウム、シリカ、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化亜鉛(ZnO)又は二酸化スズ(SnO2)等を蒸着させた蒸着フィルムを用いることもできる。樹脂フィルムの厚さは、10μm以上であることが好ましく、15μm以上であることがより好ましい。樹脂フィルムの厚さは、30μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましい。
樹脂フィルムと蒸着層の材料とは、適宜組み合わせて蒸着フィルムを構成することができる。なかでも、樹脂フィルムとしてPETフィルムを用い、蒸着層としてアルミニウムを用いることが好ましい
バリア層は、液体組成物(揮発性液溶剤)の蒸散を抑制することができるため、液体組成物に溶解しているポリマーなどの析出を抑制することができ、効果的に内容物の安定性を向上させることができる。また、バリア層にアルミニウムシートや蒸着フィルムを用いた場合は、バリア層自身に遮光性があるために、内容物を効果的に保護することができる。さらに、印刷層に遮光性を付与する必要がないため、印刷に用いることができる色数を増やすことができる。さらに、光沢性があるために、デザイン性を向上させることができる。
液収容袋110は、収容している液体組成物の量に応じて変形することができる。すなわち、液体組成物が十分に収容されているときには、液収容袋110は外側に膨らんだ膨満形状になっているが、収容されている液体組成物が減少してくると次第に膨らみ量が減ってきて最終的には平面状になってくる。なお、液収容袋110の代わりに、シリンダ型の液収容部を採用することも可能である。
噴出部120は、装着体121と、接続体122と、ノズル123とを有しており、本実施形態では導電性樹脂(例えば、カーボンを含有する樹脂)により形成されている。なお、「導電性樹脂」とは、金属やカーボン等の導電性材料を含み、また、電気抵抗が低く、電気が流れ易い樹脂をいい、例えば、10-2Ωm以下の体積抵抗率を有する樹脂のことをいう。また、樹脂としては、例えば、PP(ポリプロピレン:polypropylene)樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート:polyethylene terephthalate)、PE(ポリエチレン:polyethylene)樹脂、PОМ(ポリアセタール:polyacetal)樹脂など、エタノール等の溶媒に対して耐溶媒性を有する樹脂を採用可能である。
装着体121は、その内部に、流路、ポンプ(例えば、歯車ポンプ)及び小電極を有している。流路は、液体組成物を流通させる通路である。ポンプは、流路の途中に配置されており、駆動されることにより液体組成物を吸引して流路内を流通させる。小電極は、流路内を流通する液体組成物を付加的に静電チャージする。なお、詳細は後述するが、主な静電チャージは、ハウジング210内において行われる。接続体122は、液収容袋110に機械的に接続されると共に、液収容袋110の内部に連通しており、液収容袋110内の液体組成物を、装着体121の流路に導く。ノズル123は、装着体121と共に一体的に形成されており、先端に噴出孔123aを有すると共に、噴出孔123aと装着体121の流路とを接続する直線状のノズル流路を有している。なお、ノズル123は、装着体121と別体のものであっても良い。
詳細は後述するが、帯電した液体組成物は、ノズル123内に形成した直線状のノズル流路を通過した後、噴出孔123aから噴出される。このようにノズル123から液体組成物が噴出される方向に沿う軸、すなわち、ノズル123内に備えた直線状のノズル通路及び噴出孔123aを通る軸を、ノズル軸(噴出部軸)Aと称する。
本実施形態では、液収容袋110は接続体122により噴出部120に接続されており、この接続位置は、噴出部120のうちノズル軸Aが通る位置からずれている。
[ハウジングの構成及び動作]
図1A、図1B及び図2に示すハウジング210は、使用者が手で握ることができる形状と大きさとなっている。具体的には、ハウジング210は、扁平な形状、すなわち、ノズル軸Aに直交する断面が長軸と短軸を有する形状を有している。また、ハウジング210は、ノズル軸に沿う方向の長さが、例えば、3cm以上11cm以下である。このハウジング210内には、カートリッジ100の液収容袋110を収容可能な収容空間220(図2参照)が形成されると共に、液体組成物を静電チャージ(静電的に帯電)する帯電構造や、装着体121内に備えたポンプを駆動する駆動部等が配置されている。帯電構造や駆動部等の詳細及びハウジング210の面形状等については、後述する。
なお、本明細書では、ハウジング210の表面のうち、カバー250が装着される面を、「先端面S1」という。また、この先端面S1のうち、カバー250の後述する当接縁部252が接触する外周縁部を「周縁221」という。以下、この先端面S1に施されている構造を、図2を参照して説明する。
先端面S1は、図2に示すように、楕円状の周縁221により囲まれた、略楕円状の面となっている。この先端面S1には、楕円の長軸に対して略平行な状態で挿入孔223が形成されている。挿入孔223は、ハウジング210内の収容空間220に連通しており、カートリッジ100の液収容袋110が、挿入孔223を挿通して収容空間220に挿脱することができる形状及び大きさになっている。本実施形態において、挿入孔223及び収容空間220は、楕円の中央位置ではなく、周縁221の一部分に近寄った位置に形成されている。すなわち、挿入孔223及び収容空間220は、噴出部120のノズル軸Aが通る位置(ノズル123の配置位置)からずれた位置に形成されており、これにより、収容空間220に収容された液収容袋110は、一方の接触面S31(又はS33)側に偏倚している。本実施形態に係るハウジング210は、このように挿入孔223及び収容空間220が一方の接触面S31(又はS33)側に偏倚していることにより、他方の接触面S33(又はS31)側に、帯電構造や駆動部等の収容スペースを広く確保することが可能となっている。
先端面S1には、その周縁221に沿って第1の係合段部224が形成されていると共に、第1の係合段部224の内周側に第2の係合段部225が形成されている。キャップ11は、その開口縁部11a(図1B参照)が、第1の係合段部224に嵌入することで、ハウジング210に着脱自在に装着される。カバー250は、その一方の開口251に沿う部分である当接縁部252(図2参照)が、第2の係合段部225に嵌入することで、ハウジング210の周縁221に沿った部分に着脱自在に装着される。
先端面S1には、マウント凹部226が形成されている。このマウント凹部226は、カートリッジ100の装着体121が嵌入してくると、この装着体121を位置合わせした状態で保持する形状になっている。このため、カートリッジ100の液収容袋110が挿入孔223を介して収容空間220に挿入されてきて、装着体121がマウント凹部226に密接に嵌入して位置保持されると、カートリッジ100が、ハウジング210の規定位置に正確に装着される。
図3を参照して、ハウジング210内に備えた帯電構造や駆動部等について説明する。ハウジング210には、主電源操作部241と作動操作部242が、ハウジング210の外部から操作しうる状態で取り付けられている。ハウジング210の内部には、電源部243、高電圧発生部244、電極245、出力端子246及び駆動部247が備えられている。
電極245は、2枚の導電板(金属板等)で構成されている。この2枚の導電板は、収容空間220を間に挟んだ状態で対向配置されている。このため、カートリッジ100の液収容袋110が挿入孔223を介して収容空間220に収容され、カートリッジ100がハウジング210の規定位置に正確に装着されると、液収容袋110は、電極245を構成する2枚の導電板の間の位置に占位する。なお、電極245を袋状の導電体で形成し、ハウジング210の収容空間220内に収容された液収容袋110が、袋状の電極245で包まれるような構成を採用することも可能である。
ここで、主電源操作部241と作動操作部242を操作することにより行われる動作を説明する。この動作の前提としては、次に示す(a)、(b)及び(c)の状態になっていることとする。なお、通常の使用時では(c)の状態になっているが、(c)の状態になっていなくても、主電源操作部241と作動操作部242による操作に基づく動作は可能である。
(a)カートリッジ100の液収容袋110が挿入孔223を介して収容空間220に収容され、カートリッジ100が、ハウジング210の規定位置に正確に装着されている。
(b)上記(a)により、液収容袋110は電極245を構成する2枚の導電板の間の位置に占位している。
(c)カバー250がハウジング210に装着されている(図1B参照)。
上記(a)の状態になると、出力端子246は、カートリッジ100の装着体121内に備えた小電極に電気的に接続される。また、駆動部247は、カートリッジ100の装着体121内に備えたポンプに機械的に連結される。
主電源操作部241をオフ(OFF)にしておくと、電源部243から高電圧発生部244や駆動部247に給電がされることはない。このため、高電圧発生部244から高電圧が発生することはなく、また駆動部247が駆動することもない。したがって、主電源操作部241をOFFにしておけば、使用者が間違って作動操作部242を操作しても、液収容袋110に収容した液体組成物に静電チャージがされることはなく、液体組成物が噴出されることもない。
作動操作部242は、例えば、オン(ON)状態とオフ(OFF)状態とを切り替えることが可能なスイッチにより構成されている。
主電源操作部241がON状態になっているときに、作動操作部242をONすると、電源部243から高電圧発生部244と駆動部247に給電がされる。そうすると、駆動部247が駆動して回転力を発生し、この回転力は、カートリッジ100の装着体121内に備えたポンプに伝達され、ポンプが駆動する。ポンプの駆動により液収容袋110内の液体組成物が噴出部120側に吸引される。また、高電圧発生部244は正の高電圧(例えば、数kVから数十kV)を発生し、発生した高電圧を電極245及び出力端子246に送る。電極245は高電圧が印加されることにより、液収容袋110内に収容された液体組成物を静電チャージする。出力端子246は、カートリッジ100の装着体121内に備えた小電極に高電圧を送る。小電極は高電圧が印加されることにより、装着体121内を流通する液体組成物を追加的に静電チャージする。このようにして静電チャージされた液体組成物が、液収容袋110から噴出部120に流入し、ノズル123の噴出孔123aにまで達すると、帯電した液体組成物と対象物との電位差に基づく静電気力によって、液体組成物は対象物に向かって噴出される。その後、作動操作部242をOFFにすると、液体組成物の噴出が停止する。
ハウジング210には、主電源操作部241及び作動操作部242に加え、液体組成物の噴出量を多段的(例えば大/中/小の3段階)に調整できる切り替えスイッチ(図示せず)が設けられていてもよい。
上記の例では、作動操作部242は、ON/OFFの2状態のみを選択するスイッチであったが、これに限定されず、例えば、押し込むことによりオン(ON)になり、押し込みをやめるとオフ(OFF)に戻り、更にON状態において押し込み量を変化させることができるスイッチであってもよい。作動操作部242が、ON状態において押し込み量を変化させることができるスイッチである場合には、その押し込み量の変化により、ノズル123から噴出される液体組成物の噴出量を調整することが可能であっても良い。すなわち、作動操作部242の押し込み量を増やしていくと、電源部243から駆動部247に給電される電圧が高くなり、駆動部247の回転数が増加する。そうすると装着体121内に備えた歯車ポンプ133の回転数が増加し、液収容袋110から噴出部120側に吸引されてくる(流入してくる)液体組成物の量が増加し、噴出される液体組成物の噴出量も増加する。一方、作動操作部242の押し込み量を減らしていくと、電源部243から駆動部247に給電される電圧が低くなり、駆動部247の回転数が減少する。そうすると装着体121内に備えた歯車ポンプ133の回転数が減少し、液収容袋110から噴出部120側に吸引されてくる(流入してくる)液体組成物の量が減少し、噴出される液体組成物の噴出量も減少する。
[カバーの構成]
図1B及び図2を参照してカバー250の説明をする。カバー250は、一方の開口251と他方の開口253を有し、一方の開口251から他方の開口253に向かうにしたがい開口面積が絞られていく筒形状となっている。このため、一方の開口251は他方の開口253よりも広くなっている。カバー250のうち一方の開口251に沿う部分が当接縁部252である。この当接縁部252がハウジング210の第2の係合段部225に嵌合することにより、カバー250がハウジング210に装着される。カートリッジ100が装着されたハウジング210にカバー250を装着すると、ノズル123がカバー250の他方の開口253を貫通し噴出孔123aがカバー250の外側に臨む状態になる。つまり、カバー250は、ハウジング210に装着されていても、噴出部120からの液体組成物の噴出を許容するように構成されている。
[ハウジングの面形状等]
図1A、図1B、図2及び図4を参照してハウジング210の面形状等について説明する。ハウジング210は、カートリッジ100の液収容袋110が挿脱される側の面である先端面S1と、この先端面S1とは反対側の面である後端面S2と、先端面S1と後端面S2との間に配置された周面S3とを有している。
周面S3は、対向する2つの接触面S31,S33と、対向する2つの湾曲面S32,S34とを備えて構成されている。つまり、周面S3は、周方向に沿い、接触面S31の隣に湾曲面S32が配置され、湾曲面S32の隣に接触面S33が配置され、接触面S33の隣に湾曲面S34が配置され、湾曲面S34の隣に接触面S31が配置される4面の構成になっている。なお、「接触面」とは、静電噴出装置10を水平面Hに載置させた際に、該水平面Hに接触する部位を含む面のことをいう。また、「周方向」とは、ノズル軸Aを中心とした胴回り方向のことをいう。
湾曲面S32,S34は、接触面S31,S33よりも周方向の幅が狭く、しかも、ノズル軸Aを中心とした径方向外側に向かって大きく湾曲している。すなわち、本実施形態では、接触面S31,S33と湾曲面S32,S34とは、いずれも、ノズル軸Aを中心とした径方向外側に向かって湾曲しており、湾曲面S32,S34の曲率半径は、接触面S31,S33の曲率半径よりも小さい。更に、本実施形態では、2つの接触面S31,S33は、先端面S1側から後端面S2側に向けて、両接触面S31,S33の間隔が徐々に狭くなる形状(尻窄まり形状)を有している。換言すると、接触面S31,S33は、噴出方向に向けて拡開するようノズル軸Aに対して傾斜した傾斜面になっている。
湾曲面S32,S34は、接触面S31,S33よりも周方向の幅が狭く、しかも、外側に向かって大きく湾曲しているため、静電噴出装置10を水平面Hに載置すると、図4に示すように、接触面S31,S33のうちのいずれか一面が水平面Hに接触する状態で載置される。図4の例では、接触面S33が水平面Hに接触する状態で静電噴出装置10が載置されている。仮に、湾曲面S32または湾曲面S34を水平面Hに接触させた状態にして、静電噴出装置10を水平面Hに載置したとしても、湾曲面S32,S34は周方向の幅が狭く外側に向かって大きく湾曲しているため、静電噴出装置10はノズル軸Aの辺りを回転中心軸として回転し、接触面S31,S33のうちのいずれか一面が水平面Hに接触する状態に移行していく。
本実施形態では、接触面S31,S33は、先端面S1側から後端面S2側に向かうにしたがい両接触面S31,S33の間隔が狭まっていき、ノズル軸Aに対して傾斜した傾斜面になっている。このため、静電噴出装置10を水平面Hに載置すると、静電噴出装置10は、下記の(α)の位置姿勢(状態)となる。特に、本実施形態では、下記(β)の位置姿勢(状態)を保持した状態で、水平面H上に載置される。
(α)噴出部120のノズル軸Aが、水平面Hから見て、上向きの状態になる。
(β)水平面Hと平行かつノズル軸Aと直交する方向から見た状態(すなわち、図4に示す状態)において、ノズル軸Aと水平面Hとで成す角が鋭角になる。
上記(α)の位置姿勢、好ましくは上記(α)、(β)の2つの位置姿勢を保持した状態にすることを、より確実に確保するために、ハウジング210内に収めた各種機器を含めてハウジング210の重心を、先端面S1と後端面S2との間の中央位置よりも、後端面S2側になるように構成することが効果的である。また、このような重心位置とすることにより、手に持った際に重さを感じ難いという利点も有する。
このように、静電噴出装置10は、上記(α)の位置姿勢、好ましくは上記(α)、(β)の2つの位置姿勢を保持した状態で、水平面H上に載置されるため、静電噴出装置10のノズル123の噴出孔123aから、液体組成物が液だれしてくることはない。したがって、表面張力が弱い液体組成物を使用した場合であっても、液だれの発生を抑制することができる。
また、静電噴出装置10は、いずれか一方の接触面S31,S33が水平面Hと接触するよう静電噴出装置10を水平面Hに載置した際に、ノズル軸Aと水平面Hとで成す角(鋭角)の角度θが1度以上10度以下、より好ましくは2度以上7以下になるように、ハウジング210の面形状(接触面S31,S33の傾斜角度)やハウジング210の重心位置が設定されることが好適である。このように、ノズル軸Aと水平面Hとで成す角(鋭角)の角度θを上記の範囲とすることで、液だれの発生を効果的に抑制することができ、また、装置の把持性、デザイン性を保つことができる。
前述したように、カートリッジ100の液収容袋110は扁平な形状である。更に、液収容袋110は、噴出部120のうちノズル軸Aが通る位置(ノズル123の配置位置)からずれた位置において、噴出部120と接続されている。つまり、液収容袋110の扁平面を基準として、液収容袋110と、ノズル123の噴出孔123aとの高さ位置が異なる。このため、液収容袋110をハウジング210の収容空間220に収容して、静電噴出装置10を水平面Hに載置したときには、
(i)扁平な液収容袋110は、接触面S31と接触面S33の間の位置に占位して接触面S31,S33に面対向した状態になり、
(ii)液収容袋110が、ノズル123の噴出孔123aよりも下方位置に位置したり、
(iii)液収容袋110が、ノズル123の噴出孔123aよりも上方位置に位置したりする。
静電噴出装置10を水平面Hに載置したときに、上記(ii)の状態になったときには、液収容袋110が、ノズル123の噴出孔123aよりも下方位置に位置しているため、液だれが発生する虞はほぼない。
静電噴出装置10を水平面Hに載置したときに、上記(iii)の状態になったときには、液収容袋110が、ノズル123の噴出孔123aよりも上方位置に位置しているため、なにも工夫をしていない場合には、液だれが発生する虞がある。しかし、本実施形態では、静電噴出装置10を水平面Hに載置したときに、上記(α)、(β)の2つの位置姿勢を同時に保持した状態が確保できるように、ハウジング210の面形状やハウジング210の重心位置の設定をしているため、液だれの発生を抑制することができる。
[その他]
上記の実施形態では、ハウジング210の周面S3は、周方向に沿い接触面と湾曲面とが交互に順に配置された4面の構造になっているが、周方向に沿い接触面と湾曲面とが交互に順に配置された6面の構造のような、他の面構造になっていてもよい。
また、上記の実施形態では、ハウジング210の周面S3の面形状や、ハウジング210の重心位置を工夫することにより、液体組成物の液だれの発生を防止しているが、これに限定されず、当該構成に加えて、又はこれに代えて、接触面S31,S33のうち先端面S1側の部分に突起を備えることにより、上述した(α)、(β)の2つの位置姿勢を同時に保持できる構造にして、液体組成物の液だれの発生を抑制することも可能である。
さらに、上記の実施形態では、接触面S31と接触面S33との双方が傾斜面であるものとして説明したが、これに限定されず、例えば、上記(iii)の状態となるよう静電噴出装置10を水平面Hに載置した際に該水平面Hに接触する面(接触面S33)のみが、上記傾斜面である構成としても良い。この場合において、上記(ii)の状態となるよう静電噴出装置10を水平面Hに載置した際に該水平面Hに接触する面(接触面S31)については、例えば平滑面であっても良い。
以上、本発明の好適な実施形態を例示して説明したが、本発明の技術的範囲は、上述した実施形態に記載の範囲には限定されない。上記各実施形態には、多様な変更又は改良を加えることが可能である。