(磁気記録媒体の実施形態)
本発明の磁気記録媒体の実施形態について説明する。
本実施形態の磁気記録媒体は、非磁性支持体と、磁性体粒子を含む磁性層とを備え、上記磁性層に記録された信号の磁化の長さであって上記磁性層の幅方向の上記磁化の長さが、1μm以下である。また、上記磁性体粒子は、平均粒子径が15nm以下のε−酸化鉄からなり、上記磁性層の厚さ方向の角形比が、0.65以上である。更に、上記磁性層の上記非磁性支持体側とは反対側の表面に形成される表面混合層の平均厚さをLとすると、4nm≦L≦8nmである。
上記磁性体粒子は、ε−酸化鉄からなるため、トラック幅を1μm以下とするために、上記磁性体粒子の平均粒子径を15nm以下としても、磁性体粒子の保磁力が低下しない。上記ε−酸化鉄からなる磁性体粒子の平均粒子径は、12nm以下がより好ましい。上記ε−酸化鉄からなる磁性体粒子の平均粒子径の下限値は、通常8nm程度である。平均粒子径が8nmを下回るε−酸化鉄は、製造が容易ではないからである。
また、上記磁性層の厚さ方向の角形比を、0.65以上とすることにより、記録磁化の分解能が向上するため、上記トラック幅を1μm以下としても、更に良好な電磁変換特性(SN特性)を得ることができる。上記角形比は0.75以上がより好ましい。
更に、本実施形態の磁気記録媒体は、上記表面混合層の平均厚さLが、4nm≦L≦8nmに設定されているため、電磁変換特性及び走行耐久性に優れている。上記表面混合層の平均厚さLは、7nm≦L≦8nmであることがより好ましい。前述のとおり、上記ε−酸化鉄は、高い保磁力を保持しながら平均粒子径を15nm以下の微粒子とすることができるが、微粒子になると磁性層の強度が低下し、また、上記ε−酸化鉄粒子は通常球状であるため、磁性層が緻密構造となり、下塗層に含まれる潤滑剤が磁性層の外表面まで移動しにくくなり、その結果、磁性層の走行耐久性が低下するという問題がある。しかし、上記表面混合層の平均厚さLを4nm≦L≦8nmに設定することにより、電磁変換特性及び走行耐久性を共に向上できる。
上記ε−酸化鉄は、通常、球状の粒子からなるが、球状の粒子に限定されず、略球状又は楕円体状であってもよい。
本実施形態の磁気記録媒体は、トンネル型磁気抵抗効果型ヘッド(TMRヘッド)で再生されることが好ましい。TMRヘッドは、感度が高く、微粒子のε−酸化鉄と組み合わせることにより、高いSN比を得ることができるからである。
上記磁性層の厚さ方向の保磁力は、3000エルステッド〔Oe〕以上であることが好ましい。上記保磁力を3000エルステッド〔Oe〕以上にすることにより、高記録密度化における短波長記録領域においても、自己減磁損失が少なく高い再生出力が得られるからである。
また、上記磁性層の表面をn−ヘキサンで洗浄した後の上記磁性層の表面のスペーシングをTSA(Tape Spacing Analyzer)で測定したとき、上記スペーシングの値は、5nm以上12nm以下であることが好ましい。上記スペーシングの値が5nmを下回ると、磁性層の表面が平滑になりすぎて、磁気ヘッドと磁性層との接触面積が大きくなり、摩擦係数が増大して、磁性層の耐久性が低下する傾向がある。一方、上記スペーシングの値が12nmを超えると、磁気ヘッドと磁性層表面との距離が大きくなりすぎて、記録再生特性が低下する傾向がある。上記スペーシングの値は、7nm以上13nm以下がより好ましく、8nm以上11nm以下が最も好ましい。
上記スペーシングの値の測定方法及びその制御方法は特に限定されないが、例えば、特開2012−43495号公報(特許文献8)に記載の方法により行うことができる。
上記磁性層の平均厚さtは、30nm以上200nm以下であることが好ましい。上記磁性層の平均厚さを200nm以下とすることにより、短波長記録特性を向上でき、上記磁性層の平均厚さを30nm以上とすることにより、サーボ信号を記録することができる。本実施形態の磁性体粒子としてε−酸化鉄粒子を用いる場合、ε−酸化鉄粒子の飽和磁化量は、従来の強磁性六方晶フェライト粒子の飽和磁化量に比べて、1/2〜1/3と小さいため、記録波長が長いサーボ信号を記録する場合には、磁性層の平均厚さは30nm以上とする必要がある。
上記サーボ信号を磁性層に記録しない場合には、上記磁性層の平均厚さは、10nm以上50nm以下が好ましい。上記磁性層の平均厚さを10nm以上50nm以下としても、TMRヘッド等の高感度の磁気ヘッドを用いれば、データ信号の記録再生が可能である。
次に、本実施形態の磁気記録媒体の各層の厚さの測定方法を説明する。
本発明者らは、先に、人為的判断が入らず、条件により値が変わるなどの不正確さの無い、元素組成の異なる層を有する構造物における層厚さ測定方法を特開2008−128672号公報(特許文献5)に提案している。本実施形態の磁気記録媒体の各層の厚さは、上記層厚さ測定方法に基づき下記方法(以下、「本実施形態の層厚さ測定方法」という。)で測定された厚さと定義する。
本実施形態の層厚さ測定方法は、先ず、測定する磁気記録媒体の磁性層の表面に厚さ約50〜100nmのカーボン層をスパッタリングで形成し、更にその上に厚さ約50〜100nmのPt−Pd層をスパッタリングにより形成する。次に、カーボン層、Pt−Pd層、磁性層及び下塗層を含む試料の断面を集束イオンビーム(FIB)装置により作製し、得られたこの断面を走査型電子顕微鏡(SEM)にてYAG(Yttrium Aluminum Garnet)検出器を用いて観察し、加速電圧を7kVとしてその断面の反射電子(BSE)像を得る。次に、この画像データをデジタル化して厚さ方向の画像輝度データを得て、この画像輝度データから輝度曲線を作成する。
上記デジタル化は、得られた断面画像(例えば、図1)をX軸方向(各層の厚さ方向)、Y軸方向(各層の面方向)において所定数に分割するとともに、分割した各座標ポイントの画像輝度を所定数の階調値に変換する。具体的には、断面画像を写真として得た場合には、その写真画像をスキャナーで読み取ることによりデジタルデータ化し、例えば輝度を8ビットで処理することにより256階調(0〜255)のデータが得られる。本例の場合、Y軸方向に2560に分割して輝度データを得ている。断面画像をCCD等の光電変換素子を経由して得る場合にもデジタルデータ化して、断面画像の各座標ポイントのデジタルデータが得られる。
次に、得られた輝度の二次元データの各X座標についてY座標方向に輝度値(例えば、2560個)を平均化して、図1Bで示したような、塗膜厚さ方向のY軸方向に平均した輝度曲線を得ることができる。
最後に、この輝度曲線を微分して微分曲線を作成し、この微分曲線のピーク位置から各層の境界を求め、このピーク間距離から、先ず磁性層の平均厚さtを決定する。
また、本発明者らはその後検討を進め、この輝度曲線の形状と磁気記録媒体の電磁変換特性や走行耐久性とに相関が見られることを見出した。これについて図1を用いて説明する。
図1Aは、走査型電子顕微鏡(SEM)にて撮影した本実施形態の一例である磁気記録媒体の断面写真であり、図1Bは図1Aに示した磁気記録媒体の断面の輝度曲線を示す図であり、図1Cは図1Bに示した輝度曲線の微分曲線を示す図である。本実施形態では、図1Cの微分曲線のピークP1とピークP2との間の距離を磁性層の平均厚さtと定義する。また、本実施形態では、下塗層の平均輝度値を0とし、磁性層の最高輝度値を100とした場合に、磁性層の下塗層側とは反対側の表面側の輝度値70から30までの平均厚さLの領域を表面混合層と定義し、磁性層の下塗層側の輝度値70から30までの平均厚さMの領域を界面混合層と定義する。これにより、表面混合層の平均厚さLと界面混合層の平均厚さMとが明確に測定可能となる。
磁性層と称している厚さtの領域から、表面混合層及び界面混合層と重なっている領域を除いた領域が、ほぼ純粋な磁性層領域であって、これに対して表面混合層の領域は磁性層内部の成分に対して、潤滑剤、樹脂、フィラー、空隙等が多く偏在している領域と考えられ、界面混合層の領域は下塗層成分が混合してきている領域と考えられる。
本発明者らの検討によれば、表面混合層の平均厚さLは走行耐久性及び電磁変換特性のS/N比と相関があり、界面混合層の平均厚さMは電磁変換特性のS/N比と相関があることが分った。
表面混合層は、磁性層の外表面に形成される混合層であり、上記磁性層領域の成分に対して、潤滑剤、樹脂、フィラー、空隙等が多く偏在している領域と考える。このようなものが適度に存在することにより、磁気記録媒体の電磁変換特性を大きく低下させずに走行耐久性が良好になり、実用特性が向上すると考えられる。
表面混合層の平均厚さLは、4nm≦L≦8nmの範囲に設定され、Lは、7nm≦L≦8nmの範囲がより好ましい。従来の磁気記録媒体では、表面混合層の平均厚さを薄くして、スペーシングの値を小さくすることにより、記録再生時のスペーシング損失を小さくして、電磁変換特性の低下を抑制していた。これに対して、本実施形態の磁気記録媒体では、表面混合層の平均厚さLをある程度厚く設定することにより、走行耐久性を向上させている。また、本実施形態の磁気記録媒体では、表面混合層の平均厚さLをある程度厚く設定しても、磁性体粒子としてε−酸化鉄を使用しているため、電磁変換特性を高く維持でき、記録再生時のスペーシング損失が大きくなっても、電磁変換特性の低下を抑制できる。
一方、Lの値が4nm未満であると、磁性層の表面に潤滑剤、樹脂、フィラー、空隙等の偏在が少ないために走行耐久性が低下し、Lの値が8nmを超えると、磁気ヘッドと磁性層との間隔が大きくなりすぎ、たとえ磁性体粒子としてε−酸化鉄を使用しても、記録再生時のスペーシング損失が大きくなって電磁変換特性が低下する傾向がある。
本発明は、特許文献6の第1混合層の厚さの範囲より大きい範囲でも、磁性体粒子に平均粒子経が15nm以下のε−酸化鉄を用いることで、電磁変換特性を低下させることがなく、走行耐久性が向上することを見出した発明である。
Lの値を上記の範囲に制御する方法は特に制限されないが、好ましくは、以下の方法が例示される。
(a)磁性層の外表面に、潤滑剤が含浸された帯状の塗布布を走行させながら摺接させることにより、磁性層の外表面に潤滑剤を転写して塗布する方法等。
より具体的には、特開2014−157644号公報(特許文献7)に記載されているように、磁性層の外表面に、潤滑剤が含浸された帯状の塗布布を走行させながら摺接させ、磁性層の外表面に潤滑剤を転写して塗布すると、磁性層の外表面の潤滑剤量が多くなり、Lが大きくなる。このように、潤滑剤を磁性層の外表面に転写塗布することにより、Lの大きさを微細に制御できる。一方、従来の潤滑剤の塗布では、磁性層の外表面に潤滑剤を直接塗布(トップコート)していたため、Lの大きさを微細には制御できなかった。
また、本実施形態の磁気記録媒体では、磁性体粒子として平均粒子径が15nm以下の球状のε−酸化鉄粒子を用いているため、磁性層が緻密構造となり、磁性層及び下塗層に含まれている潤滑剤を磁性層の外表面まで移動させにくいが、上記のように潤滑剤を磁性層の外表面に転写塗布することにより、確実に潤滑剤を磁性層の外表面に供給でき、Lの大きさを容易に制御できる。
(b)磁性層を形成後、その表面をローター、ブレード、ラッピングテープ、研磨ホイール等で研磨して、表面混合層の厚さを直接制御する方法等。
磁性層形成後、ローター、ブレード、ラッピングテープ、研磨ホイール等で研磨処理することで磁性層表面に存在するもの、例えば潤滑剤やフィラー等を除去すると同時に、磁性層表面の突起の高さを低くすることも可能であるため、Lが小さくなる。
(c)磁性層のカレンダ条件を線圧力196〜294kN/m、温度70〜120℃とする方法等。
より具体的には、カレンダ条件の線圧力や温度を高くすると、Lを構成する要素の一つである磁性層表面の突起が小さくなるため、Lが小さくなる。また、カレンダ処理により表面混合層中の空隙も小さくできるため、Lを制御することができる。
(d)結合剤樹脂の添加量、磁性体粒子の混練方法及び磁性体粒子の表面処理の程度等により磁性層の表面の結合剤量を制御する方法等。
より具体的には、結合剤樹脂の添加量を増やすことで磁性体粒子表面に吸着しない結合剤樹脂が磁性層表面に多く存在するようになり、Lが大きくなる。また、磁性体粒子の表面処理を行うことで結合剤樹脂の磁性体粒子表面への吸着を低減することができ、その結果磁性体粒子表面に吸着しない結合剤樹脂が磁性層表面に多く存在するようになり、Lが大きくなる。しかし、混練方法により塗料の分散状態が変化し、磁性体粒子表面への結合剤樹脂の吸着量が増えると、磁性層表面の結合剤量が減少し、Lが小さくなる。
(e)フィラーの添加量、添加時期、表面処理により、磁性層の表面のフィラー量、空隙量を制御する方法等。
より具体的には、フィラーの添加量が増えると、磁性層中のフィラーの量の増加に伴って磁性層の表面に存在するフィラーの数も多くなるため、Lが大きくなる。また、フィラーの添加時期が塗料製造工程において後になるほど、添加したフィラーが分散され難くなり、磁性層表面に多く存在することになるため、Lが大きくなる。更に、フィラーの表面処理により結合剤樹脂の磁性体粒子表面への吸着量が低下し、その結果磁性体粒子表面に吸着しない結合剤樹脂が磁性層表面に多く存在するようになり、Lが大きくなる。
本実施形態では、上記方法を単独に用いて、好ましくはこれらの方法を幾つか併用することで、Lの値を上記の範囲に制御した磁気記録媒体を製造することができる。特に、(a)の潤滑剤の転写塗布と、(b)の磁性層の研磨処理とを組み合わせることが好ましい。
一方、界面混合層は、磁性層と下塗層との間に形成される混合層であり、理想的には界面混合層がないのが理想である。しかし、現実的には下塗層の上に磁性層を形成する際に、下塗層が乾燥する前にその上に磁性層を形成する同時重層塗布の場合には、その界面における下塗塗料と磁性塗料との混合が生じ、また、下塗層を乾燥させた後にその上に磁性層を形成する逐次重層塗布では、下塗層の表面の粗さや、下塗層の空隙への磁性塗料の侵入や、磁性塗料を塗布するときの下塗層表面の溶解による界面の乱れ等により、ある程度の厚さの界面混合層が形成される。
磁性層の平均厚さtと、界面混合層の平均厚さMとは、0.1≦M/t≦0.45の関係が成立することが好ましく、0.1≦M/t≦0.40の関係を満たすことがより好ましい。Mは小さければ小さいほど好ましく、理想的には0が最も好ましい。しかし、実際には技術的限界があり、M/tの値は0.1程度が下限となる。また、M/tの値が0.45を超えると磁性層の平均厚さtに対して界面混合層の平均厚さMが大きくなりすぎて、記録再生に有効な磁性粉末の数が減少して、S/N比が低下する傾向がある。
M/tの値を上記の範囲に制御する方法は特に制限されないが、好ましくは、以下の方法が例示される。
(A)下塗層と磁性層とを同時重層方式の塗布で形成する場合には、下塗塗料と磁性塗料のレオロジー特性(流動特性)をできるだけ合わせる方法等。
下塗塗料と磁性塗料のレオロジー特性をできるだけ合わせて同時重層塗布することで下塗塗料と磁性塗料との界面での混合が少なくなり、磁性層厚みの変動が小さくなり、Mが小さくなる。
(B)下塗層と磁性層とを同時重層方式の塗布で形成する場合には、塗布機に各塗料を供給するポンプに脈動のないものを使用する方法等。
下塗塗料と磁性塗料を脈動無く供給することで、各塗料の塗布厚さの変動を抑えることができ、Mが小さくなる。
(C)下塗層及び磁性層を塗布する際に、非磁性支持体の搬送速度に高周波振動成分の偏差が生じないようにする方法等。
非磁性支持体の搬送速度に高周波振動成分の偏差を小さくすることで、所謂非磁性支持体のバタツキが無くなり、塗布厚さの変動を抑えることができ、Mが小さくなる。
(D)下塗層と磁性層とを逐次重層方式の塗布で形成する場合には、下塗層を形成、乾燥した後、下塗層をカレンダ処理して平滑化する方法、下塗層を、熱硬化又は放射線硬化して架橋硬化させ、磁性層を塗布する際に下塗層の表面が溶解しないようにする方法等。
この方法により、下塗層と磁性層との界面での混合が小さくなり、磁性層厚みの変動が小さくなり、Mが小さくなる。
(E)下塗層の表面に樹脂層を形成して架橋硬化させ、磁性層の塗布時に磁性塗料が下塗層に滲みこまないようにする方法等。
この方法により磁性層と樹脂層との界面での混合が小さくなり、磁性層厚みの変動が小さくなり、Mが小さくなる。
本実施形態では、上記方法を単独に用いて、好ましくはこれらの方法を幾つか併用することで、M/tの値を上記の範囲に制御した磁気記録媒体を製造することができる。
続いて、本実施形態の磁気記録媒体を図面に基づき説明する。図2は、本実施形態の磁気記録媒体の一例を示す模式断面図である。
図2において、本実施形態の磁気記録媒体10は、非磁性支持体11と、非磁性支持体11の一方の主面(ここでは、上面)に形成された下塗層12と、下塗層12の非磁性支持体11側とは反対側の主面(ここでは、上面)に形成された磁性層13とを有する磁気テープである。また、非磁性支持体11の下塗層12が形成されていない側の主面(ここでは、下面)には、バックコート層14が形成されている。
<磁性層>
磁性層13は、磁性体粒子と結合剤とを含むものである。上記磁性体粒子としては平均粒子径が15nm以下のε−酸化鉄粒子を用いる。
上記ε−酸化鉄粒子は、一般組成式ε−Fe2O3で表される単相で形成されていることが好ましい。α−酸化鉄やγ−酸化鉄が混入すると、磁性層の保磁力が低下するからである。但し、磁性層の保磁力が低下しない水準であれば、不純物としてα−酸化鉄やγ−酸化鉄を含んでいてもよい。
また、本実施形態において、ε−酸化鉄と、それ以外のγ−酸化鉄及びα−酸化鉄とは、X線回折によりそれらの結晶構造を解析することにより、識別できる。
上記ε−酸化鉄粒子の保磁力は、3000エルステッド〔Oe〕以上が好ましい。これにより、磁性層の厚さ方向の保磁力を3000エルステッド〔Oe〕以上とすることができる。また、一般組成式ε−Fe2O3で表されるε−酸化鉄粒子に不純物が含まれると、ε−酸化鉄粒子の保磁力が低下するので、不純物が含まれないことが好ましい。但し、上記ε−酸化鉄粒子は、その結晶中のFeサイトの一部をアルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、ロジウム(Rh)、インジウム(In)等の3価の金属元素で置換することで、保磁力をコントロールすることができる。このため、上記ε−酸化鉄粒子は、保磁力が3000エルステッド〔Oe〕以上を維持できれば、不純物として鉄以外の金属元素を含んでいてもよい。
前述のとおり、上記磁性層に含まれる上記ε−酸化鉄粒子の平均粒子径は、8nm以上15nm以下に設定されていることが好ましい。上記ε−酸化鉄粒子の平均粒子径が15nmを超えると、特に短波長記録では磁気記録媒体のノイズが上昇するため、高い電磁変換特性が得られない傾向がある。
本実施形態において磁性層に含まれる磁性体粒子の平均粒子径は、磁性層の表面を、日立製作所製の走査型電子顕微鏡(SEM)“S−4800”を用い、加速電圧:2kV、倍率:10000倍(10k倍)、観察条件:U−LA100で撮影した写真より、1視野中の磁性体粒子100個を用いて、次のように決定する。
上記粒子が針状の場合は100個の粒子の平均長軸径を、上記粒子が板状の場合は100個の粒子の平均最大板径を、上記粒子が長軸長と短軸長の比が1〜3.5である球状ないし楕円体状の場合は100個の粒子の平均最大差し渡し径をそれぞれ算出して決定する。
磁性層13に含まれる結合剤としては、従来公知の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等を用いることができる。上記熱可塑性樹脂としては、具体的には、例えば、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、塩化ビニル−ビニルアルコール共重合樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合樹脂、塩化ビニル−水酸基含有アルキルアクリレート共重合樹脂、ポリエステルポリウレタン樹脂等が挙げられる。また、上記熱硬化性樹脂としては、具体的には、例えば、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリウレタン系樹脂、尿素系樹脂、メラミン系樹脂、アルキド系樹脂等が挙げられる。
磁性層13中の上記結合剤の含有量は、磁性体粒子100質量部に対して、好ましくは7〜50質量部であり、より好ましく10〜35質量部である。
また、上記結合剤とともに、結合剤中に含まれる官能基等と結合し架橋構造を形成する熱硬化性の架橋剤を併用することが好ましい。上記架橋剤としては、具体的には、例えば、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等のイソシアネート化合物;イソシアネート化合物とトリメチロールプロパン等の水酸基を複数個有する化合物との反応生成物;イソシアネート化合物の縮合生成物等の各種のポリイソシアネートが挙げられる。上記架橋剤の含有量は、結合剤100質量部に対して、好ましくは10〜50質量部である。
磁性層13は、上述した磁性体粒子及び結合剤を含有していれば、研磨剤、潤滑剤、分散剤等の添加剤を更に含有してもよい。特に、耐久性の観点から、研磨剤及び潤滑剤が好ましく用いられる。
上記研磨剤としては、具体的には、例えば、α−アルミナ、β−アルミナ、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α−酸化鉄、コランダム、人造ダイアモンド、窒化珪素、炭化珪素、チタンカーバイト、酸化チタン、二酸化珪素、窒化ホウ素等が挙げられ、これらの中でも、モース硬度6以上の研磨剤がより好ましい。これらは、単独で又は複数使用してもよい。上記研磨剤の平均粒子径は、使用する研磨剤の種類にもよるが、好ましくは10〜200nmである。上記研磨剤の含有量は、磁性体粒子100質量部に対して、好ましくは5〜20質量部であり、より好ましくは8〜18質量部である。
上記潤滑剤としては、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸アミドが挙げられる。上記脂肪酸は、直鎖型、分岐型、シス・トランス異性体のいずれであってもよいが、潤滑性能に優れる直鎖型が好ましい。このような脂肪酸としては、具体的には、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ベヘン酸、オレイン酸、リノール酸等が挙げられる。上記脂肪酸エステルとしては、具体的には、例えば、オレイン酸n−ブチル、オレイン酸ヘキシル、オレイン酸n−オクチル、オレイン酸2−エチルヘキシル、オレイン酸オレイル、ラウリン酸n−ブチル、ラウリン酸ヘプチル、ミリスチン酸n−ブチル、オレイン酸n−ブトキシエチル、トリメチロールプロパントリオレエート、ステアリン酸n−ブチル、ステアリン酸s−ブチル、ステアリン酸イソアミル、ステアリン酸ブチルセロソルブ等が挙げられる。上記脂肪酸アミドとしては、具体的には、例えば、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド等が挙げられる。これらの潤滑剤は、単独で使用してもよく、また、複数を併用してもよい。
これらの中でも、脂肪酸エステルと脂肪酸アミドとを併用することが好ましい。特に、磁性層13中の磁性体粒子、研磨剤等の固形分の総量100質量部に対して、脂肪酸エステルを0.2〜3質量部、脂肪酸アミドを0.5〜5質量部使用することが好ましい。上記脂肪酸エステルの含有量が0.2質量部未満であると、摩擦係数低減効果が小さく、3.0質量部を超えると、磁性層13がヘッドに貼り付く等の副作用を生じる虞があるからである。また、上記脂肪酸アミドの含有量が0.5質量部未満であると、磁気ヘッドと磁性層13とが相互接触することにより生じる焼き付きを防止する効果が小さくなるからであり、5質量部を超えると脂肪酸アミドがブリードアウトしてしまう虞があるからである。
また、磁性層13は、導電性及び表面潤滑性の向上を目的として、カーボンブラックを含有してもよい。このようなカーボンブラックとしては、具体的には、例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等が挙げられる。カーボンブラックの平均粒子径は、好ましくは0.01〜0.1μmである。上記平均粒子径が0.01μm以上であれば、カーボンブラックが良好に分散された磁性層13を形成することができる。一方、上記平均粒子径が0.1μm以下であれば、表面平滑性に優れた磁性層13を形成することができる。また、必要に応じて、平均粒子径の異なるカーボンブラックを2種以上用いてもよい。上記カーボンブラックの含有量は、磁性体粒子100質量部に対して、好ましくは0.2〜5質量部であり、より好ましくは0.5〜4質量部である。
磁性層13の表面粗さは、日本工業規格(JIS)B0601で定義されている中心線平均粗さRaとして、2.0nm未満であることが好ましい。磁性層13の表面平滑性が向上するほど、高出力が得られるが、余りに磁性層13の表面が平滑化しすぎると、摩擦係数が高くなり、走行安定性が低下する。このため、Raは1.0nm以上であることが好ましい。
<下塗層>
磁性層13の下には、潤滑剤の保持機能と、外部応力(例えば、磁気ヘッドによる加圧力)の緩衝機能とを有する下塗層12を設けることが好ましい。また、下塗層12を設けることにより、磁気記録媒体10の強度が高まるため、磁気記録媒体10を形成する際に、カレンダ処理を可能とし、磁性層13の充填性を向上できる。下塗層12は、非磁性粉末と結合剤と潤滑剤とを含むものである。
下塗層12に含まれる非磁性粉末としては、カーボンブラック、酸化チタン、酸化鉄、酸化アルミニウム等が挙げられ、通常は、カーボンブラックが単独で用いられるか、カーボンブラックと、酸化チタン、酸化鉄、酸化アルミニウム等の他の非磁性粉末とが混合して用いられる。厚さムラの少ない塗膜を形成して平滑な下塗層12を形成するためには、粒度分布がシャープな非磁性粉末を用いることが好ましい。上記非磁性粉末の平均粒子径は、下塗層12の均一性、表面平滑性、剛性の確保、及び導電性確保の観点から、例えば10〜1000nmであることが好ましく、10〜500nmであることがより好ましい。
下塗層12に含まれる非磁性粉末の粒子形状は、球状、板状、針状、紡錘状のいずれでもあってもよい。針状又は紡錘状の非磁性粉末の平均粒子径は、平均長軸径で10〜300nmが好ましく、平均短軸径で5〜200nmが好ましい。球状の非磁性粉末の平均粒子径は、5〜200nmが好ましく、5〜100nmがより好ましい。板状の非磁性粉末の平均粒子径は、最も大きな板径で10〜200nmが好ましい。更に、平滑且つ厚みムラの少ない下塗層12を形成するためにも、シャープな粒度分布を有する非磁性粉末が好ましく用いられる。
下塗層12に含まれる結合剤及び潤滑剤としては、前述の磁性層13に用いられる結合剤及び潤滑剤と同様のものが使用できる。上記結合剤の含有量は、上記非磁性粉末100質量部に対して、好ましくは7〜50質量部であり、より好ましくは10〜35質量部である。また、上記潤滑剤の含有量は、上記非磁性粉末100質量部に対して、好ましくは2〜6質量部であり、より好ましくは2.5〜4質量部である。
前述の磁性層13に用いる磁性体粒子はε−酸化鉄粒子であり、ε−酸化鉄粒子の飽和磁化量は、従来の強磁性六方晶フェライト粒子の飽和磁化量に比べて、1/2〜1/3と小さいため、記録波長が長いサーボ信号を記録する場合には、下塗層12に磁性体粒子を含有させる。上記磁性体粒子としては、例えば、針状の金属鉄系磁性粒子、板状の六方晶フェライト磁性粒子、粒状の窒化鉄系磁性粒子等を用いることができる。
下塗層12の厚さは、好ましくは0.1〜3μmであり、より好ましくは0.3〜2μmである。この厚さ範囲とすることにより、磁気記録媒体10の全厚を不要に大きくせずに、潤滑剤の保持機能と、外部応力の緩衝機能を維持できる。
<非磁性支持体>
非磁性支持体11としては、従来から使用されている磁気記録媒体用の非磁性支持体を使用できる。具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル類、ポリオレフィン類、セルローストリアセテート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルフォン、アラミド等からなるフィルム等が挙げられる。
非磁性支持体11の厚さは、用途によって異なるが、好ましくは1.5〜11μmであり、より好ましくは2〜7μmである。非磁性支持体11の厚さが1.5μm以上であれば、成膜性が向上するとともに、高い強度を得ることができる。一方、非磁性支持体11の厚さが11μm以下であれば、全厚が不要に厚くならず、例えば、磁気テープの場合1巻当たりの記録容量を大きくすることができる。
非磁性支持体11の長手方向のヤング率は、好ましくは5.8GPa以上であり、より好ましくは7.1GPa以上である。非磁性支持体11の長手方向のヤング率が5.8GPa以上であれば、走行性を向上させることができる。また、ヘリキャルスキャン方式に用いられる磁気記録媒体では、長手方向のヤング率(MD)と幅方向のヤング率(TD)との比(MD/TD)は、好ましくは0.6〜0.8であり、より好ましく0.65〜0.75であり、更に好ましくは0.7である。上記比の範囲内であれば、磁気ヘッドのトラックの入側から出側間の出力のばらつき(フラットネス)を抑えることができる。リニアレコーディング方式に用いられる磁気記録媒体では、長手方向のヤング率(MD)と幅方向のヤング率(TD)との比(MD/TD)は、好ましくは0.7〜1.3である。
<バックコート層>
非磁性支持体11の下塗層12が形成されている主面とは反対側の主面(ここでは、下面)には、走行性の向上等を目的としてバックコート層14を設けることが好ましい。バックコート層14の厚さは、好ましくは0.2〜0.8μmであり、より好ましくは0.3〜0.8μmである。バックコート層14の厚さが薄すぎると、走行性向上効果が不十分となり、厚すぎると磁気記録媒体10の全厚が厚くなり、例えば、磁気テープ1巻当たりの記録容量が小さくなる。
バックコート層14は、例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等のカーボンブラックを含有することが好ましい。通常、粒子径が相対的に異なる、小粒径カーボンブラックと大粒径カーボンブラックとが併用される。併用する理由は、走行性向上効果が大きくなるからである。
また、バックコート層14は結合剤を含み、結合剤としては、磁性層13及び下塗層12に用いられる結合剤と同様のものを用いることができる。これらの中でも、摩擦係数を低減させ磁気ヘッドの走行性を向上させるためには、セルロース系樹脂とポリウレタン系樹脂とを併用することが好ましい。
バックコート層14は、強度向上を目的として、酸化鉄、アルミナ等を更に含有することが好ましい。
次に、本実施形態の磁気記録媒体の製造方法について説明する。本実施形態の磁気記録媒体の製造方法は、例えば、各層形成成分と溶媒とを混合して、磁性層形成用塗料、下塗層形成用塗料及びバックコート層形成用塗料をそれぞれ作製し、非磁性支持体の片面に下塗層形成塗料を塗布して乾燥させて下塗層を形成した後に、その下塗層の上に磁性層形成用塗料を塗布して乾燥させる逐次重層塗布方式で磁性層を形成し、更に非磁性支持体の他方の片面にバックコート層形成用塗料を塗布して乾燥してバックコート層を形成する。その後に全体をカレンダ処理して磁気記録媒体を得る。
また、上記逐次重層塗布方式に代えて、非磁性支持体の片面に下塗層形成用塗料を塗布した後、下塗層形成用塗料が乾燥する前に、下塗層形成用塗料の上に磁性層形成用塗料を塗布して乾燥させる同時重層塗布方式を採用することもできる。
上記各塗料の塗布方法は特に限定されず、例えば、グラビア塗布、ロール塗布、ブレード塗布、エクストルージョン塗布等を用いることができる。
前述の磁性層おいて、表面混合層の平均厚さLを4nm≦L≦8nmに設定する方法としては、前述の(a)〜(e)の方法があり、これらの方法を単独で実施することができ、また、これらの方法を複数組み合わせて実施することができるが、前述のとおり、特に(a)の潤滑剤の転写塗布と、(b)の磁性層の研磨処理とを組み合わせることが好ましい。
(磁気記録媒体の記録再生機構)
次に、本発明の磁気記録媒体の記録再生機構の実施形態について説明する。
本実施形態の磁気記録媒体の記録再生機構は、本発明の上記実施形態の磁気記録媒体と、TMRヘッドとを含んでいる。上記磁気記録媒体の磁性層は、前述のとおり、磁性体粒子として平均粒子径が15nm以下のε−酸化鉄を含んでいるため、電磁変換特性を向上できるが、更に高感度のTMRヘッドと組み合わせることにより、更に良好な電磁変換特性(SN特性)を得ることができる。
また、TMRヘッドは、感度が高く、微粒子のε−酸化鉄と組み合わせることにより、高いSN比を得ることができるが、TMRヘッドは感度が高いために、磁性層とのスペーシングが小さくなると、TMRヘッドと磁性層突起との接触による放熱により、TMR素子が瞬間的に冷却されるために生ずる、サーマルアスペリティノイズ(クーリングノイズ)が発生しやすくなるが、前述のとおり、上記磁気記録媒体の磁性層の表面混合層の平均厚さLが、4nm≦L≦8nmに設定されているため、サーマルアスペリティノイズを低減できる。
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものでない。また、以下の説明において、「部」とあるのは「質量部」を意味する。
(実施例1)
[磁性塗料の調製]
表1に示す磁性塗料成分(1)を高速攪拌混合機で高速混合して混合物を調製した。次に、得られた混合物をサンドミルで20分間分散処理した後、表2に示す磁性塗料成分(2)を加えて230分間分散処理し、その後、表3に示す磁性塗料成分(3)を加えて分散液を調製した。次に、得られた分散液と、表4に示す磁性塗料成分(4)とをディスパを用いて撹拌し、これをフィルタでろ過して、磁性塗料を調製した。
[下塗塗料の調製]
表5に示す下塗塗料成分(1)を回分式ニーダで混練することにより混練物を調製した。次に、得られた混練物と、表6に示す下塗塗料成分(2)とをディスパを用いて撹拌して、混合液を調製した。次に、得られた混合液をサンドミルで100分間分散して分散液を調製した後、この分散液と、表7に示す下塗塗料成分(3)とをディスパを用いて撹拌し、これをフィルタでろ過して、下塗塗料を調製した。
[バックコート層用塗料の調製]
表8に示すバックコート層用塗料成分を混合した混合液を、サンドミルで50分間分散して分散液を調製した。得られた分散液にポリイソシアネートを15部加えて撹拌し、これをフィルタでろ過して、バックコート層用塗料を調製した。
[評価用磁気テープの作製]
非磁性支持体(ポリエチレンナフタレートフィルム、厚さ:5μm)の上に、上記下塗塗料をカレンダ処理後の下塗層の厚さが1.1μmとなるように塗布し、100℃で乾燥して下塗層を形成した。次に、上記下塗層の上に、上記磁性塗料をカレンダ処理後の磁性層の厚さが55nmとなるように、ダイコータを用いてコーター張力を4.5N/インチとして塗布し、100℃で乾燥して磁性層を形成した。その後、N−S対抗磁石を用いて垂直方向に強度450kA/mの配向磁界を印加しながら、垂直配向処理を行った。
次に、上記バックコート層用塗料を、非磁性支持体の上記下塗層及び上記磁性層が形成された面とは反対側の面上に、カレンダ処理後の厚さが0.5μmとなるように塗布し、100℃で乾燥してバックコート層を形成した。
その後、上記非磁性支持体の上面側に下塗層及び磁性層が形成され、下面側にバックコート層が形成された原反ロールを、7段の金属ロールを有するカレンダ装置で温度100℃、線圧300kg/cmでカレンダ処理した。
次に、得られた原反ロールを60℃で48時間硬化処理し、磁気シートを作製した。この磁気シートを1/2インチ幅に裁断して磁気テープを作製した。
次に、作製した磁気テープに表面処理を行った。この表面処理は、スパイラル状に溝を設けた超鋼ローターを回転させて磁気テープに摺動させて磁気テープの磁性層表面を処理するものである。
具体的には、直径30mm、溝幅2mmの超鋼ローターを用い、超鋼ローターの回転数を3000rpm、磁気テープの走行速度を5m/sec、磁気テープの巻き取り張力を120g、巻き出し張力を80g、磁気テープの超鋼ローターへの巻き付け角度を120°として、磁気テープの表面処理を行った。
更に、上記表面処理を行った磁気テープに潤滑処理を行った。この潤滑処理は、前述のとおり、磁性層の外表面に、潤滑剤が含浸された帯状の塗布布を走行させながら摺接させることにより、磁性層の外表面に潤滑剤を転写して塗布する処理である。
具体的には、上記塗布布として、テクノス株式会社製の塗布布“TECHNO WIPER(テクノワイパー)CRN500”(製品名)を用い、上記潤滑剤として、日油株式会社製の潤滑剤“ユニスターH−208BRS”10質量部と、粘度調整用の溶剤としてのヘキサン90質量部とを混合した混合液を用い、上記塗布布に上記混合液を含浸させて下記のとおり潤滑処理した。
潤滑処理を行うときの磁気テープの走行速度を5m/sec、走行張力を1Nとし、塗布布の走行速度を100mm/minとして磁気テープの走行方向と反対の方向に塗布布を移動させた。塗布布が巻きつけられた摺接ガイドピンへの磁気テープの巻き付け角度は30°とし、摺接ガイドピンの直径は25mmとした。本実施例では、上記潤滑処理を2回行い、実施例1の評価用磁気テープを作製した。
(実施例2)
裁断後の磁気テープに対する潤滑処理を4回行った以外は、実施例1と同様にして、実施例2の評価用磁気テープを作製した。
(実施例3)
表1に示す磁性塗料成分(1)のε−Fe2O3磁性粉末の平均粒子径を12nmに変更し、更に裁断後の磁気テープに対する潤滑処理を3回行った以外は、実施例1と同様にして、実施例3の評価用磁気テープを作製した。
(実施例4)
磁性層の形成後の垂直配向処理の配向磁界の強度を550A/mに上昇させ、更に裁断後の磁気テープに対する潤滑処理を3回行った以外は、実施例1と同様にして、実施例4の評価用磁気テープを作製した。
(実施例5)
表1に示す磁性塗料成分(1)のε−Fe2O3磁性粉末の保磁力を2800〔Oe〕に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例5の評価用磁気テープを作製した。
(実施例6)
作製した原反ロールを、7段の金属ロールを有するカレンダ装置で温度90℃、線圧300kg/cmでカレンダ処理し、裁断後の磁気テープに対する潤滑処理を3回行った以外は、実施例1と同様にして、実施例6の評価用磁気テープを作製した。
(実施例7)
裁断後の磁気テープに対して表面処理を行わず、潤滑処理を3回行った以外は、実施例1と同様にして、実施例7の評価用磁気テープを作製した。
(比較例1)
表1に示す磁性塗料成分(1)のε−Fe2O3磁性粉末の平均粒子径を16nmに変更し、更に裁断後の磁気テープに対する潤滑処理を3回行った以外は、実施例1と同様にして、比較例1の評価用磁気テープを作製した。
(比較例2)
磁性層の形成後の垂直配向処理の配向磁界の強度を350A/mに低下させ、更に裁断後の磁気テープに対する潤滑処理を3回行った以外は、実施例1と同様にして、比較例2の評価用磁気テープを作製した。
(比較例3)
作製した原反ロールを、7段の金属ロールを有するカレンダ装置で温度110℃、線圧300kg/cmでカレンダ処理し、裁断後の磁気テープに対して表面処理を行わず、潤滑処理を1回行った以外は、実施例1と同様にして、比較例3の評価用磁気テープを作製した。
(比較例4)
作製した原反ロールを、7段の金属ロールを有するカレンダ装置で温度90℃、線圧300kg/cmでカレンダ処理し、裁断後の磁気テープに対して表面処理を行わず、潤滑処理を3回行った以外は、実施例1と同様にして、比較例4の評価用磁気テープを作製した。
(比較例5)
裁断後の磁気テープに対して表面処理を行わず、潤滑処理を1回行った以外は、実施例1と同様にして、比較例5の評価用磁気テープを作製した。
次に、作製した評価用磁気テープを用いて以下の特性を測定した。
<磁性層の幅方向の磁化の長さ>
作製した評価用磁気テープの磁性層に記録された信号の磁化の長さであってその磁性層の幅方向の磁化の長さを次のようにして測定した。即ち、磁気力顕微鏡として、デジタルインスツルメント社製の“Nano Scope III”(製品名)を用い、周波数検出法により、信号が記録された磁性層の幅方向の磁化の長さを測定した。測定プローブには、コバルトアロイコートを有するプローブ(先端曲率半径:25〜40nm、保磁力:約400〔Oe〕、磁気モーメント:約1×10-13emu)を用い、走査範囲は5μm四方、走査速度は5μm/secとした。
<磁性層の角形比及び保磁力>
東英工業社製の振動試料型磁力計“VSM−P7型”(製品名)を用いて、評価用磁気テープのヒステリシス曲線を求めた。上記ヒステリシス曲線から磁性層の厚さ方向の角形比及び保磁力を求めた。具体的には、評価用磁気テープを直径8mmの円形に切断して切断サンプルとし、その切断サンプルを、磁気テープの厚さ方向を外部磁場の印加方向に揃えて20枚積層して測定サンプルとした。振動試料型磁力計からのデータのプロットモードとしては、印加磁界を−16kOe〜16kOeとし、時定数TCを0.03sec、描画ステップを6ビット、ウエイトタイムを0.3secと設定した。
<磁性層の表面混合層の平均厚さL>
前述の本実施形態の層厚さ測定方法により、磁性層の表面混合層の平均厚さLを測定した。
<磁性層のスペーシング>
Micro Physics社製のTSA(Tape Spacing Analyzer)を用いて、磁性層の表面をn−ヘキサンで洗浄した後のスペーシングを測定した。
具体的には、ウレタン製の半球で磁性層をガラス板に押し付ける圧力は0.5atm(5.05×104N/m)とした。この状態でストロボスコープから白色光を、ガラス板を通して評価用磁気テープの磁性層側表面の一定領域(240000〜280000μm2)に照射し、そこからの反射光を、IFフィルタ(633nm)及びIFフィルタ(546nm)を通してCCDで受光することで、この領域の凹凸で生じた干渉縞画像を得た。
次に、この画像を66000ポイントに分割して各ポイントのガラス板から磁性層表面までの距離を求めこれをヒストグラム(度数分布曲線)とし、更にローパスフィルタ(LPF)処理によって滑らかな曲線として、そのピーク位置のガラス板から磁性層表面までの距離をスペーシングとした。
また、上記スペーシングの計算に用いた磁性層表面の光学定数(位相、反射率)は、大塚電子社製の反射分光膜厚計“FE−3000”(製品名)を用いて測定し、波長546nm付近の値を用いた。
n−ヘキサンによる洗浄は、評価用磁気テープをn−ヘキサンに浸漬して室温で30分間超音波洗浄することにより行った。
<出力特性>
LTOドライブを改造して作製したリニアテープ電磁変換特性測定装置を用いて、これに、書込みトラック幅5μm、読み出しトラック幅2.3μmの誘導型/GMR複合磁気ヘッドを取り付け、テープ速度1.5m/secで、記録波長200nm(G7×1.05倍の線記録密度)の信号を評価用磁気テープに記録して評価した。
この装置は、磁気ヘッドを2か所取り付けられる走行系になっており、上記磁気ヘッドを2台取り付けた。磁気ヘッドはトラック幅方向に移動可能な精密ピエゾステージ(移動分解能10nm)に載っており、上流側の磁気ヘッドで信号の記録、下流側の磁気ヘッドで交流消去を1回の走行で行い、上流側の磁気ヘッドと下流側の磁気ヘッドとをトラック幅方向に0.8μmオフセットさせることによって評価用磁気テープ上に磁化幅0.8μmの信号を記録した。
次いで、再び評価用磁気テープを走行させて信号を再生し、再生した信号を市販のMRヘッド用Readアンプで増幅した後、キーサイト・テクノロジー社(旧アジレントテクノロジー社)製のスペクトラムアナライザー“N9020A”(製品名)を用いて、信号の基本波成分出力(S)とその2倍の周波数までの積分ノイズ(N)とを測定した。
<摩擦係数>
実ドライブにおける繰り返し走行耐久性を評価するために、ステンレス鋼製の丸棒を用いて、評価用磁気テープの磁性層の摩擦係数を、繰り返し800パスまで測定した。この摩擦係数が大きくなると、テープ摺動によって走行不良を起こしやすくなり、繰り返し走行耐久性が劣化する。
具体的には、直径6mmのステンレス鋼製の丸棒に、評価用磁気テープの磁性層側を90°でラップさせ、評価用磁気テープの先端に63.36gの荷重をかけて1200mm/minの速度で70mm摺動させ、11パス目及び800パス目の摺動中の荷重をロードセルで検出して測定荷重とし、下記式で摩擦係数を算出した。
摩擦係数=In〔測定荷重(g)/63.36(g)〕/0.5π
<サーマルアスペリティノイズ>
前述の出力特性の測定で作製したリニアテープ電磁変換特性測定装置を用いて、トラック幅0.2μmのTMRヘッドを取り付けて、テープ速度1.5m/secで、記録波長200nm(G7×1.05倍の線記録密度)の信号を評価用磁気テープに記録し、テープ長さ500mにおけるサーマルアスペリティノイズの個数を測定した。
以上の評価結果を表9及び表10に示す。
表10から、本発明に係る実施例1〜7は、出力特性が良好で、800パス後の摩擦係数の変化も小さく耐久性も良好であり、更にサーマルアスペリティノイズも少なく、良好なエラー特性が得られていることが分かる。即ち、本発明により、電磁変換特性及び走行耐久性に優れた磁気記録媒体を提供できることが分かる。
一方、磁性体粒子の平均粒子径が15nmを超えた比較例1では、粒子ノイズが大きくなったためか出力特性が低下した。角形比が0.65を下回った比較例2では、磁化遷移幅が大きくなり、波形間の干渉が発生したためか、出力特性が低下した。磁性層の表面混合層の平均厚さが7nmを下回った比較例3では、800パス後の摩擦係数の変化が大きく耐久性が劣り、またサーマルアスペリティノイズも多く、エラー特性も劣っていた。磁性層の表面混合層の平均厚さが8nmを上回った比較例4では、TSAスペーシングが大きくなったためか、出力特性が低下した。磁性層の表面混合層の平均厚さが7nmを下回った比較例5では、サーマルアスペリティノイズが多く、エラー特性が劣っていた。