JP6963284B2 - 脂質二重膜基板におけるリンカー層の制御方法、並びに、脂質二重膜基板及びその製造方法 - Google Patents

脂質二重膜基板におけるリンカー層の制御方法、並びに、脂質二重膜基板及びその製造方法 Download PDF

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本発明は、脂質二重膜基板におけるリンカー層の制御方法、並びに、脂質二重膜基板及びその製造方法に関する。
微小なマイクロチップの表面で、人工生体膜中における膜タンパク質の動作を調べるセンサデバイスや、膜タンパク質の機能を利用するためのバイオデバイスの研究が、従来より精力的に行われている。このようなマイクロデバイスの作製には、マイクロチップの基板表面に、自然界において効率よく特異的反応場として用いられている生体膜又は脂質膜等の人工生体膜を配置し、この生体膜中に膜タンパク質を、その機能を維持した状態で担持することが必要となる。このように基板表面に支持された生体膜(以下、「支持膜」と称する場合がある)は、基板表面に吸着していると共に、生体膜が有する最も重要な性質である流動性を維持しているため、膜タンパク質の機能する場として最適な環境を与える。非特許文献1には、支持膜を用いた生体分子検出チップが記載されている。この生体分子検出チップは、プラスチック、ガラス、シリコン等の材料からなる基板の表面に、脂質分子等からなる支持膜を配置し、これら支持膜を隔壁で分離したものである。支持膜の流動性は、基板表面の支持膜に平行な電場を印加することにより、ゲルに担持されたタンパク質の電気泳動と同様に、支持膜に担持した生体分子を動かすことで証明されている(例えば、非特許文献2及び3等参照)。
基板の表面に支持された支持膜は、膜関連生体分子の機能する場として、以下の問題を有する。基板と支持膜との間の層の厚さは、通常、支持膜に担持する膜関連生体分子(膜貫通タンパク質)と基板表面との接触を避けられるほど、十分に大きくない。この問題は、機能を発現する部位が、生体膜から外側に数十nm程度張り出した構造を有する膜関連生体分子(例えば、細胞接着受容体等)を支持膜に担持する場合においては、特に深刻な問題となる。具体的には、例えば、機能部位が基板表面に接触してしまい、基板との間で生じる摩擦や、基板表面への吸着により、機能部位が損傷したり、機能の維持が困難になったり、又は、膜関連生体分子そのものが変性してしまう虞がある。
このような問題に対し、従来においては、基板と生体膜との間に、膜を支持可能且つ生体親和性を有する高分子材料からなる層(以下、「リンカー層」と称する場合がある)を形成させて、生体膜と基板とを分離し、膜関連生体分子と基板との接触を回避する等の手法が検討されている(例えば、非特許文献4等参照)。
Groves J T et al., "Micropattern Formation in Supported Lipid Membranes.", Acc. Chem. Res., Vol. 35, p149-157, 2002. Tanaka M at al., "Frictional Drag and Electrical Manipulation of Recombinant Proteins in Polymer-Supported Membranes.", Langmuir, Vol. 23, p5638-5644, 2007. Tanaka M at al., "Selective Deposition of Native Cell Membranes on Biocompatible Micropatterns.", J. Am. Chem. Soc., Vol. 126, p3257-3260, 2004. Tanaka M at al., "Polymer-supported membranes as models of the cell surface.", Nature, Vol. 437, p656-663, 2005.
一方、膜関連生体分子の機能やそこで起こる生体反応を、基板表面に構築したマイクロアレイセンサを用いて検出する場合には、生体膜に担持される生体分子の機能を損なわない範囲で、基板と膜関連生体分子との間の距離が近いことが、高感度な測定や微小領域の測定において有利である。しかしながら、生体親和性を有する高分子材料からなる層(リンカー層)の厚さは、ナノメートルスケールで精密に制御することが困難であった。
上記事情に鑑み、本発明は、リンカー層の厚さをナノメートルスケールで精密に制御可能な脂質二重膜基板におけるリンカー層の制御方法を提供する。また、膜タンパク質と基板とが接触せず、且つ、バイオセンサとしたときの感度が良好な脂質二重膜基板及びその製造方法を提供する。
本発明の第1態様に係る方法は、基板と、グラフェン膜と、リンカー層と、脂質二重膜と、がこの順に積層された脂質二重膜基板における前記リンカー層の厚さを制御する方法であって、前記リンカー層は、前記脂質二重膜を前記基板上に固定化するリンカー分子からなり、前記リンカー分子として、少なくとも一部に二本鎖構造を有する核酸分子を用い、前記脂質二重膜は、膜タンパク質を備え、前記グラフェン膜は、前記基板上に固定化されており、前記リンカー分子は前記グラフェン膜上に固定化されている、方法である。
本発明の第2態様に係る脂質二重膜基板は、基板と、グラフェン膜と、リンカー層と、脂質二重膜と、がこの順に積層された脂質二重膜基板であって、前記リンカー層は、前記脂質二重膜を前記基板上に固定化するリンカー分子からなり、前記リンカー分子が少なくとも一部に二本鎖構造を有する核酸分子であり、前記脂質二重膜は、膜タンパク質を備え、前記グラフェン膜は、前記基板上に固定化されており、前記リンカー分子は前記グラフェン膜上に固定化されている
記リンカー層の厚さが3nm以上20nm以下であってもよい。
記第2態様に係る脂質二重膜基板は、前記グラフェン膜上に接着分子を含む接着層を更に備え、前記接着層は前記グラフェン膜上に固定化されており、前記リンカー分子は前記接着層を介して前記グラフェン膜上に固定化されていてもよい。
上記第2態様に係る脂質二重膜基板は、前記グラフェン膜をセンサとして用いてもよい。
本発明の第3態様に係る製造方法は、上記第2態様に係る脂質二重膜基板の製造方法であって、前記基板上に第1の一本鎖核酸分子を固定化する工程Aと、前記第1の一本鎖核酸分子が固定化された前記基板上に、前記第1の一本鎖核酸分子の塩基配列と相補的な塩基配列からなる核酸を少なくとも一部に含む第2の一本鎖核酸分子が結合した第1の脂質分子、及び、前記第2の一本鎖核酸分子が結合していない第2の脂質分子を添加して、前記第1の一本鎖核酸分子及び前記第2の一本鎖核酸分子からなる前記少なくとも一部に二本鎖構造を有する核酸分子、並びに、前記第1の脂質分子及び前記第2の脂質分子からなる前記脂質二重膜を形成させる工程Bと、を備える方法である。
上記態様の方法によれば、リンカー層の厚さをナノメートルスケールで精密に制御することができる。上記態様の脂質二重膜基板は、膜タンパク質と基板とが接触せず、且つ、バイオセンサとしたときの感度が良好である。上記態様の製造方法によれば、脂質二重膜と基板との間に形成されるリンカー層の厚さを精密に制御することができ、膜タンパク質と基板とが接触せず、且つ、バイオセンサとしたときの感度が良好な脂質二重膜基板が得られる。
本実施形態の脂質二重膜基板の一例を模式的に示す断面図である。 本実施形態の脂質二重膜基板の一例を模式的に示す断面図である。 本実施形態の脂質二重膜基板の一例を模式的に示す断面図である。 本実施形態の脂質二重膜基板の製造方法の一例を示す工程図である。 実施例1において高エネルギーX線鏡面反射率法を用いて各基板での脂質二重膜の形成を確認したグラフである。
≪脂質二重膜基板≫
図1は、本実施形態の脂質二重膜基板の一例を模式的に示す断面図である。図1を参照しながら、本実施形態の脂質二重膜基板の構造について、以下に詳細を説明する。
図1に示す脂質二重膜基板100は、基板10と、リンカー層30と、脂質二重膜20と、がこの順に積層されている。リンカー層30は、脂質二重膜20を基板10上に固定化するリンカー分子からなる。このリンカー分子は、少なくとも一部に二本鎖構造を有する核酸分子31である。核酸分子31は、少なくとも一部に二本鎖構造を有しており、全部が二本鎖構造からなってもよい。また、脂質二重膜20は、膜タンパク質23を備えてもよい。
脂質二重膜基板100は、核酸分子31を介して基板10と脂質二重膜20とが結合しており、核酸分子31の塩基数を適宜調節することで、リンカー層30の厚さを制御することができ、脂質二重膜20に埋め込まれた膜タンパク質23と基板10とが接触せず、膜タンパク質の構造機能を維持することができる。
図2は、本実施形態の脂質二重膜基板の一例を模式的に示す断面図である。なお、図2以降の図において、既に説明済みの図に示すものと同じ構成要素には、その説明済みの図の場合と同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。
図2に示す脂質二重膜基板200は、グラフェン膜11を備えている点以外は、図1に示す脂質二重膜基板100と同じものである。すなわち、脂質二重膜基板200においては、基材10と、グラフェン膜11と、リンカー層30と、脂質二重膜20と、がこの順に積層されている。また、脂質二重膜基板200は、核酸分子31及びグラフェン膜11を介して基板10と脂質二重膜20とが結合しており、核酸分子31の塩基数を適宜調節することで、リンカー層30の厚さを制御することができ、脂質二重膜20に埋め込まれた膜タンパク質23と基板10とが接触せず、膜タンパク質の構造機能を維持することができる。
図3に示す脂質二重膜基板300は、接着層12を備えている点以外は、図2に示す脂質二重膜基板200と同じものである。すなわち、脂質二重膜基板300においては、基材10と、グラフェン膜11と、接着層12と、リンカー層30と、脂質二重膜20と、がこの順に積層されている。接着層12は接着分子を含み、また、脂質二重膜基板300は、核酸分子31、接着分子及びグラフェン膜11を介して基板10と脂質二重膜20とが結合しており、核酸分子31の塩基数を適宜調節することで、リンカー層30の厚さを制御することができ、脂質二重膜20に埋め込まれた膜タンパク質23と基板10とが接触せず、膜タンパク質の構造機能を維持することができる。
本実施形態の脂質二重膜基板は、図1〜3に示すものに限定されず、本実施形態における効果を損なわない範囲内において、図1〜3に示すものの一部の構成が変更又は削除されたものや、これまで説明したものにさらにほかの構成が追加されたものであってもよい。
例えば、図1〜3に示す脂質二重膜基板において、基板10又はグラフェン膜11上に電極、及び、脂質二重膜20上に対向電極を有してもよい。これにより、電極及び対向電極の間に電圧を印加することができ、その間に流れる電流を測定することで、膜タンパク質を介したイオン電流を検出することができる。
次いで、本実施形態の脂質二重膜基板の各構成について以下に詳細を説明する。
<基板>
基板を構成する材料としては、平坦な表面を形成できるものであればよく、例えば、シリコン酸化物、シリコン窒化物、炭化ケイ素(SiC)、石英、マイカ、ガラス、熱可塑性樹脂等が挙げられる。これら材料を1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
また、基板は1層からなってもよく、2層以上の複数層からなってもよい。
なお、基板が複数層からなる場合、その構成材料及び厚さは、互いに同一でも異なっていてもよく、これら層の組み合わせは、本実施形態における効果を損なわない限り、特に限定されない。
なお、本明細書においては、基板の場合に限らず、「複数層が互いに同一でも異なっていてもよい」とは、「全ての層が同一であってもよいし、全ての層が異なっていてもよく、一部の層のみが同一であってもよい」ことを意味し、さらに「複数層が互いに異なる」とは、「各層の構成材料及び厚さの少なくとも一方が互いに異なる」ことを意味する。
また、基板の材料を適宜選択する、又は、基板表面を化学修飾することで、少なくとも一部に二本鎖構造を有する核酸分子を基板表面に直接固定化することができる。
例えば、後述する製造方法に示す工程Aにおいて、表面の少なくとも一部が金で修飾された基板と、5’末端にチオール基が導入された第1の一本鎖核酸分子とを用いた場合には、金とチオール基とが反応し、金と硫黄原子とが配位結合を形成することで、第1の一本鎖核酸分子を基板表面に直接固定化することができる。
基板の厚さとしては、例えば100μm以上2mm以下とすることができる。
なお、ここでいう「基板の厚さ」とは、基板全体の厚さを意味し、例えば、複数層からなる基板の厚さとは、基板を構成する全ての層の合計の厚さを意味する。
また、基板の厚さは、マイクロメータ又はレーザー顕微鏡を用いることで測定することができる。
<脂質二重膜>
本明細書において、「脂質二重膜」とは、片方の末端に親水性の官能基を有し、もう片方の末端に疎水性の脂肪酸を有する脂質分子が、親水性の官能基を外側に、疎水性の脂肪酸を内側にして並び、二重層構造を形成した膜を意味する。
脂質二重膜20は、図1〜3、及び、後述する製造方法に記載のとおり、第1の脂質分子21及び第2の脂質分子22からなる。
脂質二重膜(すなわち、第1の脂質分子21及び第2の脂質分子22)を構成する脂質分子としては、カチオン性脂質分子であってもよく、中性又はアニオン性脂質分子であってもよい。
カチオン性脂質分子としては、例えば、1,2−ジオレイル−3−トリメチルアンモニウムプロパン、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(1,2−Dioleoyl−sn−glycero−3−phosphocholine;DOPC)、1、2−ジオレイル−sn−グリセロ−3−エチルホスホコリン等が挙げられる。
中性又はアニオン性脂質分子としては、例えば、ジフィタニルホスファチジルコリン(DPhPC)、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルイノシトールホスフェイト(PIP)、ホスファチジン酸(PA)、ホスファチジルグリセロール(PG)等のリン脂質、スフィンゴ脂質等が挙げられる。
これら脂質分子を1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。また、これらの脂質で構成された脂質膜にコレステロールやエルゴステロール等のステロール類を混合してもよい。
脂質二重膜の厚さとしては、例えば3nm以上6nm以下とすることができる。
なお、脂質二重膜の厚さは、高エネルギーX線鏡面反射率法を用いることで測定することができる。
[膜タンパク質]
図1〜3に示すように、脂質二重膜には膜タンパク質が埋め込まれていてもよい。
膜タンパク質としては、細胞又は細胞小器官等の生体膜に存在するタンパク質を用いることができ、輸送体、連結体、受容体、酵素等の機能を担っている。膜タンパク質として具体的には、例えば、接着分子、分子モーター、チャネル型膜タンパク質等が挙げられる。
接着分子としては、例えば、インテグリン、セレクチン、カドヘリン及びこれらの誘導体等が挙げられる。
分子モーターは、主に、回転型分子モーター(ロータリモーター)と線型分子モーター(リニアモーター)とに分けられる。回転型分子モーターとしては、例えば、F1F0−ATPアーゼ、カルシウム輸送ATPアーゼ等が挙げられる。線型分子モーターとしては、例えば、キチン合成酵素等が挙げられる。
チャネル型膜タンパク質は、主に、イオンを透過させるイオンチャネル型膜タンパク質と、水を透過させる水チャネル型膜タンパク質とに分けられる。
イオンチャネル型膜タンパク質としては、例えば、イオンチャネル型受容体が挙げられ、細胞間情報伝達や温度の感受、炎症や痛みに関与するTRP(Transient Receptor Potential)チャンネル、細胞間情報伝達や痛みに関与するATP受容体、細胞間情報伝達や情動に関与するセロトニン受容体、細胞間情報伝達や興奮性神経伝達に関与するNMDA受容体、細胞間情報伝達や興奮性神経伝達に関与するAMPA受容体、細胞間情報伝達や興奮性神経伝達に関与するカイニン酸受容体、細胞間情報伝達や抑制性神経伝達に関与するGABA受容体等が挙げられる。
水チャネル型膜タンパク質としては、例えば、アクアポリン等が挙げられる。
これら膜タンパク質を1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
[その他分子]
また、脂質二重膜は、膜タンパク質の代わりに、イオノフォアを備えていてもよい。
一般に、「イオノフォア」とは、生体膜において、特定のイオンの透過性を増加させる能力を持つ脂溶性分子の総称であり、主に細菌によって生産される抗生物質である。
イオノフォアとしては、例えば、グラミシジン、アラメチシン、アムホテリシン及びこれらの誘導体等が挙げられる。
<リンカー分子>
リンカー層は、基板と脂質二重膜とを分離し、膜タンパク質と基板との接触を回避する機能を有する。
リンカー層を構成するリンカー分子は、膜を支持することができ、生体親和性を有する材料であればよく、本実施形態の脂質二重膜基板においては、少なくとも一部に二本鎖構造を有する核酸分子が用いられる。この核酸分子は、少なくとも一部に二本鎖構造を有していればよく、全部が二本鎖構造であってもよい。中でも、安定性に優れることから、全部が二本鎖構造であることが好ましい。
核酸分子を構成する核酸としては、例えば、デオキシリボ核酸(deoxyribonucleic acid;DNA)、リボ核酸(ribonucleic acid;RNA)、人工核酸等が挙げられる。人工核酸としては、例えば、架橋型人工核酸(Locked nucleic acid;LNA)等が挙げられる。これら核酸を1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
また、少なくとも一部に二本鎖構造を有する核酸分子31は、図1〜3、及び、後述する製造方法に記載のとおり、第1の一本鎖核酸分子31a及び第2の一本鎖核酸分子31bからなる。
第1の一本鎖核酸分子31aは、その5’末端に基板上、グラフェン上又は接着層上に固定化するための官能基を有することが好ましい。該官能基としては、例えば、アミノ基、カルボキシ基、チオール基、アルデヒド基等が挙げられる。これらの官能基は、公知の方法により、一本鎖核酸分子に導入することができる。
一方、第2の一本鎖核酸分子31bは、その5’末端に脂質分子を有する(すなわち、「第1の脂質分子21」である)ことが好ましい。脂質分子としては、上記「脂質二重膜」において例示されたものが挙げられる。
リンカー層の厚さは、3nm以上20nm以下が好ましい。
リンカー層の厚さが上記下限値以上であることにより、脂質二重膜に埋め込まれた膜タンパク質と基板とがより接触しにくい。一方、リンカー層の厚さが上記上限値以下であることにより、本実施形態の脂質二重膜基板をバイオセンサとしたときの感度がより良好なものとなる。
また、リンカー層の厚さは、使用する少なくとも一部に二本鎖構造を有する核酸分子の塩基数を制御することで、調節することができる。具体的には、二本鎖構造における核酸分子の塩基対は、0.34nm(34Å)間隔で積み重なっている。そのため、核酸分子の塩基数を制御することで、リンカー層の厚さを0.34nm単位で精密に制御することができる。例えば、核酸分子の塩基対が100個である場合、リンカー層の厚さは34nmとなるため、膜タンパク質が脂質二重膜から外側に数十nm程度張り出していても、基板と膜タンパク質との接触を防ぎ、その機能を損なわずに、脂質二重膜内に保持することができる。
なお、リンカー層の厚さは、後述する実施例に記載のとおり、高エネルギーX線鏡面反射率法を用いることで測定することができる。
また、リンカー層の厚さとは、リンカー分子の長さ、すなわち、少なくとも一部に二本鎖構造を有する核酸分子の長さである。そのため、図1に示す脂質二重膜基板100の場合には、基板から脂質二重膜までの距離であり、図2に示す脂質二重膜基板200の場合には、グラフェン膜から脂質二重膜基板までの距離であり、図3に示す脂質二重膜基板300の場合には、接着層から脂質二重膜までの距離である。
基板上におけるリンカー分子の密度は、30個/μm以上4万個/μm以下が好ましい。
基板上におけるリンカー分子の密度が上記下限値以上であることにより、脂質二重膜を基板上により安定的に支持することができる。一方、基板上におけるリンカー分子の密度が上記上限値以下であることにより、脂質二重膜の流動性がより良好なものとなる。
また、従来からリンカー分子として用いられる高分子鎖では、基板上におけるリンカー分子の密度が上記下限値程度の低い場合には、糸まり状(球形)にもつれてしまう。そのため、リンカー層の厚さ方向の長さが短くなり、高分子鎖の直線構造を安定させるためには、基板上におけるリンカー分子の密度を上記下限値よりも十分に高くする必要が生じる。一方、リンカー分子として用いられる核酸分子は、少なくとも一部に二本鎖構造を有し、剛直であるため、基板上におけるリンカー分子の密度が上記下限値程度の低い場合であっても、リンカー層の厚みを一定に保つことができる。
なお、上記図2及び3に示すように、本実施形態の脂質二重膜基板がグラフェン膜を有する場合には、グラフェン膜上におけるリンカー分子の密度が上記範囲内となるようにすることが好ましい。
また、基板上におけるリンカー分子の密度は、例えば、後述する製造方法において、第1の一本鎖核酸分子の使用量、基板又はグラフェン膜上の修飾を施す部位の密度、グラフェン膜上に形成させる接着層の密度等を制御することで、調節することができる。
<グラフェン膜>
グラフェン膜は、リンカー分子を固定化する機能を有する。さらに、グラフェン膜は、光や電気に応答するセンサの機能を有する。本実施形態の脂質二重膜基板は、グラフェン膜を備えることで、バイオセンサとして好適に用いられる。
グラフェン膜は、一般に、炭素原子がsp結合(sp混成軌道による結合)で面内に結合を作って六角形を形成し、平面上に蜂の巣状に広がった1原子層厚さの層状の物質であり、熱的、化学的に安定である。
また、グラフェン膜表面を化学修飾することで、少なくとも一部に二本鎖構造を有する核酸分子をグラフェン膜表面に固定化することができる。
例えば、後述する製造方法に示す工程Aにおいて、化学修飾により、表面の少なくとも一部にカルボキシ基が導入されたグラフェン膜と、5’末端にアミノ基が導入された第1の一本鎖核酸分子とを用いた場合には、カルボキシ基とアミノ基とが反応し、アミド結合を形成することで、第1の一本鎖核酸分子をグラフェン膜表面に固定化することができる。
グラフェン膜の厚さは、例えば0.5nm以上3nm以下とすることができる。
なお、グラフェン膜の厚さは、原子間力顕微鏡を用いることで測定することができる。
<接着分子>
接着層は、リンカー分子をグラフェン膜上に固定する機能を有する。
接着層を構成する接着分子は、グラフェン膜に吸着するための官能基(以下、「吸着性基」と称する場合がある)、及び、リンカー分子を固定化するための固定化基を有するものが好ましい。
吸着性基としては、ベンゼン環を2つ以上有する基が好ましく、例えば、ナフタレン基、アントラセン基、フェナントレン基、クリセン基、トリフェニレン基、ピレン基、コロネン基等が挙げられる。中でも、ピレン基が好ましい。
固定化基としては、例えば、アミノ基、カルボキシ基、マレイミド基、スクシンイミド基、チオール基、ヒドラジノ基等が挙げられる。
接着分子が有する固定化基がアミノ基又はチオール基である場合、カルボキシ基を有する第1の一本鎖核酸分子を、接着層を介してグラフェン膜上に固定化することができる。
接着分子が有する固定化基がカルボキシ基又はスクシンイミド基である場合、アミノ基又はチオール基を有する第1の一本鎖核酸分子を、接着層を介してグラフェン膜上に固定化することができる。
接着分子が有する固定化基がマレイミド基である場合、チオール基を有する第1の一本鎖核酸分子を、接着層を介してグラフェン膜上に固定化することができる。
固定化基がヒドラジノ基である場合、アルデヒド基を有する第1の一本鎖核酸分子を、接着層を介してグラフェン膜上に固定化することができる。
中でも、固定化基はカルボキシ基又はスクシンイミド基であることが好ましい。
これら吸着性基及び固定化基を1種単独で有する分子を用いてもよく、2種以上組み合わせて有する分子を用いてもよい。
ピレン基及びアミノ基を有する接着分子としては、例えば、1−ピレンメタンアミン、1−ピレンエタンアミン等が挙げられる。
ピレン基及びカルボキシ基を有する接着分子としては、例えば、1−ピレンカルボン酸、ピレンブタン酸等が挙げられる。
ピレン基及びマレイミド基を有する接着分子としては、例えば、ピレンマレイミド等が挙げられる。
ピレン基及びスクシンイミド基を有する接着分子としては、例えば、1−ピレンブタン酸スクシンイミジルエステル等が挙げられる。
ピレン基及びチオール基を有する接着分子としては、例えば、ピレン−1−メタンチオール等が挙げられる。
接着層の厚さは、例えば0.5nm以上2nm以下とすることができる。
なお、接着層の厚さは、原子間力顕微鏡を用いることで測定することができる。
<その他構成>
本実施形態の脂質二重膜基板は、上記構成に加えて、その他構成を備えていてもよい。
その他構成としては、例えば、電極及び対向電極、パッチクランプ測定装置等が挙げられる。
電極及び対向電極を構成する材料としては、例えば、銀、塩化銀、銀表面を塩化銀で加工したもの(銀−塩化銀)、金、白金等が挙げられる。
<脂質二重膜基板の製造方法>
本実施形態の脂質二重膜基板は、例えば、以下に示す工程A及び工程Bを備える方法により製造することができる。
工程Aでは、基板上に第1の一本鎖核酸分子を固定化する。
工程Bでは、前記第1の一本鎖核酸分子が固定化された前記基板上に、前記第1の一本鎖核酸分子の塩基配列と相補的な塩基配列からなる核酸を少なくとも一部に含む第2の一本鎖核酸分子が結合した第1の脂質分子、及び、前記第2の一本鎖核酸分子が結合していない第2の脂質分子を添加する。これにより、前記第1の一本鎖核酸分子及び前記第2の一本鎖核酸分子からなる前記少なくとも一部に二本鎖構造を有する核酸分子、並びに、前記第1の脂質分子及び前記第2の脂質分子からなる前記脂質二重膜を形成させる。
本実施形態の製造方法によれば、脂質二重膜と基板との間に形成されるリンカー層の厚さを精密に制御することができる。また、膜タンパク質と基板とが接触せず、且つ、バイオセンサとしたときの感度が良好な脂質二重膜基板が得られる。
本実施形態の製造方法の各工程について、以下に詳細を説明する。
[工程A]
工程Aでは、基板11上に第1の一本鎖核酸分子31aを固定化する。
基板としては、上記「基板」において例示されたものと同様のものが挙げられる。また、基板は、市販のものを適当な大きさに調節して用いてもよく、公知の方法により作製してもよい。
第1の一本鎖核酸分子31aは、上記「リンカー分子」において例示されたものと同様のものを用いることができる。第1の一本鎖核酸分子31aの塩基数を制御することで、リンカー層の厚みを上記数値範囲に調節することができる。
また、第1の一本鎖核酸分子31aは、基板11上に直接的に固定化してもよく、間接的に固定化してもよい。
第1の一本鎖核酸分子31aを基板11上に直接的に固定化する場合には、図1に示す脂質二重膜基板100が得られる。基板への直接的な固定化方法としては、例えば、表面の少なくとも一部が化学修飾された基板を用いる方法等が挙げられる。基板表面の化学修飾を施す部位の密度を制御することで、基板上のリンカー分子の密度が上記数値範囲となるように、調節することができる。
具体的には、例えば、表面の少なくとも一部が金で修飾された基板と、5’末端にチオール基が導入された第1の一本鎖核酸分子とを用いた場合には、金とチオール基とが反応し、金と硫黄原子とが配位結合を形成することで、第1の一本鎖核酸分子を基板表面上に直接固定化することができる。
第1の一本鎖核酸分子31aを基板11上に間接的に固定化する方法としては、例えば、グラフェン膜12を介して固定化する方法、又は、接着層13及びグラフェン膜12を介して固定化する方法等が挙げられる。
グラフェン膜12を介して固定化する場合には、図2に示す脂質二重膜基板200が得られる。
まず、基板11上にグラフェン膜を固定する。グラフェン膜の形成方法としては、例えば、化学気相成長(chemical vapor deposition;CVD)法等が挙げられる。形成されたグラフェン膜を基板上に転写することで、基板上にグラフェン膜が固定される。
又は、基板が炭化ケイ素(SiC)からなる場合、例えば、炭化ケイ素(SiC)を真空中又はAr雰囲気中等で高温に加熱してSiを脱離させることなどにより、基板上に直接グラフェン膜を形成させることができる。
次いで、グラフェン膜の表面を化学的に修飾する。グラフェン膜の化学修飾方法としては、例えば、酸化グラフェンを生成し所望の固定化基を導入する方法、水素プラズマを用いてグラフェンに水素を付加してグラファンを合成した後、炭素−水素結合を炭素−炭素結合に交換して所望の固定化基を導入する方法等が挙げられる。導入される固定化基としては、第1の一本鎖核酸分子の5’末端に導入された官能基と結合可能なものを適宜選択することができ、具体的には、上記「接着分子」において例示されたものと同様のものが挙げられる。
また、グラフェン膜表面の化学修飾を施す部位の密度を制御することで、グラフェン膜上のリンカー分子の密度が上記数値範囲となるように、調節することができる。
次いで、グラフェン膜上に、第1の一本鎖核酸分子31aを含む溶液を添加する。このとき、グラフェン膜表面の固定化基と、第1の一本鎖核酸分子31aの5’末端に導入された官能基とが反応し、結合することで、グラフェン膜を介して、第1の一本鎖核酸分子31aを基板11上に固定化することができる。
具体的には、例えば、表面の少なくとも一部にカルボキシ基が導入されたグラフェン膜と、5’末端にアミノ基が導入された第1の一本鎖核酸分子とを用いた場合には、カルボキシ基とアミノ基とが反応し、アミド結合を形成することで、第1の一本鎖核酸分子をグラフェン膜表面上に固定化することができる。
第1の一本鎖核酸分子を溶解する溶媒としては、通常核酸を溶解するために用いられる公知の溶媒を用いることができ、例えば、トリス緩衝液等が挙げられる。
また、例えば30分以上2時間程度の一定時間、反応させた後に、溶媒は風乾等により蒸発させることで、第1の一本鎖核酸分子が固定化された基板が得られる。
図4は、本実施形態の脂質二重膜基板の製造方法の一例を示す工程図である。なお、図4は、図3に示す脂質二重膜基板300の製造方法の一例を示す工程図である。すなわち、接着層13及びグラフェン膜12を介して固定化する場合には、図3に示す脂質二重膜基板300が得られる。図4を参照しながら、脂質二重膜基板300の具体的な製造手順を以下に説明する。
まず、基板11上にグラフェン膜を固定する(工程A−1)。グラフェン膜の形成方法としては、上記に脂質二重膜基板200の製造方法において記載した方法と同様の方法が挙げられる。
次いで、接着分子を含む溶液をグラフェン膜上に添加する。このとき、接着分子を含む溶液を添加する部位の密度を制御することで、グラフェン膜上のリンカー分子の密度が上記数値範囲となるように、調節することができる。用いられる接着分子としては、上記「接着分子」において例示されたものと同様のものが挙げられる。
接着分子が有する吸着性基がグラフェン膜に吸着することで、グラフェン膜上に接着層を固定する(工程A−2)。
次いで、接着層が形成されたグラフェン膜上に、第1の一本鎖核酸分子31aを含む溶液を添加する。このとき、接着層に含まれる接着分子が有する固定化基と、第1の一本鎖核酸分子31aの5’末端に導入された官能基とが反応し、結合することで、接着層及びグラフェン膜を介して、第1の一本鎖核酸分子31aを基板11上に固定化することができる(工程A−3)。
具体的には、例えば、接着分子としてピレンブタン酸スクシンイミジルエステルを含む接着層と、5’末端にアミノ基が導入された第1の一本鎖核酸分子とを用いた場合には、スクシンイミド基とアミノ基とが反応し、アミド結合を形成することで、第1の一本鎖核酸分子を接着層表面上に固定化することができる。このとき、接着分子が有するピレン基がグラフェン膜に強く物理吸着しており、さらに、第1の一本鎖核酸分子は接着層にアミド結合を介して固定化されているため、第1の一本鎖核酸分子は、続く工程において容易に外れない(参考文献1:「Furukawa K et al., “Graphene FRET Aptasensor.”, ACS Sensors, Vol. 1, Issue 6, p710-716, 2016.」)。
第1の一本鎖核酸分子を溶解する溶媒としては、上記に脂質二重膜基板200の製造方法において記載した方法と同様の方法が挙げられる。
また、例えば30分以上2時間程度の一定時間、反応させた後に、溶媒は風乾等により蒸発させることで、第1の一本鎖核酸分子が固定化された基板が得られる。
[工程B]
次いで、第1の一本鎖核酸分子31aが固定化された基板上に、第2の一本鎖核酸分子31bが結合した第1の脂質分子21、及び、第2の一本鎖核酸分子31bが結合していない第2の脂質分子22を添加する。第2の一本鎖核酸分子31bは、第1の一本鎖核酸分子31aの塩基配列と相補的な塩基配列からなる核酸を少なくとも一部に含む。これにより、基板上において、第1の一本鎖核酸分子31a及び第2の一本鎖核酸分子31bからなる少なくとも一部に二本鎖構造を有する核酸分子31、並びに、第1の脂質分子21及び第2の脂質分子22からなる前記脂質二重膜を形成させる。
溶液中における第1の脂質分子21の含有量は、基板上に固定された第1の一本鎖核酸分子31aの密度に応じて、適宜調節することができ、0.05モル%以上0.5モル%以下が好ましい。
また、溶液中における第2の脂質分子22に対する第1の脂質分子21のモル比は、1/10以上10/1以下であることが好ましい。上記モル比であることにより、より安定した脂質二重膜を形成することができる。
第1の脂質分子及び第2の脂質分子を溶解又は分散させる溶媒としては、例えば、クロロホルム等が挙げられる。
また、脂質二重膜の具体的な形成方法としては、例えば、以下に示す(1)〜(3)のいずれかの方法等が挙げられる。
(1)脂質単分子膜を作製した後、グラフェン膜上に移す方法
まず、気液界面に第1の脂質分子及び第2の脂質分子を含む溶液を滴下し、溶媒を蒸発させて脂質単分子膜を形成させる。その後、さらに、室温程度(例えば、20℃以上30℃以下程度)で静置し、分子占有面積が細胞膜と同程度になるまで、脂質単分子膜を圧縮し、これをグラフェン基板上に移す。この表面に第2の脂質分子のみを含む溶液を加えて、安定な脂質二重膜を作製する。
(2)脂質二重膜小胞を作製した後、グラフェン膜上に移す方法
酸化インジウムスズ(ITO)ガラス基板上に、第1の脂質分子及び第2の脂質分子を含む溶液を滴下し、溶媒を蒸発させて完全に除去する。その後、交流電場下で水和させて脂質二重膜小胞を含む懸濁液を作製する。次いで、この懸濁液をグラフェン膜表面に滴下して、安定な脂質二重膜を作製する。このとき、接着層上に固定化された第1の一本鎖核酸分子31aは、第2の一本鎖核酸分子31bと少なくとも一部に二本鎖構造を有する核酸分子31を形成すると同時に、脂質二重膜が互いに横方向に融合及び伸展していくことで、安定な脂質二重膜20がリンカー層30直上に積層される。
(3)脂質分子を分散させた溶液をグラフェン膜上に滴下し、脂質二重膜を作成する方法
本方法は、参考文献2(Hillebrandt H et al., “A Novel Membrane Charge Sensor: Sensitive Detection of Surface Charge at Polymer/Lipid Composite Films on Indium Tin Oxide Electrodes”, Journal of Physical Chemistry B, Vol. 106, p477-486, 2002, DOI: 10.1021/jp011693o.)に基づく方法である。具体的には、まず、水と有機溶媒(例えば、エタノール、イソプロパノール等)との1:1混合溶液中に脂質分子を分散させ、これをグラフェン基板上に滴下する。ここに少しずつ水を加え(例えば、30μL/min等)、水の体積分率を上昇させていくことで脂質二重膜を自発的に形成させる。最後に十分な量の水で基板表面を弱く洗浄し、不要な有機溶媒や過剰な脂質分子を除去し、目的の脂質二重膜を得る。
[その他の工程]
本実施形態の製造方法は、上記工程A及び工程Bに加えて、例えば、以下に示す工程C等を備えてもよい。工程Cは、工程Bの後に、備えることが好ましい。
工程C:脂質二重膜に膜タンパク質を埋め込む工程
脂質二重膜に膜タンパク質を埋め込む方法としては、例えば、ベシクル融合法等の公知の方法が挙げられる。
<使用用途>
本実施形態の脂質二重膜基板は、例えば、脂質二重膜が備える膜タンパク質から放出されるイオン又は化学物質を調べるためのバイオセンサとして好適に用いられる。
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]脂質二重膜基板の作製1
図3に示す構成を有する脂質二重膜基板を作製した。具体的には、以下に示す手順に従い行った。
1.基板の作製
基板10として、市販のシリコンウエハを分割して1cm以上数cm以下角程度にしたチップ(厚さ:0.5mm)を用いた。この基板10の表面に、銅箔上に化学気相法により成長させたグラフェン膜11(厚さ:1nm)を転写した。次に、グラフェン膜11表面に1本鎖核酸分子を固定するための接着分子として、ピレンブタン酸を含む接着層12(厚さ:1nm)を形成させた。具体的には、ピレンブタン酸のカルボキシ基をスクシンイミドで活性化したピレンブタン酸スクシンイミジルエステルを含有する0.5mMのジメチルホルムアミド溶液を、グラフェン膜11表面に滴下して、1時間静置した。その後、ジメチルホルムアミドでグラフェン膜11表面を洗浄し、風乾することで、基板10、グラフェン膜11及び接着層12がこの順に積層された積層体を得た。
2.リンカー層の作製
次いで、予め5’末端にアミノ基を結合させた第1の一本鎖核酸分子31aの水溶液(100μM)を、ピレンブタン酸を含む接着層12が積層されたグラフェン膜11上に滴下した。第1の一本鎖核酸分子として、塩基数15の分子(以下、「A15」と略記する場合がある)、及び、塩基数37の分子(以下、「A37」と略記する場合がある)の2種類を用いて、2種類の基板を作製した。次いで、これらを室温(25℃程度)で1時間静置し、グラフェン膜11に吸着しているピレンブタン酸のカルボキシ基(スクシンイミド基)と、第1の一本鎖核酸分子31aの5’末端に結合させたアミノ基とを反応させて、ペプチド結合を介して、一本鎖核酸分子31aと接着層12とを結合させた。次いで、超純水で洗浄し、風乾することで、第1の一本鎖核酸分子31aを、ピレンブタン酸を介してグラフェン膜11表面に固定させた。このとき、グラフェン膜11上における第1の一本鎖核酸分子31aの密度は、10万個/μm以上100万個/μm以下程度であった。
3.脂質二重膜の作製
次いで、A15及びA37の塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸を含む第2の一本鎖核酸分子(以下、それぞれ「C−A15」及び「C−A37」と略記する場合がある)の5’末端に第1の脂質分子を結合したもの(第2の一本鎖核酸分子が結合した第1の脂質分子21)を、最終濃度が0.05モル%以上0.5モル%以下程度の濃度範囲になるように、第2の一本鎖核酸分子が結合していない第2の脂質分子22(最終濃度:0.05モル%以上0.5モル%以下程度)及びクロロホルムと混合した。なお、第1の脂質分子及び第2の脂質分子を構成する脂質分子としては、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(1,2−Dioleoyl−sn−glycero−3−phosphocholine;DOPC)を用いた。次いで、以下に示す(1)〜(3)のいずれかの方法を用いて、少なくとも一部に二本鎖構造を有する核酸分子31により、基板10上に持ち上げられた(支持された)脂質二重膜20(厚さ:5nm)を作製した。
(1)脂質単分子膜を作製した後、グラフェン膜上に移す方法
まず、気液界面に上記第1の脂質分子及び第2の脂質分子を含むクロロホルム溶液を滴下し、溶媒を蒸発させて脂質単分子膜を形成させた。その後、さらに、室温(約25℃程度)で静置し、分子占有面積が細胞膜と同程度になるまで、脂質単分子膜を圧縮し、これをグラフェン基板上に移した。この表面に第2の脂質分子のみを含むクロロホルム溶液を加えて、安定な脂質二重膜を作製した。
(2)脂質二重膜小胞を作製した後、グラフェン膜上に移す方法
酸化インジウムスズ(ITO)ガラス基板上に、上記第1の脂質分子及び第2の脂質分子を含むクロロホルム溶液を滴下し、溶媒を蒸発させて完全に除去した。その後、交流電場下で水和させて脂質二重膜小胞を含む懸濁液を作製した。次いで、この懸濁液をグラフェン膜11表面に滴下して、安定な脂質二重膜を作製した。このとき、グラフェン膜11表面のA15及びA37は、それぞれC−A15及びC−A37と二本鎖を形成すると同時に、脂質二重膜が互いに横方向に融合及び伸展していくことで、安定な脂質二重膜20がリンカー層30直上に積層された。
(3)脂質分子を分散させた溶液をグラフェン膜上に滴下し脂質二重膜を作成する方法
まず、ガラス容器に、上記第1の脂質分子及び第2の脂質分子を含むクロロホルム溶液を滴下し、溶媒を蒸発させて乾燥脂質膜を形成させた。これを水とイソプロパノールとの1:1混合溶液に溶かして分散させ、懸濁液をグラフェン膜11表面に滴下した。水の体積分率が90%になるまで少しずつ水を加え、30分静置して、安定な脂質二重膜を作製した。このとき、グラフェン膜11表面のA15及びA37は、それぞれC−A15及びC−A37と二本鎖を形成すると同時に、脂質二重膜が互いに横方向に融合及び伸展していくことで、安定な脂質二重膜20がリンカー層30直上に積層された。
4.膜タンパク質の埋め込み
次いで、膜タンパク質として以下の(a)〜(c)に示す分子を、ベシクル融合法により脂質二重膜にそれぞれ埋め込んだ。これにより、脂質二重膜基板を作製した。
(a)接着分子:インテグリン、セレクチン、カドヘリン
(b)チャネル型膜タンパク質:アクアポリン
(c)分子モーター:F1F0−ATPアーゼ、カルシウム輸送ATPアーゼ
得られた脂質二重膜基板は以下の(i)〜(iii)に示す3種類である。
(i)核酸分子をリンカー層に有しない従来の脂質二重膜基板(対照)
(ii)A15及びC−A15からなる少なくとも一部に二本鎖構造を有する核酸分子をリンカー層に備える脂質二重膜基板
(iii)A37及びC−A37からなる少なくとも一部に二本鎖構造を有する核酸分子をリンカー層に備える脂質二重膜基板
5.観察
上記(i)〜(iii)の3種類の脂質二重膜基板を、高エネルギーX線鏡面反射率法を用いて観察した。その結果、図5に示すシグナルを検出し、グラフェン基板表面に脂質二重膜が形成されたことを確認した。なお、図5において、「Pure_DOPC(0.5mg/mL)」は、上記(i)の脂質二重膜基板を示し、「Short_DNA_after_hybridization」は上記(ii)の脂質二重膜基板を示し、「Long_DNA_after_hybridization」は上記(iii)の脂質二重膜基板を示している。リンカー層の厚さはそれぞれ、(i)では約1nm、(ii)では約5nm、(iii)では約10nmであった。このことから、使用する核酸分子の塩基数によって、リンカー層の厚さを精密に制御できることが示された。
6.抗原抗体反応による膜タンパク質の機能の確認
次に、上記(i)〜(iii)の3種類の脂質二重膜基板の脂質二重膜中の膜タンパク質が構造機能を失っていないことを、上記各膜タンパク質に対する抗体を用いた抗原抗体反応により評価した。
その結果、(iii)の脂質二重膜基板においては、リンカー層の厚さが10nmであり、膜タンパク質と基板表面との接触を回避するのに十分であったため、その機能を損なうことなく保持できることが示された。
本実施形態の脂質二重膜基板は、膜タンパク質と基板とが接触せず、且つ、バイオセンサとしたときの感度が良好である。本実施形態の製造方法によれば、膜タンパク質と基板とが接触せず、且つ、バイオセンサとしたときの感度が良好な脂質二重膜基板が得られる。
10…基板、11…グラフェン膜、12…接着層、20…脂質二重膜、21…第2の一本鎖核酸分子が結合した第1の脂質分子、22…第2の脂質分子、23…膜タンパク質、30…リンカー層、31…少なくとも一部に二本鎖構造を有する核酸分子、31a…第1の一本鎖核酸分子、31b…第2の一本鎖核酸分子、100,200,300…脂質二重膜基板

Claims (6)

  1. 基板と、グラフェン膜と、リンカー層と、脂質二重膜と、がこの順に積層された脂質二重膜基板における前記リンカー層の厚さを制御する方法であって、
    前記リンカー層は、前記脂質二重膜を前記基板上に固定化するリンカー分子からなり、
    前記リンカー分子として、少なくとも一部に二本鎖構造を有する核酸分子を用い
    前記脂質二重膜は、膜タンパク質を備え、
    前記グラフェン膜は、前記基板上に固定化されており、
    前記リンカー分子は前記グラフェン膜上に固定化されている、方法。
  2. 基板と、グラフェン膜と、リンカー層と、脂質二重膜と、がこの順に積層された脂質二重膜基板であって、
    前記リンカー層は、前記脂質二重膜を前記基板上に固定化するリンカー分子からなり、
    前記リンカー分子が少なくとも一部に二本鎖構造を有する核酸分子であり、
    前記脂質二重膜は、膜タンパク質を備え、
    前記グラフェン膜は、前記基板上に固定化されており、
    前記リンカー分子は前記グラフェン膜上に固定化されている、脂質二重膜基板。
  3. 前記リンカー層の厚さが3nm以上20nm以下である請求項2記載の脂質二重膜基板。
  4. 前記グラフェン膜上に接着分子を含む接着層を更に備え、
    前記接着層は、前記グラフェン膜上に固定化されており、
    前記リンカー分子は前記接着層を介して前記グラフェン膜上に固定化されている請求項2又は3に記載の脂質二重膜基板。
  5. 前記グラフェン膜をセンサとして用いる請求項2〜4のいずれか一項に記載の脂質二重膜基板。
  6. 請求項2〜のいずれか一項に記載の脂質二重膜基板の製造方法であって、
    前記基板上に第1の一本鎖核酸分子を固定化する工程Aと、
    前記第1の一本鎖核酸分子が固定化された前記基板上に、前記第1の一本鎖核酸分子の塩基配列と相補的な塩基配列からなる核酸を少なくとも一部に含む第2の一本鎖核酸分子が結合した第1の脂質分子、及び、前記第2の一本鎖核酸分子が結合していない第2の脂質分子を添加して、前記第1の一本鎖核酸分子及び前記第2の一本鎖核酸分子からなる前記少なくとも一部に二本鎖構造を有する核酸分子、並びに、前記第1の脂質分子及び前記第2の脂質分子からなる前記脂質二重膜を形成させる工程Bと、
    を備える製造方法。
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