JP6962015B2 - 電気デバイス - Google Patents

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Description

本発明は、電気デバイスに関する。本発明に係る電気デバイスは、例えば、二次電池やキャパシタ等として電気自動車、燃料電池車、ハイブリッド電気自動車、プラグインハイブリッド車等の車両のモータ等の駆動用電源や補助電源に用いられる。
近年、地球温暖化に対処するため、二酸化炭素量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)やプラグインハイブリッド車(PHV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るモータ駆動用二次電池などの電気デバイスの開発が盛んに行われている。
モータ駆動用二次電池としては、携帯電話やノートパソコン等に使用される民生用リチウムイオン二次電池と比較して極めて高い出力特性、および高いエネルギーを有することが求められている。従って、全ての電池の中で最も高い理論エネルギーを有するリチウムイオン二次電池が注目を集めており、現在急速に開発が進められている。
リチウムイオン二次電池は、一般に、バインダを用いて正極活物質等を正極集電体の両面に塗布した正極と、バインダを用いて負極活物質等を負極集電体の両面に塗布した負極とが、電解質層を介して接続され、電池ケースに収納される構成を有している。
従来、リチウムイオン二次電池の負極には充放電サイクルの寿命やコスト面で有利な炭素・黒鉛系材料が用いられてきた。しかし、炭素・黒鉛系の負極材料ではリチウムイオンの黒鉛結晶中への吸蔵・放出により充放電がなされるため、最大リチウム導入化合物であるLiCから得られる理論容量372mAh/g以上の充放電容量が得られないという欠点がある。このため、炭素・黒鉛系負極材料で車両用途の実用化レベルを満足する容量、エネルギー密度を得るのは困難である。
これに対し、負極にLiと合金化する材料を用いた電池は、従来の炭素・黒鉛系負極材料と比較しエネルギー密度が向上するため、車両用途における負極材料として期待されている。例えば、Si材料は、充放電において下記の反応式(A)のように1molあたり3.75molのリチウムイオンを吸蔵放出し、Li15Si(=Li3.75Si)においては理論容量3600mAh/gである。
Figure 0006962015
しかしながら、負極にLiと合金化する材料を用いたリチウムイオン二次電池は、充放電時の負極での膨張収縮が大きい。例えば、Liイオンを吸蔵した場合の体積膨張は、黒鉛材料では約1.2倍であるのに対し、Si材料ではSiとLiが合金化する際、アモルファス状態から結晶状態へ転移し大きな体積変化(約4倍)を起こすため、電極のサイクル寿命を低下させる問題があった。また、Si負極活物質の場合、容量とサイクル耐久性とはトレードオフの関係であり、高容量を示しつつサイクル耐久性を向上させることが困難であるといった課題があった。
かかる課題に対しては、高容量で、かつサイクル寿命に優れた負極ペレットを有する非水電解質二次電池が既に開示されている。具体的には、ケイ素粉末とチタン粉末とをメカニカルアロイング法により混合し、湿式粉砕して得られるSi含有合金であって、ケイ素を主体とする第1相とチタンのケイ化物(TiSiなど)を含む第2相とを含むものを負極活物質として用いることが開示されている。この際、これらの2つの相の少なくとも一方を非晶質または低結晶性とすることも開示されている。
その一方で、リチウムイオン二次電池の電解液に関しては、リチウム塩を概ね1mol/Lの濃度を含み、粘度が概ね5mPa・s以下の電解液を用いることが技術常識となっていた。そして、電解液の改善検討においては、リチウム塩とは別個の添加剤に着目して行われるのが一般的であった(例えば、特許文献1の段落「0005」〜「0007」参照)。更に特許文献1では、種々の電池特性を向上できる新規な電解液として、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はアルミニウムをカチオンとする塩と、ヘテロ元素を有する有機溶媒とを含む高濃度で高粘度な電解液が提案されている。これによれば、新規な電解液の濃度(mol/l)は、金属塩や有機溶媒にもよるが、1.8〜6.0mol/Lという高い濃度を要することが開示されている(特許文献1の段落「0054」の表1参照)
特許第5816997号公報
高い容量特性を有する固溶体正極活物質を用いた正極及び上記Si含有合金からなる負極活物質を用いた負極に、上記した高濃度(高粘度)な電解液を組み合わると、正負極活物質の特徴である高い容量特性を活かすことができると期待されていた。そのため、これらの高容量な正負極を用いた電池、とりわけ高エネルギー密度の厚い電極を用いた電池において優れた容量プロファイルを実現することが可能であると期待されていた。しかしながら、本発明者らの検討によれば上記高容量な正負極に、通常の1mol/Lの濃度、更には上記高濃度の電解液を組合せた電池、とりわけ高エネルギー密度の厚い電極を用いた電池でも、優れた特性(サイクル耐久性等)が得られないことが判明した。
そこで、本発明は、高容量な固溶体及びSi含有合金を用いた正負極を有する電池等の電気デバイスにおいて、優れた特性(サイクル耐久性等)を実現することができる手段を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意研究を行った。その結果、高容量な固溶体及びSi含有合金を用いた正負極に、キャリア濃度とイオン伝導度の積を所定の範囲に制限した電解質を適用することにより、上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は、集電体の表面に正極活物質を含む正極活物質層が形成されてなる正極と、集電体の表面に負極活物質を含む負極活物質層が形成されてなる負極と、電解質を含有するセパレータとを含む発電要素を有する電気デバイスに関するものである。
本発明の電気デバイスは、上記構成要件に加え、さらに、前記電解質の伝導キャリア濃度とイオン伝導度との積が、43.45×10−4〜46.15×10−4mScm−4の範囲であり、前記負極活物質層が負極活物質としてSi含有合金を含有し、前記正極活物質層が正極活物質として固溶体を含有することを特徴とする。
本発明によれば、高容量な固溶体及びSi含有合金を用いた正負極に、キャリア濃度とイオン伝導度の積を所定の範囲に制限した電解質を適用することにより、優れた特性(サイクル耐久性等)を有する電池等の電気デバイスを提供することができる。とりわけ高エネルギー密度の厚い電極を用いた電池において、上記効果をより有効に発現することができる。
本発明に係る電気デバイスの一実施形態である、扁平型(積層型)の双極型でない非水電解質リチウムイオン二次電池の基本構成を示す断面概略図である。 本発明に係る電気デバイスの代表的な実施形態である扁平なリチウムイオン二次電池の外観を表した斜視図である。 電解質中の塩濃度(mol/L)に対する伝導キャリア濃度(cm−3)、イオン伝導度(mScm−1)及びこれらの積(イオン輸送能)を表したグラフ図面である。 電解質中の塩濃度(mol/L)に対する過電圧(V)の関係を示すグラフ図面である。 電解質中の塩濃度(mol/L)に対するサイクル耐久後の放電容量維持率(%)の関係を示すグラフ図面である。 実施例4と比較例1のラミネート型電池を用い、上記充放電試験条件に従ったサイクル耐久性評価試験(耐久試験)後のラミネート型電池内のガス発生量と、この発生ガス中の各成分とその量を示す図面である。
本発明の電気デバイスの一実施形態によればは、集電体の表面に正極活物質を含む正極活物質層が形成されてなる正極と、集電体の表面に負極活物質を含む負極活物質層が形成されてなる負極と、電解質を含有するセパレータ(電解質層)とを含む発電要素を有する。加えて、前記電解質の伝導キャリア濃度とイオン伝導度との積が、43.45×10−4〜46.15×10−4mScm−4の範囲であり、負極活物質層が負極活物質としてSi含有合金を含有し、正極活物質層が正極活物質として固溶体を含有することを特徴とする。かかる構成を有することにより、発明の効果を有効に発現することができる。
本発明の好適な一実施形態によれば、前記発電要素を有し、前記電解質の伝導キャリア濃度とイオン伝導度との積が、43.45×10−4〜46.15×10−4mScm−4の範囲であり、
前記負極活物質層が、下記式(1):
Figure 0006962015
(上記式(1)において、αは負極活物質層における各成分の質量%を表し、40<α≦98である。)で表される負極活物質を含有し、
前記正極活物質層が、下記式(2):
Figure 0006962015
(上記式(2)において、eは正極活物質層における各成分の質量%を表し、80≦e≦98である。)で表される正極活物質を含有し、
この際、前記Si含有合金は、下記化学式(I):
Figure 0006962015
(上記化学式(I)において、Aは、不可避不純物であり、Mは、1または2以上の遷移金属元素であり、x、y、z、およびaは、質量%の値を表し、この際、0<x<100、0≦y<100、0<z<100、およびaは残部であり、x+y+z+a=100である。)で表される組成を有し、前記固溶体正極活物質は、下記式(3):
Figure 0006962015
(上記式(3)において、XはTi、ZrおよびNbからなる少なくとも1種であり、a+b+c+d+e=1.5、1.1≦[a+b+c+e]≦1.4、0.1≦d≦0.4、0≦e≦0.5である。zは、原子価を満足する酸素数を表す。)で表される組成を有する固溶体からなる電気デバイスが好ましい。かかる構成を有することにより、上記した発明の効果をより有効に発現することができ好ましい。
以下、本発明に係る電気デバイスの基本的な構成を説明する。本実施形態では、電気デバイスとしてリチウムイオン二次電池を例示して説明する。
まず、本発明に係る電気デバイスを用いてなるリチウムイオン二次電池では、セル(単電池層)の電圧が大きく、更に厚い電極を用いることで高エネルギー密度、高出力密度が達成できる。そのため本実施形態のリチウムイオン二次電池は、車両の駆動電源用や補助電源用として優れている。その結果、車両の駆動電源用等のリチウムイオン二次電池として好適に利用できる。このほかにも、携帯電話などの携帯機器向けのリチウムイオン二次電池にも十分に適用可能である。
上記リチウムイオン二次電池を形態・構造で区別した場合には、例えば、積層型(扁平型)電池、巻回型(円筒型)電池など、従来公知のいずれの形態・構造にも適用し得るものである。積層型(扁平型)電池構造を採用することで簡単な熱圧着などのシール技術により長期信頼性を確保でき、コスト面や作業性の点では有利である。
また、リチウムイオン二次電池内の電気的な接続形態(電極構造)で見た場合、非双極型(内部並列接続タイプ)電池および双極型(内部直列接続タイプ)電池のいずれにも適用しうるものである。
リチウムイオン二次電池内の電解質層の種類で区別した場合には、電解質層に非水系の電解液等の溶液電解質を用いた溶液電解質型電池、電解質層に高分子電解質を用いたポリマー電池など従来公知のいずれの電解質層のタイプにも適用しうるものである。該ポリマー電池は、さらに高分子ゲル電解質(単にゲル電解質ともいう)を用いたゲル電解質型電池、高分子固体電解質(単にポリマー電解質ともいう)を用いた固体高分子(全固体)型電池に分けられる。
したがって、以下の説明では、本実施形態のリチウムイオン二次電池の例として、非双極型(内部並列接続タイプ)リチウムイオン二次電池について図面を用いてごく簡単に説明する。ただし、本発明に係る電気デバイスおよび本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の技術的範囲が、これらに制限されるべきではない。
<電池の全体構造>
図1は、本発明の電気デバイスの代表的な一実施形態である、扁平型(積層型)のリチウムイオン二次電池(以下、単に「積層型電池」ともいう)の全体構造を模式的に表した断面概略図である。
図1に示すように、本実施形態の積層型電池10は、実際に充放電反応が進行する略矩形の発電要素21が、外装体であるラミネートシート29の内部に封止された構造を有する。ここで、発電要素21は、正極集電体11の両面に正極活物質層13が配置された正極と、電解質を含有するセパレータからなる電解質層17と、負極集電体12の両面に負極活物質層15が配置された負極とを積層した構成を有している。具体的には、1つの正極活物質層13とこれに隣接する負極活物質層15とが、電解質層17を介して対向するようにして、負極、電解質層および正極がこの順に積層されている。
これにより、隣接する正極、電解質層、および負極は、1つの単電池層19を構成する。したがって、図1に示す積層型電池10は、単電池層19が複数積層されることで、電気的に並列接続されてなる構成を有するともいえる。なお、発電要素21の両最外層に位置する最外層の正極集電体には、いずれも片面のみに正極活物質層13が配置されているが、両面に活物質層が設けられてもよい。すなわち、片面にのみ活物質層を設けた最外層専用の集電体とするのではなく、両面に活物質層がある集電体をそのまま最外層の集電体として用いてもよい。また、図1とは正極および負極の配置を逆にすることで、発電要素21の両最外層に最外層の負極集電体が位置するようにし、該最外層の負極集電体の片面または両面に負極活物質層が配置されているようにしてもよい。
本形態では、電解質層17中の電解質の伝導キャリア濃度とイオン伝導度との積が43.45×10−4〜46.15×10−4mScm−4であり、負極活物質層15はSi含有合金からなる負極活物質を含有し、正極活物質層13は固溶体からなる正極活物質を含有する。
正極集電体11および負極集電体12は、各電極(正極および負極)と導通される正極集電板25および負極集電板27がそれぞれ取り付けられ、ラミネートシート29の端部に挟まれるようにしてラミネートシート29の外部に導出される構造を有している。正極集電板25および負極集電板27は、それぞれ必要に応じて正極リードおよび負極リード(図示せず)を介して、各電極の正極集電体11および負極集電体12に超音波溶接や抵抗溶接等により取り付けられていてもよい。
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、正極および負極の構成に特徴を有する。以下、当該正極および負極を含めた電池の主要な構成部材について説明する。
<活物質層>
活物質層(13、15)は活物質を含み、必要に応じてその他の添加剤をさらに含む。
[正極活物質層]
正極活物質層13は、少なくとも固溶体からなる正極活物質(本明細書中、「固溶体正極活物質」とも称する)を含む。正極活物質は、充電時にリチウムイオンを放出し、放電時にリチウムイオンを吸蔵できる組成を有するものであり、固溶体正極活物質を必須に含む。
(固溶体正極活物質)
固溶体正極活物質としては、特に制限されるものではなく、従来公知の固溶体正極活物質を用いることができる。なかでも電気化学的に不活性の層状のLiMnO(Li[Li1/3Mn2/3]O)と、電気化学的に活性な層状のLiMO(ここでMは、Co、Ni、Mn、Feなどの遷移金属)との固溶体は200mAh/gを超える大きな電気容量を示しうる。上記電気化学的に不活性の層状のLiMnOと電気化学的に活性な層状のLiMOを含む固溶体として本出願人が提案した下記式(3)で表される組成を有する固溶体正極活物質が好適に用いられるものである。即ち、下記式(3)で表される組成を有する固溶体は、上記した高容量のLiMnO−LiMO系固溶体といえる。
Figure 0006962015
ここで、式(3)中、XはTi、ZrおよびNbからなる少なくとも1種であり、a+b+c+d+e=1.5、1.1≦[a+b+c+e]≦1.4、0.1≦d≦0.4、0≦e≦0.5である。zは原子価を満足する酸素数で表される。
さらに、上記式(3)で表される組成を有する固溶体正極活物質は、X線回折(XRD)測定において、20−23°、35−40°(101)、42−45°(104)および64−65(108)/65−66(110)に、岩塩型層状構造を示す回折ピークを有することが好ましい。この際、サイクル特性向上の効果を確実に得るためには、岩塩型層状構造の回折ピーク以外に帰属されるピークを実質的に有していないものが好ましい。より好ましくは、35−40°(101)に3つの回折ピークを有し、42−45°(104)に1つの回折ピークを有するものが好適である。しかしながら、岩塩型層状構造の回折ピークに帰属されるものであれば、必ずしもそれぞれが3つおよび1つのピークに数えられなくてもよい。なお、64−65(108)/65−66(110)の表記は、64−65と65−66に近接する2つのピークがあり、組成によっては明確に分離されずにブロードに一つのピークとなる場合も含むことを意味する。X線回折測定は、PANalytical社製XPertPRO MPDなど目的とするX線回折を行うことができる装置を用いることができる。固溶体正極活物質は、X線回折により、結晶構造および結晶性の評価をすることができる。具体的には、X線源にはCu−Kα線を用い、測定条件は管電圧40KV、管電流20mA、走査速度2°/分、発散スリット幅0.5°、受光スリット幅0.15°で行うことができるが、かかる測定条件以外でも目的とするX線回折を行うことができる条件であればよい。
上記式(3)で表される組成を有する固溶体正極活物質は、X線回折(XRD)測定において、特定の複数の回折ピークを有していることが好ましい。上記組成式の固溶体正極活物質は、上記LiMnO−LiMO系固溶体(ここでMは、Co、Ni、Mn、Feなどの遷移金属)であり、上記で特定した複数の回折ピークのうち、20−23°の回折ピークは、LiMnOに特徴的な超格子回折ピークである。また、通常、36.5−37.5°(101)、44−45°(104)および64−65(108)/65−66(110)の回折ピークは、LiMO(ここでMは、Co、Ni、Mn、Feなどの遷移金属)の岩塩型層状構造に特徴的なものである。また、本実施形態では、岩塩型層状構造を示す回折ピークの一部として、35−40°(101)に3つ、42−45°(104)に1つの回折ピークを有することが好ましい。本実施形態の固溶体正極活物質には、これらの角度範囲に、岩塩型層状構造を示す回折ピーク以外のピーク、例えば不純物等に由来する他のピークが存在するものは含まれないことが好ましい。このような他のピークが存在する場合には、岩塩型層状構造以外の構造が正極活物質に含まれることを意味している。岩塩型層状構造以外の構造は含まれない方が、サイクル特性向上の効果を確実に得られる。
上記式(3)で、0.01≦e≦0.5の場合、Ti、ZrおよびNbからなる少なくとも1種が、Ni、Co、Mnからなる遷移金属層中で、Mn4+を置換することにより固溶し、岩塩型層状構造を形成していると考えられる。Ti、ZrおよびNbからなる少なくとも1種が固溶することにより結晶構造が安定化されるため、充放電の際にMnをはじめとする遷移金属の溶出が抑制されると考えられる。その結果、充放電を繰り返しても電池の容量低下が防止でき、優れたサイクル特性が達成されうる。加えて、電池性能そのものの向上および耐久性の向上も図ることができる。Mnの溶出により岩塩型層状構造が変化すると、通常はスピネル相が形成され、正極活物質のX線回折(XRD)測定における回折ピークは、スピネル相を表すものとなる。スピネル相は、35−36°(101)および42.5−43.5°(104)に回折ピークが現れる。上記式(3)の固溶体正極活物質では、充放電の繰り返しの後にもスピネル相は形成されず、岩塩型層状構造が維持されていると考えられる。しかしながら、本実施形態は、以上の考察には限定されない。
さらに、本実施形態における岩塩型層状構造を示す回折ピークは、低角度側にシフトしていることが好ましい。すなわち、本実施形態に係る上記式(3)の固溶体正極活物質は、X線回折(XRD)測定において、20−23°、35.5−36.5°(101)、43.5−44.5°(104)および64−65(108)/65−66(110)に回折ピークを有することが好ましい。回折ピークの低角度側へのシフトは、Ti等が正極活物質中により多く固溶し、Mnを置換していることを示し、Mn溶出抑制の効果がより大きいと考えられる。
さらに、上記式(3)の固溶体正極活物質の遷移金属層中にTi等がMn4+を置換して固溶することにより、置換元素と酸素との共有結合が強くなり、遷移金属の酸化に伴う結晶格子中の酸素の離脱も低減し得る。このことにより、酸素ガスの発生を抑制し、結晶構造内の酸素欠陥が減少しうる。
ここで、上記式(3)において、a+b+c+eは、1.1≦[a+b+c+e]≦1.4を満たす。一般に、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびマンガン(Mn)は、材料の純度向上および電子伝導性向上という観点から、容量特性および出力特性に寄与することが知られている。Ti等は、結晶格子中のMn等を一部置換するものである。そして、より好ましい範囲の1.1≦[a+b+c+e]≦1.2であることにより、各元素の最適化を図り、容量及び出力特性をより向上させることができる。したがって、この関係を満足する正極活物質をリチウムイオン二次電池等の電気デバイスに用いた場合、高い可逆容量を維持することにより、高容量を維持しつつ、優れた初期充放電効率を発揮することが可能となる。
なお、上記式(3)において、a+b+c+d+e=1.5、1.1≦[a+b+c+e]≦1.4の関係を満足すれば、a、bおよびcの値は特に限定されない。ただし、aは、0<a<1.5であることが好ましく、0.1≦a≦0.75であることがより好ましい。aが上記範囲であると、より容量維持率の優れた二次電池が得られる。なお、aがa≦0.75でない場合は、ニッケル(Ni)が2価であることを条件として上記dの範囲内において正極活物質中にニッケルを含有するため、結晶構造が安定化しないことがある。一方、a≦0.75である場合は、正極活物質の結晶構造が岩塩型層状構造となり易い。
さらに、上記式(3)において、bは、0<b<1.5であることが好ましく、より好ましくは0.2≦b≦0.9である。bが上記範囲であると、より容量維持率の優れた電気デバイスが得られる。ただし、bがb≦0.9を満たさない場合は、マンガンが4価であることを条件として上記dの範囲内において正極活物質中にマンガンを含有し、さらに正極活物質中にニッケル(Ni)を含有するため、結晶構造が安定化しないことがある。一方、b≦0.9である場合は、正極活物質の結晶構造が岩塩型層状構造となり易い。
また、上記式(3)において、cは、0≦c<1.5であることが好ましい。ただし、cがc≦0.6でない場合は、コバルトが3価であることを条件として上記dの範囲内において正極活物質中にニッケルおよびマンガンを含有する。さらに、ニッケル(Ni)が2価、マンガン(Mn)が4価であることを条件として上記dの範囲内において正極活物質中にコバルト(Co)を含有する。そのため、正極活物質の結晶構造が安定化しないことがある。一方、c≦0.6である場合は、正極活物質の結晶構造が岩塩型層状構造となり易い。
また、上記式(3)においては、a+b+c+d+e=1.5である。この式を満たすことにより、正極活物質の結晶構造を安定化させることができる。
また、上記式(3)においては、0.1≦d≦0.4である。dが0.1≦d≦0.4でない場合は、正極活物質の結晶構造が安定化しないことがある。逆に、dが0.1≦d≦0.4の場合は、正極活物質が岩塩型層状構造となり易い。dの範囲は、より好ましくは、0.15≦d≦0.35である。dが0.1以上の場合は、組成がLiMnOに近くなり難く、充放電が容易となるため好ましい。
また、上記式(3)においては、0≦e≦0.5である。Ti、Zr及びNbの少なくとも一種を有する場合、0.01≦e≦0.5であればTi、Zr及びNbの少なくとも一種が、Mn4+を溶出が抑制される程度に十分に置換できる。かかる観点から好ましくは0.02≦e≦0.5、より好ましくは0.05≦e≦0.3である。但し、e=0の場合でも十分に本実施形態の作用効果を奏し得るものである。
各元素のイオン半径は、Mn4+ 0.54Å、Mn4+ 0.54Å、Ti4+ 0.61Å、Zr4+ 0.72Å、Nb5+ 0.64Åであり、Ti、ZrおよびNbがMnよりも大きくなっている。そのため、正極活物質中のMn4+がTi等に置換されるにつれて、結晶格子が膨張し、岩塩型層状構造を示す回折ピークは低角度側にシフトする。逆に、回折ピークがより低角度側にシフトしていれば、Ti等のMn4+の置換量がより大きく、結晶構造が安定しやすいということになる。すなわち、充放電の際のMnの溶出がより抑制され、電気デバイスの容量低下をより効果的に防止しうる。
正極活物質の比表面積としては、0.2〜0.6m/gであることが好ましく、0.25〜0.5m/gであることがより好ましい。比表面積が0.2m/g以上であると、十分な電池の出力が得られうることから好ましい。一方、比表面積が0.6m/g以下であると、マンガンの溶出がより抑制されうることから好ましい。なお、本明細書において、比表面積の値は、例えば、日本ベル製BELSORP−miniIIなど、目的とする正極活物質の比表面積を測定することができる装置を用いて行うことができる。
正極活物質の平均粒径としては、10〜20μmであることが好ましく、12〜18μmであることがより好ましい。平均粒径が10μm以上であると、マンガンの溶出が抑制されうることから好ましい。一方、平均粒径が20μm以下であると、正極の製造時における集電体への塗布工程において、箔切れや詰まり等が抑制されうることから好ましい。なお、平均粒径は、レーザー回折・散乱法の粒度分布測定装置により計測されたものを採用する。平均粒径は、例えば、堀場製作所製の粒度分布分析装置(型式LA−920)を用いて測定することができる。
上述したような上記式(3)の固溶体正極活物質は、例えば、以下のような方法で調製することができる。すなわち、Ti、ZrおよびNbの少なくとも一種のクエン酸塩と、融点が100℃〜350℃の遷移金属の有機酸塩とを混合する第1工程と、第1工程で得られた混合物を100℃〜350℃で融解する第2工程と、第2工程で得られた溶融物を、前記融点より高い温度で熱分解する第3工程と、第3工程で得られた熱分解物を焼成する第4工程と、を含む。以下、各工程について説明する。なお、上記式(3)でe=0の場合には、上記第1工程は、融点が100℃〜350℃の遷移金属の有機酸塩を混合する工程である(以下、同様とする)。
(第1工程)
第1工程では、Ti、ZrおよびNbの少なくとも一種のクエン酸塩および融点が100℃〜350℃の遷移金属の有機酸塩とを混合する。Ti、ZrおよびNbの少なくとも一種のクエン酸塩は、好ましくは、クエン酸錯体水溶液の形態で混合する。Ti、ZrおよびNbの少なくとも一種のクエン酸錯体水溶液は、以下に限定はされないが、好ましくは以下のように調製できる。
すなわち、無水クエン酸をアセトン等の有機溶媒に溶解し、この溶解液に、Ti、ZrおよびNbの少なくとも一種のアルコキシドを加える。この際、Ti、ZrおよびNbの少なくとも一種とクエン酸とのモル比は、(Ti、ZrおよびNbの少なくとも一種)/クエン酸が1/1〜1/2であることが好ましい。アルコキシドを添加すると、溶解液中に沈殿が生じるため、沈殿物を吸引濾過する。次いで、得られた沈殿物に水を加え、50〜60℃に加温しながら撹拌し、溶解させる。水の量は、最終的にTi、ZrおよびNbの少なくとも一種の酸化物換算で1〜10質量%のクエン酸錯体水溶液濃度になるように適宜加える。この水溶液を一日静置し、沈殿物を濾過して、濾液としてTi、ZrおよびNbの少なくとも一種のクエン酸錯体水溶液が得られる。
Ti、ZrおよびNbの少なくとも一種のアルコキシドとしては、チタンテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ニオブイソプロポキシド、チタンエトキシド、チタンn−プロポキシド、チタンブトキシド、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムn−プロポキシド、ジルコニウムブトキシド、ニオブエトキシド、ニオブブトキシドが挙げられる。
次に、得られたTi、ZrおよびNbの少なくとも一種のクエン酸錯体水溶液に、融点が100℃〜350℃の遷移金属の有機酸塩を添加し、混合物とする。融点が100℃〜350℃の遷移金属の有機酸塩としては、好ましくは、酢酸ニッケル、酢酸マンガン、酢酸コバルト、クエン酸マンガン等が挙げられる。
好ましくは、上記のTi、ZrおよびNbの少なくとも一種のクエン酸錯体水溶液に、さらにアルカリ金属の有機酸塩を混合する。アルカリ金属の有機酸塩としては、好ましくは、酢酸リチウム、クエン酸リチウム、等が挙げられる。アルカリ金属の有機酸塩をこの段階で混合すると、製造方法が簡便であり好ましい。
(第2工程)
第1工程で得られた混合物を、100〜350℃、好ましくは200〜300℃で融解する。
(第3工程)
第2工程で得られた加熱溶融物(スラリー)を、第1工程で使用した遷移金属の有機酸塩の融点以上の温度で熱分解し、乾燥粉末である熱分解物を得る。複数の遷移金属の有機酸塩の融点がそれぞれ異なる場合には、最も高い融点以上の温度で熱分解する。より詳細には、溶融物をスプレー装置で、200〜600℃、より好ましくは200〜400℃で加熱噴霧することができる。
(第4工程)
第3工程で得られた熱分解物を、600〜1200℃、より好ましくは800〜1100℃で、5〜20時間、好ましくは10〜15時間焼成する。焼成の前に仮焼成を行ってもよく、その場合は、200〜700℃、より好ましくは300〜600℃で、1〜10時間、より好ましくは2〜6時間仮焼成することができる。このようにして、上記式(3)の固溶体正極活物質が得られる。
場合によっては、上述した固溶体正極活物質以外の正極活物質が併用されてもよい。この場合、好ましくは、容量、出力特性の観点から、リチウム−遷移金属複合酸化物が正極活物質として併用される。これ以外の正極活物質が用いられてもよいことは勿論である。活物質それぞれの固有の効果を発現する上で最適な粒子径が異なる場合には、それぞれの固有の効果を発現する上で最適な粒子径同士をブレンドして用いればよく、全ての活物質の粒子径を必ずしも均一化させる必要はない。
正極活物質層13に含まれる正極活物質の平均粒子径は特に制限されないが、高出力化の観点からは、好ましくは1〜30μmであり、より好ましくは5〜20μmである。なお、本明細書において、「粒子径」とは、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用いて観察される活物質粒子(観察面)の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離を意味する。また、本明細書において、「平均粒子径」の値は、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数〜数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。他の構成成分の粒子径や平均粒子径も同様に定義することができる。
上述したように、正極活物質層は、下記式(2)で表される正極活物質(固溶体正極活物質)を含有する。
Figure 0006962015
式(2)において、eは正極活物質層における各成分の質量%を表し、80≦e≦98であるのが好ましい。
式(2)から明らかなように、正極活物質層における固溶体正極活物質の含有量は、80〜98質量%であることが好ましく、より好ましくは84〜98質量%である。
また、正極活物質層は上述した固溶体正極活物質のほか、バインダおよび導電助剤を含むことが好ましい。さらに、必要に応じて、電解質(ポリマーマトリックス、イオン伝導性ポリマー、電解液など)、イオン伝導性を高めるためのリチウム塩などのその他の添加剤をさらに含む。
(バインダ)
正極活物質層に用いられるバインダとしては、特に限定されないが、例えば、以下の材料が挙げられる。ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、セルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)およびその塩、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物などの熱可塑性高分子、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−HFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−PFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFMVE−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−クロロトリフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−CTFE系フッ素ゴム)等のビニリデンフルオライド系フッ素ゴム、エポキシ樹脂等が挙げられる。これらのバインダは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
正極活物質層におけるバインダの含有量は、好ましくは1〜10質量%であり、より好ましくは1〜8質量%である。
(導電助剤)
導電助剤とは、正極活物質層または負極活物質層の導電性を向上させるために配合される添加物をいう。導電助剤としては、ケッチェンブラック(登録商標)、アセチレンブラック等のカーボンブラックが挙げられる。活物質層が導電助剤を含むと、活物質層の内部における電子ネットワークが効果的に形成され、電池の出力特性の向上に寄与しうる。
正極活物質層における導電助剤の含有量は、好ましくは1〜10質量%であり、より好ましくは1〜8質量%である。導電助剤の配合比(含有量)を上記範囲内に規定することで以下の効果が発現される。すなわち、電極反応を阻害することなく、電子伝導性を十分に担保することができ、電極密度の低下によるエネルギー密度の低下を抑制でき、ひいては電極密度の向上によるエネルギー密度の向上を図ることができるのである。
(その他の成分)
電解質塩(リチウム塩)としては、Li(CSON、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO等が挙げられる。
イオン伝導性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)系およびポリプロピレンオキシド(PPO)系のポリマーが挙げられる。
正極(正極活物質層)は、通常のスラリーを塗布(コーティング)する方法のほか、混練法、スパッタ法、蒸着法、CVD法、PVD法、イオンプレーティング法および溶射法のいずれかの方法によって形成することができる。
[負極活物質層]
負極活物質層15は、負極活物質として、Si含有合金(ケイ素含有合金)を必須に含む。
(Si含有合金)
本実施形態において、負極活物質としてのSi含有合金は、非晶質または低結晶性のケイ素を主成分とする母相中に、遷移金属のケイ化物を含むシリサイド相が分散されてなる構造を有し、所定の組成を有するものが好ましい。
上述したように、本実施形態における負極活物質を構成するSi含有合金は、非晶質(アモルファス)または低結晶性のケイ素を主成分とする母相を備えているのが好ましい。このように、母相を構成するケイ素が非晶質または低結晶性であると、高容量でかつサイクル耐久性に優れた電気デバイスが提供されうる。
Si含有合金を構成する母相は、ケイ素を主成分として含有する相であり、好ましくはSi単相(Siのみからなる相)である。この母相(Siを主成分とする相)は、本実施形態の電気デバイス(リチウムイオン二次電池)の作動時にリチウムイオンの吸蔵・放出に関与する相であり、電気化学的にLiと反応可能な相である。Si単相である場合、重量あたりおよび体積あたりに多量のLiを吸蔵・放出することが可能である。ただし、Siは電子伝導性に乏しいことから、母相にはリンやホウ素などの微量の添加元素や遷移金属などが含まれていてもよい。なお、この母相(Siを主成分とする相)は、後述するシリサイド相よりもアモルファス化していることが好ましい。かような構成とすることにより、負極活物質(Si含有合金)をより高容量なものとすることができる。なお、母相がシリサイド相よりもアモルファス化しているか否かは、電子線回折分析により確認することができる。具体的には、電子線回折分析によると、単結晶相については二次元点配列のネットパターン(格子状のスポット)が得られ、多結晶相についてはデバイシェラーリング(回折環)が得られ、アモルファス相についてはハローパターンが得られる。これを利用することで、上記の確認が可能となるのである。
一方、本実施形態における負極活物質を構成するSi含有合金は、上記母相に加えて、当該母相中に分散されてなる遷移金属のケイ化物(シリサイドとも称する)を含むシリサイド相をも含んでいるのが好ましい。このシリサイド相は、遷移金属のケイ化物(例えばTiSi)を含むことで母相との親和性に優れ、特に充電時の体積膨張における結晶界面での割れを抑制することができる。さらに、シリサイド相は母相と比較して電子伝導性および硬度の観点で優れている。このため、シリサイド相は母相の低い電子伝導性を改善し、かつ膨張時の応力に対して活物質の形状を維持する役割をも担っている。
シリサイド相には複数の相が存在していてもよく、例えば遷移金属元素MとSiとの組成比が異なる2相以上(例えば、MSiおよびMSi)が存在していてもよい。また、異なる遷移金属元素とのケイ化物を含むことにより、2相以上が存在していてもよい。ここで、シリサイド相に含まれる遷移金属の種類について特に制限はないが、好ましくはTi、Zr、Ni、Cu、およびFeからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくはTiまたはZrであり、特に好ましくはTiである。これらの元素は、ケイ化物を形成した際に他の元素のケイ化物よりも高い電子伝導度を示し、かつ高い強度を有するものである。特に遷移金属元素がTiである場合のシリサイドであるTiSiは、非常に優れた電子伝導性を示すため、好ましい。
特に、遷移金属元素MがSiであり、シリサイド相に組成比が異なる2相以上(例えば、TiSiおよびTiSi)が存在する場合は、シリサイド相の50質量%以上、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上、最も好ましくは100質量%がTiSi相である。
上記シリサイド相のサイズについて特に制限はないが、好ましい実施形態において、シリサイド相のサイズは50nm以下である。かような構成とすることにより、負極活物質(Si含有合金)をより高容量なものとすることができる。
本発明において、負極活物質を構成するSi含有合金は、下記化学式(I)で表される組成を有するものが好ましい。
Figure 0006962015
上記化学式(I)において、Aは、不可避不純物であり、Mは、1または2以上の遷移金属元素であり、x、y、z、およびaは、質量%の値を表し、この際、0<x<100、0≦y<100、0<z<100、およびaは残部であり、x+y+z+a=100である。
上記化学式(I)から明らかなように、本発明の好ましい実施形態に係るSi素含有合金(SiSnの組成を有するもの)は、SiおよびM(遷移金属)の二元系であるか(y=0の場合)、Si、SnおよびM(遷移金属)の三元系である(y>0の場合)。なかでも、Si、SnおよびM(遷移金属)の三元系であることが、サイクル耐久性の観点からはより好ましい。また、本明細書において「不可避不純物」とは、Si含有合金において、原料中に存在したり、製造工程において不可避的に混入したりするものを意味する。当該不可避不純物は、本来は不要なものであるが、微量であり、Si合金の特性に影響を及ぼさないため、許容されている不純物である。
本実施形態において特に好ましくは、負極活物質(Si含有合金)への添加元素(M;遷移金属)としてTiを選択し、さらに必要に応じて第2添加元素としてSnを添加することで、Li合金化の際に、アモルファス−結晶の相転移を抑制してサイクル寿命を向上させることができる。また、これによって、従来の負極活物質(例えば、炭素系負極活物質)よりも高容量のものとなる。したがって、本発明の好ましい実施形態によると、上記化学式(I)で表される組成において、Mがチタン(Ti)であることが好ましく、Mとしてチタンを含むSi−Sn−Tiの三元系であることがより好ましい。
ここでLi合金化の際、アモルファス−結晶の相転移を抑制するのは、Si材料ではSiとLiとが合金化する際、アモルファス状態から結晶状態へ転移し大きな体積変化(約4倍)を起こすため、粒子自体が壊れてしまい活物質としての機能が失われるためである。そのためアモルファス−結晶の相転移を抑制することで、粒子自体の崩壊を抑制し活物質としての機能(高容量)を保持することができ、サイクル寿命も向上させることができるものである。かかる添加元素を選定することにより、高容量で高サイクル耐久性を有するSi含有合金(負極活物質)を提供できる。
上記化学式(I)の組成において、遷移金属M(特にTi)の組成比zは、1≦z<100であることが好ましく、2≦z<100であることがより好ましく、3≦z<100であることがさらに好ましく、4≦z<100であることが特に好ましい。遷移金属M(特にTi)の組成比zをこのような範囲とすることにより、サイクル特性をより一層向上させることができる。
より好ましくは、化学式(I)における前記x、y、およびzは、下記数式(1)または(2):
Figure 0006962015
を満たすことが好ましい。各成分含有量が上記範囲内にあると、1000Ah/gを超える初期放電容量を得ることができ、サイクル寿命についても90%(50サイクル)を超えうる。
なお、当該負極活物質の上記特性のさらなる向上を図る観点からは、遷移金属M(特にTi)の含有量は7質量%超の範囲とすることが望ましい。すなわち、前記x、y、およびzが、下記数式(3)または(4):
Figure 0006962015
を満たすことが好ましい。これにより、サイクル特性をよりいっそう向上させることが可能となる。
そして、より良好なサイクル耐久性を確保する観点から、前記x、y、およびzが、下記数式(5)または(6):
Figure 0006962015
を満たすことが好ましい。
そして、初期放電容量およびサイクル耐久性の観点から、本実施形態の負極活物質では、前記x、y、およびzが、下記数式(7):
Figure 0006962015
を満たすことが好ましい。
なお、Aは上述のように、原料や製法に由来する上記3成分以外の不可避不純物である。前記aは、残部であり、0≦a<0.5であることが好ましく、0≦a<0.1であることがより好ましい。
本実施形態における負極活物質を構成するSi含有合金の粒子径は特に制限されないが、平均粒子径として、好ましくは0.1〜20μmであり、より好ましくは0.2〜10μmである。
本実施液体の負極活物質としては、上記した化学式(I)で表される組成を有するSi含有合金を用いるのが望ましいが、他のSi含有合金(a)および/またはSiO(b)を含む負極活物質を用いてもよい。であればよい。これらの活物質でも、従来の炭素・黒鉛系負極材料と比較しエネルギー密度が向上するため、高容量化が図れるため、車両用途における負極材料として利用可能なためである。
(a)Si含有合金
Si含有合金としては、炭素・黒鉛系負極材料と比較しエネルギー密度が向上するものであれば、特に制限されるものはない。例えば、SixMyAa(式中、Aは、不可避不純物であり、Mは、金属元素及び炭素元素よりなる群から選ばれてなる少なくとも1種であり、x、y、z、およびaは、質量%の値を表し、この際、0<x<100であり、0<y<100であり、aは残部であり、x+y+z+a=100である。)で表される2元系合金を利用することができる。上記SixMyAa合金としては、SixTiyAa合金、SixCuyAa合金、SixSnyAa合金、SixAlyAa、SixVyAa合金、SixCyAa合金、SixGeyAa合金、SixZnyAa合金、SixNbyAa合金等を用いることができる。更にSi含有合金がアモルファスになっており、Li挿入脱離に伴う構造変化が少なく、電池性能に優れているなど、合金ごとに、エネルギー密度が向上する以外にも優れた特性を有する以下のような3元系Si合金等を用いることもできる。例えば、下記式(1);
Figure 0006962015
(式中、Aは、不可避不純物であり、x、y、z、およびaは、質量%の値を表し、この際、12≦x<100、好ましくは31≦x<100、より好ましくは31≦x≦50であり、0<y≦45、好ましくは15≦y≦45であり、0<z≦43、好ましくは18≦z≦43であり、aは残部であり、x+y+z+a=100である。)で表される合金が挙げられる。また下記式(2);
Figure 0006962015
(式中、Aは、不可避不純物であり、x、y、z、およびaは、質量%の値を表し、この際、27≦x<100、好ましくは27≦x≦84、より好ましくは27≦x≦52であり、0<y≦73、好ましくは10≦y≦73、より好ましくは10≦y≦63、特に好ましくは10≦y≦40であり、0<z≦73、好ましくは6≦z≦73、より好ましくは6≦z≦63、特に好ましくは20≦z≦63であり、aは残部であり、x+y+z+a=100である。)で表される合金が挙げられる。さらに下記式(3);
Figure 0006962015
(式中、Aは、不可避不純物であり、x、y、z、およびaは、質量%の値を表し、この際、29≦x<100、好ましくは29≦x≦63、より好ましくは29≦x≦44、特に好ましくは29≦x≦40であり、0<y<100、好ましくは14≦y≦48、より好ましくは34≦y≦48であり、0<z<100、好ましくは14≦z≦48であり、aは残部であり、x+y+z+a=100である。)で表される合金が挙げられる。さらに下記式(4);
Figure 0006962015
(式中、Aは、不可避不純物であり、x、y、z、およびaは、質量%の値を表し、この際、17≦x<90、好ましくは17≦x≦77、より好ましくは17≦x≦50、特に好ましくは17≦x≦46であり、10<y<83、好ましくは20≦y<83、より好ましくは20≦y≦68、特に好ましくは20≦y≦51であり、0<z<73、好ましくは3≦z≦63、より好ましくは3≦z≦32であり、aは残部であり、x+y+z+a=100である。)で表される合金が挙げられる。さらに下記式(5);
Figure 0006962015
(式中、Aは、不可避不純物であり、x、y、z、およびaは、質量%の値を表し、x、y、およびzが、下記数式(8)または(9)
Figure 0006962015
を満たし、好ましくは下記数式(10)または(11):
Figure 0006962015
を満たし、より好ましくは下記数式(12)または(13):
Figure 0006962015
を満たし、さらに好ましくは下記数式(14):
Figure 0006962015
を満たし、aは残部であり、x+y+z+a=100である。)で表される合金が挙げられる。さらに下記式(6);
Figure 0006962015
(式中、Aは、不可避不純物であり、x、y、z、およびaは、質量%の値を表し、この際、38≦x<100、好ましくは38≦x<100、より好ましくは38≦x≦72、特に好ましくは38≦x≦61であり、0<y<62、好ましくは0<y≦42、より好ましくは8≦y≦42、特に好ましくは19≦y≦42であり、0<z<62、好ましくは0<z≦39、より好ましくは12≦z≦39であり、特に好ましくは12≦z≦35であり、aは残部であり、x+y+z+a=100である。)で表される合金が挙げられる。さらに下記式(7);
Figure 0006962015
(式中、Aは、不可避不純物であり、x、y、z、およびaは、質量%の値を表し、この際、33≦x≦50、好ましくは33≦x≦47であり、0<y≦46、好ましくは11≦y≦27であり、21≦z≦67、好ましくは33≦z≦56であり、aは残部であり、x+y+z+a=100である。)で表される合金が挙げられる。さらに下記式(8);
Figure 0006962015
(式中、Aは、不可避不純物であり、x、y、z、およびaは、質量%の値を表し、この際、xが23を超え64未満であり、yが0を超え65未満であり、zが4以上58以下であり、またzが34未満であり、更にxが44未満であり、zが34以上であり、またyが27を超え61未満であり、更にxが34未満であり、またyが38を超え、zが24未満であり、またxが24以上38未満であり、更にxが38未満であり、yが27を超え、zが40未満であり、またxが29未満であり、zが40以上であり、aは残部であり、x+y+z+a=100である。)で表される合金が挙げられる。さらに下記式(9);
Figure 0006962015
(式中、Aは、不可避不純物であり、x、y、z、およびaは、質量%の値を表し、x、yおよびzが、21≦x<100であり、0<y<79であり、0<z<79であり、好ましくは26≦x≦78であり、16≦y≦69であり、0<z≦51であり、より好ましくは26≦x≦66であり、16≦y≦69であり、2≦z≦51であり、特に好ましくは26≦x≦47であり、18≦y≦44であり、22≦z≦46であり、aは残部であり、x+y+z+a=100である。)で表される合金が挙げられる。さらに下記式(10);
Figure 0006962015
(式中、Aは、不可避不純物であり、x、y、z、およびaは、質量%の値を表し、この際、xが25を超え54未満であり、yが13を超え69未満であり、zが1を超え47未満であるであり、好ましくはyが17を超え、zが34未満であり、aは残部であり、x+y+z+a=100である。)で表される合金が挙げられる。さらに下記式(11);
Figure 0006962015
(式中、Aは、不可避不純物であり、x、y、z、およびaは、質量%の値を表し、x、yおよびzが、36≦x<100であり、0<y<64であり、0<z<64であり、好ましくは36≦x≦80であり、10≦y≦56であり、3≦z≦37であり、より好ましくは41≦x≦71であり、10≦y≦56であり、3≦z≦29であり、特に好ましくはyが15以上であり、なかでも好ましくはxが43〜61であり、yが20〜54であり、aは残部であり、x+y+z+a=100である。)で表される合金が挙げられる。さらに下記式(12);
Figure 0006962015
(式中、Aは、不可避不純物であり、x、y、z、およびaは、質量%の値を表し、x、yおよびzが、27<x<100であり、0<y<73であり、0<z<58であり、好ましくは47<x<95であり、2<y<48であり、1<z<23であり、より好ましくは61<x<84であり、2<y<25であり、2<z<23であり、特に好ましくは47<x<56であり、33<y<48であり、1<z<16であり、aは残部であり、x+y+z+a=100である。)で表される合金などが挙げられる。
(b)SiO(の合成方法)
また上記SiOの製造方法としては、特に制限されるものではなく、従来公知の方法を適宜利用することができる。例えば、酸化珪素(SiO)粉末の製造方法として、二酸化珪素系酸化物粉末からなる混合原料物を減圧非酸化性雰囲気中で熱処理し、SiO蒸気を発生させ、このSiO蒸気を気相中で凝縮させて、0.1μm以下の微細アモルファス状のSiO粉末を連続的に製造する方法(特開昭63−103815号公報)、及び原料珪素を加熱蒸発させて、表面組織を粗とした基体の表面に蒸着させる方法(特開平9−110412号公報)などが挙げられるが、これらに何ら制限されるものではない。この他にも、原料としてSi粉末とSiO粉末とを所定の割合で配合し、混合、造粒および乾燥した混合造粒原料を、不活性ガス雰囲気で加熱(830℃以上)または真空中で加熱(1100℃以上1600℃以下)してSiOを生成(昇華)させる。昇華により発生した気体状のSiOを析出基体上(基体の温度は450℃以上800℃以下)に蒸着させ、SiO析出物を析出させる。その後、析出基体からSiO析出物を取り外し、ボールミル等を使用して粉砕することによりSiOx粉末が得られる。ここで、SiOxのxは、1.0≦x≦1.1の範囲である。なお、SiO自体は不安定であるためすぐに不均化しSiとSiOとなるので、SiOとは微結晶のSiとSiOが混在した状態となっている。SiとSiO量が同量の場合がx=1となるが、少しSiO量が多くなる傾向があるので、上記したように1.0≦x≦1.1となる。本実施形態では、SiとO(乃至SiO)が同量程度の材料を総じてSiOと記載している。
なお、SiOx粉末のxの値は蛍光X線分析により求めることができる。例えば、O−Ka線を用いた蛍光X線分析でのファンダメンタルパラメータ法を用いて求めることができる。蛍光X線分析には、例えば、理学電機工業(株)製RIX3000を用いることができる。蛍光X線分析の条件としては、例えば、ターゲットにロジウム(Rh)を用い、管電圧50kV、管電流50mAとすればよい。ここで得られるx値は、基板上の測定領域で検出されるO−Ka線の強度から算出されるため、測定領域の平均値となる。
また、上記Si含有合金やSiOは、市販のものを用いてもよいし、作製したものを用いてもよいなど、特に制限されるものではない。
(c)上記Si含有合金及びSiO以外の負極活物質
更に、本実施形態では、Si含有合金を含む負極活物質であればよいが、更に上記した他のSi含有合金やSiOを含んでいてもよいが、これら以外にも、既存の活物質材料を、本発明の作用効果を損なわない範囲内であれば、利用することができる。例えば、黒鉛(グラファイト)、ソフトカーボン、ハードカーボン等の炭素・黒鉛系負極材料、チタン酸リチウム、リチウム−遷移金属複合酸化物(例えば、LiTi12)、金属材料、リチウム合金系負極材料などが挙げられる。場合によっては、2種以上の負極活物質を併用してもよい。好ましくは、容量、出力特性の観点から、炭素・黒鉛系負極材料またはリチウム−遷移金属複合酸化物が、負極活物質として併用される(実施例参照のこと)。特に、電池性能面から好ましいのは黒鉛であり、層状構造となっているためLi挿入脱離に伴う構造が安定化されるなどサイクル耐久性(放電容量維持率の向上効果)の点でも優れている。なお、上記以外の負極活物質が用いられてもよいことは勿論である。
負極活物質の平均粒子径
負極活物質層に含まれるSi活物質(Si含有合金やSiO)の平均粒子径は特に制限されないが、高出力化の観点からは、好ましくは0.1〜20μmであり、より好ましくは0.2〜10μm、さらに好ましくは0.5〜10μm、特に好ましくは0.5〜5μmの範囲である。Si活物質(Si含有合金やSiO)の平均粒子径が、0.1μm以上、好ましくは0.2μm以上、より好ましくは0.5μm以上であれば、粒子径が小さすぎることがないため、電解液との反応が過剰となることもなく、電解液の分解量を格段に抑える(無くす)ことができる点で優れている。またSi活物質の平均粒子径は、大きい方がよいことになる。ただし、大きすぎると内部へのLi拡散が難しくなり、性能が低下する。そこで、Si活物質の平均粒子径が、20μm以下、好ましくは10μm以下であれば、粒子径が大きすぎることがないため、充放電時の膨張による粒子の割れが発生するのを防止(抑制)することができ、また活物質内部へのLi拡散もし易くなり、電池性能の向上を図ることができる点で優れている。ここで、Si活物質の平均粒子径は、例えば、SEM(走査型電子顕微鏡)観察、TEM(透過型電子顕微鏡)観察などにより粒度分析(測定)することができる。なお、Si活物質粉末(粒子)またはその断面の中には、球状ないし円形状(断面形状)ではなく、縦横比(アスペクト比)が違う不定形状の粉末が含まれている場合もある。したがって、上記でいう平均粒子径は、Si活物質粉末の形状(ないしその断面形状)が一様でないことから、観察画像内の各Si活物質粉末の切断面形状の絶対最大長の平均値で表すものとする。絶対最大長とは、Si活物質粉末(ないしその断面形状)の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の長さをいう。なお、他の平均粒子径(二次粒子の場合もある)の測定方法についても、同様にして求めることができる。
負極活物質層に含まれるSi活物質(Si含有合金やSiO)以外の活物質の平均粒子径は特に制限されないが、高出力化の観点からは、好ましくは5〜20μm、より好ましくは5〜10μmの範囲である。Si活物質以外の活物質(黒鉛・炭素系材料など)の平均粒子径が、5μm以上であれば、粒子径が小さすぎることがないため、電解液との反応が過剰となることもなく、電解液の分解量を格段に抑える(無くす)ことができ、必要となるバインダ量も少なくすることができる点で優れている。またSi活物質以外の活物質(黒鉛・炭素系材料など)の平均粒子径は、大きい方がよいことになる。ただし、大きすぎると内部へのLi拡散が難しくなり、性能が低下する。そこで、Si活物質以外の活物質(黒鉛・炭素系材料など)の平均粒子径が20μm以下であれば、活物質内部へのLi拡散もし易くなり、電池性能の向上を図ることができる点で優れている。
(負極活物質の製造方法)
本実施形態に係る負極活物質(Si含有合金)の製造方法について特に制限はなく、従来公知の知見が適宜参照されうるが、本願では、上述したような化学式(I)で表される組成範囲のものとするための製造方法の一例として、以下のような工程を有する製造方法が提供される。
まず、Si含有合金の原料を混合して混合粉末を得る工程を行う。この工程では、得られる負極活物質(Si含有合金)の組成を考慮して、当該合金の原料を混合する。当該合金の原料としては、負極活物質として必要な元素の比率を実現できれば、その形態などは特に限定されない。例えば、負極活物質を構成する元素単体を、目的とする比率に混合したものや、目的とする元素比率を有する合金、固溶体、または金属間化合物を用いることができる。また、通常は粉末状態の原料を混合する。これにより、原料からなる混合粉末が得られる。
続いて、上記で得られた混合粉末に対して合金化処理を行う。これにより、電気デバイス用負極活物質として用いることが可能なSi含有合金が得られる。
合金化処理の手法としては、固相法、液相法、気相法があるが、例えば、メカニカルアロイ法やアークプラズマ溶融法、鋳造法、ガスアトマイズ法、液体急冷法、イオンビームスパッタリング法、真空蒸着法、メッキ法、気相化学反応法などが挙げられる。なかでも、メカニカルアロイ法を用いて合金化処理を行うことが好ましい。メカニカルアロイ法により合金化処理を行うことで、相の状態の制御を容易に行うことができるため、好ましい。また、合金化処理を行う前に、原材料を溶融する工程や前記溶融した溶融物を急冷して凝固させる工程が含まれてもよい。
本形態に係る製造方法では、上述した合金化処理を行う。これにより、上述したような母相/シリサイド相からなる構造とすることができる。特に、合金化処理の時間が24時間以上であれば、所望のサイクル耐久性を発揮させうる負極活物質(Si含有合金)を得ることができる。なお、合金化処理の時間は、好ましくは30時間以上であり、より好ましくは36時間以上であり、さらに好ましくは42時間以上であり、特に好ましくは48時間以上である。なお、合金化処理のための時間の上限値は特に設定されないが、通常は72時間以下であればよい。
上述した手法による合金化処理は、通常乾式雰囲気下で行われるが、合金化処理後の粒度分布は大小の幅が非常に大きい場合がある。このため、粒度を整えるための粉砕処理および/または分級処理を行うことが好ましい。
以上、負極活物質層に含まれる所定の合金(化学式(I)で表される組成を有するSi含有合金)等について説明したが、上記したように負極活物質層はその他の負極活物質を含んでいてもよい。上記所定の合金以外の負極活物質としては、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、活性炭、カーボンファイバー、コークス、ソフトカーボン、もしくはハードカーボンなどのカーボン、SiやSnなどの純金属や上記所定の組成比を外れる合金系活物質、あるいはTiO、Ti、TiO、もしくはSiO、SiO、SnOなどの金属酸化物、Li4/3Ti5/3もしくはLiMnNなどのリチウムと遷移金属との複合酸化物(複合窒化物)、Li−Pb系合金、Li−Al系合金、Liなどが挙げられる。ただし、上記所定の合金を負極活物質として用いることにより奏される作用効果を十分に発揮させるという観点からは、負極活物質の全量100質量%に占める上記所定の合金の含有量は、好ましくは50〜100質量%であり、より好ましくは80〜100質量%であり、さらに好ましくは90〜100質量%であり、特に好ましくは95〜100質量%であり、最も好ましくは100質量%である。
負極活物質層は、下記式(1)で表される負極活物質を含有する。
Figure 0006962015
式(1)において、αは負極活物質層における各成分の質量%を表し、40<α≦98である。
式(1)から明らかなように、負極活物質層における化学式(I)で表される組成を有するSi含有合金からなる負極活物質の含有量は40質量%超98質量%以下である。
本実施形態において、負極活物質層は上述した負極活物質のほか、バインダおよび導電助剤を含むことが好ましい。また、必要に応じて、電解質(ポリマーマトリックス、イオン伝導性ポリマー、電解液など)、イオン伝導性を高めるためのリチウム塩などのその他の添加剤をさらに含む。これらの具体的な種類や負極活物質層における好ましい含有量については、正極活物質層の説明の欄において上述した形態が同様に採用されうるため、ここでは詳細な説明を省略する。
各活物質層(集電体片面の活物質層)の厚さについて特に制限はなく、電池についての従来公知の知見が適宜参照されうる。一例を挙げると、各活物質層の厚さは、電池の使用目的(出力重視、エネルギー重視など)、イオン伝導性を考慮し、通常1〜500μm程度、好ましくは2〜100μmである。とりわけ高エネルギー密度の厚い電極を用いた電池(セル)を構成する場合には、固溶体を用いた正極活物質層(集電体片面の活物質層)の厚さは、好ましくは70〜500μm、より好ましくは90〜500μmである。同様に、Si含有合金を用いた負極活物質層(集電体片面の活物質層)の厚さは、好ましくは30〜500μm、より好ましくは50〜500μmである。
<集電体>
集電体(11、12)は導電性材料から構成される。集電体の大きさは、電池の使用用途に応じて決定される。例えば、高エネルギー密度が要求される大型の電池に用いられるのであれば、面積の大きな集電体が用いられる。
集電体の厚さについても特に制限はない。集電体の厚さは、通常は1〜100μm程度である。
集電体の形状についても特に制限されない。図1に示す積層型電池10では、集電箔のほか、網目形状(エキスパンドグリッド等)等を用いることができる。
なお、負極活物質をスパッタ法等により薄膜合金を負極集電体12上に直接形成する場合には、集電箔を用いることが好ましい。
集電体を構成する材料に特に制限はない。例えば、金属や、導電性高分子材料または非導電性高分子材料に導電性フィラーが添加された樹脂が採用されうる。
具体的には、金属としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス、チタン、銅などが挙げられる。これらのほか、ニッケルとアルミニウムとのクラッド材、銅とアルミニウムとのクラッド材、またはこれらの金属の組み合わせのめっき材などが好ましく用いられうる。また、金属表面にアルミニウムが被覆されてなる箔であってもよい。なかでも、電子伝導性や電池作動電位、集電体へのスパッタリングによる負極活物質の密着性等の観点からは、アルミニウム、ステンレス、銅、ニッケルが好ましい。
また、導電性高分子材料としては、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアクリロニトリル、およびポリオキサジアゾールなどが挙げられる。かような導電性高分子材料は、導電性フィラーを添加しなくても十分な導電性を有するため、製造工程の容易化または集電体の軽量化の点において有利である。
非導電性高分子材料としては、例えば、ポリエチレン(PE;高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)など)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアミド(PA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、またはポリスチレン(PS)などが挙げられる。かような非導電性高分子材料は、優れた耐電位性または耐溶媒性を有しうる。
上記の導電性高分子材料または非導電性高分子材料には、必要に応じて導電性フィラーが添加されうる。特に、集電体の基材となる樹脂が非導電性高分子のみからなる場合は、樹脂に導電性を付与するために必然的に導電性フィラーが必須となる。
導電性フィラーは、導電性を有する物質であれば特に制限なく用いることができる。例えば、導電性、耐電位性、またはリチウムイオン遮断性に優れた材料として、金属および導電性カーボンなどが挙げられる。金属としては、特に制限はないが、Ni、Ti、Al、Cu、Pt、Fe、Cr、Sn、Zn、In、Sb、およびKからなる群から選択される少なくとも1種の金属もしくはこれらの金属を含む合金または金属酸化物を含むことが好ましい。また、導電性カーボンとしては、特に制限はない。好ましくは、アセチレンブラック、バルカン(登録商標)、ブラックパール(登録商標)、カーボンナノファイバー、ケッチェンブラック(登録商標)、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノバルーン、およびフラーレンからなる群より選択される少なくとも1種を含むものである。
導電性フィラーの添加量は、集電体に十分な導電性を付与できる量であれば特に制限はなく、一般的には、5〜35質量%程度である。
<電解質を有するセパレータ(電解質層)>
(セパレータ)
セパレータは、電解質を保持して正極と負極との間のリチウムイオン伝導性を確保する機能、および正極と負極との間の隔壁としての機能を有する。
セパレータの形態としては、例えば、上記電解質を吸収保持するポリマーや繊維からなる多孔性シートのセパレータや不織布セパレータ等を挙げることができる。
ポリマーないし繊維からなる多孔性シートのセパレータとしては、例えば、微多孔質(微多孔膜)を用いることができる。該ポリマーないし繊維からなる多孔性シートの具体的な形態としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン;これらを複数積層した積層体(例えば、PP/PE/PPの3層構造をした積層体など)、ポリイミド、アラミド、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン(PVdF−HFP)等の炭化水素系樹脂、ガラス繊維などからなる微多孔質(微多孔膜)セパレータが挙げられる。
微多孔質(微多孔膜)セパレータの厚みとして、使用用途により異なることから一義的に規定することはできない。1例を示せば、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)、燃料電池自動車(FCV)などのモータ駆動用二次電池などの用途においては、単層あるいは多層で4〜60μmであることが望ましい。前記微多孔質(微多孔膜)セパレータの微細孔径は、最大で1μm以下(通常、数十nm程度の孔径である)であることが望ましい。
不織布セパレータとしては、綿、レーヨン、アセテート、ナイロン、ポリエステル;PP、PEなどのポリオレフィン;ポリイミド、アラミドなど従来公知のものを、単独または混合して用いる。また、不織布のかさ密度は、含浸させた高分子ゲル電解質により十分な電池特性が得られるものであればよく、特に制限されるべきものではない。さらに、不織布セパレータの厚さは、電解質層と同じであればよく、好ましくは5〜200μmであり、特に好ましくは10〜100μmである。
また、セパレータとしては多孔質基体に耐熱絶縁層が積層されたセパレータ(耐熱絶縁層付セパレータ)であることが好ましい。耐熱絶縁層は、無機粒子およびバインダを含むセラミック層である。耐熱絶縁層付セパレータは融点または熱軟化点が150℃以上、好ましくは200℃以上である耐熱性の高いものを用いる。耐熱絶縁層を有することによって、温度上昇の際に増大するセパレータの内部応力が緩和されるため熱収縮抑制効果が得られうる。その結果、電池の電極間ショートの誘発を防ぐことができるため、温度上昇による性能低下が起こりにくい電池構成になる。また、耐熱絶縁層を有することによって、耐熱絶縁層付セパレータの機械的強度が向上し、セパレータの破膜が起こりにくい。さらに、熱収縮抑制効果および機械的強度の高さから、電池の製造工程でセパレータがカールしにくくなる。
耐熱絶縁層における無機粒子は、耐熱絶縁層の機械的強度や熱収縮抑制効果に寄与する。無機粒子として使用される材料は特に制限されない。例えば、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、チタンの酸化物(SiO、Al、ZrO、TiO)、水酸化物、および窒化物、ならびにこれらの複合体が挙げられる。これらの無機粒子は、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、マイカなどの鉱物資源由来のものであってもよいし、人工的に製造されたものであってもよい。また、これらの無機粒子は1種のみが単独で使用されてもよいし、2種以上が併用されてもよい。これらのうち、コストの観点から、シリカ(SiO)またはアルミナ(Al)を用いることが好ましく、アルミナ(Al)を用いることがより好ましい。
耐熱性粒子の目付けは、特に限定されるものではないが、5〜15g/mであることが好ましい。この範囲であれば、十分なイオン伝導性が得られ、また、耐熱強度を維持する点で好ましい。
耐熱絶縁層におけるバインダは、無機粒子どうしや、無機粒子と樹脂多孔質基体層とを接着させる役割を有する。当該バインダによって、耐熱絶縁層が安定に形成され、また多孔質基体層および耐熱絶縁層の間の剥離を防止される。
耐熱絶縁層に使用されるバインダは、特に制限はなく、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリアクリロニトリル、セルロース、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)、アクリル酸メチルなどの化合物がバインダとして用いられうる。このうち、カルボキシメチルセルロース(CMC)、アクリル酸メチル、またはポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いることが好ましい。これらの化合物は、1種のみが単独で使用されてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
耐熱絶縁層におけるバインダの含有量は、耐熱絶縁層100質量%に対して、2〜20質量%であることが好ましい。バインダの含有量が2質量%以上であると、耐熱絶縁層と多孔質基体層との間の剥離強度を高めることができ、セパレータの耐振動性を向上させることができる。一方、バインダの含有量が20質量%以下であると、無機粒子の隙間が適度に保たれるため、十分なリチウムイオン伝導性を確保することができる。
耐熱絶縁層付セパレータの熱収縮率は、150℃、2gf/cm条件下、1時間保持後にMD、TDともに10%以下であることが好ましい。このような耐熱性の高い材質を用いることで、正極発熱量が高くなり電池内部温度が150℃に達してもセパレータの収縮を有効に防止することができる。その結果、電池の電極間ショートの誘発を防ぐことができるため、温度上昇による性能低下が起こりにくい電池構成になる。
(電解質)
また、上述したように、電解質層のセパレータは、電解質を含む。電解質としては、かような機能を発揮できるものであれば特に制限されないが、液体電解質またはゲルポリマー電解質が用いられる。ゲルポリマー電解質を用いることにより、電極間距離の安定化が図られ、分極の発生が抑制され、耐久性(サイクル特性)が向上する。
(液体電解質(電解液))
液体電解質は、リチウムイオンのキャリアとしての機能を有する。電解質層を構成する液体電解質は、可塑剤である有機溶媒に支持塩であるリチウム塩が溶解した形態を有する。用いられる有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート等のカーボネート類が例示される。また、リチウム塩としては、Li(CFSON、Li(CSON、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiTaF、LiCFSO等の電極の活物質層に添加されうる化合物が同様に採用されうる。液体電解質は、上述した成分以外の添加剤をさらに含んでもよい。かような化合物の具体例としては、例えば、ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、ジメチルビニレンカーボネート、フェニルビニレンカーボネート、ジフェニルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、ジエチルビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、1,2−ジビニルエチレンカーボネート、1−メチル−1−ビニルエチレンカーボネート、1−メチル−2−ビニルエチレンカーボネート、1−エチル−1−ビニルエチレンカーボネート、1−エチル−2−ビニルエチレンカーボネート、ビニルビニレンカーボネート、アリルエチレンカーボネート、ビニルオキシメチルエチレンカーボネート、アリルオキシメチルエチレンカーボネート、アクリルオキシメチルエチレンカーボネート、メタクリルオキシメチルエチレンカーボネート、エチニルエチレンカーボネート、プロパルギルエチレンカーボネート、エチニルオキシメチルエチレンカーボネート、プロパルギルオキシエチレンカーボネート、メチレンエチレンカーボネート、1,1−ジメチル−2−メチレンエチレンカーボネートなどが挙げられる。なかでも、ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネートが好ましく、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネートがより好ましい。これらの環式炭酸エステルは、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
ゲルポリマー電解質は、イオン伝導性ポリマーからなるマトリックスポリマー(ホストポリマー)に、上記の液体電解質が注入されてなる構成を有する。電解質としてゲルポリマー電解質を用いることで電解質の流動性がなくなり、各層間のイオン伝導性を遮断することで容易になる点で優れている。マトリックスポリマー(ホストポリマー)として用いられるイオン伝導性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン(PVdF−HEP)、ポリ(メチルメタクリレート(PMMA)およびこれらの共重合体等が挙げられる。
ゲル電解質のマトリックスポリマーは、架橋構造を形成することによって、優れた機械的強度を発現しうる。架橋構造を形成させるには、適当な重合開始剤を用いて、高分子電解質形成用の重合性ポリマー(例えば、PEOやPPO)に対して熱重合、紫外線重合、放射線重合、電子線重合等の重合処理を施せばよい。
本実施形態の電解質は、その伝導キャリア濃度(cm−3)とイオン伝導度(mScm−1)との積(イオン輸送能)が、43.45×10−4〜46.15×10−4mScm−4の範囲であることを特徴とする。これは、高容量な固溶体及びSi含有合金を用いた正負極に、キャリア濃度とイオン伝導度の積を上記範囲とすることでイオン輸送能に優れた電解液となり、反応分布のバラツキの解消によりサイクル耐久性を向上することができる。更に電極中の過電圧現象による電解液分解を抑制して、ガス発生量を抑制することができるなど、優れた特性(サイクル耐久性、耐電位性、出力特性等)を有するリチウムイオン二次電池等の電気デバイスを提供することができるためである。
従来技術(特許文献1等)では、リチウム金属を対極に用いた、いわゆるハーフセルによる正極の出力特性のみをから電解質の特性を評価しており、実際の二次電池においては、空孔と厚みを持った正負極中のイオン輸送のバランスが重要である点に着目されていなかった。ここで、イオン輸送能とは、電極内部でのLiイオンの移動の能力である。電解質(電解液)中にLiはイオンとして存在しており、電極の隙間部分(空孔)に満たされた電解質(電解液)のLiイオンの供給性能となる。より具体的には、単位体積当たりに存在するLi量が多いほど、大電流で流した際にLiの供給不足になりにくく、また電解質(電解液)中のLiイオンが動きやすい(粘度が低い)電解質(電解液)ほど正極、負極の空孔で生じるイオンバランスの不均化を解消しやすくなる。即ち、イオン輸送能とは、Liイオンのキャリア濃度と電解質(電解液)の移動のしやすさの二つのパラメータを加味したものと言える。よって、電解質の伝導キャリア濃度(cm−3)とイオン伝導度(mScm−1)との積=イオン輸送能ともいえる。また、電解質(電解液)は支持塩が高濃度であると、一般的に高粘度になる傾向にあり、高濃度≒高粘度となる。本発明者らは、実際の二次電池においては、空孔と厚みを持った正負極中のイオン輸送のバランスが重要である点に着目した結果、充電時には、正極空孔中の高塩濃度化による輸送速度、負極空孔中の低塩濃度化による塩の供給を考慮する必要があることを見出した。一方、放電時には、正極空孔中の低塩濃度化による塩の供給、負極空孔中の高塩濃度化による輸送速度を考慮する必要があることを見出した。かかる知見に基づき検証した結果、必ずしも従来技術(特許文献1等)で提案されている高濃度(高粘度)電解質がリチウムイオン二次電池、とりわけ高エネルギー密度の厚い電極を用いたリチウムイオン二次電池において、優れた特性(サイクル耐久性等)を示すとはいえないことがわかった。上記知見に基づき、本発明者らは、上記の電解質(電解液)のイオン輸送能という指標に基づき、最も効果的であると見出したのがキャリア濃度とイオン伝導度の積の極大値である。即ち、電解質の伝導キャリア濃度(cm−3)とイオン伝導度(mScm−1)との積が、電解質中の塩濃度1.3mol/L付近に極大値のピークを有する曲線となり、この極大値において実際の二次電池においては、空孔と厚みを持った正負極中のイオン輸送のバランスが最適化される。これにより、電極中の反応分布のバラツキの充分に抑制することができ耐久性を向上することができる。その結果、リチウムイオン二次電池、とりわけ高エネルギー密度の厚い電極を用いたリチウムイオン二次電池において、優れた特性(十分なサイクル耐久性等)を示すことを見出したものである。かかる知見に基づき、上記した電解質の伝導キャリア濃度(cm−3)とイオン伝導度(mScm−1)との積の適正範囲を見出したものである。ここで、上記したリチウムイオン二次電池の電極内の反応分布のバラツキ(不均一化)自体は既に既知であるが、その反応分布のバラツキ(不均一化)がどの程度発生し、正極、負極の反応分布のバランス(反応の均一化)を考えた際に、適切なイオン輸送能(更には電解質中の塩濃度)範囲がどれ位であるか、といった検討は今までなされていなかった。そのため、得られた結果(電解質の伝導キャリア濃度(cm−3)とイオン伝導度(mScm−1)との積の適正範囲)は新たな知見に基づいて最適化されたものである。なお、実施例で確認した結果(効果)等に基づき、本実施形態によれば、以下の効果が得られるものである。即ち、電極内部の反応分布のバラツキ(不均一反応)の解消効果、反応分布バラツキ(不均一反応)の解消によって減少する電池内部の電流集中の緩和と過電圧の抑制効果、上記の電流集中緩和による電極局所反応劣化の抑制効果、上記の過電圧抑制による電解液分解の抑制効果、上記の電極局所反応に伴う不可逆反応の抑制効果、上記の不可逆反応抑制に伴う正負極容量ズレの抑制効果、上記の電解液分解反応抑制に伴う正負極容量ズレの抑制効果、上記の電解液分解反応抑制に伴う電解液劣化、液枯れの抑制効果、上記の電解液分解反応抑制に伴うガス発生の抑制効果、上記の劣化現象抑制に伴う電池の耐久性の向上効果、上記の劣化現象抑制に伴う電池の出力特性低下の抑制効果が得られるものと言える。
図3は、電解質中の塩濃度(mol/L)に対する伝導キャリア濃度(cm−3)、イオン伝導度(mScm−1)及びこれらの積を表したグラフ図面である。ここでは、電解質に、液体電解質(電解液)として、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)を3:7の容積比で混合した混合非水溶媒中に、LiPF(六フッ化リン酸リチウム)を1Mの濃度となるように溶解させたものを用いたが、他の電解質でも電解質の伝導キャリア濃度(cm−3)とイオン伝導度(mScm−1)との積が、同様な極大値のピークを有する曲線となる。また、イオン伝導度は、JIS K 0213にて、電気伝導率測定法があり、当該規格に則して測定することができる。具体的には、イオン伝導度は(上記JIS規格に適合した)交流インピーダンス法を用いて測定することができる。例えば、図3のイオン伝導度の測定は、(上記JIS規格に適合した)SUS電極を用いたイオン伝導度測定セルを用いて測定を行っている。伝導キャリア濃度はJIS K 0213にて、電気伝導率測定法があり、当該電気伝導率測定から、解離度を見積もり、キャリア濃度を算出することができる。詳しくは、伝導キャリア濃度は(電解質中の)塩濃度と解離度の積から求まり、解離度は誘電率から求める。誘電率は(上記JIS規格に適合した)インピーダンス測定からキャパシタンス成分を測定し、そこから誘電率を算出することができる。例えば、図3の伝導キャリア濃度はLi塩濃度と解離度の積であり、解離度は誘電率との関係式から求めることができる。誘電率は(上記JIS規格に適合した)インピーダンス法を用い、得られたキャパシタンスから算出している。電解質中の塩濃度(mol/L)は電池非動作時の濃度であればよいが、電池に用いる前の電解質(電解液)中の塩濃度を用いてもよい。これは、電池は作動させることにより、電解質(電解液)中の塩濃度が非平衡状態となり分布を形成する。この時、電解質(電解液)の局所的(濃度の変化に基づく)な物性が変わるため、その際に最適なイオン輸送能(特性)を得るために、平衡状態である電池非動作時(電池に用いる前の電解質)の物性値(塩濃度)を用いている。なお、電池非動作時とは、電流を流さない状態で、その状態になる前に電流を流し、電池内部で非平衡状態になっていない状態を指す。平衡状態になる速度は、電池の仕様により異なる。通電せず、電圧が一定に落ち着いた状態と同意である。図3に示すように、電解質中の塩濃度(mol/L)に対し伝導キャリア濃度(cm−3)は、直線的に増加する(比例関係にある)ことがわかる。一方、電解質中の塩濃度(mol/L)に対するイオン伝導度(mScm−1)は、電解質中の塩濃度0.8mol/L付近に極大値のピークを有する曲線となることがわかる。そして、電解質中の塩濃度(mol/L)に対する、伝導キャリア濃度(cm−3)とイオン伝導度(mScm−1)との積は、電解質中の塩濃度1.3mol/L付近に極大値のピークを有する曲線となることがわかる。本実施形態では、上記したように電解質の伝導キャリア濃度(cm−3)とイオン伝導度(mScm−1)との積の適正範囲(極大値を含む所定の範囲)として、43.45×10−4〜46.15×10−4mScm−4の範囲であれば、実際の二次電池においては、空孔と厚みを持った正負極中のイオン輸送のバランスが最適化され、電極中の反応分布のバラツキの十分に抑制することができ耐久性を向上することができる。その結果、リチウムイオン二次電池、とりわけ高エネルギー密度の厚い電極を用いたリチウムイオン二次電池において、優れた特性(十分なサイクル耐久性)を示すことを見出したものである。かかる観点から、電解質の伝導キャリア濃度(cm−3)とイオン伝導度(mScm−1)との積として、好ましくは43.50×10−4〜46.15×10−4mScm−4の範囲、より好ましくは45.50×10−4〜46.15×10−4mScm−4の範囲、さらに好ましくは45.60×10−4〜46.15×10−4mScm−4の範囲である。
本実施形態の電解質は、上記伝導キャリア濃度とイオン伝導度との積の要件に替えて、或いは伝導キャリア濃度とイオン伝導度との積の要件に加えて、電解質中の塩濃度が1.1〜1.5mol/Lの範囲であることを特徴とする。電解質中の塩濃度として、好ましくは1.2〜1.5mol/L、より好ましくは1.3〜1.5mol/L、さらに好ましくは1.3〜1.45mol/L、特に好ましくは1.3〜1.4mol/L、なかでも好ましくは1.4±0.5mol/Lの範囲である。電解質中の塩濃度が上記範囲内であれば、イオン輸送能に優れた電解液となり、反応分布のバラツキの解消によりサイクル耐久性を向上することができる。更に電極中の過電圧現象による電解液分解を抑制して、ガス発生量を抑制することができるなど、優れた特性(サイクル耐久性、耐電位性、出力特性等)を有するリチウムイオン二次電池等の電気デバイスを提供することができる(表1及び図4、5、6参照)。
また、図4は、電解質中の塩濃度(mol/L)に対する過電圧(V)の関係を示すグラフ図面である。図4から、電解質中の塩濃度(mol/L)が濃ければ、濃いほど過電圧は充放電において抑制され、電極中の過電圧現象による電解液分解を抑制しガス発生量を十分に抑制することができることがわかる。なお、過電圧というのは、通常の反応電位に対して反応を起こすために余分に必要な電圧である。過電圧というのはかけている電圧が過剰というわけではない。図4の結果からだけだと、従来技術(特許文献1等)で提案されている高濃度(高粘度)電解質が優れているように思われるが、実際には、上記した伝導キャリア濃度とイオン伝導度との積の適正範囲内でないと十分なサイクル耐久性が得られない。逆に上記した伝導キャリア濃度とイオン伝導度との積の適正範囲内であれば、過電圧が充放電において十分に抑制される電解質中の塩濃度(濃さ)を有しており、優れた特性、特に十分なサイクル耐久性に加え、電極中の過電圧現象による電解液分解を抑制し、ガス発生量も十分に抑制することができることがわかった(実施例参照)。なお、図4は、以下の電池サンプルを用いて、以下の反応シミュレーション計算により算出している。詳しくは、実施例4で作製したラミネート型電池(正極膜厚97.5μm、負極膜厚60μm、セパレータ膜厚22μm)をモデル化した反応シミュレーション計算により算出している。電池反応シミュレーションにはNewmanモデルの1次元拡散モデルを用い、下記の6つの微分方程式からなる連立微分方程式の解を求めることで、6つの変数を求めている。なお、これらの計算には、計算ソフト;COMSOL Multiphysicsを用いて行った。詳しくは、COMSOLの計算ではバッテリーモジュールという予め電池構造が構築されたデータが内包されている。ここでは、検討している電池構造(実施例で作製したラミネート型電池の製造条件や評価試験条件等)につき計算を行った。必要なデータ(条件)は下記の通りである。
[電極構造情報]:電極厚み、セパレータ厚み、電極空隙率(空孔率)、セパレータ空隙率(空孔率)、活物質の体積分率、導電助剤、バインダ(結着材)の体積分率、電極初期Li濃度;
[材料物性情報]:活物質のOCV曲線、電極材料の電子伝導度、活物質参照Li濃度、密度、平均粒子径、固体内拡散係数、反応速度乗数、電解液自己拡散係数、電解液イオン伝導度、電解液Liイオン輸率、電解液活量係数、電解液濃度;
[評価条件]:1Cレート電流値、カットオフ電圧、評価温度。
Figure 0006962015
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ここで、6個の求める変数は以下の通りである;
・C(x,t):電解質(電解液)中のLi濃度
・Φ(x,t):電解質(電解液)電位
・Css(x,t):活物質表面のLi濃度
・i(x,t):電解質(電解液)電流
・jin(x,t):活物質と電解質(電解液)の界面での流束密度
・Φ(x,t):固体相電位(=活物質表面電位)。
電解質(電解液)濃度は、種々の塩濃度において、1C電流値で電流を流し、2.0Vもしくは4.5Vカットオフボルテージに到達した段階の過電圧分布の平均値をプロットした。
なお、電極厚み(μm)に対する過電圧(V)の関係についても、上記のシミュレーション条件に準じて計算した(図示せず)。その結果、検討したすべての濃度(1.0〜3.0mol/Lの範囲で0.1mol/Lごとに実施)において計算を実施しているが、効果が最も発揮される1.4mol/Lにおいてその効果を端的に示すことがわかった(図5参照)。即ち、1.4mol/Lにおいて、過電圧を抑制でき、電解液分解によるガス発生量が低減するので(図6参照)、耐久性を向上することができる。これにより電解質中のリチウム塩濃度とサイクル耐久後の維持率で最も維持率が良かったことがわかった(図5参照)。ここで、過電圧が大きく変化するのは、特定空間に電流が集中していることが起因している。電極を厚くする必要性は、電池のエネルギー密度を上げるために、蓄電性能の無い集電体やセパレータを極力減らすと、空間に占める電極の厚みが厚くなるためである。その結果、電極厚みを厚くした場合でも、電流集中が発生し過電圧が上昇することをイオン輸送能(塩濃度)の最適範囲を見出すことで解決することができることを見出したものである。これにより、とりわけ高エネルギー密度の厚い電極を用いた電池(セル)において発明の効果をより有効に発揮することができる点で優れている。
<集電板(タブ)>
リチウムイオン二次電池においては、電池外部に電流を取り出す目的で、集電体に電気的に接続された集電板(タブ)が外装材であるラミネートフィルムの外部に取り出されている。
集電板を構成する材料は、特に制限されず、リチウムイオン二次電池用の集電板として従来用いられている公知の高導電性材料が用いられうる。集電板の構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等の金属材料が好ましい。軽量、耐食性、高導電性の観点から、より好ましくはアルミニウム、銅であり、特に好ましくはアルミニウムである。なお、正極集電板(正極タブ)と負極集電板(負極タブ)とでは、同一の材料が用いられてもよいし、異なる材料が用いられてもよい。
また、図2に示すタブ58、59の取り出しに関しても、特に制限されるものではない。正極タブ58と負極タブ59とを同じ辺から引き出すようにしてもよいし、正極タブ58と負極タブ59をそれぞれ複数に分けて、各辺から取り出しようにしてもよいなど、図2に示すものに制限されるものではない。また、巻回型のリチウムイオン電池では、タブに変えて、例えば、円筒缶(金属缶)を利用して端子を形成すればよい。
<シール部>
シール部は、直列積層型電池に特有の部材であり、電解質層の漏れを防止する機能を有する。このほかにも、電池内で隣り合う集電体同士が接触したり、積層電極の端部の僅かな不ぞろいなどによる短絡が起こったりするのを防止することもできる。
シール部の構成材料としては、特に制限されないが、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ゴム、ポリイミド等が用いられうる。これらのうち、耐蝕性、耐薬品性、製膜性、経済性などの観点からは、ポリオレフィン樹脂を用いることが好ましい。
<正極端子リードおよび負極端子リード>
負極および正極端子リードの材料は、公知の積層型二次電池で用いられるリードを用いることができる。なお、電池外装材から取り出された部分は、周辺機器や配線などに接触して漏電したりして製品(例えば、自動車部品、特に電子機器等)に影響を与えないように、耐熱絶縁性の熱収縮チューブなどにより被覆するのが好ましい。
<外装材;ラミネートフィルム>
外装材としては、従来公知の金属缶ケースを用いることができる。そのほか、図1に示すようなラミネートフィルム22を外装材として用いて、発電要素17をパックしてもよい。ラミネートフィルムは、例えば、ポリプロピレン、アルミニウム、ナイロンがこの順に積層されてなる3層構造として構成されうる。このようなラミネートフィルムを用いることにより、外装材の開封、容量回復材の添加、外装材の再封止を容易に行うことができる。
(リチウムイオン二次電池(セル)のエネルギー密度)
本実施形態は、とりわけ高エネルギー密度の厚い電極を用いた電池(セル)において有用である。かかる観点から、電池(セル)のエネルギー密度は、700Wh/L以上が好ましい。エネルギー密度が700Wh/L以上であれば、電極密度、電極厚みなどが本実施形態の電解質(電荷液)の要件を満足する場合において、著しい効果が得られるためである。これにより、例えば、一充電走行距離の長い電気自動車やプラグインハイブリッド車等を構成できる点で優れている。かかる700Wh/L以上のリチウムイオン電池には、固溶体正極活物質とSi含有合金負極活物質を用い、更に電極を厚くすることが有効な手段となり得る。電極を厚くするとは、具体的には、正極、負極に、固溶体正極活物質、Si含有合金負極活物質を用い、更に集電体を除く、正極(活物質層片面)、負極(活物質層片面)、セパレータ一対(=集電体を除く単セル構成)の厚みが、好ましくは150μm以上の電池である。電池(セル)のエネルギー密度は、得られる電池(セル)の平均電圧と容量の積から求めることができる。
<リチウムイオン二次電池の製造方法>
リチウムイオン二次電池の製造方法は特に制限されず、公知の方法により製造されうる。具体的には、(1)電極の作製、(2)単電池層の作製、(3)発電要素の作製、および(4)積層型電池の製造を含む。以下、リチウムイオン二次電池の製造方法について一例を挙げて説明するが、これに限定されるものではない。
(1)電極(正極および負極)の作製
電極(正極または負極)は、例えば、活物質スラリー(正極活物質スラリーまたは負極活物質スラリー)を調製し、当該活物質スラリーを集電体上に塗布、乾燥し、次いでプレスすることにより作製されうる。前記活物質スラリーは、上述した活物質(固溶体正極活物質またはSi含有合金負極活物質)、バインダ、導電助剤および溶媒を含む。
前記溶媒としては、特に制限されず、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルホルムアミド、シクロヘキサン、ヘキサン、水等が用いられうる。
活物質スラリーの集電体への塗布方法としては、特に制限されず、スクリーン印刷法、スプレーコート法、静電スプレーコート法、インクジェット法、ドクターブレード法等が挙げられる。
集電体の表面に形成された塗膜の乾燥方法としては、特に制限されず、塗膜中の溶媒の少なくとも一部が除去されればよい。当該乾燥方法としては、加熱が挙げられる。乾燥条件(乾燥時間、乾燥温度など)は、適用する活物質スラリーに含有される溶媒の揮発速度、活物質スラリーの塗布量等に応じて適宜設定されうる。なお、溶媒は一部が残存していてもよい。残存した溶媒は、後述のプレス工程等で除去されうる。
プレス手段としては、特に限定されず、例えば、カレンダーロール、平板プレス等が用いられうる。
(2)単電池層の作製
単電池層は、(1)で作製した電極、好ましくは700Wh/L以上の高エネルギー密度の厚い電極(正極および負極)を、電解質層を介して積層させることにより作製されうる。
(3)発電要素の作製
発電要素は、単電池層の出力および容量、電池として必要とする出力および容量等を適宜考慮し、前記単電池層を積層して作製されうる。
(4)積層型電池の製造
電池の構成としては、角形、ペーパー型、積層型、円筒型、コイン型等、種々の形状を採用することができる。また構成部品の集電体や絶縁板等は特に限定されるものではなく、上記の形状に応じて選定すればよい。しかし、本実施形態では積層型電池が好ましい。積層型電池は、上記で得られた発電要素の集電体にリードを接合し、これらの正極リードまたは負極リードを、正極タブまたは負極タブに接合する。そして、正極タブおよび負極タブが電池外部に露出するように、発電要素をラミネートシート中に入れ、注液機により伝導キャリア濃度とイオン伝導度との積が所定の範囲にある電解液を注液してから真空に封止することにより積層型電池が製造されうる。
(5)活性化処理など
さらに、本実施形態では、上記により得られた積層型電池の性能および耐久性を高める観点から、さらに、以下の条件で初充電処理、ガス除去処理および活性化処理を行うことが好ましい。この場合には、ガス除去処理ができるように、上記(4)の積層型電池の製造において、封止する際に、矩形形状にラミネートシート(外装材)の3辺を熱圧着により完全に封止(本封止)し、残る1辺は、熱圧着で仮封止しておく。残る1辺は、例えば、クリップ留め等により開閉自在にしてもよいが、量産化(生産効率)の観点からは、熱圧着で仮封止するのがよい。この場合には、圧着する温度、圧力を調整するだけでよいためである。熱圧着で仮封止した場合には、軽く力を加えることで開封でき、ガス抜き後、再度、熱圧着で仮封止してもよいし、最後的には熱圧着で完全に封止(本封止)すればよい。
(初充電処理)
電池のエージング処理は、以下のように実施することが好ましい。25℃にて、定電流充電法で0.05C、4時間の充電(SOC約20%)を行う。次いで、25℃にて0.1Cレートで4.45Vまで充電した後、充電を止め、その状態(SOC約70%)で約2日間(48時間)保持する。
(最初(1回目)のガス除去処理)
次に、最初(1回目)のガス除去処理として、以下の処理を行う。まず、熱圧着で仮封止した1辺を開封し、10±3hPaで5分間ガス除去を行った後、再度、熱圧着を行って仮封止を行う。さらに、ローラーで加圧(面圧0.5±0.1MPa)整形し電極とセパレータとを十分に密着させる。
(活性化処理)
次に、活性化処理法として、以下の電気化学前処理法を行う。
まず、25℃にて、定電流充電法で0.1Cで電圧が4.45Vとなるまで充電した後、0.1Cで2.0Vまで放電するサイクルを2回行う。同様に、25℃にて、定電流充電法で0.1Cで4.55Vとなるまで充電した後、0.1Cで2.0Vまで放電するサイクルを1回、0.1Cで4.65Vとなるまで充電した後、0.1Cで2.0Vまで放電するサイクルを1回行う。更に、25℃にて、定電流充電法で、0.1Cで4.75Vとなるまで充電した後、0.1Cで2.0Vまで放電するサイクルを1回行えばよい。
なお、ここでは、活性化処理法として、定電流充電法を用い、電圧を終止条件とした場合の電気化学前処理法を例として記載しているが、充電方式は定電流定電圧充電法を用いても構わない。また、終止条件は電圧以外にも電荷量や時間を用いても構わない。
(最後(2回目)のガス除去処理)
次に、最初(1回目)のガス除去処理として、以下の処理を行う。まず、熱圧着で仮封止した一辺を開封し、10±3hPaで5分間ガス除去を行った後、再度、熱圧着を行って本封止を行う。さらに、ローラーで加圧(面圧0.5±0.1MPa)整形し電極とセパレータとを十分に密着させる。
本実施形態では、上記した初充電処理、ガス除去処理及び活性化処理を行うことにより、得られた電池の性能および耐久性を高めることができる。
[組電池]
組電池は、電池を複数個接続して構成した物である。詳しくは少なくとも2つ以上用いて、直列化あるいは並列化あるいはその両方で構成されるものである。直列、並列化することで容量および電圧を自由に調節することが可能になる。
電池が複数、直列にまたは並列に接続して装脱着可能な小型の組電池を形成することもできる。そして、この装脱着可能な小型の組電池をさらに複数、直列に又は並列に接続して、高体積エネルギー密度、高体積出力密度が求められる車両駆動用電源や補助電源に適した大容量、大出力を持つ組電池を形成することもできる。何個の電池を接続して組電池を作製するか、また、何段の小型組電池を積層して大容量の組電池を作製するかは、搭載される車両(電気自動車)の電池容量や出力に応じて決めればよい。
[車両]
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池をはじめとした本発明の電気デバイスは、長期使用しても放電容量が維持され、サイクル特性が良好である。さらに、体積エネルギー密度が高い。電気自動車やハイブリッド電気自動車や燃料電池車やハイブリッド燃料電池自動車などの車両用途においては、電気・携帯電子機器用途と比較して、高容量、大型化が求められるとともに、長寿命化が必要となる。したがって、上記リチウムイオン二次電池(電気デバイス)は、車両用の電源として、例えば、車両駆動用電源や補助電源に好適に利用することができる。
具体的には、電池またはこれらを複数個組み合わせてなる組電池を車両に搭載することができる。本発明では、長期信頼性および出力特性に優れた高寿命の電池を構成できることから、こうした電池を搭載するとEV走行距離の長いプラグインハイブリッド電気自動車や、一充電走行距離の長い電気自動車を構成できる。電池またはこれらを複数個組み合わせてなる組電池を、例えば、自動車ならばハイブリット車、燃料電池車、電気自動車(いずれも四輪車(乗用車、トラック、バスなどの商用車、軽自動車など)のほか、二輪車(バイク)や三輪車を含む)に用いることにより高寿命で信頼性の高い自動車となるからである。ただし、用途が自動車に限定されるわけではなく、例えば、他の車両、例えば、電車などの移動体の各種電源であっても適用は可能であるし、無停電電源装置などの載置用電源として利用することも可能である。
以下、実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに何ら限定されるわけではない。
[実施例1]
(固溶体正極活物質C1)
(チタンクエン酸錯体水溶液の調製)
無水クエン酸(分子量192.12g/mol)60g(0.3mol)をアセトン400mlに加え、60℃に加温し溶解した。次いで、チタンテトライソプロポキシド(分子量284.22g/mol)56g(0.2mol)を加え、沈殿を形成させた。この液を吸引濾過し沈殿物(薄黄色)を得た。
沈殿物にHO(200ml)を加え、50〜60℃に加温し溶解した。この溶液を1日以上静置して不溶物を沈降させた後、濾過し、不溶物を除去し、チタンクエン酸錯体水溶液を得た。Ti濃度は、TiO(分子量79.87g/mol)として5.0質量%であった。
(固溶体正極活物質C1の調製)
固溶体C1の組成;Li1.5[Ni0.450Mn0.750[Li]0.20Ti0.10]O
チタンクエン酸錯体水溶液(TiO2として5.0質量%)15.97gに、酢酸マンガン・4水和物(分子量245.09g/mol)14.71g、酢酸ニッケル・4水和物(分子量248.84g/mol)7.47g、酢酸リチウム・2水和物(分子量102.02g/mol)14.57gを順に加えた。得られた混合物を、200℃〜300℃に加熱し溶融溶解した。次に、スプレードライ装置を用い、得られた溶融溶解液(スラリー)を200℃〜400℃で加熱噴霧し、乾燥した。得られた乾燥粉末を、140℃〜250℃で12時間真空乾燥した後、450℃で12時間仮焼成した。その後、900℃で12時間本焼成した。
上記のようにして得た固溶体正極活物質C1の組成は以下の通りであった。
組成式:Li1.5[Ni0.450Mn0.750[Li]0.20Ti0.10]O
この組成を上記式(3)に当てはめると、a+b+c+d+e=1.5、d=0.20、a+b+c+e=1.30、e=0.10、z;原子価を満足する酸素数となり、となり、式(3)の要件を満足する。また、得られた固溶体正極活物質C1の平均粒径は8μmであった。
(集電体の両面に正極活物質層を形成した正極C1の作製)
(正極用スラリーの組成)
正極用スラリーは下記組成とした。
正極活物質:上記で得られた固溶体正極活物質C1 9.4重量部
導電助剤:燐片状黒鉛 0.15重量部
アセチレンブラック 0.15重量部
バインダ:ポリフッ化ビニリデン(PVDF) 0.3重量部
溶媒:N−メチル−2−ピロリドン(NMP) 8.3重量部。
この組成を上記式(2)のe(固溶体正極活物質)(ここで、eは正極活物質層における各成分の質量%を表し、80≦e≦98である。)に当てはめると、e=94となり、式(2)の要件を満足する。
(正極用スラリーの製造)
上記組成の正極用スラリーを次のように調製した。まず、50mlのディスポカップに、溶媒(NMP)にバインダを溶解した15%バインダ溶液2.0重量部に溶媒(NMP)4.0重量部を加え、攪拌脱泡機(自転公転ミキサー:あわとり錬太郎AR−100)で1分間攪拌してバインダ希釈溶液を作製した。次に、このバインダ希釈液に、導電助剤0.3重量部と固溶体正極活物質C1 9.4重量部、および溶媒(NMP)2.6重量部を加え、攪拌脱泡機で3分間攪拌して正極用スラリー(固形分濃度55質量%)とした。
(正極用スラリーの塗布・乾燥)
厚さ20μmのアルミニウム集電体の両面に、上記正極用スラリーを自動塗工装置(テスター産業製ドクターブレード:PI−1210自動塗工装置)により塗布した。続いて、この正極用スラリーを塗布した集電体について、ホットプレートにて乾燥(100℃〜110℃、乾燥時間30分)を行い、正極活物質層に残留するNMP量を0.02質量%以下として、シート状正極を形成した。
(正極のプレス)
上記シート状正極を、ローラープレスをかけて圧縮成形し、切断して、正極を作製した。
(正極の乾燥)
次に、上記手順で作製した正極を用い真空乾燥炉にて乾燥処理を行った。乾燥炉内部に正極を設置した後、室温(25℃)にて減圧(100mmHg(1.33×10Pa))し乾燥炉内の空気を除去した。続いて、窒素ガスを流通(100cm/分)しながら、10℃/分で120℃まで昇温し、120℃で再度減圧して炉内の窒素を排気したまま12時間保持した後、室温まで降温した。こうして正極表面の水分を除去した正極C1を得た。得られた正極C1の正極活物質層の片面の厚さは、共に97.5μmであった。
(集電箔の両面に活物質層を形成した負極A1の作製)
(Si含有合金の製造)
負極活物質であるSi含有合金として、Si80Sn10Ti10(単位は質量%、以下同じ)を用いた。なお、上記Si含有合金は、メカニカルアロイ法により製造した。具体的には、ドイツフリッチュ社製遊星ボールミル装置P−6を用いて、ジルコニア製粉砕ポットにジルコニア製粉砕ボールおよび合金の原料粉末を投入し、600rpm、24時間かけて合金化させ(合金化処理)、その後400rpmで1時間、粉砕処理を実施した。なお、得られたSi含有合金(負極活物質)粉末の平均粒子径は0.3μmであった。
(負極活物質のSi含有合金の組織構造の分析)
得られたSi含有合金(Si80Sn10Ti10)粉末の組織構造を電子回折法により分析した結果、シリサイド相(TiSi)の結晶性を示す回折スポットおよびハローパターンが観察され、母相であるアモルファスSi相中に結晶性のシリサイド相が分散した組織構造を有することが確認された。
(負極用スラリーの組成)
負極用スラリーは下記組成とした。
負極活物質:Si含有合金(Si80Sn10Ti10) 80重量部
導電助剤:SuperP(登録商標)(ティムカル・グラファイト・アンド・カーボン社製の導電性カーボンブラック) 5重量部
バインダ:ポリイミド15重量部
溶媒:N−メチル−2−ピロリドン(NMP) 適量。
この組成を上記式(1)のα(Si含有合金)(ここで、αは負極活物質層における各成分の質量%を表し、40<α≦98である。)に当てはめると、α=80となり、式(1)の要件を満足する。
(負極用スラリーの製造)
上記組成の負極用スラリーを次のように調製した。まず溶媒(NMP)に、バインダを溶解したバインダ溶液を加えて、攪拌脱泡機で1分間攪拌してバインダ希釈溶液を作製した。このバインダ希釈液に、導電助剤、負極活物質粉末、および溶媒(NMP)を加え、攪拌脱泡機で3分間攪拌して負極用スラリーとした。
(負極用スラリーの塗布・乾燥)
10μm厚の電解銅集電体の両面に、上記負極用スラリーを自動塗工装置により塗布した。続いて、この負極スラリーを塗布した集電体について、ホットプレートにて乾燥(100℃〜110℃、乾燥時間30分)を行い、負極活物質層に残留するNMP量を0.02質量%以下として、シート状負極を形成した。
(負極のプレス)
得られたシート状負極を、ローラープレスをかけて圧縮成形し、切断して、負極を作製した。
(電極の乾燥)
次に、上記手順で作製した負極を用い真空乾燥炉にて乾燥処理を行った。
乾燥炉内部に負極を設置した後、室温(25℃)にて減圧(100mmHg(1.33×10Pa))し乾燥炉内の空気を除去した。続いて、窒素ガスを流通(100cm/分)しながら、10℃/分で325℃まで昇温し、325℃で再度減圧して炉内の窒素を排気したまま24時間保持した後、室温まで降温した。こうして負極表面の水分を除去して、負極A1を得た。得られた負極A1の負極活物質層の片面の厚さは、共に60μmであった。
[ラミネート型電池の作製]
上記で得られた正極C1を、活物質層面積;縦2.5cm×横2.0cmになるように切り出し、集電体の両面に正極活物質層を有する正極を形成した。その後、さらに集電体部分にアルミニウムの正極タブ(正極集電板)を溶接して正極C11を形成した。すなわち、正極C11は、集電体の両面に正極活物質層が形成された構成である。
一方、上記で得られた負極A1を、活物質層面積;縦2.7cm×横2.2cmになるように切り出し、集電体の両面に負極活物質層が形成された負極を形成した。その後、さらに集電体部分に電解銅の負極タブを溶接して負極A11を形成した。すなわち、負極A11は、集電体の両面に負極活物質層が形成された構成である。
これらタブを溶接した負極A11と、正極C11との間に多孔質ポリプロピレン製セパレータ(S)(縦3.0cm×横2.5cm、厚さ22μm、空孔率55%)を挟んで5層からなる積層型の発電要素を作製した。積層型の発電要素の構成は、負極/セパレータ/正極/セパレータ/負極の構成、すなわち、A11−(S)−C11−(S)−A11の順に積層された構成とした。次いで、アルミラミネートフィルム製外装材(縦3.5cm×横3.5cm)で発電要素の両側を挟み込み、3辺を熱圧着封止して上記発電要素を収納した。この発電要素に、電解液0.8cm(上記5層構成の場合、2セル構成となり、1セル当たたりの注液量0.4cm)を注入した後、残りの1辺を熱圧着で仮封止し、ラミネート型電池を作製した。電解液を電極細孔内に十分に浸透させるため、面圧0.5Mpaで加圧しながら、25℃にて24時間保持した。得られたラミネート型電池(セル)のエネルギー密度は、700Wh/Lであった。
なお、電解液の調製では、まず、エチレンカーボネート(EC)30体積%とジエチルカーボネート(DEC)70体積%の混合溶媒に、1.1mol/LのLiPF(リチウム塩)を溶解した。その後、添加剤として作用するフルオロリン酸リチウムとして、ジフルオロリン酸リチウム(LiPO)を1.8質量%、メチレンメタンジスルホン酸(MMDS)1.5質量%を溶解したものを、電解液として用いた。
以下の実施例では、実施例1と同様にしてラミネート型電池を作製した。すなわち、以下に特記したこと以外は、上述した実施例1と同様にしてラミネート型電池を作製した。
[実施例2]
電解液の塩濃度を「1.1mol/L」から「1.2mol/L」に変更したこと以外は実施例1と同様にしてラミネート型電池を作製した。
[実施例3]
電解液の塩濃度を「1.1mol/L」から「1.3mol/L」に変更したこと以外は実施例1と同様にしてラミネート型電池を作製した。
[実施例4]
電解液の塩濃度を「1.1mol/L」から「1.4mol/L」に変更したこと以外は実施例1と同様にしてラミネート型電池を作製した。
[実施例5]
電解液の塩濃度を「1.1mol/L」から「1.5mol/L」に変更したこと以外は実施例1と同様にしてラミネート型電池を作製した。
[比較例1]
電解液の塩濃度を「1.1mol/L」から「1.0mol/L」に変更したこと以外は実施例1と同様にしてラミネート型電池を作製した。
[電池特性の評価]
(サイクル耐久性の評価)
上記で作製した各ラミネート型電池について以下の充放電試験条件に従ってサイクル耐久性評価を行った。
<充放電試験条件>
1)充放電試験機:HJ0501SM8A(北斗電工株式会社製)
2)充放電条件[充電過程]0.3C、2V→10mV(定電流・定電圧モード)
[放電過程]0.3C、10mV→2V(定電流モード)
3)恒温槽:PFU−3K(エスペック株式会社製)
4)評価温度:298K(25℃)。
評価用セルである各ラミネート型電池は、充放電試験機を使用して、上記評価温度に設定された恒温槽中にて、充電過程(評価用電極へのLi挿入過程をいう)では、定電流・定電圧モードとし、0.3Cにて2Vから10mVまで充電した。その後、放電過程(評価用電極からのLi脱離過程をいう)では、定電流モードとし、0.3C、10mVから2Vまで放電した。以上の充放電サイクルを1サイクルとして、同じ充放電条件にて、初期サイクル(1サイクル)〜100サイクルまで充放電試験を行った。そして、1サイクル目の放電容量に対する100サイクル目の放電容量の割合(放電容量維持率[%])を求めた結果を、下記の表1及び図5に示す。図5は、電解質中の塩濃度(mol/L)に対するサイクル耐久後の放電容量維持率(%)の関係を示すグラフ図面である。
(クーロン効率から算出した長期耐久性)
上記「サイクル耐久性の評価」と同様にして、上記で作製した各ラミネート型電池について上記充放電試験条件に従ってサイクル耐久性の評価の試験を行った。上記試験の結果から、各ラミネート型電池ごとに、以下の劣化率(クーロン効率から算出した長期耐久性)の計算を行った。
充電容量Aとその後の放電容量Bの比を、充放電効率B/Aとする;
放電容量Bとその後の充電容量Cの比を、放充電効率C/Bとする;
これらの効率の平均値(B/A+C/B)/2を、クーロン効率Eとする;
各サイクルのクーロン効率(nE・cycle毎/n)を平均クーロン効率とする;
得られたクーロン効率、例えば(e.g.)99.5%/cycleである時の劣化率を100−99.5=0.5%とする;
電池の一般的な劣化モデルとして、ルート則(長期耐久性(%)=1−劣化率√n×100)に基づいて、長期耐久性(%)を求める。nはサイクル数に基づいて劣化曲線が得られる。上記「サイクル耐久性の評価」と同様に100サイクルでの長期耐久性(%)を求めた。得られた結果を表1に示す。
(過電圧の評価)
実施例1〜5及び比較例1のラミネート型電池は、電解液の塩濃度が異なる点を除けば、すべて同様にして作製していることから、実施例1で作製したラミネート型電池の作製条件、評価条件等を上記で説明した図4の計算ソフトに入力して、電解液の塩濃度のみを変化させることによる過電圧の変化を計算し、電解液の塩濃度に対する過電圧の関係を表す図4のグラフを得た。すなわち、各実施例及び比較例で用いた電解液の塩濃度における、正極と負極の過電圧を図4から求めた。ここでは、正極と負極それぞれで、充電時と放電時の電極厚み方向の過電圧の平均値を求めた。得られた結果を表1及び図4に示す。
(耐久試験後のガス発生量の測定)
実施例4と比較例1のラミネート型電池を用い、上記充放電試験条件に従ったサイクル耐久性評価試験(耐久試験)後の電池を、内部を真空にできる特殊治具(容器)に入れ、当該容器内を真空にした。その後、特殊治具に備えられた穴あけ機(針)で、電池のラミネートフィルム外装体に穴をあけ、別容器に電池内のガスを回収した。回収したガスはガスクロマトグラフ(GC)に導入し、誘電体バリア放電検出器(DBD)、熱伝導度検出器(TCD)および質量選択型検出器(MS)により無機ガスおよび炭化水素ガスの測定を行った。なお定量については既知濃度の標準物質を用いて検量線を作成して行った。ガス体積については治具内の圧力値等から算出した。耐久試験後のガス発生量の測定結果を表1及び図6に示す。また図6では、耐久試験後の発生ガスにつきGC−DBD/TCD測定を用いて成分分析と各成分量を計測した結果も示す。
Figure 0006962015
表1及び図4〜6に示す結果から明らかなように、実施例1〜5の電池では、比較例1の電池と比べて、放電容量維持率が高く(サイクル耐久性に優れ)、過電圧が抑制され、ガス発生量も低減されていることが確認された。
10、50 リチウムイオン二次電池、
11 負極集電体、
12 正極集電体、
13 負極活物質層、
15 正極活物質層、
17 セパレータ、
19 単電池層、
21、57 発電要素、
25 負極集電板、
27 正極集電板、
29、52 電池外装材、
58 正極タブ、
59 負極タブ。

Claims (5)

  1. 集電体の表面に正極活物質を含む正極活物質層が形成されてなる正極と、
    集電体の表面に負極活物質を含む負極活物質層が形成されてなる負極と、
    電解質を含有するセパレータと、
    を含む発電要素を有するリチウムイオン二次電池であって、
    前記電解質の伝導キャリア濃度とイオン伝導度との積が、43.45×10−4〜46.15×10−4mScm−4の範囲であり、
    前記負極活物質層が、負極活物質としてSi含有合金を含有し、
    前記正極活物質層が、正極活物質として固溶体を含有し、
    エネルギー密度が700Wh/L以上であることを特徴とするリチウムイオン二次電池
  2. 前記電解質の塩濃度が、1.2〜1.5mol/Lの範囲であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池
  3. 前記電解質の塩濃度が、1.3〜1.45mol/Lの範囲であることを特徴とする請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池
  4. 単電池層を構成する前記正極活物質層、前記負極活物質層、および前記セパレータの各1層の厚さの合計が150μm以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
  5. 前記正極活物質層の厚さは90〜500μmであり、前記負極活物質層の厚さは50〜500μmである、請求項4に記載のリチウムイオン二次電池。
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