従来、特許文献1に開示されているように、互いに並列接続された2つの昇圧コンバータを備え、軽負荷時に2つの昇圧コンバータの中の一方の動作を停止させ、重負荷時に双方を動作させる制御を行うことにより、電流が小さい領域から大きい領域まで効率を向上させたスイッチング電源回路があった。
図9に示す従来のスイッチング電源装置10は、商用のAC100V〜AC200Vに対応したワイド入力タイプの電源装置であり、特許文献1のスイッチング電源回路に、一般的な過電流保護の機能と力率改善の機能を付加したものである。以下、スイッチング電源装置10の構成及び動作について詳しく説明する。
スイッチング電源装置10は、入力端同士及び出力端同士が互いに並列接続された2つの昇圧コンバータ12(1),12(2)で構成された電力変換部12と、昇圧コンバータ12(1),12(2)が有する各スイッチング素子14(1),14(2)を駆動し、これらのオン時間及びオフ時間を制御することによって電力変換部12の出力電圧Voutを安定化するスイッチング制御部16とを備え、さらに昇圧コンバータ12(1),12(2)の入力端の前段に、商用交流電圧Eを全波整流して脈流電圧Vinを生成する整流器18が設けられている。
昇圧コンバータ12(1)は、入力コンデンサ20、昇圧用インダクタ22(1)、スイッチング素子14(1)、整流ダイオード24(1)及び出力コンデンサ26で構成され、昇圧コンバータ12(2)は、入力コンデンサ20、昇圧用インダクタ22(2)、スイッチング素子14(2)、整流ダイオード24(2)及び出力コンデンサ26で構成されている。
スイッチング制御部16は、入力情報取得部28、出力情報取得部30、過電流検出部32及びスイッチング素子駆動部34を備えている。
入力情報取得部28は、電力変換部12の入力端に発生している脈流電圧Vinに対応した脈流電圧情報S(Vin)と、電力変換部12に流入している入力電流Iinに対応した入力電流情報S(Iin)とを取得又は生成し、これらをスイッチング素子駆動部34に送信する。入力電流Iinは、昇圧コンバータ12(1)の入力電流Iin1と昇圧コンバータ12(2)の入力電流Iin2を合成した電流である。
出力情報取得部30は、電力変換部12の出力電圧Voutに対応した出力電圧情報S(Vout)を取得又は生成し、スイッチング素子駆動部34に送信する。
過電流検出部32は、昇圧用インダクタ22(1),22(2)の各電流Ich1,Ich2を合成した電流Ich(以下、インダクタ電流Ichと称する。)が流れる部位に挿入された電流検出用抵抗32aと、その両端電圧を分圧する分圧用抵抗32b,32cと、分圧用抵抗32cの電圧が閾値Vthに達した時に出力が反転する比較器32dとで構成されている。閾値Vthは、インダクタ電流Ichの許容上限値Ich(max)に対応した値に設定されている。したがって、比較器32dは、インダクタ電流Ichが許容上限値Ich(max)に達すると出力のロジックが反転し、スイッチング素子駆動部34に向けて、ハイレベル又はローレベルの電圧信号である過電流情報S(Ich(max))を送信する。
スイッチング素子駆動部34は、受信した情報S(Vin),S(Iin),S(Vout),S(Ich(max))に基づいて、スイッチング素子14(1),14(2)をオンオフさせるための駆動パルスVg1,Vg2を生成する。具体的には、図10に示すルールに基づいて動作する。
スイッチング素子駆動部34は、まず、入力電流情報S(Iin)から入力電流Iinの平均値を算出して軽負荷時か重負荷時かの判定を行い、軽負荷時と判定された時は、スイッチング素子14(2)の動作を停止させ、スイッチング素子14(1)だけを動作させる。一方、重負荷時と判定された時は、スイッチング素子14(1),14(2)の双方を駆動してインターリーブ動作させる。
そして、過電流情報S(Ich(max))が受信されない時は、出力電圧情報S(Vout)、脈流電圧情報S(Vin)及び入力電流情報S(Iin)を参照し、軽負荷時か重負荷時かにかかわらず、出力電圧Voutを目標値に近づけるように、且つ入力電流Iin波形が脈流電圧Vin波形と相似形になるように、スイッチング素子14(1),14(2)のオン時間及びオフ時間を調節する。これによって、出力電圧Voがほぼ一定の値に保持され、さらに力率も改善されることになる。
過電流情報S(Ich(max))が受信された時は、軽負荷時か重負荷時かにかかわらず、スイッチング素子14(1),14(2)のオンの時比率を制限し、インダクタ電流Ichが許容上限値Ich(max)を超えないようにする。その結果、入力電流Iinが規定値Iocpを超えないように制限され、出力電圧Voutがダウンすることになる。
次に、昇圧コンバータ12(1),12(2)の各部に流れる電流の波形について説明する。ここでは、重負荷時で過電流情報S(Ich(max))が受信されない時の動作を通常動作A2、重負荷時で過電流情報S(Ich(max))が受信された時の動作を過電流動作B2、軽負荷時で過電流情報S(Ich(max))が受信されない時の動作を通常動作A1、軽負荷時で過電流情報S(Ich(max))が受信された時の動作を過電流動作B1と称する。また、昇圧コンバータ12(1),12(2)は、インダクタ電流Ich1,Ich2がゼロアンペアから三角波状に増減する臨界モード動作を行うものとする。
図11(a)は、通常動作A2を行っている時の波形を示している。インダクタ電流Ichは、インダクタ電流Ich1,Ich2を合成したものであり、インダクタ電流Ich1,Ich2に含まれるスイッチング周波数成分をΔIch1,ΔIch2とすると、Ich=(Iin1+ΔIch1)+(Iin2+ΔIch2)となる。通常動作A2では、インダクタ電流Ichが許容上限値Ich(max)に達していないので、インダクタ電流Ich=Ich1+Ich2はまだ増加することができ、入力電流Iin=Iin1+Iin2もまだ増加することができる。
図11(b)は、過電流動作B2を行っている時の波形を示しており、インダクタ電流Ich=Ich1+Ich2が許容上限値Ich(max)を超えないように制御され、その結果、入力電流Iin=Iin1+Iin2が規定値Iocpを超えないように制限される。
図12(a)は、通常動作A1を行っている時の波形を示している。ここでは、スイッチング素子14(2)がスイッチング動作を停止しているので、インダクタ電流Ichはインダクタ電流Ich1と等しくなり、Ich=Iin1+ΔIch1となる。通常動作A1では、インダクタ電流Ichが許容上限値Ich(max)に達していないので、インダクタ電流Ich=Ich1はまだ増加することができ、入力電流Iin=Iin1もまだ増加することができる。
図12(b)は、過電流動作B1を行っている時の波形を示しており、インダクタ電流Ich=Ich1が許容上限値Ich(max)を超えないように制御され、その結果、入力電流Iin=Iin1が規定値Iocpを超えないように制限される。
従来のスイッチング電源装置10は、特許文献1の技術が適用されているので、電流が小さい領域から大きい領域まで効率を向上させることができる。また、過電流保護の機能が付加されているので、装置の安全性が向上する。
以下、スイッチング電源装置の一実施形態について、図1〜図3に基づいて説明する。この形態のスイッチング電源装置38は、商用のAC100V〜AC200Vに対応したワイド入力タイプの電源装置であり、以下、従来のスイッチング電源装置10,36と同様の構成は、同一の符号を付して説明する。
スイッチング電源装置38は、図1に示すように、入力端同士及び出力端同士が互いに並列接続された2つの昇圧コンバータ12(1),12(2)で構成された電力変換部12と、昇圧コンバータ12(1),12(2)が有する各スイッチング素子14(1),14(2)を駆動し、これらのオン時間及びオフ時間を制御することによって電力変換部12の出力電圧Voutを安定化するスイッチング制御部40とを備え、さらに昇圧コンバータ12(1),12(2)の入力端の前段に、商用交流電圧Eを全波整流して脈流電圧Vinを生成する整流器18が設けられている。昇圧コンバータ12(1),12(2)の構成は、従来のスイッチング電源装置10,36と同様である。
スイッチング制御部40は、入力情報取得部42、出力情報取得部44、過電流検出部46及びスイッチング素子駆動部48を備えている。
入力情報取得部42は、電力変換部12の入力端に発生している脈流電圧Vinに対応した脈流電圧情報S(Vin)と、電力変換部12に流入している入力電流Iinに対応した入力電流情報S(Iin)とを取得又は生成し、これらをスイッチング素子駆動部48に送信する。入力電流Iinは、昇圧コンバータ12(1)の入力電流Iin1と昇圧コンバータ12(2)の入力電流Iin2を合成した電流である。
出力情報取得部44は、電力変換部12の出力電圧Voutに対応した出力電圧情報S(Vout)と、電力変換部12の出力電力Poutに対応した出力電力情報S(Pout)とを取得又は生成し、これらをスイッチング素子駆動部48に送信する。出力電力情報S(Pout)は、過電流検出部46にも送信する。出力電力情報S(Pout)は、軽負荷時か重負荷時かを示す電圧信号であり、出力電力Poutが所定の値以下の軽負荷時にローレベル、所定の値を超える重負荷時にハイレベルになる。
過電流検出部46は、昇圧用インダクタ22(1),22(2)の各電流Ich1,Ich2を合成した電流Ich(インダクタ電流Ich)が流れる部位に挿入された電流検出用抵抗46aと、その両端電圧を分圧する分圧用抵抗46b,46cと、分圧抵抗46cの両端に接続された抵抗46e及びスイッチ46fの直列回路と、分圧用抵抗46cの電圧と閾値Vthとを比較する比較器46dとで構成されている。閾値Vthは、インダクタ電流Ichの許容上限値Ich(max)に対応した値に設定されている。したがって、比較器46dは、インダクタ電流Ichが許容上限値Ich(max)に達すると出力のロジックが反転し、スイッチング素子駆動部48に向けて、ハイレベル又はローレベルの電圧信号である過電流情報S(Ich(max))を送信する。
スイッチ46fは、出力情報取得部44から送信された出力電力情報S(Pout)を受けてオン又はオフする構成になっている。スイッチ46fは重負荷時にオンし、これによって分圧回路の分圧比が小さくなり、入力電流Iinを制限する規定値Iocpが実質的に高くなる(例えば40A)。また、軽負荷時はスイッチ46fがオフし、これによって分圧回路の分圧比が大きくなり、規定値Iocpが実質的に低くなる(例えば20A)。
スイッチング素子駆動部48は、受信した情報S(Vin),S(Iin),S(Vout),S(Pout),S(Ich(max))に基づいて、スイッチング素子14(1),14(2)をオンオフさせるための駆動パルスVg1,Vg2を生成する。具体的には、図2に示すルールに基づいて動作する。
スイッチング素子駆動部48は、出力電力情報S(Pout)がローレベル電圧の時(軽負荷時)、スイッチング素子14(2)の動作を停止させ、スイッチング素子14(1)だけを動作させる。一方、ハイレベル電圧の時(重負荷時)は、スイッチング素子14(1),14(2)の双方を駆動してインターリーブ動作させる。
そして、過電流情報S(Ich(max))が受信されない時は、出力電圧情報S(Vout)、脈流電圧情報S(Vin)及び入力電流情報S(Iin)を参照し、軽負荷時か重負荷時かにかかわらず、出力電圧Voutを目標値に近づけるように、且つ入力電流Iin波形が脈流電圧Vin波形と相似形になるように、スイッチング素子14(1),14(2)のオン時間及びオフ時間を調節する。これによって、出力電圧Voがほぼ一定の値に保持され、さらに力率も改善されることになる。
過電流情報S(Ich(max))が受信された時は、軽負荷時か重負荷時かにかかわらず、スイッチング素子14(1),14(2)のオンの時比率を制限し、インダクタ電流Ichが許容上限値Ich(max)を超えないようにする。その結果、入力電流Iinが規定値Iocpを超えないように制限され、出力電圧Voutがダウンすることになる。
スイッチング制御部40が行う動作は図2に示すように、軽負荷モードの制御と重負荷モードの制御に区分することができる。図15と比較して分かるように、スイッチング制御部16xと異なるのは、入力電流Iinを制限する規定値Iocpを、商用交流電圧Eの高低に応じて切り替えるのではなく、軽負荷時か重負荷時かによって切り替える点である。
次に、昇圧コンバータ12(1),12(2)の各部に流れる電流の波形について説明する。ここでは、重負荷モードで過電流情報S(Ich(max))が受信されない時の動作を通常動作A2、重負荷モードで過電流情報S(Ich(max))が受信された時の動作を過電流動作B2、軽負荷モードで過電流情報S(Ich(max))が受信されない時の動作を通常動作A1、軽負荷モードで過電流情報S(Ich(max))が受信された時の動作を過電流動作B1と称する。また、上記と同様に、昇圧コンバータ12(1),12(2)は、インダクタ電流Ich1,Ich2がゼロアンペアから三角波状に増減する臨界モード動作を行うものとする。
図3の図表の中の左列は、出力電流Ioutがゼロアンペア(軽負荷)から定格電流(重負荷)に急増した時の入力電流Iin1,Iin2の波形を示している。AC100V入力の時の動作を説明すると、出力電流Ioutがゼロアンペアの時は通常動作A1を行っている。その後、出力電流Ioutが定格電流に変化するが、出力情報取得部44の動作遅れが原因で、重負荷モードへの切り換わり(スイッチング素子14(2)の動作開始)が少し遅れる。そのため、遅れている期間に、通常動作A1、過電流動作B1、通常動作A1を順に行い、その後、重負荷モードに切り換わってスイッチング素子14(2)が動作を開始するとともに規定値Iocpが高い値(例えば40A)に変化し、通常動作A2に移行する。この一連の動作により、入力電流Iinが急増しても規定値Iocp(例えば20A)以下に制限され、入力電力Pinのピーク値が(100V×20A)相当の小さい値に収まるので、特に問題はない。
AC200V入力の時の動作も同様であり、入力電力Pinのピーク値が(200V×20A)相当の小さい値に収まるので、特に問題はない。
また、図3の図表の中の右列は、AC200V入力で負荷に一定の出力電力Poを供給している時(重負荷時)に、入力が急にAC100Vに低下した時の入力電流Iinの波形を示している。この波形から分かるように、商用交流電圧Eが低下しても重負荷の状態が継続するので、動作モードは重負荷モードを継続し、規定値Iocpが高い値(例えば40A)に保持される。したがって、入力がAC200VからAC100Vに変化した後は、入力電流Iinが規定値Iocp(例えば40A)に到達しないので通常動作A2を継続する。この動作により、十分な入力電流Iinを流すことが可能になり、出力電圧Voutの低下を小さく抑えることができる。また、入力電流Iinが急増しても、入力電力Pinのピーク値が(100V×40A)相当の小さい値に収まるので、特に問題はない。
以上説明したように、スイッチング電源装置38は、シンプルな構成で独特な動作を行うスイッチング制御部40を備えているので、出力電流Ioutの急変時に入力電力Pinが過大になるのを適切に防止することができ、入力急変時の出力電圧Voutの低下も小さく抑えることができる。また、特許文献1のスイッチング電源回路と同様に、電流が小さい領域から大きい領域まで効率を向上させることができる。
なお、スイッチング電源装置38は、高入力で使用しているとき、例えば負荷が故障して過負荷状態(出力電流Ioutが定格電流を超えた状態)となり、その状態で放置されると、電力変換部12や負荷の発熱が大きくなる可能性がある。過負荷状態が継続している時の入力電力Pinの最大値は、AC100Vで使用された時は(100V×40A)相当の小さい値であるが、AC200Vで使用された時は(200V×40A)相当の大きい値になり、負荷に供給される出力電力Poutも大きくなるからである。
この問題は、従来のスイッチング電源装置36の構成にすれば解決できるが、そうすると、入力急変時に出力電圧Voutが大きく低下してしまう問題を解決することができない。したがって、過負荷状態で放置されるケースが想定される場合は、別途、過熱保護回路等の保護手段を設け、電力変換部12や負荷の発熱が過大になる前に電力変換部12の動作を完全に停止させることによって安全を確保することが好ましい。
次に、スイッチング電源装置38を改良した本発明の一実施形態について、図4〜図6に基づいて説明する。この実施形態のスイッチング電源装置38xは、図4に示すように、スイッチング電源装置38のスイッチング制御部40(入力情報取得部42、過電流検出部46、スイッチング素子駆動部48)を、スイッチング制御部40x(入力情報取得部42x、過電流検出部46x、スイッチング素子駆動部48x)に置き換えたものである。
入力情報取得部42xは、脈流電圧情報S(Vin)及び入力電流情報S(Iin)を取得又は生成してスイッチング素子駆動部48xに送信するとともに、商用交流電圧情報S(E)を取得又は生成して過電流検出部46x及びスイッチング素子駆動部48xに送信する。商用交流電圧情報S(E)は電圧信号であり、商用交流電圧EがAC100V系の時にハイレベル、AC200V系の時にローレベルになる。
過電流検出部46xの基本的な動作は、過電流検出部46と同様である。ただし、過電流検出部46の場合、スイッチ46fが出力電力情報S(Pout)に基づいてオン又はオフするのに対し、過電流検出部46xの場合は、スイッチ46fが出力電力情報S(Pout)及び商用交流電圧情報S(E)に基づいてオン又はオフする構成になっている。つまり、過電流検出部46xは、出力電力情報S(Pout)及び商用交流電圧情報S(E)に基づいて規定値Iocpが切り替わる点に特徴がある。
スイッチング素子駆動部48xの基本的な動作は、スイッチング素子駆動部48と同様である。ただし、スイッチング素子駆動部48の場合、商用交流電圧情報S(E)に関係なく軽負荷モードと重負荷モードとが切り換わるのに対し、スイッチング素子駆動部48xの場合は、商用交流電圧情報S(E)の高低によって動作モードの切り換わり方が変化する点に特徴がある。
上記のスイッチング制御部40は、図5(a)に示すように、商用交流電圧Eの高低によらず、軽負荷時に軽負荷モードの制御を行い、重負荷時に重負荷モードの制御を行う。これに対して、スイッチング制御部40xは、図5(b)に示すように、商用交流電圧Eが所定値以上(例えば、AC150V以上)の時は同様の制御を行うが、商用交流電圧Eが所定値未満(AC150V未満)になると、軽負荷時か重負荷時かにかかわらず、重負荷モードの制御を行うという特徴がある。
スイッチング電源装置38xのような構成にすれば、スイッチング電源装置38で発生し得る特定の不具合を容易に解決することができる。以下、スイッチング電源装置38で発生し得る特定の不具合について説明する。
上述したように、この種のスイッチング電源装置は、出力電流Ioutが急増すると、出力コンデンサ26の電荷が放電されて出力電圧Voutが低下し始めるので、出力コンデンサ26を急いで充電し電圧Voutを上昇させる制御が行われ、入力電流Iin(入力電力Pin)が一時的に急増する。このことは、出力電圧Voutの低下を抑えるため、入力電流Iin(入力電力Pin)がある程度増加することを許容しなければならないことを意味している。したがって、スイッチング電源装置38の場合も、入力電流Iinの規定値Iocpを低くし過ぎると、出力電流Ioutが急増した時、出力電圧Voutが一時的に大きく低下してしまう可能性がある。この不具合は、低入力の時(例えばAC100Vの時)に発生しやすい。
図3の図表の中の左列の上段は、スイッチング電源装置38の、AC100V入力で出力電流Ioutが急増した時の動作波形の例である。上記の説明では、軽負荷モードの規定値Iocpを20Aに設定し、重負荷モードの規定値Iocpを40Aに設定した場合、入力電力Pinが過大になるのが適切に防止され、上記の不具合も発生しない。
ここで、スイッチング電源装置38の安全性をさらに向上させるため、軽負荷モードの規定値Iocpを20Aから15Aに変更し、重負荷モードの規定値Iocpを40Aから30Aに変更した場合を考える。この場合、図6の図表の中の左列の動作波形に示すように、AC100Vで出力電流Ioutが急増した時、入力電流Iinが増加しようとするが、規定値Iocp=15A以下に制限され十分な入力電流Iinを流すことができず、出力電圧Voutが大きく低下してしまう可能性がある。
一方、スイッチング電源装置38xでは、軽負荷モードの規定値Iocpを15A、重負荷モードの規定値Iocpを30Aに変更しても、このような問題は発生しない。スイッチング電源装置38xの場合、AC100V入力の時は、軽負荷時か重負荷時かにかかわらず、重負荷モードの制御が行われるので、出力電流Ioutがゼロアンペアの時は、規定値Iocpが30Aで、通常動作A2を行っている。その後、出力電流Ioutが定格電流に変化しても、動作モードの切り換わりは発生せず規定値Iocpが30Aに保持され、入力電流Iinが急増しても規定値Iocp=30Aに到達せず、通常動作A2を継続する。この動作により、十分な入力電流Iinを流すことが可能になり、出力電圧Voutの低下を小さく抑えることができる。
この実施形態のスイッチング電源装置38xによれば、上記のスイッチング電源装置38と同様の効果を得ることができ、さらに、低入力時に出力電流Ioutが急増した時に出力電圧Voutが大きく低下する不具合も容易に解決することができる。
次に、スイッチング電源装置の他の実施形態について、図7、図8に基づいて説明する。この実施形態のスイッチング電源装置50は、直流電圧が入力されるワイド入力タイプの電源装置である。
スイッチング電源装置50は、図7に示すように、入力端同士及び出力端同士が互いに並列接続された2つのDC−DCコンバータ52(1),52(2)で構成された電力変換部52と、DC−DCコンバータ52(1),52(2)が有する各スイッチング素子14(1),14(2)を駆動し、これらのオン時間及びオフ時間を制御することによって電力変換部52の出力電圧Voutを安定化するスイッチング制御部54を備えている。DC−DCコンバータ52(1),52(2)は、スイッチング方式のコンバータであり、非絶縁型の昇圧コンバータ、降圧コンバータ、昇降圧コンバータ等でもよいし、絶縁型のシングルエンディッドフォワードコンバータ、フライバックコンバータ、各種ブリッジコンバータ等でもよい。
スイッチング制御部54は、入力情報取得部56、出力情報取得部58、過電流検出部60及びスイッチング素子駆動部62を備えている。
入力情報取得部56は、電力変換部52の入力電力Pinに対応した入力電力情報S(Pin)を取得又は生成し、過電流検出部60及びスイッチング素子駆動部62に送信する。入力電力情報S(Pin)は、軽負荷時か重負荷時かを示す電圧信号であり、入力電力Pinが所定の値以下の軽負荷時にローレベル、所定の値を超える重負荷時にハイレベルとなる。
出力情報取得部58は、電力変換部52が出力する出力電圧Voutに対応した出力電圧情報S(Vout)を取得又は生成し、スイッチング素子駆動部62に送信する。
過電流検出部60は、DC−DCコンバータ52(1),52(2)の各入力電流Iin1,Iin2を合成した電流Iin(入力電流Iin)が流れる部位に挿入された電流検出用抵抗60aと、電流検出用抵抗60aの電圧と閾値Vthとを比較する比較回路60bとで構成されている。閾値Vthは、入力電流Iinの許容上限値である規定値Iocpに対応した値に設定されている。比較回路60bは、電流検出用抵抗60aの電圧が閾値Vthに達すると、出力のロジックが反転し、スイッチング素子駆動部62に向けて、ハイレベル又はローレベルの電圧信号である過電流情報S(Iocp)を送信する。
電流検出用抵抗60aは、入力情報取得部56から送信された入力電力情報S(Pin)を受けて抵抗値が変化する構成になっている。電流検出用抵抗60aは、重負荷時に抵抗値が小さくなり、これによって規定値Iocpが実質的に高くなる(例えば40A)。また、軽負荷時は抵抗値が大きくなり、これによって規定値Iocpが実質的に低くなる(例えば20A)。
スイッチング素子駆動部62は、受信した情報S(Pin),S(Vout),S(Iocp)に基づいて、スイッチング素子14(1),14(2)をオンオフさせるための駆動パルスVg1,Vg2を生成する。具体的には、図8に示すルールに基づいて動作する。
スイッチング素子駆動部62は、入力電力情報S(Pin)がローレベル電圧の時(軽負荷時)、スイッチング素子14(2)の動作を停止させ、スイッチング素子14(1)だけを動作させる。一方、ハイレベル電圧の時(重負荷時)は、スイッチング素子14(1),14(2)の双方を駆動して同期運転動作させる。同期運転動作は、スイッチング素子14(1),14(2)のオンオフの位相を一致させる動作である。
そして、過電流情報S(Iocp)が受信されない時は、出力電圧情報S(Vout)を参照し、軽負荷時か重負荷時かにかかわらず、出力電圧Voutを目標値に近づけるようにスイッチング素子14(1),14(2)のオン時間及びオフ時間を調節する。これによって、出力電圧Voutがほぼ一定の値に維持されることになる。
過電流情報S(Iocp)が受信された時は、軽負荷時か重負荷時かにかかわらず、スイッチング素子14(1),14(2)のオンの時比率を制限し、入力電流Iinが規定値Iocpを超えないように制限し、出力電圧Voutがダウンすることになる。
スイッチング制御部54が行う動作は図8に示す通りである。図2と比較して分かるように、スイッチング制御部54の場合、直流入力なので力率改善の機能を有していない。また、インターリーブ動作を行わずに同期運転動作を行う点と、軽負荷か重負荷かの判定を出力電力Poutではなく入力電力Pinに基づいて行うという点で相違するが、動作上の差異はほとんど生じない。
その他、上記のスイッチング制御部40は、インダクタ電流Ichに基づいて過電流信号S(Ich(max))を生成し、インダクタ電流Ichを制限することによって入力電流Iinを間接的に制限する構成になっているが、このスイッチング制御部54の場合は、入力電流Iinに基づいて過電流信号S(Iocp)を生成し、入力電流Iinを直接的に制限する構成になっている。
スイッチング制御回路40の構成は、インダクタ電流Ich1,Ich2に含まれるスイッチング周波数成分ΔIch1,ΔIch2も制限できるので、スイッチング素子14(1),14(2)の安全性をより高くすることができるという利点がある。一方、スイッチング制御部54の構成は、特定の条件でスイッチング周波数成分ΔIch1,ΔIch2を制限できない可能性があるが、スイッチング素子駆動部62の内部に高速動作可能な専用回路(例えば、パルスバイパルスのラッチ機能を備えたデューティ制限回路)を設ける必要がないという利点がある。それぞれに特徴があるので、どちらを使用するかはスイッチング電源装置が使用される状況や要求される安全性等を考慮して適宜選択すればよい。
スイッチング電源装置50によれば、上記のスイッチング電源装置38と同様に、出力電流Ioutの急変時に入力電力Pinが過大になるのを適切に防止することができ、入力急変時の出力電圧Voutの低下も小さく抑えることができる。また、特許文献1のスイッチング電源回路と同様に、電流が小さい領域から大きい領域まで効率を向上させることができる。さらに、上記のスイッチング電源装置38xのように、入力電圧Vinが所定値未満になると、軽負荷時か重負荷時かにかかわらず重負荷モードの制御を行うようにすることによって、低入力時に出力電流Ioutが急増した時に出力電圧Voutが大きく低下する不具合も容易に解決することができる。
なお、本発明のスイッチング電源装置は、上記実施形態に限定されるものではない。上述したスイッチング制御部40(40x),54の構成は、本発明が目的とする作用効果を説明するための具体例に過ぎず、適宜変更することができる。例えば、上記のスイッチング制御部40(40x)は、出力電力Poutを検出して軽負荷か重負荷かを判定するが、入力電力Pinを検出して判定する構成に変更してもよく、同様の作用効果が得られる。また、スイッチング制御部54は、入力電力Pinを検出して軽負荷か重負荷かを判定するが、出力電力Poutを検出して判定する構成に変更してもよく、同様の作用効果が得られる。
上記のスイッチング制御部40(40x)は、重負荷モードの制御を行う時、各スイッチング素子をインターリーブ動作させるが、同期運転動作させる構成に変更してもよく、同様の作用効果が得られる。また、スイッチング制御部54は、重負荷モードの制御を行う時、各スイッチング素子を同期運転動作させるが、インターリーブ動作させる構成に変更してもよく、同様の作用効果が得られる。
上記のスイッチング制御部40(40x)は、軽負荷か重負荷かの判定を出力情報取得部44が行い、この判定結果がスイッチング素子駆動部48(48x)及び過電流検出部46に送信される構成になっているが、例えば、出力情報取得部44が出力電力Poutの検出値をそのままスイッチング素子駆動部48(48x)に送信し、スイッチング素子駆動部48(48x)で軽負荷か重負荷かの判定を行い、この判定結果が過電流検出部46に送信される構成に変更してもよい。また、過電流検出部46では、軽負荷か重負荷かに応じて規定値Iocpを変更するため、分圧回路の分圧比を切り替える回路(抵抗46eとスイッチ46fの直列回路)を設けているが、閾値Vthを変化させる構成にしてもよいし、電流検出用抵抗の抵抗値を切り替える構成にしてもよい。また、力率改善の機能が不要であれば、入力情報取得部42は省略することができる。また、スイッチング制御部40(40x)を1つのデジタルプロセッサの内部に一体に設け、所定のプログラムを実行することによって、上述した各ブロックの動作を複合的に行う構成にしてもよい。
このように、スイッチング制御部の内部構成は、スイッチング電源装置の用途や設計上の制約等に鑑みて自由に設定し変更することができる。
その他、上記実施形態の動作説明の中に記載した「E=AC100V,AC200V」や「Iocp=15A,20A,30A,40A」等の具体的な値は、あくまでも説明を分かりやすくするための数値例であり、これらの数値は自由に設定できることは言うまでもない。